説明

ソースモデリングにおけるマルチチャンネル測定信号を用いた方法およびデバイス

本発明は、測定された信号から計算された基底ベクトル成分を用いて、測定対象物の電流分布を解明する方法に関する。調査対象成分は、調査されている電流分布の特徴をできるだけ独立的に記述するように選択されている。これにより、演算が向上し、演算精度も上がる。これは、外部からの干渉と関連付けられた信号を完全に無くしつつ、これらの測定された信号を、電流分布の観点からより自然な形態に変換することにより達成される。この種の変換については、特許公開FI20030392に記載がある。変換後、実際の測定信号の代わりに信号空間の基底ベクトル成分を用いて、ソースモデリングを最適に行う。本発明の実質的な1つの特徴は、変換後、ソースモデルを正則化する必要がもはや無いことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソースモデリングにおける、マルチチャンネル測定信号を用いるための新規かつ高度な方法に関する。詳細には、本発明は、渦なしおよびソースレスベクトルフィールドを測定するマルチチャンネル測定デバイスを用いて測定された測定信号を、ソースモデリングの観点から見て最適な形態に変換する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調査対象物の電気的動作は、例えば、対象物の外部に配置されたセンサを用いて、対象物の電流によって生成される磁界を測定することにより、調査することができる。しかし、これらの測定された信号に基づいて得られたソース分布のモデリングは、各磁界分布が多数の異なるソース分布によって生成可能であるため、非常に困難である。換言すれば、これらの測定された信号に基づいてソース分布を明確に解明することができないため、この問題を解決するためには、異なる制限的条件(例えば、電流に関する事前情報に基づいたパラメトリックモデル、または非パラメータ化ノルム制限)を設定しなければならない。
【0003】
連続電流分布の非パラメータ化モデリング場合、最小ノルム推定値が通常用いられる。最小ノルム推定値では、マルチチャンネル測定デバイスを用いて、測定された信号をノルムができるだけ小さな電流分布により説明しようとする試みがある。ノルムとして、LIノルムまたはL2ノルムが通常選択され、そのうち、前者は、選択された体積の電流素子の長さの合計であり、後者は、選択された体積の電流素子の長さの二乗の合計である。最小ノルム推定値の計算については、例えば、以下のような文献に公開されている(「Interpreting magnetic fields of the brain:minimum norm estimates」、M.S.Hamalainenら、Medical&Biological Engineering&Computing、Vol.32、35〜42ページ、1994、および「Visualization of magnetoencephalographic data using minimum norm estimates、Uutela K.ら、NeuroImage、Vol.10、173〜180ページ、1999」)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の最小ノルム推定値の場合、計算の遅さおよびノイズの影響の受けやすさなどの固有の問題がある。例えば、L2ノルムの場合、行列Gの逆行列が必要となり、この逆行列の要素(i、j)は、i番目の測定センサおよびj番目の測定センサの切換フィールドの内積を含むため、各一対のセンサについてこれらの内積を計算する必要がある。切換フィールドは、センサによって測定された信号が調査対象センサの切換フィールドについての電流分布の予測となるように決定される。上記ノイズ問題が発生するのは、センサについて計算された行列Gがノイズによる影響を受け易いため、その逆行列の計算において、実際の状況における正則化が必要となるためである。
【0005】
特異値分解のブレークオフ正則化などの正則化方法は通常は非直観的なものであり、通常、各場合において具体的に解かれる。誤った種類を正則化すると、モデリング結果の誤差に繋がり得る。
【0006】
従って、今日のソースモデリングは、未だに問題(例えば、演算の柔軟性の無さおよび遅さ、ノイズによって生じる誤差の可能性、正則化に起因する状況の特異性)がある。さらに、上述したように、正則化は、最終演算結果における重大な誤差の原因となり得る。
【0007】
本発明の目的は、上述した欠陥を除去するか、または少なくとも軽減することである。本発明の1つの具体的な目的は、連続的電流分布のモデリングと関連付けられた演算処理を大幅に軽く、かつ高速化し、また、ノイズに関わる問題を軽減するために用いることが可能な新規の種類の方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴については、特許請求の範囲に記載の特徴を参照されたい。
【0009】
本発明は、測定された信号から計算された信号空間の基底ベクトル成分を用いて、調査されている対象物の連続的電流分布を決定する新規な種類の方法に関する。これらの調査対象成分は、調査されている電流分布の特徴を出来るだけ独立的に記述するように決定され、これにより、演算が向上し、演算精度も増す。
【0010】
本発明の基本的な考え方は、従来の一連のセンサを用いたセンサフィールドの内積の演算は柔軟性に欠け、また、困難であることから、切換フィールドが直交でありかつ(可能であれば)分析的に演算される特殊な一連のセンサを用いることには価値が有るということである。原則的には、これは、適切な物理的な一連のセンサによって実施することができる。しかし、適切な物理的な一連のセンサとしては、製造が極めて困難である場合が多く、ほとんどの場合においては、従来の一連のセンサから演算的に生成された仮想センサを用いる(すなわち、仮想測定デバイスが測定したであろう信号に対応するように、適切な変換によって測定信号を他の信号に変換する)と有利である。それと同時に、必要であれば、外部干渉と関連付けられた信号を除去することが可能である。この変換については、例えば特許出願FI20030392(本明細書中、同文書を参考のため援用する)に記載されている。変換後、実際の測定信号の代わりに信号空間の基底ベクトル成分を用いた最適な方法によりソースモデリングを実行する。本発明の1つの本質的な特徴は、変換後、ソースモデルをもはや正則化しなくてもよい点である。
【0011】
よって、本発明は、マルチチャンネル測定デバイスを用いて対象物近傍の磁界を測定することにより、対象物の電流分布を決定する方法に関する。有利なことに、少なくとも1つの測定センサが各チャンネルに対応し、対象物は、対称的な球形の導体によって概算される。対象物は、例えば人間の頭部でよい。
【0012】
本発明によれば、各測定センサに対応するマルチチャンネル測定信号は、所定の一連の仮想センサの信号に変換され、調査対象物の電流分布が、事前に選択された正規直交関数基底における一連の仮想センサの信号からの深さrにより決定される。この場合、電流分布の推定が、高速かつロバストになる。さらに、一連の仮想センサに対応する一連の信号を達成するために、マルチチャンネル測定信号から多極展開を計算する。多極展開は、測定されている対象物の外部の磁界を考慮する方法およびこれらの磁界を無視する方法の2つの方法により、計算することができる。
【0013】
有利なことに、正規直交関数基底として、以下の形態を有する基底が選択される。
【0014】
【数1】

ここで、f(r)は、自由選択される動径関数であり、
【数2】

は、いわゆるベクトル球面調和関数である。この場合、基底関数を電流分布方程式中に配置し、この方程式に基づいて電流分布の係数を分析的に解くことができる。
【0015】
【数3】

ここで、γは、次数1と関連付けられた定数であり、Rは、調査対象球形の半径である。有利なことに、関数f(r)は、電流分布モデルの深さ重み付けを調節するために用いられる。
【0016】
さらに、本発明は、対象物近傍の磁界を測定することによって電流分布を決定する測定デバイスに関する。この測定デバイスは、渦なしおよびソースレスベクトルフィールドを測定する一連の測定チャンネルを含み、これにより、少なくとも1つの測定センサが各チャンネルに対応し、また、測定信号を処理する処理手段も含む。有利なことに、対称的な球形の導体により、対象物を概算する。
【0017】
本発明によれば、上記処理手段は、各測定センサに対応するマルチチャンネル測定信号を所定の一連の仮想センサの信号に変換する変換モジュールと、調査対象物の電流分布を決定する、または、事前に選択された正規直交関数基底中の一連の仮想センサの信号から深さrによって計算を実行する計算手段とを含む。一実施形態において、上記計算手段は、マルチチャンネル測定信号から多極展開を計算するように構成される。
【0018】
本発明は、連続的電流分布のモデリングと関連付けられた計算処理の大幅な計算負荷の軽減および高速化とを可能にする。本発明はさらに、ノイズに関連する問題を低減することもできる。さらに、本発明は、ソースモデルの正則化を簡略化し、あるいは、その必要性を排除し、これにより、やはり誤差の可能性を大幅に低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明について例示を交えながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明による1つの測定デバイスを示す。この測定デバイスは、渦なしおよびソースレスベクトルフィールドを測定する一連の測定チャンネル1、1、...1と、測定信号を処理する処理手段3とを含む。この場合、少なくとも1つの測定センサ2、2、...2は、各チャンネルに対応する。有利なことに、処理手段は、コンピュータを用いて実行されている。さらに、この処理手段は、各測定センサに対応するマルチチャンネル測定信号を所定の一連の仮想センサの信号に変換する変換モジュール4と、調査対象物の電流分布を決定する計算手段5とを含む。
【0021】
さらに、図1は、測定対象物Kを示し、この対象物Kの近傍に、測定センサ2、2、...2が配置される。この測定対象物の内部には、測定されている磁界源を記述するカレントループが設けられている。測定対象物は、例えば人間の頭部でよく、複数の電流源があり得る。
【0022】
図2は、本発明の1つの好適な実施形態の主要な工程を示す。最初に、一連のセンサを用いてマルチチャンネル測定信号を測定する(工程21)。その後、この信号を、いわゆる一連の仮想センサを用いて測定された信号に対応するように変換し(工程22)、これにより、数学演算を簡単にする。最後に、一連の仮想センサの信号から対象物中の電流分布を簡単に計算することが可能になる(工程23)。すなわち、実際は、球形または頭部の内部のカレントループの場所および強度を記述することが可能となる。
【0023】
以下において、本発明の数学的背景および根拠について説明する。磁界をラプラス方程式の基底解
【数4】

と関連付けられた係数
【数5】

に変換すると(ここで、iは虚数単位である)、これらの係数は、球座標
【数6】

中の電流分布
【数7】

を用いて表現することができ、これにより、以下の形態を持つ。
【0024】
【数8】

ここで、調査対象の体積について積分を行い、γは、次数1と関連付けられた定数であり、
【数9】

は、いわゆるベクトル球面調和関数である。
【0025】
この形態は、例えば以下の文献から明らかである(「Multipole expansions of electromagnetics using Debye potentials」、C.G.Gray、American Journal of Physics、Vol.46、169〜179ページ、1978)。上述した式は、切換フィールドの形態であり、ここで、多極係数Mlmの切換フィールドは、以下の形態をとる。
【0026】
【数10】

【0027】
一方、ベクトル球面調和関数は、深さrによって正規直交基底を形成し、よって、対象の深さにより、対象基底関数において電流分布を表すことが可能となる。
【0028】
【数11】

ここで、f(r)は、ある種の動径関数である。
【0029】
上記表現を方程式(1)に導入することにより調査対象体積として球形体積が選択されると、電流分布の係数を分析的に解くことができる。
【0030】
【数12】

ここで、
【数13】

は、次数1と関連付けられた定数であり、Rは、調査対象球形の半径である。上記方程式(4)は、正規直交基底中にて示された電流分布モデルの係数が、あらゆる種類の正則化を行うこと無く、分析的式を用いて完璧に自明な様式で、係数Mlmに基づいて解くことができることを示している。これは、演算的に非常に高速であり、また数的に安定である。関数f(r)は、自由に選択でき、電流分布モデルの深さ重み付けを調節するために用いることができる。
【0031】
さらに、球形導体の場合、基底関数として、他のいくつかの直交基底あるいは内積が別のやり方で高速計算可能な基底を用いることも可能である点に留意されたい。これは、例えば、それ自体が公知である方法によって直交性をわずかに破壊するか、または、直交ではないが内積が事前に計算可能な基底を用いることによって、達成される。
【0032】
本発明は、上記にて示した実施形態の例のみに限定されず、特許請求の範囲によって規定された本発明の範囲内において、多くの改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による1つの測定デバイスを示す。
【図2】本発明による1つの方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦なしおよびソースレスベクトルフィールドを測定するマルチチャンネル測定デバイスを用いて対象物近傍の磁界を測定することによって、前記対象物の電流分布を決定する方法であって、
1つの測定センサが各チャンネルに対応し、
各測定センサに対応するマルチチャンネル測定信号を、所定の一連の仮想センサの信号に変換する工程と、
前記一連の仮想センサの信号から測定対象物の電流分布を、効率的に計算されるべき所定の基底関数において決定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記対象物は、球面調和関数導体を用いて概算され、前記フィールドの多極展開は、前記マルチチャンネル測定信号から計算されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多極展開は、前記対象物の外部の前記磁界を考慮することにより、計算されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記多極展開は、前記対象物の外部の前記磁界を無視することにより、計算されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記外部干渉は、前記変換の前に、いくつかの他の公知の干渉除去方法を用いて除去されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
正規直交関数基底として、以下の形態の電流分布方程式が選択され、
【数1】

ここで、f(r)は、自由選択可能な動径関数であり、
【数2】

は、いわゆるベクトル球面調和関数であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
正規直交関数基底は、電流分布方程式内に配置され、
前記電流分布の係数は、以下の方程式から分析的に解かれ、
【数3】

ここで、γは、次数1と関連付けられた定数であり、Rは、前記調査対象球形の半径であり、
【数4】

は、いわゆる球面調和関数であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
関数f(r)を用いて、前記電流分布モデルの深さ重み付けを調節することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
対象物近傍の磁界を測定することによって前記対象物の電流分布を決定するための測定デバイスであって、
渦なしおよびソースレスベクトルフィールドを測定する一連の測定チャンネル(1、1、1、...1)であって、この場合において、少なくとも1つの測定センサ2、2、2、...2が各チャンネルに対応する測定チャンネルと、
前記測定信号を処理する処理手段(3)であって、前記処理手段(3)において、対称的な球形の導体を用いて前記対象物が概算される手段と、を含み、
前記処理手段は、
各測定センサに対応するマルチチャンネル測定信号を所定の一連の仮想センサの信号に変換する変換モジュール(4)と、
前記一連の仮想センサから得られる対象物の電流分布を、所定の正規直交関数基底中の深さrを用いて決定する計算手段(5)と、
を含むことを特徴とする測定デバイス。
【請求項10】
前記計算手段(5)は、前記マルチチャンネル測定信号からの多極展開を計算するように構成されることを特徴とする請求項9に記載の測定デバイス。
【請求項11】
前記多極展開は、前記測定されている対象物の外部の前記磁界を考慮に入れることにより、計算されることを特徴とする請求項10に記載の測定デバイス。
【請求項12】
前記多極展開は、前記測定されている対象物の外部の前記磁界を無視することにより、計算されることを特徴とする請求項10に記載の測定デバイス。
【請求項13】
前記正規直交関数基底として、以下の形態の電流分布方程式が選択され、
【数5】

ここで、f(r)は、自由選択可能な動径関数であることを特徴とする請求項10に記載の測定デバイス。
【請求項14】
前記正規直交関数基底は、前記電流分布方程式内に配置され、
前記電流分布の係数は、以下の方程式から分析的に解かれ、
【数6】

ここで、γは、次数1と関連付けられた定数であり、Rは、前記調査対象球形の半径であることを特徴とする請求項12に記載の測定デバイス。
【請求項15】
関数f(r)を用いて、電流分布モデルの深さ重み付けを調節することを特徴とする請求項13に記載の測定デバイス。
【請求項16】
前記測定デバイスは、前記信号の保存の前に、前記信号を一連の仮想センサに変換し、前記分析ソフトウェアは、前記保存されたデータを電流分布に変換する請求項9に記載の測定デバイスおよび分析ソフトウェア。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−506497(P2007−506497A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527433(P2006−527433)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/FI2004/000532
【国際公開番号】WO2005/030051
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(505005500)エレクタ アクチボラゲット(パブル) (8)
【Fターム(参考)】