ダイオードリミッタ装置及びレーダ
【課題】調整機構等を精密な部品を用いることなく、低背化できる簡素な構成の、導波管を入出力とするダイオードリミッタ装置を提供する。
【解決手段】導波管下板30は所定深さの溝が形成されたアルミニウム板である。導波管上板31は所定厚さの単純なアルミニウム板である。導波管下板30に形成されている溝と導波管上板31とで囲まれた空間によって導波路及び共振器が構成されている。導波管共振器34と導波管32,36との境界部分には、幅方向を狭めた窓33,35が形成されている。同軸共振器37は、中心導体38とその周囲の部分円柱状の空間とで第2の共振器を構成している。中心導体38の先端と導波管上板31との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41が接続されている。これにより、導波管を入出力とし、途中に同軸共振器37と導波管共振器34が挿入された回路が構成される。
【解決手段】導波管下板30は所定深さの溝が形成されたアルミニウム板である。導波管上板31は所定厚さの単純なアルミニウム板である。導波管下板30に形成されている溝と導波管上板31とで囲まれた空間によって導波路及び共振器が構成されている。導波管共振器34と導波管32,36との境界部分には、幅方向を狭めた窓33,35が形成されている。同軸共振器37は、中心導体38とその周囲の部分円柱状の空間とで第2の共振器を構成している。中心導体38の先端と導波管上板31との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41が接続されている。これにより、導波管を入出力とし、途中に同軸共振器37と導波管共振器34が挿入された回路が構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えばパルスレーダ等に用いられる導波管型ダイオードリミッタ装置、及びそれを備えたレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は一般的なパルスレーダの構成を示すブロック図である。パルスレーダにおいては、マグネトロン1から出力されるマイクロ波信号をサーキュレータ2を介してアンテナ3に導き、アンテナ3からマイクロ波信号を放射する。物標からの反射波はアンテナ3で受信され、サーキュレータ2、リミッタ4を介して受信モジュール5へと導かれる。
【0003】
このような信号の送受の際、リミッタ4はマグネトロン1からのマイクロ波信号がサーキュレータ2で直接漏洩するなどして受信モジュールへ入力される過大な信号から受信モジュール5を保護する。
【0004】
従来、このようなリミッタとしては、過大なマイクロ波信号が入力した場合に、ダイオードがオンして、受信モジュールへの漏洩電力を制限するダイオードリミッタ装置が用いられている。
【0005】
図2は従来のダイオードリミッタ装置の構成を示す図である。シングルリッジ形の矩形導波管20には幅広壁面(E面)の一方のリッジ部20aに所定の間隔でねじ穴21a,21bが形成される。この矩形導波管20の幅広壁面の他方にはPINダイオード挿着用の凹部22a,22bがねじ穴21a,21bの中心線と同一線上に形成されていて、その凹部22a,22bにPINダイオード23の一方の電極が接続されている。ねじ穴21a,21bで同軸外導体が形成され、板状の第1の金属ねじ部材24a,24bが螺合調整自在に螺合される。第1の金属ねじ部材24a,24bにはねじ穴25a,25bがリッジ導波管の凹部22a,22bに対応して形成され、ねじ穴25a,25bには棒状の第2の金属ねじ部材26a,26bがそれぞれ螺合調整自在に螺合されている。第2の金属ねじ部材26a,26bはリッジ導波管20のねじ穴21a,21bに遊挿されて同軸内導体を形成するもので、その先端部は凹部22a,22bに挿着されたPINダイオード23の他方の電極に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−67934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のリミッタは、導波管に垂直な方向に共振器が配置されているため、導波管の厚み寸法+共振器の深さ寸法分の高さを要する。
また、ダイオードリミッタの理想的な特性は、入力電力が所定値以下では出力電力がリニアで、入力電力が所定値以上で出力電力がフラットに制限されるような特性であるが、ダイオードの静電容量のバラツキに起因してリミッタ特性は変動する。このリミッタ特性の調整は困難である。例えば、図2に示した例では、ねじや先端部の凹部など複雑な加工を施した棒状同軸中心導体25や金属ねじ部材24などが必要である。そのため、全体の部品点数が多く、その組立て作業が繁雑であるとともに高精度な組立てが困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、調整機構等を精密な部品を用いることなく、低背化できる簡素な構成の、導波管を入出力とするダイオードリミッタ装置、及びそれを備えたレーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダイオードを内蔵した同軸共振器と導波管共振器を電磁界的に組み合わせた新しい共振器を構成し、この共振器を利用してリミッタ装置として作用させるものである。
【0010】
本発明のダイオードリミッタ装置は、第1の共振器と、前記第1の共振器に結合する少なくとも一つの第2の共振器と、前記第1の共振器に設けられ、前記第1の共振器の共振モードと前記第2の共振器の共振モードとの結合モードによる電磁界により電圧が印加されるダイオードと、を備えている。
【0011】
例えば、前記第2の共振器は導波管共振器であり、前記第1の共振器は、外導体が前記導波管共振器の壁に連続する同軸共振器であり、前記ダイオードは前記同軸共振器の中心導体と接地導体との間に接続される。
【0012】
例えば前記第2の共振器である前記導波管共振器のキャビティ内に、前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合調整用の部材を備える。
【0013】
例えば、前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる略直方体状のキャビティで構成され、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記キャビティにつながる部分円柱状の空間と、円柱状の中心導体とで構成され、
前記結合調整用の部材は、前記キャビティ内に突出する金属製の調整ねじである。
【0014】
例えば、前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる部分円柱状の空間と、中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器であり、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器である。
【0015】
また、例えば、前記第2の共振器及び当該第2の共振器に設けられた前記ダイオードの組を複数組備え、前記複数組のうち前段側に耐電力性の高い大電力用のダイオードが設けられ、後段側に応答遅れの少ない中電力用のダイオードが設けられる。
【0016】
本発明のレーダは、探知用のパルス状電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記パルス状電磁波を送信し、物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、前記パルス状電磁波を前記アンテナへ導出し、前記アンテナからの受信信号を受信回路へ導入するサーキュレータと、を備え、前記受信回路の入力部に前記ダイオードリミッタ装置を設けて構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、設けられる2つの共振器は設計上小型化が可能であり、入出力導波管と同じ電磁界モードを有するので、設計性に優れた導波管リミッタ装置を構成ができる。
【0018】
また、従来の同軸回路の場合にはダイオードの静電容量ばらつきに対して調整機能をもたせることが難しかったが、本発明によれば導波管共振器部を利用できるため、調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的なパルスレーダの構成を示すブロック図である。
【図2】従来のダイオードリミッタの構成を示す図である。
【図3】図3(A)は第1の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図3(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
【図4】同軸共振器37と導波管共振器34との関係を示す図である。図4(A)は同軸共振器37の基本形の斜視図、図4(B)は導波管共振器34の基本形の斜視図である。図4(C)は、図4(A)の同軸共振器37と、図4(B)の導波管共振器34とを合成した共振器の斜視図である。
【図5】同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間に生じる電磁界の分布と結合の様子を示す図である。
【図6】図3に示したダイオードリミッタ装置101の導波管32と導波管36との間での通過特性を示す図である。図6(A)は入力電力が−10dBmのときの特性、図6(B)は入力電力が+10dBmのときの特性である。
【図7】図3に示したダイオードリミッタ装置101の入力電力と出力電力との関係を示す図である。
【図8】図8(A)は第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図8(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
【図9】第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部である共振器部分の斜視図である。
【図10】第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103の導波管下板の平面図である。
【図11】第4の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1の実施形態》
図3(A)は第1の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図3(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
図3(B)に示すように、ダイオードリミッタ装置101は、導波管下板30、導波管上板31、PINダイオード41を備えている。図3(A)は導波管下板30の平面図である。
【0021】
導波管下板30は所定深さの溝が形成されたアルミニウム板である。導波管上板31は所定厚さの単純なアルミニウム板である。導波管下板30に形成されている溝と導波管上板31とで囲まれた略直方体状の空間(キャビティ)によって導波路及び共振器が構成されている。すなわち、導波管32,36で矩形導波管の導波路が構成されている。導波管共振器34は概形が直方体であり、TM110モードで共振する第1の共振器が構成されている。この導波管共振器34と導波管32,36との境界部分には、幅方向を狭めた磁界結合用の窓33,35が形成されている。
【0022】
同軸共振器37は、円柱形状の中心導体38とその周囲の部分円柱状の空間とで第2の共振器を構成している。中心導体38の先端と導波管上板31(接地導体)との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41が接続されている。
【0023】
同軸共振器37の外導体は導波管共振器34の壁(キャビティ)に連続していて、同軸共振器37は導波管共振器34に隣接配置されている。すなわち同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは連続している。したがって、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは一部を共有していて、同軸共振器37の共振モードと導波管共振器34の共振モードとは結合する。
図4は、同軸共振器37と導波管共振器34との関係を示す図である。図4(A)は同軸共振器37の基本形の斜視図、図4(B)は導波管共振器34の基本形の斜視図である。図4(C)は、図4(A)の同軸共振器37と、図4(B)の導波管共振器34とを合成した共振器の斜視図である。このように、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは一部を共有している。
【0024】
図5は、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間に生じる電磁界の分布と結合の様子を示す図である。図中の破線の矢印は磁界の向き(磁力線)、実線の矢印は電界の向き(電気力線)を表している。導波管共振器34は共振空間のほぼ中央に、導波管の縦方向を向く電界最大の山が生じ、その周囲を平面方向に囲む磁界ループが生じる。一方、同軸共振器37の中心導体38と周囲(半周囲)の壁面との間に電界が生じ、中心導体38を囲むように磁界ループが生じる。同軸共振器37と導波管共振器34の磁界は一部で共有することになり、両者間で磁界エネルギーの授受が行われるので、同軸共振器37の共振モードと導波管共振器34の共振モードとは磁界結合する。
【0025】
同軸共振器37に入力される電力が所定値を超えると、中心導体38の先端と接地電極(導波管上板31の内天面)との間に掛かる電圧がダイオード41のしきい値電圧を超えて、ダイオード41が導通する。これにより、同軸共振器37の共振周波数が大きく変化して、導波管32と導波管36との間の挿入損失が非常に大きくなって、受信モジュールへの電力流入が抑制される。
【0026】
以上に示したダイオードリミッタ装置において、同軸共振器37の中心導体38とダイオード41とを合わせた高さは5mmであり、中心導体38の直径は1.5mmであり、中心導体38周囲の外導体内径は4.5mmである。導波管共振器34の平面寸法は22mm×20mm、高さ寸法は5mmである。
【0027】
本発明によれば、中心導体にダイオードを接続した同軸共振器と導波管共振器とを利用したことにより、低背化可能なダイオードリミッタ装置を構成できる。
【0028】
構成要素である2つの共振器である、同軸共振器37及び導波管共振器34の結合モードの共振周波数は、それぞれの共振器の共振周波数f1、f2と共振器間の結合係数kによって決まる。f1、f2の周波数が等しく、f1=f2=foであれば、結合モードの共振周波数fは、
f=fo(1±k/2)
の関係となる。例えば、結合係数kが0.4場合には、
f=0.8fo,1.2fo
となる。この二つの結合モードのうち一方の結合モードの共振周波数が使用周波数となるように、同軸共振器37及び導波管共振器34の共振周波数f1,f2、及び結合係数kを定める。但し、小型化のためには、二つの結合モードのうち低い方の共振周波数が使用周波数になるように、f1,f2,kを定める。ここで、f1,f2=12GHz、k=0.4とすれば、f=12×(1−0.4/2)=97[GHz]となる。
【0029】
なお、f1,f2は必ずしも正確に等しく定める必要はなく、二つの共振器が結合し、結合モードの共振周波数が使用周波数になるように定めることができれば、利用できる。
【0030】
このように、同軸共振器37の単独での共振周波数は理論的に12GHzと高い周波数であるので、高さ5mmと大幅な低背化が実現できる。これを従来のダイオードリミッタ装置の同軸回路で構成すれば、15mm程度の高さが必要であるので、本発明によれば、大幅に低背化できることが分かる。
【0031】
図6(A)、図6(B)は、図3に示したダイオードリミッタ装置101の導波管32と導波管36との間での通過特性を示す図である。図6(A)は入力電力が−10dBmのときの特性、図6(B)は入力電力が+10dBmのときの特性である。このように、9.7GHzで共振ピークをもち、入力電力が+10dBmでは出力電力が−15dBmに制限されていることが分かる。
【0032】
図7は、図3に示したダイオードリミッタ装置101の入力電力と出力電力との関係を示す図である。入力電力と出力電力はいずれもdBm単位で表している。入力電力が+5dBmまではリミット動作せず、入力電力が+5dBmを超える範囲でリミット動作することが分かる。
【0033】
《第2の実施形態》
図8(A)は第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図8(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置102は、第1の実施形態で図3に示したダイオードリミッタ装置101に金属製の調整ねじ42を設けたものである。導波管共振器34のほぼ中央に円柱状の金属製調整ねじ42が、導波管下板30側から又は導波管上板31側から挿入されている。
【0034】
導波管共振器34のほぼ中央は電界エネルギーが集中している箇所であるので、その位置に調整ねじを突出させると、その突出量が大きくなる程、容量成分が増して、導波管共振器34の共振周波数が低下する。したがって、調整ねじの挿抜量によって共振周波数を容易に調整できる。
【0035】
従来のダイオードリミッタ装置に構成される同軸回路では、共振周波数を調整するために同軸回路の寸法自体を変える必要があるので、部品自体に精密加工が必要であり、部品点数が多くなるという問題があった。第2の実施形態では汎用のねじを用いて調整機構を構成することができるため、構造の簡略化が可能となる。
【0036】
なお、導波管下板30の側面から導波管共振器34の壁面に対して調整ねじを突出させるように設けてもよい。この場合には調整ねじの挿抜量によってインダクタンス成分を調整して共振周波数を定めることができる。
【0037】
《第3の実施形態》
図9は第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部である共振器部分の斜視図である。また、図10は、第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103の導波管下板の主要部の平面図である。
【0038】
第1・第2の実施形態では、第1の共振器として導波管共振器を備え、第2の共振器として同軸共振器を備えたが、第3の実施形態では、第1の共振器として二つの同軸共振器43,45を備え、第2の共振器として同軸共振器37を備えている。すなわち、円柱形状の中心導体44,46とその周囲の部分円柱状の空間とで二つの同軸共振器43,45を構成している。また、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで同軸共振器37を構成している。なお、中心導体44,46のそれぞれの一方の先端とそれらに対向する導体面との間に間隙を設けて同軸形空胴共振器を構成してもよい。
【0039】
第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103は、図10に示した導波管下板に平板状の導波管上板を被せて構成される。導波管32,36は矩形導波管の導波路を構成している。同軸共振器43は中心導体44とその周囲の部分円柱状の空間とで構成されている。同様に、同軸共振器45は中心導体46とその周囲の部分円柱状の空間とで構成されている。同軸共振器43と導波管32との境界部分には、幅方向を狭めた窓33が形成されている。同様に、同軸共振器45と導波管36との境界部分には、幅方向を狭めた窓35が形成されている。
【0040】
同軸共振器37は、中心導体38とその周囲の半円柱状の空間とで構成されている。中心導体38の先端と導波管上板31との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41は接続されている。
【0041】
三つの同軸共振器43,37,45は、電磁界が分布する共振空間の一部を共有して互いに結合する。そのため、導波管32−36の間に3段の共振器が挿入された回路が構成されていることになる。
【0042】
ここで、三つの同軸共振器43,37,45の共振周波数をfo、同軸共振器43と37との結合係数をk1、同軸共振器43と45との結合係数をk2とすれば、結合モードうち最も低い共振周波数fminは次式で表される。
fmin=fo(1−k1/2−k2/2)
この周波数fminが使用周波数に一致するように、前記fo,k1,k2を定めればよい。
本発明に係る「第1の共振器」は導波管共振器に限らず、このように同軸共振器又は同軸形空胴共振器であってもよい。
【0043】
なお、図10に示した例では、入力側の導波路に結合する同軸共振器又は同軸形空胴共振器と、出力側の導波路に結合する同軸共振器又は同軸形空胴共振器を別に設けたが、入力側の導波路と出力側の導波路にそれぞれ結合する共通の同軸共振器又は同軸形空胴共振器を設けてもよい。
【0044】
《第4の実施形態》
第1〜第3の実施形態では、リミッタ用ダイオードを備えた共振器を一つだけ設けたが、リミッタ用ダイオードを備えた共振器を複数個設けてもよい。その場合には、導波管共振器に結合する二つの同軸共振器を設け、それぞれの同軸共振器の中心導体にダイオードを接続するか、導波管共振器と同軸共振器との組を、導波管に二組挿入する。二つのダイオードを用いる場合、前段に耐電力性の高い大電力用のダイオード、後段に応答遅れの少ない中電力用のダイオードを設ければよい。このことにより、耐電力性と高速応答性を両立したダイオードリミッタ装置を構成できる。
【0045】
《第5の実施形態》
図11は第5の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。レーダの高周波回路部は、マイクロ波を発振するマグネトロン72、それをパルス駆動する駆動回路71、マグネトロン72の発振信号を後段方向へ伝搬するサーキュレータ73、終端器74、2次高調波を抑制する高調波伝搬阻止フィルタ201、送信信号をロータリージョイント側へ伝搬させ、受信信号を受信回路側へ伝搬させるサーキュレータ76、ロータリージョイント77、アンテナ78、送信信号の電力が受信回路側へ回り込まないようにする制限するリミッタ回路79および受信回路80を備えている。
【0046】
駆動回路71がマグネトロン72をパルス駆動することによって、9.6GHzのパルス状マイクロ波信号が出力され、サーキュレータ73→高調波伝搬阻止フィルタ201→サーキュレータ76→ロータリージョイント77→アンテナ78の経路で空中へ放射される。また物標で反射した信号がアンテナ78で受信され、ロータリージョイント77→サーキュレータ76→リミッタ回路79→受信回路80の経路で受信される。
リミッタ回路79には、第1〜第3の実施形態で示したうちの何れかのダイオードリミッタ装置を用いる。
【符号の説明】
【0047】
30…導波管下板
31…導波管上板
32,36…導波管
33,35…窓
34…導波管共振器(第1の共振器)
37…同軸共振器(第2の共振器)
38…中心導体
41…ダイオード
42…調整ねじ
43,45…同軸共振器
44,46…中心導体
71…駆動回路
72…マグネトロン
73…サーキュレータ
74…終端器
76…サーキュレータ
77…ロータリージョイント
78…アンテナ
79…リミッタ回路
80…受信回路
101〜103…ダイオードリミッタ装置
201…高調波伝搬阻止フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は例えばパルスレーダ等に用いられる導波管型ダイオードリミッタ装置、及びそれを備えたレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は一般的なパルスレーダの構成を示すブロック図である。パルスレーダにおいては、マグネトロン1から出力されるマイクロ波信号をサーキュレータ2を介してアンテナ3に導き、アンテナ3からマイクロ波信号を放射する。物標からの反射波はアンテナ3で受信され、サーキュレータ2、リミッタ4を介して受信モジュール5へと導かれる。
【0003】
このような信号の送受の際、リミッタ4はマグネトロン1からのマイクロ波信号がサーキュレータ2で直接漏洩するなどして受信モジュールへ入力される過大な信号から受信モジュール5を保護する。
【0004】
従来、このようなリミッタとしては、過大なマイクロ波信号が入力した場合に、ダイオードがオンして、受信モジュールへの漏洩電力を制限するダイオードリミッタ装置が用いられている。
【0005】
図2は従来のダイオードリミッタ装置の構成を示す図である。シングルリッジ形の矩形導波管20には幅広壁面(E面)の一方のリッジ部20aに所定の間隔でねじ穴21a,21bが形成される。この矩形導波管20の幅広壁面の他方にはPINダイオード挿着用の凹部22a,22bがねじ穴21a,21bの中心線と同一線上に形成されていて、その凹部22a,22bにPINダイオード23の一方の電極が接続されている。ねじ穴21a,21bで同軸外導体が形成され、板状の第1の金属ねじ部材24a,24bが螺合調整自在に螺合される。第1の金属ねじ部材24a,24bにはねじ穴25a,25bがリッジ導波管の凹部22a,22bに対応して形成され、ねじ穴25a,25bには棒状の第2の金属ねじ部材26a,26bがそれぞれ螺合調整自在に螺合されている。第2の金属ねじ部材26a,26bはリッジ導波管20のねじ穴21a,21bに遊挿されて同軸内導体を形成するもので、その先端部は凹部22a,22bに挿着されたPINダイオード23の他方の電極に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−67934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のリミッタは、導波管に垂直な方向に共振器が配置されているため、導波管の厚み寸法+共振器の深さ寸法分の高さを要する。
また、ダイオードリミッタの理想的な特性は、入力電力が所定値以下では出力電力がリニアで、入力電力が所定値以上で出力電力がフラットに制限されるような特性であるが、ダイオードの静電容量のバラツキに起因してリミッタ特性は変動する。このリミッタ特性の調整は困難である。例えば、図2に示した例では、ねじや先端部の凹部など複雑な加工を施した棒状同軸中心導体25や金属ねじ部材24などが必要である。そのため、全体の部品点数が多く、その組立て作業が繁雑であるとともに高精度な組立てが困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、調整機構等を精密な部品を用いることなく、低背化できる簡素な構成の、導波管を入出力とするダイオードリミッタ装置、及びそれを備えたレーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダイオードを内蔵した同軸共振器と導波管共振器を電磁界的に組み合わせた新しい共振器を構成し、この共振器を利用してリミッタ装置として作用させるものである。
【0010】
本発明のダイオードリミッタ装置は、第1の共振器と、前記第1の共振器に結合する少なくとも一つの第2の共振器と、前記第1の共振器に設けられ、前記第1の共振器の共振モードと前記第2の共振器の共振モードとの結合モードによる電磁界により電圧が印加されるダイオードと、を備えている。
【0011】
例えば、前記第2の共振器は導波管共振器であり、前記第1の共振器は、外導体が前記導波管共振器の壁に連続する同軸共振器であり、前記ダイオードは前記同軸共振器の中心導体と接地導体との間に接続される。
【0012】
例えば前記第2の共振器である前記導波管共振器のキャビティ内に、前記第1の共振器と前記第2の共振器との結合調整用の部材を備える。
【0013】
例えば、前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる略直方体状のキャビティで構成され、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記キャビティにつながる部分円柱状の空間と、円柱状の中心導体とで構成され、
前記結合調整用の部材は、前記キャビティ内に突出する金属製の調整ねじである。
【0014】
例えば、前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる部分円柱状の空間と、中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器であり、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器である。
【0015】
また、例えば、前記第2の共振器及び当該第2の共振器に設けられた前記ダイオードの組を複数組備え、前記複数組のうち前段側に耐電力性の高い大電力用のダイオードが設けられ、後段側に応答遅れの少ない中電力用のダイオードが設けられる。
【0016】
本発明のレーダは、探知用のパルス状電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記パルス状電磁波を送信し、物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、前記パルス状電磁波を前記アンテナへ導出し、前記アンテナからの受信信号を受信回路へ導入するサーキュレータと、を備え、前記受信回路の入力部に前記ダイオードリミッタ装置を設けて構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、設けられる2つの共振器は設計上小型化が可能であり、入出力導波管と同じ電磁界モードを有するので、設計性に優れた導波管リミッタ装置を構成ができる。
【0018】
また、従来の同軸回路の場合にはダイオードの静電容量ばらつきに対して調整機能をもたせることが難しかったが、本発明によれば導波管共振器部を利用できるため、調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的なパルスレーダの構成を示すブロック図である。
【図2】従来のダイオードリミッタの構成を示す図である。
【図3】図3(A)は第1の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図3(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
【図4】同軸共振器37と導波管共振器34との関係を示す図である。図4(A)は同軸共振器37の基本形の斜視図、図4(B)は導波管共振器34の基本形の斜視図である。図4(C)は、図4(A)の同軸共振器37と、図4(B)の導波管共振器34とを合成した共振器の斜視図である。
【図5】同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間に生じる電磁界の分布と結合の様子を示す図である。
【図6】図3に示したダイオードリミッタ装置101の導波管32と導波管36との間での通過特性を示す図である。図6(A)は入力電力が−10dBmのときの特性、図6(B)は入力電力が+10dBmのときの特性である。
【図7】図3に示したダイオードリミッタ装置101の入力電力と出力電力との関係を示す図である。
【図8】図8(A)は第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図8(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
【図9】第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部である共振器部分の斜視図である。
【図10】第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103の導波管下板の平面図である。
【図11】第4の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《第1の実施形態》
図3(A)は第1の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図3(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
図3(B)に示すように、ダイオードリミッタ装置101は、導波管下板30、導波管上板31、PINダイオード41を備えている。図3(A)は導波管下板30の平面図である。
【0021】
導波管下板30は所定深さの溝が形成されたアルミニウム板である。導波管上板31は所定厚さの単純なアルミニウム板である。導波管下板30に形成されている溝と導波管上板31とで囲まれた略直方体状の空間(キャビティ)によって導波路及び共振器が構成されている。すなわち、導波管32,36で矩形導波管の導波路が構成されている。導波管共振器34は概形が直方体であり、TM110モードで共振する第1の共振器が構成されている。この導波管共振器34と導波管32,36との境界部分には、幅方向を狭めた磁界結合用の窓33,35が形成されている。
【0022】
同軸共振器37は、円柱形状の中心導体38とその周囲の部分円柱状の空間とで第2の共振器を構成している。中心導体38の先端と導波管上板31(接地導体)との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41が接続されている。
【0023】
同軸共振器37の外導体は導波管共振器34の壁(キャビティ)に連続していて、同軸共振器37は導波管共振器34に隣接配置されている。すなわち同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは連続している。したがって、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは一部を共有していて、同軸共振器37の共振モードと導波管共振器34の共振モードとは結合する。
図4は、同軸共振器37と導波管共振器34との関係を示す図である。図4(A)は同軸共振器37の基本形の斜視図、図4(B)は導波管共振器34の基本形の斜視図である。図4(C)は、図4(A)の同軸共振器37と、図4(B)の導波管共振器34とを合成した共振器の斜視図である。このように、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間とは一部を共有している。
【0024】
図5は、同軸共振器37の共振空間と導波管共振器34の共振空間に生じる電磁界の分布と結合の様子を示す図である。図中の破線の矢印は磁界の向き(磁力線)、実線の矢印は電界の向き(電気力線)を表している。導波管共振器34は共振空間のほぼ中央に、導波管の縦方向を向く電界最大の山が生じ、その周囲を平面方向に囲む磁界ループが生じる。一方、同軸共振器37の中心導体38と周囲(半周囲)の壁面との間に電界が生じ、中心導体38を囲むように磁界ループが生じる。同軸共振器37と導波管共振器34の磁界は一部で共有することになり、両者間で磁界エネルギーの授受が行われるので、同軸共振器37の共振モードと導波管共振器34の共振モードとは磁界結合する。
【0025】
同軸共振器37に入力される電力が所定値を超えると、中心導体38の先端と接地電極(導波管上板31の内天面)との間に掛かる電圧がダイオード41のしきい値電圧を超えて、ダイオード41が導通する。これにより、同軸共振器37の共振周波数が大きく変化して、導波管32と導波管36との間の挿入損失が非常に大きくなって、受信モジュールへの電力流入が抑制される。
【0026】
以上に示したダイオードリミッタ装置において、同軸共振器37の中心導体38とダイオード41とを合わせた高さは5mmであり、中心導体38の直径は1.5mmであり、中心導体38周囲の外導体内径は4.5mmである。導波管共振器34の平面寸法は22mm×20mm、高さ寸法は5mmである。
【0027】
本発明によれば、中心導体にダイオードを接続した同軸共振器と導波管共振器とを利用したことにより、低背化可能なダイオードリミッタ装置を構成できる。
【0028】
構成要素である2つの共振器である、同軸共振器37及び導波管共振器34の結合モードの共振周波数は、それぞれの共振器の共振周波数f1、f2と共振器間の結合係数kによって決まる。f1、f2の周波数が等しく、f1=f2=foであれば、結合モードの共振周波数fは、
f=fo(1±k/2)
の関係となる。例えば、結合係数kが0.4場合には、
f=0.8fo,1.2fo
となる。この二つの結合モードのうち一方の結合モードの共振周波数が使用周波数となるように、同軸共振器37及び導波管共振器34の共振周波数f1,f2、及び結合係数kを定める。但し、小型化のためには、二つの結合モードのうち低い方の共振周波数が使用周波数になるように、f1,f2,kを定める。ここで、f1,f2=12GHz、k=0.4とすれば、f=12×(1−0.4/2)=97[GHz]となる。
【0029】
なお、f1,f2は必ずしも正確に等しく定める必要はなく、二つの共振器が結合し、結合モードの共振周波数が使用周波数になるように定めることができれば、利用できる。
【0030】
このように、同軸共振器37の単独での共振周波数は理論的に12GHzと高い周波数であるので、高さ5mmと大幅な低背化が実現できる。これを従来のダイオードリミッタ装置の同軸回路で構成すれば、15mm程度の高さが必要であるので、本発明によれば、大幅に低背化できることが分かる。
【0031】
図6(A)、図6(B)は、図3に示したダイオードリミッタ装置101の導波管32と導波管36との間での通過特性を示す図である。図6(A)は入力電力が−10dBmのときの特性、図6(B)は入力電力が+10dBmのときの特性である。このように、9.7GHzで共振ピークをもち、入力電力が+10dBmでは出力電力が−15dBmに制限されていることが分かる。
【0032】
図7は、図3に示したダイオードリミッタ装置101の入力電力と出力電力との関係を示す図である。入力電力と出力電力はいずれもdBm単位で表している。入力電力が+5dBmまではリミット動作せず、入力電力が+5dBmを超える範囲でリミット動作することが分かる。
【0033】
《第2の実施形態》
図8(A)は第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部の平面図、図8(B)は同ダイオードリミッタ装置の主要部の分解斜視図である。
第2の実施形態に係るダイオードリミッタ装置102は、第1の実施形態で図3に示したダイオードリミッタ装置101に金属製の調整ねじ42を設けたものである。導波管共振器34のほぼ中央に円柱状の金属製調整ねじ42が、導波管下板30側から又は導波管上板31側から挿入されている。
【0034】
導波管共振器34のほぼ中央は電界エネルギーが集中している箇所であるので、その位置に調整ねじを突出させると、その突出量が大きくなる程、容量成分が増して、導波管共振器34の共振周波数が低下する。したがって、調整ねじの挿抜量によって共振周波数を容易に調整できる。
【0035】
従来のダイオードリミッタ装置に構成される同軸回路では、共振周波数を調整するために同軸回路の寸法自体を変える必要があるので、部品自体に精密加工が必要であり、部品点数が多くなるという問題があった。第2の実施形態では汎用のねじを用いて調整機構を構成することができるため、構造の簡略化が可能となる。
【0036】
なお、導波管下板30の側面から導波管共振器34の壁面に対して調整ねじを突出させるように設けてもよい。この場合には調整ねじの挿抜量によってインダクタンス成分を調整して共振周波数を定めることができる。
【0037】
《第3の実施形態》
図9は第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置の主要部である共振器部分の斜視図である。また、図10は、第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103の導波管下板の主要部の平面図である。
【0038】
第1・第2の実施形態では、第1の共振器として導波管共振器を備え、第2の共振器として同軸共振器を備えたが、第3の実施形態では、第1の共振器として二つの同軸共振器43,45を備え、第2の共振器として同軸共振器37を備えている。すなわち、円柱形状の中心導体44,46とその周囲の部分円柱状の空間とで二つの同軸共振器43,45を構成している。また、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで同軸共振器37を構成している。なお、中心導体44,46のそれぞれの一方の先端とそれらに対向する導体面との間に間隙を設けて同軸形空胴共振器を構成してもよい。
【0039】
第3の実施形態に係るダイオードリミッタ装置103は、図10に示した導波管下板に平板状の導波管上板を被せて構成される。導波管32,36は矩形導波管の導波路を構成している。同軸共振器43は中心導体44とその周囲の部分円柱状の空間とで構成されている。同様に、同軸共振器45は中心導体46とその周囲の部分円柱状の空間とで構成されている。同軸共振器43と導波管32との境界部分には、幅方向を狭めた窓33が形成されている。同様に、同軸共振器45と導波管36との境界部分には、幅方向を狭めた窓35が形成されている。
【0040】
同軸共振器37は、中心導体38とその周囲の半円柱状の空間とで構成されている。中心導体38の先端と導波管上板31との間には間隙が生じていて、その間隙にPINダイオード41は接続されている。
【0041】
三つの同軸共振器43,37,45は、電磁界が分布する共振空間の一部を共有して互いに結合する。そのため、導波管32−36の間に3段の共振器が挿入された回路が構成されていることになる。
【0042】
ここで、三つの同軸共振器43,37,45の共振周波数をfo、同軸共振器43と37との結合係数をk1、同軸共振器43と45との結合係数をk2とすれば、結合モードうち最も低い共振周波数fminは次式で表される。
fmin=fo(1−k1/2−k2/2)
この周波数fminが使用周波数に一致するように、前記fo,k1,k2を定めればよい。
本発明に係る「第1の共振器」は導波管共振器に限らず、このように同軸共振器又は同軸形空胴共振器であってもよい。
【0043】
なお、図10に示した例では、入力側の導波路に結合する同軸共振器又は同軸形空胴共振器と、出力側の導波路に結合する同軸共振器又は同軸形空胴共振器を別に設けたが、入力側の導波路と出力側の導波路にそれぞれ結合する共通の同軸共振器又は同軸形空胴共振器を設けてもよい。
【0044】
《第4の実施形態》
第1〜第3の実施形態では、リミッタ用ダイオードを備えた共振器を一つだけ設けたが、リミッタ用ダイオードを備えた共振器を複数個設けてもよい。その場合には、導波管共振器に結合する二つの同軸共振器を設け、それぞれの同軸共振器の中心導体にダイオードを接続するか、導波管共振器と同軸共振器との組を、導波管に二組挿入する。二つのダイオードを用いる場合、前段に耐電力性の高い大電力用のダイオード、後段に応答遅れの少ない中電力用のダイオードを設ければよい。このことにより、耐電力性と高速応答性を両立したダイオードリミッタ装置を構成できる。
【0045】
《第5の実施形態》
図11は第5の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。レーダの高周波回路部は、マイクロ波を発振するマグネトロン72、それをパルス駆動する駆動回路71、マグネトロン72の発振信号を後段方向へ伝搬するサーキュレータ73、終端器74、2次高調波を抑制する高調波伝搬阻止フィルタ201、送信信号をロータリージョイント側へ伝搬させ、受信信号を受信回路側へ伝搬させるサーキュレータ76、ロータリージョイント77、アンテナ78、送信信号の電力が受信回路側へ回り込まないようにする制限するリミッタ回路79および受信回路80を備えている。
【0046】
駆動回路71がマグネトロン72をパルス駆動することによって、9.6GHzのパルス状マイクロ波信号が出力され、サーキュレータ73→高調波伝搬阻止フィルタ201→サーキュレータ76→ロータリージョイント77→アンテナ78の経路で空中へ放射される。また物標で反射した信号がアンテナ78で受信され、ロータリージョイント77→サーキュレータ76→リミッタ回路79→受信回路80の経路で受信される。
リミッタ回路79には、第1〜第3の実施形態で示したうちの何れかのダイオードリミッタ装置を用いる。
【符号の説明】
【0047】
30…導波管下板
31…導波管上板
32,36…導波管
33,35…窓
34…導波管共振器(第1の共振器)
37…同軸共振器(第2の共振器)
38…中心導体
41…ダイオード
42…調整ねじ
43,45…同軸共振器
44,46…中心導体
71…駆動回路
72…マグネトロン
73…サーキュレータ
74…終端器
76…サーキュレータ
77…ロータリージョイント
78…アンテナ
79…リミッタ回路
80…受信回路
101〜103…ダイオードリミッタ装置
201…高調波伝搬阻止フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の共振器と、
前記第1の共振器に結合する第2の共振器と、
前記第2の共振器に設けられ、前記第2の共振器の共振モードと前記第1の共振器の共振モードとの結合モードによる電磁界により電圧が印加されるダイオードと、を備えた、ダイオードリミッタ装置。
【請求項2】
前記第1の共振器は導波管共振器であり、前記第2の共振器は、外導体が前記導波管共振器の壁に連続する同軸共振器であり、前記ダイオードは前記同軸共振器の中心導体と接地導体との間に接続された、請求項1に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項3】
前記第1の共振器である前記導波管共振器のキャビティ内に、前記第2の共振器と前記第1の共振器との結合調整用の部材を備えた、請求項2に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項4】
前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる略直方体状のキャビティで構成され、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記キャビティにつながる部分円柱状の空間と、円柱状の中心導体とで構成され、
前記結合調整用の部材は、前記キャビティ内に突出する金属製の調整ねじである、請求項3に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項5】
前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる部分円柱状の空間と、中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器であり、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器である、請求項1又は2に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項6】
前記第2の共振器及び当該第2の共振器に設けられた前記ダイオードの組を複数組備え、前記複数組のうち前段側に耐電力性の高い大電力用のダイオードが設けられ、後段側に応答遅れの少ない中電力用のダイオードが設けられた、請求項1乃至5の何れかに記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項7】
探知用のパルス状電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記パルス状電磁波を送信し、物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、前記パルス状電磁波を前記アンテナへ導出し、前記アンテナからの受信信号を受信回路へ導入するサーキュレータと、を備え、
前記受信回路の入力部に請求項1乃至6の何れかに記載のダイオードリミッタ装置を設けた、レーダ。
【請求項1】
第1の共振器と、
前記第1の共振器に結合する第2の共振器と、
前記第2の共振器に設けられ、前記第2の共振器の共振モードと前記第1の共振器の共振モードとの結合モードによる電磁界により電圧が印加されるダイオードと、を備えた、ダイオードリミッタ装置。
【請求項2】
前記第1の共振器は導波管共振器であり、前記第2の共振器は、外導体が前記導波管共振器の壁に連続する同軸共振器であり、前記ダイオードは前記同軸共振器の中心導体と接地導体との間に接続された、請求項1に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項3】
前記第1の共振器である前記導波管共振器のキャビティ内に、前記第2の共振器と前記第1の共振器との結合調整用の部材を備えた、請求項2に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項4】
前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる略直方体状のキャビティで構成され、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記キャビティにつながる部分円柱状の空間と、円柱状の中心導体とで構成され、
前記結合調整用の部材は、前記キャビティ内に突出する金属製の調整ねじである、請求項3に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項5】
前記第1の共振器は、導波管下板と導波管上板との積層体内に設けられる部分円柱状の空間と、中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器であり、
前記第2の共振器は、前記導波管下板と前記導波管上板との積層体内に設けられる、前記部分円柱状の空間につながる部分円柱状の空間と円柱状の中心導体とで構成される同軸共振器又は同軸形空胴共振器である、請求項1又は2に記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項6】
前記第2の共振器及び当該第2の共振器に設けられた前記ダイオードの組を複数組備え、前記複数組のうち前段側に耐電力性の高い大電力用のダイオードが設けられ、後段側に応答遅れの少ない中電力用のダイオードが設けられた、請求項1乃至5の何れかに記載のダイオードリミッタ装置。
【請求項7】
探知用のパルス状電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記パルス状電磁波を送信し、物標で反射されたエコー信号を受信するアンテナと、前記パルス状電磁波を前記アンテナへ導出し、前記アンテナからの受信信号を受信回路へ導入するサーキュレータと、を備え、
前記受信回路の入力部に請求項1乃至6の何れかに記載のダイオードリミッタ装置を設けた、レーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−193202(P2011−193202A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57260(P2010−57260)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]