説明

センダングサ属植物抽出物含有鎮咳組成物

【課題】副作用が少なく、かつ有効に慢性咳嗽その他の咳嗽反射を抑制する鎮咳組成物若しくは咳予防用組成物を提供すること。
【解決手段】センダングサ属植物抽出物、特に熱水抽出物に高い咳嗽抑制効果が見られた。作用機序として、カプサイシン受容体の内因性物質であるアナンダミド取り込み阻害あるいはカプサイシン受容体拮抗作用が関与していると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンダングサ属植物抽出物を有効成分として含む鎮咳または咳予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
咳とは、咳嗽反射によって、急激に胸腔内圧が高められ、強力な呼気努力が生じ、その結果、気道への異物の侵入を防いだり、気道の貯留分泌物を除去するための一連の防御反応である。このような咳嗽反射において、特に、少なくとも3〜8週間以上咳が続く慢性咳嗽(または難治性咳嗽)が問題となる。慢性咳嗽には、咳喘息、副鼻腔気管支症候群、慢性気管支炎、マイコプラズマ肺炎等に伴って現れる“咳受容体感受性が正常である疾患や原因による慢性咳嗽”、アトピー、胃食道逆流、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、後鼻漏、喉頭アレルギー、かぜ症候群後持続性咳嗽、非喘息性好酸球性気管支炎等による“咳受容体感受性が亢進している疾患や原因による慢性咳嗽”、及び心因性・習慣性、慢性間質性肺炎による詳細が不明な疾患や原因による慢性咳嗽がある。
これらの慢性咳嗽は、従来の中枢性鎮咳薬の有効性が低いことが問題であり、これらの慢性咳嗽を有効に治療する薬剤の開発が求められている。
一方、ビデンス・ピローサ等のセンダングサ属植物は昔から身近にあるハーブであり、干した地上部分を煎じたものが飲用に供されている。センダングサ属植物抽出物には抗炎症性成分が含まれていることが報告されているなど(例えば、特許文献1参照)、様々な薬理活性を有することが期待されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−73315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は有効な鎮咳または咳予防用組成物を提供することを目的とする。また本発明は、従来の中枢性鎮咳薬では有効に治療できない慢性咳嗽に対する治療または予防用組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、長期間服用しても副作用が少ない鎮咳または咳予防用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、センダングサ属植物の抽出物に強い鎮咳効果若しくは咳予防効果があることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明はセンダングサ属植物抽出物を含む鎮咳または咳予防用組成物を提供する。
本発明の鎮咳組成物は、慢性咳嗽に特に有効である。
センダングサ属植物の抽出物は熱水抽出物であることが好ましい。また、センダングサ属植物はビデンスピローサであることが好ましい。
また、本発明の鎮咳または咳予防用組成物は食品の形態であってもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセンダングサ属植物抽出物を含む組成物を投与することにより、動物における咳嗽反射を有意に抑制し、または予防することができる。センダングサ属植物抽出物は、オブアルブミン感作マウス及び非感作マウスにおけるカプサイシン誘発咳嗽を有意に抑制するため、咳受容体感受性が亢進している疾患や原因による慢性咳嗽、並びに咳感受性が正常な疾患や原因による慢性咳嗽を抑制することができる。センダングサ属植物抽出物の咳嗽反射に対する抑制作用機序は、C線維終末の細胞膜内に存在するカプサイシン受容体(TRPV1受容体)の内因性リガンドであるアナンダミド誘発咳嗽を有意に抑制することから、カプサイシン受容体あるいはアナンダミドを細胞内に取り込む役割を持つアナンダミドトランスポーターに対する直接的な阻害作用であると考えられる。すなわち、アナンダミドトランスポーター阻害かあるいはTRPV1受容体の直接的な阻害作用によるC線維の興奮抑制により咳受容体の感受性を低下させて、咳嗽反射に対する抑制作用が発現している。この咳受容体の感受性低下作用により、種々の慢性咳嗽、特に咳感受性が亢進した病的咳嗽に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(センダングサ属植物抽出物の製造方法)
本発明において使用されるセンダングサ属植物は、特開2001−178390号公報および特開2001−233727号公報に記載されるように、学名ではビデンス(Bidens)属と言われる一群の植物である。種類も多岐に亘り互いに交配するので変種も多く、植物学上も混乱が見られ、学名、和名、漢名、の対応も交錯していて同定することは極めて困難であるが、本発明で用いられるセンダングサ属植物は以下に掲げるものを包含する。
【0008】
Bidens pilosa L.(コセンダングサ、コシロノセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L. var. minor (Blume)Sherff (シロバナセンダングサ、シロノセンダングサ、コシロノセンダングサ、コセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L. var. bisetosa Ohtani et S.Suzuki(アワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. f. decumbens Scherff (ハイアワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. var. radiata Scherff (タチアワユキセンダングサ、ハイアワユキセンダングサを含むこともある)
Bidens pilosa L. var. radiata Schultz Bipontinus (シロノセンダングサ、オオバナノセンダングサ)
Bidens biternata Lour. Merrill et Sherff(センダングサ)
Bidens bipinnata L.(コバノセンダングサ、センダングサ)
Bidens cernua L.(ヤナギタウコギ)
Bidens frondosa L.(アメリカセンダングサ、セイタカタウコギ)
Bidens maximowicziana Oett(羽叶鬼針草)
Bidens parviflora Willd(ホソバノセンダングサ)
Bidens radiata Thuill. var. pinnatifida (Turcz.)Kitamura(エゾノタウコギ)
Bidens tripartita L.(タウコギ)
【0009】
上記センダングサ属植物の中で、特にビデンス・ピローサ(Bidens pilosa)類が、効果の観点から好ましい。
上記センダングサ属植物の使用部位は、根、地上部(茎、葉、花等)又は全草何れの部位を用いてもよい。特に、葉及び茎の部分を使用することが効力の点において好ましい。
上記センダングサ属植物は、生で用いても良いが、乾燥物、あるいは加工乾燥物でもよい。通常、生の植物を天日乾燥または熱風(例えば70〜80℃)乾燥したもの、又は蒸気で、例えば1時間〜1時間半程度蒸した後、乾燥したものを使用する。また、特開2001−178390の方法により加工乾燥した物を用いてもよい。
【0010】
さらに、常温又は加温下に水又は含水溶媒を添加して抽出したものを用いてもよい。抽出方法としては例えば、浸漬して静置、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出物を得ることもできる。
上記センダングサ属植物の中で、特にビデンス・ピローサ(Bidens pilosa)類が好ましい。
上記センダングサ属植物は通常、生の植物を天日乾燥または熱風(例えば70〜80℃)乾燥したもの、又は蒸気で、例えば1時間〜1時間半程度蒸した後、乾燥したものを使用してもよい。
上記センダングサ属植物の使用部位は、根、地上部(茎、葉、花等)又は全草何れの部位を用いてもよい。特に、葉及び茎の部分を使用することが効力の点において好ましい。
【0011】
また、本発明の組成物にはさらに味、香り、風味などの矯正、抽出効率の改善、作業性の改善等の目的で他の成分または植物を加えてもよい。他の成分または植物として具体的には大麦などの穀類、ショウガ、ウコンなど香辛料、麹、麦芽などが挙げられる。このような成分または植物を添加する場合には、センダングサ属植物に添加して抽出してもよく、また、抽出後に添加してもよい。このような成分は、センダングサ属植物乾燥重量に対して、乾燥重量基準で1〜50質量%添加してもよい。
【0012】
本発明の組成物に含まれるセンダングサ属植物の抽出物を得る方法の一つの実施態様を示すと、上述したようにセンダングサ属植物を乾燥したもの又は蒸気で蒸した後乾燥したものに対して、乾燥または蒸気で蒸した後乾燥し、常温又は加温下に、溶媒を添加して抽出する。抽出方法としては例えば、浸漬して静置、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出物を得ることもできる。
【0013】
抽出に使用される溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン等のアルコール類、並びにこれらの含水物、アセトン、エチルメチルケトン、クロロホルム、塩化メチレン及び酢酸エチル、並びにそれらの含水物を用いてもよい。また、上記溶媒を二種以上含む混合物であってもよい。溶媒の添加量は、例えば用いる植物の合計乾燥重量1kgに対して1L〜100L程度使用することができる。
抽出時の温度は、通常、室温〜沸点程度で行うことができる。また、抽出時間は、温度や溶媒にもよるが、室温〜沸点程度で抽出を行う場合には、1〜300時間程度の範囲にわたって行うことができる。
抽出は特に水、より好ましくは室温〜沸点程度、より好ましくは70〜100℃、さらに好ましくは80〜100℃の熱水により行われることが好ましい。
【0014】
抽出液は必要により溶媒を留去濃縮して濃縮物または固形物(乾燥物)としてもよい。濃縮物として使用する場合、濃度を調整した後そのまま用いてもよい。また、抽出物は、脱色、不要物除去のため活性炭処理、HP20等の樹脂処理、低温放置、瀘過等の処理を施してから用いてもよい。さらに当該抽出物を適当な分離手段、例えばゲル瀘過法やシリカゲルカラムクロマト法、又は逆相若しくは順相の高速液体クロマト法により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明においてセンダングサ属植物抽出物にはこのような分画物も含むものとする。得られた抽出物はそのまま、あるいは濃縮物または固形物(例えば粉末)としてもよい。また使用目的に応じて他の成分を混合してもよい。
【0015】
(鎮咳または咳予防用組成物)
本発明のセンダングサ属植物抽出物を含む鎮咳または咳予防用組成物は、いずれの形態であってもよく、抽出液、または抽出物を水等で希釈または溶解した液状物として、または、粉末、錠剤等の固形物として経口投与してもよい。錠剤等に成型する場合には従来知られている担体、倍散剤、崩壊剤、滑沢剤等を用いることができる。
本発明の組成物を鎮咳組成物として用いる場合、成人について一日あたり、センダングサ属植物抽出物(乾燥固形分)に換算して0.001〜10g/kg(体重)程度投与することが好ましい。
本発明の組成物を咳予防用組成物として用いる場合、成人について一日あたり、センダングサ属植物抽出物(乾燥固形分)に換算して0.001〜10g/kg(体重)程度投与することが好ましい。
本発明の組成物はまた、食品の形態で用いることもできる。食品の形態としては、粉末状、錠剤等の固形物、あるいは液状等の飲用物の形態であってもよい。食品の種類としては、クッキー・飴などの菓子類、酒類・ジュース・清涼飲料などの嗜好品、味噌・醤油などの調味料、インスタント食品、いわゆる健康補助食品、などが挙げられる。
【0016】
また、咳嗽を伴う疾患の例として、咳喘息、副鼻腔気管支症候群、慢性気管支炎、マイコプラズマ肺炎等の“咳受容体感受性が正常である疾患や原因による慢性咳嗽”、アトピー、胃食道逆流、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、後鼻漏、喉頭アレルギー、かぜ症候群後持続性咳嗽、非喘息性好酸球性気管支炎等の“咳受容体感受性が亢進している疾患や原因による慢性咳嗽”が挙げられる。
【0017】
(カプサイシンによる咳嗽誘発とセンダングサ属植物の咳嗽抑制効果)
カプサイシンは、咳を引き起こす知覚神経系の無髄線維であるC線維を刺激することが知られており、また、カプサイシン受容体の活性化によりサブスタンスP等の炎症関連メディエーターが遊離することが知られている。またカプサイシンにより咳嗽誘発を行う試験は、咳感受性の試験あるいは咳嗽に対する治療成績の評価のために、ヒトを含む動物に対して従来から用いられている試験である(Kamei, J., Tanihara, H., Igarashi, H., Kasuya, Y.: Eur. J. Pharmacol., 168, 153-158 (1989); Dicpinigaitis, P.V., Alva, R.V.: Chest, 128, 196-202 (2005))。以上のことからカプサイシンによる咳嗽誘発に対する物質の抑制効果を調べることにより、ヒトまたは動物における咳嗽反射を抑制しえる物質を探索することができると考えられる。
カプサイシンによる咳嗽誘発試験を簡単に述べると、ジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解したカプサイシンをネブライザー等で霧状にして動物(モルモット)に吸入させ、カプサイシン吸入時間中の咳嗽回数を測定することにより行われる。
【0018】
上述のようにしてカプサイシンにより咳嗽を誘発した後、センダングサ属植物抽出物を投与し、投与一定時間後に再度カプサイシンにより咳嗽を誘発してセンダングサ属植物抽出物の咳嗽抑制効果を確認した。センダングサ属植物抽出物投与60分後、特に咳嗽抑制率が高くなった。またセンダングサ属植物の投与量依存的に咳嗽が抑制された(図1及び図2)。
【0019】
(オブアルブミン感作マウスにおけるカプサイシンによる咳嗽誘発とセンダングサ属植物抽出物による咳嗽抑制効果)
オブアルブミンは卵アレルギー原因物質の1つとして知られている分子量4万5千の糖タンパク質である。オブアルブミンをマウスに1週間間隔で2回皮下投与してオブアルブミン感作マウスを作成し(Iijima, H., Duguet, A., Eum, S.Y., Hamid, Q., Eidelman, D.H.: Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163, 1233-1240 (2001))、この感作マウスに対して、鼻腔内にオブアルブミンを6日間連続で投与することによりアレルギー性気道炎症モデルを作成した。気道炎症によりNO(一酸化窒素)が産生され、放出量の増加が起こることから、肺胞洗浄液内のNO濃度を気道炎症の指標とすることができる(Iijima, H., Duguet, A., Eum, S.Y., Hamid, Q., Eidelman, D.H.: Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163, 1233-1240 (2001))。気道炎症モデルマウスでは肺胞洗浄液中のNO量が未処置マウスに対して有意に増加した(図3)。
【0020】
前記感作マウスに対してカプサイシンの吸入を行うと、咳感受性が亢進し、著明な咳嗽反射数の増加が見られた(図4−感作マウス“前”)。このような咳感受性が亢進したモデルでは従来から鎮咳薬として用いられているジヒドロコデインを投与しても、弱い鎮咳作用しか認められない。これに対し、センダングサ属植物抽出物を投与すると有意に咳嗽回数が減少し、咳感受性が亢進した咳嗽に対しても強い鎮咳作用を有することがわかる(図4)。
しかし、このとき、センダングサ属植物抽出物を投与したマウスの肺胞洗浄液中のNO量は、コントロール(ベヒクルを投与したマウス)とほぼ同量を示しており、カプサイシン誘発咳嗽に対するセンダングサ属植物抽出物の抑制作用は、NO媒介によるアナンダミドトランスポーターの活性化経路によらないことが示唆される。
【0021】
(アナンダミドによる咳嗽誘発とセンダングサ属植物抽出物による咳嗽抑制作用)
アナンダミドは、カプサイシン受容体の内因性リガンドである(Ross, R.A.: Br J Pharmacol., 140, 790-801, (2003))。アナンダミドの取り込みによりカプサイシン受容体が活性化されて、咳感受性が亢進される。センダングサ属植物抽出物はアナンダミドによる咳嗽誘発を有意に抑制する(図6)ことから、アナンダミドトランスポーターあるいはカプサイシン受容体にセンダングサ属植物抽出物が直接作用して、C線維の興奮を調節し、鎮咳作用を示していると考えられる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例について述べる。
<薬剤の製造例>
ビデンスピローサ加工乾燥物(特開2001−178390号公報に記載の方法により加工した乾燥物)10kgに100Lの常水を加え、一度煮沸後時々攪拌しながら2時間、95〜100℃に保って抽出し、加圧ろ過して清澄した抽出液を減圧濃縮し、再度5Lの水に溶解して85℃、30分加熱処理を行い、デキストリン600gを加えて均一に溶解し噴霧乾燥して3.2kgのエキス粉末を得た。以下、これを“ビデンスピローサエキス”と呼ぶ。
【0023】
<咳嗽回数の測定方法>
咳嗽の回数をプレチスモグラフ法に従い測定した(Kamei, J., Tanihara, H., Igarashi, H., Kasuya, Y.: Eur. J. Pharmacol., 168, 153-158 (1989)、Morita, K., Kamei, J.: Eur. J. Pharmacol., 474, 269-272 (2003).)。使用したプレチスモグラフは実験動物の胴体を入れるシリンダー部分と頭部より被せるキャップ部分より出来ている。シリンダー上部には、呼吸流量計と接続できるよう排気口を開けた。シリンダー内部を密閉するために、頸部にゴム製およびセルロイド製の首輪を取り付けた。キャップ部分にはカプサイシン吸入のための吸入口および換気口を開けた。呼吸の測定はシリンダー内の実験動物の呼吸に伴う胸郭の動きをシリンダー内の容積変化として呼吸流量計を介して測定した。咳嗽が誘発されると、実験動物の胸郭が激しく動くので、シリンダー内に一時的に大きな容積変化がおこり、これが呼吸流量計を介して正常呼吸と区別され測定を行った。この回数を測定して咳嗽の回数とした。
【0024】
<薬物投与方法>
薬物はすべて0.5%カルボキシメチルセルロース溶液に懸濁溶解し、経口投与(経口ゾンデにより胃内部に投与)した。ビデンスピローサエキスの投与用量は、動物の体重に対して0.5、1および2g/kgとした。
【0025】
<統計処理>
データは全て、モルモット6例あるいはマウス10例の平均±標準誤差で示した。咳嗽数の変化は、マン−ホイットニ−のU-testを用いて比較した。危険率5%以下で差のあるものを、有意差ありと判定した。肺胞洗浄液中のNO量の比較にはBonferroni/Dunn test に従ったANOVA(分散分析)を用い、危険率が5%以下であるものを有意差有りと判定した。
【0026】
実施例1:カプサイシンによる咳嗽誘発とビデンスピローサエキスによる咳嗽抑制実験
<カプサイシンによる咳嗽誘発>
・マウス(ICR系雄性マウス)における咳嗽の誘発(Morita, K., Kamei, J.: Eur. J. Pharmacol., 474, 269-272 (2003))
カプサイシン(45 μM)を吸入させることにより咳嗽を誘発した。カプサイシンは超音波ネブライザー(日本光電:TUR-3200)で煙霧状にし、人工呼吸器(シナノ製作所:SN−480−7)で送気することにより吸入させた。煙霧状にしたカプサイシンの平均粒子径は4 μmで、人工呼吸器による送気は1回の換気量10 mlで、1分間に30回の速さで行い、吸入時間は3分間に設定した。
・モルモット(ハートレイ系雄性モルモット)における咳嗽の誘発(Kamei, J., Tanihara, H., Igarashi, H., Kasuya, Y.: Eur. J. Pharmacol., 168, 153-158 (1989))
カプサイシン(30 μM)を吸入させることにより誘発した。カプサイシンは超音波ネブライザー(日本光電:TUR-3200)で煙霧状にし、人工呼吸器(シナノ製作所:SN−480−7)で送気することにより吸入させた。煙霧状にしたカプサイシンの平均粒子径は4 μmで、人工呼吸器による送気は、1回換気量を20 ml、1分間に30回の速さで行い、吸入時間は7分間に設定した。
なお、カプサイシンは10%エタノールおよび10% Tween 80溶液を用いて溶解し、生理食塩水にて希釈を行って用いた。
【0027】
<ビデンスピローサエキス投与実験>
ビデンスピローサエキス投与30分前にカプサイシンを7分間(モルモット)あるいは3分間(マウス)吸入し、この間に咳嗽が誘発されることを確認するとともにその咳嗽数を測定した。その後、ビデンスピローサエキスを投与し、投与60分後および120分後に再度カプサイシンを7分間(モルモット)あるいは3分間(マウス)吸入させ、この間に誘発される咳嗽数を測定した。
鎮咳効果は、薬物適用前後の咳嗽数より薬物適用前の咳嗽数に対する抑制率を以下の式により算出して評価した。
咳嗽抑制率(%)=(薬物適用前咳嗽数−薬物適用後咳嗽数)/薬物適用前咳嗽数×100
【0028】
<結果>
得られた結果を図1と図2に示す。
図1は、モルモットにおける、ビデンスピローサエキス投与60分後および120分後の各濃度における咳嗽抑制率(%)を示した図である。いずれの濃度においてもビデンスピローサエキス投与60分後に高い咳嗽抑制率を示したが120分後には抑制効果はほとんど消失してしまった。ビデンスピローサエキスを2g/kgの濃度で投与した場合に特に60%以上もの高い咳嗽を抑制することがわかった。
図2は、モルモットにおける、ビデンスピローサエキス投与60分後の各濃度における咳嗽抑制を示した図である。図2において、“前”はカプサイシン誘発による咳嗽回数を示し、“後”はビデンスピローサエキス投与60分後に再度カプサイシン誘発を行った時の咳嗽回数を示す。“ベヒクル”はビデンスピローサエキスを含まない0.5%カルボキシメチルセルロース液を意味する(コントロール)。コントロールでは咳嗽回数に変化は見られなかったが、ビデンスピローサエキスを投与したマウスでは用量依存的に咳嗽回数の減少が見られた。
【0029】
実施例2:オブアルブミン感作マウスにおけるビデンスピローサによる咳嗽抑制実験
<オブアルブミン感作マウスの作成及び肺胞洗浄液中NO量の定量>(Iijima, H., Duguet, A., Eum, S.Y., Hamid, Q., Eidelman, D.H.: Am. J. Respir. Crit. Care Med. 163, 1233-1240 (2001).)
感作動物には4週齢のICR系雄性マウスを用いた。オブアルブミン100 μg/400 μlを4 mg/mlの水酸化アルミニウムに溶解し、背部および両側臀部の2ヶ所にそれぞれ皮下投与した。7日後同様に追加感作を行った。さらに14日目より連日6日間10 μg/50 μlのOVAをエーテル麻酔下に点鼻した。なお、最終感作24時間後(19日目)にビデンスピローサエキスを経口投与し、肺胞洗浄液を経口投与1時間後に回収した。
【0030】
回収したマウス肺胞洗浄液(0.5 ml)を遠心分離(15000g×10分、4℃)し、上清中に含まれるNO代謝物(NO2- + NO3-)についてHPLC-Griess reaction system (エイコム社製、ENO-20)により測定した。
結果を図3に示す。感作後、6日間OVAを点鼻したマウス肺胞洗浄液中のNO量(“OVA腹腔内投与+鼻腔内投与”)は、“未処置マウス”に比べて有意に増加し、気道の炎症を示した。なお、コントロールとして、感作を行った後、OVAの変わりに生理食塩水を点鼻したマウスも用意し、その肺胞洗浄液を回収して、同様にNO量を測定したところ未処置マウスと同様のNO量であった(“OVA腹腔内投与マウス”)。
【0031】
<オブアルブミン感作マウスにおけるカプサイシンによる咳嗽誘発とビデンスピローサによる咳嗽抑制作用>
オブアルブミン感作マウス及び非感作マウスにおいて実施例1と同様にカプサイシンによる咳嗽の誘発を行い、ビデンスピローサエキス2g/kgを投与し、投与60分後に再度カプサイシンによる咳嗽誘発を行って、咳嗽回数を測定した(図4)。
また、非感作マウス及び感作マウスに対してカプサイシンによる咳嗽誘発を実施例1と同様に行い、さらにビデンスピローサエキス2g/kgまたはベヒクル(コントロール)を投与し、投与60分後に再度カプサイシンによる咳嗽誘発を行い、それぞれのNO量を測定した(図5)。
【0032】
<結果>
図4において、“前”はオブアルブミン感作マウス及び非感作マウスにおけるカプサイシンによる咳嗽の誘発を行った結果を示し、“後”はビデンスピローサエキス2g/kgを投与した60分後におけるカプサイシンによる咳嗽誘発を行った結果を示す。感作マウス及び非感作マウスいずれにおいてもビデンスピローサエキス投与によりカプサイシン誘発咳嗽を有意に抑制した。また、オバルミン感作マウスをカプサイシンで処理すると、咳感受性が亢進し、咳嗽数が非常に高くなったモデルが得られた(感作マウス“前”)。この感作マウスにビデンスピローサエキスを投与したところ、強く咳嗽を抑制した。鎮咳薬として従来知られているジヒドロコデインでは、オブアルブミン感作マウスをカプサイシンで咳嗽誘発したモデルにおける咳嗽抑制効果は小さい。従って、オバルミン感作を行いさらにカプサイシンで咳嗽を誘発したモデルにおいて強力に咳嗽を抑制するというビデンスピローサの効果は驚くべき効果である。
図5の結果からカプサイシン誘発咳嗽に対するビデンスピローサエキスの抑制作用は、NO媒介によるアナンダミドトランスポーターの活性化経路によらないと考えられる。
【0033】
実施例3:アナンダミドによる咳嗽誘発及びビデンスピローサによる咳嗽抑制実験
<アナンダミドによる咳嗽誘発とビデンスピローサによる咳嗽抑制作用>
10%DMSO(ジメチルスルホキシド)溶液としたアナンダミド3mg/ml(アナンダミド換算量)を実施例1におけるカプサイシンと同様に、ネブライザーにより煙霧状にして、マウスに吸入させ、咳嗽誘発を行った。アナンダミド吸入後にビデンスピローサエキス2g/kgを経口投与し、投与60分後に再度アナンダミドによる咳嗽誘発を行い、咳嗽回数を測定した。
【0034】
結果を図6に示す。コントロールでは咳嗽回数に変化は見られないが、ビデンスピローサエキス投与をしたマウスでは咳嗽回数の減少が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】モルモットを用いたビデンスピローサの鎮咳作用を示す。
【図2】モルモットを用いたビデンスピローサの鎮咳作用の用量依存性を示す。
【図3】オブアルブミンによる感作マウスにおける肺胞洗浄液中のNO量の増加を示す。
【図4】オブアルブミン感作マウスにおける肺胞洗浄液中のNO量の増加に対する、ビデンスピローサの効果を示す。
【図5】オブアルブミン感作マウスにおけるカプサイシン誘発咳嗽数の増加と、ビデンスピローサの鎮咳作用を示す。
【図6】ビデンスピローサによるアナンダミド誘発咳嗽の抑制を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センダングサ属植物の抽出物を有効成分として含む鎮咳または咳予防用組成物。
【請求項2】
慢性咳嗽用である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
センダングサ属植物の抽出物が熱水抽出物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
センダングサ属植物がビデンスピローサである請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
食品の形態である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−254414(P2007−254414A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82849(P2006−82849)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591035391)株式会社武蔵野免疫研究所 (10)
【Fターム(参考)】