説明

タッチパネル用フィルムの製造方法とこれを用いたタッチパネル

【課題】 表面に別途材料を成膜したのちにおいても良好にフィルム材料のリタデーション値を調節することにより、幅広い光学特性の調節を図ることが可能なタッチパネルとその製造方法を提供する。
【解決手段】タッチパネルの製造ステップにおいて、ベースフィルム材料の表面に透明導電膜を成膜して透明導電膜付フィルムを形成する成膜ステップS3と、前記成膜ステップS3後に、前記透明導電膜付フィルムを一体的に加熱処理することで、前記ベースフィルムのリタデーションを調整するアニーリングステップS4を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタッチパネル用フィルムの製造方法とこれを用いたタッチパネルに関し、特に透明導電膜式タッチパネルにおける低反射・高視認性等の光学特性に係る改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナル・デジタル・アシスタント(PDA)、ノートPC、OA機器、医療機器、或いはカーナビゲーションシステム等の電子機器においては、これらのディスプレイに入力手段を兼ね備えるタッチパネルが広く用いられている。
代表的な透明導電膜式タッチパネルは、特許文献1に示されているように、透明なベースフィルムの片面にITO等の透明電極(透明導電膜)が形成されたもの(透明導電膜付きフィルム)が、互いに透明導電膜を一定間隔をおいて対向配置された構成を持つものであって、LCD(液晶ディスプレイ)などのディスプレイ表面に配設されて用いられる。
【0003】
そして駆動時には、ユーザーが透明導電膜付きフィルム上の任意の位置を指やペンで押圧すると、当該押圧位置で透明導電膜同士が接触して通電し、各透明導電膜の基準位置から接触位置までの抵抗値の大きさから押圧位置が検出される。これにより、パネル上の前記接触部分の座標を認識し、適切なインターフェイス機能が図られるようになっている。
ここで特許文献2に示すように、タッチパネルの両面のそれぞれに、円偏光板とλ/4位相差フィルムを積層した構成を持つことにより、外光反射を抑制して視認性を向上させた光学TTP(表面低反射タッチパネル)が開発されている。
【0004】
さらに現在では、特許文献3及び4に示すように、当該光学TTPにおいて、前記ベースフィルムとλ/4位相差フィルムを兼ねた構成とし、その厚みを低減させた薄型光学TTPが開発されるに至っている。
【特許文献1】特開2000−89914号公報
【特許文献2】特開平10−48625号公報
【特許文献3】特開平11−134112号公報
【特許文献4】特開平9−166778号公報
【特許文献5】特開2001−324707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで一般に、通常のタッチパネルでは、人間が肉眼で最も視認しやすい550nm付近の波長の可視光を低反射化させ、視認性を向上させるため、最終的な完成後にそのような性能を発揮させる目的で、タッチパネル製造前に予めλ/4位相差フィルム材料のリタデーション(Re;複屈折位相差)値が最終的な波長の1/4である138nm付近に設定される。当該リタデーション値は、例えば前記フィルム材料を1軸延伸又は2軸延伸し、物理的に材料の樹脂配向状態を調整する。
【0006】
ここでタッチパネルに求められる色調には、実際にはユーザーの様々な要望があり、各要望に対応するために多岐にわたる色調に調節する必要がある。係る場合、前記フィルム材料のリタデーション値をそれぞれ目的の数値に変更することで理論的には対応できるが、予めすべての要望に応えて各光学波長に応じたフィルム材料を必要量作り置くことは現実的でなく、また多品種の同時生産は困難であるという生産効率上の問題がある。そのため、同一品種のものを製造後に所望の色調に調節することが望ましいと言える。また、特許文献5に示すような透明電極膜の成膜条件により可能となる色調調節方法も存在するが、この手法においても予めすべての要望に応えて各光学波長に応じたフィルム材料を必要量作り置くことは現実的でなく、また多品種の同時生産は困難であるという生産効率上の問題がある。
【0007】
しかし、タッチパネルでは、前記フィルム材料に別部材が積層される(例えば前記薄型光学TTPにおいては、当該フィルム材料に直接透明導電膜が積層して成膜される)構成であるために、熱膨張率、展性等の性質の違いにより、いったん前記成膜がなされた後は、もはや前記1軸延伸又は2軸延伸の方法でリタデーション値を調整することは極めて困難である。その結果、ユーザーの要望に応じた色調のフィルムを備えるタッチパネルを十分に提供することは難しいとされている。
【0008】
なお、このような問題は、前記透明なベースフィルムとλ/4位相差フィルム材料とを別個に積層する構成のタッチパネルにおいても同様に存在する。
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであって、フィルム表面に別途材料を成膜したのちにおいても事後的且つ良好に当該フィルム材料のリタデーション値を調節することにより、幅広い光学特性の調節を図ることが可能なタッチパネルとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、ベースフィルムの少なくとも一方の面に透明導電膜を成膜して透明導電膜付フィルムを形成する成膜ステップと、前記成膜ステップ後に、前記透明導電膜付フィルムを一体的に加熱処理することで、前記ベースフィルムのリタデーションを調整するアニーリングステップとを経ることを特徴とするタッチパネル用フィルムの製造方法とした。
【0010】
ここで前記アニーリングステップでは、前記ベースフィルムのリタデーション値を95nm以上200nm以下の範囲に設定する温度範囲で加熱処理することができる。
また、前記アニーリングステップでは、前記加熱処理に係る前記温度範囲を80℃以上200℃以下の範囲に設定することもできる。
【0011】
さらに本発明は、上記方法により製造されたタッチパネル用フィルムを備えるタッチパネルとした。さらに、当該タッチパネルに対し、ディスプレイ本体を積層してなることを特徴とするディスプレイ一体型タッチパネルとすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
以上の各ステップを有する本発明の製造方法によれば、成膜ステップによりベースフィルム上に透明導電膜を形成した後においても、当該ステップ後において、アニーリング(加熱処理)ステップを行うことにより、前記ベースフィルムの光学特性を事後的にコントロールすることができる。
この方法によれば、成膜されたベースフィルムに1軸延伸又は2軸延伸等の物理的変形を伴う機械的処理を行うことなく、専ら加熱温度と環境雰囲気による化学的処理によりそのフィルムの樹脂配向状態が調節されるので、透明導電膜に破損等の問題が生じることを回避して、良好に事後的なリタデーション処理を行うことが可能となる。
【0013】
これにより、本発明の製造方法によれば、いったんベースフィルム表面に透明導電膜が形成された後であっても、タッチパネルのユーザーの望に合わせて、適宜求められる色調にベースフィルムの光学特性を調節することが可能となり、良好な生産効率を維持して目的のタッチパネルを大量に製造することできるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[実施の形態1]
1.タッチパネルの構成
図1は、本発明の実施の形態1にかかる偏光板付透明導電膜式タッチパネル1(以下、単に「タッチパネル1」と言う。)の構成と、これに組み合わされるLCDとの構成例を示す組図である。また図2は、当該タッチパネルのA−A’断面図である。
【0015】
図1に示されるように、タッチパネル1は、上から順に、偏光板10、透明導電膜付フィルム2a(上部ベースフィルム12、透明導電膜13)、スペーサ16、フレキシブルコネクタ30、透明導電膜付フィルム2b(透明導電膜14、下部ベースフィルム15)を積層してなる。透明導電膜付フィルム2bの下には、LCDパネルの構成要素となる、偏光板201a、LCD本体20と偏光板201bとが粘着剤(約25μmの厚み)を用いて同順に積層・固着されており、全体としてLCD一体型タッチパネルの構成をなしている。
【0016】
当該タッチパネル1は、いわゆる「4wire方式」と呼ばれる入力検出方法が採用されており、且つ各ベースフィルム12、15の両方に樹脂フィルム材料を用いた「フィルム-フィルムタッチパネル」と呼ばれる構成である。
偏光板10、201は、例えばそれぞれ厚み200μmの染料系直線偏光板からなる。このうち一方の偏光板10は、上部ベースフィルム12表面に積層され、外部に露出するようになっている。これによりタッチパネル内部へ入射される可視光に起因する反射光量が、当該偏光板を設けない場合に比べて約半分以下にまで抑制する作用がなされる。
【0017】
一方、透明導電膜付フィルム2a、2bのベースとなる上部及び下部ベースフィルム12、15は、それぞれ厚み約100μmのλ/4位相差フィルムで構成されており、透明導電膜13、14の基板と当該位相差フィルムの両方の機能を兼ね備える兼用フィルムである。このような兼用フィルムを利用することで、タッチパネルの全体的な厚みを従来(約780μm)に比べ64%程度薄く(約500μm)できるというメリットがある。
【0018】
下部ベースフィルム15に直接積層される20は、LCD本体部である。これは公知のTFT型LCD基板であって、上から下に同順に、不図示の透明層、カラーフィルタ、液晶分子層、TFT基板、透明層が積層されたユニットを構成している。なお、LCD本体20はTFT型以外でもよく、また上記積層構造に限られない。前記偏光板201は、当該LCD本体部20の上下に積層されている。
【0019】
透明導電膜13、14は、それぞれ上部ベースフィルム12、下部ベースフィルム15の対向表面において、既知の抵抗値(面抵抗)を持つITO(Indium Tin Oxide)、アンチモン添加酸化錫、フッ素添加酸化錫、アルミニウム添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、シリコン添加酸化亜鉛、カリウム添加酸化亜鉛、酸化亜鉛−酸化錫系、酸化インジウム−酸化錫系、或いはこれ以外の各種金属材料等で構成された約30nmの厚みを持つ透明導電膜(透明導電膜)から構成されている。これらの透明導電膜材料はCVD、真空蒸着、スパッタリング、イオンビーム等の方法により成膜されることで、上記ベースフィルム12、15の表面に一様に所定面積・パターンの透明導電膜13、14が形成される。タッチパネル1では図2の断面図に示すように、粘着材、粘着シート、プラスチックフィルム両面に粘着材層を有する両面テープ等からなる高さ約50μmのリブスペーサ18を設けることで、通常は当該透明導電膜13、14同士が一定間隔をおくように対向配置されている。
【0020】
透明導電膜13、14の成膜パターン例としては図1に示すように、各ベースフィルム12、15の対向表面において矩形状に形成させることができる。そして、形成した当該透明導電膜13、14のy軸或いはx軸に並行な一対の辺に沿って、それぞれ引き出し線131、132、141、142を配設することで、全体としてxy直交座標をなすよう形成する。引き出し線131、132、141、142には、電極端子131a、132a、141a、142aが設けられている。なお、133は、電極端子132aと引き出し線132を接続するための接続線である。
【0021】
一方、透明導電膜13、14の間には、フレキシブルコネクター30が所定の位置に介設される。当該フレキシブルコネクター30は、PET或いはポリイミド等の樹脂材料で作製されたフレキシブル基板301と、当該基板表面において、Au、Ag、Cu等の良好な導電性を持つ材料からなる配線302〜305が形成されてなる。配線302〜305には電極端子302a〜305aが形成されている。
【0022】
以上の構成で電気配線が為されたタッチパネル1での入力検出原理(4wire方式)は、駆動時において、まずy軸に沿った引き出し線131、132間に0〜5V程度の直流電圧を印加しておき、ユーザーによる入力がなされるとx軸に沿った引き出し線141、142を電圧検出電極としてy軸方向の位置データを獲得する。
次に、x軸に沿った引き出し線141、142間に電圧印加を行い、y軸に沿った引き出し線131、132を電圧検出電極とすることでx軸方向の位置データを獲得する。これによりxy両方の座標情報が得られる。タッチパネル1ではこのような検出ステップを交互に繰り返すことにより、逐次的にユーザーからの入力情報を獲得し、GUI(Graphical User Interface)としての機能が発揮される。
上部および下部ベースフィルム12、15は、それぞれ厚み約75〜200μmの樹脂フィルムで構成されている。その少なくとも一方の表面にはシリカフィラー等添加された表面処理に係るHC層を設けたり,HC層成膜時に所望の表面粗さを持つ担持体を圧着する等の方法を用いて微細な梨地加工(凹凸処理)が施されており、これによって近接して対向配置されるベースフィルム12、15同士におけるニュートンリングの発生を効果的に抑制し、視認性を向上させるようになっているが,必要なければ,特に設けなくともよい。
【0023】
さらに、上部ベースフィルム12に対向する下部ベースフィルム15の表面には、xy方向に沿ってマトリクス状に半球状のスペーサ16が一定間隔毎に配設され、透明導電膜13、14同士の不要な接触を抑制する構成となっている。当該スペーサ16は光硬化型のアクリル樹脂により作製可能であって、上部および下部ベースフィルム12、15の対向距離に合わせて、例えば高さ10μm、直径10μm〜50μmのサイズに設定されている。なお、当図では図示を容易にするために実際よりスペーサ16のサイズを大きく表している。当該スペーサ16は、半球状以外の形状、例えば円錐状、もしくは円柱状等としてもよい。
【0024】
ここにおいて、本実施の形態1のタッチパネル1の特徴は、前記透明導電膜付フィルム2a、2bの製造方法にある。当該前記透明導電膜付フィルム2a、2bは、ベースフィルム12、15に透明導電膜13、14を成膜後、アニーリングステップを行うことで、透明導電膜13、14の成膜前におけるリタデーション処理とは別に、事後的にベースフィルム12、15のリタデーション処理を施したものである。これにより、従来では非常に困難とされていた、タッチパネルの製造工程進行後、或いは透明導電膜13、14の成膜後におけるλ/4位相差フィルムの光学調整が可能となり、きめ細かいユーザーの要望に柔軟に対応できることとなり、タッチパネルの製造効率、コスト性等の問題を飛躍的に改善することができるようになっている。
【0025】
以下、この特徴について詳細を説明する。
<フィルムの製造方法>
図3は、本発明のタッチパネルの製造ステップを示すフロー図である。ここでは当該タッチパネルの製造ステップにフィルム製造ステップを含めて説明していく。
当該ステップは、図3に示すように、時系列的にはS1からS5の各ステップに分けられる。
【0026】
(フィルム製造ステップS1)
本ステップは、前記ベースフィルム12、15に用いるベースフィルム材料を製造するためのステップである。当該フィルム製造ステップには、公知のロール式フィルム製造装置を用いることが可能である。
(リタデーションステップS2)
このステップでは、上記フィルム製造ステップS1にて作成されたベースフィルム材料について、従来の手法によりリタデーション処理を行う。
【0027】
当該リタデーション処理では、前記延伸を行ったのち、フィルム内の樹脂配向構造をいったん安定させるため等の目的で仕上げを行うため、ベースフィルム材料を加熱ローラで加圧・加熱処理を行う。
なお、ここでいう加熱ローラによる加圧・加熱処理は、以下の「アニーリングステップS4」には含まれず、従来のリタデーション処理の一環として行われる公知の手法である。
【0028】
この1軸延伸又は2軸延伸法によるリタデーションステップにより、ベースフィルムは最終的にタッチパネルとしてくみ上がった場合の光学波長550nmの1/4(この数値設定は視覚に最も作用する波長550nm)である約138nm付近の光学波長を有するように調整される。
(透明導電膜成膜ステップS3)
次に、上記S1、S2を経て作製されたベースフィルムに対し、その表面に透明電極材料を用いて透明導電膜13、14を成膜する。
【0029】
なお、図2に示すステップ例では、ベースフィルムを作製する製造装置(製造工場)から当該フィルムを別途搬入した後、当該S3工程を行うフローについて開示しているが、このような搬入工程の有無は当然ながら任意であり、前記ステップS2から連続的に当該ステップS3を行っても良い。
この透明導電膜成膜ステップS3では、公知の手法であるスパッタリング法を用いて成膜することができる。なお、当該成膜ステップS3は当然ながらスパッタリング法に限定するものではなく、CVD、BVD、真空蒸着法、プラズマ法等、公知の各種成膜方法を利用することができる。
【0030】
そして上記S1〜S3のステップが終了すると、透明導電膜付きフィルムが形成される。
ここで、通常のフィルム製造工程であれば、S5のタッチパネル組み立てステップに移行するが、本発明ではその特徴として、ユーザーからの要望に合わせて光学特性を調節するため、前記ステップS1〜S3が終了したのち、事後的に、前記ベースフィルムのアニーリングステップS4を行うものとする。
【0031】
(アニーリングステップS4)
当該アニーリングステップS4は、表面に別途成膜が施されたフィルム材料を加熱処理することで、当該成膜がなされているにもかかわらず、フィルム材料の光学特性を事後的に調節することができるものである。フィルム材料及びこれに成膜される膜材料としては各種樹脂材料や無機材料を用いることができるが、当然ながら当該加熱処理における耐熱性を具備する必要がある。
【0032】
ここでは一例としてタッチパネル組み立て後の最終的な光学波長が138nmになるようにベースフィルム材料をアニーリングし、Re値を事後調節する以下の条件で設定することができる。
当該アニーリングステップS4を行うための調整条件は、大きく分けて以下の通りである。
【0033】
装 置;循環熱風式オーブン、IR乾燥炉などの温度分布が一様となる加熱装置
加熱条件;ベースフィルムの特性が損なわれない温度・時間
雰 囲 気;大気(なお、加熱条件により、酸化等フィルムが変質する場合は窒素、不活性ガスによるパージ、或いは真空条件とする)
このような設定により、本アニーリングステップS4では、透明導電膜を成膜した後のフィルムに対して行うことができるので、従来のリタデーションステップS2のみで光学特性の調節を行う技術に比べて製造効率上非常に利便性がある特徴を持つ。
【0034】
すなわち、タッチパネルに求められる色調はユーザーの各要望に対応するため、多岐にわたる色調に調節する必要がある。係る場合、前記フィルム材料のリタデーション値を変更することで理論的には対応できるものの、予めすべての要望に応えて各光学波長に応じたフィルム材料を必要量作り置くことは現実的でなく、大量に同様品を生産しにくいという生産効率上の問題がある。
特にタッチパネルでは、例えば前記薄型光学TTPにおいては、当該フィルム材料に直接透明導電膜が積層して成膜されるといった構成がなされるが、各材質の熱膨張率、展性等の性質の違いにより、もはや前記1軸延伸又は2軸延伸等の方法でリタデーション値を調整することは極めて困難であるとされている。これに対し本発明の製造方法における当該アニーリングステップS4によれば、成膜ステップS3により表面に透明導電膜が成膜されたベースフィルムに対し、1軸延伸又は2軸延伸等の物理的変形を伴う機械的処理を行うことなく、専ら加熱温度と環境雰囲気による化学的処理によってそのフィルムの結晶構造を調節することができる。係る場合、フィルム状に形成された透明導電膜に破損等の問題が生じることが回避されるので、良好に事後的なリタデーション処理を実現することができる。
【0035】
以上のように、当該アニーリングステップS4によれば、ベースフィルム表面に透明導電膜が形成された後であっても、タッチパネルのユーザーの要望に合わせて、事後的に適宜求められる色調にベースフィルムの光学特性を調節することが可能となり、良好な生産効率を維持して目的のタッチパネルを大量に製造することできるようになっている。
(タッチパネル組み立てステップS5)
アニーリングステップS4が終了したら、次に図1に示すように、透明粘着剤を用い、偏光板10、透明導電膜付フィルム2a(上部ベースフィルム12、透明導電膜13)、スペーサ16、フレキシブルコネクタ30、透明導電膜付フィルム2b(透明導電膜14、下部ベースフィルム15)を積層する。これにより、タッチパネル1が完成する。
【0036】
なお、本発明における工程は図3に示す例に限定するものではなく、アニーリングステップを行うタイミングを変更することができる。例えば、組み立てステップ(図3のタッチパネル組み立てステップS5の後)においてアニーリングステップを行うことも可能である。
<フィルムの位相差値リタデーション値調整>
ここでは図2を用いて説明した前記製造方法において作製されるフィルムの各特性について説明する。
【0037】
図4は、アニーリングステップによる効果の有効性について示す図である。当該リタデーション処理の設定条件については、下記の条件としている。
装 置:循環熱風式オーブン
加熱条件:
温 度:100℃〜150℃
加熱時間:30分間
雰 囲 気:大気
また、次に示す表1は、当該図4に示すリタデーション値の調整効果について示すデータである。
【0038】
【表1】

【0039】
当該表1に示すように、加熱温度が100℃以上で上昇するのに伴い、フィルム材料の光学特性が変化し始め、140℃以上になると元の数値に比べて18nm以上の光学変化を生じる。
これにより、例えば従来の1軸延伸又は2軸延伸等によるリタデーションステップS2直後のフィルム材料の光学特性が138nm付近であれば、当該140℃でのアニーリング処理により、110nm近くまで減少させられることが予想できる。
【0040】
一方、図4に示されるように、表1の加熱温度の調整により作製されたλ/4フィルム(光学波長が138nm〜105.4nmまでの間で変化)を用いることで、400〜450nmの間の初期ピーク以降の光学波長については、反射率をほぼ5.7以下に抑えることが可能となっており、低反射率のもとで良好な視認性を維持したまま、ユーザーの要望に合わせて色調を変化させて提供できることが示されている。
【0041】
この場合、可視光の変化としては、550nmの標準値に対して300nm近く(ベースフィルム12、15の2枚分の効果により)まで変化し、長波長側の反射光比率が増加することから赤色がかった色調に変化させることが可能である。
なお、図7は参考として、耐熱特性(Tg)が136℃の未成膜フィルムについての同様のデータを示すものである。Tgの違いにより、同一の加熱温度によって変化するリタデーション値の調整幅がそれだけ広くなる。ただし実際の使用に際しては、図7のように予めフィルム特性を把握しておく必要があるのは言うまでもない。
<タッチパネルの光学調整>
次にRe値の変化によるタッチパネル光学特性(色調:反射光分光スペクトル)の変化を示すデータを表2に示す。
【0042】
また、実際にアニーリング処理(加熱処理)を行ったλ/4フィルムを2枚、さらに偏光板を1枚積層した場合の、光学波長と反射率との関係を示すグラフを図5に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
上記表2及び図5に示すように、本発明のアニーリングステップによって、予め各値に設定されたRe値に伴い、フィルムの光学特性(反射率の分光スペクトル)が変化しているのが確認できる。すなわち、Re値を大きく設定すると短波長側の反射光が増加し、反射光が青みを帯びるようになる。逆にRe値を小さく設定すると、長波長側の反射光が増加し、反射光の青みを帯びるようになる。このような本発明の手法に基づき、フィルム材料の目的の色調に光学調整を行うことが可能となっている。
【0045】
なお、図8は参考として、耐熱特性(Tg)が136℃の未成膜フィルムについての同様のデータを示す。Tgの違いにより、同一の加熱温度(加熱時間は1/3)によってもリタデーション値の変化量が異なる。このことから、Tg値の低いフィルムを選択することにより、より低温、または短時間加熱での大幅な色調調整が可能であることが伺える。
<その他のタッチパネルの構成について>
実施の形態1では、ベースフィルム12、15がλ/4位相差フィルムを兼ねる、兼用フィルムの構成について例示したが、当然ながら本発明はこれに限定されない。
【0046】
ここで図6は、ベースフィルム12、15とは別に、λ/4位相差フィルム11a、11bを積層して用いるタッチパネル構成を示す図である。本発明ではこの場合においても、λ/4位相差フィルム11a、11bをいったん製造したのち、アニーリングステップを施すことで、事後的にリタデーション処理を行うことができるといったメリットがある。
【0047】
また、上記各実施の形態では、上部及び下部ベースフィルムのいずれも樹脂フィルムを用いる構成について説明したが、本発明ではこのうち少なくとも一方に樹脂フィルムを用い、当該樹脂フィルムに透明導電膜を形成してなる透明導電膜付きフィルムとしても構わない。
2.その他の事項
本発明は透明導電膜付きフィルム等の当該フィルム材料とその製造方法に主たる特徴を有するものであるため、これを利用したタッチパネルは上記実施の形態で挙げた構成例に限定されず、これ以外の構成を持つものにも適用可能である。例えば、両面に偏光板を配されたLCDにおいても、上記構成のタッチパネルは適応可能である。
【0048】
また、例えば上部偏光板には、さらにその表面に別途、LR(Low Reflection)層、AR(Anti Reflection)層等の低反射層を設けることで、最表面からの低反射化が可能となるので、さらなる視認性の向上が可能である。本発明では、このような工夫を行うのも望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のタッチパネルは、低反射が望まれ、更に色調調整が望まれる用途において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態1に係るタッチパネルとLCDとの組図である。
【図2】前記タッチパネルの断面図である。
【図3】フィルム製造ステップを示す図である。
【図4】実施例のデータ(加熱温度とリタデーション値との関係)を示す図である。
【図5】実施例のデータ(タッチパネルの光学波長と反射率との関係)を示す図である。
【図6】本発明の別の構成のタッチパネルを示す図である。
【図7】加熱温度とリタデーション値との関係についての参考データを示す図である。
【図8】タッチパネルの光学波長と反射率との関係についての参考データを示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 タッチパネル
2a,2b 透明導電膜付フィルム
11a、11b λ/4位相差フィルム
10 偏光板
12 上部ベースフィルム
13、14 透明導電膜(透明電極膜或いは電極層)
15 下部ベースフィルム
16 スペーサ
17、42 空気層
18 リブスペーサ
20 LCD本体
30 フレキシブルコネクター
131、132、141、142、302、303、304、305 引き出し線
133 接続線
131a、132a、141a、142a、302a〜305a 導電端子
201a、201b 偏光板
301 フレキシブル基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの少なくとも一方の面に透明導電膜を成膜して透明導電膜付フィルムを形成する成膜ステップと、前記成膜ステップ後に、前記透明導電膜付フィルムを一体的に加熱処理することで、前記ベースフィルムのリタデーションを調整するアニーリングステップとを経る
ことを特徴とするタッチパネル用フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記アニーリングステップでは、前記ベースフィルムのリタデーション値を95nm以上200nm以下の範囲に設定する温度範囲で加熱処理する
ことを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アニーリングステップでは、前記加熱処理に係る前記温度範囲を80℃以上200℃以下の範囲に設定する
ことを特徴とする請求項2に記載のタッチパネル用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記成膜ステップで用いる前記ベースフィルムは、位相差フィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタッチパネル用フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法により製造されたタッチパネル用フィルムを備える構成であることを特徴とするタッチパネル。
【請求項6】
請求項5に記載のタッチパネルに対し、ディスプレイ本体を積層してなることを特徴とするディスプレイ一体型タッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−25800(P2007−25800A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203358(P2005−203358)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】