説明

タウおよびアミロイド前駆体断片を発現する遺伝子組換えハエ

本発明は、ヒトアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)のカルボキシ末端断片を発現する遺伝子組換えハエ、ならびにAPPおよびタウタンパク質の両方の断片を発現する二重遺伝子組換えハエを開示する。本発明の遺伝子組換えハエは、アルツハイマー病等の神経変性疾患のモデルを提供する。本発明はさらに、遺伝的改変因子を同定する方法に加え、遺伝子組換えハエを用いて神経変性疾患を治療するための治療化合物を同定するためのスクリーニング方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年6月16日出願の仮出願番号60/814,227および2006年6月23日出願の仮出願番号60/815,986に対する優先権を主張し、これらの内容は本明細書にこれらの全体を組み込む。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、ヒトにおいて最も一般的な神経変性疾患である。この疾患は、認知および記憶における進行性の機能障害を特徴とする。神経病理学レベルにおけるADの特徴は、「老人」斑におけるアミロイドβペプチド(Aβ)の細胞外蓄積および微小管結合タンパク質であるタウよりなる神経原線維変化の細胞内沈着である。AD患者の神経組織において、タウは高度にリン酸化され、構造依存的な抗体により明白な病的構造を取る。アミロイドβペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の切断産物である。正常な個体において、Aβの多くは40アミノ酸の構造であるが、42アミノ酸長であるAβ(Aβ42)も少量存在する。ADの患者においては過剰なAβ42が存在し、これが主な毒性Aβ構造であると考えられている。
【0003】
多くの病原性突然変異は、ADの遺伝型と関連したAPPにおいて見出されており、そのいくつかはAβ配列内に位置する。これらの突然変異はADとは異なる表現型を生じ、脳血管壁での大量のアミロイド蓄積を伴う。2つの突然変異、つまりオランダ型(Glu22Gln)突然変異およびフランドル型(Ala21Gly)突然変異が報告されている(Levyら, Science 248, 1124‐1126(1990))、(van Broeckhovenら(1990))、(Hendriksら, Nature Genet 1, 218‐221(1992))。これらの突然変異を有する患者は、脳出血および脳血管症状を患う。この血管症状は、血管壁でのAβの凝集によって起こる(アミロイド血管症)。第3の病原性のAβ内突然変異は、イタリアの家系で最近発見され(Glu22Lys)、オランダ型患者と類似した臨床所見を有する(Tagliaviniら, Alz Report 2, S28(1999))。さらに別のAPP内の病原性AD突然変異である北極型突然変異(Glu22Gly)もまた、APP遺伝子のAβペプチド領域内に位置する。この突然変異の保持者は、脳血管系疾患の症状を伴わず、ADに典型的な臨床的特徴を伴う進行性の認知症を発症する。ADは、野生型Aβペプチドのプロトフィブリル形成と比較して、突然変異Aβペプチド(Aβ40ARCおよび/またはAβ42ARC)を含むプロトフィブリルの加速的形成によってはっきりと特徴付けられる。最後に、Aβ内にAsp23Asn突然変異を有するアイオワ型突然変異の保持者は、重度の脳アミロイド血管症、広範囲におよぶ神経原線維変化および斑内でのAβ40の異常な大量分布を示す(Grabowskiら, Ann. Neurol. 49:691‐693(2001))。
【0004】
Aβ配列の外側のAPP遺伝子の突然変異もまたアルツハイマー病と関連付けられている。これらの突然変異は、APPのC末端領域のアミノ酸置換をコードし、γセクレターゼによる切断によって、Aβ40に対するAβ42の割合が増加するように作用する。このような突然変異は、オーストリア型突然変異(Thr714Ile、APP770アイソフォームのコドン番号)、フロリダ型突然変異(Ile716Val)、フランス型突然変異(Val715Met)、ドイツ型突然変異(Val715Ala)、インディアナ型突然変異(Val717Leu)およびロンドン型突然変異(Val717Ile)を含む。De Jongeら, Hum. Molec. Gen. 10:1665‐71(2001)を参照されたい。
【0005】
野生型ヒトAPPまたは突然変異ヒトAPPを発現する多くの遺伝子組換えマウスモデルが作出されている。突然変異形態のAPPは特異的に分解されて、Aβ斑内のAβ42沈着量の増加をもたらす。これらの遺伝子組換えマウスは、記憶力および運動機能の低下等のアルツハイマー病の神経症状を示す(Janus Cら, Curr. Neurol. Neurosci. Rep 1(5):451‐457(2001))。突然変異ヒトAPPおよび突然変異ヒトタウの両方を発現する遺伝子組換えマウスもまた作出されている(Jadaら, Science 293:1487‐1491(2001))。この二重遺伝子組換えマウスは、APPまたはAβのいずれかが神経原線維変化の形成に影響することを示唆する神経線維変性の促進を示す、ADのげっ歯類モデルである。マウスモデルがAD治療法の可能性を試験するのに非常に有用であることが証明されている一方、治療法の試験にそれらを使用するのは高価であり、かつ時間がかかる。よって、例えばセンチュウ(Caenorhabditis elegans)またはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)等の非哺乳類モデルで、より安価かつアルツハイマー病に対する治療剤のためのスクリーニングに有効に使用できる別のモデルを見出すことが有益となるであろう。
【0006】
モデル生物としてショウジョウバエを使用することが、ヒト神経変性経路の解明において1つの重要な手段となることが分かっている(Fortini, M及びBonini, N. Trends Genet. 16:161‐167(2000)に概説される)のは、ショウジョウバエゲノムが、機能において非常によく保存されている多くの関連するヒト相同分子種を含むためである(Rubin, G. M.ら, Science 287:2204‐2215(2000))。例えば、キイロショウジョウバエは、神経系機能に関与するヒトAPPと相同的な遺伝子を有する。このAPP様(APPL)遺伝子は、神経アイソフォームであるAPP695と約40%の同一性を有し(Rosenら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:2478‐2482(1988))、およびヒトAPP695のように、神経系においてのみ発現する。APPL遺伝子を欠損するハエはヒトAPP遺伝子によって回復する行動異常を示し、このことは2つの遺伝子が2つの生物において類似の機能を有することを示唆する(Luoら, Neuron 9:595‐605(1992))。さらに、ポリグルタミンリピート病のショウジョウバエモデル(Jackson, G. R.ら, Neuron 21:633‐642(1998);Kazemi‐Esfarani, P及びBenzer, S., Science 287:1837‐1840(2000);Fernandez‐Funezら, Nature 408:101‐6(2000))、パーキンソン病のショウジョウバエモデル(Feany, M. B.及びBender, W. W., Nature 404:394‐398(2000))および他の疾患のショウジョウバエモデルが確立されており、これらは細胞レベルおよび生理学的レベルでヒトにおける病状に厳密に類似しており、これらの疾患に関与し得る他の遺伝子を同定するのに用いることに成功している。ゆえに、モデル系としてのショウジョウバエの能力は、病状を示す能力および疾患の必須成分を同定するための大規模な遺伝子スクリーニングを実施する能力において実証されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ヒトAPPのカルボキシ末端断片(CTFAPP)、例えばC末端の99または100アミノ酸(それぞれ「C99」および「C100」と呼ばれることが多い)を発現する遺伝子組換えハエを開示する。本発明の遺伝子組換えハエの体細胞および胚細胞は、発現調節配列と作動可能に連結したCTFAPPをコードする導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、導入遺伝子の発現は変化した表現型を有するハエを生じる。特定の実施形態において、変化した表現型は神経変性の形態またはその性質に関連する。特定の実施形態において、遺伝子組換えハエはショウジョウバエである。CTFAPPをコードするDNA配列は、例えばアミノ酸リンカーの配列を介して、シグナルペプチドのためのDNA配列と結合し得る。導入遺伝子は発現調節配列によって時間的または空間的に制御可能であり、組織特異的、時間特異的または発達段階特異的であり得る。いくつかの実施形態において、CTFAPPは突然変異型または変異型である。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態において、遺伝子組換えハエはタウタンパク質をコードする第2の導入遺伝子を含む。第2の導入遺伝子は発現調節配列と作動可能に連結される。二重遺伝子組換えハエは、CTFAPP単独型で発現する遺伝子組換えハエによって示される変化した表現型と比較して、相乗的に変化した表現型を示す。いくつかの実施形態において、タウタンパク質はヒトタウであり、例えば、ヒトのタウの既知のスプライス変異型のうちの1つである。
【0009】
本発明の発現調節配列は、組織特異的であり得る。いくつかの実施形態において、発現調節配列はGAL4をコードするDNA配列と機能的に連動したUAS調節エレメントを含む。GAL4コード配列は、組織特異的プロモーター配列またはエンハンサー配列によって駆動する。特定の実施形態において、プロモーターまたはエンハンサーは全神経での発現または脳もしくは眼における発現に特異的である。
【0010】
本発明はまた、本発明の遺伝子組換えハエより得られる初代細胞培養物を提供する。初代細胞培養物は、例えば神経変性疾患に活性である薬剤を同定するために使用され得る。遺伝子組換えハエより得られる遺伝子組換え細胞は、アルツハイマー病等の神経変性疾患に関連する変化した表現型を有し得る。遺伝子組換え細胞は、例えば、タウタンパク質の変化したリン酸化状態またはアミロイドポリペプチドの変化した可溶性などの、変化した形態または分子成分の変化した生化学的状態等の変化した表現型を有し得る。
【0011】
別の態様において、本発明は神経変性疾患に活性である薬剤を同定するための方法に関する。本方法は、(1)候補薬剤と本発明の遺伝子組換えハエとを接触させるステップ、および(2)遺伝子組換えハエまたは遺伝子組換えハエから得た細胞の表現型を、候補薬剤と接触させない同様の(対照の)遺伝子組換えハエまたは細胞と比較して観察するステップを含む。対照のハエまたは細胞と比較した、候補薬剤と接触させた遺伝子組換えハエまたは細胞の、表現型における観察可能な違いは、神経変性疾患において活性を有する薬剤であることを示す。
【0012】
本発明はまた、神経変性疾患において活性を有する薬剤を同定するための別の方法に関する。本方法は、(1)本発明の遺伝子組換えハエまたはこのようなハエから得られた細胞、および野生型の対照のハエまたは細胞に候補薬剤を接触させるステップ、ならびに(2)遺伝子組換えハエまたは細胞と、対照のハエまたは細胞との間の表現型における違いを観察するステップを含み、ここで、表現型における違いは神経変性疾患において活性を有する薬剤であることを示す。
【0013】
さらなる態様において、本発明はAPP経路の遺伝的修飾因子、またはアルツハイマー病に作用し得る遺伝子を同定する方法に関する。本方法は、(1)野生型または前記の突然変異形態の1つのCTFAPPをコードする導入遺伝子を含み、そして場合によりタウタンパク質をコードする導入遺伝子を含む遺伝子組換えハエを、選択した遺伝子内に突然変異を含むゲノムを有するハエと交雑させるステップ、および(2)遺伝子組換えの表現型の変化について、子孫を観察するステップを含む。CTFAPPおよび/またはタウの一種類をコードする導入遺伝子と関連した表現型の変化は、選択した遺伝子がAPP経路を修飾し得る、またはアルツハイマー病に作用し得ることを示す。CTFAPPまたはタウの一種類をコードする導入遺伝子は、それぞれ組織特異的発現調節配列と作動可能に連結される。CTFAPPの一種類をコードする導入遺伝子は、場合によりシグナル配列と結合される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、CTFAPPを発現する遺伝子組換えハエにおけるAβペプチドの存在を示すイムノブロットを示す。実験の詳細は実施例1に記載する。
【図2】図2は、年齢に応じた、遺伝子組換えキイロショウジョウバエの運動能力の低下を図示する。キイロショウジョウバエに、実施例3に記載する登坂アッセイを受けさせた。ハエは、野生型(wt)または1つの導入遺伝子(タウまたはCTFAPP)または2つの導入遺伝子(CTFAPP、タウ)を含む型のいずれかである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ヒトC末端APP断片を、単独またはタウタンパク質と組み合わせて発現する遺伝子組換えハエを開示する。遺伝子組換えハエは神経変性を示し、これは、運動表現型、行動表現型(例えば、食欲、配偶行動および/または寿命)ならびに形態学的表現型(例えば、細胞、器官もしくは付属器の形状、サイズまたは位置;あるいはハエのサイズ、形状もしくは成長速度)を含む様々な変化した表現型を導き得る。
【0016】
本明細書で用いる用語「遺伝子組換えハエ」は、その体細胞および胚細胞がプロモーターと作動可能に連結している導入遺伝子を含むハエを指し、ここで、導入遺伝子はヒトC末端APP断片をコードし、および神経系における前記導入遺伝子の発現が、神経変性の性質を有するハエまたは神経変性したハエを生じる。用語「二重遺伝子組換えハエ」は、その体細胞および胚細胞が少なくとも2つの導入遺伝子を含む遺伝子組換えハエを指し、ここで、導入遺伝子はタウおよびヒトC末端APP断片をコードする。例示した二重遺伝子組換えハエは、2つの単一の遺伝子組換えハエを交雑させることによって作出されるが、本発明の二重遺伝子組換えハエは、外来DNAを動物に導入するための当技術分野において知られるあらゆる方法を用いて作出され得る。用語「遺伝子組換えハエ」および「二重遺伝子組換えハエ」は、ハエのあらゆる発達段階、つまり胚形成期、幼生期、蛹期および成虫期を含む。特定のハエ、例えばショウジョウバエの発達は温度依存的である。ショウジョウバエの卵は、約0.5mm長である。受精後胚が発達し、およびミミズ様の幼虫に孵化するのに、約1日かかる。幼虫は摂食し、および成長し続け、孵化後1日、2日および4日で脱皮する(一齢、二齢および三齢)。三齢幼虫になって2日後に、幼虫はもう一度脱皮して動かない蛹を形成する。次の4日間の間に、体が完全に作り直されて成虫の有翼形態となり、次に蛹の殻から羽化し、翌日には繁殖力を有する(発達の時期は25℃である;18℃では発達は約2倍長くかかる)。
【0017】
本明細書で用いる用語「神経変性」は、神経または感覚神経器官、組織もしくは細胞の形態的変化、機能的変化または発達的変化、行動欠陥、または運動欠陥を引き起こす中枢神経系における状態を意味し、ここで、そのような変化は、幼虫または成虫ハエのいずれかにおいて、定性的にまたは定量的に解析することができる。
【0018】
本明細書で用いる「ハエ」は、羽を有する小型の昆虫、特に、例えばショウジョウバエ等の双翅類を指す。本明細書で用いる「ショウジョウバエ(Drosophila)」は、ショウジョウバエ科類のあらゆるメンバーを指し、Drosophila funebris、Drosophila multispina、Drosophila subfunebris、guttifera species group、Drosophila guttifera、Drosophila albomicans、Drosophila annulipes、Drosophila curviceps、Drosophila formosana、Drosophila hypocausta、Drosophila immigrans、Drosophila keplauana、Drosophila kohkoa、Drosophila nasuta、Drosophila neohypocausta、Drosophila niveifrons、Drosophila pallidiftons、Drosophila pulaua、Drosophila quadrilineata、Drosophila siamana、Drosophila sulfurigaster albostrigata、Drosophila sulfurigaster bilimbata、Drosophila sulfurigaster neonasuta、Drosophila Taxon F、Drosophila Taxon I、Drosophila ustulata、Drosophila melanica、Drosophila paramelanica、Drosophila tsigana、Drosophila daruma、Drosophila polychaeta、quinaria species group、Drosophila falleni、Drosophila nigromaculata、Drosophila palustris、Drosophila phalerata、Drosophila subpalustris、Drosophila eohydei、Drosophila hydei、Drosophila lacertosa、Drosophila robusta、Drosophila sordidula、Drosophila repletoides、Drosophila kanekoi、Drosophila virilis、Drosophila maculinatata、Drosophila ponera、Drosophila ananassae、Drosophila atripex、Drosophila bipectinata、Drosophila ercepeae、Drosophila malerkotliana malerkotliana、Drosophila malerkotliana pallens、Drosophila parabipectinata、Drosophila pseudoananassae pseudoananassae、Drosophila pseudoananassae nigrens、Drosophila varians、Drosophila elegans、Drosophila gunungcola、Drosophila eugracilis、Drosophila ficusphila、Drosophila erecta、Drosophila mauritiana、Drosophila melanogaster、Drosophila orena、Drosophila sechellia、Drosophila simulans、Drosophila teissieri、Drosophila yakuba、Drosophila auraria、Drosophila baimaii、Drosophila barbarae、Drosophila biauraria、Drosophila birchii、Drosophila bocki、Drosophila bocqueti、Drosophila burlai、Drosophila constricta(sensu Chen及びOkada)、Drosophila jambulina、Drosophila khaoyana、Drosophila kikkawai、Drosophila lacteicornis、Drosophila leontia、Drosophila lini、Drosophila mayri、Drosophila parvula、Drosophila pectinifera、Drosophila punjabiensis、Drosophila quadraria、Drosophila rufa、Drosophila seguyi、Drosophila serrata、Drosophila subauraria、Drosophila tani、Drosophila trapezifrons、Drosophila triauraria、Drosophila truncata、Drosophila vulcana、Drosophila watanabei、Drosophila fuyamai、Drosophila biarmipes、Drosophila mimetica、Drosophila pulchrella、Drosophila suzukii、Drosophila unipectinata、Drosophila lutescens、Drosophila paralutea、Drosophila prostipennis、Drosophila takahashii、Drosophila trilutea、Drosophila bifasciata、Drosophila imaii、Drosophila pseudoobscura、Drosophila saltans、Drosophila sturtevanti、Drosophila nebulosa、Drosophila paulistorumおよびDrosophila willistoniを含むが、これらに限定されない。1つの実施形態において、ハエはキイロショウジョウバエである。
【0019】
本明細書で用いる用語「ヒトAPPのカルボキシ末端断片」、「カルボキシ末端APP断片」、「C末端APP断片」および「CTFAPP」はすべて、基本的にヒトAPPのアイソフォームのβセクレターゼ切断から生じて、C99またはC100となる断片からからなるヒトAPPの断片を指す。いくつかの実施形態において、CTFAPPはAPPの細胞内領域、膜貫通領域および細胞外領域の一部を含み、βセクレターゼ切断部位前後までおよぶ。好ましくは、本発明のCTFAPPは、C99(配列番号:1のヌクレオチド配列でコードされる配列番号:2、遺伝コードの縮重のために、異なるヌクレオチド配列が同一のポリペプチド配列をコードし得ることが注目される。)またはCTFAPP(配列番号3のヌクレオチド配列によってコードされる配列番号4)のいずれかであり、それぞれC末端からN末端にかけて、99あるいは100アミノ酸におよぶAPPのC末端断片に相当する。本発明のCTFAPPは、野生型であるか、あるいは例えばアルツハイマー病の早期発症もしくは心血管系の合併症等の別の兆候を引き起こすことが知られるまたは疑われる、家族性突然変異などの突然変異、を有し得る。このような突然変異は、E665D、K/M670N/L、A673T、H677R、D678N、A692G、E693G、E693Q、E693K、D694N、A713T、A713V、T714I、T714A、V715M、V715A、I716V、I716T、V717F、V717G、V717LおよびL723Pを含むが、これらに限定されない。タウをコードする導入遺伝子も有する二重遺伝子組換えハエは、野生型あるいはロンドン型突然変異(V717I)を有するCTFAPPを含み得る。タウ導入遺伝子を持たない遺伝子組換えハエは、野生型CTFAPPおよびロンドン型突然変異以外のCTFAPPの突然変異のみを含む。
【0020】
本明細書で用いる用語「アミロイド斑沈着」は、Aβ42等のアミロイドペプチドの蓄積によって細胞外に形成される、不溶性のタンパク質凝集体を指す。
【0021】
本明細書で用いる用語「シグナルペプチド」は、一般的には20アミノ酸長未満の短いアミノ酸配列を指し、タンパク質をハエの小胞体分泌経路に向けて、または経由するように導く。本発明で用いる「シグナルペプチド」は、ヒトAPP695(配列番号5)のシグナルペプチド、「wingless(wg)シグナルペプチド」(配列番号6)と同義であるDintタンパク質のショウジョウバエシグナルペプチド、「argos(aos)シグナルペプチド」(配列番号7)、ショウジョウバエAPPLシグナルペプチド(配列番号8)、プレセニリンシグナルペプチド(配列番号9)およびwindbeutelシグナルペプチド(配列番号10)を含むが、これらに限定されない。タンパク質を小胞体を経由するよう導き、およびγセクレターゼ切断に感受性となる膜においてCTFAPPの発現をもたらす、前記のシグナルペプチドの変異体を含むあらゆるシグナルペプチドが、本発明に使用され得る。
【0022】
本明細書で用いる「アミノ酸リンカー」は、約2〜約10アミノ酸長の短いアミノ酸配列を指し、2つの個別のペプチドが両側に並ぶ。
【0023】
本明細書で用いる用語「タウタンパク質」は、微小管結合タンパク質タウを指し、微小管重合と安定化に関与する。アルツハイマー病患者の神経組織において、タウは神経原線維変化の細胞内沈着に見られる。多くのヒトタウ遺伝子配列が存在する。成人脳において、6種のタウアイソフォームが1つの遺伝子から別のmRNAスプライシングによって産生する(Goedertら, Neuron.(1989) 3:519−26)。遺伝子コードの縮重のために、異なるヌクレオチド配列が同一のポリペプチド配列をコードし得ることが注目される。ヒトタウタンパク質をコードするヒト遺伝子は、参照により本明細書に組み込まれるAndreadis, A.ら, Biochemistry, 31(43):10626‐10633(1992)に記載されるように、11のエキソンを含む。成人脳において、6種のタウアイソフォームが1つの遺伝子から選択的mRNAスプライシングによって産生する。これらは互いに、アミノ末端半分に位置する29または58アミノ酸の挿入、およびカルボキシル末端半分に位置する31アミノ酸のリピートが存在するかしないかによって異なる。タウ遺伝子のエキソン10によってコードされる後者を含むものは、各々4つのリピートを有する3種のタウアイソフォームを生じさせる。本明細書で用いる用語「タウタンパク質」は、選択的mRNAスプライシングによって産生する様々なタウアイソフォームに加えて、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14に記載されるヒトタウタンパク質の突然変異型も含む。1つの実施形態において、二重遺伝子組換えハエを作出するのに使用するタウタンパク質は、配列番号15(アミノ酸配列)および配列番号16(ヌクレオチド配列)に示される。このアイソフォームは、タウのエキソン2および3に加えて4つの微小管結合リピートを含む。正常なヒト大脳皮質において、4リピートのタウアイソフォームより3リピートのタウアイソフォームがわずかに優勢である。これらのリピートおよび一部の隣接配列が、タウの微小管結合領域を構成する(Goedertら, 1998 Neuron 21, 955‐958)。アルツハイマー病患者の神経組織において、タウは高度にリン酸化されており、およびMCIおよびALZ50等の構造依存的な抗体を用いて検出可能な異常構造および/または病的構造をとる(Jicha G.A.ら, Journal of Neuroscience Research 48:128‐132(1997))。従って、本明細書で用いる「タウタンパク質」は、これらの構造特異的抗体によって認識されるタウタンパク質を含む。
【0024】
本発明はさらに、これらのタウ配列の同等物として、神経原線維変化を形成するタウの生物学的作用を保持する突然変異配列を企図する。従って、本明細書で用いる「タウタンパク質」はまた、突然変異および変異を含むタウタンパク質を含む。これらの突然変異体は:エキソン10+12「Kumamoto pedigree」(Yasudaら(2000) Ann Neurol. 47:422‐9)、I260V(Groverら, Exp Neurol. 2003 Nov; 184:131−40)、G272V(Huttonら, 1998 Nature 393:702‐5; Heutinkら(1997) Ann Neurol. 41:150‐9; Spillantiniら, (1996) Acta Neuropathol(Berl). 1996 Jul; 92:42‐8)、N279K(Clarkら, (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:13103‐13107; D’Souzaら, (1999) Proc Natl Acad Sci USA 96:5598‐5603; Reedら, (1997) Ann Neurol. 1997 42:564−72; Hasegawaら, (1999) FEBS Letters 443:93‐96; Hongら, (1998) Science 282:1914‐17)、delK280(Rizzuら, (1999) Am J Hum Genet 64:414‐421; D’Souzaら, (1999) Proc Natl Acad Sci USA 96:5598‐5603)、L284L(D’Souzaら, (1999) Proc Natl Acad Sci USA 96:5598‐5603)、P301L(Huttonら, 1998 Nature 393:702‐5; Heutinkら, (1997) Ann Neurol. 41:150‐9; Spillantiniら,(1996) Acta Neuropathol(Berl)(1996)92:42‐8; Hasegawaら, (1998) FEBS Lett. 1998 437(3):207−10; Nacharajuら,(1999) FEBS Letters 447:195‐199)、P301S(Bugiani(1999) J Neuropathol Exp Neurol 58:667−77; Goedertら, (1999) FEBS Letters 450: 306‐311)、S305N(Iijimaら, (1999) Neuroreport 10:497‐501; Hasegawaら,(1998) FEBS Lett. 1998 437:207−10; D’Souzaら,(1999) Proc Natl Acad Sci USA 96:5598‐5603)、S305S(Stanfordら, Brain, 123, 880−893, 2000)、S305S(Wszolekら, Brain. 2001 124:1666‐70)、V337M(Poorkajら, (1998) Ann Neurol. 1998 43:815−25; Spillantiniら, (1998) American Journal of Pathology 153: 1359‐1363; Sumiら, (1992) Neurology. 42:120‐7; Hasegawaら, (1998) FEBS Lett. 1998 437:207−10)、G389R(Murrellら, J Neuropathol Exp Neurol. (1999) 58:1207‐26; Pickering‐Brownら, Ann Neurol. (2000) 48:859−67)、R406W(Huttonら, (1998) Nature 393:702‐5; Reedら, (1997) Ann Neurol. 42:564−72; Hasegawaら, (1998) FEBS Lett. 437:207−10)、3’Ex10+3、 GtoA(Spillantiniら, (1998) American Journal of Pathology 153:1359‐1363; Spillantiniら, (1997) Proc Natl Acad Sci U S A. 94:4113‐8)、3’Ex10+16(Bakerら, (1997) Annals of Neurology 42:794‐798; Goedertら, (1999b) Nature Medicine 5:454‐457; Huttonら, (1998) Nature 393:702‐705)、3’Ex10+14(Huttonら,(1998) Nature 393:702‐705; Lynchら,(1994) Neurology 44:1878‐1884)、3’Ex10+13(Huttonら,(1998) Nature 393:702‐705)を含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明はさらに、配列の多型を含むタウ遺伝子の使用を含む(例えば、表1を参照せよ)。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明はまた、マウス(Leeら, Science 239:285‐8(1988))、ラット(Goedertら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:1983‐1987(1992))、ウシ(Bos taurus)(Himmlerら, Mol. Cell. Biol. 9:1381‐1388(1989))、キイロショウジョウバエ(Heidary及びFortini, Mech. Dev. 108:171‐178(2001))およびアフリカツメガエル(Xenopus laevis)(Olesenら, Gene 283:299‐309(2002))を含むがこれらに限定されない他の動物由来のタウタンパク質またはタウ遺伝子の使用を企図する。他の動物由来のタウ遺伝子は、上記と同等の突然変異をさらに含み得る。同等の位置は、配列アライメントによって特定することが可能で、および同等の突然変異は、部位特異的突然変異誘発手段または当技術分野において知られる他の手段を用いて導入することができる。
【0028】
本明細書で用いる用語「神経原線維変化」は、細胞内で形成し、主にタウタンパク質から構成される不溶性のねじれた線維を指す。
【0029】
本明細書で用いる用語「作動可能に連結した」は近位を指し、ここで、記載する成分はそれらが意図する様式で機能することを許容する関係にある。コード配列に「作動可能に連結した」発現調節配列は、コード配列の発現が調節配列の活性に対応する条件下で達成されるように連結される。
【0030】
本明細書で用いる用語「発現調節配列」は、プロモーター、エンハンサーエレメントおよび特定の核酸配列の発現制御に寄与する他の核酸配列を指す。用語「プロモーター」は、転写開始の間にRNAポリメラーゼによって認識されるDNA配列を指し、エンハンサーエレメントも含み得る。本明細書で用いる用語「エンハンサーエレメント」は、シス作用性核酸エレメントを指し、距離および位置と無関係に相同のプロモーターに加えて非相同のプロモーターからの転写開始を調節する。好ましくは、「エンハンサーエレメント」は、転写開始の組織的特異性および時間的特異性も調節する。特定の実施形態において、エンハンサーエレメントはUAS調節エレメントを含むが、これに限定されない。本明細書で用いる「UAS」は、GAL4転写活性化因子が認識および結合する上流活性化配列を指す。本明細書で用いる用語「UAS調節エレメント」は、GAL4転写制御タンパク質によって活性化するUASエレメントを指す。本発明の発現調節配列は、好ましくは組織特異的な様式で発現を駆動する能力に対して選抜される。あるいはまた、発現調節配列は、チューブリン、アクチンまたはユビキチンのように普遍的に発現する遺伝子由来であり得る。さらに他の実施形態において、発現調節配列はテトラサイクリン調節転写活性化因子(tTA)応答性制御エレメントを含む。場合により、タウおよびCTFAPP導入遺伝子を含む遺伝子組換えハエは、さらにtTA遺伝子を含む。
【0031】
本明細書で用いる用語「組織特異的」発現調節配列は、ある組織または組織の一部において発現を駆動するが、少なくともある他の組織において実質的に不活性である発現調節配列を指す。「実質的に不活性」とは、組織特異的発現調節配列に作動可能に連結した配列の発現が、発現調節配列が活性である組織でのその配列の発現のレベルの5%未満であることを意味する。好ましくは、この組織での発現のレベルは、最大活性の1%未満、またはこの組織での配列の発現が検出されない。「組織特異的発現調節配列」は、眼、羽、胸背板、脳等の器官に加え、中枢神経系および末端神経系の組織に対して特異的であるものを含む。本発明の組織特異的発現調節配列は、GAL4‐UAS系の「ドライバー」として使用することができ、あるいはまた、シス作用様式でその発現を調節するために導入遺伝子の上流に挿入することができる。
【0032】
組織特異的調節配列の例示は:sevenless(Bowtellら, Genes Dev. 2:620−34(1988))、eyeless(Bowtellら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88:6853‐7(1991))およびGMR/glass(Quiringら, Science 265:785‐9(1994))等の眼の発達に重要なプロモーター/エンハンサー、眼での発現に有用なロドプシン遺伝子のいずれか由来のプロモーター/エンハンサー、羽での発現に有用なdpp、vestigialまたはwingless遺伝子由来のエンハンサー/プロモーター(Staehling‐Hamptonら, Cell Growth Differ. 5:585−93(1994); Kimら, Nature 382:133‐8(1996); Giraldezら, Dev. Cell 2:667‐676(2002))、例えば、有糸分裂後の神経細胞での全神経発現に対して特異的であるelavなどの神経特異的プロモーター/エンハンサー(Yao及びWhite, J. Neurochem. 63:41‐51(1994))、神経芽細胞から神経細胞での全神経発現に特異的であるscabrous(sca)(Songら, Genetics 162:1703‐24(2002))、APPL(Martin‐Morris及びWhite, Development 110:185−95(1990))、中枢神経系での発現に特異的なNervana2(Nrv2)(Sunら, Proc. Nat’l. Acad. Sci. U.S.A.96:10438‐43(1999))、コリン作動性神経細胞に特異的なCha(Barberら, J. Comp. Neurol. 22:533−43(1989))、ドーパミン作動性神経細胞に特異的なTH(Friggi‐Grelinら, J. Neurobiol. 54:618−27(2003))、胚および幼虫の中枢神経系ならびに成虫の脳、胸部神経節および消化管に特異的なCaMKII(Takmatsuら, Cell Tissue Res. 310:237−52(2002))、指節骨感覚神経細胞に特異的なP(Gendreら, Development 131:83‐92(2004))、脳のキノコ体に特異的なDmef2(Maoら, Proc.Natl.Acad.Sci. USA 101:198−203(2004),GAL4系統は「P247」と命名される)およびOK107(Leeら, Development 126:4065‐4076(1999))、運動神経細胞に特異的なC164(Torrojaら, J. Neurosci. 19:7793‐7803(1999))および他の神経特異的遺伝子由来のプロモーター/エンハンサー、ならびにグリア細胞に特異的なgcm(Dumstreiら, J. Neurosci. 23:3325‐35(2003))を含むがこれらに限定されず、これらの参考文献のすべてを参照により本明細書に組み込む。発現調節配列の他の例示は、温度誘導性発現に有用なhsp70およびhsp83遺伝子由来の熱ショックプロモーター/エンハンサー、ならびにチューブリン、アクチンまたはユビキチン等の普遍的に発現する遺伝子由来のプロモーター/エンハンサーを含むが、これら限定されない。
【0033】
遺伝子組換えハエについて本明細書で用いる用語「表現型」は、ハエの観察可能かつ/もしくは測定可能な物理的、行動的または生化学的特徴を指す。本明細書で用いる用語「変化した表現型」または「表現型における変化」は、野生型のハエの表現型と比較して測定可能なようにまたは観察可能なように変化した表現型を指す。変化した表現型の例としては、食欲、配偶行動および/または寿命等の行動表現型、rough eye表現型、concave wing表現型、あらゆる異なる器官もしくは付属器の形状、サイズ、成長速度または位置、または対照のハエにおいて観察される同様の特徴と比較して組織もしくは細胞の異なる分布および/または特徴等の形態的表現型、および登坂能力の低下、歩行能力の低下、飛行能力の低下、速度または加速の低下、異常軌跡、異常旋回および異常なグルーミング等の運動機能障害表現型を含む。変化した表現型は、測定可能な量、例えば、少なくとも統計的に有意な量、好ましくは対照のハエの表現型と比較して少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%または50%変化した表現型である。本明細書で用いる用語「相乗的な変化した表現型」または「相乗的な表現型」は、ハエの測定可能かつ/もしくは観察可能な物理的、行動的または生化学的特徴が、これらの要素の合計より上回る表現型を指す。
【0034】
本発明の遺伝子組換えハエより得られた細胞、例えばそのようなハエから得た初代培養物中の細胞についての用語「表現型」は、細胞の観察可能かつ/または測定可能な物理的、生理学的または生化学的特徴を指す。細胞表現型は、例えばサイズ、形状、凝集状態等の細胞のあらゆる形態的特性、もしくはオルガネラもしくは分子集合体の分布または外見、細胞骨格の組織、細胞内微小線維変化の存在または外見、または細胞外斑の存在または外見等のあらゆる細胞内部の超微細構造特性であり得る。細胞の表現型はまた、細胞運動性、基質もしくは他の細胞への接着、軸索または樹状突起等の構造の伸長、軸索輸送、エキソサイトーシス、エンドサイトーシス、分泌、神経伝達物質の放出、巨大分子の合成または分解、代謝、酸化ストレスへの感受性、生化学物質または産物のレベル、タンパク質のリン酸化レベル(例えば、変化したタウのリン酸化またはβアミロイドが誘導した変化したタウのリン酸化)、輸送活性、電気物理学的特性、DNA合成、遺伝子転写、タンパク質合成、細胞周期現象、生存能力等のあらゆる態様も含み得る。
【0035】
本明細書で用いる「rough eye」表現型は、神経細胞の変性によって起こり得る感桿分体の消失、異常な個眼充填、偶発的な個眼融合および剛毛の欠損を特徴とする。眼は野生型のハエにおける外見と比較して凹凸のある外見となる可能性があり、および顕微鏡により容易に観察できる。神経変性はハエの複眼において容易に観察および定量され、何の試料調製をすることなく採点することが可能である(Fernandez‐Funezら, 2000, Nature 408:101‐106;Steffanら, 2001, Nature 413:739−743;Agrawalら, 2005, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:3777‐3781)。この生物の眼は、各々のショウジョウバエの個眼の光受容体神経によって形成される7つの可視的な感桿分体の規則正しい台形配置から構成される。ショウジョウバエの眼において特異的な突然変異導入遺伝子の発現は、感桿分体の進行的な消失およびそれに続く凹凸のある外見の眼をもたらし、これは例えば個眼当たりの感桿分体の数として定量的に表すことができる(Fernandez‐Funezら, 2000;Steffanら, 2001)。これらの生物に対する治療化合物の投与は光受容体変性を遅延させ、rough‐eye表現型を改善する(Steffanら, 2001)。
【0036】
本明細書で用いる「concave wing」表現型は、ハエの羽の折り畳みが異常であることによって、羽がそれらの長い周縁部に沿って上向きに曲がることを特徴とする。
【0037】
本明細書で用いる「運動機能障害」は、対照のハエと比較して、ハエが運動活動、動作または刺激応答を欠損する表現型を指す(例えば、測定可能な要素において、少なくとも統計的に有意な差または10%の差)。運動活動は、飛行、登坂、這いずりおよび旋回を含む。さらに、欠損が測定可能な動作特性は、i)一定時間に移動した平均総距離、ii)一定時間に一方向に移動した平均距離、iii)平均速度(時間単位当たりに動いた平均総距離)、iv)時間単位当たりに一方向に動いた距離、v)加速度(時間に対する速度変化の割合)、vi)旋回、vii)躓き、viii)特定の決められた区域または地点に対するハエの空間的位置、ix)動くハエの軌跡形状ならびにx)幼虫行動中のうねり、xi)幼虫頭部の生育または膨張およびxii)幼虫尾部のフリッカーを含むが、これらに限定されない。空間的位置を特徴とする動作特性の例示は、(1)対象の区画内で過ごす平均時間(例えば、容器の底、中央または上端で過ごす時間、容器内の決められた区画への訪問回数)、および(2)ハエと対象の地点(例えば、区画の中央)との間の平均距離を含むが、これらに限定されない。軌跡形状特性の例示は、(1)角速度(動作の方向における変化の平均速度)、(2)旋回(2つの連続したサンプル間隔の動作ベクトル間の角度)、(3)旋回の頻度(時間単位当たりの平均旋回量)および(4)躓きまたは蛇行(距離に対する動作の方向の変化)を含む。旋回の要因は、円滑な旋回動作(小さな回転と定義する)および/または乱れた旋回動作(大幅な回転と定義する)を含み得る。運動表現型は、例えば米国特許出願番号2004/0076583、2004/0076318及び2004/0076999に記載される方法を用いて解析することができ、これらの各々を参照により本明細書にその全体を組み込む。
【0038】
試験集団または参照集団の表現特性は、集団の特性を測定することによって決定する。本発明は、集団の複数の特性を同時に測定することができる。1つの特性を測定することができるが、複数の特性も測定することができる。例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも7又は少なくとも10の特性を、集団に対して評価することができる。測定する特性は、動作特性のみ、行動特性のみ、形態的特性のみまたは複数の分野における特性の混合であり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの動作特性および少なくとも1つの非動作特性が評価される。
【0039】
本明細書で用いる「対照のハエ」は、比較される遺伝子組換えハエの遺伝子型と同一の幼虫または成虫のハエを指し、ここで対照のハエが、i)遺伝子組換えハエに存在する導入遺伝子の1つまたは両方を含まない、ii)候補薬剤が投与されていない、またはiii)GAL4‐UAS系に対する要因を有さない、ことのいずれかを除く遺伝子組換え。
【0040】
本明細書で用いる用語「候補薬剤」は、生物学的化合物または化学的化合物を指し、これらは遺伝子組換えハエに投与した場合に、例えば、変化した表現型が野生型ハエの表現型へ一部または完全に復帰するなどのハエの表現型を改変する可能性を有する。本明細書で用いる「薬剤」は、あらゆる組換え、修飾または天然の核酸分子、組換え、修飾または天然の核酸分子のライブラリ、合成、修飾または天然のペプチド、合成、修飾または天然のペプチドのライブラリ、および小分子を含むあらゆる有機化合物または無機化合物、もしくは小分子を含む有機化合物もしくは無機化合物のライブラリを含む。
【0041】
本明細書で用いる用語「小分子」は、分子量が3000ダルトン未満、好ましくは2000ダルトン又は1500ダルトン未満、更に好ましくは1000ダルトン未満および最も好ましくは600ダルトン未満の分子量を有する化合物を指す。好ましくは、必須ではないが、低分子はオリゴペプチド以外の化合物である。
【0042】
本明細書で用いる「治療剤」は、哺乳動物、特にヒトのアルツハイマー病等の神経変性疾患の1以上の症状が改善する薬剤を指す。治療剤は、疾患の1以上の症状を軽減する、1以上の症状の発症を緩和すること、または疾患を予防もしくは回復することができる。
〔発明の詳細な説明〕
【0043】
I.遺伝子組換えショウジョウバエの作出
CTFAPPをコードする導入遺伝子を有する遺伝子組換えハエ、ならびにタウタンパク質およびCTFAPPの両方をコードする導入遺伝子を有する二重遺伝子組換えハエを開示する。遺伝子組換えハエは、Aβ42ペプチドの細胞外凝集および微小管結合タンパク質タウの高度リン酸化型の細胞内沈着を特徴とする、アルツハイマー病等の神経変性疾患のためのモデルを提供する。本発明の遺伝子組換えハエは、アルツハイマー病の治療に有効な治療剤をスクリーニングするのに使用され得る。
【0044】
ショウジョウバエなどのハエは、γセクレターゼ活性を有するが、βセクレターゼ活性を有しない。従って、遺伝子組換えハエ内のヒトAPPのみの発現は、Aβ42またはAβ40ペプチドの形成をもたらさないだろう。しかし、CTFAPPのN末端はβセクレターゼ切断から生じるN末端に近似するため、遺伝子組換えハエ内のCTFAPPのみの発現は、CTFAPPを基質としたハエのγセクレターゼの作用のために、Aβ42、Aβ40および類似のペプチドの形成が生じる。従って、本発明のハエはAβ42の加工、輸送および蓄積ならびに生じる神経変性に加えて、APP遺伝子のCTFAPPがコードする領域における突然変異および変異の作用、またはタウ遺伝子の突然変異および変異の作用を研究するために適したモデルである。
【0045】
本発明の遺伝子組換えハエは、当業者に知られるあらゆる手段によって作出することができる。遺伝子組換えショウジョウバエ株の産生および解析の方法は、十分に確立されており、Brendら, Method in Cell Biology 44:635‐654(1994);Hayら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(10):5195‐200(1997);及びDrosophila: A Practical Approach(D. B. Roberts監修), pp175‐197, IRL Press, Oxford, UK(1986)に記載され、本明細書に参照によりこれらの全体を組み込む。
【0046】
一般的に、遺伝子組換えハエを作出するために、目的の導入遺伝子は安定してハエのゲノムに組み込まれる。あらゆるハエが使用可能であるが、本発明の好ましいハエはショウジョウバエ科類のメンバーである。例示的なハエは、キイロショウジョウバエである。
【0047】
様々な形質転換ベクターが、本発明の遺伝子組換えハエの作出に有用であり、およびゲノム内への導入遺伝子の無作為な組込みを媒介するトランスポゾン配列を含むベクター、および相同組換えに使用するベクター(Rong及びGolic, Science 288:2013‐2018(2000))を含むが、これらに限定されない。本発明の好ましいベクターは、ハエのゲノム内への目的の導入遺伝子の挿入を仲介する転移Pエレメント由来の配列を含むpUAST(Brand及びPerrimon, Development 118:401‐415(1993))である。別の好ましいベクターは、ドキシサイクリン依存性過剰発現を生じ得るPdL(Nandis, Bhole及びTower, Genome Biology 4(R8):1‐14, (2003))である。さらに別の好ましいベクターはpExP‐UASであり、クローニングおよびゲノム位置解析が容易なためである。本発明で使用する2つの特定のベクターは、pExP‐UAS:CTF‐I(配列番号17)およびpExP‐UAS:CTF‐II(配列番号18)である。pExP‐UAS:CTF‐Iは、ヒトAPPのシグナル配列、CTFAPP及びmycタグをコードする。pExP‐UAS:CTF‐IIは、ショウジョウバエのクチクラタンパク質(Vinc)のシグナル配列、CTFAPP及び3xHAタグをコードする。
【0048】
Pエレメントトランスポゾンが媒介する形質転換は、通常遺伝子組換えハエの作出のために使用される技術であり、Spradling, P‐element mediated transformation, in Drosophila:A Practical Approach(D. B. Roberts監修), pp175‐197, IRL Press, Oxford, UK(1986)に詳細に記載されており、参照により本明細書に組み込む。転移エレメントに基づく他の形質転換ベクターは、例えば、hoboエレメント(Blackmanら, Embo J. 8:211‐7(1989))、marinerエレメント(Lidholmら, Genetics 134:859−68(1993))、hermesエレメント(O’Brochtaら, Genetics 142:907−14(1996))、Minosエレメント(Loukerisら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9485‐9(1995))またはPiggyBacエレメント(Handlerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:7520‐5(1998))を含む。一般的に、転移に必要なトランスポゾンの末端反復配列は形質転換ベクター内に組み込まれ、および末端反復配列が目的の導入遺伝子の横にくるように配置される。形質転換ベクターは、遺伝子組換え動物を同定するために使用するマーカー遺伝子を含むことが好ましい。ショウジョウバエwhite遺伝子の誘導体(Pirrotta V.及びC. Brockl, EMBO J. 3(3):563‐8(1984))またはショウジョウバエrosy遺伝子の誘導体(Doyle Wら, Eur. J Biochem. 239(3):782−95(1996))等、ショウジョウバエの眼色に作用するマーカー遺伝子が一般的に使用される。遺伝子組換え動物において、確実かつ容易に測定される表現型変化を生じるあらゆる遺伝子が、マーカーとして使用され得る。形質転換に使用される他のマーカー遺伝子の例示は、剛毛およびクチクラ色素を変化させるyellow遺伝子(Wittkopp Pら, Curr Biol. 12(18):1547‐56(2002))、剛毛の形態を変化させるforked遺伝子(McLachlan A, Mol Cell Biol. 6(1):1‐6(1986))、Adh‐株の形質転換のための選抜マーカーとして使用されるAdh+遺伝子(McNabb Sら, Genetics 143(2):897‐911(1996))、Ddcts2突然変異株を形質転換するのに使用するDdc+遺伝子(Scholnick Sら, Cell 34(1):37‐45(1983))、大腸菌(E. coli)のlacZ遺伝子;大腸菌トランスポゾンTn5由来のネオマイシン(登録商標)遺伝子、および緑色蛍光タンパク質(GFP;Handler及びHarrell, Insect Molecular Biology 8:449‐457(1999))を含み、これらは例えば眼、触角、羽および脚特異的プロモーター/エンハンサーエレメントなどの異なるプロモーター/エンハンサーエレメント、またはポリユビキチンプロモーター/エンハンサーエレメントの調節下であり得る。
【0049】
所望の導入遺伝子を導入するためのプラスミド構築物は、適切な遺伝的背景を有するショウジョウバエの胚の中に、ゲノムDNA内に導入遺伝子を組み込むのに必要な特定の転移酵素を発現するヘルパープラスミドと共に同時注入する。注入した胚(G0成虫)から生じる動物を、マーカー遺伝子表現型の発現に基づいて遺伝子組換えモザイク動物を手作業で選抜またはスクリーニングし、続いて目的の導入遺伝子を1コピー以上安定して有する、完全な遺伝子組換え動物(G1および次の世代)を作出するために交雑させる。
【0050】
UAS/GAL4系等のバイナリー系は、遺伝子組換えハエを作出するために一般的に用いられる。これは酵母GAL4転写活性化タンパク質によるプロモーターの調節のためのUAS上流制御配列を採用する十分に確立した系であり、BrandおよびPerrimon, Development 118:401−15(1993)ならびにRorthら, Development 125:1049‐1057(1998)に記載され、参照により本明細書にこれらの全体を組み込む。この手法において、「ターゲット」系統と呼ばれる遺伝子組換えショウジョウバエを作出し、これは目的の遺伝子(例えば、C末端APP断片またはタウをコードする導入遺伝子)がUASによって調節される適切なプロモーター(例えば、hsp70 TATAボックス、Brand及びPerrimon, Development 118:401−15(1993))と作動可能に連結している。「ドライバー」系統と呼ばれる他の遺伝子組換えショウジョウバエ株を作出し、これはGAL4コード領域が、眼、触角、羽または神経系等の特定の組織において、GAL4活性化タンパク質の発現を導くプロモーター/エンハンサーと作動可能に連結している。目的の遺伝子は、目的の遺伝子に結合したプロモーターから転写を「ドライブ」する転写活性化因子を欠損するため、「ターゲット」系統において発現しない。しかし、UAS‐ターゲット系統がGAL4ドライバー系統と交雑すると、目的の遺伝子が誘導される。結果として生じた子孫は、GAL4系統に特徴的な特定の発現様式を示す。
【0051】
この手法の技術的な容易さは、目的の遺伝子を有する1つの遺伝子組換えターゲット系統を作出することにより、およびそのターゲット系統をすでに存在するドライバー系統の一団と交雑させることにより、幅広い組織における目的の遺伝子の直接の発現の効果を抽出することを可能とする。特定のドライバーを有する多くのGAL4ドライバーショウジョウバエ株は文献に記載されており、および他は確立された技術を用いて容易に調製され得る(Brand及びPerrimon, Development 118:401−15(1993))。本発明で使用するドライバー株は、例えば、羽、脳および介在神経細胞における発現のためのapterous‐GAL4、有糸分裂後神経細胞における全神経発現のためのelav‐GAL4、神経線維から神経細胞への発達中の神経系における全神経発現のためのscabrous‐GAL4、眼における発現のためのsevenless‐GAL4、eyeless‐GAL4及びGMR‐GAL4、中枢神経系における発現のためのNervana 2‐GAL4;コリン作動性神経細胞における発現のためのCha‐(コリンアセチルトランスフェラーゼ)GAL4、ドーパミン作動性神経細胞における発現のためのTH‐(チロシンヒドロキシラーゼ)、胚および幼虫ならびに成虫の脳、胸部神経節および消化管における発現のためのCaMKII‐(カルモジュリン依存性キナーゼII)、咽頭(pharangeal)神経細胞における発現のためのP‐GAL4;およびグリア細胞における発現のためのgem‐GAL4を含む。
【0052】
本発明はゲノム中にCTFAPPをコードするDNA配列、場合によりシグナルペプチドに対するDNA配列を結合したDNA配列を組み込んだ遺伝子組換えハエを開示する。いくつかの実施形態は、タウタンパク質をコードするDNA配列およびCTFAPPをコードするDNA配列を含む二重遺伝子組換えハエである。
【0053】
単一の導入遺伝子を含む遺伝子組換えハエの作出は、当業者に知られるあらゆる標準的な方法を用いて実施され得る。二重遺伝子組換えハエを作出するために、CTFAPPまたはタウタンパク質のいずれかを発現する遺伝子組換えハエを独立して作出し、そして次に交雑させて両方のタンパク質を発現するハエを作出する。
【0054】
遺伝子組換えハエの1以上の導入遺伝子は、直接選択したプロモーターにより、またはUAS/GAL4系により駆動され得る。好ましい実施形態において、遺伝子組換えショウジョウバエを、UAS/GAL4調節系を用いて作出する。つまり、導入遺伝子(例えばCTFAPP)を発現する遺伝子組換えハエを作出するために、DNA配列がGAL4応答配列UASと作動可能に連結するようなベクター内に、導入遺伝子をコードするDNA配列をクローニングする。転写領域の上流にUAS配列エレメントを配置するpUASTベクター(Brand及びPerrimon, Development 118:401‐415(1993))等のUASエレメントを含むベクターが市販されている。DNAは、標準的な方法(Sambrookら, Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N. Y.(1989);Ausubelら, Current protocols in Molecular Biology, Greene Publishing, Y,(1995))を用いてクローニングされ、および本明細書の分子的技術の節にさらに詳細に記載する。DNAをpUAST等の適切なベクター内にクローニングした後、ベクターをショウジョウバエ胚(例えばyw胚)の中に標準的な手順(Brandら, Methods in Cell Biology 44:635‐654(1994);Hayら, Proc. Natl. Acad. Sci.USA 94:5195‐200(1997))により注入して、遺伝子組換えショウジョウバエを作出する。
【0055】
バイナリーUAS/GAL4系を使用する場合、遺伝子組換え子孫をショウジョウバエのドライバー株と交雑させることにより、変化した表現型の存在を評価することができる。好ましいショウジョウバエは、眼特異的ドライバー株GMR‐GAL4を含み、これはrough eye表現型の程度に基づいた遺伝子組換えハエの同定および分類が可能である。例えば、ショウジョウバエ眼におけるタウの発現はrough eye表現型を生じ、これは顕微鏡により容易に観察できる。遺伝子組換え系統により示されるrough eye表現型の程度は、強度、中度、低度として分類できる。低度または中度の系統は、眼の腹側領域を覆う凹凸のある乱れた外見を有する。程度が中程度の系統は、眼全体に渡ってより強い凹凸を示すが、一方、程度の強い系統では、眼全体が多くの個眼および個眼内剛毛が損失/融合しているように見え、眼全体がなめらかで光沢のある外見を有し、さらに、壊死斑を眼全体に見ることができる。
【0056】
CTFAPPを発現する遺伝子組換えハエを作出するため、CTFAPPを細胞膜内に挿入できるようにCTFAPPをコードするDNA配列をシグナルペプチドをコードするDNA配列にインフレームに連結する。シグナル配列は直接CTFAPPコード配列に連結するか、または例えば3、6、9、12又は15ヌクレオチドのDNAリンカー配列を用いて間接的に連結する。タンパク質をショウジョウバエの小胞体分泌経路に導くか、または経由させるシグナル配列を使用する。本発明の好ましいシグナルペプチドは、ヒトAPP由来のシグナルペプチド(配列番号5)、wingless(wg)由来のシグナルペプチド(配列番号6)、argos(aos)由来のシグナルペプチド(配列番号7)、ショウジョウバエAPPL由来のシグナルペプチド(配列番号8)、presenilin(psn)由来のシグナルペプチド(配列番号9)ならびにwindbeutel(配列番号10)およびVinc由来のシグナルペプチドである。
【0057】
CTDAPPをコードするDNAは、標準的なライゲーション技術によりシグナル配列に連結し、そして次に配列がGAL4応答配列UASと作動可能に連結するように、ベクターにクローニングする。CTFAPP遺伝子組換えハエの作出のための好ましい形質転換ベクターは、pUASTベクター(Brand及びPerrimon, Development 118:401‐415(1993))である。タウ遺伝子組換えハエの作出の項で記載したように、ベクターをショウジョウバエの胚(例えばyw胚)の中に標準的な手順(Brandら, Meth. in Cell Biology 44:635‐654(1994);Hayら, Proc. Natl. Acad. Sci.USA 94:5195‐200(1997))により注入し、そして次に子孫を選抜マーカー遺伝子の表現型に基づいて選抜および交雑させる。バイナリーUAS/GAL4系を用いる場合、変化した表現型の存在を評価するために遺伝子組換え子孫をショウジョウバエドライバー株と交雑させることができる。好ましいショウジョウバエドライバー株は、GMR‐GAL4(eye)およびelav‐GAL4(CNS)である。
【0058】
眼の表現型(例えばrough eye表現型)を評価するために、GMR‐GAL4ドライバー株が交雑に使用され得る。ショウジョウバエの眼でのCTFAPPの異所性過剰発現は、個眼(ショウジョウバエの複眼を形成する均一の単一単位)の光受容細胞の標準的な台形配置を崩壊させると考えられており、その程度は、導入遺伝子のコピー数および発現レベルに依存すると考えられる。運動表現型および行動表現型(例えば登坂アッセイ)を評価するために、elav‐GAL4ドライバー株を交雑に用いる。ショウジョウバエの中枢神経系(CNS)におけるCTFAPPの異所性過剰発現は、動作障害、登坂障害および飛行障害等の運動欠損をもたらすと考えられている。
【0059】
単一遺伝子組換えハエを一度作出すると、ハエは交尾によって互いに交雑し得る。ハエは従来の方法によって交雑させる。バイナリーUAS/GAL4系を用いる場合、ハエを適切なドライバー株と交雑させ、および変化した表現型を評価し、上記のように遺伝子組換えハエを表現型の程度によって分類する。例えば、本明細書に開示するように、タウ導入遺伝子とCTFAPP導入遺伝子との組み合わせは、眼に相乗効果を生み出すと考えられている。
【0060】
導入遺伝子発現の特異性および強度を変化させるために、いくつかの因子を変化させ得る。導入遺伝子または導入遺伝子の組み合わせの配列変異体が、表現型を変化させるのに使用され得る。例えば、単独またはGAL4系と結合して使用される組織特異的プロモーター等の異なる発現ドライバーは、発現の組織特異性または強度のどちらかに作用させるのに使用され得る。発達温度も変化させることができ、発現の組織分布または強度のどちらかに作用することが可能である。一般的に、より高い温度は、導入遺伝子のより強い発現を駆動する。
【0061】
遺伝子組換えハエにおけるタウおよびCTFAPPタンパク質の発現は、以下に記載するウエスタンブロット解析またはハエ組織横断切片の免疫染色等の標準的な技術により確認する。
【0062】
ウエスタンブロット解析は標準的な方法によって実施する。簡潔には、例として、ウエスタンブロット解析によってCTFAPPまたはタウの発現を検出するために、ハエ全体またはハエ頭部(例えば頭部80〜90個)を集め、100μlの2%SDS、30%ショ糖、0.718M Bis‐Tris、0.318M Bicine、「Complete」プロテアーゼ阻害剤(Boehringer Mannheim)を含むドライアイス上のエッペンドルフ管内に入れ、次に機械的ホモジナイザーを用いてすりつぶす。サンプルを5分間95℃で加熱し、5分間12,000rpmで遠心分離後、上清を新しいエッペンドルフ管内に移す。5%β−メルカプトエタノールおよび0.01%ブロモフェノールブルーを添加後、分離ゲルにロードする前にサンプルを煮沸する。各サンプルに対し約200ngの総タンパク質抽出物を、8%尿素を含む15%Tricine/Tris SDS PAGEゲル上にロードする。分離後、次にサンプルをPVDF膜(BIO‐RAD, 162−0174)に転写させ、続いて膜をPBS中で3分間煮沸する。抗タウ抗体(例えばT14(Zymed))およびAT100(Pierce‐Endogen)、抗APP抗体(例えば6E10(Senetek PLC Napa, CA))または抗Aβ42を、一般的には1:2000の濃度で、5%脱脂乳、0.1%Tween 20を含む1×PBS中で、90分間室温でハイブリダイゼーションさせる。サンプルを、1×PBS‐0.1%Tween 20中で各々5分、15分および15分間の3回洗浄する。標識した2次抗体(例えば、Amersham Pharmacia Biotechの抗マウスHRP、NA 931)を、一般的には1:2000の濃度で、5%脱脂乳、0.1%Tween 20を含む1×PBS中、90分間室温で調製する。次にサンプルを1×PBS‐0.1%Tween 20中で各々5分、15分及び15分間の3回洗浄する。次に、適切な方法を用いてタンパク質を検出する。例えば、抗マウスHRPを結合2次抗体として使用する場合、ECL(ECL Western Blotting Detection Reagents, Amersham Pharmacia Biotech, #RPN 2209)を検出に用いる。
【0063】
遺伝子組換えハエにおいてタンパク質の発現を確認する様式として、ショウジョウバエの器官横断切片または全載の免疫染色が実施される。このような方法は、非病変組織に存在するタウタンパク質の修飾型である高度リン酸化タウの存在を確認するのに特に有用である。高度リン酸化タウは、タウタンパク質と比較して病的構造変化を示し、およびアルツハイマー病等の特定の神経変性疾患を患う患者由来の病変組織に存在する。
【0064】
ショウジョウバエ器官の横断切片は、Wolff, Drosophila Protocols, CSHL Press(2000)(参照により本明細書に組み込む)に記載される方法等の、あらゆる従来の凍結切片法によって作製され得る。次に凍結切片をタウおよびC末端APP断片ペプチドを検出するために、当技術分野によく知られる方法を用いて免疫染色する。好ましい実施形態において、ベクタステインABCキット(ビオチン化抗マウスIgG2次抗体、および酵素セイヨウワサビペルオキシダーゼHに結合したアビジン/ビオチンを含む、Vector Laboratories)を用いてタンパク質を同定する。他の実施形態において、2次抗体は蛍光色素分子に結合している。簡潔に言えば、ベクタステインABCキットのプロトコルに従って、凍結切片を正常なウマ血清を用いてブロッキングする。CTFAPPまたはタウを認識する1次抗体は、一般的に1:3000の希釈で使用し、および2次抗体でのインキュベーションは、1〜2%正常ウマ血清を含むPBS/1%BSA中で、これもまたベクタステインABCキットのプロトコルに従って行う。ABCキットの手順は以下である;ABC試薬によるインキュベーションをPBS/1%サポニン中で行い、次にPBS/0.1%サポニン中で4×10分間洗浄する。次に切片をスライド当たり0.5mlのセイヨウワサビペルオキシダーゼH基質溶液、400μg/ml 3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、PBS/0.1%サポニン中の0.006% H中でインキュベーションした後、3分後にPBS中の0.02%アジ化ナトリウムで反応を停止する。切片をPBS中で数回リンス後、DPX(Fluka)中に包埋する前にエタノール系を通して脱水する。
【0065】
横断切片を免疫染色するために使用される例示的な抗体は、Aβ42ペプチドを認識するモノクローナル抗体6E10(Senetek PLC Napa, CA.)ならびに抗タウ抗体ALZ50及びMCI(Jicha GAら, J. of Neurosci. Res. 48:128‐132(1997))を含むが、これらに限定されない。
【0066】
あるいはまた、本発明で使用するC末端APP断片およびタウを認識する抗体は、当技術分野に知られる標準的なプロトコルを用いて作製することができる(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual HarlowおよびLane監修(Cold Spring Harber Press:1988)を参照せよ)。マウス、ハムスターまたはウサギ等の哺乳動物は、免疫原性型のタンパク質(例えば、Aβ42またはタウポリペプチドもしくは抗体反応を誘発することが可能な抗原性断片)で免疫することができる。抗体を生じるための免疫原は、ポリペプチド(例えば、単離した組換えポリペプチドまたは合成ペプチド)をアジュバントと混合して調製する。あるいはまた、C末端APP断片またはタウポリペプチドを、免疫原性タンパク質を大きくするために融合タンパク質として作出する。ポリペプチドはまた、キーホールリンペットヘモシアニン等の他のより大きな免疫原性タンパク質と共有結合し得る。あるいはまた、C末端APP断片またはタウあるいはこれらのタンパク質の断片をコードするプラスミドまたはウイルスベクターは、参照により本明細書に組み込まれるCostagliolaら, J. Clin. Invest. 105:803‐811(2000)に記載されるように、ポリペプチドを発現させ、および動物において免疫反応を生じるのに使用することができる。抗体を生じるさせるために、免疫原は一般的に、ウサギ、ヒツジおよびマウス等の実験動物へ、皮内投与、皮下投与または筋肉内投与される。上記の抗体に加え、一本鎖抗体等の遺伝子操作された抗体誘導体を作製可能である。
【0067】
免疫付与の進行は、血漿中のまたは血清中の抗体価の検出によってモニターすることができる。標準的なELISA、フローサイトメトリーまたは他の免疫アッセイもまた、抗体レベルを評価するための抗原としての免疫原と共に使用され得る。抗体調製物は、免疫化動物由来の単なる血清であってよく、また所望であれば、ポリクローナル抗体を、例えば固定化免疫原を用いた親和性クロマトグラフィーによって血清から単離してもよい。
【0068】
モノクローナル抗体を生成するために、抗体産生脾細胞を免疫化動物より採取後、標準的な体細胞融合手順によって、骨髄腫細胞等の不死化細胞と融合してハイブリドーマ細胞を得る。このような技術は当技術分野においてよく知られており、例えば、ハイブリドーマ技術(初めにKohler及びMilstein, Nature, 256:495‐497(1975)より開発された)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbarら, Immunology Today, 4:72(1983))、およびヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. pp.77‐96(1985))を含む。ハイブリドーマ細胞は、C末端APP断片またはタウペプチドもしくはポリペプチドと特異的に反応する抗体の生成について、およびそのようなハイブリドーマ細胞を含む培養液から単離されたモノクローナル抗体について、免疫化学的にスクリーニングされ得る。
【0069】
II.遺伝子組換えショウジョウバエ由来の初代細胞培養物の調製
細胞は本発明のあらゆる遺伝子組換えハエから得ること、および初代培養物中で維持することができ、これらの表現型を評価することが可能であり、または神経変性において活性がある薬剤を同定するために使用することができる。当技術分野において知られるあらゆる技術を、遺伝子組換えハエからの細胞の単離、これらの培養物、場合によりこれらの分化を促進、およびこれらの表現型を研究するために適用することができる。
【0070】
簡潔に言うと、1以上の細胞はハエの器官もしくは組織の切開および/または解離によって、あらゆる発達段階の遺伝子組換えハエより得られる。細胞を、これらの表現型を研究するのに十分長い、一般的には数時間〜数日または数週間に渡り生存能を維持するのに適した培養培地に置く。様々な技術がハエ組織の解離に利用可能である。例えば数個の胚を、余裕のあるPotter‐Elvehjemガラスホモジナイザーを使用してまとめてホモジナイズして、全胚細胞懸濁液を得ることができる。細胞をホモジナイズ後、10%非加熱ウシ胎児血清を添加したSchneider’s Incomplete Medium(Gibco‐BRL, Gaithersburg, MD)等の滅菌培地中で培養し、そしてCO非存在下で20〜30℃の範囲の温度の恒温器内で維持することができる。例えば、Guhaら, J. Cell Sci. 116:3373‐86(2003)を参照されたい。例えば、細胞形態または他の特徴により、個々の細胞型を培養物から選択する。例えば、全動物細胞選別は、所望の細胞型(例えば、神経前駆細胞または血球)を、例えばlacZ発現(Krasnowら, Science 251:81‐85(1991)を参照せよ)またはGFPタグタンパク質の発現(Guhaら, J. Cell Sci. 116:3373‐86(2003)を参照せよ)を用いた遺伝子型に基づいて単離するのに用いることができる。
【0071】
初代培養物中の細胞は、神経および筋肉(Hayashiら, In Vitro Cell Dev Biol Anim 30A:202‐8(1994))または神経および表皮(Luerら, Development 116:377−85(1992))を含む様々な最終分化細胞に分化し得る。細胞はまた、後期の発達段階または成虫からも培養され得る。例えば、眼の成虫原基は幼虫または蛹から解離することができ、および蛹から採取した場合には神経突起伸長を研究するために使用でき、または初期段階からの有糸分裂細胞を得るのに使用できる(Liら, J Neurobiol 28:363−80(1995))。初代培養物中の細胞は、除去後直ちに、つまり除去した時の発達段階で研究してもよく、またはインビトロにおいて分化させ、および分化の後に研究してもよい。
【0072】
CTFAPP又はCTFAPPおよびタウを含む遺伝子組換えハエ由来の培養細胞の表現型は、神経変性に関連した現象に対するこれらのポリペプチドの影響を研究するのに使用され得る。例えば、細胞外アミロイド斑または細胞内変化の生成を、例えばCTFAPP、Aβまたはタウのいずれかに特異的に結合する標識化抗体の分布を調べることによって、培養細胞を調べることができる。細胞骨格の組織の変化は、アクチン、微小管および結合タンパク質等の細胞骨格タンパク質に対する標識化抗体で調べることができる。神経機能は、イオンチャネル活性または神経伝達物質の放出を電気生理学的な測定を実施することによって、細胞レベルで研究され得る。細胞‐細胞相互作用および遺伝子発現もまた、アルツハイマー病等の神経変性疾患において活性のある病理学的機構への手掛かりを提供し得る。さらに、初代培養物は、遺伝子組換え細胞の表現型に対する候補薬剤の影響を調べることによって、神経変性疾患に薬効を有するような化学薬剤を同定するためのスクリーニング工程に使用され得る。
【0073】
III.分子的技術
本発明において、タウまたはヒトAβ42ItalianをコードするDNA配列を、遺伝子組換えハエの作出に適した形質転換ベクター内にクローニングする。
【0074】
タウおよびヒトC末端APP断片をコードするDNAの作出
タウおよびC末端APP断片をコードするDNA配列は、ゲノムDNAから得ること、または当技術分野においてよく知られる方法(Sambrookら, Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989);Ausubelら, Current protocols in Molecular Biology, Greene Publishing, Y,(1995))を用いた合成手段によって作出することができる。簡潔に言うと、ヒトゲノムDNAは、フェノール抽出もしくはQLAamp Tissue kit(Qiagen, Chatsworth, Cal.)、Wizard genomic DNA purification kit(Promega, Madison, Wis.)及びASAP genomic DNA isolation kit(Boehringer Mannheim, Indianapolis, Ind.)等のキットでの抽出により、末梢血または粘膜剥離物から単離され得る。次に、タウおよびC末端APP断片をコードするDNA配列をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Mullis及びFaloona Methods Enzymol., 155:335(1987))(参照により本明細書に組み込む)によってゲノムDNAより増幅、および適切な組換えクローニングベクター内にクローニングすることができる。
【0075】
あるいはまた、タウまたはヒトC末端APP断片をコードするcDNAは、RT‐PCRを用いてmRNAより増幅することができ、適切な組換えクローニングベクター内へクローニングされ得る。RNAは、当技術分野に知られるあらゆる方法によって調製することができ、その選択はサンプル源に依存し得る。RNAを調製する方法は、Davisら( Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier, NY, Chapter 11(1986))、Ausubelら( Current Protocols in Molecular Biology, Chapter 4, John Wiley and Sons, NY(1987))Kawasaki及びWang( PCR Thechnology,Erich監修, Stockton Press NY(1989))、Kawasaki( PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications) Innisら監修( Academic Press, San Diego(1990))に記載され、これらすべてを参照により本明細書に組み込む。
【0076】
PCR又はRT‐PCRによりタウまたはCTFAPP断片をコードする配列を作出後に、クローニングした断片の配列を、好ましくはクローニングした断片の配列が両方向からの核酸シーケンスにより確認できるように、適切なシーケンスベクター内にクローニングする。
【0077】
本発明で使用するのに適した組換えクローニングベクターは、ベクターが1以上の選択した宿主細胞内での複製を可能にする核酸配列を含む。一般的なクローニングベクターでは、この配列はベクターを宿主染色体DNAと独立して複製可能にし、および複製開始点または自己複製配列を含む。このような配列は様々な細菌、酵母およびウイルスについてよく知られている。例えば、プラスミドpBR322由来の複製開始点は、ほとんどのグラム陰性細菌に適しており、2micronプラスミド複製開始点は、酵母に適しており、および様々なウイルス複製開始点(例えば、SV40、アデノウイルス)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般的に、COS細胞等の高レベルにDNAを複製可能な哺乳動物細胞内で使用しない限り、複製開始点は哺乳動物発現ベクターには必要ない。
【0078】
有利なことに、クローニングベクターまたは発現ベクターは選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。この遺伝子は、選択培養培地において生育する形質転換宿主細胞の生存または成長に不可欠なタンパク質をコードする。従って、選択遺伝子を含むベクターで形質転換されない細胞は培養培地中で生存しない。一般的な選択遺伝子は、抗生物質および他の毒物(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサートまたはテトラサイクリン)に耐性を付与するタンパク質、栄養要求性欠損を補完するタンパク質、または成長培地では得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0079】
クローニングは、大腸菌において実施するのが最も便利であるため、例えば抗生物質アンピシリンに対する耐性を付与するβラクタマーゼ遺伝子などの選択マーカーが有用である。これらは、pBR322プラスミド又はpUC18もしくはpUC19等のpUCプラスミド等の大腸菌プラスミドより得ることが可能である。
【0080】
タウまたはヒトC末端APP断片をコードする配列はまた、転位エレメント間の配列挿入、またはpUAST等のUASエレメントの下流への挿入を可能にするベクター等の、遺伝子組換えハエの作出に適した形質転換ベクター内に直接的にクローニングすることも可能である。遺伝子組換えハエの作出に適したベクターは、好ましくは遺伝子組換えハエを同定できるように、white遺伝子、rosy遺伝子、yellow遺伝子、forked遺伝子および上記の他の遺伝子等のマーカー遺伝子を含む。適切なベクターはまた、眼における発現に有用なsevenlessプロモーター/エンハンサー、eyelessプロモーター/エンハンサー、glass応答性プロモーター(GMR)/エンハンサー、および羽における発現に有用なdpp又はvestigial遺伝子由来のエンハンサー/プロモーター等の、前記の組織特異的調節配列も含み得る。
【0081】
タウまたはヒトC末端APP断片をコードする配列は、発現調節配列がコード配列と作動可能に連結するように、組換えベクター内に連結される。
【0082】
ここで、タウまたはヒトC末端APP断片をコードするDNA配列は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、または次にPCRに使用するcDNAを合成するためのRNA依存性DNAポリメラーゼ(例えば逆転写酵素)を用いたRT‐PCRを使用して作出され得る。
【0083】
IV.表現型および変化した表現型を検出する方法
ハエのあらゆる観察可能なおよび/または測定可能な物理的または生化学的特徴は、本発明に従って評価され得る表現型である。例えば、スクリーニングアッセイに適した特性等の所望の特性を有する遺伝子組換えハエは、対照(例えば、野生型ハエまたは導入遺伝子が発現していないハエ)と比較して変化した表現型を示すハエを同定することによって作出され得る。治療剤は、候補薬剤を投与しない遺伝子組換えハエと比較して、投与によって遺伝子組換えハエの変化した表現型に変化をもたらす薬剤をスクリーニングすることによって同定され得る。
【0084】
変化した表現型における変化は、表現型の完全な復帰または部分的な復帰のいずれかが観察されることを含む。完全な復帰は、変化した表現型の消失として、または表現型の対照のハエにおいて観察される表現型への100%復帰として定義される。変化した表現型の部分的な復帰は、対照のハエにおいて観察される表現型への5%、10%、20%、好ましくは30%、より好ましくは50%および最も好ましくは50%を超える復帰であり得る。例示的な測定可能な要素は、眼等の器官の形態、組織および器官の分布、行動表現型(食欲および交尾等)および運動能力を含むが、これらに限定されない。
【0085】
いくつかの実施形態において、1つの表現型が決定される。他の実施形態においては、2つ以上の表現型が決定される。さらに他の実施形態においては、複数の表現型(形質)、例えば2、3、4、5、7、10以上の形質が決定され、および「表現特性」を作製するのに使用される。測定した形質は、動作形質のみ、行動形質のみ、形態的形質のみ、または複数の分野における形質の混合であり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの動作形質および少なくとも1つの非動作形質が評価される。表現型または表現特性は、個々のハエまたはハエの集団について比較され得る。ハエの集団を研究する場合、各々の形質に対する全体値を比較することができ、および集団の間で有意に異なる一部の形質を同定することができる。特定の集団(例えば親バエストック)に対する一部の形質および形質の値を、その集団の「フェノプリント(phenoprint)」と呼ぶ。従って、対照の生物試料の集団と異なる生物試料の試験集団の形質は、試験集団の「フェノプリント」と呼ぶ。
【0086】
記載する様々な形質要素の各々に対し、統計的測定が決定され得る。例えば、PRINCIPLES OF BIOSTATISTICS第二版(2000)Mascelloら, Duxbury Pressを参照されたい。形質要素ごとの統計値の例示は、分布、平均、分散、標準偏差、標準誤差、最大、最小、頻度、初回発生までの時間、最終発生までの時間、全持続時間(秒または%)、平均持続時間(該当する場合)を含む。
【0087】
運動表現型
運動表現型を評価することができ、例えば米国特許出願番号2004/0076583、2004/0076318及び2004/0076999に記載され、これらは参照により本明細書にその全体を組み込む。例えば、運動能力は、ハエを容器中に入れ、それらを容器の底に叩き落し、次に規定時間の間に容器上の所定のマークを登り超えるハエの数を数えることによる登坂アッセイにおいて評価され得る。この例示において、対照のハエの100%運動活性は、所定のマークを登り超えるするハエの数によって表され、一方、運動活性が変化したハエは、対照のハエ集団において観察される活性の80%、70%、60%、50%、好ましくは50%未満又はより好ましくは30%未満を有し得る。
【0088】
1つの態様において、容器(例えばバイアル)内のハエの集団の動作を検出および連続的に解析することによって形質を測定する。CCDビデオカメラ等の記録装置によってハエの動作をモニターすることができ、得られた画像をデジタル化し、本明細書に記載するプロセッサ補助アルゴリズムにより解析し、および解析データはコンピューターが利用可能な様式で保存される。例えば、ハエの動作に関する形質の測定において、各々の動物の軌跡を動物に対する1以上の変数(例えば、速度、垂直のみの速度、垂直距離、旋回頻度、微小動作の頻度等)の計算によってモニターしてもよい。次に、このような変数の値をバイアル内の動物の集団について平均化し、および各々の集団(例えば、親ストックハエおよび遺伝子組換えハエ)に対する形質を表す全体値を得る。
【0089】
本明細書で用いる「動作形質データ」は、1以上の動作形質から作成される測定値を指す。「動作形質データ」測定値の例示は、X‐pos、X‐速度、速度、旋回、躓き、サイズ、T‐カウント、P‐カウント、T‐長、クロスハイ(Crosshigh)、CrosslowおよびF‐カウントを含むが、これらに限定されない。これらの特定の測定の詳細は、以下に提供する。
【0090】
このような「動作形質」の例示は、
a)総距離(規定時間の間に移動した平均総距離)、
b)X単独距離(規定時間の間にX軸方向に移動した平均距離)、
c)Y単独距離(規定時間の間にY軸方向に移動した平均距離)、
d)平均速度(時間単位当たりに動いた平均総距離)、
e)平均X単独速度(時間単位当たりにX軸方向に動いた距離)、
f)平均Y単独速度(時間単位当たりにY軸方向に動いた距離)、
g)加速(時間に対する速度の変化の割合)、
h)旋回、
i)躓き、
j)特定の決められた区域または地点に対する1匹のハエの空間的位置(空間的位置形質の例としては、(1)目的の区画内で費やす平均時間(例えば、容器の底、中央または上端で費やす時間、容器内の決められた区画への訪問回数)、(2)ハエと目的の地点(例えば、区画の中央)の間の平均距離、(3)2つのサンプル地点をつなぐベクトルの平均長(例えば、2匹のハエの間またはハエと決められた地点もしくは物体との間の直線距離)、(4)2つのサンプル地点をつなぐベクトルの長さが、実験者が定めた要素未満である、それより大きいまたはそれと同等である平均時間等、を含む)、
k)動くハエの軌跡形状、すなわち、ハエが移動する軌跡の幾何学的形状(軌跡形状形質の例としては以下を含む:(1)角速度(動作の方向における変化の平均速度)、(2)旋回(2つの連続したサンプル間隔の動作ベクトル間の角度)、(3)旋回の頻度(時間単位当たりの平均旋回量)および(4)躓きまたは蛇行(距離に対する動作の方向の変化)等。これは上記のような躓きとは異なる。旋回要素は、円滑な旋回動作(小さな回転と定義する)および/または乱れた旋回動作(大幅な回転と定義する)を含み得る。)、
を含むが、これらに限定されない。
【0091】
動作形質は、例えば以下の要素を用いて定量され得る。
【0092】
X‐Pos:X‐Posスコアは、すべての軌跡に対するX‐位置のリストを連結させ、その後連結させたリスト中のすべての値の平均を計算することによって算出する。
【0093】
X‐速度:X‐速度スコアは、まずX‐位置の次のフレーム間の絶対的な差異を得ることによって、速度ベクトルのX成分の長さを計算することにより算出する。次に、得られたすべての軌跡に対するx‐速度のリストを連結し、および連結したリストに対する平均x‐speedを計算する。
【0094】
速度:速度スコアはX‐速度スコアと同様にして算出するが、速度ベクトルのx成分の長さを用いるのみである代わりに、全ベクトルの長さを用いる。つまり、「長さ」=((x‐長)+(y‐長))の平方根である。
【0095】
旋回:旋回スコアは、速度スコアと同様にして算出するが、速度ベクトルの長さを用いる代わりに、現在の速度ベクトルと以前のものとの間の絶対角度を用い、0度から90度の値を与える。
【0096】
躓き:躓きスコアは、速度スコアと同様にして算出するが、速度ベクトルの長さを用いる代わりに、現在の速度ベクトルと身体方向の向きとの間の絶対角度を用い、0度から90度の値を与える。
【0097】
サイズ:サイズスコアは、速度スコアと同様にして算出するが、速度ベクトルの長さを用いる代わりに、検出されたハエのサイズを用いる。
【0098】
T‐カウント:T‐カウントスコアは、映像中で検出される軌跡の数である。
【0099】
P‐カウント:P‐カウントスコアは、映像中の地点の総数である(つまり、各々の軌跡における地点の数で、映像中のすべての軌跡の積算である)。
【0100】
T‐長:T‐長スコアは、映像中のすべての速度ベクトルの長さの合計であり、映像中のすべてのハエの歩いた全長を与える。
【0101】
クロスハイ:クロスハイスコアは、映像中でバイアルの上半分において、値をセットしたラインを負のX方向(バイアルの底から上端)に横断した軌跡の数、または映像の開始時点ですでにラインの上にあったかのいずれかの軌跡の数である。後者の基準は、ハエが管の底に落下しない時もあるという事実を補うために含めた。要するに、このスコアは映像の時間内に、管に留まりきったハエまたはx軸を越えて登り詰めたハエを検出した数を測定する。
【0102】
クロスロー:クロスロースコアは、クロスハイスコアと同等であるが、代わりにバイアルの下半分におけるラインを用いる。
【0103】
F‐カウント:F‐カウントスコアは、個々のフレーム内に検出されたハエの数を数え、その後すべてのフレームのこれらの値の最大値を得る。従って、映像中のあらゆる単一フレームにおいて同時に観察可能であったハエの最大数を測定する。
【0104】
LIP:ビデオ中で「留まる」(つまり、実験者が定めた一定時間中、ほとんど動かない)ハエの数を測定。
【0105】
最大高さ:すべてのフレームのx‐positionの最大の合計を、ハエを数える測定基準によって推定されるバイアル内のハエの数で割る。
【0106】
ハエカウント:最大置の代わりに97百分位数を用いることを除き、F‐カウント測定基準と同様である。
【0107】
fcross at t:特定の時間枠内(t)に、設定した高さを同時に越えたハエの数。
【0108】
X‐Y座標系における方向の指定は任意である。この開示のために、「X」は垂直方向(一般的にハエが維持される容器の長軸に沿う)を指し、そして「Y」は水平方向の(例えば、バイアルの表面に沿った)動作を指す。
【0109】
眼の表現型
本発明の二重遺伝子組換えハエは、眼内に測定可能な形態的変化を引き起こす眼内の進行性の神経変性によって生じる、変化した眼の表現型を示し得る(Fernandez‐Funezら, Nature 408:101‐106(2000);Steffanら, Nature 413:739−743(2001))。ショウジョウバエの眼は、各々のショウジョウバエの個眼の光受容体神経によって形成される8つの感桿分体(1つの区域に7つの可視的な感桿分体)の規則正しい台形配置から構成される。本発明の表現型の眼突然変異体は、進行的な感桿分体の損失およびそれに続く凹凸のある外見の眼を導く。凹凸のある外見の眼の表現型は顕微鏡またはビデオカメラによって容易に観察される。この表現型を変化させる化合物に対するスクリーニングアッセイにおいて、光受容体分解の遅延およびrough‐eye表現型の改善が観察され得る(Steffanら, Nature 413:739−743(2001))。
【0110】
行動表現型
中枢神経系における神経変性は、運動障害を含むがこれに限定されない行動障害を生じ、これらは幼虫および成虫ショウジョウバエにおいてアッセイおよび定量され得る。例えば、標準的な登坂アッセイ(例えば、Ganetzky及びFlannagan, J. Exp. Gerontology 13:189‐196(1978);LeBourg及びLints, J. Gerontology 28:59‐64(1992)を参照せよ)におけるショウジョウバエ成虫の登坂不能は定量可能であり、および動物が運動障害および神経変性を有する程度の指標となる。神経変性表現型は、例えば羽の進行性の神経筋調節損失、進行性の総合連携減退、進行性の運動減退、および進行性の食欲喪失を含むが、これらに限定されない。アッセイされ得るハエの行動の他の態様は、概日行動リズム、摂食行動、外部刺激に対する順化、および匂い条件付けを含むが、これらに限定されない。これらの表現型すべては、当業者によりハエの標準的な目視観察によって測定される。
【0111】
別の神経変性表現型は寿命低下であり、例えばショウジョウバエの寿命は10%〜80%、例えば約30%、40%、50%、60%又は70%低下し得る。
【0112】
記憶表現型および学習表現型
ショウジョウバエにおいて、連想的学習および記憶について最も特徴付けられたアッセイは、臭気忌避行動課題(task)である(T. Tullyら, J. Comp. Physiol. A157, 263‐277(1985)、参照により本明細書に組み込む)。この古典的な(パブロフ的な)条件付けは、一匹ずつ連続的にハエを2種類の匂い(条件刺激またはCS)に曝露する。これらの匂いの1つ(CS+)に曝露される間に、ハエは同時に電気ショック(無条件刺激またはUS)を受け、一方、負の補強のない他の匂い(CS‐)へ曝露する。訓練に続いて、次にハエを匂いが反対方向から来る「選択地点」に置き、忌避する匂いを決定するのを待つ。慣例により、学習は、試験を訓練後直ちに行った場合のハエの能力と定義する。1回の訓練トライアルは強い学習を生む:一般的な反応は、>90%のハエがCS+を忌避する。この1サイクルの訓練を行った野生型ハエの能力は、ハエが再度2種類の匂いの間に満遍なく分布するようになるまで、約24時間に渡り低下する。ハエはまた、長時間持続する連想的嗅覚記憶を形成するが、通常はこれは反復的な訓練管理を必要とする。
【0113】
V.遺伝子組換えハエの有用性
疾患モデル
本発明の遺伝子組換えハエは、グアム嗜銀性グレイン型認知症の筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、大脳皮質基底核変性症、ボクサー認知症、石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病、第17番染色体に連鎖するパーキンソニズムを伴う前頭側頭葉型認知症(FTDP‐17)、ピック病、進行性皮質下神経膠症、進行性核上麻痺(PSP)、認知症のみによるもつれ、クロイツフェルト・ヤコブ病、ダウン症、ゲルスマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーホルデン・スパッツ病、筋強直性ジストロフィー、加齢性記憶障害、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、グアムの筋萎縮性側索/パーキンソン認知症複合、自己免疫疾患(例えば、ギラン・バレー症候群、狼瘡)、ビンスワンガー病、脳腫瘍および脊椎腫瘍(神経線維腫症を含む)、脳アミロイド血管症(Journal of Alzheimer’s Disease vol. 3, 65‐73(2001))、脳性麻痺、慢性疲労症候群、クロイツフェルト・ヤコブ病(変異型を含む)、大脳皮質基底核変性症、CNS実質の発達機能障害による疾患、脳血管系の発達機能障害による疾患、認知症―多発梗塞性、認知症―皮質下、レビー小体型認知症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)認知症、個別の組織構造を欠損する認知症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮、神経変性を含む眼、耳および前庭器官の疾患(黄斑変性症および緑内障を含む)、ダウン症、ジスキネジア(発作性)、筋緊張症、本態性振戦、ファー(Fahr’s)症候群、フリードリヒ運動失調症、第17番染色体に連鎖する前頭側頭葉型認知症およびパーキンソニズム(FTDP‐17)、前頭側頭葉変性症、前頭葉型認知症、肝性脳症、遺伝性痙性対麻痺、ハンチントン病、水頭症、偽脳腫瘍およびCSF機能障害を含む他の疾患、ゴーシェ病、脊椎性筋萎縮症(平山病、ウエルドニッヒ・ホフマン病、クーゲルベルク・ヴェランダー病)、コルサコフ症候群、マシャド・ジョセフ病、軽度認知機能障害、単肢筋萎縮症、運動神経疾患、多系統萎縮症、多発性硬化症および他の脱髄性疾患(例えば、白質ジストロフィー)、筋痛性脳脊髄炎、筋強直性ジストロフィー、化学物質、薬剤および毒物によって誘発されるミオクローヌス神経変性、エイズ認知症を含むエイズの神経症状、ポリグルタミン伸長から生じる(あらゆる)神経疾患、神経症状/認知症状および、エンテロウイルスを含むがこれに限定されない細菌および/またはウイルス感染の結果、ニーマン・ピック病、神経原線維変化を伴う非グアム島人運動神経疾患、非ケトーシス型高グリシン血症、オリーブ橋小脳萎縮症、神経変性を含む眼および耳の疾患(黄斑変性症および緑内障を含む)、パーキンソン病、ピック病、非麻痺性ポリオを含む灰白髄炎、原発性側索硬化症、クロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、致死性家族性不眠症およびゲルストマン・ストロイラー・シャインカー病を含むプリオン病、プリオンタンパク質脳アミロイド血管症、脳炎後パーキンソン病、ポリオ後症候群、プリオンタンパク質脳アミロイド血管症、進行性筋萎縮症、進行性球麻痺、進行性核上麻痺、下肢静止不能症候群、レット症候群、サンドホフ病、痙直、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、脊髄小脳失調症、孤発性前頭側頭葉型認知症、線条体黒質変性症、亜急性硬化性全脳炎、亜硫酸酸化酵素欠損症、シデナム舞踏病、認知症のみによるもつれ、テイ・サックス病、トゥレット症候群、伝染性海綿状脳症、血管性認知症およびウィルソン病等の、アルツハイマー病ならびにタウオパチー等のヒト神経疾患において見られるような神経変性のためのモデルを提供する。
【0114】
治療剤を同定する方法
本発明はさらに、本明細書に開示する遺伝子組換えハエを使用して神経変性疾患のための治療剤を同定する方法を提供する。本明細書で用いる「治療剤」は、医師によって診断されるような神経変性疾患の症状を改善する薬剤を指す。例えば、治療剤は神経変性疾患の1以上の症状を軽減する、1以上の症状の発症を遅延予防または治療することができる。
【0115】
神経変性疾患等の神経変性障害に対して有効な治療剤をスクリーニングするために、候補薬剤を遺伝子組換えハエに投与する。次に、遺伝子組換えハエの表現型の変化について、候補薬剤を投与していない対照の遺伝子組換えハエが示す表現型と比較してアッセイする。表現型において観察された変化は、疾患の治療に有用な薬剤の指標となる。
【0116】
候補薬剤は、種々の方法により投与され得る。例えば、候補薬剤をハエ培地に加えることによって、例えば、ハエ培養物に添加され得る酵母ペースト等のハエの餌に薬剤を混合することによって薬剤を投与することができる。または、候補薬剤を1%ショ糖水溶液中に調製することができ、およびこの水溶液を10時間、12時間、24時間、48時間または72時間等の特定の時間にハエに与える。1つの実施形態において、2000年6月29日公開のWO 00/37938の記載のように、候補薬剤はハエの血リンパ中に顕微注入される。他の投与様式は、例えば候補薬剤の気化によるエアロゾル到達を含む。
【0117】
候補薬剤はハエの発達のあらゆる段階で投与することができ、受精卵期、胚形成期、幼虫期および成虫期を含む。好ましい実施形態において、候補薬剤を成虫ハエに投与する。さらに好ましくは、候補薬剤は幼虫期の間、例えば、眼の発達が起こる主な幼虫期である三齢幼虫期でハエ培養物に薬剤を添加することにより投与される。
【0118】
薬剤は、単回投与または複数回投与で投与され得る。適切な濃度は当業者が決定することができ、そして薬剤の生物学的および化学的特性に加えて、投与方法に依存するだろう。例えば、候補薬剤の濃度は経口または注射によって到達する場合0.0001μM〜20mMの範囲であり、0.1μM〜20mM、1μM〜10mM又は10μM〜5mMである。
【0119】
候補薬剤をスクリーニングする効率のために、個々の候補薬剤をスクリーニングすることに加え、候補薬剤を薬剤の混合物または集団(例えば薬剤のライブラリ)として投与することができる。本明細書で用いる薬剤の「ライブラリ」は、20、100、10、10、10、10、10、1012又は1015種を超える個々の薬剤の混合物であることを特徴とする。「薬剤の集団」は、3、5、10もしくは20種未満の薬剤混合物等のライブラリまたは小集団であり得る。薬剤の集団を遺伝子組換えハエに投与すること、および遺伝子組換えハエによって示される表現型の完全な復帰または部分的な復帰について、ハエをスクリーニングすることができる。薬剤の集団が遺伝子組換えハエの表現型に変化をもたらす場合、次に集団の個々の薬剤を独立してアッセイし、目的とする特定の薬剤を同定することができる。
【0120】
好ましい実施形態において、候補薬剤のハイスループットなスクリーニングが実施され、多数の薬剤、少なくとも50種の薬剤、100種以上の薬剤が、複数のハエ集団において平行して個々に試験される。ハエ集団は、少なくとも2、10、20、50、100以上のハエの成虫または幼虫を含む。1つの実施形態において、運動表現型、行動表現型(例えば、食欲、配偶行動および/または寿命)または形態表現型(例えば、細胞、器官または付属器の形状、サイズまたは位置、もしくはハエのサイズ、形状もしくは成長速度)を、集団内のハエのデジタル化映像を作成することによって観察し、および映像をハエ表現型について解析する。
【0121】
候補薬剤
本発明のスクリーニングアッセイにおいて有用な薬剤は、遺伝子組換えハエに投与した場合に、変化した表現型を改変する、例えば表現型を部分的にまたは完全に復帰させる可能性を有する生物学的化合物または化学的化合物を含む。薬剤は、あらゆる組換え、修飾または天然の核酸分子、組換え、修飾まやは天然の核酸分子のライブラリ、合成、修飾または天然のペプチド、合成、修飾または天然のペプチドのライブラリ、有機化合物または無機化合物、もしくは小分子を含む有機化合物もしくは無機化合物のライブラリを含む。薬剤を治療剤の回収を容易にし得る共通のタグまたは固有のタグに連結することもできる。
【0122】
例示的な薬剤の供給源は、ランダムなペプチドライブラリならびにD‐および/またはL‐立体配置アミノ酸で作製されるコンビナトリアルケミストリー由来分子ライブラリ、リン酸化ペプチド(ランダムにまたは部分的に変性した、定方向リン酸化ペプチドライブラリのメンバーを含むがこれに限定されない;例えば、Songyangら, Cell 72:767‐778(1993)を参照されたい);抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ抗体もしくは単鎖抗体ならびにFAb、F(ab’)およびFAb発現ライブラリ断片、ならびにこれらのエピトープ結合断片を含むがこれらに限定されない)、および有機小分子または無機小分子を含むが、これらに限定されない。
【0123】
当技術分野に知られる多くのライブラリ、例えば、化学合成ライブラリ、組換えライブラリ(例えばファージによって産生する)およびインビトロ翻訳に基づくライブラリが使用され得る。化学合成ライブラリの例示は、Fodorら( Science 251:767−773(1991))、Houghtenら( Nature 354:84‐86(1991))、Lamら(Nature 354:82‐84(1991);Medyuski, Bio/Technology 12:709‐710(1994))、Gallopら(J. Medicinal Chemistry 37:1233‐1251(1994))、Ohlmeyerら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10922‐10926(1933))、Erbら( Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422‐11426(1994))、Houghtenら(Biotechniques 13:412(1992))、Jayawickremeら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:1614‐1618(1994))、Salmonら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:11708‐11712(1993))、PCT公開番号WO93/20242、およびBrenner及びLerner(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5381‐5383(1992))に記載される。非ペプチドライブラリの例として、ベンゾジアゾピンライブラリ(例えば、Buninら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:4708‐4712(1994)を参照されたい)が使用に適し得る。
【0124】
ペプトイドライブラリ(Simonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:9367‐9371(1992))もまた使用され得る。使用され得るライブラリの別の例は、化学的に変換したコンビナトリアルライブラリを作出するために、ペプチド内のアミド官能性を高度にメチル化したもので、Ostreshetら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11138‐11142(1994))に記載される。ペプチドライブラリを作製し得るファージディスプレイライブラリの例は、Scott及びSmith(Science 249:386‐390(1990))、Devlinら(Science, 249:404‐406(1990))、Christianら(J. Mol. Biol. 227:711‐718(1992))Lenska(J. Immunol. Meth. 152:149‐157(1992))、Kayら(Gene 128:59‐65(1993))、および1994年8月18日付けのPCT公開番号WO94/18318に記載される。
【0125】
本明細書に記載される方法により試験および同定され得る薬剤は、Aldrich(Milwaukee, W1 53233)、Sigma Chemical(St. Louis, MO)、Fluka Chemie AG(Buchs, Switzerland)、Fluka Chemical Corp.(Ronkonkoma, NY;)、Eastman Chemical Company、Fine Chemicals(Kingsport, TN)、Boehringer Mannheim GmbH(Mannheim, 25 Germany)、Takasago(Rockleigh, NJ)、SST Corporation(Clifton, NJ)、Ferro(Zachary, LA 70791)、Riedel‐deHean Aktiengesellschaft(Seelze, Germany)、PPG Industries Inc.、Fine Chemicals(Pittsburgh, PA 15272)を含むあらゆる市販の化合物を含み得るが、これらに限定されない。微生物、菌類、植物または動物抽出物を含むさらにあらゆる種類の天然産物が、本明細書に記載される方法を用いてスクリーニングされ得る。
【0126】
さらにまた、小分子試験化合物を含む試験薬剤の多様なライブラリが使用され得る。例えば、ライブラリは、Specs and BioSpecs B.V.(Rijswijk, The Netherlands)、Chembridge Corporation(San Diego, CA)、Contract Service Company(Dolgoprudoy, Moscow Region, Russia)、Comgenex USA Inc.(Princeton, NJ)、Maybridge Chemicals Ltd.(Cornwall PL34 OHW, United Kingdom)およびAsinex(Moscow, Russia)より市販のものを入手してもよい。
【0127】
なおさらに、当技術分野において知られるコンビナトリアルライブラリ法を使用することができ、これは、生体ライブラリ、空間的にアドレス可能な平行固相または液相ライブラリ、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、「one‐bead one‐compound」ライブラリ法、および親和性クロマトグラフィー抽出を用いる合成ライブラリ法を含むが、これらに限定されない。生物学的ライブラリ研究方法は、ペプチドライブラリに限定される一方、他の研究方法は、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは小分子ライブラリに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des. 12:145(1997))。小分子試験化合物を含む試験化合物のコンビナトリアルライブラリを利用することができ、例えば、Eichler及びHoughten(Mol. Med. Today 1:174‐180(1995))、Dolle(Mol. Divers. 2:223‐236(1997))、およびLam(Anticancer Drug Des. 12:145‐167(1997))に開示されるように作出することができる。
【0128】
分子ライブラリの合成する方法の例示は、当技術分野において、例えば:DeWittら( Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909(1993))、Erbら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422(1994))、Zuckermannら(J. Med. Chem. 37:2678(1994))、Choら(Science 261:1303(1993))、Carrellら(Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059(1994))、Carrellら(Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061(1994))、およびGallopら(15 J. Med. Chem. 37:1233(1994))において見出すことができる。
【0129】
薬剤のライブラリはまた、核酸分子、DNA、RNAまたはこれらの類似体のライブラリでもあり得る。例えばcDNAライブラリは、目的の細胞、組織、器官もしくは生物より収集したmRNAより構築することができ、または適当なサイズにした断片を生成するために、制限エンドヌクレアーゼもしくはゲノムDNAをランダムに断片化する方法を用いてゲノムDNAを処理することができる。RNA分子を含むライブラリは、例えば細胞からRNAを回集することまたは化学的にRNA分子を合成することによって構築することができる。核酸分子の多様なライブラリは、分子にランダム化した領域の生成を促進する固相合成を用いて作製することができる。所望であれば、ランダム化にバイアスをかけることにより、分子内のある部位に1以上のヌクレオチドを特定の割合で含む核酸分子のライブラリを生成することができる(米国特許第5,270,163号)。
【0130】
遺伝的改変因子を同定する方法
本明細書に記載する遺伝子組換えハエは、AD等の神経変性疾患に作用する遺伝子を同定するのに使用され得る。このような遺伝子は「遺伝的改変因子」と呼ばれ、CTFAPP又はCTFAPP+タウ等の1以上の導入遺伝子によって生成する表現型を変化させる能力を通して同定され得る。例えば、遺伝的改変因子候補である遺伝子内に突然変異を有する収集したハエは、CTFAPPを発現する単一遺伝子組換えハエ系統、またはCTFAPP+タウを発現する二重遺伝子組換えハエ系統のいずれかと交雑することができる。特定の突然変異が、導入遺伝子または導入遺伝子の組み合わせに関連する表現型を変化させれば、突然変異を有する遺伝子は遺伝的改変因子として同定される。例えばCTFAPPを発現し、および眼の表現型(例えば変化した個眼充填)を示す遺伝子組換えハエは突然変異ハエと交雑させることができ、および正常な眼表現型の復帰によって遺伝的改変因子が同定される。あらゆる表現型、好ましくは目に見える表現型が、遺伝的改変因子を同定するためのスクリーニングに利用され得る。導入遺伝子または導入遺伝子の組み合わせは、プロモーターにより直接的に駆動され得るかまたはUAS/GAL4系によって駆動され得る。遺伝的改変因子を含む突然変異株が一旦同定されると、欠失マッピング(Parksら, Nat Genet. 36:288−92(2004))または一塩基多型と一致する減数分裂組換えマッピング(Hoskinsら, Genome Res. 11:1100‐13(2001))等の確立された技術を用いて改変因子の座位を決定することができる。遺伝的改変因子内に突然変異を有する遺伝子組換え株もまた、遺伝的改変因子と導入遺伝子または導入遺伝子の組み合わせとの間の相互作用を改変する薬を同定するための、上記の技術を用いたハイスループットスクリーニングの基盤を形成し得る。
【実施例】
【0131】
実施例1 CTFAPPを発現する遺伝子組換えショウジョウバエの作出
キイロショウジョウバエの遺伝子組換え株は、ヒトAPP695のCTFAPP断片を含むように調製した。ハエに、APP695のシグナルペプチドとインフレームに結合したヒトAPP695のアミノ酸596〜695をコードするcDNAを、SP65/A4CTベクターの上流に位置する上流活性化配列(UAS)と共に含む、Dyrksら(FEBS Lett. 309, 20‐24(1992))のSP65/A4CTベクターを含む構築物を注入した。次に遺伝子組換え株を、眼においてCTFAPPの発現をもたらすキイロショウジョウバエのGMR‐GAL4ドライバー株と交雑させた。
【0132】
図1は、CTFAPP遺伝子組換えハエにおけるAβ42の産生を表すCTFAPP遺伝子組換えハエからの抽出物のウエスタンブロットを示す。免疫沈降抗体は、ヒトAPP/アミロイドβに特異的な抗体4G8(Signet)とした。ウエスタンブロットのための1次抗体は6E10(Signet)であり、これもまたヒトAPP/アミロイドβに特異的であるが、4G8よりわずかに異なるエピトープを有する。2次抗体はHRP結合ヤギ抗マウスとした。上記の手順によって作出した3つの個々の遺伝子組換え系統を、左から3番目までのレーンに示す。左から4番目のレーンに示されるAβ42対照ハエは、argosシグナル配列にインフレームで結合したAβ42をコードするcDNAを含む遺伝子組換えキイロショウジョウバエと、キイロショウジョウバエGMR‐GAL4ドライバー株との交雑によって得られるAβ42遺伝子組換え株から得た。対照として提示された野生型ハエ抽出物(レーン5)は、Aβ42を発現しなかった。
【0133】
実施例2 CTFAPPおよびタウを発現する遺伝子組換えショウジョウバエの作出
ヒトタウをコードする導入遺伝子を含む遺伝子組換えキイロショウジョウバエ株およびヒトCTFAPPをコードする導入遺伝子を含む遺伝子組換えキイロショウジョウバエ株を、本明細書に記載するように作出する。次に2種の遺伝子組換えハエを組換えて、ヒトタウおよびヒトCTFAPPの両方をコードする遺伝子を含む二重遺伝子組換えキイロショウジョウバエ株を得る。
【0134】
導入遺伝子構築物
UAS/GAL4系を用いて、CTFAPPおよびタウの両方の遺伝子組換えハエを作出する。形質転換ベクターpUAS‐2N4Rtauwtを作出するために、最長のヒト脳のタウアイソフォームをコードするcDNAを、標準的なライゲーション技術(Sambrookら, Molecular Biology: A laboratory Approach, Cold Spring Harbor, N. Y. 1989)を用いて、ベクターpUAST(Brend及びPerrimon, Development 118:401‐415(1993))内へEcoRI断片としてクローニングする。タウアイソフォームは、配列番号15(アミノ酸配列)および配列番号16(核酸配列)によって表され、タウエキソン2および3に加えて4つの微小管結合リピートを含む。
【0135】
CTFAPPをコードするDNA配列を有するpExP‐UAS形質転換ベクターを作出する。ベクターはヒトAPPシグナルペプチドおよびmycタグに結合したCTFAPPをコードする(pExP‐UAS‐CTFAPP‐I、配列は配列番号17に示す)。pExP‐UAS‐CTFAPP‐Iを作出するために、まずCTFAPPをコードするDNA配列をmycタグをコードする合成オリゴヌクレオチドとインフレームに結合する。次にこのDNA断片を、ヒトAPPシグナル配列をコードするPCR増幅した配列とインフレームに結合する。次に得られたDNA配列をpExP‐UASベクター内にクローニングする。
【0136】
遺伝子組換え株
タウまたはCTFAPPのいずれかを発現する遺伝子組換えショウジョウバエ系統を作出するために、上記のpUASTまたはpExP構築物であるpExP‐UAS‐CTFAPP‐IまたはpUAS‐2N4Rtauwtのどちらかを、ay1118又はw1118キイロショウジョウバエの胚内に、Rubin及びSpradling(Science 218:348−353,(1982))に記載されるように注入する。
【0137】
pUAS‐2N4Rtau‐wtの場合、6つの遺伝子組換え系統を作出し、および本明細書に記載されるように、GMR‐GAL4ドライバー株との交雑後に観察される眼の表現型の程度に基づき、目視検査によって強度、中度または低度として分類する。
【0138】
pExP‐UAs‐CTFAPP‐Iの場合、遺伝子組換え系統を作出し、GMR‐GAL4ドライバー株との交雑後に観察される眼の表現型の程度に基づき、強度、中度または低度として分類する。次に、GMR‐GAL4ドライバーおよびpExP‐UAs‐CTFAPP‐IまたはpUAS‐2N4Rtauwtを有する中程度の眼の表現型の遺伝子組換えショウジョウバエ株を交雑して、タウペプチドおよびCTFAPPペプチドの両方を発現する二重遺伝子組換えショウジョウバエ系を作出する。中程度の眼の表現型の単一遺伝子組換えハエの交雑は、強度に分類される相乗的な眼の表現型を生じる。
【0139】
形質転換構築物pExP‐UAs‐CTFAPP‐IおよびpUAS‐2N4Rtauwtの場合、遺伝子組換え系統を、構築物をay1118またはw1118キイロショウジョウバエの胚内に、Rubin及びSpradling(Science 218:348−353,(1982))の記載のように注入することにより作出し、および導入遺伝子のゲノムDNAへの挿入について、眼の色を観察することによってスクリーニングする。pExP及びpUASTベクターは、white遺伝子マーカーの一部を有する。次に、CTFAPP導入遺伝子を有する遺伝子組換えショウジョウバエを、中枢神経系における導入遺伝子の発現のためのelav‐GAL4ドライバー株と交雑する。交雑が測定可能な表現型を生じなければ、コピー数を拡大するためにCTFAPP導入遺伝子を有するショウジョウバエと転移酵素源を有するショウジョウバエと交雑することにより、導入遺伝子を可動化する。転移エレメントの再可動化は、より強い表現型を伴うより強い挿入物を与え得る。代わりの挿入部位を含む他の遺伝子組換え系統との組換えにより増加した導入遺伝子のコピー数も、より強い表現型を与え得る。新規の/複数の挿入を伴うこの交雑からの子孫を、眼の色における変化を基にして選抜する。次に、より多くのコピー数のおよびより強いCTFAPP導入遺伝子の挿入物を有するハエを、elav‐GAL4ドライバー株と交雑させ、および子孫の運動能力を登坂アッセイにおいて試験する。遺伝子組換え系統は運動表現型を示す可能性があり、およびハエをそれら同士でおよびelav‐GAL4ドライバーの対照のハエと比較して、強度、中度、低度または非常に低度として分類する。
【0140】
次に、CTFAPP及びtauwt導入遺伝子を有する二重遺伝子組換えショウジョウバエを、tauwt遺伝子組換えショウジョウバエとCTFAPP遺伝子組換えショウジョウバエとの交雑または組換えによって作出する。運動能力が評価され、そしてelav‐GAL4ドライバー対照ハエと比較して、強度、中度、低度または極低度として分類される。
【0141】
年齢の機能としての登坂能力を、種々の遺伝子型のハエの集団に対して、25℃で測定する。登坂アッセイは、同年齢の約10個体の群において実施する。
【0142】
次に、ショウジョウバエの脳を凍結切片化し、およびelav‐GAL4;pUAS‐2N4Rtauwt/pExP‐UAS‐CTFAPPハエの水平断片を、抗タウ構造依存性抗体ALZ50及びMCIで免疫染色する。神経細胞の陽性染色は、MCI抗体及びALZ50抗体の両方で観察され得る。結果は、elav‐GAL4;pUAS‐2N4Rtauwt/pExP‐UAS‐CTFAPP二重遺伝子組換えショウジョウバエの脳において発現するタウタンパク質が、アルツハイマー病に関与するタンパク質構造を示すことを明らかにする。
【0143】
チオフラビン‐S染色もまた、本明細書に記載する遺伝子組換えハエの細胞および神経突起において、アミロイドの存在を評価するために実施する。チオフラビン‐Sで染色した場合、蛍光顕微鏡下においてアミロイドは蛍光を発する。チオフラビン‐S染色の方法は当技術分野においてよく知られる。ハエを約25℃で発達させる。チオフラビン‐S陽性細胞はタウのみを発現するハエにおいては観察されない。チオフラビン‐S陽性細胞はCTFAPPを発現するハエにおいてのみ観察される。しかしながら、チオフラビン‐S陽性細胞の数はタウおよびCTFAPPを発現するハエの方が多いと予測される。
【0144】
実施例3 CTFAPPおよびタウの神経変性への作用
登坂表現型を、野生型ショウジョウバエに加えてCTFAPPまたはタウのいずれかの導入遺伝子もしくはは両方の導入遺伝子を含むショウジョウバエについて評価した。導入遺伝子は中枢神経系における導入遺伝子の選択的発現をもたらすelav‐GAL4ドライバーの調節下にあった。ハエを25℃で飼育した。登坂表現型は、上記の「クロスハイ」測定基準を用いて評価した。データを図2に示す。データは、年齢依存的神経変性は、CTFAPPの発現により促進され、およびCTFAPPおよびタウ両方の発現によりさらに促進されることを示唆する。
【0145】
実施例4 治療剤のスクリーニング
アルツハイマー病に対して有効な治療剤をスクリーニングするために、GMR‐GAL4ドライバーおよび導入遺伝子pExP‐UAS‐CTFAPP‐IをpUAS‐2N4Rtauwtと共に有する、多数のelav‐GAL4;pUAS‐2N4Rtauwt/pExP‐UAS‐CTFAPP‐I遺伝子組換えハエの幼虫に候補薬剤を投与する。候補薬剤を三齢の遺伝子組換えキイロショウジョウバエの幼虫(3〜5日齢の幼虫)内に微量注入する。幼虫は、クチクラを通して血リンパ内に、規定量の各々の化合物を皮下注射針を用いて注入される。注入後、幼虫をこれらの発達を完了させるためにバイアル内に置く。羽化後、成虫ハエをCOで麻酔し、および解剖顕微鏡を用いて視覚的に検査することにより、ショウジョウバエの眼の表現型の復帰について、候補薬剤を投与していない対照のハエと比較して評価する。elav‐GAL4;pUAS‐2N4Rtauwt/pExP‐UAS‐CTFAPP‐I遺伝子組換えハエの眼の表現型の、対照GのMR‐GAL4ドライバー株が示す表現型への観察可能な復帰は、ADの治療に有用な薬剤の指標である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムに配列番号1に示す第1のDNA配列、配列番号16に示す第2のDNA配列およびGal4をコードする第3のDNA配列を含む遺伝子組換えショウジョウバエであって、前記第1のDNA配列が配列番号15に示すDNA配列と結合し、および前記第3のDNA配列がelavプロモーターと作動可能に連結している遺伝子組換えショウジョウバエ。
【請求項2】
ゲノムにヒトアミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端断片をコードする第1のDNA配列、およびタウタンパク質をコードする第2のDNA配列を含む遺伝子組換えハエであって、前記第1のDNA配列および前記第2のDNA配列が、発現調節配列と作動可能に連結している遺伝子組換えハエ。
【請求項3】
前記第2のDNA配列がヒトタウタンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項4】
ショウジョウバエである、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項5】
前記第1のまたは前記第2のDNA配列のいずれかと連結した発現調節配列が組織特異的である、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項6】
前記第1のまたは前記第2のDNA配列のいずれかと連結した発現調節配列がUAS調節因子を含み、前記ハエがGal4をコードする第3のDNA配列をさらに含み、および前記第3のDNA配列が組織特異的プロモーターまたはエンハンサーと作動可能に連結している、請求項5に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項7】
前記プロモーターまたはエンハンサーが全神経発現について特異的である、請求項6に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項8】
前記プロモーターまたはエンハンサーが、眼または中枢神経系における発現に特異的である、請求項6に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項9】
前記プロモーターまたはエンハンサーが、elav、sca、Nrv2、Dmef2、Cha、TH、P、CaMKII、GMR、OK107、C164、wingless、vestigial、sevenless、eyelessおよびgcmからなる群より選択される、請求項6に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項10】
前記第1のDNA配列がシグナルペプチドをコードするDNA配列と結合する、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項11】
前記シグナルペプチドが、ヒトAPP、APPL、wg、aos、presenilin、windbeutelおよびVincからなる群より選択されるタンパク質由来である、請求項10に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項12】
胚形成期、幼虫期、蛹期または成虫期である、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項13】
変化した表現型を有する、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項14】
前記変化した表現型が、運動障害、行動表現型、形態的表現型および生化学的表現型からなる群より選択される、請求項13に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項15】
前記ヒトアミロイド前駆体タンパク質のカルボキシ末端断片が、前記ヒトアミロイド前駆体タンパク質の細胞内領域、膜貫通領域および細胞外領域の一部を含む、請求項2に記載の遺伝子組換えハエ。
【請求項16】
請求項2に記載の、前記遺伝子組換えハエより調製される初代細胞培養物。
【請求項17】
ゲノムにヒトアミロイド前駆体タンパク質の突然変異カルボキシ末端断片をコードするDNA配列を含む遺伝子組換えハエであって、前記DNA配列が発現調節配列と作動可能に連結し、前記ヒトアミロイド前駆体タンパク質の突然変異カルボキシ末端断片がロンドン型突然変異ではない、遺伝子組換えハエ。
【請求項18】
請求項17に記載の、前記遺伝子組換えハエより調製される初代細胞培養物。
【請求項19】
神経変性疾患において活性である薬剤を同定する方法であって、
a)候補薬剤を請求項2に記載の遺伝子組換えハエに接触させることと、
b)前記遺伝子組換えハエの選択した表現型を観察することと、
を含み、
前記候補薬剤と接触させた前記遺伝子組換えハエと前記候補薬剤と接触させない対照の遺伝子組換えハエとの間で観察される表現型における違いが、神経変性疾患において活性である薬剤の指標となる方法。
【請求項20】
前記遺伝子組換えハエがショウジョウバエである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子組換えハエが、胚形成期、幼虫期、蛹期または成虫期である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記発現調節配列が組織特異的である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記発現調節配列がUAS調節因子を含み、前記ハエがGAL4をコードする第3のDNA配列をさらに含み、および前記第3のDNA配列が組織特異的プロモーターまたはエンハンサーと作動可能に連結する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記プロモーターまたはエンハンサーが、全神経発現について特異的である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記プロモーターまたはエンハンサーが、眼または中枢神経系における発現に特異的である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記プロモーターまたはエンハンサーが、elav、sca、Nrv2、Dmef2、Cha、TH、P、CaMKII、GMR、OK107、C164、wingless、vestigial、sevenless、eyelessおよびgcmからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記遺伝子組換えハエの前記第1のDNA配列がシグナルペプチドをコードする配列と結合する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記表現型が、運動障害、行動表現型、形態的表現型および生化学的表現型からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
神経変性疾患において活性である薬剤を同定する方法であって、
a)候補薬剤を、請求項1に記載の前記遺伝子組換えハエおよび対照の野生型のハエに接触させることと、
b)前記遺伝子組換えハエおよび前記対照のハエにおける選択した表現型を観察することと、
を含み、前記遺伝子組換えハエと前記対照のハエとの間で観察される表現型における違いが、神経変性疾患において活性である薬剤の指標となる方法。
【請求項30】
神経変性疾患において活性である薬剤を同定する方法であって、
a)候補薬剤を、請求項16に記載の前記初代細胞培養物由来の遺伝子組換え細胞および野生型のハエより調製した培養物由来の対照の細胞に接触させることと、
b)前記遺伝子組換え細胞および前記対照の細胞における選択した表現型を観察することと、
を含み、前記遺伝子組換え細胞と前記対照の細胞との間で観察される表現型における違いが、神経変性疾患において活性である薬剤の指標となる方法。
【請求項31】
神経変性疾患において活性である薬剤を同定する方法であって、
a)候補薬剤を、請求項16に記載の前記初代細胞培養物由来の遺伝子組換え細胞に接触させることと、
b)前記遺伝子組換え細胞における選択した表現型を観察することと、
を含み、前記候補薬剤と接触させた前記遺伝子組換え細胞と前記候補薬剤と接触させない対照細胞との間で観察される表現型における違いが、神経変性疾患において活性である薬剤の指標となる方法。
【請求項32】
前記表現型が、細胞形態、細胞の凝集状態、細胞内微小線維変化の存在または外見、細胞外斑の存在または外見、アミロイドポリペプチドの可溶性、タウのリン酸化状態および酸化的ストレスへの感受性からなる群より選択される、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
アルツハイマー病に作用し得る遺伝子を同定する方法であって、
a)請求項2に記載の前記遺伝子組換えハエまたは請求項24に記載の前記遺伝子組換えハエを、選択した遺伝子において突然変異を含むゲノムであるハエと交雑させることと、
b)請求項2に記載のハエの前記導入遺伝子または請求項17に記載のハエの前記導入遺伝子、および前記選択した遺伝子を有する前記子孫を、請求項2に記載のハエの前記導入遺伝子または請求項16に記載のハエの前記導入遺伝子と関連する表現型の変化について観察することと、
を含み、
前記表現型の変化が、選択した遺伝子がアルツハイマー病に作用し得ることを示唆する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−539406(P2009−539406A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515479(P2009−515479)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/013934
【国際公開番号】WO2007/149293
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(507184074)エンビボ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】