説明

センサ制御装置

【課題】 ガスセンサの劣化を抑制しつつアイドリングストップ中のガスセンサのヒータ消費電力を低減させたセンサ制御装置を提供すること。
【解決手段】 検知室と、第1固体電解質体を有する酸素ポンプセルと、第2固体電解質体を有する酸素濃度検知セルとを備えるガスセンサと、ガスセンサを目標温度に加熱するヒータとを備えるセンサ制御装置において、内燃機関の自動停止が検知される(S60)。内燃機関の自動停止が検知された場合に(S60:YES)、ヒータの目標温度を、ガスセンサの活性化温度より低い温度であって、酸素濃度検知セルの第2固体電解質体にブラックニングが生じる温度以外の温度である第2目標温度に切り替えてヒータへの通電制御が行われる(S120)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値を算出するセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等の内燃機関の排気管に取り付けられ、排気管を流通するガス中の特定ガス成分の濃度を検知するセンサ制御装置が知られている。センサ制御装置は、例えば、ガスセンサと、ヒータと、制御部とを備える。ガスセンサは、固体電解質体と、一対の電極とを有するセルを備え、特定ガスの濃度に応じた電気信号を制御部に出力する。固体電解質体には、一般に、ジルコニア系の材料、特に、強度とイオン伝導性の観点から、部分安定化ジルコニアが用いられる。このような固体電解質体を用いたガスセンサでは、ガスセンサの温度が、所定温度(例えば、600から700℃)に達しないと、特定ガスに応じた電気信号によるガス検知精度が低下する。このため、ガスセンサが活性しているか否かの判定の基準となる活性判定温度が予め設定され、特定ガスの検知に際して、ガスセンサはヒータによって活性判定温度以上の温度に加熱される。制御部は、ヒータを発熱させるための通電の制御を行うとともに、ガスセンサから出力される電気信号に基づき特定ガスの濃度対応値を算出する。また、固体電解質体を用いた酸素濃度検知セル及び酸素ポンプセルを2セル備え、酸素濃度検知セルにおいて測定室に導入されたガス中の酸素濃度を検知するための基準となる基準酸素を自己生成するガスセンサ、並びにこのガスセンサを駆動するための制御部も広く知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来から、信号待ち等の一時停車時にエンジンを自動停止することで、燃料の節約及び排出ガスの低減を図った自動停止制御が知られている。自動停止制御では、内燃機関の自動停止を許可する条件が満たされれば、内燃機関が自動停止され、内燃機関の再始動を許可する条件が満たされれば、エンジンが自動的に再始動される。内燃機関の自動停止中に、ガスセンサの温度を活性判定温度に維持するのに必要な電流をガスセンサに供給し続けると、内燃機関の自動停止(以下、「アイドリングストップ」とも言う。)中の電力消費量が多くなり、バッテリへの負担が大きくなる。これに対し、例えば、アイドリングストップ中には、ヒータの目標温度に、ガスセンサの活性判定温度よりも低い温度を設定し、アイドリングストップ中のセンサ制御装置の電力消費量を低減した内燃機関の制御装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275628号公報
【特許文献2】特開2003−148206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アイドリングストップ中に設定されるヒータの目標温度は、ガスセンサの活性判定温度よりも低い温度ならば、どのような温度であってもよいという訳ではないことが、発明者の検討によって明らかとなった。すなわち、本発明者の検討によって、アイドリングストップ中に設定されるヒータの目標温度が適切に設定されない場合には、ガスセンサが劣化する可能性があることが明らかとなった。そこで、本発明者が種々検討した結果、固体電解質体を用いた酸素濃度検知セル及び酸素ポンプセルを備え、酸素濃度検知セルが基準酸素を自己生成する(すなわち、酸素濃度検知セルに電流を通電して検知電極から基準電極に向けて酸素を汲み入れる)タイプのガスセンサでは、次の問題が生じることが分かった。
【0006】
すなわち、上記電流を酸素濃度検知セルに対して通電した状態で、且つ、ガスセンサの固体電解質体が活性判定温度より低い所定の温度(温度範囲)に加熱された状態が所定時間以上継続されると、固体電解質体にブラックニングが生じる可能性があることが分かった。ブラックニングとは、陰極側の固体電解質体の表面において、固体電解質体に含まれる金属酸化物が還元され、金属が生成される現象である(例えば、ZrO→Zr+O)。ブラックニングが生じたガスセンサでは、ブラックニングの程度に応じて固体電解質体のイオン伝導性が低下するため、ガスセンサを活性判定温度に昇温させても特定ガスを精度良く検知することできないという問題が生じる。なお、このような問題は、酸素濃度検知セルのみで構成され、酸素濃度検知セルの一対の電極間に生ずる起電力に応じて酸素濃度を測定する1セル式のガスセンサであって、酸素濃度検知セル自身が基準酸素を自己生成する(すなわち、酸素濃度検知セルに電流を通電して検知電極から基準電極に向けて酸素を汲み入れる)タイプのガスセンサにおいても生ずる問題である。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、ガスセンサの劣化を抑制しつつアイドリングストップ中のヒータ消費電力を低減させたセンサ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1態様のセンサ制御装置は、第1固体電解質体と、前記第1固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを有し、前記検知電極と前記基準電極との間において検知対象ガスの酸素濃度に応じた電圧を発生する酸素濃度検知セルとを備え、内燃機関の排気管に取り付けられるガスセンサと、前記ガスセンサを加熱するヒータと、前記検知電極から前記第1固体電解質体を介して前記基準電極に向けて酸素を汲み込むために前記酸素濃度検知セルに電流を供給する電流供給部と、前記ガスセンサの温度が活性判定温度以上であるか否かを判定する活性判定部と、前記活性判定部が前記ガスセンサの温度は前記活性判定温度以上であると判定した場合に、前記活性判定温度以上の第1目標温度を前記ヒータの目標温度とする前記ヒータへの通電制御を行うヒータ制御部とを備えたセンサ制御装置であって、前記内燃機関の自動停止を検知する自動停止検知部と、前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記ヒータの目標温度を、前記ガスセンサの温度を前記活性判定温度より低い温度である温度であって、温度を一定に保持した状態で前記電流供給部が前記酸素濃度検知セルに電流を供給した際に前記第1固体電解質体にブラックニングが生じる温度以外の温度である第2目標温度に切り替えて前記ヒータへの通電制御を行う第1温度切替部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、第1態様のセンサ制御装置においては、前記ガスセンサは、前記検知対象ガスが導入される検知室と、第2固体電解質体及び一方の電極が前記検知室に面して配置された当該第2固体電解質体上に形成される一対のポンプ電極を有し、前記一対のポンプ電極間に供給される電流に応じて前記検知室の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を備え、前記酸素濃度測定セルの前記検知電極が前記検知室に面する一方、前記基準電極が前記検知室外に位置する構成をなしており、さらに、前記酸素濃度検知セルにて発生した電圧に応じて前記酸素ポンプセルへの通電制御を行う通電制御部を備えるようにしてもよい。
【0010】
固体電解質体が活性判定温度には到達していないものの、ある程度加熱されて自身のインピーダンスが低下している状態で、固体電解質体に対する電流の供給が継続されると、酸素を無理に一方の電極から他方の電極に向けて汲み出す現象が生じやすく、ひいてはブラックニングを生じやすい。そこで、第1態様のセンサ制御装置によれば、内燃機関の自動停止を検知した場合に、ヒータ制御部が、ガスセンサの温度を上記第2目標温度に維持させるようにヒータへの通電を制御するため、酸素濃度検知セルに対して電流が供給された状態で当該酸素濃度検知セル(第1固体電解質体)にブラックニングが生じる温度となる時間が一定時間以上継続されることがない。したがって、酸素濃度検知セルからなるガスセンサ、または、酸素濃度検知セルと酸素ポンプセルとを有するガスセンサを備えるセンサ制御装置において、ガスセンサの劣化を抑制しつつ内燃機関の自動停止中のヒータ消費電力を低減させることができる。しかも、第1態様のセンサ制御装置は、内燃機関の自動停止を検知した場合に、ヒータの通電を停止せずに、第2目標温度に維持させるように通電を制御する。このため、センサ制御装置は、内燃機関の自動停止中にヒータの通電を停止する場合に比べ、内燃機関の自動停止の解除(自動始動)後に、ガスセンサの温度を活性判定温度に昇温させるまでの時間を短くすることもできる。
【0011】
第2態様のセンサ制御装置は、第1固体電解質体と、前記第1固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを有し、前記検知電極と前記基準電極との間において前記検知室の酸素濃度に応じた電圧を発生する酸素濃度検知セルとを備え、内燃機関の排気管に取り付けられるガスセンサと、前記ガスセンサを加熱するヒータと、前記検知電極から前記第1固体電解質体を介して前記基準電極に向けて酸素を汲み込むために前記酸素濃度検知セルに電流を供給する電流供給部と、前記ガスセンサの温度が活性判定温度以上であるか否かを判定する活性判定部と、前記活性判定部が前記ガスセンサの温度は前記活性判定温度以上であると判定した場合に、前記活性判定温度以上の第1目標温度を前記ヒータの目標温度とする前記ヒータへの通電制御を行うヒータ制御部とを備えたセンサ制御装置であって、前記内燃機関の自動停止を検知する自動停止検知部と、前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記ヒータの目標温度を、前記ガスセンサの前記活性判定温度より低い第3目標温度に切り替えて前記ヒータへの通電制御を行う第2温度切替部と、前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記酸素濃度検知セルへの電流の供給を停止させる電流停止部とを備えている。
【0012】
また、第2態様のセンサ制御装置においては、前記ガスセンサは、前記検知対象ガスが導入される検知室と、第2固体電解質体及び一方の電極が前記検知室に面して配置された当該第2固体電解質体上に形成される一対のポンプ電極を有し、前記一対のポンプ電極間に供給される電流に応じて前記検知室の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、を備え、前記酸素濃度測定セルの前記検知電極が前記検知室に面する一方、前記基準電極が前記検知室外に位置する構成をなしており、さらに、前記酸素濃度検知セルにて発生した電圧に応じて前記酸素ポンプセルへの通電制御を行う通電制御部を備え、前記電流停止部は、前記酸素ポンプセル及び前記酸素濃度検知セルへの電流の供給を停止させるとよい。
【0013】
第2態様のセンサ制御装置によれば、内燃機関を自動停止され、ガスセンサの温度を上記第3目標温度に維持するようにヒータへの通電を制御している期間には、酸素濃度検知セルからなるガスセンサでは、酸素濃度検知セルへの通電が停止され、また、酸素ポンプセル及び酸素濃度検知セルを有するガスセンサでは、両セルへの通電が停止される。このため、内燃機関の自動停止中に、ブラックニングが生じることを確実に回避することができる。したがって、センサ制御装置は、酸素濃度検知セルからなるガスセンサを備える場合、または、酸素濃度検知セルと酸素ポンプセルとを有するタイプのガスセンサを備える場合であっても、ガスセンサの劣化を抑制しつつ内燃機関の自動停止中のヒータ消費電力を低減させることができる。しかも、第2態様のセンサ制御装置は、内燃機関の自動停止を検知した場合に、ヒータの通電を停止せずに、第3目標温度に維持させるように通電を制御する。このため、センサ制御装置は、内燃機関の自動停止中にヒータの通電を停止する場合に比べ、内燃機関の自動停止の解除(自動始動)後に、ガスセンサの温度を活性判定温度に昇温させるまでの時間を短くすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】内燃機関100の排気系周りの概略的な構成を示す図である。
【図2】センサ制御装置4の概略的な構造を示す説明図である。
【図3】第1の実施形態のメイン処理のフローチャートである。
【図4】第2の実施形態のメイン処理のフローチャートである。
【図5】第3の実施形態のメイン処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化したセンサ制御装置の第1から第3の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。なお、以下の説明において、図2の上下方向をガスセンサ1の上下方向とし、図2の左右方向をガスセンサ1の左右方向として説明する。
【0016】
第1から第3の実施形態のセンサ制御装置4は、物理的構成と電気的構成が同じである。まず、図1を参照して、内燃機関100と、内燃機関100に取り付けられるセンサ制御装置4との概略的な構成について説明する。内燃機関100は、自動車(図示外)を駆動するためのエンジン101を有する。エンジン101には、エンジン101から排出される排気ガスを車外に放出するための排気管102が接続されている。センサ制御装置4は、ガスセンサ1と、ECU3とを備える。ガスセンサ1は、排気管102の経路上に取り付けられる。ガスセンサ1は、排気管102に流通するガスを検知対象ガスとする全領域空燃比センサである。ECU3は、ガスセンサ1とは離れた位置に配置されており、バッテリ80から電力の供給を受けて駆動する。ガスセンサ1と、ECU3とは、ハーネス91(信号線)を介して電気的に接続されている。ガスセンサ1は、ECU3によって通電制御されるとともに、ECU3に対して検知対象ガス中の酸素濃度に応じた電気信号を出力する。ECU3は、ガスセンサ1の出力に基づき、エンジン101の空燃比フィードバック制御を実行する。
【0017】
次に、図2を参照し、センサ制御装置4が備えるガスセンサ1と、ECU3とについて順に説明する。ガスセンサ1は、検知素子10と、ヒータ素子40と、ハウジング(図示外)とを備える。検知素子10は、固体電解質体11,13と、絶縁基体12,24とを、固体電解質体13,絶縁基体12,固体電解質体11,絶縁基体24の順に積層した構造を有する。固体電解質体11,13と、絶縁基体12,24と、後述する絶縁基体17,18とは、いずれも細長い板状に形成されており、図1ではガスセンサ1の長手方向と直交する断面を模式的に示している。固体電解質体11,13は、イットリアを安定化剤に用いた部分安定化ジルコニアを主成分とする材料によって形成され、酸素イオン伝導性を有する。絶縁基体12,24は、アルミナを主成分とする材料によって形成される。ヒータ素子40は、固体電解質体11,13の早期活性化と、固体電解質体11,13の活性の安定性維持とのために、固体電解質体13に積層されている。ハウジングは、検知素子10と、ヒータ素子40とを内部に保持し、排気管102(図1参照)に取り付けられる。以下、ガスセンサ1が備える検知素子10と、ヒータ素子40とについて詳述する。
【0018】
まず、図2を参照して、検知素子10の構成を説明する。検知素子10は、検知室23と、拡散律速部15と、酸素ポンプセル27(以下、「Ipセル27」と言う。)と、酸素分圧検知セル28(以下、「Vsセル28」と言う。)と、絶縁基体12,24とを備える。検知室23は、排気管102(図1参照)内を流通するガス(例えば、排気ガス)が導入される小空間である。検知室23は、固体電解質体11と、固体電解質体13と、拡散律速部15と、絶縁基体12とによって囲まれている。拡散律速部15は、検知室23の幅方向(図1の紙面左右方向)の両端にある。拡散律速部15は、多孔質状の部材(例えば、アルミナ)によって形成され、検知室23内に検知対象ガスを導入する際の流入量を規制する。
【0019】
Ip1セル27は、固体電解質体11と、多孔質性の電極19,20とを備える。電極19,20は、Ptを主成分とする材料によって形成される。Ptを主成分とする材料としては、例えば、Ptと、Pt合金と、Ptとセラミックスとを含むサーメットとが挙げられる。電極20は、固体電解質体11の面のうち、検知室23側の面に設けられている。電極19は、固体電解質体11の面のうち、検知室23側の面とは反対側の面に設けられている。すなわち、検知素子10の積層方向において、一対の電極19,20は、固体電解質体11を挟むように配置されている。固体電解質体11の上面には、絶縁基体24が積層されている。絶縁基体24は、電極19の上部となる位置に開口29を有し、開口29には保護層25が設けられている。保護層25は、セラミックス(例えば、アルミナ)からなる多孔質性の部材によって形成され、電極19が検知対象ガスに含まれるシリコン等の被毒成分によって劣化しないように、電極19の上面を覆っている。固体電解質体11は、本発明の「第2固体電解質体」に相当し、電極19,20は、本発明の「一対のポンプ電極」に相当する。
【0020】
Ip1セル27は、電極19,20間に電流が供給されることで、電極19が接する雰囲気(検知素子10の外部の雰囲気)と電極20が接する雰囲気(検知室23内の雰囲気)との間で、酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
【0021】
Vsセル28は、固体電解質体13と、多孔質性の電極21,22とを備える。固体電解質体13は、検知室23を挟んで固体電解質体11と対向するように配置されている。電極21は、固体電解質体13の面のうち、検知室23側の面に設けられている。電極22は、固体電解質体13の面のうち、検知室23側の面とは反対側の面に形成されている。すなわち、検知素子10の積層方向において、一対の電極21,22は、固体電解質体13を挟むように配置されている。電極21,22は、上述のPtを主成分とする材料によって形成される。
【0022】
Vsセル28は、主として、固体電解質体13によって隔てられた雰囲気(電極21と接する検知室23内の雰囲気と、電極22と接する雰囲気)間の酸素分圧差に応じて電圧(起電力)を発生する。また、電極22は、絶縁基体17によって排気管102(図1参照)を流通するガスと接触しないように閉塞されている。そして、電極22は、詳細は後述するが、検知室23内の酸素濃度の検知のための基準となる酸素濃度を維持する酸素基準電極として機能する。固体電解質体13は、本発明の「第1固体電解質体」に相当し、電極21は、本発明の「検知電極」に相当し、電極22は、本発明の「基準電極」に相当する。
【0023】
次に、図2を参照してヒータ素子40の構成を説明する。ヒータ素子40は、検知素子10(特に、固体電解質体11,13)を加熱して活性化させる。ヒータ素子40は、発熱抵抗体26と、絶縁基体17,18とを備える。発熱抵抗体26は、白金を主成分とする材料によって構成され、絶縁基体17と絶縁基体18との間に挟まれている。絶縁基体17,18は、アルミナを主成分とする材料によって形成される。ヒータ素子40は、本発明の「ヒータ」に相当する。
【0024】
次に、図2を参照して、ECU3の構成について説明する。ECU3は、自動車のエンジン101と、ガスセンサ1とを制御する。図2のように、ECU3は、マイクロコンピュータ9と、ASIC(特定用途向け集積回路)30と、ヒータ電圧供給回路50とを構成主体としている。マイクロコンピュータ9は、公知の構成のCPU6と、ROM7と、RAM8とを搭載したマイコンチップである。ROM7には、CPU6が実行する各種制御プログラムと、制御プログラム実行時に参照される各種パラメータとが記憶されている。
【0025】
図2のように、ASIC30は、Ip検知回路31と、Ip駆動回路32と、抵抗検知回路33と、電圧出力回路34と、基準電圧比較回路35と、Icp供給回路36とを備える。
【0026】
Ip検知回路31は、Ipセル27の電極19,20間に流れる電流Ipを電圧変換し、変換した電圧を検知信号としてマイクロコンピュータ9に出力する。抵抗検知回路33は、定期的に、予め規定された値の電流をVsセル28に通電し、その通電に応答して得られる電圧変化量(電圧Vsの変化量)を検知するための回路である。抵抗検知回路33によって検知された電圧Vsの変化量を示す値は、マイクロコンピュータ9に出力される。マイクロコンピュータ9では、抵抗検知回路33から出力された値と、ROM7に記憶されている電圧Vsの変化量とVsセル28のインピーダンスRiとが予め関連付けられたテーブルとに基づいて、Vsセル28のインピーダンスRiが求められる。Vsセル28のインピーダンスRiは、Vsセル28の温度、すなわち、検知素子10全体の温度と相関があり、マイクロコンピュータ9は、Vsセル28のインピーダンスRiに基づいて、ガスセンサ1(検知素子10)の温度を検知する。
【0027】
電圧出力回路34は、Vsセル28の電極21,22間に生ずる起電力Vsを検知する。基準電圧比較回路35は、予め定められた基準電圧と、電圧出力回路34において検知された起電力Vsとの比較を行い、比較結果をIp駆動回路32に出力する。Ip駆動回路32は、基準電圧比較回路35から出力された比較結果に基づき、Ipセル27の電極19,20間に供給する電流Ipの大きさ及び向きを制御する。Icp供給回路36は、Vsセル28の電極22から電極21へ向かって流れる微小電流Icpを供給する。
【0028】
ヒータ電圧供給回路50は、CPU6から指示に応じて、発熱抵抗体26の両端に印加される電圧Vhを公知のPI制御のもと生成したり、発熱抵抗体26の両端に一定の電圧(例えば、12V)を印加したりすることで、発熱抵抗体26を発熱させる。
【0029】
次に、図2を参照して、ガスセンサ1を用いて検知対象ガスの酸素濃度(排気ガスの空燃比)を検知する動作について簡単に説明する。なお、検知対象ガスの酸素濃度を検知する際には、基準電圧比較回路35で比較対象となる基準電圧(例えば450mV)が設定される。まず、Icp供給回路36は、Vsセル28の電極22から固体電解質体13を介して電極21に向けて微小電流Icpを供給する。この通電により、検知対象ガス中の酸素は、酸素イオンとなって、固体電解質体13を介して電極21側から電極22側に移動する(汲み込まれる)。Vsセル28に電流Icpが供給されると、酸素イオンは電極21側から電極22側に移動し、検知対象ガス中の酸素濃度に応じた起電力Vsを発生させるための基準となる酸素濃度雰囲気が生成される。電圧出力回路34は、両電極21,22間の起電力Vsを検知し、検知した起電力Vsを基準電圧比較回路35に出力する。基準電圧比較回路35は、起電力Vsと基準電圧とを比較し、比較結果をIp駆動回路32に出力する。Ip駆動回路32は、基準電圧比較回路35による比較結果に基づいて、起電力Vsが基準電圧となるように、Ipセル27の電極19,20間に供給する電流Ipの大きさ及び向きを制御する。これにより、Ipセル27による検知室23内への酸素の汲み入れ又は検知室23からの酸素の汲み出しが行われる。
【0030】
なお、検知室23内に流入した排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであった場合、Ipセル27において外部から検知室23内に酸素を汲み入れるように、電極19,20間に供給される電流Ipの大きさや向きが制御される。一方、検知室23内に流入した排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンであった場合、Ipセル27において検知室23から外部へ酸素を汲み出すように、電極19,20間に供給される電流Ipの大きさ及び向きが制御される。このときの電流Ipは、Ip検知回路31において電圧変換され、電圧変換された電流Ipは、検知信号としてマイクロコンピュータ9に出力される。マイクロコンピュータ9(CPU6)は、検知信号に基づいて検知対象ガス中に含まれる
酸素濃度対応値、ひいては排気ガスの空燃比を算出する。
【0031】
次に、第1の実施形態のセンサ制御装置4において実行されるメイン処理について、図3を参照して説明する。図3のメイン処理を実行させるプログラムは、図2のROM7に記憶されており、CPU6が実行する。なお、酸素濃度対応値及び空燃比を算出する処理は、図3のメイン処理とは別途実行される。
【0032】
まず、メイン処理の概略を説明する。第1の実施形態では、ガスセンサ1の検知素子10が活性化しているか否かに応じて、非活性モード(以下、「NAモード」と言う。)と、活性モード(以下、「Aモード」と言う。)とのいずれかの駆動モードの処理が実行される。NAモードは、検知素子10を活性判定温度以上の温度に加熱するための制御モードである。NAモードでは、Ipセル27に電流Ipを供給する処理が実行されない。第1の実施形態では、NAモードにおいて図3の二点鎖線151内の処理が実行される。Aモードは、検知素子10の温度を活性判定温度以上に維持しつつ、検知対象ガス中の酸素濃度を検知するための電流IpをIpセル27に供給する制御モードである。Aモードにおいて二点鎖線152内の処理が実行される。第1の実施形態のセンサ制御装置4はさらに、内燃機関100の運転状態に関して、アイドリングストップ中のセンサ制御装置4の駆動モードをNAモードに設定する。
【0033】
第1の実施形態では、駆動モードと、内燃機関100の運転状態とに応じて、加熱されるガスセンサ1(検知素子10)の目標温度に対応する目標抵抗値に異なる値が設定される。駆動モードがNAモードであり、且つアイドリングストップ中ではない場合においては、目標抵抗値TRiにTRi1が設定される。TRi1には、検知素子10が活性化している場合の抵抗値が設定される。第1の実施形態では、TRiは、検知素子10が活性化したか否かの判断する処理において、閾値として用いられる。駆動モードがNAモードであり、且つアイドリングストップ中である場合には、目標抵抗値TRiにTRi4が設定される。TRi4には、検知素子10が活性化していない場合の抵抗値であって、固体電解質体13にブラックニングが生じない温度に対応する抵抗値が予め設定される。
【0034】
ブラックニングが固体電解質体13において生じる温度条件は、固体電解質体13の組成や固体電解質体13に供給される電流の大きさ等の条件に応じて異なるが、例えば、100℃から400℃の範囲の温度である。
【0035】
駆動モードがAモードである場合には、目標抵抗値TRiにTRi2が設定される。上記TRi1と、TRi2と、TRi4とに加え、第1の実施形態では、Aモード制御時に検知素子10の温度が低下している場合を検知するための閾値TRi3が設定されている。TRi3には、TRi1よりも大きい値が予め設定される。第1の実施形態では、TRi1には検知素子10の温度が600℃に相当する500Ωが設定され、TRi2には検知素子10の温度が800℃に相当する100Ωに設定される。TRi3には検知素子10の温度が550℃に相当する550Ωが設定され、TRi4には検知素子10の温度が500℃に相当する580Ωが設定される。TRi4は、検知素子10が活性したか否かを判定する閾値に相当するTRi1に対応する温度よりも低く、固体電解質体13にブラックニングが生じる温度(100℃から400℃)よりも高い温度に対応する。TRi1から4の大小関係は、TRi4>TRi3>TRi1>TRi2となる。
【0036】
内燃機関100がアイドリングストップ中であるか否かは、例えば、エンジン101の運転を自動的に停止させる指示と、自動運転停止後にエンジン101の運転を自動的に再開させる指示とによって更新されるアイドリングストップフラグに基づき判断される。アイドリングストップフラグは、RAM8に記憶される。エンジン101の運転を自動的に停止させる指示と、自動運転停止後にエンジン101の運転を自動的に再開させる指示とは、例えば、公知の方法(例えば、特開2003−148206号公報に記載の方法)によって出力される。
【0037】
図3のように、メイン処理ではまず、CPU6は、ヒータ電圧供給回路50に指示を出力して、ヒータ素子40の発熱抵抗体26に12Vの電圧を印加する処理を開始させる(S10)。次に、CPU6は、Icp供給回路36に指示を出力して、Vsセル28に電流Icpを供給する処理を開始させる(S20)。次に、電圧出力回路34によって検知される電圧Vsが1.5Vよりも小さいか否かが判断され、電圧Vsが1.5V以上である場合には(S30:NO)、電圧Vsが1.5V未満になるまで待機される。電圧Vsが1.5Vより小さい場合(S30:YES)、CPU6は、インピーダンスRiを検知する処理(以下、「Ri検知処理」と言う。)を開始させる(S40)。Ri検知処理は、メイン処理とは別のルーチンに従ってCPU6が定期的に実行する。具体的には、Ri検知処理では、CPU6は、抵抗検知回路33に指示を出力して、Vsセル28に一定の電流を供給させ、それに応答して得られる電圧Vsの変化量をマイクロコンピュータ9に対して出力させる。CPU6は、抵抗検知回路33から出力された電圧Vsの変化量に基づいて、インピーダンスRiを求める。Ri検知処理は、Riに基づき、ガスセンサ1が活性化しているか否かを判断するために実行される。
【0038】
次に、CPU6は、アイドリングストップ中であるか否かを判断する(S60)。S60では、例えば、前述のアイドリングストップフラグに基づき、アイドリングストップ中であるか否かが判断される。アイドリングストップ中である場合(S60:YES)、CPU6は、目標抵抗値TRiをTRi4とするヒータPI通電制御を開始又は継続させる(S120)。具体的には、CPU6は、ヒータ電圧供給回路50に指示を出力して、目標抵抗値TRiをTRi4とするPI通電制御を開始又は継続させる。また、Ipセル27に電流Ipが供給されている場合には、CPU6は、Ip駆動回路32と、基準電圧比較回路35とに指示を出力して、Ipセル27への電流Ipの供給する処理を停止させる(S120)。次に、処理はS60に戻る。
【0039】
アイドリングストップ中ではない場合(S60:NO)、CPU6は、目標抵抗値TRiをTRi1とするヒータ通電PI制御を開始又は継続させる(S70)。具体的には、CPU6は、ヒータ電圧供給回路50に指示を出力して、目標抵抗値TRiをTRi1とするPI通電制御を開始又は継続させる。また、Ipセル27に電流Ipが供給されている場合には、CPU6は、Ip駆動回路32と、基準電圧比較回路35とに指示を出力して、Ipセル27への電流Ipの供給する処理を停止させる(S70)。次に、CPU6は、ガスセンサ1(検知素子10)が活性化したか否かを判断する(S80)。本実施形態では、CPU6は、前述のRi検知処理において検知されるRiがTRi1以下である場合に、ガスセンサ1が活性化したと判断する。ガスセンサ1が活性化していない場合には(S80:NO)、処理はS60に戻る。ガスセンサ1が活性化した場合には(S80:YES)、Aモード時の処理(二点鎖線152内の処理)が実行される。具体的には、CPU6は、Aモード制御を開始又は継続させる(S90)。S90では、CPU6は、Ip駆動回路32と、基準電圧比較回路35とに指示を出力して、Ipセル27に電流Ipを供給する処理を開始又は継続させる。また、CPU6は、ヒータ電圧供給回路50に指示を出力して、目標抵抗値TRiをTRi2とするPI通電制御を開始又は継続させる。
【0040】
次に、CPU6は、前述のRi検知処理において検知されるRiがTRi3よりも大きいか否かを判断する(S110)。S110は、Aモード制御中に、検知素子10の温度が活性化していないと判断される温度にまで低下した場合を抽出する処理である。例えば、Aモード制御中に、エンジン101(図1参照)が自動停止された場合には、排気管102(図1参照)に排気ガスが流通しなくなるため、ガスセンサ1の温度は低下する。RiがTRi3以下である場合(S110:NO)、処理はS90に戻る。RiがTRi3よりも大きい場合(S110:YES)、処理はS50に戻る。Aモード制御中に、エンジン101が自動停止された場合には、S110でRiがTRi3よりも大きくなり(S110:YES)、処理はS50に戻った後、S60において、アイドリングストップ中
であると判断される(S60:YES)。
【0041】
以上のように、CPU6は第1の実施形態のメイン処理を実行する。アイドリングストップ中であるか否かに関わらず、図3のS20の処理を実行するCPU6,及び、Icp供給回路36は、本発明の「電流供給部」に相当する。駆動モードがNAモードである場合に、図3のS60の処理を実行するCPU6は、本発明の自動停止検知部として機能する。アイドリングストップ中ではない場合に(S60:NO)、S80の処理を実行するCPU6は、本発明の活性判定部として機能する。また、S90において目標抵抗値TRiをTRi2とするヒータ素子40への通電制御を行うCPU6,及び、ヒータ電圧供給回路50は、本発明の「ヒータ制御部」として機能する。S90において、駆動モードがAモードである場合に(S80:YES,S110:NO)、Ipセル27への通電制御を開始又は継続させるCPU6,及び、Ip駆動回路32は、本発明の「通電制御部」として機能する。S120において目標抵抗値TRiをTRi4に切り替えて、ヒータ素子40への通電制御を行うCPU6,及び、ヒータ電圧供給回路50は、本発明の「第1温度切替部」として機能する。また、TRi1に対応する温度が本発明の活性判定温度、TRi2に対応する温度が本発明の第1目標温度、TRi4に対応する温度が本発明の第2目標温度に相当する。
【0042】
第1の実施形態のセンサ制御装置4によればVsセル28に対して電流Icpが供給された状態で当該Vsセル28(固体電解質体13)にブラックニングが生じる温度となる時間が一定時間以上継続されることがない。したがって、センサ制御装置4は、Vsセル28とIpセル27とを有するタイプのガスセンサ1を備える場合に、ガスセンサ1の劣化を抑制しつつ内燃機関100の自動停止(アイドリングストップ)中のヒータ素子40の消費電力を低減させることができる。
【0043】
なお、固体電解質体11,13の主成分である部分安定化ジルコニアは、一般的に、M相(モノクリニック相)と、C相(キュービック相)とT相(テトラゴナル相)とを含む複数の結晶構造の異なる相により構成されている。そして、部分安定化ジルコニアのT相は、所定条件のもと、等温的マルテンサイト態によりM相へと変態することが知られている。T相からM相への変態は、部分安定化ジルコニアが晒される雰囲気の温度が200℃付近である場合に最も早く進行し、部分安定化ジルコニアが晒される雰囲気中の水分によって促進される。したがって、T相からM相への変態が生じる温度は、部分安定化ジルコニアの相構成と、部分安定化ジルコニアが晒される雰囲気中の水分とを含む条件に応じて異なる。T相からM相への変態は体積変化を伴うことが知られており、固体電解質体11,13内でT相からM相への変態が発生した場合には,固体電解質体11,13の表面から内部へとクラックが進行し、ガスセンサ1の強度劣化が引き起こされる可能性がある。第1の実施形態では、アイドリングストップ時の目標温度を、固体電解質体11,13にブラックニングが生じない温度とするとともに、固体電解質体11,13においてT相からM相への変態が生じない温度としている。このため、センサ制御装置4は、アイドリングストップ時に目標温度を固体電解質体13の活性判定温度よりも低くすることによって、固体電解質体11,13内でT相からM相への変態が発生し、固体電解質体11,13の表面から内部へとクラックが進行することも回避することができる。
【0044】
第1の実施形態のメイン処理では、Aモード制御中にエンジン101が自動停止された場合を、S110と、S110の後に実行されるS60とによって検知していた。これに代えて、第2の実施形態のメイン処理のように、Aモード制御中に実行されるアイドリングストップを直接検知してもよい。以下、第2の実施形態のメイン処理を、図4を参照して説明する。図4のメイン処理を実行させるプログラムは、図2のROM7に記憶されており、CPU6が実行する。
【0045】
図4において、図3の第1の実施形態のメイン処理と同様の処理には、同じステップ番号を付与している。図4のように、第2の実施形態のメイン処理では、第2の実施形態では、NAモードと、Aモードと、アイドリングストップNAモード(以下、「ISモード」と言う。)とのいずれかの駆動モードの処理が実行される。ISモードは、アイドリングストップが検知されている期間中に実行される駆動モードである。第2の実施形態では、NAモードにおいて図4の二点鎖線201内の処理が実行され、Aモードにおいて二点鎖線202内の処理が実行され、ISモードにおいて二点鎖線203内の処理が実行される。図4のように、第2の実施形態のメイン処理では、S90と、S110との間にS100が実行され、S120に代えてS130が実行される点で、第1の実施形態のメイン処理と異なる。S100では、CPU6は、S60と同様にアイドリングストップ中であるか否かを判断し、アイドリングストップ中である場合には(S100:YES)、S130の処理を実行する。アイドリングストップ中ではない場合には(S100:NO)、S110の処理を実行する。S130の処理は、図3のS120と同様である。
【0046】
以上のように、CPU6は第2の実施形態のメイン処理を実行する。図4のS60及びS100の処理を実行するCPU6は、本発明の自動停止検知部として機能する。第2の実施形態のセンサ制御装置4によれば、第1の実施形態のセンサ制御装置4に比べ、Aモード制御中のアイドリングストップをより早期に検知することができる。したがって、第1の実施形態のセンサ制御装置4に比べ、アイドリングストップ中のヒータ素子40の消費電力をさらに低減させることができる。
【0047】
ところで、第1及び第2の実施形態では、アイドリングストップ中に固体電解質体13にブラックニングが発生することを、TRi3を適切に設定することによって回避していた。これに対し、第3の実施形態のように、アイドリングストップ中に電流Icpの供給を停止することによって、アイドリングストップ中に固体電解質体13にブラックニングが発生しうる状況を回避してもよい。図5を参照して、第3の実施形態のメイン処理を説明する。図5のメイン処理を実行させるプログラムは、図2のROM7に記憶されており、CPU6が実行する。
【0048】
図5において、図3の第1の実施形態のメイン処理と同様の処理には、同じステップ番号を付与している。第3の実施形態では、NAモードにおいて図5の二点鎖線301内の処理が実行され、Aモードにおいて二点鎖線302内の処理が実行される。図5のように、第3の実施形態のメイン処理では、S65と、S115とが実行される点で、第1の実施形態のメイン処理と異なる。
【0049】
アイドリングストップ中ではない場合(S60:NO)に実行されるS65では、CPU6は、Icp供給回路36に指示を出力して、Vsセル28に電流Icpを供給する処理を開始又は継続させる(S65)。アイドリングストップ中である場合(S60:YES)に実行されるS115では、CPU6は、Icp供給回路36に指示を出力して、Vsセル28に電流Icpを供給する処理を停止させる(S115)。
【0050】
以上のように、CPU6は第3の実施形態のメイン処理を実行する。第3の実施形態における図5のS20及びS65の処理を実行するCPU6,及び、Icp供給回路36は、本発明の「電流供給部」に相当する。S115の処理を実行するCPU6,Ip駆動回路32,及び、Icp供給回路36は、本発明の「電流停止部」として機能する。S120の処理を実行するCPU6,及び、ヒータ電圧供給回路50は、本発明の「第2温度切替部」として機能する。また、図5において、TRi1に対応する温度が本発明の活性判定温度、TRi2に対応する温度が本発明の第1目標温度、TRi4に対応する温度が本発明の第3目標温度に相当する。
【0051】
第3の実施形態のセンサ制御装置4によれば、内燃機関を自動停止している期間には、Ipセル27及びVsセル28への通電が停止される。このため、アイドリングストップ中のガスセンサ1の目標温度によらず、内燃機関100の自動停止中に、ブラックニングが生じることを確実に回避することができる。したがって、センサ制御装置4は、Ipセル27及びVsセル28を有するガスセンサ1を備えていても、ガスセンサ1の劣化を抑制しつつ内燃機関100の自動停止中のヒータ素子40の消費電力を低減させることができる。なお、第3の実施形態では、アイドリングストップ中にVsセル28に対する電流Icpへの通電を停止しているため、TRi4の値は活性判定温度に対応するTRi1よりも低い値であれば特に限定されないが、固体電解質体11,13においてT相からM相への変態が生じない温度に対応した抵抗値に設定されることが好ましい。
【0052】
なお、本発明は、以上詳述した第1から第3の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(1)から(3)の変形が加えられてもよい。
【0053】
(1)上記実施形態では、検知対象ガス中の特定成分のガス濃度を検知するガスセンサが、全領域空燃比センサである場合を例示したが、これに限定されない。例えば、上記実施形態の酸素ポンプセル及び酸素濃度検知セルに対して、さらにNOxを分解して酸素を汲み出す第2の酸素ポンプセルを加えた構成を有する、検知対象ガス中のNOx濃度を検知するNOxセンサに本発明が適用されてもよい。
【0054】
さらに、本発明は、酸素ポンプセル(Ipセル)及び酸素濃度検知セル(Vsセル)の2セルタイプのガスセンサに限らず、酸素濃度検知セル(Vsセル)28から構成される1セルタイプのガスセンサであって、上記実施形態と同様に、Vsセル28に微小電流Icpを電極(検知電極)22から電極(基準電極)21に供給して、電極22から電極21に向けて酸素を汲み入れるタイプのガスセンサに適用することもできる。この1セルタイプのガスセンサは、Vsセル28の一対の電極21,22間に発生する電圧(起電力)に応じて、検知対象ガス中の酸素濃度を検出するものであり、このガスセンサに接続されるセンサ制御装置は、一対の電極21,22間に発生した電圧に基づいて、排ガスの空燃比が特定空燃比を境にしてリッチかリーンかを判断する。
【0055】
このようなVsセル28から構成される1セルタイプのガスセンサにおいても、微小電流Icpを供給して電極(基準電極)21を基準酸素源に用いるようにしているため、上述した第1〜第3実施形態におけるセンサ制御装置に接続して使用に供することにより、ガスセンサ(Vsセル28)の劣化を抑制しつつ内燃機関100の自動停止(アイドリングストップ)中のヒータ素子40の消費電極を低減させるという効果を得ることができる。なお、Vsセル28の1セルから構成されるガスセンサに第1〜第3実施形態のセンサ制御装置4を接続する場合には、酸素ポンプセルを駆動する回路系を省略すると共に、各形態のメイン処理のフローチャートから酸素ポンプセルに関する処理を省略し、その他の構成は基本的に同一の構成を採ればよい。
【0056】
(2)センサ制御装置4の構成は適宜変更可能である。例えば、マイクロコンピュータ9と、ASIC30と、ヒータ電圧供給回路50とを備える制御部と、ECU3とが別体に設けられてもよい。この場合、上述のメイン処理は、制御部で実行されてもよいし、ECU3で実行されてもよい。また例えば、上記実施形態のセンサ制御装置4は、目標抵抗値TRiであるTRi1,TRi2,TRi4を用いてのヒータ素子40の通電の制御をPI通電制御で実施したが、ヒータ素子40への通電制御方法はこれに限定されず、PID通電制御等で実施してもよい。
【0057】
(3)上記メイン処理で実行される処理及びメイン処理で参照される各種変数は、適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、Vsセル28のインピーダンスに基づいて検知素子10の温度を検知しているが、Vsセル28に代えて、Ipセル27のインピーダンスに基づいて、検知素子10の温度を検知してもよい。また、ヒータ素子40を構成する発熱抵抗体26の抵抗値に基づいて、検知素子10の温度を検知してもよい。また例えば、第1及び第2の実施形態のセンサ制御装置4は、消費電力低減の観点からアイドリングストップ中にIpセル27への通電を停止していた。しかし、第1及び第2の実施形態のセンサ制御装置4は、アイドリングストップ中のヒータ素子40の目標温度に固体電解質体11と固体電解質体13との双方にブラックニングが生じない温度すれば、アイドリングストップ中にIpセル27への通電を継続してもよい。また例えば、第3の実施形態において、図4の第2の実施形態のS100のように、Aモード制御中にアイドリングスリップ中であるか否かを判断してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 ガスセンサ
3 ECU
4 センサ制御装置
6 CPU
7 ROM
9 マイクロコンピュータ
10 検知素子
11,13 固体電解質体
19,20,21,22 電極
23 検知室
30 ASIC
31 Ip検知回路
32 Ip駆動回路
33 抵抗検知回路
34 電圧出力回路
35 基準電圧比較回路
36 Icp供給回路
40 ヒータ素子
50 ヒータ電圧供給回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1固体電解質体と、前記第1固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを有し、前記検知電極と前記基準電極との間において被測定対象ガスの酸素濃度に応じた電圧を発生する酸素濃度検知セルと
を備え、内燃機関の排気管に取り付けられるガスセンサと、
前記ガスセンサを加熱するヒータと、
前記検知電極から前記第1固体電解質体を介して前記基準電極に向けて酸素を汲み込むために前記酸素濃度検知セルに電流を供給する電流供給部と、
前記ガスセンサの温度が活性判定温度以上であるか否かを判定する活性判定部と、
前記活性判定部が前記ガスセンサの温度は前記活性判定温度以上であると判定した場合に、前記活性判定温度以上の第1目標温度を前記ヒータの目標温度とする前記ヒータへの通電制御を行うヒータ制御部と
を備えたセンサ制御装置であって、
前記内燃機関の自動停止を検知する自動停止検知部と、
前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記ヒータの目標温度を、前記ガスセンサの温度を前記活性判定温度より低い温度である温度であって、温度を一定に保持した状態で前記電流供給部が前記酸素濃度検知セルに電流を供給した際に前記第1固体電解質体にブラックニングが生じる温度以外の温度である第2目標温度に切り替えて前記ヒータへの通電制御を行う第1温度切替部と
を備えたことを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサは、
前記検知対象ガスが導入される検知室と、
第2固体電解質体及び一方の電極が前記検知室に面して配置された当該第2固体電質体上に形成される一対のポンプ電極を有し、前記一対のポンプ電極間に供給される電流に応じて前記検知室の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、
を備え、前記酸素濃度測定セルの前記検知電極が前記検知室に面する一方、前記基準電極が前記検知室外に位置する構成をなしており、
さらに、前記酸素濃度検知セルにて発生した電圧に応じて前記酸素ポンプセルへの通電制御を行う通電制御部を備える
センサ制御装置。
【請求項3】
第1固体電解質体と、前記第1固体電解質体上に形成される検知電極及び基準電極とを有し、前記検知電極と前記基準電極との間において前記検知室の酸素濃度に応じた電圧を発生する酸素濃度検知セルとを備え、内燃機関の排気管に取り付けられるガスセンサと、
前記ガスセンサを加熱するヒータと、
前記検知電極から前記第1固体電解質体を介して前記基準電極に向けて酸素を汲み込むために前記酸素濃度検知セルに電流を供給する電流供給部と、

前記ガスセンサの温度が活性判定温度以上であるか否かを判定する活性判定部と、
前記活性判定部が前記ガスセンサの温度は前記活性判定温度以上であると判定した場合に、前記活性判定温度以上の第1目標温度を前記ヒータの目標温度とする前記ヒータへの通電制御を行うヒータ制御部と
を備えたセンサ制御装置であって、
前記内燃機関の自動停止を検知する自動停止検知部と、
前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記ヒータの目標温度を、前記ガスセンサの前記活性判定温度より低い第3目標温度に切り替えて前記ヒータへの通電制御を行う第2温度切替部と、
前記自動停止検知部が前記内燃機関の自動停止を検知した場合に、前記酸素濃度検知セルへの電流の供給を停止させる電流停止部と
を備えたことを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサは、
前記検知対象ガスが導入される検知室と、
第2固体電解質体及び一方の電極が前記検知室に面して配置された当該第2固体電質体上に形成される一対のポンプ電極を有し、前記一対のポンプ電極間に供給される電流に応じて前記検知室の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う酸素ポンプセルと、
を備え、前記酸素濃度測定セルの前記検知電極が前記検知室に面する一方、前記基準電極が前記検知室外に位置する構成をなしており、
さらに、前記酸素濃度検知セルにて発生した電圧に応じて前記酸素ポンプセルへの通電制御を行う通電制御部を備え、前記電流停止部は、前記酸素ポンプセル及び前記酸素濃度検知セルへの電流の供給を停止させる
センサ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−149927(P2011−149927A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259696(P2010−259696)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】