説明

セルロース組成物、光学フィルム、位相差板、偏光板、ならびに液晶表示装置

【課題】効率よく安価に製造でき、斜めから観察しても黒表示が着色を起こさない、高い表示品位を可能とする光学フィルムを提供する。
【解決手段】セルロース化合物の少なくとも一種と、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種、および、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する分子吸収波長が、当該分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMxに由来する分子吸収波長より長波長であって、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|My|が分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|Mx|よりも大きい低分子化合物(A)の少なくとも一種を含有するセルロース組成物、およびこの組成物からなるセルロースフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに添加するとフィルムに逆波長分散性を付与することができる化合物と棒状化合物をセルロース化合物とともに含む組成物に関する。また、本発明は、当該化合物を含有するセルロースフィルムに関する。また本発明は、光学フィルム、これを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。とりわけ視野角依存性が少ない高品位の視認性を実現させる光学フィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々用途が広がっている。従来、画像の視野角依存性が大きいことが液晶表示装置の大きな欠点であったが、近年、液晶セル内の液晶分子の配列状態の異なる様々な高視野角モードが実用化されており、これによりテレビ等の高視野角が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大しつつある。
一般に液晶表示装置は液晶セル、光学補償シート、偏光子から構成される。光学補償シートは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求がきわめて厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。そのため、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。
【0003】
特にVAモードはコントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として着目されている。しかしながらVAモードではパネル法線方向においてはほぼ完全な黒色表示ができるものの、斜め方向からパネルを観察すると光漏れが発生し、視野角が狭くなるという問題があった。この問題を解決するためにnx>ny=nzとなる正の屈折率異方性を有する第一の位相差板とnx=ny>nzとなる負の屈折率異方性を有する第2の位相差板とを併用することにより光漏れを低減する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
具体的には、光学特性の異なる2種類の位相差層を用いることにより斜め方向から見ても黒の表示が鮮明で無彩色のVAモード液晶表示装置を得る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、上記方法では偏光板を作製した後に位相差フィルムを貼り合わせる工程が必要である。このため、製造工程が煩雑となり、生産性が低く、製造コストが高いという問題を有しており、その改良が求められていた。
【0004】
特許文献3では、ある特定の材料をセルロースアシレートに添加し延伸するだけで、フィルムの波長分散を逆分散とし、斜めから観察しても黒表示が無彩色となるVAモード液晶表示装置を得る方法が開示されている。この方法では、製造工程の煩雑さはなくなったものの、添加する材料の光学発現性がいまだ不十分であり、添加量が多く、また、十分な光学的異方性を発現することができないという問題があることがわかった。したがって、高い光学発現性を有する材料を用いて、少ない添加量で同様の逆分散フィルムを作製し、VAモード液晶表示装置を作製することが求められていた。
特許文献3では、シクロヘキシル環とベンゼン環をエステル結合によって連結した棒状化合物がレターデーション発現剤として用いられているが、ここで用いられている以外の公知の液晶性棒状化合物については、逆分散剤とともにセルロースフィルムに添加した際のレターデーション発現性に関する知見は知られていない。特許文献4では、ある種のセルロースエステルフィルムの透湿性改良添加剤としてシクロヘキシル環とベンゼン環をエステル結合によって連結した化合物を用いることができることが開示されているが、そのレターデーション発現性については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3027805号公報
【特許文献2】国際公開第2003/032060号パンフレット
【特許文献3】特開2007−256494号公報
【特許文献4】特開2007−249224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、効率よく安価に製造でき、斜めから観察しても黒表示が着色を起こさない、高い表示品位を可能とする光学フィルム、これを用いた偏光板および液晶表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物をセルロース化合物とともに含有する組成物を用いてフィルムを作製し、延伸するだけで、当該フィルムにおける波長分散を逆分散とすることが可能であることを見いだし、この知見に基づき本発明をなすに至った。本発明の目的は、下記手段により達成された。
【0008】
〔1〕セルロース化合物の少なくとも一種と、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種、および、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する分子吸収波長が、当該分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMxに由来する分子吸収波長より長波長であって、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|My|が分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|Mx|よりも大きい低分子化合物(A)の少なくとも一種を含有することを特徴とするセルロース組成物。
【0009】
【化1−1】

【0010】
(式中、L、L、L,およびLは、それぞれ独立に、単結合または−O−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、tは1または2の整数であり、m11,m12は0〜10の整数である。)
〔2〕前記低分子化合物(A)が、その骨格中に下記式(a)で表わされる構造を含む化合物であることを特徴とする〔1〕に記載のセルロース組成物。
【0011】
【化1−2】

【0012】
〔3〕前記式(a)で表わされる構造を含む低分子化合物(A)が、下記一般式(A−1)で表される化合物であることを特徴とする〔2〕に記載のセルロース組成物。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22は各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。ZおよびZは各々独立に二価の5員または6員の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。)
〔4〕前記一般式(A−1)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基であることを特徴とする〔3〕に記載のセルロース組成物。
〔5〕前記一般式(A−1)においてZ,Zがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、または1,4−フェニレン基であることを特徴とする〔3〕又は〔4〕に記載のセルロース組成物。
〔6〕前記一般式(A−1)においてm1およびm2がそれぞれ0または1であることを特徴とする〔3〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
〔7〕前記一般式(I)においてL、Lが各々独立に−OC(=O)−または−C(=O)O−であることを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
〔8〕前記一般式(I)においてL1、L2が各々単結合であり、Y、Yがそれぞれ独立に無置換のアルキル基であることを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
〔9〕前記一般式(I)で表される化合物及び低分子化合物(A)の少なくとも一方が100℃〜300℃の温度範囲のいずれかで液晶相であることを特徴とする〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
〔10〕前記セルロース化合物がセルロースエステルであることを特徴とする〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
〔11〕前記セルロースエステルがセルロースアシレートであり、そのアシル置換基が実質的にアセチル基のみからなり、その全置換度が2.00〜3.00であることを特徴とする〔10〕に記載のセルロース組成物。
〔12〕〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするセルロースフィルム。
〔13〕前記低分子化合物(A)がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、〔12〕に記載のセルロースフィルム。
〔14〕前記一般式(I)で表される化合物がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、〔12〕に記載のセルロースフィルム。
〔15〕〔12〕〜〔14〕のいずれか一項に記載のセルロースフィルムからなる光学フィルム。
〔16〕配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とする〔15〕に記載の光学フィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
〔17〕フィルムを延伸する延伸工程と収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする〔12〕〜〔16〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔18〕〔12〕〜〔16〕のいずれか一項に記載の光学フィルムからなる位相差板。
〔19〕〔18〕に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
〔20〕〔18〕に記載の位相差板または〔19〕に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
〔21〕VAモードであることを特徴とする〔20〕に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセルロース組成物における低分子化合物(A)及び一般式(I)で表わされる化合物は、これを併用してセルロースフィルムに含有させるとフィルムに逆波長分散性を付与することができる。したがって、当該化合物を含有する本発明の光学フィルムは逆波長分散性を有する。本発明による光学フイルム、それを用いた偏光板、さらにそれを搭載した液晶表示装置は黒表示を斜め方向から見たときの着色が小さい高い表示品位の画像を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
本発明のセルロース組成物(セルロース化合物溶液)は、セルロース化合物を必須成分として含有し、かつ、一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種、および、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する分子吸収波長が、当該分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMxに由来する分子吸収波長より長波長であって、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|My|が分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|Mx|よりも大きい低分子化合物(A)の少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【0018】
[一般式(I)で表される化合物]
以下に、一般式(I)で表される化合物について詳細に説明する。
一般式(I)で表される化合物は、液晶性化合物としては公知であり、例えば米国特許4,519,936号明細書、米国特許4,659,499号明細書、特開昭61−26898号公報、特開昭56−158739号公報などにその合成方法および液晶相転移温度、誘電異方性などについての記載がある。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、L、L、L,およびLは、それぞれ独立に、単結合または−O−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、tは1または2の整数であり、m11,m12は0〜10の整数である。)
【0021】
式(I)において、L、L、L,およびLで表わされる2価の連結基としては、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(=O)O−、−C(=O)NH−、−NHC(=O)−、−C(=O)N(CH)−、−N(CH)C(=O)−、−OC(=O)NH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)NH−、−C(=O)O(CHO−(pは1以上の整数)、−OCH−があげられる。
およびLは、好ましくは、単結合または、(*がベンゼン環に連結する方向として)、*−C(=O)O−、*−OC(=O)−、*−C(=O)NH−、*−NHC(=O)−、*−C(=O)N(CH)−、*−N(CH)C(=O)−、*−CHO−、*−OCH−であり、もっとも好ましくは*−C(=O)O−、*−OC(=O)−である。
およびLは、好ましくは、単結合または、(*がシクロヘキシル環に連結する方向として)*−O−、*−CHO−、*−C(=O)O−、*−OC(=O)−、*−NH−、*−NHC(=O)−、*−CH−NH−、*−CHNHC(=O)−であり、もっとも好ましくは単結合または、*−O−、*−C(=O)O−である。
【0022】
およびYは置換もしくは無置換のアルキル基であり、アルキル基は好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基があげられる。
およびYとして好ましくは、炭素原子数12以下の置換もしくは無置換のアルキル基であり、より好ましくは8以下の無置換のアルキル基であり、さらに好ましくは、8以下の無置換の直鎖のアルキル基である。
【0023】
Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、置換基の例としては以下のとおりである。
【0024】
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イル基)、
【0025】
アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、
【0026】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、
【0027】
シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0028】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、
【0029】
スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、
【0030】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、
【0031】
アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0032】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0033】
Ra,Rb,およびRcは好ましくは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アシル基であり、より好ましくは、炭素原子数4以下のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基であり、もっとも好ましくは、メチル基、メトキシ基、塩素原子、シアノ基である。
tは1または2の整数である。好ましくはtは1である。
m11,m12は0から10までの整数である。m11,m12は0から2までの整数であることが好ましく、0であることがもっとも好ましい。mは0から4までの整数であり、0から2までの整数であることが好ましい。
一般式(I)中の二つのシクロヘキサン環について、シクロヘキサン環はシス体およびトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においては限定されず、両者の混合物でも良い。液晶性の観点からは好ましくはトランス-シクロヘキサン環である。
【0034】
一般式(I)で表される化合物としては、下記の一般式(I−1)または一般式(I−2)で表される化合物が特に好ましい。
【0035】
【化4−1】

(式中、L、L、Y、Y、Rb、mは一般式(I)におけると同義であり、好ましい範囲も同様である。)
【0036】
【化4−2】

(式中、L、L、Y、Y、Rb、mは一般式(I)におけると同義であり、好ましい範囲も同様である。)
【0037】
<式(I)で表される化合物の具体例>
以下に、式(I)で表される化合物の具体例を示す。
以下の化合物において、n=1〜8の整数、好ましくは、2,3,4,5,6であり、k=1〜8の整数、好ましくは、2,3,4,5,6である。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8−1】

【0042】
【化8−2】

【0043】
【化9】

【0044】
<一般式(I)で表わされる化合物の合成>
本発明で用いる一般式(I)で表される化合物の合成は既知の方法で行うことができる。合成方法はたとえば、特開昭61−26898号公報、特開昭56−158739号公報に記載の方法を用いることができる。
【0045】
一般式(I)で表される化合物は、たとえば下記スキームにしたがって簡便に合成できる。
【0046】
【化10】

【0047】
例えば、Yがn-ブチル基、m=0の場合、4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸を塩化チオニルを用いて、酸クロライドを形成したのち、ハイドロキノン、ピリジンのTHF溶液中に滴下し、室温にて攪拌することで、目的の化合物を合成できる。一般式(I)において置換基や連結基の異なる他の化合物の合成については、上記方法に基づき、使用する化合物や行う反応を変えることで行えるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
<一般式(I)で表わされる化合物の含有量>
本発明における、一般式(I)で表される化合物の含有量は、セルロース化合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.25〜20質量部であることがより好ましく、0.25〜10質量部であることがさらに好ましく、0.25〜5質量部であることが最も好ましい。
【0049】
本発明において一般式(I)で表される化合物は、200以上270nm以下に吸収極大を有することが好ましく、さらに200以上250nm以下に吸収極大を有することが好ましい。200以上230nm以下に吸収極大を有することが最も好ましい。
【0050】
本発明の一般式(I)で表される化合物は液晶性を示すことが好ましい。加熱により液晶性を示す(サーモトロピック液晶性を有する)ことがさらに好ましい。式(I)で表される化合物(又は低分子化合物(A)の少なくとも一方)は100℃〜300℃の温度範囲で液晶性を示すことが好ましい。液晶相は、カラムナー相、ネマチィク相またはスメクティック相が好ましく、ネマチィク相であることがより好ましい。
【0051】
[低分子化合物(A)]
次に、本発明のセルロース組成物に含まれる前記低分子化合物(A)について説明する。
(分子長軸の決定)
本発明に用いる上記低分子化合物(A)における分子長軸は、コンピューターを用いた密度汎関数計算によって決定することが出来る。すなわち密度汎関数計算によって分子の最適化構造を得て、得られた分子構造中の任意の2原子間距離のうち、最も距離の長い2原子同士を結んだ軸を分子長軸とする。
上記における分子構造の構築にあたっては、GausView3.0(商品名、Gaussain Inc.社製)を用いる。分子構造の最適化に用いるプログラムとしては、Gaussian03 Rev.D.02(商品名、Gaussain Inc.社製)を用い、基底関数としてB3LYP/6−31G(d)を用い、収束条件はデフォルト値を用いる。
【0052】
(遷移電気双極子モーメントおよびこれらの大きさ、遷移電気双極子モーメントに由来する吸収波長の算出)
上記遷移電気双極子モーメントMx、My、およびこれらの大きさ|Mx|、|My|、さらにはMx、Myに由来する吸収波長は時間依存密度汎関数計算によって求めることが出来る。時間依存密度汎関数計算に用いるプログラムとしては、Gaussian03 Rev.D.02(商品名、Gaussain Inc.社製)、基底関数としてB3LYP/6−31+G(d)を用い、さらにPCM法により溶媒効果を導入する。
さらに具体的には上記計算によって求めた遷移電気双極子モーメントを構成するベクトルと前記分子長軸を構成する両端の原子のカルテシアン座標で表されるベクトルとの内積から遷移電気双極子モーメントと上記分子長軸とのなす角度を求め、これらを基に前記Mx、Myおよび|Mx|、|My|、MxおよびMyに由来する分子吸収波長を決定する。
【0053】
なお本発明において「分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメント」という場合、分子長軸方向と厳密に90°の角度をなす遷移電気双極子モーメントを指すわけではなく、分子長軸方向と略平行方向と70°〜110°の角度をなす全ての遷移電気双極子モーメントのうち最も大きい遷移電気双極子モーメントを指すものである。
【0054】
既に述べたように本発明のセルロース組成物に用いる低分子化合物(A)の特徴の一つは、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する分子吸収波長が、当該分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMxに由来する分子吸収波長より長波長であることである。
ここで分子長軸方向に略直交する遷移電気双極子モーメントMxに由来する吸収波長は、分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する吸収波長より10nm以上200nm以下長波長であることが好ましく、10nm以上150nm以下長波長あることがより好ましく、20nm以上120nm以下長波長であることがさらに好ましい。
上記長軸方向に略直交する遷移電気双極子モーメントMyに由来する吸収波長は、250nm以上400nm以下の範囲であることが好ましく、300nm以上390nm以下の範囲であることがより好ましく、320nm以上380nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0055】
また本発明のセルロース組成物に用いる低分子化合物(A)の他の特徴は、上記分子長軸方向と略直交する遷移電気双極子モーメントの大きさ|My|が分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|Mx|より大きいことである。即ち、両者の比(|My|/|Mx|)は1以上であることが好ましく、1以上50以下であることがより好ましく、1.1以上30以下であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明のセルロース組成物に用いる低分子化合物(A)は低分子化合物である。ここで低分子化合物とは、分子量1500以下の化合物であり、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましい。
上記の範囲の分子量より大きな分子量を有する化合物はブリードアウトが発生しやすく好ましくない。
【0057】
<低分子化合物(A)の含有量>
本発明における、低分子化合物(A)の含有量は、セルロース化合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.2〜20質量部であることがより好ましく、0.2〜10質量部であることがさらに好ましく、0.25〜5質量部であることが最も好ましい。
【0058】
低分子化合物(A)は、(又は、一般式(I)で表される化合物の少なくとも一方は)100℃〜300℃の温度範囲で液晶相を発現することが好ましい。より好ましくは120℃〜200℃である。液晶相は、カラムナー相、ネマチィク相またはスメクティック相が好ましく、ネマチィク相またはスメクティック相がより好ましい。
【0059】
[低分子化合物(一般式(A−1)で表される化合物)]
本発明においては、前記低分子化合物(A)が、その骨格中に下記式(a)で表わされる構造を含む化合物であることが好ましい。
【0060】
【化11】

【0061】
さらには、前記式(a)で表わされる構造を含む化合物が、下記一般式(A−1)で表される化合物であることが好ましい。
以下、一般式(A−1)で表わされる化合物について説明する。
【0062】
【化12】

【0063】
<R1
一般式(A−1)において、R1は置換基であり、複数存在する場合は同じでも異なっていてもよく、環を形成しても良い。置換基の例としては一般式(I)のRa、Rb、Rcについてあげたものが適用できる。
【0064】
以上のうち、R1は好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、炭素原子数1から8のアルキル基、シアノ基、炭素原子数1から8のアルコキシ基であり、さらに好ましくは塩素原子、メチル基、t−ブチル基、シアノ基、メトキシ基であり、もっとも好ましくは、メチル基またはt−ブチル基である。
nは0〜2の整数を表し、好ましくは0又は1である。
【0065】
<R4、R5
4、R5は各々独立に置換基を表す。例としては一般式(I)のRa、Rb、Rcについてあげたものがあげられる。好ましくは、ハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基である。σp値として好ましくは0以上であり、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.35以上であり、もっとも好ましくは0.35〜1.5である。
【0066】
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσ値とσ値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(McGraw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページ、稲本直樹著「ハメット則−構造と反応性−」(丸善)、日本化学会編「新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応V」2605頁(丸善)、仲谷忠雄著「理論有機化学解説」217頁(東京化学同人)などに詳しい。
【0067】
ハメットの置換基定数σp値が0以上の置換基としては、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルバモイル基、等が挙げられる。
これらのうち好ましくは、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(−COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(−COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(−COOPh:0.44)、カルバモイル基(−CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(−COMe:0.50)、アリールカルボニル基(−COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(−SO2Me:0.72)、またはアリールスルホニル基(−SO2Ph:0.68)などが挙げられる。Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσ値をChem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページから抜粋したものである。
【0068】
及びRのうち少なくとも1つはハメットの置換基定数σp値が0以上の置換基を表すが、より好ましくはいずれか一方がそれぞれこの置換基であることが好ましい。特に好ましくはR及びRがいずれもこの置換基の場合である。
【0069】
及びRのうち少なくとも1つとして、好ましくは、シアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基であり、より好ましくは、シアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基である。さらに好ましくは、炭素原子数10以下のシアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基であり、最も好ましくはシアノ基である。
さらに、好ましくは、R及びRの両方が、シアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホニル基のいずれかであり、より好ましくは、R及びRの両方が、シアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基のいずれかである。
【0070】
及びRとは互いに結合して環を形成しても良い。形成する環としては、飽和および不飽和の炭化水素環およびヘテロ環のいずれであってもよい。R及びRが結合した炭素原子を含んでなる環として、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、オキサゾリン環、チアゾリン環、ピロリン環、ピラゾリジン環、ピラゾリン環、イミダゾリジン環、イミダゾリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピラン環などが挙げられる。これらは任意の位置に置換基を有していても良い。
【0071】
−L11−(Z−L21)m1−R21、および−L12−(Z−L22)m2−R22で表される基について説明する。
【0072】
<L11、L12、L21、L22
11、L12、L21、L22はそれぞれ独立に単結合、または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−及びそれらの(2個以上連結して形成される)組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。
前記2個以上連結して形成される2価の連結基としては、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(=O)O−、−C(=O)NH−、−NHC(=O)−、−OC(=O)NH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)NH−、−O−CH−があげられる。
11およびL12として好ましくは単結合、−O−*、−C(=O)−O−*、−O−C(=O)−*、−O−CO−O−*、−OCH−*であり、より好ましくは−O−*、−O−C(=O)−*、−O−CO−O−*、−OCH−*である。(*はZに連結する方向を表す。)
21、L22、として好ましくは単結合、*−O−、*−C(=O)−、*−C(=O)−O−、*−O−C(=O)−、*−O−CO−O−、*OCH−、*−CHO−、より好ましくは単結合、*−O−、*−C(=O)−、*−C(=O)−O−、*−O−C(=O)−である。(*はZに連結する方向を表す。)
【0073】
<ZおよびZ
およびZは各々独立に二価の5員または6員の環状連結基を表し、当該二価の環状連結基に含まれる環としては、芳香族環、脂肪族環、ヘテロ環ともに用いることができ、単環でも縮環でもよく、また、置換基を有していてもよい。
【0074】
芳香族環の例としては、炭素原子数6〜30のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環およびフェナントレン環があげられる。ベンゼン環を有する環状基としては、1,4−フェニレン基および1,3−フェニレン基が好ましく、ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−1,6−ジイル基、ナフタレン−2,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基およびナフタレン−2,7−ジイル基が好ましい。
これらのうち、芳香族環からなる二価の環状連結基として特に好ましくは、無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基であり、無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基がもっとも好ましい。
【0075】
脂肪族環の例としては炭素原子数3〜20のシクロペンチル環、シクロヘキサン環があげられる。シクロヘキサン環を有する環状基としては1,4−シクロへキシレン基が好ましい。シクロヘキサン環にはシス体およびトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においては限定されず、両者の混合物でも良い。好ましくはトランス-シクロヘキサン環である。したがって脂肪族環からなる二価の環状連結基として好ましくはトランス-1,4−シクロへキシレン基である。
【0076】
ヘテロ環連結基の例としては、5または6員の置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族へテロ環連結基があげられる。ヘテロ環連結基に含まれるヘテロ原子としては、N、O、S、Bがあげられるがこれに限定されるものではない。また、二つ以上のヘテロ原子を含むことも好ましい。単環でも縮環でもよく、また、置換基を有していてもよい。ヘテロ環連結基としては、例えば、ピリジン環連結基、ピペリジン環連結基、ピペラジン環連結基、ピラジン環連結基、フラン環連結基、ジオキサン環連結基、ベンズイミダゾール環連結基、イミダゾール環連結基、チオフェン環連結基、ピロール環連結基、等が挙げられる。
【0077】
<R21、R22
21およびR22は水素原子または、置換もしくは無置換のアルキル基であり、アルキル基の例としては先の一般式(I)のRa、Rb、Rcについて示したとおりである。
21およびR22として好ましくは、炭素原子数20以下の置換もしくは無置換のアルキル基であり、より好ましくは、14以下の無置換のアルキル基である。
【0078】
m1およびm2は0ないし2の整数を表し、好ましくはm1およびm2は0または1である。
m1が2の場合、複数存在するL21およびZは同一であっても異なっていてもよい。また同様に、m2が2の場合、複数存在するL22およびZ2は同一であっても異なっていてもよい。また、−L11−(Z−L21)m1−R21で表される基と、および−L12−(Z−L22)m2−R22で表される基は、同一であっても異なっていてもよい。合成の観点からは同じであることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0079】
以上詳しく述べた、−L11−(Z−L21)m1−R21および−L12−(Z−L22)m2−R22で表される基として、好ましい構造を下記一般式(L1)に、特に好ましい構造を下記一般式(L2)に示した。−L12−(Z−L22)m2−R22については、L22をL21に、R22をR21、ZをZに、L12をL11に置き換えたものとして示す。これらの基はそれぞれ同義である。
【0080】
<−L11−(Z−L21)m1−R21 等の好ましい構造例>
【化13】

【0081】
<−L11−(Z−L21)m1−R21 等の特に好ましい構造例>
【化14】

【0082】
<一般式(A−1)で表わされる化合物の最も好ましい例>
本発明の一般式(A−1)で表される化合物のもっとも好ましい例としては、
nは0または1であり、nは1のときのR1は塩素原子、メチル基、t-ブチル基、メトキシ基であり、
、Rはそれぞれ独立に炭素原子数10以下のシアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基であり、
11およびL12は単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−であり、より好ましくは−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−である。
21、L22は単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−、−CHO−であり、より好ましくは、単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−である。
、Zは無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基、1,4−シクロへキシレン基であり、
21およびR22はそれぞれ独立に無置換のアルキル基であり、
m1およびm2はそれぞれ独立に0ないし2である。
【0083】
本発明における一般式(A−1)で表される化合物の分子量としては、好ましくは、100〜3000であり、より好ましくは200〜2000であり、最も好ましくは、300〜1500である。
【0084】
<一般式(A−1)で表わされる化合物の具体例>
以下に、一般式(A−1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。下記化合物に関しては、指定のない限り括弧( )内の数字にて例示化合物(X)と示す。下記一般式において、nは1〜8の整数であり、好ましくは、n=2,3,4,5,6である。すなわち、(1−nは、炭素数を表すnによって、1−1,1−2,1−3,1−4,1−5,1−6,1−7,1−8の8種類の化合物を示す。)また、同様に、mは1〜14の整数であり、好ましくは、m=4〜14の整数である。
【0085】
【化15】

【0086】
【化16】

【0087】
【化17】

【0088】
【化18】

【0089】
【化19】

【0090】
【化20】

【0091】
【化21】

【0092】
【化22】

【0093】
【化23】

【0094】
【化24】

【0095】
下記具体例は、R21,R22が水素原子である化合物の例である。
【0096】
【化25】

【0097】
下記具体例は、m1及びm2が0である化合物の例である。
【0098】
【化26】

【0099】
【化27】

【0100】
【化28】

【0101】
一般式(A−1)で表される化合物の合成は既知の方法で行うことができ、特開2008−107767号公報の段落〔0066〕〜〔0067〕、〔0136〕〜〔0176〕に記載の方法を用いることができる。また、中間体の合成については、J. Org. Chem., 29, 660-665 (1964)、 J. Org. Chem., 69, 2164-2177 (2004)、 Justus Liebigs Annalen der Chemie, 726, 103-109 (1969)、 Journal of Chemical Crystallography (1997);27(9);515-526 に記載の方法を用いることができる。例えば、下記化合物は、下記スキームに従って合成することができる。
【0102】
【化29】

【0103】
化合物S−1から化合物S−4までの合成はJournal of Chemical Crystallography (1997);27(9);515-526.に記載の方法で行うことができる。
さらに、前記スキームに示したように、化合物(S−5)のトルエン溶液にN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、塩化チオニルを加えて加熱攪拌することによって酸クロライドを生成させたのち、この酸クロライドを、化合物(S−4)のテトラヒドロフラン溶液に滴下し、その後、ピリジンを加えて攪拌することで、一般式(A−1)で表される化合物(S−6)を得ることができる。
【0104】
なお、一般式(A−1)において置換基や連結基の異なる他の化合物の合成については、上記方法に基づき、使用する化合物や行う反応を変えることで行えるが、本発明はこの合成法に限定されるものではない。
【0105】
[本発明のセルロース組成物]
本発明のセルロース組成物は、一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種と、低分子化合物(A)を少なくとも1種と、セルロース化合物とを含む組成物である。一般式(I)で表される化合物および低分子化合物(A)はそれぞれ二種類以上含んでいてもかまわない。なお、当該セルロース化合物については後に詳述する。
【0106】
<低分子化合物(A)と一般式(I)で表わされる化合物の併用の効果>
低分子化合物(A)は、光学フィルム用のレターデーション制御剤(特に、レターデーション上昇および波長分散制御剤)としての役割を果たす。特に延伸によるRe発現性および波長分散に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。一般式(I)で表される化合物は、光学フィルム用のレターデーション制御剤(特に、レターデーション上昇剤)としての役割を果たす。特に延伸によるRe発現性に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。
【0107】
本発明のセルロース組成物を用いて光学フィルムを作製したところ、低分子化合物(A)単独、一般式(I)で表される化合物単独でのRe発現性および波長分散性と比較し、これらを併用して用いることで、相乗効果をもっていることがわかった。これは、低分子化合物(A)が高い液晶性を有することにより、低分子化合物(A)と一般式(I)で表される化合物を併用してセルロースフィルムを作成した際に、これらの化合物がそれぞれフィルム中において高い配向度で配向し、高い光学発現性を有するものと考えられる。
このような効果によって、セルロース組成物中、本発明で用いる低分子化合物(低分子化合物(A)、一般式(I)で表される化合物)は従来用いられてきたレターデーション制御剤に比べて添加量を低減させて用いることが可能となった。通常は、その効果を奏させるため、低分子化合物の添加量を多くすると、ドープ液の白濁や添加剤の析出によるフィルムの白化(ブリードアウト)が問題となるが、本発明の化合物を併用して用いることにより、少量で相乗効果を奏するので、低分子化合物の添加量をそれぞれ低減させることができ、このような問題も起こりにくく大変好ましい。
【0108】
<光学フィルムのΔn>
以下、光学フィルムのΔnについて説明する。
Δnは配向方向(以下TD方向と示す。)の屈折率から配向方向と直交する方向(以下MD方向と示す。)の屈折率を差し引いた値であるため、TD方向の屈折率の波長分散性よりも、MD方向の波長分散性が、より右肩下がり(左を短波長側、右を長波長側とおいたときのΔnの傾き)であれば、その差し引いた値は、
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
を満足する。屈折率の波長分散性は、Lorentz−Lorenzの式で表されているように、物質の吸収に密接な関係にあるため、MD方向の波長分散性をより右肩下がりにするためには、TD方向に比較してMD方向の吸収遷移波長をより長波化できれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。例えば延伸処理を行ったポリマー材料では、MD方向は分子の鎖に直交方向である。そのような高分子幅方向の吸収遷移波長を長波化することは高分子材料としては非常に困難である。
【0109】
本発明においては、高分子材料に対して、低分子化合物(A)と一般式(I)で表される低分子化合物を併用して添加し配向することで、低分子化合物の吸収遷移波長が高分子幅方向(MD方向)に長波であれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。
低分子化合物の屈折率の大きさがMD方向に比べてTD方向に大きければ、フィルムとしてTD方向に対して複屈折Δn(550nm)が正であることに問題がないが、逆に低分子化合物の屈折率の大きさがTD方向に比べてMD方向に大きくても高分子材料の屈折率がTD方向に大きく、フィルムとして複屈折Δn(550nm)が正であれば問題ない。
すなわち、本発明の低分子化合物(A)を少なくとも一種、一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有するセルロースフィルムは、配向処理されたのち、配向方向に対して屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ、上記数式(1)、(2)を満たすことが特に好ましい。
【0110】
Δnについては、例えば液晶便覧(2000年、丸善株式会社)201頁に詳細な説明がある。このΔnは一般的には温度依存性を示す。本発明においてΔnの測定温度は任意であるが、好ましくはフィルム状態でのΔnは−20℃から120℃の範囲の一定の温度で行われる。
【0111】
[セルロース組成物]
本発明のセルロース組成物により、当該セルロース化合物のフィルムが製造される。
本発明において、「セルロース化合物」とは、例えば、セルロースを基本構造とする化合物であって、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する化合物を含むものをいう。本発明においては異なる2種類以上のセルロース化合物を混合して用いてもよい。
セルロース化合物として好ましいものはセルロースエステルであり、より好ましくはセルロースアシレート(セルローストリアシレート、セルロースアシレートプロピオネート等が挙げられる。)である。以下、セルロース化合物としてセルロースアシレートを例にして、本発明の好ましい態様を説明する。
【0112】
<セルロースアシレート原料綿>
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤・宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7〜8頁)に記載されており、本発明に対しては特に限定されるものではない。
【0113】
本発明におけるセルロースアシレートのアシル基は、特に制限はないが、アセチル基、プロピオニル基またはブチリル基またはベンゾイル基であることが好ましい。全アシル基の置換度は2.0〜3.0が好ましく、2.2〜2.95がさらに好ましい。アシル基は、アセチル基であることが最も好ましく、アシル基がアセチル基であるセルロースアセテートを用いる場合には、アシル化度(アシル基の全置換度)が2.00〜2.98であることが好ましく、2.7〜2.97がさらに好ましい。
【0114】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を、アシル基によってエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0115】
<セルロースアシレートの重合度>
本発明におけるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400がさらに好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度を700以下とすることにより、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり過ぎず、流延によるフィルム製造が容易になる傾向にある。また、重合度を180以上とすることにより、作製したフィルムの強度がより向上する傾向にあり好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫・斉藤秀夫著、「繊維学会誌」、第18巻、第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。具体的には、特開平9−95538号公報に記載の方法に従って測定することができる。
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.6であることがさらに好ましい。
また、本発明におけるセルロースアシレートの原料綿や合成方法としては、例えば、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、7頁〜12頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載のものを好ましく採用できる。
【0116】
<セルロース組成物への添加剤>
本発明のセルロース組成物(以下、セルロースアシレート溶液もしくはドープともいう)には、上記低分子化合物(A)及び一般式(I)で表される化合物のほか、種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、剥離促進剤、染料、マット剤微粒子、赤外線吸収剤など光学特性調整剤等)を加えることができる。また、低分子化合物(A)及び一般式(I)で表される化合物および他の添加剤の添加時期は、ドープ作製工程の何れにおいて添加してもよく、また、ドープ調製工程の最後に調製工程としてこれらの添加剤を添加してもよい。
【0117】
これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば、20℃未満の紫外線吸収剤と20℃以上の紫外線吸収剤を混合して用いたり、同様に可塑剤を混合して用いたりすることができる。具体的には、特開2001−151901号公報に記載の方法を採用できる。
【0118】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、目的に応じ任意の種類のものを選択することができ、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の吸収剤を用いることができ、好ましくはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系である。
【0119】
紫外線吸収剤は、吸収波長の異なる複数の吸収剤を複合して用いることが、広い波長範囲で高い遮断効果を得ることができるので好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。特に好ましい紫外線吸収剤は、上述のベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不用な着色が少ないことから、好ましい。
【0120】
また、紫外線吸収剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載の化合物も用いることができる。
【0121】
紫外線吸収剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。添加量が0.001質量%以上であれば添加効果が十分に発揮されうるので好ましく、添加量が5質量%以下であればフィルム表面への紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できるので好ましい。
【0122】
(劣化防止剤)
劣化防止剤は、セルローストリアセテート等が劣化、分解するのを防止するために添加してもよい。劣化防止剤としては、ブチルアミン、ヒンダードアミン化合物(特開平8−325537号公報)、グアニジン化合物(特開平5−271471号公報)、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤(特開平6−235819号公報)、ベンゾフェノン系UV吸収剤(特開平6−118233号公報)などの化合物を用いることができる。
【0123】
(可塑剤)
可塑剤としては、リン酸エステル、カルボン酸エステル、多価アルコールの脂肪酸エステル類、ポリエステル類、および/または、単糖あるいは2〜10個の単糖単位を含む炭水化物の誘導体(以下、炭水化物系可塑剤という)であることが好ましい。リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が好ましい。また、カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が好ましい。
また、多価アルコールの脂肪酸エステル類としては、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、グリセロールエステル類、ジグリセロールエステル類であることが好ましい。
炭水化物系可塑剤としては、キシローステトラアセテート、グルコースペンタアセテート、フルクトースペンタアセテート、マンノースペンタアセテート、ガラクトースペンタアセテート、マルトースオクタアセテート、セロビオースオクタアセテート、スクロースオクタアセテート、キシリトールペンタアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、キシローステトラプロピオネート、グルコースペンタプロピオネート、フルクトースペンタプロピオネート、マンノースペンタプロピオネート、ガラクトースペンタプロピオネート、マルトースオクタプロピオネート、セロビオースオクタプロピオネート、スクロースオクタプロピオネート、キシリトールペンタプロピオネート、ソルビトールヘキサプロピオネートなどが好ましい。
【0124】
(剥離促進剤)
剥離促進剤としては、クエン酸のエチルエステル類が好ましい例として挙げられる。
(赤外吸収剤)
赤外吸収剤としては、例えば特開2001−194522号公報に記載のものが好ましい。
【0125】
(染料)
本発明では、色相調整のための染料を添加してもよい。染料の含有量は、セルロースアシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmがさらに好ましい。特開平5−34858号公報に記載の染料を用いることができる。
【0126】
(マット剤微粒子)
セルロースアシレート溶液にマット剤として微粒子を加え、本発明のセルロースアシレートフィルムに含有させてもよい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、ケイ素を含むものが濁度が低くなる点でより好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットルが好ましく、100〜200g/リットルがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0127】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0128】
(化合物添加の比率)
本発明のセルロースアシレート溶液から形成されるフィルムにおいては、分子量が3000以下の化合物の総量は、セルロースアシレート質量に対して5〜45質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、剥離促進剤、染料、マット剤微粒子、赤外吸収剤など光学特性調整剤である。さらに、分子量が2000以下の化合物の総量が上記範囲内であることがより好ましい。これら化合物の総量を5質量%以上とすることにより、セルロースアシレート単体の性質が出にくくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しにくくなる。またこれら化合物の総量を45質量%以下とすることにより、セルロースアシレートフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、フィルム表面に析出してフィルムの白濁(ブリードアウト)が抑止される傾向にあり好ましい。
【0129】
<セルロースアシレート溶液の有機溶媒>
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いて製造されることが好ましい。主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0130】
以上、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としてもよいし、例えば公開技法(公開技報2001−1745、12頁〜16頁、2001年発行、発明協会)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としてもよい。
【0131】
その他、本発明のセルロースアシレート溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許文献に開示されているものを、好ましい態様としてあげることができる。特開2000−95876号、特開平12−95877号、特開平10−324774号、特開平8−152514号、特開平10−330538号、特開平9−95538号、特開平9−95557号、特開平10−235664号、特開平12−63534号、特開平11−21379号、特開平10−182853号、特開平10−278056号、特開平10−279702号、特開平10−323853号、特開平10−237186号、特開平11−60807号、特開平11−152342号、特開平11−292988号、特開平11−60752号、特開平11−60752号の各公報。
これらの特許文献によると本発明において好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、それらも、本発明においても好ましい態様である。
【0132】
[光学フィルム]
次に、上記セルロースアシレート溶液を用いたフィルム(以下、本発明のセルロースアシレートフィルムという。)の製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来周知のセルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を広く採用することができる。
<セルロースアシレートフィルムの製造工程>
(溶解工程)
セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法または高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、さらには溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、22頁〜25頁、2001年3月15日発行、発明協会)にて詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0133】
本発明におけるセルロースアシレート溶液のドープ透明度としては85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。本発明においてはセルロースアシレートドープ溶液に各種の添加剤が十分に溶解していることを確認した。具体的なドープ透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計(UV−3150、商品名、島津製作所社製)で550nmの吸光度を測定する。溶媒のみをあらかじめブランクとして測定しておき、ブランクの吸光度との比からセルロースアシレート溶液の透明度を算出する。
【0134】
(流延、乾燥、巻き取り工程)
溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延し、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。本発明のセルロースアシレートフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等の塗布層を、フィルムの表面へ塗布形成(塗布加工)するために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、25頁〜30頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0135】
<レターデーション値の調整>
(延伸処理)
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーション値を調整することが好ましい。特に、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値を高い値とする場合には、積極的に幅方向に延伸する方法、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている、製造したフィルムを延伸する方法を用いることができる。
【0136】
フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施する。延伸は(フィルムのガラス転移点)以上(フィルムのガラス転移点以上+40℃)以下の温度で行うことが好ましい。乾膜の場合、130℃以上200℃以下が好ましい。また、流延後にドープ溶剤が残存した状態で延伸を行う場合、乾膜よりも低い温度で延伸が可能となり、この場合、100℃以上170℃以下が好ましい。
フィルムの延伸は、縦又は横だけの一軸延伸でもよく、同時又は逐次2軸延伸でもよい。フィルムは、1〜200%の延伸を行うことが好ましく、1〜100%の延伸を行うことがより好ましく、1〜50%の延伸を行うことがさらに好ましい。
【0137】
乾燥後得られる、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なり、5〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることがさらに好ましい。また、光学用、特にVA液晶表示装置用としては、40〜110μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0138】
<セルロースアシレートフィルムの光学特性>
[フィルムのレターデーション]
(Re、Rthの測定)
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(商品名、王子計測機器社製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(21)及び式(22)よりRthを算出することもできる。
【0139】
【数1】

【0140】
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは層の厚み(nm)である。
【0141】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0142】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出することができる。
【0143】
Re(λ)値、Rth(λ)値は、それぞれ、以下の数式(5)、(6)を満たすことが、液晶表示装置、特にVAモード、OCBモード液晶表示装置の視野角を広くするために好ましい。また特にセルロースアシレートフィルムが、偏光板の液晶セル側の保護膜に用いられる場合に好ましい。
数式(5):0nm≦Re(590)≦200nm
数式(6):0nm≦Rth(590)≦400nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、波長λ=590nmにおける値(単位:nm)である。)
さらに好ましくは、以下の数式(5−1)、(6−1)を満たすことである。
数式(5−1):30nm≦Re(590)≦150nm
数式(6−1):30nm≦Rth(590)≦300nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、式(5)、(6)におけると同義である。)
【0144】
本発明のセルロースアシレートフィルムをVAモード、OCBモードに使用する場合、セルの両側に1枚ずつ合計2枚使用する形態(2枚型)と、セルの上下のいずれか一方の側にのみ使用する形態(1枚型)の2通りがある。
2枚型の場合、Re(590)は20〜100nmが好ましく、30〜70nmがさらに好ましい。Rth(590)については70〜300nmが好ましく、100〜200nmがさらに好ましい。
1枚型の場合、Re(590)は30〜150nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。Rth(590)については100〜300nmが好ましく、150〜250nmがさらに好ましい。
【0145】
<フィルムの透湿度>
本発明の位相差板(光学補償シート)に用いるセルロースアシレートフィルムの透湿度は、JIS規格JIS Z 0208をもとに、温度60℃、湿度95%RH(相対湿度)の条件において測定し、膜厚80μmに換算して400〜2000g/m2・24hであることが好ましい。500〜1800g/m2・24hであることがより好ましく、600〜1600g/m2・24hであることが特に好ましい。
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4,共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明のセルロースアシレートフィルム試料70mmφを25℃、90%RH及び60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、商品名、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後質量−調湿前質量で求める。
【0146】
<フィルムの残留溶剤量>
本発明では、セルロースアシレートフィルムに対する残留溶剤量が、0.01〜1.5質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは0.01〜1.0質量%である。本発明のセルロースアシレートフィルムを支持体に用いる場合、残留溶剤量を該範囲内とすることでカールをより抑制できる。これは、前述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量が少なくすることで自由体積が小さくなることが主要な効果要因になるためと思われる。
【0147】
[フィルムの吸湿膨張係数]
本発明のセルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は30×10-5/%RH以下とすることが好ましく、15×10-5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10-5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、下限値は特に定めるものではなく、吸湿膨張係数は小さい方が好ましい傾向にあるが、より好ましくは、1.0×10-5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルム支持体として用いた際、光学補償フィルムの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0148】
<表面処理>
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torr(0.133Pa〜2.67kPa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、30頁〜32頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0149】
<機能層>
本発明のセルロースフィルムは、その用途として光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)が好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明のセルロースフィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明のセルロースフィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、32頁〜45頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0150】
[偏光板]
本発明のセルロースフィルムの用途について説明する。
偏光板は、一般的に、偏光膜及びその表面を保護する保護膜で構成されているが、本発明のセルロースフィルムは特に偏光板の保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板自体の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製(準備)することができる。例えば得られたセルロースフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は、上記したように、偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に当該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースフィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが特に好ましい。
【0151】
[光学補償フィルム(位相差板)]
光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどと同義である。本発明のセルロースフィルムは、様々な用途で用いることができるが、液晶表示装置の当該光学補償フィルムとして用いると特に効果がある。当該光学補償フィルムは、複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられるものである。
【0152】
[液晶表示装置]
<一般的な液晶表示装置の構成>
本発明のセルロースフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光膜の透過軸と、セルロースフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、および該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0153】
<液晶表示装置の種類>
本発明のセルロースフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。具体的には、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、VA、ECB、およびHAN等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。また、本発明のセルロースフィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても好ましく用いることができる。
【0154】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であってもよい。
【0155】
<ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム>
本発明のセルロースフィルムは、また、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムに好ましく用いることができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、54頁〜57頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明のセルロースフィルムを好ましく用いることができる。
【0156】
<写真フィルム支持体>
さらに、本発明のセルロースフィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としても適用できる。具体的には、特開2000−105445号公報にカラーネガティブに関する記載に従って、本発明のセルロースフィルムが好ましく用いられる。またカラー反転ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としての適用も好ましく、特開平11−282119号公報に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法に従って、作製することができる。
【0157】
<透明基板>
本発明のセルロースフィルムは、光学的異方性がゼロに近く、優れた透明性を持たせることもできることから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることができる。
液晶を封入する透明基板はガスバリアー性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明のセルロースフィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面にSiO2等を蒸着したり、塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対
的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設ける方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
また液晶を封入する透明基板として用いるには、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15質量%含む酸化インジウムの薄膜(ITO)が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079号公報や特開2000−227603号公報に記載の方法を用いることができる。
【0158】
本発明のセルロースフィルムのRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲に制御するためには、使用する低分子化合物(A)及び一般式(I)で表される化合物(レターデーション制御剤)の種類および添加量、ならびにフィルムの延伸倍率を適宜調整することが好ましい。特に、本発明では、低分子化合物(A)及び一般式(I)で表される化合物の中から、所望のRth値を達成し得るレターデーション制御剤を選択し、かつ、所望のRe値が得られるように、該レターデーション制御剤の添加量およびフィルムの延伸倍率を適宜設定することにより、所望のRe値およびRth値を有するセルロースフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0159】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0160】
[合成例1]一般式(A−1)で表される化合物の合成
[合成例1−1]
[例示化合物(1−4)(式(1−n)において、n=4の化合物)の合成]
下記スキームに従い合成した。なお、合成したすべての化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
【0161】
【化30】

【0162】
(1-a)から(1-d)の合成は、J. Org. Chem., 29, 660-665 (1964)、 Justus Liebigs Annalen der Chemie, 726, 103-109 (1969) に記載の方法を参考に行うことができる。
(化合物(1−d)の合成)
85%含率の水酸化カリウム66.01g(1モル)をイソプロピルアルコール200mlおよび水250mlに溶解した。氷冷攪拌下、マロノニトリル33.0g(0.5モル)をイソプロピルアルコール35mlに溶解した溶液を添加した。続いて二硫化炭素38.1g(0.5モル)を滴下した。氷冷下で1時間攪拌を行った後、酢酸8.6mlを添加して反応液のpHを6.0に調整した。この反応液を氷冷下で攪拌しながら、1,4-ベンゾキノン108.1g(1モル)を酢酸57.1ml(1モル)およびアセトン450mlに溶解した溶液を内温を10℃以下に保ちながら1時間かけて滴下した。同温度で40分攪拌した後、水1800mlを添加した。析出した結晶をろ過し、水で洗浄して化合物(1−d)を117.9g得た(収率95.0%)。
1H NMR(DMSO-d)δ(ppm)6.80(s,2H),10.51(s,2H)
【0163】
(例示化合物(1−4)の合成)
トランス−4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸(1-e)10.3g(0.056モル)、トルエン50ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液を60℃に加熱した。この溶液に、塩化チオニル4.72ml(0.065モル)を滴下した。60℃で1時間攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドをテトラヒドロフラン25mlに溶解した溶液を、化合物(1−d)の6.2g(0.025モル)のテトラヒドロフラン50ml、ピリジン6.37ml(0.079モル)の混合溶液に氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で2時間攪拌したのちに、メタノール150mlを加えた。析出した結晶をろ過することにより、例示化合物(1−4)を白色固体として13.4g得た(収率93.0%)。融点152℃。
H−NMR(CDCl、δ)0.82〜0.91(m,6H),0.92〜1.10(m,4H),1.17〜1.40(m,18H),1.48〜1.64(m,4H),1.90(d,4H),2.12(d,4H),2.48〜2.60(m,2H),7.25(s,2H)
【0164】
[合成例1−2][例示化合物(1−2)(1−3)(1−5)の合成]
【化31】

(式(1−n)において、(1−2)は、n=2、(1−3)は、n=3、(1−5)は、n=5に対応する。)
【0165】
(例示化合物(1−5)の合成)
トランス−4−ペンチルシクロヘキサンカルボン酸(1-e)8.72g(0.044モル)、トルエン30ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液を60℃に加熱した。この溶液に、塩化チオニル3.53ml(0.0484モル)を滴下した。60℃で1時間攪拌したのち、室温まで冷却した。この酸クロライド溶液を、化合物(1−d)の4.97g(0.020モル)のテトラヒドロフラン30ml、トリエチルアミン8.37ml(0.06モル)の混合溶液に氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で2時間攪拌したのちに、メタノール20ml、次いで水20ml、次いでメタノール50mlを加えた。析出した結晶をろ取し、メタノールでかけ洗いすることにより、例示化合物(1−5)を白色固体として11.5g得た(収率94.0%)。
融点150℃
(例示化合物(1−2)、(1−3)の合成)
上記例示化合物(1−5)の合成におけるトランス−4−ペンチルシクロヘキシルカルボン酸を、トランス−4−エチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸、と変更したこと以外は同様にして、例示化合物(1−2)、(1−3)を合成した。
融点;(1−2)151℃、(1−3)174℃
【0166】
[合成例1−3][例示化合物(15−4)(式(15−n)において、n=4の化合物)の合成]
合成例1−1におけるベンゾキノンをメチルベンゾキノンと変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物(15−4)を合成した。
融点;(15−4)189℃
【0167】
[合成例1−4][例示化合物(2−4)(式(2−n)において、n=4の化合物)の合成]
下記スキームに従い合成した。
【0168】
【化32】

【0169】
化合物(2-c)までの合成はJournal of Chemical Crystallography (1997);27(9);515-526.に記載の方法で行うことができる。
トランス−4−ブチルシクロヘキサンカルボン酸(2-d)10.35g、トルエン50ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液に、塩化チオニル4.72mlを添加し、1時間60℃に加熱攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドをテトラヒドロフラン25mlでけん濁させた溶液を、化合物(2-c)6.2gのテトラヒドロフラン50ml溶液に氷冷下で滴下し、さらにピリジン6.37mlを滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、析出した生成物をろ取した。この粗生成物を塩化メチレンに溶解させ、活性炭処理した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、アセトニトリルにより再結晶することで、例示化合物(2−4)を白色固体として7.2g得た。
融点;(2−4)143℃
【0170】
[合成例1−5][例示化合物(7−4)、(8−4)、(9−4)の合成]((7−4)は、式(7−n)においてn=4、(8−4)は、式(8−n)においてn=4、(9−4)は、式(9−n)においてn=4に対応する。]
合成例1−4で用いられているシアノ酢酸メチルを、それぞれイソブチリル酢酸エチル、ピバロイルアセトニトリル、アセチルアセトンと変更したこと以外は合成例1−4と同様にして、化合物(7−4)、(8−4)、(9−4)を合成した。
融点;(7−4)126℃、(8−4)117℃、(9−4)124℃
【0171】
[合成例1−6][例示化合物(22−6)(式(22−n)において、n=6の化合物)の合成]
下記スキームに従い合成した。
【0172】
【化33】

【0173】
化合物(22-a)11.7g(44mmol)のテトラヒドロフラン100ml溶液に、氷冷下にてメタンスルホン酸クロライド3.4ml(44mmol)を加え、N,N−ジイソプロピルエチルアミン8.05ml(46.2mmol)をゆっくりと滴下した。1時間攪拌した後、N,N−ジイソプロピルエチルアミン8.05ml(46.2mmol)を加え、4.95gの(1−d)(20mmol)を添加し、その後、N,N−ジメチルアミノピリジンを0.05gを添加した。氷冷下にて1時間攪拌した後、室温まで昇温し、6時間攪拌した。塩化メチレンおよび水を加えて分液し、有機層を水、1N塩酸水、水の順に水洗した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。塩化メチレン/メタノール混合溶媒を溶離液とし、シリカゲルカラムクロマトにて精製を行うことで、5.4gの例示化合物(22−6)を得た。
融点;165℃
【0174】
[合成例1−6B][例示化合物(25−4)の合成]
合成例1−6で用いられている置換安息香酸(22-a)を、p−ブチル安息香酸に変更したこと以外は合成例1−6と同様にして、化合物(25−4)を合成した。
融点;204℃
【0175】
[合成例1−7][例示化合物(24−4)(式(24−n)において、n=4の化合物)の合成]
下記スキームに従い合成した。
【0176】
【化34】

【0177】
化合物(24−a)14.2g、化合物(1−d)6.21g、炭酸カルシウム11.4g、ヨウ化ナトリウム0.37g、N−メチルピロリジノン70mlを100℃で二時間加熱攪拌した。反応溶液を水に加えた後、結晶をろ取した。生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/へキサン=5/1)により精製を行い、活性炭処理したのちに、塩化メチレン/アセトニトリルにより再結晶することで、例示化合物(24−4)を白色固体として5.0g得た。
融点;168℃
【0178】
[合成例1−8][例示化合物(29−2)(式(29−n)において、n=2の化合物)の合成]
特開2008−107767号公報の段落〔0159〕〜〔0160〕を参考に下記スキームに従って合成した。
【0179】
【化35】

【0180】
(化合物(29−c)の合成)
化合物(29−c)の合成は、J. Org. Chem., 69, 2164-2177 (2004)を参考に合成できる。
化合物(29−a)123g(0.5mol)のN−メチルピロリドン250ml溶液に、氷冷下、ベンゾキノン113g(1.05mol)の酢酸(250ml)、N−メチルピロリドン(250ml)混合溶液を内温15℃以下を保つようにゆっくりと滴下した。その後、反応液を室温ついで50℃に加熱して1時間攪拌した。室温まで放冷したのちに、アセトン1200mlを添加し、結晶をろ取した。アセトン/酢酸混合溶媒(1000ml)で洗浄して、化合物(29−c)を143g(収率86%)を得た。
【0181】
(化合物(29−d)の合成)
化合物(29−c)20g(0.061mol)、化合物(29−e)11.5g(0.067mol)、イソプロピルアルコール100mlを混合し、窒素フローしながら、80℃に加熱し、3時間加熱還流下攪拌した。室温まで放冷したのちに、水200mlを添加し、結晶をろ取した。水/イソプロピルアルコール混合溶媒(100ml)で洗浄して、化合物(29−d)を20g(収率92%)を得た。
【0182】
(例示化合物(29−2)の合成)
化合物(29−e)(Yantai valiant Fine Chem.製)22.5g(94.5mmol)、N、N−ジメチルホルムアミド 0.075mlのトルエン20ml溶液に、塩化チオニル10.34ml(142mmol)を加え、加熱還流させた。カルボン酸の消費をTLCにて確認した後、溶媒を留去させた。そのものを、化合物(29−d)15g(42mmol)、ピリジン11.25ml(139mmol)のテトラヒドロフラン75ml溶液に氷冷下にて滴下した。その後室温にしたのち4時間攪拌した。反応終了後、メタノール20ml、水5mlを添加し、均一溶液となったところで1時間攪拌した。さらに、メタノール250mlを添加して結晶を析出させ、ろ取し、例示化合物(29−2)29gを得た(収率86%)。
合成した例示化合物(29−2)の相転移温度を測定したところ、 Cr−200℃→N−250℃→Iso であった。なお、Crは結晶相、Nはネマチック相、Isoは等方相を示す。
【0183】
[合成例1−9][例示化合物(31−2)(式(31−n)において、n=2の化合物)の合成]
4−(トランス−4―エチルシクロへキシル)シクロヘキサンカルボン酸を用いて例示化合物(8−4)と同様の方法によって合成した。
合成した例示化合物(31−2)の相転移温度を測定したところ、 Cr−195℃→N−>250℃→Iso であった。
【0184】
[合成例1−10][例示化合物(19−8)の合成]
合成例1−1に記載のエステル化方法と同様の方法によって合成した。
1H−NMR(CDCl3、δ)0.88(t、6H),1.27−1.42、1.50−1.86(m,32H),2.15(m、8H),2.59(m、2H),3.26(m,2H),3.47(t,4H),7.28(s,2H)
合成した例示化合物(19−8)の相転移温度を測定したところ、 Cr−110℃−S−114℃→Iso であった。なお、Crは結晶相、Sはスメクチック相、Isoは等方相を示す。
【0185】
[合成例1−11][例示化合物(42−m)の合成]
(42−6)は、合成例1−1に記載のエステル化方法と同様の方法によって合成した。
(42−6)融点 120℃
1H−NMR(CDCl3、δ)0.90(t、6H),1.31(m,12H),1.54−1.64(m、12H),2.12−2.31(m、10H),2.61(m,2H), 4.09(t,4H),7.29(s,2H)
同様にして合成した、化合物(42−4)、(42−5)、(42−7)、(42−8)の融点を示す。
融点;(42−4)160℃、(42−5)117℃、(42−7)、106℃、(42−8)99℃
【0186】
[合成例1−12][例示化合物(44−8)(44−6)の合成]
カルバモイルクロライドを合成したのち、合成例1−1に記載のエステル化方法に順じ、溶媒をテトラヒドロフランから、N,N-ジメチルアセトアミドに、塩基をピリジンからトリエチルアミンに、反応温度を室温から40℃加熱攪拌に変更して反応させて、例示化合物(44−8)を合成した。
(44−8)融点 116℃
1H−NMR(CDCl3、δ)0.88(t、6H),1.28(m,16H),1.50(m、8H),2.40(m、4H),2.51(m,8H), 3.58(t,4H),3.67(t,4H),7.33(s,2H)
同様にして合成した、化合物(44−6)の融点は112℃であった。
【0187】
[合成例1−13][例示化合物(54−11)(54−13)の合成]
合成例1−1に記載のエステル化方法と同様の方法によって合成した。
(54−11)融点 88℃
1H−NMR(CDCl3、δ)0.87(t、6H),1.20−1.48(m,32H),1.76(m、4H),2.62(m、4H),7.30(s,2H)
同様にして合成した、化合物(54−13)の融点は95℃であった。
【0188】
[合成例1−14][例示化合物(64−4)の合成]
【化36】

【0189】
化合物(1−d)の6g(0.026モル)にN,N−ジメチルアセトアミド36ml、炭酸カリウム7.24g(0.052モル)を加え窒素雰囲気下、内温を60℃とし、2−エチルヘキシルブロミド15.17g(0.079モル)を添加した。同温度で4時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応液を酢酸エチル65ml、水65mlおよび濃塩酸5.3gに滴下した。攪拌後に水層を除去し、50mlの水で水洗した。析出した結晶を含む酢酸エチル溶液を80℃に加熱し、その後25℃まで冷却した。析出した結晶を濾過し、水洗し、更にアセトニトリルで洗浄し、例示化合物(64−4)を10.75g得た(収率86.8%)。融点184℃。
H−NMR(CDCl、δ)0.86〜0.99(m,12H),1.26〜1.37(m,8H),1.38〜1.52(m,8H),1.68〜1.80(m,2H),3.89〜4.02(m,4H),6.80(s,2H)
【0190】
[合成例1−15]
他の例示化合物もこれまでに記載の合成方法に従って合成できる。以下に融点を抜粋して示す。
(41−C)融点233℃
(41-A)融点104℃
(41−B)融点147℃
(51)融点225℃
(52)融点183℃
(66-8)融点66℃
【0191】
合成例(1−1)〜(1−9)で得られた例示化合物において、それらの遷移電気双極子モーメンMx及びMyに由来する吸収波長、並びに大きさ|Mx|及び|My|を、それぞれ時間依存密度汎関数計算によって測定したところ、いずれの例示化合物においてもMyに由来する分子吸収波長が、Mxに由来する分子吸収波長より長波長であり、且つ|My|が|Mx|よりも大きかった。なお、時間依存密度汎関数計算に用いるプログラムとしては、Gaussian03 Rev.D.02(商品名、Gaussain Inc.社製)、基底関数としてB3LYP/6−31+G(d)を用い、さらにPCM法により溶媒効果も導入した。
【0192】
[合成例2]一般式(I)で表される化合物の合成
[合成例2−1][例示化合物(101−3)(式(101−n)において、n=3の化合物)の合成]
下記スキームに従い、例示化合物(101−3)を合成した。
【0193】
【化37】

【0194】
トランスー4−プロピルシクロヘキサンカルボン酸 37.5g、トルエン100ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液に、塩化チオニル16.9mlを添加し、1時間60℃に加熱攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドをテトラヒドロフラン25mlでけん濁させた溶液を、ハイドロキノン11.0g、ピリジン17.8mlのテトラヒドロフラン100ml溶液に氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、得られた油状の生成物をデカンテーションにて取り出したのち、アセトニトリルで3回再結晶することで、例示化合物(103)を白色固体として34g(収率82%)得た。
1H−NMR(CDCl3、δ)0.90(t、3H),0.98(m、2H),1.10−1.32(m,5H),1.55(m、2H),1.85(d、2H),2.11(d,2H),2.45(m,1H),7.04(s,4H)
合成した例示化合物(103)の相転移温度を測定したところ、相転移温度は Cr−126℃→N−218℃→Iso であった。なお、Crは結晶相、Nはネマチック相、Isoは等方相を示す。
【0195】
[合成例2−2][化合物(101−2)(101−4)(101−5)(101−6)の合成]
【化38】

(式(101−n)において、(101−2)は、n=2、(101−4)は、n=4、(101−5)は、n=5、(101−6)は、n=6に対応する。)
【0196】
合成例2−1におけるトランス−4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸を、トランス−4−エチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−ブチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−ペンチルシクロヘキシルカルボン酸、トランス−4−ヘキシルシクロヘキシルカルボン酸、と変更したこと以外は合成例2−1と同様にして、例示化合物(101−2)、(101−4)、(101−5)、(101−6)を合成した。
それぞれの相転移温度を測定したところ、相転移温度は以下のとおりだった。
例示化合物(101−2);Cr−127℃→N−188℃→Iso
例示化合物(101−4);Cr−128℃→N−210℃→Iso
例示化合物(101−5);Cr−122℃→SmB−139℃→N−214℃→Iso
例示化合物(101−6);Cr−130℃→SmB−157℃→N−198℃→Iso
なお、Crは結晶相、SmBはスメクチックB相、Nはネマチック相、Isoは等方相を示す。
【0197】
[合成例2−3][例示化合物(103−3)(式(103−n)において、n=3の化合物)の合成]
【化39】

【0198】
合成例2−1において、ハイドロキノンをメチルハイドロキノンに変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(103−3)を合成した。
1H−NMR(CDCl3、δ)0.86(t、3H),0.98(m、2H),1.20−1.30(m,5H),1.53(m、2H),1.86(d、2H), 2.12(s,3H),2.11(d,2H),2.47(m,1H),6.92(m,3H)
例示化合物(103−3)の相転移温度を測定したところ、相転移温度はCr−102℃→N−190℃→Iso であった。
【0199】
[合成例2−3A][例示化合物(106−3)(式(106−n)において、n=3の化合物)の合成]
合成例2−1において、ハイドロキノンをクロロハイドロキノンに変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(106−3)を合成した。例示化合物(106−3)の相転移温度を測定したところ、相転移温度はCr−91℃→N−194℃→Iso であった。
【0200】
[合成例2−3B]
合成例2−1において、トランスー4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸を種々の4-置換シクロヘキシルカルボン酸に変更して、例示化合物(105−n)、(113)、(114−n)、(115)を合成した。合成した化合物の相転移温度を抜粋して示す。
例示化合物(105−6);Cr−124℃→Iso
例示化合物(105−8);Cr−121℃→Iso
例示化合物(115);Cr−84℃→SmB−152℃→Iso
【0201】
[合成例2−4][例示化合物(116−3)(式(116−n)において、n=3の化合物)の合成]
【0202】
【化40】

【0203】
4−プロピルシクロヘキサノール15g、ピリジン12.8mlのテトラヒドロフラン100ml溶液に、テレフタル酸クロライド10gのテトラヒドロフラン溶液を氷冷下で滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、さらに、塩化メチレンを加えて生成物を抽出した。
有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去したのち、再結晶を3回おこなうことで、例示化合物(116−3)を白色固体として8.3g(収率41%)得た。
【0204】
[合成例2−5][例示化合物(116−2)(式(116−n)において、n=2の化合物)の合成]
合成例2−4において、4−プロピルシクロヘキサノールを4−エチルシクロヘキサノールに変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(116−2)を合成した。
1H−NMR(CDCl3、δ)0.90(t、6H),1.0−1.32(m,10H),1.50(m、4H),1.85(d、4H),2.10(d,4H),4.92(m,2H),8.07(s,4H)
融点;150℃
【0205】
[合成例2−6][例示化合物(130−3)(式(130−n)において、n=3の化合物)の合成]
【0206】
【化41】

【0207】
合成例2−1において、ハイドロキノンをアミノフェノール、に変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(130−3)を合成した。
【0208】
[合成例2−7][例示化合物(139−4)の合成]
合成例2−1において、ハイドロキノンを4,4’−ビフェノールに、トランス−4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸を、トランス−4−ブチルシクロヘキシルカルボン酸に変更した以外はまったく同様にして、例示化合物(139−4)を合成した。
【0209】
[実施例1]
(セルロースアセテートフィルム101の作製)
(ドープ調整)
下記セルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0210】
(セルロースアセテート溶液)
酢化度60.2%のセルロースアセテート 100質量部
糖誘導体1(可塑剤) 3.6質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
【0211】
糖誘導体1;β―D−グルコース ペンタアセテート
【化42−1】

【0212】
別のミキシングタンクに、下記組成の各成分を投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、レターデーション発現剤溶液を調製した。
(レターデーション発現剤溶液)
例示化合物(1−2)(一般式(A−1)で表わされる化合物) 14.0質量部
例示化合物(101−3)(一般式(I)で表わされる化合物) 11.7質量部
メチレンクロライド 87質量部
メタノール 13質量部
【0213】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、更にセルロースアシレートフィルム中のレターデーション発現剤がセルロースアシレート100質量部当たり、例示化合物(1−2)が2.5質量部、例示化合物(101−3)が3.0質量部となる量のレターデーション発現剤溶液を混合し、製膜用ドープを調製した。
【0214】
(流延)(フィルム101)
上述のドープをガラス板流延装置を用いて流延した。給気温度70℃の温風で6分間乾燥し、ガラス板から剥ぎ取ったフィルムを枠に固定し、給気温度100℃の温風で10分間、給気温度140℃の温風で20分間乾燥し、膜厚55μmのセルロースアシレートフィルムを製造した。
次に、得られたフィルムを175℃の条件で20%の延伸倍率まで、30%/分の延伸速度で横延伸した。出来上がったセルロースアシレートフィルムの、膜厚は52μmであった。このフィルムをフィルム101とした。
【0215】
(フィルム102〜106、100の作製)(比較例)
フィルム101のレターデーション発現剤溶液を表1に示す組成となるように、化合物の種類と添加量を調整し、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム102〜106、100を作製した。
(Re、Rthの測定)
作製したセルロースアセテートフィルムについて、波長450nm、550nm、630nmにおけるRe値を、KOBRA 21ADH(商品名、王子計測機器社製)において各波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した。結果を表1に示す。なお、表1中のNo.100は、レターデーション制御剤を加えないこと以外は同様にして製造されたセルロースアセテートフィルムである。表中、ReおよびRthは波長550nmにおける値(nm)である。また、以下の表中の添加量(質量部)はセルロースアシレート100質量部に対する値である。
【0216】
【表1】

【0217】
【化42−2】

注: 比較棒状化合物1(特開2007−256494号公報に記載の化合物)
比較棒状化合物2(特開2007−249224号公報に記載の化合物)
【0218】
表1の結果から明らかなように、本発明で規定する添加剤(一般式(A−1)で表わされる化合物、一般式(I)で表わされる化合物)を二種併用することで高いRe発現性、Reの波長分散性を両立できることがわかる。
フィルム試料No.101とNo.102を比較すると一般式(I)で表わされる化合物(101−3)を用いることで、明らかにRe発現性および逆分散性が向上することがわかる。
本発明で規定する添加剤を二種併用することによる相乗効果について説明する。比較棒状化合物(1)との組み合わせでは、Reの値は、二種類併用のNo.102は、おおむねそれぞれ単独で用いた比較例No.104とNo.106の足し合わせ(表中、計算B)となっている。一方で、本発明の化合物(101−3)との組み合わせでは、Reは、二種類併用のNo.101は、比較例No.104とNo.105の足し合わせ(表中、計算A)よりも大きな値となっていることがわかる。また、No.101のRe逆分散性はReの発現にともない向上していることから、本発明の化合物の組み合わせでは、それぞれ単独のときに比べて、二種類の添加剤の配向度が向上していると考えられ、これは予想外の効果であった。
また、No.103より、特開2007−249224号公報に記載の比較棒状化合物2はレターデーション発現剤としての機能は非常に低く、本発明のような効果が得られないことがわかる。
なお、Δn(440nm)/Δn(550nm)、Δn(630nm)/Δn(550nm)の値について、表ではRe(440)/Re(550),Re(550)/Re(630)の値を示したが、
Re(440)/Re(550)=(Δn(440)×d)/(Δn(550)×d)
=Δn(440)/Δn(550)
Re(630)/Re(550)=(Δn(630)×d)/(Δn(550)×d)
=Δn(630)/Δn(550)
であるから、複屈折率の波長分散性とまったく同じものである。
【0219】
[実施例2]
(フィルム121〜130の作製)
表2に示す一般式(I)、一般式(A−1)の化合物を使用した以外は実施例1とまったく同じようにして、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム121〜130を作製した。
(Re、Rthの測定)
実施例1と同様にして測定した結果を表2に示した。
【0220】
【表2】

【0221】
表1で示したのと同様に、フィルム試料No.121とNo.123との比較、試料No.124とNo.126との比較から、一般式(I)で表わされる化合物(101−3)を用いることで、明らかに、Reの波長分散性は変わらず、Reの発現性が大幅に向上することがわかる。
またこの効果によって、試料No.122、No.125では、比較例(No.123やNo.126)と同程度のRe、Re波長分散性を、本発明で規定する化合物を用いることで添加剤の添加量を低減させて実現できることがわかる。試料No.127〜130も同様である。
【0222】
[実施例3]
(フィルム131〜136の作製)
表3に示す一般式(I)、一般式(A−1)の化合物を使用した以外は実施例1とまったく同じようにして、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム131〜136を作製した。
(Re、Rthの測定)
実施例1と同様にして測定した結果を表3に示した。
【0223】
【表3】

【0224】
実施例1、2と同様に、本発明で用いる低分子化合物を二種併用することで高いRe発現性、Reの波長分散性を両立できることがわかる。比較例(No.132、134)では添加剤の添加量が多いためにフィルムの白化がみられたが、一般式(I)、(A−1)で表わされる化合物を用いた場合(No.131、133)には、添加量が少ないためにこのような問題が起こらないことがわかった。
【0225】
[実施例4]
(フィルム141〜150の作製)
表4に示す一般式(I)、一般式(A−1)の化合物を使用した以外は実施例1とまったく同じようにして、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム141〜150を作製した。
(Re発現性、Re逆分散性の評価)
実施例1と同様にして波長450nm、550nm、630nmにおけるRe値を測定し、下記の指標によってRe発現性、Re逆分散性を評価した。結果を表4に示した。
Re発現性;
◎ Re(550)が30以上
○ Re(550)が20を超え30未満
△ Re(550)が20以下
Re逆分散性;
◎ Re(630)−Re(450)が12以上
○ Re(630)−Re(450)が7を超え12未満
△ Re(630)−Re(450)が7以下
【0226】
【表4】

【0227】
[実施例5]
実施例1〜4と同様にして、例示化合物(2−4)、(15−4)、(22−6)、(24−4)、(30−4)、(41−C)、(48−8)、または(59−10)と、例示化合物(101−3)、(101−4)または(101−5)との組み合わせについてもセルロースアセテートフィルムを作製し、Re値を測定したところ、いずれも、これらの棒状化合物を用いなかった試料に比べて、Re値が大きく、Reの波長分散性が優れる(Re(630)−Re(450)の値が大きくなっている)ことが確認できた。
【0228】
[実施例6]
(フィルム201〜204の作製)
表5に示す一般式(I)、一般式(A−1)の化合物を使用した以外は実施例1とまったく同じようにして、フィルム101と同様に製膜・延伸を行いフィルム201〜204を作製した。
(Re、Rthの測定)
実施例1と同様にして測定した結果を表5に示した。
【0229】
【表5】

【0230】
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。
【0231】
上記で作製したセルロースアシレートフィルム(表5、No.202およびNo.203)を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。
【0232】
1.5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.01モル/リットルの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。作製したセルロースアシレートフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
【0233】
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、商品名、富士フイルム社製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。
偏光膜の透過軸と上記のように作製したセルロースアシレートフィルムの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光膜の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0234】
(液晶セルの作製)
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、商品名、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション(即ち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0235】
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板(観察者側)および下側偏光板(バックライト側)には上記実施例6で作製したフィルム(表5、No.202およびNo.203)を備えた同一の偏光板を、当該セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように設置した。上側偏光板および下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
【0236】
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを観察した。
【0237】
No.202およびNo.203フィルムを用いて作製した二つの液晶表示装置を観察した結果、正面方向および視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現することが確認できた。この結果から、フィルム中の低分子化合物の添加量を大幅に低減した本発明のNo.202フィルムにおいても良好な表示性能が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0238】
本発明によれば、液晶セルが正確に光学的に補償し、高いコントラストと黒表示時の視角方向に依存した色ずれを改良する、特にVA、IPSおよびOCBモード用のセルロースフィルム、その製造方法、該セルロースフィルムを用いた偏光板が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース化合物の少なくとも一種と、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種、および、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントMyに由来する分子吸収波長が、当該分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントMxに由来する分子吸収波長より長波長であって、分子長軸方向と略直交方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|My|が分子長軸方向と略平行方向の遷移電気双極子モーメントの大きさ|Mx|よりも大きい低分子化合物(A)の少なくとも一種を含有することを特徴とするセルロース組成物。
【化1】

(式中、L、L、L,およびLは、それぞれ独立に、単結合または−O−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であり、YおよびYはアルキル基であり、Ra,Rb,およびRcはそれぞれ独立に置換基であり、mは0〜4の整数であり、tは1または2の整数であり、m11,m12は0〜10の整数である。)
【請求項2】
前記低分子化合物(A)が、その骨格中に下記式(a)で表わされる構造を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース組成物。
【化2】

【請求項3】
前記式(a)で表わされる構造を含む低分子化合物(A)が、下記一般式(A−1)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載のセルロース組成物。
【化3】

(式中、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22は各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、−CH−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。ZおよびZは各々独立に二価の5員または6員の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。)
【請求項4】
前記一般式(A−1)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基であることを特徴とする請求項3に記載のセルロース組成物。
【請求項5】
前記一般式(A−1)においてZ,Zがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、または1,4−フェニレン基であることを特徴とする請求項3又は4に記載のセルロース組成物。
【請求項6】
前記一般式(A−1)においてm1およびm2がそれぞれ0または1であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項7】
前記一般式(I)においてL、Lが各々独立に−OC(=O)−または−C(=O)O−であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項8】
前記一般式(I)においてL1、L2が各々単結合であり、Y、Yがそれぞれ独立に無置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項9】
前記一般式(I)で表される化合物及び低分子化合物(A)の少なくとも一方が100℃〜300℃の温度範囲のいずれかで液晶相であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項10】
前記セルロース化合物がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項11】
前記セルロースエステルがセルロースアシレートであり、そのアシル置換基が実質的にアセチル基のみからなり、その全置換度が2.00〜3.00であることを特徴とする請求項10に記載のセルロース組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするセルロースフィルム。
【請求項13】
前記低分子化合物(A)がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、請求項12に記載のセルロースフィルム。
【請求項14】
前記一般式(I)で表される化合物がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、請求項12に記載のセルロースフィルム。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載のセルロースフィルムからなる光学フィルム。
【請求項16】
配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とする請求項15に記載の光学フィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
【請求項17】
フィルムを延伸する延伸工程と収縮させる収縮工程を含むことを特徴とする請求項12〜16のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれか一項に記載の光学フィルムからなる位相差板。
【請求項19】
請求項18に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
【請求項20】
請求項18に記載の位相差板または請求項19に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
【請求項21】
VAモードであることを特徴とする請求項20に記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−254949(P2010−254949A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228643(P2009−228643)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】