説明

ターボ分子ポンプおよびターボ分子ポンプ用の翼構造

【課題】翼排気部における排気性能を一層向上させる。
【解決手段】動翼部65には、放射状のロータ翼65aを有する内周側の翼配列部65Aと、放射状のロータ翼65bを有する外周側の翼配列部65Bが半径方向に連続して形成されている。翼配列部65A、65Bを複数にしたので、各翼配列部のロータ翼またはステータ翼は、翼枚数、翼角度または翼厚さの少なくとも1つを他の翼配列部のものとの調整を図りながら最適なものとすることが可能となり、これにより、排気性能を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ターボ分子ポンプおよびターボ分子ポンプ用の翼構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高真空あるいは超高真空を得るターボ分子ポンプは、ケース部材内において、多数のロータ翼を有するロータを高速に回転し、ロータ翼とケース部材の内面に配列されたステータ翼とにより気体分子を吸気口側から排気ポート側に移送する。ロータは、モータにより回転駆動されるロータ軸に取り付けられ、例えば、数万r.p.m.の高速で回転される。
【0003】
ターボ分子ポンプの排気性能の指標として、排気速度や圧縮比がある。排気速度や圧縮比は、ロータ翼およびステータ翼(以下、両部材の総称として排気用翼という)の翼枚数、翼長、翼高さ、翼角度および翼厚さ等により変化する。排気速度や圧縮比等の排気性能を評価する1つのパラメータとして開口率が挙げられる。開口率とは、被排気(吸気口)側からの平面視において、排気用翼の外径を直径とする円の面積に対する排気用翼以外の面積の割合、換言すれば、排気用翼が重ならない領域の面積の割合をいう。
【0004】
例えば、排気用翼の翼枚数を増加すると開口率は減少し、翼角度を大きくすると開口率は増大する。開口率が大きいほど排気速度は大きくなるが、圧縮比は小さくなるという特性がある。開口率が大きいほど排気速度は大きくなると記載したが、Hガス等の分子量が小さい気体においては、ロータ翼の周速度に対して平均自由行程が大きく、被排気側に逆流する確率が大きくなり、開口率が大きすぎても排気速度が低下する。
【0005】
圧縮性能を確保するため、一般には、排気口側である後段側の排気用翼の開口率を前段側に比して小さくする。開口率を小さくするには、上述した如く、翼枚数を多くしたり、翼角度を小さくしたりする。
翼枚数を多くして圧縮性能を高める結果、排気用翼は内周側において隣り合う翼同士が重なり合う、換言すれば、平面視で隣り合う翼同士の間に開口が無い構造となる(例えば、特許文献1の図6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−105851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排気用翼の隣り合う翼同士が重なり合う領域においては、排気速度は、翼角度や翼厚さ等によっても変化するが、平面視において隣り合う翼同士間に開口がある場合に比して低下する場合がある。翼角度や翼厚さ等の要素が同一であることにより、翼の内周側と外周側で翼同士間の開口をいずれも最適なものとすることができない。例えば、翼内周側で開口を設けると、外周側の開口は大きくなりすぎ、結果として排気性能が著しく低下する場合があった。このため、排気用翼の内周側において平面視で隣り合う翼同士間に開口を設けられない構造では、その分、排気速度等の性能が低いものであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のターボ分子ポンプは、ロータに一体的に設けられたロータ軸の周囲に、放射状に形成された複数のロータ翼を有する動翼部と、外周側がスペーサに支持され、放射状に形成された複数のステータ翼を有する静翼部とがロータ軸の軸方向に多段に配列され、モータによりロータを回転して、動翼部と静翼部が多段に配列されて構成された翼排気部により、気体を吸気口から吸入し、排気口に移送するターボ分子ポンプにおいて、翼排気部の所定の段における動翼部または静翼部の少なくとも一方は、半径方向において複数列の翼配列部を同心状に有し、かつ、翼配列部に形成されたロータ翼またはステータ翼は、翼枚数、翼角度または翼厚さの少なくとも1つが他の翼配列部に形成されたロータ翼またはステータ翼と異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、動翼部または静翼部の少なくとも一方には、放射状に形成された複数のロータ翼またはステータ翼を有する翼配列部が半径方向に複数列に配列されている。したがって、各翼配列部のロータ翼またはステータ翼は、翼枚数、翼角度または翼厚さの少なくとも1つを他の翼配列部のものとの調整を図りながら最適なものとすることが可能となり、これにより、排気速度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明に係るターボ分子ポンプの一実施の形態を示す断面図。
【図2】図1に図示されたターボ分子ポンプの翼排気部の拡大断面図。
【図3】図1に図示されたロータを被排気側から観た平面図。
【図4】図3に図示された後段側の動翼部の一部を示す拡大平面図。
【図5】図2に図示されたターボ分子ポンプの静翼部の平面図。
【図6】本発明の実施形態2としての動翼部または静翼部の平面図。
【図7】本発明の実施形態3としての動翼部または静翼部の平面図。
【図8】本発明の実施形態4としての動翼部の平面図。
【図9】本発明の実施形態5としての動翼部の平面図。
【図10】(a)、(b)は本発明の実施形態6を示し、(a)は動翼部または静翼部の平面図、(b)は(a)の矢印A方向から観た動翼部または静翼部の一部を示す側面図。
【図11】本発明の実施形態7を示し、動翼部または静翼部の一部を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
以下、図を参照して本発明に係るターボ分子ポンプ1の一実施の形態について説明する。
図1には、磁気軸受式のターボ分子ポンプの断面図が示されている。ターボ分子ポンプ1は、上ケース12とベース13からなるケース部材11を備えている。上ケース12とベース13はシール部材42を介して密着して固定され、ケース部材11の内部は外部から密封された構造とされている。
【0012】
ケース部材11の中心軸上には、ロータ軸5が配置されている。ロータ軸5上にはロータ軸5と同軸上に取り付けられたロータ60が配置されている。ロータ軸5とロータ60とは、ボルト等の締結部材48により強固に固定されている。
ロータ軸5は、ラジアル方向の磁気軸受31(2箇所)およびスラスト方向の磁気軸受32(上下一対)によって非接触で支持される。ロータ軸5の浮上位置は、ラジアル変位センサ33a、33bおよびアキシャル変位センサ33cによって検出される。磁気軸受31、32によって回転自在に磁気浮上されたロータ軸5は、モータ35により高速回転駆動される。
【0013】
ロータ軸5の下面には、メカニカルベアリング34を介してロータディスク38が取り付けられている。また、ロータ軸5の上部側にはメカニカルベアリング36が設けられている。メカニカルベアリング34、36は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受が作動していない時にはメカニカルベアリング34、36によりロータ軸5が支持される。
【0014】
ロータ60は、上部側の動翼固定部60aと、下部側のロータ円筒部60bとの二段構造を有する。動翼固定部60aには、後述する動翼部61〜67が固定されている。最終段、すなわち、最も排気口側の動翼部67から下方は、ロータ円筒部60bとされている。
動翼固定部60aの外周には、動翼部61〜67と静翼部71〜77が設けられている。上下一対の動翼部の間には、静翼部71〜77がリング状のスペーサ21を間に挟んで設けられ、これにより動翼部61〜67および静翼部71〜77がポンプの軸方向に多段に積層されている。各段の静翼部71〜77は、後述する如く、平面視で半円形に分割されている。
【0015】
動翼部61〜67と静翼部71〜77を、図1に図示される如く、多段に積層された構造に組立てる方法の一例を以下に示す。予め、ロータ60の動翼固定部60aに、動翼部61〜67を固定しておく。各動翼部61〜67の間に、半円形の静翼部71〜77を、それぞれ、各動翼部61〜67の対向する外周側から挿入する。この組付け作業は、軸方向における下段側の動翼部67側から、上段側の動翼部61側に向けて順次行う。つまり、静翼部77を挿入したら、静翼部77の外周縁上にスペーサ21を搭載し、次に静翼部76を挿入して静翼部76の外周縁上にスペーサ21を搭載する、という作業を繰り返す。各スペーサ21は各動翼部67〜61の外径より大きく、静翼部77〜71より小さい内径を有するリング形状を有しているので、この組付け作業は容易である。最上段の静翼部71を動翼部62と61との間に挿入したら、ロータ60と共に、静翼部77〜71およびスペーサ21を軸方向における下方側に移動して上ケース12内に収容する。そして、締結部材48により、ロータ60をロータ軸5に締結する。
【0016】
ロータ60のロータ円筒部60bの外周側には、リング状のネジステータ8がボルト41によりベース13に固定されている。ネジステータ8は螺旋状突部8aを有し、螺旋状突部8a間にはネジ溝部8bが形成されている。ロータ60のロータ円筒部60bの外周面とネジステータ8の内周面とは、ロータ60が高速に回転したときに、気体分子を上方から下方に移送することができるような間隙が設けられている。
【0017】
ベース13には排気ポート45が設けられ、この排気ポート45にバックポンプが接続される。ロータ60が取り付けられたロータ軸5を磁気浮上させ、この状態でモータ35によりロータ軸5高速回転駆動することにより、吸気口15側の気体分子が排気ポート45側へと排気される。
【0018】
ターボ分子ポンプ1は、上ケース12の内部空間に翼排気部2を有し、ベース13の内部空間にネジ溝排気部3を有するターボ分子ポンプである。翼排気部2は複数段の動翼部61〜67と複数段の静翼部71〜77とで構成されている。図1に図示の例では、翼排気部2は7段の動翼部61〜67と静翼部71〜77とにより構成され、被排気(吸気口)側の4段の動翼部61〜64および静翼部71〜74が前段側翼排気部2aを構成し、排気口側の3段の動翼部65〜67および静翼部75〜77が後段側翼排気部2bを構成している。
ネジ溝排気部3はロータ円筒部60bとネジステータ8とで構成されている。
【0019】
フランジ17は、締結部材(図示せず)により、図示しない真空チャンバの排気系の取付部に取りつけられる。モータ35によりロータ60を回転駆動すると真空チャンバ内の気体分子が吸気口15から流入する。吸気口15から流入した気体分子は翼排気部2において、下流側へと叩き飛ばされる。図示はしないが、動翼部61〜67のロータ翼と静翼部71〜77のステータ翼とは翼の傾斜方向が逆であり、且つ、傾斜角度は、高真空側である前段側から下流側である後段側に向けて、気体分子が逆行しにくい角度に変化して形成されている。気体分子は、翼排気部2において圧縮されて図示下方のネジ溝排気部3へ移送される。
【0020】
ネジ溝排気部3においては、ネジステータ8に対してロータ円筒部60bが高速回転すると粘性流による排気機能が発生し、翼排気部2からネジ溝排気部3へと移送された気体は圧縮されながら排気ポート45へ移送され真空排気される。
【0021】
図2は、翼排気部2の拡大断面図である。図2においては、軸芯から半分が図示されている。
ロータ60は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム系合金により形成されている。ロータ60の上部側の動翼固定部60aには、複数の動翼部61〜67が固定されている。各動翼部61〜67はアルミニウムまたはアルミニウム合金により形成されており、例えば焼嵌めにより開口部91が動翼固定部60aの外周に固定される。上述した如く、被排気側の4段の動翼部61〜64は前段側翼排気部2aを構成し、排気口側の3段の動翼部65〜67は後段側翼排気部2bを構成している。また、被排気側の4段の静翼部71〜74は前段側翼排気部2aを構成し、排気口側の3段の静翼部75〜77は後段側翼排気部2bを構成している。
【0022】
各動翼部61〜67には、それぞれ、ロータ60の軸心から放射状に延設されたロータ翼61a〜67aが形成されている。各段の動翼部61〜67に形成されたすべてのロータ翼61a〜67aは、それぞれ、翼長(根元部から先端部までの長さ)が同一である。また、各段の動翼部61〜67に形成されたロータ翼61a〜67aは、それぞれ、軸心に対して、同一の傾斜角度で傾斜されており、翼の高さ(軸方向の長さ)は同一である。
【0023】
動翼部61〜67のそれぞれに形成されるロータ翼61a〜67aの水平方向(軸心に直交する方向)に対する傾斜角度(翼角度)は、下段側のものほど小さくなっている。換言すれば、下段側のロータ翼ほど、軸心に対して水平に近い角度に形成されている。
これにより、気体分子が下段側から上段側に逆行し難くなっている。
前段側の動翼部61〜64には、それぞれ、放射状に形成された複数のロータ翼61a〜64a(図1参照)が、半径方向において単列に形成されている。
【0024】
図3は、図1に図示されたターボ分子ポンプ1の翼排気部2の後段側の動翼部65を被排気側から観た平面図であり、図4は、図3に図示された動翼部65の一部の拡大平面図である。
後段側の動翼部65〜67は、図3に図示されるように、内周側および外周側の翼配列部65A、65Bを有する。後段側の動翼部65〜67は、いずれも同様な構造を有しているが、以下は代表して、後部側の動翼部65〜67の中、最上段の動翼部65を例として説明する。
動翼部65は、放射状に形成された複数のロータ翼65aを有する内周側の翼配列部65Aと、放射状に形成された複数のロータ翼65bを有する外周側の翼配列部65Bとを有する。つまり、ポンプ回転軸に対して同軸に設けられ、半径方向に連続して配列された内周側の翼配列部65Aと外周側の翼配列部65Bの2つの翼配列部を有している。ロータ翼65aは、内周リング部92と中間リング部93の間に配列され、ロータ翼65bは、中間リング部93と外周リング部94の間に配列され、全体が一体的に形成されている。
【0025】
内周側の翼配列部65Aに形成されたロータ翼65aの翼枚数は、外周側の翼配列部65Bに形成されたロータ翼65bの翼枚数よりも少ない。
図3に図示された一実施の形態では、外周側の翼配列部65Aに形成されたロータ翼65aの翼枚数は40枚であるに比し、内周側の翼配列部65Aに形成されたロータ翼65aの翼枚数は半数の20枚として示されている。
そして、内周側の翼配列部65Aには、隣り合うロータ翼65aの間に、ロータ翼65aが重ならない領域、換言すれば、平面視で、隣り合うロータ翼65aの間に開口81が形成されている。つまり、翼配列部65Aの隣り合うロータ翼65a間には、軸方向に貫通する開口81が形成されている。また、外周側の翼配列部65Bにも、隣り合うロータ翼65bの間に、ロータ翼65bが重ならない領域である開口82が形成されている。
【0026】
このように、一実施の形態においては、動翼部65の内周側と外周側に翼配列部65A、65Bを形成した。これにより、内周側の翼配列部65Aに形成されたロータ翼65aの翼枚数を、外周側におけるロータ翼65bより少なくして、内周側の翼配列部65Aに、隣り合うロータ翼65aが重ならない領域である開口81を形成することが可能となる。
【0027】
なお、図3に図示された実施形態では、内周側の翼配列部65Aに形成されたロータ翼65aは、翼長全体に亘り隣り合うロータ翼65aが重ならない領域である開口81とされているが、隣り合うロータ翼65aは根元部で重なり合うように構成してもよい。
【0028】
隣り合うロータ翼65aが平面視で重なっている場合でも、各ロータ翼65aは円周方向に離間して配列されているので、円周方向外側に間隙を有している。本実施形態のように、ロータ翼65aの翼枚数を、ロータ翼65bの翼枚数よりも少なくして、平面視で重ならない領域をより大きくすることで、排気速度を向上することができる。すなわち、ロータ翼65aの排気速度は、翼角度、翼厚さ等のパラメータの影響を受けるが、外周側のロータ翼65bと同じ枚数の単列のロータ翼を用いる従来例に比べて、排気速度を向上することができるのである。
動翼部65の内周側の翼配列部65Aに開口81を形成するにあたっては、所望の圧縮性能を維持するように開口率を設定しつつ排気速度を向上することができるため、翼角度等を適宜に設定して圧縮性能を向上することも可能になる。
【0029】
動翼部66、67においても、動翼部65と同様に、ポンプ回転軸に対して同軸に設けられ、半径方向に連続して内周側の翼配列部66A、67Aと外周側の翼配列部66B、67Bが形成されている(図2参照)。
動翼部66は、動翼部65と同一の寸法、構造を有し、翼枚数、翼長さ、翼角度、翼厚さおよび翼高さが同一である。
図示はしないが、動翼部66、67の内周側の翼配列部66A、67Aと外周側の翼配列部66B、67Bにも、それぞれ、隣り合うロータ翼が重ならない領域である開口81、82が形成されている。
従って、動翼部66および67においても、動翼部65と同様の作用・効果を奏することができる。
【0030】
動翼部65〜67は、ダイカスト法または板金の成形または機械加工により形成することができる。
図4を参照して、板金の成形により動翼部65を形成する方法について説明する。
打ち抜き加工により板材に内周リング部92、中間リング部93、外周リング部94および内周側のロータ翼65a、外周側のロータ翼65bを形成する。打ち抜きは、内周側のロータ翼65aが一対の支持部83により内周リング部92および中間リング部93に連結され、外周側のロータ翼65bが一対の支持部84により中間リング部93および外周リング部94に連結されるように行う。打ち抜きにより、開口81、82が形成される。
【0031】
次に、曲げ成形により、支持部83、84を捩り軸芯としてロータ翼65a、65bを捩り、内周側および外周側のロータ翼65a、65bを所定の翼角度に傾斜させる。このようにして、放射状に形成されたロータ翼65aを有する内周側の翼配列部65Aと、放射状に形成されたロータ翼65bを外周側の翼配列部65Bとが一体に成形された動翼部65が得られる。
【0032】
図5は、図1に図示されたターボ分子ポンプ1の静翼部75の平面図である。
各静翼部71〜77は、中心線上で2分割された一対の半円形の静翼部材により構成されている。そして、各静翼部71〜77は、動翼部61〜67と同様に、それぞれに形成されるステータ翼の翼角度は、下段側のものほど小さくなっている。但し、ステータ翼の傾斜方向は、ロータ翼の傾斜方向と逆方向である。
【0033】
前段側の静翼部71〜74には、それぞれ、放射状に形成された複数のステータ翼が、半径方向において単列に形成されている。
一方、後段側の静翼部75〜77は、半径方向に配列された複数の翼配列部を有する。後段側の静翼部75〜77は、いずれも同様な構造を有しているが、以下は代表して、後部側の静翼部75〜77の中、最上段の静翼部75を例として説明する。
上述した如く、静翼部75は円形状部材を2分割して形成された、一対の半円形状の第1静翼部75−1と第2静翼部75−2により構成されている。第1静翼部75−1と第2静翼部75−2とは、同一の構造とされている。
【0034】
静翼部75は、上記した如く、2分割された第1、第2静翼部75−1、75−2により形成されている点を除けば、動翼部65と同様な構造を有する。
すなわち、第1静翼部75−1は、内周側の翼配列部75A1と外周側の翼配列部75B1を有し、第2静翼部75−2は、内周側の翼配列部75A2と外周側の翼配列部75B2を有する。なお、第1静翼部75−1の内周側の翼配列部75A1と第2静翼部75−2の内周側の翼配列部75A2とにより内周側の翼配列部75Aが構成される。同様に、第1静翼部75−1の外周側の翼配列部75B1と第2静翼部75−2の外周側の翼配列部75B2とにより外周側の翼配列部75Bが構成される。
【0035】
第1静翼部75−1において、内周側の翼配列部75A1に形成されたステータ翼75a1の翼枚数は、外周側の翼配列部75B1に形成されたステータ翼75b1の翼枚数よりも少ない。そして、翼配列部75A1および75B1には、それぞれ、隣り合うステータ翼75a1または75b1が重ならない領域である開口81、82が形成されている。
【0036】
第2静翼部75−2についても第1静翼部75−1と同様であり、第2静翼部75−2において、内周側の翼配列部75A2に形成されたステータ翼75a2の翼枚数は、外周側の翼配列部75B2に形成されたステータ翼75b2の翼枚数よりも少ない。そして、翼配列部75A2および75B2の両部材には、隣り合うステータ翼75a2または75b2が重ならない領域である開口81、82が形成されている。
【0037】
上記の構造は、静翼部76および77においても同様である。
このように、一実施の形態においては、後段側の静翼部75〜77に、内周側の翼配列部と外周側の翼配列部との複数の翼配列部を設ける構造とした。
従って、動翼部65〜67の場合と同様に、内周側の翼配列部のロータ翼の翼枚数を、外周側の翼配列部の翼枚数とは異なる枚数とすることができ、隣り合うロータ翼が重ならない領域を自由に設定することができる。これにより、静翼部75〜77においても排気速度を向上することができる。
【0038】
動翼部65〜67を、内周側と外周側に翼配列部を有する複数翼配列構造とし、静翼部75〜77を、内周側と外周側に翼配列部を有する複数翼配列構造とすることにより、排気速度の向上をより増大することができ、また、圧縮性能の向上を一層容易にすることが可能となる。
なお、上記一実施の形態において、後段側の動翼部65〜67と静翼部75〜77の一方のみに複数の翼配列部を設けるようにしてもよい。
【0039】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2を示し、動翼部110の平面図である。実施形態2の動翼部は、静翼部75〜77に対しても同様に適用することが可能である。
図6は、動翼部110の1/4周、すなわち、90度の領域の平面図であるが、他の領域も同様な構造を有する。
図6に図示された実施形態2の動翼部110が、実施形態1の動翼部65と相違する点は、動翼部110に翼配列部が3列形成されている点である。
【0040】
すなわち、動翼部110は、ロータ翼111aが放射状に形成された内周側の翼配列部111、ロータ翼112aが放射状に形成された中間の翼配列部112、ロータ翼113aが放射状に形成された外周側の翼配列部113を有する。
中間の翼配列部112に形成されたロータ翼112aの翼枚数は、外周側の翼配列部113に形成されたロータ翼113aの翼枚数よりも少ない。また、内周側の翼配列部111に形成されたロータ翼111aの翼枚数は、中間の翼配列部112に形成されたロータ翼112aの翼枚数よりも少ない。
このようにして、各翼配列部111〜113のすべてに、隣り合うロータ翼111a〜113aが重ならない領域である開口81、82、85が形成されている。
【0041】
実施形態2に示す動翼部110は、ダイカスト法または板金の成形または機械加工により形成することができる。
実施形態2においても、実施形態1と同様な効果を奏することができる。
なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
(実施形態3)
図7は、本発明の実施形態3を示し、動翼部120の平面図である。実施形態3の動翼部構造は、静翼部75〜77に対しても同様に適用することが可能である。
図7は、動翼部120の1/4周、すなわち、90度の領域の平面図であるが、他の領域も同様な構造を有する。
図7に図示された実施形態3の動翼部120では、内周側の翼配列部121に形成されたロータ翼121aおよび外周側の翼配列部122に形成されたロータ翼122aが、それぞれ、内周側において隣り合う翼同士が重なる領域を有し、外周側において隣り合う翼同士が重ならない領域である開口81、82が形成されるように配列されている。
なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
実施形態3においても、実施形態1と同様な効果を奏する。
また、実施形態3の動翼部構造は、各翼配列部121および122の翼枚数が第1、第2の実施形態の場合よりも多く配列されており、圧縮比を大きくする必要があるH等の軽ガスに対して適している。実施形態3に示す動翼部120は、機械加工により形成することができる。
【0044】
(実施形態4)
図8は、本発明の実施形態4を示し、動翼部130の平面図である。図8は、動翼部130の1/4周、すなわち、90度の領域の平面図であるが、他の領域も同様な構造を有する。
実施形態3の動翼部130は、図6に示す実施形態2の動翼部110と同様に、3列の翼配列部131〜133を有する。
ロータ翼131aが形成された内周側の翼配列部131およびロータ翼132aが形成された中間の翼配列部132は、実施形態1の翼配列部111および112と同様にダイカスト法または板金の成形により形成される。
外周側の翼配列部133は、ダイカスト法または板金の成形により形成することもできるが、機械加工により形成することもできる。
機械加工により形成する場合には、内側のリング部134と放射状のロータ翼133aを機械加工により形成し、外側のリング部135を各ロータ翼133aの外周側面に焼嵌めにより嵌合する。
【0045】
機械加工により、リング部134と放射状のロータ翼133aを作製する方法の一例を下記に示す。
(1)作製される動翼部130の外径よりも大きい外径を有する円柱状の素材を、旋盤等の工作機械に取り付け、切削により、ロータ翼133aの外周側面を形成する。
(2)次に、各ロータ翼133a間を、切削により除去して、各ロータ翼133aを所定の翼角度および所定の翼厚さに形成する。このとき、内側のリング部134の外周面134aが形成される。
(3)次に、工作機械から、一旦、取り外して、各ロータ翼133aの外周側面を工作機械により保持し、円柱状の素材の軸心側を切削し、内側のリング部134の内周面134bを形成する。
【0046】
このようにしてロータ翼133aが一体に形成されたリング部134を焼嵌めにより中間の翼配列部132の外周側のリング部132bに嵌合する。この後、外側のリング部135を各ロータ翼133aの外周側面に焼嵌めにより嵌合することにより、図8に図示される動翼部130が作製される。外側のリング部135を省略した動翼部としてもよい。
【0047】
実施形態4において、素材の材料の無駄を低減するため、予め、ダイカスト法等により、円柱状の素材の軸中心部分を中空とした円筒状の素材を形成しておくようにしてもよい。
なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0048】
(実施形態5)
図9は、本発明の実施形態5を示し、動翼部140の平面図である。図9は、動翼部140の1/4周、すなわち、90度の領域の平面図であるが、他の領域も同様な構造を有する。
実施形態5の動翼部140は、図7に示された実施形態3の動翼部120と同様な構造を有する。但し、実施形態5の動翼部130は機械加工により作製されるものである。
【0049】
すなわち、内周側の翼配列部141は、機械加工によりロータ翼141aとリング部141bが一体に形成されたものであり、外周側の翼配列部142は、機械加工によりロータ翼142aとリング部142bが一体に形成されたものである。そして、焼嵌めにより、外周側の翼配列部142のリング部142bを内周側の翼配列部141のロータ翼141aの外周側面に固定することにより図9に図示された動翼部140が作製される。
なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
図9に図示された動翼部140は、外周側の翼配列部142の各ロータ翼142aの外周側面にリング部が取り付けられていないが、焼嵌め等により取り付けるようにしてもよい。
【0051】
(実施形態6)
図10(a)、図10(b)は本発明の実施形態6を示し、図10(a)は、動翼部150の平面図であり、図10(b)は、図10(a)の矢印A方向から観た動翼部150の一部を示す側面図である。実施形態6の動翼部構造は、静翼部75〜77に対しても同様に適用することが可能である。
図10(a)は、動翼部150の1/4周、すなわち、90度の領域の平面図であるが、他の領域も同様な構造を有する。
図10(a)に示す動翼部150は、図7に図示された動翼部120と、平面視では、大略、同様であり、内周側の翼配列部151および外周側の翼配列部152は、それぞれ、隣り合うロータ翼151aまたは152aが重ならない領域である開口81、82を有する。
但し、図10(b)に図示されるように、動翼部150における内周側のロータ翼151aと外周側のロータ翼152aとは、翼角度が相違している。
なお、実施形態1と同一の部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
図面の明瞭化のため、図10(b)においては、内周側の翼配列部151に形成されたロータ翼151aは点線により、外周側の翼配列部152に形成されたロータ翼152aは実線により示されている。また、外周リング部94および中間リング部93は二点鎖線で示されている。
図10(b)図示されるように、内周側の翼配列部151に形成されたロータ翼151aの翼角度(水平方向に対するに対する翼の傾斜角度)θは、外周側の翼配列部152に形成されたロータ翼152aの翼角度θよりも大きい。換言すれば、内周側のロータ翼151aは、外周側のロータ翼152aよりも起立している。但し、内周側のロータ翼151aおよび外周側のロータ翼152aの翼高さ(軸方向の長さ)hは同一である。
【0053】
このことは、内周側の隣り合うロータ翼151aの間隔が外周側の隣り合うロータ翼152aの間隔よりも広いことを意味する。すなわち、内周側のロータ翼151aの翼角度が、外周側のロータ翼152aの翼角度と同じ場合よりも、翼配列部151の排気速度は大きくなる。
従って、実施形態6においても実施形態1と同様な効果を奏する。また、内周側のロータ翼151aおよび外周側のロータ翼の翼角度をそれぞれ独立して変更することにより、排気速度および圧縮比を任意に調整することが可能である。
【0054】
なお、図10(b)に図示された実施形態では、内周側のロータ翼151aおよび外周側のロータ翼152aの翼高さ(軸方向の長さ)hは同一としている。しかし、内周側のロータ翼151aと外周側のロータ翼152aの翼高さは異なるようにしてもよい。また、実施形態6において、内周側の翼配列部151のロータ翼151aと外周側の翼配列部152のロータ翼152aの翼枚数を同一にして、翼角度のみが異なるようにしてもよい。
【0055】
(実施形態7)
図11は本発明の実施形態7としての動翼部160を示す。図11は、図10(b)と同様に、動翼部160の側面から観た動翼部の一部を示す側面図である。実施形態7に示す構造は、静翼部75〜77に対しても同様に適用することが可能である。
図11においても、図面の明瞭化のため、内周側のロータ翼161aは点線により、外周側のロータ翼152aは実線により示されている。また、外周リング部94および中間リング部93は二点鎖線で示されている。
【0056】
図11に図示されるように、内周側のロータ翼161aの翼厚さtは、外周側のロータ翼152aの翼厚さtよりも薄く形成されている。但し、内周側のロータ翼161aおよび外周側のロータ翼162aの翼枚数、翼角度θおよび翼高さ(軸方向の長さ)hは同一である。
このことは、内周側の隣り合うロータ翼161aの間隔が外周側の隣り合うロータ翼162aの間隔よりも広いことを意味する。すなわち、内周側のロータ翼161aの翼厚さが外周側のロータ翼162aの翼厚さと同じ場合よりも、翼配列部161の排気速度は大きくなる。
従って、実施形態7においても実施形態1と同様な効果を奏する。
なお、実施形態7において、内周側のロータ翼161aと外周側のロータ翼162aの翼枚数および/または翼角度を異なるようにしてもよい。
【0057】
以上説明した通り、本発明によれば、放射状に形成されたロータ翼および/またはステータ翼が形成された翼配列部を、半径方向に複数列に設け、各翼配列部に、隣り合うロータ翼および/またはステータ翼が重ならない領域である開口81、82を設けたので、翼排気部2の排気速度を向上することができる。
【0058】
なお、各実施形態において、後段側の複数の動翼部および静翼部に、複数の翼配列部を形成した構造で例示したが、複数の翼配列部は、動翼部または静翼部のいずれか一方にのみ、しかも、1段のみに形成するようにしてもよい。逆に、前段側の動翼部または静翼部の一部またはすべてに複数の翼配列部を形成してもよい。
また、各実施形態に示された構造を部分的に選択して組み合わせて翼排気部を構成するようにしてもよい。
【0059】
その他、本発明は、発明の趣旨の範囲において種々変形して適用することが可能であり、要は、翼排気部を構成する動翼部または静翼部の少なくとも1つに、同心状に複数の翼配列部を設け、各翼配列部の翼枚数、翼角度または翼厚さの少なくとも1つが異なるように形成すればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ターボ分子ポンプ
2 翼排気部
2a 前段側翼排気部
2b 後段側翼排気部
3 ネジ溝排気部
12 上ケース
13 ベース
60 ロータ
60a 動翼固定部
60b ロータ円筒部
61〜67 動翼部
61a〜67a ロータ翼
65A〜67A 内周側の翼配列部
65B〜67B 外周側の翼配列部
71〜77 静翼部
75−1 第1静翼部
75−2 第2静翼部
75A1、75A2 内周側の翼配列部
75B1、75B2 外周側の翼配列部
81、82、85 開口
83、84 支持部
110、120、130、140、150、160 動翼部
111、121、131、141、151 内周側の翼配列部
112、132 中間の翼配列部
113、122、133、142、152 外周側の翼配列部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに一体的に設けられたロータ軸の周囲に、放射状に形成された複数のロータ翼を有する動翼部と、外周側がスペーサに支持され、放射状に形成された複数のステータ翼を有する静翼部とが前記ロータ軸の軸方向に多段に配列され、モータにより前記ロータを回転して、前記動翼部と前記静翼部が多段に配列されて構成された翼排気部により、気体を吸気口から吸入し、排気口に移送するターボ分子ポンプにおいて、
前記翼排気部の所定の段における前記動翼部または前記静翼部の少なくとも一方は、半径方向において複数列の翼配列部を同心状に有し、かつ、前記各翼配列部に形成された前記ロータ翼または前記ステータ翼は、翼枚数、翼角度または翼厚さの少なくとも1つが他の前記翼配列部に形成された前記ロータ翼または前記ステータ翼と異なることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、前記翼配列部は、各列において、前記ロータ翼または前記ステータ翼が平面視で重ならない領域を有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のターボ分子ポンプにおいて、内周側の前記翼配列部の前記ロータ翼または前記ステータ翼は、少なくとも、外周側の前記翼配列部に比して、翼枚数が少ないか、翼角度が大きいかまたは翼厚さが薄いかのいずれかの構造を有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプにおいて、複数列の前記翼配列部を有する前記動翼部または前記静翼部には、前記排気口に最も近い最終段の前記動翼部または前記静翼部が含まれることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプにおいて、前記最終段の動翼部または前記静翼部の両方が、複数列の前記翼配列部を有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のターボ分子ポンプにおいて、内周側および外周側の前記翼配列部に形成された前記ロータ翼または前記ステータ翼の翼枚数、翼角度および翼厚さが、互いに同一である複数の前記動翼部または前記静翼部を有することを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項7】
ロータ翼またはステータ翼が放射状に形成された翼配列部が、半径方向において複数列同心状に形成され、かつ、前記翼配列部は、各列において、前記ロータ翼または前記ステータ翼が、平面視で重ならない領域を有することを特徴とするターボ分子ポンプ用の翼構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−92063(P2013−92063A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233060(P2011−233060)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】