説明

タンクの共振防止構造

【課題】1次モードの固有振動数だけでなく2次モードの固有振動数についても確実に起振振動数との共振を回避し得るようにする。
【解決手段】起振振動数が影響する環境で使用され且つ満液時における1次モード及び2次モードの固有振動数が前記起振振動数よりも低いタンク1の共振防止構造に関し、前記タンク1の1次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位X1付近に前記タンク1の内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク1内の液体2の流通を許容するための開口5を備えた仕切板6(第一の仕切板)と、前記タンク1の2次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位X2付近に前記タンク1の内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク1内の液体2の流通を許容するための開口5を備えた仕切板7(第二の仕切板)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、水、燃料、潤滑油、廃油等の液体を蓄蔵或いは収容し、起振源からの振動を受ける環境において使用される狭隘タンクと称されるタンクにおいて、簡略な構成によって起振振動との共振を防止できるようにしたタンクの共振防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は船舶等に用いられる狭隘タンクと呼ばれるような比較的小型の角形のタンク1を示しており、該タンク1の中には使用目的に応じて水、燃料、潤滑油、廃油等の液体2が、流入管3により流入されて所要液位で蓄蔵され、また必要に応じてタンク1内から排出管4を経て外部に排出されるようになっている。前記タンク1がプロペラやディーゼル主機関等の起振源の振動の影響下にある場合には、前記タンクの製造に当たり通常はタンク1の固有振動数が起振源による起振振動数に対して高くなる、即ち、上逃げとなるように設計している。
【0003】
しかし、タンク1を形成する側板相互や、側板と底板とが互いに近接しているため、蓄蔵した液体2とタンク1を形成している側板や底板との連成振動が生じることによって、タンク1の固有振動数が低下し、その結果、液位の変化によるタンクの固有周波数が起振振動数を横切って変化する場合が生じる。即ち、例えば、図4に示すように満液時の液位の時の固有振動数が起振源からの起振振動数より低くなる場合があり、この場合には、満液時の液位から液位を徐々に低下させると、固有振動数が徐々に高くなることによってタンクの固有振動数が起振振動数と一致する(横切る)部分が生じることによって共振が起こり、過大な振動によってタンク1の構造部材等を損傷させる虞れが生じる。
【0004】
従って、このようなタンク1の共振の問題を避けるためには、タンク1の固有振動数が起振振動数に対して常に高くなって上逃げとなるように、タンク1の板厚を増加させたり、骨材の寸法を大きくすることが考えられるが、このような方法では、タンク1が重構造となり、コストアップを招く問題がある。
【0005】
このため、前記したようにタンクの固有振動数が起振源の起振振動数と一致することによって共振するのを防止するために、タンクの液位を変えるとタンクの固有振動数が変わることに着目し、複数のタンクのうちの任意の1つのタンク内の液体の液位が、同任意の1つのタンクの振動と起振源の振動との共振を起こす可能性のある要回避液位の範囲内の液位となった時、前記任意の1つのタンク内の液体の液位が、前記要回避液位の範囲内の液位から安全な回避不要液位の範囲の液位に達するまで、前記複数のタンク間において液体をポンプで移送するようにしたものが特許文献1にある。
【0006】
ただし、特許文献1に示す装置においては、共振を防止するために複数のタンクにおける夫々の液位を常に監視している必要があり、更に、共振の発生が予想される場合にはポンプを作動して特定のタンクの液体を他のタンクに移送するための動力が必要であると共に、液体を移送するための制御装置が必要があり、従って、共振を防止するための監視・運転費用及びメンテナンス費用が増加するという問題を有していた。
【0007】
そこで、本発明者は、タンク1内部に開口5を有する仕切板6を固定するという簡単な構成によって、タンク1の固有振動数が起振振動数と共振する問題を回避する構造を創案し、これを特願2008−149460号として既に出願している。
【0008】
即ち、本発明者による鋭意研究の成果によれば、図5に示す如く、タンク1の液位を変化させることによりタンクの固有振動数が起振振動数に一致する共振液位Xを計算により求め、タンク1内部における前記共振液位Xの下部位置に開口5を有する仕切板6を固定すると、タンク1の固有振動数と起振振動数との共振を回避し得ることが判明している。
【0009】
より具体的には、図6に試験及び解析から想定される振動特性を示すように、タンク1内の液位が仕切板6の高さ位置よりも低い時は、タンク1の固有振動数は起振振動数より高くなって上逃げの振動特性Aとなり、又、タンク1内の液位が仕切板6の高さ位置よりも高い時はタンク1の固有振動数は起振振動数より低くなって下逃げの振動特性Bとなり、前記仕切板6によって共振回避周波数域Sが生じてタンク1の固有振動数が不連続になることが確認されている。
【0010】
この際、仕切板6を設置するにあたっては、共振回避周波数域Sが図6に示すように起振振動数を挟む状態となるよう共振液位X付近に設置する必要があるが、前記仕切板6を設置すると、タンク1の固有振動数は下がる傾向を示して下逃げの振動特性Bは維持され易くなるため、仕切板6を設置する位置は、上逃げの振動特性Aが確実に生じる高さよりやや低い位置とすることが好ましい。
【0011】
即ち、前記共振液位Xを100%とした場合、仕切板6の設置位置は90%より低い位置が好ましいが、一方、仕切板6の設置位置が低すぎる場合には、下逃げの振動特性Bが不安定になる可能性があるため、80%〜90%の位置に設置することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−007190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前述した既出願(特願2008−149460号)においては、一般的に構造物の振動として支配的な1次モードでの固有振動数だけを想定したものとなっていたため、タンク1内に1枚の仕切板6を配置しただけでは、2次モードでの固有振動数と起振振動数との共振を回避しきれないケースが起こり得た。
【0014】
例えば、液位の変化に伴い1次モードでの固有振動数が図7のように変化するタンク1(仕切板無し)について、25Hzと40Hzの二種類の起振振動数を想定すると、このタンク1の1次モードでの固有振動数は、25Hzの起振振動数に対し液位56%程度で共振し、40Hzの起振振動数に対しては液位41%程度で共振することが図7のグラフから判る。
【0015】
起振振動数が25Hzの場合に、共振が起こる液位56%よりやや低い位置の液位50%に仕切板6を設置すると、図8に示す如く、液位が仕切板6を通過する時に固有振動数が不連続に変化して共振回避周波数域Sが形成され、1次モードでの固有振動数と25Hzの起振振動数との共振を防ぐことができ、しかも、2次モードでの固有振動数は、液位が変化しても25Hzの起振振動数と一致しないため、2次モードでの固有振動数と25Hzの起振振動数との共振の心配はない。
【0016】
これに対し、起振振動数が40Hzの場合には、共振が起こる液位41%よりやや低い位置の液位39.6%に仕切板6を設置すると、図9に示す如く、液位が仕切板6を通過する時に固有振動数が不連続に変化して共振回避周波数域Sが形成され、1次モードでの固有振動数と40Hzの起振振動数との共振を防ぐことができるものの、2次モードでの固有振動数は、液位78%程度の時に40Hzの起振振動数と一致してしまうので、2次モードでの固有振動数と40Hzの起振振動数との共振が回避しきれない。
【0017】
本発明は、前記実情に鑑みてなしたもので、1次モードの固有振動数だけでなく2次モードの固有振動数についても確実に起振振動数との共振を回避し得るようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、起振振動数が影響する環境で使用され且つ満液時における1次モード及び2次モードの固有振動数が前記起振振動数よりも低いタンクの共振防止構造であって、
前記タンクの1次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位付近に前記タンクの内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク内の液体の流通を許容するための開口を備えた第一の仕切板と、
前記タンクの2次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位付近に前記タンクの内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク内の液体の流通を許容するための開口を備えた第二の仕切板とを備えたことを特徴とするものである。
【0019】
更に、本発明においては、3次モード以上での固有振動数が起振振動数と一致する各モード毎の共振液位付近にも第一及び第二の仕切板と同様の仕切板を設置することが可能であり、また、各仕切板に備えられる開口の開口率は、当該仕切板の面積の20%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のタンクの共振防止構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0021】
(I)液位が第一の仕切板を通過する時に固有振動数が不連続に変化して起振振動数を含む共振回避周波数域が形成されるので、1次モードでの固有振動数と起振振動数との共振を防ぐことができ、しかも、液位が第二の仕切板を通過する時にも固有振動数が不連続に変化して起振振動数を含む共振回避周波数域が形成されるので、2次モードでの固有振動数と起振振動数との共振を防ぐこともできる。
【0022】
(II)3次モード以上での固有振動数が起振振動数と一致する各モード毎の共振液位付近にも第一及び第二の仕切板と同様の仕切板を設置すれば、当該仕切板を通過する時にも固有振動数が不連続に変化して起振振動数を含む共振回避周波数域が形成されるので、3次モード以上での固有振動数と起振振動数との共振を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のタンクの共振防止構造の一例を示す断面図である。
【図2】図1のタンクにおける液位と固有振動数との関係を示すグラフである。
【図3】船舶等に用いられる角形のタンクの一例を示す断面図である。
【図4】図3のタンクにおける液位と固有振動数との関係を示すグラフである。
【図5】従来のタンクの共振防止構造の一例を示す断面図である。
【図6】図5の共振防止構造による共振回避の原理を説明するグラフである。
【図7】二種類の起振振動数に対する固有振動数の共振液位を示すグラフである。
【図8】図5の共振防止構造で2次モードの固有振動数との共振が起こらないケースを示すグラフである。
【図9】図5の共振防止構造で2次モードの固有振動数との共振が起こるケースを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明を実施する形態の一例を示す断面図であり、ここに図示している例では、船舶等に用いられる狭隘タンクと呼ばれるような比較的小型で角形を成すタンク1に適用した例が示されており、このタンク1は、プロペラやディーゼル主機関等の起振源からの起振振動数が影響する環境において使用され且つ満液時における1次モード及び2次モードの固有振動数が前記起振振動数よりも低いものとなっている。
【0026】
そして、このタンク1では、先に図7〜図9で説明した例と同じように、起振振動数40Hzに対し液位が41%程度の位置となった時に1次モードでの固有振動数が前記起振振動数と等しい40Hzの固有振動数を持つようになっていると共に、液位が78%程度の位置となった時に2次モードでの固有振動数が前記起振振動数と等しい40Hzの固有振動数を持つようになっている。
【0027】
そこで、本形態例においては、40Hzの起振振動数に対し1次モードでの共振が起こる液位41%(図7参照:起振液位X1)よりやや低い位置の液位39.6%に、タンク1内の液体2の流通を許容するための開口5を中央に備えた仕切板6(第一の仕切板)を、前記タンク1の内部を上下に区画し得るよう水平に設置すると共に、2次モードでの共振が起こる液位78%(図9参照:起振液位X2)よりやや低い位置の液位71%に、タンク1内の液体2の流通を許容するための開口5を中央に備えた仕切板7(第二の仕切板)を、前記タンク1の内部を上下に区画し得るよう水平に設置している。
【0028】
ここで、既出願(特願2008−149460号)でも述べている通り、液位が仕切板6又は仕切板7より低い場合では開口5の開口率が変化しても固有振動数に対する影響は殆ど生じないが、液位が仕切板6又は仕切板7より高い場合には、開口5の開口率が30%付近から小さくなることで固有振動数の低下が顕著になり、特に開口5の開口率が20%以下になることで固有振動数が急激に低下する傾向を示すことが知見として得られている。
【0029】
従って、開口5の開口率は、仕切板6の面積の20%以下であることが好ましく、特に本発明者による試験及び解析によれば、開口率を3%とすると非常に良好な結果が得られることが確認されている。尚、開口5の開口率の下限は特定しないが、タンク1内の液体2を安定して給排するために設けられる図示しない給排用開口の大きさを下限の開口率とすることができる。また、開口5は四角形或いはその他の多角形、又は円形或いは楕円形等とすることができ、開口5の形状は限定されない。
【0030】
而して、このように1次モードと2次モードの両方に対応した仕切板6,7を二枚設置すれば、図2にグラフで示す如く、液位が下段の仕切板6を通過する時に固有振動数が不連続に変化して起振振動数40Hzを含む共振回避周波数域Sが形成されるので、1次モードでの固有振動数と起振振動数40Hzとの共振を防ぐことができ、しかも、液位が上段の仕切板7を通過する時にも固有振動数が不連続に変化して起振振動数40Hzを含む共振回避周波数域Sが形成されるので、2次モードでの固有振動数と起振振動数40Hzとの共振を防ぐこともできる。
【0031】
また、以上は2次モードまでの共振を考慮したものであるが、3次モード以上での固有振動数が起振振動数と一致して看過できない共振を起こす虞れがある時には、固有振動数が起振振動数と一致する各モード毎の共振液位付近にも前記仕切板6,7と同様の仕切板を設置することが可能であり、当該仕切板を通過する時にも固有振動数が不連続に変化して起振振動数を含む共振回避周波数域が同様に形成されるので、3次モード以上での固有振動数と起振振動数との共振を防ぐこともできる。
【0032】
尚、本発明は前記形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 タンク
2 液体
5 開口
6 仕切板(第一の仕切板)
7 仕切板(第二の仕切板)
A 上逃げの振動特性
B 下逃げの振動特性
S 共振回避周波数域
1 共振液位
2 共振液位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振振動数が影響する環境で使用され且つ満液時における1次モード及び2次モードの固有振動数が前記起振振動数よりも低いタンクの共振防止構造であって、
前記タンクの1次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位付近に前記タンクの内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク内の液体の流通を許容するための開口を備えた第一の仕切板と、
前記タンクの2次モードでの固有振動数が前記起振振動数と一致する共振液位付近に前記タンクの内部を上下に区画し得るよう設置され且つ該タンク内の液体の流通を許容するための開口を備えた第二の仕切板とを備えたことを特徴とするタンクの共振防止構造。
【請求項2】
3次モード以上での固有振動数が起振振動数と一致する各モード毎の共振液位付近にも第一及び第二の仕切板と同様の仕切板を設置したことを特徴とする請求項1に記載のタンクの共振防止構造。
【請求項3】
各仕切板に備えられる開口の開口率が当該仕切板の面積の20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンクの共振防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−20693(P2011−20693A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165218(P2009−165218)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】