説明

ダイオキシン類の分析方法

【課題】少量の被検体で、ダイオキシン類を高精度かつ迅速に、しかも、効率よく測定可能なダイオキシン類の分析方法を提供する。
【解決手段】被検体11を高温かつ高圧力に保持する第1工程と、抽出液中の夾雑物を自動クリーンアップ装置13によって除去して精製した後、濃縮して濃縮液を作製する第2工程と、濃縮液中のダイオキシン類を分析する第3工程とを有し、自動クリーンアップ装置13では、連結カラム22の上流側に供給した抽出液中のダイオキシン類を活性炭カラム21に吸着させると共に抽出液中の夾雑物を除去する有機溶媒を連結カラム22に供給する操作と、活性炭カラム21に吸着しているダイオキシン類を脱離させる有機溶媒を少なくとも活性炭カラム21に供給する操作とを自動的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体、例えば、食品、排煙、排ガス、排水、水道原水、浄水、焼却灰、廃棄物、土壌、動植物等に含まれるダイオキシン類を短期間かつ高精度で測定するダイオキシン類の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体(例えば、食品、焼却灰、廃棄物、土壌、動植物等の試料そのものや、排煙、排ガス、排水、水道原水、浄水等を通過させたフィルター等)に含まれるダイオキシン類は、公定法(例えば、非特許文献1、2参照)によって、以下のように分析されている。まず、(1)細かく粉砕して秤量した被検体を有機溶媒に供給し、被検体中のダイオキシン類を有機溶媒で抽出し、(2)有機溶媒中のダイオキシン類を精製及び濃縮した後、(3)ダイオキシン類を各成分に分離する分析カラム(キャピラリーカラム)を備えた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計で測定している。ここで、本発明において、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、及びコプラナーPCB(Co−PCB)である。
【0003】
【非特許文献1】食品中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法暫定ガイドライン、厚生省、平成11年10月
【非特許文献2】日本工業規格、JIS K0311、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のダイオキシン類の分析方法は未だ解決すべき以下のような問題があった。
通常、被検体中のダイオキシン類の濃度は低く、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計で検出する際には、大量の試料が必要であった。特に、食品中のダイオキシン類を測定する場合、例えば、100g以上の食品を採取しなければならない。また、被検体中のダイオキシン類を有機溶媒に抽出する際には、分液漏斗による振とう抽出法では2時間、また、ソックスレー抽出法では16時間以上行わなければならなかった。更に、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計において、分析カラムで各成分を効率よく分離するためには、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に注入するサンプル(濃縮液)の量を1〜2μL(マイクロリットル)程度と少量にしなければならず、ダイオキシン類を高感度で測定することができなかった。また、ダイオキシン類の抽出及び精製等の操作は、自動化されていないため、作業効率が悪く、時間(30日程度)とコスト(主に、人件費)がかかっていた。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、少量の被検体で、ダイオキシン類を高精度かつ迅速に、しかも、効率よく測定可能なダイオキシン類の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係るダイオキシン類の分析方法は、被検体を高温かつ高圧力に保持する高速溶媒抽出装置によって該被検体中のダイオキシン類を有機溶媒に抽出させて抽出液を作製する第1工程と、該抽出液中の夾雑物を多層シリカゲルカラム及び活性炭カラムを連結した連結カラムを備えた自動クリーンアップ装置によって除去して前記抽出液からダイオキシン類を精製した後、濃縮して濃縮液を作製する第2工程と、該濃縮液を溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に供給し、前記濃縮液中のダイオキシン類を分析する第3工程とを有するダイオキシン類の分析方法であって、
前記自動クリーンアップ装置では、前記連結カラムの上流側に供給した前記抽出液中のダイオキシン類を前記活性炭カラムに吸着させると共に前記抽出液中の夾雑物を除去する有機溶媒を前記連結カラムに供給する操作と、前記活性炭カラムに吸着しているダイオキシン類を脱離させる有機溶媒を少なくとも前記活性炭カラムに供給する操作とを自動的に行う。
【0007】
高速溶媒抽出装置は、被検体を入れた有機溶媒(抽出溶媒)を高温(例えば、100〜200℃)かつ高圧(例えば、1500〜2000psi)の条件下におき、有機溶媒中にダイオキシン類を抽出させる高速溶媒抽出(Accelerated Solvent Extraction、ASE)を行う装置であって、例えば、ダイオネクス社製のASE−300(商品名)、ASE−200(商品名)等が使用できる。ここで、ダイオキシン類を溶出させる有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、アセトン、ヘキサン等があり、1種単独もしくは2種以上を混合して使用することができる。
通常、高速溶媒抽出前の試料(被検体)又は高速溶媒抽出後の抽出液に、クリーンアップスパイク(内部標準物質)を添加する。
【0008】
自動クリーンアップ装置は、抽出液中の夾雑物、例えば、油脂成分や色素等を自動的に除去する装置であって、例えば、ジーエルサイエンス株式会社(GLS社)製のDAC695(商品名)、DAC695W(商品名)等が使用できる。自動クリーンアップ装置は、抽出液中のダイオキシン類を吸着せず、夾雑物を吸着して除去可能な多層シリカゲルカラムと、供給する有機溶媒によって抽出液中のダイオキシン類を吸着又は脱離可能な活性炭カラムとを連結した連結カラムが装着されている。
【0009】
ここで、多層シリカゲルカラムとしては、硝酸銀シリカゲル及び硫酸シリカゲルを備えた例えば、GLS社製の多層クリーンアップカートリッジ(商品名)が使用できる。また、活性炭カラムとしては、表面に活性炭を析出させた球状のシリカゲル、例えば、GLS社製のカーボンシリカゲルカートリッジ(商品名)が使用できる。なお、活性炭カラムとして、吸着性能の異なる複数(例えば、2つ)のカーボンシリカゲルを積層して充填したものを使用することもできる。
【0010】
自動クリーンアップ装置では、例えば、まず連結カラムの上流側に予め抽出液を供給しておき、次に連結カラムの上流から有機溶媒(例えば、ヘキサン、ジクロロメタン含有ヘキサン)を自動的に供給して、抽出液中の夾雑物を多層シリカゲルカラムに吸着させると共に、ダイオキシン類を活性炭カラムに吸着させ、更に有機溶媒(例えば、トルエン等)を少なくとも活性炭カラムに自動的に供給して、活性炭カラムに吸着しているダイオキシン類を脱離させて精製を行うことができる。
【0011】
また、高速溶媒抽出装置で得られた抽出液を自動クリーンアップ装置で精製する前に、抽出液を濃縮した後、抽出液中の有機物を取り除く硫酸処理を行うのが好ましい。
更に、高速溶媒抽出装置で得られた抽出液を自動クリーンアップ装置で精製した後、例えば、エバポレーター等で有機溶媒を除去して、例えば、1mL程度まで濃縮して濃縮液を作製する。なお、精製操作及び濃縮操作は、それぞれ1又は2回以上行ってもよい。
【0012】
更に、濃縮液には、低沸点の有機溶媒(例えば、ジクロロメタン、ヘキサン)が含まれ蒸発し易くなっており、有機溶媒の蒸発及び内容物の乾固に伴って濃縮液中のダイオキシン類が揮散することがある。従って、窒素気流により濃縮液中の低沸点の有機溶媒を、乾固しないように注意しながら極少量の有機溶媒が残る程度になるまで濃縮した後、回収率の算出に必要なシリンジスパイク(内部標準物質)を含んだ高沸点の有機溶媒(例えば、ノナン、デカン等)に置き換えて(転溶して)、測定試料とする。
【0013】
また、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計の注入口の温度は、注入された試料(濃縮液)を瞬間的に気化させるために、試料中の有機溶媒に合わせて高温(200〜250℃)に設定されており、濃縮液に含まれる有機溶媒を一種類(例えば、ノナン)に揃えることにより、注入口の温度を測定試料毎に変更する必要がなくなる。
【0014】
溶媒除去大量試料注入装置は、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に注入された濃縮液をプレカラムで有機溶媒とダイオキシン類とに分離し、分離した有機溶媒を除去すると共に、分離したダイオキシン類のみを分析カラムで各成分に分離し、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に供給する溶媒除去大量注入法を行う装置(Solvent Cut Large Volume Injection System、以下、単に「SCLV」ともいう)であって、例えば、エス・ジー・イー(SGE)社製のSCLV(商品名)が使用できる。これによって、従来(1〜2μL程度)よりも大量(10μL程度)の濃縮液、すなわち、大量のダイオキシン類を高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に注入することができる。
【0015】
高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計は、キャピラリーカラムでダイオキシン類の各成分を時間分離するガスクロマトグラフと、時間分離された各成分をイオン化し、磁場及び電場において二重(質量とエネルギー)収束させて、10000以上の分解能で質量分離を行い、選択的イオンモニタリング(SIM)法で測定する二重収束磁場型質量分析計とを有している。ガスクロマトグラフに、例えば、アジレント社製のHP6890Plus(商品名)を使用し、二重収束磁場型質量分析計に、例えば、マイクロマス社製のAutoSpecULTIMA(商品名)を使用し、これらを組み合わせて、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計とすることができる。
【0016】
本発明のダイオキシン類の分析方法によって、被検体中の濃度が低く、しかも毒性の高い、特に、4〜8塩化ジオキシン、4〜8塩化ジベンゾフラン、及びノンオルトCo−PCBを高感度で分析することができる。
【0017】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法において、前記溶媒除去大量試料注入装置は、前記濃縮液中の有機溶媒及び前記ダイオキシン類を分離するプレカラムと、該プレカラムで分離された有機溶媒を除去する溶媒除去部と、前記プレカラムで分離され前記溶媒除去部を通過したダイオキシン類を捕集するコールドトラップと、該コールドトラップで捕集したダイオキシン類を各成分に分離する分析カラムとを備え、
前記分析カラムは、液相が90%ビスシアノプロピル/10%フェニルシアノプロピルポリシロキサンからなるシアノプロピル基で形成された強極性のキャピラリーカラムであって、内径が0.15〜0.2mmかつ液相の厚みが0.05〜0.15μmであるのが好ましい。
【0018】
溶媒除去大量試料注入装置において、プレカラムでは、注入された濃縮液が有機溶媒とダイオキシン類とに時間分離される。この際、先にプレカラムから排出される有機溶媒は、溶媒除去部によって除去され、後にプレカラムから排出されるダイオキシン類は、溶媒除去部を通過した後、コールドトラップで冷却されて捕集される。この際、ダイオキシン類は、液化又は固化している。コールドトラップで濃縮液中の実質的に全てのダイオキシン類を捕集した後、冷却を停止してダイオキシン類を気化させ、分析カラムに供給する。分析カラムとしては、例えば、レステック社製のRtx−2330(商品名)が使用できる。この分析カラムによって、4及び5塩化ジオキシン及び4〜6塩化ジベンゾフランを高感度に測定できる。
【0019】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法において、前記第2工程では、前記抽出液を前記自動クリーンアップ装置で精製した後、多検体濃縮装置を用いて濃縮を行ってもよい。
多検体濃縮装置は、複数の溶液を同時に濃縮可能な装置であって、例えば、ビュッヒ社製の多検体高密度濃縮装置シンコア・アナリスト(商品名)が使用できる。また、多検体濃縮装置は、高速溶媒抽出装置で得られた抽出液を硫酸処理する前に濃縮する際に使用してもよい。
【0020】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法において、前記第2工程では、前記抽出液を前記自動クリーンアップ装置で精製した後、更にゲル浸透クロマトグラフィーを行うGPCクリーンアップシステムで精製を行って、濃縮を行ってもよい。
ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)は、サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography)の1つであって、有機溶媒中の成分を分子の大きさによって分画するものである。
【0021】
GPCクリーンアップシステムとしては、例えば、GLS株式会社製のASC698(商品名)が使用できる。ここで、GPCクリーンアップシステムでは、ポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体からなるGPCカラムが使用され、自動クリーンアップ装置で精製された溶液中のダイオキシン類を更に精製することができる。また、ASC698は、有機溶媒を一定の速度で供給するポンプと、一定量のサンプルを注入するオートサンプラーと、ダイオキシン類と夾雑物とを分離するGPCカラムと、ダイオキシン類と夾雑物との分離状況を測定する紫外可視検出器と、分離された溶液を分画するフラクションコレクターとを備えている。
【0022】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法において、前記第1工程から前記第3工程をオンラインで行うこともできる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1〜5に記載のダイオキシン類の分析方法においては、高速溶媒抽出装置によって被検体中のダイオキシン類を抽出するので、従来の振とう抽出法やソックスレー抽出法よりも短時間で抽出することができる。また、自動クリーンアップ装置によって抽出液中の夾雑物を自動的に除去するので、効率よく夾雑物を除去できると共に、作業性が向上する。更に、濃縮液を溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に供給するので、従来よりも濃縮液、すなわち、ダイオキシン類を大量に供給することができ、高精度に分析できる。
【0024】
特に、請求項2記載のダイオキシン類の分析方法においては、溶媒除去大量試料注入装置の分析カラムは、液相が90%ビスシアノプロピル/10%フェニルシアノプロピルポリシロキサンからなるシアノプロピル基で形成された強極性のキャピラリーカラムであって、内径が0.15〜0.2mmかつ液相の厚みが0.05〜0.15μmであるので、特に、低塩素数のダイオキシン類、例えば、4及び5塩化ジオキシンと、4〜6塩化ジベンゾフランを効率よく分離することができる。
【0025】
請求項3記載のダイオキシン類の分析方法においては、多検体濃縮装置を用いて濃縮を行うので、複数のサンプルを同時に濃縮でき、処理時間を短縮することができる。
請求項4記載のダイオキシン類の分析方法においては、抽出液を自動クリーンアップ装置で精製した後、更にゲル浸透クロマトグラフィーを行うGPCクリーンアップシステムで精製を行って、濃縮を行うので、被検体の性質に合わせて精製方法を選択できる。
請求項5記載のダイオキシン類の分析方法においては、第1工程から第3工程をオンラインで行うので、より作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システムの説明図、図2は同ダイオキシン類の分析システムの自動クリーンアップ装置の説明図、図3(A)、(B)はそれぞれ自動クリーンアップ装置に接続する多層シリカゲルカラム、活性炭カラムの説明図、図4は同ダイオキシン類の分析システムの多検体濃縮装置の要部説明図、図5は同ダイオキシン類の分析システムの溶媒除去大量試料注入装置の説明図、図6は本発明の第2の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システムの説明図、図7は同ダイオキシン類の分析システムのGPCクリーンアップシステムの説明図である。
【0027】
図1〜図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システム(以下、単に「分析システム」ともいう)10について説明する。
分析システム10は、環境試料、例えば、所定量の水道原水を通過させたフィルターを被検体11とし、被検体11中のダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、及びコプラナーPCB(Co−PCB))を分析するものである。
【0028】
図1に示すように、分析システム10は、細かく粉砕して秤量した被検体11を、高温かつ高圧力に保持して被検体11中のダイオキシン類を有機溶媒(抽出溶媒)に抽出させて抽出液Bを作製する高速溶媒抽出装置12と、抽出液B中の夾雑物を除去して精製した精製液S、Tを作製する自動クリーンアップ装置13と、精製液S、Tを濃縮して濃縮液U、Vを作製する多検体濃縮装置14と、濃縮液U、V中のダイオキシン類を分析する溶媒除去大量試料注入装置15を取付けた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16とを有している。以下、詳しく説明する。
【0029】
高速溶媒抽出装置12は、被検体11及び有機溶媒A(例えば、ヘキサン)を入れる抽出容器18と、抽出容器18内を高温(100〜200℃)にする図示しない加熱手段と、抽出容器18内を高圧(1500〜2000psi)にする図示しない加圧手段と、抽出容器18の下部に配置され、有機溶媒Aにダイオキシン類を抽出した抽出液Bを貯留する貯留容器19とを備えている。高速溶媒抽出装置12では、例えば、最大長さが0.01〜10mm程度に細かく粉砕して、20g程度を秤量した被検体11を、適量の珪藻土又は無水硫酸ナトリウムからなる分散剤(図示せず)と混合して、例えば、99mL容量の抽出容器18内に入れ、加熱手段及び加圧手段によって、抽出容器18内を高温かつ高圧(例えば、150℃かつ1500psi)とする高速溶媒抽出(Accelerated Solvent Extraction)を行って、ダイオキシン類を有機溶媒Aに抽出し、生成した抽出液Bを貯留容器19に貯留する。
【0030】
分析システム10では、有機溶媒Aとしてヘキサンを使用したが、ヘキサン以外に、ベンゼン、アセトン、トルエン等も使用でき、これらを2種以上混合して使用することもできる。なお、分析システム10においては、高速溶媒抽出装置12として、例えば、ダイオネクス社製のASE−300を使用している。
また、分析システム10では、高速溶媒抽出装置12の貯留容器19内に貯留された抽出液Bを、更に濃縮した後、硫酸を加えて有機物を取り除く硫酸処理を行っている。ここで、濃縮には、多検体濃縮装置、エバポレーター等を使用することができる。
【0031】
図2に示すように、自動クリーンアップ装置13は、上流側に配置される多層シリカゲルカラム20及び下流側に配置される活性炭カラム21を連結した連結カラム22を有している。また、自動クリーンアップ装置13は、多層シリカゲルカラム20の上流側及び下流側にそれぞれ設けられる三方コック23、24と、2つの三方コック23、24に連結される迂回流路25とを備えた流路切換ユニット26を有している。なお、分析システム10では、三方コック24を三方コック23の動きに合わせて手動で操作しているが、三方コック23と連動させてもよい。
また、自動クリーンアップ装置13は、三方コック23の上流側に設けられるポンプ27と、ポンプ27の上流側に図示しない複数のバルブからなるバルブ機構28を介して設けられる3つの有機溶媒C(ヘキサン)、有機溶媒D(ジクロロメタン含有ヘキサン)、及び有機溶媒E(トルエン)をそれぞれ貯留する溶媒用容器29〜31とを有している。
【0032】
自動クリーンアップ装置13では、バルブ機構28及び流路切換ユニット26によって、溶媒用容器29〜31内にそれぞれ貯留された有機溶媒C〜Eを、多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21へ供給する操作、又は多層シリカゲルカラム20に供給せずに迂回流路25を介して活性炭カラム21に供給する操作を自動的に行うようになっている。
なお、分析システム10では、自動クリーンアップ装置13として、4検体の精製を同時に行うことができるGLS社製のDAC695を使用しているが、説明を簡単にするために、図2においては1検体の流路についてのみ記載している。
【0033】
図3(A)に示すように、多層シリカゲルカラム20は、例えば、GLS社製のPP製4層クリーンアップカートリッジ(商品名)であって、上流側から順に無水硫酸ナトリウムF、シリカゲルG、10%硝酸銀シリカゲルH、シリカゲルG、22%硫酸シリカゲルI、44%硫酸シリカゲルJ、シリカゲルG、2%水酸化カリウムシリカゲルK、及びシリカゲルGの層が形成され、その両端部にはポリエチレン製のフィルターLがそれぞれ配置されている。なお、多層シリカゲルカラムとして、無水硫酸ナトリウム、10%硝酸銀シリカゲル、及び44%硫酸シリカゲルを備えた2層クリーンアップカートリッジ(商品名)を使用することもできる。
【0034】
また、図3(B)に示すように、活性炭カラム21は、例えば、GLS社製の2層式カーボンシリカゲルカートリッジ(商品名)であって、上流側から順に炭素量が3重量%のカーボンシリカゲルM及び8重量%のカーボンシリカゲルNの層が形成され、カーボンシリカゲルM、Nの両端部及び中間部に石英ウール及びガラス繊維ろ紙からなるフィルターOが配置され、更に上流側のフィルターOの上部にテフロン(登録商標)製のO−リングPを介して、テフロン(登録商標)製のキャップQが取付けられている。なお、活性炭カラムとして、5重量%のカーボンシリカゲルを備えた単層式カーボンシリカゲルカートリッジ(商品名)を使用してもよい。
【0035】
ここで、まず、高速溶媒抽出装置12で抽出した後、濃縮して硫酸処理を行った抽出液Bを連結カラム22の上部に供給した後、ポンプ27を駆動させると共に、バルブ機構28及び流路切換ユニット26を切り換えて、溶媒用容器29から有機溶媒Cを多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21に供給して通過させる。抽出液B中の夾雑物(例えば、油脂成分や色素等)は、多層シリカゲルカラム20に吸着されて除去され、多層シリカゲルカラム20を通過したダイオキシン類(PCDDs、PCDFs、及びCo−PCB)を含む粗精製液Rが得られる。更に、粗精製液Rは活性炭カラム21に供給され、粗精製液R中のダイオキシン類は、活性炭カラム21に吸着(保持)され、粗精製液R中の夾雑物及びCo−PCB以外のPCBは活性炭カラム21から排出される。このように、有機溶媒Cは、抽出液B中の夾雑物及びダイオキシン類をそれぞれ多層シリカゲルカラム20、活性炭カラム21に吸着させることができるものを使用する。
【0036】
次に、バルブ機構28を操作して、多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21に溶媒用容器30から有機溶媒Dを供給し、活性炭カラム21に吸着されているモノオルトCo−PCBを含む精製液Sを溶出させる。従って、精製液Sには有機溶媒Dが含まれている。このように、有機溶媒Dは、多層シリカゲルカラム20に吸着している夾雑物は脱離させず、活性炭カラム21に吸着しているモノオルトCo−PCBを脱離することができるものを使用する。
【0037】
更に、バルブ機構28及び三方コック23、24を操作して、多層シリカゲルカラム20を通さずに、迂回流路25を介して活性炭カラム21に溶媒用容器31から有機溶媒Eを供給し、活性炭カラム21に吸着されているモノオルトCo−PCB以外のダイオキシン類を含む精製液Tを溶出させる。従って、精製液Tには、有機溶媒Eが含まれている。なお、有機溶媒Eを多層シリカゲルカラム20に供給した場合には、多層シリカゲルカラム20に吸着された夾雑物が脱離するので、流路切換ユニット26によって、多層シリカゲルカラム20に有機溶媒Eを供給させないようにしている。このように、有機溶媒Eは、活性炭カラム21に吸着しているモノオルトCo−PCB以外のダイオキシン類を脱離することができるものを使用する。
【0038】
ここで、精製液S及び精製液Tは、自動クリーンアップ装置13に設けられた貯留容器32、33にそれぞれ貯留される(図1参照)。また、分析システム10では、精製液S、Tを別々に分画しているが、これらを混合してもよい。モノオルトCo−PCBとモノオルトCo−PCB以外のダイオキシン類とを分離しない場合には、多層シリカゲルカラム20に夾雑物を、活性炭カラム21にダイオキシン類をそれぞれ吸着させた後、ダイオキシン類を同時に脱離させる有機溶媒(例えば、トルエン)を活性炭カラム21に供給してもよい。
【0039】
図4に示すように、多検体濃縮装置14は、下部に縮径部35を有する複数、例えば、6つの容器36と、各容器36の中央部分を加熱する加熱部37と、各縮径部35の近傍に配置され縮径部35を冷却する冷却管38とを備え、別々の容器36に入れた精製液S、Tをそれぞれ加熱して濃縮し、濃縮液U、Vを作製する。濃縮液U、Vが溜まる縮径部35は冷却管38内に供給される冷却水によって冷却されるので、乾固し難くなっている。分析システム10では、多検体濃縮装置14として、例えば、ビュッヒ社製の多検体高密度濃縮装置シンコア・アナリスト(商品名)を使用している。
なお、多検体濃縮装置14の代わりに、例えば、エバポレーター等を使用することができる。また、前記した精製及び濃縮の操作を、それぞれ1又は2回以上行ってもよい。
【0040】
更に、濃縮液U中の有機溶媒D、及び濃縮液V中の有機溶媒Eを、高沸点の有機溶媒W(例えば、ノナン)にそれぞれ転溶する。特に、濃縮液Uに含まれる低沸点の有機溶媒Dを、高沸点の有機溶媒Wとすることにより、濃縮液Uが乾固し難くなり、ダイオキシン類の揮散を防ぐことができる。また、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16の注入口39(図1、図5参照)の温度は、注入された試料(濃縮液U、V)を瞬間的に気化させるために、試料中の有機溶媒に合わせて高温(200〜250℃)に設定するため、濃縮液U、Vに含まれる有機溶媒D、Eを、有機溶媒Wに揃えることにより、注入口39の温度を測定試料毎に変更する必要がなくなる。有機溶媒Wとしては、デカンを使用してもよい。
【0041】
溶媒除去大量試料注入装置15は、濃縮液U、Vに含まれる有機溶媒Wを除去することで、濃縮液U、V、すなわち、ダイオキシン類を、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に大量に注入する溶媒除去大量注入法を行う装置である。図5に示すように、溶媒除去大量試料注入装置15は、注入口39に注入された濃縮液U、V中の有機溶媒W及びダイオキシン類を時間分離(この際には有機溶媒Wが先に排出される)するプレカラム40と、プレカラム40で分離された有機溶媒Wを排出する溶媒除去部41と、プレカラム40から排出されたダイオキシン類を冷却して液体又は固体として捕集するコールドトラップ42と、コールドトラップ42の冷却を停止して捕集されたダイオキシン類を気化することによって供給されたダイオキシン類を各成分に時間分離する分析カラム43とを有している。ここで、分析システム10では、溶媒除去大量試料注入装置15として、例えば、SGE社製のSCLV(商品名)を使用している。
【0042】
分析カラム43は、液相が90%ビスシアノプロピル/10%フェニルシアノプロピルポリシロキサンからなるシアノプロピル基で形成された強極性のキャピラリーカラムであり、しかも、内径が0.15〜0.2mmかつ液相の厚みが0.05〜0.15μmである。分析カラム43によって、4及び5塩化ジオキシンと、4〜6塩化ジベンゾフランとを高感度に測定することができる。また、分析システム10では、分析カラム43として、例えば、レステック社製のキャピラリーカラムであるRtx−2330を使用している。溶媒除去大量試料注入装置15では、プレカラム40としてSGE社製のBPX−5を使用している。
【0043】
なお、6〜8塩化ジオキシンと、7及び8塩化ジベンゾフランと、ノンオルトCo−PCBとを分析する場合には、溶媒除去大量試料注入装置15の分析カラム43をSGE社製のBPX−5に換えている。また、モノオルトCo−PCBは、溶媒除去大量試料注入装置を使用せず、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に、SGE社製のHT8又はHT8−PCBを取付けて測定している。
【0044】
図1に示すように、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16は、溶媒除去大量試料注入装置15の分析カラム43でダイオキシン類の各成分を時間分離するガスクロマトグラフ45と、時間分離された各成分をイオン化し、磁場及び電場において二重(質量とエネルギー)収束させて、10000以上の分解能で質量分離を行い、選択的イオンモニタリング(SIM)法で測定する二重収束磁場型質量分析計46とを有している。ここで、分析システム10では、例えば、ガスクロマトグラフ45としてアジレント社製のHP6890Plusを、二重収束磁場型質量分析計46としてマイクロマス社製のAutoSpecULTIMAを使用している。
【0045】
次に、ダイオキシン類の分析システム10を使用したダイオキシン類の分析方法について説明する。
(第1工程)
高速溶媒抽出装置12によって、被検体11を高温かつ高圧力に保持して被検体11中のダイオキシン類を有機溶媒Aに抽出させて抽出液Bを作製する。
【0046】
(第2工程)
第1工程で得られた抽出液Bを多検体濃縮装置で濃縮した後、硫酸処理を行って抽出液B中の有機物を取り除く。次に、自動クリーンアップ装置13の多層シリカゲルカラム20の上流側に、硫酸処理を行った抽出液Bを供給した後、ポンプ27を駆動させると共に、バルブ機構28及び流路切換ユニット26を切り換えて、溶媒用容器29から有機溶媒Cを多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21を通過させ、抽出液B中の夾雑物を多層シリカゲルカラム20に吸着させると共に、多層シリカゲルカラム20を通過して抽出液B中の夾雑物が除去された粗精製液R中のダイオキシン類を活性炭カラム21に吸着させる。この際に、多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21に吸着されない抽出液B中の夾雑物及びCo−PCB以外のPCBを排出する。
【0047】
更に、バルブ機構28を操作して、溶媒用容器30から有機溶媒Dを多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム21に供給し、活性炭カラム21に吸着されているモノオルトCo−PCBを含む精製液Sを溶出させ、貯留容器32に貯留する。次に、バルブ機構28及び三方コック23、24を操作して、溶媒用容器31から有機溶媒Eを、多層シリカゲルカラム20を通さずに迂回流路25を介して活性炭カラム21に供給し、活性炭カラム21に吸着されている残り(モノオルトCo−PCB以外)のダイオキシン類を含む精製液Tを溶出させ、貯留容器33に貯留する。
更に、得られた精製液S、Tを多検体濃縮装置14でそれぞれ濃縮して濃縮液U、Vとした後、濃縮液U、Vにそれぞれ含まれる有機溶媒D、Eを有機溶媒Wに転溶する。
【0048】
(第3工程)
次に、4及び5塩化ジオキシン及び4〜6塩化ジベンゾフランを測定するために、プレカラム40をBPX−5に、分析カラム43をRtx−2330とした溶媒除去大量試料注入装置15を高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に取付ける。有機溶媒Wで転溶した濃縮液Vを注入口39から注入して、4及び5塩化ジオキシン及び4〜6塩化ジベンゾフランを測定する。
また、6〜8塩化ジオキシンと、7及び8塩化ジベンゾフランと、ノンオルトCo−PCBとを分析する場合には、溶媒除去大量試料注入装置15の分析カラムをSGE社製のBPX−5に換え、有機溶媒Wで転溶した濃縮液Vを注入口39から注入して測定する。
更に、モノオルトCo−PCBを測定する場合には、溶媒除去大量試料注入装置15を取り外し、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に、HT8又はHT8−PCBを取付け、注入口39から濃縮液Uを供給して測定を行う。
【0049】
図6及び図7を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システム50について説明する。なお、ダイオキシン類の分析システム10と同一の構成要素については同一の番号を付してその詳しい説明を省略する。
【0050】
分析システム50は、食品試料を被検体51としている点と、活性炭カラム52が低濃度の活性炭粉末(例えば、無水硫酸ナトリウムに対して0.1重量%となるように活性炭粉末を混合したもの)からなり、多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム52を連結して連結カラム53が形成されている点と、第2工程で自動クリーンアップ装置13の連結カラム53に有機溶媒Cを流さないで有機溶媒Dを流し、夾雑物及びモノオルトCo−PCBを含む粗精製液Xを流出させ、この粗精製液Xをゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)を行うGPCクリーンアップシステム54で精製する点とが、分析システム10と異なっている。
【0051】
図7に示すように、GPCクリーンアップシステム54は、一定量のサンプル(粗精製液X)を自動的に注入するオートサンプラー55と、オートサンプラー55から供給された粗精製液Xと有機溶媒Y(例えば、アセトン)を一定の速度で供給するポンプ56と、ポンプ56によって供給された粗精製液X中のダイオキシン類と夾雑物とを分離するGPCカラム57と、ダイオキシン類と夾雑物との分離状況を所定の波長(例えば、220nm)で検知して波形で表示する紫外可視検出器58と、分離された溶液を分画するフラクションコレクター59とを備えている。
【0052】
GPCカラム57は、例えば、有機溶媒中の成分を分子の大きさによって分画可能なポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体からなり、自動クリーンアップ装置13で粗精製された溶液(粗精製液X)中のダイオキシン類を精製できる。
ここで、分析システム50では、GPCクリーンアップシステム54として、GLS株式会社製のASC698(商品名)を使用し、GPCカラム57として、GLS株式会社製のMSpak GF−310 4Dを使用している。
【0053】
次に、ダイオキシン類の分析システム50を使用したダイオキシン類の分析方法について説明する。
(第1工程)
食品を、例えば、最大長さが0.01〜10mm程度に細かく粉砕して、20g程度を秤量した被検体51を、適量の珪藻土又は無水硫酸ナトリウムからなる分散剤(図示せず)と混合し、これらを抽出容器18内に入れ、被検体51中のダイオキシン類を高速溶媒抽出装置12を使用して有機溶媒Aに抽出させて抽出液Bを作製する。
【0054】
(第2工程)
高速溶媒抽出装置12で抽出した後、濃縮して硫酸処理を行った抽出液Bを自動クリーンアップ装置13の多層シリカゲルカラム20の上流側に供給した後、有機溶媒D(ジクロロメタン含有ヘキサン)を多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム52に供給する。これによって、多層シリカゲルカラム20に夾雑物を吸着させ、活性炭カラム52にモノオルトCo−PCB以外のダイオキシン類を吸着させることができ、多層シリカゲルカラム20及び活性炭カラム52に吸着しない夾雑物とモノオルトCo−PCBを含む粗精製液Xを連結カラム53から流出させ、貯留容器32に貯留する。
【0055】
次に、有機溶媒Eを多層シリカゲルカラム20を通さずに、迂回流路25を介して活性炭カラム52に供給し、活性炭カラム52に吸着されている残り(モノオルトCo−PCB以外)のダイオキシン類を流出させた精製液Tを貯留容器33に貯留する。
ここで、貯留容器32に貯留されている粗精製液Xは、モノオルトCo−PCBと夾雑物を含んでいるので、GPCクリーンアップシステム54で精製して精製液Sを得る。精製液S、Tをそれぞれ多検体濃縮装置14で濃縮して濃縮液U、Vを作製し、更に濃縮液U、Vを有機溶媒Wで転溶する。
【0056】
(第3工程)
プレカラム40をBPX−5とし、分析カラム43をRtx−2330とした溶媒除去大量試料注入装置15を高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に取付けた後、有機溶媒Wで転溶した濃縮液Vを注入口39から注入して、4及び5塩化ジオキシン及び4〜6塩化ジベンゾフランを測定する。また、溶媒除去大量試料注入装置15の分析カラムをSGE社製のBPX−5に換え、有機溶媒Wで転溶した濃縮液Vを注入口39から注入して、6〜8塩化ジオキシンと、7及び8塩化ジベンゾフランと、ノンオルトCo−PCBとを測定する。更に、溶媒除去大量試料注入装置15を取り外し、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計16に、HT8又はHT8−PCBを取付け、注入口39から濃縮液Uを供給して、モノオルトCo−PCBの測定を行う。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例として、本発明のダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システム、すなわち、高速溶媒抽出装置、自動クリーンアップ装置、GPCクリーンアップシステム、多検体濃縮装置、及び溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計を使用して、被検体である食品(例えば、20g)中のダイオキシン類の分析を行った。また、比較例として、公定法(非特許文献1参照)を用いて食品(例えば、100g)中のダイオキシン類を分析した。なお、比較例において、ダイオキシン類の抽出は振とう抽出法で行った。
【0058】
被検体からダイオキシン類を抽出して実施例及び比較例での回収率を比較した結果、実施例は、比較例と同等の40〜120%となり、良好な結果が得られた。この際に抽出を行った時間は、実施例では30分間、比較例では2時間となり、実施例では抽出時間を短縮できた。なお、比較例においてソックスレー抽出法を用いた場合には、16時間以上かかる。また、実施例では、抽出に使用する有機溶媒の量が、比較例のおよそ1/4程度に減少し、コストを下げることができた。更に、実施例では、精製操作及び濃縮操作が自動的に行われるので、比較例よりも作業効率が向上した。
【0059】
高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に注入されるサンプル(濃縮液)の量は、比較例では1〜2μLであり、これに含まれるダイオキシン類の量は少ないが、実施例では、溶媒除去大量試料注入装置によって濃縮液中の有機溶媒を除去するので、10μL程度と大量の濃縮液、すなわち、5〜10倍程度のダイオキシン類を注入するため、高感度でダイオキシン類を検出することができた。
また、実施例では、分析カラムとして、液相が90%ビスシアノプロピル/10%フェニルシアノプロピルポリシロキサンからなるシアノプロピル基で形成された強極性で、内径が0.15〜0.2mmかつ液相の厚みが0.05〜0.15μmであるキャピラリーカラム(例えば、Rtx−2330)を使用しているので、4及び5塩化ジオキシンと、4〜6塩化ジベンゾフランとが高感度で分析できた。なお、実施例では、2,3,7,8−4塩化ジオキシン(TeCDD)の標準品の注入量が0.8pg(ピコグラム)でS/N(signal-to-noise ratio、信号対雑音比)が650であり、比較例では、注入量が2pgでS/Nが250であり、感度が65倍程度向上した。
【0060】
以上のように、ダイオキシン類の分析には、比較例において、大量の試料を用いて、長期間(約30日)かかっていたが、実施例では、少量の試料を用いて、短期間(約5日間)でかつ高感度に測定することができた。また、実施例では、各操作が自動的に行われるので、作業効率が向上した。これによって、分析にかかる費用も低くすることが可能となった。
【0061】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明のダイオキシン類の分析システム及び分析方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態のダイオキシン類の分析方法において、被検体を水道原水を濾過したフィルター及び食品としたが、焼却灰、廃棄物、土壌、動植物(母乳、血液等)等の試料そのものや、排煙、排ガス、排水、浄水等を通過させたフィルター等としてもよい。また、第1工程から第3工程をオンラインで行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システムの説明図である。
【図2】同ダイオキシン類の分析システムの自動クリーンアップ装置の説明図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ自動クリーンアップ装置に接続する多層シリカゲルカラム、活性炭カラムの説明図である。
【図4】同ダイオキシン類の分析システムの多検体濃縮装置の要部説明図である。
【図5】同ダイオキシン類の分析システムの溶媒除去大量試料注入装置の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るダイオキシン類の分析方法を適用したダイオキシン類の分析システムの説明図である。
【図7】同ダイオキシン類の分析システムのGPCクリーンアップシステムの説明図である。
【符号の説明】
【0063】
10:ダイオキシン類の分析システム、11:被検体、12:高速溶媒抽出装置、13:自動クリーンアップ装置、14:多検体濃縮装置、15:溶媒除去大量試料注入装置、16:高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計、18:抽出容器、19:貯留容器、20:多層シリカゲルカラム、21:活性炭カラム、22:連結カラム、23、24:三方コック、25:迂回流路、26:流路切換ユニット、27:ポンプ、28:バルブ機構、29〜31:溶媒用容器、32、33:貯留容器、35:縮径部、36:容器、37:加熱部、38:冷却管、39:注入口、40:プレカラム、41:溶媒除去部、42:コールドトラップ、43:分析カラム、45:ガスクロマトグラフ、46:二重収束磁場型質量分析計、50:ダイオキシン類の分析システム、51:被検体、52:活性炭カラム、53:連結カラム、54:GPCクリーンアップシステム、55:オートサンプラー、56:ポンプ、57:GPCカラム、58:紫外可視検出器、59:フラクションコレクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を高温かつ高圧力に保持する高速溶媒抽出装置によって該被検体中のダイオキシン類を有機溶媒に抽出させて抽出液を作製する第1工程と、該抽出液中の夾雑物を多層シリカゲルカラム及び活性炭カラムを連結した連結カラムを備えた自動クリーンアップ装置によって除去して前記抽出液からダイオキシン類を精製した後、濃縮して濃縮液を作製する第2工程と、該濃縮液を溶媒除去大量試料注入装置を取付けた高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計に供給し、前記濃縮液中のダイオキシン類を分析する第3工程とを有するダイオキシン類の分析方法であって、
前記自動クリーンアップ装置では、前記連結カラムの上流側に供給した前記抽出液中のダイオキシン類を前記活性炭カラムに吸着させると共に前記抽出液中の夾雑物を除去する有機溶媒を前記連結カラムに供給する操作と、前記活性炭カラムに吸着しているダイオキシン類を脱離させる有機溶媒を少なくとも前記活性炭カラムに供給する操作とを自動的に行うことを特徴とするダイオキシン類の分析方法。
【請求項2】
請求項1記載のダイオキシン類の分析方法において、前記溶媒除去大量試料注入装置は、前記濃縮液中の有機溶媒及び前記ダイオキシン類を分離するプレカラムと、該プレカラムで分離された有機溶媒を除去する溶媒除去部と、前記プレカラムで分離され前記溶媒除去部を通過したダイオキシン類を捕集するコールドトラップと、該コールドトラップで捕集したダイオキシン類を各成分に分離する分析カラムとを備え、
前記分析カラムは、液相が90%ビスシアノプロピル/10%フェニルシアノプロピルポリシロキサンからなるシアノプロピル基で形成された強極性のキャピラリーカラムであって、内径が0.15〜0.2mmかつ液相の厚みが0.05〜0.15μmであることを特徴とするダイオキシン類の分析方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のダイオキシン類の分析方法において、前記第2工程では、前記抽出液を前記自動クリーンアップ装置で精製した後、多検体濃縮装置を用いて濃縮を行うことを特徴とするダイオキシン類の分析方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイオキシン類の分析方法において、前記第2工程では、前記抽出液を前記自動クリーンアップ装置で精製した後、更にゲル浸透クロマトグラフィーを行うGPCクリーンアップシステムで精製を行って、濃縮を行うことを特徴とするダイオキシン類の分析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイオキシン類の分析方法において、前記第1工程から前記第3工程をオンラインで行うことを特徴とするダイオキシン類の分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate