説明

センシングシステム及びセンシングプログラム

【課題】遅延波の電力変動を利用して被検知体の状態を判別できるようにする。
【解決手段】本発明のセンシングシステムは、電波の送信から1又は複数の被検知体に反射された電波を受信するまでの、1又は複数の被検知体の遅延時間を保持する遅延時間保持手段と、到来波の受信電力値を十分短い間隔で連続的にサンプリングして、電波送信時から受信された遅延波の時系列の受信電力値を示す電力遅延データを取得する電力遅延データ取得手段と、電力遅延データを参照し、各被検知体の遅延時間に相当する到着時刻における受信電力値に基づいて、各被検知体の状態を判定する状態判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センシングシステム及びセンシングプログラムに関するものである。本発明は、例えば、電波を利用して空間内の物体の状態を判別するセンシングシステムに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドアの開閉等を検知するセンサシステムは世の中で多く利用されている。
【0003】
図2は、例えば、従来のドアの開閉を検知するセンサシステムを説明する説明図である。図2では、例えば筐体や部屋などの空間91に設けられたドア92の開閉を検知するセンサシステム90を例示する。
【0004】
図2において、ドア92の近傍にはドア92の開閉を検知するセンサ93があり、さらにセンサ93からのセンサデータに基づいて、何らかの動作を制御するコントローラ94がある。センサ93からコントローラ94までは、ケーブル95で接続されており、センサデータはケーブル95を通じてコントローラ94に伝送される。図2に例示する従来のセンサシステム90は、ケーブル95の敷設が必要となり、ケーブル95の敷設は施工作業及び時間を要し、又ケーブル95が露出するので外観も望ましくない等の問題点もあった。
【0005】
これに対し、センサデータを伝送するケーブルをなくすために、電波を間欠的に送信し、入退出する際の人の動作やドアの開閉により、電波の反射、吸収、散乱による電界強度の変化を検出することにより、ドアの開閉を判定できるセンシングシステムがある(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−4256号公報
【特許文献2】特開2010−255270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載される方法は、例えば、ドアの開閉等の状態変化を検出することができるが、ドアの状態の違いを判別することはできない。
【0008】
特許文献1、特許文献2の記載技術はいずれも、ドアが開閉したときに生じる反射波のゆらぎ(すなわち単純な電界強度)の変化を利用するものである。この場合、ドアの開閉によってもゆらぎは発生し、さらには、人の移動によってもゆらぎは発生する。従って、特許文献1及び特許文献2の記載技術は、反射波のゆらぎに基づいて、何らかの状態変化を検知することはできる。
【0009】
しかし、特許文献1及び特許文献2の記載技術は、ドアが開状態にあるか又は閉状態にあるのかを検出することはできない。つまり、特許文献1及び特許文献2の記載技術は、ドアの開閉によるものであっても、人の移動によるものであっても、何らかの変化を検知できればよいというアプリケーションであるため、ドアが開いている状態なのか、あるいは閉じている状態なのか、といった絶対的な状態の違いを区別することができないという問題が生じ得る。
【0010】
また、例えば、狭小かつ複雑な空間では、絶えず小さなゆらぎが発生しているので、ある特定の物体(被検知体)の状態の区別を検知したいという要望に応えることができないという問題も生じ得る。
【0011】
そのため、遅延波の電力の変動を利用して、空間における被検知体の状態を判別できるようにするセンシングシステム及びセンシングプログラムが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、第1の本発明は、(1)電波の送信から1又は複数の被検知体に反射された電波を受信するまでの、1又は複数の被検知体の遅延時間を保持する遅延時間保持手段と、(2)到来波の受信電力値を十分短い間隔で連続的にサンプリングして、電波送信時から受信された遅延波の時系列の受信電力値を示す電力遅延データを取得する電力遅延データ取得手段と、(3)電力遅延データを参照し、各被検知体の遅延時間に相当する到着時刻における受信電力値に基づいて、各被検知体の状態を判定する状態判定手段とを備えることを特徴とするセンシングシステムである。
【0013】
第2の本発明は、コンピュータを、(1)電波の送信から1又は複数の被検知体に反射された電波を受信するまでの、1又は複数の被検知体の遅延時間を保持する遅延時間保持手段、(2)到来波の受信電力値を十分短い間隔で連続的にサンプリングして、電波送信時から受信された遅延波の時系列の受信電力値を示す電力遅延データを取得する電力遅延データ取得手段、(3)電力遅延データを参照し、各被検知体の遅延時間に相当する到着時刻における受信電力値に基づいて、各被検知体の状態を判定する状態判定手段として機能させることを特徴とするセンシングプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遅延波の電力の変動を利用して、空間における被検知体の状態を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のセンシングシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】従来のセンサシステムを説明する説明図である。
【図3】第1の実施形態のセンシングシステムの全体構成を示す全体構成図である。
【図4】第1の実施形態において電力遅延プロファイルを説明する説明図である。
【図5】第1の実施形態において電力遅延プロファイルを説明する説明図である。
【図6】第1の実施形態において電力遅延プロファイルを利用して被検知体の状態を判別する方法の基本概念を説明する説明図である。
【図7】第1の実施形態において電波センサ部による被検知体の状態を検知する動作を示すフローチャートである。
【図8】第1の実施形態において、ドアの開状態を検知する方法を説明する説明図である。
【図9】第1の実施形態において、ドアの閉状態を検知する方法を説明する説明図である。
【図10】第2の実施形態において、2つのドアの開状態を検知する方法を説明する説明図である。
【図11】第2の実施形態において、2つのドアの閉状態を検知する方法を説明する説明図である。
【図12】第2の実施形態において、一方のドアの開状態及び他方のドアの閉状態を検知する方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(A)本発明の基本概念
本発明のセンシングシステムは、状態検知の目標である被検知体の状態を検知するものである。
【0017】
通常、電波は様々な物体により反射されて受信される。このとき、各素波は反射行路がそれぞれ異なるため、素波の反射行路の距離の違いにより遅延して到着し、一般的には、各素波の合成電力値として受信される。
【0018】
これに対して、本発明のセンシングシステムは、反射された電波が遅延して受信部により受信されるため、その遅延波の受信電力値の時系列変動を測定し、その受信電力値の時系列変動に基づいて被検知体の状態を判別するものである。
【0019】
センシングシステムは、送信部が発信した電波が被検知体に反射し、その反射された電波が受信部に受信され、受信部が素波の電力変化を確認する。すなわち、センシングシステムは、被検知体によって反射される素波の到着時間を計算する素波到着時間算出手段と、受信部に遅延して届く素波の電力値(電界強度)を測定する電力測定手段とを備える。
【0020】
ここで、到来波の受信電力値の時系列変動の測定結果を「電力遅延プロファイル」と呼ぶ。すなわち、本発明のセンシングシステムは、電力遅延プロファイルを利用して、被検知体の状態を判別するものである。
【0021】
そのため、本発明のセンシングシステムは、電力遅延プロファイルを測定する電力遅延プロファイル測定手段を備える。または、電力遅延プロファイル測定手段と同等の、遅延波の受信電力を利用して、その遅延波の受信電力の変動を測定することで被検知体の状態を検出する手段を備える。
【0022】
電力遅延プロファイルは、受信部が高速サンプリング間隔で電波を受信することにより取得する。従って、センシングシステムは、各サンプリングポイントにおける離散的な受信電力値として電力遅延プロファイルを求めることができる。
【0023】
センシングシステムは、電力遅延プロファイルを参照して、被検知体に反射された素波の到着時間に基づいて、当該被検知体の状態を判定する。すなわち、被検知体に反射された素波の到着時刻における受信電力値が大きいときには、被検知体が反射できる状態にあり、当該受信電力値が小さいときには、被検知体が反射できない状態にあると判別できる。
【0024】
(B)第1の実施形態
以下では、本発明のセンシングシステム及びセンシングプログラムの第1の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(B−1)第1の実施形態の構成
(B−1−1)全体構成
図3は、第1の実施形態のセンシングシステムの全体構成を説明する全体構成図である。図3は、例えば、筐体や部屋等のような空間1に、第1の実施形態のセンシングシステム10が設置された場合の全体構成図である。
【0026】
空間1にはドア2が設けられており、又、空間1内には障害物5が置かれているものとし、第1の実施形態のセンシングシステム10は、ドア2の開状態又は閉状態を検知する場合を例示する。
【0027】
ドア2は、センシングシステム10が状態を検知する被検知体の一例である。ドア2の位置は、固定されており、電波センサ部3からの距離が一定であるとする。これにより、電波センサ部3は、自身から被検知体であるドア2までの距離を予め認識しているものとする。
【0028】
ここで、被検知体は、何らかの2以上の状態に変わり得るものであり、その状態変化に伴い、送信されてきた電波の反射態様を変え得るものである。この実施形態では、被検知体がドア2である場合を例示するが、被検知体はドア2に限定されるものではなく、広く適用することができる。
【0029】
また、被検知体は、1個であってもよいし、複数個であってもよい。この実施形態では、1個のドア2を被検知体とする場合を例示する。
【0030】
さらに、被検知体は、効果的に電波を全反射できるように、材質が金属等からなる反射板(反射体)を設けるようにしてもよい。勿論、被検知体の材質が金属などからなる場合には、新たに反射板を設ける必要はない。
【0031】
図3において、第1の実施形態のセンシングシステム10は、電波センサ部3を有して構成されており、電波センサ部3はコントローラ4と接続されている。
【0032】
電波センサ部3は、送信部31及び受信部32を有するものであり、受信部32は、送信部31が発信して反射されて戻ってきた電波を受信するものである。電波センサ部3は、受信部32が受信した電波の電力変化に基づいて、被検知体であるドア2の開状態又は閉状態を判別するものである。また、電波センサ部3は、判別結果をコントローラ4に与えるものである。電波センサ部3の位置は、予め固定的に配置されているものとする。
【0033】
なお、図3では、1台の電波センサ部3のみを配置させた場合を例示するが、複数台の電波センサ部3を配置させるようにしてもよい。複数台の電波センサ部3が配置される場合でも、各電波センサ部3の位置は固定的に配置されており、各電波センサ部3は、被検知体と電波センサ部3との間の距離を予め認識しているものとする。
【0034】
コントローラ4は、電波センサ部3によるドア2の開状態又は閉状態の判別結果を受け取り、その判別結果に基づいて、所定の制御処理を行なうものである。なお、コントローラ4が行なう制御処理は、特に限定されるものではなく、判別結果を利用した様々な処理を広く適用することができる。
【0035】
(B−1−2)センシングシステム10の詳細な構成
図1は、センシングシステム10を構成する電波センサ部3の詳細な内部構成を示すブロック図である。電波センサ部3は、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM、入出力インタフェース等の回路装置を有する。電波センサ部2の各種機能は、例えば、CPUが、ROMに格納される処理プログラムを実行することでなされる。
【0036】
図1において、電波センサ部3は、送信部31、受信部32、遅延プロファイル計算部33、センシングポジションデータベース34、遅延時間計算部35、センシング判定部36を有する。
【0037】
送信部31は、電力遅延プロファイルを測定するための電波を送信するものである。送信部31は、所定周波数の電波を送信する。ここで、送信部31が発信する電波の周波数は、特に限定されるものではない。また、送信部31は、電波を送信する送信タイミングを遅延プロファイル計算部33に与えるものである。これにより、電力遅延プロファイルを計算するために必要な、電波の送信時刻を遅延プロファイル計算部33に通知することができる。
【0038】
受信部32は、送信部31が送信した電波について、反射された到来波を受信し、その素波の受信電力値を測定するものである。これにより、遅延波の受信電力値の時系列変動を測定することができる。また、受信部32は、素波の受信電力値を電力遅延プロファイル計算部33に与えるものである。
【0039】
受信部32は、図1に示すように、受信強度測定部321、高速サンプリング回路部322を有する。
【0040】
受信強度測定部321は、アンテナ部(図示しない)により捕捉された到来波の受信電力値の時間的な変動を測定する到来波受信電力測定手段である。
【0041】
高速サンプリング回路部322は、受信強度測定部321により求められた到来波の受信電力値の時間的な変動の測定結果を、高速なサンプリング間隔でサンプリングして、離散的な受信電力値を求めるものである。また、高速サンプリング回路部322は、受信時刻及び受信電力値を、離散的な受信電力値として、電力遅延プロファイル計算部33に与えるものである。
【0042】
ここで、電力遅延プロファイルの精度を上げるために、高速サンプリング回路部322のサンプリング間隔は高速であることが望ましい。例えば、空間1の広さ、被検知体であるドア2と電波センサ部3との間の距離等に応じてサンプリング間隔は決定されるが、ドア2と電波センサ部3との間の距離が短いほど、サンプリング間隔が高速となるように設定することが望まれる。
【0043】
電力遅延プロファイル計算部33は、送信部31が電波を送信したタイミングと、受信部32からの離散的な受信電力値(すなわち受信部32が受信した電波の受信時刻における受信電力値)とに基づいて、電力遅延プロファイルを求めるものである。すなわち、電力遅延プロファイル計算部33は、電波送信時刻を基準として、各受信時刻の受信電力値を時間軸上に展開した電力遅延プロファイルを作成するものである。
【0044】
図4及び図5は、電力遅延プロファイルを説明する説明図である。図4は、到来波の受信電力値の時間的な変動の測定結果を説明する説明図である。図5は、高速サンプリング回路部322による到来波の離散的な受信電力値の測定結果を説明する説明図である。図4及び図5において、横軸は時間であり、縦軸は到来波の受信電力値を示す。
【0045】
送信部31が送信した電波は、様々な物に反射されて遅延して受信部32に到来する。そのため、図4に示すように、反射された素波は遅延して届き、素波の受信電力値は時間的に変動するものとなる。
【0046】
高速サンプリング回路部322は、図5に示すように、サンプリング間隔で図4に例示する到来波の受信電力値をサンプリングして、電力遅延プロファイル計算部33は、離散的な受信電力値を取得する。
【0047】
電力遅延プロファイル計算部33は、高速サンプリング回路部322からの離散的な受信電力値及び送信部31の送信時刻に基づいて、図5に示すように、送信時刻からの遅延波の受信電力値の時系列変動を示す電力遅延プロファイルを作成する。
【0048】
センシングポジションデータベース34は、全てのセンシングポジションの位置情報を格納するものである。つまり、センシングポジションデータベース34は、例えば、送信部31の位置情報、受信部32の位置情報、被検知体(例えばドア2)の位置情報、障害物5の位置情報等をセンシングポジションの位置情報として格納する。
【0049】
例えば、センシングポジションデータベース34は、空間1に基準位置を設定し、送信部31、受信部32、ドア2等のそれぞれの座標情報を位置情報として格納する。空間1における基準位置は、任意に設定することができるものであり、例えば、送信部31の位置を基準位置とすることができる。また座標情報は、2次元座標としてもよいし、3次元座標としてもよい。
【0050】
なお、センシングポジションデータベース34は、送信部31からドア2までの距離と、ドア2から受信部32までの距離とを合計した距離情報を格納するようにしてもよい。
【0051】
また、センシングポジションデータベース34は、被検知体であるドア2の状態の判別を行なうときに、格納されている各センシングポジションの位置情報を遅延時間計算部35に与えるものである。
【0052】
遅延時間計算部35は、センシングポジションデータベース34に格納されている各センシングポジションの位置情報を取得すると、送信部31とドア2との間の距離と、ドア2と受信部32との間の距離とを求め、送信部31とドア2との間の距離とドア2と受信部32との間の距離との合計を求める。これにより、送信部31から発信された電波がドア2に反射して直接受信部32まで到達するまでの電波行路の合計距離を求めることができる。
【0053】
また、遅延時間計算部35は、電波の速度(約秒速30万km)を保持しており、ドア2に反射する電波行路の合計距離と電波の速度とに基づいて、到来波の遅延時間を求めるものである。遅延時間計算部35は、求めた遅延時間情報をセンシング判定部36に与える。
【0054】
センシング判定部36は、電力遅延プロファイル計算部33から電力遅延プロファイルと、遅延時間計算部35から遅延時間情報とを受け取り、電力遅延プロファイルの当該遅延時間における受信電力値の結果に基づいて、被検知体であるドア2の状態を判定するものである。また、センシング判定部36は、ドア2の状態の判定結果をコントローラ4に与えるものである。
【0055】
ここで、電力遅延プロファイルを利用して被検知体の状態を判別する方法について説明する。
【0056】
図6は、電力遅延プロファイルを利用して被検知体の状態を判別する方法の基本概念を説明する説明図である。図6では、被検知体の2以上の状態として、ドア2の開状態又は閉状態を判定する場合を例示する。
【0057】
図6(A)は電力遅延プロファイル例を示し、図6(B)は空間1におけるドア2の状態例を示す。
【0058】
予め送信部31及び受信部32の位置情報と被検知体であるドア2の位置情報とは固定的に配置されており登録されている。これにより、送信部31とドア2までの距離と、ドア2から受信部32までの距離とに基づいて、電波行路の合計距離が求められる。
【0059】
なお、電波行路の合計距離が求められるのであれば、送信部31及び受信部32は、1つのモジュール内に備えられている必要はなく、それぞれモジュール外に備えるようにしてもよい。
【0060】
まず、被検知体に対する電波行路の合計距離と、電波の速度(例えば、約秒速30万km)とに基づいて、送信部31から発信された電波がドア2に反射し、反射された素波が受信部32に受信されるまでの時間(到着時刻)を、遅延時間計算部35は求めることができる(S101)。ここでは、例えば、ドア2に反射した素波の到着時刻がTであるとする。
【0061】
センシング判定部36は、電力遅延プロファイル計算部33から、高速サンプリングによる電力遅延プロファイルを連続的に取得する。
【0062】
センシング判定部36は、ドア2に反射した素波の到着時刻を認識しているので(S102)、その素波の到着時刻における受信電力値に基づいて、ドア2の状態を判定する。
【0063】
例えば、ドア2が閉状態のときには、電波はドア2に反射するため、当該素波の受信電力値は隣接する受信電力値に比べて高く変化する。従って、センシング判定部36は、当該到着時刻における受信電力値が比較的大きい値の場合には、ドア2は閉状態であると判定することができる。一方、ドア2が開状態のときには、ドア2に反射した素波は受信部32まで到着しなかったり、行路が長くなり受信部32までの到着時刻が更に遅くなったりするので、当該到着時刻における受信電力値が隣接の受信電力値と比べても変化しない値となる。従って、このような場合、センシング判定部36は、ドア2が開状態であると判別することができる(S103)。
【0064】
なお、上記の例では、説明便宜上、被検知体がドア2の場合を例示したが、ドア2に限定されるものではない。例えば、被検知体が配置の向きによって、電波の反射行路が変わる場合もある。その場合にも、反射行路が変わることで、反射された電波が受信部32に到着時刻が変わるので、センシング判定部36は、当該被検知体の配置向きの状態を判定することができる。
【0065】
(B−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の電波センサ部3による被検知体の状態を検知する動作を、図面を参照しながら説明する。
【0066】
図7は、第1の実施形態の電波センサ部3における被検知体の状態検知動作を示すフローチャートである。
【0067】
ここでは、図3に示すように、筐体などの空間1にドア2が取り付けられており、電波センサ部3はドア2の開状態又は閉状態を検知する。
【0068】
図7において、まず、送信部31が電波を発信する(S201)。送信部31から発信される電波は、説明便宜上、例えば2波の代表的な素波から構成されるものとする。
【0069】
図3に例示する空間1には、被検知体であるドア2の他に、障害物5が配置されていてもよい。これは、障害物5があっても、電波は、光と異なり、障害物5を回り込み進む性質があるからである。なお、ここでは、電波が障害物5を回り込む距離は微小であり、無視できるものとして説明する。
【0070】
送信部31から発信された電波は被検知体であるドア2に反射し、反射された素波は、受信部32により捕捉される。受信部32では、反射された素波の受信電力値の時間的変動を測定する(S202)。
【0071】
なお、ドア2に反射される電波はドア2により吸収されず、全反射されることが望まれる。そのため、全反射を可能とするために、例えば材質が金属等からなる反射板をドア2に設けるようにしてもよい。
【0072】
反射された素波の受信電力値の時間的変動が測定されると、受信部32では、高速サンプリング回路部322は、サンプリング間隔で受信電力値の時間的変動を高速サンプリングして、離散的な受信電力値データを求める(S203)。
【0073】
電力遅延プロファイル計算部33は、送信部31からの送信時刻を基準として、受信部32からの一連の離散的な受信電力値データに基づき、電力遅延プロファイルを作成する。
【0074】
一方、遅延時間計算部35は、センシングポジションデータベース34に格納される送信部31、受信部32、ドア2の位置情報に基づいて、ドア2に反射して直接受信部32に受信される電波の行路の合計距離を求める。そして、この電波行路の合計距離と電波の速度とに基づいて、ドア2に反射した素波が受信部32に到着する到着時間を求める(S204)。
【0075】
電波センサ部3のセンシング判定部36では、ドア2に反射した素波の到着時間に基づいて、電力遅延プロファイルでの到着時刻における受信電力値に基づいて、ドア2の状態を判定する(S205)。
【0076】
図8は、ドア2の開状態を検知する方法を説明する説明図である。図8(A)は、空間1においてドア2が開状態であるときに、送信部31からの電波の行路及びドア2に反射する素波の行路を説明する説明図である。図8(B)は、電力遅延プロファイルの例を示す図である。
【0077】
図8(A)に示すように、送信部31から発信された電波は、障害物5、壁、天井等に反射され、その反射された電波が受信部32に受信される。また、障害物5があっても、電波は障害物5を回り込み進む。従って、図8(A)に示すように、送信部31から障害物5の先にドア2があるときでも、電波は障害物5を回り込んでドア2に進み、ドア2により反射される。
【0078】
図8(A)に示すように、ドア2が開状態の場合、ドア2に反射した素波は、直接、受信部32に届かない。すなわち、ドア2に反射した素波は、壁等に反射して多次的に受信部32に受信され得るが、行路が長くなる。そのため、反射された素波が受信部32に到着されるまでの到着時間が遅くなり得る。
【0079】
例えば、図8(B)において、ドア2に反射した電波が直接受信部32に到着する到着時間が到着時間Tであるとする。ドア2が開状態の場合、電波の到着時間が遅くなるので、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えていない場合(S206)、センシング判定部36はドア2が開状態であると判定する(S208)。
【0080】
図9は、ドア2の閉状態を検知する方法を説明する説明図である。図9(A)は、空間1においてドア2が閉状態であるときに、送信部31からの電波の行路及びドア2に反射する素波の行路を説明する説明図である。図9(B)は、電力遅延プロファイルの例を示す図である。
【0081】
図9(A)に示すように、ドア2が閉状態の場合、ドア2に反射した素波は、直接、受信部32に届く。この場合、図9(B)に示すように、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えるので(S206)、センシング判定部36はドア2が閉状態であると判定する(S207)。
【0082】
センシング判定部36は、ドア2の状態の判別結果を、コントローラ4に通知する。コントローラ4は、センシング判定部36からの判別結果に基づいて、所定の処理を行なう。
【0083】
(B−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、被検知体であるドアによって反射される素波の到着時間を計算する手段と、遅延して届く素波の電界強度を測定する手段を有するため、ドアの開閉の2つの状態を判別することができる。
【0084】
(C)第2の実施形態
次に、本発明のセンシングシステム及びセンシングプログラムの第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0085】
(C−1)第2の実施形態の構成及び動作
第2の実施形態のセンシングシステムは、被検知体であるドアが複数ある場合の実施形態を説明する。
【0086】
第2の実施形態のセンシングシステムの構成は、第1の実施形態と同じであるので、第2の実施形態においても図1を用いて説明する。また、第2の実施形態においても、センシングシステム10が被検知体の状態を検知する基本的な動作は第1の実施形態と同じである。
【0087】
そこで、第2の実施形態では、センシングシステム10が、2つのドアの状態を検知する動作について説明する。
【0088】
図10〜図12は、2つのドア21及び22が空間1に設けられている場合に、センシングシステム10が2つのドア21及び22の状態を検知する動作を説明する説明図である。
【0089】
なお、ドア21及び22に反射した素波の到着時間は、第1の実施形態と同様にして求めることができる。ここでは、ドア21に反射した素波の到着時刻を到着時刻Tとし、ドア22に反射した素波の到着時刻を到着時刻Tとする。
【0090】
図10は、2つのドア21及び22が両方との開状態である場合に、センシングシステム10がドア21及び22の状態を検知する場合を説明する説明図である。図10(A)は、電波センサ部3の送信部31からの電波の行路を説明する説明図である。図10(B)は、電力遅延プロファイルの例を示す図である。
【0091】
図10(A)に示すように、ドア21及び22が開状態の場合、ドア21及び22に反射した素波はいずれも、直接、受信部32に届かない。すなわち、ドア21及び22に反射した素波は、壁等に反射して多次的に受信部32に受信され得るが、行路が長くなる。そのため、反射された素波が受信部32に到着されるまでの到着時間が遅くなり得る。
【0092】
従って、図10(B)において、ドア21が開状態の場合、電波の到着時間が遅くなるので、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えていないから、センシング判定部36はドア21が開状態であると判定する。同様に、ドア22が開状態の場合も、電波送信時刻から時刻T2における受信電力値が閾値を越えていないから、センシング判定部36はドア21が開状態であると判定する。
【0093】
このようにして、センシング判定部36は、ドア21及び22がいずれも開状態であると判定する。
【0094】
図11は、ドア21及び22が閉状態である場合、センシングシステム10がドア21及び22の状態を検知する場合を説明する説明図である。図11(A)は、電波センサ部3の送信部31からの電波の行路及び反射された電波の行路を説明する説明図である。図11(B)は、電力遅延プロファイルの例を示す図である。
【0095】
図11(A)に示すように、ドア21及びドア22のいずれも閉状態の場合、ドア21に反射した素波は、直接、受信部32に届く。従って、図11(B)に示すように、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えるので、センシング判定部36はドア21が閉状態であると判定する。同様に、ドア22に反射された素波も、直接受信部32に届くので、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えるので、センシング判定部36はドア22も閉状態であると判定する。
【0096】
図12は、ドア21が開状態であり、ドア22が閉状態である場合、センシングシステム10がドア21及び22の状態を検知する場合を説明する説明図である。図12(A)は、電波センサ部3の送信部31からの電波の行路及び反射された電波の行路を説明する説明図である。図12(B)は、電力遅延プロファイルの例を示す図である。
【0097】
図12(A)に示すように、ドア21が開状態の場合、ドア21に反射した素波はいずれも、直接、受信部32に届かない。従って、図12(B)において、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えていないから、センシング判定部36はドア21が開状態であると判定する。
【0098】
一方、図12(A)に示すように、ドア22が閉状態の場合、ドア22に反射した素波は、直接、受信部32に届く。従って、図12(B)に示すように、電波送信時刻から時刻Tにおける受信電力値が閾値を越えるので、センシング判定部36はドア21が閉状態であると判定する。
【0099】
(C−3)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、被検知体であるドアが複数の場合も、第1の実施形態と同様にして、それぞれのドアの開閉の状態を判別することが可能である。
【0100】
(D)他の実施形態
(D−1)上述した第1及び第2の実施形態では、被検知体の一例として、筐体等の空間に設けられたドアを挙げて説明したが、ドアに限定されるものではない。例えば、被検知体の位置情報が保持することができれば、固定的に配置された物体であってもよいし、例えば通過する紙等の媒体であってもよい。紙などの媒体を被検知体とする場合には、紙に反射板等を設けることで実現できる。
【0101】
(D−2)上述した第1及び第2の実施形態では、1つの空間に1つのセンシングシステムを設ける場合を例示したが、1つの空間に複数のセンシングシステムを設けるようにしてもよい。この場合、受信部において、遅延波の受信電力値の変動を捉えることができれば、複数の送信部を備える必要はなく、1個の送信部が電波を発信し、複数の受信部がそれぞれ、反射されてきた素波を受信して遅延波の受信電力値の変動を取得するようにしてもよい。
【0102】
(D−3)上述した第1及び第2の実施形態では、各サンプリングポイントにおける離散的な受信電力値を用いて電力遅延プロファイルを生成する場合を例示したが、図4に例示したように連続する電波の受信電力値を利用するようにしてもよい。
【0103】
(D−4)上述した第1及び第2の実施形態では、被検知体の状態を判断するための閾値を1個の場合を例示したが、複数個の閾値を設けるようにしてもよい。これにより、例えば、被検知体がドアの場合、完全開放の開状態の場合と、完全開放でない(すなわち、ドアが半開き)の開状態の場合を判別することができる。つまり、ドアが半開きの場合、受信電力値が閉状態のときより大きく、完全開放の開状態のときよりも小さくなり得るので、電波センサ部は、ドアの半開きの場合も判別できる。
【0104】
(D−5)上述した第2の実施形態において、ドア21とドア22とでそれぞれ同じ閾値を用いる場合を例示したが、ドア21とドア22とにそれぞれ異なる閾値を設けるようにしてもよい。
【0105】
また、閾値は、被検知体の材質等によって、任意に設定できるようにしてもよい。
【0106】
(D−6)遅延時間計算部が1又は複数の被検知体の遅延時間を算出した後、センシングポジションデータベースは、遅延時間計算部が算出した各被検知体の遅延時間を格納するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1…空間、2、21及び22…ドア、3…電波センサ部、
31…送信部、32…受信部、33…電力遅延プロファイル計算部、
34…セッションポジションデータベース、35…遅延時間計算部、
36…センシング判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の送信から1又は複数の被検知体に反射された電波を受信するまでの、1又は複数の被検知体の遅延時間を保持する遅延時間保持手段と、
到来波の受信電力値を十分短い間隔で連続的にサンプリングして、電波送信時から受信された遅延波の時系列の受信電力値を示す電力遅延データを取得する電力遅延データ取得手段と、
上記電力遅延データを参照し、上記各被検知体の遅延時間に相当する到着時刻における受信電力値に基づいて、上記各被検知体の状態を判定する状態判定手段と
を備えることを特徴とするセンシングシステム。
【請求項2】
上記状態判定手段は、上記各被検知体の遅延時間に相当する上記到着時刻における受信電力値が隣接の受信電力値に比べて高く変化する場合、上記被検知体が電波を反射する状態にあると判定し、そうでない場合、上記被検知体が電波を反射する状態にないことを判定することを特徴とする請求項1に記載のセンシングシステム。
【請求項3】
上記状態判定手段が、上記各被検知体の遅延時間に相当する上記到着時刻における受信電力値が閾値を越える場合、上記被検知体が電波を反射する状態にあると判定し、そうでない場合、上記被検知体が電波を反射する状態にないことを判定することを特徴とする請求項1に記載のセンシングシステム。
【請求項4】
上記1又は複数の被検知体の距離情報を距離情報格納手段と、
上記各被検知体の距離情報及び電波速度に基づいて、上記各被検知体の上記遅延時間を求める遅延時間算出手段と
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセンシングシステム。
【請求項5】
コンピュータを、
電波の送信から1又は複数の被検知体に反射された電波を受信するまでの、1又は複数の被検知体の遅延時間を保持する遅延時間保持手段、
到来波の受信電力値を十分短い間隔で連続的にサンプリングして、電波送信時から受信された遅延波の時系列の受信電力値を示す電力遅延データを取得する電力遅延データ取得手段、
上記電力遅延データを参照し、上記各被検知体の遅延時間に相当する到着時刻における受信電力値に基づいて、上記各被検知体の状態を判定する状態判定手段
として機能させることを特徴とするセンシングプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−44654(P2013−44654A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182858(P2011−182858)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度総務省「ICT機器内ハーネスのワイヤレス化の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】