説明

センサ素子

【課題】高精度かつ生操作を繰り返すことに対する耐久性及び均一な温度上昇が可能なセンサ素子を提供する。
【解決手段】第1面13及び第2面15を有するセラミックスからなるセンサ基板11Aと、このセンサ基板11Aの第1面13上に配設されるとともに、一対の電極17a,17bからなるセンシング用電極17と、センサ基板11Aの第2面15上に配設され、センサ基板11Aを加熱可能な加熱用導体19と、を備えている。そして、センサ素子100Aは、センシング用電極17の厚さに対する、センサ基板11Aの第1面13における少なくともセンシング用電極17が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、加熱用導体19の厚さに対する、センサ基板11Aの第2面15における少なくとも加熱用導体19が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%であるセンサ素子100A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子に関し、更に詳しくは、高精度であり、再生操作を繰り返すことに対する耐久性を有し、かつ、再生操作時において均一に昇温するセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あるエリア内に存在する浮遊物質に対して、一対の電極間に堆積した導電性物質の量の変化に起因する絶縁抵抗の変化を検知して、上記浮遊物質の量(濃度)を測定するセンサ素子が知られている。
【0003】
このようなセンサ素子としては、具体的には、粉体輸送機の輸送量変動を検知するためのセンサ、工業器機用や自動車用のフィルター装置のトラブルを検知するためのセンサ、粉塵作業下において使用される環境検知センサ等に使用されている素子を例示することができる(例えば、特許文献1参照)。更に、主にクリーンルームのクリーン度を測定するために使用されるパーティクルカウンター等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−123757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、パーティクルカウンターは、クリーンルームのように浮遊物質が少ない環境下で使用されることを目的としたものであるため、クリーンルームよりも浮遊物質が多く存在しているような環境下で使用することは適当ではなかった。
【0006】
また、上記センサは、セラミックスからなるセンサ基板と、このセンサ基板の一方の面上に配設された一対の電極と、他方の面上に配設された加熱用導体と、を備えるものなどがある。そして、このようなセンサは、一対の電極間に堆積した浮遊物質を燃焼除去するため再生操作(常温から高温(具体的には400〜900℃)まで昇温した後、常温に戻す操作)が行われることがある。このような再生操作によって、センサ素子には大きな温度差が生じ、この温度差に起因してセンサ素子が破損することがある。そのため、センサ素子には、再生操作が繰り返されることに対する耐久性を有することが要求されるが、従来のセンサ素子は十分な耐久性を有していなかった。具体的には、再生操作を繰り返すことによって測定ができなくなることがあった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高精度であり、再生操作を繰り返すことに対する耐久性を有し、かつ、再生操作時において均一に昇温するセンサ素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、センサ素子が提供される。
【0009】
[1] 第1面及び第2面を有するセラミックスからなるセンサ基板と、前記センサ基板の前記第1面上に配設されるとともに、一対の電極からなるセンシング用電極と、前記センサ基板の前記第2面上に配設され、前記センサ基板及び前記センシング用電極を加熱可能な加熱用導体と、を備え、前記センシング用電極の厚さに対する、前記センサ基板の前記第1面における少なくとも前記センシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、前記加熱用導体の厚さに対する、前記センサ基板の前記第2面における少なくとも前記加熱用導体が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%であるセンサ素子。
【0010】
[2] 前記センシング用電極の厚さに対する、前記センサ基板の前記第1面における表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、前記加熱用導体の厚さに対する、前記センサ基板の前記第2面における表面粗度の割合が、1〜3%である前記[1]に記載のセンサ素子。
【0011】
[3] 前記センサ基板は、酸化アルミニウム、ムライト、及び、スピネルからなる群より選択される少なくとも一種のセラミックスからなる前記[1]または[2]に記載のセンサ素子。
【0012】
[4] 前記センサ基板は、前記第1面である表面及び前記第2面である裏面を有する平板状であり、前記表面上に前記センシング用電極が配設され、前記裏面上に前記加熱用導体が配設されている前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセンサ素子。
【0013】
[5] 前記一対の電極は、その間の電気的な特性の変化が測定される測定部を有しており、前記測定部が白金族からなるものである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセンサ素子。
【0014】
[6] 前記測定部が白金からなるものである前記[5]に記載のセンサ素子。
【0015】
[7] 前記加熱用導体の表面の少なくとも一部を被覆する絶縁層を更に備える前記[1]〜[6]のいずれかに記載のセンサ素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセンサ素子は、第1面及び第2面を有するセラミックスからなるセンサ基板と、センサ基板の第1面上に配設されるとともに、一対の電極からなるセンシング用電極と、センサ基板の第2面上に配設され、センサ基板及びセンシング用電極を加熱可能な加熱用導体と、を備え、センシング用電極の厚さに対する、センサ基板の第1面における少なくともセンシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の第2面における少なくとも加熱用導体が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%であるため、高精度であり、再生操作を繰り返すことに対する耐久性を有し、かつ、再生操作時において均一に昇温するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のセンサ素子の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すA−A断面を示す断面図である。
【図3】本発明のセンサ素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のセンサ素子の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図5A】本発明のセンサ素子の一実施形態における再生操作を模式的に示す断面図である。
【図5B】本発明のセンサ素子の一実施形態における再生操作を模式的に示す断面図である。
【図5C】本発明のセンサ素子の一実施形態における再生操作を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
[1]センサ素子:
図1は、本発明のセンサ素子の一実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示すA−A断面を示す断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のセンサ素子100Aは、第1面13及び第2面15を有するセラミックスからなるセンサ基板11Aと、このセンサ基板11Aの第1面13上に配設されるとともに、少なくとも一対の電極17a,17bを有するセンシング用電極17と、センサ基板11Aの第2面15上に配設され、センサ基板11Aを加熱可能な加熱用導体19と、を備えている。そして、センサ素子100Aは、センシング用電極17の厚さに対する、センサ基板11Aの第1面13における少なくともセンシング用電極17が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、加熱用導体19の厚さに対する、センサ基板11Aの第2面15における少なくとも加熱用導体19が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%のものである。
【0020】
このようなセンサ素子100Aは、センシング用電極17の厚さに対する、センサ基板11Aの第1面13における少なくともセンシング用電極17が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、加熱用導体19の厚さに対する、センサ基板11Aの第2面15における少なくとも加熱用導体19が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%であるため、高精度であり(即ち、センシング用電極のパターン精度を高くできるとともに測定精度が良好であり、繰り返しの再現性が良く)、再生操作を繰り返すことに対する耐久性を有している。具体的には、再生操作を繰り返してもセンシング用電極及び加熱用導体がそれぞれセンサ基板から剥離し難いものである。
【0021】
本発明のセンサ素子は、上述したように、センサ基板の第1面の少なくとも一部、及び、第2面の少なくとも一部を所定の条件を満たすように適度な表面状態とすることによって、再生操作を繰り返すことに対する耐久性を有する。そして、再生操作時において均一に昇温することが可能になる。具体的には、再生操作時において、センサ基板11Aが加熱用導体19によって均一に昇温され、そして、均一に昇温されたセンサ基板11Aによってセンシング用電極17が均一に昇温されるものである。
【0022】
センサ素子100Aは、センシング用電極17の一対の電極17a,17bの間に浮遊物質21(図5B参照)が堆積することに起因して生じる電気的な特性の変化を測定することにより一対の電極17a,17bの間に堆積した浮遊物質21の濃度を測定可能なセンサに用いられるものである。電気的な特性の変化とは、具体的には、絶縁抵抗(値)の変化、静電容量の変化などの変化のことをいう。そして、浮遊物質21の濃度の測定方法としては、具体的には、センシング用電極17の一対の電極17a,17b間の絶縁抵抗値と堆積した浮遊物質の質量とにより検量線を予め作成しておき、所定の環境下にセンサ素子を配置したときに得られる絶縁抵抗値から、作成した検量線を用いて、堆積した浮遊物質の質量を算出した後、濃度に換算する方法を挙げることができる。このように、本発明のセンサ素子は、電気的な特性の変化を測定するものであるため、測定対象である浮遊物質の性質(例えば、導電性や絶縁性)に制限されることなく、上記浮遊物質の量または濃度を精度良く測定することができる。更に、堆積した浮遊物質は、加熱用導体によりセンサ基板及びセンシング用電極を加熱することによって任意の時期に除去することができるため使い勝手の良いものである。
【0023】
[1−1]センサ基板:
センサ基板は、酸化アルミニウム、スピネル、及び、ムライトからなる群より選択される少なくとも一種のセラミックスからなるものであることが好ましい。そして、上記セラミックスの中でも、熱膨張率、熱伝導率、及び高温強度のバランスが良好であるため酸化アルミニウムが好ましい。
【0024】
センサ基板の第1面及び第2面のそれぞれの表面粗度は、センシング用電極の厚さ及び加熱用導体の厚さとのそれぞれの関係が上記条件を満たす限り特に制限はないが、センシング用電極及び加熱用導体が配設される部分の表面粗度が、0.01〜1μmであることが好ましく、0.01〜0.6μmであることが更に好ましい。
【0025】
ここで、本明細書において「表面粗度」は、JIS B 0601−1982に準拠して測定される値であり、中心線平均粗さを意味するものである。
【0026】
センサ基板の表面及び裏面を所望の粗さ(表面粗度(表面粗さ))に仕上げるには、ブラスト法、ラップ法、研削法等を挙げることができる。一方、後加工ではなく、センサ基板に使用するセラミック粉末の粒径を選択することでも可能である。
【0027】
表面粗度が1〜10μmとなるような面を形成する方法としては、例えば、ブラスト法、粗ラップ(GC砥粒)でセンサ基板の面を研磨する方法を挙げることができる。更に、表面粗度が0.04〜0.1μmとなるような面を形成する方法としては、例えば、上記のようにして、表面粗度が1〜10μmとなるような面を形成した後、ダイヤ遊離砥粒(1μm)によるラップ法、#1500の研削砥石などを用いてセンサ基板の面を研磨する方法を挙げることができる。0.1〜1μmの表面粗度に仕上げるには、使用する砥粒の大きさ、砥石の番手を変更すれば良い。なお、センシング用電極及び加熱用導体を配設する部分のみを所望の表面粗度に仕上げるには、電極パターンとボジティブな関係となるようなマスク(即ち、反転形状をなす形状のマスク)を介して、ブラスト法、特にウェットブラスト法を用いて仕上げることが望ましい。微粒粒子を分散させたスラリーを用いることができるので、表面処理の均一性、コントロール性が優れ、本用途には好適である。
【0028】
センサ基板の大きさは、特に限定されないが、長さが5〜100mm、幅が5〜10mm、厚さが1〜2mm程度の範囲となる大きさが好ましい。これは、外形が矩形の場合であるが、用途に応じて形状は自由に選択できる。
【0029】
[1−2]センシング用電極:
センシング用電極は、このセンシング用電極の一対の電極、即ち、正負の電位が隣り合う電極(正極及び負極)に電圧などが印加されるものである。そして、センシング用電極の一対の電極間の容積が浮遊物質のディテクト量を左右するため、センシング用電極としては、アスペクト比の高いものであることが好ましい。しかしながら、アスペクト比が高い場合、高アスペクト比であることに起因して、センシング用電極のダレやにじみが生じて部分的にセンシング用電極の一対の電極間の距離が変動してしまうことがあった。このようにセンシング用電極の一対の電極(正極及び負極)間の距離が変動してしまう(即ち、パターン精度が悪い)と、センサ素子の個体間で測定が安定しないという問題が生じる。そのため、このような問題の発生を抑制するために、センシング用電極を形成する印刷インク(導体ペースト)の性状を工夫して、形成されるセンシング用電極の断面が矩形となるような印刷インクを開発する必要があった。
【0030】
ここで、常温下で使用する場合には、印刷インク(導体ペースト)の性状を工夫することで、上記問題が解決され、所望の形状の電極が形成され得る。しかしながら、再生操作を繰り返し行うセンサ素子においては、定期的に、常温から高温(具体的には400〜900℃)、そして高温から常温に戻るという温度サイクルが行われるため、常温下で使用する場合とは異なる負荷を受ける。そのため、センシング用電極の剥離や断線等の不良が発生することがあった。
【0031】
そこで、本発明者らは、従来のセンサ素子について、センサ基板の表面粗度とセンサ素子の特性(具体的には、センサ基板と加熱用導体との付着性)との因果関係の検討を行ったが、有効な結果は得られなかった。つまり、センサ基板の表面粗度を規定しただけではセンサ素子の特性は十分に向上されないことがあった。別言すれば、センサ基板の表面粗度に着目したとしても単に表面粗度を変えてセンサ基板を平滑面または粗面にしただけではセンサ素子の特性は十分に向上されない場合があることが分かった。そこで、単にセンサ基板の表面粗度の絶対値を規定するのではなく、本発明のセンサ素子のようにセンシング用電極との相互作用を加味し、センサ基板の表面粗度と配設されるセンシング用電極の厚さとの関係を規定することを検討した。このような検討を行ったことによって、上記特性が向上することを見出した。
【0032】
本発明者らは、パターン精度を良好にするため(即ち、アスペクト比が高く、且つ、断面が矩形となるようにするため)に、印刷インクの性状を工夫する(印刷インクのレオロジーを調整する)のではなく、センシング用電極の厚みとセンサ基板の表面粗度との関係により上記問題を解決することができることを見出した。具体的には、センシング用電極の厚みに対する、センサ基板の、センシング用電極を配設する側の面の表面粗度の割合を上記所定の範囲とすることにすることによって、測定精度が向上するとともに、再生操作時において温度サイクルに起因する負荷を受けたとしても、電極の剥離や断線等の不良が発生し難く、安定したセンサ素子を得ることができることを見出した。なお、本願は印刷インクの性状を工夫することを否定するものではない。
【0033】
本発明のセンサ素子は、上述したように、センシング用電極の厚さに対する、センサ基板の第1面における少なくともセンシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であることが必要であり、0.2〜2.0%であることが好ましく、0.2〜1.0%であることが更に好ましい。上記割合が0.2%未満であると、センサ基板の第1面におけるセンシング用電極を配設する部分が平滑すぎることになる。そのため、電極形成時に、後述するスクリーン印刷によりセンシング用電極を形成する場合、印刷インクをはじいてしまうことに起因して電極パターンの欠損(形成されるセンシング用電極の一部が欠けていること)や剥離(センシング用電極が容易に剥離したりすること)が生じる。更には焼成時や使用時においてもセンシング用電極が剥離するおそれがある。一方、4%超であると、電極形成時に、後述するスクリーン印刷によりセンシング用電極を形成する場合、電極パターンがにじむこと、パターン精度が低下すること、膜厚がばらつくことなどの不具合が生じる。
【0034】
そして、本発明のセンサ素子は、センシング用電極の厚さに対する、センサ基板の第1面における少なくともセンシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合が上記条件を満たす限り特に制限はない。即ち、センシング用電極が配設された部分(のみ)が上記表面粗度の割合を満たすものであってもよいし、センシング用電極が配設された部分に加えてセンシング用電極が配設された部分以外の部分(具体的には、センサ基板の第1面の全部(全面))も上記表面粗度の割合を満たすものであってもよい。
【0035】
図3は、本発明のセンサ素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。図3に示されるセンサ基板11Aは、第1面13の全部(全面)を所望の表面粗度に仕上げた態様を示す例である。このようなセンサ基板11Aを備えるセンサ素子100Aは、上記条件を満たす限りセンシング用電極の厚みに関わらず、形状精度のよい、即ち、特性の安定したものである。なお、図3〜図5においては、面の粗さを表すため誇張して凹凸を描いている。
【0036】
図4は、本発明のセンサ素子の他の実施形態を模式的に示す断面図である。図4に示すセンサ素子100Bは、その第1面13における、センシング用電極17が配設された部分のみが上記表面粗度の割合を満たす面であることを示す例である。図4に示すように、センシング用電極17が配設された部分のみが上記表面粗度の割合を満たす面であることによって、製造が容易になる。また、センサ基板の加工応力を必要最小限にすることができるため、熱衝撃等の対環境性能が有利となる。なお、図4において、第1面13における一対の電極17a,17bが配設されない部分を平面的に描いているが、必ずしも平面でなくてもよい。
【0037】
センシング用電極は、製造現場における原料粉体、大気中の塵、排ガス中の煤等の浮遊物質を検知する部分(センサ部分)である。即ち、上述したように、センシング用電極17の一対の電極17a,17bの間に浮遊物質21(図5B参照)が堆積すると、センシング用電極17a,17b間における電気的な特性(例えば静電容量、絶縁抵抗値)が変化する。なお、このとき、浮遊物質は、導電性であってもよいし、絶縁性であってもよい。このようなセンシング用電極の一対の電極としては、目的とする物質(浮遊物質)を検出可能な公知の構成を採用することができるが、例えば、2つの櫛歯状の電極を、櫛の歯が交互に位置するように配置した構成のもの(図2参照)などを挙げることができる。そして、櫛の歯の間の距離(図2中の符号「d」参照)は、浮遊物質の種類などにより適宜決定することができるが、50〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることが更に好ましい。なお、測定対象(浮遊物質)に応じた距離を設定しない場合、意図する情報(正確な測定値)が得られないおそれがある。
【0038】
センシング用電極の材質としては、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム等の白金族、タングステン、モリブデン等の耐熱性を有する金属材料等を挙げることができ、これらの中でも、白金族が好ましく、特に、白金を主成分とする材料であることが好ましい。
【0039】
センシング用電極の一対の電極は、その間の電気的な特性の変化が測定される測定部(例えば、上述した櫛歯状の部分)を有していることが好ましい。そして、この測定部は、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム等の白金族からなるものであることが好ましく、白金、イリジウム、またはこれらの混合物からなるものであることが更に好ましい。このように測定部が白金族からなるものであると、測定部と浮遊物質との反応性が低く、更には、使用環境に腐食されがたく、また、再生操作時の高温に耐え得る耐熱性があるため、高温雰囲気(再生操作時の高温)下でも使用することができる。更に、白金からなるものであると、特に酸化に強く、加工性が良いという利点がある。
【0040】
センシング用電極の厚さは、特に限定されず、例えば、5〜20μmであることが好ましく、10〜20μmであることが更に好ましい。上記厚さが5μm未満であると、浮遊物質の堆積可能容量が小さいため、再生周期が短くなるとともに、測定誤差が大きくなるおそれがある。一方、20μm超であると、センシング用電極の一対の電極間の距離を一定に保つことが困難になるとともに、センシング用電極及び加熱用導体にかかる応力が大きくなり剥離し易くなするおそれがある。なお、「センシング用電極の厚さ」とは、センシング用電極の一対の電極(通常は、正極と負極)のそれぞれの厚さを意味する。従って、「センシング用電極の厚さに対する、センサ基板の第1面における少なくともセンシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合」とは、各電極17a,17bのそれぞれの厚さD1,D2(図2参照)に対する、センサ基板11Aの第1面13の少なくともセンシング用電極が配設された部分における表面粗度(図2参照)の割合のことであり、式:{((センサ基板11Aの第1面13における表面粗度/電極17aの厚さD1)+(センサ基板11Aの第1面13における表面粗度/電極17bの厚さD2))/2}×100によって算出される値である。なお、厚さD1,D2は、通常、同じである。
【0041】
センシング用電極の各電極(正極及び負極)の形状としては、上述した、櫛歯状、櫛歯状の部分を含む形状以外に、例えば、渦巻き状等を挙げることができる。また、センシング用電極の大きさ(第1面の全面に対して占める面積)は、センサ素子の用途や形状に応じて適宜決定することができる。なお、センシング用電極の一対の電極は、複数配設されてもよい。
【0042】
[1−3]加熱用導体:
加熱用導体は、センサ基板及びセンシング用電極を加熱可能な(即ち、センサ基板を加熱可能であり、且つ、センサ基板を加熱することを介してセンシング用電極を加熱可能である)部材である。そして、センサ基板及びセンシング用電極が加熱されることによって、センシング用電極17の一対の電極17a,17bの間に堆積された浮遊物質が燃焼または分解し、除去される(図5B,図5C参照)。なお、この加熱用導体は、センサ基板を適宜加熱するものであり、浮遊物質を測定する際には原則機能しない(加熱しない)。ただ、使用環境によって、センサ素子が結露するような場合には、除去温度以下の低温で作動させる場合がある。加熱用導体による加熱温度は、測定した浮遊物質の種類によっても異なるが、400〜900℃であることが好ましい。
【0043】
また、本発明者らは、従来のセンサ素子について、センサ基板の表面粗度とセンサ素子の特性(具体的には、二次元的な抵抗均一性、センサ基板と加熱用導体との付着性)との因果関係の検討を行ったが、有効な結果は得られなかった。つまり、センサ基板の表面粗度を規定しただけではセンサ素子の特性は十分に向上されないことがあった。別言すれば、センサ基板の表面粗度に着目したとしても単に表面粗度を変えてセンサ基板を平滑面または粗面にしただけではセンサ素子の特性は十分に向上されない場合があることが分かった。そこで、単にセンサ基板の表面粗度の絶対値を規定するのではなく、本発明のセンサ素子のように加熱用導体との相互作用を加味し、センサ基板の表面粗度と配設される加熱用導体の厚さとの関係を規定することを検討した。このような検討を行ったことによって、上記特定が向上することを見出した。
【0044】
そこで、本発明者らは、センシング用電極の場合と同様に印刷インクの性状を工夫する(印刷インクのレオロジーを調整する)のではなく、加熱用導体の厚みとセンサ基板の表面粗度との関係により上記問題を解決することができることを見出した。なお、本願は印刷インクの性状を工夫することを否定するものではない。
【0045】
本発明のセンサ素子は、上述したように、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の第2面における少なくとも加熱用導体が配設された部分の表面粗度の割合は、1〜3%であることが必要であり、1〜2%であることが好ましい。上記割合が1%未満であると、加熱用導体の形成時、積層体の焼成時、センサ素子の使用時において加熱用導体がセンサ基板から剥離するという不具合がある。一方、3%超であると、電極パターンの欠損が生じ易く、且つ加熱用導体の厚さがばらつくことに起因して再生操作時にセンサ素子が均一に発熱し難くなる。そのため、得られるセンサ素子は信頼性に劣るなどの不具合がある。
【0046】
そして、本発明のセンサ素子は、センサ基板の第2面における少なくとも加熱用導体が配設された部分の表面粗度の割合が上記条件を満たす限り特に制限はない。即ち、加熱用導体が配設された部分(のみ)が上記表面粗度の割合を満たすものであってもよいし、加熱用導体が配設された部分に加えて加熱用導体が配設された部分以外の部分(具体的には、センサ基板の第2面の全部(全面))も上記表面粗度の割合を満たすものであってもよい。
【0047】
図3に示されるセンサ基板11Aは、第2面15の全部(全面)が所望の表面状態であることを示す例である。このようなセンサ基板11Aを備えるセンサ素子100Aは、配線厚みに関わらず、形状精度のよい、即ち、特性の安定したものである。
【0048】
図5A〜図5Cは、本発明のセンサ素子の一実施形態における再生操作を模式的に示す断面図である。図5Aは、浮遊物質の測定前の状態のセンサ素子100Aを示している。浮遊物質を測定したい雰囲気下にセンサ素子を配置すると、図5Bに示すように、センサ素子100Aのセンシング用電極17の一対の電極17a,17bの間に浮遊物質21が堆積する。このとき、センシング用電極17の一対の電極17a,17b間における電気的な特性が変化するため、この変化量に基づいて浮遊物質21の量や濃度を算出することができる。そして、測定終了後、図5Cに示すように、加熱用導体19を昇温させることによって、センサ基板11Aを加熱する。図5Cは、加熱用導体19を昇温させて浮遊物質21を燃焼・分解除去した状態を示している。なお、加熱用導体は、複数配設されてもよい。
【0049】
加熱用導体の材質としては、例えば、白金、パラジウム、イリジウム等の白金族、タングステン、モリブデン等の耐熱卑金属材料等を挙げることができる。これらの中でも、センサ素子が大気中で使用される場合には、酸化しない白金が好ましく、非酸化雰囲気中や内部に埋設されて使用される場合には、タングステン、モリブデンであることが好ましい。
【0050】
加熱用導体の厚さは、加熱用導体を構成する材料により適宜設定することができるが、例えば、1〜4μmであることが好ましく、1〜2μmであることが更に好ましい。
【0051】
加熱用導体は、パターンで発熱する形状(即ち、曲線を含む所定のパターンで形成される形状、具体的には、図1及び図2に示すように、波状に形成された導体を、センサ基板の先端部分でU−ターンするように折り曲げて配置して得られる形状)であってもよいし、面で発熱する形状(即ち、単なる例えばフィルム状(平面状)であってもよい。加熱用導体の大きさ(第2面の全面に対して占める面積)や位置は、特に制限はなく適宜決定することができるが、センシング用電極が配設された部分に対応する位置に、センシング用電極が配設された部分以上の面積で配置されることが好ましい。
【0052】
[1−4]絶縁層:
本発明のセンサ素子は、加熱用導体の表面の少なくとも一部を被覆する絶縁層を更に備えることが好ましい。このように絶縁層を備えることによって、排気ガスなどの雰囲気下においても加熱用導体が保護され得るため、安価な卑金属からなる加熱用導体を使用することができる。更に、センサの使用中における短絡や断線を抑制することができ、また、絶縁層としてセンサ基板の熱膨張率と同じ熱膨張率の材質を用いれば、再生操作の発熱時にセンサ素子が反り返ることまたは破損することを抑制することができる。
【0053】
絶縁層の材質としては、例えば、ガラス、セラミックス、これらの複合物などを挙げることができる。これらの中でも、耐久性及び作製精度が優れるという観点からガラス、セラミックスが好ましく、センサ基板と同質のセラミックス、または熱膨張率がセンサ基板の熱膨張率と同じガラスが好ましい。
【0054】
絶縁層の厚さは、特に制限はないが、5〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることが更に好ましい。上記厚さが5μm未満であると、機械的な強度が小さくなるため破損が生じ易くなる傾向がある。一方、40μm超であると、質量が大きすぎるため、再生操作における加熱に必要な電力が増大してしまい、電力効率が低下する傾向がある。
【0055】
図2は、加熱用導体19の表面を被覆する絶縁層23を更に備えるセンサ素子100Aを示す例である。なお、図1に示すセンサ素子100Aについては絶縁層を省略して描いている。
【0056】
[2]センサ素子の製造方法:
本発明のセンサ素子の一実施形態の製造方法としては、複数のシート状グリーン体を作製し、作製した複数のシート状グリーン体を積層して積層体を作製し、作製した積層体を焼成して焼成体を得る焼成体作製工程と、得られた焼成体の第1面にセンシング用電極を配設し、第2面に加熱用導体を配設してセンサ素子を得るセンサ素子作製工程とを備える方法が好ましい。なお、センサ素子としての所望の厚さを確保できる場合には、積層体を作製することなく、一枚のシート状グリーン体のみを用い、この一枚のシート状グリーン体の両面にそれぞれセンシング用電極及び加熱用導体を配設してセンサ素子を作製すること(別の実施形態)もできる。以下、本発明のセンサ素子の一実施形態の製造方法について更に具体的に説明する。
【0057】
酸化アルミニウム、スピネル、及び、ムライトからなる群より選択される少なくとも一種のセラミックス原料と、成形原料として使用する他の成分とを混合し、スラリー状の成形原料を調製する。セラミックス原料としては、上記原料が好ましいが、これに限定されるものではない。他の原料としては、バインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等を使用することが好ましい。
【0058】
バインダーとしては、特に限定されるものではないが、水系バインダー、非水系バインダーのどちらでもよく、水系バインダーとしてはメチルセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド、アクリル系樹脂等を好適に使用でき、非水系バインダーとしてはエチルセルロース系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等を好適に使用することができる。アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。
【0059】
バインダーの添加量は、セラミックス原料の比表面積にもよるが、100質量部に対して、4〜20質量部程度であることが好ましく、6〜15質量部であることが更に好ましい。このようなバインダー含有量とすることにより、スラリー状の成形原料を成形してグリーンシートを成形したとき、及び、乾燥、焼成したときに、クラック等の発生を防止することが可能となる。
【0060】
可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル等を使用することができる。
【0061】
可塑剤の添加量は、バインダー添加量100質量部に対して、30〜70質量部であることが好ましい。70質量部より多いと、グリーンシートが柔らかくなりすぎ、シートを加工する工程において変形しやすくなることがあり、30質量部より少ないと、グリーンシートが硬くなりすぎ、曲げただけでクラックが入るなどハンドリング性が悪くなることがある。
【0062】
分散剤としては、水系ではアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を使用することができ、非水系では脂肪酸、リン酸エステル、ソルビタン酸エステル、合成界面活性剤等を使用することができる。
【0063】
分散剤は、セラミックス原料100質量部に対して、1〜5質量部であることが好ましい。
【0064】
分散媒としては、水等を使用することができる。分散媒の使用量は、適宜設定することができる。
【0065】
上記各原料を、アルミナ製ポットまたはトロンメルにアルミナ玉石を投入したものを用いて十分に混合・混練してシート状グリーン体製作用のスラリー状の成形原料を作製する。
【0066】
次に、得られたシート状グリーン体製作用のスラリー状の成形原料を、減圧下で撹拌して脱泡し、更に所定の粘度となるように調製する。成形原料の調製において得られるスラリー状の成形原料の粘度は、500〜20000mPa・sであることが好ましく、2000〜10000mPa・sであることが更に好ましい。粘度範囲をこのように調整すると、スラリーをシート状に成形し易くなるため好ましい。スラリー粘度は、高過ぎても低過ぎても成形し難くなることがある。なお、スラリーの粘度は、B型粘度計で測定した値である。
【0067】
次に、上記方法により得られたスラリー状の成形原料をシート状に成形加工して、シート状グリーン体を形成する。成形加工方法は、成形原料をシート状に成形してシート状グリーン体を形成することができれば特に限定されず、ドクターブレード法、カレンダーロール法、熱ゲル化法、キャスティング等の公知の方法を使用することができる。また、ロールコンパクション法などのドライ製法を採用することができる。製造するシート状グリーン体の厚さは、50〜300μmであることが好ましい。
【0068】
次に、シート状グリーン体を積層して積層体を得る。シート状グリーン体を積層するときには、加熱とともに加圧しながら行うことが好ましい。
【0069】
得られた積層体を50〜120℃で乾燥し、所望の温度で焼成して焼成体を得る。なお、シート状グリーン体が有機バインダーを含有する場合には、焼成の前に、400〜600℃で脱脂することが好ましい。
【0070】
次に、得られた焼成体について、その表面及び裏面の所定の部分(センサ基板の第1面(表面)における少なくともセンシング用電極が配設される部分、及び、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の第2面(裏面)における少なくとも加熱用導体が配設される部分)を所望の粗さ(表面粗度(表面粗さ))に仕上げる。その方法としては、上述したブラスト法などの方法を適宜採用することができる。
【0071】
次に、得られた焼成体の第1面(表面)及び第2面(裏面)にセンシング用電極及び加熱用導体を配設する。センシング用電極及び加熱用導体を配設する方法としては、スクリーン印刷などの方法を採用することができる。スクリーン印刷によりセンシング用電極及び加熱用導体を配設する場合、具体的には、まず、センシング用電極及び加熱用導体を形成するための導体ペーストを調製する。この導体ペーストは、センシング用電極及び加熱用導体のそれぞれの形成に必要なそれぞれの材質あわせて、金、銀、白金族、ニッケル、モリブデン、及びタングステンからなる群より選択される少なくとも一種を含有する粉末に、バインダー及びテルピネオール等の溶剤を加え、トリロールミル等を用いて混練することにより調製することができる。次に、調製した各導体ペーストを焼成体の第1面(表面)及び第2面(裏面)にスクリーン印刷法を用いて印刷して、所定の形状のセンシング用電極及び加熱用導体を形成する。このようにして、本発明のセンサ素子を作製することができる。
【0072】
なお、センシング用電極及び加熱用導体を精度良く形成するため、各導体ペーストを、スクリーン印刷法等を用いて印刷した直後に、熱風を吹きかけて少なくとも導体ペーストの表面を乾燥させることが好ましい。ここで、印刷した直後とは、印刷後2〜10秒であり、印刷後2〜5秒であることが好ましい。
【0073】
なお、上述したように、積層体を焼成して焼成体を得た後、この焼成体に導体ペーストを印刷する場合に限られず、積層体に導体ペーストを印刷した後に焼成することによってセンサ素子を作製することもできる。また、このように積層体を形成する方法においては、加熱用導体を積層体内に埋設してもよい。更に、センシング用電極の一部を積層体内に埋設してもよい。加熱用導体を積層体内に埋設した場合、更に絶縁層を形成しなくても加熱用導体が排気ガスなどの雰囲気下においても保護されるという利点がある。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
まず、バインダーとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、分散剤としてソルビタントリオレエート、分散媒として有機溶剤(キシレン、ブタノール=6:4(質量比))、及び、アルミナを使用し、これらをアルミナ製ポットに入れて混合し、シート状グリーン体製作用のスラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量は、アルミナ100質量部に対して、バインダー6質量部、可塑剤3質量部、分散剤2質量部、有機溶剤35質量部とした。
【0076】
次に、得られたシート状グリーン体製作用のスラリー状の成形原料を、減圧下で撹拌して脱泡し、粘度50000mPa・sとなるように調製した。スラリーの粘度は、B型粘度計で測定した。
【0077】
次に、上記方法により得られた上記スラリー状の成形原料をドクターブレード法を用いてシート状に成形加工して厚さ250μmのグリーンシートを作製した。
【0078】
得られたグリーンシートの表面上に同様のグリーンシート(厚さ250μm)を4枚重ねて5枚のグリーンシートを積層させた。その後、加熱可能な一軸プレス機を用いて加圧積層・熱圧着して、表面及び裏面を有する厚さ約1.25mmの平板状の積層体を得た。その後、得られた積層体を1600℃で2時間焼成して焼成体を得た。焼成体の表面粗さ(表面粗度)は、表面及び裏面ともに0.35μmであった。
【0079】
次に、所定の表面粗度とするため、得られた焼成体の表面及び裏面を処理した。具体的には、表面粗さが0.2μmになるまではダイヤ砥粒によるラップで仕上げ、表面粗さが0.8μmになるまではGC砥粒による粗ラップで仕上げた。なお、表面粗度は、ランク・テイラーホブソン社製の表面粗さ計にて先端径2μmの触針を用いて測定した。
【0080】
次に、所定の表面粗度とした焼成体の表面(第1面)及び裏面(第2面)に、図1及び図2に示されるようなセンシング用電極及び加熱用導体を配設した。具体的には、まず、センシング用電極及び加熱用導体を形成するための導体ペーストを以下のようにして調製した。導体としての白金粉末に、溶剤としてジ・エチレングリーコール・モノブチルエーテル・アセテート、バインダーとしてエチルセルロース、分散剤としてポリエチレングリコールモノオレエートを加え、トリロールミルを用いて混練した(質量比で、導体:溶剤:バインダー:分散剤=90:5:4:1)。このようにして、導体ペーストを調製した。
【0081】
次に、調製した導体ペーストを、上記焼成体の表面(第1面)及び裏面(第2面)にスクリーン印刷法を用いて印刷した。そして、上記導体ペーストを印刷して被印刷物を得た直後(印刷後2〜10秒の間)に、この被印刷物の表面及び裏面を80℃の熱風で即乾させ、更に1200℃で焼き付けた。このようにして、図1及び図2に示すような、表面にセンシング用電極が配設され且つ裏面に加熱用導体が配設されたセンサ素子を得た。
【0082】
得られたセンサ素子は、縦70mm×横6mm×厚さ1mmの平板棒状のものであり、加熱用導体は、縦6mm×横5mmの領域内に収まる大きさとした。加熱用導体の厚みは4μm、センシング用電極の厚みは15μmとした。そして、本実施例のセンサ素子は、センシング用電極の厚さに対する、センサ基板の表面(第1面)における表面粗度の割合を算出すると、0.2%(表3参照)であり、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の裏面(第2面)における表面粗度の割合を算出すると、1.0%(表1,表2参照)であった。
【0083】
作製したセンサ素子について、以下に示す方法で、「信頼性の評価」、「温度ばらつきの評価」、及び「抵抗値のばらつきの評価」を行った。
【0084】
[信頼性の評価方法]
室温のセンサ素子を900℃まで加熱した後、室温まで冷却させる操作を1サイクルとして、1000サイクル繰り返して行う。その後、目視にて観察して評価を行う。評価基準は、センシング用電極及び加熱用導体の剥離が確認されなかった場合を合格とし、センシング用電極及び加熱用導体の剥離が確認された場合を不合格とする。また、合格の結果が10回以上得られた場合を「A」とし、合格の結果が10回未満であった場合を「B」とした。結果を「評価」の欄に示す。なお、1000サイクルの操作を10回行った。測定結果及び評価結果を表1に示す。なお、表1中、「表面粗度(μm)」は、センサ基板の第2面の表面粗度を示し、「割合(%)」は、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の第2面の表面粗度の割合を示す。
【0085】
[温度ばらつきの評価方法]
加熱用導体を900℃に設定したときのセンサ基板の第1面の温度を温度計(日本アビオニクス社製の(型番)「TVS−200EX」)で測定する。温度測定は、任意の10箇所における温度を測定することで行う。測定温度、平均温度、及び標準偏差(σ)を表2に示す。標準偏差(σ)の値から温度ばらつきを評価する。標準偏差(σ)が小さい場合(具体的には、15℃以下の場合)を「A」とし、標準偏差(σ)が大きい場合(具体的には、15℃超の場合)を「B」とした。結果を「評価」の欄に示す。測定結果及び評価結果を表2に示す。なお、加熱用導体の設定温度(900℃)に満たない部分は、センサ基板から加熱用導体が剥離していた。表2中、「表面粗度(μm)」は、センサ基板の第2面の表面粗度を示し、「割合(%)」は、加熱用導体の厚さに対する、センサ基板の第2面の表面粗度の割合を示す。
【0086】
[抵抗値のばらつきの評価方法]
[信頼性の評価方法]と同様にして1000サイクル繰り返して行った後、LCRメーターにてセンシング用電極の一対の電極(正極及び負極)のうちの正極の導通抵抗値を測定する。なお、1000サイクルの操作を10回行った。抵抗値のばらつきが0.1Ω以下であった場合を合格「A」とし、0.1Ω超であった場合を不合格「B」とした。結果を「評価」の欄に示す。測定結果及び評価結果を表3に示す。表3中、「−」は電極が剥離していたことを示し、標準偏差は満足していた(0.1Ω以下であった)が不合格「B」とした。なお、表3中、「表面粗度(μm)」は、センサ基板の第1面の表面粗度を示し、「割合(%)」は、電極の厚さに対する、センサ基板の第1面の表面粗度の割合を示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
(実施例2,3、比較例1,2)
表1に示す、表面粗度(μm)としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2,3、比較例1,2の各センサ素子を作製した。その後、作製した各センサ素子について、実施例1の場合と同様に、上記方法で「信頼性の評価」、「温度ばらつきの評価」、及び「抵抗値のばらつきの評価」を行った。結果を表1〜表3に示す。
【0091】
表1〜表3から明らかなように、実施例1〜3のセンサ素子は、比較例1,2のセンサ素子に比べて、再生操作を繰り返すことに対する耐久性及び均一な温度上昇が可能であることが確認できた。
【0092】
実施例1,2では、センサ基板の表面粗度の割合がより適正であるため「温度ばらつきの評価」の結果が良好であった。なお、実施例3では、「温度ばらつきの評価」結果が「A」評価ではあるが、標準偏差が大きい。このように標準偏差が大きいことは、電極厚みと温度ばらつきとの関係において、センサ基板の表面粗度の割合が大きく関与していることを示している。具体的には電極の膜質が低下しているものと推定される。
【0093】
比較例1では、センシング用電極及び加熱用導体の剥離が生じる程度が多く「信頼性の評価」の結果が悪くなった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のセンサ素子は、浮遊物質の濃度を測定するためのセンサとして用いることができ、具体的には、自動車などの排気系に設置されるセンサとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
11A,11B:センサ基板、13:第1面、15:第2面、17:センシング用電極、17a,17b:電極、19:加熱用導体、21:浮遊物質、23:絶縁層、100A,100B:センサ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有するセラミックスからなるセンサ基板と、
前記センサ基板の前記第1面上に配設されるとともに、一対の電極からなるセンシング用電極と、
前記センサ基板の前記第2面上に配設され、前記センサ基板及び前記センシング用電極を加熱可能な加熱用導体と、を備え、
前記センシング用電極の厚さに対する、前記センサ基板の前記第1面における少なくとも前記センシング用電極が配設された部分の表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、
前記加熱用導体の厚さに対する、前記センサ基板の前記第2面における少なくとも前記加熱用導体が配設された部分の表面粗度の割合が、1〜3%であるセンサ素子。
【請求項2】
前記センシング用電極の厚さに対する、前記センサ基板の前記第1面における表面粗度の割合が、0.2〜4%であり、前記加熱用導体の厚さに対する、前記センサ基板の前記第2面における表面粗度の割合が、1〜3%である請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記センサ基板は、酸化アルミニウム、ムライト、及び、スピネルからなる群より選択される少なくとも一種のセラミックスからなる請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記センサ基板は、前記第1面である表面及び前記第2面である裏面を有する平板状であり、
前記表面上に前記センシング用電極が配設され、前記裏面上に前記加熱用導体が配設されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記一対の電極は、その間の電気的な特性の変化が測定される測定部を有しており、前記測定部が白金族からなるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記測定部が白金からなるものである請求項5に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記加熱用導体の表面の少なくとも一部を被覆する絶縁層を更に備える請求項1〜6のいずれか一項に記載のセンサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2011−247725(P2011−247725A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120644(P2010−120644)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】