説明

タイヤ補強層用ゴム組成物

【課題】硬度及び弾性率を向上すると共に、耐屈曲疲労性を向上するようにしたタイヤ補強層用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ブタジエンゴムを40〜80重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを20〜90重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を0.5〜10重量部、硫黄を3〜8重量部配合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ補強層用ゴム組成物に関し、更に詳しくは、硬度及び弾性率を向上すると共に、耐屈曲疲労性を向上するようにしたタイヤ補強層用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのビードフィラー部やランフラットタイヤの断面三日月形のサイド補強ライナー層を構成するゴム組成物には、それぞれ硬度及び弾性率が高いことが求められている。しかし、硬度及び弾性率を高くするために、ゴム組成物に硫黄を多量に配合したり、カーボンブラックを増量したりすると、耐屈曲疲労性が悪化することによりタイヤ耐久性が低下するという問題があった。
【0003】
特許文献1は、ゴム組成物の硬度を高くするため、ジエン系ゴムにビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂及び硬化剤を配合することを提案している。しかし、このゴム組成物では、硫黄やカーボンブラックを増量することにより硬度と弾性率をある程度改良することはできるが、耐屈曲疲労性の悪化を防止することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、硬度及び弾性率を向上すると共に、耐屈曲疲労性をも向上するようにしたタイヤ補強層用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、ブタジエンゴムを40〜80重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを20〜90重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を0.5〜10重量部、硫黄を3〜8重量部配合したことを特徴とする。
【0007】
前記カーボンブラックのNSAは、20〜100m/gであるとよい。前記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【化1】

(式中、nは7〜9の整数である。)
【0008】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、ビードフィラー部、サイドウォール部の補強ライナー層に使用するのに好適である。また、ビードフィラー部に使用するときは、ヘキサメチレンテトラミンを、前記ジエン系ゴム100重量部に対し、0.5〜5重量部配合するとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、ブタジエンゴムを40〜80重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを20〜90重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を0.5〜10重量部、硫黄を3〜8重量部配合したので、ゴム組成物の硬度及び弾性率を共に向上することができる。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を配合するようにしたので耐屈曲疲労性を向上可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、ブタジエンゴムを必ず含むようにする。ブタジエンゴムを含むことによりゴム組成物の耐屈曲疲労性を高くすることができる。ジエン系ゴム中のブタジエンゴムの含有量は、40〜80重量%、好ましくは45〜75重量%である。ブタジエンゴムの含有量が40重量%未満であると、耐屈曲疲労性が不足する。また、ブタジエンゴムの含有量が80重量%を超えると、加工性が悪化する。
【0011】
本発明では、ブタジエンゴム以外のその他のジエン系ゴムを共に使用する。その他のジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。その他のジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして、ブタジエンゴムに配合することができる。その他のジエン系ゴムの含有量は、20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%である。
【0012】
本発明では、硫黄の配合量を多く設定することによりゴム組成物の硬度及び弾性率を高くする。硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し3〜8重量部である。硫黄の配合量が3重量部未満であると、硬度及び弾性率を高くする効果が十分に得られない。また、。硫黄の配合量が8重量部を超えると、耐屈曲疲労性が悪化する虞がある。
【0013】
このように硫黄を多量に配合すると、通常ゴム組成物の耐屈曲疲労性が悪化するが、本発明では、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を配合することにより、耐屈曲疲労性の悪化を防ぐと共に、逆に耐屈曲疲労性をより高くすることができる。従来、タイヤ用ゴム組成物の硬度や弾性率を高くするため、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの樹脂成分を配合することが知られているが、これらの樹脂成分を配合した場合には、硬度や弾性率を高くすることができても耐屈曲疲労性の悪化を抑制することは困難であった。これに対し、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を配合すると、ゴム組成物の硬度及び弾性率を共に向上すると共に、耐屈曲疲労性をも向上することが可能になる。
【0014】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し0.5〜10重量部、好ましくは1〜7重量部である。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の配合量が0.5重量部未満であると、ゴム組成物の硬度及び弾性率を高くし、かつ耐屈曲疲労性を向上する効果が得られない。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の配合量が10重量部を超えると、ゴム組成物の硬度が却って悪化する。
【0015】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【化2】

(式中、nは7〜9の整数である。)
【0016】
このようなクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、市販品の中から適宜選択して使用することができ、例えば日本化薬社製EOCN−104S、DIC社製N−695を例示することができる。
【0017】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、カーボンブラックを配合することにより、硬度及び弾性率を高くする。また、ゴム強度を高くする。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し20〜90重量部、好ましくは30〜90重量部である。カーボンブラックの配合量が20重量部未満であると、硬度、弾性率及び強度が不足する。カーボンブラックの配合量が90重量部を超えると、ゴム組成物の粘度及び発熱性が大きくなると共に、加工性が悪化する。
【0018】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が好ましくは20〜100m/g、より好ましくは30〜90m/g、更に好ましくは35〜80m/gである。NSAが20m/g未満であると、ゴム組成物の硬度、弾性率及び強度が不足する。また、NSAが100m/gを超えるとゴム組成物の粘度が高くなり、加工性が悪化する。カーボンブラックのNSAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0019】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、硬化剤を配合することができる。硬化剤を配合することにより、ゴム組成物の硬度及び弾性率を一層高くすることができる。硬化剤としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を硬化させるものであれば、特に制限されるものではないが、例えばヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメチルメチロールメラミン等の多価メチロール化メラミン誘導体、オキサゾリン誘導体、多価メチロール化アセチレン尿素等を例示することができる。なかでもヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0020】
ヘキサメチレンテトラミンの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.7〜3重量部にするとよい。ヘキサメチレンテトラミンの配合量が0.5重量部未満であると、ゴム組成物の硬度及び弾性率を高くする効果が十分に得られない。また、ヘキサメチレンテトラミンの配合量が5重量部を超えると、耐熱老化性が悪化する虞がある。
【0021】
本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、空気入りタイヤのビードフィラー部やランフラットタイヤの断面三日月形のサイド補強ライナー層として好適に使用することができる。
【0022】
本発明の第1の実施形態として、空気入りタイヤのビードフィラー部を形成するときは以下の構成にするとよい。
【0023】
ジエン系ゴムの配合は、上述した構成において、天然ゴムが好ましくは15〜55重量%、より好ましくは20〜45重量%、スチレン−ブタジエンゴムが好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%、ブタジエンゴムが40〜80重量%、好ましくは45〜70重量%であるとよい。ジエン系ゴムをこのような配合にすることにより、上述した作用効果に加え、ゴム組成物の粘度を低減すると共に、スコーチ時間を長くするので加工性を向上可能にする。
【0024】
また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは20〜100m/g、より好ましくは30〜80m/gにするとよい。カーボンブラックのNSAが100m/gを超えると、ゴム組成物の粘度が大きくなり、加工性が悪化する。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは30〜90重量部、より好ましくは40〜85重量部にするとよい。
【0025】
空気入りタイヤのビードフィラー部を形成するときは、硫黄の配合量を上述した構成において少なめにしてヘキサメチレンテトラミンを配合することが好ましい。硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは3〜7重量部、より好ましくは3〜6重量部にするとよい。
【0026】
本発明の第2の実施形態として、ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強ライナー層を形成するときは以下の構成にするとよい。
【0027】
ジエン系ゴムの配合は、上述した構成において、天然ゴムが好ましくは20〜50重量%、より好ましくは20〜40重量%、ブタジエンゴムが好ましくは50〜80重量%、より好ましくは60〜80重量%であるとよい。
【0028】
また、カーボンブラックのNSAは、好ましくは30〜90m/g、より好ましくは35〜80m/gにするとよい。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは30〜80重量部、より好ましくは30〜75重量部にするとよい。
【0029】
ランフラットタイヤのサイドウォール部の補強ライナー層を形成するときは、硫黄の配合量は、上述した構成において多めにするとよく、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは4〜8重量部、より好ましくは5〜8重量部にするとよい。
【0030】
タイヤ補強層用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、カーボンブラック以外の充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のタイヤ補強層用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0031】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
表1,2に示す配合からなる12種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜6)を調製するに当たり、それぞれ硫黄、加硫促進剤及びヘキサメチレンテトラミンを除く成分を秤量し、1.6L密閉式バンバリーミキサーで4分間混練し、温度150±5℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.6L密閉式バンバリーミキサーに供し、硫黄及び加硫促進剤を加えて混合してタイヤ補強層用ゴム組成物を得た。
【0033】
得られた12種類のゴム組成物(実施例1〜6、比較例1〜6)を、それぞれ所定形状の金型中で、150℃、30分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法によりゴム硬度Hs、弾性率E′及び耐屈曲疲労性の評価を行った。
【0034】
ゴム硬度Hs
得られた試験片のゴム硬度Hsを、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。得られた結果は、表1では比較例1を100、表2では比較例5を100とする指数として表1,2に示した。この指数が大きいほどゴム硬度が高く優れることを意味する。
【0035】
弾性率E′
得られた試験片をJIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、温度20℃における弾性率E′を測定した。得られた結果は、表1では比較例1を100、表2では比較例5を100とする指数として表1,2に示した。この指数が大きいほど弾性率E′が高く優れることを意味する。
【0036】
耐屈曲疲労性
得られた試験片をJIS K6260に準拠して、屈曲亀裂成長試験を行った。予め試験片の中央に長さ2mmの傷を付け、23℃にてストローク10mmで、毎分300回、合計10万回屈曲させ、亀裂(クラック)長さを測定し、亀裂成長を屈曲疲労性として評価した。測定結果は、亀裂長さの逆数を求め、表1では比較例1を100、表2では比較例5を100として表1,2に示した。この指数が大きいほど耐屈曲疲労性が優れていることを意味する。
【0037】
【表1】

【0038】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、タイ国製STR20
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL BR1220
SBR:スチレン−ブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL 1502
CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト3、NSA=79m/g
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸1:千葉脂肪酸社製工業用ステアリン酸
エポキシ樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製EOCN−104S
エポキシ樹脂2:ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製E−1570S70
フェノール樹脂1:住友ベークライト社製スミライトレジンPR50235
アロマオイル:出光興産社製ダイアナプロセスAH−20
老化防止剤1:住友化学社製アンチゲンRD−G
硫黄:フレキシス社製クリステックスHS OT20
加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーNS−F
ヘキサメチレンテトラミン:三新化学工業社製サンセラーHT
【0039】
【表2】

【0040】
なお、表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、タイ国製STR20
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製NIPOL BR1220
CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストF、NSA=42m/g
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸2:日油社製ビーズステアリン酸YR
オイル:昭和シェル石油社製エクストラクト4号S
エポキシ樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製EOCN−104S
フェノール樹脂2:日立化成工業製ヒタノール1502Z
硫黄:フレキシス社製クリステックスHS OT20
加硫促進剤2:大内新興化学工業社製ノクセラーNS−P

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴムを40〜80重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラックを20〜90重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を0.5〜10重量部、硫黄を3〜8重量部配合したタイヤ補強層用ゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が20〜100m/gである請求項1に記載のタイヤ補強層用ゴム組成物。
【請求項3】
前記クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が、下記式(1)で表される請求項1又は2に記載のタイヤ補強層用ゴム組成物。
【化1】

(式中、nは7〜9の整数である。)
【請求項4】
ヘキサメチレンテトラミンを、前記ジエン系ゴム100重量部に対し、0.5〜5重量部配合した請求項1,2又は3に記載のタイヤ補強層用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1,2又は3に記載のタイヤ補強層用ゴム組成物を、サイドウォール部の補強ライナー層に使用した空気入りタイヤ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ補強層用ゴム組成物を、ビードフィラー部に使用した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−46819(P2011−46819A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196087(P2009−196087)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】