説明

タンパク質の発現方法

【課題】宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を、遺伝子工学的手法を用いて効率的に大量生産する手法を提供する。
【課題解決手段】
宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質、タンパク分解酵素の切断部位および上記タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質、あるいはさらに精製用のタグからなる融合タンパク質をコ−ドする遺伝子を用いて、宿主細胞において上記融合タンパク質を発現させ、得られた融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断することにより、上記過剰発現が抑制されているタンパク質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を、該タンパク質の過剰発現を可能にする機能を有するタンパク質との融合タンパク質として発現させる工程を含む、上記過剰発現が抑制されているタンパク質の効率的製造方法、上記融合タンパク質自体及び該融合タンパク質をコ−ドする遺伝子自体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遺伝子工学的手法によれば、発現ホストにおいて過剰発現が抑制されているタンパク質は、組換え蛋白質として大量発現および精製することが困難であった。
このような問題点については、大腸菌などで発現させる場合は、発現を誘導するまで強力に翻訳を阻害したり(非特許文献1参照)、発現プラスミドのコピ−数を低く抑えておくこと(非特許文献2参照)で、部分的な解決が図られている。しかし、こうした手段によっても発現が困難なタンパク質は多数存在する。たとえば、アクチンのように、真核細胞の発現系でなければ機能的な組換えタンパク質が得られないものも多数存在し、その場合は、効率的な翻訳の抑制と誘導が困難であった。昆虫細胞の発現系を用いるという手段はあるが(非特許文献3参照)、この場合も大量発現が可能かどうかはケ−スバイケ−スであり、とくに真核細胞の発現系において、過剰発現が抑制されるタンパク質を効率的に発現できるような、新たな技術の開発が待たれていた。
【0003】
【非特許文献1】Studier,F. W., A. H. Rosenberg, J. J. Dunn, and J. W. Dubendorff (1990). MethEnzymol. 185: 60−89.
【非特許文献2】Sektas,M., and W. Szybalski (2003). inNovations 14:6−8.
【非特許文献3】Joel,P. B., P. M. Fagnant, and K. M. Trybus (2004). Expression of nonpolymerizable actinmutant in Sf9 cells. Biochemistry 43: 11554−11449.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来手段の問題を解消することにあり、具体的には、遺伝子工学的手法を用いて組換えタンパク質を生産する場合において、そのタンパク質が使用する宿主細胞において過剰発現が抑制されている場合であっても、該タンパク質を効率的かつ安定的に大量生産する手段を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を、該タンパク質と結合してその一部機能を抑制し、形成された複合体が、宿主細胞が持つ該蛋白質の発現量制御系から外れるため、結果として過剰発現が可能になるような機能を有するタンパク質との融合タンパク質として発現させ、得られた融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断することにより、上記該タンパク質を製造する方法を創出した。この方法によれば、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質であっても、この宿主細胞を使用して遺伝子工学的手法により、効率的に大量生産が可能となる。すなわち本発明は以下の(1)〜(17)に示されるとおりである。
【0006】
(1)以下の(a)〜(f)の工程を含むことを特徴とする、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質の製造方法。
(a)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質をコ−ドする遺伝子DNAと、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子を、タンパク分解酵素の切断部位をコ−ドするヌクレオチド配列を含むリンカ−ポリヌクレオチドを介して結合せしめて融合遺伝子を調製する工程。
(b)上記融合遺伝子をベクタ−に挿入し、組み換えベクタ−を得る工程。
(c)上記組み換えベクタ−を宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程
(d)上記形質転換体を培養し、培養物から融合タンパク質を得る工程。
(e)得られた融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断し、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を得る工程。
(f)切断されたタンパク質の混合液から、上記発現を調節するタンパク質を除去し、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を精製する過程。

(2)以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、融合タンパク質の製造方法。
(a)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質をコ−ドする遺伝子DNAと、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子を、タンパク分解酵素の切断部位をコ−ドするヌクレオチド配列を含むリンカ−ポリヌクレオチドを介して結合せしめて融合遺伝子を調製する工程。
(b)上記融合遺伝子をベクタ−に挿入し、組み換えベクタ−を得る工程。
(c)上記組み換えベクタ−を宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程
(d)上記形質転換体を培養し、培養物から融合タンパク質を得る工程。

(3)上記タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子に、精製用のタグをコ−ドするヌクレオチド配列を結合させることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の製造方法。

(4)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質が、アクチンであり、該タンパク質の過剰発現を可能にする機能を有するタンパク質がプロフィリン、またはチモシンであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。

(5)タンパク質分解酵素の切断部位が、キモトリプシンであることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。

(6)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質と、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドが、タンパク質分解酵素の切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチドを介して結合していることを特徴とする、融合タンパク質。

(7)上記タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドのC末端に精製用のタグが付加されていることを特徴とする、上記(6)に記載の融合タンパク質。

(8)上記精製用タグがポリヒスチジンタグ、FLAGタグである上記(7)に記載の融合タンパク質。

(9)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質が、アクチンであり、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質が、プロフィリンまたはチモシンであることを特徴とする、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の融合タンパク質。

(10)タンパク質分解酵素の切断部位が、キモトリプシンであることを特徴とする、上記(6)〜(9)のいずれかに記載の融合タンパク質。

(11)配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質であって、蛋白分解酵素により切断されてアクチン活性を有するタンパク質を産生することを特徴とする、融合タンパク質。

(12)配列番号5または7に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、融合タンパク質。

(13)上記(6)〜(12)のいずれかに記載の融合タンパク質をコ−ドする遺伝子。

(14)配列番号2または4に記載の塩基配列を有するか、あるいは該塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが欠失、置換または付加された塩基配列を有する遺伝子であって、該遺伝子が、蛋白分解酵素により切断されてアクチン活性を有するタンパク質を産生する融合タンパク質をコ−ドするものであることを特徴とする、遺伝子。

(15)配列番号6または8に示される塩基配列を有することを特徴とする、遺伝子。

(16)上記(13)〜(15)のいずれかに記載の遺伝子が挿入されていることを特徴とする、組換えベクタ−。

(17)上記(16)に記載の組み換えベクタ−が導入されていることを特徴とする形質転換体。

【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質であっても、極めて効率的に該タンパク質を大量生産することが可能となる。
特に、本発明は、特に、真核細胞発現系において、過剰発現が困難な組換えタンパク質を、大量生産可能にする点で有用な技術である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を目的タンパク質として大量生産するため、宿主細胞において、目的タンパク質と、該目的タンパク質と結合することにより、目的タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドとを、タンパク分解酵素の切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチドを介して結合させた融合タンパク質の形態で発現させ、得られた融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断し、目的タンパク質を得るものである。
このような過剰発現が抑制されているタンパク質と該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドの組み合わせとしては、例えば、アクチンとチモシンまたはプロフィリン、あるいはチュブリンダイマ−とスタスミン等が挙げられる。
重合して微小管を構成するチュブリンダイマ−は、細胞質のダイマ−濃度を介したフィ−ドバック制御径路で発現量が制限されることが知られており、過剰発現が困難な蛋白質である。これに対して、スタスミンはチュブリンダイマ−と1;1に結合することが知られているものである。
【0009】
本発明においては、まず、上記過剰発現が抑制されている目的タンパク質コ−ドする遺伝子と該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子とを蛋白分解酵素の切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチドをコ−ドするポリヌクレオチドを介して結合させ、さらに精製用のタグをコ−ドするポリヌクレオチドを該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外す上記タンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子に結合させた融合遺伝子を調製し、ベクタ−に挿入し、この組み換えバクタ−を用いて、宿主細胞を形質転換し、該宿主細胞の培養物から、上記融合遺伝子に対応する融合タンパク質を採取する。次いで、この融合タンパク質を蛋白分解酵素で切断し、酵素反応液から上記目的タンパク質を分離する。酵素反応液から目的タンパク質を精製する際には、一般的な生化学的手法を用いることができるが、精製用のタグに対するアフィニティレジンを用いれば、該タンパク質の発現を調節する機能を有するタンパク質またはペプチドはレジンに結合するので、非結合分画にこれを容易に回収することもできる。
【0010】
上記宿主細胞内における融合タンパク質の発現においては、融合タンパク質中の目的タンパク質は同じく融合タンパク質中の過剰発現を可能にする機能を有するタンパク質またはペプチドにより、その過剰発現を調節する径路からはずされた状態にあり、融合タンパク質は過剰発現が可能となり、その結果、上宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質であっても大量生産が可能となる。
上記タンパク分解酵素としては、発現した融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断する際、製造目的のタンパク質が切断されないタンパク質分解酵素を選択し、リンカ−ペプチドをコ−ドするポリヌクレオチドの塩基配列の設計においては、この選択されたタンパク分解酵素の切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチドをコ−ドするように設計する。
本願発明の方法は、広く普遍性を有し、製造目的のタンパク質は特定のものには限定されない。
【0011】
以下に、内在性アクチンを大量生産する場合を例として挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
アクチンは、そのフォ−ルディングに真核細胞のシャペロンを必要とするため、大腸菌発現系による発現は不可能である。一方、アクチンはすべての真核細胞の増殖にとって必須なタンパク質であり、その発現量は厳密にコントロ−ルされているため、真核細胞で組換えアクチン遺伝子を大量発現することは困難である。
また、アクチンは、細胞内で重合してアクチンフィラメントを形成することでその生理的機能を発揮するタンパク質である。一方、プロフィリンは、アクチンモノマ−結合性タンパク質として知られ、重合能を失ったADP結合アクチンモノマ−と1:1の複合体を形成してADPとATPの交換反応を促進し、ATP結合アクチンを再生して重合能を回復させることが生理的機能であると考えられている。しかしプロフィリンと結合したアクチンモノマ−は重合することができず、プロフィリンから解離しなければ重合できないことが知られている。また、チモシンもアクチンモノマ−と結合することにより、細胞内でアクチンフィラメントの重合を阻害していることが知られている。すなわち、これらタンパク質は、アクチンモノマ−が細胞内で過剰にならないように制御する作用を有する。
【0012】
このような内在性アクチンを目的タンパク質とする場合においては、該タンパク質の発現を調節する機能を有するタンパク質として、上記プロフィリン、チモシンのようなアクチン作用を一定に制御するタンパク質を利用し、アクチンとこれら制御タンパク質との融合タンパク質として、宿主細胞内で発現させる。発現した融合タンパク質におけるアクチン部分は、プロフィリン等の制御タンパク質部分と分子内複合体を形成しており、その生理的機能が部分的に抑制され、発現量を制御する制御系からはずれている状態となっている。したがって、この融合タンパク質が過剰になっても、宿主細胞における発現調節系による発現抑制は起こらず、融合タンパク質を過剰発現することができる。
【0013】
本発明の方法に従って、内在性アクチンを製造するには、アクチンと、プロフィリン又はチモシン等の制御タンパク質をコ−ドする融合遺伝子を調製するが、アクチン遺伝子と制御タンパク質遺伝子との間には、タンパク質分解酵素の切断部位を有するリンカ−ペプチドをコ−ドするヌクレオチド配列を挿入する。このようなタンパク分解酵素の切断部位としては、アクチンを切断しないキモトリプシンの切断部位を選択することが望ましい。すなわち、アクチン中にキモトリプシン切断配列はあるが、表面に露出していないので、ほとんど切断されない。なお、アクチンのN末端は複雑な翻訳後修飾を受けることが知られているので、N末端側の配列は改変しない方がのぞましい。
したがって、プロフィリンまたはチモシン遺伝子は、アクチン遺伝子の3‘末端側に連結する。
また、プロフィリンまたはチモシン遺伝子の3‘末端側には、精製用のタグをコ−ドするヌクレオチド配列を付すが、このような配列としては、6xHisまたはFLAG配列が望ましい。
【0014】
次いで、この融合遺伝子をベクタ−に組み込み、得られた組み換えベクタ−を用いて宿主細胞形質転換させるが、宿主細胞としては、細胞性粘菌やSf9昆虫由来細胞等の真核細胞が挙げられ、使用ベクタ−としては、例えば細胞性粘菌の場合はpBIGやpTIKL、昆虫細胞の場合はpFastBac等の発現ベクタ−が挙げられる。
上記形質転換細胞を培養することにより得られる融合タンパク質の例として、図1を示すが、この図1の融合タンパク質は、アクチンとチモシンとの融合タンパク質であり、アクチンとチモシンとの間にはキモトリプシン切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチド部分が挿入された構造を有し、精製のためのポリヒスチジン配列を有している。
【0015】
このような融合タンパク質の具体例としては、配列表の配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有するアクチン−チモシン融合タンパク質、あるいは配列番号5または7に示されるアクチン−プロフィリン融合タンパク質が挙げられる。これら配列番号に示されるアクチンのアミノ酸配列は細胞性粘菌の野生型actin 15配列である。これらは精製後、蛋白分解酵素により切断されてアクチン作用を有するタンパク質を産生することができるようになっている。
また、本発明においては、これら配列番号2または4に示されるアミノ酸配列において、1乃至数個のアミノ酸残基が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質であっても、蛋白質分解酵により切断されて、アクチン活性を有するタンパク質を産生する融合タンパク質も包含する。
【0016】
以下に、好ましい融合タンパク質の構造を示す。これらにおいては、融合タンパク質の下流側にポリヒスチジンタグ配列が付加されている。
アクチン−チモシン融合タンパク質(配列番号5)
(化1)
MDGEDVQALVIDNGSGMCKAGFAGDDAPRAVFPSIVGRPRHTGVMVGMGQKDSYVGDEAQSKRGILTLKYPIEHGIVTNWDDMEKIWHHTFYNELRVAPEEHPVLLTEAPLNPKANREKMTQIMFETFNTPAMYVAIQAVLSLYASGRTTGIVMDSGDGVSHTVPIYEGYALPHAILRLDLAGRDLTDYMMKILTERGYSFTTTAEREIVRDIKEKLAYVALDFEAEMQTAASSSALEKSYELPDGQVITIGNERFRCPEALFQPSFLGMESAGIHETTYNSIMKCDVDIRKDLYGNVVLSGGTTMFPGIADRMNKELTALAPSTMKIKIIAPPERKYSVWIGGSILASLSTFQQMWISKEEYDESGPSIVHRKCFASRGGSGGSGGSASDKPDMAEIEKFDKSKLKKTETQEKNPLPSKETIEQEKQAGESHHHHHHHH*
(下線部は、キモトリプシンの切断部位であるリンカ−配列、リンカ−より上流側はDictyostelium discoideum Actlin15配列、 リンカ−より下流側はヒト・チモシンβ配列、及び2重下線部は精製用のポリヒスチジンタグをそれぞれ表す。)
【0017】
アクチン−プロフィリン融合タンパク質(配列番号7)
(化2)
MDGEDVQALVIDNGSGMCKAGFAGDDAPRAVFPSIVGRPRHTGVMVGMGQKDSYVGDEAQSKRGILTLKYPIEHGIVTNWDDMEKIWHHTFYNELRVAPEEHPVLLTEAPLNPKANREKMTQIMFETFNTPAMYVAIQAVLSLYASGRTTGIVMDSGDGVSHTVPIYEGYALPHAILRLDLAGRDLTDYMMKILTERGYSFTTTAEREIVRDIKEKLAYVALDFEAEMQTAASSSALEKSYELPDGQVITIGNERFRCPEALFQPSFLGMESAGIHETTYNSIMKCDVDIRKDLYGNVVLSGGTTMFPGIADRMNKELTALAPSTMKIKIIAPPERKYSVWIGGSILASLSTFQQMWISKEEYDESGPSIVHRKCFASRGGSGGSGGSAMSWQQYVDEQLTGAGLSQGAILGANDGGVWAKSSGINITKPEGDGIAALFKNPAEVFAKGALIGGVKYMGIKGDPQSIYGKKGATGCVLVRTGQAIIVGIYDDKVQPGSAALIVEKLGDYLRDNGYHHHHHHHH*
(上記塩基配列中、下線部はキモトリプシンの切断部位であるリンカ−配列、リンカ−より上流側はDictyostelium discoideum Act1in 15配列、下流側はDictyostelium discoideum Profilin I配列、及び二重下線部は精製用のポリヒスチジンタグをそれぞれ表す。)
【0018】
一方、上記融合タンパク質の遺伝子の具体例としては、配列番号・・に示される塩基配列を有するアクチン−チモシン融合タンパク質の遺伝子、あるいは配列番号・・に示される塩基配列を有するアクチン−プロフィリン融合タンパク質の遺伝子が挙げられる。
また、本発明においては、これら配列番号・・または・・に示される塩基配列において、1乃至数個のヌクレオチド残基が欠失、置換または付加され塩基配列を有する遺伝子であっても、蛋白質分解酵により切断されて、アクチン活性を有するタンパク質を産生する融合タンパク質をコ−ドする融合蛋白質をコ−ドする遺伝子を包含する。
【0019】
以下に、好ましい融合タンパク質遺伝子の構造を示す。これらにおいては融合タンパク質遺伝子の下流側にポリヒスチジンタグをコ−ドする配列が付加されている。
アクチン−チモシン融合遺伝子の塩基配列(配列番号6)
(化3)
ATGGATGGTGAAGACGTCCAAGCTTTAGTTATTGATAACGGTTCTGGTATGTGTAAAGCCGGTTTTGCTGGTGACGATGCTCCACGTGCTGTTTTCCCATCAATTGTTGGTCGTCCAAGACACACTGGTGTTATGGTTGGTATGGGTCAAAAAGACTCATATGTAGGTGATGAAGCCCAATCAAAGAGAGGTATCTTAACCCTCAAATACCCAATTGAACACGGTATCGTTACCAACTGGGATGATATGGAAAAAATCTGGCATCATACTTTCTACAATGAACTCCGTGTTGCACCAGAAGAACACCCAGTTTTGTTAACAGAAGCTCCATTAAATCCAAAAGCCAACAGAGAAAAAATGACCCAAATTATGTTTGAAACCTTCAACACCCCAGCCATGTACGTTGCCATTCAAGCCGTCTTATCCTTATATGCCTCTGGTCGTACCACCGGTATTGTTATGGATTCAGGTGATGGTGTCTCCCACACTGTACCAATCTATGAAGGTTATGCCTTACCACATGCCATCTTACGTTTAGATTTAGCTGGTCGTGATCTCACCGATTACATGATGAAAATCTTAACTGAACGTGGTTACTCATTCACCACCACTGCCGAAAGAGAAATCGTCAGAGATATCAAAGAGAAATTAGCCTACGTCGCCCTCGACTTTGAAGCTGAAATGCAAACTGCTGCCTCCTCGAGTGCCCTCGAAAAATCATACGAATTACCAGACGGTCAAGTTATCACCATTGGTAACGAACGTTTCCGTTGTCCAGAAGCCCTCTTCCAACCATCATTCTTAGGTATGGAATCTGCTGGTATCCACGAAACCACATACAACTCCATCATGAAATGTGATGTTGATATCCGTAAAGATTTATACGGTAATGTCGTCTTATCAGGTGGTACCACTATGTTCCCAGGTATTGCTGATCGTATGAACAAAGAATTAACTGCTTTAGCACCATCAACCATGAAAATTAAAATCATTGCTCCACCAGAACGTAAATACTCTGTCTGGATTGGTGGATCTATTTTAGCTTCACTCTCAACTTTCCAACAAATGTGGATCTCAAAAGAAGAATATGATGAATCTGGTCCATCAATTGTCCACAGAAAATGTTTCGCTAGCAGAGGTGGATCCGGAGGTTCTGGAGGTAGTGCATCAGATAAACCAGATATGGCTGAAATCGAGAAGTTCGATAAGTCAAAGCTTAAGAAAACTGAAACACAAGAAAAGAATCCATTACCATCAAAAGAGACAATTGAACAAGAGAAACAAGCAGGTGAATCACATCATCACCATCATCACCATCATTAA

(上記塩基配列中、下線部はリンカ−配列をコ−ドするヌクレオチド配列、リンカ−より上流側はDictyostelium discoideum act15をコ−ドする塩基配列、下流側はヒト・チモシンβのアミノ酸配列をコ−ドする塩基配列、及び二重下線は精製用のポリヒスチジンタグをコ−ドする塩基配列をそれぞれ表す。)
【0020】
アクチン−プロフィリン融合遺伝子の塩基配列(配列番号8)
(化4)
ATGGATGGTGAAGATGTTCAAGCTTTAGTTATTGATAACGGTTCTGGTATGTGTAAAGCCGGTTTTGCTGGTGACGATGCTCCACGTGCTGTTTTCCCATCAATTGTTGGTCGTCCAAGACACACTGGTGTTATGGTTGGTATGGGTCAAAAAGACTCATATGTAGGTGATGAAGCCCAATCAAAGAGAGGTATCTTAACCCTCAAATACCCAATTGAACACGGTATCGTTACCAACTGGGATGATATGGAAAAAATCTGGCATCATACTTTCTACAATGAACTCCGTGTTGCACCAGAAGAACACCCAGTTCTCTTAACCGAAGCTCCATTAAATCCAAAAGCCAACAGAGAAAAAATGACCCAAATTATGTTTGAAACCTTCAACACCCCAGCCATGTACGTTGCCATTCAAGCCGTCTTATCCTTATATGCCTCTGGTCGTACCACCGGTATTGTTATGGATTCAGGTGATGGTGTCTCCCACACTGTACCAATCTATGAAGGTTATGCCTTACCACATGCCATCTTACGTTTAGATTTAGCTGGTCGTGATCTCACCGATTACATGATGAAAATCTTAACTGAACGTGGTTACTCATTCACCACCACTGCCGAAAGAGAAATCGTCAGAGATATCAAAGAGAAATTAGCCTACGTCGCCCTCGACTTTGAAGCTGAAATGCAAACTGCTGCCTCATCATCAGCCCTCGAAAAATCATACGAATTACCAGACGGTCAAGTTATCACCATTGGTAACGAACGTTTCCGTTGTCCAGAAGCCCTCTTCCAACCATCATTCTTAGGTATGGAATCTGCTGGTATCCACGAAACCACATACAACTCCATCATGAAATGTGATGTTGATATCCGTAAAGATTTATACGGTAATGTCGTCTTATCAGGTGGTACAACTATGTTCCCAGGTATTGCTGATCGTATGAACAAAGAATTAACTGCTTTAGCACCATCAACCATGAAAATTAAAATCATTGCTCCACCAGAACGTAAATACTCTGTCTGGATTGGTGGATCTATTTTAGCTTCACTCTCAACTTTCCAACAAATGTGGATCTCAAAAGAAGAATATGATGAATCTGGTCCATCAATTGTCCACAGAAAATGTTTCGCTAGCAGAGGTGGATCCGGAGGTTCTGGAGGTAGTGCAATGAGCTGGCAACAATATGTCGATGAACAATTAACTGGTGCAGGACTTTCTCAAGGAGCAATTTTAGGTGCAAATGATGGTGGTGTTTGGGCTAAATCATCAGGTATTAATATTACTAAACCAGAAGGTGATGGTATAGCTGCTTTATTCAAAAATCCAGCTGAGGTATTTGCTAAGGGTGCTTTGATTGGTGGAGTAAAATATATGGGTATTAAGGGTGACCCACAAAGTATCTATGGTAAAAAGGGAGCAACTGGTTGTGTTCTTGTTAGAACAGGCCAAGCAATCATTGTTGGCATTTATGATGATAAAGTCCAACCAGGATCAGCTGCACTTATTGTTGAAAAGTTAGGTGATTACTTAAGAGATAATGGTTATCATCATCACCATCATCACCATCATTAA

(上記塩基配列中、下線部はリンカ−をコ−ドするヌクレオチド配列、リンカ−より上流側はDictyostelium discoideum act15をコ−ドする塩基配列、下流側はDictyostelium discoideum pfiIをコ−ドする塩基配列、及び二重下線は精製用のポリヒスチジンタグをコ−ドする塩基配列をそれぞれ表す。)
【0021】
これらの融合タンパク質はポリヒスチジンタグを有するので、これら融合タンパク質の遺伝子により形質転換された宿主細胞から抽出した可溶性分画をニッケルアフィニティアガロ−スカラムクロマトグラフィ−により精製することができる。得られた融合タンパク質はキモトリプシンで切断する。アクチンは重合活性を有するので、酵素反応液中のアクチンを重合させ、超遠心によりアクチンフィラメントを分離採取することで、純粋な遊離アクチンを得ることができる。
このようにして得られたアクチンは、正常な重合活性をもち(図1)、アクチンフィラメントは電子顕微鏡的に正常であり(図2)、さらにミオシンとの相互作用も正常である。また、タンパク質化学的な解析によっても、N末のメチオニンの除去と2番目のアスパラギン酸のアセチル化,74番のヒスチジンのメチル化は正常に起こっており、さらに、C末が天然アクチンと同じ376番のフェニルアラニンであることを確認している。したがって本発明により得られた組換えアクチンは機能的にも構造的にも完全に正常なアクチンであり、しかも、その生産量は極めて大量である(1Lの培養から約5 mg)。
【0022】
以下に、本発明の実施例を示すが、本願発明はこれに限定されない。

【実施例1】
【0023】
融合タンパク質遺伝子の調製
(1)アクチン−プロフィリン融合タンパク質をコ−ドする遺伝子含有プラスミドの調製
a)pTIKLAct15の構築
細胞性粘菌のact15 遺伝子(accession # M14146)をGFP融合タンパク質の形で発現するプラスミドpBIG GFP−actin (Asano et al., Cell Motility and the Cytoskeleton 59:17−27, 2004)をテンプレ−ト、5’actttcatgcaatctagataaaaa(配列番号9)および5’aacgaattcacgcgttagctagcgaaacattttctgtggacaat(配列番号10)をプライマ−とするPCRを行い、5’側にXbaI、3’側にNheI−stop−MluI−EcoRIを付加したact15 のpromoterとcoding sequenceを含む増幅産物を得、これをpGEM7−Zf(−)(Promega)のXbaI/EcoRIサイトにサブクロ−ンしてpGEMact15を得た。次に、pLD1A15SN(Robinson and Spudich, J Cell Biol. 150:823−838, 2000)をMluIとBamHIで切断して5’側にMluI、3’側にBamHIをもつact15 terminator 配列を切り出し、これを、pGEMact15のMluI/BamHIサイトに挿入して、 pGEMact15NheMluTermを得た。次に、挿入配列全体をXbaIとSacIで切り出し、pTIKL (Liu et al., PNAS 95: 14124−14129, 1998)のXbaI/SacIサイトに挿入して、act15の発現プラスミドであるpTIKLAct15を得た。
【0024】
b)pTIKLAPの構築
細胞性粘菌Ax2株から定法に従ってTotal RNAを抽出し、5’ccagtgagcagagtgacgaggactcgagctcaagcttttttttttttttttt(配列番号11)プライマ−とReverTra Ace 逆転写酵素(Toyobo)を用いて定法に従いfirst strandを合成した。Cetrisepスピンカラムによりプライマ−を除去した後、これをテンプレ−ト、5’gtcgacaatgagctggcaacaatatgtcg(配列番号12)および5’gaggactcgagctcaagctt(配列番号13)をプライマ−とするPCRを行い、増幅産物をpGEM T easyベクタ−(Promega)にサブクロ−ンして、pfiI 遺伝子(accession # X61581)を含むプラスミドを選択し、pGEMpfiIとした。
【0025】
次に、pGEMpfiIをテンプレ−トとし、5’agctagcagaggtggatccggaggttctggaggtagtgcaatgagctggcaacaatatgtc(配列番号14)と5’aacgcgttaatgatggtgatgatggtgatgatgataaccattatctcttaagtaat(配列番号15)をプライマ−としたPCRを行い、5’側にNheIサイトとASRGGSGGSGGSA(配列番号16)というリンカ−をコ−ドする配列を、3’側にHHHHHH(配列番号17)−stopをコ−ドする配列とMluIサイトをもつpfiIを含む増幅産物をpGEM−T easyにサブクロ−ンして、pGEMPfiIを得た。配列をDNAシ−ケンスにより確認後、インサ−ト全体をNheIとMluIで切り出し、pTIKLA15のNheI/MluIに挿入して、アクチン・プロフィリン融合タンパク質を発現するpTIKLAPを得た。
【0026】
(2)アクチン−チモシン融合タンパク質をコ−ドする遺伝子含有プラスミドの調製
a)pTIKLARPの構築
将来act15内に効率的に変異を導入するため、act15コ−ド領域をユニ−クサイト(AatII, HpaI, XhoI, KpnI, NheI)で区切られた4つの領域(Frag1, Frag2, Frag3, Frag4)に分ける操作を行った(ただしAatIIサイトは、act15コ−ド領域の13−18残基に位置し、12残基目までは上記分割領域に含まれない)。このため、pBIG GFP−actinをテンプレ−トとし、以下の4組プライマ−を用いたPCRを行った。

Frag1用:5’GACGTCCAAGCTTTAGTTATTGATAA(配列番号18)と5’GTTAACAAAACTGGGTGTTCTTCTGGTG3’ (配列番号19)、

Frag2用:5’GTTAACAGAAGCTCCATTAAATCCAAAA(配列番号20)と5’CTCGAGGAGGCAGCAGTTTGCATTT3’ (配列番号21)、

Frag3用:5’CTCGAGTGCCCTCGAAAAATCATAC(配列番号22)と5’GGTACCACCTGATAAGACGACATTAC3’ (配列番号23)、

Frag4用:5’GGTACCACTATGTTCCCAGGTATTG(配列番号24)と5’GCTAGCGAAACATTTTCTGTGGACAAT3’(配列番号25)。
【0027】
増幅産物は、pGEMT−easyまたはpUC19のSmaIサイトに挿入し、 配列をDNAシ−ケンスにより確認し、それぞれpGEM−F1, pGEM−F2, pUC19−F3,およびpUC19−F4とした。
次に、pBluescrptAct15P(東大・須藤和夫教授より分与)をテンプレ−ト、5’GACGTCTTCACCATCCATTTTTATTTTTTATTTAATTTAA3’(配列番号26)と5’CAGGAAACAGCTATGAC3’(配列番号27)をプライマ−とするPCRを行い、3’側にAatIIサイトまでのact15の18残基を付加したact15プロモ−タ−を増幅し、これをpGEM−T easyに挿入してpGEM−a15pを得た。
pGEM−F1のSac I, Aat II切断により得られたFrag1を、pGEM−a15pのSac I/Aat IIサイトに挿入し、pGEM−pF1とした。同様にpGEM−F2のSacI, HpaI切断により得られたFrag2をpGEM−pF1のSacI/HpaIサイトに挿入し、pGEM−pF1−2とした。次にpUC19−F3のPvuII、XhoI切断により得られたFrag3をpGEM−pF1−2のNaeI/XhoIサイトに挿入し、pGEM−pF1−3とした。最後に、pUC19−F4をKpnIで切断し、得られたFrag4をpGEM−pF1−3のKpnIサイトに挿入して、サイレント変異により四つのユニ−クサイトをもつ変異型act15遺伝子ARを完成させ、pGEM−ARとした。なお、挿入されたFrag4の方向は配列を読むことにより確認した。pGEM−ARをXbaI、NheIで切断し、得られたAR断片をpTIKL−APのXbaI、NheIサイトに挿入して、pTIKLARPとした。
【0028】
b)チモシンβ4遺伝子の合成
発現のホストである細胞性粘菌はヒトとコドン使用頻度が大きく異なるので、ヒト・チモシンβ4遺伝子をそのまま細胞性粘菌で発現させると発現効率が低下する恐れがあった。そこで、細胞性粘菌のコドンバイアスを考慮しつつ、ヒト・チモシンβ4をコ−ドする遺伝子は以下に述べるPCRを用いた合成法によって得た。まずチモシンβ4配列を二つの領域に分割し、それぞれを、二つのオリゴヌクレオチドによる相互伸長反応により合成した。伸長反応条件は通常のPCRの条件を用い、オリゴヌクレオチドは以下の二組を用いた。
5’GGTTCTGGAGGTAGTGCATCAGATAAACCAGATATGGCTGAAA(配列番号28)
と5’CTTAAGCTTTGACTTATCGAACTTCTCGATTTCAGCCATATCTGG(配列番号29)及び、
5’CTTAAGAAAACTGAAACACAAGAAAAGAATCCATTACCATCAAAAGAGACAATTGAAC(配列番号30)
と5’ATGATGGTGATGATGTGATTCACCTGCTTGTTTCTCTTGTTCAATTGTCTCTTTTGA(配列番号31)
(下線部は、互いのオリゴヌクレオチドがアニ−リングする領域を示す。)

反応産物はそれぞれpUC19のSmaIサイトに挿入し、配列を確認して、それぞれpUC19−Thymo1とpUC19−Thymo2とした。pUC19−Thymo2をEcoRIとAflIIで切断し、得られた断片をpUC19−Thymo1のEcoRI/AflIIサイトに挿入し、 pUC19−Thymosinを得た。
【0029】
c)pTIKLARTの構築
上記b)で得られたpUC19−Thymosinをテンプレ−トとし、5’GCTAGCAGAGGTGGATCCGGAGGTTCTGGAGGTA(配列番号32)と5’ACGCGTTAATGATGGTGATGATGGTGATGATGTGATTCACCT(配列番号33)をプライマ−とするPCRを行い、5’側にNheIサイト、3’側にHHHHHH(配列番号17)をコ−ドする配列とstopコドンおよびMluIサイトを付加した人工チモシン4遺伝子を得て、これをpUC19のSmaIサイトに挿入し、pUC19−link−Thymosin−Hisを得た。次に、pUC19−link−Thymosin−HisをNheIとMluIで切断し、得られた断片を上記(2)a)で得られたpTIKLARPのNheI/MluIサイトに導入して、pfiI遺伝子を人工チモシン遺伝子で置換したpTIKLARTを得た
【実施例2】
【0030】
アクチン・チモシン融合タンパク質の発現及び同タンパク質からのアクチンの製造

野生型Dictyostelium discoidem Ax2株を、electroporation 法(文献Egelhoff et al., 1991)によりpTIKLARTで形質転換し、温度21度において形質転換体を12 mg/mL G418を含むHL5培地中(文献Sussman, 1987)で選択培養し、さらに1−3 LのHL5培地で大量培養した。
得られた細胞を遠心(1700×g, 5 min)によって集菌した。以後の操作はすべて4 ℃または氷上にて行った。細胞ペレットは10 mM Tris−HCl pH 7.4で二度洗浄し、細胞重量の2倍量のBinding buffer 1 (10 mM Imidazole pH 7.4, 10 mM Hpes pH7.4, 300 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)を加え、懸濁した。さらにBinding Buffer 2 (Binding Buffer1プラス2.5% Triton X−100およびタンパク質分解酵素阻害剤) を細胞重量の2倍量を加えることで溶菌させ、遠心(40,000×g, 30 min)した。
【0031】
上澄み液はNi Sepharose High Performance(GEヘルスケアバイオサイエンス社)と一時間混合し、アクチン・チモシン融合タンパク質を吸着させた。Ni Sepharose High Performance をwash buffer (20 mM Imidazole pH 7.4, 300 mM NaCl, 4 mM MgCl2, 0.1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)で洗浄した後、elution buffer (300 mM Imidazole pH 7.4, 50 mM NaCl, 0.1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)によってアクチン・チモシン融合タンパク質を溶出させた。溶出液はキモトリプシン切断 buffer (10 mM Hepes pH 7.4, 50 mM NaCl, 5 mM EDTA, 0.1 mM ATP, 0.1 mM DTT, 0.01% NaN3 )に対して一晩透析した。透析後、超遠心(300,000×g, 6 min)を行い、上澄み液をアクチン・チモシン融合タンパク質粗精製液とした。収量は、培地1 Lあたり10 mg程度であった。
粗精製液に、タンパク質の重量比で200 : 1になるようにTLCK処理済みキモトリプシンを加え、25℃で40分間消化反応を行った。反応は0.2 mM PMSFを加えることで停止させた。この段階で1 mM ATPを加えて遊離したアクチンを重合させ、超遠心(300,000×g, 15 min, 4℃)することでアクチンフィラメントを沈殿させ、その他の夾雑タンパク質から分離することができた。
【0032】
一方、収量を犠牲にして純度の高いアクチンフィラメントの製造のために、以下の方法により精製を行った。まず、キモトリプシン反応液をEcono−Pac High Q Cartridge (Bio−Rad社)に通し、遊離アクチンを吸着させた。Econo−Pac High Q Cartridge をキモトリプシン切断 bufferで洗浄後、50−500 mM NaClを含むキモトリプシン切断 bufferのグラジエントでアクチンを溶出させた。溶出させたアクチンはF−Buffer (10 mM Hepes pH 7.4, 50 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 0.1 mM ATP, 0.1 mM DTT, 0.01% NaN3)に対して透析を行い、アクチンを重合させた。超遠心(300,000×g, 15 min, 4℃)し、沈殿したアクチンフィラメントにG−buffer (2 mM Tris−HCl pH 7.4, 0.2 mM CaCl2, 0.2 mM ATP, 0,5 mM DTT, 0.01% NaN3)を加えることにより脱重合させ、さらにG−bufferに対して透析を行った。再度超遠心(300,000×g, 15 min, 4℃)し、上澄み液を精製アクチン溶液とした。培地1 Lから1 mgの精製アクチンが得られた。
【0033】
各精製段階における電気泳動の結果を図2に示す。図中における各レ−ンは以下のとおりである。
Lane 1,2:粗精製アクチン・チモシン融合タンパク質を超遠心したペレット(1)と上澄(2)。
Lane 3:キモトリプシン処理後。
Lane 4: High Q Sepharose素通り分画。
Lane 5: High Q Sepharoseから溶出したアクチン分画。Lane 6, 7: 同分画を重合条件下で超遠心したペレット(精製アクチン:6)と上澄(7)。
Lane 8, 9: 同分画を脱重合条件下(G buffer中)で超遠心したペレット(8)と上澄(9)。
【0034】
得られた精製アクチンは、重合条件下で超遠心によりペレットになることから正常に重合することが示された(図2)。さらに、フィラメント構造も正常であることが、ネガティブ染色像の電子顕微鏡観察により示された(図3)。また、in vitro運動アッセイにおいて、内在性アクチンとほぼ同じ速度で運動した。したがって、本法により精製した組換えアクチンは、構造的にも機能的にも正常であることが示された。なお、翻訳後修飾については、アクチン・プロフィリン融合タンパク質から得た組換えアクチンのアミノ酸分析の結果、正常な翻訳後修飾を受けることを確認した(実施例3参照)。
【実施例3】
【0035】
アクチン・プロフィリン融合タンパク質の発現、及び同融合タンパク質からアクチンの製造。
実施例1(1)b)で得られたpTIKLAPを用い、実施例2と同様に野生型Dictyostelium discoidem Ax2株の形質転換を行い、実施例2と同様に形質転換体の選択培養、および大量培養を行った。
以後の操作はすべて4 ℃または氷上にて行った。細胞は、低速遠心(1700×g, 5 min)によって収穫し、さらに10 mM Tris−HCl pH 7.4で二度洗浄した。細胞ペレットを細胞重量の2倍量のBinding buffer 1 (10 mM Imidazole pH 7.4, 10 mM Hpes pH 7.4, 300 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)に懸濁した。さらにBinding Buffer 2 (Binding Buffer1プラス 1% Triton X−100,プロテア−ゼ阻害剤混合液) を細胞重量の2倍量を加えることで溶菌させ、ただちに遠心(40,000×g, 30 min)した。
【0036】
上澄み液を、細胞重量の1/5容のHighTrap Hisレジン (アマシャム)と30分混合し、アクチン・プロフィリン融合タンパク質を吸着させた。次に、HighTrap Hisレジンをwash buffer (20 mM Imidazole pH 7.4, 300 mM NaCl, 4 mM MgCl2, 0.1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)で洗浄した後、wash bufferからelution buffer (400 mM imidazole pH 7.4, 25 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 0.1 mM ATP, 7 mM βメルカプトエタノ−ル)へのリニアグラジエントによってアクチン・プロフィリン融合タンパク質を含むタンパク質を溶出した。溶出分画は、キモトリプシン切断buffer (10 mM Hepes pH 7.4, 25 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 0.2 mM ATP, 0.1 mM DTT)に対して一晩透析した。透析後、超遠心(300,000×g, 15 min)を行い、上澄み液をアクチン・プロフィリン融合タンパク質粗精製液とした。
【0037】
粗精製液の総タンパク質とキモトリプシンが重量比で200 : 1になるようにTLCK処理済みキモトリプシンを加え、25℃で10分間消化反応を行った。反応は0.2 mM PMSFを加えることで停止させた。この段階で1 mM ATPを加えて遊離したアクチンを重合させ、超遠心(300,000×g, 15 min)することでアクチンフィラメントを沈殿させ、その他の夾雑タンパク質から分離することができた。収量は、培養液1 Lあたり約5 mgであった。
【0038】
アクチン・プロフィリン粗精製分画の各精製段階における電気泳動の結果を第4図に示す。図中の各クレ−ンは以下のとおりである。
Lane 1, 2:粗精製アクチン・プロフィリンを超遠心した上澄(S)とペレット(P)。
Lane 3, 4:キモトリプシン処理後超遠心した上澄(S)とペレット(P)。
Lane 5: 骨格筋アクチン。
【0039】
一方、収量を犠牲にして純度の高いアクチンフィラメントを得るために、以下の方法によりさらに精製を行った。切断したアクチン・プロフィリン溶液をG bufferに対して6時間透析し、Q−Sepharoseカラムに吸着させた。カラムをwash buffer (10 mM imidazole pH 7.4, 0.1 mM ATP, 0.2mM CaCl2, 0.2mM DTT, 0.005%NaN3)で洗った後、同bufferから同buffer+1 M NaClのリニアグラジエントで溶出を行い、アクチンを含む分画を回収した。これをG bufferに対して一晩透析し、超遠心処理(300,000×g, 15 min)を行った上澄を精製アクチン分画とした。培養液1 Lから約0.2 mgの精製アクチンが得られた。この場合の各精製段階における電気泳動の結果を図5に示す。
【0040】
図中の各レ−ンは以下のとおりである。
Lane 1: Ni−カラムから溶出したアクチン・プロフィリン融合タンパク質の粗精製分画。
Lane 2: 同分画をキモトリプシン処理したもの。
Lane 3: キモトリプシン処理液をQ−Sepharoseカラムにロ−ドしたときの素通り分画。Lane 4: Q−Sepharoseからの溶出したアクチン分画。
Lane 5: 骨格筋アクチン。
【0041】
上記方法により精製したアクチンについてアミノ酸分析を行い、C末端は天然のアクチンと同様に376番のフェニルアラニンであることを確認した。さらに、N末のメチオニンが除去されて2番目のアスパラギン酸がアセチル化され、また74番のヒスチジンがメチル化されていることを確認した。したがって、アクチンに関して知られている翻訳後修飾がすべて正常であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願発明の融合タンパク質の一次構造の例を示す模式図である。
【図2】実施例2のアクチン重合を伴う精製手段の各精製段階における電気泳動の結果を示す図である。
【図3】実施例2で得られたアクチンのフィラメント構造が正常であることを示す、ネガティブ染色像の電子顕微鏡観察写真である。
【図4】実施例3のアクチン重合を伴う精製手段の各精製段階における電気泳動の結果を示す図である。
【図5】実施例3のアクチンの他の精製手段の各精製段階における電気泳動の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)の工程を含むことを特徴とする、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質の製造方法。
(a)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質をコ−ドする遺伝子DNAと、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子を、タンパク分解酵素の切断部位をコ−ドするヌクレオチド配列を含むリンカ−ポリヌクレオチドを介して結合せしめて融合遺伝子を調製する工程。
(b)上記融合遺伝子をベクタ−に挿入し、組み換えベクタ−を得る工程。
(c)上記組み換えベクタ−を宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程
(d)上記形質転換体を培養し、培養物から融合タンパク質を得る工程。
(e)得られた融合タンパク質をタンパク分解酵素で切断し、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を得る工程。
(f)切断されたタンパク質の混合液から、上記発現を調節するタンパク質を除去し、宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質を精製する過程。
【請求項2】
以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、融合タンパク質の製造方法。
(a)宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質をコ−ドする遺伝子DNAと、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子を、タンパク分解酵素の切断部位をコ−ドするヌクレオチド配列を含むリンカ−ポリヌクレオチドを介して結合せしめて融合遺伝子を調製する工程。
(b)上記融合遺伝子をベクタ−に挿入し、組み換えベクタ−を得る工程。
(c)上記組み換えベクタ−を宿主細胞に導入して形質転換体を得る工程
する工程。
(d)上記形質転換体を培養し、培養物から融合タンパク質を得る工程。
【請求項3】
上記タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドをコ−ドする遺伝子に、精製用のタグをコ−ドするヌクレオチド配列を結合させることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質が、アクチンであり、該タンパク質の過剰発現を可能にする機能を有するタンパク質がプロフィリン、またはチモシンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
タンパク質分解酵素の切断部位が、キモトリプシンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質と、該タンパク質と結合することにより、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドが、タンパク質分解酵素の切断部位のアミノ酸配列を有するリンカ−ペプチドを介して結合していることを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項7】
上記タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質またはペプチドのC末端に精製用のタグが付加されていることを特徴とする請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
上記精製用タグがポリヒスチジンタグ、FLAGタグである請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
宿主細胞において過剰発現が抑制されているタンパク質が、アクチンであり、該タンパク質に対する発現量制御系の関与を外すタンパク質が、プロフィリンまたはチモシンであることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項10】
タンパク質分解酵素の切断部位が、キモトリプシンであることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項11】
配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有する融合タンパク質であって、蛋白分解酵素により切断されてアクチン活性を有するタンパク質を産生することを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項12】
配列番号5または7に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれかに記載の融合タンパク質をコ−ドする遺伝子。
【請求項14】
配列番号2または4に記載の塩基配列を有するか、あるいは該塩基配列において、1または数個のヌクレオチドが欠失、置換または付加された塩基配列を有する遺伝子であって、該遺伝子が、蛋白分解酵素により切断されてアクチン活性を有するタンパク質を産生する融合タンパク質をコ−ドするものであることを特徴とする、遺伝子。
【請求項15】
配列番号6または8に示される塩基配列を有することを特徴とする、遺伝子。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれかに記載の遺伝子が挿入されていることを特徴とする、組換えベクタ−。
【請求項17】
請求項16に記載の組み換えベクタ−が導入されていることを特徴とする形質転換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−86225(P2008−86225A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268914(P2006−268914)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人科学技術振興機構「細胞内蛋白質統合検出システム」受託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】