説明

セルロースアシレート溶液の調製方法、セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】メチレンクロライドのような塩素系炭化水素を実質的に使用しない非塩素系有機溶媒を用いることによって、白濁しないセルロースアシレート溶液を調製する方法を、またその溶液を用いたヘイズの非常に小さい透明性に優れたセルロースアシレートフィルムの製造法を提供する。
【解決手段】非塩素系有機溶媒と、10〜100ppmのアルカリ土類金属を含有するセルロースアシレートとを混合して混合物を形成する工程、形成した混合物を50〜4000kgf/cm2の圧力をかけて処理する工程、及び加圧後の混合物を0.1〜10kgf/cm2の圧力下で処理する工程を経ることを特徴とするセルロースアシレート溶液の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロゲン化銀写真感光材料又は液晶画像表示装置に有用なセルロースアシレートフィルム製造に用いるセルロースアシレート溶液の調製方法、その溶液を用いたセルロースアシレートフィルムの製造方法及びその方法で製造されたセルロースアシレートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン化銀写真感光材料や液晶画像表示装置に使用されているセルローストリアセテートフィルムを製造する際に使用されるセルローストリアセテート溶液の有機溶媒には、メチレンクロライドのような塩素系炭化水素が使用されている。
【0003】
メチレンクロライド(沸点41℃)は従来からセルローストリアセテートの良溶媒として用いられ、製造工程の製膜及び乾燥工程において沸点が低いことから乾燥させ易いという利点により好ましく使用されている。
【0004】
ところが、最近塩素系化合物の使用が制限される方向にあり、メチレンクロライドを使用しないか大幅に削減できるセルローストリアセテートフィルムの製造方法の発明が待たれていた。
【0005】
従来、メチレンクロライド以外にセルローストリアセテートに対する溶解性を示す溶媒として知られているものには、アセトン(沸点56℃)、酢酸メチル(沸点56.3℃)、テトラヒドロフラン(沸点65.4℃)、1,3−ジオキソラン(沸点75℃)、ニトロメタン(沸点101℃)、1、4−ジオキサン(沸点101℃)、エピクロルヒドリン(沸点116℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)などがある。
【0006】
これらの有機溶媒は実際に溶解試験を行ってみると必ずしも良溶媒とは言い難いものもあり、また爆発などの懸念のあるもの、沸点が高いもの等実用に供し得るものは殆どなかった。
【0007】
上記溶媒中の中で、沸点の低いアセトンは通常の方法ではセルローストリアセテートを膨潤させるだけで、溶解させるまでには至らなかった。近年、セルローストリアセテートをアセトンに溶解させて繊維やフィルムを作る試みがなされている。
【0008】
J.M.G.Cowie等は、非特許文献1においてセルローストリアセテート(酢化度60.1〜61.3%)をアセトン中で混合物を−80〜−70℃に冷却した後、加温することによって0.5〜5質量%の稀薄溶液が得られたと報告している。このような低温で溶解する方法を冷却溶解方法という。また、上出健二等は、非特許文献2の「三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸」の中で冷却溶解方法を用いた紡糸技術について述べている。
【0009】
特許文献1及び特許文献2では、上記技術を背景に、実質的にアセトンからなる有機溶媒を用いた、或いはアセトンと他の有機溶媒を共用した冷却溶解方法によってセルローストリアセテートを溶解し、フィルム製造に適用することを提案している。
【0010】
特許文献3にはアセトン以外のエーテル類、ケトン類或いはエステルから選ばれる有機溶媒を用いた冷却溶解方法によりセルローストリアセテートを溶解し、フィルムを作製しており、これらの有機溶媒としては2−メトキシエチルアセテート、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、及び酢酸メチルなどが好ましいとしている。
【0011】
特許文献4では、アセチル基と炭素原子数が3以上のアシル基が特定の関係にあるアセトンや酢酸メチルなどの溶媒に可溶なセルロース混合脂肪酸エステルが提案されている。
【0012】
従来のアセトン溶媒を用いた冷却溶解方法により調製したセルローストリアセテート溶液を用いて製膜されたセルローストリアセテートフィルムは平面性が劣っていたり、ヘイズが高かったり、しかもそれらの変動が大きいという問題があった。
【0013】
また、冷却溶解方法を用いたセルロースアシレート溶液は粘度の調製がうまく行かず、製膜のために配管中を送液する際に粘度が高く、高い圧力が必要になり、製膜が困難であったためセルロースアシレートではうまく行かなかった。
【0014】
アセチル基以外のアシル基の置換度が高いものは、物性が十分でなく、実際的には、アシル基の置換度の小さいものしか実用に使えないものであった。アシル基の置換度が高い場合は、冷却溶解方法などの特別な溶解法を用いなくてもよいのだが、アシル基の置換度が小さい場合は、やはり冷却溶解方法により溶解させる必要があり、同上の問題があった。
【0015】
一般に、セルローストリアセテート溶液をダイからエンドレスに走行する支持体上に流延し、次いで支持体から剥離後ウェブから溶媒を蒸発させてセルローストリアセテートフィルムが、いわゆる溶液流延製膜方法により、製造されている。
【0016】
ところが、流延される溶液の粘度が高すぎると、支持体上でのレベリングが不充分であったり、ひどいときは鮫肌が発生し平面性の劣ったフィルムとなってしまうのである。通常、平面性の良好なセルローストリアセテートフィルムを得るには、セルローストリアセテートのメチレンクロライド・メタノール溶液の粘度を、0.5Pa・s(5ポイズ)から50Pa・s(500ポイズ)にするのが好ましい範囲である。
【0017】
セルロースアシレート溶液の粘度を低下させるには、セルロースアシレートの重合度を下げるとか、濃度を薄くすることで達成出来るが、これでは出来上がったフィルムの機械的強度が低下したり、溶媒の蒸発に時間とエネルギーがかかり実用化に乏しいものであった。
【0018】
特許文献5には、セルロースアセテートに対して、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属を30ppm以下にすることによって、通常の方法(有機溶媒としてメチレンクロライドを使用し、常圧、常温付近で溶解する方法)で溶解した溶液の粘度が著しく低下するため製膜し易くなったと記載されている。
【0019】
この公報にはヘイズのことについては何の記述もないが、本発明者の冷却溶解方法試験の結果では、アルカリ土類金属がある量以上含有しているセルロースアシレート溶液は、白濁し易く、その溶液を用いて製膜したフィルムはヘイズが高いという関係があることがわかった。
【特許文献1】特開平9−95538号公報
【特許文献2】特開平9−95557号公報
【特許文献3】特開平9−95538号公報
【特許文献4】特開平10−45804号公報
【特許文献5】特公昭61−40095号公報
【非特許文献1】Die Makromolekulare Chemie、143巻、105〜114頁(1971年)
【非特許文献2】繊維機械学会誌、34巻、7号、57〜61頁(1981年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
アセトン等の有機溶媒を用い冷却溶解方法で調製したドープは白濁が発生し易いという問題、またそれから製膜されたフィルムのヘイズが高くなり易いという問題、更にそれらが変動し易いという問題を解決することが、塩素系溶媒を出来る限りの使用制限の方向付けが可能となる。また冷却溶解方法を活用していく上でも、この課題の解決が重要となった。
【0021】
本発明の目的は、メチレンクロライドのような塩素系炭化水素を実質的に使用しない他の非塩素系有機溶媒を用いることによって、白濁しないセルロースアシレート溶液を調製する方法を、またその溶液を用いたヘイズの非常に小さい透明性に優れたセルロースアシレートフィルム及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、塩素系有機溶媒で、セルロースアシレートをよく溶解し、しかもその有機溶媒を用いたセルロースアシレート溶液が白濁しない調製方法、またその溶液を用いてヘイズの小さい透明なセルロースアシレートフィルムを及びその製造方法を鋭意検討したところ、セルロースアシレートに含まれるアルカリ土類金属の含有量が白濁やヘイズに関係していることを見出し、またそれらの量によって、従来白濁やヘイズの不安定さが異なることも見出した。
【0023】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成することが出来た。
(1)非塩素系有機溶媒と、10〜100ppmのアルカリ土類金属を含有するセルロースアシレートとを混合して混合物を形成する工程、形成した混合物を50〜4000kgf/cm2の圧力をかけて処理する工程、及び加圧後の混合物を0.1〜10kgf/cm2の圧力下で処理する工程を経ることを特徴とするセルロースアシレート溶液の調製方法。
(2)セルロースアシレートが水酸基が炭素原子数2〜5のアシル基で置換されたものであることを特徴とする前記(1)記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(3)セルロースアシレートが下記式(I)乃至(IV)の全てを満足することを特徴とする前記(1)乃至(2)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(I) 2.6≦A+B≦3.0
(II) 2.0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦0.8
(IV) 1.9<A−B
ここで、式中A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の、またBは炭素原子数3乃至5のアシル基の置換度である。
(4)前記Bが下記式(V)を満足することを特徴とする前記(3)に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(V) 0<B≦0.3
(5)セルロースアシレート中のアルカリ土類金属の含有量が10〜50ppmであることを特徴とする前記(1)乃至(4)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(6)セルロースアシレートがアセチル基置換度2.70〜2.96のセルローストリアセテートであることを特徴とする前記(1)乃至(3)又は(5)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(7)セルロースアシレートの粘度平均重合度が250〜550であることを特徴とする前記(1)乃至(6)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(8)前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレートの濃度が15〜35質量%であることを特徴とする前記(1)乃至(7)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(9)非塩素系有機溶媒が60質量%の酢酸メチル及び40質量%以下の酢酸メチル以外の非塩素系有機溶媒であることを特徴とする前記(1)乃至(8)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(10)酢酸メチル以外の非塩素系有機溶媒がアセトンであることを特徴とする前記(1)乃至(9)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(11)前記セルロースアシレート溶液を調製する何れかの工程で添加剤を添加するか、前記工程の後に添加剤を添加する工程を設けることを特徴とする前記(1)乃至(10)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(12)添加剤が可塑剤であって、可塑剤をセルロースアシレートに対して5質量%以上30質量%以下で添加することを特徴とする前記(11)に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(13)前記(1)乃至(12)の何れかに記載のセルロースアシレート溶液を用いて、溶液流延製膜方法により製膜することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(14)−100〜−10℃で移送中の非塩素系有機溶媒に、10〜100ppmのアルカリ土類金属を含有するセルロースアシレートを連続的に添加して形成した混合物をインラインミキサーにより移送しながら膨潤させる工程、膨潤させた混合物から分離手段により非塩素系有機溶媒の一部を分離して濃縮する工程、及び濃縮後の混合物を加熱溶解する工程を経ることを特徴とするセルロースアシレート溶液の調製方法。
【発明の効果】
【0024】
上述したように、アルカリ土類金属含有量をコントロールすることによって、塩素系溶媒を実質的に使用しない冷却溶解方法及び加圧溶解方法におけるドープの白濁もなく、透明性なセルロースアシレートフィルムを製造するための冷却溶解方法又は加圧溶解方法を
提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を詳述する。
【0026】
本発明のセルロースアシレートは、セルロースの水酸基への置換度が下記式(I)乃至(IV)の全てを満足するものである。
(I) 2.6≦A+B≦3.0
(II) 2.0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦0.8
(IV) 1.9<A−B
ここで、式中A及びBはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換基を表し、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜5のアシル基の置換度である。セルロースには1グルコース単位に3個の水酸基があり、上記の数字はその水酸基3.0に対する置換度を表すもので、最大の置換度が3.0である。
【0027】
セルローストリアセテートは一般にAの置換度が2.6以上3.0以下であり(この場合、置換されなかった水酸基が最大0.4もある)、B=0の場合がセルローストリアセテートである。本発明のセルロースアシレートは、アシル基が全部アセチル基のセルローストリアセテート、及びアセチル基が2.0以上で、炭素原子数が3乃至5のアシル基が0.8以下、置換されなかった水酸基が0.4以下のものが好ましい。
【0028】
炭素原子数3乃至5のアシル基の場合、0.3以下が物性の点から特に好ましい。
【0029】
なお、置換度は、セルロースの水酸基に置換する酢酸及び炭素原子数3乃至5の脂肪酸の結合度を測定し、計算によって得られる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することが出来る。
【0030】
本発明に使用するセルロースアシレートの重合度(粘度平均)は200〜700が好ましく、特に250〜550のものが好ましい。
【0031】
一般的にセルローストリアセテートを含むセルロースアシレートフィルム、繊維又は成型品の機械的強度がタフであるためには重合度が200以上あることが必要とされており、祖父江寛、右田伸彦編「セルロースハンドブック」朝倉書房(1958)や、丸沢廣、宇田和夫編「プラスチック材料講座17」日刊工業新聞社(1970)に記載されている。
【0032】
本発明のセルロースアシレートフィルムの重合度は特に好ましくは250〜350である。粘度平均重合度はオストワルド粘度計で測定することができ、測定されたセルロースアシレートの固有粘度[η]から下記式により求められる。
【0033】
DP=[η]/Km
(式中DPは粘度平均重合度、Kmは定数6×10-4
本発明に用いられるセルロースアシレートの原料のセルロースとしては、綿花リンターや木材パルプなどがあるが、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用出来るし、混合して使用してもよい。
【0034】
本発明に用いられるセルローストリアセテートは写真用グレードのものが好ましく、市販の写真用グレードのものは粘度平均重合度、酢化度等の品質を満足して入手することが出来る。写真用グレードのセルローストリアセテートのメーカーとしては、ダイセル化学工業(株)、コートルズ社、ヘキスト社、イーストマンコダック社等があり、何れの写真用グレードのセルローストリアセテートも使用出来る。
【0035】
また、本発明に使用するアセチル基と炭素原子数3〜5のアシル基を有するセルロースアシレートはセルロース混合脂肪酸エステルとも呼ばれている。アセチル基の他の炭素原子数3〜5のアシル基はプロピオニル基(C25CO−)、ブチリル基(C37CO−)(n−、i−)、バレリル基(C49CO−)(n−、i−、s−、t−)で、これらのうちn−置換のものがフィルムにした時の機械的強さ、溶解し易さ等から好ましく、特にn−プロピオニル基が好ましい。
【0036】
また、アセチル基の置換度が低いと機械的強さ、耐湿熱性が低下する。炭素原子数3〜5のアシル基の置換度が高いと酢酸メチルとアセトンの混合液への溶解性は向上するが、それぞれの置換度が前記の範囲であれば良好な物性を示す。
【0037】
これらのアシル基のアシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドである場合は反応溶媒としての有機溶媒は、有機酸、例えば酢酸やメチレンクロライド等が使用される。触媒としては、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられる。
【0038】
アシル化剤が酸クロライド(例えばCH3CH2COCl)の場合には塩基性化合物が用いられる。工業的な最も一般的な方法は、セルロースをアセチル基及び他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸)又はそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸)を含む混合有機酸成分でアシル化してセルロースアシレートを反応する。
【0039】
反応後は酢酸カルシウムや酢酸マグネシウムで硫酸触媒を中和し、水で沈殿させてカッティングし、粒子化する。更に水洗を行い、乾燥させてセルロースアシレートが出来上がる。本発明に用いられるセルロースアシレートの具体的な製造方法については、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成出来る。
【0040】
セルロースアシレートに含まれているアルカリ土類金属は、上記のように、セルロースアシレートを合成する過程で用いられる硫酸等の酸触媒を、反応終了後中和するために使用される酢酸カルシウムや酢酸マグネシウム等のアルカリ土類金属であり、中和後の反応液をフレーク状に裁断する工程での水処理或いは水洗処理工程で触媒や中和剤その他の反応残査などが除去された後にセルロースアシレートに残存したものである。
【0041】
従って除去工程の条件が常に一定で残存量も一定ならば、白濁とかヘイズの変動も少ないと思われるが、実際変動することから、残存量が一定になっていないのではないかと考えられる。しかしながら、例え残存量が一定であっても量が多くては白濁やヘイズが高目のレベルに安定してしまう。
【0042】
本発明はこの量を減少させ、且つほぼ一定量に保たれたセルロースアシレートを使用することによって、目的が達成される。
【0043】
本発明のセルロースアシレートが含有するアルカリ土類金属はセルロースアシレートに対して10〜100ppm、好ましくは10〜50ppmであり、この範囲が白濁やヘイズが最小値になることを見出したのである。しかし9ppm以下でも白濁やヘイズは低いが、そのような低い含有量のアルカリ土類金属を得るには処理に時間がかかり、工業的にはコストがかかり過ぎる。
【0044】
アルカリ土類金属含有量を減少させるには、1例として、特公昭61−40095号公報に記載があるような、「セルローストリアセテート10gを氷酢酸1000gに溶解させる。次いで外酢酸溶液を攪拌しながら1000gの水を加え、セルローストリアセテートを沈殿させる。沈殿したセルローストリアセテートを濾過により取り出し、110℃で一昼夜乾燥させる」とある方法を使用することが出来る。
【0045】
この方法はあまり実用的ではないが、試料を作製するには適当な方法である。他には、酢酸メチル、アセトンや1,3−ジオキソランのような水溶性の有機溶媒にセルロースアシレートを膨潤或いは溶解させて、水に激しく攪拌しながら投入する方法、また、アシル化反応工程、中和工程を経てセルロースアシレートの固形化の際、セルロースアシレート溶液を水中に沈殿させる時に更に激しく投入するか、或いは出来るだけ細かい粒子状にすることによっても本発明の目的のセルロースアシレートが得られる。
【0046】
通常、例えば、酢酸マグネシウムを中和反応に用いる際、硫酸触媒に対して過剰に用いられ、マグネシウムがそのまま残るとするとセルロースアシレートに対して数千ppmのオーダーが残ることになり、処理を十分行う必要がある。
【0047】
本発明の冷却溶解方法及び高圧溶解方法について述べる。
【0048】
本発明の溶解方法に使用するセルロースアシレート溶液(以降、ドープと呼ぶこともある)を調製するための非塩素系有機溶媒といては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチルまたは酢酸2−メトキシエチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンまたはメチルシクロヘキサノン等のケトン類、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、2−エトキシエチルアセテートまたは2−メトキシエタノール等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール又はフルオロアルコール等のアルコール類等が好ましく用いられる。これらの非塩素系有機溶媒は2種以上併用してもよい。
【0049】
本発明において、非塩素系有機溶媒は、特に酢酸メチルとその他の非塩素系有機溶媒との組み合わせが好ましい。特に酢酸メチルとの組み合わせで好ましい酢酸メチル以外の非塩素系有機溶媒としては、アセトン、ギ酸エチル、シクロヘキサノンであるが、特にアセトンが溶解性、溶解速度が早い等から最も好ましい。
【0050】
本発明に使用される非塩素系有機溶媒の使用量は、全有機溶媒に対して酢酸メチルが60質量%以上であり、他の非塩素系有機溶媒が40質量%以下である。好ましくは、前者が65〜85質量%で、後者が15〜35質量%である。
【0051】
これら以外のその他の非塩素系有機溶媒を全有機溶媒に対して20質量%以下含んでいてもよい。以下非塩素系有機溶媒を単に有機溶媒と呼ぶことがある。
【0052】
本発明のドープに用いる酢酸メチルとギ酸エチル、アセトン及びシクロヘキサノン以外で混合して好ましく用いられる非塩素系有機溶媒としては、フルオロアルコールで、全有機溶媒量の10質量%以下含有させると、膨潤速度が早く、透明性のよいセルロースアシレート溶液を得ることが出来る。
【0053】
フルオロアルコールとしては沸点が165℃以下のものがよく、好ましくは111℃以下がよく、更に80℃以下が好ましい。フルオロアルコールは炭素原子数が2から10程度、好ましくは2から8程度のものがよい。
【0054】
また、フルオロアルコールはフッ素原子含有脂肪族アルコールで、置換基があってもなくてもよい。置換基としてはフッ素原子含有或いはなしの脂肪族置換基、芳香族置換基などがよい。このようなフルオロアルコールは例えば、(以下括弧内は沸点である)
2−フルオロエタノール(103℃)、
2,2,2−トリフルオロエタノール(80℃)、
2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(109℃)、
1,3−ジフルオロ−2−プロパノール(55℃)、
1,1,1,3,3,3−ヘキサ−2−メチル−2−プロパノール(62℃)、
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(59℃)、
2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール(80℃)、
2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール(114℃)、
2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(97℃)、
パーフルオロ−tert−ブタノール(45℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクトフルオロ−1−ペンタノール(142℃)、
2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンタンジオール(111.5℃)、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール(95℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(165℃)、
1−(ペンタフルオロフェニル)エタノール(82℃)、
2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジルアルコール(115℃)、
などが含まれる。これらのフルオロアルコールは一種又は二種以上使用してもよい。
【0055】
また、本発明のドープには炭素数が1から6の低級アルコールを含有させてもよい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。
【0056】
中でもメタノール、エタノール、n−ブタノールが好ましい。含有量としては、全有機溶媒量に対して20質量%以下が好ましい。このように炭素数が1〜6の低級アルコールを含有させたセルロースアシレート溶液は、流延キャスティングした際、残溶剤を多く含んだ状態でも膜の強度が強く、支持体のベルトやドラム上から剥離するのが容易となる。
【0057】
本発明のドープの調製方法について述べる。
【0058】
本発明の冷却溶解方法は、酢酸メチルと他の非塩素系有機溶媒(特に好ましい例としては酢酸メチルとアセトンであるが)の混合有機溶媒に本発明のセルロースアシレートを室温で攪拌しながら徐々に添加し、セルロースアシレートが有機溶媒中で膨潤状態の混合物とし、次に、この混合物を冷却し、後に加温して溶解する方法である。
【0059】
冷却温度は、溶媒の凝固点以上の温度であればよく、溶解性の点と扱い易い温度ということから−100〜−10℃の温度範囲が好ましい。この冷却物を0〜120℃の温度に加温すると、セルロースアシレートが溶媒中に溶解して、均一な溶液が得られる。
【0060】
なお、溶解を速めるために、冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が十分であるかどうかは、目視により溶液の概観を観察することで判断することができる。
【0061】
冷却溶解方法においては、冷却時の結露による水分の混入を避けるため、密閉容器を用いることが好ましい。また、冷却操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、更に溶解時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが好ましい。
【0062】
冷却溶解方法の溶解時間をより効率化した高速溶解方法が本発明の目的を容易に達成し得る方法として好ましく用いられる。
【0063】
高速溶解の第1の方法を図1をもって説明する。図1は、混合工程の断面模式図である。本発明に使用する有機溶媒1を予め−100〜−10℃に冷却器2で冷却して保温ジャケット5付きの混合釜3に有機溶媒導入口9から入れ、攪拌機4で攪拌しながら、サイロ7に貯蔵されているセルロースアシレート6を切り出し送粉機8で輸送し、セルロースアシレート導入口10から混合釜3に投入し混合するとセルロースアシレートは即座に膨潤する。
【0064】
本発明の低温の有機溶媒にセルロースアシレートを投入することにより、従来のセルロースアシレートと有機溶媒を混合してから冷却する方法よりも、膨潤時間を大幅に短縮することが出来る。膨潤した混合物は混合物排出口11から次の溶解工程に送られる。
【0065】
溶解工程では膨潤した混合物を加熱溶解するところで、従来の膨潤した混合物を加温してもよい。この例の冷却した有機溶媒にセルロースアシレートを混合する方法以外に、セルロースアシレートに冷却した有機溶媒を添加して混合してもよい。
【0066】
高速溶解の第2の方法を図2をもって説明する。図2は、混合工程の断面模式図であり、図1の混合釜3と同様の混合釜13の内部に円筒形で混合釜13の下部に固定されているメッシュ(分離手段の1例)14、攪拌機15、保温ジャケット24、有機溶媒導入口19、セルロースアシレート導入口20、混合物排出口21及び分離された有機溶媒排出口23等を装備している。
【0067】
既に−100〜−10℃に冷却されている膨潤した混合物12から膨潤に関与していない有機溶媒をメッシュ14を通して分離し、メッシュ14の外側に分離された有機溶媒22を有機溶媒排出口23から系外に排出することによって膨潤した混合物12を濃縮することが出来る。
【0068】
分離手段としては、図2のような混合釜13に固定された円筒形のメッシュ14の他に、攪拌機15の回転と反対側に回転する籠状のメッシュ(固定されていない)のようなものでもよく、分離出来るものなら制限なく用いることが出来る。
【0069】
メッシュの孔の大きさは0.1〜10mm程度でよく、また目詰まりを防止するために、振動を与えたり、スクレーパーのようなもので表面を掻いてもよく、目詰まり防止になるものは制限なく使用出来る。
【0070】
本発明の特徴は混合工程で多量の有機溶媒中にセルロースアシレートを投入することによって膨潤をより早く行わせることが出来ることで、またセルロースアシレートが有機溶媒中でままこ(粉体の塊の表面だけが溶解或いは膨潤して中は粉体のままの状態)にならず膨潤効率がよいのも特徴である。
【0071】
濃縮された混合物は混合物排出口21から排出され、次の溶解釜(図には描かれていない)に導入され溶解される。溶解工程では濃縮された状態で溶解してもよいし、また仕上がりドープの濃度まで希釈してもよい。この例の他に、セルロースアシレートに冷却した有機溶媒を添加してもよい。なお、16はセルロースアシレート、17はサイロ、18は切り出し送粉機である。
【0072】
高速溶解の第3の方法を図3をもって説明する。図3は、溶解工程の断面模式図である。予め熱交換機(加温器)28で0〜120℃に調温した冷却の有機溶媒と同組成の有機溶媒(0〜120℃の有機溶媒は冷却に使用する有機溶媒と同じ組成であり、以降は断らない限り同組成のものである)を有機溶媒導入口30から溶解釜25に投入しておき、そこへ−100〜−10℃の冷却膨潤した混合物を混合物導入口29から溶解釜25に投入し溶解する。
【0073】
混合物を調温した有機溶媒26に投入すると殆ど瞬時にセルロースアシレートの溶解が起こり、溶解時間を大幅に短縮することが出来る。また溶解し残りも殆どなく溶解性も優れている。なお、有機溶媒導入口30からは添加剤を添加してもよい。溶解された混合物は混合物排出口31から貯蔵釜(図には描かれていない)に送られる。
【0074】
この方法の他に、混合物に調温した有機溶媒を添加しても良い。なお、27は攪拌機、32は保温ジャケットである。
【0075】
高速溶解の第4の方法を図4をもって説明する。図4は、連続混合工程及び連続有機溶媒分離工程の断面模式図である。
【0076】
冷却器36で−100〜−10℃に冷却された有機溶媒を有機溶媒導入口37を通して傾斜している混合機33に導入し、有機溶媒がインラインミキサー(混合物の輸送手段の1例として)35を回転させながら混合機33内を移送し、別にサイロ39からセルロースアシレート38を切り出し送粉機40で送り、セルロースアシレート導入口41から混合機33内の移送中の有機溶媒にセルロースアシレートを添加(以降投入という語を使用することがある)し、仕切板34に沿って回転しているインラインミキサー35により有機溶媒の移送と共に混合しながら流れ、セルロースアシレートを膨潤し、混合機33の終点49で有機溶媒を分離手段としてのメッシュ43を有する有機溶媒分離器42に導入し、膨潤に関与していない有機溶媒45をメッシュ43を通して分離して混合物44を濃縮し、濃縮された混合物44を混合物排出口46から次の溶解釜(図には描かれていない)に導入する。分離された有機溶媒45を有機溶媒排出口47から排出する。
【0077】
次に、濃縮後の混合物を次の溶解釜で加温して溶解するか、調温した有機溶媒中に溶解し希釈してもよい。移送中の有機溶媒にセルロースアシレートを混合する時のセルロースアシレートの添加速度は瞬間的な有機溶媒に対する濃度としては、0.5〜40質量%程度でよく、好ましくは1〜20質量%である。また、投入時の濃度が低ければ低いほど膨潤速度が早く効果的である。
【0078】
有機溶媒の流れは0.01〜5m3/秒が好ましく、0.1〜1m3/秒が特に好ましい。有機溶媒及び混合物を流動させるには混合機を傾斜させれば移送することが出来るが、図4のようにインラインミキサーのような動力のいらない回転混合機を用いることは非常に好ましい例である。
【0079】
また、押し出し機に使用されるようなスクリューを用いて移送させてもよく。また、混合機の形状は樋状であっても、パイプ型でも、箱形でも、有機溶媒及び混合物が流動し易い形状であれば制限はない。
【0080】
また、直線状に長くとも、折り畳まれたつづれ折り状であっても、ループ状であってもよい。混合機の外側には保温ジャケット48を付けておくのがよい。つづれ折り状或いはループ状の場合には、それぞれが接触していると、温度のロスも少なく効率を上げることが出来好ましい。
【0081】
有機溶媒分離器42にも保温ジャケット48が付いている。有機溶媒分離器42は傾斜させるだけでも有機溶媒や混合物を移送させることが出来るが、濃縮されて流動しにくい混合物を移送させるには、図4のように、動力のいらないインラインミキサー35を用いることが好ましい。
【0082】
また、スクリューで強制的に混合物を移送させることもよいし、メッシュ状のベルトコンベアーの上に混合物を乗せて運び、途中で有機溶媒を分離出来るものでもよい。分離手段は図4に示したような有機溶媒分離器42の中でメッシュ43で分離していてもよいが、メッシュ板を円筒状にして外側を混合物が移送させても、また円筒のメッシュの中側にインラインミキサーやスクリューを設置して回転させながら混合物を送り、膨潤に関与しなかった有機溶媒45が外側に分離されるようなものでもよい。
【0083】
濃縮された混合物は混合物排出口46から溶解工程に送られるが、溶解は、溶解出来る方法ならどんな方法でもよく、混合物を加温しても、予め調温した有機溶媒に溶解して希釈させてもよい。
【0084】
高速溶解の第5の方法を図5をもって説明する。図5は、連続混合工程、連続有機溶媒分離工程及び溶解工程の断面模式図である。図5の混合及び有機溶媒分離工程は図4と同じであり、また溶解工程は図3と同じである。
【0085】
濃縮された混合物は、図4の混合物排出口46と図3の混合物導入口29につながっている配管を通って移送されるようになっている。この第5の方法は有機溶媒分離器42で濃縮された混合物44を0〜120℃に調温した有機溶媒が既に導入されている溶解釜25に導入して溶解して希釈する方法である。
【0086】
この方法は膨潤させる時間また溶解させる時間が従来の方法と比べて大幅に短縮出来る。なお、有機溶媒導入口30から添加剤を導入してもよい。
【0087】
高速溶解の第6の方法を図6をもって説明する。図6は、連続混合工程、連続有機溶媒分離工程及び連続溶解工程の断面模式図である。図6の混合及び有機溶媒分離工程は図4又は図5のそれと同じである。
【0088】
図6の溶解工程は、上記の溶解工程とは異なり、混合工程と同様な方式である。熱交換機(加温器)51から0〜120℃に調温された有機溶媒を溶解機50の有機溶媒導入口52より導入し、溶解機50中を有機溶媒がインラインミキサー35とともに回転しながら移送し、別に有機溶媒分離器42で濃縮された混合物44を混合物排出口46を通して混合物導入口49から導入し、回転しながら移送する有機溶媒に溶解し希釈するようになっている。
【0089】
図6の溶解機50には、混合機33及び有機溶媒分離器42のインラインミキサー(混合物の輸送手段として)35と同様なものが設置されている。インラインミキサーは混合効率がよく、本発明には好ましく用いることが出来る。前述のように他の方法も同様に用いることが出来る。
【0090】
溶液排出口54に至る間に混合物は有機溶媒に完全に溶解され、セルロースアシレート溶液(以降ドープということもある)になり、溶液排出口54から次の貯蔵釜(図には描かれていない)に送られる。なお、53は仕切板である。
【0091】
高速溶解の第7の方法を図7をもって説明する。図7は、分離有機溶媒の循環使用工程の模式図である。図7の膨潤混合物とする混合機60と有機溶媒分離器61は図4、5及び6の混合機33及び有機溶媒分離器42と同じものを模式したものである。
【0092】
冷却器62で冷却された有機溶媒を混合機60の有機溶媒導入口63から導入し、別に、セルロースアシレートをセルロースアシレート導入口64から導入して混合し、膨潤した混合物を混合物排出口65から混合物導入口66を通して有機溶媒分離器61に導入し、有機溶媒の1部を分離して、混合物を濃縮し、濃縮された混合物を混合物排出口67から次の溶解工程に送る。分離された有機溶媒を有機溶媒排出口68から排出し、ポンプ69でフィルター70に送り、そこで不純物を除去して冷却器62に送り有機溶媒を再使用する。
【0093】
本発明のもう一つの溶解方法は、高圧溶解方法である。本発明の酢酸メチルと他の非塩素系の有機溶媒を含む混合有機溶媒の中に、本発明のセルロースアシレートを添加して混合し、この混合物を、高圧力下に保持し、次いで圧力を解放し混合物を常圧下付近に保持することによってドープを調製するものである。
【0094】
この混合物を得るまでは、上記冷却溶解方法と同様に行える。最初に、室温で本発明の混合有機溶媒中に、セルロースアシレートを攪拌しながら徐々に添加する。この段階では、セルロースアシレートは溶媒中で膨潤している状態の混合物となっている。
【0095】
次に、この混合物を、高圧力下に保持する。圧力は、50kgf/cm2以上から効果が認められ、高い程溶解時間が短縮できるが、あまり高過ぎると設備が大型になり過ぎるし、溶解時間の短縮効果も徐々に飽和してくるので、4000kgf/cm2以下であれば十分な効果が得られる。
【0096】
所定の時間加圧した後、圧力を解放し、この混合物を0.1〜10kgf/cm2以下の圧力下に保持することによりセルロースアシレートが溶媒中に溶解し均一な溶液が得られる。
【0097】
なお、溶解を速めるために、加圧、圧力解放の操作を繰り返してもよい。溶解が十分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察することで判断することができる。溶解させる容器は特に限定はなく圧力に耐える強度を有する構造であれば良い。
【0098】
アルミニウム箔で出来た密閉容器等を用いてバッチ式に行ってもよいし、一軸や二軸式の押し出し機や混練機等で連続的に行っても良い。また、加圧操作において冷却し、解放操作において加温すると、更に溶解時間を短縮することができる。
【0099】
溶液中のセルロースアシレート濃度は、フィルム製膜時の乾燥効率の点から、なるべく高濃度であることが好ましい。一方、あまり高濃度になると溶液の粘度が大きすぎて、平面性が劣化する場合がある。
【0100】
従って、好ましい溶液のセルロースアシレート濃度は、10〜40質量%の範囲である。更に15〜35質量%の範囲が好ましい。
【0101】
上記容器内には窒素ガスなどの不活性ガスで充満させて分解を抑制してもよい。セルロースアシレート溶液の粘度は、製膜の際、流延可能な範囲であればよく、通常5〜500ポイズの範囲に調製されることが好ましい。
【0102】
この様に、低濃度で冷却溶解或いは高圧溶解することにより、ドープの経時安定性を向上することが出来るし、更に低濃度の溶液は粘度が低いので、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を効率よく濾過除去することができる。
【0103】
本発明のドープには各調製工程において用途に応じた種々の添加剤を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程において何れでも添加しても良いし、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
【0104】
ハロゲン化銀写真感光材料用のセルロースアシレートフィルムには機械的性質の向上或いは耐水性を付与するために可塑剤やライトパイピング防止用の着色剤或いは紫外線防止剤が、また液晶画面表示装置用には耐熱耐湿性を付与する酸化防止剤などを添加することが好ましい。
【0105】
可塑剤としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、グリコール酸エステルなどが好ましく用いられる。リン酸エステルの例としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどがあり、カルボン酸エステルの例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリメリット酸エステルなどがあり、グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。中でもトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレートが好ましい。
【0106】
特にトリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースアシレートに対して5〜30質量%以下、特に8〜16質量%以下が好ましい。
【0107】
これらの化合物は、セルロースアシレート溶液の調製の際に、セルロースアシレートや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0108】
更に下記一般式(I)(II)又は(III)で示される化合物を添加してもよい。
【0109】
【化1】

【0110】
一般式(I)、(II)、(III)の式中、Rは、それぞれ炭素原子数が1以上4以下のアルキル基である。上記一般式(I)、(II)又は(III)で示される化合物の例としては、リン酸2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウム(アデカスタブNA−10、旭電化(株)製)及びビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール(NC−4、三井東圧化学(株)製)が含まれる。
【0111】
酸化防止剤としては、下記一般式(IV)で表されるものが用いられる。
【0112】
【化2】

【0113】
一般式(IV)のR1はアルキル基を表し、R2、R3及びXは、それぞれ水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環オキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基を表す。mは0〜2の整数を表す。
【0114】
2、R3及びXは互いに同一でもよいし異なっていてもよい。上記アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、tert−ブチル、シクロヘキシル、tert−ヘキシル、tert−オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ベンジルなどの直鎖、分岐、又は環状のアルキル基を表し、上記アルケニル基は、例えば、ビニル、アリル、2−ペンテニル、シクロヘキセニル、ヘキセニル、ドデセニル、オクタデセニルなどの直鎖、分岐、又は環状のアルケニル基を表し、上記アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、アントラニルなどのベンゼン単環や縮合多環のアリール基を表し、上記ヘテロ環基は、例えば、フリル、ピロリル、イミダゾリル、ピリジル、プリニル、クロマニル、ピロリジル、モルホリニルなどの窒素原子、硫黄原子、酸素原子の少なくとも一つを含む5〜7員環からなる基を表す。
【0115】
中でもヒンダードフェノール系の化合物が好ましく、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。
【0116】
また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1〜10000ppmが好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0117】
ライトパイピング防止用の着色剤としては下記一般式(V)、(VI)に示す化合物が挙げられる。
【0118】
【化3】

【0119】
一般式(V)、(VI)の式中、Xは酸素原子、又は、NR23を表す。R1〜R8、R12〜R23は、それぞれ水素原子、水酸基、脂肪族基、芳香族基、複素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、COR9、COOR9、NR910、NR10COR11、NR10SO211、CONR910、SO2NR910、COR11、SO211、OCOR11、NR9CONR1011、CONHSO211、又はSO2NHCOR11を表し、R9、R10はそれぞれ水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基を表し、R11は脂肪族基、芳香族基、又は複素環基を表す。
【0120】
1〜R23で表される脂肪族基は、炭素数1〜20のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−ブチル、イソプロピル、2−エチルヘキシル、n−デシル、n−オクタデシル)、炭素数1〜20のシクロアルキル基(例えば、シクロベンジル、シクロヘキシル)又はアリル基を表し、これらは更に置換基(例えば、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、カルボン酸基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜20のアミド基、炭素数1〜20のカルバモイル基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又はアリーロキシ基、炭素数1〜20のスルホンアミド基、炭素数0〜20のスルファモイル基、5又は6員の複素環)を有していてもよい。
【0121】
1〜R23で表される芳香族基は炭素数6〜10のフェニル、ナフチルなどのアリール基を表し、前記に挙げた置換基及び炭素数1〜20のメチル、エチル、n−ブチル、tert−ブチル、オクチルなどのアルキル基からなる置換基を有していてもよい。
【0122】
1〜R11で表される複素環基は、5又は6員の複素環を表し、前記の置換基を有していてもよい。以下化4〜化9に一般式(V)、(VI)で表される化合物の好ましい例(V−1)〜(V−25)、及び(VI−1)〜(VI−4)を示す。
【0123】
【化4】

【0124】
【化5】

【0125】
【化6】

【0126】
【化7】

【0127】
【化8】

【0128】
【化9】

【0129】
着色剤の含有量は、セルロースアシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmが更に好ましい。
【0130】
この様に着色剤を含有させることにより、セルロースアシレートフィルムのライトパイピングが減少でき、黄色味を改良することができる。これらの化合物は、セルロースアシレート溶液の調製の際に、セルロースアシレートや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0131】
また、本発明のセルロースアシレート溶液には、必要に応じて更に種々の添加剤を溶液の調製前から調製後の何れの段階で添加してもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナなどの無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などである。
【0132】
溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。
【0133】
本発明のセルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。
【0134】
図8は溶液流延製膜装置の断面模式図であり、これを用いて溶液流延製膜方法及び装置について簡単に説明する。
【0135】
前述の溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜77で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡したり最終調製をする。
【0136】
ドープ78をドープ排出口81から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプ82を通して加圧型ダイ72に送り、ドープを加圧型ダイ72の口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の支持体71の上に均一に流延され、支持体がほぼ一周した剥離点74で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を支持体71から剥離し、ウェブ73の両端をクリップで挟み幅保持しながらテンター75で搬送して乾燥し、続いて乾燥装置84のロール群85で搬送し乾燥を終了して巻き取り機76で所定の長さに巻き取る。なお、79はドープ導入口、80は添加剤導入口、83は保温ジャケットである。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。
【0137】
ハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、図8の溶液流延製膜装置に記載されている装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等の支持体への表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。
【0138】
本発明に有用な流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから支持体上に均一に押し出す方法、一旦支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。
【0139】
加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが何れも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法(例えば特開昭61−94724号、同61−148013号、特開平4−85011号、同4−286611号、同5−185443号、同5−185445号、同6−278149号、同8−207210号公報などに記載の方法)を好ましく用いることが出来、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。
【0140】
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。
【0141】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いられる加圧ダイは、支持体の上方に1基或いは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液する。
【0142】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に係わる支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には支持体(ドラム或いはベルト)の表面側、つまり支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側の裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはベルトを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。
【0143】
流延される前の支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。
【0144】
セルロースアシレートフィルムを製造する速度はベルトの長さ、乾燥方法、ドープ溶媒組成等によっても変化するが、ウェブをベルトから剥離する時点での残留溶媒の量によって殆ど決まってしまう。
【0145】
つまり、ドープ膜の厚み方向でのベルト表面付近での溶媒濃度が高すぎる場合には、剥離した時、ベルトにドープが残ってしまい、次の流延に支障を来すため、剥離残りは絶対あってはならないし、更に剥離する力に耐えるだけのウェブ強度が必要であるからである。
【0146】
剥離時点での残留溶媒量は、ベルトやドラム上での乾燥方法によっても異なり、ドープ表面から風を当てて乾燥する方法よりは、ベルト或いはドラム裏面から伝熱する方法が効果的に残留溶媒量を低減することが出来るのである。
【0147】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に係わるフィルム乾燥方法については前述の溶液流延製膜方法の乾燥方法が好ましい。搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウェーブなどの加熱手段などを用いる方法によって乾燥が行われる。
【0148】
急速な乾燥はウェブ(フィルム)の平面性を損なう虞があるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。
【0149】
支持体から剥離後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは巾方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。
【0150】
この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程或いは一部の工程を幅方向にクリップでウェブの巾両端を巾保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
【0151】
更には、積極的に幅方向に延伸する方法もあり、本発明では、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号等の公報に記載の延伸方法も使用し得る。
【0152】
本発明のセルロースアシレートフィルムの乾燥工程における乾燥温度は40〜250℃、特に70〜180℃が好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。最終仕上がりフィルムの残留溶媒量は2質量%以下、更に0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0153】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0154】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に係わる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0155】
本発明の出来上がり(乾燥後)のセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5〜500μmの範囲であり、更に40〜250μmの範囲が好ましく、特に60〜125μmの範囲が最も好ましい。フィルムの厚さの調製は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、支持体速度等を調節すればよい。
〈アシル基の置換度と粘度平均重合度の測定方法〉
1)セルロースアシレートのアシル基の置換度;
アシル基の置換度は、ケン化法によって測定するものとする。乾燥したセルロースアシレートを精秤し、アセトン70mlとジメチルスルホキシド30mlとの混合溶媒に溶解した後、更にアセトン50mlを加えた。撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、25℃で2時間ケン化する。熱水100mlを加え、フェノールフタレインを指示薬として添加し、1Nの硫酸水溶液(濃度ファクター;F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。
【0156】
また、上記と同様な方法により、ブランクテストを行う。滴定が終了した溶液の上澄み液を100に希釈し、イオンクロマトグラフィーを用いて、定法により有機酸の組成を測定した。滴定結果とイオンクロマトグラフィーの酸組成物分析から下記によりアシル化置換度を計算した。
【0157】
T[A+B]=(E−M)×F/(1000×W)
A={162.14×T[A+B]}/{1−42.14×T[A+B]+
(1−56.06×T[A+B])×(Cb/Ca)}
B=A×(Cb/Ca)
ここで、T[A+B]:全有機酸量(モル/g)
E:ブランク試験滴定量(ml)
M:試料滴定量(ml)
F:1Nの硫酸のファクター
W:試料質量(g)
Ca:イオンクロマトグラフィーで測定した酢酸量(モル)
Cb:イオンクロマトグラフィーで測定した炭素原子数3乃至5の有機酸量(モル)
Cb/Ca:酢酸と他の有機酸とのモル比
A:アセチル基の置換度
B:炭素原子数3乃至5のアシル基の置換度
である。
2)セルロースアシレートの粘度平均重合度(DP)
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロライドとエタノールの混合溶媒(質量比9:1)100mlに溶解する。これをオストワルド粘度計にて、25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式によって求める。
【0158】
ηrel=T/Ts
[η]=(lnηrel)/C
DP=[η]/Km
ここで、T :測定試料の落下秒数
Ts:溶媒の落下秒数
C :濃度(g/l)
Km:6×10-4
フィルムの残留溶媒量は次のように測定した。
【0159】
試験フィルム或いはウェブ(U)を秤量ビンに入れ精秤し、次に前記フィルム或いはウェブを150℃で3時間加熱した後、水分を吸わないように室温まで冷却し秤量する。絶乾フィルム或いはウェブの質量(D)として、
残留溶媒量(%)={(U−D)/D}×100
で求めた。
【実施例】
【0160】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。
〈アルカリ土類金属含有量別セルロースアシレートの作製方法〉
上記特公昭61−40095号公報5欄33〜38行に記載の方法を用い、セルロースアシレート、氷酢酸及び水のそれぞれの量を変化させてアルカリ土類金属含有量の異なるセルロースアシレートを作製した。
〈セルロースアシレート中のアルカリ土類金属の含有量の測定〉
ICP−AES(誘導結合プラズマ発行分光分析)によりアルカリ土類金属の定量を行った。セルロースアシレート約500mgに硫酸5mlを加え、これをマイクロ波分解を数十秒から数分程度行う。更に硝酸4mlを加えマイクロ波分解を再度行い、もう一度硝酸1mlを加え最終のマイクロ波分解を行う(この分解法をマイクロダイジェスト湿式分解方という)。分解物を数mlの水で水溶液とし、セイコー電子工業(株)製SPS−4000を用いてICP−AES分析を行う。
〈ドープの白濁・透明性〉
ドープ(セルロースアシレート溶液)を透明な容器に入れ、目視で作製直後、透明性を観察し、次の基準で評価しランク付けした。
【0161】
A:透明で均一なドープ
B:僅かに白濁は見られるが、透明性はよい
C:白濁が見られる、やや乳白色のドープ
D:白濁が濃く、透明性も余りなく、白濁とは別に微粒子が見られる。
〈フィルムのヘイズ〉
JIS K−6714に従って、ヘイズメーター(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
〈引裂強さ〉
フィルムを温度23℃、相対湿度55%RHに調湿された部屋で4時間調湿した後、試料寸法50mm×64mmに切り出し、ISO 6383/2−1983に従い測定して求めた。
参考例1
溶解容器中で置換度2.78、粘度平均重合度300及び表1に示すアルカリ土類金属を含有するセルローストリアセテート100質量部を、可塑剤としてトリフェニルホスフェート(以下TPPと略す)10質量部を含む酢酸メチル280質量部及びアセトン120質量部の混合有機溶媒に添加して混合し、室温で膨潤させた。膨潤した混合物を攪拌しながら容器の外側から−70℃まで冷却し、1時間放置した。
【0162】
次に容器の外側から45℃まで加温し、30分放置した。この冷却と加温を3回繰り返し、各ドープを得た。ドープを30℃で一晩静置し、脱泡操作を施した後、ドープを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し製膜に供した。得られたドープを定量ギヤポンプでダイに送液し、ドープを図8のような溶液流延製膜方法によりセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0163】
即ち、ダイからドープをエンドレスに走行しているステンレスベルトに乾燥後の膜厚が120μmとなるように流延した。裏面から50℃の温水を接触させて温度制御されたベルト上で前半の乾燥を行い、後半は90℃の乾燥風を当ててウェブを乾燥させた。
【0164】
ベルトがほぼ1周したところでベルトからウェブを剥離し、ウェブの両端をクリップで把持しながら120℃で5分間、続いてロール群を通しながら搬送しつつ140℃で20分間乾燥させ最終的に膜厚120μmのセルローストリアセテートフィルムを得た。各水準ともフィルムの残留溶媒量は0.9%であった。
実施例1
溶解容器中で置換度2.78、粘度平均重合度300及び表1に示すアルカリ土類金属を含有するセルローストリアセテート(アルカリ土類金属含有量は実施例1と同じ)100質量部を、TPP10質量部を含む酢酸メチル280質量部及びアセトン120質量部の混合有機溶媒に添加して混合し、室温で膨潤させた。
【0165】
膨潤した混合物を容量1000mlの肉厚100μmのアルミニウム製の容器に満たし、空気が入らないようにアルミニウム箔で蓋をして、かしめるように密封した。この密閉された容器をゴム製の袋に詰め、軽く脱気後ゴム袋を封入する。このゴム袋をセラミック成型用のゴム製静水圧加圧装置(神戸製鋼製)にセットし、20℃に保ちながら1000kg/cm2の圧力で加圧する。
【0166】
その後大気圧に戻し30分静置する。この加圧〜解放のサイクルを3回繰り返してドープを得た。参考例1と同様に溶液流延製膜方法で製膜を行い、120μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを得た。フィルムの残留溶媒量は0.9%であった。
実施例2
アルカリ土類金属含有量を48ppmのみとし、酢酸メチルとアセトンの比を6:4に変更した以外は実施例1と同様にしてドープを得、参考例1と同様に溶液流延製膜方法で製膜を行い、120μmのセルローストリアセテートフィルムを得た。フィルムの残留溶媒量は1.0%であった。
比較例1
アルカリ土類金属含有量を148、234及び528ppmに変更した他は実施例1と同様にしてドープを得、参考例1と同様に溶液流延製膜方法で製膜を行い、120μmのセルローストリアセテートフィルムを得た。フィルムの残留溶媒量は0.9%であった。
【0167】
評価の結果を表1に示した。
【0168】
【表1】

【0169】
(結果)
表1から明らかのように、本発明のアルカリ土類金属含有量範囲内では、冷却溶解方法及び加圧溶解方法とも、ドープの白濁が殆どなく、またフィルムのヘイズも少ないことが分かった。これに対してアルカリ土類金属含有量が多い場合にはドープの白濁が激しく、フィルムのヘイズ高く、冷却溶解方法及び加圧溶解方法にはアルカリ土類金属含有量が重要な役割していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】混合工程の断面模式図。
【図2】混合工程の断面模式図。
【図3】溶解工程の断面模式図。
【図4】連続混合工程及び連続有機溶媒分離工程の断面模式図。
【図5】連続混合工程、連続有機溶媒分離工程及び溶解工程の断面模式図。
【図6】連続混合工程、連続有機溶媒分離工程及び連続溶解工程の断面模式図。
【図7】分離有機溶媒の循環使用工程の模式図。
【図8】溶液流延製膜装置の断面模式図。
【符号の説明】
【0171】
1 有機溶媒
2 冷却器
3 混合釜
4 攪拌機
5 保温ジャケット
6 セルロースアシレート
7 サイロ
8 切り出し送粉機
9 有機溶媒導入口
10 セルロースアシレート導入口
11 混合物排出口
12 膨潤した混合物
13 混合釜
14 メッシュ
15 攪拌機
16 セルロースアシレート
17 サイロ
18 切り出し送粉機
19 有機溶媒導入口
20 セルロースアシレート導入口
21 混合物排出口
22 有機溶媒
23 有機溶媒排出口
24 保温ジャケット
25 溶解釜
26 有機溶媒
27 攪拌機
28 熱交換機(加温器)
29 混合物導入口
30 有機溶媒導入口
31 混合物排出口
32 保温ジャケット
33 混合機
34 仕切板
35 インラインミキサー
36 冷却器
37 有機溶媒導入口
38 セルロースアシレート
39 サイロ
40 切り出し送粉機
41 セルロースアシレート導入口
42 有機溶媒分離器
43 メッシュ
44 混合物
45 有機溶媒
46 混合物排出口
47 有機溶媒排出口
48 保温ジャケット
49 終点
50 溶解機
51 熱交換機(加温器)
52 有機溶媒導入口
53 仕切板
54 溶液排出口
60 混合機
61 有機溶媒分離器
62 冷却器
63 有機溶媒導入口
64 セルロースアシレート導入口
65 混合物排出口
66 混合物導入口
67 混合物排出口
68 有機溶媒排出口
69 ポンプ
70 フィルター
71 支持体
72 加圧型ダイ
73 ウェブ
74 剥離点
75 テンター
76 巻き取り機
77 貯蔵釜
78 ドープ
79 ドープ導入口
80 添加剤導入口
81 ドープ排出口
82 ギヤポンプ
83 保温ジャケット
84 乾燥装置
85 ロール(ロール群)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非塩素系有機溶媒と、10〜100ppmのアルカリ土類金属を含有するセルロースアシレートとを混合して混合物を形成する工程、形成した混合物を50〜4000kgf/cm2の圧力をかけて処理する工程、及び加圧後の混合物を0.1〜10kgf/cm2の圧力下で処理する工程を経ることを特徴とするセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項2】
セルロースアシレートが水酸基が炭素原子数2〜5のアシル基で置換されたものであることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項3】
セルロースアシレートが下記式(I)乃至(IV)の全てを満足することを特徴とする請求項1乃至2の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(I) 2.6≦A+B≦3.0
(II) 2.0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦0.8
(IV) 1.9<A−B
ここで、式中A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の、またBは炭素原子数3乃至5のアシル基の置換度である。
【請求項4】
前記Bが下記式(V)を満足することを特徴とする請求項3に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
(V) 0<B≦0.3
【請求項5】
セルロースアシレート中のアルカリ土類金属の含有量が10〜50ppmであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項6】
セルロースアシレートがアセチル基置換度2.70〜2.96のセルローストリアセテートであることを特徴とする請求項1乃至3又は5の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項7】
セルロースアシレートの粘度平均重合度が250〜550であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項8】
前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレートの濃度が15〜35質量%であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項9】
非塩素系有機溶媒が60質量%の酢酸メチル及び40質量%以下の酢酸メチル以外の非塩素系有機溶媒であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項10】
酢酸メチル以外の非塩素系有機溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項11】
前記セルロースアシレート溶液を調製する何れかの工程で添加剤を添加するか、前記工程の後に添加剤を添加する工程を設けることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項12】
添加剤が可塑剤であって、可塑剤をセルロースアシレートに対して5質量%以上30質量%以下で添加することを特徴とする請求項11に記載のセルロースアシレート溶液の調製方法。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載のセルロースアシレート溶液を用いて、溶液流延製膜方法により製膜することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項14】
−100〜−10℃で移送中の非塩素系有機溶媒に、10〜100ppmのアルカリ土類金属を含有するセルロースアシレートを連続的に添加して形成した混合物をインラインミキサーにより移送しながら膨潤させる工程、膨潤させた混合物から分離手段により非塩素系有機溶媒の一部を分離して濃縮する工程、及び濃縮後の混合物を加熱溶解する工程を経ることを特徴とするセルロースアシレート溶液の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−107019(P2007−107019A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20755(P2007−20755)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【分割の表示】特願平10−118262の分割
【原出願日】平成10年4月28日(1998.4.28)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】