説明

タイル張り外壁の補修方法

【課題】外気の大きな温度変化があっても、アンカーピンを挿通させて補修したタイルが破損しないタイル張り外壁の補修方法を提供する。
【解決手段】アンカーピンとタイルとの隙間に充填された接着剤を硬化させ、タイルのモルタル層からの脱落を防止するタイル張り外壁の補修方法であって、躯体コンクリートに対して固定されたアンカーピンとタイルとの間に弾性筒体を介在させ、タイルの熱膨張による伸びを弾性筒体を圧縮させて吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁に貼り付けられたタイルの落下を防止するタイル張り外壁の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンションなどの建物の外壁には、意匠性を向上させるため、コンクリート躯体の外壁面に沿ってモルタル層を介してタイルが貼り付けられているが、経年変化でコンクリート躯体とモルタル層、モルタル層間、あるいはモルタル層とタイルの間に空洞が生じ、タイルを使用した外壁の一部が落下するという問題があった。これに対し、その修繕として、タイルの張り替え、あるいは、コンクリート躯体にモルタルを塗った外壁に発生する空洞の修繕方法として従来からある、接着剤の注入という方法が用いられてきた。特にタイル外壁に対しては、タイルとタイルの間の目地に穿孔し、その孔から接着剤を注入する工法がよく用いられた。
【0003】
しかし、タイルとタイルの間に目地に穿孔しその孔から接着剤を注入する工法は、タイルとタイルを貼り付けているモルタルの界面が個々のタイル毎に独立しているため、あるいはタイルと、タイルを貼り付けているモルタル層の間の空洞が必ずしもタイル目地まで達しているとは言えないため、1枚のタイルが単独で落下する剥離に対しては、有効ではない。そこで、個々のタイル片とタイルを貼り付けているモルタルの間の空洞が原因で起こるタイルの剥離による落下を防ぐためには、空洞のあるタイル個々に穿孔して、アンカーを用いて固定する方法が開発された。この工法は、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修の公共建築改修工事標準仕様書平成19年版(建築工事編)に「注入口付アンカーピンニングエポキシ樹脂注入タイル固定工法」として収録されている(非特許文献1)。また同監修 建築改修工事監理指針 平成19年版(上巻)には「注入口付アンカーピンニングエポキシ樹脂注入タイル固定工法」はタイル陶片の浮きに適用する唯一の工法という記述がある(非特許文献2)。
【0004】
以下、この従来の補修方法を、図7により説明する。タイル貼り壁面は、同図に示すように、建物の外壁を構成する躯体コンクリート1の表面に下地モルタル層2とその更に表面にタイル貼りモルタル層3が積層され、タイル貼りモルタル層3に一定の間隔を隔てて多数の陶磁製のタイル4が固着された構造となっている。タイルの浮きが生じているタイル4は、タイル貼りモルタル層3との接合面に空隙が生じているので、ハンマーでその表面を軽く叩く打音検査で判別する。
【0005】
浮きが生じているタイル4に対しては、その表面の略中央から躯体コンクリート1の内部まで達するアンカー孔5をドリルで穿設する。通常コンクリートあるいはモルタルに穿孔する場合はドリルの刃先に振動を与えて、穿孔能率を向上させた、振動ドリルを用いる。しかしタイルに対しては、破損の恐れがあるため、振動ドリルは用いず、ダイヤモンドの粉末を表面に配置した、ドリルの刃を回転させ、タイルを摩滅させることにより、穿孔する。陶磁製のタイル4には、破損するので大径のアンカー孔5を穿設することができず、アンカー孔5の内径は7mm程度となっている。タイル4表面のアンカー孔5の周囲には、更に研磨加工で直径12mm程度の凹部5aを凹設し、アンカー孔5が臨むタイル4の表面に幅5mmの段部4aを形成しておく。
【0006】
このアンカー孔5内に挿入されるアンカーピン6は、その長手方向の内部に沿って接着剤9を流入可能な円筒状に形成され、円筒状の基端側にタイル4の段部4aに係合するフランジ部6aが形成されている。アンカーピン6の先端側には、先端から軸方向に沿って複数のすり割りが形成され、円筒状のアンカーピン6をアンカー孔5内へ挿入し、フランジ部6aが段部4aに近接するまで打ち込むと、先端側が躯体コンクリート1内で拡開する。
【0007】
その後、アンカーピン6の基端の樹脂注入口からエポキシ系接着剤9を所定圧力で注入すると、アンカーピン6の先端側の複数のすり割りの間から接着剤9が漏れ出て、アンカー孔5の内奥から下地モルタル層2と躯体コンクリート1間やタイル貼りモルタル層3とタイル4間の空隙に充填されるとともに、アンカーピン6周囲のアンカー孔5の全体に充填される。
【0008】
この状態で接着剤9が硬化すると、アンカーピン6は、躯体コンクリート1、下地モルタル層2、タイル貼りモルタル層3及びタイル4のいずれに対しても接着剤9で固着される。これによりタイル4は、躯体コンクリート1に固定されるアンカーピン6に対して、接着剤9で固着されるとともに、アンカーピン6のフランジ部6aがタイル4の段部4aに表面側から係合するので、壁面からの落下を確実に防止できる。
【0009】
また、下地モルタル層2と躯体コンクリート1間やタイル貼りモルタル層3とタイル4間の空隙が生じていても、これらの空隙も接着剤9が充填されるので、接合面の固着が接着剤9で補強され、タイルの剥離のみならず、下地モルタル層2やタイル貼りモルタル層3の剥離も併せて防止できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】財団法人 建築保全センター 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)平成19年版 98頁21行
【0011】
【非特許文献2】財団法人 建築保全センター 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修 建築改修工事監理指針平成19年度版(上巻) 389頁13行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この従来のタイル貼り外壁の補修方法においては、上述したように、陶磁製のタイル4へ大径のアンカー孔5を穿設することができず、これに対して、アンカー孔5へ挿入するアンカーピン6には、一定の軸方向強度と、接着剤9で固着する為の一定の接着面積を要するので、その外径を細径とすることができず、アンカーピン6周囲のアンカー孔5との隙間を充分に確保することができない。例えば、上記従来例では、内径が7mmのアンカー孔5へ挿入するアンカーピン6の外径を5mm未満とすることができず、アンカーピン6とアンカー孔5の内壁面との隙間は最大で1mmとなる。
【0013】
一方、タイル4は建物の外壁に貼り付けられるので、直接外気の寒暖差の影響を受けて伸縮する。1枚のタイル4の壁面に沿った長さを300mmとして、アンカーピン6がタイル4の中央のアンカー孔5に挿入されているとすれば、アンカー孔5の縁からタイル4の周縁までの壁面方向(以下、鉛直方向という)の長さは150mmであり、外気が30度の温度上昇したときのこの部分のタイル4の伸びδは、陶磁製のタイル4の線膨張率αを8x10−6とすれば、δ=150x30x8x10−6mmの0.036mmとなる。
【0014】
ここで、アンカーピン6とアンカー孔5の内壁面との隙間が1mmであるとすると、この間の硬化したエポキシ系接着剤9の圧縮歪みεは0.036/1であり、エポキシ系接着剤9のヤング率Eを3.2GPaとすれば、接着剤9に115.2MPaの圧縮応力σが発生する。エポキシ系接着剤9からの反力を受ける陶磁製のタイル4にも同一の圧縮応力σが生じるので、タイル4には、その40MPa程度の圧縮強さをはるかに越える115.2MPaの圧縮応力σが発生し破損することとなる。
【0015】
従って、アンカーピン6によってタイル4の落下を防止する従来の補修方法では、外気の大きな温度変化によってタイル4自体が破損し落下する恐れがあり、完全にタイル4の落下を防止することができずに建物の外観や安全を損なうという重大な課題が残されていた。
【0016】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、外気の大きな温度変化があっても、アンカーピンを挿通させて補修したタイルが破損しないタイル張り外壁の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載のタイル張り外壁の補修方法は、躯体コンクリートの壁面にモルタル層を介して固着されるタイルに、タイル表面の略中央から躯体コンクリートの内部に達するアンカー孔を穿設する工程と、アンカー孔内に接着剤を充填する工程と、アンカー孔へアンカーピンを挿入した後、前記接着剤を硬化させてアンカーピンを躯体コンクリートに対し固定する工程とを有し、アンカーピンとタイルとの隙間に充填された前記接着剤を硬化させ、及び/又はアンカーピンのフランジ部をタイルの表面側から当接させ、タイルのモルタル層からの脱落を防止するタイル張り外壁の補修方法であって、弾性筒体に挿通させたアンカーピンをアンカー孔へ挿入し、躯体コンクリートに対して固定されたアンカーピンとタイルとの間に弾性筒体を介在させたことを特徴とする。
【0018】
タイルは、硬化した接着剤で躯体コンクリートに固定されるアンカーピンに対して、接着剤により固定され、若しくはアンカーピンのフランジ部にタイルの表面側が当接するので、落下することがない。また、アンカーピンとタイルとの隙間に弾性筒体が介在するので、外気の温度上昇でタイルが熱膨張しても、弾性筒体が伸縮して熱膨張を吸収し、タイルに圧縮強度を超える応力が生じない。
【0019】
また、請求項2に記載のタイル張り外壁の補修方法は、アンカーピンは、アンカーピンの挿入方向に沿って接着剤を注入可能な筒状に形成され、アンカー孔内に挿入したアンカーピンの挿入端からアンカー孔内に接着剤を充填することを特徴とする。
【0020】
弾性筒体にじゃまされることなく、アンカー孔の内奥からアンカー孔内に接着剤を注入できるので、接着剤により躯体コンクリートへアンカーピンを確実に固着できる。
【0021】
また、請求項3に記載のタイル張り外壁の補修方法は、タイルの圧縮強さをσc、アンカー孔からタイルの周縁までの距離をL1、タイルとアンカーピンとの隙間をL2、タイルの線膨張率をα、外気の許容温度変化をCとして、弾性筒体が、縦断面係数EがσcxL2/(L1xαxC)未満の弾性材料で形成されていることを特徴とする。
【0022】
外気が許容温度変化C°上昇したとすると、アンカー孔から周縁までタイルの熱膨張による伸びδは、L1xαxCであり、縦断面係数EがσcxL2/(L1xαxC)未満の弾性材料で形成された弾性筒体に同面積で接するタイルに発生する圧縮応力は、外気が許容温度変化C°の範囲で上昇しても、タイルの圧縮強さσc以下であり、外気温度の上昇によってタイルが破損することがない。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、アンカーピンへ弾性筒体を挿通させる簡単な工程を加えるだけで、アンカーピンとタイルとの狭い隙間へタイルの熱膨張を吸収する弾性材を介在させることができる。
【0024】
また、外気の大きな温度上昇があってもタイルの熱膨張でタイルが破損するはことがなく、タイルの落下を確実に防止できる。
【0025】
請求項2の発明によれば、アンカーピンへ弾性筒体を挿通させても、確実にアンカーピンを躯体コンクリリートへ固定できる。
【0026】
請求項3の発明によれば、タイルの材料や大きさによって、縦断面係数EがσcxL2/(L1xαxC)未満の弾性材料から任意材料を選択して弾性筒体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法について、(a)は、アンカー孔5を穿設する工程、(b)は、タイル4の表面に凹部5aを形成する工程、(c)は、接着剤9を充填したアンカー孔5へ、弾性筒体10に挿通させたアンカーピン7を挿入する工程、の各工程を説明する説明図である。
【図2】図2は、図1に示すタイル張り外壁の補修方法で補修した外壁の縦断面図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法に使用するアンカーピン6と弾性筒体11とを示す側面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法で補修し た外壁の縦断面図である。
【図5】図5は、本発明の第3実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法について、(a)は、アンカー孔5を穿設する工程、(b)は、接着剤9を付着させたアンカーピン8へ弾性筒体12を挿通し、接着剤9を充填したアンカー孔5へ挿入する工程、の各工程を説明する説明図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法で補修した外壁の縦断面図である。
【図7】図7は、従来のタイル張り外壁の補修方法で補修した外壁の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法を、図1乃至図6を用いて詳細に説明する。尚、これらの説明において、上記従来の補修方法で説明した構成と同一若しくは相当する構成には同一番号を付する。また、図中、建物の外壁面に平行な方向を鉛直方向と、鉛直方向に直交する建物の内部から外壁に向かう方向を外方と、外壁から内部に向かう方向を内方として説明する。
【0029】
本発明の第1実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法は、図1と図2に示すように、接着剤注入口が設けられていないアンカーピン7を用いて陶磁製のタイル4を建物の外壁面に固定する補修方法である。本実施の形態で補修する外壁の構造は、建物の外壁を構成する構造体コンクリートからなる躯体コンクリート1と、その表面から外方に向かってそれぞれ30乃至40mmの厚さで積層される下地モルタル層2及びタイル貼りモルタル層3と、タイル貼りモルタル層3の表面に所定間隔を隔てて貼り付けられ、建物の外装となる複数のタイル4とから構成される。
【0030】
タイル4は、風雨に晒される建物の外壁面に沿ってタイル貼りモルタル層3に貼り付けられるので、図1(a)に示すように、築後の経年変化でタイル貼りモルタル層3との接合面に湿気や雨水が侵入してその一部に空洞15が生じ、タイル4がタイル貼りモルタル層3から剥離し落下する原因となる。本実施の形態に係る補修方法では、始めに、この空隙15が生じたいわゆるタイルの浮きが生じているタイル4を、ハンマーでその表面を軽く叩く打音検査によって判別する。
【0031】
続いて、浮きが生じているタイル4に対し、図1(a)に示すように、その表面の略中央から躯体コンクリート1の内部まで達するアンカー孔5をドリルで穿設する。ここで外壁に貼り付けられているタイル4は、例えば幅が300mm、厚さが9mm乃至20mmであり、陶磁製のタイル4が穿孔の工程で破損しないように、アンカー孔5の内径は7mm程度となっている。
【0032】
図1(b)に示すように、タイル4に穿設されたアンカー孔5の周囲は、研磨による皿もみ加工で内径約12mm程度の凹部5aが凹設され、これにより、アンカー孔5が外部に臨むタイル4の表面に幅5mmの段部4aが形成される。
【0033】
穿孔や皿もみ加工でアンカー孔5内に残された粉塵を洗浄などで除去した後、図1(c)に示すように、アンカー孔5内の内奥から接着剤9を充填し、接着剤9が充填されたアンカー孔5内に、弾性筒体10へ挿通させたアンカーピン7を挿入する。
【0034】
アンカーピン7は、内径が7mm程度のアンカー孔5に挿入可能な約5mmの外径とした軸部7bと、軸部7bの基端側(図2で外方側)に一体に連設され、アンカー孔5より大径とたフランジ部7aからなっている。軸部7bの外側面には、図示しない雄ねじが切られ、その軸回りと異なる接着面へも接着剤9が接着するようにして、より強固にアンカーピン7をアンカー孔5から抜け止めしている。
【0035】
図2に示すように、アンカーピン7の軸部7bが挿通する弾性筒体10は、アンカー孔5の内壁面とアンカーピン7の軸部7bとの間に介在する厚さ1mm弱の円筒体となっている。弾性筒体10を形成する弾性材料は、タイル4の圧縮強さをσc、アンカー孔5からタイル4の周縁までの距離をL1、タイル4とアンカーピン7との隙間をL2、タイル4の線膨張率をα、外気の許容温度変化をCとして、縦断面係数EがσcxL2/(L1xαxC)未満の条件を満たす弾性材料で形成される。ここでは、タイル4の圧縮強さσcを40MPa、アンカー孔5からタイル4の周縁までの距離L1を150mm、タイル4とアンカーピン7との隙間L2を1mm、陶磁製のタイル4の線膨張率αを8x10−6、外気の許容温度変化Cを30°Cとし、σcxL2/(L1xαxC)は、1.11GPaとなることから、縦断面係数Eが1.11GPa未満のウレタン、シリコン等の弾性材料から選択するものであり、ここでは常温での縦断面係数Eが約4MPa程度のシリコンゴムで弾性筒体10が形成されている。
【0036】
接着剤9が充填されたアンカー孔5内に、弾性筒体10へ挿通させたアンカーピン7を挿入すると、アンカー孔5の内奥に充填された接着剤9がアンカーピン7とアンカー孔5内壁面との隙間を流れ、フランジ部7a内方の凹部5a内に漏れ出る。この接着剤9が流動する流動圧によって、接着剤9は弾性筒体10の周囲の隙間や空洞15へも流入する。
【0037】
凹部5aから漏れ出る接着剤9を拭き取り、15乃至25時間静置すると、接着剤9が硬化し、図2に示すように、アンカーピン7、躯体コンクリート1、下地モルタル層2、タイル貼りモルタル層3及びタイル4の相互が接着剤9で固着される。従って、タイル4は、接着剤9を介して躯体コンクリート1に固定され、また、空洞部15へも接着剤9が流入するので、タイル貼りモルタル層3との接合面も接着され、タイル貼りモルタル層3から剥離して壁面からの落下することを防止できる。更に、躯体コンクリート1に接着剤9で固定されるアンカーピン7のフランジ部7aは、タイル4の段部4aに表面側から係合するので、タイル4の壁面からの落下をより確実に防止できる。
【0038】
また、外気の温度が許容温度変化Cである30°C上昇しても、タイル4の鉛直方向の熱膨張による変位を弾性筒体10の圧縮で吸収するので、タイル4に圧縮強さを越える応力が発生せず、タイル4の破損による落下も確実に防止できる。
【0039】
本発明は、従来例で説明した接着剤注入口6b付きのアンカーピン6を用いても実施できる。この第2実施の形態で用いるアンカーピン6は、図3に示すように、その長手方向の内部に沿って接着剤9を流入可能な円筒状に形成され、円筒状の基端側に形成されたフランジ部6aの中央に接着剤9を注入する接着剤注入口6bが開口している。アンカーピン6の先端部は、軸方向に沿って等間隔の3カ所に部位にリング状凹溝6cが形成され、これらのリング状凹溝6cと交差する軸方向に沿って先端から複数のすり割り6dが形成されている。先端部にリング状凹溝6cが形成されることにより、その軸回りと異なる接着面へも接着剤9が接着し、より強固にアンカーピン7がアンカー孔5から抜け止めされる。
【0040】
図3に示すように、このアンカーピン6の先端を弾性筒体10へ挿入し、弾性筒体10がフランジ部6aに当接するまで挿入する。ここでは、説明の都合上、第2実施の形態に係る補修方法で補修する外壁の構造とアンカー孔5は、図1に示す構造と同一であるものとし、従って、弾性筒体10は、第1実施の形態に係る弾性筒体10と同一のものである。
【0041】
弾性筒体10に挿通させたアンカーピン6を、図1(b)に示す工程と同様に、タイル4に凹部5aを穿設したされたアンカー孔5内に挿入し、フランジ部6aが段部4aに近接するまで打ち込む。アンカーピン6を打ち込むことによって、躯体コンクリート1内ですり割り6dが形成された先端側が拡開する。その後、アンカーピン6基端の接着剤注入口6bからエポキシ系接着剤9を所定の圧力で注入すると、先端側の複数のすり割り6dの間から接着剤9が漏れ出て、アンカー孔5の内奥からアンカーピン6とアンカー孔5内壁面との隙間を流れ、弾性筒体10の周囲の隙間や空洞15へも流入する。また、下地モルタル層2と躯体コンクリート1間や下地モルタル層2とタイル貼りモルタル層3間に空隙が生じている場合にも、これらの空隙に接着剤9が充填される。
【0042】
接着剤9が硬化した図4に示す状態では、躯体コンクリート1に固定されるアンカーピン6のフランジ部6aが接着剤9を介してタイル4の段部4aの外方に位置するとともに、タイル4自体も接着剤9により躯体コンクリート1やタイル貼りモルタル層3に固着するので、タイル4の剥離による落下が確実に防止される。
【0043】
また、積層する躯体コンクリート1、下地モルタル層2、タイル貼りモルタル層3およびタイル4の各接合面に空隙が生じていても、接着剤9が充填されて接合面の固着が補強されるので、タイル4のみならず、下地モルタル層2やタイル貼りモルタル層3の剥離も併せて防止できる。
【0044】
この第2実施の形態によれば、アンカーピン6とアンカー孔5内の狭い隙間に弾性筒体10が介在しても、アンカー孔5の内奥から接着剤9が注入されるので、弾性筒体10がじゃまにならずに、アンカーピン6をアンカー孔5内奥の躯体コンクリート1へ固着できる。
【0045】
上記第1、第2の実施の形態では、いずれのアンカーピン6、7もフランジ部6a、7aが設けられているが、接着剤9でタイル4を固定できれば、フランジ部を設けないアンカーピン8であってもよい。図5と図6は、このフランジ部のないアンカーピン8を用いた本発明の第3実施の形態に係るタイル張り外壁の補修方法の各工程を説明する説明図と外壁の縦断面図である。
【0046】
図5(a)に示すように、本実施の形態では、第1実施の形態の同一工程でタイル浮きのあるタイル4へアンカー孔5を穿設するが、皿もみ加工でタイル4へ段部4aを形成することなく、図5(b)に示すように、そのまま穿設したアンカー孔5へ接着剤9を充填する。アンカーピン8は、同図に示すように細長の円柱状で内径が7mm程度のアンカー孔5に挿入可能な約5mmの外径とし、上記実施の形態と同一の厚さ1mm弱の弾性筒体10へ挿通してアンカー孔6内に挿入する。ここでは、アンカー孔6内に挿入する前に、周囲に接着剤9を付着させたアンカーピン8を弾性筒体10へ挿入し、弾性筒体10とアンカーピン8とをより確実に接着させておく。
【0047】
接着剤9が充填されたアンカー孔5内に、弾性筒体10へ挿通させたアンカーピン8を挿入すると、接着剤9がアンカーピン8とアンカー孔5内壁面との隙間を流れ、接着剤9は弾性筒体10の周囲の隙間や空洞15へ流入する。その後、静置させて接着剤9が硬化すると、図6に示すように、アンカーピン8、躯体コンクリート1、下地モルタル層2、タイル貼りモルタル層3及びタイル4とは、相互に接着剤9を介して固着される。従って、タイル4は、接着剤9もしくは接着剤9とアンカーピン8を介して躯体コンクリート1に固定されるとともに、空洞部15へも接着剤9が流入してタイル貼りモルタル層3へも固着されるので、剥離して壁面からの落下することを防止できる。
【0048】
また、タイル4とアンカーピン8との間には、タイル4の熱膨張を吸収する弾性筒体10が介在するので、タイル4に圧縮強さを越える応力が生じてタイル4が破損することがなく、タイル4の落下をより確実に防止できる。
【0049】
上記各実施の形態に係る弾性筒体10は、アンカー孔5の内径やアンカーピンの外径、形状に応じて種々の形状や材質とすることができる。例えば、第3実施の形態において、アンカーピン8とタイル4との間により接着剤9が介在するように、弾性筒体10の基端側にアンカーピン8とタイル4が対抗するような開口部や切り欠きを設けてもよい。
【0050】
また、接着剤9は、通常エポキシ系接着剤を使用するが、アンカーピン、モルタル、タイルを相互に固着可能であれば、種々の接着剤を用いることができる。
【0051】
また、タイル4が貼り付けられる外壁は、下地モルタル層2とタイル貼りモルタル層3の2層に限らず、1層のモルタル層に直接タイル4が貼り付けられる構造であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
建物の外壁に貼り付けられたタイルの落下を防止するタイル張り外壁の補修方法に適する。
【符号の説明】
【0053】
1 躯体コンクリート
2 下地モルタル層
3 タイル貼りモルタル層
4 タイル
5 アンカー孔
6、7、8 アンカーピン
9 接着剤
15 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体コンクリートの壁面にモルタル層を介して固着されるタイルに、タイル表面の略中央から躯体コンクリートの内部に達するアンカー孔を穿設する工程と、 アンカー孔内に接着剤を充填する工程と、 アンカー孔へアンカーピンを挿入した後、前記接着剤を硬化させてアンカーピンを躯体コンクリートに対し固定する工程とを有し、 アンカーピンとタイルとの隙間に充填された前記接着剤を硬化させ、及び/又はアンカーピンのフランジ部をタイルの表面側から当接させ、タイルのモルタル層からの脱落を防止するタイル張り外壁の補修方法であって、弾性筒体に挿通させたアンカーピンをアンカー孔へ挿入し、躯体コンクリートに対して固定されたアンカーピンとタイルとの間に弾性筒体を介在させたことを特徴とするタイル張り外壁の補修方法。
【請求項2】
アンカーピンは、アンカーピンの挿入方向に沿って接着剤を注入可能な筒状に形成され、アンカー孔内に挿入したアンカーピンの挿入端からアンカー孔内に接着剤を充填することを特徴とする請求項1に記載のタイル張り外壁の補修方法。
【請求項3】
タイルの圧縮強さをσc、アンカー孔からタイルの周縁までの距離をL1、タイルとアンカーピンとの隙間をL2、タイルの線膨張率をα、外気の許容温度変化をCとして、弾性筒体が、縦断面係数EがσcxL2/(L1xαxC)未満の弾性材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイル張り外壁の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−144596(P2011−144596A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7995(P2010−7995)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(506134869)
【Fターム(参考)】