説明

センサ構造物及び検出方法

試料中の分析物60の存在を検出するためのセンサ構造物10は、分子骨格20、フェルスター共鳴エネルギ移動を介して相互作用する一対の標識40、50、及び少なくとも1つの分子認識ドメイン30を含む。分析物60に分子認識ドメイン30が結合した場合、一対の標識40、50間のフェルスター共鳴エネルギ相互作用が妨害され、その結果光学信号が変化する。


【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本出願明細書は、2004年3月17日出願の、米国仮特許出願第60/554313号(表題「新規な蛍光ナノセンサタンパク質」)の優先権を主張するものであり、この出願の開示内容全体を本明細書中に参照文献として包含する。
【0002】
背景
イムノアッセイ及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づくアッセイは、分析物検出に最も広範に用いられる技術の一部である。PCRに基づく技術の感度は一般に良好であるが、多くの研究室における日常検査に広くは採用されていない。一つの理由は、PCRを生物学的材料中の分析物の検出に用いる場合、その精度が、PCRアッセイ自体の性能、並びに試験される生物学的材料から抽出される核酸の品質に強く影響されるためである。加えて、PCRに基づく方法の検出感度は、増幅過程を妨害する可能性のある抽出物中のインヒビタによって低減される場合がある。熟練研究者が、確実に精度の高いPCR測定を実行する必要がある。
イムノアッセイは一般により廉価であり、実行するのにそれ程訓練を必要としない。イムノアッセイは様々な形式で採用されており、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、側方流イムノアッセイ、及びウェスタンブロットアッセイが最も一般的である。しかしながら、現在のELISA及びウェスタンブロット法は多数のインキュベーションステップを必要とし、オペレータエラーが発生しやすい。側方流イムノアッセイは一般に比較的迅速であるが、従来のELISAと比べて正確でない。
【0003】
Tsien等によって、分析物検出のための別の測定フォーマットが提案された。米国特許第5998204号に記述されたこの技術は、分析物結合領域及び2つの蛍光標識を有するタンパク質を利用する。分析物結合領域が分析物と結合すると高次構造の変換が起こり、それにより2つの蛍光標識が互いに位置を換える。これにより、2つの標識間の蛍光共鳴エネルギ相互作用が変化し、この変化を検出することにより分析物結合を測定する。
Frommer等は、PCT国際出願第03/025220号の中で、同様のアッセイフォーマットを提案した。このアッセイは、周辺質結合タンパク質部分及び2つの蛍光タンパク質部分を含む融合タンパク質を利用する。融合タンパク質は、分析物と結合すると高次構造を変化させ、2つの蛍光タンパク質部分の相対的位置が変化する。その際、変化した蛍光共鳴エネルギ相互作用が蛍光タンパク質部分間に誘発される。
Tsien及びFrommerにより開示されたアッセイ系は、いずれも、対象の分析物と結合すると高次構造を変化させるセンサ構造物の使用を必要とする。更に両者とも、例えば単糖類やアミノ酸類などの小さい分析物だけを検出する。従って、共鳴エネルギ移動相互作用を利用するが、分析物を検出するために高次構造を変化させなければならない構造物又は小さい分析物だけを検出する構造物に限定されない、分析物検出に更に広く使用できるアプローチが依然として必要とされている。
【0004】
概要
試料中の分析物を検出する本発明の方法は、(i)分析物と特異的に結合する分子認識ドメイン、(ii)RET供与体を含む第1標識、及び(iii)RET供与体に対するRET受容体を含む第2標識を含むセンサ構造物を使用する。RET受容体はRET供与体から、供与体から受容体へのフェルスター共鳴エネルギ移動(FRET)の発生を可能にする距離だけ離され、その距離は好ましくは約1〜25ナノメータである。センサ構造物の分子認識ドメインが分析物と結合すると、分析物がRET供与体及び/又はRET受容体に接近することによって、RET供与体とRET受容体との間のFRET相互作用が妨害され、その結果検出可能な光学信号が発生する。試料中の分析物の存在はこの光学信号の検出によって示される。
更に具体的には、本発明の方法は、センサ構造物が試料と接触する前に、センサ構造物のRET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動相互作用により発生するコントロール光学信号を測定し、その後コントロール光学信号と、センサ構造物が試料と接触した後に検出される光学信号との差異を測定する特定のステップを含むことができる。この信号とコントロール光学信号との間の差異は、試料中の分析物の量を示し、よって分析物の定量的検出を可能にする。好ましくは、センサ構造物の蛍光又は発光の強度又は減衰キネティクスの変化を光学信号として測定する。
【0005】
本方法において、RET供与体は、蛍光タンパク質、発光タンパク質、非タンパク質フルオロフォア、非タンパク質化学発光化合物、又は蛍光ナノ結晶などの、多数の蛍光又は発光部分のいずれかとすることができる。RET受容体は、RET供与体からの信号を消去する分子とすることができ、一部の実施形態においては、受容体信号の増大及び感度の増強を示す。光学信号の強度を増大するために、多数のRET供与体及びRET受容体を各センサ構造物上に含めることができる。センサ構造物自体はポリペプチドとすることができ、抗体、又は抗体のFv部分などの抗体断片を含むことができる。そのような実施形態において、分子認識ドメインはセンサ構造物のFv部分のCDR領域である。分子認識ドメインは代わりに、キレート化金属などの金属、又はオリゴヌクレオチドを含むこともできる。
センサ構造物の一部の実施形態において、分子骨格、分子認識ドメイン、及び/又は標識を別々の分子として調製し、結合させてセンサ構造物を形成することができる。例えば、分子骨格はヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドペアを含むことができ、分子認識ドメインは抗体のFv断片(V断片及びV断片を含む)の結合領域を含むことができる。この実施形態における分子認識ドメインは、キレート化金属、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ビオチン分子、又は非ペプチド酵素基質/インヒビタ分子とすることもできる。そのような実施形態におけるセンサ構造物の種々の成分は、互いに接触させると自己組織化し、RET供与体からRET受容体へのフェルスター共鳴エネルギ移動の発生を可能にする。
【0006】
本発明の上記及びその他の特徴、態様及び利点は、以下の説明、特許請求の範囲及び添付図面によって更に深く理解される。
本明細書中で特定される全ての寸法は例示のみを目的としており、限定的なものではない。更に図面中に示される比率は必ずしも正確でない。本技術分野の当業者であれば理解するように、本明細書中に開示されるあらゆる装置及び装置の部分の実際の寸法は、その使用目的によって決定される。
【0007】
詳細な説明
本発明のセンサ構造物は、2つの標識間のフェルスター共鳴エネルギ移動(FRET)相互作用を妨害することにより分析物の検出を可能にする。センサ構造物が分析物と結合すると、そのような妨害の結果異なる強度の光学信号が発生し、その信号を高感度のレシオメトリック測定又は蛍光寿命測定により検出することができる。本センサ構造物は分析物に結合すると検出可能な信号を発生するので自己信号性であり、分析物を検出するために追加の信号発生要素を含まなければならない多くの現行の検出アッセイより有利である。加えて、本発明のセンサ構造物は固体支持体に取り付ける必要がないので、本発明の方法は非競合アッセイとして溶液中で実行することができ、アッセイの処理量を増大させることができる。
【0008】
定義
本明細書中で用いる以下の用語は、使用される文脈において明らかに異なる意味が意図されていない限り、以下に規定する意味を有する。
「分析物」は、試料中の分子、化合物又はその他の成分を指す。分析物は、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、有機分子、糖又はその他炭水化物又は炭水化物ポリマー、脂質、又はビタミン、ホルモン及び疾病マーカーを含むその他の種類の分子とすることができる。分析物は、その他の分子との組み合わせで及び/又はその他の分子の一部として発生し得る。好適には、分析物はRET供与体及びRET受容体を含まない。
【0009】
「抗体」は、分析物に特異的に結合する免疫グロブリンタンパク質を指す。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgMなどの免疫グロブリンの種々のクラス及びアイソタイプを含む。「抗体断片」は、インタクトな抗体の部分を含むFab、scFv、F(ab’)及びFab’分子などの分子を指す。「抗体誘導体」は、キメラ抗体などの、付加又は置換を有する抗体又はそれらの断片を指す。抗体、抗体断片及び抗体誘導体は、人間又は動物源の雑種細胞腫から、組み換え法又は従来技術に公知の他のいずれかの方法によって誘導することができる。
「エピトープ」は、分子認識ドメインが特異的に結合する分析物の表面上の1又は複数の局在的な領域を指す。
【0010】
「蛍光」は、レーザーなどの外部光源からの電磁放射(一般的には可視光の範囲内)に曝露されることにより発生する物質からの発光を指す。定義上、蛍光には、励起放射が中止された後の物質による連続的な発光として定義されるリン光が含まれる。
「フェルスター半径」は、RET供与体とRET受容体との間の共鳴エネルギ移動の効率が50%である距離を指す(即ち、励起された供与体のスペクトル発光の50%がFRET相互作用により減光される)。
【0011】
「FRET」、「FRET相互作用」及び類似語は、RET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動、並びに厳密にはフェルスターの理論に従わない類似型のエネルギ移動、例えば非オーバラップ受容体を用いる際の非オーバラップエネルギ移動を指す(例えば、Anal. Chem 2005, 77:1483-1487参照)。
「FRET比」(図7A〜7I中において記号「R」で示される)は、センサ構造物が最適なRET供与体励起波長(λmax)で励起される場合の、蛍光RET供与体及び蛍光RET受容体の各発光ピークにおける定常状態の蛍光強度の比率を指す。「標識」は検出可能な信号を提供できる分子又は部分を指す。本発明のセンサ構造物及び方法において、標識はRET供与体又はRET受容体であり、信号は電磁信号(例えば光学信号)である。
【0012】
「発光」は、非熱源からの、即ち熱い白熱体以外のものからの、光の生成及び放出を指す。発光の種類は複数あり、例えばそれぞれ化学反応及び生化学反応によって生成される化学発光及び生物発光がある。発光に蛍光は含まれない。
「部分」は対象の特性を有する分子の部分を指す。
【0013】
「分子認識ドメイン」又は「MRD」は、分析物と特異的に結合することができる分子又は部分を指す。MRDの例としては、抗体結合ドメイン(即ちCDR領域)、抗原エピトープ(例えば抗体を検出する場合の)、キレート化金属、オリゴヌクレオチド、ペプチド及びホルモンレセプターが挙げられる。
球状タンパク質又はペプチドに関する「分子サイズ」は分子の水力学的半径を指す。
【0014】
「オリゴヌクレオチド」は、5〜200個、通常約20〜100個、好ましくは約30個のヌクレオチドの鎖を指す。
「ペプチド」は、50個以下の結合アミノ酸を含む分子を指す。
「ポリヌクレオチド」は、2個以上の結合核酸を含む分子を指す。ポリヌクレオチドには、核酸と共に、置換及び付加を有する核酸分子が含まれる。
【0015】
「ポリペプチド」は、2個以上の結合アミノ酸を含む分子を指す。
「タンパク質」は、50個を超える結合アミノ酸を含む分子を指す。
「レシオメトリック法」は、RET供与体からの蛍光とRET受容体からの蛍光との比率を測定することによって試料中の分析物の量を決定する方法を指す。レシオメトリック測定は蛍光測定器を用いて行うことができる。
【0016】
「RET供与体」は、フェルスター共鳴エネルギ移動を介してRET受容体と相互作用できる蛍光又は発光性の部分又は分子を指す。
「RET受容体」は、RET受容体の蛍光を増大させること及び/又はRET供与体からの信号を消去することにより、フェルスター共鳴エネルギ移動を介してRET供与体と相互作用することができる部分又は分子を指す。
【0017】
「センサ構造物」は、分析物がセンサ構造物に結合する結果として試料中の分析物の存在を示す検出可能な信号を提供できる分子、又はまとまって機能するサブユニットを含む分子の集合を指す。
分析物と分子認識ドメインとの間の相互作用に関する「特異的結合」又は「特異的に結合する」という表現は、分子認識ドメインが、特定のアッセイの条件下で、分析物に付着し、試料中の他の成分には付着しないことを意味する。MRDによる比較的少量の非特異的結合は一部のアッセイでは許容されるが、アッセイの結果を解釈する際には考慮して、間違った陽性の結果又は不正確な定量データに繋がらないようにする。分子認識ドメインは、場合によっては分子の特定の群又はクラスと結合することができ、その場合も、例えばMRDが分子の群に共通のエピトープと結合する場合、上記の分子と特異的に結合するとみなされる。分子認識ドメインによる分析物の結合は可逆的であってよく、即ち分析物は、分析物又は特異的結合のパートナーを構造的に変化させることなく特異的結合のパートナーから分離することができるか、又は、例えばビオチンとアビジンとの間の結合のように不可逆的であってもよい。
【0018】
「特異的エピトープ結合」「エピトープと特異的に結合する」、及び同様の表現は、分子認識ドメインが、分析物の特定のエピトープに付着することを指す。そのような結合は、分子認識ドメインと特定のエピトープとの間だけで起こるが、一部のアッセイでは少量の非特異的結合が許容され、例えばオリゴヌクレオチドが、複数の不適正塩基対を有する別のオリゴヌクレオチドに結合し得るか、又は抗体結合ドメインが分析物のアイソフォームに結合し得る。特異的なエピトープ結合には、分析物と多数の異なる分子との間で起こり得る結合相互作用、例えばキレート化剤と多数の異なる金属のいずれかとの間のイオン結合は含まれない。しかしながら、分子認識ドメインは、分子の特定の群又はクラス上の同じエピトープと結合する場合、特異的エピトープ結合を示すと言える。例えば、抗体の1つのクラスのFc領域にMRDを方向付けることができ、それによりMRDはその特定のクラスの多数の異なる抗体と特異的に結合する。
本明細書中で用いる「含む」及び同義の表現は、他の添加剤、成分、整数又はステップの排除を意図しない。本明細書中で数を明記せずに用いられる名詞は、文脈において特に別の意味を示していない限り、単数と複数の両方を包含する。
【0019】
FRET
フェルスター共鳴エネルギ移動(FRET)は、分析物を検出する本発明の方法に利用される物理的原理である。FRETは、通常は励起状態の蛍光又は発光部分であるRET供与体から、別の励起可能な部分であるRET受容体への、非放射性双極子−双極子相互作用によるエネルギ移動である。RET供与体−受容体ペアは、本センサ構造物が、供与体と受容体との間でのFRET相互作用を確実に可能とするように選択される。供与体の発光スペクトルは、一般に受容体の発光スペクトルより短い波長を有する(即ち、供与体の最適発光波長の最大値(λmax)は、受容体の同値より短い)。伝統的なFRETにおいては、供与体の発光スペクトルと受容体の吸収スペクトルとはある程度重ならねばならない。しかしながら、ランタニドキレート供与体及び非オーバラップ受容体に基づく反ストークシフトFRETの場合のように、この法則には例外がある(例えば、Anal. Chem. 2005 Mar 1;77(5):1483-7参照)。
加えて、FRET相互作用が起こるためには、センサ構造物上でRET供与体とRET受容体が非常に接近して位置しなければならない。一般に、FRETは供与体と受容体との隔たりが10ナノメータ未満の場合に発生するものと見られるが、FRETは供与体と受容体との間の分子間距離が25ナノメータでも検出されている(例えば、J. Am. Chem,. Soc. 2005 Mar 9; 127(9):3115-3119参照)。フェルスターの理論によれば、エネルギ移動効率は供与体と受容体との間の媒体の屈折率、エネルギ供与体による蛍光/発光放出に対する速度定数、及び受容体不存在下における供与体の量子収率にも依存する。異なる供与体と受容体のペアは異なるフェルスター半径を有するので、本発明のセンサ構造物のRET供与体とRET受容体との間のFRET相互作用により発生する光学信号の強度は、供与体及び受容体の同一性に依存する。
【0020】
RET供与体が励起状態にあり、供与体と受容体との間でFRET相互作用が起こるとき、供与体の蛍光又は発光は消光される(即ち、総発光量が低減される)。一部のRET受容体では、発光はRET供与体からのエネルギ吸収又はエネルギ移動により引き起こされ、その結果受容体が発光する。消光剤として公知の他の受容体は、RET供与体から吸収したエネルギを散逸し、発光しない(又は非常に弱く発光する)。
本方法におけるFRET相互作用は、従来技術に公知の標準法を用いて、センサ構造物の定常状態の又は時間分解の蛍光又は発光を測定することにより検出することができる(例えば、Curr. Opin. Chem. Biol. 2003 Oct;7(5):635-40参照)。例えば、RET受容体の蛍光、RET供与体の蛍光又は発光の消光、又はそれらの両方を測定することができる。RET受容体として消光剤が用いられる場合、通常供与体の発光の消光が測定される。本方法では、RET供与体とRET受容体との間に期待されるFRET相互作用が妨害されることにより、試料中の分析物の存在が示される。
【0021】
センサ構造物の構成要素
図1に示すように、本発明のセンサ構造物10は、3つの主要な要素、即ち分子骨格20、分子認識ドメイン30、及びフェルスター共鳴エネルギ移動を介して相互作用可能な一対の標識40、50を含む。標識40、50は分子骨格20に十分接近して固定されているので、センサ構造物10のMRD30に結合する分析物60が存在しない場合、フェルスター共鳴エネルギ移動を介して相互作用可能である。分子認識ドメイン30は、分子骨格20又は標識の一方(40又は50)に組み込まれるか又は固定されており、よって分析物60の分子認識ドメイン30への結合により標識40、50のペアの間のフェルスター共鳴エネルギ移動が妨害される。図1に示すように、一実施形態では、MRD30が分析物60に結合すると分析物が2つの標識40、50の間に挿入される。
【0022】
分子認識ドメイン
検出する分析物に応じて多数の異なる種類のMRDを本センサ構造物に用いることができる。一実施形態において、MRDは抗体の結合ドメイン、即ちCDR領域である。場合によっては、抗体のCDR3部分などのCDR領域の一部分がMRDとして機能することができる。抗体結合ドメインがMRDである場合、それは完全な抗体の一部分であってよく、その場合、分析物の単一エピトープに対する抗体を用いることが好ましい。従来技術に公知であるように、そのような抗体は雑種細胞腫法を用いて作製されるモノクローナル抗体とすることができるか、又は組み換え法で作製することができる。或いは、ポリクローナル抗体をMRDとして用いて分析物を検出することができる。
MRDはまた、特異的な結合特性を保持する抗体断片に含めることもできる。そのような断片は、例えば、抗体のFc部分を欠く抗体断片、例えばFab、Fab’及びF(ab’)断片とすることができる。Fab及びF(ab’)断片は、従来技術に公知の方法、例えばパパイン、トリプシン、フィシン及び/又はペプシンなどのタンパク質分解酵素を用いてモノクローナル抗体を切断することにより作製することができる。Fab’断片は、ジチオスレイトール又はメルカプトエタノールなどの薬剤を用いるF(ab’)断片の還元性切断により作製することができる。同様に、抗体結合領域全体を単一ポリペプチド鎖中に組み込む一本鎖Fv(scFv)抗体は、インタクトな抗体の重鎖成分を結合するジスルフィド結合の還元性切断により得ることができる。好適な一実施形態では、抗体断片は別法として組み換え法を用いて作製することができる。
【0023】
抗体の結合部分を含むMRDは、多数の方法で分子骨格中に組み込むことができる。一実施形態では、抗体結合領域を含む抗体又はその部分は、分子骨格から独立して作製し、その後骨格に付着させる。例えば、ビオチン部分を有する抗体は、適切な位置に付加したアビジン部分を有する分子骨格に付着させることができる。好適な一実施形態では、分子骨格は組み換え法で作製されるタンパク質を含んで成り、MRDは分子骨格中に組み込まれる抗体の結合部分である。このようにして、分子骨格及びMRDは一緒に作製することができ、MRDを分子骨格に付着させるための追加のステップは必要ない。
代替的な一実施形態において、MRDは、金属結合剤を捕捉するためのキレート化金属、例えばニッケルとすることができる。この実施形態において、好適には、金属は、分子骨格又は標識に化学的に結合する金属キレート化基(例えばニトリロ三酢酸基など)を介してセンサ構造物にキレート結合されることにより分子骨格に結合する。好適には、検出対象の分析物は、Hisタグ、つまりペプチド又はタンパク質のN又はC末端近傍に複数(通常5又は6)のヒスチジン残基を付けたペプチド又はタンパク質である。
【0024】
或いは、MRDは、他のポリペプチド又は場合によっては非ペプチドに結合するペプチドでもよい。現行の組み合わせペプチドライブラリスクリーニング技術により、様々な分子と結合する独特のペプチドを選択することが可能である(例えば、Science. 1990 Jul 27;249(4967):404-6参照)。ペプチドMRDはセンサ構造物の分子骨格又は標識に組み込むことができる。
MRDが、他の種類の特異的結合分子を含むことも可能である。例えば、MRDは、相補的な配列を有するポリヌクレオチドを検出するためのオリゴヌクレオチドとすることができる。アプタマーと称される特定のDNA/RNA MRDがタンパク質と結合することができ、従ってタンパク質分析物の検出に有用である。MRDはまた、例えば試料中の抗体の存在を検出するために、一般にイムノアッセイ用の抗原とみなされる部分を含むこともできる。一実施形態において、試料は血漿又は血液を含むことができ、MRDを抗HIV抗体に対するペプチドエピトープとすることにより、抗HIV抗体の存在を検出することができる。
本技術分野の当業者であれば理解するように、特異的結合ペア(例えば、抗体と抗原)のいずれのメンバーも、分子認識ドメインを含むことができる。特異的結合ペアには、炭水化物とレクチン、ビオチンとアビジン、葉酸と葉酸塩結合タンパク質、ビタミンB12と内因子、及びタンパク質A又はタンパク質Gと免疫グロブリン、が含まれる。
【0025】
標識
本発明のセンサ構造物に、様々な標識をRET供与体及び/又はRET受容体として用いることができる。RET供与体及びRET受容体の両方を蛍光標識とし、それらにフルオレッセイン、ローダミン、クマリン、及びそれらの誘導体などの色素を含めることができる。FRET中の供与体としてランタニド(希土類元素)原子を、受容体として従来の有機色素を用いることも可能である(例えば、Nat. Struct. Biol. 2000 Sep;7(9):730-4参照)。更に蛍光色素を下記表1にまとめる。これらはみな市販のものである(例えば、Sigma Chemical(ミズーリ州セントルイス)製)。
表1.蛍光標識

【0026】
蛍光標識には、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質も含まれる。GFPは、オワンクラゲから単離された自発性蛍光タンパク質であり、多数のGFP変異体(青色シフトしたもの及び赤色シフトしたものの両方)が開発された。そのような変異体又は誘導体は、天然GFP配列に置換、付加及び/又は削除を加えた分子を含む。GFP変異体にはBFP(青色)、CFP(シアン)及びYFP(黄色)に加え、EGFP、ECFP及びEYFPなどの、前記の分子の更に変異度の高い変異体が含まれる。GFPがフルオロフォアの1つである場合、ローダミン又はマリナブルー(Molecular Probes(オレゴン州ユージーン)製)がFRETペアの他方のパートナーとして有利に使用される。加えて、礁珊瑚の種属から得られる多数の赤色蛍光タンパク質(RFP)及びそれらをエンジニアリングした変異体も使用できる。
蛍光タンパク質は、MRD及び/又は分子骨格を組み換え法で作製する場合、本センサ構造物中のRET供与体及びRET受容体として有利に使用される。この場合、RET供与体及びRET受容体は、分子骨格及び/又はMRDと一緒に単一ポリペプチド分子として作製することができ、分子上へのRET供与体及びRET受容体の配置を精密に制御することができる。
【0027】
本センサ構造物の標識として用いることが可能なその他の蛍光化合物には、量子ドットとも称されるナノ結晶が含まれる。量子ドット(QD)は、その蛍光発光波長が結晶のサイズに比例する半導体ナノ結晶である。量子ドットは化合物の励起子ボーア半径のオーダーの直径を有し、通常2〜10ナノメータの幅を有する。それらは一般に2つの元素、即ち周期律表の2つの属、第2属と第6属、第3属と第5属又は第4属と第6属の各々から1つずつ選ばれる2つの元素から形成される化合物を含む。材料の例としてはCdSe、ZnS及びPbSeが挙げられる。量子ドットの外表面は有機分子に容易に接合させることができるので、本センサ構造物の分子骨格などの他の部分への付着が促進される。
一部の実施形態において、センサ構造物のRET供与体は、蛍光部分の代わりに発光部分を含むことができる。例えば、RET供与体は、基質であるセレンテラジンに作用すると光を発生させるルシフェラーゼを含むことができる。YFP及びGFPなどの蛍光分子はルシフェラーゼと共にRET受容体として作用することができる。ルシフェラーゼ又はエクオリンなどの生物学的に誘導された化合物をRET供与体として用いることをしばしばBRET(生物発光共鳴エネルギ移動)と称する。
【0028】
化学発光部分などの他の発光部分もまた、RET供与体として用いることができる。例えば、ルミノール(5−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジン−ジオン)は、ルミノールを酸化する過ホウ酸塩、過マンガン酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素又は過酸化水素などの塩基性溶液に曝されると緑青光を発する化学発光化合物である。他の発光部分には、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)シュウ酸(TCPO)及びビス(2−(3,6,9−トリオアデカニルオキシカルボニル)−4−ニトロフェニル)シュウ酸(TDPO)などの過オキシシュウ酸塩化学発光団が含まれる。
加えて、本発明の方法の一部の実施形態では、消光剤をRET受容体として用いることができる。DABCYL、BHQ又はQSY色素(例えば、Molecular Probes(オレゴン州ユージーン)が販売するQSY7、QSY9、QSY21、QSY35)などの消光剤を用いることにより、直接的(即ち非FRET)受容体励起の結果として生じるバックグラウンド蛍光という潜在的な問題を有利に排除できる。
【0029】
分子骨格
本発明の分子骨格は、RET供与体、RET受容体及びMRDに結合し、これらの部分を互いに特定の空間的相関関係に維持する。RET供与体とRET受容体とは、MRDに結合する分析物の不存在下で、供与体と受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ相互作用を可能にする距離内になければならない。RET供与体、RET受容体及びMRDはまた、FRET相互作用を促進するために正しい双極子配向に保持しなければならない(例えば、Stryer L., Fluorescence energy transfer as a spectroscopic ruler, Annu. Rev. Biochem., 47:819-46 (1978)参照)。MRDは更に、好ましくは分子骨格により保持され、それによって分析物と結合するときMRDにより結合した分析物又は少なくともその一部がRET供与体とRET受容体との間に挿入され、その際供与体と受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ相互作用を妨害する。分析物の検出を可能にするために、本センサ構造物中の分子骨格の高次構造を変化させる必要はない。
標識及びMRDと結合可能な様々に異なる分子を、本センサ構造物の分子骨格として用いることができる。例えば、ペプチド、タンパク質、炭水化物及び有機分子、並びに、核酸など上記分子の組み合わせを含む分子は、本センサ構造物の分子骨格部分として用いることができる。一実施形態において、分子骨格は、Fv部分などの、抗体、抗体断片又は抗体誘導体を含むタンパク質である。Fv部分は、好ましくは柔軟性のリンカーにより安定化されて一本鎖Fv(scFv)を形成するか、又はヘテロ二量体コイルドコイルにより安定化され、らせん体安定化Fv(hsFv)を形成するVH断片及びVL断片を含む。
【0030】
別の実施形態において、分子骨格は、周辺質結合タンパク質などのタンパク質を含む。そのようなタンパク質の1つがマルトース結合タンパク質(MBP)である。GFP及びYFPなどの標識は、それぞれMBPのN末端及びC末端に付着すると、フェルスター共鳴エネルギ相互作用を介して相互作用することができる。
分子骨格として小分子に結合すると高次構造を変化させる、MBP又はその他同様のタンパク質などの周辺質結合タンパク質を用いる場合、そのような高次構造の変化を利用して本アッセイの感度を高めることができるが、そのような高次構造の変化は本センサ構造物を用いた分析物の検出に必須ではない。マルトースの存在下で、MBPは蝶つがい屈曲様の高次構造の変化を受け、それによりRET供与体及びRET受容体を接近させることができ、結果として検出可能なFRET相互作用が起こる。しかしながら、MRDに結合する標的分析物の存在下ではこのFRET効果は低減する。
その他の種類の分子骨格も、本センサ構造物の形成に用いることができる。例えば、ヘテロ二量体コイルドコイルを使用して、MRD及び標識を提供することができる。或いは、米国特許第5945526号に記載されているような有機化合物を含む剛性リンカーを使用してRET供与体、RET受容体及びMRDを保持することができる。ポリヌクレオチド分子もまた、分子骨格として用いることができる。
【0031】
標識の結合
RET供与体、RET受容体及びMRDは、分子骨格の種類に応じて様々な方法で分子骨格に付着させることができる。分子骨格及び/又はMRDが組み換え法を用いて作製したタンパク質である場合、蛍光又は発光タンパク質(GFP及びルシフェラーゼなどの)を有利に組み換えタンパク質に組み込み、分子骨格又はMRDと一緒に単一分子として作製することができる。例えば、ヘキサヒスチジンタグは、分子骨格又はMRDを含むタンパク質中に含めることができる。このことにより、センサ構造物の簡便な金属親和性精製が可能となるばかりでなく、Ni-NTA接合フルオロフォアを用いたヒスチジンタグの標識が可能となる(例えば、Kapanidis AN, Ebright YW, Ebright RH, Site-specific incorporation of fluorescent probes into protein: hexahistidine-tag-mediated fluorescent labeling with (Ni(2+):nitrilotriacetic Acid (n)-fluorochrome conjugates, J. Am. Chem. Soc. 2001 Dec 5;123(48):12123-5参照)。
タンパク質の部位特異的標識の別の方法では、チオール反応性試薬を用いたシステイン特異的標識を使用する。部位特異的突然変異誘発は、scFv部分などのタンパク質中にN末端システインを導入するために用いることが可能である(例えば、Gentle等、Direct production of proteins with N-terminal cysteine for site-specific conjugation, Bioconjug. Chem., 15:658-663(2004)参照)。この時、scFv部分のアミノ末端の部位特異的標識は、チオール反応性蛍光プローブ又は消光剤プローブを組み込むための化学的結合法を用いて達成することが可能である(例えば、Dawson等、Synthesis of proteins by native chemical ligation, Science, 266:776-779(1994)参照)。幅広いチオール反応性フルオロフォアが市販されている。或いは、チオール反応性蛍光オリゴヌクレオチドプローブを、チオール反応性オリゴヌクレオチド中にフルオロフォアの多数のコピーを導入するための市販のキットを用いて作製することができ、そのようなチオール反応性蛍光オリゴヌクレオチドプローブを使用して、N末端システインなどのシステイン部分を標識することができる(例えば、Tung, CH 及び Stein, S, Preparation and applications of peptide oligonucleotide conjugates, Bioconjug. Chem., 11:605-618 (2000)参照)。
【0032】
分子骨格が抗体、抗体断片又は抗体誘導体を含む場合、標識は、タンパク質L、タンパク質A及び/又はタンパク質Gなどの特異的結合部分を用いることにより特異的に付着させることができる。タンパク質L(ペプトストレプトコッカスマグヌスから元々単離されている)は、免疫グロブリンの軽鎖(VL)のフレームワーク領域に結合する。タンパク質Lの単一領域(PpL)はまた、VLのフレームワーク領域への強い結合を示し、抗原結合に影響を及ぼすことなくVLに結合できる。ブドウ球菌タンパク質AのEドメイン(SPA−E)は、やはり分析物結合に影響を及ぼすことなくVHのフレームワーク領域に強く結合する。VL領域のアミノ末端とVH領域のアミノ末端は、FRETの発生を可能にする距離内にあり(約3nm〜4nm)、従ってセンサ構造物を構成する標識に結合する適切な位置にある。
この実施形態において、PpL及びSPA−Eを大腸菌中に発現させて精製し、各々RET供与体及び受容体を用いて標識することができる。抗体、抗体断片又は抗体誘導体と接触すると、標識されたPpL分子及びSPA−E分子はそれらに結合し、その際これらの分子を標識する。分子骨格に標識を付着させるその他の方法も可能である。例えば、標識は従来の化学的結合反応を用いて分子骨格に付着させることができ、よって標識が分子骨格に共有結合性に付着する。
分子骨格がポリヌクレオチドである場合、色素−ホスホラミダイトを用いる合成の間、標識をポリヌクレオチドの配列中に直接組み込むことができ、ポリヌクレオチドは合成の間にヌクレオチドホスホラミダイトに置換される。ポリヌクレオチド中に蛍光色素を組み込むその他の方法も従来技術に公知である。
【0033】
図3に示すように、接着によってMRDと分析物との結合が妨害されない限り、標識(即ち図3の標識40)は、分子骨格に直接付着させずにMRD30に直接付着させることができる。そのような接着はまた、分析物とMRD30との結合の前にRET供与体とRET受容体との間のFRET相互作用を妨害するものであってはならない。
一部の実施形態において、センサ構造物中に複数のRET供与体部分及び/又は複数のRET受容体部分を含めることが有利である。図4Aに示すように、複数のRET供与体42、44及び46を標識40上に設け、複数のRET受容体52、54及び56をRET受容体50上に設ける。センサ構造物10中に複数のRET供与体及びRET受容体を用いることにより、本センサ構造物により発生する光学信号の強度を増大することができる。
【0034】
センサ構造物
多種多様な分子認識ドメイン、標識及び分子骨格を組み合わせて本センサ構造物を形成することができる。本明細書に記載のポリペプチドセンサ構造物を設計する場合、ディープビュー/スイスPDBビューア(http://www.expasy.org/spdbv/から入手可能)などの分子モデリングツールをタンパク質構造の観察及び操作に用いることができる。ドック5.0などのプログラム(Molecular Design Institute, University of California(サンフランシスコ)から入手可能)は分子ドッキングに用いることができ、インタプレTS(http://www.russell.embl.de/interprets/から入手可能)はタンパク質相互作用の分析に用いることができる。そのようなツールを用いるためのタンパク質の構造は、例えばRCSBタンパク質データバンク(http://pdbbeta.rcsb.org/pdb/から入手可能)から得ることができる。
一実施形態において、MRDをセンサ構造物の標識の1つに付着させることができる。図2に示すように、MRD30を標識40に付着させる。有利には、標識とMRDとはポリペプチドであり、単一分子として一緒に作製される。図2に示す実施形態において、MRD30は標識40のN末端に付着させる。例示された実施形態では、標識40は、ポリペプチド分子骨格20のN末端に付着している。この場合、分子骨格20はMBPとすることができる。更なるタンパク質標識50を分子骨格20のC末端に付着させる。同様の実施形態を図2Aに示す。この場合、MRD30は、ポリペプチド標識40の配列中に挿入されたペプチドループである。
【0035】
図3に示す別のアプローチにおいて、ポリペプチド分子骨格20(例えばマルトース結合タンパク質)の両末端は各々、GFPなどの標識50及びscFv又はその他の抗体断片などのポリペプチド分子認識ドメイン30を含む分子に、組み換えDNA法を用いて融着されている。この場合、MRD30を含む分子は標識40を用いて標識されている。標識はローダミンなどのフルオロフォアとすることができる。ペプチド及び場合によってはタンパク質領域も含むMRDは、MBPのヌクレオチド配列の一定の部位に挿入することもでき、そのような融合タンパク質は、MBPのマルトース結合能に影響を及ぼすことなく、組み換え法により発現させることが可能である(例えば、Betton等、Location of tolerated insertions/deletions in the structure of the maltose binding protein, FEBS Lett. 325(1-2):34-8(1993)及びGuntas Ostermeier, Creation of an allosteric enzyme by domain insertion, J Mol Biol. 336(1):263-73(2004)参照)。或いは、MRD30は、MBPの特定の位置に化学的に結合することができる。
図3Aに更なるアプローチを例示する。この実施形態においては、MRD30を分子骨格20に直接付着させる。MRDは上述のように分子骨格に付着させることができる。図3Aは更に分析物60のMRD30への結合を示す。
【0036】
本発明のセンサ構造物10の一部の実施形態において、構造物は別々の分子から形成し、それらを互いに付着させるか又は結合してセンサ構造物10を形成することができる。例えば、図に示すように、本センサ構造物10の分子骨格20及び/又はMRD30は、一実施形態において、別々に作製された後で組み合わされる2つの分子を含むことができる。このことは、2つの分子の一方にRET供与体を、他方にRET受容体を付着させることができるという利点を有し、これにより、標識の、分子骨格及び/又はMRDの部分への結合をよりよく制御できる。2つの別々の分子から自己組織化センサ構造物を作製する1つの方法は、WinZip−A2B1などのヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチド部分を利用することである(例えば、J Mol Biol. 2000 Jan 21:295(3):627-39参照)。図4に示すように、WinZip−A2などのヘテロ二量体コイルドコイル部分70が分子骨格20の一部分22に付着し、第1のコイルドコイル部分70に特異的に結合する別のコイルドコイル部分80(例えばWinZip−B1)が分子骨格20の他の部分24に付着すると、コイル70及びコイル80は結合して分子骨格20の別々の部分22及び24を連結し、MRD30を形成する。そのようなコイルは、図4及び4Aに例示される短鎖ペプチドリンカー26及び28などのリンカーを介して分子骨格部分に連結することができる。
この実施形態を含む1つの特定の分子は、そのFab断片のCH1及びCLドメインがヘテロ二量体コイルドコイル(WinZip−A2B1又はE/Kコイルドコイルポリペプチドなど)で置換された、らせん体安定化組み換えFvである。分子骨格の1つの部分がWinZipA2に付着したFv断片のVH領域を含み、他の部分はWinZipB1に付着したVL領域を含む。これら両方の部分は、遺伝的融合及び従来技術に公知の標準組み換え法により作製することができる。VH及びVL部分が互いに接触して配置されると、それらは自己組織化してセンサ構造物を形成する。
【0037】
図5A、5B及び6に示す関連実施形態において、分子骨格20は、コイルドコイルポリペプチドペアなどの、互いに特異的に結合する2つの部分を含むことができる。図5A及び5Bに示す実施形態では、第1コイルドコイルポリペプチドパートナー70を、リンカー26により標識40に付着させる。この分子には特異的結合領域27も含まれる。リンカー28を介して第2コイルドコイルポリペプチドパートナー80を標識50に付着させ、これら2つのコイルドコイルパートナーを互いに接触させるとそれらは互いに特異的に結合する。MRD30は特異的結合領域27のパートナー25に付着し、特異的結合領域27と接触すると同様にそれと結合する。図5Bに示すように、MRD30が特異的に結合するエピトープ62を含む分析物60が、センサ構造物10のこの実施形態を含む別の分子と接触すると、MRD30に結合した分析物60は結合パートナー25及び27を介して構造物に付着し、標識40と標識50との間のFRET相互作用を妨害するか又は変化させる。
本センサ構造物10の更に別の実施形態では、図6に示すように、MRDは標識40も付着する第1特異的結合分子25に付着させることができる。第2標識50(図6では量子ドットとして示す)は、特異的結合分子25の結合パートナー27に付着させる。特異的結合パートナー25及び27は互いに接触すると結合して分子骨格20を形成する。
【0038】
測定方法
本センサ構造物は、細胞、ウイルス、抗体及びタンパク質など、特に約1nm〜約25nm、より好ましくは約3nm〜約6nmの分子サイズを有する分析物などの、大きな標的分析物を検出するのに適している。従って、本センサ構造物は診断的アッセイに有利に用いられる。例えば、ある病状を有する可能性がある人の試験を、本センサ構造物を用いて行うことができ、これは当該患者から採取された試料(例えば唾液、尿、細胞質、血清、血液又はその他組織)を、本センサ構造物を含む溶液と接触させることにより行う。センサ構造物は試料中に存在すると思われる状態を示す指標と結合する。試料中の指標のセンサ構造物への結合が適切なレベルの信号強度で検出される場合、その患者はその状態を有していると診断することができる。精製されるか、或いはアリコート又はバッチに分注された実験材料又は製造材料の試料を試験して、特定のアリコート又はバッチ中の所望の材料の存在を決定することもできる。例えば、クロマトグラフィー分離からの溶出物の画分を試験して、いずれの画分が溶液中に対象の分析物を含むかを決定することができる。環境試料などのその他の試料も本方法に従って試験することができ、それにより例えばそのような試料中の望ましくない混入物を検出することができる。
好ましくは、本方法に従って行われるアッセイは非競合アッセイであり、センサ構造物が分析物との結合に直接応答して信号を発生させる。試料をセンサ構造物に接触させた後、センサ構造物からの光学信号を測定する。センサ構造物のRET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動相互作用の妨害が検出される場合、対象の分析物が試料中に存在することが示される。好ましくは、センサ構造物のRET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動相互作用により発生するコントロール光学信号を測定するために、センサ構造物に試料を接触させる前にセンサ構造物を含む溶液からの光学信号を取得する。コントロール光学信号と試料溶液中で測定される光学信号との差異を使用して、試料中に存在する分析物の量を定量することができる。レシオメトリック法は、従来技術に公知であるように、この定量を行うために用いることができる。この目的のために、センサ構造物からの発光の強度変化及び/又はセンサ構造物から発せられる光学信号の減衰キネティックスの変化を測定することができる。また、従来技術に公知であるように、ランタニドなどの長寿命のRET供与体を用いる場合、時間分解法を利用することができる。
【0039】
本方法の1つの利点は、センサ構造物を固体支持体に付着させることなく、溶液中で実施できることである。これにより、従来のELISAなどの固体相アッセイに必要な多数の結合ステップ及び洗浄ステップを避けることができ、従ってオペレータエラーの可能性を低減すると同時にアッセイの処理量を大幅に増大させることができる。本構造物は、必要に応じて、マイクロタイターウェル又はマイクロアレイなどの固体支持体に取り付けることもできる。本センサ構造物を固体支持体に取り付ける場合、種々の分析物に特異的な複数のセンサ構造物を、固体支持体上の個別の位置、例えばマイクロアレイに配置することができる。試料に含まれる特定の分析物の存在は、特定の分析物と結合するセンサ構造物が結合する支持体上の個別の位置からの適切な光学信号により示される。このようにして、単一試料により複数の分析物の存在を試験することができる。
本方法のこの実施形態に多種多様な固体支持体を用いることができる。適切な固体支持体には、プレート、ウェル、膜及び繊維が含まれる。例えば、固体支持体は、粒子、マイクロアレイ、マイクロタイターウェル、導波管又は毛細管とすることができる。固体支持体は、本センサ構造物が結合でき、且つMRDの分析物への結合又はRET供与体とRET受容体との間のFRET相互作用を妨害しない、あらゆる材料から製造することができる。適切な材料には、ニトロセルロース、ガラス、並びに、ナイロン、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアミド及びポリビニルクロライドを含む多数の合成ポリマーが含まれる。
【0040】
本センサ構造物は、従来技術に公知の方法で固体支持体に結合することができる。例えば、固体支持体がシリカ表面を有する粒子である場合、シアノシラン結合剤を用いることができる(例えば、Falipou等、New use of cyanosilane coupling agent for direct binding of antibodies to silica supports, Bioconjug. Chem., 10:346-353 (1999)参照)。マイクロアレイフォーマットについては、市販のマルチウェルガラスマイクロアレイスライド上にセンサ構造物を点状に配列することができる。ウェルは、マイクロアレイを作製するためにピンツール型マイクロアレイ作製器を用いる疎水性コーティング(Erie Scientific(ニューハンプシャー州ポーツマス)から入手可能)を使用して作製できる。
フルオロフォアを励起し、本センサ構造物により発生する光学信号を検知及び測定するための種々のシステムが従来技術に公知である。例えば、広視野蛍光顕微鏡法及びレーザー走査共焦点顕微鏡法(LSCM)を用いることができる。
【0041】
キット
一実施形態では、本センサ構造物は、分析物検出用キットに含めて提供することができる。例えば、そのようなキットは、抗体のFv部分を含むポリペプチド、タンパク質AのEドメインを含むポリペプチドに結合したRET供与体を含む第1標識、及びタンパク質Lの結合ドメインを含むポリペプチドに結合したRET受容体を含む第2標識を含むことができる。これら別々の成分を溶液中で組み合わせると、第1標識はタンパク質Aドメインを介してFv部分のVH部分に結合し、第2標識はタンパク質Lドメインを介してFv部分のVL部分に結合する。或いは、第1標識がRET受容体を含み、第2標識がRET供与体を含むことができる。
更なる実施形態において、そのようなキットは、ヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドにリンクするRET供与体を含む第1標識、及び第1標識のコイルドコイルポリペプチドに特異的に結合するヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチド及びRET受容体を含む第2標識を含むことができる。この実施形態のキットは、第1標識、第2標識、又はその両方に、好ましくはリンカーを介して特異的に結合する分子骨格上に担持された分子認識ドメインも含むことができる。
【実施例】
【0042】
実施例1.抗GFP抗体の検出
本方法の有用性を検証するために、マルトース結合タンパク質構造物を試験した。構造物(蛍光指標タンパク質又はFLIPとして公知)は、マルトース結合タンパク質を主成分とするものであった。MBP部分のN末端にECFP(高感度シアン蛍光タンパク質)を付着させ、MBPのC末端にEYFP(高感度黄色蛍光タンパク質)を付着させた。更に、ヘキサヒスチジンタグを構造物のN末端に付着させた。PCT国際特許出願第WO03/025220号に記載されたこの構造物は、Carnegie Institution of WashingtonのWolf Frommer教授により提供された。
この構造物を用いて複数の異なる実験を行った。その結果を図7A〜7Iに示し、図に用いた記号を下記の表2に説明する。
表2.図7中の記号

【0043】
この構造物は、マルトースの存在下で、分子のMBP部分の高次構造の変化によりFRET比(R)の増大を示し、その結果フルオロフォアが互いに接近した。濃度を複数の異なる段階に変化させた構造物を、マルトースの存在下及び不在下の両方で、抗GFPポリクローナル抗体(ECFP及びEYFPに結合する)を用いてインキュベートした。図7A及び7Bに示すように、センサ構造物のFRET比は、抗GFP抗体の存在下で低下した。これは、抗体がGFPと結合したことにより、構造物のRET受容体とRET供与体の間のFRET効果が妨害されたためである。この構造物からのFRET発光を、GFPに特異的でない抗体の存在下で更に測定したところ、FRET発光強度に殆ど変化はなかった。これらの結果を図7Cに示す。比較のため、図7Cには図7Bに示す結果も含めている。
それぞれ図7E及び7Fに示すように、センサのFRET比減少と同様の傾向がモノクローナル抗GFP抗体及びモノクローナル抗Hisタグ抗体について観測された。センサタンパク質が標的(この場合抗GFPポリクローナル抗体)に結合した時のFRET比を、時間の関数として更に測定した。図7Dに示すように、FRET比の変化は試験開始後すぐに起こり、この系で最大の低下が約30分後に測定された。センサ濃度の変化に伴うFRET比の変化を試験することにより、本方法の定量的特性を示した。この実験のために、固定濃度のポリクローナル抗GFP抗体(30nM)を標的分析物として用い、センサ濃度を変化させながらセンサのFRET比の変化を測定した。図7Gに示すように、センサ信号(FRET比)は約30nMで飽和し始めた。これは、標的分析物(即ちポリクローナル抗GFP抗体)の濃度を正確に示している。
【0044】
実施例2.溶液中のHisタグ付きタンパク質を検出するための、分子骨格としてMBPを含むセンサ構造物
N末端にECFP部分を付着させ、C末端にEYFP部分を付着させた組み換えマルトース結合タンパク質を含む、実施例1に記載したものと同様のセンサ構造物を作製した。しかしながら、実施例1とは異なり、この融合タンパク質にはヘキサヒスチジンタグは含めなかった。ECFPのN末端又はEYFPのC末端は変異し、チオール反応性ニトリロ三酢酸(マレイミド−C−NTA;DoJindo、メリーランド州ゲイサーズバーグ)との化学的接合を可能にするシステイン残基を取り込んだ。接合されたニトリロ三酢酸を用いてニッケルなどの金属イオンをキレート化し、次いでヒスチジンタグを付けたタンパク質と結合させた。別法では、ニトリロ三酢酸基は、特定部位の突然変異誘発及び従来技術に公知の化学的接合法を用いて、そのN末端とC末端との間の位置でマルトース結合タンパク質に結合することができる。このセンサは、Hisタグを含むタンパク質を検出するために用いることができる。
【0045】
実施例3.溶液中のHisタグ付きタンパク質を検出するための、分子骨格としてコイルドコイルを含む自己組織化センサ構造物
分子骨格としてヘテロ二量体コイルドコイルを含むセンサ構造物を次のようにして作製した。Eコイル(EVSALEK7配列)を、従来技術に公知の組み換え法を使用し、ペプチドリンカーを介してWinZip−A2コイル(例えば、J. Mol. Biol. 2000 Jan 21;295(3):627-39参照)に結合させた。EコイルのN末端は変異し、RET標識へのチオール結合のためのシステイン残基を取り込んだ。N末端システインで修飾されたKコイル(KVSALKE7配列)を化学的ペプチド合成又は組み換え手段により作製し、チオール反応性ニトリロ三酢酸で標識した。加えて、遺伝的融合及び従来技術に公知の組み換え方法を使用し、ペプチドリンカーを介してEコイル(変異してRET標識へのチオール結合のためのシステイン残基を取り込んだN末端を有する)をWinZip−B1コイル(例えば、J. Mol. Biol. 2000 Jan 21;295(3):627-39参照)に結合した。これら3つのペプチドコイルを一緒にインキュベートし、図5Aに示される自己組織化コイルドコイルセンサ構造物の形成を可能にした。Hisタグ付きタンパク質に結合すると、センサ構造物のFRET特性が図5Bに示すように変化した。
【0046】
実施例4.組み換えFv抗体を含む自己組織化センサ構造物
組み換えFv抗体断片を含むセンサ構造物を、2つの融合タンパク質を別々に作製することにより作製した(例えば、J Mol Biol. 2001 Sep 7;312(1):221-8参照)。第1融合タンパク質は、C末端がリンカーに結合するFv分子のVH部分を含み、このリンカーがVH部分をペプチドコイルWinZip−A2のN末端に接続することによりVH:リンカー:WinZip−A2が形成される。リンカーは、アミノ酸Gly、Ser、Thr、Proから成る、長さ約2.4〜2.6nmの柔軟な14アミノ酸ペプチドを含む。第2融合タンパク質は、C末端がリンカーに結合するFv分子のVL部分を含み、このリンカーがVL部分を別のペプチドコイルWinZip−B1のN末端に接続することによりVL:リンカー:WinZip−B1が形成される。第2融合タンパク質に対するリンカーは、同様に、アミノ酸Gly、Ser、Thr、Proから成る、長さ約2.4〜2.6nmの柔軟な14アミノ酸ペプチドを含む。
次に、PpL及びSPA−Eを使用して2つの融合タンパク質を標識した。ヘキサヒスチジンタグ付きPpL及びSPA−Eを大腸菌中で発現させ、固定金属アフィニティークロマトグラフィーにより精製し、各々RET供与体及びRET受容体フルオロフォアで標識した。次に、フルオロフォアで標識したPpL及びSPA−Eを適切な融合タンパク質を用いてインキュベートし、各々VL及びVHドメインに特異的に結合させた。
【0047】
実施例5.モノクローナル抗体を含む自己組織化センサ構造物
実施例4に記載したように、フルオロフォア接合したPpL及びSPA−Eを作製し、モノクローナル抗体のVH領域及びVL領域の標識に用いた。PpLがVLのフレームワーク領域だけに結合したのに対し、SPA−EはVHと、程度はそれよりも小さいがFcの両方に結合した。Fcに対するSPA−Eの結合親和性は、Fc結合性レンサ球菌タンパク質G−B1(SPG−B1)ドメインの同親和性より小さいので、SPG−B1を用いてまずモノクローナル抗体をインキュベートしてSPA−EのFcへの結合を遮断した。次に、抗体を用いて、フルオロフォアで標識したPpL及びSPA−Eをインキュベートした。
【0048】
特定の好適な実施形態を参照して本発明を詳細に説明したが、他の実施形態も可能である。本方法に開示されたステップは限定的なものでなく、各ステップは本方法に必須ではなくて単に例示的なものである。従って、特許請求の範囲は本明細書に記載の好適な実施形態に限定されるものではない。本明細書中に引用した全ての参考文献の内容全体を参照により本明細書に包含する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本方法によるセンサ構造物に対する分析物の結合を示す。
【図2】MRDを標識に付着させた本センサ構造物の別の実施形態を示す。
【図2A】MRDを標識に付着させた本センサ構造物のまた別の実施形態を示す。
【図3】本センサ構造物の更に別の実施形態に対する分析物の結合を示す。
【図3A】本センサ構造物のまた別の実施形態に対する分析物の結合を示す。
【図4】MRDが自己組織化する本センサ構造物の更に別の実施形態を示す。
【図4A】標識も自己組織化する図4に示すセンサ構造物の一実施形態を示す。
【図5A】本センサ構造物の別の自己組織化の実施形態による組織化を示す。
【図5B】図5Aのセンサ構造物に対する分析物の結合を示す。
【図6】分子骨格が自己組織化する本センサ構造物の一実施形態を示す。
【図7A】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7B】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7C】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7D】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7E】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7F】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7G】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7H】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。
【図7I】本方法に従って行った実験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析物の検出方法であって、
(a)(i)分析物に特異的に結合する分子認識ドメイン、
(ii)RET供与体を含む第1標識、及び
(iii)第1標識のRET供与体に対するRET受容体であって、フェルスター共鳴エネルギ移動の発生を可能にする距離だけRET供与体から離間しているRET受容体を含む第2標識
を含むセンサ構造物であって、分子認識ドメインが分析物と結合するとき、分析物がRET供与体及び/又はRET受容体に接近することによって、RET供与体とRET受容体との間のFRET相互作用が妨害されるセンサ構造物を調製するステップ、
(b)試料をセンサ構造物に接触させるステップ、及びその後
(c)センサ構造物からの光学信号を測定するステップ
を含み、RET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動相互作用の妨害が検出されるとき、試料中に分析物が存在すると決定する方法。
【請求項2】
RET受容体をRET供与体から約25ナノメータ未満の距離だけ離間させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に複数のRET供与体及びRET受容体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
RET供与体を、蛍光タンパク質、発光タンパク質、非タンパクフルオロフォア、非タンパク化学発光化合物、及び蛍光ナノ結晶からなる群より選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
供与体を、GFP、EGFP、RFP、BFP、CFP、ECFP、YFP、EYFP、及びそれらの内の1つの誘導体からなる群より選択された蛍光タンパク質とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
RET受容体を、蛍光タンパク質、非タンパクフルオロフォア、蛍光ナノ結晶、及び消光剤からなる群より選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
センサ構造物を試料に接触させる前にセンサ構造物のRET供与体とRET受容体との間のフェルスター共鳴エネルギ移動相互作用により発生するコントロール光学信号を測定するステップ、及び
コントロール光学信号と、ステップ(c)の光学信号との差異を測定するステップ
を更に含み、コントロール光学信号とステップ(c)の光学信号との差異によって試料中の分析物の量が示される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コントロール光学信号とステップ(c)の光学信号との差異を測定するステップが、センサ構造物の蛍光又は発光の強度又は減衰キネティクスの変化を測定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
センサ構造物がポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチドが抗体のFv部分を含み、分子認識ドメインがFv部分のCDR領域を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
センサ構造物を調製するステップが、分子認識ドメインを含むポリペプチド、第1標識、及び第2標識を別々に調製することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1標識がタンパク質AのEドメインを含むリンカーを含み、第2標識がタンパク質Lの結合ドメインを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分子認識ドメインがキレート化金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
分子認識ドメインがオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
(a)分析物のエピトープに特異的に結合する分子認識ドメイン、
(b)RET供与体を含む第1標識、及び
(c)第1標識のRET供与体に対するRET受容体であって、フェルスター共鳴エネルギ移動の発生を可能にする距離だけRET供与体から離間しているRET受容体を含む第2標識
を含む分析物検出用のセンサ構造物であって、分子認識ドメインが分析物に結合すると、分析物の一部分がRET供与体とRET受容体との間に挿入される、センサ構造物。
【請求項16】
ポリペプチドを含む、請求項15に記載のセンサ構造物。
【請求項17】
一本鎖Fv(scFv)を含み、分子認識ドメイン中にscFvのCDR領域を含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項18】
第1標識がscFvに結合している、請求項17に記載のセンサ構造物。
【請求項19】
第2標識がscFvに結合している、請求項17に記載のセンサ構造物。
【請求項20】
抗体のFv部分を含み、分子認識ドメイン中にFv部分のCDR領域を含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項21】
第1標識がFvのV部分に結合しており、第2標識がFvのV部分に付着している、請求項20に記載のセンサ構造物。
【請求項22】
第1標識がタンパク質AのEドメインを含み、第2標識がタンパク質Lの結合ドメインを含む、請求項21に記載のセンサ構造物。
【請求項23】
第1標識がFvのV部分に付着しており、第2標識がFvのV部分に結合している、請求項20に記載のセンサ構造物。
【請求項24】
第1標識がタンパク質Lの結合ドメインを含み、第2標識がタンパク質AのEドメインを含む、請求項23に記載のセンサ構造物。
【請求項25】
抗体を含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項26】
第1標識が、タンパク質Lの結合ドメイン及びタンパク質AのEドメインからなる群より選択されるリンカーを含む、請求項25に記載のセンサ構造物。
【請求項27】
第2標識が、タンパク質Lの結合ドメイン及びタンパク質AのEドメインからなる群より選択されるリンカーを含む、請求項25に記載のセンサ構造物。
【請求項28】
分子認識ドメインがペプチドエピトープを含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項29】
分子認識ドメインがオリゴヌクレオチドを含む、請求項15に記載のセンサ構造物。
【請求項30】
第1標識が分子認識ドメインを含む、請求項15に記載のセンサ構造物。
【請求項31】
第2標識が分子認識ドメインを含む、請求項15に記載のセンサ構造物。
【請求項32】
一対のヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドを含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項33】
一対のヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドが、WinZip−A2/WinZip−B1及びE/Kコイルからなる群より選択される、請求項32に記載のセンサ構造物。
【請求項34】
周辺質結合タンパク質を含む、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項35】
周辺質結合タンパク質がマルトース結合タンパク質である、請求項28に記載のセンサ構造物。
【請求項36】
分子認識ドメインがセンサ構造物に特異的に結合する、請求項16に記載のセンサ構造物。
【請求項37】
(a)分析物に特異的に結合する分子認識ドメインを含む分子骨格、
(b)RET供与体を含む第1標識、及び
(c)第1標識のRET供与体に対するRET受容体であって、フェルスター共鳴エネルギ移動の発生を可能にする距離だけRET供与体から離間しているRET受容体を含む第2標識
を含む分析物検出用のセンサ構造物であって、分子認識ドメインが分析物に結合すると、分析物の一部分がRET供与体とRET受容体との間に挿入されるセンサ構造物。
【請求項38】
ポリペプチドを含む、請求項37に記載のセンサ構造物。
【請求項39】
分子認識ドメインがキレート化金属を含む、請求項37に記載のセンサ構造物。
【請求項40】
(a)抗体のFv部分を含むポリペプチド、
(b)RET供与体を含む第1標識、及び
(c)第1標識のRET供与体に対するRET受容体を含む第2標識、
を別々の成分として含むキットであって、第1標識及び第2標識のいずれか一方がタンパク質AのEドメインを含み、他方の標識がタンパク質Lの結合ドメインを含む、請求項20に記載のセンサ構造物を作製するためのキット。
【請求項41】
(a)RET供与体及び第1ヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドを含む第1標識、
(b)第1標識のRET供与体に対するRET受容体及び第2ヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドを含む第2標識であって、第1ヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドが第2ヘテロ二量体コイルドコイルポリペプチドに特異的に結合する第2標識、及び、
(c)分子認識ドメインを含み、第1標識又は第2標識に特異的に結合するリンカーに付着される分子骨格
を含む、センサ構造物作製キット。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図4A】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【公表番号】特表2007−529747(P2007−529747A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504085(P2007−504085)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/008833
【国際公開番号】WO2005/089409
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506316096)ユニバーシティ オブ ハワイ (1)
【Fターム(参考)】