説明

タイル張付け用モルタル混練物およびタイル張りコンクリート構造物

【課題】タイル剥離に対して優れた耐久性を発揮するタイル張りコンクリートを実現する。
【解決手段】セメント、細骨材、エマルション系樹脂混和剤、水を成分とし、樹脂/セメント質量比:2〜50%、水セメント比:25〜60%、細骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜20%の範囲内において、材齢28日硬化体の弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2となるように、好ましくは材齢28日硬化体の圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下となるように配合調整されたタイル張付け用のモルタル混練物が提供される。また、躯体コンクリートの表面に、弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2である平均厚さ3〜45mmのモルタル層を介して、陶磁器質タイルが張り付けられているタイル張りコンクリート構造物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体コンクリートの表面にタイルを張り付けるために用いるモルタル混練物、およびそのモルタルを用いてタイル仕上げの外壁を形成したタイル張りコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイル仕上げの外壁を持つコンクリート構造物の最大の問題は、タイルの剥離が生じることである。建築業界において、タイル剥離は、コンクリートのひび割れ、漏水と並んで「三大瑕疵」の一つとされ、重要な問題となっている。
【0003】
図1に、タイル仕上げの外壁をもつタイル張りコンクリート構造物の代表的な断面構造を示す。躯体を構成するコンクリート1の表面に、モルタル層2を介して、陶磁器質のタイル3が張り付けられており、タイルの表面は外界4に曝されている。例示したタイル3は裏面に凹凸を有しているが、フラットな裏面を持つタイル3も多用されている。本明細書では、コンクリート表面にタイルを張り付けるためのモルタル(図1のモルタル層2を構成するモルタル)を「張付けモルタル」と呼ぶ。コンクリート1、モルタル層2、タイル3はそれぞれ熱膨張係数が異なり、また、屋外環境の変動により壁面から内部へ温度勾配が発生することから、これら三者の間には絶えず歪差が生じる。さらにコンクリートおよび張付けモルタルには経年によって収縮歪が加わる。これらが主たる原因となってタイル剥離が起きる。これまでの経験によれば、タイル剥離の現象は、タイル/張付けモルタル界面20よりも、張付けモルタル/コンクリート界面10の方で起きやすいことがわかっている。したがって、張付けモルタル/コンクリート界面10における剥離をくい止めることがタイル剥離の問題を解決するうえで重要となる。
【0004】
従来、タイル剥離を防止するために以下のような手法が提案されてきた。
(i)タイルまたは目地に下地コンクリートまで貫通する金具を挿入して張付けモルタルを保持する手法(特許文献1〜8)。
(ii)張付けモルタルにアクリルゴムラテックスを添加し、タイル表面の温度変化によって生じる張付けモルタルとコンクリートの歪差を軽減する手法(特許文献9)。
(iii)フィラメント糸条ネットや合成樹脂シートをタイル裏面に接着して一体化し、これを張付けモルタルに埋め込むか、ピンで躯体コンクリートに取り付ける手法(特許文献10〜12)。
(iv)躯体コンクリート表面または張付けモルタル表面に凹凸を形成し、この凹凸によるアンカー効果を利用してタイルあるいは張付けモルタルの剥離を防止する手法(特許文献13、14)。
(v)タイル裏面に凹凸部や突起部を形成し、このアンカー効果により接合強度を確保する手法(特許文献15〜17)。
(vi)張付けモルタルに合成高分子の接着剤を添加し、張付けモルタルの接着強度を上げる手法(特許文献18)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−76223号公報
【特許文献2】特開2001−182275号公報
【特許文献3】特開平11−210234号公報
【特許文献4】特開平10−37432号公報
【特許文献5】特開平10−169147号公報
【特許文献6】特開平9−125647号公報
【特許文献7】特開平4−70473号公報
【特許文献8】特開昭63−161252号公報
【特許文献9】特開2002−201053号公報
【特許文献10】特開2000−96802号公報
【特許文献11】特開平8−144540号公報
【特許文献12】特開昭55−105053号公報
【特許文献13】特開平6−81457号公報
【特許文献14】特開平5−118132号公報
【特許文献15】特開昭56−9558号公報
【特許文献16】特開昭54−45929号公報
【特許文献17】特開昭54−147621号公報
【特許文献18】特開昭54−128106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(i)の手法は主にタイル剥離が生じたときの補修に用いられる。この手法では一般に300〜1000mm間隔で金具を挿入する必要があり、施工に多大な労力と時間を要する。また、金具には一般に耐久性の高いステンレス鋼が用いられる。このため、工事のコストは高くなる。
【0007】
(ii)の手法に用いられるアクリルゴムラテックスは一般的なモルタル材料(セメント、細骨材、水)と比べ高価な材料である。しかも、これをセメントとの質量比で20〜40%添加するため、材料コストがかなり高くなる。
(iii)の手法もフィラメント糸条ネットや合成樹脂シートを使用することによる材料費、加工費の増大が避けられない。
【0008】
(iv)の手法では凹凸を形成するために特殊な型枠や足場などの資材が必要となり、それらの資材は使用後に再利用できず廃棄処分となる。
(v)の手法は専用に製造したタイルのみに適用できる技術であり、汎用的とは言えない。また、タイル裏面に凹凸を形成するだけではモルタル/コンクリート界面での剥離に対する耐久性を十分に確保することは難しい。
(vi)の手法では合成高分子の接着剤を使用することにより材料コストがかなり高くなる。また、この種の接着剤を用いた張付けモルタルは弾性係数が大きくなり、モルタル/コンクリート界面での剥離に対しては不利となることが確認された。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑み、汎用性の高いタイルが適用でき、作業性良く安価に、タイル剥離に対して優れた耐久性を発揮するタイル張りコンクリートを構築することができる技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは詳細な検討の結果、張付けモルタルの弾性係数を小さくすることによって、モルタル/コンクリート界面での剥離に対する耐久性が改善されることを見出した。また、張付けモルタルの弾性係数を小さくするためには、モルタル中に樹脂を添加すること、および水セメント比を大きくすることが有効であることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち本発明では、セメント、細骨材、エマルション系樹脂混和剤、水を成分とし、樹脂/セメント質量比:2〜50%、水セメント比:25〜60%、細骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜20体積%の範囲内において、材齢28日硬化体の弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2となるように、好ましくは材齢28日硬化体の圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下となるように配合調整されたタイル張付け用のモルタル混練物が提供される。ここで、弾性係数はJIS A1149に準拠した20℃での値が採用される。
【0012】
また、躯体コンクリートの表面に、弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2である平均厚さ3〜45mmのモルタル層を介して、陶磁器質タイルが張り付けられているタイル張りコンクリート構造物が提供される。前記モルタル層は、圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下であるものが特に好適な対象となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来一般的なモルタル用材料を使用し、配合を工夫することによって、タイル剥離に対する高い抵抗力を発揮する張付けモルタルが実現された。この張付けモルタルを用いると、金具や、特殊な材料を使用することなく、従来一般的なタイル張り施工法を適用して優れた耐タイル剥離性が得られるので、タイル張りコンクリート構造物の施工に際して労力、時間、コストの増大が回避される。また、種々の陶磁器質タイルが適用でき、汎用性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは、外壁タイルの付着性能について詳細な検討を行ってきた。その結果、タイル剥離が最も生じやすい「張付けモルタル/コンクリート界面」での剥離の原因となる、張付けモルタルと躯体コンクリートの間に生じる「界面発生応力」は、下記(1)式によって表される。
[界面発生応力]=[歪差]×[弾性係数] …(1)
ここで「歪差」は、張付けモルタルと下地コンクリートの界面に生じる両者の歪の差、「弾性係数」は張付けモルタルと下地コンクリートが一体となった物体における弾性係数である。
【0015】
発明者らの検討によれば、躯体コンクリートの表面に張付けモルタルを介して陶磁器質タイルを張り付けた外壁構造について、実際の使用条件を考慮した数多くの実験を行った結果、上記の「歪差」はほぼ200〜300μmの範囲に収まることがわかった。また、実際の使用条件では、上記「弾性係数」を「張付けモルタルの弾性係数」で代用しても問題ないことが明らかになった。すなわち、(1)式に代えて(2)式を適用することができる。
[界面発生応力]=[歪差]×[張付けモルタルの弾性係数] …(2)
【0016】
一方、従来実績のある張付けモルタルの材齢28日における弾性係数を実測したところ、20×103〜25×103N/mm2程度であることがわかった。同じ構造の外壁において(2)式の「歪差」は概ね一定とみなせるので、タイル剥離の原因となる「界面発生応力」の大きさは、(2)式により「張付けモルタルの弾性係数」の大きさに概ね比例すると考えてよい。したがって、従来実績のある張付けモルタルのうち弾性係数が低いもの(例えば弾性係数が20×103N/mm2であるもの)を「標準」として、これとの対比において相対的に弾性係数が大幅に小さいモルタルを「張付けモルタル」として使用すれば、耐タイル剥離性は従来より顕著に改善される。「標準」とする張付けモルタルを「標準張付けモルタル」、評価対象である張付けモルタルを単に「張付けモルタル」と呼ぶとき、下記(3)式により「弾性係数比」が定義される。
[弾性係数比]=[張付けモルタルの弾性係数]/[標準張付けモルタルの弾性係数] …(3)
【0017】
(3)式に適用する張付けモルタルおよび標準張付けモルタルの弾性係数値は、例えば、JIS A1149に準拠した方法により求まる20℃の弾性係数を採用することができる。モルタルの弾性係数の値そのものは温度等の条件によって変動しうるが、その変動挙動は張付けモルタルと標準張付けモルタルで類似している。このため、一定条件(例えば材齢28日、20℃)での弾性係数に基づく「弾性係数比」を知ることによって、比較的広い温度範囲での耐タイル剥離性を評価することができる。本明細書における弾性係数の値は、特に断らない限り20℃の値を意味する。
【0018】
上記(3)式の「弾性係数比」が1より小さい場合に、当該張付けモルタルのタイル剥離に対する抵抗力は標準張付けモルタルよりも優れることになる。種々検討の結果、従来実績のある張付けモルタル中での最小レベルの弾性係数値20×103N/mm2を標準張付けモルタルの弾性係数として採用した場合に、(3)式による弾性係数比が0.85以下となれば、そのモルタルを張付けモルタルとして使用したタイル張りコンクリート構造物は従来よりも顕著に耐タイル剥離性が改善されると評価することができる。弾性係数比が0.7以下である張付けモルタルを使用することが一層効果的である。
【0019】
標準張付けモルタルの弾性係数として20×103N/mm2の値を(3)式に代入すると、弾性係数比0.85以下を満たす張付けモルタルの弾性係数は17×103N/mm2以下の範囲であり、弾性係数比0.7以下を満たす張付けモルタルの弾性係数は14×103N/mm2以下の範囲である。ただし、張付けモルタルの弾性係数があまり低いと強度低下を招く恐れがある。種々検討の結果、張付けモルタルの材齢28日での弾性係数は4.5×103N/mm2以上であることが望まれ、圧縮強度が15N/mm2以上であることがより好ましい。以上のことから、本発明では材齢28日硬化体の弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2となる張付けモルタルを対象とし、特に強度と耐タイル剥離性を高いレベルで具備する張付けモルタルの態様として材齢28日硬化体の圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下となるモルタルを提供する。
【0020】
張付けモルタルの弾性係数は、モルタルの配合によってコントロールすることができる。発明者らは種々検討の結果、モルタル中に樹脂成分を含有させること、およびモルタルの水セメント比を大きくすることが、モルタルの弾性係数低減に極めて有効であることを知見した。また、空気量を増大させることも弾性係数低減に有効である。
【0021】
図2に、樹脂量(セメントに対する樹脂の質量割合)と弾性係数比の関係を例示する。この場合の弾性係数比は、後述の実施例で用いた標準張付けモルタル(弾性係数18.89×103N/mm2)に対する値である。他の配合条件が類似である場合、樹脂成分の配合量を増大させることによって弾性係数比を低減させることができる。
【0022】
図3に、水セメント比と弾性係数比の関係を例示する。この場合も図2と同じ標準張付けモルタルを基準にしている。他の配合条件が類似である場合、水セメント比を大きくすることによって弾性係数比を低減させることができる。
【0023】
本発明では、セメント、細骨材、エマルション系樹脂混和剤、水を成分とする張付けモルタルを用いる。
セメントは従来一般的なものが適用可能である。例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等が挙げられる。
細骨材は従来一般的な硅砂の他、各種軽量骨材を使用することができる。骨材の種類もモルタルの弾性係数に影響を及ぼす。これまでの調査によれば、軽量骨材を使用した場合には、樹脂の配合量が比較的少ない領域での弾性係数低減効果が改善される。したがって、軽量骨材の使用により、モルタル配合の自由度が拡大し、樹脂の添加量を節約することも可能である。
【0024】
樹脂は本発明において重要な成分である。樹脂系の混和剤は本来、接着力の向上、保水性の付与といった作用を発揮させる目的で添加されることが多いが、本発明ではそのような作用に加え、弾性係数の低減を目的として樹脂を添加する。一般的なエマルション系樹脂混和剤が使用できる。例えばエチレン酢酸ビニル系、アクリル系、アクリルスチレン系、メチルセルロース系、ポリビニルアルコール系などのセメント混和用ポリマーが挙げられる。
【0025】
樹脂/セメント質量比は2〜50%の範囲で調整することができる。樹脂/セメント質量比が2%未満だと弾性係数低減作用を十分に発揮させることが難しい。ただし、樹脂/セメント質量比が大きくなりすぎるとモルタルの強度低下が顕著になる。種々検討の結果、樹脂/セメント質量比は50%以下の範囲で調整することが望ましく、強度を重視する用途では35%以下とすることがより好ましい。
【0026】
水セメント比も本発明において重要な因子である。水セメント比が大きくなるほどモルタルの弾性係数は低減する傾向にあり、本発明では少なくとも25%以上とする。これより水セメント比が小さいと樹脂の添加量増大や軽量骨材の使用によってもモルタルの弾性係数を安定して十分に低減させることが難しくなる。水セメント比は30%以上とすることがより好ましい。一方、水セメント比が過大になると強度低下を招くようになる。種々検討の結果、60%以下の範囲であれば、他の成分の配合を調整することで実用上問題ないレベルの強度を確保することができる。
【0027】
細骨材およびセメントの配合量は、細骨材/セメント容積比が45〜110%の範囲で調整すればよい。また、モルタル混練物中の空気量は0〜20%の範囲、好ましくは0〜10%の範囲で調整すればよい。空気量の増大はモルタルの弾性係数低減に有利となる反面、強度低下の要因となる。
【0028】
より具体的な張付けモルタルの配合として以下の[1]〜[4]を例示することができる。
[1]エマルション系樹脂混和剤/セメント質量比:2〜50%、水セメント比:40〜60%、骨材/セメント容積比:45〜110%
この場合は水セメント比を高く設定することによって、弾性係数を十分に低減させるために必要な樹脂添加量の下限および骨材の種類に対する許容範囲を拡げることができる。骨材に硅砂を50%以上使用する場合は、上記において空気量:3〜20%とすることが好ましい。
【0029】
[2]エマルション系樹脂混和剤/セメント質量比:15〜50%、水セメント比:25〜60%、骨材/セメント容積比:45〜110%
この場合は樹脂添加量を高く設定することによって、水セメント比の許容下限を拡げることができる(後述の実施例No.7〜10参照)。骨材に硅砂を50%以上使用する場合は、上記において空気量:3〜10%とすることが好ましい。
【0030】
[3]骨材:かさ容積で、発泡スチレン、パーライト(真珠岩系鉱物)、発泡ポリスチレン、炭酸カルシウム発泡体、シラスバルーンの1種以上30〜100%、硅砂0〜70%からなる配合、エマルション系樹脂混和剤/セメント質量比:2〜10%、水セメント比:30〜50%、骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜10%
この場合は軽量骨材を使用することにより、樹脂添加量の節約が可能となる(後述の実施例No.12〜27参照)。
【0031】
[4]骨材:かさ容積で、発泡スチレン、パーライト(真珠岩系鉱物)、発泡ポリスチレン、炭酸カルシウム発泡体の1種以上30〜100%、硅砂0〜70%からなる配合、エマルション系樹脂混和剤/セメント質量比:2〜10%、水セメント比:30〜40%、骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜10%
この場合は軽量骨材を使用し、水セメント比が過大とならない配合とすることにより、樹脂添加量の節約が可能となり、かつ高強度と低弾性係数のバランスに優れるものが得られる(後述の実施例No.15、16、20、21、23、24、26、27参照)。
【0032】
以上のように成分調整された本発明の張付けモルタルは、従来一般的なタイル張付け手法を適用して、躯体コンクリート表面へのタイル張り施工に供することができる。モルタル層の平均厚さは3〜45mmの範囲とすることが望ましい。タイルの種類も従来公知の種々の陶磁器質タイルが適用できる。
【実施例】
【0033】
以下の材料を使用して、種々の配合の張付けモルタル混練物を作製した。
・セメント: 普通ポルトランドセメント
・細骨材: 硅砂、表1に示す軽量骨材
・樹脂: 日本建築学会JASS19(陶磁器質タイル張り工事)の適合資材である合成樹脂エマルション系セメント混和用ポリマー;EVA(エチレン酢酸ビニル)
配合は表2中に記載してある。
【0034】
【表1】

【0035】
各混練物を用いてモルタル硬化体を作製し、JIS A1132に準拠した方法で材齢28日の圧縮強度(20℃)を測定した。また、JIS A1149に準拠した方法により同一条件で材齢28日の弾性係数(20℃)を測定した。
【0036】
上述のように、従来実績のある張付けモルタルの弾性係数(20℃)は20×103〜25×103N/mm2程度であることから、その数値の最小レベルである20×103N/mm2に対する「弾性係数比」が0.85以下(弾性係数値;17×103N/mm2以下)であるものは従来よりも顕著に耐タイル剥離性が改善されると評価でき、0.7以下(弾性係数値;14×103N/mm2以下)であるものは特に優れた耐タイル剥離性を発揮すると評価できる。ここでは、より厳しい「弾性係数比」を参考値として表示すべく、同一条件で測定された弾性係数値が20×103N/mm2より小さい18.89×103N/mm2であったもの(表2中のNo.2)を標準張付けモルタルとして選択し、これとの対比により前記(3)式から「弾性係数比」を算出した。
結果を表2に示す。評価欄には、圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下のものを◎(優秀)、上記以外で、弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2のものを○(良好)、その他を×(不良)、標準張付けモルタルを「標準」と表示した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2からわかるように、セメント、細骨材、エマルション系樹脂混和剤、水を成分とし、樹脂/セメント質量比:2〜50%、水セメント比:25〜60%、細骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜20%の範囲内において、材齢28日硬化体の弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2となるように配合調整されたモルタル混練物を実現することが可能である。これらのモルタルを張付けモルタルとして、陶磁器質タイルを張り付けたタイル張りコンクリート構造物では、従来より優れた耐タイル剥離性が発揮される。また、特に強度と低弾性係数のバランスに優れたモルタル混練物として、上記組成範囲内において、材齢28日硬化体の圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下となるように配合調整されたモルタル混練物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】タイル仕上げの外壁をもつタイル張りコンクリート構造物の代表的な断面構造を例示した図。
【図2】樹脂量(セメントに対する樹脂の質量割合)と弾性係数比の関係を例示したグラフ。
【図3】水セメント比と弾性係数比の関係を例示したグラフ。
【符号の説明】
【0040】
1 コンクリート
2 モルタル層
3 タイル
4 外界
10 張付けモルタル/コンクリート界面
20 タイル/張付けモルタル界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、細骨材、エマルション系樹脂混和剤、水を成分とし、樹脂/セメント質量比:2〜50%、水セメント比:25〜60%、細骨材/セメント容積比:45〜110%、空気量:0〜20%の範囲内において、材齢28日硬化体の弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2となるように配合調整されたタイル張付け用モルタル混練物。
【請求項2】
材齢28日硬化体の圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下となるように配合調整された請求項1に記載のタイル張付け用モルタル混練物。
【請求項3】
躯体コンクリートの表面に、弾性係数が4.5×103〜17×103N/mm2である平均厚さ3〜45mmのモルタル層を介して、陶磁器質タイルが張り付けられているタイル張りコンクリート構造物。
【請求項4】
躯体コンクリートの表面に、圧縮強度が15N/mm2以上かつ弾性係数が14×103N/mm2以下である平均厚さ3〜45mmのモルタル層を介して、陶磁器質タイルが張り付けられているタイル張りコンクリート構造物。
【請求項5】
躯体コンクリートの表面に、請求項1または2に記載のモルタル混練物が硬化してなる平均厚さ3〜45mmのモルタル層を介して、陶磁器質タイルが張り付けられているタイル張りコンクリート構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−76975(P2010−76975A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247593(P2008−247593)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】