説明

セルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸、その製造方法および渦流紡績糸を用いた布帛。

【課題】本発明の課題は、バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分としながら、柔軟性かつ熱可塑性に優れ、かつ適切な繊維長を有しているために、均一な糸条、好適な風合い、抗ピリング性を有するセルロースエステル渦流紡績糸を得ることにある。
【解決手段】 少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上18未満のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜51mmであるセルロースエステル短繊維をMVSにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル短繊維を用いた紡績糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紡績ではリング式紡績機を用い、スピンドルとトラベラとの回転により繊維束に対し実撚りを加え紡績糸を得ていた。リング式紡績機ではトラベラとリング間で摩擦熱の作用を多大に受け、熱融点の低い繊維に関しては溶解などの問題を生じさせていた。なかでも合成短繊維からなる紡績糸を使用したテキスタイルでは、該繊維の強度が高いことが作用し、ポリエステル同様、衣料着用時、布帛表面に摩擦を受け毛羽が絡み毛玉に成長し、いわゆるピリングが発生し、衣料の外観を著しく損なうという欠点も有していた。またリング糸においては収縮特性などの問題もある。従来これらを改善する点からは、空気紡績糸が好ましく用いられている。
【0003】
一方、セルロースエステルとして最も汎用的に用いられるセルロースアセテートは、衣料用フィラメントとして用いられる他、たばこフィルター用途のステープルとしても使用されている。例えば特公昭44−1953号公報においては、セルロースアセテートのステープルを用いたシガレットフィルターが開示されている。本公報には、「捲縮アセテートレイヨンの長さは、3〜10mmであるが、これは3mm以下では紙力が弱くまた10mm以上で分散、抄紙が困難であるからである」と記載されている(特許文献1参照)。ここで開示されている短繊維は、たばこフィルター用途には好適に用いることができるものの、繊維長が短すぎるために紡績糸やクッション材などの用途に用いることはできないものであった。また、セルロースアセテートからなる繊維であるため、熱可塑性はほとんどなく、アセトンなどの溶媒を用いたポリマー溶液から溶液紡糸(乾式紡糸)によって製造せざるを得ず、得られた繊維も、融着加工や、熱セット加工が困難であるという問題も有していた。また、セルロースアセテート繊維は剛直なため、例えば紡績加工などの際には容易にフィブリル化してしまい、品位の良好な繊維製品を得ることができないものであった。
【0004】
また、他のたばこ製品用フィルターに関する出願においても、セルロースエステルの中で特にセルロースアセテート短繊維が好ましいこと、セルロースエステル短繊維の長さは、通常0.1mm〜10mmであることが記されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、無捲縮のセルロースエステル短繊維と叩解パルプとで構成されたたばこフィルター素材が別の文献に開示されている。この無捲縮のセルロースエステル短繊維は、平均繊維長が1〜10mmであり、セルロースエステルとしてはセルロースアセテートが主として用いられているが、セルロースエステルでもよい記載もみられる(特許文献3参照)。ここで開示されている短繊維は、たばこフィルターとしては好適なものの、繊維長が短すぎるために紡績糸やクッション材などの用途に用いることができないものであった。また、セルロースアセテートやセルロースエステルも、本公報に開示されている組成では熱可塑性がないため、本公報に記載されているような繊度1〜11dtexの繊維を得るためには、溶融紡糸は採用することができず、アセトンなどの溶媒を用いたポリマー溶液から溶液紡糸(乾式紡糸)によって製造せざるを得ないものであるとともに、得られた繊維も、単糸の融着加工や、熱セット加工が困難であるという問題も有していた。また、前記セルロースアセテート繊維は、フィブリルを有するものであり、たばこフィルターではなく繊維製品とするには適さないものであった。
【特許文献1】特公昭44−1953(第1頁)
【特許文献2】特開平11−243939(第3頁)
【特許文献3】特開2003−119613号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分としながら、柔軟性かつ熱可塑性に優れ、かつ適切な繊維長を有しているために、均一な糸条、好適な風合い、抗ピリング性を有するセルロースエステル渦流紡績糸を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した本発明の課題を達成すべく、本発明は、以下の構成よりなる。
「(1) 少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上であるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜51mmであるセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(2) 該熱可塑性組成物が、該セルロースエステル70〜95wt%と可塑剤5〜30wt%とを含有するものであることを特徴とする(1)1記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(3) 該アシル基が炭素数3以上、18以下である(1)または(2)に記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(4) 該セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネートおよびセルロースブチレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(5) 該セルロースエステル短繊維のガラス転移温度が、100〜180℃であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(6) 該セルロースエステル短繊維の強度が0.5〜2.0cN/dtexであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(7) 該セルロースエステル短繊維が、異形断面繊維であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(8) 該セルロースエステル短繊維の繊度が、0.5〜7.0dtexであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
(9) (1)〜(8)のいずれかに記載の渦流紡績糸を用いてなる布帛。
(10) 少なくとも一部が炭素数3以上のアシル基であるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなる短繊維を用い、ほぼ無撚り状態の芯側繊維束の回りに鞘側繊維束を交絡させることを特徴とするセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、繊維高次工程におけるフィブリル発生がなく、工程通過性に優れるとともに、熱可塑性をも有するセルロースエステル短繊維が得られる。このセルロースエステル渦流紡績糸は、熱可塑性を利用した、衣料用素材、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるセルロースエステルにおいては、セルロースエステルのアシル基の少なくとも一部が、炭素数3以上のものであることが重要である。可塑剤の配合によって組成物が良好な熱流動性を有するためである。炭素数が2であるセルロースアセテートでは、それ自身の熱可塑性が不十分であるため、紡績工程が困難になり、また、剛直であるために容易にフィブリル化してしまうという問題がある。より好ましくは、アシル基の炭素数は3〜18である。炭素数が18を超えると分子鎖が長くなり、それに伴い繊維の破断強度が著しく低下する傾向がある。
【0010】
本発明の少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートカプロネート、セルロースアセテートカプリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートパルミテート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースアセテートフタレート等や、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステル等が挙げられる。中でも、製造が容易なことおよび耐熱性が優れていることから、本発明のセルロースエステルとしてはセルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明に用いるセルロースエステル短繊維の伸度は、5〜40%である。伸度が5%以上であることによって、紡績工程における糸切れが少なくなるため好ましい。40%以下であることによって、例えば綿などの伸度の低い他の短繊維と混紡した時における物性ばらつきが小さくなるため好ましい。更に伸度は7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、28%以下であることがより好ましく、25%以下であることが最も好ましい。
【0012】
本発明に用いるセルロースエステル短繊維の繊維長は、25〜51mmである。ここで繊維長とは短繊維の繊維長の平均値を意味している。繊維長が25mmに満たない場合には紡績工程において糸切れが多発するなど繊維高次加工工程における操業性が悪化することになる。また、150mm以下であれば短繊維としてのスパン感が発現するため好ましい。繊維長は30mm以上であることがより好ましく、51mm以下であることが最も好ましい。
【0013】
本発明のセルロースエステル短繊維の単糸繊度は、0.5〜100dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex以上であれば、溶融紡糸の工程において製糸性よく繊維を得ることができる。また、100dtex以下であれば、繊維最終製品の曲げ剛性が高くなりすぎることがなく、ソフトさが要求される衣料用布帛などにも適用することができる。単繊維繊度は、1.0dtex以上であることがより好ましく、2.0dtex以上であることが最も好ましい。また、50dtex以下、さらには25dtex以下であることが好ましい。さらには、0.5〜7.0dtexの範囲が好ましく、0.6〜3.0dtexの範囲にあることがより好ましい。7.0dtexを超えると紡績糸の芯成分の短繊維束と鞘成分の短繊維束との絡合性不良となり番手設定に制約が生じたり、さらには製品の風合いが硬くなる等の欠点が生じる場合がある。
【0014】
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形および中空などの異形断面糸でも良い。異形断面とすることによって光沢を付与したり、吸水性を付与したりすることができる。
【0015】
本発明においては、セルロースエステル短繊維としては、捲縮を付与されたものが好ましく用いられる。その際、捲縮数が3山/25mm〜20山/25mmであることが好ましい。捲縮数が低すぎると、軽量感のある良好な風合いを発現しにくく、また捲縮数が高すぎると、嵩高性が逆に低下してしまうことがある。捲縮数は5山/25mm以上であることがより好ましく、8山/25mm以上であることが最も好ましい。また、15山/25mm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に用いるセルロースエステル短繊維は、少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上のものであるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物よりなるが、この熱可塑性組成物中のセルロースエステルの含有量は、70〜95wt%であることが好ましい。
【0017】
セルロースエステルの含有量を70wt%以上とすることによって、強度を受け持つセルロースエステルの比率が十分高くなり、短繊維の機械的特性が向上する。熱可塑性組成物中のセルロースエステルの含有量は、75wt%以上であることがより好ましく、80wt%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる短繊維の柔軟性を高めるためには、熱可塑性組成物中のセルロースエステルの比率は95wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、90wt%以下であり、最も好ましくは85wt%以下である。
【0018】
本発明のセルロースエステル短繊維は、繊維のガラス転移温度が100〜180℃であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば熱水中においてもへたりが生じることがないため好ましい。耐熱軟化性の観点から、本発明のセルロースエステル短繊維のガラス転移温度は110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが最も好ましい。
【0019】
本発明のセルロースエステル短繊維の強度は、0.5〜2.0cN/dtexであることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、短繊維を用いた繊維加工工程において糸切れによる操業性低下が抑制されるため好ましい。強度は、0.7cN/dtex以上であることがより好ましく、1.0cN/dtex以上であることがさらに好ましい。また、2cN/dtex以下であれば短繊維を用いた繊維構造物のソフト感が良好なものとなり、ピリングの発生を抑制できるため好ましい。
【0020】
本発明において用いられる可塑剤としては、本発明のセルロースエステルに混和するものであれば特に制限はなく用いることができる。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、グリセリン混合エステルなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、およびトリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0021】
また、高分子量の可塑剤として、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類などを挙げることができる。これらの高分子量可塑剤は共重合体であってもよいし、重合体の一部が修飾されているものであってもよい。
【0022】
さらには水溶性の可塑剤として、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、および下記の一般式(1)で示されるポリエーテル類などを挙げることができる。ここで水溶性とは、20〜100℃の温度の水にその10重量%以上が溶解可能であることをいう。
【0023】
−O−{(CH2)nO}m−R ・・・(1)
(但し、RとRは、H、アルキル基およびアシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数をあらわす。)
高い水溶性の観点より、RおよびRは水素原子であることがもっとも好ましい。RおよびRがアルキル基あるいはアシル基の場合は、炭素数が7以下であることがもっとも好ましく、より好ましくは3以下である。
【0024】
上記の一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は、セルロース混合脂肪酸エステルとの相溶性が優れているため好適に採用することができる。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体などを挙げることができる。
【0025】
本発明の紡績糸においては、セルロース短繊維によるドレープ感、ソフト感を得るために、紡績糸自体が無撚りであることが重要である。
【0026】
本発明の渦流紡績糸は、セルロースエステル短繊維を村田機械製Murata-Vortex-Spinner(以下MVSという)を用いて紡績することにより得ることができる。渦流紡績糸によれば、無撚状の紡績糸が得られる。ここでいう無撚状の紡績糸とは、短繊維成分の平均繊維長をLsとした場合、4.0T/Ls以下の実撚りがかかっているもの、または無撚のものである。撚り数が4.0T/Ls以下の場合には、撚りトルクの作用による撚り戻りの発生がないので、無撚構造糸ということができる。また、MVSによれば、比較的内側に芯成分としてほぼ無撚り状態の短繊維束が形成され、比較的外側に位置する鞘成分の短繊維束が一定間隔をおいて芯の繊維束に巻き付いた状態の渦流紡績糸を得ることができる。さらに紡出時における紡速を変化させることで糸形態を変化させることができ、紡速が遅くなるほど紡績糸の鞘側繊維束の比率が増し、結束ピッチがより安定するが、逆に布帛にした際の粗硬感が強く、糸結束が増すことで短繊維束間の空隙が少なくなり、紡績糸の曲げ剛性も剛直になることからソフト感が低減する場合がある。逆に紡速が早い場合、短繊維束間の空隙は増し風合いもソフトとなり、ドレープ性の観点からも好ましいが、糸強力の低下、またピリングの原因となる毛羽が増加する傾向がことから、紡速は220m/分〜350m/分であることが好ましい。
【0027】
無撚り構造糸であるため一般的なリング精紡機によって得られる実撚り糸のような撚りトルクによる短繊維束間の拘束がなく、紡績糸の比較的内側に存在する芯成分の短繊維束が撚トルクのない状態であるため、短繊維間の空気層が多く存在する(繊維間空隙の増大)。そのため本発明の紡績糸で構成されている織編物は、よりドレープ感、ソフト感を有し、かつピリング性に優れたものとなる。
【0028】
また、空隙率増大に伴い紡績糸において毛細管現象が発現され、吸水性に優れた紡績糸となり、更には、セルロース繊維の吸水効果との相乗効果により、より優れた吸水機能を発揮することができる。更に、極細繊維を用いれば空隙が増大し、より吸水効果が望める。
【0029】
さらには、MVSを用いることにより、通常の紡績工程で用いるトラベラ、リング等を必要とせず、高温熱を発生させる要素がないことから、トラベラ−リング間の擦過熱による溶解が全くなく、プレーンな紡績糸を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
ピリング性能、風合い、吸水高さ、繊維長、強度について下記の方法で測定、評価を行った。
[ICIピル判定(5hr)]
得られた編物についてJIS L1076(A法)のICIピル判定により、5時間後のピル発生の程度を1〜5級にランク付けた。数字が少ないほどピリング発生が少ないことを示す。
[風合い]
編物の風合いを下記官能評価した。
【0031】
×:張り、腰、ソフト感不良
△:張り、腰、ソフト感やや良好
○:張り、腰、ソフト感良好
[吸水高さ]
JIS L 1907(バイレック法)を用いて測定した。短冊状に調整した布帛を吊し、青いインクトレー内に下部を浸し20min後の吸水高さを測定した。
[繊維長]
繊維長はJIS L 1015(2001年度版)に基づいて測定を行った。250mgの試料を金くしで平行に引きそろえ、ペア型ソーターでステープルダイヤグラムをビロード板上に25cm幅に配列するものである。この上に目盛を刻んだセルロイド板をおいて、方眼紙上に図示し、この方法で図記したステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境線および両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出、これを2回くりかえした平均値を採用した。
[強度]
強度はJIS L 1015(2001年度版)に基づいて測定を行った。オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、つかみ長20mm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力を繊度で除した値を繊維強度(cN/dtex)とした。
(実施例1)
セルロースアセテートプロピオネートを80wt%、可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成株式会社製、PEG600)20wt%とを含有させたセルロースエステルを用い、紡糸温度180〜280℃の条件で溶融紡糸し、紡出糸を回転ローラーにて引き取った。その後、セルロースエステル短繊維を紡糸速度1300m/分で紡糸した後、3.0倍で通常の延伸を行い、捲縮付与後、カットして、単繊維繊度1.5dtex、繊維長38mm、強度1.5cN/dtexのセルロースエステル原綿を得た。
【0032】
続いてこのセルロースエステル原綿100%を用い、通常の紡績方法を用いて2.36g/mの太さのスライバーを作成した。このスライバーについてMVS精紡機(村田機械製作所製、#810タイプ )を用いて精紡した。
【0033】
用いたMVS精紡機の糸形成部は中空のエアーノズルを有し、エアーノズル内の旋回気流によって、無撚り芯鞘短繊維束の鞘部に、短繊維束が一定間隔で結束することで無撚りである紡績糸を形成する機構を有するものである。MVS精紡機のドラフト率は120倍に設定して、紡速を220m/分として精紡することにより綿式番手30sの紡績糸を得た。紡績性は良好であり、糸切れもなかった。
【0034】
この無撚紡績糸を用いて、28Gシングル丸編機で天竺編地を編成した。
【0035】
次にこの編地を染色工程において、精練、リラックス後、液流染色機を用いて通常のレーヨン染色同様染色加工を実施した。
【0036】
仕上げ後の目付が145g/mの編地を得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1と同様の工程を用い、吐出口の径を小径にし、紡糸後回転ローラーで引き取った後、延伸倍率を4.5倍にて延伸し、実施例1と同様に捲縮付与、油剤付与、カットし、単繊維繊度0.8dtex、繊維長38mm、強度1.0cN/dtexのセルロースエステル原綿を得た。
【0038】
この原綿を用いた以外は、実施例1と同様にして紡績、編成、染色することにより布帛を作成した。
【0039】
(比較例1)
実施例1,2と同様のセルロースエステルを紡糸速度1300m/分で紡糸した後3.0倍で通常の延伸を行い、捲縮付与後カットして、単繊維繊度1.7dtex、繊維長38mmの原綿を得た。
【0040】
その後、実施例1と同様にして紡績、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0041】
(比較例2)
実施例1と同様の原綿100%を用いて、通常の紡績方法を用いて4.1g/mの太さのスライバーを作成し、粗紡工程を経た後、通常のリング精紡機を用いて綿式番手30sの紡績糸を得た。
【0042】
その後、実施例1と同様にして紡績、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0043】
(比較例3)
ポリエステル100%原綿を用いて、2.36g/mの太さのスライバーを作成した後、実施例1と同様にして紡績、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0044】
以上5点のスパン編物について評価した結果を表1に示した。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部のアシル基が炭素数3以上であるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなり、伸度が5〜40%、繊維長が25〜51mmであるセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項2】
該熱可塑性組成物が、該セルロースエステル70〜95wt%と可塑剤5〜30wt%とを含有するものであることを特徴とする請求項1記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項3】
該アシル基が炭素数3以上、18以下である請求項1または2に記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項4】
該セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネートおよびセルロースブチレートから選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項5】
該セルロースエステル短繊維のガラス転移温度が、100〜180℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項6】
該セルロースエステル短繊維の強度が0.5〜2.0cN/dtexであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項7】
該セルロースエステル短繊維が、異形断面繊維であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項8】
該セルロースエステル短繊維の繊度が、0.5〜7.0デシテックスであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の渦流紡績糸を用いてなる布帛。
【請求項10】
少なくとも一部が炭素数3以上のアシル基であるセルロースエステルを主成分とする熱可塑性組成物からなる短繊維を用い、ほぼ無撚り状態の芯側繊維束の回りに鞘側繊維束を交絡させることを特徴とするセルロースエステル短繊維を用いた渦流紡績糸の製造方法。

【公開番号】特開2007−131979(P2007−131979A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327002(P2005−327002)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】