説明

タイミングベルト駆動機構

【課題】 タイミングベルトのプーリ間の回転軸間の距離がプーリの回転方向にベルトのテンションに応じて短くなるよう平行板バネで所定のベルト伝動の負荷を調整することで、ベルトの緩みや歯飛びを生じさせる。
【解決手段】
本発明は、互いに平行な回転軸を有する2つのプーリ間でトルクを伝達するタイミングベルト駆動機構であって、前記プーリの軸間距離がタイミングベルトの張力を受けて変化する方向に変形可能な平行板バネを備え、前記平行板バネの片側端部をプーリの回転軸に沿った方向でタイミングベルトの位置に一致させ、他側端部をプーリの回転軸を支持する基体部材に固定させたことを特徴とするタイミングベルト駆動機構に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミングベルトのプーリ間の回転軸間の距離がプーリの回転方向にベルトのテンションに応じて短くなるよう平行板バネで所定のベルト伝動の負荷を調整することで、ベルトの緩みや歯飛びを生じさせるタイミングベルトの駆動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットのアーム機構等に適用されるタイミングベルトとプーリで構成されたトルク伝動機構において、許容される所定のベルトに懸かる負荷を越えた際に、タイミングベルトとプーリ間で歯飛び、または、それに至るまでのベルトの位置変動を生じさせる機構を実現することで駆動機構自体を保護する小型の機構が求められている。
【0003】
上記した機構を実現するため、従来、タイミングベルトに懸かる負荷を調整する技術として、バネ等による所定の弾性を有するアイドラによってタイミングベルトを付勢してテンション(張力)を調整する方法が考えられる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
一般的なアイドラによるテンション調整機構を図5において説明する。図5−(1)は、プーリa10、プーリb10’間に懸けられたタイミングベルト20を付勢する弾性支持されたアイドラ30が、ベルト片側に配置された場合を示し、図5−(2)は、アイドラ30がベルト両側に対称に配置された場合を示している。
【0005】
しかしながら、アイドラ30を片側に設けた場合、図のような反時計回りの回転トルクが働いたときに、タイミングベルト20のA部分でベルト張力が増大し、それに引きずられてアイドラ30が位置ズレを生じ、片やタイミングベルト20のB部分でアイドラ30の位置ズレ分、ベルト張力に緩みが発生する。逆に、時計回りの回転トルクでは、B部分のベルト張力が増大し、A部分でのベルト張力の緩みが小さく、アイドラ30の位置ズレはほとんどない状態となる。このように、アイドラ30が一つの場合、タイミングベルト20の回転方向に依存して、ベルトの歯飛に至るまでの特性に差を生じ、伝達機構の保護能力に差を生じるという問題がある。
【0006】
これを改善するため、アイドラ30を2個対称位置に対抗させて配置させる方法が有効であるが、機構が複雑になると同時に、対称性を確保するための調整が困難、などの問題を抱える。さらに、タイミングベルトの経路にプーリ以外の機構が必要とされるためプーリ間の軸間距離を短くすることが困難であり、駆動用モータ等アクチュエータ自体も固定する必要があり、当該機構を配置するためのスペース効率が悪くなるなど、小型化には不向きである。
【0007】
また、タイミングベルトの張力を均一にする簡便な方法として、図6に示すように、コイルバネ70でモータ50と支持部材(基体90)は一体となってフレームと相対移動し、駆動プーリ50と係合する駆動ベルト(タイミングベルト60)へテンションを付与する方法が提案されている。コイルバネ70によってフレーム全体に外力が加えられ、ベルト張力を吸収する構成としている(例えば、特許文献3)。つまり、プーリに単軸の力を懸けて左右回転のベルトのテンション特性を均一にする方法である。
【0008】
しかしながら、これをコイルバネ70で実現しようとすると、プーリの倒れモーメントを拘束していないため、図6の例のように、モータ等とともにプーリの回転軸が揺れて安定な動作できない。また、モータを固定すると、バネのテンション調整効果が消失してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平10−94986号公報
【特許文献2】特開平08−152050号公報
【特許文献3】特開2001−334715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記してきた問題を解決するため、本発明では、図6に適用されているコイルバネに代わって、平行板バネを用い、プーリの回転軸間をバネで伸縮可能にする機能とプーリを回転させるアクチュエータ(モータ)を空中にフローティングさせた状態で安定に支持可能とすることによって、軽量で小型のベルトテンション調整機能および機構保護機能を有するタイミングベルト駆動機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明は、互いに平行な回転軸を有する2つのプーリ間でトルクを伝達するタイミングベルト駆動機構であって、前記プーリの軸間距離がタイミングベルトの張力を受けて変動する方向に変形可能な平行板バネを備え、前記平行板バネの片側端部をプーリの回転軸に沿った方向でタイミングベルトの位置に一致させ、他側端部をプーリの回転軸を支持する基体部材に固定させたことを特徴とするタイミングベルト駆動機構に関する。
【0011】
すなわち、第一の発明によれば、プーリの軸間距離が変動する方向に変形可能な平行板バネの一方の端部をプーリの回転基体となるモータ等に接合し、平行板バネの他の端部をベルトのテンションが懸かる位置に設置する構成とすることによって、プーリの回転軸を倒すようなモーメントは、バネ固定箇所に発生する姿勢維持モーメントと均衡して常に軸の方向でモータの姿勢を保つことが可能となる。
【0012】
つまり、プーリの軸間をバネで伸縮可能にする機能とプーリを回転させるアクチュエータを空中にフローティングで安定支持可能にした板バネ構造とすることで、軽量で小型のベルトテンション調整機能が実現できる。
【0013】
第二の発明は、前記平行板バネは、前記2つのプーリの軸間を通る面に対して互いに対称となる位置に2セット配置されたことを特徴とする上記第一の発明に記載のタイミングベルト駆動機構に関する。
【0014】
すなわち、第二の発明によれば、平行板バネをプーリを挟んで対称位置に設け、プーリ周りのトルクによるネジリ剛性を高めることができ、タイミングベルト駆動機構全体のより安定した姿勢制御が実現される。
【0015】
第三の発明は、前記タイミングベルトの位置にある前記平行板バネの片側端部とプーリとの軸間距離の調整を可能とする締結部を備えたことを特徴とする上記第一または第二の発明に記載のタイミングベルト駆動機構に関する。
【0016】
すなわち、第三の発明によれば、平行板バネのバネ固定箇所とプーリとの距離をボルトなどで調整可能な構成とすることによってタイミングベルトの張力の調整が容易に実現できる。
【0017】
第四の発明は、前記平行板バネは、前記タイミングベルトの張力を表面歪として検出する歪みゲージを該表面に備えたことを特徴とする上記第一乃至第三の発明のいずれかに記載のタイミングベルト駆動機構に関する。
【0018】
すなわち、第四の発明によれば、板バネの変形や歪はベルトのテンション負荷によるものであり、摩擦等の擦れ箇所もないため、板バネの表面歪を歪ゲージで計測することで精度の高いベルトの張力を計測することが可能となる。
【0019】
第五の発明は、前記歪ゲージによって表面歪として検出されたタイミングベルトの張力に応じてモータの駆動力をコントロールすることを特徴とする上記第四の発明に記載のタイミングベルト駆動機構に関する。
【0020】
すなわち、第五の発明によれば、歪ゲージによる計測結果に応じて、タイミングベルトの張力が上がり、例えば、張力の所定値を超えた場合に、モータのサーボをオフする等の機能を有する駆動系が構築できる。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明によって以下の効果が生まれる。
【0022】
駆動プーリに対しモータを接続し、プーリの回転基体となるモータにプーリの軸間距離が変化する方向に変形可能な平行板バネを接合し、平行板バネの他端をベルトの張力が懸かる位置に設置する構成によって、プーリの回転軸を倒すようなモーメントは、バネ固定箇所に発生する姿勢維持モーメントと均衡し、常に軸の方向でモータの姿勢を保つことが可能となる。
【0023】
また、本機構の平行板バネのバネ固定箇所とプーリとの距離をボルトなどで調整可能にすることで、タイミングベルトの張力調整が容易に実現でき、必要以上のトルクが、プーリに懸かった際には、プーリの軸間がバネの変形により短くなり、結果としてベルトの歯とび現象により、プーリに接合した機構を保護することや、伝達トルクをカットして伝達先に接触する人に対して安全な範囲での発生力環境を提供することができる。
【0024】
さらに、板バネの表面歪を歪ゲージで計測することで精度の高いベルトの張力を計測することが可能となり、計測結果に応じてベルトの張力が上がった際にモータのサーボをオフする等の機能を有する駆動系を構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面にもとづいて本発明の実施形態を説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態になるタイミングベルト駆動機構の基本構成を示す。左右の回転方向に依存しないベルト張力(テンション)の調整方法としては、対となるプーリの中心を結ぶ線上でプーリに力をかける方法が最も簡単で単軸の力で可能となるが、これをコイルバネで実現しようとすると、プーリの倒れモーメントを拘束していないため、図6の例のようにモータ等とともにプーリの回転軸が揺れて安定な動作できないか、モータを固定することでバネの張力調整効果が消失してしまう。
【0027】
そこで、本発明では、プーリの軸間をバネで伸縮可能にする機能とプーリを回転させるアクチュエータ(モータ)を空中にフローティングで安定支持可能にした板バネ構造とすることで、軽量で小型のベルトテンション調整機能および機構保護機能を実現する。
【0028】
駆動用のプーリ2に対し、モータ1を接続し、プーリ2の回転基体となる、例えば、モータ1にプーリ2の軸間距離が変化する方向に変形可能な平行板バネ4を、図のように、バネ固定箇所A6において片側端部を接合し、平行板バネ4の他端部をタイミングベルト3のテンションが懸かるバネ固定箇所B5の位置に設置する。このように平行板バネ4を幾何的に拘束することにより、バネ固定箇所Aとバネ固定箇所Bにおける平行板バネ4の変形特性は互いに姿勢を変えずに並進運動となる。
【0029】
なお、図中、Xはタイミングベルトの張力、Yはタイミングベルトの張力の調整外力として加わるバネ力、およびZはバネ固定箇所Aに発生する姿勢維持モーメントを表している。
【0030】
上記のバネ配置によって、プーリ2の回転軸を倒すようなモーメントは、バネ固定箇所Aに発生する姿勢維持モーメントZと均衡し、常に軸の方向でモータ1の姿勢を保つことが可能となる。
【0031】
また、本駆動機構の平行板バネ4の片側端部(バネ固定箇所B)をボルト7で支持部材8に取り付けることによって、バネ固定箇所Bとプーリ2との距離が調整可能となり、タイミングベルト3のテンション調整が容易に実現できる。
【0032】
さらに、必要以上のトルクが2つのプーリに懸かった際には、2つのプーリの軸間が、平行板バネ4が変形することで短くなり、結果として、ベルトの歯とび現象を生じさせることにより、プーリに接合した機構を保護することや、伝達トルクをカットして伝達先に接触する人に対して安全な環境を提供することができる。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態になるタイミングベルト駆動機構における平行板バネの取り付け例を示す。本実施例では、プーリ周囲のトルクに対するネジリ剛性を高めるために、平行板バネ4をプーリ2を挟んで互いに対称となる位置に2セット配置した場合の構成例を示している。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態になる歪みゲージによるベルト張力検出の構成例を示す。実施例では、(a)は単体の平行板バネへの取り付け例で、平行板バネ4の対峙する表面に、歪ゲージ9a、9bが貼り付けられた例を示しており、(b)は、プーリを挟んで対称位置に配置された2セットの平行板バネに、歪ゲージ9a、9b、および9a’、9b’が貼り付けられた場合を示している。この歪ゲージで、ホイートストンブリッジ回路を構成することによって高い精度の歪が計測される。
【0035】
平行板バネ4の変形や歪は,タイミングベルト3のテンション負荷によるものであり、摩擦等による擦れ箇所もないため、平行板バネ3の表面歪を歪ゲージで計測することによって、精度の高いタイミングベルトの張力を計測することが可能である。その計測結果に応じて、タイミングベルト3の張力が上がり、予め設定された所定値を超えた場合に、モータ1のサーボをオフする等の機能を有する駆動系を構築することが可能となる。
【0036】
なお、平行板バネ4に取り付けられた歪ゲージによる測定値とタイミングベルト3の張力との対応は実験的に求められ、歯飛びを起こさせるベルト張力の負荷限界として設定値は当該実験値をもとに予め設定されるものである。
【0037】
図4は、本発明の実施の形態になる平行板バネの表面歪検出によるタイミングベルト駆動制御の処理フローを示す。まず、ステップS11において、プーリ2を駆動するモータの制御を行い、ステップS12において、歪ゲージの出力信号からベルトテンションが、歯飛びを起こす過負荷の状態にあるか否かを判断する。
【0038】
その結果、ベルトテンションが、所定値(歪値との対応で予め設定される設定値)以下であればステップS11に戻って、モータの回転が制御される。所定値以上となった場合には、ステップS13において、一旦モータ回転を停止させ、ステップS14で、ベルトテンションの設定値を変更する回復処理を行う。そして、ステップS15において、変更をかけた回復処理による続行が可能か否かを判断し、可能であれば、ステップS11に移行し、モータ回転の制御処理を行う。続行が不能であれば、ステップS16において、回復処理を停止する。以上、歪ゲージによる検出結果から、ベルトテンションに応じてモータを制御し、タイミングベルトに過負荷が懸かった時に、モータのサーボを切ることによって駆動機構を保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態になるタイミングベルト駆動機構の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態になるタイミングベルト駆動機構における平行板バネの取り付け例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態になる歪みゲージによるベルト張力検出の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態になる平行板バネの表面歪検出によるタイミングベルト駆動制御の処理フローを示す図である。
【図5】従来のタイミングベルトの駆動機構例1を示す図である。
【図6】従来のタイミングベルトの駆動機構例2を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ
2、2’ プーリa(駆動用)、プーリb
3 タイミングベルト
4 平行板バネ
5 バネ固定部B
6 バネ固定部A
7 ボルト
8 支持部材
9a、9b、9a’、9b’ 歪ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な回転軸を有する2つのプーリ間でトルクを伝達するタイミングベルト駆動機構であって、
前記プーリの軸間距離がタイミングベルトの張力を受けて変動する方向に変形可能な平行板バネを備え、
前記平行板バネの片側端部をプーリの回転軸に沿った方向でタイミングベルトの位置に一致させ、他側端部をプーリの回転軸を支持する基体部材に固定させたことを特徴とするタイミングベルト駆動機構。
【請求項2】
前記平行板バネは、前記2つのプーリの軸間を通る面に対して互いに対称となる位置に2セット配置されたことを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト駆動機構。
【請求項3】
前記タイミングベルトの位置にある前記平行板バネの片側端部とプーリとの軸間距離の調整を可能とする締結部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイミングベルト駆動機構。
【請求項4】
前記平行板バネは、前記タイミングベルトの張力を表面歪として検出する歪みゲージを該表面に備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のタイミングベルト駆動機構。
【請求項5】
前記歪ゲージによって表面歪として検出されたタイミングベルトの張力に応じてモータの駆動力をコントロールすることを特徴とする請求項4に記載のタイミングベルト駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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