説明

セラミック電子部品の外装構造

【課題】 耐湿性と難燃性の両方を満たすことが可能なセラミック電子部品の外装構造を提供する。
【解決手段】 外装樹脂層3を、セラミック素体12の表面を覆うように配設される、耐湿性に優れた非難燃組成のエポキシ樹脂からなる第1樹脂層1と、第1樹脂層1の上に配設される2層目以降の中間層又は最外層として配設される、難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層2とを備えた構造とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、難燃性が要求され、かつ、高湿下での特性劣化が問題とされる、例えばセラミックスコンデンサなどのセラミック電子部品の外装構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】セラミック電子部品の中には、セラミック素体を外装用の樹脂で被覆した構造を有するセラミック電子部品がある。このようなセラミック電子部品の一つに、最外層用樹脂として、レーザー発色性を付与した樹脂を用い、その下側に配設される樹脂層として、発色性を付与していない安価な樹脂を用いたセラミック電子部品がある(特願平4−98678号)。
【0003】このセラミック電子部品の外装構造は、耐溶剤性や耐磨耗性に優れたレーザーマーキングを有する電子部品を安価に供給することを目的とするものであって、確かに、耐溶剤性や耐磨耗性に優れたレーザーマーキングを有する電子部品を安価に供給することは可能になるが、難燃性や耐湿性に関しては特に配慮がなされておらず、場合によっては、難燃性や耐湿性に問題が生じる場合がある。また、高信頼性を実現するための外装構造として、フェーノール樹脂層を素子との界面層として形成し、エポキシ樹脂層を最外層として形成するようにした外装構造(外装方法)がある(特願平7−142853号)。
【0004】しかし、この外装構造は、特に耐熱性を向上させることを目的とするものであり、場合によっては、必ずしも十分な難燃性や耐湿性を確保することができないという問題がある。
【0005】また、セラミック電子部品の耐熱性の向上を図る方法として、セラミック素体を被覆する外装樹脂中に難燃剤を添加する方法があり、難燃剤としては、通常、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤などが用いられている。
【0006】しかし、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤は、いずれもハロゲン系の物質であって、近年の環境問題によって規制対象となっており、できるだけ使用しないことが望ましい。一方、リン系難燃剤を添加した外装樹脂を用いた場合、難燃性を確保することは可能になるが、必ずしも十分な耐湿性を確保することができないという問題点がある。
【0007】本発明は、上記問題点を解決するものであり、耐湿性と難燃性の両方の特性を確保することが可能で、信頼性の高いセラミック電子部品の外装構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明(請求項1)のセラミック電子部品の外装構造は、セラミック素体を外装樹脂層により被覆したセラミック電子部品の外装構造であって、前記セラミック素体を被覆する外装樹脂層が、(a)セラミック素体に接してセラミック素体の表面を覆うように配設される、耐湿性の良好な非難燃組成のエポキシ樹脂からなる耐湿性樹脂層と、(b)前記耐湿性樹脂層の外側に、2層目以降の中間層として、又は最外層として配設される難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層とを具備するものであることを特徴としている。
【0009】外装樹脂層を、セラミック素体の表面を覆うように配設される、耐湿性の良好な非難燃組成のエポキシ樹脂からなる耐湿性樹脂層と、耐湿性樹脂層の外側に、2層目以降の中間層として、又は最外層として配設される難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層とを備えた構造とすることにより、耐湿性樹脂層によって、セラミック素体との密着性及び耐湿性を確保し、かつ、難燃性樹脂層からなる中間層又は最外層によって難燃性を確保することが可能になり、全体として、セラミック素体との密着性に優れ、しかも、耐湿性と難燃性に優れたセラミック電子部品を得ることが可能になる。
【0010】外装樹脂の耐湿性が不十分な場合、侵入した水により外装樹脂中の不純物が溶け出して、セラミック素体との界面に達し、セラミック電子部品の電気的な特性の劣化を招くことになるが、セラミック素体に接して配設される耐湿性樹脂層(下地樹脂層)として、遮水性に優れ、難燃剤などの不純物の含有量が少ない非難燃組成のエポキシ樹脂からなる樹脂層を形成することにより、耐湿性を向上させ、電気的な特性の劣化を抑制、防止することが可能になる。
【0011】また、耐湿性樹脂層として非難燃組成の樹脂が用いられている場合であっても、本発明の外装構造のように、耐湿性樹脂層の外側を難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層で覆うことにより、難燃性を向上させることが可能になる。これは、難燃性樹脂層が燃焼する際の発生ガスや、燃焼によって生成されたカーボナイズ生成物が、炎や酸素の遮断機能、希釈機能、断熱機能を発揮して、延焼が抑制、防止されることによるものである。
【0012】したがって、セラミック電子部品の難燃性に関しては、耐湿性樹脂層の外側の難燃性樹脂層の難燃性の程度が支配的で、難燃性樹脂層を高難燃性にすることにより、高い難燃性を備えたセラミック電子部品を実現することができる。なお、難燃性樹脂層は最外層とすることが望ましいが、中間層とすることも可能であり、その場合にも、セラミック電子部品にしかるべき難燃性を付与することが可能になる。
【0013】また、請求項2のセラミック電子部品の外装構造は、前記難燃性樹脂層が、赤リン系、リン酸エステル系などのリン系難燃剤を含むエポキシ樹脂からなるものであることを特徴としている。
【0014】難燃性樹脂層として、赤リン系、リン酸エステル系などのリン系難燃剤を含むエポキシ樹脂からなるものを用いることにより、難燃性の高い外装樹脂層を構成することが可能になり、本発明を実効あらしめることが可能になる。
【0015】また、請求項3のセラミック電子部品の外装構造は、前記耐湿性樹脂層の塗膜厚みが0.1mm以上で、前記難燃性樹脂層の塗膜厚みが0.2mm以上であることを特徴としている。
【0016】耐湿性樹脂層の塗膜厚みを0.1mm以上、難燃性樹脂層の塗膜厚みを0.2mm以上とすることにより、耐湿性と難燃性の両方の特性を備えたセラミック電子部品を確実に得ることが可能になる。
【0017】また、請求項4のセラミック電子部品の外装構造は、前記耐湿性樹脂層の塗膜厚みが0.2mm以上で、前記難燃性樹脂層の塗膜厚みが0.3mm以上であることを特徴としている。
【0018】耐湿性樹脂層の塗膜厚みを0.2mm以上、難燃性樹脂層の塗膜厚みを0.3mm以上とすることにより、耐湿性と難燃性の両方の特性を備えた信頼性の高いセラミック電子部品を確実に得ることが可能になる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を示してその特徴とするところをさらに詳しく説明する。
[実施形態1]この実施形態では、図1に示すように、両面にリード端子11a,11bが取り付けられた、直径6mm、厚み3mmの誘電体セラミックからなるコンデンサ素体(セラミック素体)12を、耐湿性樹脂層(第1樹脂層)1と難燃性樹脂層(第2樹脂層)2からなる外装樹脂層3により被覆してなる単板型コンデンサを例にとって説明する。
【0020】<外装樹脂層の形成>■耐湿性樹脂層(第1樹脂層)1用の樹脂として、難燃剤や難燃助剤などを含まず、難燃性を有しないが、セラミック素体への密着性(接着性)及び耐湿性の良好な非難燃組成の粉体エポキシ樹脂(以下「樹脂A」)を用意するとともに、難燃性樹脂層(第2樹脂層)2用の樹脂として、リン酸エステル系難燃剤を添加することにより難燃性を付与した難燃組成の粉体エポキシ樹脂(以下「樹脂B」)を用意する。
■それから、図2に示すように、コンデンサ素体12の表面に、上記樹脂Aを用いて、硬化後の塗膜厚みT1が0.3mmとなるような耐湿性樹脂層(第1樹脂層)1を形成し、さらに、耐湿性樹脂層(第1樹脂層)1の上に、上記樹脂Bを用いて、硬化後の塗膜厚みT2が0.5mmとなるような難燃性樹脂層(第2樹脂層)2を形成する。
【0021】なお、樹脂A,樹脂Bの塗膜厚みについては、図2に示すように、コンデンサ素体12の角部(稜線部)12aを被覆する、通常、最も厚みが小さくなる部分の樹脂層(耐湿性樹脂層1及び難燃性樹脂層2)の厚みT1,T2が、上述の厚みを下回らないようにした。
【0022】これにより、図1、及び図2に示すように、コンデンサ素体12の表面が、耐湿性樹脂層(第1樹脂層)1と難燃性樹脂層(第2樹脂層)2からなる2層構造の外装樹脂層3により被覆されたセラミックコンデンサ(実施例1)が得られる。
【0023】なお、この実施形態では、樹脂A及び樹脂Bとして、粉体樹脂を用いており、所定の温度に加熱(予熱)したコンデンサ素体12に粉体の樹脂Aを付着させ、樹脂Aの硬化温度以上の所定の温度に加熱して樹脂Aを硬化させることにより第1樹脂層1を形成した後、第1樹脂層1が形成されたコンデンサ素体12に粉体の樹脂Bを付着させ、樹脂Bの硬化温度以上の所定の温度に加熱して樹脂Bを硬化させることによりに第2樹脂層2を形成した。
【0024】また、比較のため、樹脂(耐湿性樹脂層)Aのみからなる単層構造の外装樹脂層によりコンデンサ素体を被覆したセラミックコンデンサ(比較例1)、及び樹脂(難燃性樹脂層)Bのみからなる単層構造の外装樹脂層によりコンデンサ素体を被覆したセラミックコンデンサ(比較例2)を作製した。
【0025】<特性の測定>上述のようにして作製した実施例1、比較例1,2の各試料について、耐湿性及び難燃性を調べた。なお、耐湿性を評価するにあたっては、プレッシャークッカー10時間後(処理条件:120℃、2atm)の試料の絶縁抵抗を調べ、その値の大きさにより耐湿性を評価した。この評価方法では、絶縁抵抗の値が大きい方が耐湿性に優れていることになる。また、難燃性を評価するにあたっては、試料を炎に近づけて発火させた後、炎から離して消火するまでの時間を計り、同一の試料についてこれを3回繰り返して、その合計時間で評価した。この評価方法では、消火するまでの時間の合計が短いほど難燃性が優れていることになる。耐湿性及び難燃性についての測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】


【0027】表1より、非難燃組成の樹脂Aのみによる単層構造の外装樹脂層によりコンデンサ素体を被覆した比較例1では、絶縁抵抗が高く、耐湿性には優れているが、消火までの時間(合計時間)が長く、十分な難燃性を得ることができず、また、難燃組成の樹脂Bのみによる単層構造の外装樹脂層によりコンデンサ素体を被覆した比較例2では、消火までの時間(合計時間)が短く、難燃性には優れているが、絶縁抵抗が低く、十分な耐湿性が得られていないのに対して、非難燃組成の樹脂Aからなる第1樹脂層(耐湿性樹脂層)と、難燃組成の樹脂Bからなる第2樹脂層(難燃性樹脂層)の2層構造の外装樹脂層によりコンデンサ素体を被覆した実施例1では、絶縁抵抗が高く、かつ、消火までの時間(合計時間)が短く、耐湿性及び難燃性の両方に優れていることがわかる。
【0028】[実施形態2]非難燃組成の樹脂及び難燃組成の樹脂として、上記実施形態1の場合と同じ樹脂A及び樹脂Bを用い、コンデンサ素体の表面に、硬化後の塗膜厚みが0.05mm,0.1mm,0.2mmとなるような第1樹脂層(耐湿性樹脂層)を形成するとともに、第1樹脂層の上に、硬化後の塗膜厚みが0.2mmとなるような第2樹脂層(難燃性樹脂層)を形成し、第2樹脂層(難燃性樹脂層)の厚みが一定で第1樹脂層(耐湿性樹脂層)の厚みを変化させた試料(試料番号1〜3)を作製した。
【0029】また、非難燃組成の樹脂及び難燃組成の樹脂として、上記実施形態1の場合と同じ樹脂A及び樹脂Bを用い、コンデンサ素体の表面に、硬化後の塗膜厚みが0.2mmとなるような第1樹脂層(耐湿性樹脂層)を形成し、さらに、第1樹脂層の上に、硬化後の塗膜厚みが0.1mm,0.2mm,0.3mmとなるような第2樹脂層(難燃性樹脂層)を形成し、第1樹脂層(耐湿性樹脂層)の厚みが一定で第2樹脂層(難燃性樹脂層)の厚みを変化させた試料(試料番号4〜6)を作製した。
【0030】そして、各試料について、上記実施形態1の場合と同様の方法で耐湿性及び難燃性を調べた。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】


【0032】なお、表2において、試料番号3と5は同じ条件の試料である。表2に示すように、第1樹脂層の厚みを0.1mm以上、第2樹脂層を0.2mm以上とすることにより(試料番号2,3,5,6)、耐湿性及び難燃性に優れたセラミックコンデンサが得られ、第1樹脂層の厚みを0.2mm以上、第2樹脂層を0.3mm以上とすることにより(試料番号6)、さらに耐湿性及び難燃性に優れた信頼性の高いセラミックコンデンサが得られることがわかる。
【0033】なお、上記実施形態では、樹脂A,樹脂Bとして粉体のものを用いた場合について説明したが、粉体以外の、例えば液体状の樹脂を用いることも可能である。
【0034】また、上記実施形態では、2層構造の外装樹脂層でセラミック素体を被覆するようにしたが、3層以上の多層構造とすることも可能である。
【0035】また、上記実施形態では、セラミックコンデンサを例にとって説明したが、本発明は、セラミックコンデンサ以外の他の種々のセラミック電子部品にも適用することが可能である。
【0036】本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、セラミック素体の形状や材質、外装樹脂層を構成する耐湿性樹脂層及び難燃性樹脂の具体的な条件などに関し、発明の要旨の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0037】
【発明の効果】上述のように、本発明(請求項1)のセラミック電子部品の外装構造は、外装樹脂層を、セラミック素体の表面を覆うように配設される、耐湿性の良好な非難燃組成のエポキシ樹脂からなる耐湿性樹脂層と、耐湿性樹脂層の外側に、2層目以降の中間層として、又は最外層として配設される難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層とを備えてなる構造としているので、耐湿性樹脂層によって、セラミック素体との密着性及び耐湿性を確保し、かつ、難燃性樹脂層からなる中間層又は最外層によって難燃性を確保することが可能になり、全体として、セラミック素体との密着性に優れ、しかも、耐湿性と難燃性に優れたセラミック電子部品を得ることができる。
【0038】また、請求項2のセラミック電子部品の外装構造のように、難燃性樹脂層として、赤リン系、リン酸エステル系などのリン系難燃剤を含むエポキシ樹脂からなるものを用いることにより、難燃性の高い外装樹脂層を構成することが可能になり、本発明を実効あらしめることができる。
【0039】また、請求項3のセラミック電子部品の外装構造のように、耐湿性樹脂層の塗膜厚みを0.1mm以上、難燃性樹脂層の塗膜厚みを0.2mm以上とした場合、耐湿性と難燃性の両方の特性を備えたセラミック電子部品を確実に得ることができる。
【0040】また、請求項4のセラミック電子部品の外装構造のように、耐湿性樹脂層の塗膜厚みを0.2mm以上、難燃性樹脂層の塗膜厚みを0.3mm以上とすることにより、耐湿性と難燃性の両方の特性を備えた、信頼性の高いセラミック電子部品をさらに確実に得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態(実施形態1)にかかる外装構造を備えたセラミック電子部品の側面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態(実施形態1)にかかる外装構造を備えたセラミック電子部品の平面断面図である。
【符号の説明】
1 耐湿性樹脂層(第1樹脂層)
2 難燃性樹脂層(第2樹脂層)
3 外装樹脂層
11a,11b リード端子
12 コンデンサ素体(セラミック素体)
12a コンデンサ素体の角部(稜線部)
T1 耐湿性樹脂層(第1樹脂層)の厚み
T2 難燃性樹脂層(第2樹脂層)の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】セラミック素体を外装樹脂層により被覆したセラミック電子部品の外装構造であって、前記セラミック素体を被覆する外装樹脂層が、(a)セラミック素体に接してセラミック素体の表面を覆うように配設される、耐湿性の良好な非難燃組成のエポキシ樹脂からなる耐湿性樹脂層と、(b)前記耐湿性樹脂層の外側に、2層目以降の中間層として、又は最外層として配設される難燃組成のエポキシ樹脂からなる難燃性樹脂層とを具備するものであることを特徴とするセラミック電子部品の外装構造。
【請求項2】前記難燃性樹脂層が、赤リン系、リン酸エステル系などのリン系難燃剤を含むエポキシ樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品の外装構造。
【請求項3】前記耐湿性樹脂層の塗膜厚みが0.1mm以上で、前記難燃性樹脂層の塗膜厚みが0.2mm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミック電子部品の外装構造。
【請求項4】前記耐湿性樹脂層の塗膜厚みが0.2mm以上で、前記難燃性樹脂層の塗膜厚みが0.3mm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミック電子部品の外装構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−332401(P2001−332401A)
【公開日】平成13年11月30日(2001.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−148230(P2000−148230)
【出願日】平成12年5月19日(2000.5.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】