説明

セラミド合成酵素LASS6を用いたフィトセラミドおよびαハイドロキシセラミドの製造方法

【課題】水酸化をうけたセラミドであるフィトセラミドおよびαハイドロキシセラミドの製造方法を提供する。
【解決手段】セラミド合成酵素Lass6の存在下で、フィトスフィンゴシンとアシルCoAを反応させてフィトセラミドを得ることを含む、フィトセラミドの製造方法であって、前記アシルCoAのアシルが炭素数14、16または18である前記製造方法。セラミド合成酵素Lass6の存在下で、スフィンゴイド塩基とαハイドロキシアシルCoAを反応させてαハイドロキシセラミドを得ることを含む、αハイドロキシセラミドの製造方法。αハイドロキシアシルCoAのアシルは、炭素数14、16または18であることができ、フィトスフィンゴイド塩基は、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシンであることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド合成酵素LASS6を利用したフィトセラミドおよびαハイドロキシセラミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質、セラミドは、スフィンゴイド塩基に長鎖脂肪鎖がアシル結合しており、スフィンゴイド塩基や脂肪鎖の違いによりいくつにも分類され、それぞれのセラミドが個々の機能を持っていることが期待されている。今日、化粧品や健康食品にスフィンゴ脂質、セラミドを配合した製品が多く見られるようになった。
【0003】
セラミドの生合成は多くの機構が謎であったが、ここ数年の研究により、飛躍的に解明が進んでいる。本発明者らは、動物細胞におけるde novoの生成機構の解明を進め、哺乳類において3−ケトジヒドロスフィンゴシン・リダクターゼ(ketodihydrosphingosine reductases)(FVT-1) (Kihara. et al., J Biol Chem. 2004(非特許文献1)) を含めた一連のセラミド生成経路を解明した。生合成系の存在の有無そのものが不明であった水酸化をうけたセラミド、フィトセラミド(PH-Cer)については、生成酵素のクローニングにより、ヒトの皮膚において生合成されることを示し(FEBS Lett,2004, 563, 93-(非特許文献2))、これらの成果はTrends in cell biologyにも引用された。さらに、本発明者らはヒトの二つのセラミド水酸化酵素(human DES2およびhuman SCS7)のクローニングに世界に先駆けて成功し、これらの現象を分子レベルで明らかにした。
【非特許文献1】Kihara. et al., J Biol Chem. 2004, 279, 49243-50
【非特許文献2】Mizutani. et al., FEBS Lett,2004, 563, 93-97
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、セラミドの中でも水酸化修飾をうけたものに注目し、動物細胞において最も豊富な種類のセラミドを含有する皮膚をモデルにした研究を行ってきた。近年、セラミドの量的・質的バランスが身体の生理機能に影響を及ぼすことが明らかになってきた。しかし、皮膚の保水機能に重要な水酸化をうけたセラミドの生成に適したセラミド生成酵素は知られていなかった。
そこで本発明の目的は、水酸化をうけたセラミドであるフィトセラミドおよびαハイドロキシセラミドの製造方法を提供することにある。
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく種々検討し、その結果、新たにクローニングしたセラミド合成酵素LASS6がフィトスフィンゴシン(PHS)に対するアシル基転位反応を示し、フィトセラミドを合成すること、さらには、αハイドロキシセラミドを生成することを見いだして、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]セラミド合成酵素Lass6の存在下で、フィトスフィンゴシンとアシルCoAを反応させてフィトセラミドを得ることを含む、フィトセラミドの製造方法であって、前記アシルCoAのアシルが炭素数14、16または18である前記製造方法。
[2]前記アシルCoAのアシルが炭素数16である[1]に記載の製造方法。
[3]セラミド合成酵素Lass6の存在下で、スフィンゴイド塩基とαハイドロキシアシルCoAを反応させてαハイドロキシセラミドを得ることを含む、αハイドロキシセラミドの製造方法。
[4]前記αハイドロキシアシルCoAのアシルが炭素数14、16または18である[3]に記載の製造方法。
[5] スフィンゴイド塩基が、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシンである[3]または[4]に記載の製造方法。
[6]前記セラミド合成酵素Lass6が、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートに含有されている[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートは、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞をプロテアーゼ阻害剤およびジチオスレイトールを含有するバッファー中で粉砕することで得る[6]に記載の製造方法。
[8]前記セラミド合成酵素Lass6が、下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有するタンパク質である[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列
【発明の効果】
【0007】
皮膚において、水酸化されたセラミドが保湿機能に重要な機能を果たしていることが明らかとなってきており、セラミドの皮膚機能の改善効果が期待されている。酵素活性の高いLASS6を得たことにより、水酸化されたセラミドであるフィトセラミドおよびαハイドロキシセラミドの大量調製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[フィトセラミドの製造方法]
本発明のフィトセラミドの製造方法は、セラミド合成酵素Lass6の存在下で、フィトスフィンゴシンとアシルCoAを反応させてフィトセラミドを得ることを含む。フィトスフィンゴシンからフィトセラミドを得る反応式の一例を以下に示す。
【0009】
【化1】

上記反応の原料であるフィトスフィンゴシンは、市販品として入手可能であり、BIOMOL、SIGMA、AVANTIなどから市販されている。
【0010】
他方の反応原料であるアシルCoAのアシル(炭素鎖)が、炭素数14、16または18である。セラミド合成酵素Lass6によるフィトセラミドの合成においては、アシルの炭素数に特異性があり、アシルが炭素数14、16または18であるアシルCoAについてのみ、高率で、フィトセラミドが合成される。特に、アシルCoAのアシルが炭素数16である場合、フィトセラミドの合成率が高い。本発明によれば、アシルCoAのアシルの種類に応じて、アシルの炭素数が14、16または18であるフィトセラミドが得られる。アシルCoAのアシルの炭素数が16である場合、アシルの炭素数が16のフィトセラミドが得られ、その構造式を以下に示す。

【0011】
【化2】

炭素鎖長がC14、C16またはC18であるアシルCoAは、市販品として入手可能であり、SIGMA、AVANTI、American Radiolabeled Chemicals、などから市販されている。
【0012】
セラミド合成酵素Lass(longevity-assurance homologue)6は、Lassファミリーメンバーに属し、Lassファミリーメンバーには、Lass6以外にLass1〜5が知られている。いずれもセラミド合成酵素であるが、Lass6については、その特性が詳細には調べられておらず、今回本発明者らが初めて、ジヒドロスフィンゴシン(DHS)に対するアシル基転位反応を示し、セラミドを合成することを明らかにした。
【0013】
セラミド合成酵素Lass6の塩基配列およびアミノ酸配列は、配列表の配列番号1および2に示すとおりである。本発明で使用するセラミド合成酵素Lass6は、例えば、下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有するタンパク質であることができる。
(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列
上記「1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0014】
本明細書で言う「配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における相同性は、80%以上であれば特に限定されないが、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上である。
【0015】
セラミド合成酵素Lass6は、膜貫通型蛋白である。そのため、膜貫通型蛋白の発現に適した、昆虫細胞系などによる酵素蛋白の調製方法により調製することができる。
【0016】
セラミド合成酵素Lass6は、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートに含有されたもの使用でき、実験的には、このLass6含有ホモジネートを用いることができる。具体的には、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートは、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞をプロテアーゼ阻害剤およびジチオスレイトールを含有するバッファー中で粉砕することで得ることができる。詳細は実施例に示す。
あるいは、セラミド合成酵素Lass6のアミノ酸配列及び塩基配列の情報、およびセラミド合成酵素Lass6が膜貫通型蛋白であるという情報を基に、遺伝子工学的手法を用いてセラミド合成酵素Lass6の組み換えタンパク質を調製することもできる。
【0017】
組み換えタンパク質を作製する場合には、先ず、本明細書の上記(1)に記載した当該タンパク質をコードする遺伝子(DNA)を取得する。このDNAは、下記(4)の塩基配列を示すもの以外に、下記(5)または(6)の塩基配列を示すものであることもできる。これらのDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明のタンパク質を産生することができる。発現系でのタンパク質の発現については本明細書中後記する。
(4)配列表の配列番号2に記載の塩基配列を有し、フィトセラミド生成酵素をコードする塩基配列;
(5)配列表の配列番号2に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するタンパク質をコードする塩基配列; 又は
(6)配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAに対して相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するタンパク質をコードする塩基配列
本明細書で言う「1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0018】
上記した「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0019】
上記「フィトセラミド生成活性」は、スフィンゴイド塩基としてフィトスフィンゴシンを用い、かつ、アシルCoAとしてアシル基の鎖長がC16;0であるパルミトイル-CoAを用いて測定することができる。測定の詳細な条件は、実施例1と同様とする。
【0020】
上述のように、セラミド合成酵素Lass6は、膜貫通型蛋白であることから、昆虫細胞系を用いて組み換えタンパク質を作製することが好ましい。まず、上記DNAは適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞である昆虫細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明の遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。
【0021】
プロモータは宿主細胞である昆虫細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。
【0022】
また、本発明の遺伝子は必要に応じて、適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明の組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)などの要素を有していてもよい。
【0023】
本発明の組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。本発明の遺伝子、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0024】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manua1;及びカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47(1988)等に記載)。
【0025】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0026】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。 組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0027】
上記の形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明のタンパク質を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。但し、細胞の可溶化には1%ジギトニンを用いることが、酵素活性を阻害することなしに可溶化でき、好ましい。
【0028】
例えば、本発明のタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
[αハイドロキシセラミド製造方法]
本発明のαハイドロキシセラミドの製造方法は、セラミド合成酵素Lass6の存在下で、スフィンゴイド塩基とαハイドロキシアシルCoAを反応させてαハイドロキシセラミドを得ることを含む。
【0029】
スフィンゴイド塩基としては、例えば、スフィンゴシン(D-erythro-dihydrosphingosine、SPH)、ジヒドロスフィンゴシン(D-erythro-dihydrosphingosine、 DHS)、フィトスフィンゴシン(phytosphigosine、PHS) の三種類を挙げることができる。
【0030】
【化3】

αハイドロキシアシルCoAは、アシルCoAの合成方法に準じて合成することが可能である。アシルCoAの調製には、化学合成法とアシルCoAシンテターゼを利用した酵素法がある。LASS6によるセラミド合成反応の反応液中にアシルCoAシンテターゼ加え、脂肪酸とスフィンゴイド塩基を基質とした合成反応系を組み立てることも可能である。大量調製には化学合成が推奨される。化学合成には酸無水物法、酸クロリド法、混合無水物法、N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル法、アシルイミダゾール法などがあげられる。目的とする生成量、脂肪鎖の鎖長、水酸化の有無などの諸条件により収率は異なる。詳細は、新生化学実験講座4、脂質Ip8〜9に記載された「アシルイミダゾール法によるアシルCoAの調製」、あるいは、p43〜44に記載の「アシルCoAシンテターゼ」を用いた方法を参照することができる。
【0031】
αハイドロキシアシルCoAは、アシル鎖が例えば、炭素数14、16または18であることができ、炭素数16(C16)が最も望ましい。本発明によれば、アシルCoAのアシルの種類に応じて、アシルの炭素数が異なるαハイドロキシセラミドが得られる。例えば、アシルCoAのアシルの炭素数が16であり、スフィンゴイド塩基がフィトスフィンゴシンである場合、アシルの炭素数が16のαハイドロキシフィトセラミドが得られる。同様に、アシルCoAのアシルの炭素数が16であり、スフィンゴイド塩基がジヒドロスフィンゴシンである場合、アシルの炭素数が16のαハイドロキシジヒドロセラミドが得られ、アシルCoAのアシルの炭素数が16であり、スフィンゴイド塩基がスフィンゴシンである場合、アシルの炭素数が16のαハイドロキシセラミドが得られる。
【0032】
セラミド合成酵素Lass6は、前述の方法で入手した組換えタンパク質等を用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
新規LASS6蛋白(GenBankTM accessing number BC057629)のC16:0 CoA(palmitoyl CoA)依存的なセラミド生成活性
In vitro のジヒドロセラミド合成アッセイはHEK 293T 細胞 に高発現させた 細胞ホモジネートを用いて行った。細胞は、1x プロテアーゼ阻害剤混合物(CompleteTM, Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IK))および0.5 mM ジシチスレイトール(DTT))を含有するバッファー A (50 mM HEPES-NaOH (pH 7.5)にて破砕した。5-40μg タンパク質で反応の検出は可能であった。
【0034】
ジヒドロセラミド合成反応は、5μM ジヒドロスフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA), 0.2 μCi [4,5-3H] D−エリスロ−ジヒドロスフィンゴシン(50 Ci/mmol, American Radiolabeled Chemicals, St. Louis, MO), 3-50μMアシル CoA in バッファー B (50 mM HEPES-NaOH (pH 7.5), 0.5 μM DTT, および 1mM MgCl2) で100μlの反応液中で行った。37 ℃で15 min 反応後、100μl クロロホルム/メタノール (1:1) にて反応を停止し、Bligh and Dyer 法で脂質抽出、乾燥後、30 μl クロロホルム/メタノール (2:1)に再溶解し、シリカゲル60 TLC (TLC) プレート (Merck, Whitestation, NJ)にて クロロホルム /メタノール/2Mアンモニア水(40:10:1)で展開を行った。TLCプレートは EN3HANCETM (PerkinElmer Life Sciences, Ontario, Canada)で増感後、 X線フィルムに-80℃にて検出した。定量化は、TLCプレートよりシリカを書き取り、液体シンチレーションカウンター(LSC-3600; Aloka, Tokyo, Japan)にて計測した。結果を図1に示す。
【0035】
この方法はカチオン依存性であり、マグネシウムやマンガンと加えることで、反応の促進が期待できる。また、界面活性剤についてはジギトニンを推奨する。トライトンX-100は本活性を阻害する。反応速度を保つためには、基質となるスフィンゴイド塩基とアシル CoAのモル比が重要であり、至適な条件を設定することで、反応効率が上昇する。
【0036】
LASS6は、アシル-CoAのアシル基の長さに強い基質特異性を示す。細胞に最も豊富なアシル基の鎖長がC16;0のセラミドの生成に重要である。データは示さないが、C18:1, C20:4, C22:0, C24:0. C26:0に対しては反応性を示さない。
実施例2
スフィンゴイド塩基に対する基質特異性の検討
実施例1と同様の反応条件で、基質となるスフィンゴイド塩基に対する基質特異性の検討を行った。0.3- 5μM スフィンゴイド塩基 (DHS(ジヒドロスフィンゴシン), SPH(スフィンゴシン)またはPHS(フィトスフィンゴシン)), [14C] パルミトイル-CoA/25μM パルミトイル-CoA、バッファー B (50 mM HEPES-NaOH (pH 7.5), 0.5μM DTT, および1mM MgCl2) 中、の条件で37 ℃で15 min 反応を行った。
【0037】
本来、動物細胞においてはde novoで合成されるダイハイドロスフィンゴシン及び、デサチュラーゼにより二重結合が入ったスフィンゴシン塩基に対するアシル基転位反応により生成されるセラミドがセラミドの大部分である。一般の動物細胞にはごく一部の組織でしか存在しないフィトスフィンゴシンへのアシル基転位反応は、動物由来の酵素では難しい可能性が考えられた。新規LASS6のin vitroにおけるフィトセラミド生成活性は、皮膚に重要な水酸化の入ったスフィンゴイド塩基、フィトスフィンゴシン(PHS)に対して十分な反応を示すことが明らかになった。このことは、将来的にフィトセラミドの合成系を調節する治療を目的とした応用が考えられる。また、本酵素は比活性が高く、他のLASSファミリーに対して扱いやすいため、フィトセラミド生成に向けた工業目的の利用も考えられる。
実施例3
新規LASS6のαハイドロキシセラミド生成活性
【0038】
【化4】

αハイドロキシセラミドはフィトセラミドと並んで、皮膚機能に重要な水酸化をうけたセラミドである。トランスフェクションしたHEK 293T 細胞 は、セラミド合成阻害剤20μM フモニシンB1(FB1)にて6 h処理し1.0μCi [4,5-3H] D-エリスロ-ジヒドロスフィンゴシンにて 4 hラベルした。この方法を用いることにより、endoのセラミド合成活性を押さえ、高発現させた LASS6蛋白の活性のみを見ることができる。細胞はリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、脂質抽出を行った。脂質は、シリカゲル60 high performance TLC (HPTLC) プレート (Merck)にて クロロホルム/メタノール/酢酸(190:9:1, v/v).の展開系にて展開、エンハンススプレーで増感後、X線フィルムで検出した。
【0039】
この結果は、LASS6が、皮膚に重要な水酸化の入ったαハイドロキシのアシル基をスフィンゴイド塩基に転移し、セラミドを生成する活性を持つことを示している。αハイドロキシアシル CoAは市販品がないため、in vivo による証明をとっているが、αハイドロキシセラミドの生成活性が示されたことは、in vitroにおいてもLASS6がαハイドロキシセラミドを生成しうることを示している。このことは、LASS6がαハイドロキシセラミドの大量生産系を担いうることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、皮膚疾患患者の治療を目的とする診断薬や医薬品の開発研究に利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】LASS6のアシルCoAに対する基質特異性試験結果。
【図2】LASS6によるフィトセラミドの生成実験結果。
【図3】LASS6によるαハイドロキシセラミドの生成実験結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミド合成酵素Lass6の存在下で、フィトスフィンゴシンとアシルCoAを反応させてフィトセラミドを得ることを含む、フィトセラミドの製造方法であって、前記アシルCoAのアシルが炭素数14、16または18である前記製造方法。
【請求項2】
前記アシルCoAのアシルが炭素数16である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
セラミド合成酵素Lass6の存在下で、スフィンゴイド塩基とαハイドロキシアシルCoAを反応させてαハイドロキシセラミドを得ることを含む、αハイドロキシセラミドの製造方法。
【請求項4】
前記αハイドロキシアシルCoAのアシルが炭素数14、16または18である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
スフィンゴイド塩基が、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシンである請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記セラミド合成酵素Lass6が、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートに含有されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞のホモジネートは、Lass6遺伝子を発現させたHEK293T細胞をプロテアーゼ阻害剤およびジチオスレイトールを含有するバッファー中で粉砕することで得る請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記セラミド合成酵素Lass6が、下記(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有するタンパク質である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
(1)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;
(2)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、フィトセラミド生成活性を有するアミノ酸配列

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−104926(P2007−104926A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297092(P2005−297092)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】