説明

タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防もしくは治療用または記憶障害の改善用の薬学的組成物

【課題】タラヨウ(Ilex latifolia)抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用組成物の提供。
【解決手段】具体的には、水、アルコール、またはそれらの混合物を溶媒として抽出したタラヨウ抽出物が、脳梗塞誘発ラットにおいて脳梗塞及び脳浮腫を抑制し、アミロイドβタンパク質[Aβ(25-35)]を投与して神経毒性を誘発したマウスにおいて記憶障害を抑制し、かつ過酸化水素によって誘発された酸化ストレス、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸、神経毒性を誘発するAβ(25-35)、及び低酸素症によって誘導された大脳皮質神経細胞の細胞死を用量依存的に抑制することを確認したことから、タラヨウ抽出物は、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物または健康機能食品の有効成分として有用に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性脳卒中、すなわち脳梗塞は、血管の動脈硬化症による脳動脈の血栓や塞栓と心臓疾患などによる心因性塞栓が主な原因である。脳血管が詰まって発生する脳梗塞症はまた、脳血栓症と脳塞栓症に区分される。脳血栓症は、高血圧、糖尿病、高脂血症などによって動脈硬化症が引き起こされて動脈の壁が厚くなったり固くなったりすることで血管が細くなり、血管の内壁が傷つきやすく滑らかでないために血液が引っかかって詰まり、血液の供給が顕著に減少したり中断したりし、脳細胞に送られる酸素及び栄養供給が不足し、それにより脳機能の障害が引き起こされる。脳塞栓症は、心臓弁膜症または心房細動などの疾患によって心臓内の血液の流れに異常が生じて、血液の一部が心臓内に部分的に停滞して凝固することで血液の残留物が生じ、それがはがれて脳血管を塞ぐことで脳梗塞が発生する。
【0003】
血管性認知症は、脳血管疾患による脳損傷によって発生する後天性で非可逆的な認知機能の低下を意味する。脳卒中及び脳梗塞によって発生する認知症は、認知症全体の約1/3を占め、アルツハイマー型認知症の次に多い頻度を示している。一般的な脳卒中及び脳梗塞と同じく、高齢、喫煙など血管性危険因子を有している患者において脳の大血管あるいは小血管閉塞が発生すると、大脳皮質あるいは皮質下部の連合神経繊維が破壊されて血管性認知症が発生することが知られている。血管性認知症は、原因となる血管病理や認知症を起こした病変の位置によって多発脳梗塞性認知症、皮質下虚血性血管性認知症(subcortical ischemic vascular dementia)及び局在病変型梗塞認知症(strategic infarct dementia)などに分類することができる。その中で、局在病変型梗塞認知症は、尾状核、前頭葉内側、内包膝(genu of internal capsule)などに発生した病変によって認知症が現れることを意味する。小さな血管疾患によるラクナ梗塞あるいは不完全梗塞によって発生する白質病変は、主に前頭葉−皮質下回路(prefrontal-subcortical circuit)を損傷させる。それによって記憶障害など典型的な認知症の症状よりは、精神緩慢、失行症などの皮質下機能不全(subcortical dysfunction)が現れ得る。
【0004】
アルツハイマー病(AD)は、神経細胞の喪失と、アミロイド前駆体タンパク質に由来した39〜43アミノ酸のペプチドであるアミロイドβタンパク質(Aβ)を主要構成成分とする細胞外老人斑とを特徴とする。インビトロ及びインビボ研究の結果、AβペプチドまたはAβペプチド断片は毒性作用を有することが報告され、AβがADの発病に重要な役割を有することが示唆されている(非特許文献1、2)。蓄積すると、Aβは神経細胞の死滅を直接的に誘導して神経細胞を興奮毒性及び酸化性損傷に対して脆弱にさせる。NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体は、Aβ結合の選択的基質、およびAβにより誘発されるグルタミン酸興奮毒性の媒介者として作用する。NMDA受容体は、特にCa2+について高度に透過性であるリガンド依存性/電圧感受性陽イオンチャネルである。[Ca2+iの広範囲な上昇は、直接的に細胞機能不全、過剰興奮、または死滅に至らしめる。したがって、非競争的NMDA受容体拮抗剤である(5R.10S)-(+)-5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン-5,10-イミンマレイン酸塩(MK-801)によってAβの神経毒性作用が減少するという報告によって証明されるように、Aβ曝露によるNMDA受容体を通じたCa2+流入は、Aβにより誘導された神経毒性において決定的な役割を有する。活性酸素(ROS)の形成も退行性脳疾患の発病に関与すると考えられる。活性酸素が、神経細胞の恒常性を妨害する広範囲な分子的形状を通じて神経退化を触発したり促進したりすることで、Aβにより媒介された神経疾患において活性因子として酸化性ストレスに関与することを裏付けるいくつかの証拠がある。しかし、NMDA受容体拮抗剤と神経細胞チャネルの直接的遮断剤の臨床的有益性は、それらが有意な効能に欠けていたり深刻な副作用を有したりすることから、議論の余地がある。
【0005】
大部分の退行性脳疾患は、認知症、特に認知障害と記憶障害(記憶力減退)を伴う。したがって、認知症を含めた退行性脳疾患の好ましい治療剤は、脳細胞の破壊と老化を遅延させて脳細胞を保護し、認知機能を回復させなければならない。これまでに開発された薬剤としては、活性酸素による脳細胞の破壊を抑制するビタミンEおよびセレギリン(selegiline)などの抗酸化剤、タクリン(Tacrine)、アリセプト(Aricept)、及びエクセロン(Exelon)などのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬などがある。しかし、このような薬剤は、多くの副作用を誘発することが報告されていて、その効能が十分ではないという短所がある。
【0006】
モチノキ科(Aquifoliaceae)に属するタラヨウは、中国及びベトナムなどに分布して主に中国南部で多く飲用される苦丁茶の主要原料として知られている。苦丁茶は、伝統医学において頭痛、高血圧などの治療剤に用いられており、特にタラヨウは虚血性心臓疾患及び心筋梗塞などの治療剤に用いられてきた。しかし、タラヨウが退行性脳疾患に効能があることは確認されたことがないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明者らは、脳血管疾患の予防及び治療効果を有する天然物質の開発の試みにおいて、タラヨウ抽出物が脳梗塞誘発ラットにおいて脳梗塞及び脳浮腫を抑制し、Aβ(25-35)を投与して神経毒性を誘発したマウスにおいて記憶障害を抑制し、かつ過酸化水素(H2O2)によって誘発された酸化ストレス、グルタミン酸、及びAβ(25-35)などの毒性物質、ならびに低酸素症によって誘導された大脳皮質神経細胞の細胞死を用量依存的に抑制することを確認した。したがって、本発明者らは、本発明のタラヨウ抽出物が脳血管疾患の予防または治療用の薬学的組成物及び健康機能食品の有効成分として有用に用いられることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Butterfield et al., Free Radical Biology and Medicine, 2002年, 第32巻, p.1050-1060
【非特許文献2】ButterfIeld et al., Free Radical Biology and Medicine, 2007年, 第43巻, p.658-677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、タラヨウ(Ilex latifolia)抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物及び健康機能食品を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の薬学的組成物及び健康機能食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物及び健康機能食品を提供する。
【0012】
また、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の薬学的組成物及び健康機能食品を提供する。
【0013】
本発明(1)は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物である。
本発明(2)は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の薬学的組成物である。
本発明(3)は、前記抽出物が、水、アルコール、またはこれらの混合物を溶媒として抽出されることを特徴とする、本発明(1)または(2)の薬学的組成物である。
本発明(4)は、前記抽出物が、エチルアルコールを溶媒として抽出されることを特徴とする、本発明(1)または(2)の薬学的組成物である。
本発明(5)は、虚血性疾患が、脳梗塞、脳虚血、及び脳卒中からなる群より選択されるいずれか一つであり、退行性脳疾患が、認知症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びクロイツフェルト・ヤコブ病からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、本発明(1)または(2)の薬学的組成物である。
本発明(6)は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または改善用の健康機能食品である。
本発明(7)は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の健康機能食品である。
本発明(8)は、前記抽出物が、水、エチルアルコール、またはこれらの混合物を溶媒として抽出されることを特徴とする、本発明(6)または(7)の健康機能食品である。
本発明(9)は、前記抽出物が、エチルアルコールを溶媒として抽出されることを特徴とする、本発明(6)または(7)の健康機能食品である。
本発明(10)は、虚血性疾患が、脳梗塞、脳虚血、及び脳卒中からなる群より選択されるいずれか一つであり、退行性脳疾患が、認知症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びクロイツフェルト・ヤコブ病からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、本発明(6)または(7)の健康機能食品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタラヨウ抽出物は、脳梗塞誘発ラットにおいて脳梗塞及び脳浮腫を抑制し、Aβ(25-35)を投与して神経毒性を誘発したマウスにおいて記憶障害を抑制し、かつ過酸化水素によって誘発された酸化ストレス、グルタミン酸、及びAβ(25-35)などの毒性物質、ならびに低酸素症によって誘導された大脳皮質神経細胞の細胞死を効果的に抑制することから、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物及び健康機能食品の有効成分として有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】タラヨウの、結紮/血流再開による脳梗塞に対する抑制効果(組織病変)を確認した図である。
【図2】脳梗塞誘発ラットにおけるタラヨウの脳梗塞及び脳浮腫抑制効果を確認した結果を示した図である。
【図3】Aβ(25-35)によって神経損傷を誘発したマウスにおいて受動回避試験を通じて記憶障害抑制効果を確認した結果を示した図である。
【図4】Aβ(25-35)によって神経損傷を誘発したマウスにおいて水迷路試験を通じて記憶障害抑制効果を確認した結果を示した図である。
【図5】H2O2によって誘導された酸化ストレスによる大脳神経細胞死に対するタラヨウの抑制効果をMTT分析を通じて示した図である。
【図6】グルタミン酸によって誘導された大脳神経細胞死に対するタラヨウの抑制効果をMTT分析を通じて確認した図である。
【図7】Aβ(25-35)によって誘導された大脳神経細胞死に対するタラヨウの抑制効果をMTT分析を通じて確認した図である。
【図8】低酸素症によって誘導された大脳神経細胞死に対するタラヨウの抑制効果をMTT分析を通じて確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の薬学的組成物を提供する。
【0019】
タラヨウは、栽培したものまたは市販のものなどを非限定的に使用することができる。
【0020】
前記タラヨウ抽出物は、下記の工程を含む作製方法によって作製することが好ましいが、それに限定されない。
【0021】
前記タラヨウ抽出物は、
1)タラヨウに抽出溶媒を加えて抽出する工程;
2)工程1)の抽出物を冷却し、次いで濾過する工程;及び
3)工程2)の濾過した抽出物を還流凝縮し、次いで乾燥する工程
を順に遂行することで、作製することができる。
【0022】
抽出溶媒は、水、アルコール、またはそれらの混合物を使用することが好ましい。アルコールとしては、C1ないしC2の低級アルコールを用いることが好ましく、エチルアルコールを用いた場合、他の溶媒を用いた場合より効率的であったため、低級アルコールではエチルアルコールを用いることがさらに好ましい。抽出方法としては、振蕩抽出、ソックスレー抽出、または還流抽出を用いるのが好ましいが、これに限定されない。乾燥したタラヨウの分量の5ないし15倍の抽出溶媒を添加して抽出することが好ましく、10倍の抽出溶媒を添加して抽出することがさらに好ましい。抽出温度は、40ないし100℃が好ましく、60ないし80℃がさらに好ましいがこれに限定されない。また、抽出時間は4ないし24時間が好ましく、8ないし15時間がさらに好ましいがこれに限定されない。同時に、抽出回数は1ないし5回であることが好ましく、3回繰り返し抽出することがさらに好ましいがこれに限定されない。
【0023】
前記方法において、工程3)の乾燥は、減圧乾燥、真空乾燥、沸騰乾燥、噴霧乾燥、または凍結乾燥することが好ましいが、これに限定されない。
【0024】
虚血性疾患または退行性脳疾患は、脳梗塞、脳虚血、脳卒中、認知症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びクロイツフェルト・ヤコブ病からなる群より選択されるいずれか一つであることが好ましいがこれに限定されない。
【0025】
本発明の具体的な実施例において、本発明者らは、脳梗塞誘発ラットにおけるタラヨウ抽出物の脳梗塞及び脳浮腫抑制効果を確認した(図1及び図2、表1参照)。また、アミロイドβタンパク質[Aβ(25-35)]を投与して神経毒性を誘発したマウスにおいて受動回避試験(ステップスルー)及びモリスの水迷路実験を通じてタラヨウ抽出物が記憶障害を抑制することを確認した(図3及び図4参照)。
【0026】
また、本発明の具体的な実施例において、過酸化水素(H2O2)によって誘発された酸化ストレス、グルタミン酸、及びAβタンパク質などの毒性物質による大脳皮質神経細胞の細胞死をタラヨウ抽出物が用量依存的に抑制することを確認した(図5ないし図7参照)。また、低酸素症によって誘導された大脳皮質神経細胞の細胞死がタラヨウ抽出物によって用量依存的に抑制されることを確認した(図8参照)。
【0027】
したがって、本発明のタラヨウ抽出物は、脳血管疾患の予防もしくは治療用または記憶障害の改善用の薬学的組成物の有効成分として用いることができる。本発明のタラヨウ抽出物を含む組成物は、タラヨウ抽出物を総重量に対して0.1ないし50重量%で含むことが好ましいが、これに限定されない。
【0028】
本発明の組成物は、臨床投与時に経口または非経口での投与が可能な一般的な医薬製剤の形態で使用することができる。すなわち、本発明の組成物は、実際の臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形で投与することができ、製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、及び界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤できる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸薬、散剤、顆粒剤、及びカプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、本発明の薬学的組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、及びゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤なども使用できる。経口投与のための液体製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤、及びシロップ剤などが該当し、一般に使用される単純希釈剤の水、流動パラフィン以外に様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味料、香料、及び保存剤などを含むことができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶液、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、及び坐薬が含まれる。非水性溶液および懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどを使用することができる。坐薬の基剤としては、ハードファット、マクロゴール、Tween-61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、及びゼラチンなどを使用することができる。本発明の薬学的組成物は、非経口投与時に、皮下注射、静脈注射、または筋肉内注射を用いることができる。
【0029】
投薬単位は、例えば個別投薬量の1、2、3、もしくは4倍を含むか、または1/2、1/3、もしくは1/4倍を含むことができる。個別投薬量は、有効量の薬物が1回で投与される量を含むことが好ましく、これは通常、1日投与量の全部、1/2、1/3、または1/4倍に該当する。本発明の組成物の有効用量は、0.0001〜10g/kg、好ましくは0.0001g〜5g/kgであり、一日に1〜6回投与することができる。
【0030】
本発明の組成物は、単独で、または手術、ホルモン治療、化学治療、及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して、脳血管疾患の予防及び治療用に使用することができる。
【0031】
また、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または改善用の健康機能食品を提供する。
【0032】
また、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の健康機能食品を提供する。
【0033】
本発明の具体的な実施例において、本発明者らは脳梗塞誘発ラットにおけるタラヨウ抽出物の脳梗塞及び脳浮腫抑制効果を確認し(図1及び図2、表1参照)、かつ神経毒性を誘発したマウスにおいてタラヨウ抽出物が記憶障害を抑制することを確認した(図3及び図4参照)。また、酸化ストレス、毒性物質、及び低酸素症による大脳皮質神経細胞の細胞死をタラヨウ抽出物が用量依存的に抑制することを確認した(図5ないし図8参照)。
【0034】
したがって、本発明は、タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防もしくは改善用または記憶障害の改善用の健康機能食品に使用することができる。
【0035】
本発明の健康機能食品は、タラヨウ抽出物をそのまま添加するか他の食品または食品成分とともに用いられ、通常の方法によって適切に用いられる。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康、または治療的処置)に応じて適宜決定することができる。一般的に、食品または飲料の製造時において、本発明の組成物は原料に対して15重量部以下、および10重量部以下の量で添加することが好ましい。しかし、健康及び衛生を目的とするかまたは健康管理を目的とする長期間摂取の場合には、前記範囲以下の量であってもよく、安全面で何ら問題がない限りにおいて、有効成分は前記範囲以上の量で用いられてもよい。
【0036】
前記食品の種類には、特別な制限はない。前記物質を添加することができる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む乳製品、各種スープ、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料、及びビタミン複合剤などがあり、一般的な意味での健康食品をすべて含む。
【0037】
本発明の健康飲料組成物は、通常の飲料と同様にさまざまな香料または天然の糖質などを追加成分として含むことができる。上述した天然の糖質は、ブドウ糖、果糖などの単糖類、マルトース、スクロースなどの二糖類、及びデキストリン、シクロデキストリンなどの多糖類、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。甘味料としては、タウマチン、ステビア抽出物などの天然甘味料や、サッカリン、アスパルテームなどの合成甘味料などを使用することができる。天然の糖質の割合は、本発明の組成物100ml当り一般的に約0.01〜0.04g、好ましくは約0.02〜0.03gである。
【0038】
上記以外にも、本発明のタラヨウ抽出物は、さまざまな栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含むことができる。その他にも、本発明のタラヨウ抽出物は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料、及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。このような成分は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。このような添加剤の割合は、限定されないが、本発明の組成物100重量部当たり0.02〜1重量部の範囲で選択することが一般的である。
【0039】
本発明のタラヨウ抽出物は、毒性及び副作用がほとんどないので、予防目的で長期間服用する場合にも安全に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び製造例によって詳しく説明する。
【0041】
但し、下記の実施例及び製造例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例及び製造例によって限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>タラヨウ抽出物の作製
<1-1>エチルアルコール抽出物の作製
タラヨウをソウル市キョンドン漢方薬市場で購入し、細かく切って使用した。タラヨウ100gを準備した後、3Lの100%エチルアルコールで還流凝縮器を用いて3時間室温で3回抽出した。前記溶液をワットマンNo.1濾紙で濾過し、乾燥し、最終的にエチルアルコール抽出物18.7gを得た。最終的に得たタラヨウ抽出物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に50mg/mlの濃度で溶解して-20℃で保管した。実験時、実験用緩衝液にDMSOの最終濃度が0.1%以下になるように希釈して使用した。
【0043】
<1-2>水抽出物の作製
抽出溶媒として100%エチルアルコールの代わりに水を使用したことを除いて、前記実施例<1-1>の抽出方法と同様に抽出して粉末を得た(収率21.5%)。
【0044】
<1-3>80%エチルアルコール抽出物の作製
抽出溶媒として100%エチルアルコールの代わりに80%エチルアルコールを使用したことを除いて、前記実施例<1-1>の抽出方法と同様に抽出して粉末を得た(収率20.4%)。
【0045】
<1-4>100%メタノール抽出物の作製
抽出溶媒として100%エチルアルコールの代わりに100%メタノールを使用したことを除いて、前記実施例<1-1>の抽出方法と同様に抽出して粉末を得た(収率19.1%)。
【0046】
<実施例2>脳梗塞誘発ラットにおけるタラヨウ抽出物の脳梗塞及び脳浮腫抑制効果の確認
本発明者らは、脳梗塞誘発ラットにおけるタラヨウ抽出物の効能を確認するために、下記のような実験を遂行した。まず、300±5gのSDラット(セムタコ、京畿道)を1〜2%イソフラン(N2:O2=4:1)で吸入麻酔した後、外科的手術で右側頚動脈を注意深く露出させた。前記ラットの外頚動脈から中央部に分枝する舌動脈(lingual artery)と外頚動脈から内頚動脈の方へ分枝する甲状腺動脈(thyroid artery)を電気的焼灼して結紮した。ここで、各タラヨウ抽出物(各50、100、または200mg/kg)または陽性対照群であるMK-801(1mg/kg)を動脈結紮前30分及び結紮後1時間、及び結紮除去後1時間に経口で投与した。陰性対照群として何も入れていない実験用緩衝液(生理食塩注射液)を投与したラットを使用した。その後、内頚動脈の上方へY字状の分枝が確認されるまで周辺をよく整理した後、外頚動脈の頭側部分を糸で縛って血の流れを遮断し、総頚動脈と内頚動脈間の血流の流れを防止するために上下をクリップで止めた。その後、総頚動脈に小さな穴を作ってプローブを挿入した後、プローブと外頚動脈の下部分を出血にならない程度に糸で緩く縛った後に血流を止めたクリップを除去した。プローブを挿入した穴と外頚動脈を縛った部分の間を切った後、外頚動脈に挿入されたプローブを内頚動脈の方に注意深く挿入し、内頚動脈上側でY字状に分枝する血管の中で内側の血管にプローブを挿入した。ここで、プローブは総頚動脈の分枝部から20mmだけ挿入した。手術直後に直腸体温を測り始めて、以後6時間、37±0.5℃に維持した。閉塞の2時間後にプローブを除去して血流再開させ、24時間後にラットを頚椎脱臼により屠殺した後、脳を取り出した。取り出した脳をBrain matrixを用いて2mmの厚さに切った後、2%のTTC溶液で37℃で30分間染色してデジタルカメラで撮影し、画像分析システム(Optimas 6.1, Media Cybernetics, Silver Springs, 米国)を用いて梗塞容積及び浮腫容積を測定した。ここで、賦形剤で処理した群を対照群として各抽出物の梗塞容積を表1に示し、最も効果が高かったエチルアルコール抽出物の脳梗塞容積及び脳浮腫容積を図1にグラフで示した。
【0047】
その結果、図1に示されたように、タラヨウは、結紮/血流再開法によって梗塞を起こしたラット脳組織の梗塞容積及び浮腫容積を顕著に減少させた。一列目の脳組織は、正常状態のラットの脳では、虚血を起こさず、脳がすべて赤く染色された様子が見られる。二列目は、何も処理しない状態で脳虚血を誘導した時の写真で、脳梗塞によって左側半球が白くなっていることが分かり、これに対し三列目の写真の脳は、タラヨウ200mg/kgを動脈結紮前30分、結紮後1時間、及び結紮除去後1時間に経口投与した動物の脳で、頚動脈結紮によって誘発される脳虚血による脳梗塞を顕著に抑制した。四列目は、陽性対照群に用いたMK-801を投与したラットの脳写真である。
【0048】
また、図2に示したように、陰性対照群は354.3mm3の梗塞容積を示したのに対し、タラヨウ50mg/kg投与群は166.0mm3、100mg/kg投与群は136.3mm3、200mg/kg投与群は108.3mm3で、用量依存的に梗塞を抑制することが分かった。また賦形剤投与群の脳浮腫容積は62.5mm3であるのに対し、タラヨウ投与群は50mg/kg投与群が40.6mm3、100mg/kg投与群が28.3mm3、200mg/kg投与群は21.8mm3であり、脳浮腫を顕著に低減した。以降の実験では、脳梗塞抑制効果が最も高いエチルアルコール水溶液抽出物だけで実験した。
【0049】
【表1】

【0050】
<実施例3>受動回避試験(ステップスルー)による記憶及び学習の測定
動物は、ICRマウス(BioLink Co. 大韓民国)を使用し、購入後の一定期間、適応期間を設けた後、実験初日(0日目)にタラヨウ(25、50、または100mg/kg)を経口投与して、30分後に27ゲージの針を装着した微細注射器を使用して1mM Aβ(25-35)(Bachem, スイス)15μl(15nmol)を脳室内にゆっくり注入した(Maurice T et al., Brain Reserch, 1996年, 第706巻, p.181-193)。その後1週間、それぞれ25、50、及び100mg/kgのタラヨウ抽出物を1日1回経口投与しながら、動物を受動回避箱(ステップスルー型装置)(Gemini II avoidance system, Sandiego Instrument)の明室に置いて両区画に適応するようにする適応試験を3回以上行なった。7日目にタラヨウ抽出物(25、50、または100mg/kg)を経口投与して30分後に動物を明室に置いた後、10秒後に扉を開き、動物が暗室に入った際には扉が閉まると共に電気刺激(0.2mA、2秒)が加えられるようにして前記マウスを一試行ステップスルー型受動処理(One trail step through passive-task)に条件付けした。前記受動回避箱は、断頭台形の扉で、格子底及び衝撃生成器を有する二つの区画(各25(W)×21(D)×19(H)cm)に区分されている。暗条件でマウスを開始地点に置いた後、50秒後に電気を点けた後に扉を開き、マウスが暗室に入った際には扉が閉まると共に電気刺激(0.2mA、2秒)が加えられるようにして動物が暗室内での電気ショック経験を記憶するようにした。24時間後に動物を明室に入れて同じ実験をすると、前日のショックを記憶している動物は暗室に移動しなかった。明室での動物の滞在時間を測定して記憶形成の指標にし、5分以上の滞在時間を有するものは5分とした。
【0051】
その結果、図3に示されたようにAβ(25-35)(15nmol)を脳室内に投与して1週間後に受動回避実験をすると、投与しない群が259秒で暗室へ入ったのに対し、Aβ(25-35)投与群は30秒で暗室に移動した。これは、記憶が形成されなかったことを意味する。これに対しタラヨウ抽出物を25、50、及び100mg/kgを1週間毎日投与した群は、用量依存的に暗室へ入るまでの時間が増加し、25mg/kg投与群は70秒、50mg/kg投与群は197秒、100mg/kg投与群は238秒に、すべてのグループにおいて有意に増加し、Aβ(25-35)による記憶障害を抑制することが分かった。
【0052】
<実施例4>モリスの水迷路による記憶及び学習の測定
直径90cm、深さ40cmの円型水槽を4等分して一つの区画に高さ20cmの足場を設置した。水の温度を20℃にして足場より1.5cm高く満たした後、全脂粉乳で不透明にして水面から足場が見えないようにした。マウスを任意の群に分け、各区画で一回ずつ泳がせて足場を探させる実験(予備試験)を一時間間隔で4区画で行ない、その時間を測定し(予備値)、最大水泳時間を2分として足場が探すことができない場合、人為的に足場に1分間乗せた。二日目に、受動回避実験と同じくマウスの脳室内に15nmolのAβ(25-35)を投与し(0日目)、対照群は滅菌生理食塩水を投与した。タラヨウ抽出物はAβ(25-35)を投与した日から始めて水迷路試験が終わる日まで毎日一回ずつ経口投与した。Aβ(25-35)を投与して4日目から毎日5日間(4日目〜8日目)、予備試験と同様の方法で、各マウスにつき一時間間隔で4回、足場を探し出すまでの時間を測定して平均値(到達までの時間)を測定し、記憶形成の程度を決定した。
【0053】
その結果、図4に示されたように、すべての群に関して投与前の値(0日目)とAβ(25-35)(15nmol)投与後実験5日目の値を比べると、対照群が116.2->27.9秒で記憶が形成されたのに対し、Aβ(25-35)のみを投与した群は114.8->116.1秒で記憶が形成されなかったことが分かる。それに対しタラヨウ抽出物を5日間経口投与した群は、25mg/kg投与群は114.5->76.5秒、50mg/kg投与群は113.2->35秒、100mg/kg投与群は105.0->62.5秒ですべての投与群で記憶が形成されてAβ(25-35)による記憶障害を抑制することが分かり、50mg/kg投与群での抑制効果が最も優れていた。
【0054】
<実施例5>毒性物質で処理した大脳皮質神経細胞においてタラヨウ抽出物が細胞生存率に及ぼす効果の確認
<5-1>大脳皮質神経細胞の培養
初代大脳皮質神経細胞を、15ないし16日齢のスプラーグドーリーラット胎児から公知の方法で調製した(Ban JY et al., Life science, 2006年, 第79巻, p.2251-2259)。簡略に述べると、妊娠15日目のラットからエーテル麻酔下で胎児を取り出して、顕微鏡下で大脳皮質のみを取り出した。これをトリプシン(0.25mg/ml)を含むJMEM(Joklik変法イーグル培地)に入れ、5mlのピペットによって機械的に分散した後、これを37℃で10分間培養して酵素的に分離した。前記細胞懸濁液を1,500rpmで5分間遠心分離して得た細胞を含む沈澱層に、重炭酸ナトリウム(44mM)、ペニシリン(40U/ml)、ゲンタマイシン(50g/ml)、KCl(5mM)、及び10%牛胎児血清を含むDMEMを加えて、細胞濃度を2×106細胞/mlに調整して、ナイロンメッシュ(35μm)を通過させた後、あらかじめポリ−L−リジンでコーティングした培養容器に播種した。37℃、5%CO2/95%窒素を維持する条件のCO2インキュベータで培養した。
【0055】
<5-2>タラヨウ抽出物の神経細胞死滅抑制効果の測定
本発明者らは、前記実施例1で得たタラヨウの混合抽出物が神経細胞死滅に及ぼす影響を確認するために下記実験を行なった。ここで、前記実施例5-1で調製した大脳皮質神経細胞を培養3〜4日目に実験に使用した。前記神経細胞を何も処理しないか、前記実施例1で得たタラヨウ抽出物10、50、及び100μg/mlで処理した。処理してから15分後、神経細胞毒性を誘導するために前記神経細胞に無血清ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に溶解した10μM Aβ(25-35)(Bachem, スイス)で処理して37℃で36時間培養した(Aβ単独処理群及びAβ+タラヨウ抽出物処理群)。その後、公知の方法で3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル-2,5,ジフェニルテトラゾリウムブロマイド;MTT)分析を行なった(Ban JY et al., 2006年)。
【0056】
この方法は、細胞の生存、増殖を量的に測定する高感度で安定した方法であり、生きている細胞内で黄色の水溶性基質MTTを濃い青色のホルマザンに転換させるミトコンドリアの活性に基づく。したがって、生成されるホルマザンの量は生きている細胞の数に比例する。吸光度が高いほど生きている細胞数が多い。薬物処理後24時間培養した細胞の培地を除去した後、MTT(0.5mg/ml)溶液を加えて37℃で4時間培養した。その後、MTT溶液を除去して200μlの酸性イソプロパノール(0.04N イソプロパノール中HCl)をすべてのウェルに加え、形成された濃い青色のホルマザン結晶を溶解した後、マイクロエリザリーダー(microelisa reader)によって波長570nm(参照波長630nm)で吸光度を測定する。ここで、薬物処理をしない細胞を対照群としてこれを100%として各毒性物質(過酸化水素(H2O2)、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸、及びアミロイドβタンパク質)単独処理及び毒性物質とタラヨウの両方で処理した細胞群の吸光度を%で示した。ここで、H2O2は、虚血性脳損傷を説明するために酸化ストレスを加える目的で使用したものである。
【0057】
その結果、図5に示したように対照群(100%)に対し、H2O2を加えた神経細胞は58.4%の生存率を示す細胞死を誘発し、10μg/mlのタラヨウによって67.4%、50μg/mlでは83.5%、100μg/mlでは105.9%の細胞生存率を示した。このことからタラヨウが酸化ストレス性脳神経細胞死を抑制することが分かった。
【0058】
また、図6に示されたように大脳皮質脳細胞にグルタミン酸(500μM)を加えることで示される神経細胞死に対するタラヨウの抑制効果を検討した結果、対照群(100%)に対しグルタミン酸処置群は67.7%の生存率を示した。これに対しタラヨウ1μg/mlによって72.0%、10μg/mlでは79.1%、50μg/mlでは80.54%の細胞生存率を示した。脳梗塞による退行性脳疾患では、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が多量に遊離して神経細胞死を起こすことが知られている。すなわち、タラヨウはグルタミン酸による細胞死を効果的に抑制することが分かった。
【0059】
また、図7に示されたように、Aβ(25-35)をマウスの脳室に投与して記憶障害を引き起こした時、タラヨウを経口で長期投与すれば記憶障害を抑制することが上記から分かった。したがって、生化学的機序を明らかにするための実験として大脳皮質神経細胞を培養して、10μM Aβ(25-35)による細胞死を誘発しながらそれに対するタラヨウの抑制効果を検討した結果、10μM Aβ(25-35)で処理すると対照群(100%)に対し69.3%の細胞生存率を示し、これに対してタラヨウで培養神経細胞を処理すると、1、10、及び50μg/mlによってそれぞれ84.3、88.0、及び93.4%に生存率を回復させた。
【0060】
<実施例6>低酸素症を誘発した大脳皮質神経細胞でタラヨウ抽出物が細胞生存率に及ぼす効果の確認
培養した大脳皮質神経細胞の培養3日目に培地をグルコース不含HEPES緩衝液で交換した後、2% O2、5% CO2を維持する低酸素性チャンバ内にウェルプレートを入れて、該チャンバ内で24時間培養した。その後、培地を無血清DMEMで交換して、5% CO2インキュベータで6時間さらに培養し、MTT分析を通じて細胞生存率を測定した。対照群としては、無血清DMEM及びグルコース不含HEPES緩衝液で置換した細胞を5% CO2インキュベータに同じ時間曝露させた。また、虚血の条件を満たすために、培養された大脳皮質神経細胞の低酸素症の条件を作るチャンバで培養して細胞死を誘発し、それに対するタラヨウの抑制効果を検討した。
【0061】
その結果、図8に示されたように、低酸素症によって58.2%の細胞生存率が示され、これに対してタラヨウ抽出物を10、50、及び100μg/mlで投与した時、それぞれ82.3、90.8、及び91.3%の脳細胞生存率が示され、低酸素症による細胞死を用量依存的に抑制することが分かった。
【0062】
<製造例1>薬学的製剤の製造
<1-1>散剤の製造
本発明のタラヨウ抽出物 300mg
乳糖 100mg
タルク 10mg
上記成分を混合して気密包装に充填して散剤を製造する。
【0063】
<1-2>錠剤の製造
本発明のタラヨウ抽出物 50mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
上記成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法にしたがって打錠して錠剤を製造する。
【0064】
<1-3>カプセル剤の製造
本発明のタラヨウ抽出物 50mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
通常のカプセル剤製造方法によって上記成分を混合してゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。
【0065】
<1-4>注射剤の製造
本発明のタラヨウ抽出物 50mg
注射用滅菌蒸留水 適量
pH調整剤 適量
通常の注射剤の製造方法によって1アンプル(2ml)あたり上記成分含量で製造する。
【0066】
<1-5>液剤の製造
本発明のタラヨウ抽出物 1000mg
砂糖 20g
異性化糖 20g
レモン香料 適量
精製水を加えて全体量を1000mlに調整した。通常の液剤の製造方法によって上記成分を混合した後、茶色瓶に充填して滅菌し、液剤を製造した。
【0067】
<製造例2>健康食品の製造
本発明のタラヨウ抽出物 1000mg
ビタミン混合物 適量
ビタミンAアセテート 70μg
ビタミンE 1.0mg
ビタミンB1 0.13mg
ビタミンB2 0.15mg
ビタミンB6 0.5mg
ビタミンB12 0.2μg
ビタミンC 10mg
ビオチン 10μg
ニコチン酸アミド 1.7mg
葉酸 50μg
パントテン酸カルシウム 0.5mg
無機混合物 適量
硫酸第1鉄 1.75mg
酸化亜鉛 0.82mg
炭酸マグネシウム 25.3mg
第1リン酸カリウム 15mg
第2リン酸カルシウム 55mg
クエン酸カリウム 90mg
炭酸カルシウム 100mg
塩化マグネシウム 24.8mg
上記ビタミン類及びミネラル類の混合物の組成比は、健康食品に適した成分を好ましい例で混合したが、その配合比は任意に変更して実施してもよく、通常の健康食品の製造方法によって上記成分を混合した後、顆粒に製造し、通常の方法によって健康食品組成物の製造に使用することができる。
【0068】
<製造例3>健康飲料の製造
本発明のタラヨウ抽出物 1000mg
クエン酸 1000mg
オリゴ糖 100g
梅濃縮液 2g
タウリン 1g
精製水を加えた全体量 900ml
通常の健康飲料の製造方法によって上記成分を混合し、85℃で約1時間撹拌加熱し、できた溶液を濾過滅菌した容器に取得して密封滅菌し、次いで冷蔵保管して、本発明の健康飲料組成物の製造に使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラヨウ(Ilex latifolia)抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または治療用の薬学的組成物。
【請求項2】
タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の薬学的組成物。
【請求項3】
前記抽出物が、水、アルコール、またはこれらの混合物を溶媒として抽出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記抽出物が、エチルアルコールを溶媒として抽出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
虚血性疾患が、脳梗塞、脳虚血、及び脳卒中からなる群より選択されるいずれか一つであり、退行性脳疾患が、認知症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びクロイツフェルト・ヤコブ病からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
タラヨウ抽出物を有効成分として含む、虚血性疾患または退行性脳疾患の予防または改善用の健康機能食品。
【請求項7】
タラヨウ抽出物を有効成分として含む、記憶障害の改善用の健康機能食品。
【請求項8】
前記抽出物が、水、エチルアルコール、またはこれらの混合物を溶媒として抽出されることを特徴とする、請求項6または7に記載の健康機能食品。
【請求項9】
前記抽出物が、エチルアルコールを溶媒として抽出されることを特徴とする、請求項6または7に記載の健康機能食品。
【請求項10】
虚血性疾患が、脳梗塞、脳虚血、及び脳卒中からなる群より選択されるいずれか一つであり、退行性脳疾患が、認知症、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、及びクロイツフェルト・ヤコブ病からなる群より選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項6または7に記載の健康機能食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−41340(P2012−41340A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167922(P2011−167922)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(505243353)ハンコック ファーム.カンパニー インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】