説明

セルラーゼの製造方法

【課題】本発明は、セルロース製造用基質、該基質を用いたセルラーゼの製造方法、およびセルロースの分解または糖化方法に関する。
【解決手段】セルロースを含有する原料とラクトースを含有する原料とを含む培地中にてセルラーゼ生産菌を培養し、セルラーゼを製造する方法、およびそのセルラーゼを用いて、セルロースを分解または糖化することを特徴とするセルロースの分解または糖化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース製造用基質、該基質を用いたセルラーゼの製造方法、およびセルロースの分解または糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルラーゼとは、セルロースを、グルコース、セロビオースおよびセロオリゴ糖に加水分解する酵素反応系を触媒する酵素群の総称であり、その作用様式により、エキソ−β−グルカナーゼ、エンド−β−グルカナーゼおよびβ−グルコシダーゼなどに分類される。セルラーゼのこれら酵素の相互作用により、セルロースが最終的にグルコースまで分解される(特許文献1)。
【0003】
一方、近年、セルラーゼを用いて、リグノセルロース系バイオマス資源を酵素分解、糖化することによって構成単位であるグルコース、キシロースにし、更にこれを発酵することによって得られるエタノールや乳酸などを液体燃料もしくは化学原料として利用することが検討されている。糖化に用いるセルラーゼの製造には従来、セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)(特許文献1)、トリコデルマ・レーゼイ(Trichoderma reesei)(非特許文献1)、トリコデルマ・ビリデ(T. viride)(非特許文献2)やアスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に属する微生物が使われており、そして炭素源としては、セルロースを含有する原料が基質として用いられている(特許文献1)。しかしながら、これらの方法は十分なセルラーゼ生産性が得られないという欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−135052
【非特許文献1】Biotechnol. Lett., 4, 785-788 (1982)
【非特許文献2】Biotechnol. Bioeng., 19, 337 - 348 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、セルラーゼの生産性を高める、セルラーゼ生産菌の培養手段を提供し、これにより、セルラーゼの製造、ならびにセルロースの分解、および糖化を、効率的に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、粉末セルロースにラクトースあるいはラクトースを含有する原料を添加して、これを培地としてセルラーゼ生産菌を培養すると、セルラーゼの生産性が著しく向上し、セルラーゼを効率的に製造できるとともに、セルロースの分解、糖化も、安価、効率的に行いうることを見いだし、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下の特徴を有する。
(1)炭素源としてセルロースを含有する原料とラクトースを含有する原料とを含む培地中にてセルラーゼ生産菌を培養し、セルラーゼを製造する方法。
(2)セルロースを含有する原料が、粉末セルロース(アビセルを含む)、古紙類、瀘紙、一般紙類、木材、麦わら、稲わら、ふすま、もみがら、バガス、加水分解残渣、またはそれらの混合物を含む、(1)に記載のセルラーゼの製造方法。
(3)ラクトースを含有する原料が、ラクトース、ラクトース水和物、乳清(ホエイ)、乳製品、またはそれらの混合物を含む、(1)または(2)に記載のセルラーゼの製造方法。
(4)培養が、液体培養または固体培養である、(1)〜(3)のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
(5)セルラーゼ生産菌がアクレモニウム属に属する微生物である(1)〜(4)のいずれかに記載のセルラーゼの製造方法。
(6)アクレモニウム属に属する微生物がアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)である(5)に記載のセルラーゼの製造方法。
(7)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により製造し、得られたセルラーゼを用いてセルロースを分解または糖化することを特徴とするセルロースの分解または糖化方法。
(8)セルラーゼ生産菌がアクレモニウム属に属する微生物である(7)に記載のセルロースの分解または糖化方法。
(9)アクレモニウム属に属する微生物がアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)である(8)に記載のセルロースの分解または糖化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、培地に粉末セルロースおよびラクトースまたはラクトースを含有する原料を添加して、これを用いてセルラーゼ生産菌を培養することによって、セルラーゼの生産性を著しく向上させることができるという格別の作用効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明をさらに具体的に説明する。
セルロースは、グルコースがβ−1,4グルコシド結合により高度に重合したグルコースポリマーであり、全ての植物の細胞壁構成成分として存在する。本発明において、「セルロースを含有する原料」は、例えば、粉末セルロース(例えば、Solka Floc(登録商標)CAS9004-34-6, Fiber Sales & Development Co. Urbana, OH、およびアビセルなど)、古紙類、瀘紙、一般紙類、木材、麦わら、稲わら、ふすま、もみがら、バガス、加水分解残渣等を含むが、セルラーゼ生産菌の培養のための炭素源となり得る限り、これらに限定されない。加水分解残渣とは、セルロースを含有する原料を、酸や酵素などを用いて加水分解処理したものをいう。本発明において、使用するセルロースを含有する原料としては、上記のものが例示されるが、粉末セルロースが好ましく、特にSolka Floc(登録商標)が好ましい。
【0010】
ラクトースは、D−ガラクトースとD−グルコースがβ−1,4グルコシド結合した二糖である。哺乳類の乳汁に含まれていることが知られている。本発明において、「ラクトースを含有する原料」としては、例えば、ラクトース(水和物を含む)、乳清(ホエイ)、乳製品等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
セルラーゼは、上記のようにセルロースを分解する酵素の総称であり、セルロースの分解活性を有していれば、本発明のセルラーゼに含まれる。
【0012】
セルラーゼ生産菌は、セルラーゼを生産できる微生物であればいずれでも良く、すなわち、天然源からの分離菌、その変異株、遺伝子組換え菌などを含む。変異株は、紫外線もしくは放射線による照射処理、化学物質(例えば、亜硝酸、塩基類縁化合物(5−ブロモウラシルおよび2−アミノプリンなど)、アルキル化剤(ニトロソグアニジンおよびエチルメタンサルホネートなど)、アクリジン色素類(アクリフラビンおよびプロフラビンなど)、発がん剤(4−ニトロキノリン−1−オキシド)、抗生物質(マイトマイシンCなど))による処理を行い、処理ずみの菌株からセルラーゼ誘導能の高い菌株を選択することによって得ることができる。遺伝子組換え菌は、公知の手法を用いて作製できる。例えば、菌体を、乳鉢などを用いて液体窒素中で摩粋後、例えばフェノール/クロロホルム法、グアニジウム法又はフェノール/SDS法により全RNAを抽出する。必要に応じて、RNAをオリゴ(dT)セルロースカラムに通してpoly(A)+RNAを得るか、あるいは、poly(A)+RNAから既知の逆転写反応を経てcDNAを作製する。NCBI、GenBank等のデータバンクにアクセスすることによって入手可能であるセルラーゼの公知塩基配列を基にプライマーを設計し、上記RNAまたはcDNAを鋳型としてPCRを行い菌体のセルラーゼ遺伝子をクローニングする。これを高発現誘導可能なプロモーター(例えば、pyr4プロモーター、cbhlプロモーターなど)や分泌シグナルペプチドの下流に連結し、宿主微生物と適合性を有する適宜なベクターに組み入れ、遺伝子組換えベクターを作製する。当該ベクターは、ターミネーター領域、抗生物質耐性遺伝子等の選抜用の各種マーカー遺伝子等をさらに含む。あるいは、プライマーを設計する際に、その塩基配列に予め変異を加えておき、そのプライマーを用いて、上記同様PCRを行うことによって、変異を有するセルラーゼ遺伝子をクローニングすることができる。この変異を有するセルラーゼ遺伝子を用いて遺伝子組換えベクターを作製しても良い。この遺伝子組み換えベクターを、公知の各種遺伝子導入法、例えばカルシウム処理法、遺伝子注入(トランスフェクション)法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法等を用いて宿主微生物へと導入し、変異株を得ることができる。宿主微生物としては、例えば、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属に属するものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上記遺伝子組換えに用いられる分子生物学的手法は、「分子生物学実験プロトコールI, II, III」丸善株式会社発行(1997)に記載される方法を参考にして行うことができる。
【0013】
セルラーゼ生産菌としては、例えば、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属、ペニシリウム属に属するものが挙げられるが、これらに限定されない。本発明においては、アクレモニウム属に属する微生物が好ましく、特にアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)が好ましい。
【0014】
本発明において「培養」方法としては、液体培養および固体培養が挙げられるが、選択した微生物を培養できるかぎり、これらの方法に限定されない。
【0015】
本発明において、「セルロースを分解または糖化すること」とは、セルロースを分解し、オリゴ糖類、二糖類、単糖類およびそれらの混合物にすることをいう。あるいは、言い換えれば、この用語は、セルラーゼによって、多糖類のグリコシド結合を加水分解することをいう。
【0016】
(セルラーゼ生産菌の培養)
セルラーゼ生産菌は、下記の実施例において具体的に記載されるように培養することが可能である。
【0017】
培地は、炭素源として、粉末セルロース(アビセルを含む)、古紙類、瀘紙、一般紙類、木材、麦わら、稲わら、ふすま、もみがら、およびバガス、窒素源として、硫安、硝安などの無機アンモニウム塩、尿素、アミノ酸、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、およびタンパク質分解物などの有機窒素含有物、ならびに無機塩類として、硫酸マグネシウム、リン酸2水素カリウム、酒石酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化マンガン等を含むことができる。必要ならば有機微量栄養物を含有する培地を使用してもよい。培地は、寒天やゼラチンを加えて固化した固体培地、低濃度の寒天を加えた半流動培地、培地成分のみを入れた液体培地(ブイヨン、またはブロスともいう)を用いることができるが、液体培地が好ましい。
【0018】
本発明において、炭素源として培地に加える粉末セルロールおよびラクトースの量は、それぞれ、10〜100g/Lおよび10〜50g/L、好ましくは、40〜50g/Lおよび5〜20g/Lである。粉末セルロールおよびラクトースの量が、それぞれ50g/Lおよび10g/L、あるいはそれぞれ40g/Lおよび20g/Lである場合に好ましい生産量が得られる。培養温度および培養時間は、セルラーゼ生産菌の種類によって異なるが、通常、28〜32℃、48時間〜10日ほど培養を行う。
【0019】
培養に用いることができる発酵槽としては、通気撹拌型、気泡塔型、流動層型、充填層型などが挙げられる。
【0020】
上記培養液から、遠心分離、濾過などの公知の方法によって菌体を除去し上清液を得る。この上清液は、このまま粗酵素液として使用することが可能である。
【0021】
(セルラーゼの精製)
セルラーゼは、上記上清液より、タンパク質精製に用いられる公知の方法、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理など、を1つまたは複数組み合わせて用いて精製することが可能である。
【0022】
(セルラーゼの固定化)
精製したセルラーゼを、固定化して用いることもできる。固定化することによって、安定化され、連続反復使用が可能となる点において有効である。セルラーゼの固定化は、担体結合法、架橋法、包括法を用いて行うことができる。担体結合法では、セルラーゼを水不溶性の担体(例えば、ポリアクリルアミドゲル、ポリスチレン樹脂、多孔性ガラス、金属酸化物など)に、物理的吸着、イオン結合および共有結合を用いて結合させることができる。架橋法では、2個またはそれ以上の官能基を持つ試薬を用いて、セルラーゼとセルラーゼを架橋することによって固定化する。架橋試薬としては、Schiff塩基をつくるグルタルアルデヒド、ペプチド結合をするイソシアン酸誘導体、N,N’-エチレンマレイミド、ジアゾカップリングをするビスジアゾベンジン、あるいはアルキル化するN,N’-ポリメチレンビスヨードアセトアミドなどを用いることができる。包括法では、高分子ゲルの細かい格子の中にセルラーゼを取り込む格子型と、半透膜の高分子の皮膜によってセルラーゼを皮膜するマイクロカプセル型を用いる。格子型の方法では、合成高分子物質のポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコール、光硬化性樹脂などの高分子化合物を用いることができる。マイクロカプセル型の方法では、ヘキサメチレンジアミン、セバコイルクロリド、ポリスチレン、レシチンなどを用いることができる(福井三郎、千畑一郎、鈴木周一、「酵素工学」東京化学同人発行、1981年)。
【0023】
(セルラーゼ活性の測定)
セルラーゼ活性は、上記上清液または精製したセルラーゼに、濾紙、カルボキシメチルセルロース(CMC)、微結晶セルロース(Avicel)、サリシンおよびセロビオースなどの基質を加えて、一定時間酵素反応を行わせた後に、生じた還元糖をSomogy-Nelson法およびDNS法などにより発色させ所定の波長で比色定量して測定することが可能である。
【0024】
Somogy-Nelson法においては、一定時間反応させた上記反応溶液にSomogy銅試薬(和光純薬)を加えて反応を停止する。その後およそ20分間煮沸し、煮沸終了後急速に水道水にて冷却する。冷却後、Nelson試薬を注入して還元銅沈殿を溶解し発色させ、およそ30分静置した後蒸留水を加え、吸光度を測定する。
【0025】
DNS法を用いる場合は、1% CMC基質液に酵素液を加え、一定時間酵素反応を行わせたのち、煮沸などによって酵素反応を停止する。この反応液にジニトロサリチル酸を加えて、5分間煮沸し、冷却後吸光度を測定する(柏木豊「発酵糸状菌の酵素」、微生物遺伝資源利用マニュアル(16)、独立行政法人農業生物資源研究所発行、2004年2月29日発行)。
【0026】
(セルロースの分解または糖化)
セルロースの分解または糖化は、公知の方法を用いることができる。例えば、セルロース系物質を水性媒体中に懸濁し、セルラーゼを含む培養上清または精製したセルラーゼを加え、撹拌または振とうしながら加温して、セルロース系物質を分解または糖化することができる。この方法において、反応液のpHおよび温度は、セルラーゼが失活しない範囲内であればよく、一般的に、常圧で反応を行う場合、温度は5〜95℃、pHは1〜11の範囲でよい。例えば、50gの粉砕した稲わらに、0.25〜1Lの酢酸緩衝液(0.05M、pH 4.8)および0.01〜0.2Lのセルラーゼを含む培養上清または精製したセルラーゼを添加して、45〜60℃で攪拌または振とうしながら、セルロースの分解または糖化を行う。また、この酵素反応は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(セルラーゼ生産菌の培養)
本実施例においては、セルラーゼ生産菌としてアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)を用いた。培地は下記の組成を有するセルラーゼ生産菌培養培地を用いた。
【0028】
〔培地の組成〕:
炭素源 50g/Lまたは 60g/L
硫酸アンモニウム 5g/L
尿素 4g/L
硫酸マグネシウム 1.2g/L
リン酸2水素カリウム 24g/L
酒石酸カリウム 4.7g/L
硫酸亜鉛 10 mg/L
硫酸マンガン 10 mg/L
硫酸銅 10 mg/L
Tween 80 1 g/L
pH 4.0
【0029】
上記炭素源としては、粉末セルロース40g/Lおよびトレハロース10g/L、粉末セルロース30g/Lおよびトレハロース20g/L、粉末セルロース40g/Lおよびセロビオース10g/L、粉末セルロース30g/Lおよびセロビオース20g/L、ラクトース50g/L、粉末セルロース40g/Lおよびラクトース10g/L、粉末セルロース50g/L、粉末セルロース50g/Lおよびラクトース10g/L、粉末セルロース40g/Lおよびラクトース20g/L、または粉末セルロース60g/Lを用いた。当該分野で公知である方法により殺菌した上記セルラーゼ生産菌培養培地にアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)を接種して30℃で10日間好気的に培養した。この培養液を遠心分離して得た上清液について、製造されたセルラーゼの酵素活性を測定した。
【0030】
(セルラーゼ活性の測定)
本実施例において、セルラーゼの酵素活性は、濾紙を基質として用いて行った。具体的には、濾紙(ワットマンNo.1、1×6cm)を基質とし、これに適宜希釈した培養上清液0.5mLとクエン酸緩衝液(pH4.8、0.05M)1.0mLを加え、50℃で1.0時間酵素反応を行った後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mLを加え、100℃で5分間加熱し発色させた。冷却後、蒸留水2.5mLにこれを200μl加え、540nmの波長で比色定量した。
【0031】
得られた結果を表1に示す。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニット(U)として示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、粉末セルロース(50g/L)のみを培地に添加した培養液に由来する上清液の酵素活性は、11.7U/mLであるのに対して、粉末セルロースとトレハロースまたは粉末セルロースとセロビオースを培地に添加した培養液に由来する上清液の酵素活性は、それぞれ、8.8もしくは9.1U/mLまたは9.7もしくは9.4U/mLであり、やや低かった。一方、粉末セルロースとラクトース(それぞれ、40g/Lと10g/L)を培地に添加した培養液に由来する上清液では、粉末セルロースとトレハロースまたはセロビオースを添加した場合と比べて高い酵素活性を示した(13.9U/mL)。また、ラクトース(50g/L)を唯一の炭素源として培地に添加した場合、上清液の酵素活性が大幅に低くなることが観察された(3.9U/mL)。さらに、60g/Lの粉末セルロースのみを炭素源として培養したときの上清液中の酵素活性は13.2U/mLであるのに対して、50g/Lの粉末セルロースと10g/Lのラクトースまたは40g/Lの粉末セルロースと20g/Lのラクトースを培地に添加した培養液に由来する上清液中の酵素活性は、それぞれ19.5または19.0U/mLであり、約1.5倍に増大していた。
【0034】
これらの結果より、粉末セルロースとラクトースの両方を培地に添加した場合に、セルラーゼの生産量が増大することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、粉末セルロースとラクトースとを添加した培地中にてセルラーゼ生産菌を培養することによってセルラーゼの生産量を高めることができるために、セルラーゼを効率的に製造できるとともに、セルロースの分解、糖化も、安価、効率的に行いうる点で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源としてセルロースを含有する原料とラクトースを含有する原料とを含む培地中にてセルラーゼ生産菌を培養し、セルラーゼを製造する方法。
【請求項2】
セルロースを含有する原料が、粉末セルロース、アビセル、古紙類、瀘紙、一般紙類、木材、麦わら、稲わら、ふすま、もみがら、バガス、加水分解残渣、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項3】
ラクトースを含有する原料が、ラクトース、ラクトース水和物、乳清、乳製品、またはそれらの混合物を含む、請求項1または2に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項4】
培養が、液体培養または固体培養である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項5】
セルラーゼ生産菌がアクレモニウム属に属する微生物である請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項6】
アクレモニウム属に属する微生物がアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)である請求項5に記載のセルラーゼの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造し、得られたセルラーゼを用いてセルロースを分解または糖化することを特徴とするセルロースの分解または糖化方法。
【請求項8】
セルラーゼ生産菌がアクレモニウム属に属する微生物である請求項7項に記載のセルロースの分解または糖化方法。
【請求項9】
アクレモニウム属に属する微生物がアクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium cellulolyticus)C1株(FERM P−18508)である請求項8に記載のセルロースの分解または糖化方法。

【公開番号】特開2008−271826(P2008−271826A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118021(P2007−118021)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 環境省 委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】