説明

タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するための方法

本発明は、タキソール誘発性ニューロパシーの分野に関する。具体的には、本発明は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法であって、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を処置、予防および/または軽減するため、アゴニスト抗trkC抗体を投与する工程を包含する方法に関する。別の局面において、本発明は、癌に罹患する個体を処置するための改良法であって、タキソールとともにアゴニスト抗−trkC抗体を投与する工程を包含する方法を提供する。別の局面において、本発明は、本発明に係る方法のいずれかで使用するための、アゴニスト抗trkC抗体を含む組成物およびキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2002年12月23日出願の米国仮特許出願第60/436,147号の優先権を主張し、その全部を参照として本明細書に援用する。
【0002】
(連邦政府支援による研究開発に関する説明)
該当なし。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、タキソール誘発性ニューロパシーの分野に関する。より具体的には、本発明は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法であって、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を処置、予防および/または軽減するためのアゴニストである抗trkC抗体を投与する工程を包含する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
タキソールおよびその他のタキサンなどの化学療法剤は、癌の処置にうまく使用されてきた。米国だけでも約300,000人の人々が、乳癌、肺癌および結腸癌を処置するために毎年化学療法を受けることになる。しかしながら、タキソールによる処置を受けた患者の60〜90%が、感覚性ニューロパシーや神経細胞機能障害などのニューロパシー症状に悩む。タキソールによる処置を受けた患者に現れる症状でよく見られるのは、遠位性対称性多発性ニューロパシー、ポールハイプエスセジア(pall−hypesthesia)、位置感覚消失、痛みを伴う異常感覚、レールミット徴候、および痛みなどである。この他、それほど頻繁ではない症状は、進行性遠位性および/または近位性の不全麻痺(distal and/or proximal paresis)、運動性ニューロパシー、筋肉痛、まれにミオパシー、麻痺性イレウス、起立性低血圧症、および不整脈である(Quasthoffら,J.Neurol.249:9−17(2002))。重症の感覚性ニューロパシーの症状では、化学療法剤の投与量を減らして処置を遅延させざるを得なくなるため、抗癌治療の効果が限定されることになる。
【0005】
神経栄養因子(ニューロトロフィン)は低分子のホモ二量体蛋白質のファミリーで、神経系の発達および維持に重要な役割を担っている。神経栄養因子ファミリーのメンバーには、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経栄養因子−3(NT−3)、神経栄養因子−4/5(NT−4/5)、神経栄養因子−6(NT−6)、および神経栄養因子−7(NT−7)などがある。他のポリペプチド成長因子と同様、神経栄養因子は、細胞表面レセプターとの相互作用によって標的細胞に影響を与える。最近の知見によれば、2種類の膜貫通型糖蛋白質が神経栄養因子に対するレセプターとして働いている。神経栄養因子反応性ニューロンは、p75NTRまたはp75とも呼ばれる、共通の低分子量(65〜80kDa)で低親和性レセプター(LNGFR)であって、NGF、BDNF、NT−3およびNT−4/5に2×10−9MのKDで結合するレセプター、および高分子量(130〜150kDa)で高親和性(10−11M範囲のKD)のレセプターであって、レセプター・チロシンキナーゼのtrkファミリーの一員であるレセプターを有する。trkレセプターファミリーと同定されたメンバーはtrkA、trkBおよびtrkCである。
【0006】
TrkCは、中枢神経系において、および末梢神経系の一部のニューロン上で広く発現される。交感神経ニューロン上、および後根神経節(DRG)の一次感覚性ニューロンの一部である、DRGの大径線維感覚ニューロン上で発現している。大径線維感覚ニューロンは、末端まで伸びている大きな有髄の軸索をもち、自己受容、ならびに微小な接感覚および振動感覚に関する情報を伝達する。
【0007】
全長の天然型trkAレセプター、trkBレセプターおよびtrkCレセプターの細胞外ドメインには、他のさまざまな蛋白質において同定されている相同的な、さもなれれば類似した構造に関して定義されている5つの構造的ドメインがある。これらのドメインは、成熟trkレセプターのアミノ酸配列のN−末端側から、1)第1システインリッチ・ドメイン、2)ロイシンリッチ・ドメイン、3)第2システインリッチ・ドメイン、4)第1免疫グロブリン様ドメイン、および5)第2免疫グロブリン様ドメインと名付けられている。例えば、WO 0198361;Urferら,J.Biol.Chem.273:5829−5840(1998)を参照。
【0008】
神経栄養因子は、さまざまな神経変性疾患および神経系疾患に対する治療薬となる可能性があるものとして興味をもたれている。NGFやNT−3などの神経栄養因子は、ピリドキシンまたはシスプラチンによる処置に伴う感覚性ニューロパシーを処置するための動物モデルで試験された。米国特許第5,604,202号;WO 0198361。神経変性疾患および神経系疾患の処置に神経栄養因子を使用することにはいくつか短所がある。重要な短所の一つは、特異性の欠如である。ほとんどの神経栄養因子は1種類以上のレセプターと相互作用する。例えば、trkCレセプターチロシンキナーゼの好適なリガンドであるNT−3は、trkAおよびtrkBにも結合してこれらを活性化する(Barbacid,J.Neurobiol.25:1386−1403(1994);Barbarcid,Ann.New York Aced.Sci.766:442−458(1995);Ryden and Ibanez,Biol.Chem.271:5623−5627(1996),Belliveauら,J.Cell.Biol.136:375−388(1997);Farinasら,Neuron 21:325−334(1998))。結果的に、特定のニューロン集団を標的とする療法を考え出すことが難しくなる。神経栄養因子療法のもう一つの限界は、NT−3などの神経栄養因子が、痛覚過敏を誘導することが知られている点である(Chaudhryら,Muscle and Nerve 23:189−192(2000))。また、NT−3など、いくつかの神経栄養因子は、齧歯類において薬物動態特性および生物学的利用能特性が劣るため、人間への臨床応用について深刻な問題を提起している(Haaseら,J.Neurol.Sci.160:S97−S105(1998)、Helgrenら,J.Neurosci.17(1):372−82(1997)における投薬量)。
【0009】
化学療法剤による癌処置は、神経系の損傷および機能障害をともなうことがある。アゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体を、シスプラチン−およびピリドキシン−によって引き起こされた感覚性ニューロパシーの動物モデルにおける処置に使用することが記載されている。米国特許第5,910,574号;PCT国際公開番号WO 0198361。しかし、化学療法剤が原因となって起きるニューロパシーの病理学または症状は、癌処置に使用される化学療法剤によってさまざまなである。例えば、シスプラチンとピリドキシンでは症状が異なり、タキソールとは異なったメカニズムで神経を損傷する可能性が高いが、これら3種類の薬剤はすべてニューロパシーを引き起こす。例えば、シスプラチンはDNA付加物であって、DNA内に一本鎖および二本鎖の架橋を生じさせる。Quasthoff(2002)J.Neurology 249:9−17。それに対し、タキソールは、微小管の脱重合を阻止するように機能して、細胞内の微小管の凝集をもたらす。例えば、タキソール処置を受けた個体のニューロパシーは、脱力、およびその他の急性症状を伴うため、タキソール処置は、振動を伝え、認知および位置感覚を付与する大径有髄線維など、すべての感覚様相に影響を与える。タキソール誘発性ニューロパシーをもつヒトおよび動物モデルでの電気生理学的特徴付けによって、感覚機能に対する急性の作用(例えば複合活動電位振幅の低下)および感覚神経伝導速度の低下が明らかになっている。Quasthoff、前掲、Clifferら,Ann.Neurol.(1998)43:46−55参照。これに対し、シスプラチン誘発型およびピリドキシン誘発型のニューロパシーでは脱力は滅多に観察されない。シスプラチンニューロパシーは、感覚神経伝導速度の低下をもたらすが、複合活動電位振幅にはほとんど変化がない。ピリドキシン処置は、複合活動電位振幅の低下をもたらす。Quasthoff、前掲、PCT国際公開番号WO01/98361参照。このように、ピリドキシンおよびシスプラチンが原因で起こるニューロパシーは、タキソールが原因で起こるニューロパシーとは異なった症状を示す。
【0010】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーのための新たな治療処置が大いに必要とされている。
【0011】
本明細書において引用されている特許出願および特許公開などの参考文献はすべて、その全体が参照として本明細書に援用される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の開示)
本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体が、タキソールによる処置を受けた個体に現れる感覚性ニューロパシーを処置するという発見に基づいている。タキソール誘発性ニューロパシーとは、タキソールという薬剤もしくは同類のタキサン類を投与された後の個体に付随または出現する神経疾患を意味する。タキソール誘発性感覚性ニューロパシーは、末梢神経に影響を与え、大径線維末梢感覚ニューロンの変性またはその他の機能障害など、感覚、感覚運動または自律神経の機能障害が一つ以上併合したものとして最も頻繁に現れる。したがって、本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体を用いて、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置し、予防し、症状の出現を遅延させ、回復速度を向上させ、および/または軽減させる方法を包含する。
【0013】
したがって、一つの態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体によって個体を処置することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーに伴う症状の出現を遅延させる方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を改善する方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体で処置することによって、先在のタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを逆転させるための、および/または先在するタキソール誘発性感覚性ニューロパシーからの回復速度を高めるための方法を提供する。さらに別の態様において、本発明は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを有する個体において、末梢ニューロンの維持を促進し、および/または末梢ニューロンを再生させる方法を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、癌を患う個体を処置するための改良法であって、該改良が、タキソールとともにアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施態様において、癌は、乳癌、卵巣癌、肺癌、カポジ肉腫、前立腺癌、頭頸部癌、および悪性血液疾患のいずれか一つ以上である。
【0015】
アゴニスト抗−trkC抗体は当技術分野において知られている。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒトtrkCに結合する。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒトtrkCに特異的に結合する。アゴニスト抗−trkC抗体は、ヒトおよび齧歯類trkCに結合してもよい。アゴニスト抗−trkC抗体は、ヒト抗体(抗体6.4.1(PCT公開番号WO01/98361)など)であっても、または、ヒト化抗体(ヒト化モノクローナル抗体2256など)であってもよい。別の実施態様では、本明細書に説明されているように、アゴニスト抗−trkC抗体はヒト化抗体A5である。さらに別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体は、表1(配列番号:1)記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、および表2(配列番号:2)記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体は、抗体A5のCDRを一つ以上(1、2、3、4,5個など、またはいくつかの実施態様においては、A5由来の6個のCDRすべて)含む。CDRの同定は、当業者が適宜なしうることである。いくつかの実施態様において、CDRはKabatのCDRを含む。別の実施態様において、CDRはChothiaのCDRである。さらに別の実施態様において、CDRは、KabatおよびChothiaのCDRをともに含む。いくつかの実施態様において、抗体は、ATCC番号PTA−5682の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチドによってコードされる軽鎖を含む。いくつかの実施態様において、抗体は、ATCC番号PTA−5683の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチドによってコードされる重鎖を含む。いくつかの実施態様において、抗体は、(a)ATCC番号PTA−5682の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチドによってコードされる軽鎖、および(b)ATCC番号PTA−5683の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチドによってコードされる重鎖を含む。いくつかの実施態様において、抗体は、(a)ATCC番号PTA−5682の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチド、および/または(b)ATCC番号PTA−5683の寄託番号をもつ宿主細胞によって産生されるポリヌクレオチドによってコードされるCDRを一つ以上含む。
【0016】
抗体は、基本的に、以下の一つ以上から選択される抗体と同じtrkCエピトープに結合することができる。6.1.2、6.4.1、2345、2349、2.5.1、2344、2248、2250、2253、および2256。PCT公開番号WO01/98361参照。抗体は、免疫学的に不活生で、例えば、補体仲介性溶解を誘発しない、または抗体依存性細胞仲介性細胞傷害(ADCC)を促進できない定常領域などの改変された定常領域を含むことも可能である。別の実施態様において、定常領域は、Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624;PCT出願番号PCT/GB99/01441;および/または英国特許出願番号9809951.8に記載されているように改変されている。
【0017】
また、抗体は、以下の一つ以上から選択された抗体などの抗体断片であってもよい。抗体断片から形成されたFab、Fab’、F(ab’)、Fv断片、二重特異性抗体断片(diabodiy)、単鎖抗体分子および多特異的抗体、ならびに単鎖Fv(scFv)分子。抗体は、キメラであることも可能であり、また、二重特異的であってもよい。
【0018】
アゴニスト抗−trkC抗体は、タキソールを投与する前、投与中、または投与後に投与すること、および/または、タキソール療法コースを中断した後に投与することが可能である。投与は、ニューロパシーを発症する前に行うことも可能である。
【0019】
アゴニスト抗−trkC抗体の投与は、以下の方法の一つ以上など、当技術分野において知られている適当な方法によって行うことができる。静脈内、皮下、吸入による、動脈内、筋肉内、心臓内、脳室内、鞘内、髄腔内、および腹腔内投与。投与は全身的(例、静脈内)および/または局所的なものでもよい。投与は急性でも慢性でもよい。
【0020】
別の態様において、本発明は、本発明に係る方法のいずれかで使用するための、アゴニスト抗−trkC抗体を含む組成物およびキットを提供する。
【0021】
本発明は、また、薬剤としての使用および/または薬剤を製造するための使用に関連して本明細書で説明されているいずれかの使用について記載されている組成物およびキットを提供する。
【0022】
(発明の実施態様)
本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体が、タキソールによる処置を受けた個体に現れる感覚性ニューロパシーを処置するという発見に基づいている。タキソール誘発性ニューロパシーとは、薬剤であるタキソール、もしくは同類のタキサン類を投与された後の個体(ヒトおよびヒト以外の哺乳動物など)に付随または出現する感覚ニューロンに影響を与える神経疾患を意味する。本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体を用いて、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置し、予防し、症状の出現を遅延させ、回復速度を向上させ、および/または軽減させるのに有用な方法および組成物を包含する。
【0023】
したがって、一つの態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体によって個体を処置することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーに伴う症状の出現を遅延させる方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を改善する方法を提供する。別の態様において、本発明は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体で処置することによって、先在のタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを逆転および/またはそれからの回復速度を高めるための方法を提供する。さらに別の態様において、本発明は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを有する個体において、末梢ニューロンの維持を促進し、および/または末梢ニューロンを再生させる方法を提供する。別の態様において、本明細書で説明されるように、タキソールをアゴニスト抗−trkC抗体とともに投与することによって、タキソールによる癌の処置が促進される。
【0024】
アゴニスト抗−trkC抗体は、タキソールを投与する前、投与中、または投与後に投与することができる。あるいは、抗体をタキソールとともに投与することも可能である。アゴニスト抗−trkC抗体は、感覚性ニューロパシーの他の治療法を行う前、行っている最中、および/または行った後に投与することも可能である。別の態様において、抗体を、他の感覚性ニューロパシー療法剤とともに投与することも可能である。
【0025】
アゴニスト抗−trkC抗体の投与は、以下の方法の一つ以上を含む、当技術分野において知られている方法によって行うことができる。すなわち、静脈内、皮下、吸入による、動脈内、筋肉内、心臓内、脳室内、鞘内、および腹腔内投与。投与は全身的(例、静脈内)および/または局所的なものでもよい。投与は急性でも慢性でもよい。
【0026】
別の態様において、本発明は、本発明に係る方法のいずれかで使用するための、アゴニスト抗−trkC抗体を含む組成物およびキットを提供する。
【0027】
本発明は、また、薬剤としての使用および/または薬剤を製造するための使用に関連して本明細書で説明されているいずれかの使用について記載されている組成物を提供する。
【0028】
(一般的技術)
本発明の実施においては、特段の記載がない限り、分子生物学(組換え技術など)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の通常の技術であって、当業者が適宜なしうるものを使用する。そのような技術は、以下の文献等で十分に説明されている。Molecular Cloning;A Laboratory Manual,second edition(Sambrookら,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell(編)1993−8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);.Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell(編));Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos(編)1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら(編)1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction(Mullisら(編)1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら(編)1991);Short .Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988−1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean(編)Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra(編)Harwood Academic Publishers,1995);および Cancer:Principles and Practice of Oncology(V.T.DeVita.ら(編)J.B.Lippincott Company,1993)。
【0029】
(定義)
「抗体」(複数形と互換的に使用される)は、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する1個以上の抗原認識部位を介して、糖、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的に特異的に結合できる免疫グロブリン分子である。本明細書において、この用語は、元のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体だけでなく、その断片(Fab、F(ab’)、Fv)、単鎖(ScFv)、その変異体、抗体部位を含む融合蛋白質、ヒト化抗体、キメラ抗体、二重特異性直鎖抗体、単鎖抗体、多特異的抗体(例、二重特異的抗体)、および、必要な特異性の抗原認識部位を含む、その他の改変された形態の免疫グロブリン分子であってもよい。抗体には、IgG、IgAまたはIgMなどのクラスの抗体があるが、特定のクラスの抗体である必要はない。抗体の重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンはさまざまなクラスに分けられる。IgA、IgG、IgD、IgEおよびIgMという、5つの主なクラスの免疫グロブリンがあり、さらに、これらのいくつかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2などのサブクラス(アイソタイプ)に分けられる。異なったクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖の定常ドメインは、それぞれ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミューと呼ばれている。また、軽鎖には2つのクラスがあり、カッパおよびラムダと名付けられている。異なったクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造と三次元構造は周知である。
【0030】
「モノクローナル抗体」とは、モノクローナル抗体が、抗原への選択的結合に関与するアミノ酸(天然型および非天然型)から成る均一な抗体集団を意味する。モノクローナル抗体の集団は非常に特異的で、単一の抗原部位に対して向けられている。「モノクローナル抗体」という用語は、本来のモノクローナル抗体および全長のモノクローナル抗体だけでなく、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)、Fv)、単鎖(ScFv)、その変異体、抗体部位を含む融合蛋白質、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、および、必要な特異性の抗原認識部位と抗原に結合できる能力を含む、その他の改変された形態の免疫グロブリン分子を含む。抗体の由来原またはその作成法(例、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現、トランスジェニック動物など)に関して制限されるものではない。
【0031】
「ヒト化」抗体とは、ヒト以外の種の免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位と、ヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づいた、残りの分子の免疫グロブリン構造部分とを有する分子を意味する。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合した全長の可変ドメインか、可変ドメイン中の適当なフレームワーク領域上に接ぎ木された相補性決定領域(CDR)だけを含むことが可能である。抗原結合部位は、野生型であるかもしれないし、または、例えば、よりヒト免疫グロブリンに類似するよう、1個以上のアミノ酸置換によって改変してもよい。ヒト化抗体には、すべてのCDR配列(例えば、マウス抗体の6個のCDRをすべて含むヒト化マウス抗体)を保存している型もある。ヒト化抗体の他の型は、元の抗体を改変した1個以上のCDR(1個、2個、3個、4個、5個、6個)を有する。
【0032】
本明細書において、「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を有する抗体、および/または、当技術分野において知られているか、本明細書に開示されているヒト抗体を作成するための技術を用いて作成された抗体を意味する。ヒト抗体のこの定義は、少なくとも1個のヒト重鎖ポリペプチド、または少なくとも1個のヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体を包含する。そのような一例は、マウスの軽鎖ポリペプチドとヒトの重鎖ポリペプチドを含む抗体である。ヒト抗体は、当技術分野において知られている多様な方法を用いて作成することができる。一つの実施態様において、ヒト抗体は、ヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択される(Vaughanら,1996,Nature Biotechnology,14:309−314;Sheetsら,1998,PNAS,(USA)95:6157−6162;Hoogenboom and Winter,1991,J.Mol.Biol.,227:381;Marksら,1991,J Mol.Biol.,222:581)。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、例えば、内在する免疫グロブリン遺伝子の一部または全部を不活化したトランスジェニック動物に導入して作成することもできる。この方法は、米国特許第5,545,807号、5,545,806号、5,569,825号、5,625,126号、5,633,425号および5,661,016号に記載されている。あるいは、標的抗原に対する抗体を産生するヒトBリンパ球を不死化してヒト抗体を調製することも可能である(このようなBリンパ球は個体から回収することも可能であるし、または、インビトロで免疫されたものでもよい)。例えば、Coleら,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985);Boernerら,1991,J.Immunol.,147(1):86−95;および米国特許第5,750,373号参照。
【0033】
「キメラ抗体」とは、重鎖および軽鎖それぞれのアミノ酸配列の一部が、特定の種に由来するか特定のクラスに属する抗体の対応する配列に相同的であるが、鎖の残りの部分は、別の種やクラスの対応配列に相同的である抗体を意味する。典型的には、これらのキメラ抗体において、軽鎖および重鎖の両鎖の可変領域は、哺乳動物の一つの種に由来する抗体の可変領域を模倣するが、定常部位は、別の種由来の抗体中の配列に相同的である。このようなキメラ型が明らかに有利な点は、例えば、可変領域を、ヒト以外の宿主生物に由来する、容易に利用可能なハイブリドーマまたはB細胞を用いて、現在知られている由来原から適宜取ってきて、例えば、ヒト細胞調製物から得られた定常領域と組み合わせることができることである。可変領域は、調製が容易であって、特異性がその由来原に影響されないという長所があるが、ヒトの定常領域は、非ヒト由来原からの定常領域よりも、抗体を注射したときにヒト被験者から免疫反応を誘導しにくい。しかしながら、該定義はこの特異的な例により制限されるものではない。
【0034】
抗体またはポリペプチドに「特異的に結合する」または「選択的に結合する」(本明細書では互換的に使用される)エピトープは、当技術分野において十分に理解されている用語であり、そのように特異的または選択的な結合を測定する方法も当技術分野において周知である。分子が、他の細胞や物質よりも、特定の細胞または物質と、より頻繁に、より迅速に、より長い時間、および/またはより高い親和性をもって反応または結合すれば、「特異的結合」を示すという。抗体は、他の物質に結合するよりも高い親和性、結合活性をもって、より容易に、および/またはより長時間結合すれば、標的に「特異的に結合」または「選択的に結合」する。例えば、trkCエピトープに特異的または選択的に結合する抗体は、他のtrkCエピトープまたは非trkCエピトープに結合するよりも、このtrkCエピトープに、より高い親和性、結合活性をもって、より容易に、および/またはより長時間結合する抗体である。また、この定義を見れば、例えば、ある標的に特異的または選択的に結合する抗体(または部分もしくはエピトープ)は、別の標的に特異的または選択的に結合してもしなくてもよい。であるから、「特異的結合」または「選択的結合」は、必ずしも排他的な結合である必要はない(そうであってもよい)。必ずではないが一般的に、結合と言うときは選択的結合を意味する。
【0035】
「機能的なFc領域」は、ネイティブ配列のFc領域のエフェクター機能を一つ以上有している。「エフェクター機能」の例には、C1q結合、補体依存的細胞傷害性(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存的細胞傷害性(ADCC)、ファゴサイトーシス、細胞表面レセプター(例、B細胞レセプター;BCR)の下方制御などがある。このようなエフェクター機能には、通常、結合ドメイン(例、抗体可変領域)と組み合わされるべきFc領域が必要であり、また、エフェクター機能は、当技術分野において機知である、抗体エフェクター機能を評価するためのさまざまなアッセイ法を用いて評価することができる。
【0036】
「ネイティブ配列のFc領域」は、自然界で見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸を含む。「変異型Fc領域」は、1個以上のアミノ酸改変によってネイティブ配列のFc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含むが、ネイティブ配列のFc領域のエフェクター機能を一つ以上保持している。好適には、変異型Fc領域は、ネイティブ配列のFc領域または元のポリペプチドのFc領域と比較すると1個以上のアミノ酸置換、例えば、ネイティブ配列のFc領域または元のポリペプチドのFc領域の中に約1個から約10個のアミノ酸置換、好適には、約1個から約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書における変異型Fc領域は、好適には、ネイティブ配列のFc領域および/または元のポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の配列一致率を有し、もっとも好適には、それらと少なくとも約90%の配列一致率を有し、さらに好適には、それらと少なくとも約95%の配列一致率を有する。
【0037】
本明細書において、「抗体依存的細胞傷害性」および「ADCC」とは、Fcレセプター(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が、標的細胞上の結合抗体を認識して標的細胞の溶解をもたらす、細胞性反応を意味する。対象とする分子のADCC活性は、米国特許第5,500,362号および第5,821,337号に記載されたアッセイ法など、インビトロのADCCアッセイ法を用いて測定することができる。あるいは、またはさらには、対象とする分子のADCC活性は、例えば、Clynesら,1998,PNAS(USA),95:652−656で開示されているような動物モデルにおいて、インビボで測定することも可能である。このようなアッセイ法に有効なエフェクター細胞は末梢血単核細胞およびNK細胞を包含する。
【0038】
「アゴニスト抗−trkC抗体」(「抗−trkCアゴニスト抗体」と互換的に呼ばれる)とは、trkCレセプターおよび/またはtrkCのシグナル機能によって仲介される下流経路に結合して活性化することができる抗体を意味する。例えば、アゴニスト抗体は、trkCレセプターの細胞外ドメインに結合して、レセプターの重合を引き起こし、その結果、細胞内触媒性キナーゼドメインを活性化することができる。その結果、インビトロおよび/またはインビボにおいて、レセプターを発現する細胞の増殖および/または分化を促進することになる。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体は、trkCに結合して、trkCの生物活性を活性化する。いくつかの実施態様において、本発明において有用なアゴニスト抗体は、trkCのドメインVおよび/またはドメインIVを認識する。Urferら,J.Biol.Chem.273:5829−5840(1998)参照。
【0039】
抗体の「可変領域」とは、抗体の軽鎖の可変領域または抗体の重鎖の可変領域を意味し、単独でも組み合わせたものでもよい。重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ、超可変領域としても知られる相補性決定領域(CDR)3個が結合している4つのフレームワーク領域(FR)からなる。各鎖のCDRは、FRによって近接してつながっており、他の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。CDRを決定する技術は少なくとも2つある。(1)異種間の配列変異性に基づいた方法(すなわち、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,(5th ed.,1991,National Institutes of Health,Bethesda MD))、および(2)抗原−抗体複合体の結晶学的研究に基づいた方法(Al−lazikaniら(1997)J.Molec.Biol.273:927−948)。本明細書において、CDRは、どちらかの方法によって画定されたCDRを意味することも、または、2つの方法を併用して画定されたCDRを意味することも可能である。
【0040】
抗体の「定常領域」とは、抗体の軽鎖の定常領域または抗体の重鎖の定常領域を意味し、単独でも組み合わせたものでもよい。
【0041】
本明細書において、「Fcレセプター」および「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを表す。好適なFcRは、ネイティブ配列ヒトFcRである。さらに、好適なFcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマレセプター)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIのサブクラスのレセプターなどがあり、これらのレセプターの対立遺伝子変異体および選択的スプライシング型を含む。FcγRIIレセプターには、主に細胞質ドメインが異なるが類似したアミノ酸配列を有するFcγRIIA(「活性化レセプター」)およびFcγRIIB(「阻害レセプター」)などがある。FcRについては、Ravetch and Kinet,1991,Ann.Rev.Immunol.,9:457−92;Capelら,1994,Immunomethods,4:25−34;およびde Haasら,1995,J.Lab.Clin.Med.,126:330−41に概説されている。また、「FcR」は、母体IgGの胎児への輸送に関与する、新生児のレセプターであるFcRnも含む(Guyerら,1976,J.Immunol.,117:587、およびKimら,1994,J.Immunol.,24:249)。
【0042】
「補体依存的細胞傷害性」および「CDC」は、補体存在下で標的を溶解することを意味する。補体活性化経路は、補体系の第一の成分(Clq)が、同族の(cognate)抗原と複合体した分子(例えば抗体)に結合して開始される。補体の活性化を測定するには、例えばGazzano−Santoroら,J Immunol.Methods,202:163(1996)に記載されているようにして、CDCアッセイ法を行うことができる。
【0043】
本明細書において、「親和成熟した」抗体とは、そのCDRの1個以上に1個以上の変異であって、その変異を有しない元の抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性が向上する結果となった変異を有する抗体を意味する。いくつかの実施態様において、親和成熟した抗体は、標的抗原に対してナノモルまたはピコモルの親和性を有する。親和成熟した抗体は、当技術分野において既知の方法によって作成される(Marksら,1992,Bio/Technology,10:779−783;Barbasら,1994,Proc Nat.Acad.Sci,USA 91:3809−3813;Schierら,1995,Gene,169:147−155;Yeltonら,1995,J.Immunol.,155:1994−2004;Jacksonら,1995,J.Immunol.,154(7):3310−9;Hawkins et a1,1992,J.Mol.Biol.,226:889−896)。
【0044】
本明細書において、「trkC」とは、チロシンキナーゼ・スーパーファミリーの一員であるtrkCレセプターポリペプチドを意味する。trkCは、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、霊長類、および齧歯類(マウスやラットなど)などであるが、これらに限定されない、あらゆる哺乳動物種のネイティブtrkCレセプターを包含する。完全長のネイティブtrkCの細胞外ドメインは、相同性によって、または、さまざまな他の蛋白質で同定された類似構造によって定義されてきた。これらのドメインは、成熟trkCレセプターのN末端から、1)アミノ酸番号1から48までの第1のシステインリッチ・ドメイン、2)アミノ酸番号49から120までのロイシンリッチ・ドメイン、3)アミノ酸番号121から177までの第2のシステインリッチ・ドメイン、4)アミノ酸番号約196から257までの第1の免疫グロブリン様ドメイン、および5)アミノ酸番号約288から351までの第2の免疫グロブリン様ドメインと名付けられている。例えばPCT公開番号WO 198361を参照。ヒトtrkCレセプターのドメイン構造も、結晶構造によって以下の通り名付けられている。アミノ酸1からアミノ酸47までのドメイン1、アミノ酸48からアミノ酸130までのドメイン2、アミノ酸131からアミノ酸177までのドメイン3、アミノ酸178からアミノ酸165までのドメイン4、およびアミノ酸166からアミノ酸381までのドメイン5。例えばPCT公開番号WO 198361、Urferら,J.Biol.Chem.273:5829−5840(1998)を参照。また、trkCの変異体も含まれ、その例は、キナーゼドメインのない変異体(Shelton,ら,J.Neurosci.15(1):477−491(1995))、および改変されたキナーゼドメインをもつ変異体(Shelton,ら,J.Neurosci.15(1):477−491(1995))などであるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本発明のアゴニスト抗−trkC抗体ともに用いられるとき、「生物活性」は、一般的に、trkCレセプターチロシンキナーゼおよび/またはtrkCのシグナル機能によって仲介される下流経路に結合して活性化することができることを意味する。本明細書において、「生物活性」は、trkCの本来のリガンドであるNT−3の作用によって、trkC発現細胞上で引き起こされるエフェクター機能と共通する一つ以上のエフェクター機能を包含する。また、trkCの「生物活性」は、NT−3の作用によって誘導されるものとは別の下流シグナル経路またはエフェクター機能を含むこともある。生物活性には、以下のものが無限定に含まれる。trkCに結合して、それを活性化できること;trkCレセプターの重合を促進できること;末梢(交感神経、感覚、および腸壁)ニューロン、および中枢(脳および脊髄)ニューロン、および、例えば、末梢血液白血球などの非ニューロン細胞など、特定のニューロンにおいて、インビトロまたはインビボで細胞(損傷した細胞を含む)の発生、生存、機能、維持、および/または再生を促進できることなど。特に好適な生物活性は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの一つ以上の症状を処置(予防を含む)できること、および/または、タキソールによって損傷を受けた感覚神経細胞の機能を修復および/または改善できることである。損傷を受けたニューロンの例としては、例えば、後根神経節ニューロンなどの感覚(大径線維感覚ニューロンなど)、交感神経、または腸壁のニューロン、脳神経節ニューロン、および、例えば、脊髄のニューロンなどの中枢ニューロンなどがある。
【0046】
「タキソール誘発性感覚性ニューロパシー」は、化学療法剤であるタキソールまたは他のタキソンによる処置によって起こる神経疾患である。本明細書において、「タキソール誘発性感覚性ニューロパシー」とは、この神経疾患に伴う一つ以上の症状を意味するとともに、それらを含む。タキソール誘発性感覚性ニューロパシーは、さまざまなタイプの感覚ニューロン、交感神経ニューロンを含む自律神経ニューロン、ならびに、味覚、嗅覚、聴覚、および前庭感覚などの特殊感覚のニューロンに影響を与える。本明細書において、「タキソール誘発性感覚性ニューロパシー」とは、薬剤であるタキソールまたは同類のタキサン類を投与されている間またはその後に個体に付随または出現する、感覚ニューロンに影響を与える神経疾患を意味する。いくつかの実施態様において、「タキソール誘発性感覚性ニューロパシー」は、末梢感覚ニューロン(大径線維末梢感覚ニューロンなど)の変性という特徴をもつ。いくつかの実施態様において、「タキソール誘発性感覚性ニューロパシー」は、以下のいずれかによって特徴づけられる。遠位性対称性多発性ニューロパシー、ポールハイプエスセジア(pall−hypesthesia)、位置感覚消失、痛みを伴う異常感覚、レールミット徴候、進行性遠位性および/または近位性の不全麻痺、筋肉痛、麻痺性イレウス、起立性低血圧症、および不整脈、ならびに末梢感覚ニューロン(大径線維末梢感覚ニューロンなど)の変性。これらは、標準的な神経学的検査、問診、またはより特殊な定量試験によって判定することができる。これらより特殊な定量試験には、例えば、マイクロニューログラフィーまたは他の電気生理学的検査法を用いて影響を受けたニューロンの伝導速度を測定すること;例えば、熱、軽触、振動、または二点識別などの皮膚刺激を感知できる能力を定量的および/または定量的に測定すること;聴覚検査;平衡感覚の特殊検査;自己受容または運動感覚の特殊検査;自律機能の検査;血圧調節の検査;ならびに、さまざまな生理学的および薬理学的刺激に対する心拍反応の検査などがある。これらの検査には、運動神経の検査も含まれる。
【0047】
本明細書において、「タキソール」とは、パクリタキセル(登録商標TAXOL、Bristol−Myers Squibb Oncology,Princeton,NJ)、ドセタキセル(登録商標TAXOTERE、Rhone−Poulenc Rorer,Antony,France)、およびその他のタキサン類を意味する。タキソール(他のタキサン類も含む)は、単独でも、他の薬剤と併用してでも投与することができる。タキソールは、カポジ肉腫、乳癌、卵巣癌および肺癌など、さまざまな悪性腫瘍を処置するために認可されており、広く使用されている。また、タキソールは、その他、前立腺および頭頸部の悪性腫瘍ならびに悪性血液疾患を処置するためにも使用される。タキソールは、骨髄移植の際にも投与される。
【0048】
本明細書において、「処置」とは、有益または望ましい臨床結果を得るための方法である。本発明の目的上、有益または望ましい臨床結果は以下のものを一つ以上含むが、これらに限定されるものではない。タキソール誘発性感覚性ニューロパシー(例、遠位性対称性多発性ニューロパシー、ポールハイプエスセジア、位置感覚消失、振動感覚消失、二点識別の消失、微触覚(fine touch)の消失、不快な異常感覚、レールミット徴候、痛み(異痛および/または痛覚過敏など)、末梢神経(感覚ニューロンなど)の変性などの軽減;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの範囲の縮小;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの安定した(非悪化)状態;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発生または再発の防止;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症の遅延;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの進行の遅延または緩徐;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの改善;およびタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの(一部または全部の)鎮静化;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーからの回復速度の上昇;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーおよび/またはタキソール誘発性感覚性ニューロパシーに付随する症状の発生率の低下。
【0049】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシー、またはタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状の一つ以上を「緩和させる」とは、本発明にしたがってアゴニスト抗−trkC抗体による処置を受けた個人または集団におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの望ましくない臨床症状の程度と経時変化を軽減させることを意味する。
【0050】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの「症状の重症度の低下」または「症状の改善」とは、アゴニスト抗−trkC抗体を投与しない場合と比較して、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの一つ以上の症状が軽減および/または改善することを意味する。また、「重症度の低下」は、症状の継続時間の短縮または低下も含む。遠位性対称性多発性ニューロパシー、ポールハイプエスセジア、位置感覚消失、振動感覚消失、二点識別の消失、微触覚の消失、聴覚の消失またはその他の機能障害、不快な異常感覚、レールミット徴候、および/または痛み(異痛および/または痛覚過敏など)など、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状が上述されている。
【0051】
本明細書において、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症の「遅延」とは、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症を延期、妨害、遅延、遅滞、安定化、および/または先送りすることを意味する。この遅延は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーおよび/または処置を受けている個体の経歴に応じて、時間の長さが変わることがある。当業者に明らかなように、個体がタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを発症しないという点において、十分または有意な遅延は、実際には、予防を含む。タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症を遅延させる方法とは、該方法を使用しない場合と比較して、所定の時間枠の中でタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを発症する確率を低下、および/または所定の時間枠の中で感覚性ニューロパシーの程度を軽減させる方法である。このような比較は、一般的には、統計学的に有意な数の対象者を用いた臨床実験に基づいている。
【0052】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの「発症」とは、個体の体内においてタキソール誘発性感覚性ニューロパシーが開始および/または進行することを意味する。タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症は、本明細書に記載されているような標準的臨床技術を用いて検出できる。しかしながら、「発症」は、初期には検出不能の場合がある病気の進行にも属するものとする。本発明の目的上、進行とは、この場合、標準的な神経学的検査、問診、またはより特殊な定量試験によって判定される病気状態の生物学的経過を意味する。これらより特殊な定量試験は、例えば、マイクロニューログラフィー、熱、軽触、振動、または二点識別などの皮膚刺激を感知できる能力を定量的に測定すること、聴覚検査、平衡感覚の特殊検査、反射神経の検査、自己受容または運動感覚の特殊検査、自律機能の検査、血圧調節の検査、ならびに、さまざまな生理学的および薬理学的刺激に対する心拍反応の検査などの方法によって、影響を受けたニューロンの伝導速度を測定することを含みうるが、これらに限定されるものではない。これらの検査には、運動神経の検査も含まれうる。「発症」には、発生、再発および開始が含まれる。本明細書において、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの「開始」または「発生」には、最初の開始および/または再発が含まれる。
【0053】
本明細書において、「リスクにさらされている」個体とは、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを発症するリスクにさらされている個体のことである。「リスクにさらされている」個体は、検知可能な病気を持っているかもしれないし、いないかもしれない。また、本明細書記載の処置法の前に発現した検知可能な病気を持っているかもしれないし、いないかもしれない。「リスクにさらされている」とは、個体が、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症と相関する測定可能なパラメータである、いわゆるリスクファクターを一つ以上持っていることを意味する。これらのリスクファクターを一つ以上持つ個体は、これらのリスクファクターを持たない個体よりもタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを発症する確率が高い。
【0054】
「有効量」(タキソール誘発性感覚性ニューロパシーに関して)とは、臨床結果または病気の開始を遅延させるなど、有益または望ましい臨床結果をもたらすのに十分な量のことである。有効量は、一回以上の投与量にしてを投与することができる。本発明の目的上、本明細書に記載されているアゴニスト抗−trkC抗体の有効量とは、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの進行を緩和、安定化、逆転、鈍化、および/または遅延させるか、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを予防するのに十分な量を意味する。また、アゴニスト抗−trkC抗体の有効量は、本明細書に記載されているように、癌のタキソール処置(治療効果)を促進するのに十分な量のアゴニスト抗−trkC抗体も包含する(このことは、言い換えると、タキソールの投薬量が増加、および/または、タキソール処置の副作用の軽減など、何か別の有益な効果が観察されることを意味する)。当技術分野において理解されているよに、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体は、とりわけ患者の履歴、および、使用されるアゴニスト抗−trkC抗体のタイプ(および/または投薬量)など他のファクターによって変化しうる。
【0055】
本明細書において、「併用して」投与するとは、同時投与および/または異なった時間に投与することを含む。併用した投与には、混合製剤(例、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールが同じ組成物に含まれている)として投与されること、または、別々の組成物として投与されることも包含する。本明細書において、併用した投与は、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールとが一個体に投与される環境であって、それが同時および/または別個に起こりうる環境を含むものである。本明細書においてさらに検討されるように、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールは、異なった投薬回数または投薬間隔で投与できることは当然である。例えば、アゴニスト抗−trkC抗体を毎週投与するが、タキソールはそれよりも低い頻度にすることも可能である。当然ながら、アゴニスト抗−trkC抗体およびタキソールを同一の投与経路を用いて投与することも可能であるし、異なった投与経路を用いることも可能である。
【0056】
タキソール処置は、タキソール処置の態様が(アゴニスト抗−trkC抗体を投与しないでタキソールを投与する場合に較べて)改善されれば、「促進」される。例えば、アゴニスト抗−trkC抗体非存在下における望ましくない副作用(感覚性ニューロパシーなど)の存在および/または度合いに較べて、アゴニスト抗−trkC抗体存在下では、そのような副作用を減少および/または消失させることができる。この促進作用は、アゴニスト抗−trkC抗体を投与することによって示されるが、このような比較(アゴニスト抗−trkC抗体投与対非投与)が、任意の個体について行われ、証明されなければならないと言っているわけではない。
【0057】
「個体」は脊椎動物、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。哺乳動物には、家畜動物、スポーツ用動物(sport animals)、ペット、霊長類、ウマ、ウシ、イヌ、および齧歯類(マウスやラットなど)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本明細書において、単数形の「一つの」(「a」、「an」)および「その」(「the」)は、特段に記載がないかぎり、複数形をも意味する。例えば、一つの(「a」)抗体は、一つ以上の抗体を意味し、「一つの症状」は一つ以上の症状を意味する。
【0059】
本明細書において、「ベクター」とは、宿主細胞において、対象とする一つ以上の遺伝子または配列を送致、および好ましくは発現できる構築物を意味する。ベクターの例には、ウイルスベクター、裸のDNAまたはRNAの発現ベクター、プラスミドベクター、コスミドベクターまたはファージベクター、カチオン性縮合剤に結合したDNAまたはRNAの発現ベクター、リポソームに封入されたDNAまたはRNAの発現ベクター、および生成細胞(producer cells)のような一定の真核細胞があるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本明細書において、「発現制御配列」とは、核酸の転写を指令する核酸配列を意味する。発現制御配列とは、構成型または誘導型のプロモーターなどのプロモーター、またはエンハンサーでありうる。発現制御配列は、転写されるべき核酸配列に機能するように結合している。
【0061】
本明細書において、「核酸」または「ポリヌクレオチド」とは、一本鎖型または二本鎖型いずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを意味し、特段の制限がない限り、天然型のヌクレオチドと同じような態様で核酸にハイブリダイズする天然型ヌクレオチドの既知の類似体を包含する。
【0062】
本明細書において、「薬学的に受容されるキャリア」とは、活性成分と併用されると、その成分が生物活性を維持するのを可能にするが、対象者の免疫系とは反応しない材料を意味する。例としては、リン酸緩衝食塩水、水、油/水エマルジョンなどの乳液、およびさまざまなタイプの湿潤剤のような標準的医薬用キャリアがあるが、これらに限定されるものではない。エアロゾルまたは非経口投与に好適な希釈剤はリン酸緩衝食塩水または普通の食塩水(0.9%)である。
【0063】
このようなキャリアを含む組成物は、よく知られている常法(例えば、Remington’s Pharamaceutical Science,18th edition,A.Gennaro,ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1990;およびRemington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing,2000参照)によって製剤される。
【0064】
本明細書において、「アジュバント」は、当技術分野において免疫応答を促進させるために広く使用されているアジュバントを含む。アジュバントの例は、ヘルパーペプチド;水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;フロイントの不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories,Detroit,MI);メルクアジュバント65(Merck and Company,Inc.,Rhaway,NJ);AS−2(Smith−Kline Beecham);QS−21(Aquilla Biopharmaceuticals);MPLまたは3d−MPL(Corixia Corporation,Hamilton,MT);LEIF;カルシウム、鉄または亜鉛の塩類;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖;カチオン誘導体化またはアニオン誘導体化された多糖類;ポリホスファゼン;生物分解性ミクロスフィア、モノホスホリル・リピドAおよびクイルA(quil A);ムラミールトリペプチドホスファチジルエタノールアミン、またはサイトカイン(例、GM−CSFまたはインターロイキン−2、−7または−12)などの免疫刺激性複合体、および免疫刺激性DNA配列などであるが、これらに限定されるものではない。ポリヌクレオチド性ワクチンの使用を伴うなど、いくつかの実施態様において、ヘルパーペプチドまたはサイトカインなどのアジュバントは、該アジュバントをコードするポリヌクレオチドを経由して提供することができる。
【0065】
(本発明の方法)
本明細書に記載した全ての方法について、アゴニスト抗−trkC抗体とは、これらの抗体を一つ以上含む組成物をも含む。さらに、これらの組成物は、当技術分野においてよく知られている緩衝液などの薬学的に受容される賦形剤のような適当な賦形剤を含みうる。
【0066】
(アゴニスト抗−trkC抗体を用いたタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの処置法)
本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体を用いてタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状の発生を処置、予防、遅延する方法、および/またはタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを緩和する方法を包含する。これらの方法は、これらの抗体を、それらを必要とする個体に有効量投与することを伴う(さまざまな目安と態様が本明細書に記載されている)。有効量のアゴニスト抗−trkC抗体は、他の治療薬をともない、または伴うことなく投与することができる。いくつかの態様において、個体はヒトである。しかしながら、説明されている方法は、獣医学に関連して適用することもできる(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどの非ヒト哺乳動物)。
【0067】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの測定法および処置法は、当技術分野において知られており、本明細書にも記載されている。
【0068】
一つの態様において、本発明は、個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法であって、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を投与することを含む方法を提供する。さらに別の態様において、本発明は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを有する個体における末梢ニューロンの維持および/または再生を促進する方法を提供する。別の態様において、本明細書に記載されているように、アゴニスト抗−trkC抗体とともにタキソールを投与することによって、タキソールによる癌処置を促進する。さらに別の態様において、本明細書に記載されているように、アゴニスト抗−trkC抗体とともにタキソールを投与することによって骨髄移植を促進する。いくつかの態様において、個体は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーのリスクにさらされている個体である。
【0069】
明らかなように、アゴニスト抗−trkC抗体は、タキソールによる処置の前、間、または後に投与することができ、あるいは、タキソール治療コースを開始する前に、タキソール治療コースの過程で、および/またはタキソール治療コースを停止した後に送達することもできる。投与は、ニューロパシーを発症する前に行うこともできる。いくつかの実施態様において、個体は、タキソールによる処置を受けている最中である。別の実施態様において、個体は、タキソールおよびその他の薬剤(シスプラチンなど)による処置を受けている最中である。さらに別の実施態様において、個体は以前タキソール処置を受けていた。
【0070】
タキソールは、カポジ肉腫、乳癌、卵巣癌および肺癌など、さまざまな悪性腫瘍を処置するために認可されており、広く使用されている。また、タキソールは、その他、前立腺および頭頸部の悪性腫瘍などの悪性腫瘍、ならびにさまざまな悪性血液疾患を処置するためにも使用されている。また、タキソールは、骨髄移植の際にも投与される。したがって、本発明の一つの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体によって処置される個体は、乳癌、肺癌、卵巣癌、カポジ肉腫、前立腺癌、頭頸部癌、および悪性血液疾患のいずれか一つ以上をもつ。別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体による処置を受ける個体は、骨髄移植を必要とするか、それを受けている。別の実施態様において、個体は、タキソールによって処置可能な適用疾患(癌など)を有するか、タキソールによる処置を受けたことがある。
【0071】
(アゴニスト抗−trkC抗体)
本発明の方法は、trkCを活性化するようtrkCと相互作用する抗−trkC抗体を使用することを伴う。抗−trkCアゴニスト抗体は、以下の特徴の一つ以上を示すはずである。(a)trkCレセプターに結合する;(b)trkCレセプターの一つ以上のエピトープに結合する;(c)trkCに結合し、trkCの生物活性を活性化するか、またはtrkCのシグナル機能によって仲介される一つ以上の下流経路を活性化する;(d)trkCに結合し、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの一つ以上の症状を処置、予防、逆転または改善する;(e)trkCレセプターの二量体化を促進する;(f)trkCに結合し、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーに伴う痛み(異痛および/または痛覚過敏など)を処置、予防、逆転または改善する;(g)trkCレセプターの活性化を高める;(h)好適な薬理動態学的特性および生物利用能特性を示す;(i)細胞の発生、生存、機能、維持および/または再生を促進する;(j)癌のタキソール処置を促進する;(k)骨髄移植片のタキソール処置を促進する。
【0072】
アゴニスト抗−trkC抗体は当技術分野において知られている。PCT公開番号WO01/98361;Ulferら,J.Biol.Chem(1998)273:5829−5840参照。いくつかの実施態様において、抗trkCアゴニスト抗体は、抗体「A5」と名付けられたヒト化マウス抗−trkCアゴニスト抗体であって、以下の変異を含むヒトの重鎖IgG2aの定常領域を含む抗体である。A330P331からS330S331(野生型IgG2a配列に対するアミノ酸番号で);Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624);ヒト軽鎖カッパ定常領域;および表1および2に示された重鎖よび軽鎖の可変領域。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

A5の重鎖可変領域または軽鎖可変領域をコードする以下のポリヌクレオチドを、American Type Culture Collection,10801 University Boulevard,Manassas,Virgnia,USA(ATCC)に寄託した。
【0075】
【化1】

Eb.pur.2256.A5ベクターは、A5の軽鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドであり、Db.2256.A5ベクターは、A5の重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドである。
【0076】
別の実施態様において、抗−trkCアゴニスト抗体は、抗体A5の一個以上のCDRを含む(A5由来の1個、2個、3個、4個、5個のCDR、または、いくつかの実施態様において、全てのCDRなど)。CDR領域の決定は、当業者が容易になしうることである。CDRを決定するいくつかの技術がある。(1)異種間の配列変異性に基づいた方法(すなわち、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,(5th ed.,1991,National Institutes of Health,Bethesda MD))、(2)抗原−抗体複合体の結晶学的研究に基づいた方法(Al−lazikaniら(1997)J.Molec.Biol.273:927−948)など。CDRの同定は、当業者が適宜なしうることである。いくつかの実施態様において、CDRはKabatのCDRを含む。別の実施態様において、CDRはChothiaのCDRを含む。さらに別の実施態様において、CDRはKabatおよびChothiaのCDRをともに含む。
【0077】
抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片(Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、Fcなど)、キメラ抗体、一本鎖(ScFv)、その変異体、抗体部位を含む融合蛋白質、および、必要な特異性の抗原認識部位を含む、その他の改変された形態の免疫グロブリン分子を包含する。抗体は、マウス、ラット、ヒト、またはその他に由来することができる(ヒト化抗体を含む)。したがって、アゴニスト抗−trkC抗体は、ヒト抗体(抗体6.4.1(PCT公開番号WO01/98361)など)でもよく、または、ヒト化抗体(ヒト化モノクローナル抗体A5など)でもよい。
【0078】
アゴニスト抗−trkC抗体はヒトtrkCに結合することができる。アゴニスト抗−trkC抗体は、ヒトおよび齧歯類のtrkCに結合することもできる。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒトおよびラットのtrkCに結合することができる。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒトおよびマウスのtrkCに結合することができる。一つの実施態様において、抗体は、ヒトtrkC細胞外ドメイン上の一つ以上のエピトープを認識する抗体である。別の実施態様において、抗体は、ヒトtrkC細胞外ドメイン上の一つ以上のエピトープを認識するマウスまたはラットの抗体である。いくつかの実施態様において、抗体はヒトtrkCに結合し、他の哺乳動物種(いくつかの実施態様においては脊椎動物種)由来のtrkCには顕著に結合しない。いくつかの実施態様において、抗体は、ヒトtrkCに結合し、他の哺乳動物種(いくつかの実施態様においては脊椎動物種)由来のtrkCの一種類以上にも結合する。別の実施態様において、抗体は、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシの一つ以上から選択されるtrkC上の一つ以上のエピトープを認識する。いくつかの実施態様において、抗体はtrkCに結合し、他の神経栄養因子(trkAおよび/またはtrkBなど近縁の神経栄養因子レセプターなど)とは顕著に交差反応(結合)しない。いくつかの実施態様において、抗体はtrkCに結合し、さらにtrkAおよび/またはtrkBに結合する。
【0079】
trkCアゴニスト抗体によって認識されるエピトープは、連続しているものでも、非連続のものでもよい。いくつかの実施態様において、抗体は、基本的に、以下の一つ以上から選択される抗体と同じtrkCエピトープに結合することができる。6.1.2、6.4.1、2345、2349、2.5.1、2344、2248、2250、2253、および2256。PCT公開番号WO01/98361参照。抗体が結合することのできるエピトープの例には、trkCのドメインVおよび/またはドメインIVなどがあるが、これらに限定されるものではない。別の実施態様において、エピトープは、以下の残基を一つ以上含む。ヒトtrkCのL284、E287、およびN335。Urferら,J.Biol.Chem.(1998)273:5829−5840参照。さらに別の実施態様において、抗体は、免疫学的に不活生な定常領域、例えば、補体仲介性溶解を誘発しない、または抗体依存性細胞仲介性細胞傷害(ADCC)を促進できない定常領域など、改変された定常領域を含む。別の実施態様において、定常領域は、Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624;PCT出願番号PCT/GB99/01441;および/または英国特許出願番号9809951.8に記載されているように改変されている。いくつかの実施態様において、定常領域は、以下の変異を含むヒトの重鎖IgG2aの定常領域を含む抗体である。A330P331からS330S331(野生型IgG2a配列に対するアミノ酸番号で);Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624)。
【0080】
抗−trkCアゴニスト抗体のtrkCに対する結合アフィニティーは、約500nM、400nM、300nM、200nM、100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、または約50pMのいずれかから、約2pM、約5pM、約10pM、約15pM、約20pM、または約40pMのいずれかまででよい。いくつかの実施態様において、結合アフィニティーは、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、または約50pM、または約50pMよりも低い。いくつかの実施態様において、結合アフィニティーは、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、または約50pMのいずれかよりも低い。さらに別の実施態様において、結合アフィニティーは、約2pM、約5pM、約10pM、約15pM、約20pM、または約40pM、または約40pMよりも高い。当技術分野においてよく知られているとおり、結合アフィニティーは、K、すなわち解離定数で表すことができ、結合アフィニティーの上昇は、Kの減少に対応する。マウス抗−trkCアゴニストモノクローナル抗体2256のヒトtrkCに対する結合アフィニティーは、BIAcore解析法を用いて測定すると約40nMであり、ヒト化抗−trkCアゴニスト抗体A5(本明細書記載)のヒトtrkCに対する結合アフィニティーは、BIAcore解析法を用いて測定すると約0.28nMである。
【0081】
抗体のtrkCに対する結合アフィニティーを測定法の一つは、抗体の単機能性Fab断片の結合アフィニティーを測定して行われるものである。単機能性Fab断片を得るため、抗体(例えばIgG)をパパインで切断するか、組換え発現させることができる。抗体の抗−trkC Fab断片のアフィニティーは、表面プラスモン共鳴(BIAcore3000(商標)表面プラスモン共鳴(SPR)装置、BIAcore、INC、Piscaway NJ)によって測定できる。CM5チップは、供給業者の指示にしたがって、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)によって活性化させることができる。ヒトtrkC−Fc融合蛋白質(「htrkC」)(または、ラットtrkCなどその他のtrkC)は、pH5.0の10mMの酢酸ナトリウムで希釈することができ、0.0005mg/mLの濃度で活性化されたチップに注入することができる。各チップの流路を通過させる流入時間を変えて用いると、詳しい動力学的研究用の200〜400応答ユニット(Response Unit:RU)およびスクリーニングアッセイ法用の500〜1000RUという2種類の抗原濃度範囲を実現することができる。このチップは、エタノールアミンによってブロックすることができる。再生実験によって、Pierce社の溶出用バッファー(製品番号21004、Pierce Biotechnoloby,Rockford,IL)と4M NaCl(2:1)との混合液が、200回以上にわたる注射の間チップ上のhtrkCの活性を保ちつつ、結合したFabを有効に除去することが示された。BIAcoreアッセイ法には、HBS−EPバッファー(0.01M HEPES,pH7.4,0.15 NaCl,3mM EDTA,0.005%界面活性剤P29)を泳動用バッファーとして使用する。精製したFabサンプルの段階希釈液(0.1〜10×推定K)を100μL/分にて1分間注射すると、2時間までの解離時間が可能になる。既知の濃度のFab(アミノ酸解析によって決定されたもの)を標準として使用し、ELISAおよび/またはSDS−PAGE電気泳動によってFab蛋白質の濃度を決定する。結合反応速度(Kon)および解離反応速度(Koff)は、BIAevaluationプログラムを用いた1:1ラングミュア結合モデルに適合させることによって同時に得られる(Karlsson,R.Roos,H.Fagerstam,L.Petersson,B.(1994)Methods Enzymology 6:99−110)。平衡解離定数(K)値はKoff/Konとして計算される。
【0082】
別の態様において、ヒトtrkCレセプターを活性化できる抗体(例、ヒト、ヒト化、マウス、キメラ)は、trkCの細胞外ドメインを一つ以上発現する免疫原を用いることによって作成することができる。免疫原の一例は、trkCを高発現する細胞で、本明細書に記載されているように取得可能である。使用することのできる免疫原の別例は、trkCレセプターの細胞外ドメインまたは細胞外ドメインの一部を含む可溶性蛋白質(trkCのイムノアドヘシン(immunoadhesin))である。
【0083】
本明細書においてさらに説明されているように、宿主動物を免疫する経路およびスケジュールは、抗体を刺激および産生するために確立された従来からの技術に沿ったものである。ヒトおよびマウス抗体を産生するための一般的な技術は、当業者に知られており、また、本発明において述べられる。
【0084】
ヒトを含む哺乳動物被験体、またはそれに由来する抗体産生細胞は、ヒトなどの哺乳動物ハイブリドーマ細胞株を作成するための材料として用いるために操作することができる。典型的には、本明細書に記載されているものなど、一定量の免疫原を腹腔内から宿主動物に接種する。
【0085】
ハイブリドーマは、Kohler,B.およびMilstein,C.(1975)Nature 256:495−497の一般的な体細胞雑種技術、またはBuck,D.W.ら(1982)In Vitro,18:377−381による修正法を用いて、リンパ球および不死化ミエローマ細胞から調製することができる。X63−Ag8.653およびSalk Institute,Cell Distribution Center,San Diego,Calif.,USAから入手できるものなど、利用可能なミエローマ細胞株をハイブリダイゼーションに用いることができる。通常、この技術は、ポリエチレングリコールなどの細胞融合剤を用いて、または、当業者に周知の電気的手段によって、ミエローマ細胞とリンパ球様細胞を融合することを含む。融合後、融合用培地から細胞を分離して、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地などの選択増殖培地の中で増殖させて、ハイブリダイズしなかった親細胞を除去する。本明細書に記載された培地は、血清を添加するか、無添加のままで、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを培養するために用いることができる。この細胞融合技術の代替法の一つとして、EBV不死化B細胞を用いて、本発明の抗−trkCモノクローナル抗体を作成することができる。ハイブリドーマは、所望であれば、規模を大きくしてサブクローン化し、上清について、通常の免疫測定処理法(例、放射免疫測定法、酵素免疫測定法、または蛍光免疫測定法)によって抗−免疫原活性を測定する。
【0086】
抗体の由来原として使用できるハイブリドーマは、trkC、またはその一部に対して特異的なモノクローナル抗体を産生する親ハイブリドーマの子孫細胞である派生細胞のすべてを包含する。
【0087】
このような抗体を産生するハイブリドーマは、既知の方法を用いてインビトロまたはインビボで増殖させることができる。所望であれば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、および限外濾過など、通常の免疫グロブリン精製処理法によって、培養培地または体液から単離することができる。もし不要な活性があれば、調製物を、例えば、固相に付着させた免疫原から作られた吸着剤の上を通過させてから、所望の抗体を免疫原から溶出または放出させて除去することができる。ヒトまたは他の種のtrkCレセプター、またはヒトまたは他の種のtrkCレセプターの断片、または、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリンなど、免疫される種において免疫原性のある蛋白質に、例えば、マレイミドベンゾイル・スルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介して結合)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介して)、グルタルアルデヒド(glytaradehyde)、無水コハク酸、SOCl2、またはR1N=C=NR(ここで、RおよびR1は異なったアルキル基などの二官能性剤または誘導体化剤を用いて結合された標的アミノ酸配列を含む、ヒトまたは他の種のtrkCレセプターまたは断片によって宿主動物を免疫すると、抗体集団(例、モノクローナル抗体)が得られる。免疫原の別例は、trkCを高発現する細胞であって、組換え法によって、または、高レベルのtrkCを発現する天然の由来原から細胞を単離または濃縮することによって得ることができる細胞である。これらの細胞は、ヒトまたは他の動物に由来するものでよく、また、直接単離された免疫原として使用することもでき、または、免疫原性が高まるように、あるいは、(trkCの断片の)trkC発現が上昇または増加するように処理することができる。このような処理は、例えばホルムアミド、グルタルアルデヒド、エタノール、アセトンおよび/またはさまざまな酸など、安定性または免疫原性を高めるよう設計された薬剤によって、細胞またはその断片を処理することなどであるが、これに限定されるものではない。さらに、このような処理の前後いずれかに、所望の免疫原、この場合、trkCまたはその断片を増加させるために細胞を処理することができる。これらの処理工程は膜分画技術を含むが、それらは、当技術分野においてよく知られている。
【0088】
所望であれば、目的とする抗−trkC抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)の配列を決定してから、発現または増殖させるためにポリヌクレオチド配列をベクターにクローニングすることができる。目的とする抗体をコードする配列を、宿主細胞のベクターの中で維持することができ、次に、将来使用するために、その宿主細胞を増量し、凍結することができる。別の方法として、ポリヌクレオチド配列は、抗体を「ヒト化」するため、または、抗体のアフィニティーまたはその他の特徴を改善するための遺伝子操作に使用することができる。例えば、抗体をヒトの臨床試験および処置に使用する場合には、免疫反応を回避するために、ヒトの定常領域により似せて定常領域を改造することができる。抗体の配列を遺伝子操作して、trkCレセプターに対するより高いアフィニティーおよびより高いtrkCレセプター活性化効率を得るのが望ましいかもしれない。抗−trkC抗体について1箇所以上のポリヌクレオチド変異を作り出すが、trkCの細胞外ドメインまたはtrkCのエピトープへの結合能力は維持されたままにできることは、当業者にとって明らかである。
【0089】
モノクローナル抗体をヒト化するには4つの一般的な工程がある。それらは、(1)最初の抗体の軽鎖および重鎖の可変領域の塩基配列および推定アミノ酸配列を決定すること、(2)ヒト化抗体の設計、すなわち、ヒト化処理過程において、どの抗体フレームワーク領域を利用するかを決定すること、(3)実際のヒト化方法論/技術、および(4)ヒト化抗体のトランスフェクションおよび発現である。例えば、米国特許第4,816,567号;第5,807,715号;第5,866,692号;第6,331,415号;第5,530,101号;第5,693,761号;第5,693,762号;第5,585,089号;第6,180,370号;および第6,548,640号参照。例えば、抗体をヒトの臨床試験および処置に使用する場合には、免疫反応を回避するために、ヒトの定常領域により似せて定常領域を改造することができる。例えば、米国特許第5,997,867号および第5,866,692号参照。
【0090】
組換えヒト化抗体では、Fcγ部位を改変して、Fcγレセプターおよび補体免疫系との相互作用を回避することができる。このタイプの改変は、Cambridge大学の病理学部のMike Clark博士によって設計され、そのような抗体を調製する技術については、1999年11月18日に公開されたPCT公開番号WO99/58572に記載されている。
【0091】
ヒトの定常ドメインに融合した齧歯類のV領域、または改変された齧歯類V領域およびそれらに関係する相補性決定領域(CDR)を有するキメラ抗体など、非ヒト免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を含む「ヒト化」抗体が数多く記載されている。例えば、Winterら,Nature 349:293−299(1991),Lobuglioら,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:4220−4224(1989),Shawら,J lmmunol.138:4534−4538(1987)、およびBrownら,Cancer Res.47:3577−3583(1987)参照。別の参考文献は、適当なヒト抗体定常ドメインと融合させる前に、ヒトの支持フレームワーク領域(FR)に連結させた齧歯類のCDRについて記載している。例えば、Riechmannら,Nature 332:323−327(1988),Verhoeyenら,Science 239:1534−1536(1988),およびJonesら,Nature 321:522−525(1986)参照。別の参考文献は、組換えによって合板された齧歯類のフレームワーク領域によって支持された齧歯類のCDRについて記載している。例えば、欧州特許公開第519,596号参照。これらの「ヒト化」分子は、齧歯類の抗ヒト抗体分子に対する不要な免疫反応であって、ヒトレシピエントにおいてそれらの分子を治療への適用期間と有効性を制約する反応を最小化するように設計されている。抗体の定常領域を改造して、例えば、補体仲介性溶解を誘発しない、または抗体依存性細胞仲介性細胞傷害(ADCC)を促進できないなど、免疫学的に不活生にすることができる。別の実施態様において、定常領域は、Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624;PCT出願第PCT/GB99/01441号;および/または英国特許出願第9809951.8号に記載されているように改変される。例えば、PCT出願第PCT/GB99/01441号;英国特許出願第9809951.8号参照。抗体をヒト化する他の方法で利用可能なものが、Daughertyら,Nucl.Acids Res.19:2471−2476(1991)および米国特許第6,180,377号;第6,054,297号;第5,997,867号;第5,866,692号;第6,210,671号;第6,350,861号;およびPCT公開第WO01/27160号に開示されている。
【0092】
さらにもう一つの別法では、特異的なヒト免疫グロブリン蛋白質を発現するように改造されている市販のマウスを用いて完全なヒト抗体を得ることができる。より所望の(例、完全なヒト抗体)またはより強い免疫反応を生じるよう設計されているトランスジェニック動物は、ヒト化された、またはヒトの抗体を作成するために使用することもできる。このような技術の例は、Abgenix,Inc.(Fremont,CA)のXenomouse(商標)、およびMedarex,Inc.(Princeton,NJ)のHuMAb−Moused(登録商標)およびTC Mouse(商標)である。
【0093】
代替法では、抗体を、当技術分野において既知の方法を用いて組換えによって作成し発現させることができる。別の代替法では、抗体を、ファージディスプレイ技術を用いて組換えによって作成し発現させることができる。例えば、米国特許第5,565,332号、第5,580,717号、第5,733,743号および第6,265,150号、ならびにWinterら,Annu.Rev.Immunol.12:433−455(1994)参照。あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら,Nature 348:552−553 (1990))を用いて、免疫されたドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメインの遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体および抗体断片を作成することができる。この技術によれば、抗体のVドメインの遺伝子は、M13またはfdなどの繊維状ファージの主要な外被蛋白質または副次的な外被蛋白質のいずれかの遺伝子にインフレームでクローニングされて、機能的な抗体断片として、ファージ粒子の表面上に提示される。繊維状の粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むため、抗体の機能的な性質に基づいた選択を行うことによって、それらの性質をコードする遺伝子の選択をもたらす。このように、ファージは、B細胞の性質のいくつかを模倣する。ファージディスプレイは、さまざまな方法で行うことができる。概説については、例えば、Johnson,Kevin S.and Chiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3,564−571(1993)参照。V−遺伝子分節のいくつかの由来原をファージディスプレイのために使用することができる。Clacksonら,Nature 352:624−628(1991)は、免疫したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模なランダムコンビナトリアルライブラリーから抗−オキサゾロン抗体の多様な数多くの抗体を単離した。免疫されていないヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、基本的には、Markら,J.Mol.Biol.222:581−597(1991)またはGriffithら,EMBO J.12:725−734(1993)にしたがって、多様な数多くの抗原(自己抗原を含む)に対する抗体を単離することができる。自然の免疫反応において、抗体遺伝子は、速い速度で変異を蓄積する(体細胞超変異)。導入される変化の中には、より高いアフィニティーを付与するものがあって、高アフィニティー表面免疫グロブリンを提示するB細胞が、その後の抗原投与の過程で選択的に複製および分化する。この自然のプロセスは、「チェーン・シャッフリング(chain shuffling)法」としてしられる技術を用いて模倣することができる。Marks,ら,Bio/Technol.10:779−783(1992)。この方法では、重鎖および軽鎖のV領域遺伝子を、免疫されていないドナーから得たVドメイン遺伝子の天然変異体(レパートリー)によって連続的に置き換えることによって、ファージディスプレイ法によって得られた「一次」ヒト抗体のアフィニティーを向上させることができる。この技術によって、pM〜nMの範囲のアフィニティーをもつ抗体および抗体断片の作成が可能になる。非常に大きなファージ抗体レパートリー(「究極のライブラリー(mother−of−all libiraries)」としても知られる)を作成する方法については、Waterhouseら,Nucl.Acids Res.21:2265−2266(1993)に記載されている。遺伝子シャッフリングも、齧歯類の抗体からヒト抗体を誘導するために用いることができ、その場合、ヒト抗体は、元の齧歯類の抗体と同じようなアフィニティーと特異性を有する。「エピトープ・インプリンティング」とも呼ばれる、この方法によれば、ファージディスプレイ技術によって得られた齧歯類抗体の重鎖および軽鎖のV領域遺伝子をヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで連続的に置き換えて、齧歯類−ヒトキメラを作り出す。抗原に対して選抜を行うと、機能的な抗原結合部位を回復できるヒト可変領域が単離される。すなわち、エピトープが、パートナーの選択を支配している(インプリントする)。残りの齧歯類Vドメインを置換するために処理を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日に公開されたPCT公開番号WO93/06213を参照)。CDRの接ぎ木による齧歯類抗体の伝統的なヒト化とは異なり、この技術は、齧歯類由来のフレームワークやCDRをもたない完全なヒト抗体を提供する。上記考察はヒト化抗体に属するものであるが、考察された一般原則は、例えばイヌ、ネコ、霊長類、ウマ、およびウシで使用するために抗体をカスタマイズするのに適用できる。
【0094】
抗体は、異なった2つ以上の抗原に結合特異性を有するモノクローナル抗体であるでもよく、本明細書で開示されている抗体を用いて調製することができる。二重特異的抗体を作成する方法は、当技術分野において既知である(例えば、Sureshら,1986,.Methods in Enzymology 121:210参照)。従来から、組換え法による二重特異的抗体の作成法は、2つの重鎖が異なった特異的を有する2組の免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の共発現に基づいていた(Millstein and Cuello,1983,Nature 305,537−539)。
【0095】
二重特異性抗体を作成する一つの方法によれば、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体−抗原結合部位)を免疫グロブリンの定常ドメインの配列と融合する。この融合は、好ましくは、免疫グロブリンの重鎖定常ドメインで、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含むドメインとの融合である。第一の重鎖定常領域(CH1)であって、軽鎖の結合に必要な部位を含み、融合体の少なくとも一方に存在する領域があるのが好適である。免疫グロブリンの重鎖融合体、および所望であれば、免疫グロブリンの軽鎖をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入して、適当な宿主生物に同時形質転換する。こうすると、構築に用いられる3種類のポリペプチド鎖の割合が均等でないときに最適な收率が提供されるという態様において、3種類のポリペプチド断片の互いの割合を調整するのに大いに融通がきくからである。しかし、2種類以上のポリペプチド鎖が同じ割合いで発現したときに高い收率がもたらされる場合や、この割合が特別な意味をもたないときには、2種類または3種類すべてのポリペプチド鎖に対するコード配列を一つの発現ベクターに挿入することも可能である。
【0096】
一つの方法において、二重特異性抗体は、一方のアームに第一の結合特異性をもつハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)から構成されている。二重特異性分子の半分だけに免疫グロブリンの軽鎖をもつ、この非対称構造は、不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから所望の二重特異的化合物を分離するのを容易にする。この方法は、1994年3月3日に公開されたPCT公開番号WO94/04690に記載されている。
【0097】
共有結合した2つの抗体を含むヘテロ結合抗体も、本発明の範囲に含まれる。このような抗体は、免疫系細胞を不要な細胞に向かわせたり(米国特許第4,676,980号)、HIV感染症を処置したりする(PCT公開番号WO91/00360およびWO92/200373、およびEP03089)ために使用されている。ヘテロ結合抗体は、使いやすい架橋法を用いて作成することができる。適当な架橋剤および技術は、当技術分野において周知されており、米国特許第4,676,980号に記載されている。
【0098】
抗体は、まず宿主動物が作成する抗体を単離し、遺伝子配列を得、また、この遺伝子配列を用いて宿主細胞(例、CHO細胞)の中で組換えによって抗体を発現させることによって、組換えによって作成することができる。使用することができる別の方法は、植物(例、タバコ)、トランスジェニックミルク、またはその他の生物の中で抗体の配列を発現させることである。植物またはミルク中で抗体を組換え技術により発現させる方法が述べられている。例えば、Peetersら(2001)Vaccine 19:2756;Lonberg,N.and D.Huszar(1995)Int.Rev.Immunol 13:65;およびPollockら(1999)J Immunol Methods 231:147参照。例えば、ヒト化、一本鎖など、抗体の誘導体を作成する方法は、当技術分野において知られている。
【0099】
キメラまたはハイブリッドの抗体も、架橋剤を含む方法など、蛋白質化学合成の既知の方法を用いてインビトロで調製することができる。例えば、ジスルフィド交換反応を用いて、または、チオエーテル結合を形成することによって、抗毒素(イムノトキシン)を構築することができる。この目的に適した試薬の例は、イミノチオラートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミデートなどである。
【0100】
例えば、Iliadesら,1997,FEBS Letters,409:437−441に記載されているように、一本鎖Fv断片を作成することもできる。さまざまなリンカーを用いて、このような一本鎖断片を結合することが、Korttら,1997,Protein Engineering,10:423−433に記載されている。抗体を組換えによって作成および操作するためのさまざまな技術および操作が、当技術分野においてよく知られている。
【0101】
抗体は、1999年11月18日に公開されたPCT公開番号WO99/58572の記載にしたがって改変することができる。これらの抗体は、標的分子に対する結合ドメイン以外に、ヒト免疫グロブリン重鎖の定常ドメインの全部または一部に実質的に相同的な配列を有するエフェクタードメインを含む。これらの抗体は、最初に顕著な補体依存的溶解や細胞仲介性の標的破壊がなくても、標的分子に結合できる。好適には、エフェクタードメインは、FcRnおよび/またはFcγRIIbに特異的に結合できる。これらは、典型的には、2つ以上のヒト免疫グロブリン重鎖C2ドメインに由来するキメラドメインに基づいている。このようにして改変された抗体は、長期の抗体療法で使用して、従来の抗体療法に付随する炎症その他の有害な反応を回避するのに好適である。
【0102】
宿主動物の免疫または組換え法によって作成した抗体は、以下の特徴の一つ以上を示すはずである。(a)trkCレセプターに結合する;(b)trkCレセプターの一つ以上のエピトープに結合する;(c)trkCに結合し、trkCの生物活性を活性化するか、またはtrkCのシグナル機能によって仲介される一つ以上の下流経路を活性化する;(d)trkCに結合し、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの一つ以上の症状を処置、予防、逆転または改善する;(e)trkCレセプターの二量体化を促進する;(f)trkCに結合し、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーに伴う痛み(異痛および/または痛覚過敏など)を処置、予防、逆転または改善する;(g)trkCレセプターの活性化を高める;(h)好適な薬理動態学的特性および生物利用能特性を示す;(i)細胞の発生、生存、機能、維持および/または再生を促進する;(j)癌のタキソール処置を促進する;(k)骨髄移植片のタキソール処理を促進する。
【0103】
また、イムノアッセイ法、および蛍光活性化細胞選別(FACS)などのフローサイトメトリーによる選別技術を用いてtrkCに特異的な抗体を単離することもできる。
【0104】
抗体は、さまざまなキャリアに結合できる。キャリアは活性化および/または不活性化することができる。周知のキャリアの例は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、ガラス、天然型または修飾型のセルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、およびマグネタイトなどである。キャリアの性質は、発明の目的上、可溶性か不溶性である。当業者は、この他にも、抗体に結合させるのに適したキャリアを知っているか、日常的な実験を用いて、そのようなものを確認することができよう。
【0105】
当技術分野において知られているように、アゴニスト抗−trkC抗体をコードするDNAの配列を決定することができる。PCT国際公開番号WO01/98361参照。一般的に、モノクローナル抗体は、常法(例えば、そのモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離・配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞が、そのようなcDNAの好適な由来原となる。単離されたところで、DNAを発現ベクター(PCT国際公開番号WO87/04462に開示されている発現ベクターなど)の中に入れ、次に、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはミエローマ細胞などの宿主細胞であって、それ以外には免疫グロブリン蛋白質を産生しないものに形質転換して、組換え宿主細胞の中でモノクローナル抗体の合成を行うことができる。例えば、PCT国際公開番号WO87/04462参照。また、このDNAも、例えば、ヒト重鎖および軽鎖の定常ドメインをコードする配列を、相同なマウスの配列の代わりに用いて、Morrisonら,Proc.Nat.Acad.Sci.81:6851(1984)、または、非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列の全部または一部に、免疫グロブリンをコードする配列を共有結合させて改変することができる。このようにして、本明細書記載の抗−trkCモノクローナル抗体の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」の抗体を調製する。アゴニスト抗−trkC抗体(その抗原結合断片など)をコードするDNAも、本明細書に記載したとおり、所望の細胞にアゴニスト抗−trkC抗体を導入して発現させるために利用することができる。DNA導入技術については、本明細書においてさらに説明する。
【0106】
抗−trkC抗体は、当技術分野において周知の方法を用いて特徴づけすることができる。例えば、一つの方法は、それが結合するエピトープを同定するもので、抗体−抗原複合体の結晶構造、競合アッセイ法、遺伝子断片発現アッセイ法、および合成ペプチドによるアッセイ法などがあり、例えば、HarlowとLane、Using Antibodies,a Laboratory Manual,Colod Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1999の第11章に記載されている。さらに別の例では、エピトープマッピングを用いて、抗−trkC抗体が結合する配列を決定することができる。エピトープマッピングは、例えばPepscan Systems(Edelhertweg 15,8219 PH Lelystad,The Netherlans)など、さまざまな販売元から購入できる。エピトープは直鎖状エピトープ、すなわち、アミノ酸の一本鎖に含まれているかもしれないし、または、必ずしも一本鎖の中に含まれていないアミノ酸の3次元的相互作用によって形成される立体配座的エピトープ(conformational epitope)であるかもしれない。さまざまな長さのペプチド(例、4〜6アミノ酸以上の長さ)を単離または(例えば、組換えによって)合成することができ、抗−trkC抗体とともに結合アッセイに用いることができる。別例では、trkCの細胞外配列に由来する重複ペプチド(overlapping peptides)を用いて抗−trkC抗体による結合を測定することよって、体系的なスクリーニング法で、抗−trkC抗体が結合するエピトープを決定することができる。遺伝子断片発現アッセイ法では、trkCをコードするオープンリーディングフレームを、ランダムまたは特定の遺伝子構成によって断片化して、発現されたtrkC断片と、試験される抗体との反応性を決定する。これらの遺伝子断片は、例えば、PCRによって作成してから、放射性アミノ酸存在下、インビトロで蛋白質に転写および翻訳することができる。そして、放射標識されたtrkC断片への抗体結合を、免疫沈殿およびゲル電気泳動によって決定する。また、一定のエピトープは、ファージ粒子(ファージライブラリー)の表面上に提示されたランダムなペプチドの大規模ライブラリーを用いて同定することもできる。
【0107】
抗−trkC抗体の特徴を調べることができるさらに別の方法は、同一の抗原、すなわちtrkCの細胞外ドメインに結合することが知られている別の抗体との競合アッセイ法を用いて、抗−trkC抗体が別の抗体と同じエピトープに結合するか否かを決定するものである。競合アッセイ法は当業者に周知されている。競合アッセイ法に役立つ抗体の例は以下のものなどである。抗体6.1.2、6.4.1、2345、2349、2.5.1、2344、2248、2250、2253、および2256。PCT公開番号WO01/98361参照。
【0108】
また、PCT公開番号WO01/98361に記載されているようなドメイン交換変異体(domain swap mutants)を用いてエピトープマッピングを行うこともできる。一般的に、この方法は、trkAともtrkBとも有意に交差反応しない抗−trkC抗体にとって有用である。trkCのドメイン交換変異体は、trkCの細胞ドメインを、trkAまたはtrkBの対応するドメインで置き換えて作成することができる。ELISAまたは当技術分野において既知の方法を用いて、さまざまなドメイン交換変異体への各アゴニスト抗−trkC抗体の結合を評価し、野生型(ネイティブ)trkCへの結合と比較することができる。別の方法では、アラニンスキャン法が行われる。trkCレセプターである抗原の各残基を体系的に別のアミノ酸(通常アラニン)に変異させ、改変されたtrkCの抗体への結合能力を、ELISAまたは当技術分野において既知の方法を用いてテストすることによって、変異の効果を測定する。
【0109】
(アゴニスト抗−trkC抗体の同定)
以下の方法の一つ以上など、当技術分野において認められている方法を用いてアゴニスト抗体を同定することができる。例えば、米国特許第5,766,863号および第5,891,650号に記載されているキナーゼレセプター活性化(KIRA)アッセイ法を使用することができる。このELISA型アッセイ法は、レセプター蛋白質チロシンキナーゼ(rPTK、例、trkレセプター)のキナーゼドメインの自己リン酸化を測定して、キナーゼ活性化の定性的または定量的な測定を行うのに、また、選択したrPTKのアゴニストまたはアンタゴニストである可能性があるものを同定・特徴づけするのに適している。このアッセイ法の最初の段階は、キナーゼレセプター、本件の場合はtrkCレセプターであって、真核細胞の細胞膜に存在するレセプターのキナーゼドメインをリン酸化することを含む。このレセプターは、内在性のレセプター、もしくはそのレセプターをコードする核酸、または、レセプター構築物であってもよく、細胞に形質転換されうる。典型的には、第一の固相(例、第一アッセイプレートのウエル)を、その細胞(通常は哺乳動物細胞株)の実質的に均質な集団でコートして、細胞を固相に付着させる。しばしば、細胞は接着性であるため、第一の固相に自然に付着する。「レセプター構築物」を使用する場合には、それは、通常、キナーゼレセプターとフラグ用ポリペプチドとの融合物を含む。フラグ用ポリペプチドは、該アッセイ法のELISA部分において、しばしば捕捉抗体である捕捉因子によって認識される。次に、候補アゴニストなどの検体を、付着細胞を有するウエルに加えて、チロシンキナーゼレセプター(例、trkCレセプター)を検体に曝露する(または接触させる)。このアッセイ法は、対象となるチロシンキナーゼレセプター(例、trkC)に対するアゴニストリガンドの同定を可能にする。検体に曝露した後、溶解バッファー(可溶化用界面活性剤を含む)を用いて、付着した細胞を可溶化し、ゆっくりと撹拌して、細胞溶解液の濃縮や清澄化を必要とせず、そのまま該アッセイ法のELISA部分を行うことができる細胞溶解液を放出する。
【0110】
そして、このようにして調製した細胞溶解液はいつでも該アッセイ法のELISA段階に用いることができる。ELISA段階の最初の工程として、第二の固相(通常、ELISA用マイクロタイタープレート)を、チロシンキナーゼレセプターに、レセプター構築物の場合には、フラグ用ポリペプチドに特異的に結合する捕捉因子(しばしば捕捉抗体)でコートする。第二の固相のコーティングは、捕捉因子が第二の固相に付着するように実施する。捕捉因子は、通常、モノクローナル抗体であるが、本明細書の実施例に記載されているように、ポリクローナル抗体またはその他の因子を使用することもできる。つぎに、得られた細胞溶解液を、付着した捕捉因子に曝露または接触させて、レセプターまたはレセプター構築物を第二の固相に付着(またはそれに捕捉)させる。次に、捕捉されたレセプターまたはレセプター構築物を残して、結合しなかった細胞溶解液を除去するために洗浄段階を行う。次に、付着または捕捉されたレセプターまたはレセプター構築物を、チロシンレセプターキナーゼ内のリン酸化されたチロシン残基を識別する抗リン酸化チロシン抗体に曝露または接触させる。好適な実施態様において、抗リン酸化チロシン抗体は、非放射性呈色試薬の変色を触媒する酵素に(直接的または間接的に)結合している。したがって、続いて起こる試薬の変色によってレセプターのリン酸化を測定することができる。この酵素を抗−リン酸化チロシン抗体に直接結合させるか、または、結合用分子(例、ビオチン)を抗−リン酸化チロシン抗体に結合してから、該酵素を、結合用分子を介して抗−リン酸化チロシン抗体に結合させることができる。最後に、捕捉されたレセプターまたはレセプター構築物への抗−リン酸化チロシン抗体の結合を、例えば、呈色試薬の変色によって測定する。
【0111】
最初の同定の後、標的となっている生物活性を試験できることが知られている生物アッセイ法によって、候補抗体のアゴニスト活性をさらに確認・精緻化する。例えば、抗−trkCモノクローナル抗体がtrkCに作用する能力を、全長のヒトtrkCで形質転換したPC12細胞を用いたPC12神経突起伸長アッセイ法で試験することができる(Urferら,Biochem.36:4775−4781(1997);Tsoulfasら,Neuron 10:975−990(1993))。このアッセイ法は、適当なリガンドによる刺激に反応して、ラットの褐色細胞腫細胞(P12)により、神経突起の伸長を測定する。これらの細胞は、内在性trkAを発現するため、NGFに反応する。しかし、内在性のtrkCは発現していないため、trkCアゴニストに対する反応を誘発するためにtrkC発現構築物で形質転換される。抗−trkC抗体で形質転換した細胞をインキュベートした後、神経突起の伸長を測定して、例えば、細胞半径の2倍を超える神経突起をもつ細胞の数を数える。形質転換されたPC12細胞において神経突起の伸長を促す抗−trkC抗体は、trkCアゴニスト活性があることを示している。
【0112】
また、胚発生の特定の段階にあるさまざまな特異的ニューロンを用いて、trkCの活性化を決定することも可能である。適正に選ばれたニューロンは、生存するためにtrkCの活性化を必要とするようにできるため、これらのニューロンのインビトロにおける生存によって、trkCの活性化を判定することが可能になる。適当なニューロンの一次培養液に候補抗体を添加して、候補抗体がtrkCを活性化できた場合には、少なくとも数日間はこれらのニューロンを生存させる結果となろう。このため、候補抗体のtrkC活性化能力を測定することが可能になる。このタイプのアッセイ法の一例では、E11マウス胚の三叉神経節を切除し、解離してから、得られたニューロンを組織培養皿において低密度で培養する。そして、候補抗体を培地に加え、培養皿を24〜48時間インキュベートする。この時間経過後、さまざまな方法のいずれかによって、ニューロンの生存を測定する。アゴニスト抗−trkC抗体を投与されたサンプルは、典型的には、対照用抗体を付加されたサンプルよりも生存率が高くなるため、アゴニスト抗−trkC抗体が存在すると判断できる。例えば、Buchmanら(1993)Development 118(3):989−1001参照。
【0113】
自然に、または、trkCをコードするDNAで形質転換された後、trkCを発現するさまざまな細胞型において下流シグナル伝達を活性化できることによって、アゴニスト抗体を同定することができる。このtrkCは、ヒトのものでも、別の哺乳動物(齧歯類や霊長類)のtrkCでもよい。下流シグナル伝達カスケードは、蛋白質の発現レベルもしくは蛋白質の蛋白質リン酸化のレベル、または、細胞の代謝状態または成長状態(本明細書に記載されているようなニューロンの生存および/または神経突起伸長など)の変化など、trkC発現細胞のさまざまな生化学的または生理学的なパラメータの変化によって検出することができる。関連する生化学的または生理学的なパラメータの検出法は、当技術分野において知られている。
【0114】
(アゴニスト抗−trkC抗体の投与)
アゴニスト抗−trkC抗体のさまざまな製剤を投与に使用することができる。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はそれだけで投与することができる。いくつかの実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体は、薬学的に受容される賦形剤を含む組成物にして投与される。薬学的に受容される賦形剤は、当技術分野において知られていて、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形や堅さを付与したり、希釈剤として働いたりすることができる。適当な賦形剤は、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変化させる塩類、カプセル化剤、バッファー、および皮膚浸透促進剤などであるが、これらに限定されるものではない。賦形剤、ならびに非経口および経口による薬剤輸送のための製剤については、Remington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing,(2000)に示されている。
【0115】
アゴニスト抗−trkC抗体は、注射によって(腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内などに)投与するよう製剤することができる。したがって、これらの抗体は、食塩水、リンゲル氏液、デキストロース溶液など薬学的に受容される媒体と組み合わせることができる。具体的な投薬法、すなわち用量、時期および反復法は、具体的な個体、およびその個体の病歴によって異なる。一般的に、約1μg/kg体重よりも少ない、約1μg/kg体重以上、約2μg/kg体重以上、約5μg/kg体重以上、約10μg/kg体重以上、約20μg/kg体重以上、約50μg/kg体重以上、約100μg/kg体重以上、約200μg/kg体重以上、約500μg/kg体重以上、約1mg/kg体重以上、約2mg/kg体重以上、約5mg/kg体重以上、約10mg/kg体重以上、約30mg/kg体重以上の用量、またはそれよりも多い用量(約50mg/kg体重、約100mg/kg体重、約200mg/kg体重または約500mg/kg体重など)が投与される。
【0116】
半減期などの実験的な考慮事項が、投薬量の決定に影響する。ヒト化抗体または完全なヒト抗体など、ヒト免疫系と適合性のある抗体を用いて、その抗体の半減期を延長したり、宿主の免疫系によって攻撃されないようにしたりできる。投与頻度は、治療コース全体について決定・調節することができ、絶対的にではないが、通常は、患者の体内で有効濃度のアゴニスト抗−trkC抗体を維持すること、および、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの一つ以上の症状を抑制および/または改善および/または遅延させるという観点から決められる。あるいは、アゴニスト抗−trkC抗体の製剤の持続的な放出も適切である。持続的な放出を行わせるためのさまざまな製剤および装置が、当技術分野において知られている。本発明における方法にしたがったアゴニスト抗−trkC抗体の投与は、例えば、レシピエントの生理学的条件によって、投与目的が治療的なものか予防的なものかによって、また、当業者に既知の別の要素によって、継続的にすることも、間歇的にすることも可能である。アゴニスト抗−trkC抗体の投与は、本質的には、予め決められた期間全体にわたって継続させることができ、または、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を発症する前、その間、またはその後;タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの症状を発症する前およびその間;前後;間およびその後;および/または前、その間、およびその後のいずれかに間隔をあけて連続する用量にすることも可能である。
【0117】
一般的に、アゴニスト抗−trkC抗体の投与については、まず候補投薬量を約2mg/kgにすることができる。本発明の目的上、典型的な一日当たりの投与量は、上記の要素に応じて、約30μg/kgから100mg/kg以上になるかもしれない。数日以上の期間にわたる反復投与については、条件によって、病気の症状が所望のように抑えられるまで、または、治療のレベルがタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置または予防に至るまで、処置を継続する。投薬計画の一例は、約2mg/kgの初期用量を投与し、その後は、約1mg/kgの抗−trkCアゴニスト抗体の用量を毎週維持するか、一週間おきに約1mg/kgの投与量を維持することを含む。
【0118】
一つの実施態様において、抗体の投与量は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するためにtrkCレセプターを活性化するアゴニスト抗−trkC抗体の投与を1回以上受けている個体において経験的に決定することができる。個体は、アゴニスト抗−trkC抗体の増分的投薬を受ける。アゴニスト抗−trkC抗体の効果を評価するために、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの疾患状態の指標を、本明細書に記載したように追跡することもできる。
【0119】
その他の製剤は、リポソームなど、当技術分野において知られている適当な輸送形態のものを含む。例えば、Mahatoら(1997)Pharm.Res.14:853−859参照。リポソーム製剤は、サイトフェクチン(cytofectin)、多重膜小胞体、および一枚膜小胞体などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなければならない。これは、例えば、滅菌濾過用膜に濾過するなどして容易に行うことができる。治療用のアゴニスト抗−trkC抗体組成物は、一般的に、例えば、静注用溶液バックまたは皮下注射用注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアルなど、滅菌された接続口をもつ容器の中に入れられる。
【0121】
アゴニスト抗−trkC抗体は、例えば、ボーラスとして、または一定の時間継続する輸液による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、皮下、経口、鞘内、または局所という経路などによって、既知の方法にしたがって個体に投与される。また、アゴニスト抗−trkC抗体は吸入によって投与することもできる。ジェット式噴霧器および超音波噴霧器など、液体製剤用に市販されている噴霧器が投与に役立つ。液体製剤は、直接噴霧することもできるし、凍結乾燥した粉末を再構成した後噴霧することもできる。あるいは、フルオロカーボン製剤および計量式吸入器を用いてアゴニスト抗−trkC抗体をエアロゾル化するか、または、凍結乾燥または破砕粉末として吸入することができる。
【0122】
いくつかの実施態様においては、一つ以上の抗体が存在しうる。これらの抗体は、互いの同一でも異なっていてもよい。いくつかの実施態様において、一つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上の異なったtrkCアゴニスト抗体が存在する。好適には、これらの抗体は、互いに悪影響を与えない相補的な活性をもつ。
【0123】
また、アゴニスト抗−trkC抗体(その抗原結合断片など)をコードするポリヌクレオチドも、所望の細胞の中にアゴニスト抗−trkC抗体を導入し、発現させるために使用することができる。発現ベクターを用いてアゴニスト抗−trkC抗体の発現を行わせることができることは明らかである。発現ベクターは、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、鞘内、脳室内、経口、経腸、非経口、鼻内、経皮、または吸入によって投与することができる。例えば、発現ベクターの投与は、注射、経口投与、パーティクル・ガン、またはカテーテルによる投与など、一部または全身への投与、および局所投与などである。当業者は、発現ベクターを投与して、外来性の蛋白質のインビボでの発現を得ることに慣れている。例えば、米国特許第6,436,908号、第6,413,942号、および第6,376,471号参照。
【0124】
アゴニスト抗−trkC抗体をコードするポリヌクレオチドを含む、標的された治療用組成物の導入を用いることもできる。レセプターによるDNA導入技術について、例えば、Findeisら,Trends Biotechnol.(1993)11:202;Chiouら,Gene Therapeutics:Methods And Applications Of Direct Gene Transfer(J.A.Wolff,ed.)(1994);Wuら,J.Biol.Chem.(1988)263:621;Wuら,J:.Biol.Chem.(1994)269:542;Zenkeら,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)(1990)87:3655;Wuら,J.Biol.Chem.(1991)266:338に記載されている。ポリヌクレオチドを含む治療用組成物を、遺伝子治療プロトコールにおいて、約100ngから約200ngのDNAの範囲内で局所投与のために投与する。また、遺伝子治療プロトコールの間、約500ngから約50mg、約1μgから約2mg、約5μgから約50μg、および約20μgから約100μgの濃度範囲のDNAを使用することもできる。本発明に係る治療用ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子導入用輸送媒体を用いて導入することができる。遺伝子導入用輸送媒体は、ウイルス性のものでも、非ウイルス性由来のものであってもよい(一般的には、Jolly,Cancer Gene Therapy(1994)1:51;Kimura,Human Gene Therapy(1994)5:845;Connelly,Human Gene Therapy(1995)1:185;およびKaplitt,Nature Genetics(1994)6:148参照)。このようなコード配列の発現は、内在性の哺乳動物のまたは異種性のプロモーターを用いて誘導することができる。コード配列の発現は、構成的なものか、調節的なものかいずれかである。
【0125】
所望の細胞にポリヌクレオチドを導入して発現させるためにウイルスから作成したベクターは、当技術分野においてよく知られている。ウイルスに基づく輸送媒体には、組換えレトロウイルス(例えば、PCT公開番号WO90/07936;WO94/03622;WO93/25698;WO93/25234;WO93/11230;WO93/10218;WO91/02805;米国特許第5,219,740号、第4,777,127号;英国特許第2,200,651号;およびEP0345242参照)、アルファウイルスに基づくベクター(例、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(ATCC VR−67;ATCC VR−1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR−373;ATCC VR−1246)、およびベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR−923;ATCC VR−1250;ATCC VR−1249;ATCC VR−532))、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、PCT公開番号WO94/12649,WO93/03769;WO93/19191;WO94/28938;WO95/11984およびWO95/00655参照)。Curiel,Hum.Gene Ther.(1992)3:147に記載されているように、死滅させたアデノウイルスに結合させたDNAの投与を利用することもできる。
【0126】
死滅させたアデノウイルスに結合した、または結合していないポリカチオン性縮合DNAだけ(例えば、Curiel,Hum.Gene Ther.(1992)3:147参照)、リガンド結合したDNA(例えば、Wu,.J.Biol.Chem.(1989)264:16985参照)、真核細胞輸送媒体細胞(例えば、米国特許第5,814,482号;PCT公開番号WO95/07994;WO96/17072;WO95/30763;およびWO97/42338参照)、および核電荷の中和または細胞膜との融合など、ウイルスによらない輸送媒体と方法を用いることもできる。裸のDNAを使用することもできる。裸のDNAを導入する方法の例が、PCT公開番号WO90/11092および米国特許第5,580,859号に記載されている。遺伝子の輸送媒体として働くことができるリポソームについては、米国特許第5,422,120号;PCT公開番号WO95/13796;WO94/23697;WO91/14445;およびEP0524968に記載されている。さらに別の方法が、Philip,Mol.Cell Biol.(1994)14:2411およびWoffendin,Proc.Natl.Acad.Sci.(1994)91:1581に記載されている。
【0127】
タキソール(他のタキサン類を含む)は、単独、または他の薬剤とともに投与することができる。最も普通には、エタノールおよびCremophor EL(商標)を含む製剤にタキソールを導入して、処置のためには塩水溶液に希釈する。また、タキソールは、乳液など、他のさまざまな形に製剤することもできる。タキソールは、普通、放射線治療および/または、さまざまなプラチナ含有化合物(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、イホスファミド、5−フルオロウラシル、ドクソルビシン、エピルビシン、シクロホスファミド、ジェムシタビン、カペシタビン、エキサリンド、トポテカン、エトポシド、ビンカ・アルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン(vinblatin)、ビノレルビン)、およびその他、当技術分野において既知の化学療法剤など、他の化学療法剤とともに投与される。また、タキソールは、タキソール、および/またはタキソールと併用して投与される他の化学療法剤の有害な副作用を中和および処置するように設計された薬剤とともに投与される。例えば、エリスロポエチン(エポエチン(Epoiten)、ダルベポエチン(Darbopoiten))、G−CSF、およびGM−CSFなどの薬剤をタキソールとともに投与して、化学療法剤の血液学的作用を処置することができる。別の例として、化学療法剤の使用にしばしば付随する吐き気を処置するために、フェノチアジン(コンパジン(Compazine))、ゾフランおよびアンゼメット(Anzemet)などの薬剤が、タキソールとともに投与される。患者は、タキソール処置を受ける前に事前に薬剤治療を受けることができる。
【0128】
タキソールは、カポジ肉腫、乳癌、卵巣癌および肺癌など、さまざまな悪性腫瘍を処置するために認可されており、広く使用されている。また、タキソールは、その他、前立腺および頭頸部の悪性腫瘍ならびに悪性血液疾患を処置するためにも使用される。タキソールは、骨髄移植の際にも、例えば、骨髄処置を行う前に幹細胞を動員するために投与される。代表的なタキソール用法には、3週間ごとに3時間にわたって135mg/mまたは175mg/mを静脈内に投与する(卵巣癌に対し);3週間ごとに3時間にわたって175mg/mを静脈内に投与する(乳癌に対し);24時間にわたって135mg/mを静脈内に投与する(非小細胞肺癌に対し);3週間ごとに3時間にわたって135mg/mを静脈内に投与するか、または、2週間ごとに3時間にわたって100mg/mを静脈内に投与する(カポジ肉腫に対し)。また、タキソールの処方情報(製品の同梱物)、Bristol Meyers Squibb(1998)(http://www.taxol.com/txpi.htmlで入手可能)も参照。別の実施態様において、タキソールは、775mg/m、475mg/m、200mg/m、および/または350mg/mで投与される。また、タキソールは、骨髄移植の際には高用量で用いられ、例えば、825mg/mもの高用量で用いられる。いくつかの実施態様において、骨髄移植中のタキソール処置は、以下の薬剤の一つ以上とともに行われる。メルファラン、シクロホスファミド、チオテパおよびカルボプラチン。例えば、Vahdatら(2002)Bone Marrow Transplant 30(3):149−153参照。
【0129】
アゴニスト抗−trkC抗体は、タキソールとともに投与することができる。すなわち、タキソールと併用して、協同して、または連続して投与することができる。このような投与には、ニューロパシーを誘発する薬剤(タキソールなど)を投与する前に患者に抗体を投与すること、ニューロパシーを誘発する薬剤を投与している間に患者に抗体を投与すること、または、ニューロパシーを誘発する薬剤を投与した後に患者に抗体を投与することを含む。本明細書において、ともに投与することは、同時投与および/または異なった時に投与することを含む。また、ともに投与することは、同一製剤(すなわち、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールが同じ組成物に(併用されて)存在する)および/または別々の組成物として投与することとを包含する。本明細書において、「ともに投与すること」とは、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールとを有効量にして個体に投与する状況を意味する。本明細書においてさらに検討するように、アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールを、異なった投薬回数および/または間隔で投与しうるのは当然である。例えば、アゴニスト抗−trkC抗体を毎週投与しながら、タキソールはより頻繁に投与することも可能である。アゴニスト抗−trkC抗体とタキソールを、同一の投与経路または異なった投与経路を用いて投与し、また、投与コースの間中さまざまに投薬処方を変えうるのは当然である。投与は、感覚性ニューロパシーを発症する前に行うことができる。
【0130】
また、本明細書に記載されているように、タキソールをアゴニスト抗−trkC抗体とともに投与することによってタキソールによる癌処置を促進することもできる。アゴニスト抗−trkC抗体を投与することによって、末梢性感覚性ニューロパシーなど、タキソール処置の用量を制限する副作用を除去できるため、タキソールの投薬量を増加させることができる。アゴニスト抗−trkC抗体およびタキソールの相対量と比率はさまざまなである。いくつかの実施態様において、タキソール処置によって誘発されるか、またはタキソール処置に付随する望ましくない副作用(感覚性ニューロパシーなど)の抑制を可能にするのに十分なアゴニスト抗−trkC抗体を投与する。
【0131】
(アゴニスト抗−trkC抗体による処置の有効性を評価する方法)
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの評価法および診断法は、当技術分野において周知されている。いくつか異なったレベルについて、処置効果の評価を行うことができる。評価は、例えば、電気生理学的反応、またはニューロン(感覚ニューロンを含む)に影響を与える解剖学的もしくは分子的な変化などの臨床的徴候を観察することによって行うことができる。例えば、Quasthoff(2002)J.Neurology 249:9−17参照。いくつかの実施態様において、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーは、以下の症状のいずれかによって特徴づけられる。遠位性対称性多発性ニューロパシー、ポールハイプエスセジア(pall−hypesthesia)、位置感覚消失、痛みを伴う異常感覚、レールミット徴候、痛み(異痛および/または痛覚過敏など)、進行性遠位性および/または近位性の不全麻痺、筋肉痛、麻痺性イレウス、起立性低血圧症、および不整脈、ならびに末梢感覚ニューロン(大径線維末梢感覚ニューロンなど)の変性。これらは、標準的な神経学的検査、問診、またはより特殊な定量試験によって判定することができる。これらのより特殊な定量試験には、例えば、マイクロニューログラフィーまたは他の電気生理学的検査法を用いて、影響を受けたニューロンの伝導速度を測定すること;熱、軽触、振動、または二点識別などの皮膚刺激を感知できる能力を定量的および/または定量的に測定すること;聴覚検査;平衡感覚の特殊検査;自己受容または運動感覚の特殊検査;血圧調節などの自律機能の検査;および、さまざまな生理学的および薬理学的刺激に対する心拍反応の検査などがあるが、これらに限定されるものではない。これらの検査には、運動神経の検査も含まれる。
【0132】
(タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの処置で使用するための組成物)
本発明は、本明細書に記載された方法のいずれかで使用するための組成物も提供する。本発明に係る方法で使用される組成物は、有効量のアゴニスト抗−trkC抗体を含む。このような組成物の例、およびその製剤の仕方についても、上述および後述される。本発明は、薬剤としての使用および/または薬剤製造法における使用に関連して、本明細書において記載されているいずれかの使用について説明されている組成物を提供する。
【0133】
本発明において使用される組成物は、さらに、凍結乾燥製剤または水性溶液の形で、薬学的に受容されるキャリア、賦形剤、または安定化剤を含みうる(Remington:The Science and practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins Ed.K.E.Hoover)。受容されるキャリア、賦形剤、または安定化剤は、その投薬量および濃度ではレシピエントに対して無害であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸およびメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジル・アンモニウム・クロライド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコール、またはベンジルアルコール;メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールなど);低分子量(約10残基よりも少ない)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどの蛋白質;ポリビニルピロリドンなどの疎水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、および、グルコース、マンノース、またはデキストランなど、その他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例、Zn−蛋白質複合体);および/または、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むことができる。薬学的に受容される賦形剤については、本明細書においてさらに説明されている。
【0134】
一つの態様において、本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体を含む組成物を提供する。別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒトtrkCを認識する。さらに別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒト化されている(本明細書に記載されている抗体A5など)。別の実施態様において、抗−trkCアゴニスト抗体は、抗体A5のCDRを一つ以上(1、2、3、4,5個など、またはいくつかの実施態様においては、A5由来の6個のCDRすべて)を含む。さらに別の実施態様において、抗−trkCアゴニスト抗体は、表1記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号:1)、および表2記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号:2)を含む。さらに別の実施態様において、アゴニスト抗−trkC抗体はヒト抗体である。
【0135】
組成物が、一つよりも多いアゴニスト抗−trkC抗体(例えば、trkCの異なったエピトープを認識するアゴニスト抗−trkC抗体の混合物など)を含みうるのは当然である。別の組成物の例は、同じエピトープを認識する一つ以上のアゴニスト抗−trkC抗体か、または、trkCの異なったエピトープに結合するアゴニスト抗−trkC抗体のさまざまな種を含む。
【0136】
また、アゴニスト抗−trkC抗体およびその組成物は、アゴニスト抗−trkC抗体の有効性を促進および/または相補する働きをする他の薬剤とともに用いることもできる。例えば、このような付加的化合物は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシー、または、例えば貧血や吐き気など、タキソール処置の副作用を処置するのに役立つことが知られている化合物を含むことができ、エリスロポエチン(エポエチン(Epoiten)、ダルベポエチン(Darbopoiten))、G−CSF、およびGM−CSF、フェノチアジン(コンパジン(Compazine))、ゾフランおよびアンゼメット(Anzemet)などがあるが、これらに限定されるものではない。このような分子は、意図した目的に効果的である組み合わせ、量にして、適切に存在する。trkCアゴニスト抗体およびその組成物は、エリスロポエチン(エポエチン(Epoiten)、ダルベポエチン(Darbopoiten))、G−CSF、およびGM−CSF、フェノチアジン(コンパジン(Compazine))、ゾフランおよびアンゼメット(Anzemet)など、抗体の有効性を促進および/または相補する働きをする他の薬剤とともに用いることもできる。
【0137】
(キット)
また、本発明は、本発明に係る方法で使用するためのキットも提供する。本発明のキットは、アゴニスト抗−trkC抗体を含む一つ以上の容器を含み、いくつかの実施態様においては、さらに、本明細書に記載されている方法(タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置する方法など)のいずれかに従って使用するための説明書を含む。いくつかの実施態様において、これらの説明書は、個体がタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを有し、かつ/または、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを発症する危険に瀕しているかを確認することに基づいて、処置に適した個体を選択することに関する説明を含み、また、感覚性ニューロパシーを処置および/または予防するためにtrkCアゴニスト抗体を投与することをさらに説明してもよい。本発明は、また、薬剤としての使用および/または薬剤を製造するための使用に関連して本明細書で説明されている使用のために記載されているキットも提供する。
【0138】
このように、一つの実施態様において、本発明は、アゴニスト抗−trkC抗体を含むキットを提供する。いくつかの実施態様において、本発明は、本明細書に記載されている方法であって、アゴニスト抗−trkC抗体を含む方法で使用するためのキットを提供する。さらに別の実施態様においては、説明書は、アゴニスト抗−trkC抗体とともにタキソールを投与することについての説明を含む。
【0139】
本発明に係るキットは適当にパッケージされている。適当なパッケージには、バイアル、ボトル、広口瓶、可塑性パッケージ(例、密封されたマイラーバッグ、またはプラスチック袋)などがあるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施態様において、キットは、容器、および、容器の上またはそれに付随して、ラベルまたはパッケージインサートを含む。ラベルまたはパッケージインサートは、組成物が、タキソール誘発性ニューロパシーを処置、予防、または改善するのに役立つことを表示する。説明書は、本明細書に記載されている方法を実施するために提供される。容器は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するのに有効な組成物を保持し、また、滅菌した接続口をもつことができる(例えば、容器は、静脈内用の溶液バック、または、皮下注射針で穿刺可能なストッパーを有するバイアルでもよい)。組成物中の活性薬剤の少なくとも一つがtrkCアゴニスト抗体である。容器は、さらに、第二の薬学的に活性のある薬剤を含みうる。キットは、選択的に、バッファーおよび説明用の情報など、付加的な構成部品を提供することもできる。
【0140】
以下の実施例は例示のためのものであって、発明を制限するものではない。
【実施例】
【0141】
(実施例1.ニューロンの生存と軸索の伸長に対するNT3とアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体の効果)
NT3は、シスプラチンおよびピリドキシンによって誘発されるニューロパシーの処置に含まれてきた。この実施例では、抗−trkCアゴニスト抗体が、trkCレセプターの生理学的リガンドであるNT−3の生物活性のすべてを模倣したわけではないことを明らかにする。
【0142】
(NT−3またはアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体が成人のDRGニューロンの神経突起伸長を促進する能力)
抗−trkCアゴニスト抗体が、成人の感覚ニューロンに対するNT−3の作用を模倣できるかを調べるために、成人のDRGニューロンの培養細胞を、さまざまな濃度のNT−3またはマウスアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体2256の存在下または非存在下で増殖させた。48時間培養した後、培養細胞を固定してRT97抗体で染色して、神経突起伸長をRT97+ニューロンで評価した。図1に示すように、NT−3による処理は、神経突起伸長の増加をもたらしたが、アゴニスト抗−trkC抗体による処理は顕著な伸長をもたらさなかった。
【0143】
成獣(6月齢)のSprague−Dawleyラットから後根神経節を切除し、標準的な技術によって解離・培養した(Lindsay,1988,J.Neurosci.Jul;8(7):2394−405)。要するに、神経節の鞘を剥いで、コラゲナーゼの中、37℃で90分間2回インキュベートした。そして、それらを十分に洗ってから、トリプシンの中で30分間インキュベートした。さらに洗浄した後、炎で滑らかにしたパスツールピペットに通してやさしく粉砕して神経節を解離させた。そして、この混合液を、記載されている(Horie,1994,NeuroReport 6,37−40)ようにして、30%Percoll(Pharmacia)の勾配によって沈降させて濃縮した。濃縮されたニューロンを、ポリオルニチンおよびラミニンでコートした96−ウエルプレート上に6.25/mmの密度でプレートした。培地はF−14からなり、添加剤である2mMグルタミン、0.35%Albumax II(Gibco−BRL)、60ng/mlプロゲステロン、16μg/mlプトレッシン、400ng/ml L−チロキシン、38ng/ml亜セレン酸ナトリウム、340ng/mlトリ−ヨード−チロニン、60μg/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを含み、また、適当な被験因子を指定された濃度で加えた。48時間培養した後、セ氏4度で16〜24時間、5%ショ糖を含むPBS中4%ホルムアルデヒドで細胞を固定した。
【0144】
抗体RT−97による染色を用いて、大型細胞体をもつDRGニューロンのサブクラスであって、インビボで大径有髄軸索を有するものを示した。このクラスは、選択的にtrkCを発現した。培養細胞を、PBSで3回、0.1%ゼラチン、0.9%NaCl、および0.3%トリトン(TGST)を含む0.1Mトリスで3回リンスした。そして、培養細胞を、5%ショ糖および4%正常ロバ血清を含むTGST中1/100の濃度のRT−97の中で一晩インキュベートした。TGSTで培養細胞を十分に洗浄してこのインキュベーションを終わらせてから、Cy−3結合ヤギ抗−マウスIgG二次抗体を、5%ショ糖および4%正常ロバ血清を含むTGST中1:400の希釈度で細胞に加えた。TGSTでさらに十分に洗浄した後、細胞を検査して、対物倍率4倍で蛍光によってデジタル処理により画像を捉えた。これらの画像を分析して、得られたニューロン突起のピクセル面積を閾値化、二値化、骨格化、および測定することによって、ニューロンの突起を選択的に示した。結果は、図1に示されているが、ニューロン突起のピクセル面積の平均値で示されている(+/−は平均値の標準誤差)(n=4)。NT−3で処理した結果、神経突起伸長が増加したが、アゴニスト抗−trkC抗体で処理しても、有意な伸長はもたらされなかった。
【0145】
(NT−3およびアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体がラット胚の三叉神経ニューロンの生存を促進する能力)
三叉神経節(TG)は、顔面領域に分布する皮膚感覚ニューロンからなる。マウスの三叉神経ニューロンに対するアゴニスト抗−trkC抗体の生存促進活性を測定するのに適した年齢は、この年齢のときニューロンがtrkCを発現し、培養液中でNT3に応答し、神経栄養因子の支えがないと生存できなくなるので、11日目の胎児である(E11)。ラットでこれに相当する年齢はE12である。
【0146】
E11のSwiss−WebsterマウスまたはE12のSprague−Dawleyラットから解離したTGニューロンの培養細胞を樹立した。切除した神経節をトリプシン処理して、粉砕によって解離した(Daviesら,1993,Neuron 11,565−574)。このニューロンを低密度で、直径35mMの組織培養用ペトリ皿の、ポリオルニチン/ラミニン基層上の定義済みで無血清の培地の中にプレートした。陽性対照としてBDNF(2ng/ml)を加え、陰性対照として、一部のニューロンは因子非存在下で増殖させた。NT3(2、0.4および0.8ng/ml)およびマウス抗−trkCアゴニスト抗体である2256(PCT国際公開番号WO01/98361参照)((2、0.4および0.8μg/ml)を、さまざまな濃度でプレートした時に加え、2回反復実験した。さまざまな実験条件下で生き残ったニューロンの数を計測するために、ニューロンの総数をプレートしてから4から6時間後に数え、24時間後および48時間後にふたたび数えた。24時間後および48時間後のニューロンの数を6時間後の数のパーセントで表した。
【0147】
この実験の結果を図2に示す。NT−3による処理は、アゴニスト抗−trkC抗体と同様、三叉神経ニューロンの生残をもたらした。BDNFは、因子がなければ死滅していたE11マウスとE12ラットの三叉神経(TG)ニューロンの大部分の生残を促進した。培養して24時間後、僅か0.08ng/mlという濃度のNT−3で、すべてのニューロンの生残が促進され、これがtrkCによる事象であることを示唆した。培養して48時間になると、マウスTGニューロンの一部集団だけがNT−3によってレスキューされたが、一方、ラットTGニューロンの培養液においては、48時間後、NT3存在下でほとんどのニューロンが生き残った。これは、ラットの対照用培養細胞の生存率が、マウスに較べて高かったということから分かるように、ラットTGニューロンの全体的に健康状態がよかったことを一部は反映していたのかもしれない。抗−trkCアゴニスト抗体は、E11マウスおよびE12ラットのTGニューロンの生存率をともに上昇させることができた。
【0148】
(実施例2:実験動物モデルにおけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症と用量依存性)
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症と用量依存性を成獣ラットで調べた。Cremophor/エタノール(50:50)の溶液としてタキソールを調製し、投与の直前に食塩水(Cremophor/エタノールを1に対し、食塩水を4)で希釈した。実験1日目と4日目にIV注射をゆっくりと行って成獣ラットを処置した。一つのグループには12mg/kgのタキソールを与え、一つのグループには15mg/kgのタキソールを与え、一つのグループには18mg/kgのタキソールを与え、また、一つのグループには媒体だけを与えた。0日目、14日目および28日目に、基本的にはClifferら,Ann.Neurol.(1998)43:46−55に記載されている電気生理学的方法を用いて大径線維感覚ニューロンの機能を試験した。具体的には、H波(反射神経感覚応答、感覚神経伝導速度、およびH波の複合活動電位とM波の複合活動電位の比率を、腿とふくらはぎの坐骨神経を刺激した後の足の筋肉の記録を取って測定した。
【0149】
(坐骨神経の記録)
坐骨神経の記録収集を以下のようにして行った。ステンレス製針を、刺激用(216ゲージ)、記録用(28−ゲージ)および接地極用に使用した。坐骨神経を刺激するために、坐骨切痕に陽極を挿入し、陰極を陽極から1cm遠位に挿入した。頸骨を刺激するには、陽極を踝(アキレス腱)に挿入し、陰極を陽極から1cm近位に挿入した。記録用電極を足に置き、活性電極を足の母指外転筋に、また参照用電極を第5趾節骨の基部に置いた。接地電極を尾の基部に置いた。定電流の二相性方形波刺激を、絶縁パルス刺激装置(A−M Systems,Model 2100)によって、0.2〜0.5Hzの周波数で0.2ms間連続して供給した。記録された出力は、示差的に増幅され(Brownlee Precision,Model 210A)、20,000〜40,000サンプル/秒でデジタル処理(AD Instruments,PowerLab/4SP)によって得られ、後の解析のためにコンピュータに保存された。
【0150】
M波またはH波の閾値に到達させるため刺激用電極の位置を調整し、H波振幅(Hmax)とM波振幅(Mmax)を最大化するために刺激強度を変化させた。坐骨にある陽極と頸骨にある陽極との間の距離を、この2つの位置からのM波およびH波の(最初の主要な負のピークまでの)潜時の差で割って、運動神経と感覚神経の伝導速度を計算した。M波およびH波のピークからピークまでの振幅を測定して、M波振幅に対して標準化されたH波振幅の測定値を提供するためにHmax/Mmaxの比を計算した。
【0151】
(尾部神経の記録)
尾部神経の記録収集と刺激は、尾の側面の皮下に挿入した26ゲージのステンレス製針を用いて行った。接地極用電極は、刺激用電極と記録用電極から常に等距離になるように置いた。刺激には、0.5Hzで0.2ms間連続する0.8〜1mA振幅の一相性方形波パルスを用いた。記録用電極間の距離は一定(10mM)であった。2種類の配置を用い(AおよびB)、記録用電極からの2つの距離のところで、それぞれに刺激を与えた。
【0152】
A)刺激用電極が近位、記録用電極が遠位:この配置で、尾部における運動神経の機能をテストした。一回目の測定では、尾の基部から30mMのところに陽極を置き、陰極を1cm近位に置いた。二回目の測定では、刺激用電極を30〜35mM遠位に動かした。どちらの場合にも、記録用電極は、尾の基部から110〜130mMのところに置いた。
【0153】
B)刺激用電極が遠位、記録用電極が近位:この配置で、尾部における感覚神経の機能をテストした。記録用電極を尾の基部から30mMのところに置いた。一回目の測定(S1)では、尾の基部から約110〜130mMのところに記録用電極を置いた。二回目の測定(S2)では、刺激用電極を約30〜35mMより近位になるように置いた。2つの刺激点の間の距離を測定し、その結果を近位および遠位の刺激点の間の潜時の差で割って神経伝導速度を得た。
【0154】
(結果)
12mg/kgおよび18mg/kgのタキソールで処置すると、感覚機能の低下が生じた。具体的には、電気生理学的検査によって、頸骨および坐骨のH波振幅が低下し(それぞれ図3Aおよび3B)、坐骨神経の伝導速度が低下し(図3C)、尾部神経のH波振幅が低下する(それぞれ図4Aおよび4B)が、尾部の感覚神経の伝導速度は低下しない(図4C)ことが明らかになった。15mg/kgのタキソールで処置しても、感覚機能が低下した(該当データは示さない)。ニューロパシーの重度も用量依存的であった(図3A〜3Cおよび4A〜4C参照)。さらに実験を行うため、12mg/kgおよび15mg/kgのタキソール投与を、これらの用量で得られたニューロパシーの速さと深さに基づいて選択した。
【0155】
(実施例3.ラット動物モデルにおけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーに対するアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体の効果)
発明者らは、アゴニスト抗−trkC抗体が、タキソール処置によって誘発された感覚性ニューロパシーから防御できることをテストした。実験0日目と7日目に5mg/kgのマウスアゴニスト抗−trkC抗体2256(PCT公開番号WO01/98361参照)で静注によって成獣ラットを処置した。1日目と4日目にIV注射をゆっくりと行って15mg/kgのタキソールを投与した。14日目に上記した方法にしたがって、電気生理学的に尾部神経の機能をテストした。要するに、本明細書に記載されているように尾部神経を刺激した後、M波(直接的運動神経)およびH波(反射的感覚神経)の反応を記録した。結果を、運動神経の複合活動電位振幅に対する感覚神経の複合活動電位振幅の割合で示した。図5に示すように、抗−trkCアゴニスト抗体で処置すると、タキソールに誘発された複合活動電位振幅の消失が防止された。このことは、ラットモデルにおいて、抗−trkCアゴニスト抗体による処置が、タキソール処置によって誘発された感覚性ニューロパシーを改善することを示している。マウスのアゴニスト抗−trkC抗体に対するラットの二次抗体が、抗体処置を開始してから約10日後に観察された。
【0156】
(実施例4:マウスモデルにおけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーの発症、およびタキソール誘発性感覚性ニューロパシーに対するアゴニスト抗−trkCモノクローナル抗体の効果)
本実施例は、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーのマウスモデルを説明するとともに、アゴニスト抗−trkC抗体による処置が、このモデルにおいてタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを改善したことを実証する。マウスモデルは、マウス抗−trkCアゴニスト抗体が種適合的であるため、投与しても不要な免疫反応を起こさなかったという点で有利であった。
【0157】
雌のSwiss−Websterマウス(8週齢)は、投薬を開始する前に一週間設備に慣れさせた。動物は、媒体単独(対照)、タキソール単独、またはアゴニスト抗−trkC抗体およびタキソールによって処置した。タキソールは、Calbiochemから入手して、Cremophor/エタノール(50:50w/w)で20mg/kgの溶液として調製し、食塩水(容量:容量でCremophor/エタノールを1に対し、食塩水を4)で希釈し、0.1ミクロンのフィルターで濾過して、調製してから20分以内に投与した。処置した動物はすべて、一日おき、例えば月曜日、水曜日および金曜日に、一ラウンド当たり3回のタキソールまたは対照(媒体)による処置を受けた。各動物に投与されたタキソールの総量は300mg/mで、上記の3回分の用量に等分した。タキソールの用量は、mg/m単位で決定した(体表面積(平方cmで)は、体重のグラム数に10.5を掛けて、3分の2乗したものに等しい)。マウス抗−trkCアゴニスト抗体2256は、最初にタキソールを投与した日から始めて、一週間隔で投与した。タキソールは、IP投与、抗−trkC抗体は首筋に皮下注射して投与した。すべての投薬は、イソフルレンで軽く麻酔した状態で行った。タキソール処置した週の次の週には、タキソール誘発性の一時的な免疫抑制に伴う日和見感染の可能性を防止するために、食餌の中に予防用の抗生物質を以下の通り入れた。一日あたり5個の食餌用錠剤につき、スルファメトキサゾール(60mg)およびトリメトプリム(10mg)(Bio−Serv製品S0443−J)。
【0158】
下記に説明するような電気生理学的方法を用いて、大径線維感覚ニューロンの機能を検査した。具体的には、下記に記載したように尾部神経を刺激した後、尾部におけるH波CAPとM波CAPの比率を決定した。
【0159】
(尾部神経の記録)
すべての記録収集および解析は、動物の実験処置について何も知らない実験者によって行われた。動物は、ケタミン/キシラジン、すなわち、60m/kgのケタミンをIPで、また5m/kgのキシラジンをIPで麻酔し、動物を暖かいパッド(deltaphase)にのせたままにして、セッションの間中、直腸を36〜37度に保った。記録収集と刺激は、尾の側面の皮下に挿入した26ゲージのステンレス製針を用いて行った。接地極用電極は、刺激用電極と記録用電極から常に等距離になるように置いた。電極は、RX−444(または他の適当な殺菌剤)で殺菌して、動物相互間で水によりリンスした。刺激には、0.5Hzで0.2ms間連続する0.8〜1mA振幅の一相性方形波パルスを用いた。記録用電極間の距離は一定(10mM)であった。
【0160】
神経の運動成分と感覚成分を調べるために、2種類の配置(AおよびB)を用い、記録用電極からの2つの距離のところで、それぞれに刺激を与えた。
【0161】
A)刺激用電極が近位、記録用電極が遠位:この配置で、尾部における運動神経の機能をテストした。一回目の測定(S1)では、尾の基部から15mMのところに刺激用陽極を置き、陰極を、陽極から1cm近位に置いた。二回目の測定(S2)では、刺激用電極を10〜15mM遠位に動かした。どちらの測定についても、記録用電極は、尾の基部から35mMのところに置いた。
【0162】
B)刺激用電極が遠位、記録用電極が近位:この配置で、尾部における感覚神経の機能をテストした。記録用電極を尾の基部から5mMのところに置て、刺激用電極を尾の基部から、最初は35mMのところに、2回目は10〜15mMより近位になるように置いた。
【0163】
(結果)
図6に示すように、タキソールで処置した動物において、活動電位のサイズが有意に減少したが、これは、2mg/kgのtrkCアゴニスト抗体で処置することによって防止できた。このように、アゴニスト抗−trkC抗体による処置は、タキソール処置によって誘発された感覚性ニューロパシーを改善した。グループの大きさ;媒体ではn=10、タキソール単独ではn=5、また、タキソール+抗体ではn=8。
【0164】
(実施例5:タキソール誘発性異痛に対するマウスtrkCアゴニスト抗体2256の効果)
本実験では、タキソール処置によって生じたニューロパシーの痛みの症状、すなわち機械的異痛を軽減する。タキソール処置されたラットは異痛を発症する。例えば、Polomanら,Pain(2001)94(3):293−304;Dinaら(2001)Neuroscinece 108(3):507−15参照。ラットをタキソールで処置したところ、長期に持続する機械的異痛(すなわち、通常の非有害刺激に対するよりも強い不快感)を発症した。抗−trkCアゴニスト抗体2256で処置すると、タキソール誘発性異痛が改善した。さらに、trkCアゴニスト抗体およびタキソールで処置した動物は、タキソール単独で処置された動物よりも速い、タキソール誘発性異痛からの回復が見られた。
【0165】
雄のSprague−Dawleyラット(Harlan,Oregon,WI)で実験を行った。50頭のラットを1週間で施設に慣れさせ、さらにテスト前の2日間、フォン・フレイ試験用チャンバー(ワイヤー製の網底をもつプラスチック製ケージで、動物の手足に完全に触れることができる)に慣れさせた。
【0166】
Chaplanら,J.Neurosci.Methods,53(1):55−63 (1994)に記載されている上下法を用いて、機械的な引っ込めの閾値(withdrawal threshold)を評価するために、標準的なフォン・フレイの毛(ナイロン製の単繊維)シリーズを用いて、機械的な刺激(接触)に対する異痛をテストした。2つの基準線をテストするセッションの後、この2つの基準線テストセッションの間における一貫した結果、および右手と左手の間における一貫した結果に基づいて、38頭のラットを実験のために選んだ。これらのラットを各グループ13頭ずつの2つのグループ(タキソールによる処置またはタキソール+mAb2256処置のため)と、12頭のグループ(媒体による処置(対照)に分けた。これらのグループは、基準反応閾値および体重に関してバランスがとれていた。
【0167】
2日前(「−2」)に、13頭の動物からなるグループに2mg/kgのマウス抗−trkCアゴニスト抗体mAb 2256を腹腔内に注射して投与した。実験の期間中は、これらの抗体注射を毎週繰り返した。
【0168】
0日目に、基本的には前掲のPalominoに記載されているように、タキソールまたは媒体による動物の処置を開始した。医療等級のタキソール(無水エタノールおよびCremophore EL(登録商標)(50:50、v:v);Mead Jhonson Oncology Products,Bristrol Myers Squibbの一部門)を含む媒体中に6mg/mlの保存液として得られる。使用直前に、このタキソール保存液を、デキストロース食塩水で1mg/mlに希釈して、0.2ミクロンのフィルターに通して滅菌濾過した。同様に希釈・濾過したCremophore EL(登録商標)/エタノール溶液を、媒体グループにおける対照として用いた。
【0169】
基本的には、Polomanoら,Pain 94(3):293−304(2001)に記載されているとおりに、動物の処置状態について何も知らない調査者がタキソールおよび対照溶液を投与した。具体的には、0、2、4および6日目に、13頭の動物からなる両方のグループ(mAb2256処置したグループとしないグループ)に1.0mg/kgのタキソールを腹腔内注射した。12頭の動物からなるグループ(媒体グループ)には、容量を合わせた対照溶液を同じ投薬スケジュールに基づいて注射した。
【0170】
タキソール処置した後間隔を開けて(7日から11日毎に)、各動物の処置やグループの振り分けについて何も知らない調査者によって、機械的な閾値(すなわち機械的異痛)の測定が行われた。右手と左手の引っ込め閾値の測定値を平均して、全体の引っ込め閾値の測定値を得た。これを図7に示すように、タキソール処置前の各動物について得られた平均閾値、すなわち基準値のパーセントとして表した。データの統計的解析には、2元配置分散分析法(ANOVA)を用いた。
【0171】
図7に示すように、タキソール単独で処置したラットでは、動物の反応閾値の顕著かつ長時間継続する低下が生じ、異痛を示した(2元配置ANOVA解析法を用いるとp<0.0001)。タキソールとアゴニスト抗−trkC抗体によって動物を同時処置すると、タキソール処置した動物で観察された異痛の深度が低下し、異痛からの回復速度が劇的に増加した(2元配置ANOVA解析法を用いるとp<0.05)。
【0172】
タキソール誘発性ニューロパシーの齧歯動物モデルを標準化しようとする努力にもかかわらず、これらのモデルは変異を示した。具体的には、マウスモデルにおいては、本出願において記載されたようにタキソールを投与して、電気生理学的に検出できる感覚性ニューロパシーを生じさせようとする試みを3回行ったうち、1回だけが統計的に有意なニューロパシーを与えた。ニューロパシーを生じた実験を、ここに実施例として示し、タキソールとアゴニスト抗−trkC抗体で処置した動物が、タキソールの作用から顕著な防御を示した。残りの2回の試みでニューロパシーが起こらなかったのは、1回目の実験のためのマウス供給業者のところで病原菌の大発生が起きたため、顕著なニューロパシーを生じなかった2回の実験では動物の由来原を変えたせいかもしれない(すなわち、2回目と3回目の実験における動物は、最初の実験の動物とは異なった動物に由来した)。電気生理学を評価項目として用いたラットモデルでは、タキソールでラットを処置したことのさまざまな効果があった。ここで述べた実験に加えて、顕著なニューロパシーを検出できなかった2回の実験があった。さらに、顕著なニューロパシーを生じた2回の実験があり、抗体処置した動物ではニューロパシーの改善傾向が見られたが、trkCアゴニスト抗体処置の効果は、統計的有意性の標準であるp<0.05には達しなかった。異痛を評価項目として用いたラットモデルでは、タキソール処置による異痛状態を生じさせようとする試みた全部で6回の実験のうち2回で、異痛をもつラットを生み出すことができた。これらのうちの一つが、ここに実施例として示されているものであり(trkCアゴニスト抗体処置によって異痛が改善した)、もう1回は、モデルをテストして、異痛が検出できるかどうかを判定するための最初の実験であった。この実験では、抗体で処置したラットグループがないため、それから、trkCアゴニスト処置の効果の可能性について、何らかの結論を引き出すことはできなかった。
【0173】
前述の発明は、具体例と実施例をもって、理解を明確にする目的で幾分詳しく説明されているが、一定の変更および改変を行いうることは、当業者にとって明らかである。したがって、この明細書と実施例を、発明の範囲を制限するものと解すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】図1は、アゴニスト抗−trkC抗体ではなくNT3が、成人の感覚ニューロンの軸索伸長をもたらしたことを示すグラフである。ラットの成熟後根神経節(DRG)ニューロンの培養物を、さまざまな濃度のNT−3または抗−trkCアゴニストであるマウスモノクローナル抗体2256の存在下または非存在下で増殖させた。PCT公開番号WO01/98361参照。48時間培養した後、培養物を固定し、RT97抗体で染色してから、RT97+ニューロンにおける神経突起伸長を測定した。NT−3による処理は神経突起伸長を劇的に増加させたが、抗−trkC抗体アゴニストによる処理は、顕著な伸長をもたらさなかった。
【図2】図2は、NT−3またはアゴニスト抗−trkC抗体2256存在下でのラットE12三叉神経感覚ニューロンの生存率を示すグラフである。異なった実験条件下で生き残ったニューロンの数を定量するために、平板培養開始後4〜6時間でニューロンの総数をカウントし、24時間後と48時間後にもカウントした。24時間後と48時間後のニューロンの数を、6時間後のカウント数に対するパーセントで表示してある。
【図3】図3A〜3Cは、ラット尾部神経の電気生理学的記録によって測定した、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの進行と用量依存性を示すグラフである。ラットを、1日目と4日目に12もしくは18mg/kgのタキソールまたは対照(賦形剤)をゆっくりとIV注射によって処置した。本明細書に記載されているように、電気生理学記録は、0、14および28日目に行った。
【図4】図4A〜4Cは、ラット坐骨神経の電気生理学的記録によって測定した、タキソール誘発性感覚性ニューロパシーの進行と用量依存性を示すグラフである。ラットを、1日目と4日目に12もしくは18mg/kgのタキソールまたは対照(賦形剤)をゆっくりとIV注射によって処置した。本明細書に記載されているように、電気生理学記録は、0、14および28日目に行った。
【図5】図5は、ラットモデルにおいて、タキソール処置によって誘発された感覚性ニューロパシーが抗−trkCアゴニスト抗体による処置によって改善したことを示すグラフである。ラットを、0日目と7日目に5mg/kgのマウスモノクローナル抗体2256を静脈内(IV)に投与して処置した。1日目と4日目に15 mg/kgの用量で2回、ゆっくりとしたIV注射によってタキソールを投与した。尾部神経について電気生理学記録を14日目に行った。データは、運動神経複合活動電位振幅に対する感覚神経複合活動電位振幅の比率として表している。
【図6】図6は、マウスモデルにおいて、タキソール処置によって誘発された感覚性ニューロパシーが抗−trkCアゴニスト抗体による処置によって改善したことを示すグラフである。ラットを、0日目と7日目に2mg/kgのマウスモノクローナル抗体2256を皮下投与によって処置(首筋下に送達)した。1、3および5日目に総投与量300mg/mを3回分の用量に均等に分けて腹腔内(IP)に投与した。本明細書に記載されているように、電気生理学記録によって尾部神経の感覚機能を14日目に測定した。結果は、運動神経複合活動電位振幅に対する感覚神経複合活動電位振幅の比率として表示している。
【図7】図7は、タキソール処置の前後のさまざまな時点で測定した、機械的な刺激に対するニューロパシーの痛み(機械的異痛)を示すグラフである。タキソールで処置した動物に機械的異痛を生じさせた。タキソール単独で処置したラットでは、動物の応答閾値が顕著かつ持続的な低下を生じ、異痛が起きていることを示した(p<0.0001、2元配置分散分析法を用いて)。タキソールとアゴニスト抗−trkC抗体で動物を同時処置すると、タキソール処置された動物に見られた異痛の程度を低下させ、かつ異痛からの回復速度を劇的に速めた(p<0.05、2元配置分散分析法を用いて)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するための方法であって、該個体に有効量の抗−trkCアゴニスト抗体を投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記抗−trkCアゴニスト抗体が、ヒトtrkCに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗−trkCアゴニスト抗体が、ヒトtrkCと齧歯類trkCに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗−trkCアゴニスト抗体が、trkCのドメイン4中のエピトープに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗−trkCアゴニスト抗体が、ヒト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗−trkCアゴニスト抗体が、ヒト化抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
タキソール誘発性のニューロパシーの痛みが処置される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ニューロパシーの痛みが、異痛を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するための組成物であって、有効量の抗−trkCアゴニスト抗体および薬学的に受容されるキャリアを含む、組成物。
【請求項11】
タキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するためのキットであって、抗−trkCアゴニスト抗体と、該抗−trkCアゴニスト抗体を使用してタキソール誘発性感覚性ニューロパシーを処置するための使用説明書とを含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−513187(P2006−513187A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562586(P2004−562586)
【出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/041367
【国際公開番号】WO2004/058190
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505129415)ライナット ニューロサイエンス コーポレイション (33)
【Fターム(参考)】