タイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法
【課題】任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から前記任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定し、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができるタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法を提供する。
【解決手段】例えば、複数組の設定アンバランスベクトルのそれぞれに対応して上下の荷重センサ7a,7bから出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値に基づいて、稼働運転モードの際に、上下の荷重センサ7a,7bのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する上下の荷重センサ7a,7bについてのそれぞれ2種類の係数を推定するものとする。
【解決手段】例えば、複数組の設定アンバランスベクトルのそれぞれに対応して上下の荷重センサ7a,7bから出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値に基づいて、稼働運転モードの際に、上下の荷重センサ7a,7bのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する上下の荷重センサ7a,7bについてのそれぞれ2種類の係数を推定するものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックバランサ本体に回転自在に支持された回転軸に設けられた上部リムと下部リムの間に被測定タイヤを装着して前記回転軸を回転させ、被測定タイヤのダイナミックバランスを測定するタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のダイナミックバランサにおいては、タイヤの上修正面および下修正面のそれぞれのアンバランス量とアンバランス位置とを測定するために、稼働運転に先立って、回転軸の回転時にその回転軸を支持するダイナミックバランサ本体から作用する力を検出する上下の荷重センサ(ロードセル)からの出力を測定し、これらロードセルの測定値より、前記アンバランス量とアンバランス位置とを算出するのに必要な係数を求めるため、テスト用分銅を用いた校正テストが実施される。
校正テストとしては、タイヤを用いない校正方法(例えば、特許文献1参照。)と、タイヤを用いる校正方法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−174658号公報
【0004】
従来、タイヤを用いる校正方法では、稼働運転時に使用するタイヤと同じ仕様のテスト用タイヤを校正モードにおいてダイナミックバランサの回転軸に設けた上部リムと下部リムの間に装着し、回転軸を支持するダイナミックバランサ本体が、テスト用タイヤに発生する遠心力によって受ける荷重を測定することによって下記に述べるようにして、回転系の上初期アンバランスベクトルZUと下初期アンバランスベクトルZLと、テスト用タイヤが持つ上下アンバランスベクトルTUとTLを求めるようにされている。
【0005】
上部リムと下部リムの間に稼働運転時に使用するタイヤと同仕様のテスト用タイヤを装着し、原点に対してタイヤを90°,180°,270°,0°の順に4回ずらしてそれぞれ回転軸を回転させ、回転系の持つ初期アンバランスベクトルとタイヤの持つアンバランスベクトルが合成された値P´90,P´180,P´270,P´0を上側、下側のロードセルについてそれぞれ検出し、それぞれを4回の測定結果を加算して4で割ることによって上初期アンバランスベクトルZUと下初期アンバランスベクトルZLを求める。
【0006】
但し、テスト用タイヤを装着して測定した上下のロードセル出力によって測定されるベクトルP´U,P´Lには、零ベクトル取得で求めた上下初期アンバランスベクトルZU、ZLとテスト用タイヤの持つ上下アンバランスベクトルTU、TLが含まれている。
【0007】
テスト用タイヤの持つ上下アンバランスベクトルTU,TLとしては、零ベクトル取得時において、0°における下側のロードセル出力の測定結果P´L0および下初期アンバランスベクトルZLからPL0を、上側のロードセル出力の測定結果P´U0および上初期アンバランスベクトルZUからPU0を求め、TL=PL0、TU=PU0として使用する。
【0008】
すなわち、次に述べるように、上部リムと下部リムの間にテスト用タイヤを装着し、更に上部リムと下部リムのいずれか片方に分銅を取り付けてテストするとき、テスト用タイヤの装着位置は0°で維持する。
【0009】
回転系の持つ初期アンバランスベクトルZL,ZUおよびタイヤを使用しての校正時のタイヤの持つアンバランスによる検出ベクトルTLおよびTUを差し引いた結果、取り付けた分銅による検出ベクトルPLおよびPUのみが残る。すなわち、
PL=P´L−ZL−TL
PU=P´U−ZU−TU
となる。
【0010】
測定原理として、上下のロードセルに加わる不釣り合い力PU、PLを検出することによるタイヤのアンバランス量UU、ULは、以下の式にて求められる。
UL=γ1PL+γ2PU
UU=δ1PL+δ2PU
【0011】
上部リムに質量WUの分銅を位置ベクトルrUの位置に取り付けて回転させた場合における、上側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPUU、下側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPULとし、下部リムに質量WLの分銅を位置ベクトルrLの位置に取り付けて回転させた場合における、上側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPLU、下側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPLLとしたとき、以下の式から係数γ1,γ2,δ1,δ2が求められる。
γ1=PUU×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU)
γ2=−PUL×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU)
δ1=−PLU×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU)
δ2=PLL×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU)
【0012】
しかしながら、従来のタイヤを用いた校正方法において、所定の質量の分銅を上部リムおよび下部リムの所定の位置に取り付けて測定する手法のものでは、以下のような問題点がある。
【0013】
上下アンバランス量によって回転するタイヤはアンバランス量が存在すると、図3(c)中記号D,E矢印の方向に遠心力が作用するので、
図4においてタイヤ2の回転軸8(シャフト)は上側のロードセル7aと下側のロードセル7bの着力点間の中心付近を中心にして紙面を垂直に貫く方向に、上側のロードセル7aと下側のロードセル7bとが逆位相の関係をもって変位運動を繰り返す。つまり、上側のロードセル7aが紙面の表側に向けて変位したときは下側のロードセル7bは紙面の裏側に向けて変位している。
下側のロードセル7bの着力点から遠心力の作用点までの距離をa、上側のロードセル7aの着力点までの距離をb1とし、遠心力Fによってタイヤ2の回転軸8がα度だけ傾斜したとすると、上側のロードセル7aに作用する力はF・(b1/a)・cosαの関係にあり遠心力Fの大きさに応じて比例関係に変化しない。下側のロードセル7bに作用する力についても同様である。
【0014】
また、回転するタイヤ2に発生する遠心力Fの大きさに応じて回転軸8は傾斜するが、傾斜の大きさに応じてタイヤ2を装着した回転軸8にはタイヤ2の荷重によって曲げが生じる。そして、傾斜の大きさに応じて曲げ量は変化する。この遠心力Fの大きさに応じた曲げ量の変化はロードセル7a,7bよって測定する力に誤差を与える。すなわち、遠心力F、上下のアンバランス量、上下のロードセル7a,7bの出力、上下のロードセル7a,7b間の着力点の距離および上下のロードセル7a,7bの着力点とタイヤ2の上下の修正面との距離を含むモーメントの釣り合い式が成立しなくなる。
【0015】
さらに、回転軸8を支承するダイナミックバランサ本体3を支持する引っ張り吊り棒はスプリング特性を持ったバー(トーションバー4a,4b,6a,6b:図1参照)であり、その弾性力が遠心力Fによって生じる回転軸8の傾きに対して非線形に力を作用させてしまう。
また、タイヤ2が回転軸8に装着されると、回転軸8に曲げ歪みが生じる。そして、リム12,29を回転軸8の回転中心に対して完全に同心円に装着することができないので、タイヤ2やリム12,29の外周上の各点によって回転中心からの距離が異なる。すると、校正モードにおいてリム12,29の外周上に既知の質量のものを既知の角度に装着して回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定して求めたアンバランスベクトルを、装着した既知のアンバランスベクトルへ変換するように係数を求めても、この係数は、同じ質量のものを同じ位置に装着した場合にのみ有効になり、被測定タイヤのアンバランスベクトルが不明な場合に、従来のように一意に求めた係数を使用して上下のロードセル7a,7bの出力から被測定タイヤのアンバランスベクトルを精確に算出することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から前記任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定し、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができるタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、第1発明によるタイヤ用ダイナミックバランサは、
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられ、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出する係数算出手段を備えたタイヤ用ダイナミックバランサであって、
前記係数算出手段は、前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするものである。
【0018】
第1発明において、
被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを算出するアンバランスベクトル算出手段が設けられ、
前記アンバランスベクトル算出手段は、校正モード時に前記係数算出手段によって算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算するのが好ましい(第2発明)。
【0019】
次に、第3発明によるタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法は、
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられてなるタイヤ用ダイナミックバランサにおいて、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出するタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法であって、
前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするものである。
【0020】
第3発明において、
校正モード時に算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算するのが好ましい(第4発明)。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、校正モードが選択されている際に、上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって回転軸が回転される。
このとき、上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルが求められ、当該アンバランスベクトルと上記の設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数が上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出される。
また、錘の質量の大きさおよび/または錘の取り付け位置を変更することで設定される上記の3つの状態を超える複数種類の状態に対応する上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に回転軸が回転される。
そして、各設定アンバランスベクトルに対応して上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数が推定される。
したがって、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定することができる。また、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るタイヤ用ダイナミックバランサの斜視図
【図2】本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサの縦断面図
【図3】ダイナミックアンバランスの定義説明図
【図4】ダイナミックアンバランスの測定原理説明図
【図5】タイヤ用ダイナミックバランサの概略システム構成を説明するブロック図(a)およびロードセルのサンプリング波形図(b)
【図6】ダイナミックアンバランスの測定処理プログラムを説明するフローチャート
【図7】ロードセルによる検出アンバランスベクトルと回転系の持つ初期アンバランスベクトルとの合成ベクトルの説明図
【図8】上部リムに質量WUの分銅を位置ベクトルrUの位置に取り付けた状態図(a)および下部リムに質量WLの分銅を位置ベクトルrLの位置に取り付けた状態図(b)
【図9】スタティックアンバランス演算の説明図
【図10】カップルアンバランス演算の説明図
【図11】位置補正の説明図
【図12】上下アンバランスベクトル、アンバランス角、合成アンバランス量およびアンバランス角の関係を説明する図
【図13】被測定タイヤの合成アンバランスベクトルの質量、角度を表すP点とそのP点に最も近いアンバランスベクトルの質量、角度を持つ基準点A,B,C,Dの関係を表す図
【図14】上下ロードセル出力によるアンバランスベクトルの推定方法の説明図
【図15】上下アンバランスと上下アンバランスの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下ロードセル出力によるアンバランスベクトルの関係を表す図
【図16】リムの上辺と下辺におけるアンバランス質量の大きさと位置を表す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明によるタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係るタイヤ用ダイナミックバランサの斜視図が示されている。また、図2には、本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサの中央縦断面図が示されている。
【0025】
本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサ(以下、単に「ダイナミックバランサ」という。)1は、片持ち式の二面不釣り合い試験機であり、図1に示されるように、当該ダイナミックバランサ1にタイヤ2を装着して回転させ、この装着したタイヤ2の上面側のアンバランスと下面側のアンバランスとを測定することができる装置である。
また、この測定により得られたタイヤ2の上面側および下面側のアンバランス、つまり重心の偏心に基づく偏心力を求めることができる。
そして、この偏心力に基づいて、必要に応じてタイヤ2の補正等をすることができ、これによってタイヤ2のダイナミックバランスを許容範囲内に収めることができる。
なお、タイヤ2の偏心力とは、タイヤ2の上面側の重心の偏心および下面側の重心の偏心に基づく各遠心力とその遠心力の方向(タイヤの回転位置)とから決定される力をいう。この偏心力が求められると、タイヤ2の上面側の重心の偏心および下面側の重心の偏心に基づく各遠心力と、各重心がタイヤ2の所定の基準位置から各重心位置までの角度を求めることができる。
【0026】
このダイナミックバランサ1は、地面に対して垂直に取り付けられている。つまり、このダイナミックバランサ1の本体部分を構成する直方体形状のダイナミックバランサ本体3は、互いに平行な2本のトーションバー4a,4bを介して架台5に吊り下げられるとともに、これら2本のトーションバー4a,4bを通る平面に平行で、かつそれら2本のトーションバー4a,4bに直交する方向に配置された4本のトーションバー6a,6b;6a,6bを介して架台5に結合されている。
これによって、ダイナミックバランサ本体3は、地面に対して垂直方向に配置された2本のトーションバー4a,4bと地面に対して平行な4本のトーションバー6a,6b;6a,6bに対して直交する方向(図1中記号A矢印方向)にのみ移動可能に設けられている。
【0027】
ダイナミックバランサ本体3の側面の上部と下部の各位置には、合計2台の荷重センサ(ロードセル)7a,7bが設けられ、各ロードセル7a,7bは、架台5と結合されている。これによって、これらロードセル7a,7bは、ダイナミックバランサ本体3に作用する図1中記号A矢印方向の力を検出することができる。
【0028】
ダイナミックバランサ本体3の下面から回転軸8が下方に突出されており、この回転軸8には、ロータリエンコーダ9、プーリ10およびロータリジョイント11がそれぞれ設けられている。
ロータリエンコーダ9は、回転軸8の回転位置を測定するものであり、回転軸8の回転位置を測定することにより、この回転軸8と結合されている下部リム12(図2参照)の回転位置を測定することができる。
プーリ10は、例えばタイミングベルト13等の駆動ベルトを介して別のプーリ14と接続されており、このプーリ14は、サーボモータ15の回転軸に装着されている。つまり、回転軸8は、サーボモータ15によって回転駆動される構成である。
なお、タイミングベルト13の張力が4本のトーションバー6a,6b;6a,6bの引張方向に働くようにサーボモータ15が配置されているので、ロードセル7a,7bにはタイミングベルト13の張力が働かないようになっている。
ロータリジョイント11については後述する。
【0029】
次に、ダイナミックバランサ1の内部構造について、主に図2を参照して説明する。
ダイナミックバランサ本体3には、中央に上下方向の貫通孔21が穿設されており、この貫通孔21の上側開口縁と下側開口縁には、それぞれ軸受22a,22bが装着されている。これら2つの軸受22a,22bの内側には、円筒状の回転軸8が嵌合されており、この回転軸8は、軸受22a,22bを介して回動自在にダイナミックバランサ本体3に支持されている。
この回転軸8の下端の開口には、ロータリジョイント11が装着されており、このロータリジョイント11には、エアホース23を介して2つの電磁弁24,25が直列に接続されている。
2つの電磁弁24,25のうち、空気流れの上流側に配置される電磁弁25には、高圧(約5kgf/cm2)の圧力タンク(図示省略)と低圧(約5kgf/cm2)の圧力タンク(図示省略)が連結されており、この電磁弁25は、空気流れの下流側に配置される電磁弁24に高圧の圧力タンクまたは低圧のお圧力タンクを連通させる切換弁として機能する。
電磁弁24は、高圧または低圧の圧力タンクから供給される圧力流体(本例では圧力空気)を回転軸8側に供給する供給位置と、回転軸8側の圧力空気を大気に放出する排気位置とに切り換える切換弁として機能する。
なお、高圧の圧力空気は、このダイナミックバランサ1を校正するときに使用し、低圧の圧力空気は、このダイナミックバランサ1によりタイヤ2のダイナミックバランスを測定するときに使用する。
【0030】
回転軸8の上面には、円筒状のシリンダ本体26を介して下部リム12が設けられており、このシリンダ本体26と回転軸8が下部リム軸を構成している。
【0031】
シリンダ本体26内には、ピストン(上部リム軸)27が挿入されており、このピストン27の下部の外周には、複数の係合溝28,28,・・・が設けられている。これら複数の係合溝28は、ピストン27の外周に沿って環状に刻設されており、ピンスト27の軸方向に沿って互いに隣接して配置されている。
このピストン27の上端面には、上部リム29が設けられている。
また、ピストン27には、そのピストン27の下面に開口する開口部30とピストン3の上部の外周面に開口する開口部31,31とを連通する連通孔32が穿設されている。
開口部31,31には、ワンタッチ式の弁装置33,33が設けられている。この弁装置33は、例えば先端の突出部を指で押すことにより、開口部31を開放したり、閉塞したりすることができる構造のものである。ここでは、弁装置33としてワンタッチで開口部31を開閉することができる構造のものを採用したが、弁体を回転させることにより開口部31を開閉する形式のものを採用してもよい。
【0032】
上部リム29および下部リム12は、いずれも円環状の板状体であり、双方の外周部の互いに向き合う各面には、直径の異なる3つの段部34が形成されている。これら3つの各段部34は、タイヤ2を上下のリム29,12の間に装着する際に、タイヤ2の内縁を係合させるためのものである。つまり、これら直径の異なる3組の段部34を設けることにより、これら各組の段部34の直径と対応する3種類の内径のタイヤ2をこの上下のリム29,12の間に装着することができる。
【0033】
シリンダ本体26の外周には、互いに対向配置される一対の結合部35,35が装着されている。これら一対の結合部35,35は、同一のものであり、溝カム36と、溝カム36に嵌合するカムフォロア37と、カムフォロア37に連結されるストッパ38とにより構成されている。
ストッパ38は、先端が係合溝28に沿う円弧状に形成してある板状体であり、シリンダ本体26の周壁に穿設された矩形の挿通孔に挿通されている。
そして、これら2つの溝カム36をシリンダの筒方向(図2の上下方向)に沿って摺動させたときに、ストッパ38の先端部が係合溝28から外れた状態の非係合位置(図示省略)と、ストッパ38の先端部が係合溝28に係合した状態の係合位置(図2に示される状態)とにストッパ38を移動させることができるようになっている。
なお、溝カム36を上下方向に駆動する駆動部は図示されていないが、例えばエアシリンダを利用することができる。
【0034】
このダイナミックバランサ1においては、種々の質量の分銅39を上部リム29の所定位置に装着することができるとともに、種々の質量の分銅40を下部リム12の所定位置に装着することができるようになっている。これにより、校正モードにおいて、異なる質量の分銅39,40を上下のリム29,12の所定の位置に取り付けて後述する係数を求めることができる。
また、下部リム12を手で回して下部リム12の予め定めた基準位置を上部リム29の予め定めた基準位置に一致させ、この状態でストッパ38を係合溝28に係合させて、電磁弁24を切り換えて支持軸8の内孔41及びシリンダ本体26内に校正用の高圧の圧力空気を供給することができる。シリンダ本体26内の圧力空気は、ピストン27を図2の上方に押し上げ、これによってストッパ38の下面と係合溝28の上面とが圧接し、その結果、シリンダ本体26とピストン27とをストッパ38を介して強固に結合させることができる。
【0035】
次に、ダイナミックバランサ1の計測原理・校正手順について説明する。
【0036】
<ダイナミックアンバランスの定義説明>
図3(a)に示されるように、タイヤ2にアンバランスモーメントが図中記号B矢印方向に発生した場合、車に与える振動となる。
図3(b)に示されるように、タイヤ2の中心から半径方向に同じ距離Rに同じアンバランス量が上面と下面にある場合、スタティックバランスは零となる。
図3(b)の状態で、同図(c)のようにタイヤ2を回転させた場合、図中記号C矢印方向にモーメントが発生する。このモーメントをカップルアンバランスという。
ダイナミックバランスとは、スタティックアンバランスとカップルアンバランスとを含むものである。
【0037】
<測定原理の説明>
図4に示されるように、タイヤ2全体が持つアンバランスを下修正面(Z1)および上修正面(Z2)での2つのアンバランスとして代表して表す。
【0038】
ここで、図4中で使用される記号を以下のように定義する。
UL:下修正面での半径rの位置にあるアンバランス量(下アンバランス量)。
θL:ULのアンバランス角度(下アンバランス角度)。
UU:上修正面での半径rの位置にあるアンバランス量(上アンバランス量)。
θU:UUのアンバランス角度(上アンバランス角度)。
PL:ULが回転することにより、下側のロードセルで検出される出力。
PU:UUが回転することにより、上側のロードセルで検出される出力。
Z1:下側のロードセルの着力点とタイヤの下修正面との距離
Z2:下側のロードセルの着力点とタイヤの上修正面との距離
L:上側のロードセルの着力点と下側のロードセルの着力点との距離
なお、図4(b)中における分銅取り付け位置について、回転軸8の回転中心O点を定め、回転中心Oを原点とし、ロードセル7a,7bによる荷重検出位置を基準として定めたX−Y座標上でX軸と所定の角度θLとθUをなし、O点を通る直線上でO点からrの距離にある下部リム12、上部リム29上に分銅取り付け位置を定める。
【0039】
回転角速度ωで回転しているとすると、上下のロードセル7a,7bに加わる力には、下記(1)(2)式のような関係がある。
PL+PU=rω2(UL+UU) ・・・(1)
LPU=rω2(Z1UL+Z2UU) ・・・(2)
軸受22a,22b(図2参照)が殆ど振動せず不釣り合いの力がそのまま基礎に伝わるとすると、上記(1)(2)式より、下記(3)(4)式が成り立つ。
PL=α1UL+α2UU ・・・(3)
PU=β1UL+β2UU ・・・(4)
ここで、
α1=rω2(1−Z1/L)
α2=rω2(1−Z2/L)
β1=rω2Z1/L
β2=rω2Z2/L
よって、ロードセル7a,7bに加わる不釣り合い力PU,PLを検出することにより、アンバランス量UL,UUを求めることができる。上記(3)(4)式より、UU,ULは、下記(5)(6)式で表される。
UL=γ1PL+γ2PU ・・・(5)
UU=δ1PL+δ2PU ・・・(6)
ここで、
γ1=Z2/rω2(Z2−Z1)
γ2=−(L−Z2)/rω2(Z2−Z1)
δ1=−Z1/rω2(Z2−Z1)
δ2=(L−Z1)/rω2(Z2−Z1)
【0040】
<計装部の説明>
ところで、アンバランス量およびアンバランス角を求めるためには、ある決まった角度から回転を開始したときの時系列でのロードセル7a,7bの出力が必要となる。
そこで、本実施形態では、図5(a)に示されるように、ロードセル7a,7bからの出力信号およびロータリエンコーダ9からの出力信号をそれぞれDLC基板からなる測定回路50に取り込み、図6のフローチャートに示されるアルゴリズムに基づいて作成された所定プログラムに従って所定の測定処理を実行するようにされている。
ここで、測定回路50を構成するDLC基板とは、図示による詳細な説明は省略するが、アナログ荷重信号増幅回路や、A/D変換回路、シリアル通信回路を含むI/O回路、CPU回路、メモリ回路、ロードセル励磁用の電源回路、デジタル・アナログ回路駆動用の電源回路などを内蔵する基板である。
ロードセル7a,7bでのサンプリングは、ロータリエンコーダ9からのZ相出力を開始トリガとして使用し、1°毎のパルス出力をサンプリングクロックとして使用する。したがって、サンプリングした波形は、図5(b)に示されるように、360点周期の正弦波となっている。この波形をベクトル化することにより、アンバランスベクトルを検出している。
【0041】
<フローチャートの説明>
ここで、図6のフローチャートに示される処理内容について説明する。なお、図6中記号「S」はステップを表す。
【0042】
まず、ロードセル7a,7bからのアナログ荷重信号を上記の手法にてサンプリングしてデジタル荷重信号に変換し(S1)、このデジタル荷重信号に対して平均値処理(S2)、デジタルフィルタ処理(S3)およびベクトル化処理(S4)をそれぞれ施す。
次いで、校正モードおよび稼働モードのいずれのモードが選択されているかを判断する(S5)。
【0043】
ステップS5において、校正モードが選択されている判断したときには、零ベクトルを取得するとともに、テスト用タイヤのアンバランス量を取得する(S6)。
次いで、種々の質量の分銅を上下のリム29,12の種々の位置に取り付けてテストを実施する(S7)。つまり、i(2以上の整数)通りのアンバランスベクトルを与えてテストする。
次いで、零ベクトルをキャンセルするとともに、テスト用タイヤのアンバランス量をキャンセルする(S8)。
そして、i回計測を実施したら(S9でYes)、後述する基準係数リスト(表1参照)を作成し(S10)、後述するγ1,γ2,δ1,δ2の各係数を取得する(S11)。
【0044】
一方、ステップS5において、稼働モードが選択されている判断したときには、零ベクトルをキャンセル(S12)した後に、アンバランスベクトルを算出する(S13)。
次いで、スタティックアンバランス演算、カップルアンバランス演算および位置補正をそれぞれ実行する(S14〜S15)。
【0045】
次に、ステップS6における零ベクトル取得の手法、ステップS8,S12における零ベクトルキャンセルの手法、ステップS11における係数取得の手法、ステップS13におけるアンバランスベクトル算出の手法、ステップS14におけるスタティック・カップルアンバランス演算の手法およびステップS15における位置補正の手法についてのそれぞれの具体的な内容について、以下に順を追って説明することとする。
【0046】
<零ベクトル取得の説明>
リム12,29および回転軸8を含む回転系は、ある一定のアンバランス量およびアンバランス角度を持つ。実際にタイヤ2または分銅のアンバランスベクトルを計測する際は、それらを装着してアンバランスベクトルから初期アンバランスベクトル(Z)を差し引く必要がある。
【0047】
リム12,29にタイヤ2を取り付け、原点に対してタイヤ2を90°,180°,270°,0°の順に4回ずらして回転させ測定する。それぞれの測定結果(P´90,P´180,P´270,P´0)には、タイヤ2の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトル(P90,P180,P270,P0)と回転系の持つ初期アンバランスベクトルZとの合成ベクトル(P90+Z,P180+Z,P270+Z,P0+Z)が測定されている。その様子が図7に示されている。
タイヤ2の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトルは、90°毎ずらして測定したことにより、下記(7)式で示されるように、全て加算すると零となる。
P90+P180+P270+P0=0 ・・・(7)
よって、下記(8)式で示されるように、4回の測定結果のアンバランスベクトルを加算して4で割ることにより、回転系の持つ初期アンバランスベクトルZを求めることができる。
Z=(P´90+P´180+P´270+P´0)/4 ・・・(8)
【0048】
この方法により、上側のロードセル7aの出力信号から求めた初期アンバランスベクトルを上初期アンバランスベクトル(ZU)、下側のロードセル7bの出力信号から求めた初期アンバランスベクトルを下初期アンバランスベクトル(ZL)とする。
すなわち、上側のロードセル7aの出力信号から求めたアンバランスベクトルをP´U90+P´U180+P´U270+P´U0、下側のロードセル7bの出力信号から求めたアンバランスベクトルをP´L90+P´L180+P´L270+P´L0とすると、ZU,ZLは、下記(9)(10)のように表すことができる。
ZU=(P´U90+P´U180+P´U270+P´U0)/4 ・・・(9)
ZL=(P´L90+P´L180+P´L270+P´L0)/4 ・・・(10)
【0049】
<零ベクトルキャンセルの説明>
毎回のタイヤ2または分銅を取り付けての測定結果(P´U,P´L)には、零ベクトル取得で求めた上下初期アンバランスベクトル(ZU,ZL)と、タイヤ2または分銅39,40の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトル(PU,PL)の合成ベクトルが測定されているため、上下初期アンバランスベクトル分を差し引く必要がある。下記(11)(12)式により、PU,PLを求めることができる。
PU=P´U−ZU ・・・(11)
PL=P´L−ZL ・・・(12)
【0050】
<係数取得(1)の説明>
前述した測定原理の説明での(5)式および(6)式はそれぞれγ1,γ2およびδ1,δ2に対する2元1次方程式であるから、ULまたはUUとして2種類のアンバランスベクトルを付加したときのPUおよびPLを測定することによってγ1,γ2およびδ1,δ2の各係数を求めることができる。
【0051】
UL,UU,PL,PUは以下の手順で求められる。
図8(a)に示されるように、上部リム29に質量WUの分銅39を位置ベクトルrUの位置に取り付けて回転させ、零キャンセルした後の下側のロードセル7bの測定値P´ULおよび上側のロードセル7aの測定値P´UUを得る。
図8(b)に示されるように、下部リム12に質量WLの分銅40を位置ベクトルrLの位置に取り付けて回転させ、零キャンセルした後の下側のロードセル7bの測定値P´LLおよび上側のロードセル7aの測定値P´LUを得る。
ロードセル7a,7bの測定値P´L,P´Uには、タイヤ2の持つアンバランスによる検出ベクトルTL,TUが含まれているため、これらを差し引く必要がある。このTL,TUとしては、前述の零ベクトル取得の説明での0°の測定結果P´L0およびZLからPL0を、P´U0およびZUからPU0を求め、TL=PL0,TU=PU0として使用する。
回転系の持つ初期アンバランスベクトルZL,ZUおよびタイヤ2を使用して校正時のタイヤの持つアンバランスによる検出ベクトルTL,TUを差し引いた結果、取り付けた分銅39,40による検出ベクトルPL,PUのみが残る。すなわち、下記(13)(14)式が成り立つ。
PL=P´L−ZL−TL ・・・(13)
PU=P´U−ZU−TU ・・・(14)
【0052】
<係数取得(2)の説明>
図8(a)に示される状態の場合、上側のロードセル7aで検出される分銅39によるアンバランスベクトルをPUU、下側のロードセル7bで検出される分銅39によるアンバランスベクトルをPULとすると、下記(15)(16)式が得られる。
γ1×PUL+γ2×PUU=vec{0} ・・・(15)
δ1×PUL+δ2×PUU=vec{WU} ・・・(16)
【0053】
図8(b)に示される状態の場合、上側のロードセル7aで検出される分銅40によるアンバランスベクトルをPLU、下側のロードセル7bで検出される分銅40によるアンバランスベクトルをPLLとすると、下記(17)(18)式が得られる。
γ1×PLL+γ2×PLU=vec{WL} ・・・(17)
δ1×PLL+δ2×PLU=vec{0} ・・・(18)
【0054】
ここで、(15)(18)式中のvec{0}は各成分が全て0となるベクトル(零ベクトル)を表す。
また、
PUU=P´UU−ZU−TU
PUL=P´UL−ZL−TL
である。
また、
PLU=P´LU−ZU−TU
PLL=P´LL−ZL−TL
である。
また、(16)(17)式中のvec{WU},vec{WL}は、大きさがWUまたはWLで偏角がリム0°に対する分銅を取り付けた角度のベクトルである。すなわち、
vec{WU}=WU・rU
vec{WL}=WL・rL
と表される。
【0055】
上記(15)(17)式より、γ1,γ2は下記(19)(20)式から求められる。
γ1=PUU×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(19)
γ2=−PUL×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(20)
上記(16)(18)式より、δ1,δ2は下記(21)(22)式から求められる。
δ1=−PLU×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(21)
δ2=PLL×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(22)
【0056】
<アンバランスベクトル算出の説明>
零ベクトル取得で初期アンバランスベクトル(ZU,ZL)が決定し、係数取得でロードセル7a,7bの検出ベクトル(P´U,P´L)から上下修正面でのアンバランスベクトル(UU,UL)への変換係数(γ1,γ2,δ1,δ2)が決定したため、リム12,29に取り付けたタイヤ2または分銅39,40の上下修正面で表したアンバランスベクトルを測定することが可能となる。
上下修正面で表した上下アンバランスベクトルUU,ULは、下記(23)(24)式から求めることができる。
UL=γ1×(P´L−ZL)+γ2×(P´U−ZU) ・・・(23)
UU=δ1×(P´L−ZL)+δ2×(P´U−ZU) ・・・(24)
【0057】
実際に出力するデータは上下アンバランス量および上下アンバランス角であるから、上記のアンバランスベクトルUU,ULからそれらを求める必要がある。
アンバランス量はアンバランスベクトルの大きさ、アンバランス角はアンバランスベクトルの偏角として定義されるので、上下アンバランスベクトルUU,ULの各成分を、下記のように定義する。
UU=(UUx,UUy)
UL=(ULx,ULy)
すると、アンバランス量は下記(25)(26)式によって求められ、アンバランス角は下記(27)(28)式から求められる。
|UU|=(UUx2+UUy2)1/2 ・・・(25)
|UL|=(ULx2+ULy2)1/2 ・・・(26)
∠UU=tan−1(UUy/UUx) ・・・(27)
∠UL=tan−1(ULy/ULx) ・・・(28)
【0058】
<スタティックアンバランス演算の説明>
スタティックアンバランスベクトルSは、図9に示されるように、上下アンバランスベクトルUU,ULから下記(29)式のように定義される。
S=UU+UL ・・・(29)
よって、上アンバランス量UU、下アンバランス量ULおよび上下アンバランス量が有ると考えられる軸中心からの距離rを用いると、下記(30)(31)式のように表される。
|S|=|UU+UL|=(UU+UL)・r ・・・(30)
∠S=∠(UU+UL)=tan−1(UUy+ULy)/(UUx+ULx)
・・・(31)
【0059】
<カップルアンバランス演算の説明>
カップルアンバランスベクトルCは、図10に示されるように、上下アンバランスベクトルUU,UL、上下修正面の距離dおよび係数取得時に分銅に取り付けた回転軸8からの距離r´から下記(32)式のように定義される。
C=(UU/r´)・(d/2)−(UL/r´)(d/2)=(UU−UL)・(1/r´)・(d/2) ・・・(32)
よって、上下アンバランス量UU,ULおよび上下アンバランス量が有ると考えられる軸中心からの距離rを用いると、下記(33)(34)式のように表される。
|C|=|UU−UL|・(1/r´)・(d/2)=(UU−UL)・(r/r´)・(d/2) ・・・(33)
∠C=∠(UU−UL)=tan−1(UUy−ULy)/(UUx−ULx)
・・・(34)
【0060】
<位置補正の説明>
アンバランスベクトル演算で求められたUUおよびULは、校正時に分銅を取り付けた位置でのアンバランスベクトルである。
実際の測定時には、アンバランス位置を校正分銅位置からリムの付位置に変換する補正演算が必要となる。図11にこのモデルを示す。
原則として、スタティックアンバランスベクトルおよびカップルアンバランスは修正面を変えても変わらないので、下記(35)(36)式が成立する。
UU+UL=U´U+U´L ・・・(35)
(UU−UL)・(1/r´)・(d/2)=(U´U−U´L)・(1/r´)・(d´/2) ・・・(36)
上記(35)(36)式より、上下アンバランス量UU,ULは、下記(37)(38)式のように表される。
UU={U´U+U´L+(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(37)
UL={U´U+U´L−(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(38)
よって、位置補正後のアンバランス量は、下記(39)(40)式で表される
UU=|UU|={(r´/r)・(U´U+U´L)+(r´/r)・(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(39)
UL=|UL|={(r´/r)・(U´U+U´L)−(r´/r)・(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(40)
【0061】
次に、稼働運転時に使用する係数の推定法について述べる。より具体的には、稼働運転時に被測定タイヤを測定し、上下のロードセル7a,7bの出力測定値に基づいて被測定タイヤが持つアンバランスベクトルを算出するに適切な係数を、被測定タイヤが持つアンバランスベクトルの量(タイヤ2外周上でのアンバランス質量、アンバランス角度)に応じて推定する方法を以下に挙げる。
ただし、校正モードでは、上下のリム29,12の半径rの距離におけるアンバランス量として扱い(係数もこの条件で求められる)、測定時も半径rの距離におけるアンバランス量として求め、先の位置補正の説明で述べたようにタイヤ2に応じて位置補正される。
【0062】
初めに校正モードにて前述した係数取得(1)の説明内容に基づき、表1に示される質量、角度に関する基準係数リストを作成する。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、基準質量W1,W2,W3の分銅39,40をそれぞれ所定の基準位置角0度、90度、180度、270度の、リム29,12の上位置、および下位置に取り付け回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定し、上下のロードセル7a,7bの測定値とそれぞれ与えたアンバランスベクトルより、各質量と各位置における基準係数γ1〈1,1〉,γ2〈1,1〉,δ1〈1,1〉,δ2〈1,1〉〜γ1〈3,4〉,γ2〈3,4〉,δ1〈3,4〉,δ2〈3,4〉を算出して基準値リストとする。
こうした基準係数の他に、γ1〈1,1〉〜γ1〈3,4〉の平均値をもって代表係数γ1を決定する。γ2,δ1,δ2についても同様に決定する。
また、基準リストの中で任意に1つずつγ1,γ2,δ1,δ2を選択して決めても良い。
【0065】
<第1の方法の説明>
稼働運転時には被測定タイヤの測定に当たって、
最初は、前述したアンバランスベクトル演算の説明での式を使用し、上記のように、あるいは従来の校正方式で求めた代表係数γ1,γ2,δ1,δ2を適用し、被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULを求める。
スタティックアンバランス演算の説明で述べたとおり、被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULとにより算出された合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sを図12(a)に示す。
合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sよりアンバランス量としての質量WS、角度θSを算出する。
表1の基準点の中で、被測定タイヤについて算出された合成アンバランスベクトルによる質量WSと角度θSに対して最も近傍にある質量、位置角を取り上げる。
【0066】
図13において、P点が被測定タイヤの合成アンバランスベクトルの質量、角度を表す点で、A,B,C,D点が表1における、P点に最も近いアンバランスベクトルの質量、角度を持つ基準点を表す。
A,B,C,D点には、上下のロードセル7a,7bの出力信号と、それぞれの点における基準の質量、角度とを関係づける基準の変換係数が付属しており、A,B,C,D点で囲まれる領域の中における任意の質量と角度の点の係数は、A,B,C,Dの各点の基準の質量と基準角度の大きさの違いに応じて比例的に変化するものとする。
【0067】
例えば、上の計算より求めた被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULと合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sを図12(a)に示す。
これらの合成アンバランスベクトルによる質量WSと角度θSが図13のP点に示すように質量WSがW2<WS<W3で、角度θSが0°<θS<90°であったとする。
表1より、質量WS、角度θSを表すP点の近傍の点としてP点を囲む基準点A〜D点を選択する。
【0068】
ここで、A点は、表1において質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付け、また質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈2,1〉,γ2〈2,1〉,δ1〈2,1〉,δ2〈2,1〉である。
B点は、表1において質量W3の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付け、また、質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈3,1〉,γ2〈3,1〉,δ1〈3,1〉,δ2〈3,1〉である。
C点は、表1において質量W3の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付け、また質量W3の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈3,2〉,γ2〈3,2〉,δ1〈3,2〉,δ2〈3,2〉である。
D点は、表1において質量W2の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付け、また質量W2の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈2,2〉,γ2〈2,2〉,δ1〈2,2〉,δ2〈2,2〉である。
【0069】
図13において斜線で示されるA−B−C−Dで囲まれた領域の中におけるアンバランスベクトルによる係数は、これらA〜D点の係数から質量および角度の変化に応じて比例的に変化するものとして、被測定タイヤにおけるアンバランスベクトルに対応する係数をγ1〈x,y〉,γ2〈x,y〉,δ1〈x,y〉,δ2〈x,y〉とすると、
係数γ1〈x,y〉について、
E点の係数γ1〈x,1〉は、
γ1〈x,1〉=γ1〈2,1〉
+(γ1〈3,1〉−γ1〈2,1〉)・{(WS−W2)/(W3−W2)}
F点の係数γ1〈x,2〉は、
γ1〈x,2〉=γ1〈2,2〉
+(γ1〈3,2〉−γ1〈2,2〉)・{(WS−W2)/(W3−W2)}
P点の係数γ1〈x,y〉は、
γ1〈x,y〉=(γ1〈x,2〉−γ1〈x,1〉)・(θS/90°)
と算出する。
同様にしてγ2〈x,y〉,δ1〈x,y〉,δ1〈x,y〉を算出する。
【0070】
これらの係数は上下のロードセル7a,7bの出力と被測定タイヤのアンバランスベクトルとを関係付けるために最初に一般的に用意されている代表係数より、被測定タイヤのアンバランスベクトルに対応した適切なものであるから、上下のロードセル7a,7b出力を適用し、これらの係数を使用すれば被測定タイヤのアンバランスベクトルをより精確に算出することができる。
さらに精度を上げるには、上記のように算出した上下アンバランスベクトルより合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sよりアンバランス量としての質量WS、角度θSを算出し、再び同じ手順で上記の計算を繰り返せばよい。
【0071】
<第2の方法の説明>
図14は、表1に与えられる基準点である基準質量の分銅39,40を上下のリム29,12の基準位置角に取り付けた場合に求まる上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを使用して被測定タイヤに対応する上下のロードセル7a,7b出力によるアンバランスベクトルを推定する方法を示したものである。
【0072】
質量WS、角度θSが求まると、表1より、質量WS、角度θSを表すP点の近傍でP点を囲むA〜Dの基準点を選択するところまでは第1の方法と同じである。
図14には表1より得られた基準点A〜Dのアンバランスベクトルが示されている。
上記と同様にA−B−C−Dで囲まれた斜線の範囲のアンバランスベクトルは各基準点のアンバランスベクトルに対して質量と角度の大きさの変化に応じて比例的に変化するものとし、P点の上下のロードセル7a,7b出力におけるアンバランスベクトルの推定値として、上記と同じ比例配分の計算にてP´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉,P´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を求める。
合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sと推定値P´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉,P´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を使用して前述した係数取得(2)の説明で用いた式によって係数γ1,γ2,δ1,δ2を推定する。
【0073】
このことは、図12(a)の被測定タイヤによる合成アンバランスベクトルから求めた質量WSを図12(b)に示されるようにタイヤ上辺の角度θSの位置に装着して上下のロードセル7a,7bの出力からP´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉を得たものとして、また、図12(c)に示されるようにタイヤ下辺の角度θSの位置に装着して上下のロードセル7a,7bの出力からP´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を得たものとして係数を推定していることになる。
【0074】
回転する被測定タイヤのアンバランス合成ベクトルに応じた荷重をタイヤ2から受けたの上下のロードセル7a,7bの出力信号のピーク値を検出することによって被測定タイヤのアンバランスベクトルを求めるので、このようにして求めた係数は改めて被測定タイヤのアンバランスベクトルを求める係数として適切である。
係数γ1,γ2,δ1,δ2が求まると、推定した係数と、上下のロードセル7a,7bの出力から被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する。
この値を最終結果としても良いが、さらに合成ベクトルを算出して上記の計算に戻って計算し直し、再び係数を求めて被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する操作を繰り返してもよい。
【0075】
<第3の方法の説明>
上記と同様に最初は、上記の代表係数γ1,γ2,δ1,δ2を使用し、前述したアンバランスベクトル演算の説明での式を使用して被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULを求める。
上アンバランスベクトルUUと上アンバランス角∠UUより上アンバランス質量WUと上アンバランス角度θUを算出する。
【0076】
図16(a)は上記に算出された結果によるリム29,12の上辺と下辺におけるアンバランス質量の大きさと位置を表したものである。
上記で算出された上アンバランス質量WUと上アンバランス角度θUの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを表1より取り出し図15(a)に表す。
但し、P点の質量WUが、WU>W3であるためP点はB,C点の右側に存在するとする。また、角度θUは90°<θU<180°であるとする。
【0077】
P点における上下のロードセル7a,7bの出力から測定される推定アンバランスベクトルP´UU〈x、y〉とP´UL〈x、y〉は、近傍のA〜D点における基準のアンバランス質量、アンバランス角度の大きさに比例して変化するものとしてこれらの値を下記のように計算して求める。
【0078】
E点のアンバランスベクトルP´UL〈x、2〉,P´UU〈x、2〉
P´UL〈x,2〉=P´UL〈3,2〉
+(P´UL〈3,2〉−P´UL〈2,2〉)・{(WU−W2)/(W3−W2)}
P´UU〈x,2〉についても同様に計算する。
【0079】
F点のアンバランスベクトルP´UL〈x,3〉,P´UU〈x,3〉
P´UL〈x,3〉=P´UL〈3,3〉
+(P´UL〈3,3〉−P´UL〈2,3〉)・{(WU−W2)/(W3−W2)}
P´UU〈x,3〉についても同様に計算する。
【0080】
P点のアンバランスベクトルP´UL〈x,y〉は、
P´UL〈x,y〉=P´UL〈x,2〉
+(P´UL〈x,3〉−P´UL〈x,2〉)・{(θU−90°)/90°}
P´UU〈x,y〉についても同様に計算する。
【0081】
以上の結果は、代表係数でもって算出された被測定タイヤの上アンバランスベクトルと、表1の基準値とにより、図16(b)に示される被測定タイヤの上アンバランスベクトルに対応して出力されるであろう上下のロードセル7a,7bの荷重信号によるアンバランスベクトルを推定したものである。
【0082】
一方、上記に算出された下アンバランス質量WLと下アンバランス角度θLの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを表1より取り出し図15(b)に表す。
但し、P点の質量WLは、W2<WL<W3とする。
また、角度θLは、180°<θU<270°であるとする。
【0083】
上リム29の場合と同様に計算して、代表的係数でもって算出された被測定タイヤの下アンバランスベクトルと、表1の基準値とにより、図16(c)に示される被測定タイヤの下アンバランスベクトルに対応して出力されるであろう上下ロードセルの荷重信号によるアンバランスベクトルP´LL〈x,y〉とP´LU〈x,y〉を推定する。
【0084】
以上によって、上アンバランスベクトルUU、下アンバランスベクトル0が与えられた場合の上下のロードセル7a,7bの出力から得られるアンバランスベクトルP´UL〈x,2〉とP´UU〈x,y〉、および上アンバランスベクトル0、下アンバランスベクトルULが与えられた場合の上下のロードセル7a,7bの出力から得られるアンバランスベクトルP´LL〈x,y〉とP´LU〈x,y〉により、前述した係数取得(2)の説明での式から係数γ1,γ2,δ1,δ2を推定する。
これらの係数を使用して先に測定した上下のロードセル7a,7bの出力によって算出したアンバランスベクトルよりタイヤ上辺のアンバランスベクトルUUと下アンバランスベクトルを計算し直す。
さらに測定精度を高めるには、一連の計算を繰り返せばよい。
【0085】
なお、上記は被測定タイヤのアンバランス質量の大小およびアンバランス角度の大きさに応じて上下のロードセル7a,7bからの出力信号をもってタイヤ2のアンバランスベクトルに変換する係数が非線形に変化するものとして、質量と角度をパラメータに取った。
しかし、質量の大きさまたは角度の大きさの何れか一方のみをパラメータにとって係数を推定するようにしてもよい。
【0086】
<第4の方法の説明>
例えば、アンバランス質量の大きさの違いによる非線形性が強く、位置による非線形性は小さい場合における対処法について述べる。
表1の0度の欄の測定データが集まった段階で、上リム29に質量W1,W2,W3を取り付け(但し、W1,W2,W3の値は実際にタイヤ2に存在するアンバランス質量の範囲で適当に相対差があれば任意の大きさで良く、個数も3個に限らず多い方が好ましい。)、下リム12には取り付けずテストして上下のロードセル出力7a,7bから求めたアンバランスベクトルはそれぞれ、
P´UL〈1,1〉,P´UL〈2,1〉,P´UL〈3,1〉および
P´UU〈1,1〉,P´UU〈2,1〉,P´UU〈3,1〉
であるからデータ数に応じて最小2乗法などの方法によって、上部リム29において角度0度の位置に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力から検出されるアンバランスベクトルP´UL〈WX,1〉を表す関数としてFUL1(WX)と、角度0度の時の任意の質量WXを付けた場合における上側のロードセル7aの出力から検出されるアンバランスベクトルP´UU〈WX,1〉を表す関数としてFUU1(WX)を求める。
同様に、下部リム12において角度0度の位置に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力から検出されるアンバランスベクトルP´LL〈WX,1〉を表す関数としてFLL1(WX)と、角度0度の時の任意の質量WXを付けた場合における上側のロードセル7aの出力から検出されるアンバランスベクトルP´LU〈WX,1〉を表す関数としてFLU1(WX)を求める。
【0087】
また、同様に、90度の位置について、上部リム29に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力に基づく関数FUL2(WX)と、上側のロードセル7aの出力に基づく関数FUU2(WX)とを求めるとともに、下部リム12に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力に基づく関数FLL2(WX)と、上側のロードセル7aの出力に基づく関数FLU2(WX)とを求める。
同様に、180度、270度の場合も関数を決定する。
【0088】
なお、0度で求めた関数は代表係数で求めた被測定タイヤのアンバランス位置の角度θXが315°<θX≦45°の範囲の場合に使用する。
そして、90度で求めた関数は45°<θX≦135°、180度で求めた関数は135°<θX≦225°、270度で求めた関数は225°<θX≦315°の範囲で使用する。
例えば、稼働運転において、被測定タイヤを測定し上記の代表係数で処理した結果、合成アンバランス質量がWS、角度がθSと算出され、θS=30度であったとすると、315°<θS≦45°であるから0度で求めた関数を選択し、FUL1(WS),FUU1(WS),FLL1(WS),FLU1(WS)によってアンバランスベクトルを算出し、続いて本被測定タイヤのアンバランスベクトルに適する係数γ1,γ2,δ1,δ2をFUL1(WS),FUU1(WS),FLL1(WS),FLU1(WS)の値と上下のロードセル7a,7bの出力値より推定する。
要するに、被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに応じて適切な係数を推定する方法は種々存在する。
【0089】
以上、本発明のタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法は、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から前記任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定し、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができるという特性を有していることから、タイヤ用ダイナミックバランサの校正の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 タイヤ用ダイナミックバランサ
3 ダイナミックバランサ本体
4a,4b トーションバー(支持具)
5 架台(基礎面)
6a,6b トーションバー(支持具)
8 回転軸
7a ロードセル(上部荷重センサ)
7b ロードセル(下部荷重センサ)
12 下部リム
29 上部リム
39,40 分銅(錘)
50 測定回路(係数算出手段、アンバランスベクトル算出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックバランサ本体に回転自在に支持された回転軸に設けられた上部リムと下部リムの間に被測定タイヤを装着して前記回転軸を回転させ、被測定タイヤのダイナミックバランスを測定するタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のダイナミックバランサにおいては、タイヤの上修正面および下修正面のそれぞれのアンバランス量とアンバランス位置とを測定するために、稼働運転に先立って、回転軸の回転時にその回転軸を支持するダイナミックバランサ本体から作用する力を検出する上下の荷重センサ(ロードセル)からの出力を測定し、これらロードセルの測定値より、前記アンバランス量とアンバランス位置とを算出するのに必要な係数を求めるため、テスト用分銅を用いた校正テストが実施される。
校正テストとしては、タイヤを用いない校正方法(例えば、特許文献1参照。)と、タイヤを用いる校正方法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−174658号公報
【0004】
従来、タイヤを用いる校正方法では、稼働運転時に使用するタイヤと同じ仕様のテスト用タイヤを校正モードにおいてダイナミックバランサの回転軸に設けた上部リムと下部リムの間に装着し、回転軸を支持するダイナミックバランサ本体が、テスト用タイヤに発生する遠心力によって受ける荷重を測定することによって下記に述べるようにして、回転系の上初期アンバランスベクトルZUと下初期アンバランスベクトルZLと、テスト用タイヤが持つ上下アンバランスベクトルTUとTLを求めるようにされている。
【0005】
上部リムと下部リムの間に稼働運転時に使用するタイヤと同仕様のテスト用タイヤを装着し、原点に対してタイヤを90°,180°,270°,0°の順に4回ずらしてそれぞれ回転軸を回転させ、回転系の持つ初期アンバランスベクトルとタイヤの持つアンバランスベクトルが合成された値P´90,P´180,P´270,P´0を上側、下側のロードセルについてそれぞれ検出し、それぞれを4回の測定結果を加算して4で割ることによって上初期アンバランスベクトルZUと下初期アンバランスベクトルZLを求める。
【0006】
但し、テスト用タイヤを装着して測定した上下のロードセル出力によって測定されるベクトルP´U,P´Lには、零ベクトル取得で求めた上下初期アンバランスベクトルZU、ZLとテスト用タイヤの持つ上下アンバランスベクトルTU、TLが含まれている。
【0007】
テスト用タイヤの持つ上下アンバランスベクトルTU,TLとしては、零ベクトル取得時において、0°における下側のロードセル出力の測定結果P´L0および下初期アンバランスベクトルZLからPL0を、上側のロードセル出力の測定結果P´U0および上初期アンバランスベクトルZUからPU0を求め、TL=PL0、TU=PU0として使用する。
【0008】
すなわち、次に述べるように、上部リムと下部リムの間にテスト用タイヤを装着し、更に上部リムと下部リムのいずれか片方に分銅を取り付けてテストするとき、テスト用タイヤの装着位置は0°で維持する。
【0009】
回転系の持つ初期アンバランスベクトルZL,ZUおよびタイヤを使用しての校正時のタイヤの持つアンバランスによる検出ベクトルTLおよびTUを差し引いた結果、取り付けた分銅による検出ベクトルPLおよびPUのみが残る。すなわち、
PL=P´L−ZL−TL
PU=P´U−ZU−TU
となる。
【0010】
測定原理として、上下のロードセルに加わる不釣り合い力PU、PLを検出することによるタイヤのアンバランス量UU、ULは、以下の式にて求められる。
UL=γ1PL+γ2PU
UU=δ1PL+δ2PU
【0011】
上部リムに質量WUの分銅を位置ベクトルrUの位置に取り付けて回転させた場合における、上側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPUU、下側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPULとし、下部リムに質量WLの分銅を位置ベクトルrLの位置に取り付けて回転させた場合における、上側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPLU、下側のロードセルで検出される分銅によるアンバランスベクトルをPLLとしたとき、以下の式から係数γ1,γ2,δ1,δ2が求められる。
γ1=PUU×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU)
γ2=−PUL×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU)
δ1=−PLU×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU)
δ2=PLL×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU)
【0012】
しかしながら、従来のタイヤを用いた校正方法において、所定の質量の分銅を上部リムおよび下部リムの所定の位置に取り付けて測定する手法のものでは、以下のような問題点がある。
【0013】
上下アンバランス量によって回転するタイヤはアンバランス量が存在すると、図3(c)中記号D,E矢印の方向に遠心力が作用するので、
図4においてタイヤ2の回転軸8(シャフト)は上側のロードセル7aと下側のロードセル7bの着力点間の中心付近を中心にして紙面を垂直に貫く方向に、上側のロードセル7aと下側のロードセル7bとが逆位相の関係をもって変位運動を繰り返す。つまり、上側のロードセル7aが紙面の表側に向けて変位したときは下側のロードセル7bは紙面の裏側に向けて変位している。
下側のロードセル7bの着力点から遠心力の作用点までの距離をa、上側のロードセル7aの着力点までの距離をb1とし、遠心力Fによってタイヤ2の回転軸8がα度だけ傾斜したとすると、上側のロードセル7aに作用する力はF・(b1/a)・cosαの関係にあり遠心力Fの大きさに応じて比例関係に変化しない。下側のロードセル7bに作用する力についても同様である。
【0014】
また、回転するタイヤ2に発生する遠心力Fの大きさに応じて回転軸8は傾斜するが、傾斜の大きさに応じてタイヤ2を装着した回転軸8にはタイヤ2の荷重によって曲げが生じる。そして、傾斜の大きさに応じて曲げ量は変化する。この遠心力Fの大きさに応じた曲げ量の変化はロードセル7a,7bよって測定する力に誤差を与える。すなわち、遠心力F、上下のアンバランス量、上下のロードセル7a,7bの出力、上下のロードセル7a,7b間の着力点の距離および上下のロードセル7a,7bの着力点とタイヤ2の上下の修正面との距離を含むモーメントの釣り合い式が成立しなくなる。
【0015】
さらに、回転軸8を支承するダイナミックバランサ本体3を支持する引っ張り吊り棒はスプリング特性を持ったバー(トーションバー4a,4b,6a,6b:図1参照)であり、その弾性力が遠心力Fによって生じる回転軸8の傾きに対して非線形に力を作用させてしまう。
また、タイヤ2が回転軸8に装着されると、回転軸8に曲げ歪みが生じる。そして、リム12,29を回転軸8の回転中心に対して完全に同心円に装着することができないので、タイヤ2やリム12,29の外周上の各点によって回転中心からの距離が異なる。すると、校正モードにおいてリム12,29の外周上に既知の質量のものを既知の角度に装着して回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定して求めたアンバランスベクトルを、装着した既知のアンバランスベクトルへ変換するように係数を求めても、この係数は、同じ質量のものを同じ位置に装着した場合にのみ有効になり、被測定タイヤのアンバランスベクトルが不明な場合に、従来のように一意に求めた係数を使用して上下のロードセル7a,7bの出力から被測定タイヤのアンバランスベクトルを精確に算出することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から前記任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定し、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができるタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、第1発明によるタイヤ用ダイナミックバランサは、
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられ、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出する係数算出手段を備えたタイヤ用ダイナミックバランサであって、
前記係数算出手段は、前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするものである。
【0018】
第1発明において、
被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを算出するアンバランスベクトル算出手段が設けられ、
前記アンバランスベクトル算出手段は、校正モード時に前記係数算出手段によって算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算するのが好ましい(第2発明)。
【0019】
次に、第3発明によるタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法は、
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられてなるタイヤ用ダイナミックバランサにおいて、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出するタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法であって、
前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするものである。
【0020】
第3発明において、
校正モード時に算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算するのが好ましい(第4発明)。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、校正モードが選択されている際に、上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって回転軸が回転される。
このとき、上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルが求められ、当該アンバランスベクトルと上記の設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数が上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出される。
また、錘の質量の大きさおよび/または錘の取り付け位置を変更することで設定される上記の3つの状態を超える複数種類の状態に対応する上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に回転軸が回転される。
そして、各設定アンバランスベクトルに対応して上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数が推定される。
したがって、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定することができる。また、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るタイヤ用ダイナミックバランサの斜視図
【図2】本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサの縦断面図
【図3】ダイナミックアンバランスの定義説明図
【図4】ダイナミックアンバランスの測定原理説明図
【図5】タイヤ用ダイナミックバランサの概略システム構成を説明するブロック図(a)およびロードセルのサンプリング波形図(b)
【図6】ダイナミックアンバランスの測定処理プログラムを説明するフローチャート
【図7】ロードセルによる検出アンバランスベクトルと回転系の持つ初期アンバランスベクトルとの合成ベクトルの説明図
【図8】上部リムに質量WUの分銅を位置ベクトルrUの位置に取り付けた状態図(a)および下部リムに質量WLの分銅を位置ベクトルrLの位置に取り付けた状態図(b)
【図9】スタティックアンバランス演算の説明図
【図10】カップルアンバランス演算の説明図
【図11】位置補正の説明図
【図12】上下アンバランスベクトル、アンバランス角、合成アンバランス量およびアンバランス角の関係を説明する図
【図13】被測定タイヤの合成アンバランスベクトルの質量、角度を表すP点とそのP点に最も近いアンバランスベクトルの質量、角度を持つ基準点A,B,C,Dの関係を表す図
【図14】上下ロードセル出力によるアンバランスベクトルの推定方法の説明図
【図15】上下アンバランスと上下アンバランスの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下ロードセル出力によるアンバランスベクトルの関係を表す図
【図16】リムの上辺と下辺におけるアンバランス質量の大きさと位置を表す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明によるタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係るタイヤ用ダイナミックバランサの斜視図が示されている。また、図2には、本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサの中央縦断面図が示されている。
【0025】
本実施形態のタイヤ用ダイナミックバランサ(以下、単に「ダイナミックバランサ」という。)1は、片持ち式の二面不釣り合い試験機であり、図1に示されるように、当該ダイナミックバランサ1にタイヤ2を装着して回転させ、この装着したタイヤ2の上面側のアンバランスと下面側のアンバランスとを測定することができる装置である。
また、この測定により得られたタイヤ2の上面側および下面側のアンバランス、つまり重心の偏心に基づく偏心力を求めることができる。
そして、この偏心力に基づいて、必要に応じてタイヤ2の補正等をすることができ、これによってタイヤ2のダイナミックバランスを許容範囲内に収めることができる。
なお、タイヤ2の偏心力とは、タイヤ2の上面側の重心の偏心および下面側の重心の偏心に基づく各遠心力とその遠心力の方向(タイヤの回転位置)とから決定される力をいう。この偏心力が求められると、タイヤ2の上面側の重心の偏心および下面側の重心の偏心に基づく各遠心力と、各重心がタイヤ2の所定の基準位置から各重心位置までの角度を求めることができる。
【0026】
このダイナミックバランサ1は、地面に対して垂直に取り付けられている。つまり、このダイナミックバランサ1の本体部分を構成する直方体形状のダイナミックバランサ本体3は、互いに平行な2本のトーションバー4a,4bを介して架台5に吊り下げられるとともに、これら2本のトーションバー4a,4bを通る平面に平行で、かつそれら2本のトーションバー4a,4bに直交する方向に配置された4本のトーションバー6a,6b;6a,6bを介して架台5に結合されている。
これによって、ダイナミックバランサ本体3は、地面に対して垂直方向に配置された2本のトーションバー4a,4bと地面に対して平行な4本のトーションバー6a,6b;6a,6bに対して直交する方向(図1中記号A矢印方向)にのみ移動可能に設けられている。
【0027】
ダイナミックバランサ本体3の側面の上部と下部の各位置には、合計2台の荷重センサ(ロードセル)7a,7bが設けられ、各ロードセル7a,7bは、架台5と結合されている。これによって、これらロードセル7a,7bは、ダイナミックバランサ本体3に作用する図1中記号A矢印方向の力を検出することができる。
【0028】
ダイナミックバランサ本体3の下面から回転軸8が下方に突出されており、この回転軸8には、ロータリエンコーダ9、プーリ10およびロータリジョイント11がそれぞれ設けられている。
ロータリエンコーダ9は、回転軸8の回転位置を測定するものであり、回転軸8の回転位置を測定することにより、この回転軸8と結合されている下部リム12(図2参照)の回転位置を測定することができる。
プーリ10は、例えばタイミングベルト13等の駆動ベルトを介して別のプーリ14と接続されており、このプーリ14は、サーボモータ15の回転軸に装着されている。つまり、回転軸8は、サーボモータ15によって回転駆動される構成である。
なお、タイミングベルト13の張力が4本のトーションバー6a,6b;6a,6bの引張方向に働くようにサーボモータ15が配置されているので、ロードセル7a,7bにはタイミングベルト13の張力が働かないようになっている。
ロータリジョイント11については後述する。
【0029】
次に、ダイナミックバランサ1の内部構造について、主に図2を参照して説明する。
ダイナミックバランサ本体3には、中央に上下方向の貫通孔21が穿設されており、この貫通孔21の上側開口縁と下側開口縁には、それぞれ軸受22a,22bが装着されている。これら2つの軸受22a,22bの内側には、円筒状の回転軸8が嵌合されており、この回転軸8は、軸受22a,22bを介して回動自在にダイナミックバランサ本体3に支持されている。
この回転軸8の下端の開口には、ロータリジョイント11が装着されており、このロータリジョイント11には、エアホース23を介して2つの電磁弁24,25が直列に接続されている。
2つの電磁弁24,25のうち、空気流れの上流側に配置される電磁弁25には、高圧(約5kgf/cm2)の圧力タンク(図示省略)と低圧(約5kgf/cm2)の圧力タンク(図示省略)が連結されており、この電磁弁25は、空気流れの下流側に配置される電磁弁24に高圧の圧力タンクまたは低圧のお圧力タンクを連通させる切換弁として機能する。
電磁弁24は、高圧または低圧の圧力タンクから供給される圧力流体(本例では圧力空気)を回転軸8側に供給する供給位置と、回転軸8側の圧力空気を大気に放出する排気位置とに切り換える切換弁として機能する。
なお、高圧の圧力空気は、このダイナミックバランサ1を校正するときに使用し、低圧の圧力空気は、このダイナミックバランサ1によりタイヤ2のダイナミックバランスを測定するときに使用する。
【0030】
回転軸8の上面には、円筒状のシリンダ本体26を介して下部リム12が設けられており、このシリンダ本体26と回転軸8が下部リム軸を構成している。
【0031】
シリンダ本体26内には、ピストン(上部リム軸)27が挿入されており、このピストン27の下部の外周には、複数の係合溝28,28,・・・が設けられている。これら複数の係合溝28は、ピストン27の外周に沿って環状に刻設されており、ピンスト27の軸方向に沿って互いに隣接して配置されている。
このピストン27の上端面には、上部リム29が設けられている。
また、ピストン27には、そのピストン27の下面に開口する開口部30とピストン3の上部の外周面に開口する開口部31,31とを連通する連通孔32が穿設されている。
開口部31,31には、ワンタッチ式の弁装置33,33が設けられている。この弁装置33は、例えば先端の突出部を指で押すことにより、開口部31を開放したり、閉塞したりすることができる構造のものである。ここでは、弁装置33としてワンタッチで開口部31を開閉することができる構造のものを採用したが、弁体を回転させることにより開口部31を開閉する形式のものを採用してもよい。
【0032】
上部リム29および下部リム12は、いずれも円環状の板状体であり、双方の外周部の互いに向き合う各面には、直径の異なる3つの段部34が形成されている。これら3つの各段部34は、タイヤ2を上下のリム29,12の間に装着する際に、タイヤ2の内縁を係合させるためのものである。つまり、これら直径の異なる3組の段部34を設けることにより、これら各組の段部34の直径と対応する3種類の内径のタイヤ2をこの上下のリム29,12の間に装着することができる。
【0033】
シリンダ本体26の外周には、互いに対向配置される一対の結合部35,35が装着されている。これら一対の結合部35,35は、同一のものであり、溝カム36と、溝カム36に嵌合するカムフォロア37と、カムフォロア37に連結されるストッパ38とにより構成されている。
ストッパ38は、先端が係合溝28に沿う円弧状に形成してある板状体であり、シリンダ本体26の周壁に穿設された矩形の挿通孔に挿通されている。
そして、これら2つの溝カム36をシリンダの筒方向(図2の上下方向)に沿って摺動させたときに、ストッパ38の先端部が係合溝28から外れた状態の非係合位置(図示省略)と、ストッパ38の先端部が係合溝28に係合した状態の係合位置(図2に示される状態)とにストッパ38を移動させることができるようになっている。
なお、溝カム36を上下方向に駆動する駆動部は図示されていないが、例えばエアシリンダを利用することができる。
【0034】
このダイナミックバランサ1においては、種々の質量の分銅39を上部リム29の所定位置に装着することができるとともに、種々の質量の分銅40を下部リム12の所定位置に装着することができるようになっている。これにより、校正モードにおいて、異なる質量の分銅39,40を上下のリム29,12の所定の位置に取り付けて後述する係数を求めることができる。
また、下部リム12を手で回して下部リム12の予め定めた基準位置を上部リム29の予め定めた基準位置に一致させ、この状態でストッパ38を係合溝28に係合させて、電磁弁24を切り換えて支持軸8の内孔41及びシリンダ本体26内に校正用の高圧の圧力空気を供給することができる。シリンダ本体26内の圧力空気は、ピストン27を図2の上方に押し上げ、これによってストッパ38の下面と係合溝28の上面とが圧接し、その結果、シリンダ本体26とピストン27とをストッパ38を介して強固に結合させることができる。
【0035】
次に、ダイナミックバランサ1の計測原理・校正手順について説明する。
【0036】
<ダイナミックアンバランスの定義説明>
図3(a)に示されるように、タイヤ2にアンバランスモーメントが図中記号B矢印方向に発生した場合、車に与える振動となる。
図3(b)に示されるように、タイヤ2の中心から半径方向に同じ距離Rに同じアンバランス量が上面と下面にある場合、スタティックバランスは零となる。
図3(b)の状態で、同図(c)のようにタイヤ2を回転させた場合、図中記号C矢印方向にモーメントが発生する。このモーメントをカップルアンバランスという。
ダイナミックバランスとは、スタティックアンバランスとカップルアンバランスとを含むものである。
【0037】
<測定原理の説明>
図4に示されるように、タイヤ2全体が持つアンバランスを下修正面(Z1)および上修正面(Z2)での2つのアンバランスとして代表して表す。
【0038】
ここで、図4中で使用される記号を以下のように定義する。
UL:下修正面での半径rの位置にあるアンバランス量(下アンバランス量)。
θL:ULのアンバランス角度(下アンバランス角度)。
UU:上修正面での半径rの位置にあるアンバランス量(上アンバランス量)。
θU:UUのアンバランス角度(上アンバランス角度)。
PL:ULが回転することにより、下側のロードセルで検出される出力。
PU:UUが回転することにより、上側のロードセルで検出される出力。
Z1:下側のロードセルの着力点とタイヤの下修正面との距離
Z2:下側のロードセルの着力点とタイヤの上修正面との距離
L:上側のロードセルの着力点と下側のロードセルの着力点との距離
なお、図4(b)中における分銅取り付け位置について、回転軸8の回転中心O点を定め、回転中心Oを原点とし、ロードセル7a,7bによる荷重検出位置を基準として定めたX−Y座標上でX軸と所定の角度θLとθUをなし、O点を通る直線上でO点からrの距離にある下部リム12、上部リム29上に分銅取り付け位置を定める。
【0039】
回転角速度ωで回転しているとすると、上下のロードセル7a,7bに加わる力には、下記(1)(2)式のような関係がある。
PL+PU=rω2(UL+UU) ・・・(1)
LPU=rω2(Z1UL+Z2UU) ・・・(2)
軸受22a,22b(図2参照)が殆ど振動せず不釣り合いの力がそのまま基礎に伝わるとすると、上記(1)(2)式より、下記(3)(4)式が成り立つ。
PL=α1UL+α2UU ・・・(3)
PU=β1UL+β2UU ・・・(4)
ここで、
α1=rω2(1−Z1/L)
α2=rω2(1−Z2/L)
β1=rω2Z1/L
β2=rω2Z2/L
よって、ロードセル7a,7bに加わる不釣り合い力PU,PLを検出することにより、アンバランス量UL,UUを求めることができる。上記(3)(4)式より、UU,ULは、下記(5)(6)式で表される。
UL=γ1PL+γ2PU ・・・(5)
UU=δ1PL+δ2PU ・・・(6)
ここで、
γ1=Z2/rω2(Z2−Z1)
γ2=−(L−Z2)/rω2(Z2−Z1)
δ1=−Z1/rω2(Z2−Z1)
δ2=(L−Z1)/rω2(Z2−Z1)
【0040】
<計装部の説明>
ところで、アンバランス量およびアンバランス角を求めるためには、ある決まった角度から回転を開始したときの時系列でのロードセル7a,7bの出力が必要となる。
そこで、本実施形態では、図5(a)に示されるように、ロードセル7a,7bからの出力信号およびロータリエンコーダ9からの出力信号をそれぞれDLC基板からなる測定回路50に取り込み、図6のフローチャートに示されるアルゴリズムに基づいて作成された所定プログラムに従って所定の測定処理を実行するようにされている。
ここで、測定回路50を構成するDLC基板とは、図示による詳細な説明は省略するが、アナログ荷重信号増幅回路や、A/D変換回路、シリアル通信回路を含むI/O回路、CPU回路、メモリ回路、ロードセル励磁用の電源回路、デジタル・アナログ回路駆動用の電源回路などを内蔵する基板である。
ロードセル7a,7bでのサンプリングは、ロータリエンコーダ9からのZ相出力を開始トリガとして使用し、1°毎のパルス出力をサンプリングクロックとして使用する。したがって、サンプリングした波形は、図5(b)に示されるように、360点周期の正弦波となっている。この波形をベクトル化することにより、アンバランスベクトルを検出している。
【0041】
<フローチャートの説明>
ここで、図6のフローチャートに示される処理内容について説明する。なお、図6中記号「S」はステップを表す。
【0042】
まず、ロードセル7a,7bからのアナログ荷重信号を上記の手法にてサンプリングしてデジタル荷重信号に変換し(S1)、このデジタル荷重信号に対して平均値処理(S2)、デジタルフィルタ処理(S3)およびベクトル化処理(S4)をそれぞれ施す。
次いで、校正モードおよび稼働モードのいずれのモードが選択されているかを判断する(S5)。
【0043】
ステップS5において、校正モードが選択されている判断したときには、零ベクトルを取得するとともに、テスト用タイヤのアンバランス量を取得する(S6)。
次いで、種々の質量の分銅を上下のリム29,12の種々の位置に取り付けてテストを実施する(S7)。つまり、i(2以上の整数)通りのアンバランスベクトルを与えてテストする。
次いで、零ベクトルをキャンセルするとともに、テスト用タイヤのアンバランス量をキャンセルする(S8)。
そして、i回計測を実施したら(S9でYes)、後述する基準係数リスト(表1参照)を作成し(S10)、後述するγ1,γ2,δ1,δ2の各係数を取得する(S11)。
【0044】
一方、ステップS5において、稼働モードが選択されている判断したときには、零ベクトルをキャンセル(S12)した後に、アンバランスベクトルを算出する(S13)。
次いで、スタティックアンバランス演算、カップルアンバランス演算および位置補正をそれぞれ実行する(S14〜S15)。
【0045】
次に、ステップS6における零ベクトル取得の手法、ステップS8,S12における零ベクトルキャンセルの手法、ステップS11における係数取得の手法、ステップS13におけるアンバランスベクトル算出の手法、ステップS14におけるスタティック・カップルアンバランス演算の手法およびステップS15における位置補正の手法についてのそれぞれの具体的な内容について、以下に順を追って説明することとする。
【0046】
<零ベクトル取得の説明>
リム12,29および回転軸8を含む回転系は、ある一定のアンバランス量およびアンバランス角度を持つ。実際にタイヤ2または分銅のアンバランスベクトルを計測する際は、それらを装着してアンバランスベクトルから初期アンバランスベクトル(Z)を差し引く必要がある。
【0047】
リム12,29にタイヤ2を取り付け、原点に対してタイヤ2を90°,180°,270°,0°の順に4回ずらして回転させ測定する。それぞれの測定結果(P´90,P´180,P´270,P´0)には、タイヤ2の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトル(P90,P180,P270,P0)と回転系の持つ初期アンバランスベクトルZとの合成ベクトル(P90+Z,P180+Z,P270+Z,P0+Z)が測定されている。その様子が図7に示されている。
タイヤ2の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトルは、90°毎ずらして測定したことにより、下記(7)式で示されるように、全て加算すると零となる。
P90+P180+P270+P0=0 ・・・(7)
よって、下記(8)式で示されるように、4回の測定結果のアンバランスベクトルを加算して4で割ることにより、回転系の持つ初期アンバランスベクトルZを求めることができる。
Z=(P´90+P´180+P´270+P´0)/4 ・・・(8)
【0048】
この方法により、上側のロードセル7aの出力信号から求めた初期アンバランスベクトルを上初期アンバランスベクトル(ZU)、下側のロードセル7bの出力信号から求めた初期アンバランスベクトルを下初期アンバランスベクトル(ZL)とする。
すなわち、上側のロードセル7aの出力信号から求めたアンバランスベクトルをP´U90+P´U180+P´U270+P´U0、下側のロードセル7bの出力信号から求めたアンバランスベクトルをP´L90+P´L180+P´L270+P´L0とすると、ZU,ZLは、下記(9)(10)のように表すことができる。
ZU=(P´U90+P´U180+P´U270+P´U0)/4 ・・・(9)
ZL=(P´L90+P´L180+P´L270+P´L0)/4 ・・・(10)
【0049】
<零ベクトルキャンセルの説明>
毎回のタイヤ2または分銅を取り付けての測定結果(P´U,P´L)には、零ベクトル取得で求めた上下初期アンバランスベクトル(ZU,ZL)と、タイヤ2または分銅39,40の持つアンバランスによりロードセル7a,7bで検出されるアンバランスベクトル(PU,PL)の合成ベクトルが測定されているため、上下初期アンバランスベクトル分を差し引く必要がある。下記(11)(12)式により、PU,PLを求めることができる。
PU=P´U−ZU ・・・(11)
PL=P´L−ZL ・・・(12)
【0050】
<係数取得(1)の説明>
前述した測定原理の説明での(5)式および(6)式はそれぞれγ1,γ2およびδ1,δ2に対する2元1次方程式であるから、ULまたはUUとして2種類のアンバランスベクトルを付加したときのPUおよびPLを測定することによってγ1,γ2およびδ1,δ2の各係数を求めることができる。
【0051】
UL,UU,PL,PUは以下の手順で求められる。
図8(a)に示されるように、上部リム29に質量WUの分銅39を位置ベクトルrUの位置に取り付けて回転させ、零キャンセルした後の下側のロードセル7bの測定値P´ULおよび上側のロードセル7aの測定値P´UUを得る。
図8(b)に示されるように、下部リム12に質量WLの分銅40を位置ベクトルrLの位置に取り付けて回転させ、零キャンセルした後の下側のロードセル7bの測定値P´LLおよび上側のロードセル7aの測定値P´LUを得る。
ロードセル7a,7bの測定値P´L,P´Uには、タイヤ2の持つアンバランスによる検出ベクトルTL,TUが含まれているため、これらを差し引く必要がある。このTL,TUとしては、前述の零ベクトル取得の説明での0°の測定結果P´L0およびZLからPL0を、P´U0およびZUからPU0を求め、TL=PL0,TU=PU0として使用する。
回転系の持つ初期アンバランスベクトルZL,ZUおよびタイヤ2を使用して校正時のタイヤの持つアンバランスによる検出ベクトルTL,TUを差し引いた結果、取り付けた分銅39,40による検出ベクトルPL,PUのみが残る。すなわち、下記(13)(14)式が成り立つ。
PL=P´L−ZL−TL ・・・(13)
PU=P´U−ZU−TU ・・・(14)
【0052】
<係数取得(2)の説明>
図8(a)に示される状態の場合、上側のロードセル7aで検出される分銅39によるアンバランスベクトルをPUU、下側のロードセル7bで検出される分銅39によるアンバランスベクトルをPULとすると、下記(15)(16)式が得られる。
γ1×PUL+γ2×PUU=vec{0} ・・・(15)
δ1×PUL+δ2×PUU=vec{WU} ・・・(16)
【0053】
図8(b)に示される状態の場合、上側のロードセル7aで検出される分銅40によるアンバランスベクトルをPLU、下側のロードセル7bで検出される分銅40によるアンバランスベクトルをPLLとすると、下記(17)(18)式が得られる。
γ1×PLL+γ2×PLU=vec{WL} ・・・(17)
δ1×PLL+δ2×PLU=vec{0} ・・・(18)
【0054】
ここで、(15)(18)式中のvec{0}は各成分が全て0となるベクトル(零ベクトル)を表す。
また、
PUU=P´UU−ZU−TU
PUL=P´UL−ZL−TL
である。
また、
PLU=P´LU−ZU−TU
PLL=P´LL−ZL−TL
である。
また、(16)(17)式中のvec{WU},vec{WL}は、大きさがWUまたはWLで偏角がリム0°に対する分銅を取り付けた角度のベクトルである。すなわち、
vec{WU}=WU・rU
vec{WL}=WL・rL
と表される。
【0055】
上記(15)(17)式より、γ1,γ2は下記(19)(20)式から求められる。
γ1=PUU×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(19)
γ2=−PUL×WL・rL/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(20)
上記(16)(18)式より、δ1,δ2は下記(21)(22)式から求められる。
δ1=−PLU×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(21)
δ2=PLL×WU・rU/(PUU×PLL−PUL×PLU) ・・・(22)
【0056】
<アンバランスベクトル算出の説明>
零ベクトル取得で初期アンバランスベクトル(ZU,ZL)が決定し、係数取得でロードセル7a,7bの検出ベクトル(P´U,P´L)から上下修正面でのアンバランスベクトル(UU,UL)への変換係数(γ1,γ2,δ1,δ2)が決定したため、リム12,29に取り付けたタイヤ2または分銅39,40の上下修正面で表したアンバランスベクトルを測定することが可能となる。
上下修正面で表した上下アンバランスベクトルUU,ULは、下記(23)(24)式から求めることができる。
UL=γ1×(P´L−ZL)+γ2×(P´U−ZU) ・・・(23)
UU=δ1×(P´L−ZL)+δ2×(P´U−ZU) ・・・(24)
【0057】
実際に出力するデータは上下アンバランス量および上下アンバランス角であるから、上記のアンバランスベクトルUU,ULからそれらを求める必要がある。
アンバランス量はアンバランスベクトルの大きさ、アンバランス角はアンバランスベクトルの偏角として定義されるので、上下アンバランスベクトルUU,ULの各成分を、下記のように定義する。
UU=(UUx,UUy)
UL=(ULx,ULy)
すると、アンバランス量は下記(25)(26)式によって求められ、アンバランス角は下記(27)(28)式から求められる。
|UU|=(UUx2+UUy2)1/2 ・・・(25)
|UL|=(ULx2+ULy2)1/2 ・・・(26)
∠UU=tan−1(UUy/UUx) ・・・(27)
∠UL=tan−1(ULy/ULx) ・・・(28)
【0058】
<スタティックアンバランス演算の説明>
スタティックアンバランスベクトルSは、図9に示されるように、上下アンバランスベクトルUU,ULから下記(29)式のように定義される。
S=UU+UL ・・・(29)
よって、上アンバランス量UU、下アンバランス量ULおよび上下アンバランス量が有ると考えられる軸中心からの距離rを用いると、下記(30)(31)式のように表される。
|S|=|UU+UL|=(UU+UL)・r ・・・(30)
∠S=∠(UU+UL)=tan−1(UUy+ULy)/(UUx+ULx)
・・・(31)
【0059】
<カップルアンバランス演算の説明>
カップルアンバランスベクトルCは、図10に示されるように、上下アンバランスベクトルUU,UL、上下修正面の距離dおよび係数取得時に分銅に取り付けた回転軸8からの距離r´から下記(32)式のように定義される。
C=(UU/r´)・(d/2)−(UL/r´)(d/2)=(UU−UL)・(1/r´)・(d/2) ・・・(32)
よって、上下アンバランス量UU,ULおよび上下アンバランス量が有ると考えられる軸中心からの距離rを用いると、下記(33)(34)式のように表される。
|C|=|UU−UL|・(1/r´)・(d/2)=(UU−UL)・(r/r´)・(d/2) ・・・(33)
∠C=∠(UU−UL)=tan−1(UUy−ULy)/(UUx−ULx)
・・・(34)
【0060】
<位置補正の説明>
アンバランスベクトル演算で求められたUUおよびULは、校正時に分銅を取り付けた位置でのアンバランスベクトルである。
実際の測定時には、アンバランス位置を校正分銅位置からリムの付位置に変換する補正演算が必要となる。図11にこのモデルを示す。
原則として、スタティックアンバランスベクトルおよびカップルアンバランスは修正面を変えても変わらないので、下記(35)(36)式が成立する。
UU+UL=U´U+U´L ・・・(35)
(UU−UL)・(1/r´)・(d/2)=(U´U−U´L)・(1/r´)・(d´/2) ・・・(36)
上記(35)(36)式より、上下アンバランス量UU,ULは、下記(37)(38)式のように表される。
UU={U´U+U´L+(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(37)
UL={U´U+U´L−(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(38)
よって、位置補正後のアンバランス量は、下記(39)(40)式で表される
UU=|UU|={(r´/r)・(U´U+U´L)+(r´/r)・(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(39)
UL=|UL|={(r´/r)・(U´U+U´L)−(r´/r)・(d´/d)・(U´U−U´L)}/2 ・・・(40)
【0061】
次に、稼働運転時に使用する係数の推定法について述べる。より具体的には、稼働運転時に被測定タイヤを測定し、上下のロードセル7a,7bの出力測定値に基づいて被測定タイヤが持つアンバランスベクトルを算出するに適切な係数を、被測定タイヤが持つアンバランスベクトルの量(タイヤ2外周上でのアンバランス質量、アンバランス角度)に応じて推定する方法を以下に挙げる。
ただし、校正モードでは、上下のリム29,12の半径rの距離におけるアンバランス量として扱い(係数もこの条件で求められる)、測定時も半径rの距離におけるアンバランス量として求め、先の位置補正の説明で述べたようにタイヤ2に応じて位置補正される。
【0062】
初めに校正モードにて前述した係数取得(1)の説明内容に基づき、表1に示される質量、角度に関する基準係数リストを作成する。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、基準質量W1,W2,W3の分銅39,40をそれぞれ所定の基準位置角0度、90度、180度、270度の、リム29,12の上位置、および下位置に取り付け回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定し、上下のロードセル7a,7bの測定値とそれぞれ与えたアンバランスベクトルより、各質量と各位置における基準係数γ1〈1,1〉,γ2〈1,1〉,δ1〈1,1〉,δ2〈1,1〉〜γ1〈3,4〉,γ2〈3,4〉,δ1〈3,4〉,δ2〈3,4〉を算出して基準値リストとする。
こうした基準係数の他に、γ1〈1,1〉〜γ1〈3,4〉の平均値をもって代表係数γ1を決定する。γ2,δ1,δ2についても同様に決定する。
また、基準リストの中で任意に1つずつγ1,γ2,δ1,δ2を選択して決めても良い。
【0065】
<第1の方法の説明>
稼働運転時には被測定タイヤの測定に当たって、
最初は、前述したアンバランスベクトル演算の説明での式を使用し、上記のように、あるいは従来の校正方式で求めた代表係数γ1,γ2,δ1,δ2を適用し、被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULを求める。
スタティックアンバランス演算の説明で述べたとおり、被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULとにより算出された合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sを図12(a)に示す。
合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sよりアンバランス量としての質量WS、角度θSを算出する。
表1の基準点の中で、被測定タイヤについて算出された合成アンバランスベクトルによる質量WSと角度θSに対して最も近傍にある質量、位置角を取り上げる。
【0066】
図13において、P点が被測定タイヤの合成アンバランスベクトルの質量、角度を表す点で、A,B,C,D点が表1における、P点に最も近いアンバランスベクトルの質量、角度を持つ基準点を表す。
A,B,C,D点には、上下のロードセル7a,7bの出力信号と、それぞれの点における基準の質量、角度とを関係づける基準の変換係数が付属しており、A,B,C,D点で囲まれる領域の中における任意の質量と角度の点の係数は、A,B,C,Dの各点の基準の質量と基準角度の大きさの違いに応じて比例的に変化するものとする。
【0067】
例えば、上の計算より求めた被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULと合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sを図12(a)に示す。
これらの合成アンバランスベクトルによる質量WSと角度θSが図13のP点に示すように質量WSがW2<WS<W3で、角度θSが0°<θS<90°であったとする。
表1より、質量WS、角度θSを表すP点の近傍の点としてP点を囲む基準点A〜D点を選択する。
【0068】
ここで、A点は、表1において質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付け、また質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ、上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈2,1〉,γ2〈2,1〉,δ1〈2,1〉,δ2〈2,1〉である。
B点は、表1において質量W3の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付け、また、質量W2の分銅を角度0°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈3,1〉,γ2〈3,1〉,δ1〈3,1〉,δ2〈3,1〉である。
C点は、表1において質量W3の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付け、また質量W3の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈3,2〉,γ2〈3,2〉,δ1〈3,2〉,δ2〈3,2〉である。
D点は、表1において質量W2の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付け、また質量W2の分銅を角度90°の上リム29の位置に取り付けてタイヤ2を回転させ上下のロードセル7a,7bの出力を測定することによって得られた係数γ1〈2,2〉,γ2〈2,2〉,δ1〈2,2〉,δ2〈2,2〉である。
【0069】
図13において斜線で示されるA−B−C−Dで囲まれた領域の中におけるアンバランスベクトルによる係数は、これらA〜D点の係数から質量および角度の変化に応じて比例的に変化するものとして、被測定タイヤにおけるアンバランスベクトルに対応する係数をγ1〈x,y〉,γ2〈x,y〉,δ1〈x,y〉,δ2〈x,y〉とすると、
係数γ1〈x,y〉について、
E点の係数γ1〈x,1〉は、
γ1〈x,1〉=γ1〈2,1〉
+(γ1〈3,1〉−γ1〈2,1〉)・{(WS−W2)/(W3−W2)}
F点の係数γ1〈x,2〉は、
γ1〈x,2〉=γ1〈2,2〉
+(γ1〈3,2〉−γ1〈2,2〉)・{(WS−W2)/(W3−W2)}
P点の係数γ1〈x,y〉は、
γ1〈x,y〉=(γ1〈x,2〉−γ1〈x,1〉)・(θS/90°)
と算出する。
同様にしてγ2〈x,y〉,δ1〈x,y〉,δ1〈x,y〉を算出する。
【0070】
これらの係数は上下のロードセル7a,7bの出力と被測定タイヤのアンバランスベクトルとを関係付けるために最初に一般的に用意されている代表係数より、被測定タイヤのアンバランスベクトルに対応した適切なものであるから、上下のロードセル7a,7b出力を適用し、これらの係数を使用すれば被測定タイヤのアンバランスベクトルをより精確に算出することができる。
さらに精度を上げるには、上記のように算出した上下アンバランスベクトルより合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sよりアンバランス量としての質量WS、角度θSを算出し、再び同じ手順で上記の計算を繰り返せばよい。
【0071】
<第2の方法の説明>
図14は、表1に与えられる基準点である基準質量の分銅39,40を上下のリム29,12の基準位置角に取り付けた場合に求まる上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを使用して被測定タイヤに対応する上下のロードセル7a,7b出力によるアンバランスベクトルを推定する方法を示したものである。
【0072】
質量WS、角度θSが求まると、表1より、質量WS、角度θSを表すP点の近傍でP点を囲むA〜Dの基準点を選択するところまでは第1の方法と同じである。
図14には表1より得られた基準点A〜Dのアンバランスベクトルが示されている。
上記と同様にA−B−C−Dで囲まれた斜線の範囲のアンバランスベクトルは各基準点のアンバランスベクトルに対して質量と角度の大きさの変化に応じて比例的に変化するものとし、P点の上下のロードセル7a,7b出力におけるアンバランスベクトルの推定値として、上記と同じ比例配分の計算にてP´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉,P´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を求める。
合成アンバランス量Sとアンバランス角∠Sと推定値P´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉,P´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を使用して前述した係数取得(2)の説明で用いた式によって係数γ1,γ2,δ1,δ2を推定する。
【0073】
このことは、図12(a)の被測定タイヤによる合成アンバランスベクトルから求めた質量WSを図12(b)に示されるようにタイヤ上辺の角度θSの位置に装着して上下のロードセル7a,7bの出力からP´UL〈x、y〉,P´UU〈x、y〉を得たものとして、また、図12(c)に示されるようにタイヤ下辺の角度θSの位置に装着して上下のロードセル7a,7bの出力からP´LL〈x、y〉,P´LU〈x、y〉を得たものとして係数を推定していることになる。
【0074】
回転する被測定タイヤのアンバランス合成ベクトルに応じた荷重をタイヤ2から受けたの上下のロードセル7a,7bの出力信号のピーク値を検出することによって被測定タイヤのアンバランスベクトルを求めるので、このようにして求めた係数は改めて被測定タイヤのアンバランスベクトルを求める係数として適切である。
係数γ1,γ2,δ1,δ2が求まると、推定した係数と、上下のロードセル7a,7bの出力から被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する。
この値を最終結果としても良いが、さらに合成ベクトルを算出して上記の計算に戻って計算し直し、再び係数を求めて被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する操作を繰り返してもよい。
【0075】
<第3の方法の説明>
上記と同様に最初は、上記の代表係数γ1,γ2,δ1,δ2を使用し、前述したアンバランスベクトル演算の説明での式を使用して被測定タイヤの上下のアンバランスベクトルUU,ULとアンバランス角∠UU,∠ULを求める。
上アンバランスベクトルUUと上アンバランス角∠UUより上アンバランス質量WUと上アンバランス角度θUを算出する。
【0076】
図16(a)は上記に算出された結果によるリム29,12の上辺と下辺におけるアンバランス質量の大きさと位置を表したものである。
上記で算出された上アンバランス質量WUと上アンバランス角度θUの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを表1より取り出し図15(a)に表す。
但し、P点の質量WUが、WU>W3であるためP点はB,C点の右側に存在するとする。また、角度θUは90°<θU<180°であるとする。
【0077】
P点における上下のロードセル7a,7bの出力から測定される推定アンバランスベクトルP´UU〈x、y〉とP´UL〈x、y〉は、近傍のA〜D点における基準のアンバランス質量、アンバランス角度の大きさに比例して変化するものとしてこれらの値を下記のように計算して求める。
【0078】
E点のアンバランスベクトルP´UL〈x、2〉,P´UU〈x、2〉
P´UL〈x,2〉=P´UL〈3,2〉
+(P´UL〈3,2〉−P´UL〈2,2〉)・{(WU−W2)/(W3−W2)}
P´UU〈x,2〉についても同様に計算する。
【0079】
F点のアンバランスベクトルP´UL〈x,3〉,P´UU〈x,3〉
P´UL〈x,3〉=P´UL〈3,3〉
+(P´UL〈3,3〉−P´UL〈2,3〉)・{(WU−W2)/(W3−W2)}
P´UU〈x,3〉についても同様に計算する。
【0080】
P点のアンバランスベクトルP´UL〈x,y〉は、
P´UL〈x,y〉=P´UL〈x,2〉
+(P´UL〈x,3〉−P´UL〈x,2〉)・{(θU−90°)/90°}
P´UU〈x,y〉についても同様に計算する。
【0081】
以上の結果は、代表係数でもって算出された被測定タイヤの上アンバランスベクトルと、表1の基準値とにより、図16(b)に示される被測定タイヤの上アンバランスベクトルに対応して出力されるであろう上下のロードセル7a,7bの荷重信号によるアンバランスベクトルを推定したものである。
【0082】
一方、上記に算出された下アンバランス質量WLと下アンバランス角度θLの値で表されるP点の近傍でP点を囲む質量、角度である基準点A〜Dにおける上下のロードセル7a,7bの出力によるアンバランスベクトルを表1より取り出し図15(b)に表す。
但し、P点の質量WLは、W2<WL<W3とする。
また、角度θLは、180°<θU<270°であるとする。
【0083】
上リム29の場合と同様に計算して、代表的係数でもって算出された被測定タイヤの下アンバランスベクトルと、表1の基準値とにより、図16(c)に示される被測定タイヤの下アンバランスベクトルに対応して出力されるであろう上下ロードセルの荷重信号によるアンバランスベクトルP´LL〈x,y〉とP´LU〈x,y〉を推定する。
【0084】
以上によって、上アンバランスベクトルUU、下アンバランスベクトル0が与えられた場合の上下のロードセル7a,7bの出力から得られるアンバランスベクトルP´UL〈x,2〉とP´UU〈x,y〉、および上アンバランスベクトル0、下アンバランスベクトルULが与えられた場合の上下のロードセル7a,7bの出力から得られるアンバランスベクトルP´LL〈x,y〉とP´LU〈x,y〉により、前述した係数取得(2)の説明での式から係数γ1,γ2,δ1,δ2を推定する。
これらの係数を使用して先に測定した上下のロードセル7a,7bの出力によって算出したアンバランスベクトルよりタイヤ上辺のアンバランスベクトルUUと下アンバランスベクトルを計算し直す。
さらに測定精度を高めるには、一連の計算を繰り返せばよい。
【0085】
なお、上記は被測定タイヤのアンバランス質量の大小およびアンバランス角度の大きさに応じて上下のロードセル7a,7bからの出力信号をもってタイヤ2のアンバランスベクトルに変換する係数が非線形に変化するものとして、質量と角度をパラメータに取った。
しかし、質量の大きさまたは角度の大きさの何れか一方のみをパラメータにとって係数を推定するようにしてもよい。
【0086】
<第4の方法の説明>
例えば、アンバランス質量の大きさの違いによる非線形性が強く、位置による非線形性は小さい場合における対処法について述べる。
表1の0度の欄の測定データが集まった段階で、上リム29に質量W1,W2,W3を取り付け(但し、W1,W2,W3の値は実際にタイヤ2に存在するアンバランス質量の範囲で適当に相対差があれば任意の大きさで良く、個数も3個に限らず多い方が好ましい。)、下リム12には取り付けずテストして上下のロードセル出力7a,7bから求めたアンバランスベクトルはそれぞれ、
P´UL〈1,1〉,P´UL〈2,1〉,P´UL〈3,1〉および
P´UU〈1,1〉,P´UU〈2,1〉,P´UU〈3,1〉
であるからデータ数に応じて最小2乗法などの方法によって、上部リム29において角度0度の位置に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力から検出されるアンバランスベクトルP´UL〈WX,1〉を表す関数としてFUL1(WX)と、角度0度の時の任意の質量WXを付けた場合における上側のロードセル7aの出力から検出されるアンバランスベクトルP´UU〈WX,1〉を表す関数としてFUU1(WX)を求める。
同様に、下部リム12において角度0度の位置に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力から検出されるアンバランスベクトルP´LL〈WX,1〉を表す関数としてFLL1(WX)と、角度0度の時の任意の質量WXを付けた場合における上側のロードセル7aの出力から検出されるアンバランスベクトルP´LU〈WX,1〉を表す関数としてFLU1(WX)を求める。
【0087】
また、同様に、90度の位置について、上部リム29に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力に基づく関数FUL2(WX)と、上側のロードセル7aの出力に基づく関数FUU2(WX)とを求めるとともに、下部リム12に任意の質量WXを付けた場合における下側のロードセル7bの出力に基づく関数FLL2(WX)と、上側のロードセル7aの出力に基づく関数FLU2(WX)とを求める。
同様に、180度、270度の場合も関数を決定する。
【0088】
なお、0度で求めた関数は代表係数で求めた被測定タイヤのアンバランス位置の角度θXが315°<θX≦45°の範囲の場合に使用する。
そして、90度で求めた関数は45°<θX≦135°、180度で求めた関数は135°<θX≦225°、270度で求めた関数は225°<θX≦315°の範囲で使用する。
例えば、稼働運転において、被測定タイヤを測定し上記の代表係数で処理した結果、合成アンバランス質量がWS、角度がθSと算出され、θS=30度であったとすると、315°<θS≦45°であるから0度で求めた関数を選択し、FUL1(WS),FUU1(WS),FLL1(WS),FLU1(WS)によってアンバランスベクトルを算出し、続いて本被測定タイヤのアンバランスベクトルに適する係数γ1,γ2,δ1,δ2をFUL1(WS),FUU1(WS),FLL1(WS),FLU1(WS)の値と上下のロードセル7a,7bの出力値より推定する。
要するに、被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに応じて適切な係数を推定する方法は種々存在する。
【0089】
以上、本発明のタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のタイヤ用ダイナミックバランサおよびその校正方法は、任意の大きさのアンバランス量とアンバランス位置を持つ被測定タイヤに対して、ロードセルの荷重信号出力から前記任意のアンバランス量とアンバランス位置を求めるにあたって最も適切な係数を推定し、推定した係数を使用することによって精確な被測定タイヤのアンバランスベクトルを算出することができるという特性を有していることから、タイヤ用ダイナミックバランサの校正の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 タイヤ用ダイナミックバランサ
3 ダイナミックバランサ本体
4a,4b トーションバー(支持具)
5 架台(基礎面)
6a,6b トーションバー(支持具)
8 回転軸
7a ロードセル(上部荷重センサ)
7b ロードセル(下部荷重センサ)
12 下部リム
29 上部リム
39,40 分銅(錘)
50 測定回路(係数算出手段、アンバランスベクトル算出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられ、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出する係数算出手段を備えたタイヤ用ダイナミックバランサであって、
前記係数算出手段は、前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするタイヤ用ダイナミックバランサ。
【請求項2】
被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを算出するアンバランスベクトル算出手段が設けられ、
前記アンバランスベクトル算出手段は、校正モード時に前記係数算出手段によって算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する請求項1に記載のタイヤ用ダイナミックバランサ。
【請求項3】
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられてなるタイヤ用ダイナミックバランサにおいて、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出するタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法であって、
前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法。
【請求項4】
校正モード時に算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する請求項2に記載のタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法。
【請求項1】
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられ、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出する係数算出手段を備えたタイヤ用ダイナミックバランサであって、
前記係数算出手段は、前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするタイヤ用ダイナミックバランサ。
【請求項2】
被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを算出するアンバランスベクトル算出手段が設けられ、
前記アンバランスベクトル算出手段は、校正モード時に前記係数算出手段によって算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する請求項1に記載のタイヤ用ダイナミックバランサ。
【請求項3】
平面上の一方向への変位を拘束し、前記一方向と直交する他方向への変位を可能にするように支持具によって基礎面から支持されたダイナミックバランサ本体に回転自在に回転軸が設けられ、
前記ダイナミックバランサ本体の上部と下部にそれぞれ、前記ダイナミックバランサ本体の変位を生じさせる荷重を検出するように前記基礎面から支持された上部荷重センサと下部荷重センサとが設けられ、
前記回転軸に対して同軸に上側と下側にそれぞれ上部リムと下部リムとが設けられてなるタイヤ用ダイナミックバランサにおいて、
校正モードが選択されている際に、前記上部リムと下部リムのうちの一方に所定の質量の錘を所定の位置に取り付けた状態およびそれらリムの両方に錘を付けていない状態の3つの状態のそれぞれに対応する前記上部リムと下部リムについての設定アンバランスベクトルでもって前記回転軸を回転させることで、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値に基づいて、前記上部リムと下部リムについてのアンバランスベクトルを求め、求めたアンバランスベクトルと前記設定アンバランスベクトルとを関係付ける少なくとも2種類の係数を前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれについて算出するタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法であって、
前記錘の質量の大きさおよび/または前記錘の取り付け位置を変更することで設定される前記3つの状態を超える複数種類の状態に対応する前記上部リムと下部リムについての複数組の設定アンバランスベクトル毎に前記回転軸を回転させることで、各設定アンバランスベクトルに対応して前記上部荷重センサおよび下部荷重センサからそれぞれ出力される荷重信号の測定値によって求められる複数組のアンバランスベクトル測定値、または、前記複数組の設定アンバランスベクトルと複数組のアンバランスベクトル測定値とをそれぞれ関係付ける2種類の係数に基づいて、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値から被測定タイヤの持つアンバランスベクトルを求めるに適する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定することを特徴とするタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法。
【請求項4】
校正モード時に算出された前記2種類の係数を代表係数として、稼働運転モードの際に、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値と、前記代表係数とに基づいて、前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを求め、求めた前記被測定タイヤのアンバランスベクトルの大きさに対応する前記上部荷重センサおよび下部荷重センサについてのそれぞれ2種類の係数を推定し、推定した2種類の係数と、前記上部荷重センサおよび下部荷重センサのそれぞれの荷重信号の測定値とから前記被測定タイヤのアンバランスベクトルを再計算する請求項2に記載のタイヤ用ダイナミックバランサの校正方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−24705(P2013−24705A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159172(P2011−159172)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
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