説明

ソフトカプセルの製造方法

【課題】簡易な組成で、且つ、添加物として扱われる原料を使用することなくソフトカプセルを製造できると共に、機械的強度、保存性、透明性に優れるソフトカプセルを成形性よく製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉、及び、該加工澱粉100重量部に対して20重量部〜28重量部のイオタカラギーナンが水に加熱溶解されたカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトカプセルの製造方法に関するものであり、特に、カプセルの皮膜基剤としてゼラチンを使用しないソフトカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは牛や豚などの動物の皮、骨、腱などを処理して得られる誘導タンパク質の一種であるが、温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化する性質と、優れたフィルム形成能とを兼ね備えた特異な物質であり、一般的なソフトカプセルの皮膜基剤として広く使用されている。特に、ロータリーダイ式によるソフトカプセルの製造では、フィルムがヒートシール性を有することが必要であるため、常温に近い温度でゾル・ゲル変化するゼラチンは、ロータリーダイ式によるソフトカプセルの皮膜基剤として極めて有用である。その一方で、狂牛病(牛海綿状脳症)対策や宗教上の理由などにより、ゼラチンを使用することなく、植物由来の原料でカプセル皮膜が形成されたソフトカプセルも要請されている。
【0003】
そこで、従来、ゲル化能とフィルム形成能とをそれぞれ異なる物質に負担させることによって、ゼラチンに代替できる植物由来のカプセル皮膜を形成する試みがなされており、その中で、ゲル化剤としてカラギーナンを使用すると共に、フィルム形成剤として加工澱粉を使用する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献5参照)。ここで、カラギーナンは、主に紅藻類に由来する多糖類であり、構造及び性状の異なるイオタカラギーナン、カッパカラギーナン、ラムダカラギーナンの三種が知られている。一方、加工澱粉とは、熱・酸・酵素による低分子化、官能基付加、架橋化、α化、湿熱処理等により、特性を変化させた澱粉を総称するものであり、処理の種類、種類の異なる処理の組み合わせ、原料とする澱粉の種類などにより、多種多様の加工澱粉が存在する。
【0004】
このうち、特許文献1では、ゲル化剤としてイオタカラギーナンを使用し、フィルム形成剤としてはヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化酸改質タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化メイズスターチ、ヒドロキシプロピル化酸改質コーンスターチ等から選ばれる少なくとも一種を使用している。一方、特許文献2及び特許文献3は、ゲル化剤としてカッパカラギーナンとイオタカラギーナンとを併用するものであり、フィルム形成剤としては、酸処理ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉及び/又はヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉(特許文献2)、デキストリン類(特許文献3)を使用している。
【0005】
また、特許文献4では、ゲル化剤としてカッパカラギーナン、ラムダカラギーナン、及びタマリンドガムからなるガムミックスを使用し、フィルム形成剤としてはヒドロキシプロピルエーテル化澱粉、α化澱粉、及び澱粉分解物(マルトデキストリン)の混合物を使用している。更に、本出願人は特許文献5において、カラギーナンを含む半精製品である加工ユーケマ藻類またはファーセルランをゲル化剤として使用し、フィルム形成剤としてヒドロキシプロピル化デキストリン及び酸化澱粉を使用する技術を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヒドロキシプロピル基が導入された澱粉または澱粉分解物を使用する場合(特許文献1,2,4,5)、ヒドロキシプロピル化に用いられるプロピレンオキサイド(酸化プロピレン)は、36℃という低い沸点で有毒な気体となり、また爆発性であるため、製造上の安全性の点で問題があった。更に、ヒドロキシプロピル基に限らず、官能基が導入された澱粉(澱粉誘導体)は、“化学修飾”された澱粉とも称されるように、化学的な処理を経ているということから受けるイメージが、より天然に近いものを好む需要者から敬遠される傾向もあった。
【0007】
また、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉、酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムなど、化学的処理の行われた11品目の加工澱粉については、従来は「食品」として扱われてきたところ、平成20年10月の食品衛生法施行規則の一部改正により、「添加物」として取り扱われることとなった。その結果、上記の従来技術で使用されている加工澱粉の多くは「添加物」として取り扱われる。添加物は、ヒトの健康を損なうおそれのないものが指定されているとはいえ、需要者は経口で摂取する物に対して、「添加物」より「食品」を志向する傾向が強い。そのため、添加物でなく食品として扱われる原料を使用して製造されるソフトカプセルが望まれている。
【0008】
また、フィルム形成剤としてデキストリンを使用する場合(特許文献3,4,5)、デキストリンは澱粉に比べてかなり低分子まで分解されているためにフィルム形成能が低く、製造されたカプセルがつぶれやすい、割れやすい等、機械的強度が十分ではないという問題があった。また、デキストリンは澱粉と異なり冷水可溶性であることから、高湿度下で保存された場合には、カプセル皮膜の溶解により内容物が漏出するおそれがあった。
【0009】
更に、複数種類のカラギーナンを併用する場合は(特許文献2,3,4)、組成が複雑になることに加え、種類の異なるカラギーナンを所定割合で配合するためには、精製度の高いカラギーナンを使用せざるを得ないという不都合があった。この点は、カラギーナンの半精製品を使用する特許文献5の技術では改善されているものの、ヒドロキシプロピル化された加工澱粉を使用している点、及び、デキストリンを使用している点では、上記の問題を残していた。
【0010】
加えて、ソフトカプセルは、透明な外観に高い市場的価値を有するところ、上記の従来技術によって製造されたカプセル皮膜は、透明性の上で、未だ満足できるものではなかった。
【0011】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、簡易な組成で、且つ、添加物として扱われる原料を使用することなくソフトカプセルを製造できると共に、機械的強度、保存性、透明性に優れるソフトカプセルを成形性よく製造することができる、ソフトカプセルの製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセルの製造方法は、「もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉、及び、該加工澱粉100重量部に対して20重量部〜28重量部のイオタカラギーナンが水に加熱溶解されたカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する」ものである。
【0013】
「酸処理」は、希塩酸や希硫酸等の希薄な酸に、原料となる澱粉粒子を糊化しない温度下で所定時間浸漬した後、中和、水洗、乾燥することにより行われる。また、「塩の存在下での湿式加熱処理」は、加熱しても糊化しない程度の水分の存在下で、塩と加工澱粉との混合物を温度100〜150℃に加熱する処理を指しており、「塩」としてはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの塩化物を例示することができる。
【0014】
カプセル皮膜に充填させる「内容物」は、特に限定されるものではなく、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分を油脂に溶解又は懸濁させたものを例示することができる。
【0015】
本発明者らは、検討の結果、もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉は、冷水可溶性を有する澱粉分解物ほどには分解されていないが、加熱により容易に糊化する程度に低分子化されていると共に、その糊液は未処理のもち種トウモロコシ澱粉の糊液より低粘度で澱粉分解物の糊液よりは高粘度であること、これらの加工澱粉をフィルム形成剤として使用すると共に、イオタカラギーナンを単独でゲル化剤として使用し、上記の割合でカプセル皮膜液を調製することにより、カプセル皮膜の組成が極めて簡易でありながら、後述のように、実用的な成形性で、機械的強度、保存性、及び、透明性に優れるソフトカプセルを製造できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
ここで、イオタカラギーナンの割合が20重量部に満たない場合は、ロータリーダイ式製造装置によるカプセル皮膜の成形において、ヒートシールによるカプセル皮膜の接着(カプセルの封止)を十分に行うことができず、成形性が低下する。一方、イオタカラギーナンの割合が28重量部を超えると、カプセル皮膜液の粘度が高くなり過ぎ、同じく成形性が低下する。なお、イオタカラギーナンの割合は、22〜28重量%であれば成形性が良好でハンドリングしやすいためより望ましく、25〜28重量%であれば、後述のように高い収率でソフトカプセルを製造できるため更に望ましい。
【0017】
また、上述のように化学的処理のなされた加工澱粉は「添加物」として取り扱われるのに対し、通常の調理過程でも起こり得る加熱処理等の物理的処理(酸やアルカリによる処理など簡単な化学的加工を含む)、或いは、アミラーゼ等の酵素による処理が行われた加工澱粉については、「食品」として取り扱われる。従って、本発明で使用される「酸処理」または「塩の存在下で湿式加熱処理」されたもち種トウモロコシ澱粉は、食品として扱われる加工澱粉であり、需要者に安心感を与え、需要者に受け入れられやすいソフトカプセルの原料として、適している。
【0018】
なお、本発明でフィルム形成剤として使用しているもち種トウモロコシ澱粉の加工澱粉は、特許文献1においては、「有用ではない」澱粉の一つとして指摘されている。また、ゲル化剤として複数種類のカラギーナンを併用している従来技術(特許文献2,3,4参照)では、イオタカラギーナンは柔軟なゲルを形成するが、イオタカラギーナン単独では十分な機械的強度を有するカプセル皮膜は形成できない旨、記述している。即ち、本発明は、従来技術が排除した構成をすくい上げ、新たな工夫を付加することによって、機械的強度、保存性、透明性に優れると共に、組成が極めて簡易なソフトカプセルを、実用的な成形性で製造することを実現したものであり、意義が高い。
【0019】
本発明にかかるソフトカプセルの製造方法は、上記構成において、「前記加工澱粉は、濃度40重量%の水溶液が90℃において600mPa・s以上1000mPa・s未満の粘度を示すものである」ものとすることができる。
【0020】
酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉として、濃度40重量%の水溶液の90℃における粘度が上記範囲の加工澱粉を用いることにより、後述のように、カプセル皮膜液の流延がしやすく、良好な成形性でカプセル皮膜を成形することができる。
【0021】
本発明にかかるソフトカプセルの製造方法は、「前記カプセル皮膜液は、前記加工澱粉100重量部に対して40重量部〜50重量部のグリセリンを更に含有する」ものとすることができる。
【0022】
上記構成とすることにより、詳細は後述するように、乾燥後に割れが生じにくく、且つ、保存に伴うカプセル同士の付着が抑制されたソフトカプセルを製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の効果として、簡易な組成で、且つ、添加物として扱われる原料を使用することなくソフトカプセルを製造できると共に、機械的強度、保存性、透明性に優れるソフトカプセルを成形性よく製造することができる、ソフトカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセルの製造方法、及び、該方法により製造されるソフトカプセルについて説明する。
【0025】
本実施形態のソフトカプセルの製造方法(以下、単に「製造方法」と称する)は、もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉、加工澱粉100重量部に対して20重量部〜28重量部のイオタカラギーナン、及び加工澱粉100重量部に対して40重量部〜50重量部のグリセリンが水に加熱溶解されたカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備する。
【0026】
より詳細に説明すると、調製工程では、加工澱粉を可塑剤と共に水と混合し、加熱する。酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉は、冷水可溶性ではないが加熱により容易に糊化する。ここで、本実施形態では、もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉として、水を液媒とする濃度40重量%の糊液の90℃における粘度が600mPa・s以上1000mPa・s未満と、澱粉分解物の糊液ほどは低粘度でなく、且つ、未処理のもち種トウモロコシ澱粉の糊液よりは低粘度の加工澱粉を使用している。そのため、調製工程に引き続いて行われる成形工程において、良好な成形性を示す粘度のカプセル皮膜液を調製することができる。なお、調製工程では、必要に応じて、着色剤、光隠ぺい剤、防腐剤等の添加物を、カプセル皮膜液に添加することができる。
【0027】
成形工程は、ロータリーダイ式の成形装置を使用して行われる。ここで、一般的なロータリーダイ式成形装置は、カプセル皮膜液をフィルム状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配されたくさび状のセグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0028】
成形工程では、まず、60〜100℃に保持されてゾル状態にあるカプセル皮膜液が、キャスティングドラム表面に流延され、冷却されてゲル化することによりフィルム化される。次に、形成されたフィルムの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のフィルムがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のフィルムが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。従って、ゲル化剤が温度変化によって適切にゾル・ゲル変化しないと、ヒートシールによるフィルムの接着(カプセルの封止)が不十分となる。
【0029】
なお、成形工程で成形されたカプセルは、所定の水分含有量となるまで調湿乾燥機内で乾燥させることができる。
【0030】
上記のように、本実施形態の製造方法により、カプセル皮膜に、もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉と、加工澱粉100重量部に対して20重量部〜28重量部のイオタカラギーナンと、加工澱粉100重量部に対して40重量部〜50重量部のグリセリンが含有されたソフトカプセルが製造される。
【0031】
次に、本実施形態の製造方法を、上記構成とした根拠について説明する。まず、加工処理の種類及び原料とする澱粉の種類の異なる7種類の加工澱粉S1〜S7について、ロータリーダイ式成形法に適用可能な、実用的な粘度を有する糊液が調製可能であるか否かの検討を行った。ここで、糊液の調製は、加工澱粉30gに対し水45gを加えて、沸騰湯浴中で加熱溶解させることにより行った。すなわち、調製された糊液における加工澱粉の濃度は40重量%である。そして、糊液が調製できた場合については、糊液を流延して乾燥し、形成されたフィルムの透明性を評価した。これらの検討結果を、表1に併せて示す。なお、粘度測定は、B型粘度計を使用し(No.4ローター,回転速度60rpm)、測定温度90℃で行った。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示したように、もち種トウモロコシ澱粉を酸処理した加工澱粉S1、及びもち種トウモロコシ澱粉を塩の存在下で湿式加熱処理した加工澱粉S2からは、流延に適した実用的な粘度の糊液を良好に調製することができ、形成されたフィルムも透明であった。これに対し、もち種トウモロコシ澱粉をリン酸架橋した加工澱粉S3、トウモロコシ澱粉を湿熱処理した加工澱粉S4、トウモロコシ澱粉をエーテル化及び酸化処理した加工澱粉S7を用いた場合は、糊液の粘度が著しく高く、カプセル皮膜液として適した糊液を調製することはできなかった。また、タピオカ澱粉を酸化処理した加工澱粉S5は、糊液の粘度がやや高く、流延作業性がやや不良であると共に、形成されたフィルムが白濁しており、透明性が不良であった。一方、タピオカ澱粉をエーテル化及び酸化処理した加工澱粉S6は、形成されたフィルムの透明性は良好であったが、糊液の粘度がやや高く、曳糸性があり、流延作業性はやや不良であった。
【0034】
上記の結果より、濃度40重量%のとき、90℃における粘度が600mPa・s以上で1000mPa・s未満の糊液が調製される加工澱粉が、ロータリーダイ式で成形されるソフトカプセルのカプセル皮膜の基剤として適していると考えられ、本実施形態では、加工澱粉として、酸処理したもち種トウモロコシ澱粉または塩の存在下で湿式加熱処理したもち種トウモロコシ澱粉を使用することとした。
【0035】
次に、加工澱粉に対するイオタカラギーナンの割合について検討した結果を示す。まず、もち種トウモロコシ澱粉を酸処理した加工澱粉100重量部に対し、可塑剤(グリセリン)の割合を45重量部と一定とし、イオタカラギーナンの割合の異なる皮膜組成R1〜R7のカプセル皮膜液を調製した。調製されたカプセル皮膜液により、ロータリーダイ式成形装置を用いて、内容物として油脂が充填されたソフトカプセル(フットボール型,No.5)を成形した。各皮膜組成と成形性の評価、及び、カプセル収率(%)を表2に示す。ここで、カプセル収率(%)は、各皮膜組成について同一条件下で同一時間成形を行った際に、内容物の漏出やカプセルのつぶれ等なく、正常に成形されたソフトカプセル数を、成形されたソフトカプセルの全数に対する百分率で示したものである。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示したように、酸処理したもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対して、ゲル化剤であるイオタカラギーナンが20重量部に満たない皮膜組成R1,R2では、ヒートシールによるカプセルの封止を十分に行うことができなかった。また、イオタカラギーナンの割合が30重量部の皮膜組成R7では、カプセル皮膜液の粘度が高過ぎ、所定時間安定した成形を行うことができなかった。イオタカラギーナンの割合が20〜28重量%の皮膜組成R3〜R6では、所定時間安定した成形を行うことができたと共に、カプセル収率も90%以上と高率であり、皮膜組成として適していると考えられた。また、イオタカラギーナンの割合が22.5〜28重量%の皮膜組成R4〜R6では、流延作業性を含め成形の際のハンドリングがしやすく、皮膜組成として好適であった。特に、イオタカラギーナンの割合が25〜28重量%の皮膜組成R5,R6では、95%以上の極めて高いカプセル収率が得られ、皮膜組成としてより好適であると考えられた。
【0038】
次に、加工澱粉に対するグリセリンの割合について検討した結果を示す。イオタカラギーナンの割合を、上記の好適な範囲内である25重量部として、酸処理したもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対する、可塑剤(グリセリン)の割合の異なる皮膜組成R8〜R13のカプセル皮膜液を調製した。調製されたカプセル皮膜液により、ロータリーダイ式成形装置を用いて、内容物として油脂が充填されたソフトカプセル(フットボール型,No.5)を成形した。各皮膜組成と成形性の評価、及び、カプセル収率を表3に示す。また、カプセル皮膜中の水分含有率が約7重量%となるまで乾燥したソフトカプセルについて、「割れ試験」及び「保存性試験」を行った。これらの試験結果を、表3に併せて示す。
【0039】
ここで、「割れ試験」は、ソフトカプセル50粒をアルミニウムシート製の袋に入れ、1mの高さから10回自由落下させた後に、カプセル皮膜の割れを目視で観察することにより行った。全てのソフトカプセルに割れが確認されなかった場合を「○」、一粒でも割れていた場合は「×」として評価した。また、「保存性試験」は、ソフトカプセル50粒を9号ガラス瓶(内径40mm、高さ60mm)に入れ、50℃の恒温槽内で100時間保存した後に、カプセル同士が付着しているか否かを目視で観察することにより行った。カプセル同士の付着が全く確認されなかった場合を「○」で、一部でも付着が確認された場合を「×」で評価した。
【0040】
【表3】

【0041】
表3から明らかなように、酸処理されたもち種トウモロコシ澱粉100重量部に対して、グリセリンが40重量部に満たない皮膜組成R8,R9では、割れ試験において割れが確認されたソフトカプセルが発生した。これは、可塑剤の添加量が少ないために、カプセル皮膜が柔軟性に欠けているためと考えられた。一方、グリセリンの割合が55重量部の皮膜組成R13では、保存性試験においてカプセル同士の付着が観察された。これは、可塑剤の添加量が多過ぎ、保存時間の経過に伴いカプセル皮膜がべたつきやすくなるためと考えられた。以上の結果から、可塑剤の割合が40〜50重要部である皮膜組成R10〜R12が好適な組成であると判断された。また、これらの皮膜組成では、カプセル収率も95%と極めて高率であった。
【実施例】
【0042】
本実施形態の構成要件を具備する皮膜組成R3〜R6,R10,R11(R5),R12で製造されたソフトカプセル(実施例のソフトカプセル)から、ランダムに50粒を採取し、割れ試験、保存性試験、崩壊性試験、過酷試験後の透明性観察、復元試験後の透明性観察を行い、現行の二種の市販品A,Bと対比した。ここで、割れ試験及び保存性試験は、上記と同様に行った。崩壊性試験は日本薬局方に規定された崩壊試験法に則って行った。過酷試験は、温度40℃,湿度75%という通常の保存条件より過酷な条件下で、ソフトカプセルを開放状態で24時間保存することにより行い、試験後にカプセル皮膜の透明性を目視で観察した。また、復元試験は、温度40℃,湿度75%の条件下で、ソフトカプセルを開放状態で24時間保存した後、更に50℃で24時間保存してカプセル皮膜を強制的に乾燥させるという操作を、10サイクル繰り返すことにより行い、試験後にカプセル皮膜の透明性を目視で観察した。各試験の結果を、表4にまとめて示す。
【0043】
なお、市販品Aは、フィルム形成剤としてヒドロキシプロピル化及び酸処理されたトウモロコシ澱粉を使用すると共に、ゲル化剤としてイオタカラギーナンを使用したものであり、市販品Bは、フィルム形成剤としてデキストリン類(クラスターデキストリン)を使用すると共に、ゲル化剤としてイオタカラギーナン及びカッパカラギーナン等を使用したものである。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示したように、上記の製造方法で製造された本実施例のソフトカプセルは、市販品A,Bと同等に割れにくく、保存に伴うカプセル同士の付着も生じにくいと共に、崩壊性に優れており、実用性を有していた。加えて、本実施例のソフトカプセルは、市販品A,Bに比べて、保存後の安定性及び保存に伴う透明性の保持の点で優れていた。すなわち、強制的に乾燥させた後水分を戻す操作を繰り返す復元試験後に、市販品Aではカプセル皮膜がやや不透明となっており、市販品Bでは透明性は保たれたものの一部のカプセルに内容物の漏出が生じていた。これに対し、本実施例のソフトカプセルは、透明性が良好に保持されており、且つ、内容物の漏出も確認されなかった。
【0046】
上記は、酸処理されたもち種トウモロコシ澱粉をフィルム形成剤とした場合についての検討結果であるが、もち種トウモロコシ澱粉を、塩、及び未処理のもち種トウモロコシ澱粉に対して20〜30重量%の水と混合し、温度130〜140℃で湿式加熱処理した加工澱粉をフィルム形成剤とした場合も、同一の皮膜組成についてほぼ同様の結果が得られている。
【0047】
上記のように、本実施形態のソフトカプセルの製造方法によれば、もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉をフィルム形成剤として、加工澱粉100重量部に対して20〜28重量%のイオタカラギーナンを単独でゲル化剤として使用することにより、官能基付加された加工澱粉を使用することなく、極めて簡易な皮膜組成で、機械的強度、保存性を有すると共に、従来品より透明性に優れるソフトカプセルを、実用的な成形性で製造することができる。
【0048】
加えて、加工澱粉100重量部に対して40〜50重量部のグリセリンを可塑剤として添加することにより、乾燥後に割れが生じにくく、且つ、保存に伴うカプセル同士の付着が抑制されたソフトカプセルを提供することができる。
【0049】
また、酸処理されたもち種トウモロコシ澱粉及び塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉は、何れも食品として扱われる加工澱粉であり、本実施形態ではカプセル皮膜の原料として添加物として扱われる原料を使用していないため、需要者に安心感を与え、需要者に受け入れられやすいソフトカプセルを製造することができる。
【0050】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0051】
例えば、上記では、可塑剤としてグリセリンを使用する場合を例示したが、これに限定されず、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独又は併用して使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特許第3947003号公報
【特許文献2】特開2005−112849号公報
【特許文献3】特許第4242266号公報
【特許文献4】特開2006−96695号公報
【特許文献5】特開2008−88111号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
もち種トウモロコシ澱粉が酸処理または塩の存在下で湿式加熱処理された加工澱粉、及び、該加工澱粉100重量部に対して20重量部〜28重量部のイオタカラギーナンが水に加熱溶解されたカプセル皮膜液を調製し、
ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する
ことを特徴とするソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記加工澱粉は、濃度40重量%の水溶液が90℃において600mPa・s以上1000mPa・s未満の粘度を示すものである
ことを特徴とする請求項1に記載のソフトカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記カプセル皮膜液は、前記加工澱粉100重量部に対して40重量部〜50重量部のグリセリンを更に含有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソフトカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2011−26262(P2011−26262A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175168(P2009−175168)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(503315676)中日本カプセル 株式会社 (9)
【Fターム(参考)】