説明

ソフトストレッチ上着

本発明はソフトストレッチ上着に関し、該ソフトストレッチ上着が未着用かつフリー状態下で、身体周囲の70%以上は弾性ヨコ編物で構成される。該弾性ヨコ編物は、5〜15重量%の弾性糸とその他の部分が非弾性糸で構成されており、かつ目付が140〜200g/mである。該弾性ヨコ編物は、30%〜80%の伸長範囲において、つっぱり指数が0.8以下、回復応力が0.3〜1.3Nである。該ソフトストレッチ上着を着用し、運動強度が7Mets未満、運動時間が6時間未満、かつ運動量が25Mets・hr以下の運動を行う時の呼吸商は1.05以下である。該ソフトストレッチ上着を着用して安静状態での衣服圧が0.6kPa以下、運動状態での衣服圧が2.5kPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソフトストレッチ上着に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活から健康に注意を払い、いろいろな運動を行うことで、自分の健康を重視する人間はだんだん多くなっている。これに伴って、スポーツウェアなどのスポーツ用品の性能への要求も高くなり、快適性と運動機能性を兼ね備えているソフトストレッチ上着の開発は新たなニーズとなっている。
【0003】
現在市販されているスポーツ用ストレッチ上着は、高弾性編物又は高弾性織物の組合せにより、部分的に異なるストレッチ性を持たせる設計となっている。高弾性素材を利用して高弾性部を設計することで、筋肉への拘束力を強化する方法としてCN101351129では、肩胛骨と肩胛骨周囲の筋肉群への拘束を利用することにより、身体と腕の回転などの動作による運動効果を向上するスポーツウェアが開示されている。テーピング理論を利用する方法としてCN101056551では、弾性素材で第1の伸縮性材料パネルを作成し、シームで第2のパネルと接合し、シームが筋肉稜に対応し、テーピング理論で筋肉稜に対する拘束により運動能力と効果を向上するコンプレッション衣料が開示されている。上記素材は優れる弾性で、人体に強い拘束力がある弾性素材である。筋力の強いアスリートのような人はコンプレッション衣料を着ると、運動効果が向上できるが、普通の人はアスリートのような強い筋肉がないので、着用時に拘束感があり、長い時間で着ると筋肉と心臓の負荷を増加させ、快適性が劣るものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的はソフトストレッチ上着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のソフトストレッチ上着が未着用かつフリー状態下で、身体周囲の70%以上は弾性ヨコ編物で構成され、該弾性ヨコ編物は、30%〜80%の伸長範囲において、つっぱり指数が0.8以下、回復応力が0.3〜1.3Nである。
【0006】
ここで言うつっぱり指数は、衣服により身体への圧迫程度を表す。日本INTEC社製伸縮疲労試験機(IT−DRS)を用い、日本工業規格JIS L−1096に規定する方法で測定する。10cm*15cmの試験片をタテ方向、ヨコ方向に採取し、次いでつかみ間隔が7.6cm、幅が2.5cm、30cm/minの速度で試験片を110%まで引張り、伸長が30%と80%時のそれぞれの応力を読取る。計算方法は下記のとおりである。
【0007】
つっぱり指数=((弾性ヨコ編物を80%伸長する時の応力<N>−弾性ヨコ編物を30%伸長する時の応力<N>)/50)*10。
【0008】
回復応力は、日本A&D社製引張試験機を用い、日本工業規格JIS L1096に規定する方法により伸長回復率と残留伸長率を測定することから求める。具体的な測定方法は、下記のとおりである。弾性編物を、応力が20Nになるまで引張り、伸長80%と30%に回復する時のそれぞれの伸長回復応力を読取る。上記、伸長回復応力は、実着用時の快適感と緊密な関係があり、伸長回復応力が小さければ小さいほど、人体に与える圧迫感が小さくなり、快適感を感じる。
【0009】
本発明のソフトストレッチ上着を着用し、運動強度が7Mets未満、運動時間が6時間未満、運動量が25Mets・hr以下の運動を行う時の呼吸商は1.05以下である。運動強度は運動による人体への生理刺激の強さを表す数値である。運動強度を数値化する一つの方法として、酸素摂取量がある。体重1kg当たり1時間に1kcalを消費する時の運動強度が1Metsである。運動量は運動強度と運動時間の積である。本発明のソフトストレッチ上着は市販の専業運動員向けのコンプレッションウェアと違い、一般運動者の特徴を考えて設計したものである。一般運動者とは、普段、運動習慣を持ち、且つ定期的に適度な運動を行うスポーツ愛好者である。ここでいう適度な運動は、毎月50Mets・hr〜1000Mets・hrの運動量を有する運動である。
【0010】
呼吸商は、RQと略称し、生物体が単位時間内に放出した二酸化炭素と吸収した酸素との体積比、または、モル比、すなわち、呼吸システムから放出した二酸化炭素と吸収した酸素との分子比である。糖分、脂肪、蛋白質が酸化する時、それぞれのCOの生成量とOの消費量が異なるので、三者それぞれの呼吸商も異なる。呼吸商は蛋白質呼吸商と非蛋白質呼吸商に分けられる。一定時間内の尿中窒素量を測定し、次いで、尿中窒素量から体内蛋白質の消費量を求め、蛋白質が分解する時のOの消費量とCOの生成量を求めることにより、蛋白質呼吸商を算出する。測定して得られたOの総消費量とCOの総生成量、すなわち、混合呼吸商から、蛋白質呼吸商を除いて、非蛋白質呼吸商、すなわち、糖と脂肪の呼吸商を算出できる。運動中、脂肪の消費量は糖分より多い。非蛋白質呼吸商が比較的小さい場合、運動者が実施した運動を有酸素運動と呼び、これは一種の健康的な運動である。酸化反応に使われる蛋白質の数量は、脂肪や糖分の量に比べて極めて少ないため、蛋白質呼吸商を省略しても良いので、測定して得られた混合呼吸商を、非蛋白質呼吸商と見なすことができる。すなわち、呼吸商の値が小さければ小さいほど、有酸素運動の程度が高く、実施した運動が健康的である。
【0011】
運動強度と呼吸商は、下記の式で算出する。運動者の酸素摂取量と二酸化炭素排出量の測定は、ドイツイエガー社製心肺機能測定装置を用いる。運動者の体重測定は、日本メトラー精密天秤を用いる。
【0012】
運動強度=酸素摂取量[ml/min]/(運動者の体重[Kg]*3.5[ml/Kg/min])
【0013】
呼吸商=酸素摂取量[ml/min]/二酸化炭素排出量[ml/min]
【0014】
本発明のソフトストレッチ上着を着用して安静状態での衣服圧が0.6kPa以下、肘と前腕との中間位置の衣服圧が0.6kPa以下、胸部の衣服圧が0.33kPa以下、背部の衣服圧が0.40kPa以下;運動状態での衣服圧が2.5kPa以下、肘と前腕との中間位置の衣服圧が1.25kPa以下、胸部の衣服圧が0.45kPa以下、背部の衣服圧が1.85kPa以下である。ここでいう衣服圧は、日本AMI社製接触圧測定装置を用いて測定する。直径が20mmのバッグを使用して胸部、背部、下膊(肘と前腕との中間位置)の3部位を同時に測定する。ここで言う安静状態は、直立して、両手が自然に垂れている状態である。ここで言う運動状態は、所定の時間内に、ある程度の運動を行う状態であり、例えば:手振り運動(体側、前面)、前屈、肘曲げ、チェストエクステンション、ゴルフスイング、壁腕立て、ランニング、自転車運動などである。
【0015】
本発明の弾性ヨコ編物は5〜15重量%の弾性糸とその他部分が非弾性糸で構成されており、且つ目付が140〜200g/mである。弾性糸の含有量が5%未満の場合、該弾性ヨコ編物は30〜80%の伸長範囲において、つっぱり指数>0.8、回復応力>1.3Nとなり、或いは該弾性ヨコ編物は30〜80%まで伸長できない。弾性糸の含有量が15%より高いの場合、該弾性ヨコ編物は弾性糸の含有量が高すぎ、30〜80%の伸長範囲において、つっぱり指数>0.8、回復応力>1.3Nとなる。つまり、弾性糸の含有量が少なすぎても多すぎても、着用時につっぱり感が大きすぎ、運動に不利である。
【0016】
本発明の弾性糸がポリウレタン繊維であり、非弾性糸が改質ポリエステル繊維及び/又はポリアミド繊維である。
【0017】
さらに非弾性糸はカチオン可染性ポリエステル繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のソフトストレッチ上着に使用する弾性ヨコ編物は、適度なつっぱり感を持ち、基本動作を行う時の人体運動によって生じた皮膚の伸長又は回復に追従する。自由に伸長又は回復できることで、衣服による圧迫に抵抗するため発生する余計なエネルギーを減少できる。さらに、本発明の上着は、運動時における皮膚の伸長又は回復に追従し、適切に伸長又は回復できることが本発明のメリットである。同類の製品に比べて、該ソフトストレッチ上着を着用して運動する場合、リラックスでき、体に良いとされる有酸素運動もできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
実施例1:
84dtex−72fのカチオン可染性ポリエステル糸88%と、33dtexのポリウレタン糸12%とからなり、目付175g/mの天竺編物を得た。該天竺編物を通常の条件で精練、染色、セットし、次に身体周囲径の100%に、この弾性編物を使用し、男性用Lサイズのソフトストレッチ上着を製作した。該ヨコ編物は、30〜80%の伸長範囲において、最大つっぱり指数が0.7、且つ最大回復応力が1.2Nであった。このソフトストレッチ上着を、身長173cm、体重72kg、毎月運動量120Mets・hrの男性被験者が着用し、着用テストを行った。運動条件は、30回/minのゴルフスイング運動を1分間実施した後、1分間休憩し、上記運動時間が合計5分間になるよう繰り返すものとした。ドイツイエガー社製心肺機能測定装置を用いて測定した運動状態での最大呼吸商が0.86であった。日本AMI社製接触圧測定装置を用いて下記の衣服圧を測定した。安静状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が0.57kPa、胸部の衣服圧が0.33kPa、背部の衣服圧が0.88kPa;運動状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が1.15kPa、胸部の衣服圧が0.27kPa、背部の衣服圧が0.88kPaであった。カチオン染料で染色した後の該弾性ヨコ編物は日本JIS基準により、染色牢度が4級以上であった。
【0021】
実施例2:
ポリアミド繊維を含む110dtex−51fの芯鞘複合変形糸90%と、33dtexのポリウレタン糸10%とからなり、目付180g/mの天竺編物を得た。該天竺編物を通常の条件で精練、染色、セットし、次に身体周囲径の100%に、この弾性編物を使用し、男性用Lサイズのソフトストレッチ上着を製作した。該ヨコ編物は、30〜80%の伸長範囲において、最大つっぱり指数が0.7、且つ最大回復応力が1.1Nであった。このソフトストレッチ上着を、身長173cm、体重75kg、毎月運動量86Mets・hrの男性被験者が着用し、着用テストを行った。運動条件は、8km/hrで20分間ランニングすることとした。ドイツイエガー社製心肺機能測定装置を用いて測定した運動状態での最大呼吸商が1.02であった。日本AMI社製接触圧測定装置を用いて下記の衣服圧を測定した。安静状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が0.60kPa、胸部の衣服圧が0.31kPa、背部の衣服圧が0.36kPaで;運動状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が1.25kPa、胸部の衣服圧が0.32kPa、背部の衣服圧が1.51kPaであった。カチオン染料で染色した後の該弾性ヨコ編物は日本JIS基準により、染色牢度が4級以上であった。
【0022】
実施例3:
ポリエステル繊維を芯糸とし、ポリアミド繊維を鞘糸とする140dtex−70fの芯鞘複合変形糸92%と、33dtexのポリウレタン糸8%とからなり、目付180g/mの天竺編物を得た。該天竺編物を通常の条件で精練、染色、セットし、次に身体周囲径の80%に、この弾性編物を使用し、男性用Lサイズのソフトストレッチ上着を製作した。該ヨコ編物は、30〜80%の伸長範囲において、最大つっぱり指数が0.8、且つ最大回復応力が1.3Nであった。この上着を身長168cm、体重60kg、毎月運動量460Mets・hrの女性被験者が着用し、着用テストを行った。運動条件は、運動1分間休憩1分間、運動2分間休憩1分間、運動3分間休憩1分間、運動4分間休憩1分間の形で20分間、30回/minの壁腕立てをすることとした。ドイツイエガー社製心肺機能測定装置を用いて測定した運動状態での最大呼吸商が1.02であった。日本AMI社製接触圧測定装置を用いて下記の衣服圧を測定した。安静状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が0.60kPa、胸部の衣服圧が0.33kPa、背部の衣服圧が0.39kPa;運動状態下で、肘と前腕との中間位置の最大衣服圧が1.13kPa、胸部の衣服圧が0.43kPa、背部の衣服圧が1.68kPaであった。カチオン染料で染色した後の該弾性ヨコ編物は日本JIS基準により、染色牢度が4級以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトストレッチ上着であって、該ソフトストレッチ上着が未着用かつフリー状態下で、身体周囲の70%以上は弾性ヨコ編物で構成され、該弾性ヨコ編物は、30%〜80%の伸長範囲において、つっぱり指数が0.8以下、回復応力が0.3〜1.3Nであることを特徴とするソフトストレッチ上着。
【請求項2】
前記ソフトストレッチ上着を着用して、運動強度が7Mets未満、運動時間が6時間未満、かつ運動量が25Mets・hr以下の運動を行う時の呼吸商は1.05以下であることを特徴とする請求項1記載のソフトストレッチ上着。
【請求項3】
前記ソフトストレッチ上着を着用して安静状態での衣服圧が0.6kPa以下、運動状態での衣服圧が2.5kPa以下であることを特徴とする請求項1記載のソフトストレッチ上着。
【請求項4】
安静状態下で、肘と前腕との中間位置の衣服圧が0.60kPa以下、胸部の衣服圧が0.33kPa以下、背部の衣服圧が0.40kPa以下であることを特徴とする請求項3記載のソフトストレッチ上着。
【請求項5】
運動状態下で、肘と前腕との中間位置の衣服圧が1.25kPa以下、胸部の衣服圧が0.45kPa以下、背部の衣服圧が1.85kPa以下であることを特徴とする請求項3記載のソフトストレッチ上着。
【請求項6】
前記弾性ヨコ編物は、5〜15重量%の弾性糸とその他の部分が非弾性糸で構成されており、かつ目付が140〜200g/mであることを特徴とする請求項1記載のソフトストレッチ上着。
【請求項7】
前記弾性糸がポリウレタン繊維であることを特徴とする請求項6記載のソフトストレッチ上着。
【請求項8】
前記非弾性糸が改質ポリエステル繊維及び/又はポリアミド繊維であることを特徴とする請求項6又は7記載のソフトストレッチ上着。
【請求項9】
前記非弾性糸がカチオン可染性ポリエステル繊維であることを特徴とする請求項8記載のソフトストレッチ上着。

【公表番号】特表2013−520576(P2013−520576A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553170(P2012−553170)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/CN2010/078433
【国際公開番号】WO2011/100881
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512081018)東レ繊維研究所(中国)有限公司 (3)
【出願人】(512217617)東レ(香港)有限公司 (1)
【Fターム(参考)】