説明

ソバを原料として使用した飲食品の製造方法

【課題】焙煎にかかる温度を下げると共に、その香り、風味、味わい及び抽出液の色を向上させ、さらに生理活性を増強させた付加価値の高いソバの実を用いた飲食品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】日本ソバや苦ソバ(ダッタンソバ)、宿根ソバ等のソバの種子の殻を取り除いて得たソバの実、もしくはソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実、又はこれらの粉砕物と、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖等の単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の糖類を含む糖液とを混合して焙煎、好ましくは200〜250℃で4〜6分間焙煎し、アルキルピラジン類の含量が増強されたソバを原料とした飲食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソバを原料としたアルキルピラジン類の含量が増強された飲食品及びその製造方法に関し、より詳しくは、ソバの種子の殻を取り除いて得たソバの実等と、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖等の糖液とを、混合して焙煎するソバを原料とした飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、健康志向の高まりに伴い、年齢にこだわらず広い年代層の人々が、カフェインなどの刺激物質や、高濃度の糖分を含有しない、例えば穀物を原料とした茶飲料等が好まれ、この種の飲料がペットボトルに収納され広く市販されている。穀物飲料の原料の一つであるソバは、蛋白質、ビタミン、ミネラル等の栄養素を豊富に含み、特にダッタンソバでは血圧降下に有効とされるルチンも多量に含んでいることから、従来、ソバを原料とした飲食品の製造方法が多数提案されている。例えば、本出願人による、ソバの種子を蒸煮してアルファー化した後、殻を取り除き、10〜60メッシュに粉砕し、さらに焙煎前に対して焙煎後の容積比が1.0〜2.0になるよう焙煎して、ソバを原料とする飲食品の製造法(例えば、特許文献1参照)や、苦ソバ(Fagopyrum tararicum ダッタンソバ)の穀粒から苦ソバ茶を製造する際に、該苦ソバの穀粒を水に浸漬して穀粒の中心部まで水を浸透させた後、蒸して前記穀粒をアルファ化し、次いで、蒸した穀粒を乾燥してから実と殻とを分離した後、前記実を焙煎する苦ソバ茶の製造方法(例えば、特許文献2参照)等が知られている。これらの飲食品は、普通の煎茶と同じように熱湯で煮出して飲むことができるが、原料によってその質が異なり、ダッタンソバ等それぞれ特有の味及び香り、まろやかさを有する飲料として既に市販されている。
【0003】
また、ソバだけを原料とする飲食品(ソバ茶)のみならず、ソバを乾燥し焙煎する一方、霊芝を乾燥したのち粉砕して焙煎し、焙煎されたソバと霊芝とを所定比率で混合一体化し、特有の風味と香りを有するソバ・霊芝茶の製造方法(例えば、特許文献3参照)や、焙煎したダッタンソバの実及び/又はソバ粉を主成分とし、これに焙煎した微粉末状又は微細粒状の大豆及び黒ゴマを混合した、苦味を抑え、嗜好的に優れたソバ茶の製造方法(例えば、特許文献4参照)や、アミノ酸単体及び混合物、若しくはアミノ酸系天然調味料の、懸濁液或いは水溶液に脱穀ソバ種子の全粒を浸漬させることにより該懸濁又は水溶液を浸透せしめ、蒸煮によりアルファ化した後、種子全粒を乾燥させ、これを焙煎、粉砕する風味が増強されたソバ茶の製造方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
更に近年では、穀物を焙煎することによって得られる香気成分であるアルキルピラジン類にも血液の流動性を向上させる作用があることが明らかにされている(非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭57−5142号公報
【特許文献2】特開平9−308470号公報
【特許文献3】特開平5−70号公報
【特許文献4】特開平11−225718号公報
【特許文献5】特開2005−6569号公報
【非特許文献1】日本清涼飲料研究会第14回研究発表会要旨(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のソバの実を原料に用いた飲食品は、焙煎温度が比較的高くなってコストが高くなるほか、どうしても製品及びその抽出液の色が薄くなる。そして、抽出液の色を濃くしようとした場合にはさらに焙煎を強くする必要があり、そのためソバ独特の香り、風味及びその味わいを損なう可能性が残る。本発明の課題は、焙煎にかかる温度を下げると共に、その香り、風味、味わい及び抽出液の色を向上させ、さらに生理活性を増強させた付加価値の高いソバの実を用いた飲食品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ソバの実は、蛋白質、ビタミン、ミネラル等の栄養素を豊富に含むとはいえ、糖質は、ソバ全層粉100g当たり約70%含まれており、特許文献5記載の発明のように、アルファ化したソバの実をアミノ酸含有液に浸漬させ、焙煎して香味の増強を図っている。このように、香味の増強のために、アミノ酸を用いて、ソバの実に含まれる糖と反応することにより行われていた。本発明者は、ソバの実と共存させる種々の可食材料について鋭意研究した結果、ソバの実に多量の糖類が含まれているにも拘わらず、意外にもショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖等の糖類を共存させて焙煎すると、従来のソバの実を原料に用いた飲食品と同程度の焼き色のソバ茶を、低い焙煎温度で得ることができ、しかも、その香り、風味、味わい及び抽出液の色がよく、アルキルピラジン類の濃度が高くなることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)ソバを原料としたアルキルピラジン類の含量が増強された飲食品の製造方法であって、ソバの種子の殻を取り除いて得たソバの実、もしくはソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実、又はこれらの粉砕物と、単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の糖類を含む糖液とを混合して焙煎することを特徴とするソバを原料とした飲食品の製造方法や、(2)糖類が、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖から選ばれることを特徴とする上記(1)記載のソバを原料とした飲食品の製造方法に関する。
【0009】
また本発明は(3)焙煎が、200〜250℃で、4〜6分間行われることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のソバを原料とした飲食品の製造方法や、(4)ソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実の粉砕物を用いることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のソバを原料とした飲食品の製造方法や、(5)飲食品が、茶飲料であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の飲食品の製造方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載の飲食品の製造方法により得られるソバを原料とする飲食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のソバを原料としたアルキルピラジン類の含量が増強された飲食品の製造方法によれば、従来のソバを原料とし、焙煎して製造する飲食品と比べ、顕著にアルキルピラジン類の含量が高く、そして、ソバ本来の風味に加えて、優れた香り、風味、味わいが付加された、ソバを原料とする飲食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のソバを原料としたアルキルピラジン類の含量が増強された飲食品の製造方法としては、ソバの種子の殻を取り除いて得たソバの実、もしくはソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実、又はこれらの粉砕物と、単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の糖類を含む糖液とを混合して焙煎する方法であれば、特に制限されるものではなく、ソバ原料としては、通常の日本ソバ(Fagopyrum esculemtum)や苦ソバ(Fagopyrum tararicum ダッタンソバ)、宿根ソバ等を用いることができる。そして、これらソバの実は、通常のソバ茶の製造方法で採用されている方法で調製することができる。例えば、精選して夾雑物を除去し、整粒をおこなったソバ種子の殻を取り除いて得たソバの実や、精選して夾雑物を除去し、整粒をおこなったソバ種子を水に浸漬して湿潤させ、水を切った後に放置してソバ種子の内部まで水分を浸透させ、このソバ種子を蒸煮してアルファー化させ、そのソバ種子を乾燥した後ソバ種子の殻を取り除いて得たソバの実や、これらソバの実の粉砕物を用いることができるが、ダッタンソバに由来するソバの実や、アルファー化して殻を取り除いて得たソバの実や、粉砕したソバの実が好ましく、これらソバの実を10〜60メッシュの大きさに粉砕したものが好ましい。
【0013】
本発明は、焙煎条件(温度と時間)は特に制限されないが、焙煎による香味と適当な色度を付与するために採用される通常の焙煎条件、すなわち270〜330℃の焙煎温度と5〜10分の焙煎時間よりも、より低温で短時間の焙煎条件、例えば80〜250℃、好ましくは200〜250℃の焙煎温度と3〜10分、好ましくは4〜6分の焙煎時間を採用することが好ましく、かかる焙煎条件を採用することにより、アルキルピラジン類の含量を高め、より香りが高く、ソバ本来の風味を付与することができる。
【0014】
糖類としては、単糖類としては、フルクトース(果糖)、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース等を挙げることができ、二糖類としては、シュクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、イソマルトース、ラクトース(乳糖)等を挙げることができ、これらは2種以上混合して用いることもできる。中でも、特にショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖が好ましい。これら糖類は、糖液として用いられ、糖液の糖度としては、10°〜30°であることが望ましい。30°以上の糖度になると粘性が高く、焙煎釜などに原料が付着するようになる。ショ糖の場合、10〜30w/v%溶液が用いられる。また、糖液の添加量は、ソバの実又はその粉砕物100重量部に10〜15重量部添加することが好ましい。
【0015】
本発明の飲食品としては、ソバを原料として通常のお茶と同じように飲む飲料、或いはふりかけ食品、スープ、さらには菓子類、乳飲料の製造原料として飲食できる飲食品を含む。
【0016】
本発明のソバを原料とした飲食品の製造方法について、具体的に例示すれば、精選して夾雑物を除去し、整粒をおこなったソバ種子を水に浸漬して湿潤させ、水を切った後に放置してソバ種子の内部まで水分を浸透させる。このソバ種子を40分間以上蒸煮してアルファー化させ、そのソバ種子を乾燥した後ソバ種子の殻を取り除く。この際、ソバ種子の粉砕物を焙煎に使用する場合には、殻を取り除いたソバの実を10〜60メッシュの大きさに粉砕する。さらに上記ソバ種子もしくは粉砕物に糖液を添加し、焙煎釜にて80〜250℃で、3〜10分焙煎を行う。以上のようにして得られたソバの実を原料に用いた飲食品は、従来のソバの実を原料に用いた飲食品と比べ、アルキルピラジン類の含量が増強され、ソバ本来の風味に加えて、異なった香り、風味、味わいが付加され、その抽出液の色が良いものを得ることが出来る。
【0017】
本発明の実施例で製造される飲食物の香気成分の分析法としては、例えば、HSSE法、SBSE法を挙げることができるが、HSSE法で行うことが好ましい。HSSE法により分析するには、試料として、ソバ茶顆粒5gを20ml容バイアル瓶に入れ、次にtwister(Gester社製)1本を直接ソバ茶顆粒に触れないようにして瓶上部に吊るし、セプタムで密閉した。30〜80℃で加熱後、twisterを取り出して、加熱脱着装置(Gester社製、TDS-CIS)に装着して、GC-MS(Agirent社製、HP-5973型)へ導入した。なお、twisterは、stir bar表面に500μmの厚さで100% PDMS(polydimethylsiloxan)をコーティングしたものである。香気成分の推定については、GC-MS分析を表1に示すとおりの条件で行った。
【0018】
【表1】

【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
精選して夾雑物を除去し、整粒をおこなった普通ソバ種子を水に3時間以上浸漬して湿潤させ、水を切った後に16時間以上放置して普通ソバ種子の内部まで水分を浸透させた。この普通ソバ種子を40分間以上蒸煮してアルファー化させ(蒸煮後水分38〜42%)、普通ソバ種子を水分が11〜14%になるまで乾燥した後普通ソバ種子の殻を取り除いた。次に殻を取り除いた普通ソバの実を10〜50メッシュの大きさに製粉機等で粉砕した。さらに上記粉砕物に10〜30%ショ糖液を原料に対して10〜15%添加し、焙煎釜にて200〜250℃で4分〜6分間焙煎を行い所謂「普通ソバ焙煎物」を得た。該「普通ソバ焙煎物」を8g取り、それにお湯を450mL入れ1分間煮出して飲用をしたが、従来の普通ソバの実を原料に用いた普通ソバ焙煎物よりもその香り、風味、味わい及び色が良いものであった。このうち、20%ショ糖液を13%添加して、焙煎条件が弱(約80〜150℃、6〜8分)、中(約150〜220℃、4〜6分)、強(約220〜250℃、3〜4分)の焙煎を行った普通ソバ焙煎物、あるいはショ糖液を添加することなく(比較例)、焙煎条件が弱(約200〜250℃、8〜10分)、中(約250〜300℃、6〜8分)、強(約300〜350℃、4〜6分)の焙煎を行った普通ソバ焙煎物から得た普通ソバ茶について、10名のパネラーで官能検査を行った結果の総合評価を下記表2に、またソバの実焙煎物の主たる香気成分であるアルキルピラジン類の合計値(GC-MS測定による面積値・数値が大きいほど香気成分の量が多い)を表3に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
上記表2に示すように、糖液を用いないで焙煎し製造した比較例では、味、香りにおいて、弱焙煎では、生っぽいものであり、色が薄く、中焙煎では、味は生っぽさがいくらか残り、香りはよいものの、色は薄茶色で物足りない色調を呈し、強焙煎では、味が荒っぽく、焦げ臭がきつく、こげ茶色となったのに対し、本発明のショ糖使用のものでは、弱焙煎では、若干生っぽさが残るが、芳しい香りと茶色を呈し、中焙煎、強焙煎では、共に味はコクがあり、芳しい香りを有し、色も茶色、又は弱こげ茶色を呈し、飲料として十分満足できるものであった。
【0024】
上記表3に示すように、香気成分であるアルキルピラジン類の合計量については、糖液使用の弱焙煎及び中焙煎のソバ焙煎物中より得られたものでは、糖液不使用の弱焙煎及び中焙煎のソバ焙煎物より得られたものに比べて約30%増加し、糖液使用の強焙煎のソバ焙煎物中より得られたものでは、糖液不使用の強焙煎のソバ焙煎物中より得られたものに比べて約40%増加することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバを原料としたアルキルピラジン類の含量が増強された飲食品の製造方法であって、ソバの種子の殻を取り除いて得たソバの実、もしくはソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実、又はこれらの粉砕物と、単糖類及び二糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の糖類を含む糖液とを混合して焙煎することを特徴とするソバを原料とした飲食品の製造方法。
【請求項2】
糖類が、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖から選ばれることを特徴とする請求項1記載のソバを原料とした飲食品の製造方法。
【請求項3】
焙煎が、200〜250℃で、4〜6分間行われることを特徴とする請求項1又は2記載のソバを原料とした飲食品の製造方法。
【請求項4】
ソバの種子を蒸熱してアルファー化し、殻を取り除いて得たソバの実の粉砕物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のソバを原料とした飲食品の製造方法。
【請求項5】
飲食品が、茶飲料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の飲食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の飲食品の製造方法により得られるソバを原料とする飲食品。