タンパク質蓄積による神経変性疾患治療薬物のスクリーニング系
【課題】タンパク質凝集に起因する神経変性疾患治療薬をスクリーニングする系を提供する。
【解決手段】脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異γPKCをコードする遺伝子、GFPをコードする遺伝子、およびmifepristoneという薬剤により蛋白質の発現調節可能なGeneSwitch蛋白質をコードする遺伝子またはテトラサイクリンにより蛋白質の発現調節可能なTet制御システムを含むベクターを含有する細胞を用いて神経変性疾患治療薬をスクリーニングする系。
【解決手段】脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異γPKCをコードする遺伝子、GFPをコードする遺伝子、およびmifepristoneという薬剤により蛋白質の発現調節可能なGeneSwitch蛋白質をコードする遺伝子またはテトラサイクリンにより蛋白質の発現調節可能なTet制御システムを含むベクターを含有する細胞を用いて神経変性疾患治療薬をスクリーニングする系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患において異常凝集タンパク質の蓄積に起因するタンパク質蓄積による神経変性疾患を治療する薬物をスクリーニングするためのベクター、それを導入した細胞、およびそれらを含むスクリーニング系に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患発症に共通の性質とは1つには遺伝性発症であり、他の臓器疾患と比較して遺伝性のものが圧倒的に多い。神経変性疾患に共通する特徴の第2は選択的な細胞死を伴っていることが多いことである。神経変性疾患に関連して指摘すべきもう1つの点は、神経変性疾患における神経細胞死がアポトーシスではないかと考えられていることである(非特許文献1)。 また神経変性疾患にはポリグルタミン病、ハンチントン病、ピック病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、プリオン病などのタンパク質の凝集に起因すると考えられていることが多く、例えば、ハンチントン病、マシャド・ジョセフ病などはポリグルタミン、アルツハイマー病ではβアミロイド(Aβ)、Tauタンパク質、プレセニリン、パーキンソン病ではαーシヌクレイン、ALSではスーパーオキシドムターゼ1(SOD1)、脊髄小脳変性症においてガンマプロテインキナーゼ(γPKC)などの変異によりタンパク質が核内を含む細胞内外で凝集、蓄積することにより神経変性疾患が発症すると考えられている(非特許文献2)。これらの疾患は変異する遺伝子の位置など分かっているものもあり、例えば脊髄小脳変性症においてγPKC遺伝子の制御ドメインのC1B変異が多く発見されている(図1)。しかしながら点変異で変異が起こるものについては、通常の核酸のハイブリダイゼーションなどで異常を発見するのは困難である。また、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングとしてトランスジェニックマウスを用いた方法(特許文献1)が開示されているが、トランスジェニックマウスを用いたアッセイ系では多くの化合物のスクリーニングが困難である。
【非特許文献1】最新内科学体系、第68巻、神経変性疾患、編集:井村裕夫、尾形悦郎、高久史麿、垂井清一郎、発行所:中山書店(1997年)、3〜7p
【非特許文献2】細胞工学、第20巻、第11号、岩坪威、1474〜1477(2001)
【特許文献1】特開2003−267874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のごとくタンパク質の凝集に起因する神経変性疾患は多岐にわたり、それらの治療薬候補を的確に、簡便にできるスクリーニング方法の確立が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記実情を鑑み鋭意研究した結果、凝集体を形成する変異タンパク質をコードする遺伝子、タンパク質の凝集を追跡可能とする緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、薬剤により変異タンパク質と緑色蛍光タンパク質の発現を薬剤で調節可能な遺伝子を含むベクターを哺乳類の細胞に導入して、タンパク質凝集に起因する神経変性疾患の治療のための薬剤をスクリーニングする系を確立した。例えば、脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異タンパク質γPKCをコードする遺伝子、タンパク質凝集を追跡するための緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、および薬剤により前記タンパク質の発現を調節可能とするGeneSwitch遺伝子を含むベクターを用いてタンパク質が凝集する系を確立した。しかしながらタンパク質の凝集体が形成されると
細胞はアポトーシスを起こしたり、また小脳プルキンエ細胞では樹状突起の広がりが小さくなり形態的に異なるものになって適切な評価はできなくなる。例えばCHO細胞を用いる場合、mifepristoneでタンパク質発現を調節可能とするGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を用いたり、小脳プルキンエ細胞を使用する場合には、テトラサイクリンにより制御可能なテトラサイクリントランスアクティベーター遺伝子を用いて細胞のアポトーシス、または小脳プルキンエ細胞の場合は樹状突起の形態の異常を抑制して、タンパク質凝集を治療するための薬物の評価を行うこと可能にし、さらにそのような薬剤で処理することにより凝集体の形成を改善させたことを確認し、本発明にいたった。
【0005】
変異γPKC、GFPおよびGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを提供する。
【0006】
変異γPKC、GFPおよびテトラサイクリンによりγPKC−GFP発現が制御可能遺伝子を含むベクターを提供するものである。
【0007】
上記ベクターを用いてタンパク質蓄積による神経変性疾患治療薬物候補のスクリーニングキット及び方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明について詳細について説明する。
【0009】
本明細書では、IUPAC、IUBの規定「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従い、塩基配列、核酸配列、遺伝子配列、アミノ酸配列等を各種略号により表示する。
【0010】
本明細書では、変異を表す、例えば「H101Y」とはアミノ末端から101位のヒスチジンがチロシンに変異したことを示す。 例えば「S119F」とはアミノ酸末端から119位のセリンがフェニルアラニンに変異したことを示す。
【0011】
凝集体を形成する変異タンパク質をコードする遺伝子、タンパク質の凝集を追跡可能とする緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、薬剤により変異タンパク質と緑色蛍光タンパク質の発現を薬剤で調節可能な遺伝子を含むベクターを哺乳類の細胞に導入して、タンパク質凝集に起因する神経変性疾患の治療のための薬剤をスクリーニングする系を確立した。変異タンパク質としてはポリグルタミン、βアミロイド(Aβ)、Tauタンパク質、プレセニリン、αーシヌクレイン、スーパーオキシドムターゼ1(SOD1)、ガンマプロテインキナーゼ(γPKC)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
また、薬剤によりタンパク質の発現を調節可能とする遺伝子としては、GeneSwitch遺伝子およびテトラサイクリントランスアクティベーター遺伝子などが挙げられるが。これらに限定されない。例えば、より詳細には脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異タンパク質γPKC−GFPをコードする遺伝子、タンパク質凝集を追跡するための緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、および薬剤により前記タンパク質の発現を調節可能とする遺伝子を含むベクターを細胞に導入して、タンパク質凝集を抑制する系を確立した。導入する細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト神経由来細胞、小脳プルキンエ細胞が挙げられ、それらは株化されていても良く、プライマリーカルチャーでも良いが、これらに限定されない。
【0013】
タンパク質の凝集体が形成されると細胞はアポトーシスを起こしたり、また小脳プルキンエ細胞では樹状突起の広がりが小さくなり形態的に異なるものになって適切な評価はで
きなくなる。例えばCHO細胞を用いる場合、mifepristoneでタンパク質発現を調節可能とするGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を用いることにより発現を調節することが可能である。またヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)を用いる場合においては、テトラサイクリンにより発現調節可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。この場合高効率に発現させることが可能であり、細胞死に対する薬物をスクリーニングするのに適している。また小脳プルキンエ細胞を使用する場合には、テトラサイクリンにより制御可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。SCA14の病変の主座となるプルキンエ細胞を用いたスクリーニング系であるので、臨床的価値も高い。
【0014】
(細胞内でのタンパク質凝集体発現)
遺伝性脊髄小脳失調症14型(SCA14)の原因遺伝子としてγPKCの変異ということが分かっている。またこれらの変異はγPKC発現遺伝子のC1B制御ドメインに多くの変異が発見されている(図1)。
【0015】
この遺伝子と凝集を追跡するためのGFPをコードする遺伝子を細胞、例えばCHOに導入して、タンパク質を発現させる場合、野生型のγPKCと変異γPKCと比較すると変異γPKCを用いた場合の方が細胞質内での凝集が顕著であった(図2)。細胞質内でのタンパク質凝集の度合いをImage Pro Plus、MetaMorphなどの画像解析ソフトを用いて行うことができる。
【0016】
またFRAP解析を用いて、タンパク質の流動性を測定すれば、タンパク質の凝集の指標として定量的な解析も可能である(図12)。
【0017】
しかしながら、細胞質内でたんぱく質凝集が起こると細胞死が誘発され(図3)、薬物のスクリーニング系には不適切である。そこで特定の薬物が存在する場合にのみ変異γPKC−GFPが発現するように変異γPKC−GFP遺伝子の5’側に発現調節領域としてGeneSwitch遺伝子を導入したベクターを作成した(図4、図5)。即ち、γPKC−GFPcDNAをpGene/V5−Hisへサブクローニングし、pSwitchが組み込まれたCHO細胞へpGene/V5−HisにサブクローニングされたγPKC−GFPをリポフェクションし、Hygromycin/Zeocin入り培地で培養し、上記ベクターが組み込まれた細胞をクローニングしてγPKC−GFPの発現が観察されるCHO株を樹立した。誘導薬物としてMifepristone 10nMを用いて処置後3日目でγPKC−GFPの発現が確認できた。また誘導薬物が存在しない場合にはγPKC−GFPの発現しないことが確認できた(図6)。変異γPKC−GFPの発現についても同様に薬物誘導について検討した。野生型よりは発現量が低いが発現した(図7)。
【0018】
タンパク質凝集改善効果を有するトレハロースの効果をGeneSwitchシステムにより確認した(図8、9 表6)。
【0019】
またヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)を用いる場合においては、テトラサイクリンにより発現調節可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。この場合高効率に発現させることが可能であり、細胞死に対する薬物をスクリーニングするのに適している。Tet制御システムの概略を図10に示した。このシステムを用いて、ヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)に変異γPKC−GFPを発現させることが可能であり(図11)、この系においてもタンパク質凝集改善効果を有するトレハロースの効果を確認した。
【0020】
また小脳プルキンエ細胞にも、テトラサイクリンにより制御可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である(図11)。SCA14の病変の主座となるプルキンエ細胞を用いたスクリーニング系であるので、臨床的価値も高い。小脳プルキンエ細胞を用いた際にも変異γPKC−GFPは凝集体を形成し(図13)、FRAP解析を行ったところ、流動性の低下が観察されたので(図12、14)、薬物スクリーニングの定量的な解析法としてFRAP解析の有用性が確認された。
【実施例】
【0021】
(実験材料)
細胞培養に用いたF−12、Dulbecco’s modified Eagle medium (DMEM) およびtrehaloseはSigma社、fetal bovine serum (FBS) はBiological Industries社、ペニシリン、ストレプトマイシン、anti−GFP mouse monoclonal抗体はナカライテスク社、Peroxidase−conjugate AffiniPure Goat anti−mouse IgGはJackson Immuno Research Laboratories社からそれぞれ購入した。
【0022】
(細胞培養)
GeneSwitch CHO細胞、HEK293細胞、SHSY5Y細胞はそれぞれF−12、DMEM、F−12/DMEM混合培地で、37℃、5%CO2条件下で培養した。これらの培地には10%FBS及びペニシリン(100units/ml)とストレプトマイシン(100μg/ml)を添加した。
【0023】
(実施例1:GFP融合γPKCのタンパク質をコードするPlasmid DNAの作製)
Quick Change Multi Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用い、以下の手順で 2種類の一塩基変異(S119P: Ser119をProに置換、G128D: Gly128をAspに置換、図1−1)をhuman γPKC cDNAに導入した。
【0024】
(変異を導入したγPKC cDNAの合成)
目的遺伝子変異を導入し、DNAポリメラーゼのプライマーとして5’末端をリン酸化したオリゴヌクレオチドを合成した(Sigma社に依頼)。
QuickChange Multi Site−Directed Mutagenesis Kitのプロトコールに従い、以下の条件でサーマルサイクラー(Mastercycler personal, Eppendorf社)を用いてDNA合成反応を行った。
【0025】
反応液の組成を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
反応条件を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
反応終了後、反応液にDpnIを1μl加え、37℃で1.5〜2時間反応させることにより、鋳型DNAを切断した。これにより、変異γPKC cDNAを含む一本鎖プラスミドが残る。
【0030】
(大腸菌への形質導入)
XL−10 Gold(一本鎖プラスミドを二本鎖にして増幅することが可能な大腸菌)コンピテントセルを氷上で融解させ、45μlのXL−10 Goldに2μlのメルカプトエタノールを加え、氷上で10分インキュベートした。次にDpnI処置済み反応液1.5μlをXL−10 Goldに加えて氷上で30分インキュベートした。さらに、Block incubatorを用いて、42℃で30秒間heat shockを与え、氷上で2分間インキュベートし、42℃に温めておいたNZY mediumを500μl加え、37℃でバイオシェーカー(タイテック社、BR−40LF)を用いて1時間振とうさせた。その後3000rpmで5分遠心して菌を沈殿させ、上清400μlを除去して、残りの液に菌を懸濁させてアンピシリン含有(50mg/l)L−Broth(LB) 寒天培地(10g Bacto−tryptone, 5g Bact−yeat extract, 10g NaCl, 1.5%(w/v) Bacto−ager/L)へ植菌し、37℃で一晩培養した。
【0031】
(変異γPKC cDNAを含むプラスミドの単離)
2mlのアンピシリン含有(50mg/l)液体LB培地に、LBプレートからコロニーを植菌し、37℃でバイオシェーカーにより振とうさせた。植菌の際にアンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地にも植菌し、マスタープレートとし、12〜16時間後、プラスミド精製機(Kurabo社、PI−50)を用いて培養液からプラスミドを抽出した。抽出したプラスミド適当量をApaIを用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行った。反応物にローディングバッファーを適当量加え、1%アガロースゲルを用いて電気泳動し、制限酵素断片の長さにより、γPKC cDNAを含むプラスミドであるかどうかを確認した。
【0032】
(アガロースゲル)
必要量のアガロースを0.5×TBE(43.2g Tris−base,
22g ホウ酸, 16ml 0.5M EDTA, pH8.0/total 8L)に加え、オートクレープをかけた後、65℃程度まで冷却させ、10mg/mlのエチジウムブロマイド溶液を100μl/Lで加え、ゲル作製器に流し込み固化させ、サイクルシークエンス法により、変異を入れた部位の遺伝子配列を確認し、変異の導入されたγPKCのcDNAを含むプラスミドを選び出した。
【0033】
(サイクルシークエンス法)
BigDye Terminators v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用い、サーマルサイク
ラーによりシークエンス反応を行った。シークエンス反応液の組成を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
反応条件を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
SigmaSpin Post−Reaction Purification Columns(Sigma社)を用いてDNAを精製し、ABI Prism310(Applied Biosystems社)を用いて塩基配列を確認した。
【0038】
(変異γPKC−GFP cDNAの発現ベクターpcDNA3へのサブクローニング)
シークエンスにより塩基配列の確認された、γPKC(S119P)、γPKC(G128D)をコードするプラスミドを、それぞれEcoRIおよびBgl II を用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行い、アガロースゲルに泳動した。目的のバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen社) を用いてDNA断片を30μlのAC水に溶出した。既に作製済みの野生型γPKC−GFP in pcDNA3を、Bgl IIおよびNot Iを用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行いDNA断片を1と同様の方法で回収し、pcDNA3を制限酵素EcoRIおよびNot Iを用いて37℃で1時間制限酵素処理を行い、80℃で10分インキュベートすることにより、制限酵素を失活させた。上記で得られた2つのDNA断片を、pcDNA3のEcoRI/Not I siteへ挿入するため、Ligation kit ver.2 (Takara社)を用いて、16℃で2時間インキュベートすることでligationを行った。Ligation反応液組成を表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
(大腸菌への形質導入)
コンピテントセルDH5αを氷上で融解させ、ligation終了後のチューブに、
コンピテントセルを100μl/tube加え、混和し、氷上で30分間インキュベートした。さらにブロックインキュベーターにて42℃、45秒間heat shockを加え、氷上で3分インキュベートし、SOC培地(20.0g Bacto−tryptone, 5.0g Bact−yeat extract, 2.0ml 5M NaCl, 1.25ml 2M KCl / total 970mlに別の試薬瓶でオートクレーブした2M Mg2+液(1M MgSO4・7 H2O+1M MgCl2・6
H2O)を10mlと、フィルター滅菌した1M glucose液を20ml加えた)を900μl/tube加え、37℃で30〜60分バイオシェーカーで振とう培養させた。3000rpmで5分間遠心、上清のうち880μlを捨て、残りの液で菌を懸濁し、アンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地に植菌して37℃で一晩培養した。IIIと同様の方法により変異γPKC−GFPをコードするcDNAを含むプラスミドを単離・確認した。
【0041】
(プラスミドの大量精製)
目的のcDNA(γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP)を含むプラスミドが形質導入された大腸菌をマスタープレートから250mlの アンピシリン含有(50mg/l)液体LB培地に植菌し、37℃で16時間以上振とう培養した。Genopure Plasmid Maxi Kit(Roche)を用いてプラスミドの精製を行った。抽出したプラスミドを適当量取り、制限酵素処理およびサイクルシークエンスを行うことにより、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP cDNAを含むプラスミドであると同定した。
【0042】
(変異γPKC−GFP遺伝子を持つCHO細胞株の樹立)
変異γPKC−GFP発現CHO細胞株の樹立にはmifepristoneを用いて遺伝子発現を誘導するGeneSwithch system(Invitrogen社)を用いた。このシステムの概要を図4に示す。
【0043】
図4に示すように、GeneSwitch Systemは、誘導薬物mifepristoneの存在時のみに目的遺伝子を発現させるシステムであり、細胞障害性のあるタンパク質などを任意の時期に発現させることができるシステムである。これを用いて、以下に記した方法により、細胞障害性のあると考えられるγPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFPの遺伝子を安定的に保持するGeneSwitch CHOを作製した。
【0044】
(pGene/V5−His Aへの変異γPKC−GFP cDNAのサブクローニング)
γPKC(S119P)−GFP in pcDNA3、γPKC(G128D)−GFP in pcDNA3をそれぞれHind III / Xba Iを用いて制限酵素処理を行い、DNA断片を回収した。pGene/V5−His A(図5)を、Hind III / Spe Iを用いて切断し、1で得たDNA断片とligationした。DH5αへligation産物を形質導入し、アンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。上記IIIと同様の方法により、変異γPKC−GFPを含むpGene/V5−His Aを精製・単離した。上記Vと同様の方法により、変異γPKC−GFPを含むpGene/V5−His Aを大量精製した。
【0045】
(安定的に変異γPKC−GFP遺伝子を持つGeneSwitch CHOの作製)
GeneSwitch CHO細胞(pSwitch(図5)をすでに安定的に組み込んであるCHO細胞、Invitrogen社より購入)を2×105 cells/dishで6ch dish 3枚に播種した。野生型(WT)γPKC−GFP、γPK
C(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP をそれぞれサブクローニングしたpGene/V5−Hisの3種のプラスミドを、FuGene6 Transfection Reagent(Roche Diagnostics社)を用いて5μg/dishで6ch dish へlipofectionし、Hygromycin(100μg/ml)入りのF−12培地にて培養した。
【0046】
(リポフェクション法による培養細胞内への遺伝子導入)
細胞を6cm dishへ用意し、1.5mlエッペンチューブに10μlのFuGene6 Transfection Reagentを入れ、そこへ無血清培地を500μl加えた。プラスミド液5μg分を上記液に加え、Vortex、遠心し、室温で10分間インキュベートし、上記6cm dishへ上記リポフェクション液を添加し、37℃インキュベーター中で培養した。
翌日、Zeocin (240μg/ml)/Hygromycin (100μg/ml)入りのF−12培地に交換し、6cm dishにconfluentになった時点で細胞を回収し、10mlの培養液に浮遊させた。単一細胞由来のコロニーを得るために、3枚の10cm dishへ1μl(1/10000)、2μl(1/5000)、10μl(1/1000)ずつまき、Zeocin/Hygromycin入りのF−12培地にて培養した。コロニーの形成を確認後、顕微鏡下でそれぞれのコロニーから細胞をマイクロピペットで回収し、あらかじめ1mlの培地(Zeocin/Hygromycin入り)を入れておいた24プレートに移植し培養した。細胞が増殖したら、各ウェルの細胞をトリプシンではがし、一部を別の24ウェルプレートあるいは6cm dishに移して、誘導薬物mifepristone (10nM)存在下で培養した。数日後、6で発現誘導をかけた細胞を蛍光顕微鏡での観察あるいはWestern blotting解析を行い、γPKC−GFPの発現の見られるクローンを選び出し、選出したクローンの細胞を3.5cm dishガラスボトムディッシュに播種し、10nM mifepriston存在下、あるいは非存在下で3日間培養した。3日後に細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、Mifepristone存在時のみにγPKC−GFPが全ての細胞で発現するクローンを、γPKC−GFP遺伝子を安定的に持つCHO細胞株とした。
【0047】
(GeneSwitch CHO細胞における変異γPKC−GFPの凝集体形成に対するtrehaloseの効果の検討)
上記で樹立したGeneSwitch CHO細胞株を3×104cells/1mlで培地中に懸濁し、3.5cmガラスボトムディッシュに播種し。細胞接着後、最終濃度10nMのmifepristoneを処置し、6日間培養を行った。これにより、γPKC−GFPの発現が誘導され、変異γPKC−GFPの凝集体形成が観察された。その後Mifepristoneと同時に最終濃度0.1mM、0.5mM、1mMのtrehalose処置を行い、6日間培養を行った。変異γPKC−GFPの凝集体形成に対し、trehaloseがどのような影響を及ぼすかを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞を観察し検討した。凝集細胞/発現細胞の割合とχ二乗検定の結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
・ p<0.01
S119PおよびG128DともにTreharose0.1mMで凝集形成が有意に抑制された。S119PにおいてはTreharose0.5mMにおいても効果が見られた。
【0050】
(実施例2:組換えアデノウイルスベクターの作製)
アデノウイルスベクターによるγPKC−GFPの遺伝子導入は発現誘導可能なテトラサイクリン(Tet)制御システムを用いて行った(図10)。このシステムを用いることにより、テトラサイクリン添加により発現を抑制することができるため、一過性の遺伝子発現誘導が可能となる[33]。アデノウイルスベクターの作製はAdEasy Adenivirus Vector System(Stratagene社)を用いて、TetOpプロモーターの下流でWT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP を発現させるアデノウイルスベクター(Ad−TetOp−γPKC−GFP)の作製を行った。それをCMVプロモーターの下流でtetracycline transactivator
(tTA)を発現させるアデノウイルスベクターと共感染させることで、γPKC−GFPを培養細胞に発現させた(図11)。
【0051】
TetOp minimal promotorは、tetracycline transactivator(tTA)が結合することにより下流の目的遺伝子を発現させることができる。その際、tetracyclineが存在すると、tTAはTetOp
minimal promotorに結合できなくなり、目的遺伝子の発現が妨げられる。よって、tetracyclineにより遺伝子発現制御が可能となる。
【0052】
(pShuttleベクターへのγPKC−GFPの組み込み)
TetOp promoter−pShuttleベクターには、poly
A signalがないため、WT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFPが発現ベクターpcDNA3に組み込まれたプラスミドを鋳型とし、polyA signalとγPKC−GFPを含む断片をPCR反応により増幅させた。
【0053】
PCR反応液の組成を表6に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
PCR反応条件を表7に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
プライマーの配列は以下の通りである。
【0058】
PKC−EcoRI−forward primer GAATTCGCC
ATGGCTGGTCTG
cDNA3−polyA−reverse primer ATCCCCAG
CATGCCTGCTATT
PCR産物25μlにローディングバッファーを適当量加え、1%アガロー
スゲルを用いて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて3000b.p.のバンドをゲルから回収した。その際DNA断片は100μlAC水に溶出させた。
【0059】
(エタノール沈殿)
AC水100μlに溶出させたDNAと10μlの2.5M 酢酸ナトリウム、250μlの100%エタノールを混和し、15,000rpmで10分遠心分離し、上清をピペットで吸引し、70%エタノール100μlを加え、さらに1分遠心し、上清をピペットで吸引した。DNA Kination kit (TOYOBO社) を用いてγPKC−GFP−polyA断片の両端をリン酸化し、75μlのDenaturation bufferに溶かし、90℃で2分インキュベートし、さらに氷上で2分インキュベートし、急速に冷却して、表8に示す液を加え、混和し、37℃で1時間インキュベートした。
【0060】
【表9】
【0061】
QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社)を用いてDNA断片を回収し、30μlのAC水へ溶出させた。上記で得られたPCR断片は平滑末端であるため、それを組み込むためのベクターも平滑末端にする必要がある。そのために、TetOp promoter−pShuttleを制限酵素Hind IIIで切断した後、DNA blunting kit(Takara社)を用いて、制限酵素切断片の平滑化を行った。TetOp promoter−pShuttle Hind III切断産物をQIAquick PCR Purification kitで精製し、上記で示したエタノール沈殿を行い、8μlのAC水に溶かし、1μlの10×blunting bufferを加え、70℃で5分インキュベートし、さらに1μlのT4 DNA polymeraseを添加し、37℃で5分インキュベートし、V
ortexして酵素を失活させた後、直ちにQIAquick PCR Purification kitで精製し、44μlのAC水に溶出した。Ligation時のself ligationを抑制するため、calf intestine alkaline phosphatase (CIAP、GE Healthcare Bioscience社)を用いて脱リン酸化を行った。44 μlで溶出したblunting産物に、1μlのCIAPと5μlのOne−Phor−All PLUS bufferを加えて、37℃で30分インキュベートし、さらに、1μlのCIAPを加え、55℃で1時間インキュベートした。1%アガロースゲルに泳動し、約7000b.p.のバンドをゲルから切り出した。QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNA断片を回収し、30μlのAC水へ溶出した。γPKC−GFP−polyA断片とTetOp promoter−pShuttleを上記と同様の手順でligationした。Ligation終了後、DH5αコンピテントセルへトランスフォームし、カナマイシン含有(30mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。その後、2mlのカナマイシン含有(30mg/l)液体LB培地に、LBプレートからコロニーを植菌し、37℃でバイオシェーカーにより振とうさせた。植菌の際にカナマイシン含有(50mg/l)寒天LB培地にも植菌し、マスタープレートとした。上記と同様の方法により、γPKC−GFP cDNAを含むTetOp promoter−pShuttle(TetOp−γPKC−GFP in pShuttle)を精製・単離した。PCRにより増幅したγPKC−GFP cDNAの遺伝子配列は上記と同様にサイクルシークエンス法により確認した。上述と同様の方法により、TetOp−γPKC−GFP in pShuttleを大量精製した。
【0062】
(大腸菌内での組換えアデノウイルスプラスミドの作製)
WT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP を組み込んだシャトルベクター(TetOp−γPKC−GFP in pShuttle)をPme Iにより切断し、直鎖化した。1%(w/v)アガロースゲルで40分程度電気泳動した後、ゲルからバンドのやや上方を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kitを用いて直鎖化したプラスミドDNAを精製し、30μlのAC水へ溶出させた。アデノウイルスバックボーンベクター(pAdEasy−1)を1μg/μlになるようAC水1μlに懸濁し、1で精製したプラスミドDNAを15μg加え、混和した。
【0063】
さらに氷上で融解した大腸菌BJ5183 (エレクトロポレーション用に調整したコンピテントセル) を20μl加え、2.0mmキュベットに移した。2500V、200Ω、25μFDの条件下でGene Pulser(Bio−Rad社)を用いてエレクトロポレーションし、シャトルベクターとアデノウイルスバックボーンベクターのco−transfectionを行った。これにより、大腸菌内で相同組換えが起こると、TetOp−γPKC−GFPを含むアデノウイルスプラスミド(TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1)ができる。
【0064】
エレクトロポレーション後、キュベットに500μlのLB培地を加え、1.5mlエッペンチューブへ移し、37℃で1時間程度振とうさせた。3000rpmで5分遠心。
【0065】
上清450μlを捨て、残りをカナマイシン含有(60mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で16時間以上培養した。翌日数個のコロニーをカナマイシン入りのLB培地2mlに植菌し、12〜16時間振とうさせ、miniprep法でプラスミドを精製した。
【0066】
電気泳動により、スーパーコイル状態でのプラスミドのサイズ(35kb)及びPac
Iによる切断パターン(20kb以上と3.5kb(あるいは4kb))を調べ、それ
らを参考にシャトルベクターとアデノウイルスバックボーンベクターの相同組換えが起こり、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1ができたことを確認した。
【0067】
相同組換えの起こったクローン10μlをDH5α コンピテントセル100μlにトランスフォームし、カナマイシン含有(30mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で12〜16時間培養した。翌日コロニーを拾ってカナマイシン入りのLB培地2ml中で12〜16時間振とうさせ、miniprep法でプラスミドを精製した。
【0068】
抽出したプラスミドをPacIで処理し、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1であることを確認した。上記と同様の方法により、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1を大量精製した。
【0069】
サイクルシークエンス法により、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1中のγPKC(WT、S119P、G128D)の配列が正しいことを確認した(図10)。
【0070】
(マウス小脳初代培養プルキンエ細胞におけるγPKC−GFPの蛍光観察)
(生細胞の観察)
DIV28にマウス小脳初代培養細胞のγPKC−GFP蛍光を蛍光顕微鏡で観察し、野生型及び変異γPKC−GFPを発現するプルキンエ細胞中にγPKC−GFPの凝集体が見られる細胞が何個あるかを計数した。共焦点レーザー顕微鏡(LSM510META、Carl Zeiss社)を用いて、プルキンエ細胞のGFP蛍光画像を取り込んだ。GFP蛍光は488nmアルゴンレーザーで励起させ、505−535nm band
pass filterを用いて検出した。プルキンエ細胞は厚みがあるため、1つのプルキンエ細胞に対し、10〜30枚のZ軸連続画像を取り込み、LSM510METAソフトウェアを用いて、Z軸連続画像の重ね合わせ画像を作製した。GFP蛍光の分布を指標として、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞の表面積を画像解析ソフトImage−Pro Plus 5.1J(Media Cybernetics社)を用いて計測した。
【0071】
(生細胞におけるγPKC−GFPの刺激誘発トランスロケーション観察) DIV28にマウス小脳初代培養細胞の培地をHEPES buffer(NaCl
165mM , KCl 5mM , CaCl2 1mM , MgCl2 1mM
, HEPES 5mM , Glucose 10mM pH7.4)950μLに置換した。
【0072】
最終濃度の20倍に調製した刺激薬物を50μL添加し、γPKC−GFPの刺激を行った。刺激誘発γPKC−GFPのトランスロケーションの観察は、刺激前後のGFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡を用いて一定時間毎の連続画像を取り込むことにより行った。野生型と変異γPKC−GFPとの間でトランスロケーションに違いが見られるかを検討した。
【0073】
50mM KCl + 50μMグルタミン酸刺激を与え、連続画像の取り込みは1秒間隔で行い、10分間の画像を取得した。
【0074】
1μM TPA (12−O−tetradecanoylophorbo1−13−acetate)刺激を与え、連続画像の取り込みは30秒間隔で行い、30分間の画像を取得した。
【0075】
(生細胞におけるγPKC−GFPのFRAP解析)
FRAP(Fluorescence recovery after photobleaching)とは、蛍光タンパク質を発現した生細胞の一部に強い励起光を照射し、その部分の蛍光を退色させた(photobleaching)後、周囲から移動してきた蛍光タンパク質により退色部分の蛍光がどれくらいの速さで回復するかを解析する実験手法である(図12)。これにより、発現した蛍光タンパク質の細胞内での流動性を検討することができる(Meyvis et al., 1999)。
【0076】
DIV28にマウス小脳初代培養細胞の培地をHEPES buffer 1mLに置換し、野生型及び変異γPKC−GFPを発現するプルキンエ細胞中で凝集体のない細胞のGFP蛍光画像を共焦点レーザー顕微鏡で取り込んだ。その細胞の細胞体の一部に強い励起光を連続照射して、その部分のGFP蛍光を退色させた。その後のGFP蛍光の変化を一定時間毎の連続画像を取り込むことにより観察した。
【0077】
照射部分の蛍光強度の経時変化をLSM510METAソフトウェアにより解析し、野生型と変異γPKC−GFPの間で細胞内の流動性に違いが見られるかどうかを検討した。同一ディッシュ内細胞を用いて上記の手順を3回繰り返し、その平均を一回の実験結果とした。そして、この実験を3回行い、野生型及び変異型の蛍光回復を比較した。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、γPKCの遺伝子の構造とSCA14で発見された遺伝子変異である。
【図2】図2は、CHO細胞に発現させた変異γPKC−GFPの観察結果である。野生型γPKC−GFPは細胞質に均質に分布している。変異γPKC(S119P)−GFPおよび変異γPKC(Q127R)−GFPの場合は細胞質に凝集体が観察される。下段の図は凝集体を形成する変異γPKCの過剰発現により細胞死が起こる。
【図3】図3は変異γPKC−GFPを発現させることにより細胞死が引き起こされることを示す図である。S119P変異γPKC−GFPを発現させると野生型γPKC−GFPを発現させたときと比較して死細胞の割合が高くなる。
【図4】図4は、GeneSwitchシステムの概要を示す。Mifepristoneが存在しないときはプラスミド1とプラスミド2は結合せずGeneSwitchタンパク質およびγPKC−GFPは殆ど発現されず、一方Mifepristoneが存在するときはそれを介してプラスミド1およびプラスミド2が2量体化し、GeneSwitchタンパク質およびγPKC−GFPの発現が増大する。
【図5】図5は、GeneSwitchタンパク質のcDNAを組み込んだプラスミド1の構造、および変異γPKC−GFPのcDNAを組み込んだプラスミド2の構造である。
【図6】図6は、野生型γPKC−GFP遺伝子を含有するCHO細胞が、Mifepristoneの存在下および非存在下で野生型γPKC−GFPの発現が異なることを示す。
【図7】図7は、GeneSwitchシステムよる野生型γPKC−GFPおよび変異γPKC−GFPの発現を示す。野生型γPKC−GFPの場合は凝集を示さないが、変異型γPKC−GFPの場合は、凝集体を形成する。
【図8】図8は、変異型γPKC−GFP(S119P)にトレハロース処理した場合の凝集体の形成の減少を示す。
【図9】図9は、変異型γPKC−GFP(G128D)にトレハロース処理した場合の凝集体の形成の減少を示す。
【図10】図10は、アデノウイルスベクターによるγPKC−GFPの遺伝子導入に用いた発現誘導可能なテトラサイクリン’Tet)制御システムを示す。
【図11】図11は、アデノウイルスベクターによるSH−SY5Y細胞へのγPKC−GFPの発現と変異γPKC−GFPの凝集体形成を示す。
【図12】図12は、FRAP解析の模式図(A)と退色部分の蛍光強度変化の例(B)を示す。A (a):Photobleaching前。(b):Photobleaching直後は照射部分の蛍光強度が著しく低下。(c):時間経過とともに周囲の蛍光タンパク質が照射部分に移動することで、蛍光回復。(d):しばらくすると、照射部分の蛍光が周囲と同じにまで回復する。
【0079】
B 流動性の高い蛍光タンパク質は励起光照射中もタンパク質が照射部分に素早く移
動し続けているため、photobleaching直後の蛍光強度の低下が弱く、その後の蛍光回復は早い。一方、流動性の低い蛍光タンパク質は細胞内をゆっくりとしか移動できないため、photobleaching直後の 蛍光強度は著しく低下し、その後の蛍光回復も遅い。
【図13】図13は、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞中の凝集体が観察される細胞の割合(%)を示す。変異γPKC−GFPはプルキンエ細胞内で凝集体を形成しやすい。
【図14】図14は、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞についてFRAP解析(退色部位の蛍光強度の経時変化、回復時間)の結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
配列番号1は、変異γPKC−GFP(S119P)遺伝子の核酸配列である。
【0081】
配列番号2は、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質遺伝子の核酸配列である。
【0082】
配列番号3は、pGeneV5Hisの核酸配列である。
【0083】
配列番号4は、pSwitchの核酸配列である。
配列番号5は、tetracycline transactivator (tTA)の核酸配列である。
配列番号6は、tetracycline−operated promoter(TetOp promoter)の核酸配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患において異常凝集タンパク質の蓄積に起因するタンパク質蓄積による神経変性疾患を治療する薬物をスクリーニングするためのベクター、それを導入した細胞、およびそれらを含むスクリーニング系に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患発症に共通の性質とは1つには遺伝性発症であり、他の臓器疾患と比較して遺伝性のものが圧倒的に多い。神経変性疾患に共通する特徴の第2は選択的な細胞死を伴っていることが多いことである。神経変性疾患に関連して指摘すべきもう1つの点は、神経変性疾患における神経細胞死がアポトーシスではないかと考えられていることである(非特許文献1)。 また神経変性疾患にはポリグルタミン病、ハンチントン病、ピック病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、プリオン病などのタンパク質の凝集に起因すると考えられていることが多く、例えば、ハンチントン病、マシャド・ジョセフ病などはポリグルタミン、アルツハイマー病ではβアミロイド(Aβ)、Tauタンパク質、プレセニリン、パーキンソン病ではαーシヌクレイン、ALSではスーパーオキシドムターゼ1(SOD1)、脊髄小脳変性症においてガンマプロテインキナーゼ(γPKC)などの変異によりタンパク質が核内を含む細胞内外で凝集、蓄積することにより神経変性疾患が発症すると考えられている(非特許文献2)。これらの疾患は変異する遺伝子の位置など分かっているものもあり、例えば脊髄小脳変性症においてγPKC遺伝子の制御ドメインのC1B変異が多く発見されている(図1)。しかしながら点変異で変異が起こるものについては、通常の核酸のハイブリダイゼーションなどで異常を発見するのは困難である。また、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングとしてトランスジェニックマウスを用いた方法(特許文献1)が開示されているが、トランスジェニックマウスを用いたアッセイ系では多くの化合物のスクリーニングが困難である。
【非特許文献1】最新内科学体系、第68巻、神経変性疾患、編集:井村裕夫、尾形悦郎、高久史麿、垂井清一郎、発行所:中山書店(1997年)、3〜7p
【非特許文献2】細胞工学、第20巻、第11号、岩坪威、1474〜1477(2001)
【特許文献1】特開2003−267874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のごとくタンパク質の凝集に起因する神経変性疾患は多岐にわたり、それらの治療薬候補を的確に、簡便にできるスクリーニング方法の確立が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記実情を鑑み鋭意研究した結果、凝集体を形成する変異タンパク質をコードする遺伝子、タンパク質の凝集を追跡可能とする緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、薬剤により変異タンパク質と緑色蛍光タンパク質の発現を薬剤で調節可能な遺伝子を含むベクターを哺乳類の細胞に導入して、タンパク質凝集に起因する神経変性疾患の治療のための薬剤をスクリーニングする系を確立した。例えば、脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異タンパク質γPKCをコードする遺伝子、タンパク質凝集を追跡するための緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、および薬剤により前記タンパク質の発現を調節可能とするGeneSwitch遺伝子を含むベクターを用いてタンパク質が凝集する系を確立した。しかしながらタンパク質の凝集体が形成されると
細胞はアポトーシスを起こしたり、また小脳プルキンエ細胞では樹状突起の広がりが小さくなり形態的に異なるものになって適切な評価はできなくなる。例えばCHO細胞を用いる場合、mifepristoneでタンパク質発現を調節可能とするGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を用いたり、小脳プルキンエ細胞を使用する場合には、テトラサイクリンにより制御可能なテトラサイクリントランスアクティベーター遺伝子を用いて細胞のアポトーシス、または小脳プルキンエ細胞の場合は樹状突起の形態の異常を抑制して、タンパク質凝集を治療するための薬物の評価を行うこと可能にし、さらにそのような薬剤で処理することにより凝集体の形成を改善させたことを確認し、本発明にいたった。
【0005】
変異γPKC、GFPおよびGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを提供する。
【0006】
変異γPKC、GFPおよびテトラサイクリンによりγPKC−GFP発現が制御可能遺伝子を含むベクターを提供するものである。
【0007】
上記ベクターを用いてタンパク質蓄積による神経変性疾患治療薬物候補のスクリーニングキット及び方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明について詳細について説明する。
【0009】
本明細書では、IUPAC、IUBの規定「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従い、塩基配列、核酸配列、遺伝子配列、アミノ酸配列等を各種略号により表示する。
【0010】
本明細書では、変異を表す、例えば「H101Y」とはアミノ末端から101位のヒスチジンがチロシンに変異したことを示す。 例えば「S119F」とはアミノ酸末端から119位のセリンがフェニルアラニンに変異したことを示す。
【0011】
凝集体を形成する変異タンパク質をコードする遺伝子、タンパク質の凝集を追跡可能とする緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、薬剤により変異タンパク質と緑色蛍光タンパク質の発現を薬剤で調節可能な遺伝子を含むベクターを哺乳類の細胞に導入して、タンパク質凝集に起因する神経変性疾患の治療のための薬剤をスクリーニングする系を確立した。変異タンパク質としてはポリグルタミン、βアミロイド(Aβ)、Tauタンパク質、プレセニリン、αーシヌクレイン、スーパーオキシドムターゼ1(SOD1)、ガンマプロテインキナーゼ(γPKC)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
また、薬剤によりタンパク質の発現を調節可能とする遺伝子としては、GeneSwitch遺伝子およびテトラサイクリントランスアクティベーター遺伝子などが挙げられるが。これらに限定されない。例えば、より詳細には脊髄小脳変性症におけるタンパク質凝集に起因する変異タンパク質γPKC−GFPをコードする遺伝子、タンパク質凝集を追跡するための緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、および薬剤により前記タンパク質の発現を調節可能とする遺伝子を含むベクターを細胞に導入して、タンパク質凝集を抑制する系を確立した。導入する細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト神経由来細胞、小脳プルキンエ細胞が挙げられ、それらは株化されていても良く、プライマリーカルチャーでも良いが、これらに限定されない。
【0013】
タンパク質の凝集体が形成されると細胞はアポトーシスを起こしたり、また小脳プルキンエ細胞では樹状突起の広がりが小さくなり形態的に異なるものになって適切な評価はで
きなくなる。例えばCHO細胞を用いる場合、mifepristoneでタンパク質発現を調節可能とするGeneSwitchタンパク質をコードする遺伝子を用いることにより発現を調節することが可能である。またヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)を用いる場合においては、テトラサイクリンにより発現調節可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。この場合高効率に発現させることが可能であり、細胞死に対する薬物をスクリーニングするのに適している。また小脳プルキンエ細胞を使用する場合には、テトラサイクリンにより制御可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。SCA14の病変の主座となるプルキンエ細胞を用いたスクリーニング系であるので、臨床的価値も高い。
【0014】
(細胞内でのタンパク質凝集体発現)
遺伝性脊髄小脳失調症14型(SCA14)の原因遺伝子としてγPKCの変異ということが分かっている。またこれらの変異はγPKC発現遺伝子のC1B制御ドメインに多くの変異が発見されている(図1)。
【0015】
この遺伝子と凝集を追跡するためのGFPをコードする遺伝子を細胞、例えばCHOに導入して、タンパク質を発現させる場合、野生型のγPKCと変異γPKCと比較すると変異γPKCを用いた場合の方が細胞質内での凝集が顕著であった(図2)。細胞質内でのタンパク質凝集の度合いをImage Pro Plus、MetaMorphなどの画像解析ソフトを用いて行うことができる。
【0016】
またFRAP解析を用いて、タンパク質の流動性を測定すれば、タンパク質の凝集の指標として定量的な解析も可能である(図12)。
【0017】
しかしながら、細胞質内でたんぱく質凝集が起こると細胞死が誘発され(図3)、薬物のスクリーニング系には不適切である。そこで特定の薬物が存在する場合にのみ変異γPKC−GFPが発現するように変異γPKC−GFP遺伝子の5’側に発現調節領域としてGeneSwitch遺伝子を導入したベクターを作成した(図4、図5)。即ち、γPKC−GFPcDNAをpGene/V5−Hisへサブクローニングし、pSwitchが組み込まれたCHO細胞へpGene/V5−HisにサブクローニングされたγPKC−GFPをリポフェクションし、Hygromycin/Zeocin入り培地で培養し、上記ベクターが組み込まれた細胞をクローニングしてγPKC−GFPの発現が観察されるCHO株を樹立した。誘導薬物としてMifepristone 10nMを用いて処置後3日目でγPKC−GFPの発現が確認できた。また誘導薬物が存在しない場合にはγPKC−GFPの発現しないことが確認できた(図6)。変異γPKC−GFPの発現についても同様に薬物誘導について検討した。野生型よりは発現量が低いが発現した(図7)。
【0018】
タンパク質凝集改善効果を有するトレハロースの効果をGeneSwitchシステムにより確認した(図8、9 表6)。
【0019】
またヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)を用いる場合においては、テトラサイクリンにより発現調節可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である。この場合高効率に発現させることが可能であり、細胞死に対する薬物をスクリーニングするのに適している。Tet制御システムの概略を図10に示した。このシステムを用いて、ヒト神経由来細胞(SH−SY 5Y)に変異γPKC−GFPを発現させることが可能であり(図11)、この系においてもタンパク質凝集改善効果を有するトレハロースの効果を確認した。
【0020】
また小脳プルキンエ細胞にも、テトラサイクリンにより制御可能なTet制御システムを用いたアデノウイルスベクターで変異γPKC−GFPを発現させることが可能である(図11)。SCA14の病変の主座となるプルキンエ細胞を用いたスクリーニング系であるので、臨床的価値も高い。小脳プルキンエ細胞を用いた際にも変異γPKC−GFPは凝集体を形成し(図13)、FRAP解析を行ったところ、流動性の低下が観察されたので(図12、14)、薬物スクリーニングの定量的な解析法としてFRAP解析の有用性が確認された。
【実施例】
【0021】
(実験材料)
細胞培養に用いたF−12、Dulbecco’s modified Eagle medium (DMEM) およびtrehaloseはSigma社、fetal bovine serum (FBS) はBiological Industries社、ペニシリン、ストレプトマイシン、anti−GFP mouse monoclonal抗体はナカライテスク社、Peroxidase−conjugate AffiniPure Goat anti−mouse IgGはJackson Immuno Research Laboratories社からそれぞれ購入した。
【0022】
(細胞培養)
GeneSwitch CHO細胞、HEK293細胞、SHSY5Y細胞はそれぞれF−12、DMEM、F−12/DMEM混合培地で、37℃、5%CO2条件下で培養した。これらの培地には10%FBS及びペニシリン(100units/ml)とストレプトマイシン(100μg/ml)を添加した。
【0023】
(実施例1:GFP融合γPKCのタンパク質をコードするPlasmid DNAの作製)
Quick Change Multi Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用い、以下の手順で 2種類の一塩基変異(S119P: Ser119をProに置換、G128D: Gly128をAspに置換、図1−1)をhuman γPKC cDNAに導入した。
【0024】
(変異を導入したγPKC cDNAの合成)
目的遺伝子変異を導入し、DNAポリメラーゼのプライマーとして5’末端をリン酸化したオリゴヌクレオチドを合成した(Sigma社に依頼)。
QuickChange Multi Site−Directed Mutagenesis Kitのプロトコールに従い、以下の条件でサーマルサイクラー(Mastercycler personal, Eppendorf社)を用いてDNA合成反応を行った。
【0025】
反応液の組成を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
反応条件を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
反応終了後、反応液にDpnIを1μl加え、37℃で1.5〜2時間反応させることにより、鋳型DNAを切断した。これにより、変異γPKC cDNAを含む一本鎖プラスミドが残る。
【0030】
(大腸菌への形質導入)
XL−10 Gold(一本鎖プラスミドを二本鎖にして増幅することが可能な大腸菌)コンピテントセルを氷上で融解させ、45μlのXL−10 Goldに2μlのメルカプトエタノールを加え、氷上で10分インキュベートした。次にDpnI処置済み反応液1.5μlをXL−10 Goldに加えて氷上で30分インキュベートした。さらに、Block incubatorを用いて、42℃で30秒間heat shockを与え、氷上で2分間インキュベートし、42℃に温めておいたNZY mediumを500μl加え、37℃でバイオシェーカー(タイテック社、BR−40LF)を用いて1時間振とうさせた。その後3000rpmで5分遠心して菌を沈殿させ、上清400μlを除去して、残りの液に菌を懸濁させてアンピシリン含有(50mg/l)L−Broth(LB) 寒天培地(10g Bacto−tryptone, 5g Bact−yeat extract, 10g NaCl, 1.5%(w/v) Bacto−ager/L)へ植菌し、37℃で一晩培養した。
【0031】
(変異γPKC cDNAを含むプラスミドの単離)
2mlのアンピシリン含有(50mg/l)液体LB培地に、LBプレートからコロニーを植菌し、37℃でバイオシェーカーにより振とうさせた。植菌の際にアンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地にも植菌し、マスタープレートとし、12〜16時間後、プラスミド精製機(Kurabo社、PI−50)を用いて培養液からプラスミドを抽出した。抽出したプラスミド適当量をApaIを用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行った。反応物にローディングバッファーを適当量加え、1%アガロースゲルを用いて電気泳動し、制限酵素断片の長さにより、γPKC cDNAを含むプラスミドであるかどうかを確認した。
【0032】
(アガロースゲル)
必要量のアガロースを0.5×TBE(43.2g Tris−base,
22g ホウ酸, 16ml 0.5M EDTA, pH8.0/total 8L)に加え、オートクレープをかけた後、65℃程度まで冷却させ、10mg/mlのエチジウムブロマイド溶液を100μl/Lで加え、ゲル作製器に流し込み固化させ、サイクルシークエンス法により、変異を入れた部位の遺伝子配列を確認し、変異の導入されたγPKCのcDNAを含むプラスミドを選び出した。
【0033】
(サイクルシークエンス法)
BigDye Terminators v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用い、サーマルサイク
ラーによりシークエンス反応を行った。シークエンス反応液の組成を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
反応条件を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
SigmaSpin Post−Reaction Purification Columns(Sigma社)を用いてDNAを精製し、ABI Prism310(Applied Biosystems社)を用いて塩基配列を確認した。
【0038】
(変異γPKC−GFP cDNAの発現ベクターpcDNA3へのサブクローニング)
シークエンスにより塩基配列の確認された、γPKC(S119P)、γPKC(G128D)をコードするプラスミドを、それぞれEcoRIおよびBgl II を用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行い、アガロースゲルに泳動した。目的のバンドを切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen社) を用いてDNA断片を30μlのAC水に溶出した。既に作製済みの野生型γPKC−GFP in pcDNA3を、Bgl IIおよびNot Iを用いて37℃で1時間反応させ、制限酵素処理を行いDNA断片を1と同様の方法で回収し、pcDNA3を制限酵素EcoRIおよびNot Iを用いて37℃で1時間制限酵素処理を行い、80℃で10分インキュベートすることにより、制限酵素を失活させた。上記で得られた2つのDNA断片を、pcDNA3のEcoRI/Not I siteへ挿入するため、Ligation kit ver.2 (Takara社)を用いて、16℃で2時間インキュベートすることでligationを行った。Ligation反応液組成を表5に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
(大腸菌への形質導入)
コンピテントセルDH5αを氷上で融解させ、ligation終了後のチューブに、
コンピテントセルを100μl/tube加え、混和し、氷上で30分間インキュベートした。さらにブロックインキュベーターにて42℃、45秒間heat shockを加え、氷上で3分インキュベートし、SOC培地(20.0g Bacto−tryptone, 5.0g Bact−yeat extract, 2.0ml 5M NaCl, 1.25ml 2M KCl / total 970mlに別の試薬瓶でオートクレーブした2M Mg2+液(1M MgSO4・7 H2O+1M MgCl2・6
H2O)を10mlと、フィルター滅菌した1M glucose液を20ml加えた)を900μl/tube加え、37℃で30〜60分バイオシェーカーで振とう培養させた。3000rpmで5分間遠心、上清のうち880μlを捨て、残りの液で菌を懸濁し、アンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地に植菌して37℃で一晩培養した。IIIと同様の方法により変異γPKC−GFPをコードするcDNAを含むプラスミドを単離・確認した。
【0041】
(プラスミドの大量精製)
目的のcDNA(γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP)を含むプラスミドが形質導入された大腸菌をマスタープレートから250mlの アンピシリン含有(50mg/l)液体LB培地に植菌し、37℃で16時間以上振とう培養した。Genopure Plasmid Maxi Kit(Roche)を用いてプラスミドの精製を行った。抽出したプラスミドを適当量取り、制限酵素処理およびサイクルシークエンスを行うことにより、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP cDNAを含むプラスミドであると同定した。
【0042】
(変異γPKC−GFP遺伝子を持つCHO細胞株の樹立)
変異γPKC−GFP発現CHO細胞株の樹立にはmifepristoneを用いて遺伝子発現を誘導するGeneSwithch system(Invitrogen社)を用いた。このシステムの概要を図4に示す。
【0043】
図4に示すように、GeneSwitch Systemは、誘導薬物mifepristoneの存在時のみに目的遺伝子を発現させるシステムであり、細胞障害性のあるタンパク質などを任意の時期に発現させることができるシステムである。これを用いて、以下に記した方法により、細胞障害性のあると考えられるγPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFPの遺伝子を安定的に保持するGeneSwitch CHOを作製した。
【0044】
(pGene/V5−His Aへの変異γPKC−GFP cDNAのサブクローニング)
γPKC(S119P)−GFP in pcDNA3、γPKC(G128D)−GFP in pcDNA3をそれぞれHind III / Xba Iを用いて制限酵素処理を行い、DNA断片を回収した。pGene/V5−His A(図5)を、Hind III / Spe Iを用いて切断し、1で得たDNA断片とligationした。DH5αへligation産物を形質導入し、アンピシリン含有(50mg/l)寒天LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。上記IIIと同様の方法により、変異γPKC−GFPを含むpGene/V5−His Aを精製・単離した。上記Vと同様の方法により、変異γPKC−GFPを含むpGene/V5−His Aを大量精製した。
【0045】
(安定的に変異γPKC−GFP遺伝子を持つGeneSwitch CHOの作製)
GeneSwitch CHO細胞(pSwitch(図5)をすでに安定的に組み込んであるCHO細胞、Invitrogen社より購入)を2×105 cells/dishで6ch dish 3枚に播種した。野生型(WT)γPKC−GFP、γPK
C(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP をそれぞれサブクローニングしたpGene/V5−Hisの3種のプラスミドを、FuGene6 Transfection Reagent(Roche Diagnostics社)を用いて5μg/dishで6ch dish へlipofectionし、Hygromycin(100μg/ml)入りのF−12培地にて培養した。
【0046】
(リポフェクション法による培養細胞内への遺伝子導入)
細胞を6cm dishへ用意し、1.5mlエッペンチューブに10μlのFuGene6 Transfection Reagentを入れ、そこへ無血清培地を500μl加えた。プラスミド液5μg分を上記液に加え、Vortex、遠心し、室温で10分間インキュベートし、上記6cm dishへ上記リポフェクション液を添加し、37℃インキュベーター中で培養した。
翌日、Zeocin (240μg/ml)/Hygromycin (100μg/ml)入りのF−12培地に交換し、6cm dishにconfluentになった時点で細胞を回収し、10mlの培養液に浮遊させた。単一細胞由来のコロニーを得るために、3枚の10cm dishへ1μl(1/10000)、2μl(1/5000)、10μl(1/1000)ずつまき、Zeocin/Hygromycin入りのF−12培地にて培養した。コロニーの形成を確認後、顕微鏡下でそれぞれのコロニーから細胞をマイクロピペットで回収し、あらかじめ1mlの培地(Zeocin/Hygromycin入り)を入れておいた24プレートに移植し培養した。細胞が増殖したら、各ウェルの細胞をトリプシンではがし、一部を別の24ウェルプレートあるいは6cm dishに移して、誘導薬物mifepristone (10nM)存在下で培養した。数日後、6で発現誘導をかけた細胞を蛍光顕微鏡での観察あるいはWestern blotting解析を行い、γPKC−GFPの発現の見られるクローンを選び出し、選出したクローンの細胞を3.5cm dishガラスボトムディッシュに播種し、10nM mifepriston存在下、あるいは非存在下で3日間培養した。3日後に細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、Mifepristone存在時のみにγPKC−GFPが全ての細胞で発現するクローンを、γPKC−GFP遺伝子を安定的に持つCHO細胞株とした。
【0047】
(GeneSwitch CHO細胞における変異γPKC−GFPの凝集体形成に対するtrehaloseの効果の検討)
上記で樹立したGeneSwitch CHO細胞株を3×104cells/1mlで培地中に懸濁し、3.5cmガラスボトムディッシュに播種し。細胞接着後、最終濃度10nMのmifepristoneを処置し、6日間培養を行った。これにより、γPKC−GFPの発現が誘導され、変異γPKC−GFPの凝集体形成が観察された。その後Mifepristoneと同時に最終濃度0.1mM、0.5mM、1mMのtrehalose処置を行い、6日間培養を行った。変異γPKC−GFPの凝集体形成に対し、trehaloseがどのような影響を及ぼすかを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞を観察し検討した。凝集細胞/発現細胞の割合とχ二乗検定の結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
・ p<0.01
S119PおよびG128DともにTreharose0.1mMで凝集形成が有意に抑制された。S119PにおいてはTreharose0.5mMにおいても効果が見られた。
【0050】
(実施例2:組換えアデノウイルスベクターの作製)
アデノウイルスベクターによるγPKC−GFPの遺伝子導入は発現誘導可能なテトラサイクリン(Tet)制御システムを用いて行った(図10)。このシステムを用いることにより、テトラサイクリン添加により発現を抑制することができるため、一過性の遺伝子発現誘導が可能となる[33]。アデノウイルスベクターの作製はAdEasy Adenivirus Vector System(Stratagene社)を用いて、TetOpプロモーターの下流でWT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP を発現させるアデノウイルスベクター(Ad−TetOp−γPKC−GFP)の作製を行った。それをCMVプロモーターの下流でtetracycline transactivator
(tTA)を発現させるアデノウイルスベクターと共感染させることで、γPKC−GFPを培養細胞に発現させた(図11)。
【0051】
TetOp minimal promotorは、tetracycline transactivator(tTA)が結合することにより下流の目的遺伝子を発現させることができる。その際、tetracyclineが存在すると、tTAはTetOp
minimal promotorに結合できなくなり、目的遺伝子の発現が妨げられる。よって、tetracyclineにより遺伝子発現制御が可能となる。
【0052】
(pShuttleベクターへのγPKC−GFPの組み込み)
TetOp promoter−pShuttleベクターには、poly
A signalがないため、WT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFPが発現ベクターpcDNA3に組み込まれたプラスミドを鋳型とし、polyA signalとγPKC−GFPを含む断片をPCR反応により増幅させた。
【0053】
PCR反応液の組成を表6に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
PCR反応条件を表7に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
プライマーの配列は以下の通りである。
【0058】
PKC−EcoRI−forward primer GAATTCGCC
ATGGCTGGTCTG
cDNA3−polyA−reverse primer ATCCCCAG
CATGCCTGCTATT
PCR産物25μlにローディングバッファーを適当量加え、1%アガロー
スゲルを用いて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて3000b.p.のバンドをゲルから回収した。その際DNA断片は100μlAC水に溶出させた。
【0059】
(エタノール沈殿)
AC水100μlに溶出させたDNAと10μlの2.5M 酢酸ナトリウム、250μlの100%エタノールを混和し、15,000rpmで10分遠心分離し、上清をピペットで吸引し、70%エタノール100μlを加え、さらに1分遠心し、上清をピペットで吸引した。DNA Kination kit (TOYOBO社) を用いてγPKC−GFP−polyA断片の両端をリン酸化し、75μlのDenaturation bufferに溶かし、90℃で2分インキュベートし、さらに氷上で2分インキュベートし、急速に冷却して、表8に示す液を加え、混和し、37℃で1時間インキュベートした。
【0060】
【表9】
【0061】
QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社)を用いてDNA断片を回収し、30μlのAC水へ溶出させた。上記で得られたPCR断片は平滑末端であるため、それを組み込むためのベクターも平滑末端にする必要がある。そのために、TetOp promoter−pShuttleを制限酵素Hind IIIで切断した後、DNA blunting kit(Takara社)を用いて、制限酵素切断片の平滑化を行った。TetOp promoter−pShuttle Hind III切断産物をQIAquick PCR Purification kitで精製し、上記で示したエタノール沈殿を行い、8μlのAC水に溶かし、1μlの10×blunting bufferを加え、70℃で5分インキュベートし、さらに1μlのT4 DNA polymeraseを添加し、37℃で5分インキュベートし、V
ortexして酵素を失活させた後、直ちにQIAquick PCR Purification kitで精製し、44μlのAC水に溶出した。Ligation時のself ligationを抑制するため、calf intestine alkaline phosphatase (CIAP、GE Healthcare Bioscience社)を用いて脱リン酸化を行った。44 μlで溶出したblunting産物に、1μlのCIAPと5μlのOne−Phor−All PLUS bufferを加えて、37℃で30分インキュベートし、さらに、1μlのCIAPを加え、55℃で1時間インキュベートした。1%アガロースゲルに泳動し、約7000b.p.のバンドをゲルから切り出した。QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNA断片を回収し、30μlのAC水へ溶出した。γPKC−GFP−polyA断片とTetOp promoter−pShuttleを上記と同様の手順でligationした。Ligation終了後、DH5αコンピテントセルへトランスフォームし、カナマイシン含有(30mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。その後、2mlのカナマイシン含有(30mg/l)液体LB培地に、LBプレートからコロニーを植菌し、37℃でバイオシェーカーにより振とうさせた。植菌の際にカナマイシン含有(50mg/l)寒天LB培地にも植菌し、マスタープレートとした。上記と同様の方法により、γPKC−GFP cDNAを含むTetOp promoter−pShuttle(TetOp−γPKC−GFP in pShuttle)を精製・単離した。PCRにより増幅したγPKC−GFP cDNAの遺伝子配列は上記と同様にサイクルシークエンス法により確認した。上述と同様の方法により、TetOp−γPKC−GFP in pShuttleを大量精製した。
【0062】
(大腸菌内での組換えアデノウイルスプラスミドの作製)
WT γPKC−GFP、γPKC(S119P)−GFP、γPKC(G128D)−GFP を組み込んだシャトルベクター(TetOp−γPKC−GFP in pShuttle)をPme Iにより切断し、直鎖化した。1%(w/v)アガロースゲルで40分程度電気泳動した後、ゲルからバンドのやや上方を切り出した。QIAquick Gel Extraction Kitを用いて直鎖化したプラスミドDNAを精製し、30μlのAC水へ溶出させた。アデノウイルスバックボーンベクター(pAdEasy−1)を1μg/μlになるようAC水1μlに懸濁し、1で精製したプラスミドDNAを15μg加え、混和した。
【0063】
さらに氷上で融解した大腸菌BJ5183 (エレクトロポレーション用に調整したコンピテントセル) を20μl加え、2.0mmキュベットに移した。2500V、200Ω、25μFDの条件下でGene Pulser(Bio−Rad社)を用いてエレクトロポレーションし、シャトルベクターとアデノウイルスバックボーンベクターのco−transfectionを行った。これにより、大腸菌内で相同組換えが起こると、TetOp−γPKC−GFPを含むアデノウイルスプラスミド(TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1)ができる。
【0064】
エレクトロポレーション後、キュベットに500μlのLB培地を加え、1.5mlエッペンチューブへ移し、37℃で1時間程度振とうさせた。3000rpmで5分遠心。
【0065】
上清450μlを捨て、残りをカナマイシン含有(60mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で16時間以上培養した。翌日数個のコロニーをカナマイシン入りのLB培地2mlに植菌し、12〜16時間振とうさせ、miniprep法でプラスミドを精製した。
【0066】
電気泳動により、スーパーコイル状態でのプラスミドのサイズ(35kb)及びPac
Iによる切断パターン(20kb以上と3.5kb(あるいは4kb))を調べ、それ
らを参考にシャトルベクターとアデノウイルスバックボーンベクターの相同組換えが起こり、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1ができたことを確認した。
【0067】
相同組換えの起こったクローン10μlをDH5α コンピテントセル100μlにトランスフォームし、カナマイシン含有(30mg/l))寒天LB培地に植菌し、37℃で12〜16時間培養した。翌日コロニーを拾ってカナマイシン入りのLB培地2ml中で12〜16時間振とうさせ、miniprep法でプラスミドを精製した。
【0068】
抽出したプラスミドをPacIで処理し、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1であることを確認した。上記と同様の方法により、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1を大量精製した。
【0069】
サイクルシークエンス法により、TetOp−γPKC−GFP in pAdEasy 1中のγPKC(WT、S119P、G128D)の配列が正しいことを確認した(図10)。
【0070】
(マウス小脳初代培養プルキンエ細胞におけるγPKC−GFPの蛍光観察)
(生細胞の観察)
DIV28にマウス小脳初代培養細胞のγPKC−GFP蛍光を蛍光顕微鏡で観察し、野生型及び変異γPKC−GFPを発現するプルキンエ細胞中にγPKC−GFPの凝集体が見られる細胞が何個あるかを計数した。共焦点レーザー顕微鏡(LSM510META、Carl Zeiss社)を用いて、プルキンエ細胞のGFP蛍光画像を取り込んだ。GFP蛍光は488nmアルゴンレーザーで励起させ、505−535nm band
pass filterを用いて検出した。プルキンエ細胞は厚みがあるため、1つのプルキンエ細胞に対し、10〜30枚のZ軸連続画像を取り込み、LSM510METAソフトウェアを用いて、Z軸連続画像の重ね合わせ画像を作製した。GFP蛍光の分布を指標として、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞の表面積を画像解析ソフトImage−Pro Plus 5.1J(Media Cybernetics社)を用いて計測した。
【0071】
(生細胞におけるγPKC−GFPの刺激誘発トランスロケーション観察) DIV28にマウス小脳初代培養細胞の培地をHEPES buffer(NaCl
165mM , KCl 5mM , CaCl2 1mM , MgCl2 1mM
, HEPES 5mM , Glucose 10mM pH7.4)950μLに置換した。
【0072】
最終濃度の20倍に調製した刺激薬物を50μL添加し、γPKC−GFPの刺激を行った。刺激誘発γPKC−GFPのトランスロケーションの観察は、刺激前後のGFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡を用いて一定時間毎の連続画像を取り込むことにより行った。野生型と変異γPKC−GFPとの間でトランスロケーションに違いが見られるかを検討した。
【0073】
50mM KCl + 50μMグルタミン酸刺激を与え、連続画像の取り込みは1秒間隔で行い、10分間の画像を取得した。
【0074】
1μM TPA (12−O−tetradecanoylophorbo1−13−acetate)刺激を与え、連続画像の取り込みは30秒間隔で行い、30分間の画像を取得した。
【0075】
(生細胞におけるγPKC−GFPのFRAP解析)
FRAP(Fluorescence recovery after photobleaching)とは、蛍光タンパク質を発現した生細胞の一部に強い励起光を照射し、その部分の蛍光を退色させた(photobleaching)後、周囲から移動してきた蛍光タンパク質により退色部分の蛍光がどれくらいの速さで回復するかを解析する実験手法である(図12)。これにより、発現した蛍光タンパク質の細胞内での流動性を検討することができる(Meyvis et al., 1999)。
【0076】
DIV28にマウス小脳初代培養細胞の培地をHEPES buffer 1mLに置換し、野生型及び変異γPKC−GFPを発現するプルキンエ細胞中で凝集体のない細胞のGFP蛍光画像を共焦点レーザー顕微鏡で取り込んだ。その細胞の細胞体の一部に強い励起光を連続照射して、その部分のGFP蛍光を退色させた。その後のGFP蛍光の変化を一定時間毎の連続画像を取り込むことにより観察した。
【0077】
照射部分の蛍光強度の経時変化をLSM510METAソフトウェアにより解析し、野生型と変異γPKC−GFPの間で細胞内の流動性に違いが見られるかどうかを検討した。同一ディッシュ内細胞を用いて上記の手順を3回繰り返し、その平均を一回の実験結果とした。そして、この実験を3回行い、野生型及び変異型の蛍光回復を比較した。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、γPKCの遺伝子の構造とSCA14で発見された遺伝子変異である。
【図2】図2は、CHO細胞に発現させた変異γPKC−GFPの観察結果である。野生型γPKC−GFPは細胞質に均質に分布している。変異γPKC(S119P)−GFPおよび変異γPKC(Q127R)−GFPの場合は細胞質に凝集体が観察される。下段の図は凝集体を形成する変異γPKCの過剰発現により細胞死が起こる。
【図3】図3は変異γPKC−GFPを発現させることにより細胞死が引き起こされることを示す図である。S119P変異γPKC−GFPを発現させると野生型γPKC−GFPを発現させたときと比較して死細胞の割合が高くなる。
【図4】図4は、GeneSwitchシステムの概要を示す。Mifepristoneが存在しないときはプラスミド1とプラスミド2は結合せずGeneSwitchタンパク質およびγPKC−GFPは殆ど発現されず、一方Mifepristoneが存在するときはそれを介してプラスミド1およびプラスミド2が2量体化し、GeneSwitchタンパク質およびγPKC−GFPの発現が増大する。
【図5】図5は、GeneSwitchタンパク質のcDNAを組み込んだプラスミド1の構造、および変異γPKC−GFPのcDNAを組み込んだプラスミド2の構造である。
【図6】図6は、野生型γPKC−GFP遺伝子を含有するCHO細胞が、Mifepristoneの存在下および非存在下で野生型γPKC−GFPの発現が異なることを示す。
【図7】図7は、GeneSwitchシステムよる野生型γPKC−GFPおよび変異γPKC−GFPの発現を示す。野生型γPKC−GFPの場合は凝集を示さないが、変異型γPKC−GFPの場合は、凝集体を形成する。
【図8】図8は、変異型γPKC−GFP(S119P)にトレハロース処理した場合の凝集体の形成の減少を示す。
【図9】図9は、変異型γPKC−GFP(G128D)にトレハロース処理した場合の凝集体の形成の減少を示す。
【図10】図10は、アデノウイルスベクターによるγPKC−GFPの遺伝子導入に用いた発現誘導可能なテトラサイクリン’Tet)制御システムを示す。
【図11】図11は、アデノウイルスベクターによるSH−SY5Y細胞へのγPKC−GFPの発現と変異γPKC−GFPの凝集体形成を示す。
【図12】図12は、FRAP解析の模式図(A)と退色部分の蛍光強度変化の例(B)を示す。A (a):Photobleaching前。(b):Photobleaching直後は照射部分の蛍光強度が著しく低下。(c):時間経過とともに周囲の蛍光タンパク質が照射部分に移動することで、蛍光回復。(d):しばらくすると、照射部分の蛍光が周囲と同じにまで回復する。
【0079】
B 流動性の高い蛍光タンパク質は励起光照射中もタンパク質が照射部分に素早く移
動し続けているため、photobleaching直後の蛍光強度の低下が弱く、その後の蛍光回復は早い。一方、流動性の低い蛍光タンパク質は細胞内をゆっくりとしか移動できないため、photobleaching直後の 蛍光強度は著しく低下し、その後の蛍光回復も遅い。
【図13】図13は、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞中の凝集体が観察される細胞の割合(%)を示す。変異γPKC−GFPはプルキンエ細胞内で凝集体を形成しやすい。
【図14】図14は、γPKC−GFP発現プルキンエ細胞についてFRAP解析(退色部位の蛍光強度の経時変化、回復時間)の結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
配列番号1は、変異γPKC−GFP(S119P)遺伝子の核酸配列である。
【0081】
配列番号2は、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質遺伝子の核酸配列である。
【0082】
配列番号3は、pGeneV5Hisの核酸配列である。
【0083】
配列番号4は、pSwitchの核酸配列である。
配列番号5は、tetracycline transactivator (tTA)の核酸配列である。
配列番号6は、tetracycline−operated promoter(TetOp promoter)の核酸配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質蓄積による神経変性疾患と関連するタンパク質を発現させるベクターであって、
i)γPKC、Aβ、Tauタンパク質、ポリグルタミン、プレセリニン、α―シヌクレインおよびSOD1ならびにそれらの変異体からなる群より選択される1つのタンパク質またはその変異体をコードする遺伝子の核酸配列;
ii)GFPをコードする遺伝子の核酸配列および
111)GeneSwitchタンパク質およびTet制御システムからなる群より選択される、薬剤によりタンパク質発現を調節可能にする核酸配列を含むベクター。
【請求項2】
配列番号1で示される核酸配列および配列番号2で示される核酸配列および配列番号3で示される核酸配列および配列番号4で示される核酸配列を含むベクター。
【請求項3】
配列番号1で示される核酸配列および配列番号2で示される核酸配列および配列番号5で示される核酸配列および配列番号6で示される核酸配列を含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項5】
請求項3に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項6】
タンパク質変性疾患治療薬物候補または神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項1〜請求項3に記載のベクター。
【請求項7】
タンパク質変性疾患治療薬物候補または神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項4または請求項5に記載の細胞。
【請求項8】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ポリグルタミン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、プリオン病からなる群より選択される、請求項1〜請求項3に記載のベクター。
【請求項9】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ポリグルタミン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、プリオン病からなる群より選択される、請求項4、請求項5または請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
薬物によりタンパク質の発現を調節することを利用する、神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項4、請求項5または請求項7に記載の細胞。
【請求項11】
請求項8に記載のベクターまたは請求項9に記載の細胞を含む、神経変性疾患治療薬物のスクリーニングキット。
【請求項12】
請求項8に記載のベクターまたは請求項9に記載の細胞を利用する、神経変性疾患のスクリーニング方法。
【請求項1】
タンパク質蓄積による神経変性疾患と関連するタンパク質を発現させるベクターであって、
i)γPKC、Aβ、Tauタンパク質、ポリグルタミン、プレセリニン、α―シヌクレインおよびSOD1ならびにそれらの変異体からなる群より選択される1つのタンパク質またはその変異体をコードする遺伝子の核酸配列;
ii)GFPをコードする遺伝子の核酸配列および
111)GeneSwitchタンパク質およびTet制御システムからなる群より選択される、薬剤によりタンパク質発現を調節可能にする核酸配列を含むベクター。
【請求項2】
配列番号1で示される核酸配列および配列番号2で示される核酸配列および配列番号3で示される核酸配列および配列番号4で示される核酸配列を含むベクター。
【請求項3】
配列番号1で示される核酸配列および配列番号2で示される核酸配列および配列番号5で示される核酸配列および配列番号6で示される核酸配列を含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項5】
請求項3に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項6】
タンパク質変性疾患治療薬物候補または神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項1〜請求項3に記載のベクター。
【請求項7】
タンパク質変性疾患治療薬物候補または神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項4または請求項5に記載の細胞。
【請求項8】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ポリグルタミン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、プリオン病からなる群より選択される、請求項1〜請求項3に記載のベクター。
【請求項9】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ポリグルタミン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、プリオン病からなる群より選択される、請求項4、請求項5または請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
薬物によりタンパク質の発現を調節することを利用する、神経変性疾患治療薬物候補をスクリーニングするための請求項4、請求項5または請求項7に記載の細胞。
【請求項11】
請求項8に記載のベクターまたは請求項9に記載の細胞を含む、神経変性疾患治療薬物のスクリーニングキット。
【請求項12】
請求項8に記載のベクターまたは請求項9に記載の細胞を利用する、神経変性疾患のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−220302(P2008−220302A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65448(P2007−65448)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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