説明

タンパク質繊維の保液量の測定方法

【課題】タンパク質繊維の局所における保液量を好適に測定することができるタンパク質繊維の保液量の測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明のタンパク質繊維の保液量の測定方法は、保液量の異なる既知の基準タンパク質毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果に基づく該基準タンパク質の保液量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果と前記検量線とを用いて前記タンパク質繊維の局所における保液量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質繊維の保液量の測定方法、それを用いたタンパク質繊維の液の浸透分布の測定方法、タンパク質繊維の膨潤率の測定方法、及びそれを用いた剤の浸透量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャンプー、リンス、コンディショナー等の毛髪に使用する剤には、保水成分や保湿成分等が添加されたものが数多く提供されている。また、染毛剤やブリーチ剤の開発においては、その使用後において毛髪の保水性や保湿性への影響も考慮されている。このような中、シャンプー、リンス、コンディショナー、染毛剤、ブリーチ剤等の毛髪に使用する剤の開発において、毛髪の局所における保水量や水の浸透の具合を把握することは、添加する保水成分を選択したり、これらの剤の毛髪内への浸透具合を把握する上で極めて有効であると考えられる。
【0003】
毛髪の保水量や水の浸透分布の測定技術に関して、これまで種々の方法が提案されているが(下記特許文献1等参照)、これらの技術では、毛髪全体の平均水分量が求まるため、局所的な毛髪の保水量を把握することが困難であった。
【0004】
一方、下記非特許文献1及び2に記載の技術のように、共焦点ラマン分光法に皮膚のラマンスペクトルを測定し、その深さ方向における水分量を測定する技術が提案されている。非特許文献1の技術では、皮膚をピンホールを有する板に押し当て、ピンホールにて露出された皮膚面を共焦点ラマン測定している。また非特許文献2の技術では透明基板に皮膚を押し当て、形成された皮膚平面に対して、透明基板ごしの測定を行っている。何れの技術も、皮膚面を剤に浸漬したままの状態で、皮膚内局所における化学組成情報を取得することはできないため、これらの技術をそのまま適用しても、剤に浸漬した状態で、毛髪の局所における保水量を把握するには難があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−344279号公報
【非特許文献1】L.Chrit et al.:" In vivo chemical investigation of human skin using a confocal Raman fiber optic microprobe", Journal of Biomedical Optics 10(4),044007(July/August 2005)
【非特許文献2】PJ Caspers et al.:" In vivo confocal Raman microscopy of the skin: noninvasive determination of molecular concentration profile", Journal of Investigative Dermatology 116(3), 434(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、剤に浸漬した状態でのタンパク質繊維の局所における、保液量、液の浸透分布、膨潤率の測定方法、剤の浸透量を好適に測定することができる、タンパク質繊維の局所における保液量の測定方法、タンパク質繊維の液の浸透分布の測定方法、タンパク質繊維の膨潤率の測定方法、タンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、保液量の異なる既知の基準タンパク質毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果に基づく該基準タンパク質の保液量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該タンパク質繊維についての測定結果と前記検量線とを用いて該タンパク質繊維の局所における保液量を求めるタンパク質繊維の保液量の測定方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明は、前記本発明のタンパク質繊維の保液量の測定方法により、タンパク質繊維のラマンスペクトルを表面からの深さを変えて共焦点ラマン分光法によって測定し、該タンパク質繊維中の局所における液の浸透分布を求めるタンパク質繊維の液の浸透分布の測定方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、前記本発明のタンパク質繊維の保液量の測定方法により、前記タンパク質繊維の局所における保液量を測定し、該測定結果に基づいて水及び非膨潤状態における毛髪の密度からタンパク質液中の局所における膨潤率を求めるタンパク質繊維の膨潤率の測定方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、保液量の異なる既知の基準タンパク質毎及び濃度の異なる既知の剤の溶液毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によってそれぞれ測定し、それらの測定結果に基づいて前記基準タンパク質における前記剤の保有量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果と前記検量線とを用いて前記タンパク質繊維の局所における前記剤の保有量を求めるタンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、毛髪等のタンパク質繊維の局所における保液量、液の浸透分布、膨潤率及び剤の浸透量を好適に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。
先ず、本発明のタンパク質繊維の液の浸透分布の測定方法及びタンパク質繊維の保液量の測定方法を、毛髪の水の浸透分布の測定方法及び毛髪の保水量の測定方法に適用した好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態において使用される基準タンパク質は、測定対象となるタンパク質繊維に応じて選択される。本実施形態のように、測定対象のタンパク質繊維が毛髪の場合には、好ましい基準タンパク質として、ゼラチン、アルブミン、カゼイン等の水溶性のタンパク質が挙げられる。これらの中でも、水溶解性の高さ、取り扱い性、入手のしやすさ、等の点から、ゼラチンが好ましい。
【0014】
本実施形態の測定方法では、保水量の異なる既知の基準タンパク質毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果に基づく該基準タンパク質の保水量の検量線を作成する。なお、ここでの保水量とは、水〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕で表されるとする。そして、測定対象となる毛髪のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果と前記検量線とを用いて前記毛髪の局所における保水量を求める。以下、本実施形態の測定方法をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明において、単にラマンスペクトルという場合には、共焦点ラマン分光法により測定されるラマンスペクトルをいう。
【0015】
上述のように保水量の異なる既知の基準タンパク質についてのラマンスペクトルを測定する際には、水と基準タンパク質を一定の割合で均一に混合させ、該混合試料に対してレーザー光を照射し、照射部より発生するラマン散乱光を集光し、検出器を備えた分光器に導入する。混合試料へのレーザーの照射・集光は、ガラス等の窓材を介して行っても良いし、水浸型の対物レンズを試料に直接接触させても良い。
【0016】
次に、測定の結果得られたラマンスペクトルにおいて、保水量が既知の基準タンパク質のラマンスペクトルIM1(ω)が、下記式(1)に示すように、α、βをパラメータとし、水を含まない基準タンパク質(絶乾状態:25℃、72時間の乾燥後、以下同じ。)のラマンスペクトルIN1(ω)及び水のラマンスペクトルIN2(ω)によって表されるものとし、IM1(ω)、IN1(ω)、IN2(ω)よりパラメータα及びβ、又はβ/αを求める。ここで、ωはラマンシフトの波数とする。そして、求めたパラメータα及びβ、又はβ/αと、基準タンパク質の保水量(水〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕)との関係から検量線を作成する。
IM1(ω)=αIN1(ω)+βIN2(ω)・・・(1)
【0017】
具体的には、例えば、保水量を変えた基準タンパク質、水を含まない基準タンパク質、及び水のみについてラマンスペクトルを測定する。そして、それぞれのラマンスペクトルの2900cm-1付近の毛髪のCH伸縮振動に由来するピーク、及び3300cm-1付近の水のOH伸縮振動に由来するピークを含む波数領域について前記式(1)を適用し、図1に示すように、(β/α)vs水〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕で表される検量線を求める。
【0018】
次に、測定対象となる毛髪のラマンスペクトルを測定する。この測定の際には、水を含まない毛髪のスペクトルの取得時は、窓材上、あるいは空気中に設置した毛髪に対してレーザーを照射して測定する。剤に浸漬した状態の毛髪の測定には、倒立型の共焦点ラマン分光器の場合は、底面に窓材を取り付けた容器内に毛髪と剤を入れ、窓材を介してレーザーを毛髪に照射することによりスペクトルを測定する。また正立型共焦点ラマン分光器の場合は、容器内に毛髪と剤を入れ、剤中に水浸レンズ先端部を挿入し、レーザーを毛髪に照射することにより、スペクトルを測定する。
【0019】
次に、測定の結果得られたラマンスペクトルにおいて、保水量未知の毛髪のラマンスペクトルIM2(ω)が、下記式(2)に示すように、α、βをパラメータとし、水を含まない毛髪(絶乾状態)のラマンスペクトルIN1(ω)及び水のラマンスペクトルIN2(ω)によって表されるものとし、それらのパラメータα及びβ、又はβ/αを求める。そして、求めたパラメータα及びβ、又はβ/αと、基準タンパク質の保水量についての検量線から毛髪の保水量Hwを求める。
IM2(ω)=αIN1(ω)+βIN2(ω)・・・(2)
次に、毛髪をタンパク質と水の2成分で近似して、下記式(3)より毛髪中の水分量WW〔質量%〕を求める。
WW={HW/(HW+1)}×100・・・(3)
【0020】
具体的には、例えば、保水量未知の毛髪、水を含まない毛髪及び水のみについてラマンスペクトルを測定する。そして、それぞれのラマンスペクトルの2900cm-1付近の毛髪のCH伸縮振動に由来するピークの面積、及び3300cm-1付近の水のOH伸縮振動に由来するピークを含む波数領域において、前記式(2)に適用して(β/α)を求め、前記基準タンパク質の保水量についての検量線(図1)から毛髪の局所における保水量HW(水〔質量%〕/タンパク質〔質量%〕)を求める。次に、HWを前記式(3)に適用して毛髪中の水分量Ww〔質量%〕を求める。ここで、局所とは、レーザービームが照射されたときの焦点部分となる毛髪の一部分をいい、レーザービームの照射面積(ビーム径)、及び共焦点ラマン分光器の共焦点光学系のピンホールによって定まる範囲をいう。
【0021】
次に、上述のような毛髪のラマンスペクトルを表面からの深さを変えて測定し、毛髪中の局所における水の浸透分布を求める。測定する深さの間隔が狭い程より精度の高い結果が得られるが、毛髪キューティクルの一層の厚さが約0.5μmであることを考慮すると、0.25〜0.5μmの間隔で測定すれば、所望の測定結果を得ることができる。
【0022】
このように、本実施形態の毛髪の保水量の測定方法、及び毛髪の水の浸透分布の測定方法によれば、毛髪の局所的な保水量及び水の浸透分布を簡便に測定することができる。よって、後述するように、毛髪の局所的な膨潤率や剤の浸透量を簡便に測定することができる。また、本実施形態では、毛髪の保水量を水中の毛髪についてその水分量や水の浸透分布を測定するので、剤に作用している状態での毛髪の局所における保水量や水の浸透の具合を把握することができる。
【0023】
次に、本発明のタンパク質繊維の膨潤率の測定方法を、毛髪の保水による膨潤率の測定方法に適用した好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態の膨潤率の測定方法では、先ず、前記実施形態の毛髪の保水量の測定方法のように、毛髪のラマンスペクトルを測定する。そして、毛髪の局所における水分量を測定し、その測定結果(HW)と水の密度(DW)及び非膨潤状態(絶乾状態)における毛髪の密度(DH)から、下記式(4)により膨潤率を求める。ただし、保水に伴って水と毛髪は理想混合し、混合に伴う体積の収縮はないものとする。
膨潤率〔%〕=[(HW/DW)+{(1−HW)/DH}]/{(1−HW)/DH}×100・・・(4)
【0025】
このように、本実施形態の膨潤率の測定方法によれば、保水に伴う毛髪の局所的な膨潤率を好適に測定することができる。本実施形態の膨潤率の測定方法によれば、毛髪の局所的な膨潤率の変化を把握することができるので、局所的な毛髪の膨潤による毛髪内部構造のひずみに伴うダメージの影響等を把握することができる。
【0026】
次に、本発明のタンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法を、毛髪における水系のブリーチ剤中の過酸化水素の浸透量の測定方法に適用した好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0027】
本実施形態の測定方法では、保水量の異なる既知の基準タンパク質毎、及び濃度の異なる既知のブリーチ剤の水溶液毎のラマンスペクトルをそれぞれ測定し、それらの測定結果に基づいて前記基準タンパク質におけるブリーチ剤中の保有量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを測定し、該測定結果と前記検量線とを用いて前記タンパク質繊維の前記局所におけるブリーチ剤の保有量を求め、ブリーチ剤中の過酸化水素の重量分率から過酸化水素量を求める。以下、本実施形態の測定方法をさらに詳細に説明する。
【0028】
先ず、前記実施形態の毛髪の保水量の測定方法と同様にして、保水量が既知の基準タンパク質のラマンスペクトルを測定し、得られた測定結果について、パラメータα及びβ、又はβ/αと、基準タンパク質の保水量との関係から検量線を作成する。例えば、図1に示したような(β/α)vs(水〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕)で表される検量線を作成する。本実施形態においても、前記実施形態と同様に水を含まない毛髪についての測定を除き、毛髪のラマンスペクトルの測定は、水中で行うことが好ましい。
【0029】
次に、濃度が既知のブリーチ剤の水溶液のラマンスペクトルを測定する。この測定の方法は、上述の水中にける毛髪の測定法と基本的には同じであるが、ブリーチ剤は1剤と2剤を混合後、過酸化水素が発生するため、1剤と2剤を混合後速やかに毛髪の処理を開始することが好ましい。
【0030】
次に、測定の結果得られたラマンスペクトルにおいて、濃度が既知のブリーチ剤の水溶液のラマンスペクトルIM4(ω)が、下記式(5)に示すように、β、γをパラメータとし、水のみのラマンスペクトルIN2(ω)及びブリーチ剤のみのラマンスペクトルIN3(ω)によって表されるものとし、それらのパラメータβ及びγ、又はγ/βを求める。そして、求めたパラメータβ及びγ、又はγ/βと、ブリーチ剤〔質量%〕/水〔質量%〕)との関係から検量線を作成する。
IM4(ω)=βIN2(ω)+γIN3(ω)・・・(5)
【0031】
具体的には、例えば、濃度を変えたブリーチ剤の水溶液、ブリーチ剤のみ、及び水のみについてラマンスペクトルを測定する。そして、それぞれのラマンスペクトルについて3300cm-1付近の水のOH伸縮振動、及び870cm-1付近のブリーチ剤中の過酸化水素のOO伸縮振動に由来するピークを含む波数領域について、前記式(5)を適用し、(γ/β)vs(ブリーチ剤〔質量%〕/水〔質量%〕)で表される検量線を求める。
【0032】
そして、これらの得られた前記式(1)と前記式(5)に関する検量線の傾きの係数について積算し、(γ/α)vs(ブリーチ剤〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕)で表される前記基準タンパク質におけるブリーチ剤の保有量の検量線の傾きの係数とした。
【0033】
次に、所定濃度のブリーチ剤水溶液に浸漬したときの、毛髪のラマンスペクトル(ブリーチ剤の保有量未知の毛髪のラマンスペクトル)IM5(ω)が、下記式(6)に示すように、α、γをパラメータとし、水を含まない毛髪(絶乾状態)のラマンスペクトルIN1(ω)及びブリーチ剤のラマンスペクトルIN3(ω)によって表されるものとし、それらのパラメータα及びγ、又はγ/αを求める。そして、求めたパラメータα及びγ、又はγ/αと、上述した基準タンパク質の保水量及びブリーチ剤の濃度についての検量線の組み合わせからブリーチ剤の保有量未知の毛髪のブリーチ剤の保有量HBを求める。
IM5(ω)=αIN1(ω)+γIN3(ω)・・・(6)
次に、毛髪をタンパク質と水、ブリーチ剤の3成分で近似すると、毛髪中のブリーチ剤量WB〔質量%〕は下記式(7)で示される。
WB={HB/(HB+HW+1)}×100・・・(7)
さらに、ブリーチ剤中の過酸化水素の重量分率WBD[質量%]から下記式(8)により、毛髪中の過酸化水素量WD〔質量%〕を求める。
WD=(WB×WBD)/100・・・(8)
【0034】
具体的には、例えば、ブリーチ剤の保有量未知の毛髪、水を含まない毛髪、及びブリーチ剤のみについてラマンスペクトルを測定する。そして、それぞれのラマンスペクトルについて2900cm-1付近の毛髪のCH伸縮振動に由来するピーク、及び870cm-1付近のブリーチ剤中の過酸化水素のOO伸縮振動に由来するピークを含む波数領域について前記式(6)に適用して(γ/α)を求め、前記基準タンパク質の保水量及びブリーチ剤の濃度についての検量線の組み合わせからブリーチ剤の保有量未知の毛髪の局所におけるブリーチ剤の保有量HB(過酸化水素〔質量%〕/基準タンパク質〔質量%〕)を求める。次に、HBを前記式(7)に適用して毛髪中のブリーチ剤量WBD〔質量%〕を求める。さらに、WBD〔質量%〕を前記式(8)に適用して毛髪中の過酸化水素量WB〔質量%〕を求める。本実施形態においても、毛髪をブリーチ剤の水溶液中に浸した状態でラマンスペクトルを測定することが好ましい。
【0035】
このように、本実施形態の毛髪の剤の浸透量の測定方法によれば、毛髪の局所的なブリーチ剤及びブリーチ剤中の過酸化水素の浸透量(保有量)を簡便に測定することができる。また、本実施形態では、毛髪をブリーチ剤(の水溶液)に浸した状態でその浸透量を測定できるので、ブリーチ剤の使用形態に即した浸透量の測定結果を得ることができる。
【0036】
本発明は、前記実施形態に制限されるものではない。本発明は、前記実施形態におけるように、測定対象となるタンパク質繊維として毛髪が好適であるが、本発明の測定対象となるタンパク質繊維は、タンパク質繊維からなるものであれば、特に制限はない。測定対象となる好ましいタンパク質繊維としては、人毛以外に、獣毛、絹糸等の天然タンパク質繊維や各種の人工繊維が挙げられる。
【0037】
本発明は、浸透量の測定対象となる剤は前記実施形態におけるようなブリーチ剤に制限されない。本発明の適用される浸透量の測定対象となる剤としては、測定対象となるタンパク質繊維の及び水のラマンスペクトルのピークの発現位置(cm-1)と重ならないようなラマンスペクトルのピークを有する剤が好ましい。測定材料となる好ましい剤としては、シャンプー、リンス、コンディショナー、染毛剤、くせ毛矯正剤等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲は斯かる実施例に制限されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
基準タンパク質としてゼラチンを使用し、下記のように保水量を代えた複数の試料を作製し、下記測定条件でラマンスペクトルを測定した。また、水のみのラマンスペクトルも併せて測定した。ラマンスペクトルの測定には、市販の共焦点ラマン分光器(東京インスツルメンツ社製、ナノファインダー)を使用した。図2にそれらの測定結果を示す。図2に示したように2900cm-1付近に毛髪のCH伸縮振動、3300cm-1付近に水のOH伸縮振動に由来するピークを示すラマンスペクトルが得られた。そしてこれらの二つのピークを含む波数領域について上記式(1)を適用し、図3に示すような基準タンパク質の保水量についての検量線を求めた。
【0040】
<基準タンパク質試料>
性状:水とゼラチン粉末の均一混合物
保水量:19、9.0、5.7、4.0
【0041】
<測定条件>
ガラス製の底面をもつ容器に、基準タンパク質試料又は水を入れた。容器の底面を油浸オイルを介してレンズに密着させ、波長633nmのレーザー光を入射してラマンスペクトルを測定した。
【0042】
次に、測定対象の下記毛髪について、下記測定条件で毛髪表面からの深さを変えてラマンスペクトルを測定した。図4にその測定結果を示す。図4に示したように2900cm-1付近に毛髪のCH伸縮振動、3300cm-1付近に水のOH伸縮振動に由来するピークを示すラマンスペクトルが得られた。
【0043】
<毛髪>
寸法・形状:容器に即した長さに切断した毛髪。また、メラニン色素を含まない毛髪(白髪)が好ましい。
【0044】
<測定条件>
ガラス製の底面をもつ容器内で、毛髪を水に浸漬させた。容器の底面を油浸オイルを介してレンズに密着させ、波長633nmのレーザー光を入射して、深さ方向に焦点位置を変えてラマンスペクトルを測定した。
【0045】
得られたラマンスペクトルの上記二つのピークの面積を求め、式(2)に適用し、(β/α)を求めて図3検量線から各深さにおける毛髪の局所の保水量(水の浸透分布)を求めた。さらに毛髪を水とタンパク質の2成分で近似し、式(3)に基づいて水分量[質量%]の深さ方向分布を求めた。その結果を図5に示す。
【0046】
図5に示したように、表面の深さが深くなるにつれて保水量は少なくなることが確認できた。
【0047】
〔実施例2〕
上記条件で求まった保水量に基づき、上記式(4)により膨潤率を求めた。その結果を図6に示す。
【0048】
図6に示したように、表面の深さが深くなるにつれて膨潤率は小さくなることが確認できた。
【0049】
〔実施例3〕
保水量が既知の基準タンパク質のラマンスペクトルを〔実施例2〕と同様に測定し、図3に示すような基準タンパク質の保水量についての検量線を求めた。
【0050】
濃度を変えたブリーチ剤水溶液を作製し、〔実施例2〕と同様にしてラマンスペクトルを測定した。また、水のみのラマンスペクトルも併せて測定した。3300cm-1付近に発現する水のOH伸縮振動、及び870cm-1付近に発現するブリーチ剤中の過酸化水素のOO伸縮振動に由来するピークが出現したラマンスペクトルが得られた。そしてこれらの二つのピークを含む波数領域について上記式(5)を適用し、ブリーチ剤の量についての検量線を求めた。
【0051】
そして、これらの得られた検量線を組み合わせ、前記基準タンパク質におけるブリーチ剤の保有量の検量線を作成した。
【0052】
ブリーチ剤の保有量未知の毛髪、水を含まない毛髪及びブリーチ剤のみについてラマンスペクトルを測定した。それぞれ2900cm-1付近に毛髪のCH伸縮振動に由来するピーク、3300cm-1付近に水のOH伸縮振動に由来するピーク、及び870cm-1付近にブリーチ剤中の過酸化水素のOO伸縮振動に由来するピークが出現したラマンスペクトルが得られた。
【0053】
前記式(6)に適用して(γ/α)を求め、前記基準タンパク質の保水量及びブリーチ剤の濃度についての検量線の組み合わせからブリーチ剤の保有量未知の毛髪の局所におけるブリーチ剤の保有量(保有量〔質量%〕/基準タンパク質量〔質量%〕)を求めた。次にこの結果を前記式(7)に適用して、毛髪中のブリーチ剤量WBD〔質量%〕を求めた。さらに、WBD〔質量%〕を前記式(8)に適用して毛髪中の過酸化水素量〔質量%〕を求めた。その結果を図7に示す。
【0054】
図7に示したように、表面の深さが深くなるにつれて過酸化水素量〔質量%〕の小さくなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のタンパク質繊維の保水量及び浸透分布の測定方法において使用する基準タンパク質による保水量の検量線の概略図である。
【図2】本発明の実施例における水、基準タンパク質、及び保水量既知の基準タンパク質のラマンスペクトルの一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例により得られた基準タンパク質による保水量の検量線を示す図である。
【図4】本発明の実施例における保水量未知の毛髪の各深さにおけるラマンスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例による各深さにおける毛髪の局所の水分量(水の浸透分布)を示す図である。
【図6】本発明の実施例による各深さにおける毛髪の局所の膨潤率を示す図である。
【図7】本発明の実施例による各深さにおける毛髪の局所の過酸化水素量(過酸化水素の浸透分布)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保液量の異なる既知の基準タンパク質毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果に基づく該基準タンパク質の保液量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該タンパク質繊維についての測定結果と前記検量線とを用いて該タンパク質繊維の局所における保液量を求めるタンパク質繊維の保液量の測定方法。
【請求項2】
前記タンパク質繊維を液中に浸した状態で前記ラマンスペクトルを測定する請求項1に記載のタンパク質繊維の保液量の測定方法。
【請求項3】
前記タンパク質繊維が毛髪である請求項1又は2に記載のタンパク質繊維の保液量の測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のタンパク質繊維の保液量の測定方法により、タンパク質繊維のラマンスペクトルを表面からの深さを変えて共焦点ラマン分光法によって測定し、該タンパク質繊維中の局所における液の浸透分布を求めるタンパク質繊維の液の浸透分布の測定方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のタンパク質繊維の保液量の測定方法により、前記タンパク質繊維の局所における保液量を測定し、該測定結果に基づいて、水及び非膨潤状態における毛髪の密度から該タンパク質繊維中の局所における膨潤率を求めるタンパク質繊維の膨潤率の測定方法。
【請求項6】
保液量の異なる既知の基準タンパク質毎及び濃度の異なる既知の剤の溶液毎のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によってそれぞれ測定し、それらの測定結果に基づいて前記基準タンパク質における前記剤の保有量の検量線を作成し、測定対象となるタンパク質繊維のラマンスペクトルを共焦点ラマン分光法によって測定し、該測定結果と前記検量線とを用いて前記タンパク質繊維の局所における前記剤の保有量を求めるタンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法。
【請求項7】
前記タンパク質繊維を液中に浸した状態で前記ラマンスペクトルを測定する請求項6に記載のタンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法。
【請求項8】
前記タンパク質繊維が毛髪である請求項6又は7に記載のタンパク質繊維における剤の浸透量の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−51742(P2008−51742A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230436(P2006−230436)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】