タンパク質の結晶化試薬キット及び試薬キットを利用した結晶化スクリーニング方法
【課題】タンパク質の結晶化スクリーニングに際し、初期スクリーニングとそれに続く二次スクリーニングで、共に試料タンパク質結晶化の最適化条件を効率よく見出すスクリーニング用試薬キットを提供する。
【解決手段】互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キット、及び二次スクリーニング試薬キットとで構成されるタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【解決手段】互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キット、及び二次スクリーニング試薬キットとで構成されるタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質含有試料から所望のタンパク質を結晶化するための結晶化試薬キット及び試薬キットを利用した結晶化スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物科学はめざましい進歩を遂げているが、タンパク質分子のその優れた機能と構造との相関の理解はまだまだ不十分である。タンパク質分子の三次元構造を解析するための最も一般的な手法はX線構造解析法であるが、そのためには,まずタンパク質の良質な単結晶が必要となる。しかし、十分な解析を行える高品質のタンパク質単結晶を育成することはまだまだ困難であり、数ヶ月〜数年かかってしまうことも珍しくない。その最も大きな原因としては、タンパク質の結晶化がまだ試行錯誤的に行われていることにある。そこで、タンパク質の良質な単結晶を育成するための、結晶成長の観点からの研究が重要となる。
【0003】
従来、タンパク質結晶化用の試薬は海外の数社からキット化され市販されているが、初期スクリーニング用の数十から100種類程度しかなく、過去の実績に基づいて条件が選定されているいわゆるスパースマトリックスサンプリング法(非特許文献1参照)等を採用している。
タンパク質の結晶化用試薬は沈殿剤、緩衝剤、添加剤などの種類やpH、濃度の組み合わせで膨大な数にのぼるが、上記スパースマトリックスサンプリング法は100種類程度の過去に実績のある条件を比較的簡便に試すことができる方法である。これはタンパク質結晶化用に用いる沈殿剤の粘性が様々であり、ロボットでの分注および混合作業が困難であるため、手作業で膨大な種類の試薬作成を行わなければならない条件の下では、比較的少ない労力で最大限の効果を得るための方法でもある。
【非特許文献1】Jancarik,J. and Kim, S.-H. Sparse matrix sampling method: a screening method for crystallization of proteins. J. Appl. Cryst. 24, (1991)409-411.)
【0004】
また試薬については、いわゆる結晶化スクリーニングキットと呼ばれるものが海外のHampton Research 社、Jena Bio Science 社、Decode社、Molecular Dimensions 社、Sigma-Aldrich社など多くの企業で製造・販売されている。それらは過去のタンパク質結晶化データベースに基づいて、実績のある条件を抽出してキット化したものや特定の性質を持つタンパク質についてのデータを基に作成されたものである。
【0005】
最近では結晶化スクリーニングキットの種類も多くなり、またこれらの試薬の管理・保存が簡単なため,新規の試料の結晶化にはまずキットを使い微結晶が得られた段階で試薬を自分で調製して、条件をさらに精密化していくのが一般的となっている。新しい結晶化ロボットも開発され、結晶化が自動化され、より幅広い条件を試すことも可能となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来のスクリーニングキットを用いた結晶化方法は、過去の実績データに基づいて条件設定が行われているため、限られた条件で最大の効果を期待したものであるが、似通った条件が多く系統的なデータの整理には不向きであるとともに、結晶の得られた条件近傍のスクリーニングには適さない。そして条件の最適化を図るための試薬の作成や大量のタンパク質試料の処理には結果として多大な手数や時間を必要とし、結晶化結果の整理も煩雑になるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのタンパク質の結晶化試薬キットと試薬キットを利用した結晶化スクリーニング方法を提供することを目的としており、多種類の沈殿剤、緩衝剤のいずれかを基準とし、これに対する条件設定を定量的・規則的に整理されたものを配置し、さらに試薬毎に条件(pH,沈殿剤濃度等)を規則的に細分化して最適化条件を作り出す試薬キットと、この試薬キットを用いた結晶化スクリーニング方法を提供せんとするものである。
この発明の試薬キットは第1に互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キットと、上記初期スクリーニング用試薬キットにおいて組み合わせが特定された基準薬液と分配薬液の少なくとも一方の薬液につき、当該薬液の配合割合又は量,濃度,pH,原料薬剤の配合割合又は量の1又は2以上の量的要素を略定量的又は規則的に順次変化させることにより試薬の条件を細分化させ且つサンプル数を複数倍に増大させ、増大させた各基準薬液と分配薬液の組み合わせを、キット化された容器に配設した多数のウェルにそれぞれ分注してなる二次スクリーニング試薬キットとで構成されることを特徴としている。
【0008】
第2に、上記初期スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し、添加剤毎のグループ化を行って分注添加して初期スクリーニング用試薬キットとしたことを特徴としている。
【0009】
第3に、二次スクリーニング用試薬キット中の個々の沈殿剤と緩衝剤との組み合わせにおいて、沈殿剤の配合割合と濃度のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させるとともに、緩衝剤のpH又は滴定試薬割合のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させることにより、基準薬液と分配薬液の組み合わせを相互にグループ化し且つ試薬条件の細分化及び試薬数の増大化を行ったことを特徴としている。
【0010】
第4に、二次スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し添加剤毎のグループ化を行って分注添加して二次スクリーニング用試薬キットとしたことを特徴としている。
【0011】
第5に、沈殿剤の一部又は全部が2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)及びNa Phos(リン酸ナトリウム),K2 Phos(リン酸二カリウム)の中から選択されることを特徴としている。
【0012】
第6に、緩衝剤の一部又は全部がAcetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)の中から選択されることを特徴としている。
【0013】
第7に、添加剤の一部又は全部がLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)の中から選択されることを特徴としている。
【0014】
第8に、初期スクリーニング用試薬キットの試薬数が144以上であることを特徴としている。
【0015】
第9に、二次スクリーニング用試薬キットの試薬数が3456以上であることを特徴としている。
【0016】
また本発明の結晶化スクリーニング方法は、上記第1,2,5,6,7又は8に記載の初期スクリーニング用試薬を用いてタンパク質の結晶化のスクリーニングを行い、そのスクリーニング結果結晶化率の高い試薬を、試薬条件が細分化された上記第1,3,4,5,6,7又は9に記載の二次スクリーニング試薬中より選択して上記タンパク質のスクリーニングを行うことを特徴としている。
【0017】
さらに、結晶化試験の結果得られたタンパク質の結晶化状態を画像認識させ、該画像認識された画像と、予めスコア別に評価されて画像認識された多数の結晶化状態の評価基準画像とを対比して各結晶化タンパク質の結晶化状態を別に判定し、当該タンパク質に対する個々のスクリーニング用試薬の結晶化率をスコアによって判断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
以上のように構成される本発明によれば、1種類の薬液に対し規則的又は体系的に変化する複数の条件を与えて結晶化スクリーニングができるので、その薬液による結晶化の最適条件を見出すことができるほか、さらに複数種類の薬液に対し上記条件を与えてスクリーニングすることにより、各種類による最適化条件も容易に見出すことが可能となる。
【0019】
また上記によって最適化されたスクリーニングの結果、結晶化率の高い部分につきさらに条件を細分化して繰り返し実験することにより、さらに高度の最適化条件の発見が可能となるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明のタンパク質結晶化のスクリーニング用試薬キットとその作製方法及び当該試薬キットを利用した結晶化方法を、順次図面に基づいて説明する。
1.初期スクリーニング試薬作製表の概要
本発明の試薬キットは表1の実施形態中の試薬No.1〜144に示されるように、イソプロパノール(2-Propanol)以下リン酸ナトリウム(Na Phos)迄の15種類と同No.139〜144のバッファー滴定試薬として使用しているリン酸ニカリウム(K2 Phos=沈殿剤としての機能も備えている)とからなる計16種類の沈殿剤と、Acet(酢酸),Citr(クエン酸),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)からなる6種類の緩衝剤(バッファー)のいずれかを基準にし、これらの量又は種類毎に規則的・体系的に配列・整理されている。
【0021】
即ち、初期スクリーニングでは、上記16種の沈殿剤につき各pHに沿った6種のバッファーが添加剤なしで組み合わされ、特に経験的に結晶産出率が高いMPD(メチルペンタンジオール)、PEG(ポリエチレングリコール)に関しては、さらにLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),Dioxane(ジオキサン)からなる4種の添加剤が組み合わされる。同様にAmm.Sulf(硫酸アンモニウム)に関しては前記6種類のバッファー毎に単一の添加剤1,4-Dioxane(ジオキサン)のみが組み合わされている。その結果すべてを合計すると144種類の初期スクリーニング試薬が配列されたことになる。図6に示すスクリーニング試薬の概念図(詳細は後述する)から理解されるように、144種の初期スクリーニング試薬の規則的・体系的なデザイン(組み合わせの配列)が行われており、タンパク質結晶実験での系統的判断を可能にしている。
【0022】
2.二次スクリーニング試薬作製表の概要
上記1同様に作製される二次スクリーニング用試薬は、16種の沈殿剤に対して144種のスクリーニング試薬が存在する。これが意味することは、初期スクリーニングにより微結晶が産出された場合の条件から沈殿剤濃度が4段階とバッファーpHを6段階に振り分けることでより最適化を目指すものである。図8,図10に示す二次スクリーニングの概念図(詳細は後述する)から初期スクリーニング1条件につき24条件の二次スクリーニング3456種が存在することが分かる。この二次スクリーニングによる条件最適化は、初期スクリーニングでの実験結果で微結晶が産出した場合に使用することを前提にしている。この詳細は図14に示す結晶判定基準(詳細は後述する)に基づいて結晶最適化処理を行うものである。
【0023】
3.試薬キット作製用のリキッドハンドラー及びシリンジの構造
図12は本発明の試薬キット作製に用いるギルソン社製のリキッドハンドラーの全体図を示し、この例では箱状の本体ケース1上に2本のシリンジ2,3を支持した薬剤吸排出用の分注ユニット4が設置されている。本体ケース1の正面側スペースが長方形のワークスペース6となっており、このワークスペース6の上方にはアクチュエータ(以下アクチュエータ自体は図示せず)により左右(X軸)方向に水平移動する横アーム7が本体ケース1の前方に突設されている。そして上記ワークスペース6には試薬作製用のプレートその他の容器類がそれぞれの分注作業に応じて例えば図1〜図5に示すように配置される。
【0024】
上記横アーム7には前後(Y軸)方向の溝状のガイド9が設けられるとともに、該ガイド9に案内されてY軸方向に水平移動する上下(Z軸)方向のブロック状又は棒状の縦支柱11が上向きに突設され、該支柱11の側面には上下方向の溝状ガイド12に沿ってアクチュエータにより上下移動するアクチュエータ付のスライダ13が取り付けられている。このスライダ13には薬液分注用のニードル14が上下方向に取り付けられ、ニードル14の基端部側には前述したシリンジ3に接続されるトランスファーチューブ16が接続されている。
【0025】
本体ケース1内には横アーム7や縦支柱11を水平移動させるための駆動装置(アクチュエータ)が内蔵され、分注ユニット4内には2本のシリンジ2,3を駆動するアクチュエータが内蔵されている。シリンジが2本設置されている点を除き、上記リキッドハンドラーは従来の公知のものと略同一である。
【0026】
本実施形態に用いるリキッドハンドラーの2本のシリンジは、図13に示すようにニードル14及びトランスファーチューブ16の洗浄用シリンジ2と薬液分注用シリンジ3とに分かれており、それぞれにバルブ17,18が設けられている。そして両方のシリンジ2,3のシリンジヘッドとバルブ17,18は流路19によって互いに連通されている。
【0027】
上記シリンジ構造においては、図13中のA〜Iの作動工程図に示すように、A工程では各シリンジ2,3のピストン21,22をそれぞれシリンジヘッド側にストロークさせた状態で、流路19,トランスファーチューブ16,ニードル14のライン内には洗浄液(水)が充満している。
【0028】
そしてB工程で示すように分注用のシリンジ3を停止させたまま洗浄液吸引用のシリンジ2を吸引方向に作動させて、ニードル14により洗浄液と試薬容器23の試薬24を吸引し、ライン内の洗浄液をシリンジ2内に貯留する。
【0029】
続いてC工程で示すように分注用シリンジ3を吸引方向に作動させてシリンジ3内に試薬24を貯留する。貯留された試薬24はD工程でシリンジ3を押し出し方向に作用させることにより、試薬プレート26(試薬プレート26に関しては後述する)の各ウェル(凹部)に順次所定量分注し、E工程のように各プレート26の分注を完了する。
【0030】
次にF工程でシリンジ2を押し出し作動させて洗浄液を押し出すとともに併せてライン内の残存試薬を排出した後、G工程でシリンジ2を吸引作動させてシリンジ2及び全ライン内に洗浄液容器27より洗浄液28を吸引することにより、ライン及びシリンジ2内に洗浄液を充満させる。その後H,I工程のようにシリンジ2の押し出し吸引を少なくとも2回以上繰り返すことによってシリンジ2内とライン内の洗浄を完了し、初期工程Aにリセットされる。このような分注方法は試薬を構成する各薬液毎に且つ試薬プレート26毎に繰り返され、リキッドハンドラー自体の作動制御はパソコンその他の制御装置により、予め決められたプログラムに基づいて行われる。
【0031】
従来は、シリンジを1本使用し、ラインの充填液と試薬の混合を避けるために境界域としてエアギャップを採用していたため、エアギャップを壊さないように試薬吸引を行うため流速が出せず、流速条件を決めても、トランスファーチューブの内壁の汚れにより、条件設定の再現性が取れないほか、トランスファーチューブの容量を変えることにより分注できる容量を調節するためそのたびに流速条件設定を行う必要がある等の欠点があった。
【0032】
これに対して上記方法では、シリンジを2本使用し、充填液を他方のシリンジで除去、ラインを試薬で充填する方法を採用するため、エアギャップがないので流速が出せるほか、内壁の汚れ等に妨げられることなく流速条件の再現性が確保できる。またトランスファーチューブの容量は固定で、シリンジの容量を変える事により分注量を調節できるので、流速条件設定は単純である等の利点がある。
上記リキッドハンドラー及びシリンジ以外の例えばプレート等の試薬作製用器具類については後述する試薬作製の説明と共に説明する。
【0033】
4.結晶化試薬(3600種)の作製
本実施形態では結晶化試薬は結晶化の初期スクリーニング用及び二次スクリーニング用の試薬作製表において示したように、試薬はそれぞれ144種、3456種あり、さらに初期スクリーニング用試薬作製に先立って沈殿剤その他の原液を作製する必要がある。したがって本実施形態における試薬作製は(1)原液作製=沈殿剤(Precipitant 16種)、緩衝剤(Buffer 6種)、添加剤(Additive 4種)の作製、(2)プレミックスバッファー(Pre Mix Buffer=PMB)の作製=PMB Init(Initial=初期),PMB Opti(Optimize=二次,展開),PMB Phos(Phosphate=リン酸),(3)ハイスループットのスクリーンキット(High through put kit=HTP Kit)の作製=HTP Kit Init,HTP kit Opti,HTP kit Opti add(Additive=添加剤あり),HTP kit Phosの各工程に部類分けできるので、以下上記(1)〜(3)の各工程につき詳述する。
【0034】
(1)原液作製
表2は試薬作製のための緩衝剤作製の配合を、表3は同じく沈殿剤及び添加剤作製の配合をそれぞれ示し、表4は沈殿剤,緩衝剤,添加剤の種類を原液番号と共に示している。各表における「○○−○○○」の桁で示すNo.表示中、上2桁の数字は原液番号であり、01=沈殿剤,02=緩衝剤,03=添加剤を示し、下3桁は各溶液のIDをそれぞれ示している。また表中のその他の符号の意味はFW=分子量,Conc=濃度,Weight=試薬重量,MilliQ=精製水であり、その他の試薬成分に関しては可能な限り表又は図中に示し、以下すべての表及び図面において共通するものとする。
【0035】
原液作製は、表2,表3を参照しながらそれぞれの薬品及び水を計量配合して撹拌混合する(緩衝剤がCHSの場合はNaOHも追加する)。その際わかり易いように試薬原液番号と濃度(表4)を基に試薬を対応させる。またすべての試薬原液はステリトップ(Steritop)Millipore SCGPS05RE 0.22μm 500ml)でフィルター(ろ過)をかける。緩衝剤原液のpHの測定も行う。
【0036】
(2)PMB(プレミックスバッファー)作製方法
図1はPMB(PMB Init=初期スクリーニング用)作製のためのリキッドハンドラー(図12参照)のワークスペース6上において、バイアル(No.1〜39)がセットされたバイアルボックス31と緩衝剤(Buffer)、滴定試薬及び精製水(MilliQ)の200ml容器(No.1〜12)とが配置されたPMB Initの配置図を示している。この時No.39のバイアルにはニードル14の洗浄用精製水を満たしておき、緩衝剤容器であるバイアルNo.21〜26には注射針(図示しない)を穴の周端側位置に刺して容器(バイアル)内の加圧、負圧現象を解消するように内外の空気の循環を確保しておく。上記以外のバイアル(No.1〜20,27〜36)には沈殿剤と添加剤のみが収容されている。
【0037】
上記セット後リキッドハンドラーのPMB Init専用の制御プログラムを始動し、リキッドハンドラーを作動させることにより、各バイアルにおいて緩衝剤溶液を分注作製した後注射針を抜き取り、バイアルに振動を与えてPMBを混合し、その後pH測定を行う。作製されたPMBは表5に示す組成表の通りであり、表中のpH以外の数字は各薬液等の分量(μl)である。
【0038】
図2,図3は共に図1と同一のワークスペース6上の配置図であり、図2がPMB Opti(二次スクリーニング用)、図3がPMB Phos(リン酸ナトリウム,リン酸カリウム使用)の場合を示しており、緩衝剤及び精製水が各200mlであり、バイアル(No.39)に精製水を充填しておく点及びリキッドハンドラーによる分注作業方法は図1の場合と同様である。
【0039】
図1の場合に対し、図2,図3に示す例ではそれぞれPMB Opti又はPMB Phos専用のプログラムを使用してリキッドハンドラーを使用し、注射針を刺すバイアルがNo.1〜36である点が異なる。そして配置され又は各バイアルに分注される薬液はそれぞれ図2,図3に示す通りである。その結果作製されるPMBの組成は図2に対して表6−1,表6−2が、図3に対して表7がそれぞれ対応する。
【0040】
(3)試薬キット(HTP Kit)作製
次に前記(1),(2)のように作製された試薬キット作製用の原液とPMB(プレミックスバッファー)を用いて試薬キット(3600種)を作製する方法について説明する。試薬キットは既述のリキッドハンドラーとそれぞれのキットに対応したパソコンによる制御プログラムを用いて行われるが、図13に示したキット用のプレート26としては、図4,図5に示すように12×6(穴)の72ウェルタイプを用いている。
【0041】
1)パラフィン分注
各プレート26のウェル(凹部)には、結晶化試薬の蒸発を防止し、濃度変化を生じさせないために、試薬表面に浮上して空間との接触をシールさせるように試薬より低比重のパラフィンを分注する。
【0042】
図4は、リキッドハンドラーのワークスペース6上に配置された2枚のプレート26とパラフィン及びニードル洗浄用精製水の配置図を示し、リキッドハンドラーはパラフィン分注専用プログラムによって制御され分注作業が行われる。パラフィン分注後のプレートは以下に説明されHTP kitを作製するまで保存される。
【0043】
2)初期スクリーニング用試薬キット(HTP kit Init)作製
図5は初期スクリーニング用試薬キット作製のためのパラフィン分注済のプレート26(2枚で144ウェル)とPMB Init用薬液がセットされたスクリューバイアルボックス31のワークスペース6上の配置図を示し、スクリューバイアル(No.1〜26)には予め既述の要領で注射針が刺され、同No.37のバイアルには精製水が分注され、またワークスペース6の余剰スペースにも精製水が配置された状態で分注が行われる。表8はHTP kit作製用に用いられるPMB Init(図5中のバイアルNo.1〜26)の試薬配置表を示し、上記によって作製されたHTP kitは図6に示す内容を備えており、沈殿剤16種、緩衝剤6種、添加剤4種で構成されている。
【0044】
表1の試薬作製表の内、試薬No.1〜144で示すものが初期スクリーニング用試薬であり、このうちNo.1〜84は2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)からなる14種の沈殿剤を組み合わせの基準(基準薬液)として使用している。この各基準薬液に対し、Acetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)からなる6種類の緩衝剤(バッファー)をそれぞれ順次対応させて分配する分配薬液を割り振っている。
【0045】
上記緩衝剤Acet(酢酸),MES,HEPESに対しては滴定試薬NaOHが割り振られ、他の緩衝剤Citr(クエン酸),Tris,CHESに対してはHClが割り振られる。そしてNo.1〜84はいずれも添加剤は無添加である。
【0046】
次に表1のNo.85〜108は、基準薬液としての沈殿剤MPDに対して4種類の添加剤Li Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)が4グループに分けて割り振られている。そして各グループはそれぞれ上記6種類の緩衝剤を割り振って条件を細分化され、合計24種の試薬が揃えられる。
【0047】
表1の試薬No.109〜132は基準薬液としての沈殿剤PEG4Kに対して上記同様に4種類の添加剤グループに割り振られ、各グループは6種類の緩衝剤(分配薬液)が割り振られて合計24の条件に細分化されている。また同No.133〜138は前述した9番目(No.49〜54)の沈殿剤Amm Sulfに対して前記6種類の緩衝剤が割り振られ、さらに添加剤1,4-Dioxaneがそれぞれに割り振られたものである。
【0048】
上記表中No.85〜138の試薬は、上記添加剤無添加の試薬のほかに、経験的に添加剤が、タンパク質の結晶化に何らかの好影響を及ぼすことが確認されているものに対して表中に示す4種類の添加剤を加えた試薬を示しており、このことにより初期スクリーニング試薬数が48種類増加し且つ条件の細分化が行われる。
【0049】
次のNo.139〜144は、本例で用いる15番目の沈殿剤Na Phos(リン酸ナトリウム)に対して、滴定試薬割合が0.39〜0.511まで定量的・規則的に増大変化する緩衝剤K2 Phos(リン酸二カリウム)を分配薬液として割り振ったものであり、添加剤は無添加としたものである。ここで使用されているNa Phos及びK2 Phosは沈殿剤及び緩衝剤のいずれの機能をも備えており、特に緩衝剤としての割り振りは行っていない。
【0050】
以上の初期スクリーニング用試薬においては、それぞれの薬液の配合割合,濃度,pH等は経験的に概ね確認されている最も望ましい数値を選んでおり、初期スクリーニング試薬ではこれらの量的要素の細分化には重点を置かず、量的要素の細分化は主としてNo.145以下の二次スクリーニング試薬において実現している。
【0051】
3)二次スクリーニング用試薬キット(添加剤無)(HTP kit Opti)作製
この例も上記初期スクリーニング用試薬キットと同様に作製され、表9のPMB Opti試薬配置表の内容を備えたスクリューバイアルボックス31のセットと一対のプレート(72ウェル)26,沈殿剤(PPT)及び精製水(MilliQ)とが配置される点及びバイアルNo.1〜36を試薬用に使用し且つ予め注射針を刺し込んでおく点が異なる。
【0052】
図8はこの方法によって作製された試薬キットの成分内容を示しており、二次スクリーニングでは各沈殿剤ごとに結晶化試薬の組み合わせがあり、それぞれ144種の組み合わせで沈殿剤1種(4パターン)、バッファー6種(6パターン)、添加剤有無で構成される。添加剤の有無で水の量比が異なる。
【0053】
表1の試薬No.145〜2160がこの項の試薬に該当し、上記初期スクリーニング用試薬のうち、最初の14種類の沈殿剤(基準薬液)に6種類の緩衝剤(分配薬液)毎に6グループに分けて割り振ったものである(添加剤なし)。そしてNo.1〜144の沈殿剤の割合を0.25,0.35,0.45,0.55と4段階に定量ずつ規則的に変化させ(注:これに応じて沈殿濃度も各グループ内で4段階の小グループを形成して定量的に又は規則的に変化している)、また各小グループ内では滴定試薬割合を6段階に定量ずつ規則的に変化させたものを割り振って条件を細分化している。
【0054】
上記のうち全体に共通しているのは沈殿剤割合及び滴定試薬割合の変化の量のみで、それ以外の数値は各薬液に応じて適宜変化領域を変えている(例えばMPD,PEG20K,Na Form等の変化領域等)が、変化が定量的・規則的であることには変わりない。また緩衝剤のpHの変化等も各緩衝剤に応じて適宜変更している。滴定試薬割合が増減両方向の変化があるのは、滴定試薬が酸性かアルカリ性かによる。
【0055】
4)二次スクリーニング用試薬キット(添加剤有)(HTP kit Opti add)作製
添加剤を加えた二次スクリーニング用試薬キットは、添加剤の有無の点で上記3)の製法と異なるが、それ以外は共通するので共通部分の説明を割愛する。また上記相違点に関連して、図9及び表10のバイアル(No.38)に添加剤が分注されているほか、図10の添加剤の有無及び水の量が異なる。
【0056】
表1のNo.2161〜3312は第2番目,第3番目の2種類の沈殿剤(基準薬液)MPD,PEG4Kそれぞれに対して前記6種類の緩衝剤(分配薬液)を割り振り、さらに4種類の添加剤を割り振っている。そして各沈殿剤につき、それぞれ添加剤の種類に応じて4つの添加剤別グループに分けられ、各添加剤別グループはさらに6種対の緩衝剤別グループに細分化されている。
【0057】
さらに各緩衝剤別グループは6組ずつ4段階に定量的・規則的に増減変化する沈殿剤割合・沈殿剤濃度毎に分かれ、基準薬液と分配薬液とを共通にし且つ沈殿剤割合・沈殿剤濃度共に共通の6組は6段階に概ね定量的・規則的に変化する滴定試薬割合の違う種類として割り振られて条件が細分化されている。この範囲の沈殿剤割合・同濃度は各緩衝剤毎に略定量的・規則的な変化を繰り返している。
【0058】
表1のNo.3313〜3456は第9番目の沈殿剤(基準薬液)Amm Sulfに対し、6種類の緩衝剤を24回ずつ割り振るとともに、すべてに添加剤として1,4-Dioxaneを加えたものである。24に割り振られた各緩衝剤群内は沈殿剤割合,同濃度が概ね定量的・規則的に増減変化する4段階(4グループ)に分けられ、各グループ内はそれぞれ滴定試薬割合が6段階に略定量的・規則的に増減変化させている(これに伴って緩衝剤のpH値も概ね定量的に増減変化する)。
【0059】
5)二次スクリーニング用試薬キット(リン酸使用)(HTP kit Phos)作製
この試薬は沈殿剤としてリン酸を使用したもので、図11及び表11のバイアル(No.1〜36)はすべてリン酸が分注されており、濃度及びpHを順次変化させている。そして二次スクリーニング用試薬におけるリン酸(Phos)は沈殿剤とバッファーを2種の溶液(Na Phos, K2 Phos)だけの組み合わせ144種によって構成される。そのため各ウェルごとに試薬組成が異なる。この場合、Na Phos,K2 Phosは沈殿剤,緩衝剤のいずれに使用してもよい。
【0060】
表1のNo.3457〜3600では、沈殿剤として用いたNa Phosの濃度が1,1.4,1.8,2.2の4段階に定量的且つ規則的に変化し、この各段階における緩衝剤(滴定試薬)のpHが6段階に略定量的・規則的に変化し且つこの変化は4グループ毎に高い数値領域で略定量的・規則的変化となり、合計6領域で変化している。
【0061】
これに対し、Na Phos,K2 Phosの水との配合割合は表11のようにプレミックス段階で36種類の配合が略定量的・規則的に行われたものを上記4グループ毎にリン酸緩衝液の緩衝作用中で一定の割合でNo.3457〜3600(計144種)に割り振っている。したがって4グループ内では量的要素に係る数値が定量的変化ではないものの、一定の割り振り規則に則って変化していることには変わりがない。この例においてもNa Phos,K2 Phosは互いに交換して使用することが可能である。
【0062】
6)以上のように構成されたスクリーニング用試薬は、本例では表1に示すように3600種揃えることが可能であり、これらを用いて次に説明される初期(144種)及び二次(3456種)のタンパク質結晶化スクリーニングが行われる。
【0063】
なお、表1中の試薬の組み合わせにおいて、条件細分化のための量的要素(但し、濃度,pH等の変化も含む)の定量的変化、規則的変化は厳密であることが望ましいが、タンパク質の結晶化において細分化された試薬条件の最適領域を見出すことが可能な範囲の誤差は許容されるものである。
【0064】
5.タンパク質の結晶化スクリーニング
次に前述したスクリーニング用試薬キットを用いたタンパク質の結晶化スクリーニング方法について、結晶化に使用したタンパク質及び結晶化とその評価を行なうための使用機器(ロボット)、評価方法と評価結果等の諸点について説明する。
【0065】
(1)結晶化実験と実験に使用したタンパク質及び使用機器
1)使用したタンパク質
本実験には下記二種のタンパク質を使用した。
a.生物種 T.Thermophilus(HB8)精製タンパク質数 177 結晶化数 94
b.生物種 P.Horikoshii(OT3) 精製タンパク質数 256 結晶化数 77
【0066】
上記aは生育温度範囲を50℃−82℃(至適温度は70−75℃)に有する好熱性細菌であり、bは、95℃前後に至適生育温度を有する超好熱性古細菌である。
【0067】
上記の菌体由来でのタンパク質結晶化実験において、使用するタンパク質のすべてが耐熱性であるということである。ということは、タンパク質の耐熱機構について探求したい場合、耐熱性のタンパク質等の利用を考える場合に使用する(耐熱性タンパク質は温度以外のタンパク質の変性要因に対しても耐性を示す)。つまり、生物および生体物質の耐熱性に関することについてであれば、基礎研究から応用研究まで幅広い研究が、上記a,bを材料として行なえるということである。
【0068】
2)結晶化方法及び結晶観察に使用した機器(ロボット)
本実験の結晶化には発明者等の提案に係る特開2003−107076号公報に示されるタンパク質の結晶化方法及び装置(ロボット=商品名「TERA」)を使用した。
【0069】
上記装置は、結晶化および結晶観察作業をスケジュール管理や、撮影した結晶写真を登録したデータベースを含め、すべての構成ユニットをパソコンにより自動的な統合運用が可能である。この装置は、世界中で広く使われている米国・ダグラス社の「IMPAX」と同様72ウェルのマイクロプレートを使って1 μl(0.5 μl蛋白質溶液 + 0.5 μl結晶化試薬)スケールのオイルバッチ法で結晶化を行うことができる「ディスペンサーロボット」のほか、顕微鏡を用いて自動的に結晶を撮影する「結晶化ウェル自動観察装置」、2,500枚の結晶化用プレートと125枚の結晶化試薬プレートを保管できる「プレート保管・搬送ユニット」、おのおのの装置間を連携する「プレートセッティングロボット」で構成されている。
【0070】
すべてのプレートは、識別のために組み込まれた「バーコード印刷・読み取りシステム」により管理され、現在、24時間無人運転で作業を行うものである。1日あたり、結晶化は32プレート2,304条件、観察は100プレート7,200条件の処理が可能である。「結晶化試薬保管庫」には、それぞれのタンパク質の標準結晶化条件として、初期スクリーニング用試薬144条件一つ一つにpHと沈殿剤濃度を展開し、精密化した3,460種類の二次スクリーニング用試薬をあらかじめ調製して保管している。
【0071】
このため、結晶観察結果を、結晶化条件改良へフィードバックすることができ、幅広い条件での結晶改良実験を同じパソコンのコンソールからすぐに行うことができる。また、結晶観察作業スケジューラーを使えば結晶化ドロップの状態の経時変化を自動的に画像イメージとして定期的に撮影し、保存できる。さらに、全自動結晶化システムからのあらゆる情報は、理化学研究所播磨研究所で展開している「ハイスループットファクトリー」全体の実験データを一括管理するプログラムからなるシステム「HTPF-DB」に自動的にアップロードされ、結晶観察評価や結晶化作業の要求はネットワーク上でウェブ・ブラウザーを使って分散処理することができる。
【0072】
(2)スコアによる結晶化の評価
タンパク質の結晶化状態の良否は結晶化結果の外部観察によって評価しているが,本実験では前記ロボット内のカメラによる画像解析によっており、その評価は過去に蓄積された多数の経験データに基づいて作成された、例えば図14に示すような、スコア別の評価基準によって行なっている。
【0073】
この例では同図に示すように結晶化状態を、乾燥(−1)、透明(0)、沈殿(1)、ゼリー状の塊(4)、0.05mm以上の微結晶・針状の微結晶・汚い板上結晶・汚いクラスター結晶(いずれも5)、板状結晶・針状結晶・分離可能なクラスター結晶(いずれも6)、0.03mm以上の単結晶(8)のようにスコア分けしてスコアチェックを行なう。
【0074】
次に前記結晶化とその結果評価のフローを図15のフロー図に基づいて説明する。
1)新規サンプルの場合、容量が300μl以上であるかの判断を行う。300μl以上あれば 初期スクリーニング144種で結晶化、300μl未満であれば初期スクリーニング72種 で結晶化を行う。
2)次に図14に示す評価基準を用いてスコアチェックを行う。
3)1週間後のスコア合計で0が50未満で、最大スコアが4以上であれば二次スクリーニ ングを実行する。スコア合計で0が50以上であれば、再度初期スクリーニングを行 う。
4)二次スクリーニングでは初期スクリーニングでスコア4以上が出た試薬No.において 24種の展開を行う。展開方法は、沈殿剤1種につき4段階の濃度、バッファー1種に つき6段階のpHを基本に最適化される。(詳細は図5〜11、表8〜11を参照。 )
5)再度図14に示す評価基準を用いてスコアチェックを行う。
6)二次スクリーニングでスコア6以上であれば回折チェックまたは、同一条件での結 晶化を行う。
7)回折チェックで分解能が4.0Å未満であれば結晶化終了。分解能が4.0以上であれば 高度化実験を行なう。
【0075】
6.結晶化率の確認
タンパク質の結晶化とは他溶液が少量でも混合してしまうと結晶化実験での結晶産出の度合いや再現性に影響が出てくる。しかし前述した方法で作成された初期スクリーニング試薬を用いることにより、各沈殿剤による結晶化効率を表した図16に示すグラフのように、初期スクリーニングにおいて結晶化数あたり最大20%程度の確立で微結晶を産出していることが分かる。このことにより前述した方法によって製造した結晶化試薬が高頻度にタンパク質の結晶化に成功しているかが判断できる。また、タンパク質1種類にそれぞれの項目によって実験結果を産出することが可能である。これは、各試薬のバッファーのpHや沈殿剤濃度を系統的に並べていることが大きな要因で、各バッファー、pH、沈殿剤等の効果をそれぞれの視点で考察できることを意味する。
【0076】
さらに図17に示すように、二次スクリーニングにおいても初期スクリーニング試薬実験結果と同じような実験結果を得た。これは、初期スクリーニング試薬と二次スクリーニング試薬は系統的には、同じ部類に含まれるため、結晶化実験という視点で結果を求めた場合、同様の結果が得られるためと考えられる。しかし、図18では、結晶化試薬の細分化を行った結果、4割のサンプルについて一次スクリーニングによって得られなかった結果が二次スクリーニングを実行することで最適化が行われている。平均すると254%で結晶化の最適化が行われている。(注:この割合は二次スクリーニングにおけるスコア5以上の回数を初期スクリーニングのスコア5以上の回数で除算したものである。)このことにより、従来のスクリーニング試薬では不可能だったより良質なタンパク質結晶を産出することが可能となっていることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
この発明は生命科学的,創薬,食品等の研究分野で必要なタンパク質の結晶構造解析のための、タンパク質の結晶化試験に際して使用されるものである。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6−1】
【0084】
【表6−2】
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の初期スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(プレミックスバッファー)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図2】同じく二次スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(但し、沈殿剤にリン酸使用)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図3】同じく二次スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(但し、沈殿剤にリン酸使用)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図
【図4】試薬キット用プレートにパラフィンを分注するためのプレート及びリキッド類の配置図である。
【図5】初期スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図6】初期スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図7】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図8】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図9】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図10】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図11】沈殿剤としてリン酸を用いた二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図12】スクリーニング用試薬キット作製のためのリキッドハンドラーの概要斜視図である。
【図13】リキッドハンドラーに用いるシリンジの構成と作動行程を示す模式図である。
【図14】タンパク質の結晶化状態評価のためのスコア別の評価基準の一例を示す結晶状態の顕微鏡写真である。
【図15】タンパク質の結晶化実験と結晶化状態評価のフロー図である。
【図16】本発明のスクリーニング用試薬キットを用いたタンパク質結晶化の初期スクリーニング結果のスコア評価による結晶化率を示すグラフであうる。
【図17】本発明のスクリーニング用試薬を用いたタンパク質結晶化の二次スクリーニング結果のスコア評価による結晶化率を示すグラフである。
【図18】初期スクリーニングと二次スクリーニングの結晶化率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 本体ケース
2,3 シリンジ
4 分注ユニット
6 ワークスペース
7 横アーム
9 ガイド
11 支柱
12 溝状ガイド
14 ニードル
13 スライダ
16 トランスファーチューブ
17,18 バルブ
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質含有試料から所望のタンパク質を結晶化するための結晶化試薬キット及び試薬キットを利用した結晶化スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物科学はめざましい進歩を遂げているが、タンパク質分子のその優れた機能と構造との相関の理解はまだまだ不十分である。タンパク質分子の三次元構造を解析するための最も一般的な手法はX線構造解析法であるが、そのためには,まずタンパク質の良質な単結晶が必要となる。しかし、十分な解析を行える高品質のタンパク質単結晶を育成することはまだまだ困難であり、数ヶ月〜数年かかってしまうことも珍しくない。その最も大きな原因としては、タンパク質の結晶化がまだ試行錯誤的に行われていることにある。そこで、タンパク質の良質な単結晶を育成するための、結晶成長の観点からの研究が重要となる。
【0003】
従来、タンパク質結晶化用の試薬は海外の数社からキット化され市販されているが、初期スクリーニング用の数十から100種類程度しかなく、過去の実績に基づいて条件が選定されているいわゆるスパースマトリックスサンプリング法(非特許文献1参照)等を採用している。
タンパク質の結晶化用試薬は沈殿剤、緩衝剤、添加剤などの種類やpH、濃度の組み合わせで膨大な数にのぼるが、上記スパースマトリックスサンプリング法は100種類程度の過去に実績のある条件を比較的簡便に試すことができる方法である。これはタンパク質結晶化用に用いる沈殿剤の粘性が様々であり、ロボットでの分注および混合作業が困難であるため、手作業で膨大な種類の試薬作成を行わなければならない条件の下では、比較的少ない労力で最大限の効果を得るための方法でもある。
【非特許文献1】Jancarik,J. and Kim, S.-H. Sparse matrix sampling method: a screening method for crystallization of proteins. J. Appl. Cryst. 24, (1991)409-411.)
【0004】
また試薬については、いわゆる結晶化スクリーニングキットと呼ばれるものが海外のHampton Research 社、Jena Bio Science 社、Decode社、Molecular Dimensions 社、Sigma-Aldrich社など多くの企業で製造・販売されている。それらは過去のタンパク質結晶化データベースに基づいて、実績のある条件を抽出してキット化したものや特定の性質を持つタンパク質についてのデータを基に作成されたものである。
【0005】
最近では結晶化スクリーニングキットの種類も多くなり、またこれらの試薬の管理・保存が簡単なため,新規の試料の結晶化にはまずキットを使い微結晶が得られた段階で試薬を自分で調製して、条件をさらに精密化していくのが一般的となっている。新しい結晶化ロボットも開発され、結晶化が自動化され、より幅広い条件を試すことも可能となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来のスクリーニングキットを用いた結晶化方法は、過去の実績データに基づいて条件設定が行われているため、限られた条件で最大の効果を期待したものであるが、似通った条件が多く系統的なデータの整理には不向きであるとともに、結晶の得られた条件近傍のスクリーニングには適さない。そして条件の最適化を図るための試薬の作成や大量のタンパク質試料の処理には結果として多大な手数や時間を必要とし、結晶化結果の整理も煩雑になるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのタンパク質の結晶化試薬キットと試薬キットを利用した結晶化スクリーニング方法を提供することを目的としており、多種類の沈殿剤、緩衝剤のいずれかを基準とし、これに対する条件設定を定量的・規則的に整理されたものを配置し、さらに試薬毎に条件(pH,沈殿剤濃度等)を規則的に細分化して最適化条件を作り出す試薬キットと、この試薬キットを用いた結晶化スクリーニング方法を提供せんとするものである。
この発明の試薬キットは第1に互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キットと、上記初期スクリーニング用試薬キットにおいて組み合わせが特定された基準薬液と分配薬液の少なくとも一方の薬液につき、当該薬液の配合割合又は量,濃度,pH,原料薬剤の配合割合又は量の1又は2以上の量的要素を略定量的又は規則的に順次変化させることにより試薬の条件を細分化させ且つサンプル数を複数倍に増大させ、増大させた各基準薬液と分配薬液の組み合わせを、キット化された容器に配設した多数のウェルにそれぞれ分注してなる二次スクリーニング試薬キットとで構成されることを特徴としている。
【0008】
第2に、上記初期スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し、添加剤毎のグループ化を行って分注添加して初期スクリーニング用試薬キットとしたことを特徴としている。
【0009】
第3に、二次スクリーニング用試薬キット中の個々の沈殿剤と緩衝剤との組み合わせにおいて、沈殿剤の配合割合と濃度のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させるとともに、緩衝剤のpH又は滴定試薬割合のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させることにより、基準薬液と分配薬液の組み合わせを相互にグループ化し且つ試薬条件の細分化及び試薬数の増大化を行ったことを特徴としている。
【0010】
第4に、二次スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し添加剤毎のグループ化を行って分注添加して二次スクリーニング用試薬キットとしたことを特徴としている。
【0011】
第5に、沈殿剤の一部又は全部が2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)及びNa Phos(リン酸ナトリウム),K2 Phos(リン酸二カリウム)の中から選択されることを特徴としている。
【0012】
第6に、緩衝剤の一部又は全部がAcetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)の中から選択されることを特徴としている。
【0013】
第7に、添加剤の一部又は全部がLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)の中から選択されることを特徴としている。
【0014】
第8に、初期スクリーニング用試薬キットの試薬数が144以上であることを特徴としている。
【0015】
第9に、二次スクリーニング用試薬キットの試薬数が3456以上であることを特徴としている。
【0016】
また本発明の結晶化スクリーニング方法は、上記第1,2,5,6,7又は8に記載の初期スクリーニング用試薬を用いてタンパク質の結晶化のスクリーニングを行い、そのスクリーニング結果結晶化率の高い試薬を、試薬条件が細分化された上記第1,3,4,5,6,7又は9に記載の二次スクリーニング試薬中より選択して上記タンパク質のスクリーニングを行うことを特徴としている。
【0017】
さらに、結晶化試験の結果得られたタンパク質の結晶化状態を画像認識させ、該画像認識された画像と、予めスコア別に評価されて画像認識された多数の結晶化状態の評価基準画像とを対比して各結晶化タンパク質の結晶化状態を別に判定し、当該タンパク質に対する個々のスクリーニング用試薬の結晶化率をスコアによって判断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
以上のように構成される本発明によれば、1種類の薬液に対し規則的又は体系的に変化する複数の条件を与えて結晶化スクリーニングができるので、その薬液による結晶化の最適条件を見出すことができるほか、さらに複数種類の薬液に対し上記条件を与えてスクリーニングすることにより、各種類による最適化条件も容易に見出すことが可能となる。
【0019】
また上記によって最適化されたスクリーニングの結果、結晶化率の高い部分につきさらに条件を細分化して繰り返し実験することにより、さらに高度の最適化条件の発見が可能となるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明のタンパク質結晶化のスクリーニング用試薬キットとその作製方法及び当該試薬キットを利用した結晶化方法を、順次図面に基づいて説明する。
1.初期スクリーニング試薬作製表の概要
本発明の試薬キットは表1の実施形態中の試薬No.1〜144に示されるように、イソプロパノール(2-Propanol)以下リン酸ナトリウム(Na Phos)迄の15種類と同No.139〜144のバッファー滴定試薬として使用しているリン酸ニカリウム(K2 Phos=沈殿剤としての機能も備えている)とからなる計16種類の沈殿剤と、Acet(酢酸),Citr(クエン酸),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)からなる6種類の緩衝剤(バッファー)のいずれかを基準にし、これらの量又は種類毎に規則的・体系的に配列・整理されている。
【0021】
即ち、初期スクリーニングでは、上記16種の沈殿剤につき各pHに沿った6種のバッファーが添加剤なしで組み合わされ、特に経験的に結晶産出率が高いMPD(メチルペンタンジオール)、PEG(ポリエチレングリコール)に関しては、さらにLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),Dioxane(ジオキサン)からなる4種の添加剤が組み合わされる。同様にAmm.Sulf(硫酸アンモニウム)に関しては前記6種類のバッファー毎に単一の添加剤1,4-Dioxane(ジオキサン)のみが組み合わされている。その結果すべてを合計すると144種類の初期スクリーニング試薬が配列されたことになる。図6に示すスクリーニング試薬の概念図(詳細は後述する)から理解されるように、144種の初期スクリーニング試薬の規則的・体系的なデザイン(組み合わせの配列)が行われており、タンパク質結晶実験での系統的判断を可能にしている。
【0022】
2.二次スクリーニング試薬作製表の概要
上記1同様に作製される二次スクリーニング用試薬は、16種の沈殿剤に対して144種のスクリーニング試薬が存在する。これが意味することは、初期スクリーニングにより微結晶が産出された場合の条件から沈殿剤濃度が4段階とバッファーpHを6段階に振り分けることでより最適化を目指すものである。図8,図10に示す二次スクリーニングの概念図(詳細は後述する)から初期スクリーニング1条件につき24条件の二次スクリーニング3456種が存在することが分かる。この二次スクリーニングによる条件最適化は、初期スクリーニングでの実験結果で微結晶が産出した場合に使用することを前提にしている。この詳細は図14に示す結晶判定基準(詳細は後述する)に基づいて結晶最適化処理を行うものである。
【0023】
3.試薬キット作製用のリキッドハンドラー及びシリンジの構造
図12は本発明の試薬キット作製に用いるギルソン社製のリキッドハンドラーの全体図を示し、この例では箱状の本体ケース1上に2本のシリンジ2,3を支持した薬剤吸排出用の分注ユニット4が設置されている。本体ケース1の正面側スペースが長方形のワークスペース6となっており、このワークスペース6の上方にはアクチュエータ(以下アクチュエータ自体は図示せず)により左右(X軸)方向に水平移動する横アーム7が本体ケース1の前方に突設されている。そして上記ワークスペース6には試薬作製用のプレートその他の容器類がそれぞれの分注作業に応じて例えば図1〜図5に示すように配置される。
【0024】
上記横アーム7には前後(Y軸)方向の溝状のガイド9が設けられるとともに、該ガイド9に案内されてY軸方向に水平移動する上下(Z軸)方向のブロック状又は棒状の縦支柱11が上向きに突設され、該支柱11の側面には上下方向の溝状ガイド12に沿ってアクチュエータにより上下移動するアクチュエータ付のスライダ13が取り付けられている。このスライダ13には薬液分注用のニードル14が上下方向に取り付けられ、ニードル14の基端部側には前述したシリンジ3に接続されるトランスファーチューブ16が接続されている。
【0025】
本体ケース1内には横アーム7や縦支柱11を水平移動させるための駆動装置(アクチュエータ)が内蔵され、分注ユニット4内には2本のシリンジ2,3を駆動するアクチュエータが内蔵されている。シリンジが2本設置されている点を除き、上記リキッドハンドラーは従来の公知のものと略同一である。
【0026】
本実施形態に用いるリキッドハンドラーの2本のシリンジは、図13に示すようにニードル14及びトランスファーチューブ16の洗浄用シリンジ2と薬液分注用シリンジ3とに分かれており、それぞれにバルブ17,18が設けられている。そして両方のシリンジ2,3のシリンジヘッドとバルブ17,18は流路19によって互いに連通されている。
【0027】
上記シリンジ構造においては、図13中のA〜Iの作動工程図に示すように、A工程では各シリンジ2,3のピストン21,22をそれぞれシリンジヘッド側にストロークさせた状態で、流路19,トランスファーチューブ16,ニードル14のライン内には洗浄液(水)が充満している。
【0028】
そしてB工程で示すように分注用のシリンジ3を停止させたまま洗浄液吸引用のシリンジ2を吸引方向に作動させて、ニードル14により洗浄液と試薬容器23の試薬24を吸引し、ライン内の洗浄液をシリンジ2内に貯留する。
【0029】
続いてC工程で示すように分注用シリンジ3を吸引方向に作動させてシリンジ3内に試薬24を貯留する。貯留された試薬24はD工程でシリンジ3を押し出し方向に作用させることにより、試薬プレート26(試薬プレート26に関しては後述する)の各ウェル(凹部)に順次所定量分注し、E工程のように各プレート26の分注を完了する。
【0030】
次にF工程でシリンジ2を押し出し作動させて洗浄液を押し出すとともに併せてライン内の残存試薬を排出した後、G工程でシリンジ2を吸引作動させてシリンジ2及び全ライン内に洗浄液容器27より洗浄液28を吸引することにより、ライン及びシリンジ2内に洗浄液を充満させる。その後H,I工程のようにシリンジ2の押し出し吸引を少なくとも2回以上繰り返すことによってシリンジ2内とライン内の洗浄を完了し、初期工程Aにリセットされる。このような分注方法は試薬を構成する各薬液毎に且つ試薬プレート26毎に繰り返され、リキッドハンドラー自体の作動制御はパソコンその他の制御装置により、予め決められたプログラムに基づいて行われる。
【0031】
従来は、シリンジを1本使用し、ラインの充填液と試薬の混合を避けるために境界域としてエアギャップを採用していたため、エアギャップを壊さないように試薬吸引を行うため流速が出せず、流速条件を決めても、トランスファーチューブの内壁の汚れにより、条件設定の再現性が取れないほか、トランスファーチューブの容量を変えることにより分注できる容量を調節するためそのたびに流速条件設定を行う必要がある等の欠点があった。
【0032】
これに対して上記方法では、シリンジを2本使用し、充填液を他方のシリンジで除去、ラインを試薬で充填する方法を採用するため、エアギャップがないので流速が出せるほか、内壁の汚れ等に妨げられることなく流速条件の再現性が確保できる。またトランスファーチューブの容量は固定で、シリンジの容量を変える事により分注量を調節できるので、流速条件設定は単純である等の利点がある。
上記リキッドハンドラー及びシリンジ以外の例えばプレート等の試薬作製用器具類については後述する試薬作製の説明と共に説明する。
【0033】
4.結晶化試薬(3600種)の作製
本実施形態では結晶化試薬は結晶化の初期スクリーニング用及び二次スクリーニング用の試薬作製表において示したように、試薬はそれぞれ144種、3456種あり、さらに初期スクリーニング用試薬作製に先立って沈殿剤その他の原液を作製する必要がある。したがって本実施形態における試薬作製は(1)原液作製=沈殿剤(Precipitant 16種)、緩衝剤(Buffer 6種)、添加剤(Additive 4種)の作製、(2)プレミックスバッファー(Pre Mix Buffer=PMB)の作製=PMB Init(Initial=初期),PMB Opti(Optimize=二次,展開),PMB Phos(Phosphate=リン酸),(3)ハイスループットのスクリーンキット(High through put kit=HTP Kit)の作製=HTP Kit Init,HTP kit Opti,HTP kit Opti add(Additive=添加剤あり),HTP kit Phosの各工程に部類分けできるので、以下上記(1)〜(3)の各工程につき詳述する。
【0034】
(1)原液作製
表2は試薬作製のための緩衝剤作製の配合を、表3は同じく沈殿剤及び添加剤作製の配合をそれぞれ示し、表4は沈殿剤,緩衝剤,添加剤の種類を原液番号と共に示している。各表における「○○−○○○」の桁で示すNo.表示中、上2桁の数字は原液番号であり、01=沈殿剤,02=緩衝剤,03=添加剤を示し、下3桁は各溶液のIDをそれぞれ示している。また表中のその他の符号の意味はFW=分子量,Conc=濃度,Weight=試薬重量,MilliQ=精製水であり、その他の試薬成分に関しては可能な限り表又は図中に示し、以下すべての表及び図面において共通するものとする。
【0035】
原液作製は、表2,表3を参照しながらそれぞれの薬品及び水を計量配合して撹拌混合する(緩衝剤がCHSの場合はNaOHも追加する)。その際わかり易いように試薬原液番号と濃度(表4)を基に試薬を対応させる。またすべての試薬原液はステリトップ(Steritop)Millipore SCGPS05RE 0.22μm 500ml)でフィルター(ろ過)をかける。緩衝剤原液のpHの測定も行う。
【0036】
(2)PMB(プレミックスバッファー)作製方法
図1はPMB(PMB Init=初期スクリーニング用)作製のためのリキッドハンドラー(図12参照)のワークスペース6上において、バイアル(No.1〜39)がセットされたバイアルボックス31と緩衝剤(Buffer)、滴定試薬及び精製水(MilliQ)の200ml容器(No.1〜12)とが配置されたPMB Initの配置図を示している。この時No.39のバイアルにはニードル14の洗浄用精製水を満たしておき、緩衝剤容器であるバイアルNo.21〜26には注射針(図示しない)を穴の周端側位置に刺して容器(バイアル)内の加圧、負圧現象を解消するように内外の空気の循環を確保しておく。上記以外のバイアル(No.1〜20,27〜36)には沈殿剤と添加剤のみが収容されている。
【0037】
上記セット後リキッドハンドラーのPMB Init専用の制御プログラムを始動し、リキッドハンドラーを作動させることにより、各バイアルにおいて緩衝剤溶液を分注作製した後注射針を抜き取り、バイアルに振動を与えてPMBを混合し、その後pH測定を行う。作製されたPMBは表5に示す組成表の通りであり、表中のpH以外の数字は各薬液等の分量(μl)である。
【0038】
図2,図3は共に図1と同一のワークスペース6上の配置図であり、図2がPMB Opti(二次スクリーニング用)、図3がPMB Phos(リン酸ナトリウム,リン酸カリウム使用)の場合を示しており、緩衝剤及び精製水が各200mlであり、バイアル(No.39)に精製水を充填しておく点及びリキッドハンドラーによる分注作業方法は図1の場合と同様である。
【0039】
図1の場合に対し、図2,図3に示す例ではそれぞれPMB Opti又はPMB Phos専用のプログラムを使用してリキッドハンドラーを使用し、注射針を刺すバイアルがNo.1〜36である点が異なる。そして配置され又は各バイアルに分注される薬液はそれぞれ図2,図3に示す通りである。その結果作製されるPMBの組成は図2に対して表6−1,表6−2が、図3に対して表7がそれぞれ対応する。
【0040】
(3)試薬キット(HTP Kit)作製
次に前記(1),(2)のように作製された試薬キット作製用の原液とPMB(プレミックスバッファー)を用いて試薬キット(3600種)を作製する方法について説明する。試薬キットは既述のリキッドハンドラーとそれぞれのキットに対応したパソコンによる制御プログラムを用いて行われるが、図13に示したキット用のプレート26としては、図4,図5に示すように12×6(穴)の72ウェルタイプを用いている。
【0041】
1)パラフィン分注
各プレート26のウェル(凹部)には、結晶化試薬の蒸発を防止し、濃度変化を生じさせないために、試薬表面に浮上して空間との接触をシールさせるように試薬より低比重のパラフィンを分注する。
【0042】
図4は、リキッドハンドラーのワークスペース6上に配置された2枚のプレート26とパラフィン及びニードル洗浄用精製水の配置図を示し、リキッドハンドラーはパラフィン分注専用プログラムによって制御され分注作業が行われる。パラフィン分注後のプレートは以下に説明されHTP kitを作製するまで保存される。
【0043】
2)初期スクリーニング用試薬キット(HTP kit Init)作製
図5は初期スクリーニング用試薬キット作製のためのパラフィン分注済のプレート26(2枚で144ウェル)とPMB Init用薬液がセットされたスクリューバイアルボックス31のワークスペース6上の配置図を示し、スクリューバイアル(No.1〜26)には予め既述の要領で注射針が刺され、同No.37のバイアルには精製水が分注され、またワークスペース6の余剰スペースにも精製水が配置された状態で分注が行われる。表8はHTP kit作製用に用いられるPMB Init(図5中のバイアルNo.1〜26)の試薬配置表を示し、上記によって作製されたHTP kitは図6に示す内容を備えており、沈殿剤16種、緩衝剤6種、添加剤4種で構成されている。
【0044】
表1の試薬作製表の内、試薬No.1〜144で示すものが初期スクリーニング用試薬であり、このうちNo.1〜84は2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)からなる14種の沈殿剤を組み合わせの基準(基準薬液)として使用している。この各基準薬液に対し、Acetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)からなる6種類の緩衝剤(バッファー)をそれぞれ順次対応させて分配する分配薬液を割り振っている。
【0045】
上記緩衝剤Acet(酢酸),MES,HEPESに対しては滴定試薬NaOHが割り振られ、他の緩衝剤Citr(クエン酸),Tris,CHESに対してはHClが割り振られる。そしてNo.1〜84はいずれも添加剤は無添加である。
【0046】
次に表1のNo.85〜108は、基準薬液としての沈殿剤MPDに対して4種類の添加剤Li Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)が4グループに分けて割り振られている。そして各グループはそれぞれ上記6種類の緩衝剤を割り振って条件を細分化され、合計24種の試薬が揃えられる。
【0047】
表1の試薬No.109〜132は基準薬液としての沈殿剤PEG4Kに対して上記同様に4種類の添加剤グループに割り振られ、各グループは6種類の緩衝剤(分配薬液)が割り振られて合計24の条件に細分化されている。また同No.133〜138は前述した9番目(No.49〜54)の沈殿剤Amm Sulfに対して前記6種類の緩衝剤が割り振られ、さらに添加剤1,4-Dioxaneがそれぞれに割り振られたものである。
【0048】
上記表中No.85〜138の試薬は、上記添加剤無添加の試薬のほかに、経験的に添加剤が、タンパク質の結晶化に何らかの好影響を及ぼすことが確認されているものに対して表中に示す4種類の添加剤を加えた試薬を示しており、このことにより初期スクリーニング試薬数が48種類増加し且つ条件の細分化が行われる。
【0049】
次のNo.139〜144は、本例で用いる15番目の沈殿剤Na Phos(リン酸ナトリウム)に対して、滴定試薬割合が0.39〜0.511まで定量的・規則的に増大変化する緩衝剤K2 Phos(リン酸二カリウム)を分配薬液として割り振ったものであり、添加剤は無添加としたものである。ここで使用されているNa Phos及びK2 Phosは沈殿剤及び緩衝剤のいずれの機能をも備えており、特に緩衝剤としての割り振りは行っていない。
【0050】
以上の初期スクリーニング用試薬においては、それぞれの薬液の配合割合,濃度,pH等は経験的に概ね確認されている最も望ましい数値を選んでおり、初期スクリーニング試薬ではこれらの量的要素の細分化には重点を置かず、量的要素の細分化は主としてNo.145以下の二次スクリーニング試薬において実現している。
【0051】
3)二次スクリーニング用試薬キット(添加剤無)(HTP kit Opti)作製
この例も上記初期スクリーニング用試薬キットと同様に作製され、表9のPMB Opti試薬配置表の内容を備えたスクリューバイアルボックス31のセットと一対のプレート(72ウェル)26,沈殿剤(PPT)及び精製水(MilliQ)とが配置される点及びバイアルNo.1〜36を試薬用に使用し且つ予め注射針を刺し込んでおく点が異なる。
【0052】
図8はこの方法によって作製された試薬キットの成分内容を示しており、二次スクリーニングでは各沈殿剤ごとに結晶化試薬の組み合わせがあり、それぞれ144種の組み合わせで沈殿剤1種(4パターン)、バッファー6種(6パターン)、添加剤有無で構成される。添加剤の有無で水の量比が異なる。
【0053】
表1の試薬No.145〜2160がこの項の試薬に該当し、上記初期スクリーニング用試薬のうち、最初の14種類の沈殿剤(基準薬液)に6種類の緩衝剤(分配薬液)毎に6グループに分けて割り振ったものである(添加剤なし)。そしてNo.1〜144の沈殿剤の割合を0.25,0.35,0.45,0.55と4段階に定量ずつ規則的に変化させ(注:これに応じて沈殿濃度も各グループ内で4段階の小グループを形成して定量的に又は規則的に変化している)、また各小グループ内では滴定試薬割合を6段階に定量ずつ規則的に変化させたものを割り振って条件を細分化している。
【0054】
上記のうち全体に共通しているのは沈殿剤割合及び滴定試薬割合の変化の量のみで、それ以外の数値は各薬液に応じて適宜変化領域を変えている(例えばMPD,PEG20K,Na Form等の変化領域等)が、変化が定量的・規則的であることには変わりない。また緩衝剤のpHの変化等も各緩衝剤に応じて適宜変更している。滴定試薬割合が増減両方向の変化があるのは、滴定試薬が酸性かアルカリ性かによる。
【0055】
4)二次スクリーニング用試薬キット(添加剤有)(HTP kit Opti add)作製
添加剤を加えた二次スクリーニング用試薬キットは、添加剤の有無の点で上記3)の製法と異なるが、それ以外は共通するので共通部分の説明を割愛する。また上記相違点に関連して、図9及び表10のバイアル(No.38)に添加剤が分注されているほか、図10の添加剤の有無及び水の量が異なる。
【0056】
表1のNo.2161〜3312は第2番目,第3番目の2種類の沈殿剤(基準薬液)MPD,PEG4Kそれぞれに対して前記6種類の緩衝剤(分配薬液)を割り振り、さらに4種類の添加剤を割り振っている。そして各沈殿剤につき、それぞれ添加剤の種類に応じて4つの添加剤別グループに分けられ、各添加剤別グループはさらに6種対の緩衝剤別グループに細分化されている。
【0057】
さらに各緩衝剤別グループは6組ずつ4段階に定量的・規則的に増減変化する沈殿剤割合・沈殿剤濃度毎に分かれ、基準薬液と分配薬液とを共通にし且つ沈殿剤割合・沈殿剤濃度共に共通の6組は6段階に概ね定量的・規則的に変化する滴定試薬割合の違う種類として割り振られて条件が細分化されている。この範囲の沈殿剤割合・同濃度は各緩衝剤毎に略定量的・規則的な変化を繰り返している。
【0058】
表1のNo.3313〜3456は第9番目の沈殿剤(基準薬液)Amm Sulfに対し、6種類の緩衝剤を24回ずつ割り振るとともに、すべてに添加剤として1,4-Dioxaneを加えたものである。24に割り振られた各緩衝剤群内は沈殿剤割合,同濃度が概ね定量的・規則的に増減変化する4段階(4グループ)に分けられ、各グループ内はそれぞれ滴定試薬割合が6段階に略定量的・規則的に増減変化させている(これに伴って緩衝剤のpH値も概ね定量的に増減変化する)。
【0059】
5)二次スクリーニング用試薬キット(リン酸使用)(HTP kit Phos)作製
この試薬は沈殿剤としてリン酸を使用したもので、図11及び表11のバイアル(No.1〜36)はすべてリン酸が分注されており、濃度及びpHを順次変化させている。そして二次スクリーニング用試薬におけるリン酸(Phos)は沈殿剤とバッファーを2種の溶液(Na Phos, K2 Phos)だけの組み合わせ144種によって構成される。そのため各ウェルごとに試薬組成が異なる。この場合、Na Phos,K2 Phosは沈殿剤,緩衝剤のいずれに使用してもよい。
【0060】
表1のNo.3457〜3600では、沈殿剤として用いたNa Phosの濃度が1,1.4,1.8,2.2の4段階に定量的且つ規則的に変化し、この各段階における緩衝剤(滴定試薬)のpHが6段階に略定量的・規則的に変化し且つこの変化は4グループ毎に高い数値領域で略定量的・規則的変化となり、合計6領域で変化している。
【0061】
これに対し、Na Phos,K2 Phosの水との配合割合は表11のようにプレミックス段階で36種類の配合が略定量的・規則的に行われたものを上記4グループ毎にリン酸緩衝液の緩衝作用中で一定の割合でNo.3457〜3600(計144種)に割り振っている。したがって4グループ内では量的要素に係る数値が定量的変化ではないものの、一定の割り振り規則に則って変化していることには変わりがない。この例においてもNa Phos,K2 Phosは互いに交換して使用することが可能である。
【0062】
6)以上のように構成されたスクリーニング用試薬は、本例では表1に示すように3600種揃えることが可能であり、これらを用いて次に説明される初期(144種)及び二次(3456種)のタンパク質結晶化スクリーニングが行われる。
【0063】
なお、表1中の試薬の組み合わせにおいて、条件細分化のための量的要素(但し、濃度,pH等の変化も含む)の定量的変化、規則的変化は厳密であることが望ましいが、タンパク質の結晶化において細分化された試薬条件の最適領域を見出すことが可能な範囲の誤差は許容されるものである。
【0064】
5.タンパク質の結晶化スクリーニング
次に前述したスクリーニング用試薬キットを用いたタンパク質の結晶化スクリーニング方法について、結晶化に使用したタンパク質及び結晶化とその評価を行なうための使用機器(ロボット)、評価方法と評価結果等の諸点について説明する。
【0065】
(1)結晶化実験と実験に使用したタンパク質及び使用機器
1)使用したタンパク質
本実験には下記二種のタンパク質を使用した。
a.生物種 T.Thermophilus(HB8)精製タンパク質数 177 結晶化数 94
b.生物種 P.Horikoshii(OT3) 精製タンパク質数 256 結晶化数 77
【0066】
上記aは生育温度範囲を50℃−82℃(至適温度は70−75℃)に有する好熱性細菌であり、bは、95℃前後に至適生育温度を有する超好熱性古細菌である。
【0067】
上記の菌体由来でのタンパク質結晶化実験において、使用するタンパク質のすべてが耐熱性であるということである。ということは、タンパク質の耐熱機構について探求したい場合、耐熱性のタンパク質等の利用を考える場合に使用する(耐熱性タンパク質は温度以外のタンパク質の変性要因に対しても耐性を示す)。つまり、生物および生体物質の耐熱性に関することについてであれば、基礎研究から応用研究まで幅広い研究が、上記a,bを材料として行なえるということである。
【0068】
2)結晶化方法及び結晶観察に使用した機器(ロボット)
本実験の結晶化には発明者等の提案に係る特開2003−107076号公報に示されるタンパク質の結晶化方法及び装置(ロボット=商品名「TERA」)を使用した。
【0069】
上記装置は、結晶化および結晶観察作業をスケジュール管理や、撮影した結晶写真を登録したデータベースを含め、すべての構成ユニットをパソコンにより自動的な統合運用が可能である。この装置は、世界中で広く使われている米国・ダグラス社の「IMPAX」と同様72ウェルのマイクロプレートを使って1 μl(0.5 μl蛋白質溶液 + 0.5 μl結晶化試薬)スケールのオイルバッチ法で結晶化を行うことができる「ディスペンサーロボット」のほか、顕微鏡を用いて自動的に結晶を撮影する「結晶化ウェル自動観察装置」、2,500枚の結晶化用プレートと125枚の結晶化試薬プレートを保管できる「プレート保管・搬送ユニット」、おのおのの装置間を連携する「プレートセッティングロボット」で構成されている。
【0070】
すべてのプレートは、識別のために組み込まれた「バーコード印刷・読み取りシステム」により管理され、現在、24時間無人運転で作業を行うものである。1日あたり、結晶化は32プレート2,304条件、観察は100プレート7,200条件の処理が可能である。「結晶化試薬保管庫」には、それぞれのタンパク質の標準結晶化条件として、初期スクリーニング用試薬144条件一つ一つにpHと沈殿剤濃度を展開し、精密化した3,460種類の二次スクリーニング用試薬をあらかじめ調製して保管している。
【0071】
このため、結晶観察結果を、結晶化条件改良へフィードバックすることができ、幅広い条件での結晶改良実験を同じパソコンのコンソールからすぐに行うことができる。また、結晶観察作業スケジューラーを使えば結晶化ドロップの状態の経時変化を自動的に画像イメージとして定期的に撮影し、保存できる。さらに、全自動結晶化システムからのあらゆる情報は、理化学研究所播磨研究所で展開している「ハイスループットファクトリー」全体の実験データを一括管理するプログラムからなるシステム「HTPF-DB」に自動的にアップロードされ、結晶観察評価や結晶化作業の要求はネットワーク上でウェブ・ブラウザーを使って分散処理することができる。
【0072】
(2)スコアによる結晶化の評価
タンパク質の結晶化状態の良否は結晶化結果の外部観察によって評価しているが,本実験では前記ロボット内のカメラによる画像解析によっており、その評価は過去に蓄積された多数の経験データに基づいて作成された、例えば図14に示すような、スコア別の評価基準によって行なっている。
【0073】
この例では同図に示すように結晶化状態を、乾燥(−1)、透明(0)、沈殿(1)、ゼリー状の塊(4)、0.05mm以上の微結晶・針状の微結晶・汚い板上結晶・汚いクラスター結晶(いずれも5)、板状結晶・針状結晶・分離可能なクラスター結晶(いずれも6)、0.03mm以上の単結晶(8)のようにスコア分けしてスコアチェックを行なう。
【0074】
次に前記結晶化とその結果評価のフローを図15のフロー図に基づいて説明する。
1)新規サンプルの場合、容量が300μl以上であるかの判断を行う。300μl以上あれば 初期スクリーニング144種で結晶化、300μl未満であれば初期スクリーニング72種 で結晶化を行う。
2)次に図14に示す評価基準を用いてスコアチェックを行う。
3)1週間後のスコア合計で0が50未満で、最大スコアが4以上であれば二次スクリーニ ングを実行する。スコア合計で0が50以上であれば、再度初期スクリーニングを行 う。
4)二次スクリーニングでは初期スクリーニングでスコア4以上が出た試薬No.において 24種の展開を行う。展開方法は、沈殿剤1種につき4段階の濃度、バッファー1種に つき6段階のpHを基本に最適化される。(詳細は図5〜11、表8〜11を参照。 )
5)再度図14に示す評価基準を用いてスコアチェックを行う。
6)二次スクリーニングでスコア6以上であれば回折チェックまたは、同一条件での結 晶化を行う。
7)回折チェックで分解能が4.0Å未満であれば結晶化終了。分解能が4.0以上であれば 高度化実験を行なう。
【0075】
6.結晶化率の確認
タンパク質の結晶化とは他溶液が少量でも混合してしまうと結晶化実験での結晶産出の度合いや再現性に影響が出てくる。しかし前述した方法で作成された初期スクリーニング試薬を用いることにより、各沈殿剤による結晶化効率を表した図16に示すグラフのように、初期スクリーニングにおいて結晶化数あたり最大20%程度の確立で微結晶を産出していることが分かる。このことにより前述した方法によって製造した結晶化試薬が高頻度にタンパク質の結晶化に成功しているかが判断できる。また、タンパク質1種類にそれぞれの項目によって実験結果を産出することが可能である。これは、各試薬のバッファーのpHや沈殿剤濃度を系統的に並べていることが大きな要因で、各バッファー、pH、沈殿剤等の効果をそれぞれの視点で考察できることを意味する。
【0076】
さらに図17に示すように、二次スクリーニングにおいても初期スクリーニング試薬実験結果と同じような実験結果を得た。これは、初期スクリーニング試薬と二次スクリーニング試薬は系統的には、同じ部類に含まれるため、結晶化実験という視点で結果を求めた場合、同様の結果が得られるためと考えられる。しかし、図18では、結晶化試薬の細分化を行った結果、4割のサンプルについて一次スクリーニングによって得られなかった結果が二次スクリーニングを実行することで最適化が行われている。平均すると254%で結晶化の最適化が行われている。(注:この割合は二次スクリーニングにおけるスコア5以上の回数を初期スクリーニングのスコア5以上の回数で除算したものである。)このことにより、従来のスクリーニング試薬では不可能だったより良質なタンパク質結晶を産出することが可能となっていることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
この発明は生命科学的,創薬,食品等の研究分野で必要なタンパク質の結晶構造解析のための、タンパク質の結晶化試験に際して使用されるものである。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6−1】
【0084】
【表6−2】
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
【表9】
【0088】
【表10】
【0089】
【表11】
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の初期スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(プレミックスバッファー)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図2】同じく二次スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(但し、沈殿剤にリン酸使用)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図3】同じく二次スクリーニング用試薬キット作製に用いるPMB(但し、沈殿剤にリン酸使用)作製のためのリキットハンドラーワークスペースにおける薬液・容器類の配置図
【図4】試薬キット用プレートにパラフィンを分注するためのプレート及びリキッド類の配置図である。
【図5】初期スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおける薬液・容器類の配置図である。
【図6】初期スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図7】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図8】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図9】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図10】添加剤を加えない二次スクリーニング用試薬キットの試薬構成を示す説明図である。
【図11】沈殿剤としてリン酸を用いた二次スクリーニング用試薬キット作製のためのワークスペースにおけるプレート、薬液・容器類の配置図である。
【図12】スクリーニング用試薬キット作製のためのリキッドハンドラーの概要斜視図である。
【図13】リキッドハンドラーに用いるシリンジの構成と作動行程を示す模式図である。
【図14】タンパク質の結晶化状態評価のためのスコア別の評価基準の一例を示す結晶状態の顕微鏡写真である。
【図15】タンパク質の結晶化実験と結晶化状態評価のフロー図である。
【図16】本発明のスクリーニング用試薬キットを用いたタンパク質結晶化の初期スクリーニング結果のスコア評価による結晶化率を示すグラフであうる。
【図17】本発明のスクリーニング用試薬を用いたタンパク質結晶化の二次スクリーニング結果のスコア評価による結晶化率を示すグラフである。
【図18】初期スクリーニングと二次スクリーニングの結晶化率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 本体ケース
2,3 シリンジ
4 分注ユニット
6 ワークスペース
7 横アーム
9 ガイド
11 支柱
12 溝状ガイド
14 ニードル
13 スライダ
16 トランスファーチューブ
17,18 バルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キットと、上記初期スクリーニング用試薬キットにおいて組み合わせが特定された基準薬液と分配薬液の少なくとも一方の薬液につき、当該薬液の配合割合又は量,濃度,pH,原料薬剤の配合割合又は量の1又は2以上の量的要素を略定量的又は規則的に順次変化させることにより試薬の条件を細分化させ且つサンプル数を複数倍に増大させ、増大させた各基準薬液と分配薬液の組み合わせを、キット化された容器に配設した多数のウェルにそれぞれ分注してなる二次スクリーニング試薬キットとで構成されるタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項2】
上記初期スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し、添加剤毎のグループ化を行って分注添加して初期スクリーニング用試薬キットとした請求項1のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項3】
二次スクリーニング用試薬キット中の個々の沈殿剤と緩衝剤との組み合わせにおいて、沈殿剤の配合割合と濃度のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させるとともに、緩衝剤のpH又は滴定試薬割合のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させることにより、基準薬液と分配薬液の組み合わせを相互にグループ化し且つ試薬条件の細分化及び試薬数の増大化を行った請求項1又は2のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項4】
二次スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し添加剤毎のグループ化を行って分注添加して二次スクリーニング用試薬キットとした請求項1,2又は3のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項5】
沈殿剤の一部又は全部が2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)及びNa Phos(リン酸ナトリウム),K2 Phos(リン酸二カリウム)の中から選択される請求項1,2,3又は4のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項6】
緩衝剤の一部又は全部がAcetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)の中から選択される請求項1,2,3,4又は5のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項7】
添加剤の一部又は全部がLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)の中から選択される請求項2,3,4,5又は6のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項8】
初期スクリーニング用試薬キットの試薬数が144以上である請求項1,2,3,4,5,6又は7のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項9】
二次スクリーニング用試薬キットの試薬数が3456以上である請求項1,2,3,4,5,6又は7のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項10】
請求項1,2,5,6,7又は8の初期スクリーニング用試薬を用いてタンパク質の結晶化のスクリーニングを行い、そのスクリーニング結果結晶化率の高い試薬を、試薬条件が細分化された請求項1,3,4,5,6,7又は9の二次スクリーニング試薬中より選択して上記タンパク質のスクリーニングを行うタンパク質の結晶化スクリーニング方法。
【請求項11】
結晶化試験の結果得られたタンパク質の結晶化状態を画像認識させ、該画像認識された画像と、予めスコア別に評価されて画像認識された多数の結晶化状態の評価基準画像とを対比して各結晶化タンパク質の結晶化状態を別に判定し、当該タンパク質に対する個々のスクリーニング用試薬の結晶化率をスコアによって判断する請求項10のタンパク質の結晶化スクリーニング方法。
【請求項1】
互いに組み合わせられる沈殿剤と緩衝剤のいずれか一方の薬液を組み合わせの基準となる基準薬液とし、該基準薬液に対して分配して組み合わされる他方の薬液を分配薬液とし、複数種類の基準薬液を複数種類の分配薬液の種類数毎にまとめてグループ化してそれぞれ定量的に順次組み合わせ、キット化された容器に配設された多数のウェルに分注してなる初期スクリーニング用試薬キットと、上記初期スクリーニング用試薬キットにおいて組み合わせが特定された基準薬液と分配薬液の少なくとも一方の薬液につき、当該薬液の配合割合又は量,濃度,pH,原料薬剤の配合割合又は量の1又は2以上の量的要素を略定量的又は規則的に順次変化させることにより試薬の条件を細分化させ且つサンプル数を複数倍に増大させ、増大させた各基準薬液と分配薬液の組み合わせを、キット化された容器に配設した多数のウェルにそれぞれ分注してなる二次スクリーニング試薬キットとで構成されるタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項2】
上記初期スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し、添加剤毎のグループ化を行って分注添加して初期スクリーニング用試薬キットとした請求項1のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項3】
二次スクリーニング用試薬キット中の個々の沈殿剤と緩衝剤との組み合わせにおいて、沈殿剤の配合割合と濃度のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させるとともに、緩衝剤のpH又は滴定試薬割合のいずれか一方又は両方を多数段階に略定量的又は規則的に変化させることにより、基準薬液と分配薬液の組み合わせを相互にグループ化し且つ試薬条件の細分化及び試薬数の増大化を行った請求項1又は2のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項4】
二次スクリーニング用試薬キット中の基準薬液と分配薬液の組み合わせ中より、タンパク質の結晶化にとって添加剤の添加が望ましい組み合わせにつき、さらに一種又は二種以上の添加剤を各別に対応させて分配し添加剤毎のグループ化を行って分注添加して二次スクリーニング用試薬キットとした請求項1,2又は3のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項5】
沈殿剤の一部又は全部が2-Propanol(イソプロパノール),MPD(2-メチル-2,4-ペンタンジオール),PEG 4,000(ポリエチレングリコール4,000),PEG 20,000(ポリエチレングリコール20,000),Jeffamine M-600(ジェファミンM-600),Na Form(ギ酸ナトリウム),Na Chlor(塩化ナトリウム),Li Sulf(硫酸リチウム),Amm Sulf(硫酸アンモニウム),KNa Tart(酒石酸ナトリウム),Na Acet(酢酸ナトリウム),tri-Na Citr(クエン酸三ナトリウム),Mg Sulf(硫酸マグネシウム),Na2 Malon(マロン酸二ナトリウム)及びNa Phos(リン酸ナトリウム),K2 Phos(リン酸二カリウム)の中から選択される請求項1,2,3又は4のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項6】
緩衝剤の一部又は全部がAcetic acid(酢酸),Na3 citrate(クエン酸三ナトリウム),MES(2−モルホリノエタンスルホン酸),HEPES(2−[4−(2ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸),Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン),CHES(N−シクロエキシル−2−アミノエタンスルホン酸)の中から選択される請求項1,2,3,4又は5のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項7】
添加剤の一部又は全部がLi Chlor(塩化リチウム),Mg Chlor(塩化マグネシウム),Ca Chlor(塩化カルシウム),1,4-Dioxane(ジオキサン)の中から選択される請求項2,3,4,5又は6のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項8】
初期スクリーニング用試薬キットの試薬数が144以上である請求項1,2,3,4,5,6又は7のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項9】
二次スクリーニング用試薬キットの試薬数が3456以上である請求項1,2,3,4,5,6又は7のタンパク質のスクリーニング用試薬キット。
【請求項10】
請求項1,2,5,6,7又は8の初期スクリーニング用試薬を用いてタンパク質の結晶化のスクリーニングを行い、そのスクリーニング結果結晶化率の高い試薬を、試薬条件が細分化された請求項1,3,4,5,6,7又は9の二次スクリーニング試薬中より選択して上記タンパク質のスクリーニングを行うタンパク質の結晶化スクリーニング方法。
【請求項11】
結晶化試験の結果得られたタンパク質の結晶化状態を画像認識させ、該画像認識された画像と、予めスコア別に評価されて画像認識された多数の結晶化状態の評価基準画像とを対比して各結晶化タンパク質の結晶化状態を別に判定し、当該タンパク質に対する個々のスクリーニング用試薬の結晶化率をスコアによって判断する請求項10のタンパク質の結晶化スクリーニング方法。
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図8】
【図10】
【図12】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−83126(P2006−83126A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271389(P2004−271389)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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