説明

タービンエンジンの回転軸のねじれ振動を監視する方法および装置

本発明の監視方法は、
タービンエンジンの静止部品に配置されたセンサから、搬送波周波数によって特徴付けられる振動加速度信号を取得するステップ(E10)と、
振動信号の周波数スペクトルを評価するステップ(E20)と、
少なくとも第1の閾値より大きい振幅のスペクトル線であって、振動信号の搬送波周波数の両側のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の組を探索するステップ(E30)と、
必要に応じて、警告メッセージを出すステップと
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンエンジンの一般的な分野に関する。
【0002】
本発明は、特に、ターボジェットまたはターボプロップのような1つまたは複数の回転軸が取り付けられた航空機タービンエンジンの監視に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、ターボジェットの回転軸、例えば、低圧ロータは、一定のねじれ力を受ける。
【0004】
さらに、固有の励起状態は、回転軸に、軸のねじれ周波数として周知の特別な周波数の振動を動的に発生させる。この特別な周波数は、軸の第1のねじれモードの特性を示す。例えば、ターボジェットの低圧ロータでは、この周波数は、ロータの回転周波数と比べて低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターボジェットへの燃料のパルス噴射は、ターボジェット軸の第1のねじれモードと共鳴状態になる。この共鳴の振幅によって、キャビンに騒音が生じる可能性がある、または振動疲労のために軸が破損する危険性がある。
【0006】
したがって、上述の欠点を避けるために、ターボジェットの回転軸のねじれ振動を監視する必要がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、タービンエンジン内にすでに存在するセンサから得られる信号を使用してタービンエンジンの回転軸のねじれ振動を監視する信頼できる方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、タービンエンジンの回転軸のねじれ振動を監視する方法であって、
タービンエンジンの静止部品に配置されたセンサから、搬送周波数によって特徴付けられる振動加速度信号を取得するステップと、
振動信号の周波数スペクトルを評価するステップと、
少なくとも第1の閾値より大きい振幅のスペクトル線であって、振動信号の搬送波周波数の両側のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の組を探索するステップと、
必要に応じて、警告メッセージを出すステップと
を含む方法によって達成される。
【0009】
それに応じて、本発明はさらに、タービンエンジンの回転軸のねじれ振動を監視するための監視装置であって、
搬送周波数によって特徴付けられる振動加速度信号をタービンエンジンの静止部品に配置されるセンサから取得するための取得手段と、
振動信号の周波数スペクトルを評価するための評価手段と、
少なくとも第1の閾値より大きい振幅のスペクトル線であって、振動信号の搬送波周波数の両側のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の組を探索するための探索手段と、
必要に応じて、作動された警告メッセージを出すための発行手段と
を備える監視装置を提供する。
【0010】
好ましいが、限定的ではなく、本発明は、特に、タービンエンジンの回転軸の低周波ねじれ振動の監視に適用できる。用語「低周波数」は、本明細書では、監視されている回転軸の回転周波数よりはるかに低い周波数、例えば、軸の回転周波数の30%に等しいねじれ周波数を指すのに使用される。
【0011】
有利には、本発明により、すでにタービンエンジン内に存在するセンサ、すなわち、加速度計などの振動センサ、歪み計、マイクロホンから得られた信号を使用して、タービンエンジンの回転軸が受けるねじれ振動を監視することができる。これらの信号の適切な処理により、過振幅の振動が発生した場合に、警告メッセージを出し、必要に応じて、キャビン騒音を抑えるために、または実際に回転軸が破損するのを防ぐために、是正メンテナンスを提案することができる。
【0012】
本発明者は、洞察力によって、回転軸のアンバランスが存在する場合に、タービンエンジンの静止部品に配置されたセンサから取得された振動加速度信号を観察し分析することによって、簡単に信頼できる形で、所定の振幅レベルのねじれ振動の存在を確認することができることに気付いた。実際に、ロータ軸に影響を及ぼすアンバランスを取り除くために多くの努力がなされているが、アンバランスを完全に取り除くことはできない。すなわち、回転軸は決して完全にバランスが保たれることはないので、常に、本発明の手段によって回転軸を監視することができるということである。
【0013】
本発明の監視方法は、例えば、タービンエンジンが取り付けられた航空機に搭載された監視装置において、リアルタイムで、または短い遅延後実行可能であるという利点がある。監視装置は、特に、タービンエンジンに組み込まれてもよい、より正確には、一般に、エンジン監視装置(EMU)として周知のタービンエンジンを監視する装置に組み込まれてもよい。
【0014】
変形形態では、監視装置は、航空機の翼の下の補助装置のベンチに、特にタービンエンジンの監視専用の機器と共に配置されてもよい。
【0015】
さらに別の変形形態では、監視方法は、タービンエンジンの監視専用の地上の装置で実施されてもよい。
【0016】
本発明の方法は、検出の信頼性を高めるために他の検出方法と容易に組み合わせることができるので、タービンエンジンの最終使用者に送られるメンテナンス診断を改善することができる。
【0017】
タービンエンジンにおいて、アンバランスの主な発生源はファンである。しかし、エンジンタービン自体がアンバランスを発生させることもよくある。この状況では、逆位相で振動するアンバランスが組み合わさることになる。
【0018】
特定の実施形態では、本発明は、有利には、この観察結果に従って信頼度を警告メッセージに関連付ける。このためには、監視方法はさらに、
振動信号のエンベロープ信号を評価するステップと、
エンベロープ信号の周波数スペクトルを評価するステップと、
第2の閾値より大きい振幅を有し、軸のねじれ周波数の倍数で存在するエンベロープ信号のスペクトル内の少なくとも1つのスペクトル線を探索する探索ステップと、
探索ステップの結果に応じて、警告メッセージに関連付けられた信頼度を推定するステップと
を含む。
【0019】
したがって、この実施形態から、監視装置はさらに、
振動信号のエンベロープ信号を評価するための評価手段と、
エンベロープ信号の周波数スペクトルを評価するための評価手段と、
第2の閾値より大きい振幅を有し、軸のねじれ周波数の倍数で存在するエンベロープ信号のスペクトル内の少なくとも1つのスペクトル線を探索するための探索手段と、
探索の結果に応じて、警告メッセージに関連付けられた信頼度を推定するための推定手段とを備える。
【0020】
エンベロープ信号は、例えば、振動信号にヒルベルト変換を施した結果の信号から取得されてもよい。
【0021】
したがって、好ましくは、この特定の実施形態では、第2の閾値より大きい振幅の線が軸のねじれ周波数の倍数でエンベロープ信号のスペクトル内で確認された場合により高い信頼度が警告メッセージに付与される。したがって、この線を検出することで、回転軸のねじれ振動に関して出された警告を確認することができる。
【0022】
しかし、エンベロープスペクトル内にいかなる線も存在しないことで、振動信号のスペクトル内のスペクトル線が第1の閾値を超えた結果出された警告が無効にはならないと理解できる。
【0023】
特定の実施形態では、監視方法はさらに、
搬送波周波数の両側の振動信号のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数の倍数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の少なくとも他の組を探索するための探索ステップと、
警告メッセージに関連付けられた深刻度であって、探索ステップで発見されたスペクトル線の組で、少なくとも第3の閾値を超える振幅のスペクトル線の組の数に応じて決まる深刻度を推定するステップと
を含む。
【0024】
したがって、この実施形態から、監視装置はさらに、
搬送波周波数の両側の振動信号のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数の倍数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の少なくとも他の組を探索するための探索手段と、
警告メッセージに関連付けられた深刻度であって、探索手段で発見され、少なくとも第3の閾値を超える振幅の組の数に応じて決まる深刻度を推定するための推定手段と
を備える。
【0025】
本発明の別の態様では、本発明はさらに、
本発明の監視装置と、
タービンエンジンの静止部品に配置され、監視装置に振動加速度信号を送るように構成された加速度計と
を含むタービンエンジンを提供する。
【0026】
例として、該タービンエンジンはターボジェットである。
【0027】
特定の実施形態では、監視方法の種々のステップは、コンピュータプログラム命令によって決定される。
【0028】
したがって、本発明はさらに、データ媒体上のコンピュータプログラムを提供する。コンピュータプログラムは、監視装置、特にコンピュータで実行するのに適しており、上述の監視方法のステップを実行するように構成された命令を含む。
【0029】
このプログラムは、プログラミング言語を使用することができ、ソースコード、オブジェクトコード、または例えば、部分的にコンパイルされた形のソースコードとオブジェクトコードとの中間的なコードの形式、または任意の他の望ましい形式にすることができる。
【0030】
本発明は、上述のようなコンピュータプログラム命令を含むコンピュータ可読データ媒体を提供する。
【0031】
データ媒体は、プログラムを記憶できる任意のエンティティまたはデバイスとすることができる。例えば、データ媒体は、リードオンリメモリ(ROM)のような記憶手段、例えば、コンパクトディスク(CD)ROMまたは超小型電子回路ROM、または実際に磁気記録手段、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクまたはハードディスクを備えてもよい。
【0032】
さらに、データ媒体は、電気ケーブルまたは光ケーブルを介して、無線によって、または他の手段によって伝達されるのに適した電気信号または光信号などの送信可能な媒体とすることができる。本発明のプログラムは、特に、インターネットタイプのネットワークからダウンロードすることができる。
【0033】
あるいは、データ媒体は、プログラムが組み込まれた集積回路としてもよい。集積回路は、当該方法を実行するように構成されている、または当該方法の実行の際に使用するように構成されている。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、非限定的な特徴を有する実施形態を示した添付図面を参照して考察された以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の特定の実施形態の監視装置を示す図である。
【図2】タービン面のアンバランスに関連してターボジェットの回転軸に影響を与えるファン面のアンバランスの本発明によって提案されるモデルを示す図である。
【図3A】図1の監視装置によって実行される時の本発明の特定の実施形態の監視方法の主なステップを示す流れ図である。
【図3B】図1の監視装置によって実行される時の本発明の特定の実施形態の監視方法の主なステップを示す流れ図である。
【図4A】振動信号x(t)の例を示す図である。
【図4B】振動信号x(t)の例を示す図である。
【図4C】振動信号x(t)の例を示す図である。
【図5A】図4Aに示された振動信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図5B】図4Bに示された振動信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図5C】図4Cに示された振動信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図6】図4Cに示された振動信号のエンベロープスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、タービンエンジンの監視、特に、動作時にタービンエンジンの回転軸が受けるねじれ振動の監視に関する。
【0037】
有利には、本発明は、動作速度前後でのタービンエンジンの回転軸のねじれ振動は、それに関連するロータのアンバランスの存在下で、タービンエンジンの静止要素に配置された振動センサによって送られた振動信号の周波数変調、場合によっては、さらに振幅変調を生じさせるという原理に基づいたものである。したがって、本発明は、これらの振動信号を観察および分析することによって、過振幅のねじれ振動を確認することができるということを使用する。
【0038】
上述したように、実際には、完全にタービンエンジンの回転軸のバランスを取ることはできないので、これらの回転軸は常にいくらかのアンバランスを受けることになる。したがって、正確に言えば、本発明を実行することに対して支障がない。
【0039】
タービンエンジンでは、アンバランスの主要な発生源はファンである。しかし、タービンも、ファンの面に生じるアンバランスと逆位相で振動するアンバランスを生じることが多い。本発明は、有利には、上述の両方の状況に適用できる。
【0040】
本発明の監視装置1の特定の実施形態をその環境にて示した図1について説明する。
【0041】
この特定の実施形態では、本発明によって監視されるのは、航空機(図示せず)に取り付けられたターボジェットTRの低圧回転軸ABP(図2)である。しかし、これらの前提は限定的なものではなく、本発明は、例えば、ターボプロップのような他のタービンエンジンにも適用できる。
【0042】
本明細書で示されている実施形態では、監視装置1は、航空機に搭載されており、航空機監視装置またはEMU2に組み込まれている。
【0043】
変形形態では、本発明の監視装置は、航空機の翼の下の補助装置のベンチに、特にターボジェットTRの監視用の機器と共に配置されてもよいし、またはターボジェットの監視用に設けられた地上の装置で実施されてもよい。
【0044】
周知の形では、ターボジェットTRは、例えば、位置、速度、温度、圧力、振動などを検知するためのセンサのような複数の動作センサ3を備える。これらのセンサは、EMU2がターボジェットTRの動作を監視することができるように種々の測定値をEMU2に送るのに適している。
【0045】
これらのセンサには、特に、ターボジェットTRの静止部品(例えば、回転軸ABPの軸受部)に配置された加速度計3Aがある。該センサは、一般に、ターボジェット内で使用され、より詳細にはタービンエンジン内で使用されるが、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0046】
通常、加速度計3Aは、瞬間tにおける電気信号または振動加速度信号を提供するように構成されている。この信号は、x(t)で示され、測定された加速度に比例する信号の大きさを表わす。この例では、この電気信号は、動作時にターボジェットTRの低圧回転軸にアンバランスが生じるために、加速度計3Aが配置されている静止部品に対して加速度が付与された結果生じたものである。信号は、EMU2、特に監視装置1に送られる。
【0047】
変形形態では、EMU2に加速度に比例する振動信号を送るのに、他の振動センサ、例えば、マイクロホンまたは歪み計を使用することもできる。本発明の意味においては、該信号は、振動加速度信号であると考えられる。
【0048】
この例では、監視装置1は、コンピュータのハードウェアアーキテクチャを有する。
【0049】
監視装置1は、特に、プロセッサ11、ランダムアクセスメモリ(RAM)12、ROM13、および航空機に搭載されている機器(例えば、加速度計3A)と通信するための手段14を備える。周知の形では、該機器と本発明の監視装置1とは、当業者に周知の航空機のデジタルデータバスまたは回線を介して通信している。
【0050】
監視装置1はさらに、航空機通信アドレスレポートシステム(ACARS)を介して、航空機の事業者のサーバ(図示せず)と通信するための手段15を含む。
【0051】
ROM13は、図2から図6を参照して以下で説明するような本発明の監視方法の主なステップを実行するように構成された本発明のコンピュータプログラムを含む。
【0052】
ここでは、監視される低圧回転軸ABPはターボジェットTRのタービン面のアンバランスと共にファン面のアンバランスを有するのが前提である。軸のねじれの影響下で、これらの2つのアンバランスは逆位相で振動する。
【0053】
図2は、それぞれファン面およびタービン面における
【数1】

および
【数2】

で示されたアンバランスのベクトル形式のモデルを示している。
【0054】
このモデルでは、瞬間tにおいて加速度計3Aによって送られる振動信号x(t)は、以下の数式で示すことができる。
【数3】

ここで、
Ωは、振動信号x(t)を伝送する搬送波角周波数を指し、軸の回転速度を表わす。
【数4】

であることに留意されたい。
ここで、Fは、振動信号を伝送する搬送波周波数を指す。
Ωは、回転軸のねじれの角周波数を指す。
【数5】

であり、
ここで、Fは、回転軸のねじれ周波数を指すことに留意されたい。このねじれ周波数は、周知であり、回転軸の特徴に応じて決まる。
θmFおよびθmTは、それぞれファン面およびタービン面におけるねじれ振動の振幅を指す。
FおよびTは、加速度計によって送られる振動信号x(t)のピーク振幅を表わす。振幅Fは、ファン面のアンバランスベクトル
【数6】

の関数であり、アンバランスに対する構造応答の関数である。振幅Tは、タービン面のアンバランスベクトル
【数7】

の関数であり、アンバランスに対する構造応答の関数である。
φは、基準角度に対するファン面のアンバランスベクトル
【数8】

の角度位置に対応する位相位置を指す。
φは、前記基準角度に対するタービン面のアンバランスベクトル
【数9】

の角度位置に対応する位相位置を指す。
【0055】
図3Aおよび図3Bを参照して、特定の実施形態の本発明の監視方法の主なステップについて詳細に説明する。
【0056】
示されている実施形態では、監視方法は、
回転軸ABPのねじれ振動の存在が検出され、必要に応じて、前記振動の振幅が監視され、その深刻度が評価される第1の段階P1(図3Aに示されている)と、
この例では、段階P1で過振幅のねじれ振動が検出された場合のみに実行され、信頼度が検出に関連付けられる第2の段階P2(図3Bに示されている)と
の2つの段階を含む。
【0057】
したがって、第1の段階P1で、センサ3Aから得られた振動加速度信号x(t)は、通信手段14を介して監視装置1に連続的に送られ、RAM12に記憶される(ステップE10)。
【0058】
図示されているように、図4Aから図4Cは、以下の例の信号x(t)の現れ方を示している。
図4Aは、タービン面のアンバランスがゼロまたは疑似ゼロ(すなわち、T≒0)である時に得られる信号で、小さい振幅(この場合、少しの程度)のねじれ振動に対する信号x(t)を示す。
図4Bは、タービン面のアンバランスがゼロまたは疑似ゼロ(すなわち、T≒0)である時に得られる信号で、大きい振幅のねじれ振動に対する信号x(t)を示す。
図4Cは、タービン面のアンバランスおよびファン面のアンバランスの存在下で得られる信号x(t)を示す。
【0059】
これらの図に示されているように、信号x(t)は、正弦曲線ではなく、搬送波周波数Fに対する非対称性を有する。
【0060】
これらの非対称性は、信号x(t)の周波数スペクトル内に、大きいまたは小さい振幅(複数可)のアンバランス(複数可)に関連付けられた基準線Rについて対称に分布する側波帯スペクトル線の組が存在することを特徴とする。
【0061】
本発明によれば、信号x(t)の周波数スペクトル内にあるこれらの側波帯線の数および振幅を分析することによって、過振幅のねじれ振動の存在を確認して、このようにして確認された現象の深刻度を決定することができる。
【0062】
したがって、メモリ12に記憶されている信号x(t)の周波数スペクトルが評価される(ステップE20)。この周波数スペクトルは、X(f)で表わされ、fは周波数を指す。示されている例では、X(f)は、Wで示された所定の長さの時間窓で得られた信号x(t)のフーリエ変換を評価することによって得られる。時変信号の周波数スペクトルを評価することは、それ自体周知であるので、本明細書ではこれ以上詳細には示さない。
【0063】
例として、図5A、図5B、図5Cは、図4A、図4B、図4Cでそれぞれ示されている信号x(t)のスペクトルX(f)を示している。
【0064】
これらのスペクトルでは、搬送波周波数Fの位置の基準線の両側に位置し、ねじれ周波数Fだけ基準線から離間した側波帯線の組が存在することがわかる。これらの線の組は、さまざまな振幅である。RおよびR−iは、周波数FおよびF−iで存在するスペクトル線の組を指し、以下の式を満たす。
【数10】

および
【数11】

ここで、iは整数である。
【0065】
本発明によれば、最初に、基準線Rの両側の周波数±Fに位置する側波帯線の第1の組の存在が探索される(ステップE30)。
【0066】
この探索は、当業者に周知の技術を使用して行われる。例えば、周波数±Fの周囲で選択された所定の範囲のスペクトルX(f)によって得られた値が雑音レベルを表わす閾値と比較される。
【0067】
探索によって周波数±Fで線が検出されない場合、軸の第1のねじれモードが励起されていないことが推定される。その結果、警告は出されない(ステップE50)。その後、振動信号x(t)の新しい窓Wが選択され、ステップE20およびE30がこの新しい窓で繰り返される。
【0068】
探索ステップで周波数±Fの側波帯線の組R、R−1が検出された場合、その後これらの線の振幅が決定される。この振幅は、スペクトルX(f)内の線の値によって得られる。
【0069】
その後、このようにして決定された第1の組の側波帯線R、R−1の相対振幅は、それぞれ所定の閾値S1と比較される(ステップE40)。用語「相対振幅」は、本明細書では、基準線Rの振幅に対する対象線の振幅の割合を意味するのに使用されている。
【0070】
変形形態では、線R、R−1の「絶対」振幅を所定の閾値と直接比較することも可能である。
【0071】
閾値S1は、本発明の意味では第1の閾値である。閾値S1は、予め設定され、この例では、側波帯線の相対振幅を表わし、この振幅を超えるとねじれ振動は憂慮すべき状態であり、警告を出す必要がある、またはメンテナンス動作を計画する必要がある。この閾値は、実験的に決定される。
【0072】
変形形態では、直接閾値S1を使用して線の第1の組を探索することによって、ステップE30とE40とが同時に実施されてもよい。
【0073】
線Rおよび/またはR−1の少なくとも一方の相対振幅が閾値S1未満である場合、警告を出す必要がないと見なされ(ステップE50)、その後、振動信号x(t)の新しい窓Wが選択されて、この新しい窓でステップE20〜E40が繰り返される。
【0074】
反対に、線RおよびR−1の両方の相対振幅が第1の閾値S1よりそれぞれ大きい場合、警告メッセージMが出すことが決定される(ステップE60)。
【0075】
本明細書で説明される実施形態では、この警告メッセージMは、警告を特徴付ける2つの追加の情報項目、すなわち、1つ目は警告の深刻度、2つ目は警告の信頼度に関連付けられる。
【0076】
変形形態では、警告メッセージMは、これらの情報項目の一方または他方に関連付けられる。
【0077】
別の変形形態では、警告メッセージMは、線RおよびR−1の振幅が第1の閾値を超えたことが検出されるとすぐに送信され、この情報は警告と関連付けられることはない。
【0078】
警告の深刻度を評価するために、信号x(t)のスペクトルにおいて、基準線Rの両側に軸ABPのねじれ周波数の倍数で側波帯線の他の組(例えば、R/R−2、R/R−3など)が存在するか否かを調べるための探索が行われ、これらの線の組の振幅が決定される(ステップE70)。
【0079】
所定の雑音レベルより大きい振幅の線のみが考慮される。
【0080】
その後、これらの線の相対振幅がそれぞれの所定の閾値(本発明の意味においては、「第3」の閾値)と比較される(ステップE80)。
【0081】
例えば、図5Aを参照すると、線R、R−2の相対振幅は閾値S1と比較される。閾値S1は、閾値S1と異なるように選択される。
【0082】
変形形態では、閾値S1、S1は同じにすることができる。また、線の組のそれぞれの線の振幅が異なるそれぞれの閾値と比較されてもよいことは理解されたい。
【0083】
この比較の後、監視装置1は、軸のねじれ周波数の倍数の基準線Rの両側に対称に分布し、かつ振幅が第3の閾値を超える側波帯線の組の数Nを評価する(ステップE90)。
【0084】
この数Nは、本発明の意味では、警告の深刻度の推定値であり、Nの値が大きいほど、軸ABPが受けるねじれ振動現象が大きくなり、深刻と考えられる。
【0085】
図4Aの例では、±Fの線の組と±2Fの線の組を含むので、この数は2であると考えられる。
【0086】
次に、数NがメッセージMの所定のフィールドに挿入される。
【0087】
この第1の段階P1の後、信頼度を警告メッセージMに関連付けるために、第2の段階P2が実施される(図3B)。
【0088】
そのために、本明細書で示されている実施形態では、信号x(t)において、段階P1で確認された警告を裏付ける特徴の存在、すなわち、信号x(t)における振幅変調の存在が探索される。
【0089】
図4Cは、搬送波周波数Fについて非対称であるだけでなく、振幅変調も見られる信号x(t)の例を示している。
【0090】
したがって、段階P2で、監視装置1は、時系列信号x(t)からエンベロープ信号X’(t)を生成する(ステップE100)。
【0091】
そのために、最初に、信号x(t)のヒルベルト変換
【数12】

が評価される。時系列信号のヒルベルト変換の計算は、それ自体周知であるので、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0092】
次に、以下の数式を使用して、信号x(t)の瞬間tにおけるエンベロープ信号x’(t)が得られる。
【数13】

【0093】
エンベロープ信号x’(t)の周波数は、回転軸のねじれ周波数Fであることに留意されたい。
【0094】
その後、エンベロープ信号x’(t)のスペクトル(X’(f)で表わされ、fは周波数を指す)は、スペクトルX(f)に関して上述したように、フーリエ変換を使用して監視装置によって評価される(ステップE110)。
【0095】
図6は、図4Cに示された信号x(t)に対応するエンベロープ信号x’(t)のスペクトルを示す図である。スペクトルには、ねじれ周波数Fの基準スペクトル線R’および周波数2Fの高調波スペクトル線R’が見られる。
【0096】
より詳細には、振幅変調の存在は、エンベロープ信号のスペクトル内に、軸のねじれ周波数Fの基本線と呼ばれるスペクトル線R’、場合によっては、ねじれ周波数の倍数F’の高調波スペクトル線R’が存在することで認められることに留意されたい。
すなわち、
【数14】

ここで、iは1より大きい整数を指す。
【0097】
したがって、スペクトルX’(f)から、信号X’(f)に軸のねじれ周波数Fのスペクトル線R’が存在するか否かを調べるための探索が行われる(ステップE120)。この探索は、探索ステップE30と同じ方法で行われる。
【0098】
線が検出されなかった場合(すなわち、振動信号x(t)内で振幅変調が検出されなかった場合)、中信頼度がデフォルトで警告メッセージMに関連付けられる(ステップE130)。この例では、この中信頼度は、「中」に設定されメッセージMの所定のフィールドに含まれたフラグで表わされる。
【0099】
線R’が検出された場合、その振幅が決定される。この振幅は、スペクトルX’(f)内の線の値によって得られる。
【0100】
その後、このようにして決定された振幅は、実験的に得られた所定の閾値S2と比較される(ステップE140)。閾値S2は、本発明の意味において「第2の」閾値である。
【0101】
ステップE30およびE40に関して上述したように、変形形態では、直接閾値S2を使用して信号X’(f)にねじれ周波数Fの線があるかを探索することによって、ステップE120とステップE140とが同時に実施されてもよい。線R’の振幅が閾値S2より大きい場合、高信頼度が警告メッセージMに関連付けられる(ステップE150)。この例では、この高信頼度は、「高」の値に設定されメッセージMの所定のフィールドに含まれたフラグで表わされる。
【0102】
線R’の振幅が閾値S2より大きくない場合は、中信頼度(すなわち、フラッグは「中」の値に設定される)が警告メッセージMに関連付けられて、メッセージの適切なフィールドに含まれる(ステップE130)。
【0103】
すなわち、本発明の意味では、高信頼度は、段階P1で過振幅のねじれ振動が検出されたことを裏付けるものである。しかし、中信頼度は、検出が無効であることを意味するのではない。
【0104】
当然、信頼度を推定するために他の数のスペクトル線が考慮されてもよい。例えば、ねじれ周波数に位置する線と共に、1つまたは複数の高調波スペクトル線を観察して、それに応じて信頼度を適合させることができる。
【0105】
2つの段階P1(ステップE10〜E90)およびP2(ステップE100〜150)は、同時にまたはそれどころか連続して(任意の順序で)全く同様に実施されてもよいことは理解されたい。
【0106】
ステップE130およびE150の終わりに、監視装置1は警告メッセージMを出す(ステップE160)。この例では、警告メッセージは、ステップE130/E150およびE90でそれぞれ推定された信頼度と深刻度とを含む。
【0107】
例として、このメッセージMは手段14によって航空機のパイロットに送信されて、パイロットはターボジェットTRの動作速度を変更することができる。
【0108】
変形形態では、メッセージMは手段15によって航空機の事業者のサーバに送信されてもよく、メッセージMはターボジェットTRのメンテナンス動作への案内を含んでもよい。
【0109】
本発明の別の変形形態では、警告メッセージMに関連付けられた信頼度は、メッセージMを出す前に、ターボジェットで実施される他の監視アルゴリズムから得られた診断とまとめられてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンエンジン(TR)の回転軸(ABP)のねじれ振動を監視するための方法であって、
タービンエンジンの静止部品に配置された加速度計(3A)から、搬送波周波数によって特徴付けられる振動加速度信号を取得するステップ(E10)と、
振動信号の周波数スペクトルを評価するステップ(E20)と、
少なくとも第1の閾値より大きい振幅のスペクトル線であって、振動信号の搬送波周波数の両側のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の組を探索するステップ(E30、E40)と、
必要に応じて、警告メッセージを出すステップ(E160)と
を含む監視方法。
【請求項2】
振動信号のエンベロープ信号を評価するステップ(E100)と、
エンベロープ信号の周波数スペクトルを評価するステップ(E110)と、
第2の閾値より大きい振幅を有し、軸のねじれ周波数の倍数で存在するエンベロープ信号のスペクトル内の少なくとも1つのスペクトル線を探索するための探索ステップ(E120)と、
探索ステップ(E120)の結果に応じて、警告メッセージに関連付けられた信頼度を推定するステップ(E130、E150)と
をさらに含む、請求項1に記載の監視方法。
【請求項3】
エンベロープ信号を評価するステップで、エンベロープ信号は振動信号のヒルベルト変換から得られることを特徴とする、請求項2に記載の監視方法。
【請求項4】
搬送波周波数の両側の振動信号のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数の倍数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の少なくとも他の組を探索するための探索ステップ(E70)と、
警告メッセージに関連付けられた深刻度であって、探索ステップ(E70)で発見されたスペクトル線の組で、少なくとも第3の閾値を超える振幅のスペクトル線の組の数に応じて決まる深刻度を推定するステップ(E90)と
をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の監視方法。
【請求項5】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータによって実行される時に請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の監視方法のステップを実行するための命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の監視方法のステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムが記録された、コンピュータ可読記録媒体。
【請求項7】
タービンエンジン(TR)の回転軸(ABP)のねじれ振動を監視するための監視装置(1)であって、
搬送周波数によって特徴付けられる振動加速度信号をタービンエンジンの静止部品に配置される加速度計(3A)から取得するための取得手段(11)と、
振動信号の周波数スペクトルを評価するための評価手段(11)と、
少なくとも第1の閾値より大きい振幅のスペクトル線であって、振動信号の搬送波周波数の両側のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の組を探索するための探索手段(11)と、
必要に応じて、警告メッセージを出すための発行手段(14、15)と
を備える監視装置(1)。
【請求項8】
振動信号のエンベロープ信号を評価するための評価手段(11)と、
エンベロープ信号の周波数スペクトルを評価するための評価手段と(11)、
第2の閾値より大きい振幅を有し、軸のねじれ周波数の倍数で存在するエンベロープ信号のスペクトル内の少なくとも1つのスペクトル線を探索するための探索手段(11)と、
探索ステップの結果に応じて作動される、警告メッセージに関連付けられた信頼度を推定するための推定手段(11)と
をさらに備える、請求項7に記載の監視装置(1)。
【請求項9】
搬送波周波数の両側の振動信号のスペクトルに分布し、軸のねじれ周波数の倍数だけ搬送波周波数から離間したスペクトル線の少なくとも他の組を探索するための探索手段と、
警告メッセージに関連付けられた深刻度であって、探索手段で発見されたスペクトル線の組で、少なくとも第3の閾値を超える振幅のスペクトル線の組の数に応じて決まる深刻度を推定するための推定手段(11)と
をさらに備える、請求項7または請求項8のいずれかに記載の監視装置(1)。
【請求項10】
請求項7から9のうちのいずれか一項に記載の監視装置(1)と、
タービンエンジンの静止部品に配置され、監視装置に振動加速度信号を送るように構成された加速度計(3A)と
を含むタービンエンジン(TR)。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−512446(P2013−512446A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541552(P2012−541552)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052467
【国際公開番号】WO2011/064490
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】