説明

タイヤ用ゴム組成物、その製造方法及び空気入りタイヤ

【課題】 低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、その製造方法、及び該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 ゴム成分と、シリカと、テトラスルフィド系カップリング剤を含む2種以上のシランカップリング剤とを含有するタイヤ用ゴム組成物であって、前記テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りして得られるタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、その製造方法、及び該タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤの低燃費性を向上させるために、ゴム組成物中の補強剤を減量する方法、シリカとシランカップリング剤とを配合する方法、硫黄などの架橋剤を増量する方法が用いられてきた。しかし、ゴム組成物中の補強剤を減量する方法では、充分な補強性が得られず、ゴム強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。また、シリカとシランカップリング剤を配合する方法や、硫黄などの架橋剤を増量する方法も、ポリマー間の架橋密度が高くなり過ぎてゴム強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0003】
他に、天然ゴムの配合比率を高める方法でも低燃費性を向上できるが、リバージョンが起こり易くなり、その結果、ゴム強度が低下する場合がある。このように、低燃費性とタイヤの耐久性との両立は困難であり、両性能をバランス良く改善する方法が望まれている。
【0004】
特許文献1には、2種以上のシランカップリング剤を用いてシリカを良好に分散させ、低燃費性、ゴム強度などを改善する方法が提案されているが、その改善効果は充分ではなかった。また、特許文献2には、シリカとの反応性の高いメルカプト基を有するシランカップリング剤を用いて低燃費性などを改善する方法が提案されている。しかし、この方法を用いた場合、スコーチタイムを大幅に短縮してしまい、加工性が悪化する場合があるという点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−181160号公報
【特許文献2】特開2009−126907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、その製造方法、及び該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分と、シリカと、テトラスルフィド系カップリング剤を含む2種以上のシランカップリング剤とを含有するタイヤ用ゴム組成物であって、前記テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りして得られるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0008】
前記ゴム組成物において、前記ゴム成分100質量部に対して、前記シリカの含有量が10〜150質量部、前記テトラスルフィド系カップリング剤の含有量が1〜12質量部であることが好ましい。
【0009】
また、前記ゴム成分100質量部に対して、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物及び下記式(2)で表される化合物の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を0.3〜6質量部含有することが好ましい。
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、2〜4の整数を示す。nは0〜10の整数を示す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、pは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
−S−S−(CH−S−S−R (3)
(式中、qは2〜10の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0010】
前記式(2)で表される化合物の水和物が1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、前記式(3)で表される化合物が1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンであることが好ましい。
【0011】
前記ゴム成分100質量%中、下記式(4)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が10質量%以上であることが好ましい。
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基、メルカプト基又はこれらの誘導体を表す。R及びR10は、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基を表す。mは整数を表す。)
【0012】
本発明はまた、前記ゴム成分、前記シリカ、及び前記テトラスルフィド系カップリング剤以外のシランカップリング剤を混練りする工程(I)と、該工程(I)で得られた混練り物、及び前記テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りする工程(II)とを含む前記タイヤ用ゴム組成物の製造方法に関する。
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゴム成分と、シリカと、テトラスルフィド系カップリング剤を含む2種以上のシランカップリング剤とを含有し、上記テトラスルフィド系カップリング剤を特定範囲内の最高到達温度で混練りして得られるゴム組成物であるので、該ゴム組成物をタイヤに使用することにより、低燃費性、ゴム強度及び耐摩耗性がバランス良く優れた空気入りタイヤを提供できる。また、未加硫ゴム組成物は加工性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、シリカと、テトラスルフィド系カップリング剤を含む2種以上のシランカップリング剤とを含有するもので、かつ該テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度(混練りを終了する温度)が95〜135℃の条件で混練りして得られるものである。上記テトラスルフィド系カップリング剤を他の成分とともに上記のような低温で混練りすることで、シリカの周りに未反応のテトラスルフィド系カップリング剤を存在させることができ、加硫時にシリカ近傍に効率良く硫黄を供給することができる。その結果、ポリマー全体の架橋密度を大きく変化させることなく、シリカ近傍の架橋密度を選択的に向上させ、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性を改善できる。また、未反応のテトラスルフィド系カップリング剤を未加硫ゴム組成物中に存在させることで、スコーチタイムの短縮を抑制する効果が期待できる。これらの作用により、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性をバランス良く改善できる。
【0015】
本発明のゴム組成物は、例えば、ゴム成分、シリカ、及びテトラスルフィド系カップリング剤以外のシランカップリング剤(2種以上のシランカップリング剤のうち、テトラスルフィド系カップリング剤以外のもの)を混練りする工程(I)と、該工程(I)で得られた混練り物、及びテトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りする工程(II)とを含む製造方法により好適に得られる。
【0016】
(工程(I))
工程(I)では、2種以上のシランカップリング剤のうちのテトラスルフィド系カップリング剤以外のシランカップリング剤をゴム成分及びシリカとともに混練りする。混練り方法としては特に限定されず、バンバリーミキサーなどの公知の方法を使用できる。また、工程(I)の混練り温度、混練り時間としては特に限定されず、例えば、140〜180℃の範囲で2〜10分(好ましくは150〜170℃で2〜6分)程度混練りすればよい。
【0017】
工程(I)で使用されるゴム成分は、下記式(4)で表される化合物で変性されたスチレンブダジエンゴム(変性SBR)及び/又はブタジエンゴム(変性BR)を含むことが好ましい。これにより、シリカを良好に分散させ、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性をバランス良く改善できる。なかでも、低燃費性に有利であるという点から、変性SBRが好ましい。
【化3】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基、メルカプト基又はこれらの誘導体を表す。R及びR10は、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基を表す。mは整数を表す。)
【0018】
上記式(4)で表される化合物において、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。
【0019】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。
【0020】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などの炭素数1〜8のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4)などが挙げられる。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基などの炭素数5〜8のシクロアルコキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6〜8のアリールオキシ基など)も含まれる。
【0021】
上記シリルオキシ基としては、例えば、炭素数1〜20の脂肪族基、芳香族基が置換したシリルオキシ基(トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、ジエチルイソプロピルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、t−ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリベンジルシリルオキシ基、トリフェニルシリルオキシ基、トリ−p−キシリルシリルオキシ基など)などが挙げられる。
【0022】
上記アセタール基としては、例えば、−C(RR’)−OR”、−O−C(RR’)−OR”で表される基を挙げることができる。前者としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、イソプロポキシメチル基、t−ブトキシメチル基、ネオペンチルオキシメチル基などが挙げられ、後者としては、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、i−プロポキシメトキシ基、n−ブトキシメトキシ基、t−ブトキシメトキシ基、n−ペンチルオキシメトキシ基、n−ヘキシルオキシメトキシ基、シクロペンチルオキシメトキシ基、シクロヘキシルオキシメトキシ基などを挙げることができる。
【0023】
、R及びRとしては、アルコキシ基が好ましく、エトキシ基がより好ましい。これにより、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性を高次元でバランス良く改善できる。
【0024】
上記式(4)で表される化合物において、R及びR10は、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基を表す。
【0025】
及びR10のアルキル基としては、例えば、上記アルキル基と同様の基を挙げることができる。
【0026】
及びR10としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜3、より好ましくは炭素数1〜2)が好ましく、エチル基がより好ましい。これにより、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性を高次元でバランス良く改善できる。
【0027】
m(整数)としては、2〜5が好ましい。これにより、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性を高次元でバランス良く改善できる。更には、mは2〜4がより好ましく、3が最も好ましい。mが1以下であると変性反応が阻害される場合があり、mが6以上であると変性剤としての効果が薄れる。
【0028】
上記式(4)で表される化合物の具体例としては、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルブトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジブトキシシラン、ジメチルアミノメチルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、4−ジメチルアミノブチルトリメトキシシラン、ジメチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、2−ジメチルアミノエチルジメトキシメチルシラン、3−ジメチルアミノプロピルジメトキシメチルシラン、4−ジメチルアミノブチルジメトキシメチルシラン、ジメチルアミノメチルトリエトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、4−ジメチルアミノブチルトリエトキシシラン、ジメチルアミノメチルジエトキシメチルシラン、2−ジメチルアミノエチルジエトキシメチルシラン、3−ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、4−ジメチルアミノブチルジエトキシメチルシラン、ジエチルアミノメチルトリメトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、4−ジエチルアミノブチルトリメトキシシラン、ジエチルアミノメチルジメトキシメチルシラン、2−ジエチルアミノエチルジメトキシメチルシラン、3−ジエチルアミノプロピルジメトキシメチルシラン、4−ジエチルアミノブチルジメトキシメチルシラン、ジエチルアミノメチルトリエトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、4−ジエチルアミノブチルトリエトキシシラン、ジエチルアミノメチルジエトキシメチルシラン、2−ジエチルアミノエチルジエトキシメチルシラン、3−ジエチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、4−ジエチルアミノブチルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、低燃費性の改善効果が高いという点から、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0029】
上記式(4)で表される化合物(変性剤)によるスチレンブダジエンゴム(SBR)及びブタジエンゴム(BR)の変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報、特表2003−514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を用いることができる。例えば、SBR又はBRと変性剤とを接触させればよく、SBR又はBRを重合し、該重合体ゴム溶液中に変性剤を所定量添加する方法、SBR又はBR溶液中に変性剤を添加して反応させる方法などが挙げられる。
【0030】
変性されるSBR及びBRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。例えば、SBRとしては、溶液重合SBR、乳化重合SBR等が挙げられ、BRとしては、高シス含有量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等が挙げられる。
【0031】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の変性SBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。10質量%未満であると、充分なシリカ分散を確保できず、低燃費性が悪化する場合がある。該変性SBRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、加工性が大幅に悪化してしまうおそれがある。
【0032】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の変性BRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。10質量%未満であると、充分なシリカ分散を確保できず、低燃費性が悪化する場合がある。該変性BRの含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、加工性が大幅に悪化してしまうおそれがある。
【0033】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の変性SBR及び変性BRの合計含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。10質量%未満であると、充分なシリカ分散を得ることが出来ず、低燃費性の改善効果が低くなる傾向がある。該合計含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。90質量%を超えると、混練り中にムーニー粘度が急激に上昇してしまい、混練り加工性が悪化する傾向がある。
【0034】
工程(I)では、変性SBR及び/又は変性BRとともに他のゴム成分を配合することが好ましい。これにより、加工性や耐摩耗性等を改善できる。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、非変性SBR、非変性BRなどを使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、良好なゴム強度、耐摩耗性が得られるという点から、NR、改質天然ゴムが好ましく、NRがより好ましい。NRとしては、脱タンパク質天然ゴム、高純度天然ゴム(HPNR)等を好適に使用できる。また、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等を好適に使用できる。
【0035】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、NRによるゴム強度、耐摩耗性の改善効果が充分に得られないおそれがある。該NRの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。60質量%を超えると、他のゴム成分の割合が少なくなり、低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランス良く得られないおそれがある。
【0036】
工程(I)で使用されるシリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは80m/g以上である。50m/g未満であると、補強効果が小さく、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、シリカのNSAは、好ましくは300m/g以下、より好ましくは250m/g以下である。300m/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、ヒステリシスロスが増大し、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される。
【0038】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは60質量部以上である。10質量部未満であると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。該シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。
【0039】
工程(I)では、使用される2種以上のシランカップリング剤のうち、テトラスルフィド系カップリング剤以外のものが混練りされる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィドなどのジスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系などが好適である。なかでも、良好な低燃費性が得られるという点から、メルカプト系シランカップリング剤が好ましい。
【0040】
また、メルカプト系シランカップリング剤としては、下記式(5)で示される結合単位aと下記式(6)で示される結合単位bとの合計量に対して、結合単位bを1〜70モル%の割合で共重合したものを好適に使用できる。
【化4】

【化5】

(式中、z、wはそれぞれ1以上の整数である。R11は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基若しくはアルケニレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基若しくはアルキニレン基、又は該アルキル基若しくは該アルケニル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R12は水素、分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基若しくはアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基若しくはアルケニル基、又は分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基若しくはアルキニル基を示す。R11とR12とで環構造を形成してもよい。)
【0041】
上記構造のシランカップリング剤は、結合単位aと結合単位bのモル比が上記条件を満たすため、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位aのスルフィド部分がC−S−C結合で熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0042】
また、結合単位aと結合単位bのモル比が前記条件を満たす場合、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチタイムの短縮が抑制される。これは、結合単位bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位aの−C15部分が結合単位bの−SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくくなるためである。これにより、スコーチタイムが短くなりにくく、また、粘度が上昇しにくい。
【0043】
11のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などが挙げられる。
【0044】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0045】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数1〜30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0046】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0047】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1−プロペニレン基、2−プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、1−ペンテニレン基、2−ペンテニレン基、1−ヘキセニレン基、2−ヘキセニレン基、1−オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0048】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0049】
11、R12の分岐若しくは非分岐の炭素数2〜30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜12である。
【0050】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位aの繰り返し数(z)と結合単位bの繰り返し数(w)の合計の繰り返し数(z+w)は、3〜300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位bのメルカプトシランを、結合単位aの−C15が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0051】
上記構造のシランカップリング剤の市販品としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のNXT−Z30、NXT−Z45、NXT−Z60等を使用することができる。
【0052】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、工程(I)で使用されるシランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上である。4質量部未満であると、シリカとシランカップリング剤との反応が不充分となり、低燃費性、ゴム強度及び耐摩耗性が充分に改善されないおそれがある。該シランカップリング剤の含有量は、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。12質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られないおそれがある。
【0053】
工程(I)では、補強剤として、カーボンブラックを配合することが好ましい。これにより、良好なゴム強度、耐摩耗性が得られる。使用できるカーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは80m/g以上、より好ましくは100m/g以上である。80m/g未満であると、充分なウェットグリップ性能が得られず、また、ゴム強度、耐摩耗性が低下する傾向がある。カーボンブラックのNSAは、好ましくは280m/g以下、より好ましくは250m/g以下である。280m/gを超えると、加工性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって測定される。
【0055】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部未満では、ゴム強度、耐摩耗性が低下する傾向がある。該カーボンブラックの含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。50質量部を超えると、加工性が悪化する傾向がある。また、ヒステリシスロスが増大し、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0056】
(工程(II))
工程(II)では、例えば、工程(I)で得られた混練り物にテトラスルフィド系カップリング剤を投入し、最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りされる。
【0057】
テトラスルフィド系カップリング剤としては、テトラスルフィド結合を有するカップリング剤であれば特に限定されず、一般的なものを使用できる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、ビス(3−トリエトキシシリル)テトラスルフィドを好適に使用できる。
【0058】
工程(II)の最高到達温度は、95℃以上、好ましくは100℃以上である。95℃未満であると、テトラスルフィド系カップリング剤を充分に分散させることができず、ゴム強度、耐摩耗性の改善効果が低くなるおそれがある。該最高到達温度は、135℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。135℃を超えると、テトラスルフィド系カップリング剤の一部が分解してしまい、加硫時に硫黄を供給できなくなるおそれがある。
【0059】
工程(II)の混練り方法としては特に限定されず、工程(I)と同様の方法を使用できる。また、工程(II)の混練り時間は、上記最高到達温度を超えない範囲で適宜調整すればよく、例えば、1〜8分(好ましくは2〜5分)程度であればよい。
【0060】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、工程(II)で使用されるテトラスルフィド系カップリング剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上である。1質量部未満であると、硫黄を充分に供給することができず、ゴム強度、耐摩耗性の改善効果が低くなるおそれがある。該含有量は、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。12質量部を超えると、コストの増加に見合った効果が得られないおそれがある。
【0061】
工程(II)を行った後、公知の方法により、該工程(II)で得られた混練り物、架橋剤、加硫促進剤などを混練りし、その後加硫することにより、本発明のゴム組成物を得ることができる。
【0062】
本発明のゴム組成物は、架橋剤として、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物及び下記式(2)で表される化合物の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、良好な架橋構造を形成し、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性をバランス良く改善できる。また、下記式(2)で表される化合物及びその水和物は、熱安定性の高い−S−(CH−S−結合をゴム組成物に保有させることができ、ゴム強度、耐摩耗性をより改善できる。同様に、下記式(3)で表される化合物も、熱安定性が高い−C−C−結合をゴム組成物に保有させることができ、また、−C−C−結合は、−S−S−結合に比べて柔軟性が低いため、弾性率を高くして、ゴム強度、耐摩耗性をより改善できる。
【化6】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、2〜4の整数を示す。nは0〜10の整数を示す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、pは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
−S−S−(CH−S−S−R (3)
(式中、qは2〜10の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0063】
式(1)中、nは、式(1)で表される化合物(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)のゴム成分中への分散性が良い点から、0〜10の整数であり、1〜9の整数が好ましい。x及びyは、高硬度が効率良く発現できる(リバージョン抑制)点から、2〜4の整数であり、ともに2が好ましい。R〜Rは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、炭素数5〜12のアルキル基であり、炭素数6〜9のアルキル基が好ましい。
【0064】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、公知の方法で調製することができ、特に制限されないが、例えば、アルキルフェノールと塩化硫黄とを、モル比1:0.9〜1.25などで反応させる方法などが挙げられる。
【0065】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記式(7))などが挙げられる。
【0066】
【化7】

(式中、nは0〜10の整数を表す。)
【0067】
なお、上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の硫黄含有率は、燃焼炉で800〜1000℃に加熱し、SOガス又はSOガスに変換後、ガス発生量から光学的に定量し、求めた割合をいう。
【0068】
式(2)中、pは3〜10、好ましくは3〜6の整数である。3未満では、ゴム強度、耐摩耗性を充分に改善できないおそれがあり、10を超えると、分子量が増大するわりにゴム強度、耐摩耗性の改善効果が小さい傾向がある。
【0069】
式(2)中、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムがより好ましい。また、式(2)で表される化合物の水和物としては、例えば、ナトリウム塩一水和物、ナトリウム塩二水和物などがあげられる。
【0070】
式(2)で表される化合物及びその水和物としては、経済的理由から、チオ硫酸ナトリウム由来の誘導体、例えば、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物が好ましい。
【0071】
式(3)中、qは2〜10、好ましくは4〜8の整数である。qが1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、11以上では、−S−S−(CH−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0072】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−(CH−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0073】
式(3)中、R及びRとしては、チッ素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から同一であることが好ましい。
【0074】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0075】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、上記式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0076】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、上記式(2)で表される化合物及びその水和物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0077】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、上記式(3)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
なお、式(1)、(2)及びその水和物、(3)の含有量について、下限未満であると、充分な改善効果が得られないおそれがあり、上限を超えると、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性のバランスが悪くなるおそれがある。
【0078】
本発明のゴム組成物は、架橋剤として、硫黄を用いることが好ましい。上記式(1)〜(3)又は式(2)の水和物と硫黄とを併用することで、異なる架橋形態をゴム組成物に保持させることができ、それぞれを単独で用いた場合と比較して、性能の改善効果を相乗的に高めることができる。
【0079】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。0.5質量部未満では、充分な改善効果が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは3.5質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。3.5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、ゴム強度、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0080】
上記製造方法などにより得られる本発明のゴム組成物において、上記式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物と、上記式(2)で表される化合物の水和物と、硫黄との合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.8質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。0.8質量部未満では、充分な改善効果が得られないおそれがある。また、該合計含有量は、好ましくは9.5質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下である。9.5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、ゴム強度、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0081】
本発明のゴム組成物には、上記の材料以外にも、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤などのタイヤ工業において一般的に用いられている各種材料が適宜配合されていてもよい。
【0082】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド、サイドウォール、クリンチエイペックスなどに好適に用いることができる。
【0083】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧して製造することができる。
【実施例】
【0084】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0085】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
n−ヘキサン:関東化学(株)製
スチレン:関東化学(株)製
1,3−ブタジエン:高千穂化学(株)製
テトラヒドロフラン:関東化学(株)製
1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液:関東化学(株)製
3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン:アヅマックス(株)製
メタノール:関東化学(株)製
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
2,6−tert−ブチル−p−クレゾール:関東化学(株)製
【0086】
下記製造例により得られた重合体の分析は以下の方法で行った。
【0087】
(重量平均分子量の測定)
重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製GPC−8000シリーズの装置を用い、検知器として示差屈折計を用い、分子量は標準ポリスチレンにより校正した。
【0088】
(重合体の構造同定)
重合体の構造同定は、日本電子(株)製JNM−ECAシリーズの装置を用いて測定した。測定結果から、重合体のスチレン含量、ビニル含量を求めた。
【0089】
製造例1(重合体1の合成)
充分に窒素置換した耐熱容器にn−ヘキサン1500ml、スチレン42g、1,3−ブタジエン92g、テトラヒドロフラン3gを加え、さらに1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.7mlを加えて、50℃で4時間撹拌した。その後、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン0.3gを添加し30分間撹拌した。重合体溶液にメタノール1gを加えて反応を止め、反応溶液にオイル27g、2,6−tert−ブチル−p−クレゾール1gを添加後、50℃で24時間減圧乾燥し、重合体1を得た。得られた重合体1の重量平均分子量Mwは230000、スチレン含量は32質量%、ビニル含量は42質量%であった。
【0090】
製造例2(重合体2の合成)
充分に窒素置換した耐熱容器にn−ヘキサン1500ml、1,3−ブタジエン134g、テトラヒドロフラン3gを加え、さらに1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.7mlを加えて、50℃で4時間撹拌した。その後、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン0.3gを添加し30分間撹拌した。重合体溶液にメタノール1gを加えて反応を止め、反応溶液にオイル27g、2,6−tert−ブチル−p−クレゾール1gを添加後、50℃で24時間減圧乾燥し、重合体2を得た。
【0091】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
SBR1:旭化成(株)製のアサプレンE15(分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)したS−SBR、スチレン含量:23質量%、ビニル含量:63質量%)
SBR2:上記製造例1で合成した重合体1(上記式(4)で表される化合物により変性したS−SBR、スチレン含量:32質量%、ビニル含量:42質量%)
BR:上記製造例2で合成した重合体2(上記式(4)で表される化合物により変性したBR)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(NSA:111m/g)
シリカ:デグッサ社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤1:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
シランカップリング剤2:デグッサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
シランカップリング剤3:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のNXT−Z45(結合単位aと結合単位bとの共重合体(結合単位a:55モル%、結合単位b:45モル%))
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200
HTS:フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)
KA9188:ランクセス社製の1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0092】
実施例1〜30及び比較例1〜18
表1〜6に示す配合処方に従い、バンバリーミキサーを用いて、工程(I)に示す薬品を150℃で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、バンバリーミキサーを用いて、工程(II)に示す薬品を添加し、所定の最高到達温度になるまで混練りした。更に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に工程(III)に示す薬品を添加し、95℃で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴムシートを得た。
なお、比較例1、6、7、12、13、18は、工程(II)を行わなかった。
【0093】
上記未加硫ゴム組成物及び上記加硫ゴムシートを用いて以下の評価を行った。結果を表1〜6に示す。なお、表1及び2における基準比較例を比較例1とし、表3及び4における基準比較例を比較例7とし、表5及び6における基準比較例を比較例13とした。
【0094】
(低発熱性指数)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて、周波数10Hz、初期歪み10%および動歪2%の条件下で、70℃における上記加硫ゴムシートの損失正接tanδを測定した。そして、基準比較例の低発熱性指数を100とし、下記計算式により、各配合のtanδを指数表示した。指数が大きいほど、発熱しにくく、低燃費性に優れることを示す。
(低発熱性指数)=(基準比較例のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0095】
(ゴム強度指数)
JIS K6251に準じて上記加硫ゴムシートの引張試験を行い、破断伸びを測定した。測定結果は、基準比較例を100とし、下位計算式により指数表示した。指数が大きい程、ゴム強度が高く、耐久性に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合の破断伸び)/(基準比較例の破断伸び)×100
【0096】
(耐摩耗性指数)
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率20%の条件で、上記加硫ゴムシートの摩耗試験を行なった。測定結果は、基準比較例を100とし、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(基準比較例の摩耗量)/(各配合の摩耗量)×100
【0097】
(混練り加工性指数)
JIS K6300に準じて、130℃で上記未加硫組成物のムーニー粘度を測定した。測定結果は、基準比較例を100とし、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、ムーニー粘度が低く、加工が容易である(加工性に優れる)ことを示す。
(混練り加工性指数)=(基準比較例のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0098】
(押出し加工性指数)
JIS K6300に準じて、130℃で上記未加硫組成物のスコーチタイムを測定した。測定結果は、基準比較例を100とし、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど、スコーチタイムが長く、加工が容易である(加工性に優れる)ことを示す。
(押出し加工性指数)=(各配合のスコーチタイム)/(基準比較例のスコーチタイム)×100
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
【表5】

【0104】
【表6】

【0105】
表1〜6より、シリカ及び2種以上のシランカップリング剤を含有し、かつSi69(テトラスルフィド系カップリング剤)を低温で混練りして得られる実施例は、低燃費性、ゴム強度、耐摩耗性及び加工性がバランス良く改善された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、シリカと、テトラスルフィド系カップリング剤を含む2種以上のシランカップリング剤とを含有するタイヤ用ゴム組成物であって、
前記テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りして得られるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記シリカの含有量が10〜150質量部、前記テトラスルフィド系カップリング剤の含有量が1〜12質量部である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対して、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される化合物及び下記式(2)で表される化合物の水和物からなる群より選択される少なくとも1種を0.3〜6質量部含有する請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を示す。x及びyは、同一若しくは異なって、2〜4の整数を示す。nは0〜10の整数を示す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、pは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
−S−S−(CH−S−S−R (3)
(式中、qは2〜10の整数を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【請求項4】
前記式(2)で表される化合物の水和物が1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、前記式(3)で表される化合物が1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンである請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量%中、下記式(4)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムの合計含有量が10質量%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基、メルカプト基又はこれらの誘導体を表す。R及びR10は、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基を表す。mは整数を表す。)
【請求項6】
前記ゴム成分、前記シリカ、及び前記テトラスルフィド系カップリング剤以外のシランカップリング剤を混練りする工程(I)と、該工程(I)で得られた混練り物、及び前記テトラスルフィド系カップリング剤を最高到達温度が95〜135℃の条件で混練りする工程(II)とを含む請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−25802(P2012−25802A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163199(P2010−163199)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】