ゼオライトを含有するハニカム状基体およびその製造方法
【課題】バインダを利用せずに表面にゼオライトを含有し、かつ、開口による高速物質移動とミクロ孔による高い表面積と優れた表面機能を備えるハニカム状基体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体に関する。また、本発明のハニカム状基体において、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【解決手段】本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体に関する。また、本発明のハニカム状基体において、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口径より小さい直径を有するミクロ孔が形成されたゼオライトを含有するハニカム状基体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩の総称で、その構造の基本単位は四面体構造を有する(SiO4)4-および(AlO4)5-単位である。ゼオライトは天然・人工や合成のものを含めると100種以上になる。それらは、その結晶構造に由来する剛直かつ均一なミクロ孔を持ち、分子篩、吸着、触媒、イオン交換能を発現することで、日用品から大規模化学工業に至るまで様々な分野で応用されている。現在もその細孔サイズや表面の機能設計による高機能化が精力的に進められている。
【0003】
ここで、通常ゼオライトを合成する場合、水熱合成法で合成されるため、ゼオライトは微粉末として得られ取扱が困難となり充填して用いると圧力損失が大きくなる。そこでゼオライトを応用し、その機能を最大限利用するためにはゼオライトの成形体が必要となる。
【0004】
しかしながら、ゼオライトは自己焼結性に乏しいため、現在多く作製されているゼオライトの成形体は、たとえば以下のようなものを挙げることができる。(1)バインダを混入させたゼオライトから押出成形、加圧成形、ホットプレスなどの方法により得られるペレットや錠剤、ハニカム成形体。なお、バインダは、無機材料または有機材料からなる。(2)あらかじめ作製された有機材料または無機材料からなるハニカム形状などの成形体をゼオライトとバインダとを含む溶液に含浸させて引き上げて製造される成形体(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2007−268462号公報
【特許文献2】特表2008−515614号公報
【特許文献3】特開2008−127262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしバインダを利用した上述のような成形法では、バインダの混入によりゼオライトの成形体表面におけるゼオライト被覆率は低くなるため、結果として該ゼオライトの成形体のゼオライトとしての機能、つまり、具体的にはゼオライトの触媒能および吸着能等が低下する虞がある。
【0006】
また、該成形体を実際に利用する場合においては、ミクロ孔内の拡散抵抗により本来の機能、つまり、触媒能および吸着能等を十分に有効利用できていないことが多い。
【0007】
以上の問題を鑑みて、本発明の目的は、バインダを利用せずに表面にゼオライトを含有し、かつ、開口による高速物質移動とミクロ孔による高い表面積と優れた表面機能、つまり、高効率な触媒および吸着機能を備えるハニカム状基体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、バインダを利用せず、かつ、高い表面積を有し、流体を移動させるときの圧力損失が低いハニカム状基体およびその製造方法について鋭意研究した。
【0009】
本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体に関する。
【0010】
また、本発明のハニカム状基体において、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【0011】
また、本発明のハニカム状基体において、ミクロ孔の開口面積は0.05nm2〜0.65nm2であり、ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜32000μm2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のハニカム状基体において、材料がシリカまたはシリカアルミナであることが好ましい。
【0013】
また、本発明のハニカム状基体において、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなるハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、シリカまたはシリカアルミナで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を製造する第1工程と、前駆体を焼成する第2工程と、前駆体を水と構造規定剤とを含みかつ水/構造規定剤の質量比が1.6以上である構造規定剤溶液に浸漬して、前駆体に構造規定剤を含ませる第3工程と、前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する第4工程と、前駆体を水蒸気処理して前駆体の表面を結晶化する第5工程と、前駆体から構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する第6工程とを備え、第1工程から第6工程の順に行なわれるハニカム状基体の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第2工程で、前駆体を600〜1000℃で、1〜3時間焼成することが好ましい。
【0016】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第3工程で、前駆体を構造規定剤に1〜5分間含浸することが好ましい。
【0017】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第4工程で、前駆体を50〜90℃で、2〜4時間乾燥することが好ましい。
【0018】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第5工程で、前駆体を100〜130℃で、12〜60時間水蒸気処理することが好ましい。
【0019】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第6工程で、前駆体を400〜800℃で加熱し、構造規定剤を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、バインダを利用せずに表面にゼオライトを含有し、かつ、開口による高速物質移動とミクロ孔による高い表面積と優れた表面機能、つまり、高効率な触媒および吸着機能を備えるハニカム状基体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しながら説明するが、本願の図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0022】
<ゼオライトを含有するハニカム状基体>
本発明のハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上、より好ましくは7桁以上小さい面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体である。ハニカム状基体は、ハニカム構造をなすハニカム構造体の表面にさらにミクロ孔が形成されており、開口径とミクロ孔とが並存し、高い表面積を有する基体である。そして、ハニカム状基体は、ハニカム構造体とゼオライトとを含有する。ハニカム状基体は、円柱等の柱体であり、該柱体の上面と底面には開口を有する。そして、円柱等の柱体に対してハニカム状にストレートな開孔を有する。ハニカム構造体の開口の面積とは、ハニカム構造体における断面の開口の面積を言うものとする。そして、該ハニカム構造体の開口の面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、当SEM写真から解析することで測定することができる。なお、開口の形状については特に制限はなく、たとえば円形、楕円形、多角形体状あるいは突起を有していてもよい。また、ミクロ孔が有する開口面積とは、ゼオライトの持つ細孔の断面積であり、その細孔サイズはゼオライトの結晶構造により決定される。たとえば、MFI構造のゼオライトは0.55nm×0.51nmの細孔を持っていることが知られているのでミクロ孔の開口面積は0.22nm2の面積となる。また、柱体とは、略合同な二つの平面図形を底面として持つ筒状の物質をいうものとする。そして、ミクロ孔の直径は0.3nm〜0.9nmが好ましく、特に好ましくは0.4nm〜0.8nmである。
【0023】
さらに、本発明におけるハニカム状基体においては、ハニカム構造体の表面には、ゼオライトが析出されていることでミクロ孔が形成されていることが好ましい。ゼオライトが析出することで、ゼオライトの表面で凹凸があることから、該ゼオライトを含むハニカム状基体は、流体との接触面積が大きくなるためである。さらに、ハニカム構造体は、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなることが好ましい。つまり、ハニカム状基体は、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスシリカで形成されているハニカム構造体の表面にゼオライトが析出してなり、材料として2層構造となっていることが好ましい。
【0024】
ただし、本発明のハニカム状基体においては、該ハニカム構造体とゼオライトとの間にはバインダ(接着剤)は含まれない。本発明のハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出する形態を有するため、従来のバインダを含む方法により作製されたゼオライト成形体と比べると、流体に接触する際の流体とゼオライトとの接触面積が大きくなるような効果を有する。
【0025】
ここで、アモルファスシリカとは、結晶性のシリカを含まない多孔質のシリカの状態のシリカゲルであり、アモルファスアルミナとは結晶性のアルミナを含まない多孔質のアルミナの状態のアルミナゲルである。そして、本発明においてゼオライトとは、結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩、もしくは組成にアルミニウムを含まずケイ酸のみで構成された結晶性の多孔質ケイ酸塩からなるものを含むものとする。ゼオライトにおけるアルミニウム濃度を示すSi/Alモル比あるいはSiO2/Al2O3モル比(シリカ/アルミナ比)が1〜2のものを低シリカゼオライトといい、5以上のものを高シリカゼオライトというものとする。
【0026】
ハニカム状基体におけるアモルファスシリカ、アモルファスアルミナおよびゼオライトについては、XRDパターンで確認することができる。
【0027】
また、本発明において、ミクロ孔の開口面積は具体的に0.05nm2〜0.65nm2であることが好ましく、0.10nm2〜0.55nm2であることが特に好ましい。そして、ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜18000μm2であることが好ましく、75μm2〜31400μm2であることが特に好ましい。ミクロ孔およびハニカム構造体の開口の面積が上記の範囲であると、ハニカム構造体にて流体処理を行なう際、圧力損失が低減され、構造体の表面にゼオライトが位置するため、より流体との接触面積が大きくなり分離や触媒反応の高効率化がおこるというような効果が生じる。
【0028】
また、本発明のハニカム状基体の平均開口径は、特に制限されるものではないが、5〜200μmの範囲内であることが好ましく、特に10〜150μmの範囲内であることが好ましい。開口径の範囲は、表面積対体積比(処理流体の体積に対する流路の表面積)の大きさを鑑みたものであり、また、従来の押し出し成型法によって作製されるハニカムのチャネル径は最も小さいものでも約200μmであり、これ以下の流路の作製は従来法では困難であるためである。開口の大きさは、実質的に均一である。なお、開口の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、SEM写真から30個の開口を任意に選び出しその平均値とする。また、ハニカム構造体の長さに制限はないが、5〜30cmが好ましい。また、ハニカム状基体は、柱体であればその上面および底面の形状は、角状、楕円状など、適宜選択することができる。
【0029】
図1は、本発明のハニカム状基体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡を用いて拡大した図である。図1aは、430倍に拡大した図であり、図1bは、2500倍に拡大した図である。図2は、本発明のシリカで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡で拡大した図である。図2aは、1500倍に拡大した図であり、図2bは、15000倍に拡大した図である。以下、図1および図2に基づいて説明する。
【0030】
図1に示すように、本発明の一形態として、ハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出している。特に図1bに示すように、ハニカム構造体の表面には、ほぼ均一にゼオライト析出している。このように、図1と図2とを比較することによって、ゼオライトがハニカム構造体の表面に析出することによって、表面にミクロ孔が形成される。なお、図1に示す一形態においては、ゼオライト内にはその結晶に由来する直径0.5nm程度のミクロ孔が形成されている。
【0031】
また、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出しているかどうかの度合いは、結晶化度で示すことができる。結晶化度は、RINT2100(株式会社リガク社製)でX線回析を測定してルーランド法(アクタ クリスクログラフィカ:Acta Crystallographica、第14巻、第1180頁、1961年)により解析することで得られる値である。
【0032】
析出するゼオライトは、後述するSAC法(Steam−Assisted Crystallization)により作製され、該ゼオライトの結晶構造は構造規定剤(SDA)によって決定される。たとえば、ハニカム構造体がアモルファスシリカであり、表面にゼオライトを析出させる場合において、SDAとしてテトラプロピルアンモニウムイオンを選択して用いると、ゼオライトとしてMFI構造を有するハイシリカゼオライトZMF−5が析出する。
【0033】
このとき、ゼオライトは、粒子状に析出するため、該ゼオライトを含むハニカム状基体は、流体との接触面積が大きくなる。そのため分離や触媒反応の高効率化につながる。またゼオライト粒子サイズが小さいことより、粒子内の拡散抵抗が小さく、分離や触媒反応の高効率化につながる。
【0034】
この平均開口径は、ハニカム構造体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、該写真から解析することで知ることができる。また、比表面積は、−196℃における窒素吸脱着測定を行ない、得られた吸脱着等温線に対してBETプロットを適用し、解析することで知ることができる。
【0035】
<ハニカム状基体の製造方法>
図3は、本発明のハニカム状基体の製造方法における各工程を示した工程図である。以下、図3に基づいて説明する。
【0036】
本発明におけるハニカム状基体の製造方法では、少なくとも第1工程から第6工程を備え、第1工程から第6工程まで順に行なわれる。図3において、工程101(シリカ湿潤ゲル作製)から工程104(凍結乾燥)が第1工程であり、第1工程でシリカまたはシリカアルミナで形成された開口を有するハニカム状の前駆体が製造される。そして、第2工程は、工程105(焼成)に示すように、該前駆体を焼成する工程である。また、本実施形態においては、シリカ湿潤ゲルを用いた方法を記載するが、同様に作製されたシリカアルミナ湿潤ゲルを用いた場合であっても同様に本発明のハニカム状基体を作製することができる。
【0037】
また、第3工程から第6工程は、該前駆体が「ハニカム構造体」と「ゼオライト」とを備えるハニカム状基体となるために行なう工程である。第3工程は、前駆体を構造規定剤溶液に浸漬して、前駆体に構造規定剤(SDA)を含ませる工程(工程106)であり、第4工程は、前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する工程(工程107)であり、第5工程は、前駆体を水蒸気処理して前駆体の表面を結晶化する工程(工程108)であり、第6工程は、前駆体から構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する工程(工程109)である。本実施形態においては、第1工程で得られたハニカム状の前駆体は、第6工程を経るまでは「前駆体」であり、第6工程を経て「ハニカム状基体」となるものとする。また、第5工程における水蒸気処理とは、SAC法(Steam−Assisted Crystallization)を示す。SAC法は、乾燥させたシリカもしくはアルミノシリケートゲルに不揮発性のSDAを含ませた後、水と接触しないように耐圧容器に置き、蒸気を供給することにより結晶化させる方法である。
【0038】
以下、各工程について詳細に説明する。
≪第1工程≫
まず、本工程において利用する「氷晶テンプレート法」について説明する。ゾルや湿潤ゲルを凍結すると相分離が生じ、比較的純粋な氷の相と、溶質もしくは固体成分が濃縮された相の2相が生じる。この相分離現象は、2種類の異なる金属の混合融液を凝固させた際に生じる相分離現象と類似の現象である。特に、2種類の金属の混合融液を一方向凝固(unidirectional solidification)した場合、相分離した2種類の金属相は凝固方向に平行な薄膜(ラメラ)が重なり合った状態、凝固方向に平行な繊維の相を別の相が取り囲んでいる状態、片方の相が微粒子状に分散した状態(形態)をとる。
【0039】
上記の形態は、金属種の組成、凝固速度、凝固温度によって変化する。一方、金属酸化物の湿潤ゲルを一方向凍結(unidirectional freezing)させた際の凍結状態における形態は、解凍・乾燥後には繊維状の金属酸化物ゲルが得られる。したがって、金属混合融液の一方向凝固との類似性を考えると湿潤ゲルの一方向凍結においても、固体成分の濃度や凍結条件を変化させることで、繊維状以外にも様々な形態を有する金属酸化物ゲルが得られる可能性がある。そこで本発明では、一方向凍結法の適用範囲を、従来の十分にエージングをした構造の硬いゲルから、ゲル化直後の構造の柔らかいゲルやゲル化前のゾルにまで広げて、新規な形態の発現を試みた。本手法においてゾルを一方向凍結する場合は、必然的に凍結ゲル化が生じるので、本発明では適用範囲を大幅に広げた一方向凍結法を新たに「一方向凍結ゲル化法(unidirectional freeze−gelation)」と定義する。また、一方向凍結ゲル化した試料を低温エージングし、解凍・乾燥して種々の形態を有する多孔質ゲルを得る、一連の操作全体を氷晶テンプレート法と定義する。
【0040】
次に、第1工程における各操作について説明する。
[工程101]最初に、シリカ湿潤ゲルを作製する。原料であるケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)を純水で希釈してケイ酸ナトリウム水溶液とする。ケイ酸ナトリウム水溶液は、濃度が低いとハニカム壁を構成する溶質が不足し、濃度が高すぎるとイオン交換中にゲル化してしまうために、1.0〜2.0Mの濃度範囲に調製することが好ましい。このようにして調製されたケイ酸ナトリウム水溶液にイオン交換樹脂を混入し、前処理をする。この前処理は、水ガラスを原料とするシリカゾルのpHを調整するとともにシリカ粒子の表面に吸着することで特性を変化させるNaイオンを不純物として十分に除去することで、規則性を有する平均開口径を有する多孔質ハニカム構造体を製造するために行なわれる。具体的には、pHメータ(および必要に応じてイオンメータ)を付設した容器内に収容したケイ酸ナトリウム水溶液に強酸性イオン交換樹脂を、所望のpH(たとえば2〜3)になるまで混入する。
【0041】
ここで用いるイオン交換樹脂としては、特に制限されるものではないが、pH調整を行ないつつシリカゾル中のNaイオンを十分に除去できることから、強酸性イオン交換樹脂を用いることが好ましい。このようなイオン交換樹脂は、たとえばオルガノ株式会社製アンバーライトIR120B H AGなどを例示することができる。
【0042】
ケイ酸ナトリウム水溶液に混入させるイオン交換樹脂の量についても特に制限されるものではないが、水溶液の体積に対して半分からほぼ同量の体積あるのが好ましい。イオン交換樹脂の量は、調整するケイ酸ナトリウム水溶液によって変わるが、イオン交換樹脂の量が少ないと、Naイオンの除去が十分に行なわれない虞があるためであり、また、イオン交換樹脂の量が多すぎると、pHが小さくなりすぎてゲル化時間が長くなるという傾向にあるためである。続く工程では、前工程で混入させたイオン交換樹脂を除去する。イオン交換樹脂は、たとえば適宜の篩を用いることで除去することができる。
【0043】
続く工程では、シリカゾルをゲル化してシリカ湿潤ゲルを得る。シリカゾルのゲル化は、後述する工程で用いるチューブ状の容器(セル)内に収容し、20〜40℃の温度範囲で2〜8時間程度静置することで行なうことができる。なお、シリカゾルのゲル化を別の容器内で行なった後、得られたシリカ湿潤ゲルを後の工程で用いるチューブ状の容器に収容するようにしても勿論よい。
【0044】
[工程102]工程101で得られたシリカ湿潤ゲルを凍結させる。当該シリカ湿潤ゲルの凍結は、上記チューブ状のセルごと、定速モータなどを用いて所定の挿入速度で液体窒素などの冷媒中に挿入することで凍結する。シリカ湿潤ゲルを冷媒中に挿入することで、冷媒に挿入された部分の氷が挿入方向に沿って柱状に成長する。
【0045】
シリカ湿潤ゲルの凍結開始までのエージング(第一のエージング)の時間を制御することで、ハニカム状の前駆体の形態を決定することができる。当該エージング時間は、0.5〜12時間の範囲内であるのが好ましい。エージング時間が長くなるにつれて、凍結後の形状は、薄膜状、平板繊維状、ハニカム状、多角形(polygonal)繊維状へと変化する(上述した特許文献1を参照)。このような形状変化は、凍結時のシリカ粒子の移動しやすさに基づくものであると考えられる。エージング時間が長くなるに従い、ゲル化が進行し、シリカ粒子の運動が阻害される。エージング時間が短い場合には、比較的シリカ粒子が移動しやすいため集合しやすくなり、連続的につながった薄膜状、または平板繊維状となる。ゲル化の前後は殆どシリカ粒子が移動できないため、氷柱の周りに存在した状態のままで凍結しハニカム状となる。さらにゲル化が進むと、氷柱の成長により分割されて繊維状となる。
【0046】
また、ここで、図4は、凍結条件と、形成されるハニカム状の前駆体の開口径との関係を示す図である。以下、図4に基づいて説明する。凍結条件を変化させることにより、テンプレートとなる氷柱の直径を変化させることができるので、得られるハニカム状の前駆体について所望の平均開口径を有するように成形することができる。図4において、横軸は{vf(Tr−Tf)}-1(vf[m/s]:挿入速度,Tr[K]:室温(298K),Tf[K]:凍結温度)を示し、縦軸は開口径を示す。図4から、好ましい凍結条件としては−196〜−10℃で0.5〜70cm/hの速度で凍結する条件であり、より好ましくは−196〜−20℃で1〜20cm/hの速度で凍結する条件であることが分かる。本発明の製造方法においては、本工程でのシリカ湿潤ゲルは、凍結後、凍結状態のままで一定時間エージング(第二のエージング)されることが好ましい。第二のエージングは、氷がテンプレートとなっている状態でシリカ湿潤ゲルの構造を強化することが可能となる。第二のエージングは−196〜−20℃の比較的低温で1〜3時間行なうことが好ましい。
【0047】
[工程103]シリカ湿潤ゲルの解凍は、第二のエージング終了後のチューブ状のセルをたとえば50℃の恒温槽内に入れることで行なわれる。そして、解凍後、該シリカ湿潤ゲルに含まれる水分を有機溶媒に置換する。たとえば、解凍したハニカム構造体をその5倍以上の体積のt−ブタノールに浸漬させる。その後、2〜4日間、t−ブタノールによる洗浄を行ない、解凍したハニカム構造体中に含まれる微量の水分をt−ブタノールで置換する。なお、t−ブタノールは、液−固転移時の密度変化が小さく(Dr=−3.4×10-4g/cm3 at 299K)、凝固時に試料を破壊する可能性が小さい点と、蒸気圧が大きく(0℃におけるt−ブタノールの蒸気圧はp0=821Pa、水はp0=61Pa)乾燥速度が大きいため用いられる。
【0048】
[工程104]溶媒置換したハニカム状のシリカ湿潤ゲルを−30〜−10℃で凍結乾燥する。
【0049】
以上の工程によって、ハニカム状の前駆体が製造される。
≪第2工程:工程105≫
本工程では、ハニカム状の前駆体を焼成する。具体的には、前駆体を焼成する温度は、600〜1000℃であることが好ましく、700〜900℃であることが特に好ましい。後工程の構造規定剤溶液(SDAを含む水溶液)に含浸させる際、アルカリ溶液である構造規定剤溶液にハニカム状の前駆体が溶解するため、焼成を行なわず含浸すると、数分でシリカの溶解によりハニカム状の前駆体が崩壊してしまう。焼成する温度が600℃未満であると、前駆体シリカゲル中のシラノール基の脱水縮合が充分でない虞があり、1000℃超過であると、脱水縮合後のシリカ構造が密になりすぎて結晶化が進行しない虞がある。また、前駆体を焼成する時間は、1〜3時間であることが好ましく、2〜3時間であることが特に好ましい。焼成する時間が1時間未満であると、ハニカム状の前駆体中のシラノール基の脱水縮合が充分でない虞があり、3時間超過であると、水縮合が進行し過ぎてしまう虞がある。
【0050】
本工程は、後の工程の途中で前駆体の強度が脆くなることを抑えるための工程である。そして、ハニカム状の前駆体の壁厚を厚くできるため、強度の低下を抑えることができる。また、本工程を行なわずに第3工程を行なった場合に構造規定剤(以下、SDA)がアルカリであるために前駆体シリカゲルがSDAを含む溶液に溶出してしまい、結果としてハニカム状基体が崩壊しやすくなってしまう。
【0051】
≪第3工程:工程106≫
本工程では、第2工程を経たハニカム状の前駆体を構造規定剤溶液(SDAを含む水溶液)に含浸させ、ハニカム状の前駆体にSDAを含ませる。使用するSDAには、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)のほか、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン等、炭素鎖長の異なる種々の第四級アンモニウムカチオンを用いることができる。たとえば、炭素鎖が短い化合物であるテトラエチルアンモニウムカチオンをSDAとして選択して用いると形成されるハニカム状基体におけるゼオライトは、BEA構造のゼオライトとなり、炭素鎖が短い化合物であるテトラブチルアンモニウムカチオンをSDAとして選択して用いると、形成されるハニカム状基体におけるゼオライトは、MEL構造のゼオライトとなる。また、本発明においてSDAを含む水溶液は、水と構造規定剤とを含みかつ水/構造規定剤の質量比が1.6以上である。ここでSDAを含む水溶液は、たとえば、SDA、水、水酸化ナトリウムから構成されており、その構成比をSDA:H2O:NaOH=1.2:x:0.02(質量比)とすると、x<2の場合に形成されるハニカム状基体が形状を保持できないほど脆くなる虞がある。これは水の量が少ないため溶液中におけるSDAの濃度が高くなり含浸中にシリカの溶出が顕著になるためであると考えられる。また、ハニカム状の前駆体をSDAを含む溶液に含浸させる時間は、1分〜5分であることが好ましい。1分未満では、SDAを充分に含ませられない虞があり、5分超過では、形成されるハニカム状基体が形状を保持できないほど脆くなる虞がある。
【0052】
≪第4工程≫
本工程では、第3工程を経たハニカム状の前駆体に含まれるSDAを含む水溶液の水分を乾燥する。乾燥が充分でない場合に、形成されるハニカム状基体におけるゼオライトの析出量が少なくなる虞がある。したがって、前駆体を乾燥する温度は、50〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。また、前駆体を乾燥する時間は2〜4時間であることが好ましく、3〜4時間であることがより好ましい。
【0053】
≪第5工程≫
図5は、第5工程の一形態を示す模式的な断面図である。図6は水蒸気処理前のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。図7は水蒸気処理後のハニカム状の前駆体の模式的な図である。以下、図5から図7に基づいて説明する。
【0054】
本工程では、第4工程を経たハニカム状の前駆体を水蒸気処理して該前駆体の表面を結晶化する。水蒸気処理について図5を参照して説明する。まず、たとえばサンプラテック製PFAサポートスクリーンのような足つきの籠状の保持台202に、ハニカム状の前駆体200を固定する。そして、ふた204で密閉できる耐圧容器203の中に水205をいれ、さらにハニカム状の前駆体200が固定された保持台202を耐圧容器203の中に入れる。このとき、ハニカム状の前駆体200は、水とは接触しないように耐圧容器203内に静置される。そして、該耐圧容器203を密閉して、ハニカム状の前駆体200の表面を気相で結晶化する。このとき、耐圧容器203内の温度は100〜150℃であることが好ましく、100〜130℃であることが特に好ましい。耐圧容器203内の温度が100℃未満の場合には、気相の水がハニカムに供給されることがないため結晶化が進行しない虞があり、130℃超過の場合には、結晶化の進行が非常に速くなり、結晶化が進みすぎることでハニカムの崩壊、また結晶化度の制御がしにくくなる虞がある。また、水蒸気処理は12〜72時間行なうことが好ましく、12〜60時間行なうことが特に好ましい。水蒸気処理が12時間未満であると、結晶化度が低すぎる虞があり、72時間超過の場合には、結晶化が進行しすぎてしまい形状を保持できなくなる虞がある。
【0055】
図6は、図5における水蒸気処理前のハニカム状の前駆体200の一部201を拡大したものであり、水蒸気処理前は、分子は一定に整列したものではなく、アモルファス状態であることがわかる。そして、図7は図5における水蒸気処理後のハニカム状の前駆体200の一部201を拡大したものであり、水蒸気処理後は分子が一定に整列したものとなり、結晶化していることがわかる。そして、図7に示すように結晶化することで結果として形成されるハニカム状基体はゼオライトを含むこととなる。
【0056】
≪第6工程≫
本工程では、第5工程を経たハニカム状の前駆体におけるSDAを除去する。SDAがハニカム状の前駆体の細孔を埋め尽くしているため、該前駆体に加熱することでSDAを除去する。このとき、前駆体を400〜800℃で、より好ましくは400〜600℃で加熱する。前駆体を加熱する温度が400℃未満の場合には、SDAが完全に除去できない虞があり、800℃超過の場合には、ハニカム状基体の構造に変化が起こる虞がある。なお、SDAが該前駆体から除去されたかどうかは、比表面積を測定することで明らかとなる。以上の工程で本発明におけるハニカム状基体が製造できる。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
≪第1工程≫
ケイ酸ナトリウム溶液(和光純薬工業株式会社製)を脱イオンした蒸留水で希釈し、SiO2濃度1.9mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液25mLを得た。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR120B H AG)29mLを攪拌しながら加え、水溶液のpHを2.8付近に調整しシリカゾルを得た。イオン交換樹脂を取り除いた後、蓋付きのPP製チューブ(長さ100mm,内径1mm)に注ぎ込み、ふたをして30℃で静置してシリカゾルをゲル化させた。シリカゾルは2時間後に均一なシリカ湿潤ゲルとなった。
【0059】
シリカ湿潤ゲルに、低速モータの設定を挿入速度6cm/hで液面が一定になるようにした液体窒素(−196℃)に挿入した。シリカ湿潤ゲルが完全に凍結した後、50℃の恒温槽に入れて解凍した。凍結した試料の表面のみがうっすらと溶けた状態で、PPチューブの底に穴を開けることにより、凍結した状態の試料をPPチューブから取り出した。そして、氷柱が確実に擬定常成長したチューブの底から5cm以上の部分を切り取り、別に用意したPPチューブに入れ、50℃の恒温槽に2h入れることで試料を解凍した。解凍後、シリカ湿潤ゲルを、チューブから取り出し、t−ブタノールに浸漬した。この後、3日間にわたり、3回以上t−ブタノールによる洗浄を行ない、シリカ湿潤ゲルに含まれる水分(溶媒)を完全にt−ブタノールで置換した。十分に溶媒置換したシリカ湿潤ゲルを−10℃で凍結乾燥することによりハニカム状の前駆体を得た。
【0060】
≪第2工程≫
上記ハニカム状の前駆体を800℃で2時間焼成した。
【0061】
≪第3工程、第4工程≫
第2工程を経たハニカム状の前駆体を、TPAOH(SDA):H2O:NaOH=1.2:4:0.02(重量比)から構成される構造規定剤溶液に3分間減圧下で含浸し、そのあと、50℃で4時間乾燥させた。
【0062】
≪第5工程≫
第3工程を経たハニカム状の前駆体をテフロン(登録商標)製の籠状の保持台(サンプラテック社製サポートスクリーン)の中に固定した。そして、耐圧容器(三愛科学製HU−100)内に水4gを入れ、該保持台をそのまま水にハニカム状の前駆体が触れないようにして設置した。そして、耐圧容器を密栓し、130℃に設定したマッフル炉内に該耐圧容器を12時間静置させて結晶化を行なった。
【0063】
≪第6工程≫
最後に、第5工程を経たハニカム状の前駆体を600℃で120分間加熱して、ハニカム状の前駆体からSDAを除去した。
【0064】
以上の操作でハニカム状基体が製造された。このとき、ハニカム状基体の開口の面積は706μm2であり、ミクロ孔の開口面積は0.22nm2であった。
【0065】
ここで、本発明者は、第4工程〜第6工程の条件について検討を行なった。図8は、第4工程における乾燥時間について示したグラフである。図9は、第5工程で析出する結晶の粒径と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。図10は、第5工程で析出する結晶化度と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。図11は、第6工程における温度とハニカム状基体のゼオライトおよびアモルファスシリカとの質量変化について示した図面である。図12は、第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積を示すグラフである。図13は、ハニカム状基体の各部における結晶化度を示すグラフである。
【0066】
≪検討実験1:第4工程(乾燥)条件の検討≫
図8の横軸は乾燥開始からの経過時間を示し、縦軸はハニカム状の前駆体の質量を示す。上記実施例1における第3工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった。本検討においては、50℃で乾燥させた。図8に示すように、第4工程において50℃で4時間乾燥させることで、ハニカム状の前駆体の質量が定常に達することが分かった。したがって、50℃で4時間以上乾燥させることで、ハニカム状の前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥することができることが分かった。
【0067】
≪検討実験2:第5工程(水蒸気処理)条件の検討≫
上記実施例1における第4工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった後に、実施例1の第6工程を同様の操作をしてハニカム状基体を作製した。
【0068】
図9の横軸は水蒸気処理を開始してからの時間を示し、図9中の温度は水蒸気処理を行なった温度を示す。そして、図9の縦軸は最終的に形成されるゼオライトの粒径の大きさを示す。図9から、水蒸気処理の温度が高いほどゼオライトの粒径の成長が早いことが分かった。そして、110℃で水蒸気処理したとき20時間程度で該ゼオライトの粒径が1500nmになることに対して、100℃で水蒸気処理したとき37時間程度でゼオライトの粒径が1500nmになることが分かった。
【0069】
図10の横軸は水蒸気処理を開始してからの時間を示し、図10中の温度は水蒸気処理を行なった温度を示す。そして、図10の縦軸は最終的に形成されるゼオライトの結晶化度を示す。図10から図9と同様に水蒸気処理の温度が高いほどゼオライトの結晶化度の向上が早く行なわれることが分かった。しかしながら、図9と図10とを比較すると、上述した110℃で水蒸気処理して20時間程度経過した際の結晶化度は65%程度であるのに対して、100℃で水蒸気処理して37時間程度経過した際の結晶化度は45%程度であった。
【0070】
以上図9および図10を対比することによって、異なる水蒸気処理温度および時間により、結晶粒径、結晶化度をある程度制御できることが分かった。
【0071】
≪検討実験3:第6工程(前駆体からSDAを除去)条件の検討≫
上記実施例1における第5工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった後に、本検討を行なった。図11の横軸は、第6工程を行なう際の温度を示し、縦軸はハニカム状の前駆体の質量変化を示す。図11中における501部で物理吸着した水の脱離が起こり502部でシラノール基の脱水縮合が起こる。これらの結果から、ゼオライトにおける400℃近辺での質量減少はSDAが除去されたことによる質量減少であることが分かった。
【0072】
≪検討実験4:各工程における表面積≫
図12に基づいて説明する。第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積について検討した。なお、表面積の測定にはBELLSORP−mini(株式会社日本ベル社製)を用いた。
【0073】
第2工程を行なうことによってハニカム状の前駆体の表面積は減少するが、強度は向上した。また、第5工程後は、ハニカム状の前駆体の内部にSDAが詰まった上体であるため、表面積が小さかったが、第6工程を行なうことによって、第2工程後と同等の表面積が得られることが分かった。
【0074】
≪検討実験5:ハニカム状基体の各部の結晶化度≫
図13に基づいて説明する。ハニカム状基体の各部の結晶化度について検討した。図13(A)に示すように、直径10mm、長さ25mmのハニカム状基体を5等分してそれそれ番号1〜5とした。そして、図13(B)に示すように内部における直径5mm部分を内部301(center)とし、それ以外の部分を外部302(surface)として、上記番号1〜5それぞれの部分の結晶化度について検討した。
【0075】
本結果から、ハニカム状基体は、内部においても結晶化がされていることが分かった。
<考察>
図14は、実施例1におけるハニカム状基体のXRDパターンを示す。図15は、実施例1における第1工程を経た直後のハニカム状の前駆体のXRDパターンを示す。図14および図15の横軸は、回析角2θを示し、縦軸は回析強度(相対値)を示す。図15は典型的なアモルファスシリカのブロードなパターンを示すのに対して、図14は23°付近に明瞭なピークを示した。このXRDパターンより結晶の骨格構造はMFI型ゼオライトで、原料にAlを含まないことからシリカライトであると考えられた。またこの回折パターンからルーランド法によって結晶化度を求めたところ87%を示した。
【0076】
<実施例2〜14>
表1に示す条件で、実施例1の操作と同様にしてハニカム状基体を製造した。また、ルーランド法とは、上述した結晶化度を測定する方法である。また、表1における「形状」は、形状を保持した場合を○とし、形状を保持できなかった場合を×として表した。
【0077】
<比較例1〜7>
表1に示す条件で、実施例1の操作と同様にした。
【0078】
【表1】
【0079】
<結果考察>
表1の結果から、第2工程〜第6工程のいずれが欠けた場合であっても、ハニカム状基体の形状を保持することができなくなることが分かった。また、水蒸気処理時間や温度により結晶化度を制御することができなくなることが分かった。
【0080】
また、上記実施例においては、「アモルファスシリカ」および「ゼオライト」からなるハニカム状基体を製造しているが、「アモルファスアルミナ」および「ゼオライト」からなるハニカム状基体も同様に作製することができることを確認している。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のハニカム状基体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡を用いて拡大した図である。
【図2】本発明のシリカで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡で拡大した図である。
【図3】本発明のハニカム状基体の製造方法における各工程を示した工程図である。
【図4】凍結条件と、形成されるハニカム状の前駆体の開口径との関係を示す図である。
【図5】第5工程の一形態を示す模式的な断面図である。
【図6】水蒸気処理前のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。
【図7】水蒸気処理後のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。
【図8】第4工程における乾燥時間について示したグラフである。
【図9】第5工程で析出する結晶の粒径と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。
【図10】第5工程で析出する結晶化度と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。
【図11】第6工程における温度とハニカム状基体のゼオライトおよび第2工程におけるアモルファスシリカとの質量変化について示した図である。
【図12】第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積を示すグラフである。
【図13】ハニカム状基体の各部における結晶化度を示すグラフである。
【図14】実施例1におけるハニカム状基体のXRDパターンを示す図である。
【図15】実施例1における第1工程を経た直後のハニカム状の前駆体のXRDパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0083】
200 前駆体、201 部分、202 保持台、203 耐圧容器、204 ふた、205 水、301 内部、302 外部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口径より小さい直径を有するミクロ孔が形成されたゼオライトを含有するハニカム状基体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩の総称で、その構造の基本単位は四面体構造を有する(SiO4)4-および(AlO4)5-単位である。ゼオライトは天然・人工や合成のものを含めると100種以上になる。それらは、その結晶構造に由来する剛直かつ均一なミクロ孔を持ち、分子篩、吸着、触媒、イオン交換能を発現することで、日用品から大規模化学工業に至るまで様々な分野で応用されている。現在もその細孔サイズや表面の機能設計による高機能化が精力的に進められている。
【0003】
ここで、通常ゼオライトを合成する場合、水熱合成法で合成されるため、ゼオライトは微粉末として得られ取扱が困難となり充填して用いると圧力損失が大きくなる。そこでゼオライトを応用し、その機能を最大限利用するためにはゼオライトの成形体が必要となる。
【0004】
しかしながら、ゼオライトは自己焼結性に乏しいため、現在多く作製されているゼオライトの成形体は、たとえば以下のようなものを挙げることができる。(1)バインダを混入させたゼオライトから押出成形、加圧成形、ホットプレスなどの方法により得られるペレットや錠剤、ハニカム成形体。なお、バインダは、無機材料または有機材料からなる。(2)あらかじめ作製された有機材料または無機材料からなるハニカム形状などの成形体をゼオライトとバインダとを含む溶液に含浸させて引き上げて製造される成形体(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2007−268462号公報
【特許文献2】特表2008−515614号公報
【特許文献3】特開2008−127262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしバインダを利用した上述のような成形法では、バインダの混入によりゼオライトの成形体表面におけるゼオライト被覆率は低くなるため、結果として該ゼオライトの成形体のゼオライトとしての機能、つまり、具体的にはゼオライトの触媒能および吸着能等が低下する虞がある。
【0006】
また、該成形体を実際に利用する場合においては、ミクロ孔内の拡散抵抗により本来の機能、つまり、触媒能および吸着能等を十分に有効利用できていないことが多い。
【0007】
以上の問題を鑑みて、本発明の目的は、バインダを利用せずに表面にゼオライトを含有し、かつ、開口による高速物質移動とミクロ孔による高い表面積と優れた表面機能、つまり、高効率な触媒および吸着機能を備えるハニカム状基体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、バインダを利用せず、かつ、高い表面積を有し、流体を移動させるときの圧力損失が低いハニカム状基体およびその製造方法について鋭意研究した。
【0009】
本発明は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体に関する。
【0010】
また、本発明のハニカム状基体において、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【0011】
また、本発明のハニカム状基体において、ミクロ孔の開口面積は0.05nm2〜0.65nm2であり、ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜32000μm2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のハニカム状基体において、材料がシリカまたはシリカアルミナであることが好ましい。
【0013】
また、本発明のハニカム状基体において、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなるハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、シリカまたはシリカアルミナで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を製造する第1工程と、前駆体を焼成する第2工程と、前駆体を水と構造規定剤とを含みかつ水/構造規定剤の質量比が1.6以上である構造規定剤溶液に浸漬して、前駆体に構造規定剤を含ませる第3工程と、前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する第4工程と、前駆体を水蒸気処理して前駆体の表面を結晶化する第5工程と、前駆体から構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する第6工程とを備え、第1工程から第6工程の順に行なわれるハニカム状基体の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第2工程で、前駆体を600〜1000℃で、1〜3時間焼成することが好ましい。
【0016】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第3工程で、前駆体を構造規定剤に1〜5分間含浸することが好ましい。
【0017】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第4工程で、前駆体を50〜90℃で、2〜4時間乾燥することが好ましい。
【0018】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第5工程で、前駆体を100〜130℃で、12〜60時間水蒸気処理することが好ましい。
【0019】
また、本発明のハニカム状基体の製造方法において、第6工程で、前駆体を400〜800℃で加熱し、構造規定剤を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、バインダを利用せずに表面にゼオライトを含有し、かつ、開口による高速物質移動とミクロ孔による高い表面積と優れた表面機能、つまり、高効率な触媒および吸着機能を備えるハニカム状基体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しながら説明するが、本願の図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0022】
<ゼオライトを含有するハニカム状基体>
本発明のハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にハニカム構造体の開口の面積より6桁以上、より好ましくは7桁以上小さい面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体である。ハニカム状基体は、ハニカム構造をなすハニカム構造体の表面にさらにミクロ孔が形成されており、開口径とミクロ孔とが並存し、高い表面積を有する基体である。そして、ハニカム状基体は、ハニカム構造体とゼオライトとを含有する。ハニカム状基体は、円柱等の柱体であり、該柱体の上面と底面には開口を有する。そして、円柱等の柱体に対してハニカム状にストレートな開孔を有する。ハニカム構造体の開口の面積とは、ハニカム構造体における断面の開口の面積を言うものとする。そして、該ハニカム構造体の開口の面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、当SEM写真から解析することで測定することができる。なお、開口の形状については特に制限はなく、たとえば円形、楕円形、多角形体状あるいは突起を有していてもよい。また、ミクロ孔が有する開口面積とは、ゼオライトの持つ細孔の断面積であり、その細孔サイズはゼオライトの結晶構造により決定される。たとえば、MFI構造のゼオライトは0.55nm×0.51nmの細孔を持っていることが知られているのでミクロ孔の開口面積は0.22nm2の面積となる。また、柱体とは、略合同な二つの平面図形を底面として持つ筒状の物質をいうものとする。そして、ミクロ孔の直径は0.3nm〜0.9nmが好ましく、特に好ましくは0.4nm〜0.8nmである。
【0023】
さらに、本発明におけるハニカム状基体においては、ハニカム構造体の表面には、ゼオライトが析出されていることでミクロ孔が形成されていることが好ましい。ゼオライトが析出することで、ゼオライトの表面で凹凸があることから、該ゼオライトを含むハニカム状基体は、流体との接触面積が大きくなるためである。さらに、ハニカム構造体は、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなることが好ましい。つまり、ハニカム状基体は、アモルファスシリカ、および/または、アモルファスシリカで形成されているハニカム構造体の表面にゼオライトが析出してなり、材料として2層構造となっていることが好ましい。
【0024】
ただし、本発明のハニカム状基体においては、該ハニカム構造体とゼオライトとの間にはバインダ(接着剤)は含まれない。本発明のハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出する形態を有するため、従来のバインダを含む方法により作製されたゼオライト成形体と比べると、流体に接触する際の流体とゼオライトとの接触面積が大きくなるような効果を有する。
【0025】
ここで、アモルファスシリカとは、結晶性のシリカを含まない多孔質のシリカの状態のシリカゲルであり、アモルファスアルミナとは結晶性のアルミナを含まない多孔質のアルミナの状態のアルミナゲルである。そして、本発明においてゼオライトとは、結晶性の多孔質アルミノケイ酸塩、もしくは組成にアルミニウムを含まずケイ酸のみで構成された結晶性の多孔質ケイ酸塩からなるものを含むものとする。ゼオライトにおけるアルミニウム濃度を示すSi/Alモル比あるいはSiO2/Al2O3モル比(シリカ/アルミナ比)が1〜2のものを低シリカゼオライトといい、5以上のものを高シリカゼオライトというものとする。
【0026】
ハニカム状基体におけるアモルファスシリカ、アモルファスアルミナおよびゼオライトについては、XRDパターンで確認することができる。
【0027】
また、本発明において、ミクロ孔の開口面積は具体的に0.05nm2〜0.65nm2であることが好ましく、0.10nm2〜0.55nm2であることが特に好ましい。そして、ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜18000μm2であることが好ましく、75μm2〜31400μm2であることが特に好ましい。ミクロ孔およびハニカム構造体の開口の面積が上記の範囲であると、ハニカム構造体にて流体処理を行なう際、圧力損失が低減され、構造体の表面にゼオライトが位置するため、より流体との接触面積が大きくなり分離や触媒反応の高効率化がおこるというような効果が生じる。
【0028】
また、本発明のハニカム状基体の平均開口径は、特に制限されるものではないが、5〜200μmの範囲内であることが好ましく、特に10〜150μmの範囲内であることが好ましい。開口径の範囲は、表面積対体積比(処理流体の体積に対する流路の表面積)の大きさを鑑みたものであり、また、従来の押し出し成型法によって作製されるハニカムのチャネル径は最も小さいものでも約200μmであり、これ以下の流路の作製は従来法では困難であるためである。開口の大きさは、実質的に均一である。なお、開口の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、SEM写真から30個の開口を任意に選び出しその平均値とする。また、ハニカム構造体の長さに制限はないが、5〜30cmが好ましい。また、ハニカム状基体は、柱体であればその上面および底面の形状は、角状、楕円状など、適宜選択することができる。
【0029】
図1は、本発明のハニカム状基体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡を用いて拡大した図である。図1aは、430倍に拡大した図であり、図1bは、2500倍に拡大した図である。図2は、本発明のシリカで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡で拡大した図である。図2aは、1500倍に拡大した図であり、図2bは、15000倍に拡大した図である。以下、図1および図2に基づいて説明する。
【0030】
図1に示すように、本発明の一形態として、ハニカム状基体は、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出している。特に図1bに示すように、ハニカム構造体の表面には、ほぼ均一にゼオライト析出している。このように、図1と図2とを比較することによって、ゼオライトがハニカム構造体の表面に析出することによって、表面にミクロ孔が形成される。なお、図1に示す一形態においては、ゼオライト内にはその結晶に由来する直径0.5nm程度のミクロ孔が形成されている。
【0031】
また、ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出しているかどうかの度合いは、結晶化度で示すことができる。結晶化度は、RINT2100(株式会社リガク社製)でX線回析を測定してルーランド法(アクタ クリスクログラフィカ:Acta Crystallographica、第14巻、第1180頁、1961年)により解析することで得られる値である。
【0032】
析出するゼオライトは、後述するSAC法(Steam−Assisted Crystallization)により作製され、該ゼオライトの結晶構造は構造規定剤(SDA)によって決定される。たとえば、ハニカム構造体がアモルファスシリカであり、表面にゼオライトを析出させる場合において、SDAとしてテトラプロピルアンモニウムイオンを選択して用いると、ゼオライトとしてMFI構造を有するハイシリカゼオライトZMF−5が析出する。
【0033】
このとき、ゼオライトは、粒子状に析出するため、該ゼオライトを含むハニカム状基体は、流体との接触面積が大きくなる。そのため分離や触媒反応の高効率化につながる。またゼオライト粒子サイズが小さいことより、粒子内の拡散抵抗が小さく、分離や触媒反応の高効率化につながる。
【0034】
この平均開口径は、ハニカム構造体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察し、写真を撮り、該写真から解析することで知ることができる。また、比表面積は、−196℃における窒素吸脱着測定を行ない、得られた吸脱着等温線に対してBETプロットを適用し、解析することで知ることができる。
【0035】
<ハニカム状基体の製造方法>
図3は、本発明のハニカム状基体の製造方法における各工程を示した工程図である。以下、図3に基づいて説明する。
【0036】
本発明におけるハニカム状基体の製造方法では、少なくとも第1工程から第6工程を備え、第1工程から第6工程まで順に行なわれる。図3において、工程101(シリカ湿潤ゲル作製)から工程104(凍結乾燥)が第1工程であり、第1工程でシリカまたはシリカアルミナで形成された開口を有するハニカム状の前駆体が製造される。そして、第2工程は、工程105(焼成)に示すように、該前駆体を焼成する工程である。また、本実施形態においては、シリカ湿潤ゲルを用いた方法を記載するが、同様に作製されたシリカアルミナ湿潤ゲルを用いた場合であっても同様に本発明のハニカム状基体を作製することができる。
【0037】
また、第3工程から第6工程は、該前駆体が「ハニカム構造体」と「ゼオライト」とを備えるハニカム状基体となるために行なう工程である。第3工程は、前駆体を構造規定剤溶液に浸漬して、前駆体に構造規定剤(SDA)を含ませる工程(工程106)であり、第4工程は、前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する工程(工程107)であり、第5工程は、前駆体を水蒸気処理して前駆体の表面を結晶化する工程(工程108)であり、第6工程は、前駆体から構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する工程(工程109)である。本実施形態においては、第1工程で得られたハニカム状の前駆体は、第6工程を経るまでは「前駆体」であり、第6工程を経て「ハニカム状基体」となるものとする。また、第5工程における水蒸気処理とは、SAC法(Steam−Assisted Crystallization)を示す。SAC法は、乾燥させたシリカもしくはアルミノシリケートゲルに不揮発性のSDAを含ませた後、水と接触しないように耐圧容器に置き、蒸気を供給することにより結晶化させる方法である。
【0038】
以下、各工程について詳細に説明する。
≪第1工程≫
まず、本工程において利用する「氷晶テンプレート法」について説明する。ゾルや湿潤ゲルを凍結すると相分離が生じ、比較的純粋な氷の相と、溶質もしくは固体成分が濃縮された相の2相が生じる。この相分離現象は、2種類の異なる金属の混合融液を凝固させた際に生じる相分離現象と類似の現象である。特に、2種類の金属の混合融液を一方向凝固(unidirectional solidification)した場合、相分離した2種類の金属相は凝固方向に平行な薄膜(ラメラ)が重なり合った状態、凝固方向に平行な繊維の相を別の相が取り囲んでいる状態、片方の相が微粒子状に分散した状態(形態)をとる。
【0039】
上記の形態は、金属種の組成、凝固速度、凝固温度によって変化する。一方、金属酸化物の湿潤ゲルを一方向凍結(unidirectional freezing)させた際の凍結状態における形態は、解凍・乾燥後には繊維状の金属酸化物ゲルが得られる。したがって、金属混合融液の一方向凝固との類似性を考えると湿潤ゲルの一方向凍結においても、固体成分の濃度や凍結条件を変化させることで、繊維状以外にも様々な形態を有する金属酸化物ゲルが得られる可能性がある。そこで本発明では、一方向凍結法の適用範囲を、従来の十分にエージングをした構造の硬いゲルから、ゲル化直後の構造の柔らかいゲルやゲル化前のゾルにまで広げて、新規な形態の発現を試みた。本手法においてゾルを一方向凍結する場合は、必然的に凍結ゲル化が生じるので、本発明では適用範囲を大幅に広げた一方向凍結法を新たに「一方向凍結ゲル化法(unidirectional freeze−gelation)」と定義する。また、一方向凍結ゲル化した試料を低温エージングし、解凍・乾燥して種々の形態を有する多孔質ゲルを得る、一連の操作全体を氷晶テンプレート法と定義する。
【0040】
次に、第1工程における各操作について説明する。
[工程101]最初に、シリカ湿潤ゲルを作製する。原料であるケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)を純水で希釈してケイ酸ナトリウム水溶液とする。ケイ酸ナトリウム水溶液は、濃度が低いとハニカム壁を構成する溶質が不足し、濃度が高すぎるとイオン交換中にゲル化してしまうために、1.0〜2.0Mの濃度範囲に調製することが好ましい。このようにして調製されたケイ酸ナトリウム水溶液にイオン交換樹脂を混入し、前処理をする。この前処理は、水ガラスを原料とするシリカゾルのpHを調整するとともにシリカ粒子の表面に吸着することで特性を変化させるNaイオンを不純物として十分に除去することで、規則性を有する平均開口径を有する多孔質ハニカム構造体を製造するために行なわれる。具体的には、pHメータ(および必要に応じてイオンメータ)を付設した容器内に収容したケイ酸ナトリウム水溶液に強酸性イオン交換樹脂を、所望のpH(たとえば2〜3)になるまで混入する。
【0041】
ここで用いるイオン交換樹脂としては、特に制限されるものではないが、pH調整を行ないつつシリカゾル中のNaイオンを十分に除去できることから、強酸性イオン交換樹脂を用いることが好ましい。このようなイオン交換樹脂は、たとえばオルガノ株式会社製アンバーライトIR120B H AGなどを例示することができる。
【0042】
ケイ酸ナトリウム水溶液に混入させるイオン交換樹脂の量についても特に制限されるものではないが、水溶液の体積に対して半分からほぼ同量の体積あるのが好ましい。イオン交換樹脂の量は、調整するケイ酸ナトリウム水溶液によって変わるが、イオン交換樹脂の量が少ないと、Naイオンの除去が十分に行なわれない虞があるためであり、また、イオン交換樹脂の量が多すぎると、pHが小さくなりすぎてゲル化時間が長くなるという傾向にあるためである。続く工程では、前工程で混入させたイオン交換樹脂を除去する。イオン交換樹脂は、たとえば適宜の篩を用いることで除去することができる。
【0043】
続く工程では、シリカゾルをゲル化してシリカ湿潤ゲルを得る。シリカゾルのゲル化は、後述する工程で用いるチューブ状の容器(セル)内に収容し、20〜40℃の温度範囲で2〜8時間程度静置することで行なうことができる。なお、シリカゾルのゲル化を別の容器内で行なった後、得られたシリカ湿潤ゲルを後の工程で用いるチューブ状の容器に収容するようにしても勿論よい。
【0044】
[工程102]工程101で得られたシリカ湿潤ゲルを凍結させる。当該シリカ湿潤ゲルの凍結は、上記チューブ状のセルごと、定速モータなどを用いて所定の挿入速度で液体窒素などの冷媒中に挿入することで凍結する。シリカ湿潤ゲルを冷媒中に挿入することで、冷媒に挿入された部分の氷が挿入方向に沿って柱状に成長する。
【0045】
シリカ湿潤ゲルの凍結開始までのエージング(第一のエージング)の時間を制御することで、ハニカム状の前駆体の形態を決定することができる。当該エージング時間は、0.5〜12時間の範囲内であるのが好ましい。エージング時間が長くなるにつれて、凍結後の形状は、薄膜状、平板繊維状、ハニカム状、多角形(polygonal)繊維状へと変化する(上述した特許文献1を参照)。このような形状変化は、凍結時のシリカ粒子の移動しやすさに基づくものであると考えられる。エージング時間が長くなるに従い、ゲル化が進行し、シリカ粒子の運動が阻害される。エージング時間が短い場合には、比較的シリカ粒子が移動しやすいため集合しやすくなり、連続的につながった薄膜状、または平板繊維状となる。ゲル化の前後は殆どシリカ粒子が移動できないため、氷柱の周りに存在した状態のままで凍結しハニカム状となる。さらにゲル化が進むと、氷柱の成長により分割されて繊維状となる。
【0046】
また、ここで、図4は、凍結条件と、形成されるハニカム状の前駆体の開口径との関係を示す図である。以下、図4に基づいて説明する。凍結条件を変化させることにより、テンプレートとなる氷柱の直径を変化させることができるので、得られるハニカム状の前駆体について所望の平均開口径を有するように成形することができる。図4において、横軸は{vf(Tr−Tf)}-1(vf[m/s]:挿入速度,Tr[K]:室温(298K),Tf[K]:凍結温度)を示し、縦軸は開口径を示す。図4から、好ましい凍結条件としては−196〜−10℃で0.5〜70cm/hの速度で凍結する条件であり、より好ましくは−196〜−20℃で1〜20cm/hの速度で凍結する条件であることが分かる。本発明の製造方法においては、本工程でのシリカ湿潤ゲルは、凍結後、凍結状態のままで一定時間エージング(第二のエージング)されることが好ましい。第二のエージングは、氷がテンプレートとなっている状態でシリカ湿潤ゲルの構造を強化することが可能となる。第二のエージングは−196〜−20℃の比較的低温で1〜3時間行なうことが好ましい。
【0047】
[工程103]シリカ湿潤ゲルの解凍は、第二のエージング終了後のチューブ状のセルをたとえば50℃の恒温槽内に入れることで行なわれる。そして、解凍後、該シリカ湿潤ゲルに含まれる水分を有機溶媒に置換する。たとえば、解凍したハニカム構造体をその5倍以上の体積のt−ブタノールに浸漬させる。その後、2〜4日間、t−ブタノールによる洗浄を行ない、解凍したハニカム構造体中に含まれる微量の水分をt−ブタノールで置換する。なお、t−ブタノールは、液−固転移時の密度変化が小さく(Dr=−3.4×10-4g/cm3 at 299K)、凝固時に試料を破壊する可能性が小さい点と、蒸気圧が大きく(0℃におけるt−ブタノールの蒸気圧はp0=821Pa、水はp0=61Pa)乾燥速度が大きいため用いられる。
【0048】
[工程104]溶媒置換したハニカム状のシリカ湿潤ゲルを−30〜−10℃で凍結乾燥する。
【0049】
以上の工程によって、ハニカム状の前駆体が製造される。
≪第2工程:工程105≫
本工程では、ハニカム状の前駆体を焼成する。具体的には、前駆体を焼成する温度は、600〜1000℃であることが好ましく、700〜900℃であることが特に好ましい。後工程の構造規定剤溶液(SDAを含む水溶液)に含浸させる際、アルカリ溶液である構造規定剤溶液にハニカム状の前駆体が溶解するため、焼成を行なわず含浸すると、数分でシリカの溶解によりハニカム状の前駆体が崩壊してしまう。焼成する温度が600℃未満であると、前駆体シリカゲル中のシラノール基の脱水縮合が充分でない虞があり、1000℃超過であると、脱水縮合後のシリカ構造が密になりすぎて結晶化が進行しない虞がある。また、前駆体を焼成する時間は、1〜3時間であることが好ましく、2〜3時間であることが特に好ましい。焼成する時間が1時間未満であると、ハニカム状の前駆体中のシラノール基の脱水縮合が充分でない虞があり、3時間超過であると、水縮合が進行し過ぎてしまう虞がある。
【0050】
本工程は、後の工程の途中で前駆体の強度が脆くなることを抑えるための工程である。そして、ハニカム状の前駆体の壁厚を厚くできるため、強度の低下を抑えることができる。また、本工程を行なわずに第3工程を行なった場合に構造規定剤(以下、SDA)がアルカリであるために前駆体シリカゲルがSDAを含む溶液に溶出してしまい、結果としてハニカム状基体が崩壊しやすくなってしまう。
【0051】
≪第3工程:工程106≫
本工程では、第2工程を経たハニカム状の前駆体を構造規定剤溶液(SDAを含む水溶液)に含浸させ、ハニカム状の前駆体にSDAを含ませる。使用するSDAには、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)のほか、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン等、炭素鎖長の異なる種々の第四級アンモニウムカチオンを用いることができる。たとえば、炭素鎖が短い化合物であるテトラエチルアンモニウムカチオンをSDAとして選択して用いると形成されるハニカム状基体におけるゼオライトは、BEA構造のゼオライトとなり、炭素鎖が短い化合物であるテトラブチルアンモニウムカチオンをSDAとして選択して用いると、形成されるハニカム状基体におけるゼオライトは、MEL構造のゼオライトとなる。また、本発明においてSDAを含む水溶液は、水と構造規定剤とを含みかつ水/構造規定剤の質量比が1.6以上である。ここでSDAを含む水溶液は、たとえば、SDA、水、水酸化ナトリウムから構成されており、その構成比をSDA:H2O:NaOH=1.2:x:0.02(質量比)とすると、x<2の場合に形成されるハニカム状基体が形状を保持できないほど脆くなる虞がある。これは水の量が少ないため溶液中におけるSDAの濃度が高くなり含浸中にシリカの溶出が顕著になるためであると考えられる。また、ハニカム状の前駆体をSDAを含む溶液に含浸させる時間は、1分〜5分であることが好ましい。1分未満では、SDAを充分に含ませられない虞があり、5分超過では、形成されるハニカム状基体が形状を保持できないほど脆くなる虞がある。
【0052】
≪第4工程≫
本工程では、第3工程を経たハニカム状の前駆体に含まれるSDAを含む水溶液の水分を乾燥する。乾燥が充分でない場合に、形成されるハニカム状基体におけるゼオライトの析出量が少なくなる虞がある。したがって、前駆体を乾燥する温度は、50〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。また、前駆体を乾燥する時間は2〜4時間であることが好ましく、3〜4時間であることがより好ましい。
【0053】
≪第5工程≫
図5は、第5工程の一形態を示す模式的な断面図である。図6は水蒸気処理前のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。図7は水蒸気処理後のハニカム状の前駆体の模式的な図である。以下、図5から図7に基づいて説明する。
【0054】
本工程では、第4工程を経たハニカム状の前駆体を水蒸気処理して該前駆体の表面を結晶化する。水蒸気処理について図5を参照して説明する。まず、たとえばサンプラテック製PFAサポートスクリーンのような足つきの籠状の保持台202に、ハニカム状の前駆体200を固定する。そして、ふた204で密閉できる耐圧容器203の中に水205をいれ、さらにハニカム状の前駆体200が固定された保持台202を耐圧容器203の中に入れる。このとき、ハニカム状の前駆体200は、水とは接触しないように耐圧容器203内に静置される。そして、該耐圧容器203を密閉して、ハニカム状の前駆体200の表面を気相で結晶化する。このとき、耐圧容器203内の温度は100〜150℃であることが好ましく、100〜130℃であることが特に好ましい。耐圧容器203内の温度が100℃未満の場合には、気相の水がハニカムに供給されることがないため結晶化が進行しない虞があり、130℃超過の場合には、結晶化の進行が非常に速くなり、結晶化が進みすぎることでハニカムの崩壊、また結晶化度の制御がしにくくなる虞がある。また、水蒸気処理は12〜72時間行なうことが好ましく、12〜60時間行なうことが特に好ましい。水蒸気処理が12時間未満であると、結晶化度が低すぎる虞があり、72時間超過の場合には、結晶化が進行しすぎてしまい形状を保持できなくなる虞がある。
【0055】
図6は、図5における水蒸気処理前のハニカム状の前駆体200の一部201を拡大したものであり、水蒸気処理前は、分子は一定に整列したものではなく、アモルファス状態であることがわかる。そして、図7は図5における水蒸気処理後のハニカム状の前駆体200の一部201を拡大したものであり、水蒸気処理後は分子が一定に整列したものとなり、結晶化していることがわかる。そして、図7に示すように結晶化することで結果として形成されるハニカム状基体はゼオライトを含むこととなる。
【0056】
≪第6工程≫
本工程では、第5工程を経たハニカム状の前駆体におけるSDAを除去する。SDAがハニカム状の前駆体の細孔を埋め尽くしているため、該前駆体に加熱することでSDAを除去する。このとき、前駆体を400〜800℃で、より好ましくは400〜600℃で加熱する。前駆体を加熱する温度が400℃未満の場合には、SDAが完全に除去できない虞があり、800℃超過の場合には、ハニカム状基体の構造に変化が起こる虞がある。なお、SDAが該前駆体から除去されたかどうかは、比表面積を測定することで明らかとなる。以上の工程で本発明におけるハニカム状基体が製造できる。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
≪第1工程≫
ケイ酸ナトリウム溶液(和光純薬工業株式会社製)を脱イオンした蒸留水で希釈し、SiO2濃度1.9mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液25mLを得た。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR120B H AG)29mLを攪拌しながら加え、水溶液のpHを2.8付近に調整しシリカゾルを得た。イオン交換樹脂を取り除いた後、蓋付きのPP製チューブ(長さ100mm,内径1mm)に注ぎ込み、ふたをして30℃で静置してシリカゾルをゲル化させた。シリカゾルは2時間後に均一なシリカ湿潤ゲルとなった。
【0059】
シリカ湿潤ゲルに、低速モータの設定を挿入速度6cm/hで液面が一定になるようにした液体窒素(−196℃)に挿入した。シリカ湿潤ゲルが完全に凍結した後、50℃の恒温槽に入れて解凍した。凍結した試料の表面のみがうっすらと溶けた状態で、PPチューブの底に穴を開けることにより、凍結した状態の試料をPPチューブから取り出した。そして、氷柱が確実に擬定常成長したチューブの底から5cm以上の部分を切り取り、別に用意したPPチューブに入れ、50℃の恒温槽に2h入れることで試料を解凍した。解凍後、シリカ湿潤ゲルを、チューブから取り出し、t−ブタノールに浸漬した。この後、3日間にわたり、3回以上t−ブタノールによる洗浄を行ない、シリカ湿潤ゲルに含まれる水分(溶媒)を完全にt−ブタノールで置換した。十分に溶媒置換したシリカ湿潤ゲルを−10℃で凍結乾燥することによりハニカム状の前駆体を得た。
【0060】
≪第2工程≫
上記ハニカム状の前駆体を800℃で2時間焼成した。
【0061】
≪第3工程、第4工程≫
第2工程を経たハニカム状の前駆体を、TPAOH(SDA):H2O:NaOH=1.2:4:0.02(重量比)から構成される構造規定剤溶液に3分間減圧下で含浸し、そのあと、50℃で4時間乾燥させた。
【0062】
≪第5工程≫
第3工程を経たハニカム状の前駆体をテフロン(登録商標)製の籠状の保持台(サンプラテック社製サポートスクリーン)の中に固定した。そして、耐圧容器(三愛科学製HU−100)内に水4gを入れ、該保持台をそのまま水にハニカム状の前駆体が触れないようにして設置した。そして、耐圧容器を密栓し、130℃に設定したマッフル炉内に該耐圧容器を12時間静置させて結晶化を行なった。
【0063】
≪第6工程≫
最後に、第5工程を経たハニカム状の前駆体を600℃で120分間加熱して、ハニカム状の前駆体からSDAを除去した。
【0064】
以上の操作でハニカム状基体が製造された。このとき、ハニカム状基体の開口の面積は706μm2であり、ミクロ孔の開口面積は0.22nm2であった。
【0065】
ここで、本発明者は、第4工程〜第6工程の条件について検討を行なった。図8は、第4工程における乾燥時間について示したグラフである。図9は、第5工程で析出する結晶の粒径と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。図10は、第5工程で析出する結晶化度と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。図11は、第6工程における温度とハニカム状基体のゼオライトおよびアモルファスシリカとの質量変化について示した図面である。図12は、第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積を示すグラフである。図13は、ハニカム状基体の各部における結晶化度を示すグラフである。
【0066】
≪検討実験1:第4工程(乾燥)条件の検討≫
図8の横軸は乾燥開始からの経過時間を示し、縦軸はハニカム状の前駆体の質量を示す。上記実施例1における第3工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった。本検討においては、50℃で乾燥させた。図8に示すように、第4工程において50℃で4時間乾燥させることで、ハニカム状の前駆体の質量が定常に達することが分かった。したがって、50℃で4時間以上乾燥させることで、ハニカム状の前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥することができることが分かった。
【0067】
≪検討実験2:第5工程(水蒸気処理)条件の検討≫
上記実施例1における第4工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった後に、実施例1の第6工程を同様の操作をしてハニカム状基体を作製した。
【0068】
図9の横軸は水蒸気処理を開始してからの時間を示し、図9中の温度は水蒸気処理を行なった温度を示す。そして、図9の縦軸は最終的に形成されるゼオライトの粒径の大きさを示す。図9から、水蒸気処理の温度が高いほどゼオライトの粒径の成長が早いことが分かった。そして、110℃で水蒸気処理したとき20時間程度で該ゼオライトの粒径が1500nmになることに対して、100℃で水蒸気処理したとき37時間程度でゼオライトの粒径が1500nmになることが分かった。
【0069】
図10の横軸は水蒸気処理を開始してからの時間を示し、図10中の温度は水蒸気処理を行なった温度を示す。そして、図10の縦軸は最終的に形成されるゼオライトの結晶化度を示す。図10から図9と同様に水蒸気処理の温度が高いほどゼオライトの結晶化度の向上が早く行なわれることが分かった。しかしながら、図9と図10とを比較すると、上述した110℃で水蒸気処理して20時間程度経過した際の結晶化度は65%程度であるのに対して、100℃で水蒸気処理して37時間程度経過した際の結晶化度は45%程度であった。
【0070】
以上図9および図10を対比することによって、異なる水蒸気処理温度および時間により、結晶粒径、結晶化度をある程度制御できることが分かった。
【0071】
≪検討実験3:第6工程(前駆体からSDAを除去)条件の検討≫
上記実施例1における第5工程まで同様の操作を行なったハニカム状の前駆体について本検討を行なった後に、本検討を行なった。図11の横軸は、第6工程を行なう際の温度を示し、縦軸はハニカム状の前駆体の質量変化を示す。図11中における501部で物理吸着した水の脱離が起こり502部でシラノール基の脱水縮合が起こる。これらの結果から、ゼオライトにおける400℃近辺での質量減少はSDAが除去されたことによる質量減少であることが分かった。
【0072】
≪検討実験4:各工程における表面積≫
図12に基づいて説明する。第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積について検討した。なお、表面積の測定にはBELLSORP−mini(株式会社日本ベル社製)を用いた。
【0073】
第2工程を行なうことによってハニカム状の前駆体の表面積は減少するが、強度は向上した。また、第5工程後は、ハニカム状の前駆体の内部にSDAが詰まった上体であるため、表面積が小さかったが、第6工程を行なうことによって、第2工程後と同等の表面積が得られることが分かった。
【0074】
≪検討実験5:ハニカム状基体の各部の結晶化度≫
図13に基づいて説明する。ハニカム状基体の各部の結晶化度について検討した。図13(A)に示すように、直径10mm、長さ25mmのハニカム状基体を5等分してそれそれ番号1〜5とした。そして、図13(B)に示すように内部における直径5mm部分を内部301(center)とし、それ以外の部分を外部302(surface)として、上記番号1〜5それぞれの部分の結晶化度について検討した。
【0075】
本結果から、ハニカム状基体は、内部においても結晶化がされていることが分かった。
<考察>
図14は、実施例1におけるハニカム状基体のXRDパターンを示す。図15は、実施例1における第1工程を経た直後のハニカム状の前駆体のXRDパターンを示す。図14および図15の横軸は、回析角2θを示し、縦軸は回析強度(相対値)を示す。図15は典型的なアモルファスシリカのブロードなパターンを示すのに対して、図14は23°付近に明瞭なピークを示した。このXRDパターンより結晶の骨格構造はMFI型ゼオライトで、原料にAlを含まないことからシリカライトであると考えられた。またこの回折パターンからルーランド法によって結晶化度を求めたところ87%を示した。
【0076】
<実施例2〜14>
表1に示す条件で、実施例1の操作と同様にしてハニカム状基体を製造した。また、ルーランド法とは、上述した結晶化度を測定する方法である。また、表1における「形状」は、形状を保持した場合を○とし、形状を保持できなかった場合を×として表した。
【0077】
<比較例1〜7>
表1に示す条件で、実施例1の操作と同様にした。
【0078】
【表1】
【0079】
<結果考察>
表1の結果から、第2工程〜第6工程のいずれが欠けた場合であっても、ハニカム状基体の形状を保持することができなくなることが分かった。また、水蒸気処理時間や温度により結晶化度を制御することができなくなることが分かった。
【0080】
また、上記実施例においては、「アモルファスシリカ」および「ゼオライト」からなるハニカム状基体を製造しているが、「アモルファスアルミナ」および「ゼオライト」からなるハニカム状基体も同様に作製することができることを確認している。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のハニカム状基体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡を用いて拡大した図である。
【図2】本発明のシリカで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を上面および底面に対して平行に切断した断面を電子顕微鏡で拡大した図である。
【図3】本発明のハニカム状基体の製造方法における各工程を示した工程図である。
【図4】凍結条件と、形成されるハニカム状の前駆体の開口径との関係を示す図である。
【図5】第5工程の一形態を示す模式的な断面図である。
【図6】水蒸気処理前のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。
【図7】水蒸気処理後のハニカム状の前駆体の一部を拡大した模式的な図である。
【図8】第4工程における乾燥時間について示したグラフである。
【図9】第5工程で析出する結晶の粒径と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。
【図10】第5工程で析出する結晶化度と水蒸気処理の温度および時間との関係を示したグラフである。
【図11】第6工程における温度とハニカム状基体のゼオライトおよび第2工程におけるアモルファスシリカとの質量変化について示した図である。
【図12】第1工程後(凍結乾燥後)、第2工程後(焼成後)、第5工程後(水蒸気処理後)、第6工程後(SDA除去後)において、ハニカム状の前駆体およびハニカム状基体の表面積を示すグラフである。
【図13】ハニカム状基体の各部における結晶化度を示すグラフである。
【図14】実施例1におけるハニカム状基体のXRDパターンを示す図である。
【図15】実施例1における第1工程を経た直後のハニカム状の前駆体のXRDパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0083】
200 前駆体、201 部分、202 保持台、203 耐圧容器、204 ふた、205 水、301 内部、302 外部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造体の表面に前記ハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体。
【請求項2】
前記ハニカム構造体の表面に前記ゼオライトが析出されてなる請求項1に記載のハニカム状基体。
【請求項3】
前記ミクロ孔の開口面積は0.05nm2〜0.65nm2であり、前記ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜32000μm2である請求項1または2に記載のハニカム状基体。
【請求項4】
材料がシリカまたはシリカアルミナである請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム状基体。
【請求項5】
アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなる前記ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム状基体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法であって、
シリカまたはシリカアルミナで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を製造する第1工程と、
前記前駆体を焼成する第2工程と、
前記前駆体を、水と構造規定剤とを含みかつ前記水/前記構造規定剤の質量比が1.6以上である構造規定剤溶液に浸漬して、前記前駆体に前記構造規定剤を含ませる第3工程と、
前記前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する第4工程と、
前記前駆体を水蒸気処理して前記前駆体の表面を結晶化する第5工程と、
前記前駆体から前記構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する第6工程と、を備え、
前記第1工程から前記第6工程の順に行なわれるハニカム状基体の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記前駆体を600〜1000℃で、1〜3時間焼成する請求項6に記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程において、前記前駆体を前記構造規定剤に1〜5分間含浸する請求項6または7に記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項9】
前記第4工程において、前記前駆体を50〜90℃で、2〜4時間乾燥する請求項6〜8のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項10】
前記第5工程において、前記前駆体を100〜130℃で、12〜60時間水蒸気処理する請求項6〜9のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項11】
前記第6工程において、前記前駆体を400〜800℃で加熱し、前記構造規定剤を除去する請求項6〜10のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項1】
ハニカム構造体の表面に前記ハニカム構造体の開口の面積より6桁以上小さい開口面積を有するミクロ孔が形成された、ゼオライトを含有するハニカム状基体。
【請求項2】
前記ハニカム構造体の表面に前記ゼオライトが析出されてなる請求項1に記載のハニカム状基体。
【請求項3】
前記ミクロ孔の開口面積は0.05nm2〜0.65nm2であり、前記ハニカム構造体の開口の面積は15μm2〜32000μm2である請求項1または2に記載のハニカム状基体。
【請求項4】
材料がシリカまたはシリカアルミナである請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム状基体。
【請求項5】
アモルファスシリカ、および/または、アモルファスアルミナよりなる前記ハニカム構造体の表面にゼオライトが析出されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム状基体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法であって、
シリカまたはシリカアルミナで形成された、開口を有するハニカム状の前駆体を製造する第1工程と、
前記前駆体を焼成する第2工程と、
前記前駆体を、水と構造規定剤とを含みかつ前記水/前記構造規定剤の質量比が1.6以上である構造規定剤溶液に浸漬して、前記前駆体に前記構造規定剤を含ませる第3工程と、
前記前駆体に含まれる構造規定剤溶液の水分を乾燥する第4工程と、
前記前駆体を水蒸気処理して前記前駆体の表面を結晶化する第5工程と、
前記前駆体から前記構造規定剤を除去して、ゼオライトを含有するハニカム状基体を製造する第6工程と、を備え、
前記第1工程から前記第6工程の順に行なわれるハニカム状基体の製造方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記前駆体を600〜1000℃で、1〜3時間焼成する請求項6に記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程において、前記前駆体を前記構造規定剤に1〜5分間含浸する請求項6または7に記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項9】
前記第4工程において、前記前駆体を50〜90℃で、2〜4時間乾燥する請求項6〜8のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項10】
前記第5工程において、前記前駆体を100〜130℃で、12〜60時間水蒸気処理する請求項6〜9のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【請求項11】
前記第6工程において、前記前駆体を400〜800℃で加熱し、前記構造規定剤を除去する請求項6〜10のいずれかに記載のハニカム状基体の製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【公開番号】特開2010−46585(P2010−46585A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211675(P2008−211675)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(503202527)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(503202527)
【Fターム(参考)】
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