説明

センサ装置、送信装置及び送信制御方法

【課題】サイドローブを抑圧しつつ、消費電力を低減することを課題とする。
【解決手段】センサ装置10は、受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって送信信号を送信する。その上で、センサ装置10は、送信した送信信号に応答して得られる受信信号にフーリエ変換を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ装置、送信装置及び送信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス変調された送信信号に対する受信信号のドップラーシフトを用いて移動体を検知するセンサ装置、いわゆるドップラーレーダが知られている。このように、ドップラー成分を抽出する場合には、サンプリングされる受信信号のうち送信パルスが発振されてから一定周期の間に観測されたサンプルの位相変化が検出される。
【0003】
図27は、受信信号のサンプリング結果の一例を示す図である。図28は、受信信号のサンプルデータを整列させる方法の一例を示す図である。図29は、ドップラー信号の一例を示す図である。なお、図27に示すグラフの縦軸は振幅を指し、横軸は時間を指す。また、図28に示すグラフの縦軸は振幅を指し、横軸はセンサ装置から対象物までの距離を指す。
【0004】
図27に示すように、センサ装置は、パルス変調された送信信号を送信し、戻ってきた送信信号をサンプリングすることによって受信信号を得る。その後、センサ装置は、サンプリングした受信信号のうち送信パルスが発振されてから一定周期が経過するまでのサンプルデータ、すなわち図27の点線囲いの各領域の信号を一定周期ごとに切り出す。そして、センサ装置は、図28に示すように、センサ装置から対象物までの距離が同じ距離で計測された振幅値同士が図中のRengeの軸方向に並ぶように、一定周期ごとに切り出した各サンプルデータをA−A線の奥行き方向に向かって時系列に整列させる。その後、センサ装置は、一定周期ごとに切り出し整列させたサンプルデータのうちA−A線に対応する距離のデータ列、すなわち距離が100である部分のデータ列を抽出することによって図29に示すドップラー信号を抽出する。
【0005】
その上で、センサ装置は、抽出されたドップラー信号のデータ列に高速フーリエ変換、いわゆるFFT(Fast Fourier Transform)を適用して周波数成分に分解することによって、当該距離からの反射がドップラーシフトを有するか否かを判定する。
【0006】
このように、有限長のデータを用いて無限長のデータを想定するフーリエ変換を実行する場合には、スペクトル分解関数のメインローブの脇にサイドローブが発生する。かかるサイドローブは、有限長フーリエ変換の影響で本来は主信号が持っていない成分、すなわち無信号であるはずの周波数帯域に生じる信号成分を指す。
【0007】
図30は、図29に示したドップラー信号のスペクトル分解関数の一例を示す図である。図30に示すグラフの縦軸は振幅を指し、グラフの横軸は周波数を指す。図30に示すように、図29に示したドップラー信号にFFTが適用された場合には、そのスペクトル分解関数にメインローブ300及びサイドローブ301が検出される。これら第1サイドローブ301a及び301bを始めとするサイドローブ301は、微弱な主信号を覆い隠す場合がある。例えば、第1サイドローブ301a又は301bが分布する周波数帯域に約−20dB程度の微弱信号があったと仮定する。この場合には、第1サイドローブ301a及び301bが最大で約−13dBであるので、微弱信号が第1サイドローブ301a又は301bによって覆い隠されてしまう。
【0008】
かかるサイドローブを抑圧する技術の一例として、FFTの前処理に使用する窓関数が挙げられる。図31は、窓関数の一例を示す図である。図32は、図29に示したドップラー信号に図31に示す窓関数を適用した場合の時間波形を示す図である。図33は、窓関数適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。なお、図32に示すグラフ中の点線は窓関数適用前のドップラー信号を指し、グラフ中の実線は窓関数適用後の時間波形を指す。
【0009】
ここで、図31に示すように、両端の振幅が中央よりも弱くなる窓関数を図29に示したドップラー信号に掛け合わせる場合を想定する。この場合には、図32に示すように、図中の丸囲いの領域が図31に示した窓関数の掛け合わせによって損失する結果、図29に示した窓関数適用前のドップラー信号よりも両端の振幅が弱められた時間波形が得られる。このように、図32に示した窓関数適用後の時間波形にFFTが適用された場合には、図33に示すように、図30に示したスペクトル分解関数の場合よりもメインローブ330とサイドローブ331の差が開き、サイドローブレベルが低減される。例えば、第1サイドローブ331a及び331bが最大で約−40dBまで抑圧される。このため、図33に示すスペクトル分解関数の場合には、第1サイドローブ331a又は331bが分布する周波数帯域に約−20dB程度の微弱信号があったとしても第1サイドローブ331a又は331bによって覆い隠されず、微弱信号を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−3078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の従来技術では、サイドローブを抑圧するために消費電力が増大するという問題がある。
【0012】
すなわち、窓関数を適用する場合には、窓関数の掛け合わせによって受信信号が損失する分のエネルギーを補うために、送信信号の出力を上げる必要がある。このため、窓関数を適用する場合には、送信機によって消費される電力が増大してしまう。特に、レーダ装置などのように、送信機に大電力が使用される場合には、サイドローブの抑圧のための消費電力が増大する上、送信信号の出力を上げた分の熱エネルギーの冷却に消費する電力も増大する結果、更なる消費電力の増大につながる。
【0013】
なお、ここでは、センサ装置がレーダ装置である場合を例示したが、受信信号にフーリエ変換を適用する他のセンサ装置、例えばレーザーレーダ装置、音波センサ、超音波センサなどの装置にも同様の問題が生じる。
【0014】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、サイドローブを抑圧しつつ、消費電力を低減できるセンサ装置、送信装置及び送信制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の開示するセンサ装置は、受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって送信信号を送信する送信部を有する。さらに、前記センサ装置は、前記送信部によって送信された送信信号に応答して得られる受信信号にフーリエ変換を実行する信号処理部を有する。
【発明の効果】
【0016】
本願の開示するセンサ装置の一つの態様によれば、サイドローブを抑圧しつつ、消費電力を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1に係るセンサ装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、コード配列パターンの一例を示す図である。
【図3】図3は、コード配列パターンとハミング窓の相関関係を示す図である。
【図4】図4は、タイミングチャートの一例を示す図である。
【図5】図5は、実施例1に係るコード配列パターンの生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、実施例1に係る2値窓関数生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図8】図8は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図9】図9は、実施例1及び従来技術の間における消費電力の比較例を示す図である。
【図10】図10は、コード配列パターンの一例を示す図である。
【図11】図11は、コード配列パターンの一例を示す図である。
【図12】図12は、コード配列パターンとハミング窓の相関関係を示す図である。
【図13】図13は、コード配列パターンとハミング窓の相関関係を示す図である。
【図14】図14は、応用例に係る2値窓関数生成処理の手順を示すフローチャートである。
【図15】図15は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図16】図16は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図17】図17は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図18】図18は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図19】図19は、ハミング窓の一例を示す図である。
【図20】図20は、図19に示したハミング窓適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図21】図21は、ハミング窓の無信号部分の頻度分布とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。
【図22】図22は、ブラックマン窓の一例を示す図である。
【図23】図23は、図22に示したブラックマン窓適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図24】図24は、ブラックマン窓の無信号部分の頻度分布とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。
【図25】図25は、図10に示したコード配列パターンの適用時における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。
【図26】図26は、図11に示したコード配列パターンの適用時における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。
【図27】図27は、受信信号のサンプリング結果の一例を示す図である。
【図28】図28は、受信信号のサンプルデータを整列させる方法の一例を示す図である。
【図29】図29は、ドップラー信号の一例を示す図である。
【図30】図30は、図29に示したドップラー信号のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【図31】図31は、窓関数の一例を示す図である。
【図32】図32は、図29に示したドップラー信号に図31に示す窓関数を適用した場合の時間波形を示す図である。
【図33】図33は、窓関数適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本願の開示するセンサ装置、送信装置及び送信制御方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0019】
[センサ装置の構成]
まず、本実施例に係るセンサ装置の機能的構成について説明する。図1は、実施例1に係るセンサ装置の機能的構成を示すブロック図である。図1に示すセンサ装置10は、パルス変調された送信信号を送信し、戻ってきた送信信号を受信後に受信信号のドップラーシフトから移動体を検知するものである。
【0020】
図1に示すように、センサ装置10は、基準信号生成部11と、タイミング生成部12と、送信制御部13と、送信機14と、送信波変換器15と、受信波変換器16と、受信機17と、信号処理部18とを有する。
【0021】
このうち、基準信号生成部11は、基準信号を生成する処理部である。一態様としては、基準信号生成部11は、装置全体の時間管理を行うために、基準信号として所定の動作周波数のトリガ信号を発生させることによって装置全体を動作させる。
【0022】
タイミング生成部12は、送信信号を発生させるタイミングを生成する処理部である。このタイミング生成部12は、図1に示すように、パルス列生成部12aと、コード列生成部12aとを有する。
【0023】
パルス列生成部12aは、パルス列を生成する処理部である。一態様としては、パルス列生成部12aは、基準信号生成部11によって出力される基準信号をもとに、一定の間隔で「0」または「1」を含んで構成されるパルス列を生成する。
【0024】
コード列生成部12bは、受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって、パルス列生成部12aによって生成されるパルス列と同期したコード列を生成する処理部である。なお、以下では、上記のコードの配列パターンのことを「コード配列パターン」と記載する場合がある。
【0025】
ここで言う「処理区間」とは、後述の信号処理部18によるFFT(Fast Fourier Transform)を実行させる起動条件として設定される受信信号の区間長を指し、例えば、受信信号から一定周期ごとに切り出されるサンプルの数によって表される場合がある。かかる処理区間は、適用されるセンサの種別や求められる性能に応じてその長さを適応的に変更できる。また、同一のセンサ装置10であっても移動体の検知前と検知後で処理区間の長短を変更することもできる。一般に、処理区間を長くするほどFFTに適用される受信信号のサンプル数を多くできるので、移動体の検知を精密に行うことが可能になる。
【0026】
図2は、コード配列パターンの一例を示す図である。図3は、コード配列パターンとハミング窓の相関関係を示す図である。図2に示すように、コード配列パターンは、略左右対称に「0」または「1」が配列されており、中央に近づくほど「1」が密になり、両端に近づくほど「0」が密になるように「1」及び「0」のコードが配列されている。図2に示したコード配列パターンを局所的に平均化した場合には、図3に示すように、コード配列パターンの局所平均31、すなわち処理区間におけるコードの密度がハミング窓32に近似することがわかる。なお、図2の例では、ハミング窓に近似させたコード配列パターンを例示したが、ハミング窓以外の他の窓関数、例えばブラックマン窓などに近似させることとしてもかまわない。
【0027】
このように、窓関数に近似するコード配列パターンを採用するのは、受信時に窓関数の掛け合わせによって受信信号のエネルギーを損失させてしまうのであれば、損失分は予め送信しなければよいという着想に基づき、窓関数によって送信パルスを間引くためである。なお、コード配列パターンの生成方法については、図5や図6のフローチャートを用いて後述する。
【0028】
なお、コード列生成部12bは、予め与えられたコード配列パターンを用いてコード列を生成することもできるし、或いは、所定の頻度でコード配列パターンを動的に変更しつつコード列を生成することもできる。
【0029】
送信制御部13は、パルス列生成部12aによって生成されるパルス列及びコード列生成部12bによって生成されるコード列を参照して、送信信号のONまたはOFFを制御する処理部である。一態様としては、送信制御部13は、パルス列生成部12aによって生成されるパルス及びコード列生成部12bによって生成されるコードがともに「1」である場合に、送信信号「ON」に対応する送信パルス「1」を後段の送信機14へ出力する。
【0030】
図4は、タイミングチャートの一例を示す図である。図4に示す例で言えば、時刻t1におけるパルスの立ち上がりに同期してコードが「1」になってから時刻t2になるまでコード「1」が継続する。よって、送信制御部13は、時刻t1から時刻t2までの区間にわたってパルス列生成部12aによって生成されるパルス列に同期して送信パルスを送信機14へ出力する。同様にして、送信制御部13は、時刻t3から時刻t4までの区間、時刻t5から時刻t6までの区間、時刻7から時刻t8までの区間で送信パルスを送信機14へ出力する。なお、以下では、各信号をパルスの立ち上がりに同期させる場合を例示するが、パルスの立ち下がりに同期させることとしてもよい。また、ここでは、「0」をOFF、「1」をONとする場合を例示したが、各々が逆にしてもかまわない。
【0031】
送信機14は、センシング対象とする監視範囲に伝播させる送信信号を生成する処理部である。一態様としては、送信機14は、搬送波をパルス変調することによって送信信号を生成する場合には、パルスの立ち上がり時に搬送波の位相が常に一定値となるように送信信号を生成する。なお、送信信号の変調方式には、周波数変調、位相変調や振幅変調などの任意の方式を採用できる。この場合は、必ずしもパルス変調されている必要はなく、連続波であってもかまわない。他の一態様としては、送信機14は、爆薬を用いた起振機のように同一の波動を再現することが難しい場合には、送信信号の波形を記録した上で後述の受信機17へ出力することもできる。このように、送信信号および基準信号の間で位相が必ずしも一定の関係を有する必要はない。なお、後述の送信波変換器15がアレイ状に配置されている場合には、複数の送信機を並列して採用することもできる。
【0032】
送信波変換器15は、送信機14によって生成された送信信号を波動に変換する処理部である。一態様としては、レーダ装置のように波動として電磁波を用いる場合には、アンテナを採用できる。他の一態様としては、音波センサのように波動として音波を用いる場合には、スピーカを採用できる。更なる一態様としては、超音波センサのように波動として超音波を用いる場合には、超音波トランスデューサを採用できる。他の一態様としては、レーザーレーダ装置のように波動として光波を用いる場合には、レンズや反射鏡群を採用できる。更なる一態様としては、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置のように波動として磁界を用いる場合には、磁界の強さや向きを制御可能な磁石を採用できる。他の一態様としては、地殻探査装置のように波動として音波を用い、伝播媒質として地殻を用いる場合には、連続爆発可能な爆薬等を採用できる。なお、送信波変換器15は、単一であってもよいし、アレイ状に複数配置されることとしてもよい。
【0033】
このようにして、送信機14によって生成された電気信号が送信波変換器15によって波動に変換されて媒質を伝播する。このとき、略均一な媒質中に物理的特性が異なる対象物が存在した場合には、伝播させた波動と対象物との間で相互作用が発生し、散乱、反射、共振や共鳴などの現象が発生する。これらの現象で発生した波動は、送信時と同じ物理現象で媒質内を伝播する場合もあれば、異なった伝播特性を示す波動に変換される場合もある。
【0034】
受信波変換器16は、波動を電気信号に変換する処理部である。一態様としては、レーダ装置のように波動として電磁波を用いる場合には、アンテナを採用できる。他の一態様としては、音波センサのように波動として音波を用いる場合には、マイクロホンを採用できる。更なる一態様としては、超音波センサのように波動として超音波を用いる場合には、超音波トランスデューサを採用できる。他の一態様としては、レーザーレーダ装置のように波動として光波を用いる場合には、レンズや反射鏡群を採用できる。更なる一態様としては、MRI装置のように波動として磁界を用いる場合には、アンテナを採用できる。なお、受信波変換器16は、単一であってもよいし、アレイ状に複数配置されることとしてもよい。
【0035】
受信機17は、受信波変換器16によって波動が電気信号に変換された受信信号を増幅した上で後述の信号処理部18による信号処理を実行可能な状態に変更する処理部である。一態様としては、受信機17は、受信信号が搬送波を持つ場合には、搬送波を除去した上でベースバンド成分を抽出する。また、受信機17は、受信信号が搬送波を持たない場合には、送信時の波動との間で相関を取った上で後段の信号処理部18へ出力する。なお、受信波変換器16がアレイ状に配置されている場合には、複数の受信機を並列して採用することもできる。
【0036】
信号処理部18は、受信機17によって出力された受信信号に各種の信号処理を実行する処理部である。この信号処理部18は、図1に示すように、データ整列部18aと、FFT実行部18bと、検出処理部18cとを有する。
【0037】
このうち、データ整列部18aは、受信機17によって出力された受信信号からサンプルデータを切り出した上で整列させる処理部である。一態様としては、データ整列部18aは、受信機17によって出力された受信信号のうち、パルス列生成部12aによって生成されたパルスの立ち上がりから次のパルスの立ち上がりまでのサンプルデータを処理区間にわたって切り出す。そして、データ整列部18aは、自装置から対象物までの距離が同じ距離で計測された振幅値同士が並ぶように、パルスの立ち上がり周期ごとに切り出した各サンプルデータを時系列に整列させる。その上で、データ整列部18aは、パルスの立ち上がり周期ごとに切り出し整列させたサンプルデータのうち同じ距離が観測されたデータ列を抽出することによってドップラー信号を抽出する。このように、データ整列部18aは、図27〜図29を用いて上述したデータの切り出し整列と同様の処理を実行する。
【0038】
FFT実行部18bは、データ整列部18aによって切り出し整列されたドップラー信号にFFT処理を実行する処理部である。かかるFFT処理を実行するにあたって、FFT実行部18bは、コード列生成部12bによって生成されたコード列のうちコード「0」が配列された部分、すなわち送信信号が送信されていないタイミングに該当するFFTのバタフライ演算を省略する。このようにして、FFT実行部18bは、時間波形であるドップラー信号を周波数領域に変換することによってスペクトル分解関数を得る。
【0039】
検出処理部18cは、FFT実行部18bによって出力されたスペクトル分解関数のある点に有意な信号が存在するか否かを検出する処理部である。一態様としては、検出処理部18cには、注目点を中心にして前後の平均値と比較し、そのレベル差が所定の値以上である場合に信号有りと判定するLOG/CFAR(Constant False Alarm Rate)やLIN/CFARなどを採用できる。
【0040】
[処理の流れ]
続いて、本実施例に係るセンサ装置の処理の流れについて説明する。なお、以下では、センサ装置10によって実行される(1)コード配列パターンの生成処理を説明した後に、コード配列パターンの生成処理のサブフローとして実行される(2)2値窓関数生成処理を説明することとする。
【0041】
(1)コード配列パターンの生成処理
図5は、実施例1に係るコード配列パターンの生成処理の手順を示すフローチャートである。このコード列生成処理は、図示しない入力部等によってコード配列パターンの生成が指示された場合等に処理が起動する。
【0042】
図5に示すように、センサ装置10は、量子化時間t、パルス幅τやパルス繰り返し周期Tなどの初期パラメータを設定する(ステップS101)。このうち、パルス幅τは、パルスが立ち上がってから立ち下がるまでの幅を指し、パルス繰り返し周期Tは、パルスが立ち上がってから次に立ち上がるまでの周期を指す。また、量子化時間tは、基準信号生成部11によって生成される基準信号のクロックを指す。このため、パルス幅τ及びパルス繰り返し周期Tは量子化時間tの整数倍に設定される。
【0043】
続いて、センサ装置10は、FFT実行部18bにFFT処理を実行させる処理区間で目的の数のサンプルを得るために発生させるパルスの発生回数を表すパルス処理区間数Nを設定する(ステップS102)。
【0044】
そして、センサ装置10は、ステップS102で設定されたパルス処理区間数Nに応じた2値窓関数w(1→N)を生成する「2値窓関数生成処理」を実行する(ステップS103)。
【0045】
続いて、センサ装置10は、2値窓関数適用前のコード配列パターンX(n,m)を生成する(ステップS104)。そして、センサ装置10は、パルス処理区間数Nのうち何回目のパルスであるのかをカウントするカウンタnを「1」に設定する(ステップS105)。
【0046】
かかる2値窓関数適用前のコード配列パターンX(n,m)の生成について説明する。一態様としては、センサ装置10は、パルス処理区間数Nのうち何回目のパルスであるのかをカウントする「n」及びパルス繰り返し周期Tの間に量子化時間tが経過した回数をカウントする「m」を用いてX(n,m)を生成する。まず、センサ装置10は、量子化時間t及びカウンタmの積tmがパルス幅τになるまでの区間、すなわちパルスが立ち上がっている区間のX(n,m)を「1」に設定する。そして、センサ装置10は、積tmがパルス幅τになってからパルス繰り返し周期Tになるまでの区間、すなわちパルスが立ち下がっている区間のX(n,m)を「0」に設定する。その後、センサ装置10は、カウンタnがパルス処理区間数NになるまでX(n,m)の生成を繰り返し実行する。
【0047】
その上で、センサ装置10は、2値窓関数適用前のコード配列パターンX(n,m)に2値窓関数w(1→N)を組み込むことによって2値窓関数適用後のコード配列パターンY(n,m)を生成する(ステップS106)。
【0048】
かかる2値窓関数適用後のコード配列パターンY(n,m)の生成について説明する。一態様としては、センサ装置10は、2値窓関数w(n)の値が「1」である場合には2値窓関数適用前のコード配列パターンX(n,m)の値をそのままY(n,m)に採用する。一方、センサ装置10は、2値窓関数w(n)の値が「0」である場合にはY(n,m)を「0」に設定する。
【0049】
そして、センサ装置10は、カウンタnがパルス処理区間数Nになるまで(ステップS107否定)、カウンタnをインクリメントしつつ(ステップS108)、ステップS106の処理を繰り返し実行する。その後、カウンタnがパルス処理区間数Nになった場合(ステップS107肯定)には、目的とするコード配列パターンY(n,m)の生成が完了したので、処理を終了する。
【0050】
(2)2値窓関数生成処理
図6は、実施例1に係る2値窓関数生成処理の手順を示すフローチャートである。この2値窓関数生成処理は、図5に示したステップS103の処理に対応する処理であり、パルス処理区間数Nが設定された場合に処理が起動される。
【0051】
図6に示すように、センサ装置10は、処理区間長N、参照窓関数wおよび生成処理平均長L(L=N/M,ただしMおよびLは整数)などの初期パラメータを設定する(ステップS301〜ステップS303)。なお、参照窓関数wには、ハミング窓やブラックマン窓などの任意の窓関数を設定することができる。
【0052】
そして、センサ装置10は、目的とする2値窓関数の前半部分となる長さN/2の配列w(1→N/2)として0詰めされたコード列を生成する(ステップS304)。さらに、センサ装置10は、参照窓関数wから得られるN点離散化窓関数を生成した上でその前半部分1→N/2の値を格納した配列w(1→N/2)を生成する(ステップS305)。その後、センサ装置10は、カウンタnに初期値「−L/2+1」を設定する(ステップS306)。
【0053】
続いて、センサ装置10は、下記の式(1)及び式(2)を用いて、S(n)及びS(n)を算出する(ステップS307)。なお、下記の式(1)及び式(2)では、w(k)及びw(k)が1≦k≦N/2以外の区間でゼロであるものとする。
【0054】
【数1】

【数2】

【0055】
このとき、S(n)がS(n)以上である場合、すなわちS(n)≧S(n)である場合(ステップS308肯定)には、センサ装置10は、w(n+L/2)の値に「1」を設定する(ステップS309)。
【0056】
一方、S(n)がS(n)未満である場合、すなわちS(n)<S(n)である場合(ステップS308否定)には、上記のステップS309の処理を実行せず、0詰めを維持したままステップS310に移行する。
【0057】
そして、カウンタnが「(N−L)/2」になるまで(ステップS310否定)、カウンタnをインクリメントしつつ(ステップS311)、ステップS307〜ステップS309までの処理を繰り返し実行する。
【0058】
その後、カウンタnが「(N−L)/2」になった場合(ステップS310肯定)には、センサ装置10は、次のような処理を実行する。すなわち、センサ装置10は、2値窓関数の前半部分のw(1→N/2)を左右に折り返して複写することによって2値窓関数の後半部分のw(N/2+1→N)を生成する(ステップS312)。これによって、2値窓関数w(1→N)が生成されるので、処理を終了する。
【0059】
このように、窓関数と横軸との間で形成される面積と送信パルスと横軸との間で形成される面積とが略同一となるように生成したコード配列パターンを用いることによって、処理区間における送信パルスの密度を窓関数に最大限近似させることができる。
【0060】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係るセンサ装置10は、受信信号がフーリエ変換される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコード配列パターンにしたがって送信信号を送信し、送信信号に応答して得た受信信号にフーリエ変換を実行する。これによって、本実施例に係るセンサ装置10では、(1)サイドローブの抑圧、(2)消費電力の低減、(3)演算回数の低減、(4)送信信号の秘匿化、(5)多重化の5つの効果を少なくとも得ることができる。
【0061】
(1)サイドローブの抑圧
まず、本実施例に係るセンサ装置10が奏するサイドローブの抑圧効果について説明する。図7及び図8は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。これら図7及び図8に示すスペクトル分解関数は、いずれも上記のコード配列パターンにしたがって送信信号を送信することによって得られた受信信号にサンプルデータの切り出し整列およびドップラー信号のFFT処理を実行したものである。このうち、図7の例では、1つの信号が含まれる場合を示し、図8の例では、2つの信号が含まれる場合を示す。
【0062】
図7及び図8に示すスペクトル分解関数は、上記の従来技術で説明した図30のサイドローブ301が約−15dB程度であるのに対し、サイドローブ70及び80を約−30dB程度まで抑圧できていることがわかる。このため、図7に示すスペクトル分解関数からは、1つの信号成分71を検出することができる。また、図8に示すスペクトル分解関数からは、2つの信号成分81A及び信号成分81Bを検出することができる。
【0063】
このように、本実施例に係るセンサ装置10では、受信信号に窓関数を掛け合わせる代わりに、処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコード配列パターンにしたがって送信信号を送信する。このため、本実施例に係るセンサ装置10では、受信時に受信信号に窓関数を掛け合わせた場合と同等以上のサイドローブ抑圧効果を持つドップラー信号を得ることができる。
【0064】
(2)消費電力の低減
次に、本実施例に係るセンサ装置10が奏する消費電力の低減効果について説明する。図9は、実施例1及び従来技術の間における消費電力の比較例を示す図である。この図9の例では、センサ装置10がレーダ装置に適用される場合を想定し、本実施例に係るレーダ装置90及び従来技術に係るレーダ装置95の平均送信電力がともに100kwである場合を想定する。
【0065】
図9に示す従来技術に係るレーダ装置95では、受信信号に窓関数を掛け合わせることによって受信信号のエネルギーが損失する。例えば、受信信号にハミング窓を掛け合わせる場合には、全体では約75%(6dB)の電力を損失させるが、それに伴って信号対雑音比は約27%(約1.35dB)低下する。このため、従来技術に係るレーダ装置95の場合には、ハミング窓の掛け合わせによって27%の電力を損失すると仮定すると、137KWの送信電力を要し、37KWの送信電力の増加が必要となる。一方、本実施例に係るレーダ装置90の場合には、受信信号に窓関数を掛け合わせる必要がないので、送信電力は100KWのままでよい。
【0066】
ここで、送信機の効率を50%、送信機に供給する電源装置の効率を80%であるとしたとき、従来技術に係るレーダ装置95の入力電力が343KW必要であるのに対し、本実施例に係るレーダ装置90の入力電力は250KWで済む。つまり、本実施例に係るレーダ装置90では、従来技術に係るレーダ装置95と比べて、93KWの消費電力を低減できる。さらに、上記の電力の損失は、ほとんど熱に変換されるので、消費電力の損失は冷却システムの高能力化が必要となり、更なる消費電力の増大につながるが、入力電力自体を低減できるので、それに伴う冷却装置で消費される電力も低減できる。
【0067】
このように、本実施例に係るセンサ装置10では、受信信号に窓関数を掛け合わせることによって受信信号のエネルギーが損失することがないので、損失分のエネルギーを補うために送信電力を上げる必要がない。このため、本実施例に係るセンサ装置10では、送信機によって消費される電力を低減できる上、冷却装置によって消費される電力を低減できるので、センサ装置10全体の消費電力を効果的に低減できる。
【0068】
(3)演算回数の低減
次に、本実施例に係るセンサ装置10が奏する演算回数の低減効果について説明する。本実施例に係るセンサ装置10では、窓関数が「0」と「1」で構成される場合に、窓関数の乗算を減ずることができ、その割合は1/(2*n+1)となる。例えば、n=8の場合には5%、n=16の場合には3%の演算を削減できる。さらに、コード配列パターンが固定して使用される場合は、バタフライ演算に関する部分についても演算回数を減じることができ、参照する窓関数にもよるが、演算回数を50%程度減じることもできる。
【0069】
(4)送信信号の秘匿化
次に、本実施例に係るセンサ装置10が奏する送信信号の秘匿化効果について説明する。例えば、本実施例に係るセンサ装置10がレーダ装置やアクティブソナー装置として軍事目的に使用される場合もある。これら軍事目的に使用される装置では、装置が発する波動に対する傍受装置を用いることによって、波動を送出している装置の有無、波動の到来方向及び装置の諸元を知られ、装置が探知、識別される場合がある。この場合には、同様な波動を同装置方向に向けて発射することによって妨害を受けたり、火器を用いた攻撃・破壊を受けたりすることも想定される。
【0070】
従来のセンサ装置では、送受信及び信号処理のタイミング調整等の関係から、処理区間内で一定の周期を持った変調信号を送信信号として用いる場合が多く、傍受・妨害が容易に行われる可能性が高くなり、センサ装置の安全な運用が妨げられる。つまり、一定周期で変調された送信波動を用いる従来のセンサ装置では、傍受・妨害装置に対して探知、識別、妨害に対して脆弱となる。
【0071】
一方、本実施例に係るセンサ装置10では、処理区間における送信パルスの密度を窓関数に近似したコード配列パターンにしたがって送信信号を送信する。このように、本実施レに係るセンサ装置10では、周期的なパルス列よりも不規則なコード列を用いて送信信号を送信するので、送信信号を秘匿化できる。
【0072】
(5)多重化
従来のセンサ装置では、前述の様にパルス信号を連続して送受信する必要があるのに対し、本発明では送信するかしないかをあらかじめ決めることができて、送信しない区間においては送信機、受信機、波動変換器等全ての機能を停止させることで、消費電力の低減を図っている。これを逆に捉えると、十分な供給電力と冷却能力を使用することが出来る場合は、停止させる時間を別の目標に割り当てる事ができる。
【0073】
本発明のセンサ装置の多くは波動変換器としてアレイ化された変換器を使用することができて、瞬時に測定する角度を変更可能である。このことを利用すれば、停止させていた時間に送信機、受信機、波動変換器を他の観測角度に対して使用することによって、別角度の目標探知が可能となる。
【0074】
前述の様に、本発明で使用するコード配列は中心部が密で、両端では疎となっているため、割当をコード長の半分ずつずらしながら割当てることによって、2つの角度に対して同時に検出が可能となる。また、これまで述べてきた数100パルス分の信号が必要ではなく、精度などを低下させても良い場合などは数パルス分の信号のみを用いて検出を行える場合もある。長い処理区間の中で、送信しない区間を多くの角度に割当てれば、さらに多くの角度に対する検出を行う多重化が実現できる。
【0075】
このように、電力と冷却能力が十分使用出来るならば、従来のセンサで1つの角度の情報しか得られなかった時間の間に、多数の角度の情報を得ることができる。
【実施例2】
【0076】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0077】
[コード配列パターンの応用例]
上記の実施例1では、送信パルスと横軸との間で形成される面積が窓関数と横軸との間で形成される面積と略同一となるように生成したコード配列パターンを用いる場合を例示したが、必ずしも上記の方法によって生成された窓関数に最大限近似させる必要はない。
【0078】
例えば、センサ装置10は、処理区間のうち「0」から「1」までの値を取る一様乱数が窓関数の値以下である場合に送信パルスを「1」とし、一様乱数が窓関数よりも大きい場合に送信パルスを「0」としたコード列を用いることもできる。
【0079】
図10及び図11は、コード配列パターンの一例を示す図である。図12及び図13は、コード配列パターンとハミング窓の相関関係を示す図である。これら図10及び図11の例では、いずれも一様乱数を用いて生成されたコード配列パターンを示す。このうち、図10に示すコード配列パターンには、全コード列のうち「0」が484回含まれるとともに「1」が540回含まれる。また、図11に示すコード配列パターンには、全コード列のうち「0」が475回含まれるとともに「1」が549回含まれる。
【0080】
図10及び図11に示すように、各々のコード配列パターンは、図2に示したコード配列パターンと同様に、中央に近づくほど「1」が密になり、両端に近づくほど「0」が密になるようにコードが配列されている。その一方で、各々のコード配列パターンは、乱数によってコードの配列が決定されているので、いずれも左右対称ではない。これら図10及び図11に示したコード配列パターンを局所的に平均化した場合には、図12及び図13に示すように、コード配列パターンの局所平均121及び131、すなわち処理区間におけるコードの密度がハミング窓122及び132に近似する。なお、図10及び図11の例では、ハミング窓に近似させたコード配列パターンを例示したが、ハミング窓以外の他の窓関数、例えばブラックマン窓などに近似させることとしてもかまわない。
【0081】
このように、一様乱数を用いてコード配列パターンを生成した場合には、左右が非対称なパターンとなり、「0」及び「1」の数の比も一定しないが、その密度は、図2に示したコード配列パターンと同様に、窓関数に近似する。
【0082】
図14は、応用例に係る2値窓関数生成処理の手順を示すフローチャートである。この2値窓関数生成処理は、図6に示した2値窓関数生成処理の場合と同様に、図5に示したステップS103の処理に対応する処理であり、パルス処理区間数Nが設定された場合に処理が起動される。
【0083】
図14に示すように、センサ装置10は、処理区間長Nおよび参照窓関数wなどの初期パラメータを設定する(ステップS501及びステップS502)。なお、参照窓関数wには、ハミング窓やブラックマン窓などの任意の窓関数を設定することができる。
【0084】
そして、センサ装置10は、目的とする2値窓関数の長さNの配列w(1→N)として0詰めされたコード列を生成する(ステップS503)。さらに、センサ装置10は、参照窓関数wから得られるN点離散化窓関数を格納した配列w(1→N)を生成する(ステップS504)。さらに、センサ装置10は、値域0≦x≦1のN点の一様乱数を格納した配列r(1→N)を生成する(ステップS505)。その後、センサ装置10は、カウンタnに初期値「1」を設定する(ステップS506)。
【0085】
ここで、センサ装置10は、窓関数w(n)が一様乱数r(n)以上であるか否か、すなわちw(n)≧r(n)であるか否かを判定する(ステップS507)。このとき、窓関数w(n)が一様乱数r(n)以上である場合(ステップS507肯定)には、センサ装置10は、2値窓関数w(n)に「1」を設定する(ステップS508)。一方、窓関数w(n)が一様乱数r(n)未満である場合(ステップS507否定)には、センサ装置10は、2値窓関数w(n)に「0」を設定する(ステップS509)。
【0086】
その後、カウンタnが処理区間長Nになるまで(ステップS510否定)、カウンタnをインクリメントしつつ(ステップS511)、ステップS507〜ステップS509までの処理を繰り返し実行する。そして、カウンタnが処理区間長Nになった場合(ステップS510肯定)には、目的とする2値窓関数w(1→N)の生成が完了したので、処理を終了する。
【0087】
[応用例の効果]
上述してきたように、応用例に係るセンサ装置10は、上記の実施例1と同様に、受信信号がフーリエ変換される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコード配列パターンにしたがって送信信号を送信する。これによって、応用例に係るセンサ装置10では、上記の実施例1で説明した(1)〜(4)の効果を同様に得ることができるとともに、(5)レイリー分布とのフィッティングを加えた5つの効果を少なくとも得ることができる。なお、ここでは、(2)及び(3)の効果は上記の実施例1と略同一であるので、その説明を省略し、(1)、(4)及び(5)の効果を中心に説明することとする。
【0088】
(1)サイドローブの抑圧
まず、応用例に係るセンサ装置10が奏するサイドローブの抑圧効果について説明する。図15〜図18は、送信パルスの密度変更時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。これら図15〜図18に示すスペクトル分解関数は、いずれも一様乱数を用いて生成されたコード配列パターンにしたがって送信信号を送信することにより得られた受信信号にサンプルデータの切り出し整列およびドップラー信号のFFT処理を実行したものである。このうち、図15及び図17に示すスペクトル分解関数は、図10に示したコード配列パターン使用時のものであり、図16及び図18に示すスペクトル分解関数は、図11に示したコード配列パターン使用時のものである。なお、図15及び図16の例では、1つの信号が含まれる場合を示し、図17及び図18の例では、2つの信号が含まれる場合を示す。
【0089】
図15〜図18に示すスペクトル分解関数は、上記の従来技術で説明した図30のサイドローブ301が約−15dB程度であるのに対し、いずれもサイドローブ150、160、170及び180を約−30dB程度まで抑圧できていることがわかる。このため、図15に示すスペクトル分解関数からは、1つの信号成分151を検出することができる。また、図16に示すスペクトル分解関数からは、1つの信号成分161を検出することができる。また、図17に示すスペクトル分解関数からは、2つの信号成分171A及び信号成分171Bを検出することができる。また、図18に示すスペクトル分解関数からは、2つの信号成分181A及び信号成分181Bを検出することができる。
【0090】
このように、応用例に係るセンサ装置10では、受信信号に窓関数を掛け合わせる代わりに、処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコード配列パターンにしたがって送信信号を送信する。このため、応用例に係るセンサ装置10では、上記の実施例1と同様に、受信時に受信信号に窓関数を掛け合わせた場合と同等以上のサイドローブ抑圧効果を持つドップラー信号を得ることができる。
【0091】
(4)送信信号の秘匿化
次に、応用例に係るセンサ装置10が奏する送信信号の秘匿化効果について説明する。応用例に係るセンサ装置10では、一様乱数を用いて生成されたコード配列パターンにしたがって送信信号を送信するので、上記の実施例1の場合と比べてもさらに不規則なコード列を用いて送信信号を送信できる。このため、応用例に係るセンサ装置10では、送信信号を厳重に秘匿化できる。さらに、応用例に係るセンサ装置10では、所定の頻度でコード配列パターンを新たなパターンに更新して送信信号を生成することもできる。この場合には、無数のコード配列パターンを用いて送信信号を送信できるので、送信信号をより厳重に秘匿化できる。
【0092】
(5)レイリー分布とのフィッティング
次に、応用例に係るセンサ装置10が奏するレイリー分布とのフィッティング効果について説明する。サイドローブの形状は、主信号に伴って決まるものであり、主信号に対して一定比の電力で出力される。つまり、主信号が強いほど大きなサイドローブが発生することになる。検出処理部18cによって実行される周波数の自動検出処理は、フーリエ変換後のスペクトラムで、ある周波数に相当する電力と、その前後の平均電力を比較して検出する。このとき、サイドローブの電圧分布が一定の形状、すなわち振幅が一定値であるか、もしくはガウス分布以外の統計的性質を持っている場合には、平均値の収束が保障できない。このため、平均値区間が変動すると、その平均値が変動し、閾値が変動し、誤検出してしまう可能性がある。
【0093】
一般的な窓関数に対するサイドローブ形状は、所望の形状では無く、平均値が変動する特性を持っている。理想的なサイドローブの形状としては、主信号より十分に低い一定電力値を持つ形状が上げられる。これを実現できない場合は、それに次ぐ形状として、主信号より十分に低いピーク電力を持ち、その振幅分布がガウス分布、言い換えれば電力分布がレイリー分布を持つ形状が挙げられる。かかるサイドローブの形状が好ましい理由の一因には、平均化を実行した場合に一定値に近づく特性を持っているからである。このことから、平均化を実行した場合に、一定値に近づくサイドローブ特性を持つ事が望ましい。なお、上記の「レイリー分布」は、電圧分布がガウスの場合の信号を電力に変換した場合の確率密度関数を指す。
【0094】
まず、代表的な窓関数を受信信号の時間波形に適用した場合における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングについて説明する。なお、ここでは、図19〜図21を用いて、ハミング窓適用時におけるフィッティングを説明し、また、図22〜図24を用いて、ブラックマン窓適用時におけるフィッティングを説明することとする。
【0095】
図19は、ハミング窓の一例を示す図である。図20は、図19に示したハミング窓適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。図21は、ハミング窓の無信号部分の頻度分布とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。図19に示すように、区間の両端が不連続であるハミング窓を時間波形に適用した場合には、図20に示すスペクトル分解関数が得られる。図20に示すスペクトル分解関数のうち無信号部分の頻度分布は、図21のバー表示で示すように、振幅値が0から約0.0005程度までの区間に分布が集中しており、図21の実線で示したレイリー分布とは乖離していることがわかる。
【0096】
図22は、ブラックマン窓の一例を示す図である。図23は、図22に示したブラックマン窓適用時のスペクトル分解関数の一例を示す図である。図24は、ブラックマン窓の無信号部分の頻度分布とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。図22に示すように、区間の両端がゼロとなるブラックマン窓を時間波形に適用した場合には、図23に示すスペクトル分解関数が得られる。図23に示すスペクトル分解関数のうち無信号部分の頻度分布は、図24のバー表示で示すように、振幅値が0から約0.0003程度までの区間に分布が集中しており、図24の実線で示したレイリー分布とは乖離していることがわかる。
【0097】
このように、代表的な窓関数を時間波形に適用したとしても、その電力頻度分布はレイリー分布にはならず、特徴的なパターンを持った分布となるので、CFARの動作を安定させるのが困難であることがわかる。
【0098】
次に、応用例に係るコード配列パターンにしたがって送信信号を送信した場合における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングについて説明する。図25は、図10に示したコード配列パターンの適用時における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。図26は、図11に示したコード配列パターンの適用時における無信号部分とレイリー分布とのフィッティングを示す図である。図25及び図26に示すように、一様乱数を用いて生成されたコード配列パターンにしたがって送信信号を送信した場合には、図中のバー表示で示す無信号部分の電力頻度分布と、図中の実線で示したレイリー分布との適合度が高いことがわかる。
【0099】
このように、応用例に係るコード配列パターンにしたがって送信信号を送信した場合には、受信信号の時間波形に窓関数を適用せずとも、その電力頻度分布とレイリー分布との適合度が高くなるので、CFARの動作を安定させることが可能になる。
【0100】
(6)多重化
上記の実施例1の場合と同様に、十分な電力と冷却能力が使用可能であるならば、これまで送信しない区間を別の角度へ割当てることによって、従来技術では1つの角度のみを検出していた時間で、多くの角度の検出が可能となる。
【0101】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、基準信号生成部11〜送信波変換器15の各処理部、受信波変換器16〜受信機17の各処理部または信号処理部18をセンサ装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、基準信号生成部11〜送信波変換器15の各処理部と、受信波変換器16〜受信機17の各処理部と、信号処理部18とを別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記のセンサ装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
10 センサ装置
11 基準信号生成部
12 タイミング生成部
12a パルス列生成部
12b コード列生成部
13 送信制御部
14 送信機
15 送信波変換器
16 受信波変換器
17 受信機
18 信号処理部
18a データ整列部
18b FFT実行部
18c 検出処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって送信信号を送信する送信部と、
前記送信部によって送信された送信信号に応答して得られる受信信号にフーリエ変換を実行する信号処理部と
を有することを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
前記配列パターンは、前記処理区間のうち0から1までの値を取る一様乱数が前記窓関数の値以下である場合に前記送信パルスを1とし、前記一様乱数が前記窓関数よりも大きい場合に前記送信パルスを0としたコード列であることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって送信信号を送信する送信部を有する送信装置。
【請求項4】
コンピュータが、
受信信号にフーリエ変換が実行される処理区間における送信パルスの密度が窓関数に近似するコードの配列パターンにしたがって送信信号を送信し、
送信された送信信号に応答して得られる受信信号にフーリエ変換を実行する
各処理を実行することを特徴とするセンサ装置の送信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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