説明

タンデムアンギュラ型玉軸受

【課題】必要とされる耐久性を確保しつつ、小型・軽量化、並びに動トルクの低減を図り易いタンデムアンギュラ型玉軸受を実現する。
【解決手段】ピッチ円直径PCDcが小さい第一列側の玉7cの玉径Dを、ピッチ円直径PCDdが大きい第二列側の玉7dの玉径Dよりも大きくする。且つ、前記第一列側の玉7cに関する内部隙間を、前記第二列側の玉7dに関する内部隙間よりも小さくする。そして、使用状態で、前記第一列側の玉7cが負荷する荷重の大きさを、前記第二列側の玉7dが負荷する荷重の大きさよりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用のデファレンシャルギヤ、トランスファ装置等の回転機械装置に組み込まれて、ラジアル荷重及びアキシアル荷重が加わった状態で回転する回転軸を支承する為のタンデムアンギュラ型玉軸受の改良に関する。具体的には、必要とされる耐久性を確保しつつ、小型・軽量化、並びに回転抵抗(動トルク)の低減を図り易いタンデムアンギュラ型玉軸受の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のデファレンシャルギヤを構成するピニオン軸をデファレンシャルケース内に回転自在に支持する回転支持部の回転抵抗(動トルク)を低く抑える為に、円すいころ軸受に代えてタンデムアンギュラ型玉軸受を使用する事が、特許文献1〜5に記載されている様に、従来から考えられている。タンデムアンギュラ型玉軸受は、運転時に円すいころ軸受の場合の様な大きな滑り接触を伴わないので、動トルクを低く抑えられ、デファレンシャルギヤの抵抗を低くできる。そして、このデファレンシャルギヤを搭載した自動車の加速性能や燃費性能を中心とする性能の向上を図れる。
【0003】
図3は、特許文献1に記載されている、玉軸受のみで(円すいころ軸受を使用せずに)構成した、デファレンシャルギヤ用のピニオン軸の回転支持装置の従来構造の1例を示している。尚、デファレンシャルギヤ全体の構造及び作用は従来から周知であり、特許文献1〜4にも記載されている為、図示並びに詳しい説明は省略し、以下、回転支持装置部分の構造に就いてのみ説明する。デファレンシャルケースの内部に1対の玉軸受1、2を、軸方向に互いに離隔した状態で配置し、これら両玉軸受1、2によりピニオン軸3を支持している。これら両玉軸受1、2は、それぞれ玉に接触角を持たせたアンギュラ型玉軸受であり、これら両玉軸受1、2の接触角の方向を互いに逆向きとしている。従って、前記ピニオン軸3は、デファレンシャルケースの内部に、ラジアル荷重だけでなく、両方向のアキシアル荷重を支承される状態で、回転自在に支持される。
【0004】
前記両玉軸受1、2のうち、比較的大きなラジアル荷重及びアキシアル荷重が加わるピニオンギヤ4の側(ピニオンギヤ側)に配置する玉軸受1として、本発明の対象となる、タンデムアンギュラ型玉軸受を使用している。これに対して、比較的小さなラジアル荷重及びアキシアル荷重しか支承しない、ピニオンギヤ4と反対側(反ピニオンギヤ側)の玉軸受2は、単列アンギュラ型としている。尚、ピニオンギヤ側だけでなく、反ピニオンギヤ側もタンデムアンギュラ型玉軸受とする構造に就いても、特許文献2〜4に記載されている通り、従来から知られている。ピニオンギヤ側の玉軸受1は、ラジアル荷重に加えて、このピニオンギヤ4と噛合したリングギヤ(図示省略)から離れる方向(図3の右向き)のアキシアル荷重を支承する。これに対して反ピニオンギヤ側の玉軸受2は、ラジアル荷重に加えて、前記リングギヤに近付く方向(図3の左向き)のアキシアル荷重を支承する。
【0005】
タンデムアンギュラ型玉軸受である、ピニオンギヤ側の玉軸受1は、外輪5と、内輪6と、複数個の玉7a、7bと、1対の保持器8a、8bとを備える。このうちの外輪5は、内周面に、互いに内径が異なる、複列アンギュラ型の外輪軌道9a、9bを設けている。これら両外輪軌道9a、9bの内径は、ピニオンギヤ側の外輪軌道9aの方が大きく、反ピニオンギヤ側の外輪軌道9bの方が小さい。又、前記内輪6は、前記外輪5の内径側に、この外輪5と同心に配置されており、外周面のうちで前記両外輪軌道9a、9bに対向する部分に、互いに外径が異なる、複列アンギュラ型の内輪軌道10a、10bを設けている。これら両内輪軌道10a、10bの外径に関しても、ピニオンギヤ側の内輪軌道10aの方が大きく、反ピニオンギヤ側の外輪軌道10bの方が小さい。
【0006】
更に、前記各玉7a、7bは、前記両外輪軌道9a、9bとこれら両内輪軌道10a、10bとの間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列で同じ方向の(並列組み合わせ型の)接触角を付与された状態で、転動自在に設けられている。又、前記両保持器8a、8bは、互いに直径が異なり、それぞれが両列の玉7a、7bを、転動自在に保持している。これら両列の玉7a、7bのピッチ円直径(PCD)は、前記各軌道9a、9b、10a、10bの径の違いに対応して、ピニオンギヤ側の列が反ピニオンギヤ側の列に比べて大きい。
【0007】
尚、実際にデファレンシャルケースの内部にピニオン軸3を、上述の様なタンデムアンギュラ型の玉軸受1により回転自在に支持する場合には、前記外輪5を前記デファレンシャルケースに締り嵌めで内嵌すると共に、前記内輪6を前記ピニオン軸3に締り嵌めで外嵌する必要がある。但し、前記タンデムアンギュラ型の玉軸受1を、予め組み立てた状態で、前記外輪5の内嵌作業及び前記内輪6の外嵌作業を行う事はできない。この理由は、前記各軌道9a、9b、10a、10bに圧痕が形成されるのを防止する為である。この為に従来から、特許文献4に記載されている様な構造により、外輪の内嵌作業と内輪の外嵌作業とを別個に行える様にしていた。
【0008】
図4〜6は、前記特許文献4に記載された従来構造の第2例を示している。タンデムアンギュラ型の玉軸受1aを構成する外輪5aは、大径側、小径側両外輪軌道9a、9bの軸方向片側(図4、6の左側)に溝肩部を設けておらず(カウンタボアとし)、軸方向他側(図4、6の右側)にのみ溝肩部を設けている。これに対して、内輪6aは、大径側、小径側両内輪軌道10a、10bの軸方向両側に、それぞれ溝肩部を設けている。又、大径側、小径側両保持器8a、8bは、各ポケット11a、11b内に各玉7a、7bを保持した状態で、これら各玉7a、7bが、これら各ポケット11a、11b内から径方向外方に抜け出る事を阻止できる様に構成している。
【0009】
前記玉軸受1aを組み立てる場合、先ず、図5に実線で示す様な、内輪側組立体12を組み立てる。この為に、同図に鎖線で示す様に、前記各玉7a、7bを前記両保持器8a、8bの各ポケット11a、11b内に保持してから、図5に矢印で示す様に、これら両保持器8a、8bに保持された各玉7a、7bを、前記内輪6aの外径側に、前記両保持器8a、8bを弾性変形させて、これら各玉7a、7bの内接円の直径を弾性的に拡げつつ、前記内輪6aの軸方向他側(図5の右側)から進入させる。そして、図5に実線で示す様に、前記両保持器8a、8bに保持された前記各玉7a、7bを、前記両内輪軌道10a、10bの外径側に組み付ける。
【0010】
この様にして組み立てた、前記内輪側組立体12は、図6に示す様に、予めデファレンシャルケースに内嵌固定しておいた、前記外輪5aの内径側に挿入して、前記タンデムアンギュラ型の玉軸受1aの組み立てを完了する。この外輪6aの内周面に形成した、前記両外輪軌道9a、9bのうち、前記各玉7a、7bの進入側となる軸方向片側部分には、それぞれ溝肩部が存在しない為、上述の様な、前記外輪5aの内径側への前記内輪側組立体12の挿入作業を、円滑に行う事ができる。この様に、従来構造の第2例の場合には、前記玉軸受1aを、前記外輪5aと内輪側組立体12との2つの要素に分けて取り扱う事ができる。そして、前記デファレンシャルケースと前記ピニオン軸3との間への組み付け作業時に、前記各玉7a、7bの転動面と、前記両外輪軌道9a、9b及び前記両内輪軌道10a、10bとの接触部に過大な面圧が作用する事を防止できる。この結果、前記各軌道9a、9b、10a、10bに圧痕が形成されるのを防止できる。尚、上述の様な組み付け作業時に、前記各玉7a、7bの転動面が、前記外輪5aの内周面又は前記内輪6aの外周面に存在する尖った角部で損傷を受けるのを防止する為に、これら各周面のうちで、前記組み付け作業時に前記各玉7a、7bの転動面が接触する可能性のある部分を、微分不能な(尖った)角部を持たず、且つ、研磨加工された平滑面とする事も、特許文献5に記載されて、従来から知られている。
【0011】
何れの構造の場合でも、上述の様なタンデムアンギュラ型の玉軸受1、1aは、円すいころ軸受と異なり、運転時に大きな滑り接触を伴わないので、動トルクを低く抑えられ、デファレンシャルギヤの抵抗を低くできる。又、複列に配置した前記各玉7a、7bにより、前記ピニオンギヤ4と前記リングギヤとの噛合部で発生するラジアル荷重及びアキシアル荷重を支承する為、これら両方向の荷重に関する負荷容量も十分に確保できる。但し、必要とされる耐久性を確保しつつ、小型・軽量化、並びに動トルクの低減を図る面からは、依然として改良の余地がある。この点に就いて、以下に説明する。
【0012】
複列転がり軸受の一種である、前記タンデムアンギュラ型の玉軸受1、1aが本来の機能を発揮する為には、互いに転がり接触する、両列に配置された各玉7a、7bの転動面、並びに、前記両外輪軌道9a、9b及び前記両内輪軌道10a、10bが、何れも正常(平滑面)である事が必要である。何れか一方の列に関して、転動面と外輪軌道と内輪軌道との何れかに、剥離等の損傷が発生し、当該列の機能が損なわれる(転がり疲れ寿命に達する)と、その玉軸受1、1aは損傷した(転がり疲れ寿命に達した)とされ、修理、交換が必要となる。
【0013】
ところで、デファレンシャルギヤ等の回転機械装置の運転時に前記玉軸受1、1aには、前記両列の玉7a、7bに、同じ方向のラジアル荷重及びアキシアル荷重が、同じ時間だけ加わり続ける。一方、特に工夫をしない場合、両列の転がり疲れ寿命は、両列の玉7a、7bのピッチ円直径の差等により、同じとはならない。そして、両列の転がり疲れ寿命に大きな差が生じた場合には、転がり疲れ寿命が長い列に関しては、過剰品質となり、コスト低減、小型・軽量化、低トルク化の面から不利になる。即ち、玉軸受1、1a全体としての耐久性向上に繋がらない、一方の列のみの転がり疲れ寿命のみが、他方の列の転がり疲れ寿命に比べて著しく長くなる事は、この一方の列の転がり疲れ寿命を長くする事に要するコストが無駄に嵩む事を意味し、玉軸受1、1aの低コスト化を図る面から不利になる。又、材料、表面性状等、寸法以外の条件を同じとした場合、転がり疲れ寿命は、寸法が大きい程長くなる。従って、前記一方の列の転がり疲れ寿命を無駄に長くする事は、前記玉軸受1、1aの小型・軽量化を図る面から不利になる。更に、この玉軸受1、1aの動トルクは、寸法以外の条件を同じとした場合、この玉軸受1、1aの寸法が嵩む程大きくなるので、前記一方の列の転がり疲れ寿命を無駄に長くする事は、前記玉軸受1、1aの低トルク化を図る面からも不利になる。
【0014】
尚、タンデムアンギュラ型の玉軸受に関して、両列の仕様は必ずしも同じではなく、例えば、両列の玉の直径(以下「玉径」とする。特許請求の範囲に関しても同じ。)を異ならせた構造として、特許文献6に記載された発明が知られている。この特許文献6に記載された発明の構造は、ピッチ円直径が小さい側の列を4点接触型とすると共に、このピッチ円直径が小さい側の玉径を、ピッチ円直径が大きい側の玉径よりも小さくしている。そして、希に作用する、逆方向のアキシアル荷重を支承する能力を担保しつつ、タンデムアンギュラ型玉軸受の小型化を図れる様にしている。
但し、上述の様な引用文献6に記載された発明にしても、両列の転がり疲れ寿命の差を小さくはできない(むしろ大きくなる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−169890号公報
【特許文献2】特開2004−245231号公報
【特許文献3】特開2009−138795号公報
【特許文献4】特開2004−124996号公報
【特許文献5】国際公開第2011/062257号パンフレット
【特許文献6】特表2010−534303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、必要とされる耐久性を確保しつつ、小型・軽量化、並びに動トルクの低減を図り易いタンデムアンギュラ型玉軸受を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受は、従来から知られているタンデムアンギュラ型玉軸受と同様に、外輪と、内輪と、複数個の玉とを備える。
このうちの外輪は、内周面に互いに内径が異なる2列の外輪軌道を設けている。
又、前記内輪は、前記外輪の内径側に、この外輪と同心に配置され、外周面に互いに外径が異なる2列の内輪軌道を設けている。
更に、前記各玉は、前記両外輪軌道と前記両内輪軌道との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列同士の間で同じ方向の接触角を付与された状態で転動自在に設けている。一般的には、これら両列の玉は、それぞれ独立した保持器により保持する。
【0018】
特に、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受に於いては、前記両列の外輪軌道及び内輪軌道のうちでそれぞれの径が小さい側の外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた、ピッチ円直径が小さい第一列側の玉径を、それぞれの径が大きい側の外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた、ピッチ円直径が大きい第二列側の玉径よりも大きくしている。
且つ、前記第一列側の玉に関する内部隙間(ラジアル隙間及びアキシアル隙間)を、この第二列側の玉に関する内部隙間よりも小さくしている。
この様に、第一列側の玉と第二列側の玉との間で、内部隙間に差を設ける事により、使用状態で、この第一列側の玉が負荷する荷重の大きさを、前記第二列側の玉が負荷する荷重の大きさよりも大きくしている。
例えば、前記第一列側の玉が負荷する荷重の大きさの、前記第二列側の玉が負荷する荷重の大きさに対する割合は、これら両列に関する転がり疲れ寿命に大きな差が生じない様に、コンピュータ解析又は実験により定めるが、例えば、請求項2に記載した発明の様に、1.5〜2.5倍(最も好ましくは2倍)とする。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明によれば、必要とされる耐久性を確保しつつ、小型・軽量化、並びに動トルクの低減を図り易いタンデムアンギュラ型玉軸受を実現できる。この理由に就いて、以下に説明する。
先ず、必要とする耐久性の確保は、ピッチ円直径が小さい第一列側の玉径を大きくすると共に、この第一列側の玉が負荷する荷重の大きさを大きくする事により図れる。玉径が大きな、この第一列側の玉の転動面と外輪軌道及び内輪軌道との転がり接触部に存在する接触楕円の面積は、玉径が小さい、第二列側の玉の転動面に関する接触楕円の面積よりも広い。一方、各部の転がり疲れ寿命は、これら各接触楕円部分の面圧に応じて変わり、この面圧が高くなる程、転がり疲れ寿命は短くなる。又、この面圧は、負荷する荷重が大きい程、接触楕円の面積が狭い程、それぞれ高くなる。従って、本発明の様に、前記第一列の玉が負荷する荷重を、前記第二列の玉が負荷する荷重よりも大きくすれば、各要素による面圧の変化を互いに逆方向にして互いに相殺し、前記両列の玉に関する接触楕円の面圧に大きな差が生じる事を防止でき、これら両列の転がり疲れ寿命に、大きな差が生じる事を防止できる。そして、何れの列に関しても、無駄に(何れかの列のみが著しく)耐久性が長くなる事を防止しつつ、必要とされる耐久性を確保し易くできる。
【0020】
又、何れかの列の耐久性が無駄に(別の列の耐久性に比べて著しく)長くする事を防止できるので、この何れかの列部分の寸法が無駄に大きくなる事を防止できて、タンデムアンギュラ型玉軸受の小型・軽量化を図る面から有利になる。
更に、前記何れかの列部分の寸法を小さく抑えて小型・軽量化を図れる分、タンデムアンギュラ型玉軸受の低トルク化を図る面から有利になる。
尚、ピッチ円直径及び接触楕円部分に加わる面圧の積分値(予圧と荷重との合計)が同じであると仮定した場合、この接触楕円部分でのスピン損失等の影響により、玉径が大きい程、当該玉の列の動トルクが大きくなる。又、動トルクは、ピッチ円直径に比例して大きくなる。本発明の場合には、玉径が大きな第一列の玉のピッチ円直径が小さいので、この第一列の玉径を大きくする事による動トルクの増大を低く抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、タンデムアンギュラ型玉軸受の部分断面図。
【図2】本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受の使用状態の1例を示す略断面図。
【図3】タンデムアンギュラ型玉軸受を組み込んだ、デファレンシャルギヤのピニオン軸の回転支持部の断面図。
【図4】従来構造の第2例を示す、タンデムアンギュラ型玉軸受の断面図。
【図5】この第2例のタンデムアンギュラ型玉軸受を構成する内輪側組立体を組み立てる状態を示す断面図。
【図6】この内輪側組立体と外輪とを組み合わせてタンデムアンギュラ型玉軸受とする状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態の1例に就いて、図1により説明する。本例のタンデムアンギュラ型の玉軸受1bは、外輪5bと、内輪6bと、複数個の玉7c、7dとを備える。
このうちの外輪5bは、内周面に2列の外輪軌道9c、9dを設けている。本例の場合、これら両外輪軌道9c、9dは、内径が互いに異なるだけでなく、断面形状の曲率半径r、rに関しても、互いに異ならせている。具体的には、内径Rcが小さい側の外輪軌道9cの曲率半径rを、内径Rdが大きい側の外輪軌道9dの曲率半径rよりも大きく(r>r)している。又、前記外輪5bの内周面で、前記両外輪軌道9c、9dの小径側に隣接する部分は、それぞれ外輪肩部13a、13bとしている。これら両外輪肩部13a、13bの高さ(径方向寸法)は、前記玉軸受1bの使用時に前記各玉7c、7dに加わるアキシアル荷重に拘らず、これら各玉7c、7dの転動面が前記両外輪肩部13a、13bの縁に乗り上げないだけの、十分な大きさとしている。
【0023】
これに対して、前記外輪5bの内周面で、前記両外輪軌道9c、9dの大径側に隣接する部分は、これら両外輪軌道9c、9dから離れるに従って内径が次第に大きくなる方向に緩やかに傾斜した、部分円すい凹面状のカウンタボア部14a、14bとしている。但し、これら両カウンタボア部14a、14bの小径側端部(図1の右端部)の内径を、それぞれが隣接する前記両外輪軌道9c、9dの最大内径よりも僅かに小さくする事もできる。この場合に、この僅かに小さくする程度を、前記玉軸受1bを所定位置に組み付ける以前の状態での、この玉軸受1bのラジアル内部隙間(前記外輪5bと内輪6bとが径方向に変位可能な寸法)の1/2よりも小さくする事が好ましい。但し、製造公差(例えば0.02mm程度)を考慮して、前記両カウンタボア部14a、14bの小径側端部の内径が、それぞれの転動面の一部を前記内輪軌道10c、10dに当接させた状態での、前記各玉7c、7dの外接円の直径よりも小さくならない様にする。この様に規制すれば、内輪側組立体12(図5〜6参照)を前記外輪5bの内径側に組み付ける作業を容易に(各部に擦り傷等の損傷を生じる事なく)行える。尚、この場合に於ける、前記玉軸受1bを所定位置に組み付ける以前の状態とは、前記玉軸受1b単体の状態ではなく、この玉軸受1bを構成する外輪5bをハウジング等に締り嵌めで内嵌し、同じく内輪6bを回転軸等に締り嵌めで外嵌した状態を言う。要するに、これら外輪5b及び内輪6bの直径が、相手部材への嵌合により弾性的に変化しているが、未だ各玉7c、7dに予圧を付与していない状態を言う。何れにしても、前記外輪5bの内周面のうちで、前記内輪側組立体12の組み付ける作業時に、前記各玉7c、7dの転動面が擦れ合う可能性のある部分は、微分不能な角部を持たず、且つ、研磨加工された平滑面としている。この為には、前記外輪5bの内周面の仕上加工を、総型の砥石で行う事が好ましい。
【0024】
又、前記内輪6bは、前記外輪5bの内径側に、この外輪5bと同心に配置しており、外周面に2列の内輪軌道10c、10dを設けている。これら両内輪軌道10c、10dは、外径が互いに異なるだけでなく、断面形状の曲率半径r、rに関しても、互いに異ならせている。具体的には、外径Dcが小さい側の内輪軌道10cの曲率半径rを、外径Ddが大きい側の内輪軌道10dの曲率半径rよりも大きく(r>r)している。又、前記内輪6bの外周面で、前記両内輪軌道10c、10dの大径側に隣接する部分は、それぞれ内輪肩部15a、15bとしている。これら両内輪肩部15a、15bの高さに就いても、前記各玉7c、7dに加わるアキシアル荷重に拘らず、これら各玉7c、7dの転動面が前記両内輪肩部15a、15bの縁に乗り上げないだけの、十分な大きさとしている。
【0025】
又、前記内輪6bの外周面で、前記両内輪軌道10c、10dの小径側に隣接する部分に、係合部16a、16bを設けている。この係合部16a、16bの外径は、それぞれが隣接する前記両内輪軌道10c、10dの最小外径よりも少し大きくしている。この様な前記両係合部16a、16bは、前記内輪6bと前記各玉7c、7dとを、後述する保持器8a、8b(図4〜6参照、図1には省略)を介して組み合わせ、前記内輪側組立体12とした状態で、前記内輪6bと前記各玉7c、7dとの分離防止の為に必要である。前記係合部16a、16bの外径と前記両内輪軌道10c、10dの最小内径との差の1/2である、これら両係合部16a、16bの係り代(径方向寸法)δは、前記各玉7c、7dの転動面を傷める事なく、これら各玉7c、7dと前記内輪6bとを組み合わせる事ができ、組み合わせ後にこれら各部材7c、7d、6b同士が不用意に分離しない範囲で、前記両保持器8a、8bの弾性等を考慮して、適切に規制する。具体的には、前記両係合部16a、16bの係り代δを、当該係合部16a、16bを乗り越える前記各玉7c、7dの直径の2〜15%程度に規制する。前記係り代δが2%未満の場合には、前記各部材7c、7d、6bの分離防止が不確実になり、15%を超えると、これら各部材7c、7d、6bを組み合わせる作業が難しくなる。
【0026】
更に、前記各玉7c、7dは、前記両外輪軌道9c、9dと前記両内輪軌道10c、10dとの間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列同士の間で同じ方向の接触角θc、θdを付与した状態で、転動自在に設けている。又、前記各玉7c、7dのうち、それぞれの径が小さい側の外輪軌道9cと内輪軌道10cとの間に設けられ、ピッチ円直径PCDcが小さい、第一列側の玉7cの玉径Dを、それぞれの径が大きい側の外輪軌道9dと内輪軌道10dとの間に設けられ、ピッチ円直径PCDdが大きい第二列側の玉7dの玉径Dよりも大きく(D>D)している。この様な各玉7c、7dは、これら各玉7c、7dが各ポケット11a、11b内から径方向外方に抜け出る事を阻止できる形状及び寸法を有する保持器8a、8bにより、円周方向に関して等間隔に保持している。
【0027】
前記各玉7c、7dの接触角θc、θdに関しては、前記玉軸受1bに要求される、ラジアル荷重及びアキシアル荷重に関する負荷容量の関係で、適切に規制する。前記両列の接触角θc、θdの値は、同じであっても、或いは異なっても良いが、何れにしても、10〜40度の範囲で規制する。又、前記各玉7c、7dの玉径D、Dと、前記各軌道9c、9d、10c、10dの断面形状に関する曲率半径r、r、r、rとに関しては、これら各軌道9c、9d、10c、10dと前記各玉7c、7dの転動面との転がり接触部に存在する接触楕円の面積を勘案して、適切に規制する。この面積が広い程、この接触楕円部分の面圧を低く抑えて、転がり疲れ寿命確保の面から有利になるが、その代わりに、この接触楕円部分でのスピン損失が大きくなり、前記玉軸受1bの動トルク低減の面からは不利になる。
【0028】
これらの事を考慮した場合、前記両外輪軌道9c、9dの断面形状に関する曲率半径r、rは、前記各玉7c、7dの玉径D、Dの51〜62%の範囲で規制する。又、前記両内輪軌道10c、10dの断面形状に関する曲率半径r、rは、前記各玉7c、7dの玉径D、Dの50.5〜58%の範囲で規制する。何れにしても、前記両列毎に、外輪軌道9c(9d)の断面形状に関する曲率半径r(r)を、内輪軌道10c(10d)に関する断面形状に関する曲率半径r(r)よりも大きくする。この理由は、前記両外輪軌道9c、9dの形状が円周方向に関して凹であり、前記両内輪軌道10c、10dの形状が円周方向に関して凸である事に対応して、前記各玉7c、7dに関する接触楕円の大きさを、前記両外輪軌道9c、9d側と前記両内輪軌道10c、10d側とで、同じにする為である。尚、前記各寸法D、D、r、r、r、rは、転がり接触部の面圧の最大値が4.2GPa以下に抑えられる様に規制する。低トルク化の為には、この条件を満たす限り、前記各曲率半径r、r、r、rの値をできる限り大きくする事が好ましい。
【0029】
更に、本例の玉軸受1bの場合には、前記ピッチ円直径PCDcが小さく、それぞれの玉径Dが大きい、第一列側の玉7cに関する内部隙間を、前記ピッチ円直径PCDdが大きく、それぞれの玉径Dが小さい、第二列側の玉7dに関する内部隙間よりも小さくしている。本例の場合には、前記玉軸受1bを構成する前記外輪5bと前記内輪6bとを、前記各玉7c、7dを押圧する方向に近づけ、前記第一列側の玉7cの転動面を、前記外輪軌道9c及び内輪軌道10cに軽く当接させた状態で、前記第二列側の玉7dの転動面と、前記外輪軌道9d又は内輪軌道10dとの間に正の内部隙間が存在する様にしている。前記玉軸受1bを実際に回転支持部に組み込んだ状態では、前記外輪5bと前記内輪6bとを更に強く押圧し、前記第二列側の内部隙間も無くして、前記各玉7c、7dに予圧を付与する。この状態でこれら各玉7c、7dに付与された予圧は、前記途中状態で前記第二列側に存在していた正の内部隙間分だけ、前記第一列側で大きくなる。
【0030】
上述の様に本例の玉軸受1bは、ピッチ円直径PCDcが小さい、第一列側の玉7cの玉径Dを大きくすると共に、この第一列側の玉7cの与圧を大きくし、この第一列側の玉7cが負荷する荷重の大きさを大きくしている。従って、玉径Dが大きな、この第一列側の玉7cの転動面と、それぞれの径が小さい外輪軌道9c及び内輪軌道10cとの転がり接触部に存在する接触楕円は、玉径Dが小さい、第二列側の玉7dの転動面に関する接触楕円よりも大きい(面積が広い)。前記玉軸受1bのうちで、前記外輪5bと前記内輪6bとの相体回転に伴って相手面と転がり接触する面の転がり疲れ寿命は、前記各接触楕円部分の面圧が高くなる程短くなるので、前記玉軸受1bの場合には、前記第一、第二両列の転がり疲れ寿命に、大きな差が生じる事を防止できる。
【0031】
この様にして、何れの列に関しても、無駄に(何れかの列のみ著しく)耐久性が長くなる事を防止しつつ、必要とされる耐久性を確保し易くできるので、この何れかの列部分の寸法が無駄に大きくなる事を防止できる。要するに、前記玉軸受1b全体としての耐久性向上に結び付かない、何れか一方の列のみの耐久性向上に繋がるだけの寸法の増大を防止できて、タンデムアンギュラ型玉軸受の小型・軽量化を図る面から有利になる。
【0032】
更に、前記何れかの列部分の寸法を小さく抑えて小型・軽量化を図れる分、タンデムアンギュラ型玉軸受の低トルク化を図る面から有利になる。即ち、無駄な大型化は、前記外輪5bと前記内輪6bとの相対回転時に互いに相対変位する部分の抵抗や慣性質量の増大に繋がるが、本例の玉軸受1bの場合には、上述の様に小型・軽量化を図れる事から、この玉軸受1bの低トルク化を図り易い。
【0033】
しかも、本例の場合には、玉径が大きな第一列の玉7cのピッチ円直径PCDcが小さいので、この第一列の玉7cの玉径Dを大きくする事による動トルクの増大を低く抑えられる。即ち、玉軸受を構成する玉の転がり抵抗は、玉径が大きくなる程大きくなる。言い換えれば、ピッチ円直径及び接触楕円部分に加わる面圧の積分値(予圧と荷重との合計)が同じであると仮定した場合、この接触楕円部分でのスピン損失や玉の慣性質量の増大等の影響により、玉径が大きい程、当該玉の列の動トルクが大きくなる。又、動トルクは、ピッチ円直径に比例して大きくなる。本発明の場合には、前記直径が大きな第一列の玉7cのピッチ円直径PCDcを小さくしているので、前記玉軸受1b全体としての動トルクを抑える面から有利になる。
【0034】
尚、前記各寸法、即ち、前記両外輪軌道9c、9dの内径Rc、Rd、前記両内輪軌道10c、10dの外径Dc、外径Dd、これら各軌道9c、9d、10c、10dの断面形状の曲率半径r、r、r、r、前記各玉7c、7dの接触角θc、θd、前記各玉7c、7dの玉径D、Dは、上述の様な作用・効果を高次元で得られる様に、コンピュータ解析や実験等により、前述した範囲内で、適切に規制する。
【0035】
又、前記第一、第二両列の玉7c、7dの数は、前記玉軸受1bの負荷容量確保の面からは、多い程好ましい。例えば、玉径Dと玉の数Zとの積を、ピッチ円の周長(ピッチ円直径PCD×π)で除した値である充填率(D・Z/PCD×π)を、80〜95%の範囲に規制する。充填率が80%未満の場合には、負荷容量の確保が難しくなり、逆に95%を超える場合には、保持器の組み付け(保持器を構成する柱部の設置スペースの確保)が難しくなる。更に、第二列の玉7dのピッチ円直径PCDdに対する第一列の玉7cのピッチ円直径PCDcの割合は、動トルクの低減と転がり疲れ寿命確保とを両立させる面から、98〜70%の範囲に収める。PCDc/PCDdが98%を超えると、前記両列のPCDc、PCDdの差が過小になり、前記各肩部13b、15aの高さを確保できず、前記玉軸受1bの使用時に前記各玉7c、7dに加わるアキシアル荷重により、これら各玉7c、7dの転動面が前記各肩部13b、15aの縁に乗り上げ易くなる。反対に、70%未満の場合には、前記両列のPCDc、PCDdの差が過大になり、前記内輪6bの最小肉厚部の厚さ寸法や、前記係合部16aの高さを確保する事が難しくなる。
【0036】
又、前記第一、第二両列の玉の玉径の比D/Dは、0.5以上、1未満(0.5≦D/D<1)とする。この比D/Dが1以上の場合には、本発明による効果を得られない。逆に言えば、「D/D<1」であれば、多少なりとも、本発明の効果を得られる。これに対して、この比D/Dが0.5未満の場合には、前記外輪5bの内周面の最大内径と最小内径との比、並びに、前記内輪6bの外周面の最大外径と最小外径との比が、何れも大きくなる。この結果、例えばこれら外輪5bと内輪6bとを冷間鍛造により造る場合に、1個の素材からこれら外輪5bと内輪6bとを造る、所謂2個取りを行えなくなって、製造コストが嵩む。
何れの場合でも、前記外輪5b及び前記内輪6bの各部(特に荷重の作用線の延長線上及びその近傍部分)の肉厚を十分に(例えば、各軌道の最深部での外輪及び内輪の径方向の厚さを、当該軌道と転がり接触する玉径の25%以上)確保する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受は、図3に示す様なデファレンシャルギヤのピニオン軸の回転支持部に限らず、各種回転支持部に使用できる。例えば、図2に示す様に、デファレンシャルギヤの左右1対の出力部17a、17bの回転支持部に、本発明のタンデムアンギュラ型玉軸受5b、5bを正面組み合わせ(DF組み合わせ)で組み込んだ場合、玉径の大きな(従って各方向の剛性及び負荷容量の大きな)玉7c、7cが、回転支持部の両端側に位置する。この為、モーメント剛性確保の面から不利な正面組み合わせを採用した場合でも、前記両出力部17a、17bのモーメント剛性を高くできる。
【0038】
又、本発明を実施する場合に、各部の寸法等は、前述した作用・効果を有効に得るべく、前述した範囲で適切に規制する。又、タンデムアンギュラ型玉軸受に加わる荷重を両列の玉が負荷する割合に就いても、前記作用・効果を有効に得る面から、適切に規制する。
【符号の説明】
【0039】
1、1a、1b 玉軸受
2 玉軸受
3 ピニオン軸
4 ピニオンギヤ
5、5a、5b 外輪
6、6a、6b 内輪
7a、7b、7c、7d 玉
8a、8b 保持器
9a、9b、9c、9d 外輪軌道
10a、10b、10c、10d 内輪軌道
11a、11b ポケット
12 内輪側組立体
13a、13b 外輪肩部
14a、14b カウンタボア部
15a、15b 内輪肩部
16a、16b 係合部
17a、17b 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に互いに内径が異なる2列の外輪軌道を設けた外輪と、この外輪の内径側にこの外輪と同心に配置され、外周面に互いに外径が異なる2列の内輪軌道を設けた内輪と、前記両外輪軌道とこれら両内輪軌道との間に、それぞれの列毎に複数個ずつ、両列同士の間で同じ方向の接触角を付与された状態で転動自在に設けられた玉とを備えたタンデムアンギュラ型玉軸受に於いて、
前記両列の外輪軌道及び内輪軌道のうちでそれぞれの径が小さい側の外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた、ピッチ円直径が小さい第一列側の玉径を、それぞれの径が大きい側の外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた、ピッチ円直径が大きい第二列側の玉径よりも大きくし、
且つ、前記第一列側の玉に関する内部隙間を、前記第二列側の玉に関する内部隙間よりも小さくする事により、
使用状態で、前記第一列側の玉が負荷する荷重の大きさを、前記第二列側の玉が負荷する荷重の大きさよりも大きくした事を特徴とする、タンデムアンギュラ型玉軸受。
【請求項2】
前記第一列側の玉が負荷する荷重の大きさが、前記第二列側の玉が負荷する荷重の大きさの、1.5〜2.5倍である、請求項1に記載したタンデムアンギュラ型玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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