説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】窪みの無いPVA層や液晶層を表面に付与することができるセルロースアシレートフィルムを製造する。
【解決手段】セルロースの中でも、Caの含有率が10ppm以下であるものをセルロースアシレートの原料とする。セルロースを、酢酸等のカルボン酸でエステル化することによりセルロースアシレートをつくる。セルロースアセテートと溶剤とを含むドープ24を、支持体である流延バンド82の上に連続に流出して流延膜24aを形成する。この流延膜24aを流延バンド82から剥がしてフィルム62とし、このフィルム62を乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフィルムの製造方法に関し、特に、液晶ディスプレイに使用するセルロースアシレートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに対する要求性能は近年ますます高くなっており、中でも、高輝度化とディスプレイの大型化とを達成するための性能の向上が望まれている。高輝度化とディスプレイの大型化を図ると、ディスプレイの表示欠陥が顕在化しやすい。つまり、輝度を従来よりもさらに高め、ディスプレイを従来よりもさらに大きくしようとすると、従来は確認されなかった表示欠陥が認められるようになる。ここで、表示欠陥とは表示されるべき画像の一部が欠けて表示されないことであり、表示されない部分は輝点と呼ばれる。
【0003】
液晶ディスプレイ等の光学製品にはセルロースアシレートフィルムが多く用いられている。このセルロースアシレートフィルムに不純物が含まれていると、あるいはセルロースアシレートフィルムに歪みがあると、これが光学製品の性能の悪化を招き、液晶ディスプレイでは表示欠陥の原因となる。特に、セルロースアシレートフィルムに含まれる不純物については、単位面積当たりの不純物量を減らさないと、ディスプレイの大型化によって、ひとつのディスプレイに不純物が含まれてしまう確率が大きくなり、その結果、液晶ディスプレイの歩留まりが低くなる。また、不純物の大きさが従来と同じであっても、高輝度化によって不純物の影響がディスプレイの表示欠陥として目立つようになってしまう。
【0004】
そこで、液晶ディスプレイの表示欠陥を無くすために、セルロースアシレートフィルムの製造方法においては、(1)原料であるセルロースアシレートにおける不純物の量を減らすこと、(2)セルロースアシレートフィルムの製造工程における異物の混入量を減らすこと、(3)セルロースアシレートフィルムの厚みをより一定にすること、の3つが解決すべき課題とされ、特に(3)については、特許文献1において種々の提案がなされている。
【0005】
上記(1)に対しては、例えば、特許文献2は、溶液製膜に供するドープに、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物に対し反応性を有し、かつ反応により生成するアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩がドープ中で析出しない溶解度をもつような有機化合物を含有させ、このドープを流延してフィルムとする溶液製膜方法を提案している。
【特許文献1】特開2003−165866号公報
【特許文献2】特開2006−116788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の(1)〜(3)の課題について概ね解決しても、液晶ディスプレイに表示欠陥が生じてしまうことがある。図3を参照して液晶ディスプレイ2に表示欠陥箇所ができる過程を説明する。セルロースアシレート中の不純物量を極力低減して、このセルロースアシレートから溶液製膜によりセルロースアシレートフィルム3を製造する。そして、得られたセルロースアシレートフィルム3について、厚みが均一であることと異物がないこととを確認する。このセルロースアシレートフィルム3の上にポリビニルアルコール(PVA)層4を塗布により形成する。すると、PVA層4には微小な窪み4aが生じる。ただし、セルロースアシレートフィルム3には窪みは生じていない。次に、PVA層4の上に液晶溶液を塗布して乾燥し、液晶層5を形成する。すると、PVA層4の窪み4a上の液晶層5には、窪み4aよりも深い窪み5aが生じる。得られた液晶ディスプレイ2を用いて画像を表示してみると、窪み5aが確認される箇所は表示欠陥となる。また、場合によっては、部分的にPVA層4や液晶層5が形成されずにセルロースアシレートフィルムが露出することもあり、このような箇所も表示欠陥となる。以上のような窪み4a、5aができてしまう現象やセルロースアシレートフィルムが露出してしまう現象は、”はじき現象”と呼ばれる。このはじき現象は、従来は、セルロースアシレートフィルムの厚みの不均一性や不純物の存在、PVA層や液晶層中における不純物の存在に起因するものと考えられてきており、厚みが均一で不純物の確認されないセルロースアシレートフィルムと不純物が確認されないPVA材料及び液晶とを用いても起こる現象であるとは考えられていなかった。
【0007】
以上のように、セルロースアシレートフィルム2には異物がなく厚みが均一であるのにも関わらず、PVA層4、液晶層5を形成すると窪み4a、5aが出来てしまう。そこで、本発明は、以上の背景から、PVA層や液晶層を表面に付与してもPVA層や液晶層に窪みを生じさせないセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、カルシウムの含有率が10ppm以下であるセルロースをカルボン酸でエステル化することによりセルロースアシレートとし、このセルロースアシレートと溶剤とを含むドープを、支持体の上に連続流出して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥がして乾燥することを特徴として構成されている。
【0009】
硫酸を触媒として前記エステル化をした後に、前記硫酸と前記カルボン酸とを水酸化カルシウムCa(OH)で中和することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、PVA層や液晶層を表面に付与してもPVA層や液晶層に窪みを生じさせないセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0012】
[原料]
本発明では、カルシウム(Ca)の含有率が10ppm以下であるセルロースを原料としてつくられたセルロースアシレートを用いる。Caの含有率は、セルロースの質量をA、このセルロースに含まれているCaの質量をBとするときに、{B/(A−B)}×1000000で求められる値であり、質量分析計によりこの値を測定することができる。Caの含有率が10ppm以下であるセルロースをセルロースアシレートの原料とすることにより、セルロースアシレートフィルム(以降、単に「フィルム」と称する)の上にPVA層や液晶層等がはじき現象を起こすこと無く均一の厚みで形成されて、これを液晶表示装置のパネルに用いたときに表示される画像が良好となる。すなわち、表示欠陥が従来よりも少ない液晶表示装置が得られる。セルロースにおけるCaの含有率は小さいほど好ましく、工業的には難しいがゼロであることが最も好ましい。
【0013】
ところで、液晶ディスプレイの製造では、歩留まりの目標値がそれぞれのメーカーで掲げられている。目標の歩留まりをより達成しやすくするために、フィルムの輝点数は少なければ少ないほどよいが、15〜26インチ型の液晶ディスプレイ用途としての輝点数の目標値は1cm×1cmあたり概ね9個以下とし、この場合の輝点数は直径が10μm以上のものとする。これは、従来の目標値に比べてかなり厳しい条件である。そして、フィルムの輝点が確認される箇所では、付与されたPVA層や液晶層に窪みが生じる。すなわち、フィルムについて輝点の有無を確かめることにより、PVA層や液晶層が付与される前であっても、これらの層が付与された場合に窪みが生じるか否かがわかり、また、輝点の位置を認識することにより前記窪みの位置がわかるといえる。そして、単位面積あたりの輝点数を縦軸にとり、セルロース中のCaの含有率を横軸にとったグラフをつくると、指数関数状の曲線が得られる。そして、上記輝点数の目標値におけるCaの含有率は約10ppmであり、このようにしてセルロースのCaの含有率の上限値、すなわち許容することができる限界値を求めてある。したがって、輝点数の目標値に応じて、セルロースのCaの含有率の上限値を決定することができる。
【0014】
本実施形態では、ロット生産されたセルロースについて、ロット毎にCaの含有率を測定する。そして、Caの含有率が10ppm以下であるロットと10ppmを越えるロットとを区別しておき、両者を用途別に使い分ける。つまり、高輝度かつ大型のディスプレイに用いられるフィルムを製造する場合には、Caの含有率が10ppm以下であるロットのセルロースからセルロースアシレートをつくり、このセルロースアシレートを用いてセルロースアシレートフィルムをつくる。
【0015】
Caの含有率と輝点数との関係を調べる場合と同様に、単位面積あたりの輝点数を縦軸にとり、Ca以外の2族典型元素のセルロースにおける含有率を横軸にとったグラフを複数つくると、Ca以外の2族典型元素の含有率の高低に関わらず輝点数は略一定となる。したがって、Ca以外の2族典型元素については、セルロースにおける含有率が10ppmより大きくてもよいといえる。
【0016】
従来は、互いに異なるロットのセルロースアシレートにおいて2族典型元素の含有率が互いに等しくても、それぞれからつくられたフィルムにははじき現象が起きるものと起きないものとがあり、起きるか起きないかについては実際にフィルムへの塗布を実施してみなければわからなかった。ところが、本発明によると、フィルムへの塗布を実施する前に、さらにフィルムを製造する前に、はじき現象の抑止を図ることができる。このようにして、本発明によると、輝点の原因であるはじき現象の無いフィルムを製造することができる。
【0017】
このように、Caの量が少ないセルロースを原料として、セルロースアシレートをつくることが好ましい。これは、セルロースには2族典型元素の中でも特にCaに作用しやすい陰イオンが含まれており、はじき現象の原因は該陰イオンとCaとの作用によるものと推定され、セルロースからこの陰イオンを除去することは難しいがCaを除去することは可能であるからである。
【0018】
なお、はじき現象は、木材から得られるセルロースを原料にしたセルロースアシレートフィルムを使用する場合に顕著に見られる。しかし、綿花を原料とするよりも木材を原料とする方が、量の確保と価格の点から有効である。本発明によると、このような背景を生かして木材を原料とするセルロースであっても、その中のCaの量を基準にロットを選別することによって、高輝度かつ大画面の表示装置を用途としてもはじき現象が現れないフィルムを製造することができる。
【0019】
従来は、はじき現象を防止するためにセルロースアシレートから不純物を除去することに注力されてきていたが、本発明は、以上のように、セルロースアシレートの不純物量には関係なく、セルロースアシレートの原料となるセルロースにつき、その含有物の中でもCaに着目した上で、その含有率が所定値以下であるセルロースを用いることによりはじき現象を防止する。
【0020】
そして、上記のセルロースを、カルボン酸でエステル化した後に熟成して乾燥することによりセルロースアシレートとする。エステル化反応における反応触媒は硫酸HSOであり、この硫酸及びカルボン酸を水酸化カルシウムCa(OH)で中和する。中和は、HSO及びカルボン酸によるセルロースアシレートの加水分解を防ぐために実施される。したがって、カルシウムCaは、 セルロースアシレートの中に含まれることが好ましい。以上のように、セルロースアシレートの中にCaが含まれていることと、セルロースの中にCaが10ppmより多くは含まれないこととの両方が好ましい。なお、中和は、Ca(OH)に代えてあるいは加えてMg(OH)によりおこなってもよい。
【0021】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0022】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0023】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0024】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0025】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0026】
ドープの原料とするセルロースアシレートは、その90重量%以上が粒径0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0027】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0028】
また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0029】
ドープを製造するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0030】
セルローストリアセテート(TAC)等のセルロースアシレートの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0031】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0032】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造設備を示す。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、セルロースアシレートを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒とセルロースアシレートと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21からの混合液16をろ過するろ過装置22と、ろ過装置22からのドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24をろ過するためのろ過装置27とを備える。そしてドープ製造設備10には、さらに、溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられてある。そして、このドープ製造設備10は、ストックタンク32を介して溶液製膜設備40に接続される。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられるが、これらが配される位置及びポンプ数の増減については適宜変更される。
【0033】
ドープ製造設備10によりドープ24は以下の方法で製造される。バルブ37を開とすることにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、セルロースアシレートがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、セルロースアシレートは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。
【0034】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
【0035】
前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、溶媒、セルロースアシレート、添加剤であったが、この順番に限定されない。また、添加剤は必ずしも混合タンク17でセルロースアシレート及び溶媒と混合することに限定されず、後の工程でセルロースアシレートと溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0036】
混合タンク17には、その外表を覆い、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52が取り付けられていることが好ましい。混合タンク17は、ジャケット46の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、セルロースアシレートが溶媒により膨潤した混合液16を得る。第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0037】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を0℃〜97℃となるように加熱することが好ましい。
【0038】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法によりセルロースアシレートを溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0039】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、ろ過装置22によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。ろ過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。ろ過流量は、50リットル/hr.以上であることが好ましい。
【0040】
ろ過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0041】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、セルロースアシレートの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、ろ過装置22でろ過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されてろ過装置27へ送られる。ろ過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0042】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0043】
以上の製造方法により、セルロースアシレート濃度が5重量%〜40重量%であるドープ24を製造することができる。セルロースアシレート濃度は15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0044】
なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0045】
[フィルム製造方法]
図2は溶液製膜設備40を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備40に限定されるものではない。溶液製膜設備40には、ストックタンク32から送られてくるドープ24から異物を除去するろ過装置61と、このろ過装置61でろ過されたドープ24を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するテンタ64と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室69と、フィルム62を冷却するための冷却室71と、フィルム62の帯電量を減らすための除電装置72と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対73と、フィルム62を巻き取る巻取室76とが備えられる。
【0046】
ストックタンク32には、モータ77で回転する攪拌機78が取り付けられており、攪拌機78の回転によりドープ24が撹拌される。そしてポンプ80によりストックタンク32中のドープ24はろ過装置61に送られる。
【0047】
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、走行する支持体としての流延バンド82とを備える。流延ダイ81の材質としては、2相ステンレス鋼、または、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ81は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ81の内部をドープ24が一様に流れ、流延膜24aにスジなどが生じることが防止される。流延ダイ81のドープ24と接するいわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ81のスリット(図示なし)のクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲とされる。流延ダイ81のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ81の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされる。流延ダイ81の内部における剪断速度が1(1/sec)〜5000(1/sec)とされることが好ましい。流延ダイ81はコートハンガー型のダイが好ましい。
【0048】
流延ダイ81の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム62の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ81の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が流延ダイ81に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ81には、流出するときのビードの厚みを調整するために、流延ダイ81のスリットの隙間を調整する厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられることが好ましく、ヒートボルトが自動厚み調整機構により制御されることが好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ80の送液量に応じて制御され、スリットの隙間のプロファイルが設定される。ドープ24の送り量を精緻に制御するために、ポンプ80は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、溶液製膜設備40には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、フィルム62の厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としてのフィルム62の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ81を用いることが好ましい。
【0049】
流延ダイ81のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く、脆くなく、耐腐食性に優れ、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましいものはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0050】
ドープ24が流延ダイ81のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両側端部とリップ先端の両側端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。この場合の溶媒は、ドープを可溶化する溶媒であり、ドープの固形分のほとんどがセルロースアシレートである場合には、例えば、ジクロロメタン86.5重量部,メタノール13重量部,n−ブタノール0.5重量部の混合物が好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜24a中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0051】
流延ダイ81の下方の流延バンド82は、回転ローラ85,86に掛け渡され、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。
【0052】
流延バンド82の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲であることが好ましい。また、長さが20m〜200m、厚みが0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されている流延バンド82が好ましく用いられる。
【0053】
回転ローラ85,86には、伝熱媒体を回転ローラ85,86に供給してローラの表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が取り付けられることが好ましい。本実施形態では、回転ローラ85,86に伝熱媒体流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ85,86の温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延バンド82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
【0054】
回転ローラ85,86、及び流延バンド82に代えて回転ドラム(図示せず)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度むらが所定の回転速度の0.2%以内となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がクロムメッキ処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド82、回転ローラ85,86は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0055】
流延ダイ81の近傍には、流延ダイ81から流延バンド82にかけて形成される流延ビードの流延バンド82走行方向における上流側を圧力制御するために減圧チャンバ90が備えられることが好ましい。
【0056】
バンド53の近傍には、流延膜24aの近傍に乾燥空気を出す送風機91〜93が備えられる。流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97と、揮発した有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが設けられる。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置99が流延室63の外部には設けられてある。
【0057】
流延室63の下流の渡り部101には、送風機102が備えられる。また、耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
【0058】
乾燥室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置106が取り付けられてある。乾燥室69の下流には冷却室71が設けられており、乾燥室69と冷却室71との間にフィルム62の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。除電装置72は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム62の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置72の位置は、冷却室71の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対73は、フィルム62の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室76の内部には、フィルム62を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
【0059】
次に、フィルム62を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、ストックタンク32に送られ、この中で攪拌機78の回転により常に均一にされる。これにより、流延に供されるまで、固形分の析出や凝集が抑制される。ドープ24には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることができる。そして、ろ過装置61でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物を取り除く。
【0060】
ろ過された後のドープ24は、流延ダイ81から流延バンド82に流延される。流延時におけるドープ24の温度は−10〜57℃の範囲で一定、流延バンド82の表面温度は−20〜40℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延バンド82に生じるテンションが10N/m×10N/mとなるように、回転ローラ85と回転ローラ86との相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整される。また、流延バンド82と回転ローラ85,86との相対速度差は、0.01m/min以下とされる。流延バンド82の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド82が一周する際に生じる幅方向での位置ずれ、つまり蛇行は1.5mm以下とされることが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延バンド82の側縁の位置を検出する検出器(図示しない)とこの検出器による検出データに応じて流延バンド82の位置を調整する位置調整機(図示なし)とを設けて、流延バンド82の位置をフィードバック制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ81直下における流延バンド82について、回転ローラ85の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。また、流延室63の温度は、温調装置97により−10℃〜57℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置99により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0061】
流延ダイ81から流延バンド82にかけては流延ビードが形成され、流延バンド82上には流延膜24aが形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。また、流延ビードを所望の形状に保つために、流延ダイ81のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。この吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0062】
流延膜24aは、自己支持性をもつようになった後に、剥取ローラ109で支持されながら流延バンド82から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時における流延膜24aの残留溶媒の重量は、固形分の重量を100としたときに20〜250であることが好ましい。溶媒を含んだ状態のフィルム62は、複数のローラに支持されて渡り部101を搬送された後に、テンタ64に送られる。渡り部101では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度よりも速くすることにより、フィルム62にドローテンションを付与させることが可能である。また、渡り部101では、送風機102から所望の温度の乾燥風がフィルム62近傍に送られ、またはフィルム62に直接吹き付けられ、フィルム62の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。
【0063】
テンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がクリップ64aにより把持されて、搬送されながら乾燥される。クリップに代えてピンを用い、このピンでフィルムを突き刺して保持してもよい。また、テンタ64の内部は、フィルム62の搬送方向に区画され、区画毎に温度調整されることが好ましい。テンタ64では、フィルム62を幅方向に延伸させることが可能とされている。このように、渡り部101とテンタ64との少なくともいずれかひとつにおいては、フィルム62の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。
【0064】
フィルム62は、テンタ64で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0065】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62は、乾燥室69に送られて、さらに乾燥される。乾燥室69では、フィルム62はローラ68に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室69は、送風温度を変えるために、複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と乾燥室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、乾燥室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。乾燥室69で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室69の内部に乾燥風として再度送られる。
【0066】
フィルム62は、冷却室71で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室69と冷却室71との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム62に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム62のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
【0067】
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルムを巻き取るまでの間に、乾燥工程や側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0068】
除電装置72により、フィルム62が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム62は、ナーリング付与ローラ対73によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0069】
フィルム62は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションをフィルム62に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルムの長さは100m以上とすることが好ましい。巻き取られるフィルム62の幅は600mm以上であることが好ましく、1400〜1800mm以下であることが好ましい。しかし、1800mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上80μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0070】
本発明では、ドープ24を流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一方の厚さが、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0071】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0072】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0073】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせて偏光板とし、液晶表示装置は、通常は、液晶層が2枚の偏光板で挟まれる構造である。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されており、これは、本発明にも適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルム、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとしてこれを光学補償フィルムとして用いる記載もある。これらは、偏光板保護フィルムと兼用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0074】
得られるフィルムは、偏光板保護フィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例1】
【0075】
次に、本発明の実施例を説明する。下記の配合でドープ24を製造した。
[ドープ24の原料及び配合比]
・セルローストリアセテート(TAC) 100重量部
(アセチル基による置換度2.86(酢化度60.8%),Mw/Mn=2.7,粘度平均重合度305,ジクロロメタン溶液中6重量%の粘度350mPa・s)
・ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 320重量部
・メタノール(溶媒の第2成分) 83重量部
・1−ブタノール 3重量部
・可塑剤A 7.6重量部
・可塑剤B 3.8重量部
・UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7重量部
・UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.3重量部
・クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物) 0.006重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
なお、上記可塑剤Aはトリフェニルフォスフェート(TPP)、可塑剤Bはビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)である。
【0076】
TACの種類を代えて実験1〜3と比較実験1,2を実施した。比較実験1,2は本発明に対する比較実験である。TACはセルロースを原料として合成されたものであり、セルロースのCa含有率及びMg含有率を表1に示す。
【0077】
[ドープ仕込み]
図1に示すドープ製造設備10を用いてドープ24をつくった。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製の溶媒タンク11で、前記の2種の溶媒、つまりジクロロメタンとメタノールとを混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、上記の溶媒の各成分は、すべてその含水率が0.5重量%以下のものである。次に、TACのフレーク状粉体をホッパ12から混合タンク17に徐々に送った。TACは、回転軸にアンカー翼を備えたディゾルバータイプの偏芯攪拌機48により、所定の攪拌条件で30分間分散された。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃である。さらに、上記原料のうち添加剤成分を予め混合してつくった添加剤液を添加剤タンク15から混合タンク17に送って、混合タンク17での全重量が2000kgとなるようした。添加剤溶液の分散を終了した後、高速攪拌を停止した後、アンカー翼の周速を所定の値に設定してさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液としての混合液16を得た。膨潤終了までは窒素ガスによりタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際の混合タンク17の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態に保たれた。また混合液16の水分含有率は0.3重量%であった。
【0078】
[溶解・ろ過]
混合液16を混合タンク17からポンプを用いてジャケット付配管である加熱装置18に送液した。加熱装置18では、混合液16を50℃にまで加熱して、さらに2MPaの加圧下で90℃にまで加熱し、完全溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に、溶解された液を、温度調整器21で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmのろ材を備えたろ過装置22を通過させた。この際、ろ過装置22における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング、及び配管としては、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。得られたドープ24の固形分濃度は19%である。
【0079】
つぎに、このドープ24に弱い超音波を照射することによりさらに脱泡を行った。その後、ポンプを用いて1.5MPaに加圧した状態で、ろ過装置27を通過させた。ろ過装置27では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタ(日本精線(株)製、グレード;06N)を通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次側圧力は1.5MPa、1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa、0.8MPaであった。ろ過後のドープ温度を36℃にした後に、2000Lのステンレス製ストックタンク32にドープ24を送って貯蔵した。ストックタンク32は攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機78を有しており、この攪拌機78により内部が常時攪拌される。なお、以上のドープ製造設備では、ドープと接するいずれの各種装置及び部材には、腐食などの問題は全く生じなかったことが確認された。
【0080】
[吐出・流延・ビード減圧]
図2に示す溶液製膜設備40を用いてフィルム62を製造した。ドープ24を高精度ギアポンプ80でろ過装置61へ送った。このポンプ80は、ポンプ80の1次側を増圧する機能を有している。そして、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりポンプ80の上流側に対するフィードバック制御を行った。ポンプ80は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能をもつ。また、その吐出圧力は1.5MPaであった。そして、ろ過装置61を経たドープ24を流延ダイ81に送液した。
【0081】
乾燥された後のフィルム62の厚みが100μmとなるように、流延ダイ81の吐出口におけるドープ24の流量を調整して流延を行った。ドープ24を所定の温度にするために、流延ダイ81にジャケット(図示しない)を設けて、ジャケット内に供給する伝熱媒体の温度と、流延ダイ81と配管とを所定の温度にした。
【0082】
流延ダイ81は、コートハンガータイプのダイである。流延ダイ81の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ90を設置した。その際に、ビードの長さが所定の値となるようにビード両面側の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ90は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものであった。流延ダイ81の流出口におけるビードの前面部及び背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設け、また、流出口の両端には開口部を設けた。また、減圧チャンバ90によりビードに関して上流側の圧力を下流側の圧力よりも低くした。また、減圧チャンバ90には、その内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケットの内側には所定温度に調整された伝熱媒体を供給した。さらに、流延ダイ81には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)が取り付けた。
【0083】
[流延ダイ]
流延ダイ81の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の2相ステンレス鋼である。そしてこれは、電解質水溶液での強制腐食試験においてSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材であり、また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する。流延ダイ81の接液面の表面粗さ、真直度、及びリップ先端の接液部の角部分の面取り半径Rは、それぞれ所定の値となるように加工されている。流延ダイ81のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイド)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0084】
さらに流延ダイ81の吐出口には、流出するドープ24が局所的に乾燥固化することを防止するために、固まったドープ24を溶かすことができる溶剤を流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、ポンプによりそれぞれ所定量供給した。
【0085】
[バンド]
ステンレス製のバンド82は、所定の厚み及び表面粗さになるように予め研磨してある。バンド82は、材質がSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有する。バンド82の搬送方向における張力と、バンド82と回転ローラ85,86との相対速度差とを所定の値以下とした。バンド82の速度変動、及び、流延ダイ81の直下における流延ダイ81のリップ先端とバンド82との上下方向における位置変動は、それぞれ所定の値となるように調整してある。また、バンド82が1周する間の蛇行幅が、1.5mm以内に制限されるようにバンド82の両端位置を検出して位置を制御した。
【0086】
流延ダイ81側の回転ローラ85には所定温度の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ86には流延膜24aを乾燥するための温度に制御された伝熱媒体を流した。流延直前のバンド82の中央部の表面温度は、両側端との温度差が所定の値となるように制御した。
【0087】
[流延乾燥]
流延室63の温度は、温調装置97により制御した。バンド82の下部における流延膜24aに対しては、流延膜24aの温度を所定の値とするように送風機91〜93で送風した。乾燥風の飽和温度とバンド82上での乾燥雰囲気における酸素濃度とは所定の値に保持した。酸素濃度の調整は、窒素ガスによる空気の置換により実施した。
【0088】
流延膜24a中の溶媒比率が乾量基準で50重量%になった時点でバンド82から剥取ローラ109で支持しながらフィルム62として剥ぎ取った。なお、この乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で求める値である。剥取不良を抑制するためにバンド82の速度に対する剥取速度を調整した。乾燥により発生した溶媒ガスは温度制御された凝縮器98で凝縮液化して回収装置99で回収した。回収された溶媒は、水分含有率が所定値以下となるように処理された。溶媒が除去された乾燥風は再度加熱され乾燥風として再利用される。フィルム62を、ローラを介して搬送し、テンタ64に送った。渡り部101では、フィルム62に対して送風機102から乾燥風を送った。なお、渡り部101でのフィルム62には所定値のテンションが付与されている。
【0089】
[テンタ搬送・乾燥・耳切]
テンタ64において、フィルム62は、クリップ64aでその両端を固定されながら搬送され、この間、乾燥風により乾燥される。なお、クリップ64aは、伝熱媒体の供給により冷却された。クリップ64aの搬送にはチェーンが用いられる。テンタ64を出てきたフィルム62の残留溶媒量が所定値となるように、テンタ64の条件を設定した。テンタ64内ではフィルム62を搬送しつつ幅方向に延伸した。テンタ64の内部で蒸発した溶媒は凝縮器により凝縮液化して回収した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が所定値以下にされて再使用に供した。
【0090】
テンタ64から出たフィルム62の両側端部を耳切装置67により切断除去した。
【0091】
[後乾燥・除電]
フィルム62を乾燥室69で高温乾燥した。乾燥室69をフィルム62の搬送方向に4区画に分割して、各区画では所定の温度の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム62のローラ68による搬送テンションは所定の値に制御され、残留溶媒量が所定値になるまでフィルム62を乾燥した。ローラ68は、その材質がアルミ製もしくは炭素鋼製であり、その表面にハードクロム鍍金が施されたものである。ローラ68としては、その表面が平滑なものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。
【0092】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置106を用いて吸着回収除去した。使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は所定値以下の水分量にされてから、ドープ製造用溶媒として再利用された。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点の物質が含まれるので、冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)が所定値以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、ほとんどは凝縮法で回収し、残りのうちの大部分は吸着回収により回収した。
【0093】
乾燥室69と冷却室71との間には渡り部(図示せず)があり、この渡り部では110℃の乾燥風を送った。さらに、フィルム62のカールの発生を抑制するための調湿室(図示せず)にフィルム62を搬送した。調湿室では、フィルム62に風を直接あてた。
【0094】
[ナーリング、巻取条件]
調湿後のフィルム62を、冷却室71で冷却した後に、第2耳切装置(図示せず)で側端部を除去した。搬送中のフィルム62の帯電圧が常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置72を設置した。さらにフィルム62の両端にナーリング付与ローラ73でナーリングの付与を実施した。ナーリングはフィルム62の片面側からエンボス加工を行うことで付与された。
【0095】
そして、フィルム62を巻取室76に搬送した。巻取室76は、内部温度と湿度とが制御された。さらに、巻取室76の内部にはフィルム62の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。巻き始めと巻き終わりとの各テンションが所定の値となるようにした。巻き取りの際の巻きズレの変動幅、いわゆるオシレート幅と、その巻取ロール107に対する巻きズレ周期とを検知して制御した。また、巻取ロール107に対するプレスローラを押し圧については所定の値となるように設定された。巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、フィルムロールの外観も良好であった。
【0096】
フィルムロールを25℃、相対湿度55%(以降、55%RHと記す)の貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも変化は認められなかった。さらにフィルムロール内においてもフィルム62の接着は認められなかった。また、フィルム62を製造後に、バンド82を観察した結果、流延膜24aの剥げ残りがないことが確認された。
【0097】
そして、2つの偏光板を用意し、クロスニコル配置した2枚の偏光板の間に、得られた各フィルムのサンプルを挟んだ。偏光板は保護膜がガラスとされてある。片面側から光を照射して、反対面側で輝点数を光学顕微鏡(50倍)でカウントした。輝点数は、1cm当たりの輝点数であり、カウントした対象は直径0.01mm以上の輝点である。表1の「評価結果」欄にこの輝点数による評価結果を以下の方法で記す。
○;1cm あたりの輝点数がゼロ〜9個
×;1cm あたりの輝点数が10個以上
【0098】
【表1】

【0099】
以上の実施例の結果より、Caの含有率が10ppm以下であるセルロースをカルボン酸でエステル化することによりセルロースアシレートとし、このセルロースアシレートからフィルムを製造すると、このフィルムはCaの含有率が10ppmよりも大きなセルロースを原料とした場合に比べて、輝点数が大幅に小さいことがわかる。このように、本発明により、PVA層や液晶層を表面に付与してもPVA層や液晶層に窪みを生じさせないセルロースアシレートフィルムが製造されるので、このセルロースアシレートフィルムを使用した液晶表示画面は、高輝度、大画面での優れた表示性能を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】溶液製膜設備の概略図である。
【図3】液晶ディスプレイの断面の概略図である。
【符号の説明】
【0101】
24 ドープ
62 セルロースアシレートフィルム
82 流延バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの含有率が10ppm以下であるセルロースをカルボン酸でエステル化することによりセルロースアシレートとし、このセルロースアシレートと溶剤とを含むドープを、支持体の上に連続流出して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥がして乾燥することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
硫酸を触媒として前記エステル化をした後に、前記硫酸と前記カルボン酸とを水酸化カルシウムCa(OH)で中和することを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−230234(P2008−230234A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36069(P2008−36069)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】