タービン動翼翼列および蒸気タービン
【課題】種々の制約を受けることなく重量バランスの調整をすることができるタービン動翼翼列、およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンを提供する。
【解決手段】タービン動翼翼列30は、タービンロータ14のロータディスク15の外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼13の植込部を嵌合して保持し、ロータディスク15に形成された切り欠き部に止め翼40が固定されている。複数の動翼13は、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼50、普通翼50よりも周方向の翼幅が広い長幅翼51、および普通翼50よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼52の3種類の動翼で構成される。
【解決手段】タービン動翼翼列30は、タービンロータ14のロータディスク15の外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼13の植込部を嵌合して保持し、ロータディスク15に形成された切り欠き部に止め翼40が固定されている。複数の動翼13は、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼50、普通翼50よりも周方向の翼幅が広い長幅翼51、および普通翼50よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼52の3種類の動翼で構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンロータのロータディスクの周方向に複数の動翼を植設して環状に構成されるタービン動翼翼列に係り、特に重量バランスの調整を容易に行うことができるタービン動翼翼列およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンにおけるタービン動翼翼列は、例えば、タービンロータの周方向に亘って形成されたロータディスクの植込部に設けられた切欠溝から周方向に沿って、動翼を1本ずつ挿入し、最後に、止め翼などの締付用部品を固定して構成される(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
締付用部品においては、機械的強度、タービン効率、重量バランスなどの種々の観点から、様々な工夫が施されている。例えば、締付用部品は、ロータディスクの植込部に設けられた切欠溝に固定されるため、植込部を有していない。そのため、締付用部品の両側の動翼に荷重を持たせることで、例えば、締付用部品にかかる遠心力に対抗して組立状態を維持している。そこで、両側の動翼にかかる負荷を小さくするために、締付用部品の重さは、できる限り軽いことが好ましい。
【0004】
締付用部品として、例えば、最大限に重量を軽減した止め金、翼有効部などが削除された植込部のみの構造からなる止めブロック、他の動翼と同じ翼部を有する止め翼などが使用されている。そして、タービン段落の強度設計などに応じて、これらの締付用部品の中から適宜に選択され、使用される。
【0005】
これらの締付用部品は、タービン動翼翼列を主として構成する、理論計算に基づいて形成された動翼とは重量が異なるために、重量を軽減すればするほど、タービン動翼翼列としての重量バランスが崩れる。そのため、タービンロータの振動発生源にならないように、重量調整用の動翼を備えることも必要となる。
【0006】
一方、地球温暖化防止の目的から、蒸気タービンのさらなる性能の向上が求められている。例えば、段落損失の増加を防止するという観点から、締付用部品として、蒸気通路部が欠落する止めブロックは採用せずに、止め翼を採用する傾向になっている。また、止め翼をチタンなどで形成する試みも行われている。止め翼の材料として、チタンを用いる利点の一つは、重量が鉄鋼系材料の約60%になるという軽量性にある。しかしながら、チタンは、加工性が悪いことや、高価であることなどの欠点も有している。
【0007】
ここで、従来のタービン動翼翼列の構成について説明する。
【0008】
まず、締付用部品として止めブロックを備えた、従来のタービン動翼翼列について説明する。
【0009】
図22は、締付用部品として止めブロック410を備えた、従来のタービン動翼翼列400を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図23は、止めブロック410を周方向からみたときの平面図である。図24は、止めブロック410を備えた部分の、タービン動翼翼列400を拡大した図である。図25は、止めブロック410の取付状態を示す分解斜視図である。図26は、重量バランスを調整するために溝415が設けられた動翼を周方向からみたときの平面図である。なお、図22には、植設された動翼411の数に対応する番号が記載されている。
【0010】
図22に示されたタービン動翼翼列400は、止めブロック410を除いて、147枚の動翼411が周方向に設けられている。図23に示すように、止めブロック410は、翼有効部などが削除された植込部のみの構造であり、図24に示すように、動翼411間に固定されている。
【0011】
また、図25に示すように、ロータディスク420の外周部の両側面には、周方向に延びる複数の植込溝421が形成されており、動翼411の植込部411aに形成されているフック部411bがロータディスク420の植込溝421に嵌合されている。なお、動翼411は、ロータディスク420に形成された切り欠き部422から挿入され、ロータディスク420の植込溝421に嵌合される。
【0012】
ここで、図24および図25に示すように、切り欠き部422に位置する止めブロック410は、止めブロック410の植込部410aおよび隣接する動翼411の植込部411aに、タービンロータ軸方向に平行にそれぞれ形成されたキー溝412a、412bによって形成される穴412にキー413を挿入することで固定されている。これによって、止めブロック410に加わる遠心力は、キー413を介して隣接する動翼411に支持され、止めブロック410の抜け出しが防止される。
【0013】
このタービン動翼翼列400において、止めブロック410を備えたことに対する重量バランスは、通常、止めブロック410のタービンロータ中心軸に対して対称となる位置に配置された動翼の重量を軽減することによって調整される。
【0014】
重量バランスの調整の最も簡単な方法は、カウンタ動翼(止めブロック410とタービンロータ中心軸に対して点対称な位置にある動翼)を、止めブロック410と同様の形状とすることである。しかしながら、この構成を採用すると、蒸気通路部の欠落部が周上に2箇所存在することとなり、性能が低下するため好ましくない。そのため、従来のタービン動翼翼列400では、止めブロック410とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側に位置する何本かの動翼(例えば、図22における番号59〜番号88)を、図26に示されているように局部的に加工して、すなわち溝415を設けて重量を調整し、重量バランスを調整している。以下、溝415を設けて重量が調整された動翼を重量軽減動翼という。
【0015】
次に、締付用部品として止め翼を備えた、従来のタービン動翼翼列について説明する。
【0016】
図27は、締付用部品として止め翼440を備えた、従来のタービン動翼翼列401を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。なお、止め翼440の固定方法は、前述した止めブロック410を固定する方法と基本的に同様であるが、止め翼440を用いる場合は、止め翼440の植込部およびロータディスクにピン穴を設け、それぞれのピン穴に止めピンを挿入して止め翼440の遠心力による浮き上がりを完全に防止するように構成する。
【0017】
上記したように、段落損失の増加を防止するという観点から、締付用部品として、止め翼を採用する傾向になっている。ここで、全周に、例えば148本の動翼411(止め翼440も含む)を備える構成を最初から考慮して設計製作する場合には、重量バランスの調整は容易に行える。しかしながら、例えば、締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更や構造変更によって、締付用部品として止め翼を採用した構成にする場合には、当初の重量バランス状態を考慮した上で、重量バランスを調整しなければならず、容易に行うことはできない。
【0018】
例えば、新たに製作される止め翼440が、動翼411と同じ鉄鋼系材料で形成されている場合、前述した、締付用部品として止めブロック410を備えるときに使用された重量軽減動翼を、全て通常の動翼411に置き換えて、アンバランス量を小さくした上で対策を考えることになる。ここで、1つの方策として、止め翼440を備えることによるアンバランス量を小さくするために、止め翼440をチタンで形成し、止め翼440とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側(以下、カウンタ側という)に位置する何本かの動翼(例えば、図27における番号70〜番号78)を、重量軽減動翼とすることで重量バランスが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−220405号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Turbine steam Path- Volume IIIb-Mechanical Design and manufacture, Sanders, William P, Pennwell Corp.,2004, ISBN 1-59370-010-5, p.616, p.638-642, p.645-646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記したように、従来のタービン動翼翼列では、締付用部品として、止めブロックまたは止め翼を採用する場合、重量バランスを調整するために、カウンタ側に、複数の重量軽減動翼が配置される。この重量軽減動翼は、前述したように、動翼に溝を設けて構成されるが、強度上の制約から溝を大きく形成することができない。そのため、通常の動翼を重量軽減動翼に置き換えても重量の低減量は少ない。したがって、カウンタ側に多くの重量軽減動翼を配置しなければならない。
【0022】
また、動翼の設計条件が強度において厳しく制限されている場合などにおいては、重量軽減動翼を使用することが許されないこともある。このような場合には、締付用部品として止めブロックを採用したり、カウンタ動翼として止めブロックと同様の形状の動翼を採用したりする必要があり、段落損失が増加する設計となる。
【0023】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、種々の制約を受けることなく重量バランスの調整をすることができるタービン動翼翼列、およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、タービンロータのロータディスクの外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼の植込部を嵌合して保持させ、前記ロータディスクに形成された切り欠き部に止め翼を固定してなるタービン動翼翼列において、前記複数の動翼が、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼、前記普通翼よりも周方向の翼幅が広い長幅翼、および前記普通翼よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼の3種類の動翼で構成されていることを特徴とするタービン動翼翼列が提供される。
【0025】
また、本発明の一態様によれば、上記したタービン動翼翼列を備えたことを特徴とする蒸気タービンが提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のタービン動翼翼列およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンによれば、重量バランスの調整をする際に受ける制約を少なくし、容易に重量バランスの調整を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンの、タービンロータの中心線を含む断面(子午断面)を示す図である。
【図2】締付用部品として止め翼を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図3】動翼の周方向の翼幅を説明するために、普通翼をタービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図4】タービン動翼翼列を構成する短幅翼の周方向の断面を展開して示した図である。
【図5】図4に示された翼幅Sよりも狭い翼幅Sを有する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。
【図6】締付用部品として止めブロックを備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図7】図6に示された締付用部品に換えて止め翼を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図8】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に、長幅翼および短幅翼を使用してすれ幅などが調整されたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図9】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じるずれ幅を説明するための、タービン動翼翼列の一部を展開した図である。
【図10】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じる戻し幅を説明するための、タービン動翼翼列の一部を展開した図である。
【図11】補修溝が加工されたロータディスクの植込部を示す斜視図である。
【図12】補修用動翼が植設された、ロータディスクの植込部における周方向の断面を示す図である。
【図13】図12のA−A断面を示す図である。
【図14】補修用動翼の植込部の周方向の中央に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図15】補修用動翼の植込部の、周方向の、中央と端部との間に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図16】補修用動翼の植込部の周方向の端部に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図17】補修用動翼の植込部の周方向の一端部と、補修溝の周方向の一端部との周方向距離Mを示した図である。
【図18】補修用動翼を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図19】図18の補修用動翼が配置された領域を拡大した図である。
【図20】補修用動翼を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図21】図20の補修用動翼が配置された領域を拡大した図である。
【図22】締付用部品として止めブロックを備えた、従来のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図23】止めブロックを周方向からみたときの平面図である。
【図24】止めブロックを備えた部分の、タービン動翼翼列を拡大した図である。
【図25】止めブロックの取付状態を示す分解斜視図である。
【図26】重量バランスを調整するために溝が設けられた動翼を周方向からみたときの平面図である。
【図27】締付用部品として止め翼を備えた、従来のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を備えた蒸気タービン10の、タービンロータ14の中心線を含む断面(子午断面)を示す図である。
【0029】
図1に示すように、蒸気タービン10は、例えば、内部ケーシング11とその外側に設けられた外部ケーシング12とから構成される二重構造のケーシングを備えている。また、内部ケーシング11内には、タービンロータ14が貫設されている。このタービンロータ14には、タービンロータ軸方向に複数段のロータディスク15が形成されている。また、各ロータディスク15には複数の動翼13が周方向に植設され、タービン動翼翼列30を構成している。
【0030】
また、内部ケーシング11の内周側には、ダイヤフラム外輪16およびダイヤフラム内輪17との間に、複数のノズル18が周方向に支持され、ノズル翼列31を構成している。このノズル翼列31は、各タービン動翼翼列30の上流側に設けられ、ノズル翼列31とタービン動翼翼列30とによってタービン段落を構成している。
【0031】
さらに、蒸気タービン10には、蒸気入口管19が、外部ケーシング12および内部ケーシング11を貫通して設けられ、さらに蒸気入口管19の端部が、ノズルボックス20に連通して接続されている。
【0032】
このような構成を備える蒸気タービン10において、蒸気入口管19を経て、ノズルボックス20内に流入した蒸気は、各タービン段落を通過しながら、膨張仕事を行い、タービンロータ14を回転させる。膨張仕事をした蒸気は、排気され、例えば、低温再熱管(図示しない)を通りボイラ(図示しない)に流入する。
【0033】
次に、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30の構成について説明する。
【0034】
ここでは、タービン動翼翼列30において、(1)設計当初から締付用部品として止め翼を使用する場合、(2)締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼を使用する場合について説明する。
【0035】
(1)設計当初から締付用部品として止め翼40を使用する場合
図2は、締付用部品として止め翼40を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。なお、図2には、植設された動翼13(止め翼40を含む)の数に対応する番号が記載されている。また、図2において、止め翼40、長幅翼51および短幅翼52以外の動翼は、普通翼50である。図3は、動翼13の周方向の翼幅を説明するために、普通翼50をタービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【0036】
図2に示されたタービン動翼翼列30は、止め翼40および147枚の動翼13が周方向に設けられている。なお、動翼13の装着方法や止め翼40の固定方法は、前述した図24および図25に示した方法と同じである。
【0037】
図2に示すように、タービン動翼翼列30は、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅Nを有する普通翼50、普通翼50の翼幅Nよりも広い周方向の翼幅Lを有する長幅翼51、および普通翼50の翼幅Nよりも狭い周方向の翼幅Sを有する短幅翼52の3種類の動翼13で構成されている。
【0038】
ここで、普通翼50の周方向の翼幅は、理論計算上、全周の角度(すなわち360°)から止め翼40の周方向の翼幅に相当する角度を差し引いた角度を普通翼50の本数で除した角度に基づいて定めることができる。また、動翼13(普通翼50)の周方向の翼幅とは、図3に示すように、翼有効部13aと植込部13cとの間に形成されるシャンク部13bにおける翼有効部13a側端部の周方向の翼幅Nをいう。なお、長幅翼51、短幅翼52および止め翼40においても、周方向の翼幅の定義は、これと同じである。
【0039】
また、長幅翼51および短幅翼52のシャンク部や植込部における周方向の翼幅は、普通翼50におけるそれらと異なるが、長幅翼51および短幅翼52の翼有効部やシュラウドの構成は、普通翼50におけるそれらと同一の構成である。そのため、これらの動翼における重量差は、シャンク部や植込部における周方向の翼幅の違いによるものとなる。そして、動翼の周方向の翼幅の単位長さ当たりの重量は、短幅翼52、普通翼50、長幅翼51の順に大きい(短幅翼52>普通翼50>長幅翼51)。
【0040】
なお、例えば、長幅翼51の1本当たりの重量調整量は、前述した、溝を設けて重量が調整された重量軽減動翼の1本当たりの重量調整量よりも大きい。そのため、少ない本数の長幅翼51で重量バランスを調整することができる。
【0041】
次に、周方向幅および重量バランスの調整について説明する。
【0042】
図2において、番号1に、普通翼50ではなく、周方向の翼幅Cを有する止め翼40を配置することで、タービン動翼翼列30の周方向幅の増加分は、「C−N」で算出される。なお、止め翼40の翼幅Cは、普通翼50の翼幅Nよりも広い。そして、この幅の増加分に対する重量バランスを解消するためには、次の式(1)を満たすような、止め翼40とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側であるカウンタ側の普通翼50をa本の長幅翼51に置き換えることによって、基本的に重量バランスを調整することができる。
C−N=a×(L−N) …式(1)
【0043】
aの値は、長幅翼51の翼幅Lと、普通翼50の翼幅Nとの差(L−N)(以下、ΔLという)によって決まり、ここでは仮にaを4とする。
【0044】
また、止め翼40の両側の動翼13には、止め翼40の遠心力がかかる。そこで、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51とすることで、これらの動翼13の植込部における応力を軽減することができる。そのため、ここでは、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51としている。
【0045】
止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51とすることで、この追加した2本の長幅翼51における重量バランスの調整のために、カウンタ側に、さらに2本の長幅翼51を追加する必要がある。この結果、カウンタ側(番号72〜番号77)には、6本の長幅翼51が設けられ、このタービン動翼翼列の周上には、全部で8本の長幅翼51が設けられる。8本の普通翼50を8本の長幅翼51に置き換えることで、事実上周方向の長さが「8×ΔL」だけ長くなる。この周方向の長さの増加分を削減するために、他の普通翼50に換えて短幅翼52が使用される。
【0046】
ここで、普通翼50の翼幅Nと、短幅翼52の翼幅Sとの差(N−S)(以下、ΔSという)がΔLに等しいとすると、重量バランスを崩さないように、8本の短幅翼52が、このタービン動翼翼列の周上に配列される。図2では、止め翼40の位置から±90度の位置およびその近傍の位置(番号36〜番号39、番号111〜番号114)に、それぞれ4本ずつ短幅翼52を設けた一例が示されている。
【0047】
上記したように、設計当初から締付用部品として止め翼40を使用する場合には、普通翼50の一部を、長幅翼51または短幅翼52に置き換えることで、重量バランスの調整を容易に行うことができる。なお、上記した重量バランスの調整方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0048】
ここでは、ΔLとΔSが等しい一例を示したが、ΔLをΔSで除した値(ΔL/ΔS)が自然数となることが好ましい。この関係を有することで、長幅翼51と短幅翼52の本数比を単純化することができるため、重量バランスの調整を実用的かつ容易にすることができる。
【0049】
例えば、ΔL/ΔSが1の場合には、上記したΔLとΔSが等しい場合に相当する。また、ΔL/ΔSが2または3の場合には、1本の長幅翼51による翼幅の増加量ΔLを削減するために、短幅翼52を2本または3本備えることが必要となる。また、ΔL/ΔSが2または3の場合には、植込部の応力は、ΔL/ΔSが1の場合の植込部の応力の、それぞれ1/2、1/3となるので、植込部の応力レベルに応じて、ΔL/ΔSの値を設定することができる。
【0050】
なお、ΔL/ΔSが4以上の場合、植込部の応力は、ΔL/ΔSが1の場合の植込部の応力の1/4となるので、応力の観点から好ましいが、1本の長幅翼51による翼幅の増加量ΔLを削減するために、短幅翼52を4本備えることが必要となり、重量バランスの調整が煩雑になる傾向がある。そのため、ΔL/ΔSを4以上に設定することもできるが、長幅翼51や短幅翼52の本数を削減するという観点から、3以下に設定することが好ましい。
【0051】
また、長幅翼51の翼幅Lは、普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定されることが好ましい。すなわち、長幅翼51の翼幅Lは、普通翼50の翼幅Nの1倍より広く、かつ普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定されることが好ましい。
【0052】
この理由を次に述べる。長幅翼51は、普通翼50と同一の翼有効部を、普通翼50よりも周方向の翼幅がΔLだけ広い植込部で支えるため、植込部の遠心力に基づく応力は、普通翼50におけるものよりも低くなる。そのため、応力の観点からは、ΔLを大きく設定しても支障はない。しかしながら、長幅翼51も、普通翼50と同様に、タービンロータのロータディスクの植込部に設けられた切欠溝から挿入されるため、植込部のフックの接触幅がΔL小さくなる。このため、長幅翼51の翼幅Lが、普通翼50の翼幅Nの1.05倍を超えることは好ましくない。また、長幅翼51の翼幅Lを普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定することで、隣り合う動翼の距離が離れることで生じる蒸気流の乱れを抑制することもできる。
【0053】
また、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。すなわち、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの1倍より狭く、かつ普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。
【0054】
この理由を次に述べる。短幅翼52は、普通翼50と同一の翼有効部を、普通翼50よりも周方向の翼幅がΔSだけ狭い植込部で支えるため、植込部の遠心力に基づく応力は、普通翼50におけるものよりも高くなる。通常、動翼の植込部の使用応力は、許容応力に対する余裕を小さく設計することが多いことから、この応力の増加量は、極力抑える必要がある。また、短幅翼52の翼幅Sが狭くなると、構造上の制約も受けることから、短幅翼52の翼幅Sを、普通翼50の翼幅Nの0.95倍よりも狭くすることは好ましくない。
【0055】
ここで、図4は、タービン動翼翼列を構成する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。図5は、図4に示された翼幅Sよりも狭い翼幅Sを有する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。
【0056】
例えば、低圧タービン段落を構成するタービン動翼翼列の動翼13において、図4に示すように、翼有効部13aの後縁端は、シャンク部13bから飛び出すように形成される。そして、組立上の要求から、図5に示すように、シャンク部13bの一端側には、一般的に、張出部13dおよびこの張出部13dに対応する切欠部13eが設けられる。しかしながら、短幅翼52の翼幅Sが狭くなるほど、図5に示すように、翼有効部13aの前縁端がシャンク部13bから飛び出すように形成される。そして、組立上の要求から、図4に示すように、シャンク部13bの他端側には、一端側と同様に、張出部13fおよびこの張出部13fに対応する切欠部13gが設けられる。そのため、動翼13を加工する工程が大幅に増加する。さらに、短幅翼52の翼幅Sが狭くなると、隣り合う動翼13間の距離が小さくなり、蒸気の流れの特性を変えることがある。このようなことからも、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。
【0057】
(2)締付用部品として止めブロック60を備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼40を使用する場合
図6は、締付用部品として止めブロック60を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図7は、図6に示された締付用部品に換えて止め翼40を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【0058】
ここでは、止め翼40として、チタン製の翼を使用した一例を示す。チタン製の止め翼40の形状は、前述した、動翼を構成する通常の材料で構成された止め翼40の形状と同じである。また、チタン製の止め翼40の重量は、動翼を構成する通常の材料で構成された止め翼40の重量の約60%程度となる。
【0059】
締付用部品として止めブロック60を備えるタービン動翼翼列では、図6に示すように、止めブロック60を備えたことに対する重量バランスは、止めブロック60のカウンタ側の何本かの普通翼50を、溝を設けて重量が調整された重量軽減動翼70に置き換えることで調整されている。ここでは、番号59〜番号88に30本の重量軽減動翼70を設けて重量バランスの調整が施されたタービン動翼翼列を示している。なお、重量軽減動翼70の翼幅は、普通翼50の翼幅Nと同じである。
【0060】
次に、図6に示された止めブロック60に換えて止め翼40を備え、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を構成する際の重量バランスの調整について説明する。
【0061】
止めブロック60に換えて止め翼40を備え、止め翼40のカウンタ側の30本の重量軽減動翼70を普通翼50に置き換えるとともに、その普通翼50のうちのb本を重量バランスを調整するために短幅翼52に置き換えたときの重量バランスに関する関係式は、式(2)のようになる。なお、ここでも、上記した理由と同様の理由から、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51としている。
止め翼40の重さ−止めブロック60の重さ+2×(長幅翼51の重さ−普通翼50の重さ×(1+ΔL/N))=普通翼50の重さ×(30−b)+(短幅翼52の重さ+普通翼50の重さ×ΔS/N)×b …式(2)
【0062】
式(2)の左辺では、止めブロック60およびこの止めブロック60の両側が普通翼50で構成された場合と、止め翼40およびこの止め翼40の両側が長幅翼51で構成された場合との重量差を算出している。なお、この際、止め翼40および2本の長幅翼51における周方向の翼幅は、「C+2×L」、すなわち「C+2×(N+ΔL)」であるのに対して、止めブロック60および2本の普通翼50における周方向の翼幅は、「C+2×N」である。そのため、左辺における重量差の算出において、同じ周方向の翼幅で評価するため、止めブロック60および2本の普通翼50における周方向の翼幅を「C+2×(N+ΔL)」としている。また、この周方向の翼幅が増加した分は、普通翼50の周方向の翼幅が増加したとみなして重量を算出している。
【0063】
また、式(2)の右辺では、止め翼40のカウンタ側において、重量軽減動翼70に換えて30本の普通翼50で構成した場合と、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合との重量差を算出している。なお、この際、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合おける周方向の翼幅は、「(30−b)×N+b×(N−ΔS)」であるのに対し、30本の普通翼50で構成した場合おける周方向の翼幅は、「30×N」である。そのため、右辺における重量差の算出において、同じ周方向の翼幅で評価するため、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合おける周方向の翼幅を、「(30−b)×N+b×(N−ΔS)+b×ΔS」、すなわち「30×N」としている。また、この周方向の翼幅が増加した分は、普通翼50の周方向の翼幅が増加したとみなして重量を算出している。
【0064】
ここで、bを4とし、ΔSがΔLに等しいとすると、図7に示すように、止め翼40のカウンタ側に、4本の短幅翼52(例えば、番号73〜番号76)が設けられ、その周囲に26本の普通翼50(例えば、番号60〜番号72、番号77〜番号89)が設けられる。また、タービン動翼翼列30の周上には、全部で4本の短幅翼52が設けられる。そのため、4本の普通翼50を4本の短幅翼52に置き換えることで、事実上周方向の長さが「4×ΔS」だけ短くなる。この周方向の長さの減少分を補うために、他の普通翼50に換えて長幅翼51が使用される。ここでは、上記したように、ΔSがΔLに等しいとしているので、重量バランスを崩さないように、4本の長幅翼51が、このタービン動翼翼列の周上に配列される。すでに、止め翼40の両側に1本ずつ長幅翼51が備えられているので、図7に示すように、止め翼40の位置から±90度の位置(番号112および番号38)に、それぞれ1本ずつ長幅翼51を設けた。
【0065】
上記したように、止めブロック60に換えて止め翼40を備える場合においても、重量軽減動翼70を使用せずに、普通翼50の一部を、長幅翼51または短幅翼52に置き換えることで、重量バランスの調整を容易に行うことができる。重量軽減動翼70を使用しないため、強度の低下を防止することができる。さらに、締付用部品として止め翼40を使用するため、締付用部品として止めブロック60を使用する場合よりも、段落損失を抑制することができる。
【0066】
なお、上記した重量バランスの調整方法は、一例であり、これに限定されるものではない。また、ΔL/ΔS、長幅翼51の翼幅Lおよび短幅翼52の翼幅Sについては、前述したとおりである。
【0067】
上記したように、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30によれば、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、使用する締付用部品の構成が制約されることなく、重量軽減動翼などを採用せずに、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。さらに、使用する締付用部品の構成が制約されることがないため、例えば、締付用部品による段落損失を防止し、効率の向上を図ることができる。さらに、重量軽減動翼などを採用しないため、機械的な強度を維持することができ、タービン動翼翼列としての信頼性を向上させることができる。
【0068】
また、設計当初から締付用部品として止め翼を使用する場合、および締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼を使用する場合であっても、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。
【0069】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、所定の動翼を動翼の周方向の翼幅の範囲内で、例えばタービン動翼翼列の回転方向または反回転方向に移動させて配置可能とし、その移動によって生じたずれ幅を、長幅翼51および短幅翼52を組み合せて備えることで補充し、さらに重量バランスの調整を行うことができるタービン動翼翼列を示す。
【0070】
例えば、所定の動翼を、タービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらしたい場合、締付用部品と所定の動翼との間に次の式(3)を満たすc本の長幅翼51およびd本の短幅翼52を普通翼50に換えて備えることで実現できる。なお、cおよびdは、長幅翼51および短幅翼52の数が最小となるように設定されることが好ましい。
H=c×ΔL−d×ΔS …式(3)
【0071】
ここでc、dは自然数である。なお、重量バランスを調整するために、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられた位置のカウンタ側は、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられた位置と同様に、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられる。
【0072】
具体的には、例えば、Hが2.5mm、ΔLが1mm、ΔSが0.5mmである場合、cを3、dを1とすることができる。
【0073】
図8は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に、長幅翼51および短幅翼52を使用してすれ幅などが調整されたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図9は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じるずれ幅を説明するための、タービン動翼翼列30の一部を展開した図である。図10は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じる戻し幅を説明するための、タービン動翼翼列30の一部を展開した図である。
【0074】
図9に示すように、4本の普通翼50を3本の長幅翼51および1本の短幅翼52(j1群)に置き換えることによって、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に2.5mm移動することができる。また、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列の反回転方向に2.5mm移動することで、図10に示すように、2.5mmの戻し幅が発生する。この戻し幅は、5本の普通翼50を5本の短幅翼52に置き換えることによって解消することができる。戻し幅を調整するための短幅翼52(k1群)は、図8に示すように、3本の長幅翼51および1本の短幅翼52からなるj1群の位置に対して、タービン動翼翼列の反回転方向にほぼ90度の位置に構成される。
【0075】
また、重量バランスを調整するために、j1群のカウンタ側(j2群)には、j1群と同じ構成で、長幅翼51および短幅翼52が設けられ、k1群のカウンタ側(k2群)には、k1群と同じ構成で、短幅翼52が設けられる。なお、ここでは、止め翼40の一方の側の動翼を長幅翼51で構成した一例を示しているが、止め翼40の両側の動翼を長幅翼51で構成してもよい。この場合には、重量バランスを調整するため、この長幅翼51のカウンタ側にも、長幅翼51が配置される。そのため、k1群およびk2群に隣接する普通翼50を短幅翼52に換えることで、周方向幅の調整および重量バランスの調整を行うことができる。
【0076】
上記したような所定の動翼の移動が必要になる事例としては、タービン動翼翼列を構成する動翼と動翼との間におけるロータディスク15の損傷の発生が挙げられる。この損傷は、主として、蒸気に含まれる不純物が動翼間の間隙に堆積することに起因する腐蝕疲労である。このような損傷あるいは損傷の兆候が発見されると、通常、直ちに研削等によってロータディスク15の表面から損傷などが除去される。そして、除去後の損傷サイズが小さな場合には、応急処置として、上記したように、損傷の発生源である動翼間の位置を元の位置からずらすという対応が採られる。本発明に係るタービン動翼翼列では、このような対応に適応することが可能である。
【0077】
上記した所定の動翼を周方向に所定幅移動させて配置可能とする構成は、他の状況においても適用することができる。次に、他の適用例について説明する。
【0078】
タービンロータ14のロータディスク15の表面の損傷が進展すると、例えば、動翼間に位置する、ロータディスク15の植込部80の外周面に発生した腐蝕疲労痕からクラックが形成されることがある。このクラックは、高サイクル疲労によって、タービンロータ14の内部に向かってほぼ半径方向に伝播することが知られている。
【0079】
図11は、補修溝90が加工されたロータディスク15の植込部80を示す斜視図である。クラックが形成された場合、図11に示すように、溝加工によってクラックを完全に削り取る処理が施されるが、クラックは、単純に半径方向のみに進展するのではなく、周方向に傾いて進展することもある。また、加工された補修溝90の先端(溝底部)は、応力集中を軽減するため、R形状に仕上げられる。これらにより、補修溝90は、図11に示すように、所定の幅Wおよび深さYを有する溝となる。
【0080】
補修溝90が加工されたロータディスク15の植込部80は、例えば、図11に示すように、第1フック80aと第2フック80bが、補修溝90によって部分的に削除された形状となる。そのため、この補修溝90の位置に配置される動翼として、普通翼50を使用すると、補修溝90以外の部分的に残存する植込部80で、普通翼50の遠心力を支えなければならず、植込部80の応力が高くなり過ぎる。そこで、この遠心力を軽減するために、補修溝90の位置に配置される動翼として、例えば、チタン製の補修用動翼が使用される。
【0081】
ここで、図12は、補修用動翼100が植設された、ロータディスク15の植込部80における周方向の断面を示す図である。図13は、図12のA−A断面を示す図である。図14は、補修用動翼100の植込部101の周方向の中央に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。図15は、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。図16は、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。
【0082】
なお、これらの面圧は、フックに作用する反力を受圧面積で除したものであるが、1本の動翼について、フック各部位の作用反力によるモーメントがつりあう条件から、それぞれの部位に作用する反力が算出される。
【0083】
図14に示すように、補修用動翼100の植込部101の周方向の中央に補修溝90が位置する場合、補修溝90を挟んで両側に発生する面圧は、ほぼ均一であり、同じ圧力分布となる。ここで、補修用動翼100の植込部101の中央に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の中心に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の中心が位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する(図13参照)。
【0084】
図15に示すように、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置する場合、第1フック80aとの当接面積が多い側(図15では右側)の面圧は、低くほぼ均一になるのに対して、第1フック80aとの当接面積が少ない側(図15では左側)の面圧は、高くなる。この傾向は、第1フック80aとの当接面積が少ない側(図15では左側)において、当接面積の減少に伴って顕著になる。ここで、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の中心に対応する位置が、補修用動翼100の植込部101の周方向の中心よりも補修用動翼100の植込部101の端部側に位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する。
【0085】
図16に示すように、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置する場合、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aの一端部102は、第1フック80aと当接しないため、面圧はかからない。一方、第1フック80aとの当接する部分における面圧は、ほぼ均一な分布を示す。ここで、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の一端部90aに対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102が位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する。なお、隣接する動翼の植込部と接触する、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102は、補修溝90が形成された周方向の範囲内に位置すればよい。ここで、図17は、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102と、補修溝90の周方向の一端部90aとの周方向距離Mを示した図である。ここで、第1フック80aの面圧は(N/(N−M))倍に増大するので、Mは小さいほうが好ましい。組立て時の位置に対する公差を考慮して、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102と、補修溝90の周方向の一端部90aとの周方向距離Mを2mm以下とすることが実用的である。
【0086】
上記した面圧分布を考慮すると、図14または図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置することが好ましい。すなわち、図14に示すように、補修溝90の周方向の中心に対応する位置に、動翼(ここでは補修用動翼100)の周方向の中心が位置するように、動翼が配置されることが好ましい。また、図16や図17に示すように、補修溝90が形成された周方向の範囲内において、隣接する動翼(例えば、補修用動翼100と長幅翼51)の植込部どうしが接触するように配置されることが好ましい。このように補修用動翼100を配置することで、応力的に最も安定した補修を行うことができる。
【0087】
ここで、図14または図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置する際、重量バランスを調整するために、長幅翼51や短幅翼52を使用するが、これらの動翼の使用数を極力少なくするために、図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置することがさらに好ましい。図16に示した補修用動翼100の配置を採用することで、長幅翼51や短幅翼52の使用数を少なくできるのは、図9を参照して説明した、ずれ幅が小さく抑えられるからである。
【0088】
ここで、図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置する場合における、重量バランスの調整について説明する。
【0089】
図18は、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図19は、図18の補修用動翼100が配置された領域を拡大した図である。
【0090】
図18では、止め翼40から反回転方向の半周上に補修溝90を有する場合が示されている。また、止め翼40の両側には、長幅翼51が配置され、止め翼40は、前述した固定方法と同様の方法で長幅翼51に固定されている。
【0091】
また、図19に示すように、補修溝90の周方向の一端部90a(反回転方向の端部) に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(反回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号22)が配置されている。また、補修用動翼100は、前述した止め翼40と同様に、両側に配置された長幅翼51にキー110によって固定される。
【0092】
このように補修用動翼100を配置する際のタービン動翼翼列30を構成する方法の一例について説明する。ここでは、チタン製の補修用動翼100を使用し、補修用動翼100の翼幅が長幅翼51の翼幅Lと等しい場合について説明する。
【0093】
まず、補修用動翼100の配置位置を定める。ここでは、上記したように、補修溝90の周方向の一端部90a(反回転方向の端部)に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(反回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号22)が配置される。
【0094】
続いて、反回転方向の、止め翼40と補修用動翼100の間に普通翼50を配置する。ここで、普通翼50を配置するだけでは周方向の位置調整ができない場合には、長幅翼51や短幅翼52を使用して、止め翼40と補修用動翼100の間の動翼の位置調整を行う。ここでは、図18および図19に示すように、止め翼40と補修用動翼100の間の動翼の位置調整のために、5本の長幅翼51が使用されている。この5本の長幅翼51、補修用動翼100および補修用動翼100の一方の側の長幅翼51が配置された部分をB部という。
【0095】
ここでは、止め翼40の反回転方向側に配置されている長幅翼51、および長幅翼51と同じ翼幅の補修用動翼100を備えるため、翼幅の観点から、止め翼40と補修用動翼100の間に、全部で7本の長幅翼51を使用していることに相当する。さらに、補修用動翼100の反回転方向側の長幅翼51を含めると、すでに8本の長幅翼51が使用されていることに相当する。そのため、長幅翼51を備えることで生ずる周方向幅の増加量を、短幅翼52を使用することで相殺する必要がある。なお、ここでは、ΔLとΔSが等しくなるように、長幅翼51および短幅翼52を構成している。また、ここでは、補修用動翼100の翼幅を長幅翼51の翼幅Lと同じにした一例を示したが、例えば、補修溝90の幅Wなどに応じて、補修用動翼100の翼幅は、普通翼50の翼幅Nまたは短幅翼52の翼幅Sと同じにしてもよい。
【0096】
止め翼40と補修用動翼100の間の配列が定まった後、軽量化されたB部の重量を補うため、さらにはこれまで使用された長幅翼51による周方向幅の増加量を相殺するため、B部の反回転方向側に隣接させて、複数の短幅翼52を配置する。この短幅翼52が配置された部分をC部という。
【0097】
続いて、止め翼40と、止め翼40の両側に配置される長幅翼51とからなるA部を構成する部分の回転方向側に隣接させて、軽量化されたA部の重量を補うため、さらには止め翼40の回転方向側に配置される長幅翼51による周方向幅の増加量を相殺するため、複数の短幅翼52を配置する。この短幅翼52が配置された部分をE部という。
【0098】
続いて、A部、B部、C部、E部との重量バランスの調整および周方向の長さの最終調整のために、これらの領域のカウンタ側となる部分に、複数の長幅翼51を配置する。この長幅翼51が配置された部分をD部という。
【0099】
このようにして、図18に示す、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30が構成される。なお、止め翼40、長幅翼51および短幅翼52以外の部分は、普通翼50で構成されている。
【0100】
ここで、図20は、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図21は、図20の補修用動翼100が配置された領域を拡大した図である。
【0101】
図20および図21には、止め翼40から回転方向の半周上に補修溝90を有する場合が示されている。また、止め翼40の両側には、長幅翼51が配置され、止め翼40は、前述した固定方法と同様の方法で長幅翼51に固定されている。
【0102】
また、図21に示すように、補修溝90の周方向の一端部90a(回転方向の端部)に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号96)が配置されている。また、補修用動翼100は、前述した止め翼40と同様に、両側に配置された長幅翼51にキー110によって固定される。
【0103】
この止め翼40から回転方向の半周上に補修溝90を有する場合にも、上記した止め翼40から反回転方向の半周上に補修溝90を有する場合と同様の方法で、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30が構成される。
【0104】
上記したように、第2の実施の形態のタービン動翼翼列30によれば、例えば、タービンロータ14のロータディスク15の表面に損傷が生じた場合においては、長幅翼51および短幅翼52を使用することによって、所定の動翼を移動して、その損傷部が蒸気に曝されないように構成することができる。このため、蒸気タービンの安全性を向上させることができる。
【0105】
また、ロータディスク15の植込部80に、クラックを除去するために形成された補修溝90を備え、例えば、補修溝90にかかる部分にチタン製の補修用動翼100を配置するような場合であっても、長幅翼51および短幅翼52を使用することによって、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。また、補修溝90に対する補修用動翼100の配置位置を調整することができるため、例えば、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aや、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aにかかる応力を均一にすることができる。
【0106】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上記した実施の形態に示されたタービン動翼翼列は一例であり、これら構成に限定されるものではない。すなわち、重量軽減動翼を使用することなく、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、周方向幅の調節や重量バランスの調整が行われたタービン動翼翼列であれば、本発明に係るタービン動翼翼列に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
10…蒸気タービン、11…内部ケーシング、12…外部ケーシング、13…動翼、13a…翼有効部、13b…シャンク部、13c…植込部、13d…張出部、13e…切欠部、13f…張出部、13g…切欠部、14…タービンロータ、15…ロータディスク、16…ダイヤフラム外輪、17…ダイヤフラム内輪、18…ノズル、19…蒸気入口管、20…ノズルボックス、30…タービン動翼翼列、31…ノズル翼列、40…止め翼、50、50a…普通翼、51…長幅翼、52…短幅翼、60…止めブロック、70…重量軽減動翼、80、101…植込部、80a…第1フック、80b…第2フック、90…補修溝、90a、102…一端部、100…補修用動翼、101a…第1フック、110…キー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンロータのロータディスクの周方向に複数の動翼を植設して環状に構成されるタービン動翼翼列に係り、特に重量バランスの調整を容易に行うことができるタービン動翼翼列およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンにおけるタービン動翼翼列は、例えば、タービンロータの周方向に亘って形成されたロータディスクの植込部に設けられた切欠溝から周方向に沿って、動翼を1本ずつ挿入し、最後に、止め翼などの締付用部品を固定して構成される(例えば、特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
締付用部品においては、機械的強度、タービン効率、重量バランスなどの種々の観点から、様々な工夫が施されている。例えば、締付用部品は、ロータディスクの植込部に設けられた切欠溝に固定されるため、植込部を有していない。そのため、締付用部品の両側の動翼に荷重を持たせることで、例えば、締付用部品にかかる遠心力に対抗して組立状態を維持している。そこで、両側の動翼にかかる負荷を小さくするために、締付用部品の重さは、できる限り軽いことが好ましい。
【0004】
締付用部品として、例えば、最大限に重量を軽減した止め金、翼有効部などが削除された植込部のみの構造からなる止めブロック、他の動翼と同じ翼部を有する止め翼などが使用されている。そして、タービン段落の強度設計などに応じて、これらの締付用部品の中から適宜に選択され、使用される。
【0005】
これらの締付用部品は、タービン動翼翼列を主として構成する、理論計算に基づいて形成された動翼とは重量が異なるために、重量を軽減すればするほど、タービン動翼翼列としての重量バランスが崩れる。そのため、タービンロータの振動発生源にならないように、重量調整用の動翼を備えることも必要となる。
【0006】
一方、地球温暖化防止の目的から、蒸気タービンのさらなる性能の向上が求められている。例えば、段落損失の増加を防止するという観点から、締付用部品として、蒸気通路部が欠落する止めブロックは採用せずに、止め翼を採用する傾向になっている。また、止め翼をチタンなどで形成する試みも行われている。止め翼の材料として、チタンを用いる利点の一つは、重量が鉄鋼系材料の約60%になるという軽量性にある。しかしながら、チタンは、加工性が悪いことや、高価であることなどの欠点も有している。
【0007】
ここで、従来のタービン動翼翼列の構成について説明する。
【0008】
まず、締付用部品として止めブロックを備えた、従来のタービン動翼翼列について説明する。
【0009】
図22は、締付用部品として止めブロック410を備えた、従来のタービン動翼翼列400を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図23は、止めブロック410を周方向からみたときの平面図である。図24は、止めブロック410を備えた部分の、タービン動翼翼列400を拡大した図である。図25は、止めブロック410の取付状態を示す分解斜視図である。図26は、重量バランスを調整するために溝415が設けられた動翼を周方向からみたときの平面図である。なお、図22には、植設された動翼411の数に対応する番号が記載されている。
【0010】
図22に示されたタービン動翼翼列400は、止めブロック410を除いて、147枚の動翼411が周方向に設けられている。図23に示すように、止めブロック410は、翼有効部などが削除された植込部のみの構造であり、図24に示すように、動翼411間に固定されている。
【0011】
また、図25に示すように、ロータディスク420の外周部の両側面には、周方向に延びる複数の植込溝421が形成されており、動翼411の植込部411aに形成されているフック部411bがロータディスク420の植込溝421に嵌合されている。なお、動翼411は、ロータディスク420に形成された切り欠き部422から挿入され、ロータディスク420の植込溝421に嵌合される。
【0012】
ここで、図24および図25に示すように、切り欠き部422に位置する止めブロック410は、止めブロック410の植込部410aおよび隣接する動翼411の植込部411aに、タービンロータ軸方向に平行にそれぞれ形成されたキー溝412a、412bによって形成される穴412にキー413を挿入することで固定されている。これによって、止めブロック410に加わる遠心力は、キー413を介して隣接する動翼411に支持され、止めブロック410の抜け出しが防止される。
【0013】
このタービン動翼翼列400において、止めブロック410を備えたことに対する重量バランスは、通常、止めブロック410のタービンロータ中心軸に対して対称となる位置に配置された動翼の重量を軽減することによって調整される。
【0014】
重量バランスの調整の最も簡単な方法は、カウンタ動翼(止めブロック410とタービンロータ中心軸に対して点対称な位置にある動翼)を、止めブロック410と同様の形状とすることである。しかしながら、この構成を採用すると、蒸気通路部の欠落部が周上に2箇所存在することとなり、性能が低下するため好ましくない。そのため、従来のタービン動翼翼列400では、止めブロック410とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側に位置する何本かの動翼(例えば、図22における番号59〜番号88)を、図26に示されているように局部的に加工して、すなわち溝415を設けて重量を調整し、重量バランスを調整している。以下、溝415を設けて重量が調整された動翼を重量軽減動翼という。
【0015】
次に、締付用部品として止め翼を備えた、従来のタービン動翼翼列について説明する。
【0016】
図27は、締付用部品として止め翼440を備えた、従来のタービン動翼翼列401を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。なお、止め翼440の固定方法は、前述した止めブロック410を固定する方法と基本的に同様であるが、止め翼440を用いる場合は、止め翼440の植込部およびロータディスクにピン穴を設け、それぞれのピン穴に止めピンを挿入して止め翼440の遠心力による浮き上がりを完全に防止するように構成する。
【0017】
上記したように、段落損失の増加を防止するという観点から、締付用部品として、止め翼を採用する傾向になっている。ここで、全周に、例えば148本の動翼411(止め翼440も含む)を備える構成を最初から考慮して設計製作する場合には、重量バランスの調整は容易に行える。しかしながら、例えば、締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更や構造変更によって、締付用部品として止め翼を採用した構成にする場合には、当初の重量バランス状態を考慮した上で、重量バランスを調整しなければならず、容易に行うことはできない。
【0018】
例えば、新たに製作される止め翼440が、動翼411と同じ鉄鋼系材料で形成されている場合、前述した、締付用部品として止めブロック410を備えるときに使用された重量軽減動翼を、全て通常の動翼411に置き換えて、アンバランス量を小さくした上で対策を考えることになる。ここで、1つの方策として、止め翼440を備えることによるアンバランス量を小さくするために、止め翼440をチタンで形成し、止め翼440とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側(以下、カウンタ側という)に位置する何本かの動翼(例えば、図27における番号70〜番号78)を、重量軽減動翼とすることで重量バランスが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−220405号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Turbine steam Path- Volume IIIb-Mechanical Design and manufacture, Sanders, William P, Pennwell Corp.,2004, ISBN 1-59370-010-5, p.616, p.638-642, p.645-646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記したように、従来のタービン動翼翼列では、締付用部品として、止めブロックまたは止め翼を採用する場合、重量バランスを調整するために、カウンタ側に、複数の重量軽減動翼が配置される。この重量軽減動翼は、前述したように、動翼に溝を設けて構成されるが、強度上の制約から溝を大きく形成することができない。そのため、通常の動翼を重量軽減動翼に置き換えても重量の低減量は少ない。したがって、カウンタ側に多くの重量軽減動翼を配置しなければならない。
【0022】
また、動翼の設計条件が強度において厳しく制限されている場合などにおいては、重量軽減動翼を使用することが許されないこともある。このような場合には、締付用部品として止めブロックを採用したり、カウンタ動翼として止めブロックと同様の形状の動翼を採用したりする必要があり、段落損失が増加する設計となる。
【0023】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、種々の制約を受けることなく重量バランスの調整をすることができるタービン動翼翼列、およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、タービンロータのロータディスクの外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼の植込部を嵌合して保持させ、前記ロータディスクに形成された切り欠き部に止め翼を固定してなるタービン動翼翼列において、前記複数の動翼が、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼、前記普通翼よりも周方向の翼幅が広い長幅翼、および前記普通翼よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼の3種類の動翼で構成されていることを特徴とするタービン動翼翼列が提供される。
【0025】
また、本発明の一態様によれば、上記したタービン動翼翼列を備えたことを特徴とする蒸気タービンが提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のタービン動翼翼列およびこのタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンによれば、重量バランスの調整をする際に受ける制約を少なくし、容易に重量バランスの調整を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のタービン動翼翼列を備えた蒸気タービンの、タービンロータの中心線を含む断面(子午断面)を示す図である。
【図2】締付用部品として止め翼を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図3】動翼の周方向の翼幅を説明するために、普通翼をタービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図4】タービン動翼翼列を構成する短幅翼の周方向の断面を展開して示した図である。
【図5】図4に示された翼幅Sよりも狭い翼幅Sを有する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。
【図6】締付用部品として止めブロックを備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図7】図6に示された締付用部品に換えて止め翼を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図8】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に、長幅翼および短幅翼を使用してすれ幅などが調整されたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図9】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じるずれ幅を説明するための、タービン動翼翼列の一部を展開した図である。
【図10】所定の動翼(普通翼)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じる戻し幅を説明するための、タービン動翼翼列の一部を展開した図である。
【図11】補修溝が加工されたロータディスクの植込部を示す斜視図である。
【図12】補修用動翼が植設された、ロータディスクの植込部における周方向の断面を示す図である。
【図13】図12のA−A断面を示す図である。
【図14】補修用動翼の植込部の周方向の中央に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図15】補修用動翼の植込部の、周方向の、中央と端部との間に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図16】補修用動翼の植込部の周方向の端部に補修溝が位置するときの、ロータディスクの植込部の第1フックと、補修用動翼の植込部の第1フックとの間の面圧を模式的に示す図である。
【図17】補修用動翼の植込部の周方向の一端部と、補修溝の周方向の一端部との周方向距離Mを示した図である。
【図18】補修用動翼を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図19】図18の補修用動翼が配置された領域を拡大した図である。
【図20】補修用動翼を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図21】図20の補修用動翼が配置された領域を拡大した図である。
【図22】締付用部品として止めブロックを備えた、従来のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【図23】止めブロックを周方向からみたときの平面図である。
【図24】止めブロックを備えた部分の、タービン動翼翼列を拡大した図である。
【図25】止めブロックの取付状態を示す分解斜視図である。
【図26】重量バランスを調整するために溝が設けられた動翼を周方向からみたときの平面図である。
【図27】締付用部品として止め翼を備えた、従来のタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を備えた蒸気タービン10の、タービンロータ14の中心線を含む断面(子午断面)を示す図である。
【0029】
図1に示すように、蒸気タービン10は、例えば、内部ケーシング11とその外側に設けられた外部ケーシング12とから構成される二重構造のケーシングを備えている。また、内部ケーシング11内には、タービンロータ14が貫設されている。このタービンロータ14には、タービンロータ軸方向に複数段のロータディスク15が形成されている。また、各ロータディスク15には複数の動翼13が周方向に植設され、タービン動翼翼列30を構成している。
【0030】
また、内部ケーシング11の内周側には、ダイヤフラム外輪16およびダイヤフラム内輪17との間に、複数のノズル18が周方向に支持され、ノズル翼列31を構成している。このノズル翼列31は、各タービン動翼翼列30の上流側に設けられ、ノズル翼列31とタービン動翼翼列30とによってタービン段落を構成している。
【0031】
さらに、蒸気タービン10には、蒸気入口管19が、外部ケーシング12および内部ケーシング11を貫通して設けられ、さらに蒸気入口管19の端部が、ノズルボックス20に連通して接続されている。
【0032】
このような構成を備える蒸気タービン10において、蒸気入口管19を経て、ノズルボックス20内に流入した蒸気は、各タービン段落を通過しながら、膨張仕事を行い、タービンロータ14を回転させる。膨張仕事をした蒸気は、排気され、例えば、低温再熱管(図示しない)を通りボイラ(図示しない)に流入する。
【0033】
次に、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30の構成について説明する。
【0034】
ここでは、タービン動翼翼列30において、(1)設計当初から締付用部品として止め翼を使用する場合、(2)締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼を使用する場合について説明する。
【0035】
(1)設計当初から締付用部品として止め翼40を使用する場合
図2は、締付用部品として止め翼40を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。なお、図2には、植設された動翼13(止め翼40を含む)の数に対応する番号が記載されている。また、図2において、止め翼40、長幅翼51および短幅翼52以外の動翼は、普通翼50である。図3は、動翼13の周方向の翼幅を説明するために、普通翼50をタービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【0036】
図2に示されたタービン動翼翼列30は、止め翼40および147枚の動翼13が周方向に設けられている。なお、動翼13の装着方法や止め翼40の固定方法は、前述した図24および図25に示した方法と同じである。
【0037】
図2に示すように、タービン動翼翼列30は、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅Nを有する普通翼50、普通翼50の翼幅Nよりも広い周方向の翼幅Lを有する長幅翼51、および普通翼50の翼幅Nよりも狭い周方向の翼幅Sを有する短幅翼52の3種類の動翼13で構成されている。
【0038】
ここで、普通翼50の周方向の翼幅は、理論計算上、全周の角度(すなわち360°)から止め翼40の周方向の翼幅に相当する角度を差し引いた角度を普通翼50の本数で除した角度に基づいて定めることができる。また、動翼13(普通翼50)の周方向の翼幅とは、図3に示すように、翼有効部13aと植込部13cとの間に形成されるシャンク部13bにおける翼有効部13a側端部の周方向の翼幅Nをいう。なお、長幅翼51、短幅翼52および止め翼40においても、周方向の翼幅の定義は、これと同じである。
【0039】
また、長幅翼51および短幅翼52のシャンク部や植込部における周方向の翼幅は、普通翼50におけるそれらと異なるが、長幅翼51および短幅翼52の翼有効部やシュラウドの構成は、普通翼50におけるそれらと同一の構成である。そのため、これらの動翼における重量差は、シャンク部や植込部における周方向の翼幅の違いによるものとなる。そして、動翼の周方向の翼幅の単位長さ当たりの重量は、短幅翼52、普通翼50、長幅翼51の順に大きい(短幅翼52>普通翼50>長幅翼51)。
【0040】
なお、例えば、長幅翼51の1本当たりの重量調整量は、前述した、溝を設けて重量が調整された重量軽減動翼の1本当たりの重量調整量よりも大きい。そのため、少ない本数の長幅翼51で重量バランスを調整することができる。
【0041】
次に、周方向幅および重量バランスの調整について説明する。
【0042】
図2において、番号1に、普通翼50ではなく、周方向の翼幅Cを有する止め翼40を配置することで、タービン動翼翼列30の周方向幅の増加分は、「C−N」で算出される。なお、止め翼40の翼幅Cは、普通翼50の翼幅Nよりも広い。そして、この幅の増加分に対する重量バランスを解消するためには、次の式(1)を満たすような、止め翼40とタービンロータ中心軸に対して点対称となる側であるカウンタ側の普通翼50をa本の長幅翼51に置き換えることによって、基本的に重量バランスを調整することができる。
C−N=a×(L−N) …式(1)
【0043】
aの値は、長幅翼51の翼幅Lと、普通翼50の翼幅Nとの差(L−N)(以下、ΔLという)によって決まり、ここでは仮にaを4とする。
【0044】
また、止め翼40の両側の動翼13には、止め翼40の遠心力がかかる。そこで、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51とすることで、これらの動翼13の植込部における応力を軽減することができる。そのため、ここでは、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51としている。
【0045】
止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51とすることで、この追加した2本の長幅翼51における重量バランスの調整のために、カウンタ側に、さらに2本の長幅翼51を追加する必要がある。この結果、カウンタ側(番号72〜番号77)には、6本の長幅翼51が設けられ、このタービン動翼翼列の周上には、全部で8本の長幅翼51が設けられる。8本の普通翼50を8本の長幅翼51に置き換えることで、事実上周方向の長さが「8×ΔL」だけ長くなる。この周方向の長さの増加分を削減するために、他の普通翼50に換えて短幅翼52が使用される。
【0046】
ここで、普通翼50の翼幅Nと、短幅翼52の翼幅Sとの差(N−S)(以下、ΔSという)がΔLに等しいとすると、重量バランスを崩さないように、8本の短幅翼52が、このタービン動翼翼列の周上に配列される。図2では、止め翼40の位置から±90度の位置およびその近傍の位置(番号36〜番号39、番号111〜番号114)に、それぞれ4本ずつ短幅翼52を設けた一例が示されている。
【0047】
上記したように、設計当初から締付用部品として止め翼40を使用する場合には、普通翼50の一部を、長幅翼51または短幅翼52に置き換えることで、重量バランスの調整を容易に行うことができる。なお、上記した重量バランスの調整方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【0048】
ここでは、ΔLとΔSが等しい一例を示したが、ΔLをΔSで除した値(ΔL/ΔS)が自然数となることが好ましい。この関係を有することで、長幅翼51と短幅翼52の本数比を単純化することができるため、重量バランスの調整を実用的かつ容易にすることができる。
【0049】
例えば、ΔL/ΔSが1の場合には、上記したΔLとΔSが等しい場合に相当する。また、ΔL/ΔSが2または3の場合には、1本の長幅翼51による翼幅の増加量ΔLを削減するために、短幅翼52を2本または3本備えることが必要となる。また、ΔL/ΔSが2または3の場合には、植込部の応力は、ΔL/ΔSが1の場合の植込部の応力の、それぞれ1/2、1/3となるので、植込部の応力レベルに応じて、ΔL/ΔSの値を設定することができる。
【0050】
なお、ΔL/ΔSが4以上の場合、植込部の応力は、ΔL/ΔSが1の場合の植込部の応力の1/4となるので、応力の観点から好ましいが、1本の長幅翼51による翼幅の増加量ΔLを削減するために、短幅翼52を4本備えることが必要となり、重量バランスの調整が煩雑になる傾向がある。そのため、ΔL/ΔSを4以上に設定することもできるが、長幅翼51や短幅翼52の本数を削減するという観点から、3以下に設定することが好ましい。
【0051】
また、長幅翼51の翼幅Lは、普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定されることが好ましい。すなわち、長幅翼51の翼幅Lは、普通翼50の翼幅Nの1倍より広く、かつ普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定されることが好ましい。
【0052】
この理由を次に述べる。長幅翼51は、普通翼50と同一の翼有効部を、普通翼50よりも周方向の翼幅がΔLだけ広い植込部で支えるため、植込部の遠心力に基づく応力は、普通翼50におけるものよりも低くなる。そのため、応力の観点からは、ΔLを大きく設定しても支障はない。しかしながら、長幅翼51も、普通翼50と同様に、タービンロータのロータディスクの植込部に設けられた切欠溝から挿入されるため、植込部のフックの接触幅がΔL小さくなる。このため、長幅翼51の翼幅Lが、普通翼50の翼幅Nの1.05倍を超えることは好ましくない。また、長幅翼51の翼幅Lを普通翼50の翼幅Nの1.05倍以下に設定することで、隣り合う動翼の距離が離れることで生じる蒸気流の乱れを抑制することもできる。
【0053】
また、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。すなわち、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの1倍より狭く、かつ普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。
【0054】
この理由を次に述べる。短幅翼52は、普通翼50と同一の翼有効部を、普通翼50よりも周方向の翼幅がΔSだけ狭い植込部で支えるため、植込部の遠心力に基づく応力は、普通翼50におけるものよりも高くなる。通常、動翼の植込部の使用応力は、許容応力に対する余裕を小さく設計することが多いことから、この応力の増加量は、極力抑える必要がある。また、短幅翼52の翼幅Sが狭くなると、構造上の制約も受けることから、短幅翼52の翼幅Sを、普通翼50の翼幅Nの0.95倍よりも狭くすることは好ましくない。
【0055】
ここで、図4は、タービン動翼翼列を構成する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。図5は、図4に示された翼幅Sよりも狭い翼幅Sを有する短幅翼52の周方向の断面を展開して示した図である。
【0056】
例えば、低圧タービン段落を構成するタービン動翼翼列の動翼13において、図4に示すように、翼有効部13aの後縁端は、シャンク部13bから飛び出すように形成される。そして、組立上の要求から、図5に示すように、シャンク部13bの一端側には、一般的に、張出部13dおよびこの張出部13dに対応する切欠部13eが設けられる。しかしながら、短幅翼52の翼幅Sが狭くなるほど、図5に示すように、翼有効部13aの前縁端がシャンク部13bから飛び出すように形成される。そして、組立上の要求から、図4に示すように、シャンク部13bの他端側には、一端側と同様に、張出部13fおよびこの張出部13fに対応する切欠部13gが設けられる。そのため、動翼13を加工する工程が大幅に増加する。さらに、短幅翼52の翼幅Sが狭くなると、隣り合う動翼13間の距離が小さくなり、蒸気の流れの特性を変えることがある。このようなことからも、短幅翼52の翼幅Sは、普通翼50の翼幅Nの0.95倍以上に設定されることが好ましい。
【0057】
(2)締付用部品として止めブロック60を備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼40を使用する場合
図6は、締付用部品として止めブロック60を備えたタービン動翼翼列を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図7は、図6に示された締付用部品に換えて止め翼40を備えた、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。
【0058】
ここでは、止め翼40として、チタン製の翼を使用した一例を示す。チタン製の止め翼40の形状は、前述した、動翼を構成する通常の材料で構成された止め翼40の形状と同じである。また、チタン製の止め翼40の重量は、動翼を構成する通常の材料で構成された止め翼40の重量の約60%程度となる。
【0059】
締付用部品として止めブロック60を備えるタービン動翼翼列では、図6に示すように、止めブロック60を備えたことに対する重量バランスは、止めブロック60のカウンタ側の何本かの普通翼50を、溝を設けて重量が調整された重量軽減動翼70に置き換えることで調整されている。ここでは、番号59〜番号88に30本の重量軽減動翼70を設けて重量バランスの調整が施されたタービン動翼翼列を示している。なお、重量軽減動翼70の翼幅は、普通翼50の翼幅Nと同じである。
【0060】
次に、図6に示された止めブロック60に換えて止め翼40を備え、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30を構成する際の重量バランスの調整について説明する。
【0061】
止めブロック60に換えて止め翼40を備え、止め翼40のカウンタ側の30本の重量軽減動翼70を普通翼50に置き換えるとともに、その普通翼50のうちのb本を重量バランスを調整するために短幅翼52に置き換えたときの重量バランスに関する関係式は、式(2)のようになる。なお、ここでも、上記した理由と同様の理由から、止め翼40の両側の動翼13を長幅翼51としている。
止め翼40の重さ−止めブロック60の重さ+2×(長幅翼51の重さ−普通翼50の重さ×(1+ΔL/N))=普通翼50の重さ×(30−b)+(短幅翼52の重さ+普通翼50の重さ×ΔS/N)×b …式(2)
【0062】
式(2)の左辺では、止めブロック60およびこの止めブロック60の両側が普通翼50で構成された場合と、止め翼40およびこの止め翼40の両側が長幅翼51で構成された場合との重量差を算出している。なお、この際、止め翼40および2本の長幅翼51における周方向の翼幅は、「C+2×L」、すなわち「C+2×(N+ΔL)」であるのに対して、止めブロック60および2本の普通翼50における周方向の翼幅は、「C+2×N」である。そのため、左辺における重量差の算出において、同じ周方向の翼幅で評価するため、止めブロック60および2本の普通翼50における周方向の翼幅を「C+2×(N+ΔL)」としている。また、この周方向の翼幅が増加した分は、普通翼50の周方向の翼幅が増加したとみなして重量を算出している。
【0063】
また、式(2)の右辺では、止め翼40のカウンタ側において、重量軽減動翼70に換えて30本の普通翼50で構成した場合と、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合との重量差を算出している。なお、この際、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合おける周方向の翼幅は、「(30−b)×N+b×(N−ΔS)」であるのに対し、30本の普通翼50で構成した場合おける周方向の翼幅は、「30×N」である。そのため、右辺における重量差の算出において、同じ周方向の翼幅で評価するため、30本の普通翼50のうちb本を短幅翼52に換えて構成した場合おける周方向の翼幅を、「(30−b)×N+b×(N−ΔS)+b×ΔS」、すなわち「30×N」としている。また、この周方向の翼幅が増加した分は、普通翼50の周方向の翼幅が増加したとみなして重量を算出している。
【0064】
ここで、bを4とし、ΔSがΔLに等しいとすると、図7に示すように、止め翼40のカウンタ側に、4本の短幅翼52(例えば、番号73〜番号76)が設けられ、その周囲に26本の普通翼50(例えば、番号60〜番号72、番号77〜番号89)が設けられる。また、タービン動翼翼列30の周上には、全部で4本の短幅翼52が設けられる。そのため、4本の普通翼50を4本の短幅翼52に置き換えることで、事実上周方向の長さが「4×ΔS」だけ短くなる。この周方向の長さの減少分を補うために、他の普通翼50に換えて長幅翼51が使用される。ここでは、上記したように、ΔSがΔLに等しいとしているので、重量バランスを崩さないように、4本の長幅翼51が、このタービン動翼翼列の周上に配列される。すでに、止め翼40の両側に1本ずつ長幅翼51が備えられているので、図7に示すように、止め翼40の位置から±90度の位置(番号112および番号38)に、それぞれ1本ずつ長幅翼51を設けた。
【0065】
上記したように、止めブロック60に換えて止め翼40を備える場合においても、重量軽減動翼70を使用せずに、普通翼50の一部を、長幅翼51または短幅翼52に置き換えることで、重量バランスの調整を容易に行うことができる。重量軽減動翼70を使用しないため、強度の低下を防止することができる。さらに、締付用部品として止め翼40を使用するため、締付用部品として止めブロック60を使用する場合よりも、段落損失を抑制することができる。
【0066】
なお、上記した重量バランスの調整方法は、一例であり、これに限定されるものではない。また、ΔL/ΔS、長幅翼51の翼幅Lおよび短幅翼52の翼幅Sについては、前述したとおりである。
【0067】
上記したように、第1の実施の形態のタービン動翼翼列30によれば、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、使用する締付用部品の構成が制約されることなく、重量軽減動翼などを採用せずに、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。さらに、使用する締付用部品の構成が制約されることがないため、例えば、締付用部品による段落損失を防止し、効率の向上を図ることができる。さらに、重量軽減動翼などを採用しないため、機械的な強度を維持することができ、タービン動翼翼列としての信頼性を向上させることができる。
【0068】
また、設計当初から締付用部品として止め翼を使用する場合、および締付用部品として止めブロックを備えていたものを、後の設計変更によって、締付用部品として止め翼を使用する場合であっても、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。
【0069】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、所定の動翼を動翼の周方向の翼幅の範囲内で、例えばタービン動翼翼列の回転方向または反回転方向に移動させて配置可能とし、その移動によって生じたずれ幅を、長幅翼51および短幅翼52を組み合せて備えることで補充し、さらに重量バランスの調整を行うことができるタービン動翼翼列を示す。
【0070】
例えば、所定の動翼を、タービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらしたい場合、締付用部品と所定の動翼との間に次の式(3)を満たすc本の長幅翼51およびd本の短幅翼52を普通翼50に換えて備えることで実現できる。なお、cおよびdは、長幅翼51および短幅翼52の数が最小となるように設定されることが好ましい。
H=c×ΔL−d×ΔS …式(3)
【0071】
ここでc、dは自然数である。なお、重量バランスを調整するために、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられた位置のカウンタ側は、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられた位置と同様に、長幅翼51および短幅翼52に置き換えられる。
【0072】
具体的には、例えば、Hが2.5mm、ΔLが1mm、ΔSが0.5mmである場合、cを3、dを1とすることができる。
【0073】
図8は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に、長幅翼51および短幅翼52を使用してすれ幅などが調整されたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図9は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じるずれ幅を説明するための、タービン動翼翼列30の一部を展開した図である。図10は、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に、H(H<N)だけずらした場合に生じる戻し幅を説明するための、タービン動翼翼列30の一部を展開した図である。
【0074】
図9に示すように、4本の普通翼50を3本の長幅翼51および1本の短幅翼52(j1群)に置き換えることによって、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列30の反回転方向に2.5mm移動することができる。また、所定の動翼(普通翼50a)をタービン動翼翼列の反回転方向に2.5mm移動することで、図10に示すように、2.5mmの戻し幅が発生する。この戻し幅は、5本の普通翼50を5本の短幅翼52に置き換えることによって解消することができる。戻し幅を調整するための短幅翼52(k1群)は、図8に示すように、3本の長幅翼51および1本の短幅翼52からなるj1群の位置に対して、タービン動翼翼列の反回転方向にほぼ90度の位置に構成される。
【0075】
また、重量バランスを調整するために、j1群のカウンタ側(j2群)には、j1群と同じ構成で、長幅翼51および短幅翼52が設けられ、k1群のカウンタ側(k2群)には、k1群と同じ構成で、短幅翼52が設けられる。なお、ここでは、止め翼40の一方の側の動翼を長幅翼51で構成した一例を示しているが、止め翼40の両側の動翼を長幅翼51で構成してもよい。この場合には、重量バランスを調整するため、この長幅翼51のカウンタ側にも、長幅翼51が配置される。そのため、k1群およびk2群に隣接する普通翼50を短幅翼52に換えることで、周方向幅の調整および重量バランスの調整を行うことができる。
【0076】
上記したような所定の動翼の移動が必要になる事例としては、タービン動翼翼列を構成する動翼と動翼との間におけるロータディスク15の損傷の発生が挙げられる。この損傷は、主として、蒸気に含まれる不純物が動翼間の間隙に堆積することに起因する腐蝕疲労である。このような損傷あるいは損傷の兆候が発見されると、通常、直ちに研削等によってロータディスク15の表面から損傷などが除去される。そして、除去後の損傷サイズが小さな場合には、応急処置として、上記したように、損傷の発生源である動翼間の位置を元の位置からずらすという対応が採られる。本発明に係るタービン動翼翼列では、このような対応に適応することが可能である。
【0077】
上記した所定の動翼を周方向に所定幅移動させて配置可能とする構成は、他の状況においても適用することができる。次に、他の適用例について説明する。
【0078】
タービンロータ14のロータディスク15の表面の損傷が進展すると、例えば、動翼間に位置する、ロータディスク15の植込部80の外周面に発生した腐蝕疲労痕からクラックが形成されることがある。このクラックは、高サイクル疲労によって、タービンロータ14の内部に向かってほぼ半径方向に伝播することが知られている。
【0079】
図11は、補修溝90が加工されたロータディスク15の植込部80を示す斜視図である。クラックが形成された場合、図11に示すように、溝加工によってクラックを完全に削り取る処理が施されるが、クラックは、単純に半径方向のみに進展するのではなく、周方向に傾いて進展することもある。また、加工された補修溝90の先端(溝底部)は、応力集中を軽減するため、R形状に仕上げられる。これらにより、補修溝90は、図11に示すように、所定の幅Wおよび深さYを有する溝となる。
【0080】
補修溝90が加工されたロータディスク15の植込部80は、例えば、図11に示すように、第1フック80aと第2フック80bが、補修溝90によって部分的に削除された形状となる。そのため、この補修溝90の位置に配置される動翼として、普通翼50を使用すると、補修溝90以外の部分的に残存する植込部80で、普通翼50の遠心力を支えなければならず、植込部80の応力が高くなり過ぎる。そこで、この遠心力を軽減するために、補修溝90の位置に配置される動翼として、例えば、チタン製の補修用動翼が使用される。
【0081】
ここで、図12は、補修用動翼100が植設された、ロータディスク15の植込部80における周方向の断面を示す図である。図13は、図12のA−A断面を示す図である。図14は、補修用動翼100の植込部101の周方向の中央に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。図15は、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。図16は、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置するときの、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aと、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aとの間の面圧を模式的に示す図である。
【0082】
なお、これらの面圧は、フックに作用する反力を受圧面積で除したものであるが、1本の動翼について、フック各部位の作用反力によるモーメントがつりあう条件から、それぞれの部位に作用する反力が算出される。
【0083】
図14に示すように、補修用動翼100の植込部101の周方向の中央に補修溝90が位置する場合、補修溝90を挟んで両側に発生する面圧は、ほぼ均一であり、同じ圧力分布となる。ここで、補修用動翼100の植込部101の中央に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の中心に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の中心が位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する(図13参照)。
【0084】
図15に示すように、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置する場合、第1フック80aとの当接面積が多い側(図15では右側)の面圧は、低くほぼ均一になるのに対して、第1フック80aとの当接面積が少ない側(図15では左側)の面圧は、高くなる。この傾向は、第1フック80aとの当接面積が少ない側(図15では左側)において、当接面積の減少に伴って顕著になる。ここで、補修用動翼100の植込部101の、周方向の、中央と端部との間に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の中心に対応する位置が、補修用動翼100の植込部101の周方向の中心よりも補修用動翼100の植込部101の端部側に位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する。
【0085】
図16に示すように、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置する場合、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aの一端部102は、第1フック80aと当接しないため、面圧はかからない。一方、第1フック80aとの当接する部分における面圧は、ほぼ均一な分布を示す。ここで、補修用動翼100の植込部101の周方向の端部に補修溝90が位置するとは、補修溝90の周方向の一端部90aに対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102が位置するように、補修用動翼100が配置されていることを意味する。なお、隣接する動翼の植込部と接触する、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102は、補修溝90が形成された周方向の範囲内に位置すればよい。ここで、図17は、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102と、補修溝90の周方向の一端部90aとの周方向距離Mを示した図である。ここで、第1フック80aの面圧は(N/(N−M))倍に増大するので、Mは小さいほうが好ましい。組立て時の位置に対する公差を考慮して、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102と、補修溝90の周方向の一端部90aとの周方向距離Mを2mm以下とすることが実用的である。
【0086】
上記した面圧分布を考慮すると、図14または図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置することが好ましい。すなわち、図14に示すように、補修溝90の周方向の中心に対応する位置に、動翼(ここでは補修用動翼100)の周方向の中心が位置するように、動翼が配置されることが好ましい。また、図16や図17に示すように、補修溝90が形成された周方向の範囲内において、隣接する動翼(例えば、補修用動翼100と長幅翼51)の植込部どうしが接触するように配置されることが好ましい。このように補修用動翼100を配置することで、応力的に最も安定した補修を行うことができる。
【0087】
ここで、図14または図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置する際、重量バランスを調整するために、長幅翼51や短幅翼52を使用するが、これらの動翼の使用数を極力少なくするために、図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置することがさらに好ましい。図16に示した補修用動翼100の配置を採用することで、長幅翼51や短幅翼52の使用数を少なくできるのは、図9を参照して説明した、ずれ幅が小さく抑えられるからである。
【0088】
ここで、図16に示した面圧分布が得られるように補修用動翼100を配置する場合における、重量バランスの調整について説明する。
【0089】
図18は、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図19は、図18の補修用動翼100が配置された領域を拡大した図である。
【0090】
図18では、止め翼40から反回転方向の半周上に補修溝90を有する場合が示されている。また、止め翼40の両側には、長幅翼51が配置され、止め翼40は、前述した固定方法と同様の方法で長幅翼51に固定されている。
【0091】
また、図19に示すように、補修溝90の周方向の一端部90a(反回転方向の端部) に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(反回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号22)が配置されている。また、補修用動翼100は、前述した止め翼40と同様に、両側に配置された長幅翼51にキー110によって固定される。
【0092】
このように補修用動翼100を配置する際のタービン動翼翼列30を構成する方法の一例について説明する。ここでは、チタン製の補修用動翼100を使用し、補修用動翼100の翼幅が長幅翼51の翼幅Lと等しい場合について説明する。
【0093】
まず、補修用動翼100の配置位置を定める。ここでは、上記したように、補修溝90の周方向の一端部90a(反回転方向の端部)に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(反回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号22)が配置される。
【0094】
続いて、反回転方向の、止め翼40と補修用動翼100の間に普通翼50を配置する。ここで、普通翼50を配置するだけでは周方向の位置調整ができない場合には、長幅翼51や短幅翼52を使用して、止め翼40と補修用動翼100の間の動翼の位置調整を行う。ここでは、図18および図19に示すように、止め翼40と補修用動翼100の間の動翼の位置調整のために、5本の長幅翼51が使用されている。この5本の長幅翼51、補修用動翼100および補修用動翼100の一方の側の長幅翼51が配置された部分をB部という。
【0095】
ここでは、止め翼40の反回転方向側に配置されている長幅翼51、および長幅翼51と同じ翼幅の補修用動翼100を備えるため、翼幅の観点から、止め翼40と補修用動翼100の間に、全部で7本の長幅翼51を使用していることに相当する。さらに、補修用動翼100の反回転方向側の長幅翼51を含めると、すでに8本の長幅翼51が使用されていることに相当する。そのため、長幅翼51を備えることで生ずる周方向幅の増加量を、短幅翼52を使用することで相殺する必要がある。なお、ここでは、ΔLとΔSが等しくなるように、長幅翼51および短幅翼52を構成している。また、ここでは、補修用動翼100の翼幅を長幅翼51の翼幅Lと同じにした一例を示したが、例えば、補修溝90の幅Wなどに応じて、補修用動翼100の翼幅は、普通翼50の翼幅Nまたは短幅翼52の翼幅Sと同じにしてもよい。
【0096】
止め翼40と補修用動翼100の間の配列が定まった後、軽量化されたB部の重量を補うため、さらにはこれまで使用された長幅翼51による周方向幅の増加量を相殺するため、B部の反回転方向側に隣接させて、複数の短幅翼52を配置する。この短幅翼52が配置された部分をC部という。
【0097】
続いて、止め翼40と、止め翼40の両側に配置される長幅翼51とからなるA部を構成する部分の回転方向側に隣接させて、軽量化されたA部の重量を補うため、さらには止め翼40の回転方向側に配置される長幅翼51による周方向幅の増加量を相殺するため、複数の短幅翼52を配置する。この短幅翼52が配置された部分をE部という。
【0098】
続いて、A部、B部、C部、E部との重量バランスの調整および周方向の長さの最終調整のために、これらの領域のカウンタ側となる部分に、複数の長幅翼51を配置する。この長幅翼51が配置された部分をD部という。
【0099】
このようにして、図18に示す、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30が構成される。なお、止め翼40、長幅翼51および短幅翼52以外の部分は、普通翼50で構成されている。
【0100】
ここで、図20は、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30を、タービンロータ軸方向の上流側から見たときの模式図である。図21は、図20の補修用動翼100が配置された領域を拡大した図である。
【0101】
図20および図21には、止め翼40から回転方向の半周上に補修溝90を有する場合が示されている。また、止め翼40の両側には、長幅翼51が配置され、止め翼40は、前述した固定方法と同様の方法で長幅翼51に固定されている。
【0102】
また、図21に示すように、補修溝90の周方向の一端部90a(回転方向の端部)に対応する位置に、補修用動翼100の植込部101の周方向の一端部102(回転方向の端部)が位置するように、補修用動翼100(番号96)が配置されている。また、補修用動翼100は、前述した止め翼40と同様に、両側に配置された長幅翼51にキー110によって固定される。
【0103】
この止め翼40から回転方向の半周上に補修溝90を有する場合にも、上記した止め翼40から反回転方向の半周上に補修溝90を有する場合と同様の方法で、補修用動翼100を備えたタービン動翼翼列30が構成される。
【0104】
上記したように、第2の実施の形態のタービン動翼翼列30によれば、例えば、タービンロータ14のロータディスク15の表面に損傷が生じた場合においては、長幅翼51および短幅翼52を使用することによって、所定の動翼を移動して、その損傷部が蒸気に曝されないように構成することができる。このため、蒸気タービンの安全性を向上させることができる。
【0105】
また、ロータディスク15の植込部80に、クラックを除去するために形成された補修溝90を備え、例えば、補修溝90にかかる部分にチタン製の補修用動翼100を配置するような場合であっても、長幅翼51および短幅翼52を使用することによって、容易に、周方向幅の調節や重量バランスの調整を行うことができる。また、補修溝90に対する補修用動翼100の配置位置を調整することができるため、例えば、ロータディスク15の植込部80の第1フック80aや、補修用動翼100の植込部101の第1フック101aにかかる応力を均一にすることができる。
【0106】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上記した実施の形態に示されたタービン動翼翼列は一例であり、これら構成に限定されるものではない。すなわち、重量軽減動翼を使用することなく、長幅翼51および短幅翼52を使用することで、周方向幅の調節や重量バランスの調整が行われたタービン動翼翼列であれば、本発明に係るタービン動翼翼列に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
10…蒸気タービン、11…内部ケーシング、12…外部ケーシング、13…動翼、13a…翼有効部、13b…シャンク部、13c…植込部、13d…張出部、13e…切欠部、13f…張出部、13g…切欠部、14…タービンロータ、15…ロータディスク、16…ダイヤフラム外輪、17…ダイヤフラム内輪、18…ノズル、19…蒸気入口管、20…ノズルボックス、30…タービン動翼翼列、31…ノズル翼列、40…止め翼、50、50a…普通翼、51…長幅翼、52…短幅翼、60…止めブロック、70…重量軽減動翼、80、101…植込部、80a…第1フック、80b…第2フック、90…補修溝、90a、102…一端部、100…補修用動翼、101a…第1フック、110…キー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータのロータディスクの外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼の植込部を嵌合して保持させ、前記ロータディスクに形成された切り欠き部に止め翼を固定してなるタービン動翼翼列において、
前記複数の動翼が、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼、前記普通翼よりも周方向の翼幅が広い長幅翼、および前記普通翼よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼の3種類の動翼で構成されていることを特徴とするタービン動翼翼列。
【請求項2】
前記長幅翼の翼幅が前記普通翼の翼幅よりもΔL広く、前記短幅翼の翼幅が前記普通翼の翼幅よりもΔS狭いとした場合、ΔLをΔSで除した値(ΔL/ΔS)が自然数となることを特徴とする請求項1記載のタービン動翼翼列。
【請求項3】
前記止め翼の両側に配置される動翼が、前記長幅翼であることを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼翼列。
【請求項4】
前記ロータディスクの外周部に発生したき裂を除去したことによって、前記ロータディスクの外周部の一部にタービンロータ軸方向に亘って補修溝が形成されている場合、
前記補修溝の周方向の中心に対応する位置に、前記動翼の周方向の中心が位置するように、前記動翼が配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタービン動翼翼列。
【請求項5】
前記ロータディスクの外周部に発生したき裂を除去したことによって、前記ロータディスクの外周部の一部にタービンロータ軸方向に亘って補修溝が形成されている場合、
前記補修溝が形成された周方向の範囲内において、周方向に隣接する動翼の植込部どうしが接触することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタービン動翼翼列。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のタービン動翼翼列を備えたことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項1】
タービンロータのロータディスクの外周部に形成された周方向に延びる植込溝に、複数の動翼の植込部を嵌合して保持させ、前記ロータディスクに形成された切り欠き部に止め翼を固定してなるタービン動翼翼列において、
前記複数の動翼が、理論計算に基づいて定まる周方向の翼幅を有する普通翼、前記普通翼よりも周方向の翼幅が広い長幅翼、および前記普通翼よりも周方向の翼幅が狭い短幅翼の3種類の動翼で構成されていることを特徴とするタービン動翼翼列。
【請求項2】
前記長幅翼の翼幅が前記普通翼の翼幅よりもΔL広く、前記短幅翼の翼幅が前記普通翼の翼幅よりもΔS狭いとした場合、ΔLをΔSで除した値(ΔL/ΔS)が自然数となることを特徴とする請求項1記載のタービン動翼翼列。
【請求項3】
前記止め翼の両側に配置される動翼が、前記長幅翼であることを特徴とする請求項1または2記載のタービン動翼翼列。
【請求項4】
前記ロータディスクの外周部に発生したき裂を除去したことによって、前記ロータディスクの外周部の一部にタービンロータ軸方向に亘って補修溝が形成されている場合、
前記補修溝の周方向の中心に対応する位置に、前記動翼の周方向の中心が位置するように、前記動翼が配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタービン動翼翼列。
【請求項5】
前記ロータディスクの外周部に発生したき裂を除去したことによって、前記ロータディスクの外周部の一部にタービンロータ軸方向に亘って補修溝が形成されている場合、
前記補修溝が形成された周方向の範囲内において、周方向に隣接する動翼の植込部どうしが接触することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタービン動翼翼列。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のタービン動翼翼列を備えたことを特徴とする蒸気タービン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図22】
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【図24】
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【図26】
【図27】
【公開番号】特開2011−185193(P2011−185193A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52776(P2010−52776)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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