説明

タウオリゴマーに結合する抗体

本発明の態様は、タウオリゴマーおよびタウオリゴマー特異的抗体に関連した組成物および方法に向けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年8月28日に出願された米国特許仮出願第61/237,861号に係る優先権を主張する。米国特許仮出願第61/237,861号はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
I.発明の分野
本発明の態様は、概して、生物学および医学に向けられる。ある特定の局面において、態様は、タウオリゴマーおよびタウオリゴマー特異的抗体に関する組成物および方法に向けられる。
【背景技術】
【0003】
II.背景
微小管結合タンパク質であるタウの病理学的凝集および神経原線維変化(NFT)またはタウを含有する他の含有物の蓄積は、タウオパチーと総称される、アルツハイマー病(AD)および多くの神経変性疾患の病理組織学的特徴を規定するものである。タウオパチーには、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)が含まれる。神経原線維変化(NFT)と疾患進行との相関関係が広く研究され、相反する結果が得られており、タウの病理学的凝集とシナプス機能不全および神経変性とを結び付ける機構は十分に理解されていない。
【0004】
アルツハイマー病の場合、現行の薬物療法は、神経変性に起因するコリン作動性伝達消失の対症療法に焦点をおいている(Mayeux et al., 1999)。しかしながら、利用可能な治療は疾患進行を6ヶ月〜12ヶ月まで遅らせるが、阻止しない。神経変性につながるタウ凝集を阻止できる薬物が発見されれば、凝集を開始する多様な上流事象の近接した情報を必要としない、予防のための、または疾患進行を妨げるためのさらに有効な戦略が得られるであろう。
【0005】
さらに、アルツハイマー病(AD)の臨床診断は特に疾患初期段階では難しい。今日、診断は、代表的な病歴と、他の認知症原因の除外との組み合わせに基づいている。ある医療センターの診断精度は神経病理学的診断と比較して85〜90%になることがある。疾患初期段階では臨床像はあいまいであり、確定診断マーカーはまだ特定されていない(McKhann 1984)。多くの理由、すなわち、臨床診断の裏付け、臨床家による患者および患者の親族への十分な情報の提供、薬理学的治療および看護の開始、ならびに臨床研究の様々な局面から生化学診断マーカーの開発は重要である。
【0006】
従って、先行技術であるタウオパチーを予防および治療するための技法を考慮すれば、アルツハイマー病および他のタウオパチーのマーカーのさらに早期の検出を可能にする技法が必要とされる。副作用を引き起こすことなく、このようなマーカーが阻止できれば、アルツハイマー病を早期に予防および治療する手段となるであろう。AD患者脳にあるタウ不溶性凝集物の量を減らす全てのアルツハイマー病治療に治療上の大きな価値があるだろう。
【発明の概要】
【0007】
神経原線維変化などの大きな凝集物ではなく、オリゴマー(例えば、タウオリゴマー)と呼ばれる中間サイズの神経変性疾患関連タンパク質凝集物が真の発病実体だということが証拠から明らかになっている。本明細書に記載の局面は、タウオリゴマーを用いた、またはタウオリゴマーに関する方法および試薬に向けられる。ある特定の局面では、タウオパチー治療において受動免疫療法が用いられる。さらなる局面では、タウオパチー治療において、単離されたタウオリゴマーの投与が用いられる。さらに他の局面では、タウオパチーの治療および評価においてタウオリゴマーモノクローナル抗体(TOMA)が用いられる。本明細書に記載の組成物および方法は、病原性の状態または潜在的に病原性の状態を特定するのに使用することができる。例えば、タウオリゴマーの検出はタウオパチーの初期バイオマーカーとして使用することができる。ある特定の局面において、組成物は、タウ関連状態の新規治療として使用することができる。ある特定の局面において、TOMAは、NFTを低減するのに、またはNFTの形成を低減もしくは阻害するのに使用することができる。他の局面において、タウオリゴマーは、NFTを低減する、またはNFTの形成を低減する抗体を誘導するのに使用することができる。
【0008】
本発明のある特定の局面は、タウオリゴマーに特異的に結合する抗体に向けられる。ある特定の局面において、抗体は可溶性タウにもタウ原線維にも有意に結合しない。さらなる局面において、本発明の抗体は可溶性タウにもタウ原線維にも特異的に結合しない。ある特定の態様において、抗体は、タウオリゴマーに特異的に結合し、可溶性タウにもタウ原線維にも結合しないモノクローナル抗体または抗体断片である。可溶性タウとタウオリゴマーとタウ原線維との区別にはコンホメーションおよび安定性の差が含まれる。これは、異なるコンホメーションを示すアミロイドオリゴマーおよびプロトフィブリルと似ている。アミロイドオリゴマーは、電子顕微鏡および原子間力顕微鏡の下では球に似た目に見える構造を有し、これらの構造のサイズは典型的に2.5〜20nmである。対照的に、顕微鏡下の原線維の外観は平らである。「タウオリゴマー」という用語は、約3〜24個のタウポリペプチドもしくはタンパク質またはそのセグメントを有するタンパク質凝集物を指す。「可溶性タウ」という用語はタウタンパク質の単量体または二量体を指す。「タウ原線維」という用語は、タウオリゴマーとコンホメーションの点で異なる(例えば、タウオリゴマーと比較して特異なエピトープを有する)およびリン酸化状態の点で異なる不溶性タウ凝集物を指す。すなわち、タウ原線維はタウオリゴマーより安定性が高い。さらなる局面において、本発明の抗体は単鎖抗体である。抗体はヒト抗体またはヒト化抗体でもよい。他の局面において、抗体は薬学的に許容される賦形剤の中に含まれる。タウオリゴマーモノクローナル抗体(TOMA)は、ELISAアッセイにおいてTOMAを用いて、動物モデルおよびヒトの中にあるタウオリゴマー、ならびにアルツハイマー病(AD)、ならびにピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)を含む多くの神経変性疾患などのタウオパチーを有する患者またはタウオパチーを有すると疑われる患者からの生物学的液体の中にあるタウオリゴマーを分析するのに使用することができる。
【0009】
本発明のある特定の態様は、病原性タウオリゴマーを調製する方法に向けられる。タウオリゴマーを調製するこれらの方法はインビボでのタウ凝集を模倣している。本方法において、Aβオリゴマーおよびα-シヌクレインオリゴマーは、インビトロでタウ凝集を引き起こす促進剤として用いられる。ある特定の局面は、タウオリゴマーを調製する方法であって、(a)単離された組換えタウタンパク質と、アミロイドポリペプチド、α-シヌクレインポリペプチド、もしくはプリオンポリペプチドの予め形成されたオリゴマーを含む核形成剤を接触させて、核形成混合物を形成する工程;(b)タウオリゴマー化を生じさせる、もしくは促す条件下で核形成混合物をインキュベートする工程;および/または(c)タウオリゴマー化が停止するか、著しく低下するように核形成混合物の条件を変える工程の1つまたは複数の工程を含む方法に向けられる。ある特定の局面において、アミロイドポリペプチドはAβ42またはAβ40である。さらなる局面において、プリオンポリペプチドはプリオン106-126である。ある特定の態様において、予め形成されたオリゴマーとタウタンパク質との比は、少なくとも1:50、1:100: 1:120、1:140、1:160、1:180、1:200、または1:500(w/w)の比であり、この間の全ての値および範囲を含む。さらなる局面では、核形成混合物は、約0.5時間、0.75時間、1時間、1.25時間、1.5時間、1.75時間、2時間、2.5時間、もしくは3時間、または約0.5時間、約0.75時間、1時間、約1.25時間、約1.5時間、約1.75時間、約2時間、約2.5時間、もしくは約3時間より短く、この間の全ての値および範囲を含めてインキュベートされる。ある特定の局面において、核形成混合物は、少なくとも20分間、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、90分間、100分間、120分間、最大で100分間、120分間、140分間、180分間、200分間、220分間、240分間、260分間、280分間、300分間、この間の全ての値および範囲を含めてインキュベートされる。ある特定の局面において、核形成混合物は、少なくとも50分間、最大で120分間インキュベートされる。本発明の他の局面は、本明細書に記載の方法によって生成されたタウオリゴマーに向けられる。タウ二量体は、約80Kd〜1500Kd、βシートリッチ、細胞に対して毒性、変性条件、尿素、グアニジン、ギ酸、および強力な界面活性剤に対して感受性である。
【0010】
本発明のさらなる局面は、タウオリゴマー特異的抗体を特定する方法であって、(a)タウオリゴマーに結合する抗体と、タウオリゴマー、可溶性タウ、またはタウ原線維を独立して接触させる工程;および(b)バックグラウンドを上回る検出可能なレベルで、タウオリゴマーに特異的に結合し、可溶性タウにもタウ原線維にも結合しない抗体を特定する工程を含む方法に向けられる。ある特定の局面では、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルでタウオリゴマーに特異的に結合し、可溶性タウに結合せず、バックグラウンドを上回る検出可能なレベルでタウ原線維に結合しない抗体がイムノブロッティングまたはELISAアッセイによって特定される。
【0011】
本発明のなおさらなる局面は、タウオパチーと疑われる患者またはタウオパチーを有する患者を評価する方法であって、タウオリゴマー特異的抗体と、患者からの生物学的試料の成分との結合を検出する工程であって、生物学的試料中のタウオリゴマーの検出がタウオパチーを示す工程を含む方法を含む。タウオパチーは、アルツハイマー病、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、またはタウオリゴマーに関連する他の疾患状態でもよい。ある特定の局面において、タウオリゴマーはイムノアッセイによって検出される。生物学的試料には、血液、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、ニューロン組織、または筋肉組織が含まれるが、これに限定されない。ある特定の局面において、タウオリゴマー特異的抗体は検出可能な剤を含む。検出可能な剤には、放射性マーカー、核酸、蛍光標識、または酵素標識が含まれ得るが、これに限定されない。
【0012】
さらに別の局面は、タウオパチーを治療する方法であって、ADもしくは他のタウオパチーを有する対象またはADもしくは他のタウオパチーを有すると疑われる対象に、有効量のタウオリゴマーまたはタウオリゴマー特異的抗体を投与する工程を含む方法に向けられる。タウオリゴマーまたはタウオリゴマーに特異的な抗体は、約、少なくとも、または最大で0.1、0.5、1、2、3、4、5、6μgもしくは mg〜5、6、7、8、9、10μgもしくはmgの用量で、この間の全ての値および範囲を含めて投与することができる。タウオリゴマーまたはタウオリゴマー特異的抗体は血液またはCSFに投与することができる。これらの方法によって治療することができるタウオパチーには、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)が含まれるが、これに限定されない。ある特定の局面において、タウオリゴマーは、タウオパチー(例えば、AD)を治療するために、またはタウオパチーの症状を変えるために免疫応答を誘導するのに用いられる。
【0013】
他の局面において、タウオパチーを治療する方法またはタウオリゴマーに対する免疫応答を誘導する方法は、有効量のタウオリゴマーを、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)などがあるが、これに限定されないタウオパチーを有する対象またはタウオパチーを有すると疑われる対象に投与する工程を含む。
【0014】
本明細書で使用する、「抗原」という用語は、抗体またはT細胞受容体に結合することができる分子である。さらに、抗原は、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答を誘導して、Bリンパ球および/またはTリンパ球を産生することができる。生物学的応答を生じさせる、抗原の構造的な側面、例えば、三次元コンホメーションまたは修飾(例えば、リン酸化)は、本明細書では「抗原決定基」または「エピトープ」と呼ばれる。Bリンパ球は抗体産生を介して外来抗原決定基に応答するのに対して、Tリンパ球は細胞性免疫のメディエーターである。従って、抗原決定基またはエピトープは、抗体が認識する抗原の一部、またはMHCの状況ではT細胞受容体が認識する抗原の一部である。抗原決定基は、タンパク質の連続した配列またはセグメントである必要はなく、互いのすぐ隣にない様々な配列を含んでもよい。ある特定の局面では、タウオリゴマーが抗原として利用される。
【0015】
分子が標的に「特異的に結合する」または標的と「特異的に免疫反応する」という句は、他の生物学的因子の不均一な集団の存在下で、その分子が存在することを決める結合反応を指す。従って、指定されたイムノアッセイ条件下では、ある特定の分子はある特定の標的に優先的に結合し、試料に存在する他の生物学的因子に有意な量で結合しない。このような条件下で抗体と標的が特異的に結合するには、標的との特異性があるかどうか抗体が選択される必要がある。ある特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために、様々なイムノアッセイ形式を使用することができる。例えば、タンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択するために、固相ELISAイムノアッセイが日常的に用いられる。例えば、特異的な免疫反応性を確かめるのに使用することができるイムノアッセイの形式および条件の説明については、Harlow and Lane(1988)を参照されたい。2つの実体の間の特異的結合は、少なくとも106 M-1、107 M-1、108 M-1、109M-1、または1010M-1の親和性を意味する。108M-1を超える親和性が好ましい。
【0016】
「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、インタクトな抗体およびその結合断片/セグメントを含むために用いられる。典型的に、断片は、抗原との特異的結合において、断片が得られたインタクトな抗体と競合する。断片は、別々の重鎖、軽鎖Fab、Fab'、F(ab')2、Fabc、およびFvを含む。断片/セグメントは組換えDNA法によって作製されるか、インタクトな免疫グロブリンの酵素的分離または化学的分離によって作製される。「抗体」という用語はまた、他のタンパク質と化学結合された、または他のタンパク質との融合タンパク質として発現された1つまたは複数の免疫グロブリン鎖を含む。「抗体」という用語はまた二重特異性抗体も含む。二重特異性抗体または二機能性抗体は、2種類の重鎖/軽鎖ペアおよび2種類の結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマ融合またはFab'断片の連結を含む様々な方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann (1990); Kostelny et al.(1992)を参照されたい。
【0017】
本願全体を通じて本発明の他の態様が議論される。本発明のある局面に関して議論されたいずれの態様も本発明の他の局面に当てはまり、逆の場合も同様である。実施例の項の中の態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。
【0018】
「阻害する」、「低下させる」、もしくは「阻止する」という用語、またはこれらの用語の任意の変化は、特許請求の範囲および/または明細書において用いられた場合、望ましい結果、例えば、タウオリゴマーの発病活性の低下を得るための任意の測定可能な減少または完全な阻害を含む。
【0019】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という語句の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語と共に用いられた場合、「1つ」を意味することがあるが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは1を超える」という意味とも一致する。
【0020】
本明細書において議論された任意の態様は本発明の任意の方法または組成物に関して実施できることができ、逆の場合も同様であると意図される。さらに、本発明の方法を実現するために、本発明の組成物およびキットを使用することができる。
【0021】
本願全体を通じて「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために用いられている装置または方法の誤差の標準偏差を含むことを示すために用いられる。
【0022】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを指す、すなわち、選択肢が互いに相反することを指すように明確な指示が出されていない限り、「および/または」を意味するように用いられるが、この開示は、選択肢のみと「および/または」を指す定義を裏付ける。「または」という用語を用いて列挙されたものは何でも明確に排除されることがあることも意図される。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲において使用する「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形)という語句は包括的またはオープンエンドであり、さらなる列挙されなかった要素または方法の工程を排除しない。
【0024】
本発明の他の目的、特徴、および利点は以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲の中で様々な修正および変更が当業者に明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本発明のある特定の局面をさらに証明するために含まれる。これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において示される特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、本発明をさらに深く理解することができる。
【0026】
【図1】神経変性疾患におけるタウオリゴマーの中心的な役割を示した模式図。ADおよびタウオパチーは、タウまたはタウおよび別の特異的なタンパク質の沈着を特徴とする。最近、複数の研究室の研究から、可溶性単量体タウまたはNFT以外のタウ種が形成し、発病において役割を果たしているという説得力のある証拠が得られている。このタウ中間凝集物(タウオリゴマー)は、Aβの非存在下で神経変性および記憶障害を引き起こすことができる。さらに、その形成は、Aβを介した神経毒性に重要である可能性があり、従って、免疫療法および他のアプローチの標的が特定される。
【図2】PBS、pH7.4に溶解した予め形成されたオリゴマーを1:140(w/w)オリゴマー/タウの比でシーディング(seeding)することによって調製されたタウオリゴマー。(A)クロスシーディング(cross-seeding)によって調製されたタウオリゴマーのウエスタンブロット。10μM組換えヒトタウ(2N4Rタウ1-441)を、α-シヌクレインオリゴマー(レーン1)、Aβ42オリゴマー(レーン2)を用いてシーディングし、タウ全体を認識するタウ5抗体を用いてプローブした。(B〜C)Aβ42オリゴマーを用いたシーディングによって調製されたタウオリゴマーのEM画像。(D〜E)α-シヌクレインオリゴマーを用いたシーディングによって調製されたオリゴマーのAFM画像。(F)CDから、タウオリゴマーは不規則な単量体タウとは異なりβシートリッチであることが確かめられる。(G)タウオリゴマーのFPLCクロマトグラム。主ピークは約150〜190kDaである。ボイドピーク(void peak)と共に、さらに大きなタウオリゴマーが溶出した。
【図3】T2286(新規のタウオリゴマー特異的抗体)はタウオリゴマーのみを検出し、単量体タウまたはタウ原線維を検出しない。さらに、T2286は、他のタンパク質に由来するオリゴマーを検出しない。(A)T2286を用いたWB:(1)タウ単量体、(2)タウオリゴマー+Aβ40オリゴマー、(3)タウオリゴマー+Aβ42オリゴマー、(4)室温で2日間エイジングしたタウオリゴマー(3と同じ)、(5)Aβ40オリゴマー、(6)AB42オリゴマー、(7)α-シヌクレインオリゴマー、(8)IAPPオリゴマー、(9)Aβ42原線維、(10)α-シヌクレイン原線維、(11)IAPP原線維。(B)T2286特異性を(ELISA)によって確かめた。T2286はタウオリゴマーと特異的に反応し、単量体タウともタウ原線維とも反応しない。Aβオリゴマーとも反応しない。
【図4】AD患者におけるタウオリゴマー。(A)AD脳試料および対照脳試料(前頭皮質)に由来するPBS可溶性画分のウエスタンブロット。T-2286によって検出されたタウオリゴマーは対照脳(青色)と比較してAD脳(赤色)に多いことが明らかである。T-2286は単量体タウを認識しないことが明らかである。(B)対照と比較して、AD患者に由来するCSF中のタウオリゴマーレベルは高かった。50μlのCSFを用いた直接ELISAによって測定した。
【図5】T2886は、AD脳のPBS画分中にあるタウオリゴマーを検出する。(A)T2886は高分子量種のみを検出し、単量体を検出しない。(B)タウ5は、単量体を含む総タウを検出する。(C)T2286のコンホメーション特異性を確かめるために、尿素処理後にシグナルはほとんど検出されなかった。タウオリゴマーは、サルコシル可溶性(S)画分およびサルコシル不溶性(I)画分(29)の両方に見出された。可溶性画分中にある、タウ5が認識したタウ単量体(左矢印)または不溶性画分中にあるNFT(右矢印)(D)はT2286(E)によって認識されない。
【図6】タウオリゴマーの生化学的分析。T2285シグナルによって評価され、3種類のホスホエピトープを用いて比較した時に、AD脳に由来するタウオリゴマーに対するアルカリホスファターゼの作用は限定されている。(1)未処理のPBS脳ホモジネート、(2)400U/mlホスファターゼで処理したPBS脳ホモジネート、(3)800U/mlホスファターゼで処理したPBS脳ホモジネートをWBによって分析した。
【図7】T2286抗体組成物を用いたレヴィー小体認知症(LBD)およびアルツハイマー病(AD)試料におけるタウオリゴマーの検出。T2286はLBD皮質のイムノブロットにおいてオリゴマータウを認識する。これらのオリゴマーはAD脳において見られるものと似ていた。
【図8】タウオリゴマーモノクローナル抗体(TOMA)はタウオリゴマー毒性を弱める。SY5Y細胞において試験した時にタウオリゴマーには毒性がある。毒性は、TOMA1によって阻止することができる-タウ単量体;2-タウ原線維;3-タウオリゴマー、4-タウオリゴマー+TOMA。
【図9】AD患者の脳脊髄液(CSF)の中にタウオリゴマーが検出された。T2286を用いた図8Bに示したように、TOMAを用いたこの図は、ELISAによって測定された時に対照と比較してAD患者のCSF中にタウオリゴマーが多いことを裏付けている。
【図10】TOMAの単回ICV注射は、7ヶ月齢のP301Lトランスジェニックマウスの表現型を4日で逆転させた。ICV注射の前に、ロータロッドを用いてマウスを1回のセッションで1日2回試験した。各セッションにおいて、マウスをロッドの上に4回置いた。ロッドの初期スピードは4r.p.m.であり、30秒後に4r.p.m.にし、0.1r.p.m./秒で速度を上げた。注射して4日後に、注射前に用いた同じ条件を用いてマウスを試験した。対照:1μLの1mg/ml対照マウスモノクローナル抗体(ローダミンmmAb(Genetexカタログ番号GTX29093)を注射した。処置:1μLのTOMA-1(1mg/ml)を注射した。**<0.01で統計的に有意。各群に5匹の動物を使用した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
微小管結合タンパク質であるタウの病理学的凝集および神経原線維変化(NFT)またはタウを含有する他の含有物の蓄積は、タウオパチーと総称される、アルツハイマー病(AD)を含む多くの神経変性疾患の病理組織学的特徴を規定するものである。タウオパチーには、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)が含まれるが、これに限定されない。神経原線維変化(NFT)と疾患進行との相関関係が広く研究され、相反する結果が得られており、タウの病理学的凝集とシナプス機能不全および神経変性とを結び付ける機構は十分に理解されていない。NFTそれ自体がタウオパチーの真の発病実体ではなく、単量体とNFTとの中間のサイズの凝集物、いわゆるタウオリゴマーに病原性があるという考えが急浮上しつつある。このようなオリゴマーを調べるには新たな方法およびツールが必要とされる。均一なタウオリゴマー集団を調製および使用するための方法が本明細書において説明される。これらのタウオリゴマーは、タウオリゴマーを特異的に認識するモノクローナル抗体であるタウオリゴマーモノクローナル抗体(TOMA)の作製および特徴付けにおいて利用される。死後脳およびCSFに関する研究から、タウオパチーにおけるタウオリゴマーの驚くべきかつ新規の役割が分かっている。本発明の態様には、タウオパチーの評価および/または治療において本発明のTOMAを作製および使用するための組成物および方法が含まれる。
【0028】
I.タウオリゴマーおよび疾患
タウタンパク質は、微小管結合ドメインに対応する反復配列の3つまたは4つのコピーを含有するオルタナティブスプライシングアイソフォームの形で存在する(Goedert et al., 1989; Goedert et al., 1989)。タウはタンパク分解によって処理されて、コアドメインになり、この時には対らせん状細線維(PHF)の形をとる(Wischik et al., 1988a; Wischik et al., 1988b); Novak et al., 1993)。安定したタウ-タウ相互作用には3つの反復しか関与しない(Jakes et al., 1991)。PHF様タウ凝集物が形成すると、さらなる捕捉のための種(seed)として働き、完全長タウタンパク質をタンパク質分解処理するための鋳型となる (Wischik et al., 1996)。
【0029】
PHFは形成および蓄積する間に、まず最初に集合して、細胞質内で非結晶凝集物を、おそらく、PHF集合の前またはPHF集合の間に切断された初期タウオリゴマーから形成する(Mena et al., 1995; Mena et al., 1996)。次いで、これらの線維は続いて古典的な細胞内神経原線維変化を形成する。この状態では、PHFは、切断型タウのコアと、完全長タウを含有する羽毛状の外側コートからなる(Wischik et al., 1996)。集合プロセスは指数関数的であり、タウの細胞プールを費やし、新たなタウ合成を誘導して欠陥を組み立てる(Lai et al., 1995)。最終的に、ニューロンの機能低下は細胞死の点まで進行し、細胞外タングルを後に残す。細胞死は細胞外タングルの数と高い相関関係がある(Wischik et al., 2000)。タングルが細胞外空間に押出されるにつれて、ニューロン-PHFの羽毛状の外側コートが進行と共に消失し、それに対応してN末端タウ免疫反応性が消失する。PHFコアに関連した免疫反応性は保存される(Bondareff et al., 1994)。
【0030】
PHFに組み込まれたタウ反復ドメインにおいて観察される位相変化は、反復ドメインが、線維に組み込まれる間に誘導性コンホメーション変化を受けることを示唆している。アルツハイマー病の発症中に、タウと、損傷した膜タンパク質または変異した膜タンパク質などの病理学的基質が結合することによって、このコンホメーション変化が開始すると予想される(Wischik et al., 1997を参照されたい)。
【0031】
A.タウ機能、リン酸化、および神経原線維変化(NFT)の形成
微小管結合タンパク質であるタウは微小管集合、軸索輸送、および神経突起成長に必要とされる。タウは、細胞骨格の中では、微小管を組織化および安定化することによって重要な機能を果たす。タウは、GTPとβ-チューブリンとの結合を高めることによってチューブリン二量体の重合および微小管の安定性を高める(Binder et al., 1985)。タウの生物学的機能の大部分は部位特異的リン酸化によって調整される(Drechsel et al., 1992)。タウは単一の遺伝子によってコードされるが、サイズが352〜441アミノ酸にわたる6種類のスプライスアイソフォームがヒトCNSにおいて発現している(SEQ ID NO:1〜6)(Goedert et al., 1989)。これらのアイソフォームは、0個、1個、または2個のN末端インサート、および3個または4個の縦列に並べられた微小管結合反復が存在することによって互いに異なる。従って、これらのアイソフォームは、0N3R(SEQ ID NO:1)、1N3R(SEQ ID NO:2)、2N3R(SEQ ID NO:3)、0N4R(SEQ ID NO:4)、1N4R(SEQ ID NO:5)、および2N4R(SEQ ID NO:6)と呼ばれる。本発明の局面は、これらのアイソフォームもしくはそのセグメントの1つもしくは複数を含むタウオリゴマーに結合する抗体、またはこれらのアイソフォームもしくはそのセグメントの1つもしくは複数を含むタウオリゴマーの検出に関する。
【0032】
タウは、グリコシル化、ユビキチン結合、グリケーション、ポリアミノ化、ニトロシル化、および切断を含む多くの翻約後修飾を受ける。疾患に関連するタウ翻約後修飾は過剰リン酸化である。過剰リン酸化によってタウの生物学的機能が変化し、ADおよび他の神経変性疾患の顕著な特徴であるタウの自己集合、凝集、および神経原線維変化(NFT)における蓄積が引き起こされ得る(Alonso et al., 2008; Lee et al., 2001)。全てのタウアイソフォームは少なくとも30個のリン酸化部位を含有し(Buee et al., 2000; Goedert et al., 1992)、これらのほとんどは正常タウでは脱リン酸型と考えられている。正常タウタンパク質では、これらの部位の多くにおいて、ある程度のリン酸化が起こる。それにもかかわらず、NFTでは、これらの部位の多くが場所および量の点で異常にリン酸化されている(Matsuo et al., 1994; Lee et al., 2001; Morishima-Kawashima et al., 1995)。タウリン酸化、特に、セリン262(S262)などの特定の部位でのタウリン酸化は微小管に対するタウの親和性を低下させる(Biernat et al., 1993)。そのため、どのプロテインキナーゼおよびホスファターゼがタウリン酸化を制御するのか確かめることに、かなりの注目が集められてきたことは驚くべきことではない(Avila, 2008)。MAPK(Drewes et al., 1992)、GSK3β(Hanger et al., 1992)、MARK(Drewes et al., 1995)、cdk2、およびcdk5(Baumann et al., 1993)を含むが、これに限定されない非常に多くのタウキナーゼが発見されている。対照的に、PP2Aはインビボにおいて主要なタウホスファターゼのようである(Goedert et al., 1995)。PP1、PP2B、およびPP2Cはまたインビトロでタウを脱リン酸することもできる(Buee et al., 2000; Johnson et al., 2004)。
【0033】
ADおよび非ADタウオパチーにおいて蓄積するNFTの中にあるタウについての重要な早期所見は、タウが異常リン酸化していることであった(Spires-Jones et al., 2009; Grundke-Iqbal et al., 1986)。一連の早期タウリン酸化は、NFT形成の前に、コンホメーション変化および細胞病理学的変化につながる、特定のリン酸化タウエピトープに特異的な事象があることを示唆している。リン酸化依存性タウ抗体を用いて、3つのNFT発生段階:(1)プレNFT、(2)ニューロン内NFT、および(3)ニューロン外NFTが導入された。ニューロンが細胞質、樹状突起、細胞体、および核の中に非線維性の点状領域を示すプレNFT状態は、特に、ホスホ-タウ抗体TG3(pT231)、pS262、およびpT153を用いて観察された。ニューロン内NFTは原線維タウ構造と共に均一に染色され、pT175/181、12E8(pS262/pS356)、pS422、pS46、pS214抗体によって最も顕著に染色された。細胞外NFTはかなりの線維状タウを含有し、AT8(pS199/pS202/pT205)、AT100(pT212/pS214)、およびPHF-1(pS396/pS404)抗体によって最も顕著に染色された。これらの抗体は細胞内NFTも染色する。さらに、ADの重篤度およびニューロン消失はNFTにおけるタウリン酸化パターンと相関する(Augustinack et al., 2002; Trinczek et al., 1995)。
【0034】
タウ過剰リン酸化は、可溶性タウタンパク質から不溶性タウタンパク質につながるカスケードの早期事象と考えられるが、線維形成には過剰リン酸化で十分であることを証明する証拠は無い。なぜ、過剰リン酸化によって、タウタンパク質から異常線維への凝集が促進されるのか?特定の理論に限定されないが、1つの可能性は、リン酸化によって付与された負電荷がタウの塩基性電荷を中和し、分子内の相互作用および凝集が促進されるということである(Alonso et al., 2001a; Alonso et al., 2001b)。別の説明としては、過剰リン酸化によって微小管からタウが外れ、非結合タウのプールが増加することである。結合していない過剰リン酸化タウは、正常タウおよび他の微小管結合タンパク質との結合において微小管と競合し、それによって、これらを隔離し、微小管の解体を増やすのかもしれない(Alonso et al., 2001a)。微小管結合タウと比較して、この非結合タウは分解耐性が高く、凝集する可能性が高いかもしれない。過剰リン酸化タウの低いタンパク質分解はまた、対らせん状細線維(PHF)の形成に利用可能な可溶性タウのプールを増やすかもしれない。従って、タウの異常リン酸化はタウの全細胞プールを増やし、その溶解度を変え、微小管の安定性を良くない方に調節するのかもしれない(Litersky et al., 1992; Litersky et al., 1993)。
【0035】
タウリン酸化およびNFT形成の重要な一因はアミロイドであるかもしれない。「アミロイドカスケード」仮説では、Aβペプチドが老人斑の中に蓄積するとNFTが形成し、ニューロン細胞死が起こると考えられている(Busciglio et al., 1995)。初代ニューロン培養において、Aβはタウリン酸化を誘導することができる(Busciglio et al., 1995)。Aβ42原線維はP301Lタウトランスジェニックマウスにおいて神経原線維変化の形成を誘導し(Gotz et al., 2001)、予め凝集したAβ42は、野生型および変異型のヒトタウを過剰発現する細胞において、タウの特異なホスホ-エピトープによって媒介されるPHF形成を誘導した(Ferrari et al., 2003; Pennanen and Gotz, 2005)。ヒトタウ過剰発現細胞においてAβオリゴマーはタウ過剰リン酸化を誘導したが、可溶性型または原線維型のAβは誘導しなかった(De Felice et al., 2008)。非疾患関連タンパク質であるニワトリ卵白リゾチームに由来する可溶性オリゴマーが、Aβ凝集物によって誘導されるタウ過剰リン酸化を模倣する能力によって証明されたように、この現象はAβ特異的でなく、コンホメーション特異的である(Vieira et al., 2007)。
【0036】
タウ異常線維の集合は、高濃度のタウタンパク質を使用することによって、または低タンパク質濃度ではポリアニオン、脂肪酸(および誘導体)、ならびにその他を含む化合物を添加することによってインビトロで再現することができる。インビトロタウ重合について報告された方法および条件は包括的なレビューの主題になっている(Avila et al., 2004; Avila, 2000)。インビトロでの完全長タウタンパク質凝集および線維形成の機械的研究から、重合核依存性機構を介したAβインビトロ凝集と著しく似ていることが明らかになった(Honson et al., 2009)。
【0037】
B.タウ沈着ならびにADおよびタウオパチーにおける原因となるその役割
タウオパチーの神経病理学的特徴には、局所的な神経変性に付随して見られる線維状ニューロンまたはニューロンおよびグリアのタウ含有物が含まれる。ADおよび関連する神経変性疾患における、タウを含むタンパク質の凝集および多くの凝集した形でのその沈着は広範囲に研究されている。ADにおけるタウの重要な役割を裏付ける強力な一連の証拠にもかかわらず(Ballatore et al., 2007; Haroutunian et al., 2007; Iqbal et al., 2009)、アミロイド仮説(Hardy and Allsop, 1991; Hardy and Selkoe, 2002)は、AβがADの唯一の原因であり、タウ凝集が、Aβ凝集および沈着によって誘発される多くの下流事象の1つであると提唱している。タウは、ADにおいて観察される糸屑状構造物およびNFTの中の主成分である。細胞外β-アミロイド沈着に加えて、これらの極端に安定した構造はADニューロンの軸索区画および細胞体樹状突起区画の両方において高密度に蓄積している。
【0038】
アミロイド沈着のサイズ、外観、および分布は個々のAD脳の間で大きく異なり、疾患重篤度とあまり相関しない。他方で、神経原線維病変が特定の部位で発症する傾向があり、影響を受ける領域および細胞タイプに関して特徴的なパターンをたどる。AD患者におけるNFTは疾患進行と高い相関関係があり、死後脳組織病理学によってADを分類するのに使用することができる。さらに、NFTの非存在下でアミロイド病変は、必ずしも、認知機能消失とも目に見えるほどの神経変性とも関連しないので、ADにはタウ病変が必須であると思われる(Braak and Braak, 1991a; Alafuzoff et al., 2008; Braak and Braak, 1991b; Braak and Braak, 1996)。
【0039】
タウ遺伝子であるMAPTが変異すると、17番染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性前頭側頭型認知症(FTDP-17、現在では前頭側頭葉変性症-タウ(FTLD-Tau)と知られる)が引き起こされる。これは、神経変性プロセスにタウ機能不全が直接関与していることを示している(Clark et al., 1998; Hutton et al., 1998; Pittman et al., 2006)。興味深いことに、アミロイド斑はFTLD-タウ個体には見られない。この発見から、神経変性が生じて記憶消失および他の神経学的欠陥が引き起こされるには異常型タウで十分であることが示された。
【0040】
マウスタウの非存在下で非変異ヒトタウを発現する老齢マウス(h-タウマウス)はNFTおよび大規模な細胞死を発生した(Andorfer et al., 2005)。条件付きで変異ヒトタウ遺伝子を発現するマウスはニューロンにおいてNFT蓄積を示した。タウの発現によって学習欠陥および神経変性が引き起こされた。しかしながら、変異タウ遺伝子の発現が抑制されると記憶が改善し、ニューロン消失が止まった(Santacruz et al., 2005)。タウノックアウトマウスに由来する海馬ニューロンは、β-アミロイド誘導性の細胞死に対して耐性がある。このことは、ADにおけるAβ関連神経変性においてタウが機能することを意味している(Rapoport et al., 2002)。内因性タウが低下すると、ADマウスモデルにおけるAβ誘導性欠陥が寛解する。タウレベルが正常なマウスは、加齢性の記憶消失、行動異常、およびアミロイド沈着を示した。タウレベルが低いマウスは、アミロイド斑蓄積の典型的なパターンを示したが、記憶消失または行動異常が無かった(Ashe, 2007; Roberson et al., 2007)。免疫療法によってAβ量だけを減らしても、顕著なAD特徴である斑およびNFTを含むマウス(3xTg-AD)の認知障害を逆転させるには不十分である(Oddo et al., 2006)。まとめると、これらの観察は、タウ凝集が神経変性の重要なメディエーターであり、ADおよび他のタウオパチーにおける原因となる役割を有することを示唆している。
【0041】
II.インビトロでのタウオリゴマー作製
タウは、溶解状態ではランダムコイル構造が主流を占める、可溶性の高い、天然で折り畳まれていないタンパク質である。リン酸化、切断、およびコンホメーション変化を含むタウの異常修飾は線維凝集を誘導すると考えられている。最近の報告によって、病気の発生において線維前タウ凝集中間体(タウオリゴマー)が重要であることが示唆された(Congdon and Duff, 2008; Brunden et al., 2008)。しかしながら、可溶性タウから可溶性凝集物および不溶性凝集物の変換の基礎となる機構は依然として謎である。ポリアニオン、脂肪酸(および誘導体)、ならびに他の公知の促進剤などの化合物を添加することによって、タウから線維への集合をインビトロで再現することができた(Kurt et al., 2003)。それでも、均一なタウオリゴマー集団を調製する信頼性の高い方法は利用できず、タウオリゴマーの毒性および疾患におけるタウオリゴマーの予想される役割を評価する能力を妨げている。
【0042】
アミロイド線維は、重合核依存性機構(シーディング)を介して同じタンパク質の凝集を促進できることが知られている。最近、本発明者は、原線維などのアミロイドオリゴマーが同じタンパク質からのオリゴマー形成の種となり得ることを観察した。さらに、本発明者は、アミロイドオリゴマーに関連する驚くべき現象-クロスシーディングを発見した。クロスシーディングでは、あるタンパク質に由来する予め形成されたオリゴマーは、予め形成されたオリゴマーと配列相同性のない他のタンパク質に由来するオリゴマーの凝集および形成を引き起こすことができる(Kayed and Glabe, the SFN 36th annual meeting 2006、ポスター番号17.6)。さらに、本発明者は、アミロイドタンパク質(例えば、Aβ42、Aβ40)、α-シヌクレイン、またはプリオン(例えば、プリオン106-126)に由来する予め形成されたオリゴマーがタウオリゴマー化を促進できることを発見した。凝集型Aβは、初代ニューロン培養物およびタウ動物モデルの両方においてタウのリン酸化および凝集を誘導できることが知られている(Busciglio et al., 1995; Gotz et al., 2001; Ferrari et al., 2003; Pennanen and Gotz, 2005; De Felice et al., 2008)。最近の報告から、非疾患型の関連タンパク質であるニワトリ卵白リゾチームに由来する可溶性オリゴマーがニューロン培養物において凝集Aβと同様にタウの過剰リン酸化および凝集を誘導できたので、この現象はAβ特異的でなく、コンホメーション特異的であることが証明された(Vieira et al., 2007)。予め形成されたオリゴマーと共にシーディングされた時のタウ凝集のキネティクスに関する研究が、インビトロで均一なタウオリゴマー集団を調製するための信頼性の高いプロトコールの最適化につながった。この例を以下で説明する。組成物をイムノブロッティングおよびFPLCによって分析した。1時間のシーディング後に、単離されたタウオリゴマーには、約0.5%、0.75%、1%、1.5%〜2%未満の可溶性タウ、約5%、10%〜15%未満のタウ原線維、少なくとも、最大で、または約80%、85%、90%〜90%、95%のタウオリゴマーがあった。
【0043】
クロスシーディングによるタウオリゴマー調製の例は、組換えタウタンパク質(例えば、タウ-441(2N4R)M.W. 45.9kDa)(Margittai and Langen, 2004; Margittai and Langen, 2006)の発現および精製が含まれる。Aβ42またはα-シヌクレインからアミロイドオリゴマーが調製される(Kayed and Glabe, 2006; Kayed et al., 2004)。一例では、予め形成されたAβ42オリゴマーを、PBS pH7.4または10mM HEPES pH7.4に溶解した10μM可溶性タウに1:140(w/w)Aβ42オリゴマー/タウの比で添加する。対照タウ試料も同じ条件下で、Aβ42原線維と共に、可溶性Aβ42と共に、およびAβの非存在でインキュベートする。また、バックグラウンドシグナルを確かめるために、PBSおよび10mM HEPESの両方で1:140に希釈したAβ42オリゴマーを使用した。1時間後の可溶性タウオリゴマーの形成をELISAによって定量し、PBSで希釈したAβ42オリゴマーまたはHEPESで希釈したAβ42オリゴマーのシグナルを差し引いた。試料が沈殿の徴候を示したら、試料を遠心分離することができ、次いで、ペレットをddH2Oで3回遠心分離し、ddH2Oに再懸濁する。試料を再懸濁し、電子顕微鏡(EM)グリッドに、または原子間力顕微鏡観察(AFM)の場合はマイカに適用した。ブロッディングの場合は、試料の一部をニトロセルロース膜にも適用することができる。タウオリゴマーは50分〜180分で形成する。2〜3時間後に、タウプロトフィブリルおよび原線維が形成し始める。この反応は、例えば、pHを9.5から10.5に上げることによって止めることができる。反応停止では-80℃での凍結も使用することができる。解凍後に、高分子量のオリゴマーは、水中での超音波処理を用いることによって、例えば、30秒の超音波処理を2回用いることによって、さらに小さなオリゴマーに分解することができる。これらの試料は1週間を超えて室温で安定である。タウ原線維を生成するために、クロスシーディングを2日間続けた。2日後に、原線維を遠心分離によってスピンダウンした。次いで、タウ原線維をddH2Oで洗浄し(再懸濁および遠心分離)、ペレットをPBSに再懸濁することができる。
【0044】
電子顕微鏡画像および原子間力顕微鏡画像から、タウオリゴマーは、他のアミロイド形成タンパク質によって形成されるオリゴマーと同様に球形であることが確かめられた(Kayed et al., 2003; Kayed et al., 2004)。タウオリゴマーは、可溶性タウの種となることができ、円偏光二色性(CD)分光法によって測定された時にはβシートリッチであり、MTSおよびAlmar blueアッセイによって測定された時には細胞毒性である。ウェスタンブロッティングの際には、タウオリゴマーは、主バンドが110〜120KDa(おそらく三量体)のラダーを形成する。室温で2日間(PBS pH7.4中で)エイジング(aging)した後に、タウオリゴマーは非常に安定したタウ原線維に変換する。この移行は、ウエスタンブロットにおける三量体バンド消失および劇的な毒性低下からも明らかである。予想した通り、この方法によって調製されたタウオリゴマーは脱リン酸されている。すなわち、ホスホ-タウ抗体AT8と反応しなかった。
【0045】
III.タウ特異的抗体
本明細書で使用する「抗体」という用語は、任意の免疫グロブリン(Ig)分子、またはタウオリゴマーに特異的に結合するIg分子の必須のエピトープ結合特徴もしくはタウオリゴマー結合特徴を保持している、抗体の任意の機能的な断片、変異体、変種、もしくは誘導体を含む抗体由来タウオリゴマー結合ペプチドを広く指す。このような変異体、変種、または誘導体の抗体形式は当技術分野において公知である。ある特定の局面において、抗体はモノクローナル抗体または単鎖抗体である。なおさらなる局面において、抗体は、タウオリゴマー特異的結合を保持している組換え抗体セグメントである。
【0046】
典型的に、抗体は、4本のポリペプチドである2本の重鎖(H)および2本の軽鎖(L)からなる。完全長抗体において、それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと略す)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、およびCH3からなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと略す)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い領域と共に散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに分けることができる。それぞれのVHおよびVLは3つのCDRおよび4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序:FRI、CDRI、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で並んでいる。免疫グロブリン分子は、どのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgGl、IgG2、IgG3、IgG4、IgAI、およびIgA2)、またはサブクラスでもよい。
【0047】
本明細書で使用する「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、タウオリゴマーに特異的に結合する単離された抗体は、タウオリゴマー以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、タウオリゴマーに特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原、例えば、他の種に由来するタウオリゴマーと交差反応することがある。さらに、単離された抗体は、本発明の抗体が反応するエピトープを含む、他の細胞材料および/もしくは化学的因子ならびに/または他の任意のタウオリゴマー型を実質的に含まなくてもよい。
【0048】
本明細書で使用する「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが意図される。本発明のヒト抗体は、ヒトCDR、特にCDR3に由来するアミノ酸残基を含んでもよい。しかしながら、本明細書で使用する「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列とグラフトされた抗体を含むと意図されない。
【0049】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種(例えば、マウス)に由来する重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列を含むが、VH配列および/またはVL配列の少なくとも一部がさらに「ヒト様」になるように、すなわち、ヒト生殖系列可変配列との類似性が高くなるように変えられている抗体を指す。ヒト化抗体の一種が、対応する非ヒトCDR配列の代わりとなるようにヒトCDR配列が非ヒトVH配列およびVL配列に導入されているCDRグラフト化抗体である。
【0050】
本明細書で使用する「ヒト化抗体」という用語は、関心対象の抗原に免疫特異的に結合し、実質的にヒト抗体のアミノ酸配列を有するフレームワーク(FR)領域および実質的に非ヒト抗体のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む、抗体、またはその変種、誘導体、類似体、もしくはセグメントである。CDRの文脈において本明細書で使用する「実質的に」という用語は、非ヒト抗体CDRのアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有するCDRを指す。ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリン(すなわち、ドナー抗体)のCDR領域に対応し、フレームワーク領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域に対応する、少なくとも1つの、典型的に2つの可変ドメイン(Fab、Fab'、F(ab')2、FabC、Fv)の実質的に全てを含む。好ましくは、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的には、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含む。ある態様において、ヒト化抗体は、軽鎖、ならびに重鎖の少なくとも可変ドメインの両方を含有する。抗体はまた重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、およびCH4領域を含んでもよい。
【0051】
抗体は、IgM、IgG、IgD、IgA、およびIgEを含む任意のクラスの免疫グロブリン、ならびにIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むが、それに限定されるわけではない任意のアイソタイプより選択することができる。抗体は、複数のクラスまたはアイソタイプに由来する配列を含んでもよく、当技術分野において周知の技法を用いて望ましいエフェクター機能を最適化するように特定の定常ドメインが選択されてもよい。
【0052】
抗体のフレームワークおよびCDR領域は、親配列、例えば、ドナー抗体CDRと正確に対応する必要はなく、コンセンサスフレームワークは、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、挿入、および/または欠失によって変異されてもよく、その結果、その部位にあるCDRまたはフレームワーク残基がドナー抗体またはコンセンサスフレームワークに対応しない。しかしながら、好ましい態様では、このような変異は広範囲にわたらない。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%は親のFR配列およびCDR配列に対応する。
【0053】
IV.タウの診断使用
アルツハイマー病(AD)の大部分では、診断が可能になる前に、神経変性プロセスが進行期まで進行し、大量の細胞が消失している(Teunissen et al., 2002)。臨床ADを診断する現行の方法は、MMSE(Folstein et al., 1975)などの認知検査に一部頼っている。残念なことに、MMSEは、症状発現前のADまたはかなり初期のADの検出感度が悪いと報告されている(Petersen et al., 1999)。理想的な診断マーカーの基準の1つは、AD神経病理の基本特徴を検出できることである。従って、最も明らかな分析標的はAβおよびタウであろう。いくつかのグループが、血中および尿中にある、これらのタンパク質の濃度(Borroni et al., 2006; Wiltfang et al., 2005)およびその他の濃度を調べたが、うまく行かなかった(Borroni et al., 2006; Wiltfang et al., 2005)。タウ濃度は、正常対照と比較してAD患者およびMCI患者のCSFにおいて高いと報告されている(Andreasen et al., 1999; Galasko et al., 1997; Vandermeeren et al., 1993; Vigo-Pelfrey et al., 1995)。対照的に、Aβ42 CSF濃度が低いことが述べられている(Andreasen et al., 1999; Motter et al., 1995)。さらに、これらの研究から、診断群の中でAβ総濃度に有意差は無いことも確かめられた(Skoog et al., 2003)。さらに、これらの研究の全てにおいて、タウおよびAβ42 CSF濃度は個々に感度基準も特異性基準も満たさなかった。さらに、MCI症例およびAD症例において高いp-タウ濃度が報告されている(Zetterberg et al., 2003; Herukka et al., 2005; Buerger et al., 2006; Parnetti et al., 2006)。最近の研究から、AD検出基準を満たす、またはAD検出基準を超える改善した感度および特異性が示された。総タウ、p-タウ(スレオニン181)、およびAβ42のCSFプロファイルを測定するために多数の試料と多重イムノアッセイを用いた最新の報告は、剖検によって確認されたADについて96.4%の検出感度に達した(Shaw et al., 2009)。この研究および他の2つの研究から、高濃度の総タウおよびp-タウは、Aβ42、および剖検によって確認されたADのCSFバイオマーカーシグネチャーであるアポリポタンパク質E遺伝子(APOE)ε4対立遺伝子を減少させたと確かめられた。このCSFシグネチャーはMCIからADへの変換を予測するように思われるが、MCIを正しく診断し、症状発現前のAD症例を予測する基準を満たさなかった(Shaw et al., 2009; Li et al., 2007; Blom et al., 2009)。驚いたことに、高濃度の総タウおよびp-タウ(スレオニン181)が家族性アルツハイマー病(FAD)変異保因者(プレセニリン-1およびAPP)のCSFにおいて見出された。これらの濃度は、前駆症状性ADの感度の高い指標であると報告された。これらの著者らは、CSF中のAβ濃度が、MCIまたは前駆症状性ADの信頼性の高いバイオマーカーではないことも証明した(Ringman et al., 2008)。
【0054】
V.タンパク質組成物
本発明のタンパク質(例えば、様々なタウアイソフォーム、タウオリゴマー、およびタウオリゴマーに特異的に結合するか、またはタウオリゴマーを認識するポリペプチド)は組換えでもよく、インビトロで合成されてもよい。または、細菌または臓器、例えば、脳から非組換えタンパク質または組換えタンパク質が単離されてもよい。「機能上等価なコドン」という用語は、同じアミノ酸をコードするコドン、例えば、アルギニンもしくはセリンの6つのコドンを指すために本明細書において用いられるか、または生物学的に等価なアミノ酸をコードするコドンを指す(下記を参照されたい)。
【0055】
コドン表

【0056】
アミノ酸および核酸配列は、それぞれ、N末端アミノ酸もしくはC末端アミノ酸または5'配列もしくは3'配列などのさらなる残基を含んでもよいが、それでもなお、前記で示した基準を配列が満たす限り、タンパク質活性の維持を含めて本明細書において開示された配列の1つに示されたものと本質的に同じであることも理解されるだろう。末端配列の付加は特に核酸配列に適用され、例えば、コード領域の5'部分または3'部分に隣接する様々な非コード配列を含んでもよい。
【0057】
以下は、等価な、さらには改善された第二世代の分子を作り出すための、タンパク質のアミノ酸の変更に基づく議論である。例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位などの構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)との相互作用結合能力を相当量失うことなく、タンパク質構造のある特定のアミノ酸を他のアミノ酸で置換することができる。タンパク質の生物機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および相互作用性であるので、ある特定のアミノ酸置換をタンパク質配列およびその基礎となるDNAコード配列において行い、それにもかかわらず、同様の特性を有するタンパク質を作製することができる。従って、生物学的有用性または活性を相当量失うことなく、遺伝子のDNA配列に様々な変更を加えることができることが本発明者らによって意図される。
【0058】
このような変更において、アミノ酸ハイドロパシー指数が考慮されることがある。タンパク質への相互作用的生物機能の付与におけるアミノ酸ハイドロパシー指数の重要性は当技術分野において一般に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的なハイドロパシー特徴が、結果として得られるタンパク質の二次構造に寄与し、次に、この二次構造が、タンパク質と他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などの相互作用を規定すると受け入れられている。
【0059】
類似のアミノ酸の置換は親水性に基づいて効果的になされ得ることも当技術分野において理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性がタンパク質の生物学的特性と相関すると述べている。アミノ酸は類似の親水性値を有する別のアミノ酸に置換され、生物学的に等価で、免疫学的に等価なタンパク質をなお生じることができると理解される。
【0060】
前記で概説したように、アミノ酸置換は、一般的に、アミノ酸側鎖置換基、例えば、その疎水性、親水性、電荷、サイズなどの相対的な類似性に基づいている。前述の様々な特徴を考慮に入れた例示的な置換は周知であり、アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0061】
本発明の組成物において、1mlにつき約0.001μgまたは約0.001mgおよび約10μgまたは約10mgの総ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質があることが意図される。従って、組成物中のタンパク質の濃度は、約、少なくとも約、または最大で約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0μg/mlもしくはmg/mlまたはそれより高くてもよく、この間の全ての値および範囲を含む。このうち、約、少なくとも約、または最大で約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%がタウオリゴマーまたはタウオリゴマーに結合する抗体でもよい。
【0062】
A.ポリペプチドおよびポリペプチドの作製
本発明は、本発明の様々な態様において使用するためのポリペプチド、ペプチド、タンパク質、ならびにそのセグメントおよび断片について述べる。例えば、特異的抗体は、タウオリゴマーに特異的に結合するかどうかアッセイされる。ある特定の態様において、本発明のタンパク質の全てまたは一部はまた従来法に従って溶解状態で合成されてもよく、固体支持体上で合成されてもよい。様々な自動合成機が市販されており、公知のプロトコールに従って使用することができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tam et al., (1983); Merrifield, (1986);およびBarany and Merrifield(1979)を参照されたい。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる。または、本発明のペプチドまたはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が発現ベクターに挿入され、形質転換またはトランスフェクションによって適切な宿主細胞に導入され、発現に適した条件下で培養される、組換えDNA技術が用いられてもよい。可溶性タウタンパク質、アミロイドポリペプチド、および抗体または抗体のセグメントを組換えにより作製することができる。
【0063】
本発明の1つの態様は、タンパク質を作製および/または提示するための、微生物を含む細胞への遺伝子導入の使用を含む。関心対象のタンパク質の遺伝子を適切な宿主細胞に導入し、その後に、適切な条件下で細胞を培養することができる。本明細書に記載の実質的に任意のポリペプチドをコードする核酸を使用することができる。組換え発現ベクターの作製およびその中に含まれるエレメントは分子生物学の当業者に公知である。または、作製しようとするタンパク質は、細胞によって通常合成される単離された内因性タンパク質でもよい。
【0064】
ある特定の局面において、本発明による免疫原性組成物は、タウポリペプチド(SEQ ID NO:1〜6)またはそのセグメントと少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性、少なくとも95%同一性、または少なくとも97〜99%同一性を有し、この間の全ての値および範囲を含むタンパク質を含む。
【0065】
前記で議論したように、前記の組成物およびこれらの組成物を使用する方法を、タウオパチーもしくは関連疾患を有する、タウオパチーもしくは関連疾患と疑われる、またはタウオパチーもしくは関連疾患を発症するリスクのある対象の治療(例えば、タウオパチーの症状の軽減または寛解)において使用することができる。本発明の免疫原性組成物の使用の1つは、特に、タウオパチーを発症するリスクが示されたら、対象に接種を行うことによってタウオパチーの早期段階で対象を予防的に処置することである。ある特定の局面において、対象は、発現している症状があるために、またはタウオパチーの家族歴、すなわち、遺伝的素因があるためにタウオパチーと疑われてもよい。
【0066】
本明細書で使用する「免疫応答」またはとの等価な「免疫学的応答」という句は、対象またはドナー対象における本発明のタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドに対する、体液性応答(抗体性応答)、細胞性応答(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)、または体液性応答および細胞性応答を指す。ドナー対象は、抗体が産生および単離された対象であり、次いで、単離された抗体が第2の対象に投与される。治療または療法は、免疫原投与によって誘導される能動的免疫応答でもよく、抗体、抗体含有材料、または抗原刺激されたT細胞の投与によってもたらされる受動的療法でもよい。
【0067】
本明細書で使用する「受動免疫」は、細胞メディエーターまたはタンパク質メディエーター(例えば、モノクローナル抗体および/もしくはポリクローナル抗体)を含む免疫エフェクターを投与することによって対象に付与された任意の免疫を指す。モノクローナル抗体組成物またはポリクローナル抗体組成物は、タウオパチーまたは関連障害を治療するために受動免疫において用いられてもよい。抗体組成物は、タウオリゴマーに特異的に結合する抗体を含んでもよい。抗体成分はポリクローナル抗血清でもよい。ある特定の局面において、抗体は、抗原曝露されている動物または第2の対象から親和性精製される。
【0068】
ドナーまたは既知の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られた免疫グロブリン(Ig)もしくはそのセグメントおよび/または他の免疫性因子を患者に投与することによって、受動免疫が患者または対象に付与されてもよい。他の局面では、本発明の抗原性組成物を、グロブリンの供給源またはドナーとして働く対象に投与し、タウオリゴマーに対する抗体を含有する組成物からの曝露に応答して、グロブリンを産生させることができる(「高度免疫グロブリン」)。このように処置された対象から血漿を採取し、次いで、従来の血漿分画法を介して血漿から高度免疫グロブリンを得、タウオパチーに対する耐性を付与するために、またはタウオパチーを治療するために第2の対象に投与する。米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたい。これらはそれぞれ、受動免疫に関連した例示的な方法および組成物のために、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0069】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的で、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答または認識する、抗原上の部位を指すために同義に用いられる。B細胞エピトープは連続アミノ酸から形成されてもよく、タンパク質の3次フォールディングによって隣接する非連続アミノ酸から形成されてもよい。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的に、変性溶媒に曝露されても保持されるが、3次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的に、変性溶媒で処理されると失われる。エピトープは、典型的に、独特の空間コンホメーションの中に少なくとも3個の、さらに通常は、少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間コンホメーションを確かめる方法には、エピトープマッピングプロトコール(1996)に記載の方法が含まれる。T細胞は、CD8細胞の場合は、約9個のアミノ酸、またはCD4細胞の場合は、約13〜15アミノ酸からなる連続したエピトープを認識する。これらのエピトープを認識するT細胞は、抗原依存性増殖を測定するインビトロアッセイによって特定することができる。抗原依存性増殖は、エピトープに応答した抗原刺激T細胞による3H-チミジン組み込み(Burke et al., 1994)、抗原依存性死滅(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ、Tigges et al., 1996)、またはサイトカイン分泌によって確かめられる。
【0070】
細胞性免疫学的応答の存在は、増殖アッセイ(CD4(+)T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイによって確かめることができる。免疫原の保護効果および治療効果に対する体液性応答および細胞性応答の相対的な寄与は、免疫された同系対象からIgGおよびT細胞を別々に単離し、第2の対象における保護効果および治療効果を測定することによって区別することができる。
【0071】
本明細書および特許請求の範囲において使用する「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は同義に用いられ、動物またはレシピエントの免疫応答の一部として機能する、構造上関連するタンパク質のいくつかのクラスのいずれかを指す。このタンパク質には、IgG、IgD、IgE、IgA、IgM、および関連タンパク質が含まれる。IgGクラスの抗体は、ジスルフィド結合によって連結した4本のポリペプチド鎖からなる。インタクトなIgG分子の4本の鎖は、H鎖と呼ばれる2本の同一の重鎖およびL鎖と呼ばれる2本の同一の軽鎖である。
【0072】
ポリクローナル抗体を作製するために、ウサギまたはヤギまたはヒトなどの宿主を、一般的に、アジュバントと共に、必要に応じて、担体と結合させて抗原または抗原セグメントで免疫する。その後に、抗原に対する抗体を宿主の血清から収集する。ポリクローナル抗体を抗原に対して親和性精製して、単一特異性にすることができる。
【0073】
モノクローナル抗体を産生するために、抗原を用いた適切なドナー、一般的に、マウスの超免疫が試みられる。次いで、脾臓の抗体産生細胞の単離が行われる。これらの細胞を、不死を特徴とする細胞、例えば、ミエローマ細胞と融合させて、培養で維持することができ、必要とされるモノクローナル抗体を分泌する融合細胞ハイブリッド(ハイブリドーマ)を得る。次いで、細胞を大量に培養し、モノクローナル抗体を使用するために培地から回収する。定義によると、モノクローナル抗体は1つのエピトープ(例えば、タウオリゴマー)に特異的な抗体である。この理由から、モノクローナル抗体の親和定数は、類似の抗原に対して作製されたポリクローナル抗体より低いことが多い。
【0074】
モノクローナル抗体はまた、脾細胞または脾臓由来細胞株の初代培養を用いてエクスビボで作製されてもよい(Anavi, 1998)。組換え抗体を作製するために(一般的には、Huston et al., 1991; Johnson et al., 1991を参照されたい)、動物の抗体産生Bリンパ球またはハイブリドーマからメッセンジャーRNAを逆転写して、相補的DNA(cDNA)を得る。抗体cDNAは完全長または部分長でもよく、増幅され、ファージまたはプラスミドにクローニングされる。cDNAは重鎖cDNAおよび軽鎖cDNAの部分長でもよく、リンカーによって分離または接続されてもよい。適切な発現系を用いて抗体または抗体断片を発現させて、組換え抗体を得る。抗体cDNAはまた、関連する発現ライブラリーをスクリーニングすることによって得ることもできる。
【0075】
本明細書および特許請求の範囲において使用する「抗体の免疫学的部分」という句は、抗体のFab断片、抗体のFv断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖、抗体の重鎖および軽鎖の結合していない混合物、抗体の重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体、抗体の重鎖の触媒ドメイン、抗体の軽鎖の触媒ドメイン、抗体の軽鎖の可変断片、抗体の重鎖の可変断片、ならびにscFvとも知られる抗体の単鎖変異体を含む。さらに、この用語は、異なる種に由来する融合遺伝子の発現産物であり、種の1つがヒトでもよいキメラ免疫グロブリンを含む。この場合、キメラ免疫グロブリンはヒト化していると言われる。典型的に、抗体の免疫学的部分は、抗原との特異的結合において、抗体の免疫学的部分が得られたインタクトな抗体と競合する。
【0076】
任意で、抗体、または、好ましくは、抗体の免疫学的部分は他のタンパク質と化学結合されてもよく、他のタンパク質との融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲の目的で、このような全ての融合タンパク質が抗体または抗体の免疫学的部分の定義に含まれる。
【0077】
本発明の方法は、タウオパチーまたはタウオリゴマーによって引き起こされる状態の治療を含む。さらに、ある例では、治療は、タウオパチーを治療するために一般的に用いられる他の剤の投与を含む。
【0078】
治療用組成物は、投与製剤に適合するやり方で、および治療が有効になるような量で投与される。投与しようとする量は、治療しようとする対象に左右される。投与するのに必要な活性成分の正確な量は医師の判断に左右される。初回投与および追加免疫のための適切なレジメンも変化するが、典型的には、初回投与の後に後の投与が続く。
【0079】
適用のやり方は大きく異なってもよい。ポリペプチド治療剤を投与するどの従来法も適用することができる。これらは、生理学的に許容される固体基剤に載せた、または生理学的に許容される分散液に溶解した経口用途、注射などによる非経口用途を含むと考えられている。組成物の投与量は投与経路に左右され、対象の大きさおよび健康状態に応じて変化するであろう。
【0080】
場合によっては、組成物を複数回、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上投与することが望ましいであろう。投与は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間から、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間の間隔を開けて、この間にある全ての範囲を含めて行われてもよい。
【0081】
B.抗体および受動免疫
ある特定の局面は、タウオパチーの予防または治療において使用するための抗体を調製する方法であって、レシピエントにタウオリゴマーを投与する工程、およびレシピエントから抗体を単離する工程、または組換え抗体を作製する工程を含む方法に向けられる。これらの方法によって調製され、タウオパチーを治療または予防するのに用いられる抗体は本発明のさらなる局面である。タウオパチーを治療または予防するための医用薬剤の製造において使用することができる、タウオリゴマーに特異的に結合する抗体および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物は本発明のさらなる局面である。
【0082】
ポリクローナル抗体作製用の接種材料は、典型的には、抗原性組成物(例えば、タウオリゴマー)を、生理学的に容認できる希釈剤、例えば、食塩水またはヒトでの使用に適した他のアジュバントに分散させて、組成物水溶液を形成することによって調製される。免疫を賦活する量の接種材料が哺乳動物に投与され、次いで、接種された哺乳動物は、抗原性組成物が保護抗体を誘導するのに十分な時間、維持される。抗体は、アフィニティクロマトグラフィーなどの周知の技法によって望ましい程度まで単離することができる(Harlow and Lane, 1988)。抗体は、様々な一般的に用いられる動物、例えば、ヤギ、霊長類、ロバ、ブタ、ウマ、モルモット、ラット、またはヒトからの抗血清調製物を含んでもよい。動物は採血され、血清が回収される。
【0083】
本発明に従って作製された抗体は、抗体全体、抗体の断片/セグメントまたは細断片を含んでもよい。抗体は、任意のクラスの免疫グロブリン全体(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、もしくはIgE)、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、または2種類以上の抗原との二重特異性を有するハイブリッド抗体でもよい。抗体はまた、断片(例えば、ハイブリッド断片を含む、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)でもよい。抗体はまた、十分な親和性をもって特異的抗原に結合することによって抗体のように働く、天然タンパク質、合成タンパク質、または遺伝子操作されたタンパク質を含む。
【0084】
本発明のタウオリゴマーを、抗体源として働くレシピエントに投与し、タウオリゴマー曝露に応答して抗体を産生することができる。このように処置された対象から血漿が得られ、従来の血漿分画法を介して血漿から抗体が得られるであろう。単離された抗体は、タウオパチーに対する耐性を付与するために、またはタウオパチーを治療するために同じ対象または異なる対象に投与されるであろう。
【0085】
本発明のさらなる局面は、タウオリゴマーに対して反応する1種類または複数の種類の抗体またはモノクローナル抗体(またはその断片;好ましくは、ヒトまたはヒト化)を含む薬学的組成物である。
【0086】
モノクローナル抗体を作製する方法は当技術分野において周知であり、脾細胞とミエローマ細胞との融合(Kohler and Milstein, 1975; Harlow and Lane, 1988)を含んでもよい。または、モノクローナルFv断片は、適切なファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって得ることができる(Vaughan et al., 1998)。モノクローナル抗体は公知の方法によってヒト化されてもよく、部分的にヒト化されてもよい。
【0087】
C.併用療法
本発明の組成物および関連する方法、特に、タウオリゴマーまたはタウオリゴマーに結合する抗体の患者/対象への投与はまた従来の療法の投与と併用されてもよい。これらには、(1)4反復タウアイソフォームを減少させるためのスプライシング機構の妨害、(2)タンパク質分解経路またはプロテアソーム分解経路の活性化、(3)タウキナーゼ阻害剤を用いたタウ過剰リン酸化の阻止/低下、(4)微小管ネットワークの薬理学的安定化、(5)低分子によるタウ凝集阻害、および(6)タウに向けられる免疫療法が含まれるが、これに限定されない。
【0088】
1つの局面において、従来の療法がタウオリゴマー治療またはタウオリゴマー特異的抗体治療と共に用いられることが意図される。または、療法は、数分から数週間の間隔をあけて従来の療法の前に行われてもよく、または従来の療法の後に行われてもよい。他の剤および/またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドが別々に投与される態様では、治療用組成物が、対象に対して有利に組み合わされた効果を発揮できるように、一般的に、有効な期間がそれぞれの送達の間に終わらないようにする。このような場合、両モダリティーを投与するのは、どちらかのモダリティーを投与して約12〜24時間以内に、より好ましくは、どちらかのモダリティーを投与して約6〜12時間以内に行ってもよいことが意図される。しかしながら、状況によっては、投与期間を大幅に延ばすことが望ましいこともある。この場合、それぞれの投与の間の期間は、数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)〜数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間)である。
【0089】
療法の様々な組み合わせを使用することができる。例えば、タウオリゴマーまたはタウオリゴマー特異的抗体療法は「A」であり、従来のタウオパチー療法は「B」である。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0090】
本発明の抗体組成物の患者/対象への投与は、組成物の毒性がもしあればそれを考慮に入れて、このような化合物の一般的な投与プロトコールに従うであろう。この治療サイクルは必要に応じて繰り返されることが予想される。水分補給などの様々な標準療法を、記載の療法と組み合わせて適用できることも意図される。
【0091】
タウ過剰リン酸化の阻害
ADを治療するこのアプローチは1998年に最初に紹介された(Gong and Iqbal, 2008)。キナーゼ阻害剤は、タウ過剰リン酸化および可溶性凝集タウの形成を低下させ、変異体ヒトタウ発現マウスにおける運動欠陥を阻止することが示されたが(Iqbal and Grundke-Iqbal, 1998)、キナーゼを標的とする主な欠点は、これらの酵素が一般的に体全体に見出され、正常な生理学的役割を果たしており、キナーゼ阻害には望ましくない副作用があり得ることである。
【0092】
タンパク質分解経路または分解経路の活性化
タウは、カルパインによるタンパク質分解感受性であることが見出された(Johnson et al., 1989)。最近、ピューロマイシン感受性アミノペプチダーゼ(PSA)が遺伝子スクリーニングによってタウ病態の修飾薬として特定され(Sengupta et al., 2006)、組換えPHFタウおよびAD脳から精製されたPHFタウの分解に有効であることが示された(Karsten et al., 2006)。
【0093】
微小管の安定化
微小管結合薬物は、MT結合タンパク質であるタウの機能上の代わりとなることでタウオパチー治療において有益かもしれない(Trojanowski et al., 2005)。微小管に結合し、微小管を安定化することが知られている薬物であるパクリタキセルがトランスジェニックマウスにおいて試験され、軸索輸送の回復および運動機能低下の寛解において有効なことが示された(Zhang et al., 2005)。
【0094】
低分子によるタウ凝集阻害
この十年、潜在的な疾患修飾薬としてタウ凝集阻害剤の関心が再び向けられている。血液脳関門(BBB)を通過することができる無毒で細胞透過性のタウ凝集阻害剤がハイスループットスクリーニングを用いて探索され、139を超えるヒットが特定された(Pickhardt et al., 2005; Larbig et al., 2007)。この報告と、タウ凝集阻害剤MTC(マエチレンブルー(ma ethylene blue)誘導体)を用いた第二相臨床試験の最近の報告から、この概念の検証が期待できるだろう。最近、タウ凝集阻害剤に関する研究が概説された(Bulic et al., 2009)。
【0095】
免疫療法によるタウクリアランス
P301L変異を有するタウを発現するマウスにおける、リン酸化タウエピトープによる能動免疫を用いた新規の研究から、脳における凝集タウの減少と行動表現型進行の遅延が示された。さらに、この研究から、使用された免疫原に対する抗体はBBBを通過し、リン酸化タウに結合できることが証明された(Asuni et al., 2007)。
【0096】
VI.タウおよびTOMA組成物の治療的使用
神経変性疾患におけるタウの重要な役割を裏付ける強力な一連の証拠(Ballatore et al., 2007; Haroutunian et al., 2007)は、疾患修飾治療剤開発のための潜在的な標的としてタウを支持している。タウを標的とする治療アプローチには、(1)4反復タウアイソフォームを減少させるためのスプライシング機構の妨害、(2)タンパク質分解経路またはプロテアソーム分解経路の活性化、(3)タウキナーゼ阻害剤を用いたタウ過剰リン酸化の阻止/低下、(4)微小管ネットワークの薬理学的安定化、(5)低分子によるタウ凝集阻害、および(6)タウに向けられる免疫療法(Schneider and Mandelkow, 2008)が含まれる。本発明の局面には、タウオパチーを治療するための抗体に基づく方法およびペプチドに基づく方法が含まれる。
【0097】
AD 患者の脳におけるNFTと疾患進行との相関関係は依然として議論の余地がある(Bretteville and Planel, 2008; Braak and Braak, 1991; Delacourte and Buee, 2000; Morsch et al., 1999; Congdon and Duff, 2008; Arriagada et al., 1992 Bird et al., 1999; Hernandez and Avila, 2008; Tabaton et al., 1989; Cash et al., 2003)。過去5年にわたって、生化学研究、細胞に基づく研究、およびトランスジェニックマウス研究から、前線維型タウがタウ凝集物の中で最も毒性が強く、病理学的に重要な型である可能性があることを示唆するデータが浮かび上がってきている(Brunden et al., 2008; Marx, 2007)。この進化的移行はタウ分野において長い間待ち望まれ、この15年の間にAbについて証明され、Aβ中間種の特徴付けおよびAβを介した毒性におけるAβ中間種の重要な役割によって駆り立てられた移行と類似している(Harper et al., 1997; Roher et al., 1993; Walsh and Selkoe, 2004; Walsh and Selkoe, 2007)。
【0098】
Aβオリゴマーと同様に、タウオリゴマーは、ニューロン培養細胞に細胞外で適用された時に神経毒性があり、細胞内カルシウムレベルの上昇を誘発することが示されている(Demuro et al., 2005; Gomez-Ramos et al., 2006; Gomez-Ramos et al., 2008)。動物モデルを用いた革新的な研究から、タウオリゴマーは神経変性および行動機能低下の誘発において重要な役割を果たしていることが示唆されている。これらの表現型は可溶性凝集タウ種の蓄積と同時に発生し、NFTの蓄積と関係が無かった(Brunden et al., 2008)。非変異ヒトタウを発現する老齢(h-タウマウス)ではNFT形成とは無関係に細胞死が起きた(Andorfer et al., 2005)。P301S変異ヒトタウトランスジェニックマウスモデル(P301S Tg)では、海馬シナプス消失、シナプス機能低下、および小神経膠細胞症が起こった後にNFTが形成する(Yoshiyama et al., 2007)。P301L変異を有するヒトタウを発現するJNPL3マウスおよび同じP301Lヒトタウ変異体を発現するコンディショナルモデル(rTg4510)においてタウオリゴマーが生化学的に特徴付けられた。驚いたことに、これらのモデルにおいて、オリゴマータウの蓄積はニューロン消失および行動欠陥と最も良く相関していたのに対して、NFTは相関しなかった。これらの知見から、タウオリゴマーの蓄積、行動欠陥、およびニューロン消失の後にNFTが形成することが示唆される(Berger et al., 2007; Spires et al., 2006)。
【0099】
タウオリゴマーは、死後ヒト脳において生化学的に特徴付けられており、疾患進行とAD患者の脳における顆粒状タウオリゴマーの蓄積は相関すると報告された。さらに、ADおよびNFTの臨床症状が無いと考えられている非常に初期の病期(ブラーク病期I)において、高レベルのタウオリゴマーが前頭皮質に検出された。これらの知見は、NFT形成前に、および個体がAD臨床症状を発現する前に、タウオリゴマーレベルが増加することを示唆している(Maeda et al., 2007; Maeda et al. 2006)。タウオリゴマーに似たタウ陽性細顆粒(TFG)が、グアム島のパーキンソン認知症複合(PDC)タウオパチーに由来する死後組織の大脳白質に見出された(Yamazaki et al., 2005)。
【0100】
ここで議論されているデータは、斑およびタングルのような不溶性凝集物ではなく、タウを含むアミロイドタンパク質の可溶性オリゴマーが、これらのタンパク質の急性毒性構造であるという考えを裏付けている。この概念は、ADおよびタウオパチーを含む複数の神経変性疾患について、さらに一般的に受け入れられるようになってきた(Brunden et al., 2008; Haass and Selkoe, 2007)。タウおよびタウオリゴマーの再来、特に、神経変性と闘う潜在的な薬物標的としての再来(Marx, 2007)は、AD脳および動物モデルにおいてタウオリゴマーを研究および標的とするための特異的試薬を特定する研究につながった。本明細書に記載の研究から、タウオリゴマーは病理型タウであり、可溶性の機能タウまたは無毒のNFTを妨害することなく、タウオリゴマーのみを標的とすべきことが分かる。本明細書に記載の方法および試薬は、全ての型のタウの無差別な標的化に関連する不利益を回避する。記載の特異的試薬はタウオリゴマーとADおよびタウオパチーを予想外に関連づける。従って、タウオリゴマーは多くの疾患において一般毒性作用を発揮するのかもしれないが、いくつかの疾患を治療するための新規の創薬標的であり、タウオリゴマーの定量は信頼性の高いバイオマーカーとして働く可能性がある。
【0101】
ある態様において、タウオパチーを治療するために薬学的組成物が対象に投与される。本発明の様々な局面が、有効量の組成物を対象に投与することを伴う。本発明のある態様において、タウオパチーを治療するために、タウオリゴマーまたはタウオリゴマー特異的抗体が患者に投与されてもよい。または、1種類または複数の種類のこのよう抗体またはポリペプチドもしくはペプチドをコードする発現ベクターが治療として患者に与えられてもよい。このような組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散されるだろう。
【0102】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という句は、動物またはヒトに投与された時に、有害な、アレルギー性の、または他の不都合な反応を生じない分子的実体および組成物を指す。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」は、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性のある物質のために、このような媒体および剤を使用することは当技術分野において周知である。従来の媒体または剤が活性成分と適合しない場合を除き、免疫原性および治療用の組成物の中に用いられることが意図される。他の抗感染薬およびワクチンなどの補助的な活性成分も組成物に取り入れることができる。
【0103】
本発明の活性化合物は非経口投与用に製剤化することができ、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、さらには腹腔内経路を介した注射用に製剤化することができる。典型的に、このような組成物は液体溶液または懸濁液として調製することができる。注射前に液体に添加して溶液または懸濁液を調製する使用に適した固体型も調製することができる。調製物は乳化することもできる。
【0104】
注射使用に適した薬学的形態には、滅菌した水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、またはプロピレングリコール水溶液を含む製剤;および滅菌した注射液または分散液を即時調製するための滅菌した散剤が含まれる。すべての場合で、形態は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に液状でならなければならない。形態は、製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および菌類などの微生物の汚染作用から守らなくてはならない。
【0105】
タンパク質組成物は中性または塩の形に製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩には、無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸を用いて形成される酸添加塩(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成される)が含まれる。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩が、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から得られてもよい。
【0106】
薬学的組成物は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒を含んでもよい。例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合では必要とされる粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)によって防止することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。組成物中に吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによって、注射可能な組成物を長期間吸収させることができる。
【0107】
滅菌注射液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上記の様々な他の成分と共に、適当な溶媒中に取り込み、その後に、濾過滅菌する、または等価な手順を行うことによって調製される。一般的に、分散液は、様々な滅菌活性成分を、上記の基本分散媒および必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに取り込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌散剤の場合、好ましい調製方法は、予め濾過滅菌された溶液から活性成分および任意のさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥法および凍結乾燥法である。
【0108】
本発明による組成物の投与は、典型的には、任意の一般的な経路によるものである。これには、経口投与、鼻投与、または頬投与が含まれるが、これに限定されない。または、投与は、同所性注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、または静脈内注射によるものでもよい。ある特定の局面において、タウオリゴマー特異的抗体は脳または脊椎の脳脊髄液に投与することができる。ある特定の態様において、タウオリゴマー組成物は吸入されてもよい(例えば、特に参照により組み入れられる、米国特許第6,651,655号)。このような組成物は、通常、生理学的に許容される担体、緩衝液、または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与されるだろう。
【0109】
治療用組成物または予防用組成物の有効量は所期の目的に基づいて決められる。「単位用量」または「投与量」という用語は、対象における使用に適した物理的に別個の単位を指し、それぞれの単位は、投与、すなわち、適切な経路およびレジメンに関連して前記で議論された望ましい応答を生じるように計算された所定量の組成物を含有する。投与しようとする量は、治療の回数および単位用量に応じて望ましい保護に左右される。
【0110】
組成物の正確な量は医師の判断にも左右され、個々に特有のものである。用量に影響を及ぼす要因には、対象の身体状態および臨床状態、投与経路、治療の所期の目的(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の効力、安定性、および毒性が含まれる。
【0111】
溶液が製剤化されたら、投与製剤に適合するやり方で、および治療または予防に有効な量で投与される。製剤は、前記のタイプの注射液などの様々な剤形で簡単に投与される。
【実施例】
【0112】
I.実施例
以下の実施例は、本発明の様々な態様を例示する目的で示され、本発明を限定するものであると、いかようにも意図されない。当業者であれば、目的を実施し、述べられた目標および利点ならびに本明細書に内在する目的、目標、および利点を得るために、本発明は良好に適合されることを容易に理解するだろう。本実施例は、本明細書に記載の方法と共に、好ましい態様を現在代表するものであり、例示であり、本発明の範囲を限定するものと意図されない。当業者であれば、特許請求の範囲によって定義される、本発明の範囲の変更および本発明の精神に包含される他の使用を考え付くだろう。
【0113】
実施例1
均一なタウオリゴマー集団の方法および使用
新規の抗タウオリゴマーポリクローナル抗体(T2286)
均一なタウオリゴマー集団の免疫原性を利用して、タウオリゴマーに特異的な抗体を作製した。ウサギに0.25mgのタウオリゴマーを接種し、次いで、2週間間隔で3回追加免疫した。血清を収集し、血清と全ての型のタウおよび他のアミロイドとの反応性を、対照として免疫前血清を用いて評価した。新規の抗タウオリゴマー抗体(T2286)が得られた。この新規の抗体はタウオリゴマーを特異的に認識するが、可溶性タウとも原線維タウとも反応しない。過去に作製された抗オリゴマー抗体であるA-11および1-11とは異なり、T2286はタウオリゴマーのみと反応し、他のタンパク質から調製されたオリゴマーと反応しない(図3)。T2286は、コンホメーション抗体ではなく配列コンホメーション抗体と呼ぶことができる。ウェスタンにおいてT2286が認識する最小タウ種は、恐らく、三量体(110〜120KDa)である。この種は天然では一過的であり、時がたつにつれさらに大きな凝集物に変換する(図3)。さらに、T2286とタウオリゴマーが結合するとタウオリゴマーの毒性が無くなる(図7A)。
【0114】
T2286を用いて分析したAD脳の中のタウオリゴマーは、インビトロ試料の試験から得られた驚くべき結果によって引き出された。T2286は、脳試料中のタウオリゴマーを検出するために使用した。AD脳および同年齢対照の生化学的分析の予備データから、PBS可溶性画分(図4)およびTriton可溶性画分においてタウオリゴマーレベルが高いことが分かった(データ示さず)。ギ酸可溶性画分にもtriton不溶性画分にもタウオリゴマーは検出されなかった。さらに、予備データは、T2286およびAT8を用いたウエスタンブロットおよびELISA分析に基づいて、AD脳にあるタウオリゴマーの大半がリン酸化されていないことを示唆している(データ示さず)。AD免疫組織化学的分析の予備データから、タウオリゴマーは細胞内および細胞外に存在し(データ示さず)、AT8およびPHF-1とほとんど重複しないことが分かった。これは、生化学的分析から得られた結果を裏付けている。興味深いことに、AD脳にあるタウオリゴマーには多量にユビキチンが結合していた(データ示さず)。このことは、タウオリゴマーはADにおけるプロテアソーム機能不全において役割を果たしている可能性があることを示唆している。
【0115】
T2286を用いて分析した、CSF中のタウオリゴマー
CSF中の総タウ(t-タウ)のレベル、特に、リン酸化タウ(p-タウ-スレオニン181)のレベルは高いことが見出された。ADおよび対照患者に由来するCSF試料中のタウオリゴマーを直接ELISAによって測定するために、T2286を用いてパイロット実験を行った。T2286はADと対照との間に広く分布し、AT8およびタウ5より性能が優れていた。
【0116】
T2286を用いた、Tgマウスモデルにおけるタウオリゴマー
Tg4510に由来する脳試料を分析した。P301L動物は、ミネソタ大学のDr.Karen Asheにより提供された。2ヶ月齢、5ヶ月齢、6ヶ月齢、8ヶ月齢、10ヶ月齢、および11ヶ月齢の動物を、前記の生化学的分析および免疫組織化学的分析を用いて分析した。結果から、タウオリゴマーの存在とこのモデルの表現型との間に相関関係があることが示され、このモデルにおけるタウオリゴマー形成について述べている公表結果が裏付けられ、オリゴマーと同様の分子量がT2286によって検出された。タウオリゴマーはまたAPP/PS-1マウスおよび他のタウオパチー動物モデルにおいても検出された(データ示さず)。
【0117】
タウオリゴマーモノクローナル抗体(TOMA)
T2286のようなウサギポリクローナル抗体は研究に有用であるが、これらのワクチン開発への可能性は限られている。ここに記載したデータは、前記と同じ抗原を用いたモノクローナル抗タウオリゴマー抗体(TOMA)作製の手助けとなった。作製のために、標準的なプロトコールを使用した。TOMAのスクリーニングは困難であることが判明した。精巧なスクリーニングプロトコールを使用した。このスクリーニングから、T2286について述べられた特異性と似た13を超えるタウオリゴマー特異的TOMAクローン(TOMA-1(クローンH12C10、IgG2a)、TOMA-2(クローンB3E7、IgG1)、およびTOMA-3(F3D4、IgG2a)を含む)が得られた。さらに、これらのモノクローナル抗体はタウオリゴマーに対して高い親和性を有する。TOMAクローンF3D4は多量に作製された。TOMAを用いて、本発明者は、T2286を用いて得られたデータを再現することができた。TOMAを用いて得られた結果の一部を、ADおよびタウオパチーの様々なモデルに由来するAD脳試料およびマウス脳からの予備データを含めて以下で説明する。これらの結果から、TOMA-F3D4は抗タウオリゴマー特異的抗体であることが確かめられた。
【0118】
TOMAを用いた、トランスジェニックマウスモデルにおけるタウオリゴマー
TOMAを用いて、2ヶ月および5ヶ月のTg4510に由来する脳を分析し、2ヶ月齢と比較して、5ヶ月齢のタウオリゴマーレベルが生化学的に高いことが見出された(データ示さず)。タウオリゴマーはIHCによって検出することもできた。3ヶ月齢のAPP/PS-1に由来する脳も分析し、タウオリゴマーが検出された。
【0119】
TOMAを用いた、AD脳におけるタウオリゴマー
AD脳におけるタウオリゴマーをTOMAを用いて特徴付けた。TOMAと、他の十分に特徴付けられた抗体を併用したデータから、同年齢対照と比較して、AD脳に高レベルのタウオリゴマーがあることが明らかになり、AD脳の細胞内および細胞外にタウオリゴマーが存在することが証明された(図4)。
【0120】
実施例2
タウオリゴマーを作製および使用するための材料および方法
これらの研究の一局面は、抗タウオリゴマーモノクローナル抗体を用いて、タウオリゴマーの役割を解明し、受動的ワクチン接種によるタウオリゴマークリアランスの利益を評価することである。タンパク質凝集物の大多数は病理学的に重要であり、多くの疾患において共存すると報告されている。タウオリゴマーがヒト脳およびトランスジェニックモデルにおいて蓄積することが報告されているが、その分布に関する詳細および疾患表現型における重要性はまだ分かっていない。従って、これらの構造の役割の評価が必要とされている。詳細なタウオリゴマー分布の知識は神経変性分子機構の理解に役立つ可能性がある。タウオリゴマークリアランスの利益の知識は、ADおよび他のタウオパチーを治療する潜在的な治療方針の設計および評価に役立つかもしれない。
【0121】
TOMAと他の十分に特徴付けられた抗体を併用した免疫組織化学的方法および生化学的方法を用いて、AD患者および同年齢対照の十分に特徴付けられた脳試料におけるタウオリゴマーのレベル、局在化、および翻約後修飾の定性分析および定量分析を行う。本発明者は、多数のCSF試料中にあるタウオリゴマーを定量することができる。これらの試料は、直接ELISA、免疫沈降/ウェスタン、およびサンドイッチELISAによって生化学的に分析することができる。
【0122】
タウオリゴマーは、ADおよびタウオパチーのトランスジェニック動物モデルにおいて特徴付けることができ、その蓄積が行動欠陥と相関関係にあるかどうか確かめることができる。タウオリゴマーは、ADモデルであるTg2576およびAPP/PS1マウスならびにP301Lタウ(JNPL3)に由来する脳において研究することができる。記載の方法を用いて、様々な年齢の脳/CNSを分析することができる。これらの実験は疾患表現型におけるタウオリゴマーの役割を評価し、TOMAを用いた受動的ワクチン接種の設計に役立つであろう。
【0123】
受動的ワクチン接種の効力は、トランスジェニックマウスモデルにおいてTOMAを用いて評価することができる。タウオリゴマーをP301Lタウ(JNPL3)タウオパチーモデルに投与することができる。JNPL3マウスは、タウ凝集物の標的化に向けられた能動的ワクチン接種試験において効果的に用いられている(Asuni et al., 2007)。ポリペプチド組成物の治療効果を研究するために、Tg2576マウスにタウオリゴマーを投与することができる。様々な年齢のマウスにワクチン接種を行い、ワクチン接種の前後に、恐怖条件づけ、物体認識、自発運動活性、ロータロッド、およびトラバースビーム(traverse beam)を含む包括的な行動評価を行う。これらの2つのモデルの両方または一方において有意な改善が観察されたら、さらなるモデルが加えられる。これらの研究は、タウオリゴマーのダイナミクスに有効な情報を提供し、TOMAによるタウオリゴマーのみの標的化のメリットと、治療目的でワクチンを開発する実現可能性を評価する。図10は、ロータロッドアッセイを用いた神経変性マウスモデルにおけるTOMAの有益な作用を証明するデータを示す。
【0124】
AD脳およびCSFにおけるタウオリゴマーと病態との相関関係
死後脳およびCSF試料において、タウオリゴマーの存在、分布、および翻約後修飾を測定および分析することができる。TOMAおよび他の利用可能な抗体を用いて、免疫組織化学的分析および生化学的分析が行われる。切断および部位特異的リン酸化などのタウ修飾に焦点を当てた以前の研究とは異なり、本発明者は、最初にタウオリゴマー量を調べ、次いで、タウオリゴマー量と報告された修飾との相関関係を分析する。
【0125】
AD脳におけるタウオリゴマーの免疫組織化学的分析
本発明者は、TOMAと他の十分に特徴付けられた抗体との併用について述べる。これらの研究は、AD脳に存在する複数のタイプのタウ凝集物を詳細に調べる。AD脳にあるNFTは広く研究されているが、AD脳にあるタウオリゴマーについて述べたデータは無く、タウオリゴマーの役割はまだ確かめられていない。動物モデルから得られたデータは、ここで提案された方法および組成物がADにおけるタウオリゴマーの理解に有用であることを示している。TOMAとタウ5、HT7、pThr231、p422、AT100、AT8、およびpSer396を併用した脳試料のIHC分析から、タウオリゴマー、タウオリゴマーのリン酸化状態、タウオリゴマーとNFTとの関係についての情報が得られる。IHC実験は、AD脳における毒性タウオリゴマーの発生を詳細に調べ、疾患進行におけるその役割を明らかにする。
【0126】
患者および脳組織の選択:
脳凍結組織は、Institute for Brain Aging and Dementia (UC Irvine)およびBrain Resource Center (Johns Hopkins School of Medicine)から入手した。Braak and Braakおよびその他によって述べられたように疾患経過にわたるタウ沈着の進行に基づくと、タウ病態は経内嗅領皮質において始まり、前頭皮質まで進行する。経内嗅領皮質および小脳、嗅内皮質、ならびに海馬からの組織を調べる(Brodmann's Area's 11, 9 and 4)。
【0127】
選択された患者はAD進行において見られる範囲を代表し、十分に特徴付けられた試料のみが用いられる。試料の情報には、患者の臨床上および病理学上の詳細がなければならず、患者は、年齢、性別、および死後指数(postmortem index)(PMI)、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコア、臨床的認知症尺度(CDR)スコア、ならびに認知能力スクリーニング測定(cognitive ability screening instrument)(CASI)スコアが適合した。
【0128】
抗体選択:
新規のタウオリゴマーモノクローナル抗体TOMA、ならびにA-11および1-11、抗オリゴマー抗体(Kayed et al., 2003; Meier et al., 2006)、OCおよびLOC抗原線維抗体(Kayed et al., 2007)、ならびにOfficer、抗環状プロトフィブリル抗体(Kayed et al., 2009)を含む他の抗体を用いて、試料を分析する。さらに、必要に応じて、神経原線維変化に対するタウ抗体および特定のホスホル-タウエピトープに対するタウ抗体、抗タウHT7、AT270、AT8、およびAT100、タウ-5、PHF-タウ、抗タウpS199、pS262、およびpS422などの市販抗体を使用する。
【0129】
組織処理:
神経病理学的な目的で、脳試料を10%中性ホルマリン緩衝液に入れて標準条件下で固定する。各脳に由来する試料を、従来の方法に従ってパラフィン包埋のために、および凍結切片のために処理する。両タイプの組織調製物を用いて作業する理由は、凍結切片よりパラフィン包埋切片の方が良好に働く抗体もあれば、逆のことが当てはまる抗体もあるからである。さらに、蛍光二次抗体ではなくDAB検出法を用いた方が良好に反応する抗体もあれば、逆のことが当てはまる抗体もある。死後ヒト脳組織上でのTOMAの反応性は、様々な抗体希釈液を用いて、および注意深く対照染色を用いて経験的に評価される。
【0130】
パラフィン切片における免疫組織化学および凍結切片における免疫蛍光
コンホメーション抗体を用いた作業は、特に、タウオリゴマーのような動的で、かつほぼ間違いなく一過性の種を検出するのに用いられる時には非常に難しい。このプロトコールは、コンホメーションエピトープが抗体に接近できるようにしながらコンホメーションエピトープを保存する。この目的のためにプロトコールを最適化および調整する。
【0131】
データ分析:
ACT-1収集ソフトウェア(Nikon Instruments Inc, Melville, NY)によって制御されるNikon DXM 1200カラーCCDカメラを搭載したNikon Eclipse 800顕微鏡を用いて、明視野画像を得る。3つのレーザーラインを搭載する共焦点顕微鏡Zeiss LSM 510(Zeiss, Hornwood, NY)を用いて、蛍光画像を調べる。4本の励起ライン:458nm、477nm、488nm、514nmを有するアルゴンイオンレーザー、543nmで励起する緑色He/Ne、および633nmで励起する赤色He/Ne。免疫反応性を定量するために、Stereo Investigator(MBF Bioscience, Williston, VT)を用いて脳試料を分析する。関心対象の領域を囲む。領域区画フラクショネータープローブ(fractionator probe)を全身および無作為に使用し、400μm離してサンプリング箇所を割り当てる。それぞれのサンプリング箇所で、15μmの距離で互いに等間隔に離したマーカーを備えた100x80μmカウンティングフレーム(counting frame)を重ねる。TOMA免疫反応性と共存するマーカーを陽性と分類したのに対して、残りのマーカーを陰性と分類する。領域区画は、陽性マーカーの数をマーカー総数で割ったものとして計算する。盲検方式で立体解析学的評価を行う。TOMA免疫反応性の領域区画の統計解析は、一元配置ANOVAの後に、群間を比較するボンフェローニの多重比較検定を用いて行う。全ての統計解析を、GraphPAd Prism バージョン5.00 for Windows(GraphPAd Sofware, San Diego, CA)を用いて行う。
【0132】
定量および統計解析
免疫反応性を定量するために、脳試料を、Stereo Investigator(MBF Bioscience, Williston, VT)を用いて分析する。関心対象の領域を囲む。フラクショネータープローブを全身および無作為に使用し、400μm離してサンプリング箇所を割り当てる。TOMAと共に、マーカーとしてab64193などのタウウサギ抗体、およびp422を使用する。TOMAをフルオロフォア(Alexa Fluor488)で標識し、標識TOMAおよび他のマウスタウ抗体を用いて組織切片において二重染色を行う。簡単に述べると、最初に、切片を市販の抗体とインキュベートし、次いで、Alexa Fluor568で標識した二次抗体ヤギ抗マウスとインキュベートし、最後に、切片を、Alexa Fluor488で標識したTOMAとインキュベートする。分析のために、それぞれのサンプリング箇所に、15μmの距離で互いに等間隔に離したマーカーを備える100x80μmカウンティングフレームを重ねる。TOMA免疫反応性と共存するマーカーを陽性と分類したのに対して、残りのマーカーを陰性と分類する。領域区画は、陽性マーカーの数をマーカー総数で割ったものとして計算する。盲検方式で立体解析学的評価を行う。TOMA免疫反応性の領域区画の統計解析は、一元配置ANOVAの後に、群間を比較するボンフェローニの多重比較検定を用いて行う。全ての統計解析を、GraphPad Prismプログラムを用いて行う。
【0133】
実施例3
AD脳におけるタウオリゴマーの生化学的分析
AD脳におけるタウオリゴマー量の詳細な生化学的分析は入手できないが、最近の研究から、tgマウス脳におけるタウオリゴマーの洗練された生化学的分析が報告された(Berger et al., 2007; Spires et al., 2006)。タウ凝集物は二量体から線維前にわたる。この生化学的分析は免疫組織化学的分析を補い、AD進行に関連する特定のオリゴマー種の分子量についての情報を提供する。また、Aβオリゴマーに関する以前の研究から、複数のタイプのオリゴマー種が存在することが明らかになった(Glabe, 2008)。提案された生化学的分析は、AD脳における異なるタイプのタウオリゴマーおよびこれらの生化学的特性の特定に役立つであろう。
【0134】
ヒト脳組織のウエスタンブロットおよびドットブロット分析
TOMAを用いて疾患進行を観察できるか確かめるために、ミニメンタルステートおよびBraak & Braak変化に関して広い範囲を有する患者からの大きな脳集団をタウオリゴマーの存在について分析する。AD、MCI、および同年齢対照からの凍結組織を試験する。試験した関心対象の領域には、嗅内皮質、海馬、頭頂葉、嗅球、および前頭皮質が含まれる。タウオリゴマーはSDSに対して安定である。PBS画分、Triton X-100画分、およびTriton不溶性画分を、TOMA、タウ-5、タウ-13、T46、pThr231、pSer396を用いたウェスタンによって分析する。
【0135】
組織調製および初期基本分析
この手順は、脳試料から異なるアミロイド種を単離した経験に基づいている。以下の画分:PBS可溶性画分、TritonX-100可溶性画分、およびTritonX-100不溶性画分を、TOMA、AT8、タウ-5、および必要に応じて他の抗体を用いてウェスタンおよびドットブロットによって分析する。さらに、Triton不溶性画分の尿素変性処理およびギ酸変性処理を行い、未処理対照からのシグナルと比較する。これにより、分画プロトコール中に沈殿した可能性のある大きなタウオリゴマーの定量が可能になるだろう。
【0136】
ギ酸処理および尿素処理:
尿素処理;PBS可溶性ヒト脳画分およびTriton可溶性ヒト脳画分を、0.375M、0.75M、1.5M、3Mおよび6Mおよび8Mの尿素によって処理する。試料を室温で一晩インキュベートした後に分析する。ギ酸処理:PBS可溶性ヒト脳画分を88%、40%、20%、および10%のギ酸によって処理し、混合し、室温で一晩インキュベートする。試料を、TOMA、AT8、およびタウ-5を用いたウエスタンブロットによって分析する。場合によっては、さらなる抗体を使用する。
【0137】
界面活性剤処理:
PBS可溶性ヒト脳画分、ならびに2%、1%、0.5%、0.25%、0.125%、0.0625%、0.03125%、および0.015625%の界面活性剤SDS、OG、OTG、CHAPS、TritonX100、NonidetP-40、Tween20、およびBRIJ58溶液を用いたTriton可溶性ヒト脳画分を使用する。試料を混合し、SDSは+4℃で沈殿する傾向があるためにSDS以外は+4℃で一晩インキュベートする。SDS試料は室温で一晩インキュベートする。これらの試料を、TOMA、AT8、およびタウ-5を用いたドットブロットアッセイによって分析する。
【0138】
プロテイナーゼK、DNアーゼ、およびRNアーゼによる処理
PBS可溶性ヒト脳画分およびTriton可溶性ヒト脳画分を両方とも異なる濃度のプロテイナーゼK、DNアーゼ、およびRNアーゼによって処理し、37℃で1時間インキュベートし、次いで、TOMA抗体、AT8抗体、およびタウ-5抗体を用いたウエスタンブロットによって分析する。全ての実験において、インビトロで調製されたタウオリゴマーおよび未処理試料を対照として使用する。
【0139】
タウオリゴマーの定量および統計解析:
TOMAシグナルと、様々なパラメータ(Braak and Braak病期、死後指数(PMI)、性別、死亡時の年齢、およびミニメンタルステート検査(MMSE)スコアとの相関関係の評価では、ブロットをスキャンし、Scion Imaging Softwareを用いてシグナルを定量する。各画分からのTOMAシグナルについてR2値を計算し、MMSEスコアと相関づける。しかしながら、さらに興味深いのは、PBS可溶性画分およびTriton可溶性画分の中のタウオリゴマーとMMSEスコアとの相関関係である。データを、GraphPad Prismプログラム(ISI, Philadelphia, PA)を用いてANOVAおよび独立両側t検定によって統計解析する。P<0.05であれば統計的に有意とみなされる。
【0140】
実施例4
CSF試料中のタウオリゴマー
AD早期検出のための簡単な非侵襲試験が大いに必要とされている。タウまたはその主な種の1つ(t-タウおよびp-タウ、p-タウ-181など)は、AD早期検出のための公表された全CSFバイオマーカーシグネチャーの一部である。タウレベルはCSF中で上昇するのに対して、AβレベルはAD患者に由来するCSF中で減少することが十分に証明されている。CSF中のタウオリゴマーレベルは評価されておらず、データから、TOMAによるCSF中タウオリゴマーレベルの測定はADのバイオマーカーとなる可能性があることが証明される。CSFはCNSと直接接触していることに留意のこと。従って、その生化学的組成の変化、例えば、タウオリゴマーレベルの増加は、CSF中で明らかになるであろう。さらに、CSFは、生存している患者に腰椎穿刺を行うことによって入手することができる。
【0141】
CSF試料:
CSF凍結試料は、Brain Aging and Dementia (UC Irvine), Prof. John Ringman (Mary S. Easton Center for Alzheimer's Disease Research, UCLA), Prof. Martin Ingelsson (Uppsala University)およびProf. Douglas Galasko (Shiley-Marcos Alzheimer's Disease Research Center, UCSD)から入手した。全ての患者についてMMSEスコアを入手することができる。前駆症状患者についてはCASIスコアを入手することができる(UCLA)。
【0142】
直接ELISAによるCSF試料中のタウオリゴマーの定量:
標準的なELISAプロトコールを使用する。20〜50μlのCSF(16〜40μgの総タンパク質)を各実験について3回同じように使用し、少なくとも2回の独立した実験において測定する。TOMA、タウ-5、HT7、およびpThr181を使用する。
【0143】
IP/ウェスタンによるCSF試料中のタウオリゴマーの定量:
標準的なプロトコールを使用する。TOMAおよびタウ-5を用いてビーズをコーティングする。IPの場合、0.5〜1mlのCSFを各実験において使用する。ウェスタンでは、試料を、TOMA、T2286、タウ-5、HT7、およびpThr181を用いてプローブする。
【0144】
サンドイッチELISAによるCSF中のタウオリゴマーの定量:
固相サンドイッチELISAを用いて、CSF中のタウオリゴマーを検出する。本発明者らはタウ-5抗体を用いて、CSFに存在する全てのタウ種を捕捉する。各実験において20μlのCSFを使用する。HT7およびpThr181も「捕捉」抗体として使用する。TOMAおよびpThr181を検出抗体として使用する。
【0145】
データ分析:
ELISAおよびサンドイッチELISAデータに対して統計解析を行う。データを、GraphPad Prismプログラムを用いてANOVAおよび独立両側t検定によって統計解析する。p値が<0.02であれば、差は統計的に有意であるとみなされる。ブロットをスキャンし、シグナルを定量することによって、IP/ウェスタンデータを分析する。R2値を計算し、MMSEスコアを相関づけた。MMSE以外の患者の臨床的および神経病理学的な特徴付けに基づいてデータおよびその有意性をさらに分析するために、試料と共有する全てのデータが提供される。
【0146】
実施例5
マウスモデルにおけるタウオリゴマー
ADのマウスモデルを用いて、Aβ毒性およびAD関連表現型の媒介におけるタウオリゴマーの役割を調べる。Tg2576はこのようなモデルの一例である。Tg2576は十分に特徴付けられており、高い再現性で非常に多くの研究において用いられている。さらに、これは、Aβを介した毒性におけるタウの役割を発見するために用いられたhAPP-J20マウスモデルと同じSwedish変異を有する。Tg2576マウスには続発性タウオパチーがあり、これらの動物の脳にリン酸化タウ種が存在することが報告されている。さらに、データから、このモデルにおいてタウオリゴマーが存在することを証明されている。APP/PS1モデルはさらに悪性度の高いモデルであり、8週間でアミロイド沈着が始まる。4.5ヶ月までにリン酸化タウの沈着を示し、16ヶ月でタウPHFに似た構造を示し、このモデルでは6ヶ月齢でタウオリゴマーを示す。
【0147】
タウオパチーマウスモデルの選択:
タウオパチーマウスモデルにおいて観察されたNFT形成と表現型との解離から、タウオリゴマー集合が、形成された最も毒性の強いタウ種であることが分かる。この現象は全てのタウオパチーモデルに普遍的にあり、TOMAを用いて分析するために任意のタウモデルを選択できることを意味している。本発明者らは、h-タウマウスモデルがNFT形成に関係なく広範囲の細胞死およびシナプス病変を示すのでh-タウマウスからの脳、ならびにP301L(JNPL3)からの脳を分析する。後者のモデルは、公表されたたった1つのタウ能動ワクチン接種研究において用いられた。データから、若い年齢で、豊富なタウオリゴマーがIHC、ウェスタンによって確認されたことが分かり、従って、TOMAを用いた受動的ワクチン接種研究のための論理的な選択である。十分に確立した2つのモデルを選択することによって、本発明者らはタウオリゴマーの形成を評価し、Aβ毒性のメディエーターとしての役割を確認することができる。
【0148】
マウスモデルにおけるタウオリゴマーのIHCおよび生化学的分析:
ヒト脳試料について述べられたものを同じ方法を用いて、マウス脳を分析する。これらの方法には、主にTOMAを使用し、タウ5、タウ13、pThr231、p422、AT100、およびAT8と併用した、パラフィン切片、凍結切片におけるIHC、ウエスタンブロット、およびELISAが含まれる。初期分析は、各マウスモデルの以下の年齢を含む。これらの脳試料のほとんどは動物コロニーから取り出されたのに対して、h-タウのような他の試料は共同研究者であるDr. K.Duffおよびその他から提供された。これらの動物表現型について述べている公開文献に基づいて、これらの時点を選択する。
【0149】
Tg2576モデル:
脳を、5ヶ月、6ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、12ヶ月、および16ヶ月で分析する。
【0150】
APP/PS1モデル:
脳を3ヶ月、6ヶ月、8ヶ月、および10ヶ月で分析する。
【0151】
h-タウモデル:
脳を、5ヶ月齢、7ヶ月齢、8ヶ月齢、10ヶ月齢、および16ヶ月齢のマウスから分析する。
【0152】
P301Lモデル:
脳を、2ヶ月半、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、および10ヶ月で分析する。
【0153】
データ分析:
ELISA測定値を、GraphPad PrismプログラムによりANOVAおよび独立両側t検定を用いて分析する。p値が<0.05であれば、差は統計的に有意であるとみなされる。ブロットをスキャンし、Scion Imaging Softwareを用いてシグナルを定量することによって、ウェスタンおよびドットブロットデータを分析する。R2値を計算し、年齢と相関づける。
【0154】
公表されたタウ免疫療法に用いられたモデルであった理由で、P301L(JNPL3)マウスモデルにワクチン接種する。TOMA受動ワクチン接種からの結果と、リン酸化タウおよびNFTを標的とする能動ワクチン接種を用いたAsuni et al.の結果を直接比較することができるだろう。
【0155】
ADモデルとして、hAPPのSwedish変異を発現するTg2576マウスにワクチン接種する。(1)このモデルは十分に特徴付けられており、Aβを標的とする非常に多くの受動ワクチン接種研究において用いられているので、交差比較(cross comparision)が可能である。(2)このマウスモデルは、hAPP-J20マウスモデル(7)の開発に用いられた。最後に、本発明者らは、このモデルにおいてTOMAを用いてタウオリゴマーを検出することができる。
【0156】
TOMAを送達するために脳室内(i.c.v)注射および腹腔内(i.p.)注射が検討され、Tg2576マウスモデルおよび他のADモデルへの抗Aβ抗体の送達を調べた、良好に実施された研究において述べられたように、本発明者らはi.c.v.から始めることにした。これらの研究から、i.c.v.注射は有効であり、i.p.注射と並べて比較した時にアミロイドクリアランスに関連した副作用を最小限にすることが証明された。i.p.注射ではi.c.v.注射より高い抗体用量も必要とされる。さらに、i.c.v.によって送達されたTOMAは、タウオリゴマーを除去するために中枢機構のみを必要とし、Aβクリアランスに関与すると提案された末梢機構の関与を必要としない。
【0157】
TOMAを用いたタウオパチーモデルP301Lの受動ワクチン接種
P301Lモデルは、3ヶ月までに軽度の感覚運動異常を発症し、4ヶ月齢でNFTを発症する。3ヶ月齢、4ヶ月齢、6ヶ月齢、7ヶ月齢、および9ヶ月齢のマウス群の左半球に、2μgのTOMAの単回ボーラスi.c.v.注射を接種した。対照マウスにはPBSまたは対照IgGをi.c.v.注射した。注射の3日前および注射の4日後に行動分析を行う。これらの試験には、ロータロッドならびにトラバースビームおよび物体認識が含まれる。注射して1週間後に動物を屠殺する。脳を取り出し、ICHおよび生化学的分析のために解剖する。注射と動物の屠殺との間にさらに期間を空けることも考えられる。これは、タウオリゴマーと他のタウ凝集物との間のダイナミクスの理解に役立つだろう。これらの脳からのIHC分析は、細胞外タウオリゴマーと細胞内タウオリゴマーとの関係を評価するために用いられる。P301Lマウスモデルにおける行動異常は、以下の試験、ロータロッド、トラバースビーム、および物体認識を行うことによって評価する。
【0158】
TOMAを用いたADモデルTg2576への受動的ワクチン接種
Tg2576モデルは、6ヶ月から記憶低下を示すのに対して、Aβアミロイド斑は9ヶ月で沈着し始める。これらの動物は、6〜12ヶ月齢の間に重篤な記憶欠陥を示す。Aβオリゴマーは、斑形成のかなり前である6ヶ月で認められる。6ヶ月齢、8ヶ月齢、10ヶ月齢、および12ヶ月齢のマウス群の左半球に2μgのTOMAをi.c.v注射する。対照マウスにはPBSまたは対照IgGをi.c.v.注射する。注射の4日前および注射の4日後に行動試験および記憶試験を行う。これらの試験は恐怖条件づけおよび自発運動活性を含む。注射して1週間後に動物を屠殺する。脳を取り出し、IHCおよび生化学的分析のために解剖する。行動試験および記憶試験が行われ、恐怖条件づけ、モーリス水迷路、および自発運動活性を含む。
【0159】
データ分析:
これらの動物の脳におけるタウオリゴマーレベルを本明細書に記載のように分析する。最初に、ワクチン接種前のこれらの動物の総タウレベルおよびタウオリゴマーレベルを、タウオリゴマーの場合はTOMAならびに総タウの場合はタウ5およびタウ13によって定量する。次いで、受動的ワクチン接種前後のタウオリゴマーレベルおよび総タウレベルを計算し、比較する。最後に、タウオリゴマーレベルを行動試験の結果と相関づける。ロータロッド、恐怖条件づけ、およびトラバースビームからのデータを、二元配置ANOVA反復測定およびボンフェローニポストホックテストによって分析する。自発運動活性測定、モーリス水迷路、および物体認識試験からのデータを、独立両側t検定を用いて分析する。行動アウトカムとタウオリゴマーレベルとの相関関係を評価し、ピアソンr係数によって分析する。R2値を計算する。
【0160】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書において示された手順を捕捉する他の詳細を提供する程度まで、特に参照により本明細書に組み入れられる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウオリゴマーに特異的に結合し、かつ可溶性タウにもタウ原線維にも結合しない、モノクローナル抗体または抗体断片。
【請求項2】
単鎖抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
ヒト抗体またはヒト化抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
請求項1記載の抗体および薬学的に許容される賦形剤を含む、組成物。
【請求項5】
薬学的に許容される賦形剤がアジュバントである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
タウオリゴマーを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)単離された組換えタウタンパク質と、アミロイドポリペプチド、α-シヌクレインポリペプチド、またはプリオンポリペプチドの予め形成されたオリゴマーを含む核形成剤とを接触させて、核形成混合物を形成する工程;
(b)タウオリゴマー化を促す条件下で、前記核形成混合物をインキュベートする工程;および
(c)タウオリゴマー化が停止するか、または著しく低下するように核形成混合物の条件を変える工程。
【請求項7】
アミロイドポリペプチドがAβ42またはAβ40である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
プリオンポリペプチドがプリオン106〜126である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
予め形成されたオリゴマーとタウタンパク質との比が少なくとも1:140(w/w)の比である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
核形成混合物が2時間より短くインキュベートされる、請求項6記載の方法。
【請求項11】
核形成混合物が少なくとも30分間、最大で180分間インキュベートされる、請求項6記載の方法。
【請求項12】
核形成混合物が少なくとも50分間、最大で120分間インキュベートされる、請求項6記載の方法。
【請求項13】
請求項6記載の方法によって生成された、タウオリゴマー。
【請求項14】
タウオリゴマー特異的抗体を特定する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)タウオリゴマーに結合する抗体と、タウオリゴマー、可溶性タウ、またはタウ原線維とを独立に接触させる工程;および
(b)タウオリゴマーに結合し、かつ可溶性タウに結合せず、かつタウ原線維に結合しないタウオリゴマー抗体を特定する工程。
【請求項15】
タウオリゴマーに結合し、かつ可溶性タウに結合せず、かつタウ原線維に結合しないタウオリゴマー抗体がイムノブロッティングまたはELISAアッセイによって特定される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項14記載の方法によって特定される、タウオリゴマー特異的抗体。
【請求項17】
タウオパチーと疑われる患者またはタウオパチーを有する患者を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
タウオリゴマー特異的抗体の、患者からの生物学的試料の成分への結合を検出する工程であって、生物学的試料中のタウオリゴマーの検出がタウオパチーを示す、工程。
【請求項18】
タウオパチーが、アルツハイマー病、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
タウオリゴマーの検出がイムノアッセイによるものである、請求項17記載の方法。
【請求項20】
生物学的試料が、血漿、脳脊髄液(CSF)、脳組織、ニューロン組織、または筋肉組織を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
タウオリゴマー特異的抗体が検出可能な剤を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
検出可能な剤が、放射性マーカー、核酸、蛍光標識、または酵素標識である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
タウオパチーを治療する方法であって、以下の工程を含む方法:
ADもしくは他のタウオパチーを有する対象またはADもしくは他のタウオパチーを有すると疑われる対象に、有効量のタウオリゴマー特異的抗体を投与する工程。
【請求項24】
0.1μgまたはmg〜10μgまたはmgのタウオリゴマー特異的抗体が対象に投与される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
タウオリゴマー特異的抗体が血液またはCSFに投与される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
タウオパチーが、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)を含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
タウオパチーを有する対象またはタウオパチーを有すると疑われる対象に、有効量のタウオリゴマーを投与する工程を含む、タウオパチーを治療する方法。
【請求項28】
タウオパチーが、ピック病(PiD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、および前頭側頭葉変性症(FTLD)を含む、請求項27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−503201(P2013−503201A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527070(P2012−527070)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/047154
【国際公開番号】WO2011/026031
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】