説明

ダイカスト用水性離型剤及びそれを用いたダイカスト鋳造法

【課題】アルミニウム等の金属溶湯に触れても、離型剤由来とするガスの発生が少なく、特に、高真空下のような厳しい条件下においても、優れた離型性を実現し得るダイカスト用水性離型剤を提供すること。
【解決手段】ダイカスト金型のキャビティ面に塗布される水性離型剤において、(A)常温で固体のネオペンチルポリオールエステルワックスと、(B)平均粒径が0.05μm以下の無機微粒子と、(C)前記キャビティ面への付着性を高めるための付着性向上剤とを、水性媒体中に分散、含有せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用水性離型剤及びそれを用いたダイカスト鋳造法に係り、特に、高真空下の鋳造雰囲気が採用される真空ダイカスト鋳造法に好適に用いられ得る水性離型剤と、そのような水性離型剤を用いてダイカスト鋳造を有利に実施する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金型鋳造法の一つであるダイカスト鋳造法は、得られる製品の寸法精度が非常に高く、また、製品の薄肉化や軽量化が可能な生産方法であることが知られている。そして、そこでは、得られた製品をダイカスト金型から離型し易くするために、各種の離型剤が提案されており、具体的には、油性離型剤、水性離型剤(エマルジョン離型剤)、粉体離型剤が、明らかにされている。しかしながら、それら離型剤の中で、油性離型剤は、離型性は良いものの、製品中に含まれるガスが多くなる欠点があることに加えて、作業環境的には、高温の金型に塗布するために、発火する危険性も内在している。これに対して、水性離型剤は、発生するガス量が少ない利点を有するものの、成分が金型に付着し難いために、油性離型剤ほどの離型性が発揮され得ない問題があり、また、作業環境的には、塗布量が多くなるために、排水量が多くなるという問題も内在している。更に、粉体離型剤は、作業環境面では良いものの、初期の設備投資が高くなることに加えて、離型性が劣り、また、均一塗布が困難であるという欠点を内在している。
【0003】
このため、特開2000−301286号公報や特開2000−301287号公報においては、ガスを発生することのない固体潤滑剤を用いることで、潤滑性を改善した離型剤が提案されている。そこでは、平均粒子径が0.1μm以下の超微粒子状の無機化合物に、無機系バインダ又は有機系バインダを混合することで、離型性を改善した水性離型剤や粉体離型剤が提案されているのであるが、その組成の大半が無機系化合物であるところから、金型への堆積物が多くなることや離型性が劣ること等の問題を有している。そこで、有機系バインダの比率を大きくすると、ガス発生量が多くなり、鋳巣の原因となることとなる。また、特開2000−33457号公報においては、粉末固体潤滑剤と付着性向上剤とを揮発性溶剤で分散させてなる潤滑離型剤が、明らかにされているが、そこでは、揮発性溶剤が使用されていることにより、臭気や発火の危険性による作業環境の悪化の問題が内在している。更に、特開平11−77234号公報においては、真球度が1.1以下、粒径が10μm以下の真球無機粒子を用いた金型鋳造用離型剤が提案されているが、粒径が大きいことから、スプレーが目詰まりし易い等の問題のあるものであった。
【0004】
また、特開平11−277211号公報においては、合成エステルオイルとシリコーンオイルとを主成分とする、付着性の向上、耐酸化膜形成のための合成油が混合されたダイカスト用離型剤が提案され、そこでは、合成エステルオイルとして、ネオペンチルポリオールの脂肪酸エステルが用いられ、シリコーンオイルとしては、α−メチルスチレン変性シリコーンオイルの使用が、明らかにされている。しかしながら、そのような主成分である有機物質は、金型内において金属溶湯と接することにより、熱分解して、炭化・ガス化され易く、更に、黒煙が発生して作業環境を悪化させたり、生じたガスが製品内に浸透して、製品強度を弱めたりする問題の他、製品表面の仕上がりを悪くする原因となる等の問題を内在している。
【0005】
一方、ダイカスト鋳造法の一つとして近年注目されている、金型キャビティを含めた注湯系の全てを真空(減圧)雰囲気に保って鋳造を行なう真空ダイカスト法は、鋳造された製品中への雰囲気の巻き込みが少なく、鋳巣やブローホール等の鋳造欠陥が少ない、健全なダイカスト製品を鋳造することが出来、熱処理が必要な製品や溶接を必要とする製品等に多く適用されているのであるが、このような真空ダイカスト法には、従来から提案されているダイカスト用水性離型剤が、そのまま、適用され得るものではなかったのである。特に、真空ダイカスト法で採用されるような、高真空下の厳しい条件下になると、従来の水性離型剤では、離型抵抗が著しく大きくなり、製品を金型から鋳抜くことが難しくなることが認められている。そこで、そのような離型抵抗を小さくするために、従来の油性離型剤を使用しようとすると、製品中のガス量が高くなり、鋳巣による不良率が高くなる等という欠点が惹起されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−301286号公報
【特許文献2】特開2000−301287号公報
【特許文献3】特開2000−33457号公報
【特許文献4】特開平11−77234号公報
【特許文献5】特開平11−277211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、アルミニウム等の金属溶湯に触れても、離型剤由来とするガスの発生が少なく、特に、高真空下のような厳しい条件下においても、優れた離型性を実現し得るダイカスト用水性離型剤を提供することにあり、また、他の課題とするところは、そのような水性離型剤を用いてダイカスト鋳造を有利に行ない、製品特性の向上を図り得るダイカスト鋳造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載から把握され得る発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) ダイカスト金型のキャビティ面に塗布される水性離型剤にして、(A)常温で固体のネオペンチルポリオールエステルワックスと、(B)平均粒径が0.05μm以下の無機微粒子と、(C)前記キャビティ面への付着性を高めるための付着性向上剤とを、水性媒体中に分散、含有せしめてなることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。
(2) 前記ネオペンチルポリオールエステルワックスが、脂肪族モノカルボン酸とネオペンチルポリオールとの縮合反応により得られた、常温で固体状のものである上記態様(1)に記載のダイカスト用水性離型剤。
(3) 前記ネオペンチルポリオールエステルワックスが、炭素数が14〜30の直鎖状の飽和脂肪族モノカルボン酸と炭素数が5〜18のネオペンチルポリオールとの縮合反応により得られた、融点:55℃〜90℃、酸価:3mgKOH/g以下、水酸基価:5mgKOH/g以下のエステルワックスである上記態様(1)又は(2)に記載のダイカスト用水性離型剤。
(4) 前記無機微粒子が、球状形状を有している上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(5) 前記無機微粒子が、コロイド粒子である上記態様(1)乃至(4)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(6) 前記付着性向上剤が、アミノ変性シリコーン油及び/又はアミノ基含有シランカップリング剤である上記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(7) 前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が10〜60%の割合において、該(B)成分が30〜80%の割合において、該(C)成分が10〜60%の割合において、それぞれ用いられる上記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(8) 前記付着性向上剤がアミノ変性シリコーン油であるとき、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が10〜40%の割合において、該(B)成分が30〜60%の割合において、該(C)成分が30〜60%の割合において、それぞれ用いられる上記態様(1)乃至(7)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(9) 前記付着性向上剤がアミノ基含有シランカップリング剤であるとき、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が40〜60%の割合において、該(B)成分が30〜50%の割合において、該(C)成分が10〜30%の割合において、それぞれ用いられる上記態様(1)乃至(7)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(10) 前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分が、合計量において、0.1〜5重量%の濃度で分散、含有せしめられている上記態様(1)乃至(9)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤。
(11) 上記態様(1)乃至(10)の何れか一つに記載のダイカスト用水性離型剤を用い、それを、ダイカスト金型のキャビティ面に付着せしめた後、所定の金属溶湯を該キャビティ内に射出して、鋳造を行なうことを特徴とするダイカスト鋳造法。
(12) 前記鋳造操作が、前記キャビティ内を真空吸引して、100torr以下の高真空下の鋳造雰囲気とした状態において、行なわれる上記態様(11)に記載のダイカスト鋳造法。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明によれば、ダイカスト鋳造に際して用いられる離型剤が、常温で固体形状を呈するネオペンチルポリオールエステルワックスからなる(A)成分と、平均粒径が0.05μm以下である微細な無機微粒子からなる(B)成分と、金型のキャビティ面に対する離型剤の付着性を高めるための付着性向上剤からなる(C)成分とが、水性媒体中に分散、含有せしめられてなる形態とされているものであることにより、ダイカスト鋳造に際して、発生するガス量が少ない低ガス特性を効果的に確保しつつ、鋳造雰囲気が高真空下のような厳しい条件下である場合においても、優れた離型性を有利に発揮し得ることとなったのである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、かかる本発明に従う水性離型剤において、その必須の成分の一つたる、常温で固体のネオペンチルポリオールエステルワックスからなる(A)成分は、ネオペンチルポリオールを高級脂肪族モノカルボン酸にてエステル化してなる形態の脂肪酸エステルであり、潤滑剤として機能して、高真空下のような厳しい条件下においても、離型性を有利に高め得るものである。しかも、高温の高真空下での分解性や揮発性が低いために、ガス発生量の少ない潤滑成分となるのである。
【0012】
そして、そのようなネオペンチルポリオールエステルワックスを与えるネオペンチルポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等を挙げることが出来、中でも、炭素数が5〜18であるネオペンチルポリオールが、有利に用いられるが、特に、ペンタエリスリトールを用いて得られるネオペンチルポリオールエステルワックスは、その結晶性が高く、且つ熱安定性が高いために、ガス発生量が効果的に抑制され得ることとなるところから、好ましく用いられることとなる。また、ネオペンチルポリオールエステルワックスを与える高級脂肪族モノカルボン酸としては、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ヘンエイコ酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等を挙げることが出来る。そして、その中でも、耐揮発性、酸化安定性、ガス発生量の抑制、潤滑性等の観点から、炭素数が14〜30の直鎖状の飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましく用いられ、中でも、炭素数が16〜30の直鎖状の飽和脂肪族モノカルボン酸が、特に好ましく用いられることとなる。
【0013】
また、それらネオペンチルポリオールと高級脂肪族モノカルボン酸との脂肪酸エステル形態の(A)成分たるネオペンチルポリオールエステルワックスは、常温で固体形状のものであるが、特に、その融点は、55〜90℃、好ましくは、60〜85℃であることが望ましく、また、その酸価は、3mgKOH/g以下、好ましくは、1mgKOH/g以下であることが望ましく、更に、その水酸基価は、5mgKOH/g以下、好ましくは、4mgKOH/g以下であることが望ましい。かかる酸価が3mgKOH/gを超えるようになると、未反応の脂肪酸が多く存在し、高温・高真空下におけるエステルワックスの揮発性や加水分解性、更には酸化分解性、ガス発生量を高めるようになるために、好ましくないのである。また、水酸基価が5mgKOH/gを超えるようになると、エステル分子中に未反応の水酸基が多く存在することとなり、そのために、特に、加水分解性を高めるようになるところから、好ましくないのである。
【0014】
なお、この(A)成分たるネオペンチルポリオールエステルワックスは、公知の製造手法に従って、容易に得ることが出来、例えば、所定の脂肪酸とネオペンチルポリオールとの脱水縮合反応、脂肪酸の酸ハロゲン化物とネオペンチルポリオールからの脱ハロゲン化水素の反応、エステル交換反応等の製造手法が、適宜に採用されることとなる。そして、その反応の際には、適当な触媒を使用することが出来、そしてその触媒としては、酸性又はアルカリ性触媒、例えば、酢酸亜鉛、チタン化合物等を用いることが出来る。また、それら反応成分を反応せしめるに際しては、脂肪酸のカルボキシル基と、ネオペンチルポリオールの水酸基との同量のモル比の反応、或いは1成分を大過剰に添加して反応させる手法が採用される。そして、そのような反応によって得られた反応生成物は、目的とするエステルワックスとして、そのまま用いられる他、通常の精製手法、例えば、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法等によって、高純度化されたエステルワックスとして取り出されて、本発明に従う水性離型剤の一成分として用いられることとなる。
【0015】
また、本発明に従う水性離型剤の主要成分の他の一つである(B)成分たる、平均粒径が0.05μm以下の無機微粒子は、ダイカスト金型に適用されたときに、金型のキャビティ面に固形物として存在して、キャビティ内に導入される溶湯金属と金型との接触回避剤として機能するものであって、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、黒鉛等の微粒子が好ましく、特に、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダルチタニア、コロイダル黒鉛の如きコロイド粒子が、好ましく用いられることとなる。なお、かかる(B)成分の平均粒径は、0.05μm以下、好ましくは、0.03μm以下であることが望ましく、これによって、粒子間の隙間が少なく一様な膜が形成され、ダイカスト鋳造された製品を鋳抜く際の抵抗を小さくすることが出来るのである。この粒子径が0.05μmよりも大きくなると、形成膜における粒子間の隙間に溶湯が入り込み、製品を鋳抜く際の抵抗となって、離型抵抗を高める問題を惹起するようになる。
【0016】
さらに、本発明に従う水性離型剤における主要成分の残りの一つである(C)成分たる付着性向上剤は、離型剤成分の金型キャビティ面への付着性を高めるものであって、例えば、シリコーン油、シランカップリング剤、ポリカルボン酸塩、ポリビニルアルコール等を挙げることが出来るが、特に、ダイカスト金型への付着性の点から、アミノ基を有するシリコーン油(アミノ変性シリコーン油)や、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン)を、単独で又は組み合わせて用いることが望ましい。
【0017】
ここで、そのような付着性向上剤として好適なアミノ変性シリコーン油としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルポリジメチルシロキサン等の、末端と分子内に複数のアミノ基(ジアミノ基等のポリアミノ基)を有するものが、ダイカスト金型への付着性の点から、より好ましく用いられる。また、前記したアミノシランとしては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることが出来、その中でも、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等の、末端と分子内に複数のアミノ基(ジアミノ基等のポリアミノ基)を有するものが、ダイカスト金型への付着性の点からして、より好ましく用いられる。特に、前記した(B)成分(無機微粒子)と、ダイカスト金型への付着性の点から、アミノシランが、より好ましく用いられる。シランカップリング剤におけるメトキシ基やエトキシ基の部位が加水分解して形成されるシラノール基が、(B)成分の無機微粒子やダイカスト金型に対して、水素結合的に吸着するようになるのである。そして、その際、高温の金型表面で、シラノール基と、無機微粒子やダイカスト金型の金型表面に存在する水酸基との間で脱水縮合が起こり、強固な化学結合となって、離型特性を有利に発揮し得ることとなる。
【0018】
そして、かくの如き(A)、(B)及び(C)からなる必須の3成分を用いて、本発明に従う水性離型剤を構成するに際して、それぞれの成分の使用割合は、目的に応じて適宜に決定されることとなるが、一般に、それら3成分の有効分(105℃における蒸発残分)の配合割合として、(A)成分:10〜60重量%、(B)成分:30〜80重量%、(C)成分:10〜60重量%の範囲が、好適に採用されることとなる(但し、それら3成分の合計量は100重量%となる)。その中で、(C)成分がアミノ変性シリコーン油であるときには、(A)成分:10〜40重量%、(B)成分:30〜60重量%、(C)成分:30〜60重量%の範囲が、有利に採用され、また(C)成分がアミノ基含有シランカップリング剤であるときには、(A)成分:40〜60重量%、(B)成分:30〜50重量%、(C)成分:10〜30重量%の範囲が、好適に採用されることとなる。なお、かかる(C)成分の配合割合は、ガス発生量を抑制するためにも、少なくすることが望ましく、一般に、アミノ変性シリコーン油の場合には、3成分の合計量に対して、45重量%以下の割合において、また、アミノ基含有シランカップリング剤の場合には、3成分の合計量に対して、15重量%以下の割合において、有利に用いられることとなる。
【0019】
なお、本発明に従う水性離型剤には、上記した(A)、(B)及び(C)の必須の3成分の他、必要に応じて、従来の離型剤と同様な添加成分、例えば界面活性剤や消泡剤、極圧添加剤、湯切れ向上剤、固体潤滑剤、熱安定剤、難燃剤、防錆剤、防腐剤等を、公知の割合において添加、含有せしめることも可能である。
【0020】
そして、本発明に従う水性離型剤は、上記した必須の3成分(A、B及びC成分)を、必要に応じて用いられる添加成分と共に、水道水や蒸留水、イオン交換水等の通常の水性媒体中に分散、含有せしめることにより、それらの成分が均一に分散され、また、溶解せしめられた成分を含む形態において調製されるものであるが、その調製方法としては、公知の各種の手法が採用され、例えば、各配合成分を水性媒体に順次混合せしめて、分散させる手法の他、各配合成分の複数を予め混合した後、その混合物を水性媒体に分散せしめたり、各配合成分を個々に水性媒体に分散せしめてなる分散液を混合して、最終的な水性離型剤として調製したり、或いは、それら成分の水性媒体への分散手法を組み合わせたりして、各配合成分が均一に配合され、そして分散、含有せしめられてなる形態の液状組成物として、目的とする水性離型剤が、調製される。
【0021】
また、そのような本発明に従う水性離型剤において、(A)、(B)及び(C)からなる必須の3成分は、その合計濃度において、一般に、0.1〜5重量%程度、より好ましくは0.3〜3重量%程度の濃度において、分散、含有せしめられることとなる。なお、それら3成分の合計濃度があまりにも低くなると、本発明の目的とする効果が充分に奏され難くなるからであり、また、逆に、濃度が高くなり過ぎると、離型抵抗値を小さくし得るものの、堆積物が多くなることから、ガス発生量が多くなり易くなる恐れが生じる。尤も、それは、金型への塗布量が少なくなるように調整することによって、或る程度は改善することが可能である。
【0022】
ところで、かくの如き本発明に従う水性離型剤を用いて、アルミニウム溶湯やマグネシウム溶湯、亜鉛溶湯等の所定の金属溶湯から、目的とする製品を得るべく、ダイカスト鋳造するに際しては、そのような離型剤は、従来と同様に、ダイカスト金型のキャビティ面に付与乃至は適用されて、金型表面に付着せしめられるようにされる。具体的には、スプレー法等の公知の塗布方法に従って、本発明に従う水性離型剤が塗布せしめられて、そのような金型表面(キャビティ面)の全面に亘って、水性離型剤の塗膜が形成されることとなるのである。
【0023】
次いで、そのキャビティ面に付着して塗膜を形成する水性離型剤が、乾燥せしめられることにより、換言すれば、その溶媒である水性媒体が蒸発除去せしめられることにより、分散されていたネオペンチルポリオールエステルワックスや無機微粒子が、キャビティ表面に沈積乃至は堆積して、かかる表面を覆う状態とされるのである。その際、本発明に従う水性離型剤は、付着性向上剤を含有するものであるところから、この付着性向上剤の作用によって、ネオペンチルポリオールエステルワックスや無機微粒子が、均一に分散した形態において、キャビティ面に付着せしめられて、均一な離型剤層が効果的に形成されるようになるのである。
【0024】
なお、ここで用いられるダイカスト金型は、一般に、金型温度が安定するまでは、捨て打ちが実施され、比較的高温の金型温度の状態下において、目的とするダイカスト鋳造が実施されるものであるところから、そのような比較的高温の金型に対して、本発明に従う水性離型剤が塗布されて形成される塗膜の乾燥は、金型自体の有する熱にて、容易に実現せしめ得るものであるが、更に、外部から熱を加えて、塗膜の乾燥をより迅速に行なうようにすることも可能である。
【0025】
このように、本発明に従う水性離型剤は、比較的に高温の金型に対して、従来と同様に適用されるものではあるが、そのような離型剤に含まれるネオペンチルポリオールエステルワックスは、耐熱性が高く、容易に熱分解するものではないところから、併用される無機微粒子と共に、高温下でも変質され難く、一定の離型効果や潤滑効果を奏すると共に、金属溶湯に触れても、離型剤由来とするガスの発生が少なく、高真空下のような厳しい条件下においても、優れた離型性を発揮するという特徴を有しているのである。
【0026】
このため、本発明に従う水性離型剤は、キャビティ内を真空吸引して、高真空下の鋳造雰囲気とした状態において鋳造操作を行なう、所謂真空ダイカスト鋳造法や、そのための真空ダイカスト鋳造装置に、好適に用いられ得ることとなるのである。即ち、そこでは、鋳造雰囲気が、一般に、100torr以下、好ましくは50torr以下の高真空度とされて、所定の金属溶湯がキャビティ内に射出され、鋳造が行なわれることとなるのであるが、そのような厳しい条件下においても、離型剤由来のガスの発生を抑制しつつ、優れた離型性が発揮され得るのである。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した発明を実施するための形態における記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0028】
なお、以下の実施例中の部及び百分率は、何れも、特に断りのない限り、重量基準にて示されるものである。また、ネオペンチルポリオールエステルワックスの酸価及び水酸基価の測定は、それぞれ、日本油化学会の基準油脂分析試験法:JOCS2.3.1−1996及びJOCS2.3.6.2−1996に従って、行なわれた。更に、実施例中の離型抵抗値及び発生ガス量は、それぞれ、以下の如くして、測定されたものである。
【0029】
−離型抵抗値−
ダイカストマシンにおける押出しピンの後端部と押出し板との間に取り付けたロードセルにより、押出しピンに作用する押出し力を測定し、ダイカスト鋳造された鋳物が金型より離型される際の最大押出し力を、離型抵抗値とした。そして、その値が、1.0kN以下の場合に◎、1.0kNを超え、2.0kN以下の場合に○、2.0kNを超え、3.0kN以下の場合に△、3.0kNを超える場合に×として、評価した。
【0030】
−発生ガス量−
ダイカスト鋳造して得られた鋳物を、減圧密閉した溶解炉(保持炉温度:750℃、溶器温度:700℃)で溶かし込み、その時の圧力変化から、鋳物中に含まれるガス量を算出した。また、発生したガスは、ガスクロマトグラフィ装置に導かれ、その発生したガスの成分分析を実施した。そして、その求められたガス量が、総量で、5.0ml/100gAl以下の場合に◎、5.0ml/100gAlを超え、6.0ml/100gAl以下の場合に○、6.0ml/100gAlを超え、7.0ml/100gAl以下の場合に△、7.0ml/100gAlを超える場合に×として、評価した。
【0031】
−実施例1−
先ず、(A)成分であるネオペンチルポリオールエステルワックス(以下、エステルワックスと略称する)として、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのエステル化反応によって得られる、ペンタエリスリトールテトラステアレート(融点:77.3℃、酸価:0.07mgKOH/g、水酸基価:0.8mgKOH/g)を準備した。また、(B)成分である無機微粒子として、平均粒径が0.035μmであるコロイダルシリカを準備し、更に、(C)成分の付着性向上剤として、アミノ変性シリコーン油である(アミノエチルアミノプロピル−ジメチコン)コポリマー(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、XS65−6413)を準備した。
【0032】
次いで、かかる(A)、(B)及び(C)の各成分を、下記表1に示される割合において配合せしめ、そして、それを、0.6%の濃度において、水中に均一に分散せしめて、各種の離型剤を調製した。
【0033】
そして、それら得られた各種の離型剤を用いて、350tダイカストマシンによる、アルミニウム溶湯:ADC12の真空ダイカスト鋳造を実施した。なお、鋳造条件及び射出条件は、以下の通りであった。また、比較のために、市販のシリコーンエマルジョン系水性離型剤を用いて、同様な真空ダイカスト鋳造を実施した。そして、それぞれの離型剤を用いた場合における真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0034】
[鋳造条件]
溶湯材質:ADC12、注湯(保持炉)温度:700℃、離型剤吹付け時間:1秒、
離型剤吹付け量:65ml/shot(可動型:39ml、固定型:26ml)、
液圧:0.3MPa、離型剤有効分濃度:0.6%
【0035】
[射出条件]
低速:0.15m/秒、高速:2.00m/秒、鋳造圧力:50MPa、
ダイタイム:6秒、スリーブ温度:250℃、鋳造雰囲気:30torr、
冷却水量:固定型6L/分、可動型3.5L/分、チップ7.8L/分
【0036】
【表1】

【0037】
かかる表1の結果から明らかな如く、本発明に従って、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を分散、含有せしめてなる離型剤1〜7においては、何れも、離型抵抗が市販の水性離型剤を下回り、良好な離型性能を得ることが出来、また、その中でも、離型剤2において、最も離型抵抗が小さく、良好な結果を示した。更に、発生ガス量に関しても、離型剤1〜7は、全体的に少なくなることが認められ、また離型剤由来と考えられる炭化水素ガスの発生量も少なく、特に、離型剤2と市販水性離型剤とを比較すると、全体のガス量は、後者の5.07mlから前者の4.80mlに減少しており、また炭化水素ガスに関しても、後者の0.44mlから、前者は0.23mlとなり、約半分に減少することが、明らかとなった。
【0038】
これに対して、離型剤8〜11の如く、(A)〜(C)成分のうちの何れかが欠けた組成となると、離型抵抗値が大きくなり、離型剤として充分な性能を発揮することが困難であることが、明らかとなった。
【0039】
−実施例2−
付着性向上剤である(C)成分として、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM−602:信越シリコーン株式会社)からなるシランカップリング剤を用いること以外は、実施例1と同様にして、下記表2に示される、各種の離型剤12〜20を調製した。
【0040】
そして、それら得られた各種の離型剤12〜20を用いて、それぞれ、ダイカスト金型のキャビティ面に塗布した後、実施例1と同様にして、アルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施した。それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、それぞれ評価し、その結果を、下記表2に併せ示した。
【0041】
【表2】

【0042】
かかる表2の結果から明らかな如く、(C)成分の付着性向上剤として、シランカップリング剤を用いた場合にあっても、優れた離型抵抗性を示し、また、発生ガス量においても、少ないものであった。特に、シランカップリング剤は、アミノ変性シリコーン油よりも低濃度において、その添加効果を発揮し、離型抵抗値や発生ガス量が少なく、良好であることを認めた。
【0043】
−実施例3−
(C)成分たる付着性向上剤として、実施例1のアミノ変性シリコーン油及び実施例2のシランカップリング剤を併用して、下記表3に示される各種の水性離型剤を、実施例1と同様にして調製した。
【0044】
次いで、それら得られた各種の離型剤を用いて、それぞれ、ダイカスト金型のキャビティ面に塗布せしめて、実施例1と同様にして、アルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施した。そして、それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、離型抵抗性やガス発生特性の評価を行ない、その結果を、下記表3に併せ示した。
【0045】
【表3】

【0046】
かかる表3の結果から明らかなように、(C)成分たる付着性向上剤を複数組み合わせて用いた場合にあっても、離型剤としてより一層優れた効果を発揮するものであることを認めた。
【0047】
−実施例4−
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類を異なるものとすること以外は、実施例1と同様にして、下記表4に示される各種の水性離型剤を調製した。そして、そこで、(A)成分として、離型剤26,27及び30においては、実施例1と同様なエステルワックスを用い、また、離型剤28においては、酸価:5.2mgKOH/g、水酸基価:7.6mgKOH/gのペンタエリスリトールテトラステアレートを用い、更に、離型剤29においては、常温でオイル状のネオペンチルポリオールエステル油を用いた。また、(B)成分として、離型剤26においては、平均粒径が0.008〜0.011μmのコロイダルシリカを用い、離型剤27においては、平均粒径が0.2μmであるコロイダルシリカを用い、そして、離型剤28,29及び30においては、先の実施例と同様な、平均粒径が0.035μmのコロイダルシリカを用いた。更に、(C)成分として、離型剤26〜29においては、アミノ変性シリコーン油を用い、そして離型剤30においては、市販のアルキル変性シリコーン油(アルキル基:オクチル)を用いた。
【0048】
次いで、それら各種の離型剤を用いて、実施例1と同様にして、ダイカストマシンによるアルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施し、それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、それぞれの評価を行ない、その結果を、下記表4に併せ示した。
【0049】
【表4】

【0050】
かかる表4の結果から明らかな如く、(B)成分として用いられるコロイダルシリカの平均粒径が大きくなると、粒子間の隙間(凹凸)が大きくなることによって、離型抵抗値が増加するようになるのであり、また、エステルワックスの酸価や水酸基価が高くなることでも、離型抵抗性や発生ガス特性が影響され、更に、常温でオイル状のネオペンチルポリオールエステル油を用いた場合(離型剤29)には、発生ガス量が多くなる問題を内在しているのである。また、(C)成分たる付着性向上剤としてアルキル変性シリコーン油を用いた場合(離型剤30)にも、発生ガス量が多くなる問題が内在していることが認められる。
【0051】
−実施例5−
先ず、(A)成分として、次の9種のネオペンチルポリオールエステルワックスを準備した。
E1:ベヘン酸とトリメチロールプロパンとのエステル(融点:59℃、酸価:0.1 mgKOH/g、水酸基価:1.9mgKOH/g)
E2:パルミチン酸とペンタエリスリトールとのエステル(融点:72℃、酸価:0. 2mgKOH/g、水酸基価:1.5mgKOH/g)
E3:ベヘン酸とペンタエリスリトールとのエステル(融点:83℃、酸価:0.1m gKOH/g、水酸基価:2.1mgKOH/g)
E4:パルミチン酸とジペンタエリスリトールとのエステル(融点:73℃、酸価:0 .1mgKOH/g、水酸基価:1.2mgKOH/g)
E5:ステアリン酸とジペンタエリスリトールとのエステル(融点:79℃、酸価:0 .2mgKOH/g、水酸基価:2.4mgKOH/g)
E6:ベヘン酸とジペンタエリスリトールとのエステル(融点:90℃、酸価:0.3 mgKOH/g、水酸基価:2.6mgKOH/g)
E7:ミリスチン酸とジペンタエリスリトールとのエステル(融点:68℃、酸価:0 .2mgKOH/g、水酸基価:2.0mgKOH/g)
E8:ラウリン酸とペンタエリスリトールとのエステル(融点:52℃、酸価:0.1 mgKOH/g、水酸基価:1.3mgKOH/g)
E9:ラウリン酸とジペンタエリスリトールとのエステル(融点:66℃、酸価:0. 2mgKOH/g、水酸基価:1.9mgKOH/g)
【0052】
そして、かかる(A)成分のそれぞれを用い、実施例1の離型剤2と同様な含有濃度となるように、コロイダルシリカ及びアミノ変性シリコーン油と共に、実施例1と同様にして配合し、更に、0.6%の濃度において、水中に均一に分散せしめて、下記表5に示される、各種の水性離型剤を調製した。
【0053】
次いで、それら各種の離型剤を用いて、実施例1と同様にして、ダイカストマシンによるアルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施した。そして、それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、それぞれの特性を評価し、その結果を、下記表5に併せ示した。
【0054】
【表5】

【0055】
かかる表5の結果より明らかなように、(A)成分の中でも、特に、融点が高いエステルワックスの方が、離型抵抗性や発生ガス特性において、優れた結果を得ることが出来ることが認められる。
【0056】
−実施例6−
先ず、(B)成分として、次の6種の無機微粒子を準備した。
M1:シリカ(粒径:0.05μm)
M2:アルミナ(粒径:0.04μm)
M3:黒鉛(粒径:0.03μm)
M4:コロイダルシリカ(粒径:0.015μm)
M5:コロイダルアルミナ(粒径:0.03μm)
M6:コロイダルチタニア(粒径:0.05μm)
【0057】
そして、かかる(B)成分のそれぞれを用い、実施例1の離型剤2と同様な含有濃度となるように、ネオペンチルポリオールエステルワックス及びアミン変性シリコーン油と共に、実施例1と同様にして配合し、更に0.6%の濃度において、水中に均一に分散せしめて、下記表6に示される、各種の水性離型剤を調製した。
【0058】
次いで、それら各種の離型剤を用いて、実施例1と同様にして、ダイカストマシンによるアルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施した。そして、それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、それぞれの特性を評価し、その結果を下記表6に併せ示した。
【0059】
【表6】

【0060】
かかる表6の結果より明らかなように、(B)成分の中でも、特に粒径の細かいコロイド微粒子であるシリカの方が、離型抵抗性や発生ガス特性において、優れた結果を得ることが出来ることが認められる。
【0061】
−実施例7−
先ず、(C)成分として、次の6種の付着性向上剤を準備した。
F1:ジイソブチレン無水マレイン酸共重合物アンモニウム塩
F2:スチレン無水マレイン酸共重合物ナトリウム塩
F3:ポリビニルアルコール
F4:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン
F5:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
F6:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0062】
そして、かかる(C)成分のF1からF3のそれぞれを用い、実施例1の離型剤2と同様な含有濃度となるように、ネオペンチルポリオールエステルワックス及び無機微粒子と共に、実施例1と同様にして配合し、更に0.6%の濃度において、水中に均一に分散せしめて、下記表7に示される、各種の水性離型剤46〜48を調製した。更に、かかる(C)成分のF4からF6のそれぞれを用い、実施例2の離型剤13と同様な含有濃度となるように、ネオペンチルポリオールエステルワックス及び無機微粒子と共に、実施例2と同様にして配合し、更に0.6%の濃度において、水中に均一に分散せしめて、下記表7に示される、各種の水性離型剤49〜51を調製した。
【0063】
次いで、それら各種の離型剤を用いて、実施例1と同様にして、ダイカストマシンによるアルミニウム溶湯の真空ダイカスト鋳造を実施した。そして、それぞれの離型剤を用いた場合における、真空ダイカスト鋳造で得られた離型抵抗値及び発生ガス量を測定して、それぞれの特性を評価し、その結果を下記表7に併せ示した。
【0064】
【表7】

【0065】
かかる表7の結果より明らかなように、(C)成分の中でも、特にポリアミノ基を有するシランカップリング剤であるアミノシランの方が、離型抵抗性や発生ガス特性において、優れた結果を得ることが出来ることが認められる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイカスト金型のキャビティ面に塗布される水性離型剤にして、(A)常温で固体のネオペンチルポリオールエステルワックスと、(B)平均粒径が0.05μm以下の無機微粒子と、(C)前記キャビティ面への付着性を高めるための付着性向上剤とを、水性媒体中に分散、含有せしめてなることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。
【請求項2】
前記ネオペンチルポリオールエステルワックスが、脂肪族モノカルボン酸とネオペンチルポリオールとの縮合反応により得られた、常温で固体状のものである請求項1に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項3】
前記ネオペンチルポリオールエステルワックスが、炭素数が14〜30の直鎖状の飽和脂肪族モノカルボン酸と炭素数が5〜18のネオペンチルポリオールとの縮合反応により得られた、融点:55℃〜90℃、酸価:3mgKOH/g以下、水酸基価:5mgKOH/g以下のエステルワックスである請求項1又は請求項2に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項4】
前記無機微粒子が、球状形状を有している請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項5】
前記無機微粒子が、コロイド粒子である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項6】
前記付着性向上剤が、アミノ変性シリコーン油及び/又はアミノ基含有シランカップリング剤である請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項7】
前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が10〜60%の割合において、該(B)成分が30〜80%の割合において、該(C)成分が10〜60%の割合において、それぞれ用いられる請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項8】
前記付着性向上剤がアミノ変性シリコーン油であるとき、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が10〜40%の割合において、該(B)成分が30〜60%の割合において、該(C)成分が30〜60%の割合において、それぞれ用いられる請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項9】
前記付着性向上剤がアミノ基含有シランカップリング剤であるとき、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、重量基準にて、該(A)成分が40〜60%の割合において、該(B)成分が30〜50%の割合において、該(C)成分が10〜30%の割合において、それぞれ用いられる請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項10】
前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分が、合計量において、0.1〜5重量%の濃度で分散、含有せしめられている請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のダイカスト用水性離型剤を用い、それを、ダイカスト金型のキャビティ面に付着せしめた後、所定の金属溶湯を該キャビティ内に射出して、鋳造を行なうことを特徴とするダイカスト鋳造法。
【請求項12】
前記鋳造操作が、前記キャビティ内を真空吸引して、100torr以下の高真空下の鋳造雰囲気とした状態において、行なわれる請求項11に記載のダイカスト鋳造法。