説明

ダイコータの塗工方法およびこの方法によって作製されたフォトリソグラフィ用ペリクル

【課題】 ダイコータにおけるダイの保守・管理手法を確立し、極めて異物の少ない大型のペリクルを低コストで得ることを課題とする。
【解決手段】 ダイ先端を容器等に溜められた塗工液に浸漬または接触させておき、使用に際して上方へゆっくり引き上げることで塗工液の表面張力によりダイ先端に液滴の無い状態を形成し、その後、基板上に液を吐出して塗工を行うことを特徴とする。塗工時を除いて、ダイを常に塗工液中に浸漬または接触させておき、この時併せてダイ先端よりフィルタを通過させた塗工液を連続または間欠的に吐出しておくこと、また、液中のダイに対して超音波洗浄を行うこと、が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイコータの塗工方法ならびにその塗工方法によって作製されたフォトリソグラフィ用ペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIや液晶パネル等の製造においては、半導体ウエハーあるいは液晶用原板にフォトリソグラフィによりパターンを作製する工程があるが、この時に用いるフォトマスクあるいはレチクルのゴミよけとしてペリクルが利用される。
ペリクルを用いた場合、異物はフォトマスクの表面上には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、フォトリソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物はパターンの転写に無関係となる。
このペリクルは、セルロース誘導体あるいはフッ素系ポリマーなどからなる透明なペリクル膜をアルミニウム等のフレーム上端面に接着し、さらに下端面にはフォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂等からなる粘着層を設けて構成されている。
【0003】
このペリクルは、近年、大型液晶ディスプレイの普及が始まったこと、および製造コスト削減のために1枚の大型基板からできるだけ多くの製品を得る、いわゆる多面取りが進んだこと、などによって、フォトマスクが大型化してきたことに伴い、特に大型のものが求められるようになってきている。
従来、このペリクルを構成するペリクル膜は、膜厚精度が良いことや、製膜時の異物が少ないという理由で、スピンコート方式により製造されることが多かった。
しかしながら、大型化が進展するに伴い、スピンコート方式では膜材料の消費が激しすぎ、低コストでペリクル膜を成膜することが難しくなってきていた。
【0004】
ダイコータ(カーテンフローコータ、スリットコータまたはスリットダイコータ等と称されることもある)による塗工は、例えば、液晶パネルやPDPのカラーディスプレイや固体撮像素子などに用いられるカラーフィルタや、レジストなどの、塗膜の形成に従来も用いられてはいた。
ダイコータによる塗工方法は、スピンコート方式に比べて、塗工液の無駄が少ないため、特に大型平板への塗工を低コストで行えるという特徴を有している。
そこで、上記のような利点を持つダイコータをペリクルの成膜に利用することができれば、コスト面で非常に有効である。
【0005】
ダイコータによる塗工においては、塗工前にダイ先端に付着している液滴を除去する初期化を行う必要がある。ダイ先端に液滴が付着していると、これによりビード形成が崩れ、スジ、ムラ等が発生してしまうためである。
これまでにも種々のダイ先端の初期化方法が考案されてきた。例えば、図8に示すように、塗料を塗布する直前に、ダイ81口金のリップ部にゴム弾性を有する上面が口金のリップ先端部に密着する形状に作成されかつ表面がゴム弾性を有する高分子樹脂からなる清掃部材83を密着させ、リップ部に沿って移動させて付着した塗料(塗工液)82をかき落とす清掃方法(特許文献1参照)である。84は、清掃部材駆動機構である。
【0006】
また、硬質ゴム板、プラスチック板等のブレードにダイ本体のリップ部を接触させ、ブレードを移動させることによりリップ部に保持された塗布液を掻取り除去する方法(特許文献2参照)もある。
しかしながら、これらの方法では、異物の付着が多い場合、ダイ先端から液滴を完全に除去するには、ある程度の圧力を加えてこれらの清掃部材ないし掻き取り手段を移動させる必要がある。
そのため、ダイとの摩擦によりこれらの掻き取り手段等は削られ、十分な掻取り除去等が行われなくなり、ダイ先端に異物を残してしまう。従って、この状態で塗工を行うと、液吐出に伴って、これらの付着異物がダイ表面より剥離し、塗工して得られた塗膜面に点々と取り残されて行くことになる。
【0007】
これらとは別に、ダイ自体と非接触でこのダイ初期化を行う方法も提案されている。例えば、ロール状の物体に予備吐出を行うことで、ダイ先端のを整えることによって初期化を行う方法が提案されている(特許文献3参照)。このとき同時に、ダイ先端の異物が除去され得る。
この方法では、初期化時に、掻き取り手段等がダイに直接接触しないことから、異物の少ない塗工膜が得られることが期待できる。
しかしながら、この方法の本来の目的がビード先端を整えることにあることから、異物を除去する作用は小さく、異物を完全に減らすには、ひたすら繰り返しロール状の物体に塗るしかないことになる。
【0008】
従って、この方法では、できあがった塗膜にどの程度の異物があるかは運次第であり、特に、メンテナンス等でダイ先端を触れて(汚染して)しまった場合には、しばらくの間は異物が付着し続けることになる。
また、ロール表面に残された異物や塗工材料は、初期化のためにダイ先端から塗料が吐出されるロールは、その都度、一応洗浄・再生されるものの、洗浄・再生工程で完璧に除去できる訳ではないため、ロールから異物や塗工材料の乾燥物や固形物が再付着してしまう場合も多くあった。
さらには、長期間の使用においては、吐出スリットの周囲に塗工材料の乾燥物や固形物が付着して初期化操作では取り難くなってくることがあり、これらが時折剥離して異物となることもあった。
【0009】
以上のことから、ダイコータによる塗工方法において、異物の付着なくダイ先端を初期化する十分満足できる技術は見いだされておらず、その結果、極めて異物の少ない塗膜を安定して得ることが難しかったのが現状であった。
そして、上記の理由により、特に異物の少ないことが要求されるペリクル膜の製造には、スピンコート方式が必須であり、ダイコータをこれに利用することは極めて困難だった。そして、異物の少ない大型のペリクル膜ならびにペリクルを低コストで得ることも困難であった。
【0010】
【特許文献1】特許3306838号公報
【特許文献2】特開平11−147062号公報
【特許文献3】特開2001−310147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、ダイコータにおけるダイの保守・管理手法を確立することによって、十分に異物の少ない塗膜が得られるダイコータによる塗工方法を確立し、さらに、これをペリクル膜の製造に利用することで、極めて異物の少ない大型のペリクルを低コストで得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、ダイ先端を容器等に溜められた塗工液に浸漬または接触させておき、使用に際して上方へゆっくり引き上げることで塗工液の表面張力によりダイ先端に液滴の無い状態を形成し、その後、基板上に液を吐出して塗工を行うことを特徴とする。
このとき、ダイの上方への引き上げ動作において、ダイ先端から液滴が除去される際の引き上げ速度は2mm/s以下であることが好ましい。
また、塗工時を除いて、ダイを常に塗工液中に浸漬または接触させておき、この時併せてダイ先端よりフィルタを通過させた塗工液を連続または間欠的に吐出しておくこと、また、液中のダイに対して超音波洗浄を行うこと、は好ましい態様である。
【0013】
あるいは、塗工液へのダイの浸漬中に、液中のダイに対して弾性体によるスクラブ洗浄を行うことも好ましい態様である。
さらに、請求項1に規定するダイ先端の液切りを行った後、平板状もしくは回転するロール状の物体上に予備吐出を行い、その後、基板上への塗工を行うことは、さらに好ましい態様である。
本発明のフォトリソグラフィー用ペリクルは、塗工材料としてセルロース誘導体またはフッ素系ポリマーを用いて、上記請求項1ないし6のいずれかに記載のダイコータの塗工方法により基板上に成膜し、これを剥離して得たペリクル膜を用いて作製されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低速で塗工液中からダイを引き上げることによって、ダイ表面の液をゆっくりと凝集させ、表面張力により下側の塗工液面に引っ張らせ、結果としてダイ先端を液滴の無い状態とすることができる。
また、塗工時を除いて、ダイを常に塗工液中に浸漬または接触させておくことによって、異物の一つの原因である塗工液そのものがダイ先端で乾燥してできた固形物の発生が防止できる。さらに、ダイを塗工液中に浸漬している間に、フィルタを通した塗工液をダイ先端から吐出しておくことにより、ダイ内部でのゲル発生や、塗工液の濃度のムラも防止することができ、併せて清浄な塗工液を保つことができる。
【0015】
さらに、ダイを塗工液中に浸漬している間に、塗工液中のダイに対して超音波洗浄を行う、あるいは、弾性体によりスクラブ洗浄を行うことによって、積極的にダイ先端の異物を完全に除去できる。
ダイによる塗工に際して、従来行われてきた板状もしくは回転するロール状の物体上への予備吐出を併せて行えば、より完全な異物排除が可能となる。
これらの塗工方法により、異物がなく、スジ等の外観上の不具合が無い、膜厚の精度が良い塗膜を得ることができるので、これをペリクル膜の製造に応用することより、大型のペリクルを低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面も用いて、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、ダイコータによる塗工方法を示す概略説明図である。図2は、本発明の一実施の形態を示す概略説明図である。図3は、本発明の他の実施の形態を示す概略説明図(配管構成図)である。図4は、本発明のさらに他の実施の形態を示す概略説明図(ダイ先端の洗浄)である。図5は、本発明のさらに別の実施の形態を示す概略説明図である。図6は、本発明によるダイコータの基本的な構成を示す概略説明図である。図7は、フォトリソグラフィー用ペリクルの構成を示す概略説明図である。
【0017】
ダイコータによる塗工は、一般に、図1に示すように、狭いスリットが精密に加工されたダイ11よりカーテン状に塗工液を吐出し、精密な駆動手段により平板(基板)12上にこれを定速で移動させることにより、均一な厚さの塗膜14を得るものである。
本発明の一実施の形態を図2によって説明すると、図2(a)に示すように、塗工液23を満たしたダイ乾燥防止パン22中にダイ21の先端部分を浸漬し、上方に引き上げていく。このとき、少なくともダイ21が塗工液23から離れようとするときには、引き上げ速度をゆっくりとすると、図2(b)に示すように、ダイ21先端付近の液滴は表面張力によりダイ乾燥防止パン22中の液に引っ張られ、最終的には、図2(c)に示すように、ダイ21先端の液滴は残らず、全てダイ乾燥防止パン22に移行させる。そして、液滴の付着していないダイ21を用いて、常法通り、平板(基板)上に塗膜を形成する。
【0018】
このように、本発明においては、塗工液以外にダイ先端に触れるものがないから、液切りの際に他から異物等が付着することがなく、清浄なダイ21を実現することができる。
この引き上げ速度は、ダイ21からダイ乾燥防止パン22に液滴が移行する際には、2mm/秒以下の低速となっていることが好ましいが、粘度等の塗工液の性状に合わせて適宜選択することができる。また、全体の操作時間を短縮するために、ダイ21の先端が液面に近づくまでは、より高速で引き上げ、液滴移行の時期だけ低速にすることが好ましい。
【0019】
また、このダイの引き上げは、ダイ先端長手方向が液面と平行になる状態で行うのを基本とするが、特に液切れが悪い塗工液に対しては、液面に対してややダイ長手方向に傾斜させて引き上げても良い。
平板(基板)交換等、塗工操作を中断するときなどには、ダイを塗工液に浸漬しておくことにより、ダイ部分で塗工液が固化することや、大部分に異物が付着・発生することを防止することができる。
【0020】
図3に示すものは、本発明の他の実施の形態であって、図示のような塗工配管を有し、塗工時以外はダイ31先端をダイ乾燥防止パン32中の塗工液33に浸漬しておき、塗工液タンク36からシリンダポンプ34で吸引した塗工液を適当な捕集粒径のフィルタ35を通過させてダイ31より連続的もしくは間欠的に流出するようにしてある。塗工液33はダイ乾燥防止パン32に予め設定された深さを越えるとオーバーフローして塗工液タンク36に戻るようになっている。
ポンプ34は、この実施の形態では、塗工に使用するのに好適なシリンダポンプを例示しているが、もちろん、その他の形式の連続吐出ができるポンプでも良い。
【0021】
塗工液中にダイ31先端を常に浸漬しておくことによって、乾燥による固形物の発生が防止できる他、常にフィルタ35を通した塗工液を吐出しておくことによりダイ内部のゲル発生や濃度のムラも防止することができる。さらに、通常、このようにダイ31先端を保護しておいた上で、塗工直前に塗工液吐出を停止し、図2に示す如く液切り動作を行えば、より異物発生を防ぐことができ、特に好適である。
【0022】
図4に示すものは、本発明のさらに他の実施の形態であって、ダイ乾燥防止パンに洗浄手段を組み込んだものである。図4(a)に示すものでは、超音波洗浄を組み合わせた形態、図4(b)に示すものでは、ダイ乾燥防止パン中での弾性体によるスクラブ洗浄を組み合わせた形態である。
図4(a)において、ダイ乾燥防止パン42の底面に超音波振動板44を配置し、塗工液43中に超音波を照射するようにしている。超音波は、例えば30〜100kHzのものが好適に用いられ得る。この形態では、非接触でダイ41先端を精密洗浄できるため、異物除去に極めて効果的である。
【0023】
この振動板44の配置や照射する超音波の強度、周波数等は、塗工液に応じて適宜選択すればよい。このとき、超音波を照射するとキャビテーションにより液中に気泡が生ずるので、これが塗工に悪影響を及ぼさないよう、周波数や強度を設定する。
図4(b)に示すスクラブ洗浄方法の形態では、乾燥等によりダイ41先端の汚染が激しいものや、発泡が著しく超音波洗浄の使用が好ましくない塗工液の場合に特に有効である。もちろん、弾性体45の材質や形状は塗工液の種類および加工性に応じて選択することが良い。弾性体の材質としては、塗工液に侵されず、溶出物等の発生の無いことに加え、所望の形状が精度良く加工でき、ダイと接触した際の発塵もできるだけ少ないことが要求される。また、弾性体の形状は、加工が容易であり、かつ、ダイ先端周辺を隙間なく密着できるように設計する必要がある。
【0024】
図4(b)の実施の形態におけるスクラブ洗浄方法では、回転するローラーとしているが、これに限られることなく、ダイの先端形状に適合(嵌合)するプレート(鞘)状のものをダイの長手方向にあてがい、移動させるものであっても良い。また、脱落の恐れがなければ、洗浄治具の表面に突起が設けられていても良い。
これら図4(a)および図4(b)に示す実施の形態の場合、図3に示す塗工液循環の形態と併せて実施することもできる。
【0025】
図5に示すものは、本発明のさらに他の別の実施の形態であって、上に例示した本発明のダイ先端の初期化方法に、従来より提案されている回転ロール等に当接させてダイから塗工液を予備吐出させる形態を組み合わせたものである。
乾燥が早い塗工液の場合には、液滴除去後にダイ先端の乾燥が進んでしまい、スジ等が発生することがある。
この実施の形態は、そのような場合に特に有効で、ダイ51を塗工液53より引き上げて液切り動作を行った後、適切な速度で回転するローラー54上に予備吐出を行い、直ちに基板55に塗工を開始するものである。もちろん、この時予備吐出をする相手はローラーで無くとも良く、平板状のものでも同様の効果は発揮できる。
【0026】
上述したこれらのダイコータの塗工方法におけるダイの初期化(清浄化)は、必ずしも毎回の塗工時に行う必要はない。特に、量産ラインでの利用においては、塗工毎に液滴の除去をせずに、塗工し続ける場合もある。このような場合においては、初回の液滴除去のみこれらのダイの初期化(清浄化)を行い、順次新たな基板に塗工し続ければよい。
この場合でも、従来、ダイ先端がクリーニングされるまで異物不良品が製造されていたのに対して、初回の塗工品から異物の無いものが得られる。
【0027】
図6および図7を用いて、上述のダイコータの塗工方法を適用して、ペリクルを作製する実施の形態を説明する。
先ず始めに、上述のダイコータの塗工方法を適用してペリクル膜を作製する。図6に示すように、定盤64上に定置された基板66上に、両端を定盤上の塗工基板の高さに応じてダイを自動昇降させる制御機構を設けたダイ上下駆動機構62により支持され、塗工方向へダイを動かす直動ステージ機構63に案内されたダイ61によって塗工される。
さらに、定盤64の一端には、塗工液の満たされたダイ乾燥防止パン65が設けられている。図示は省略されているが、ダイ乾燥防止パン65は、ダイ61の先端を浸漬できるように、適宜の機構によって上下動される。
【0028】
塗工基板66は、定盤64上に真空源(図示しない)により吸着保持される、等によって定置されることが好ましい。
このようにして得られた塗膜を基板上より剥離し、図7に示すように、ペリクルフレーム71に張設すれば、極めて異物が少ない大型のペリクルを低コストで得ることができる。図7中、72はペリクル膜、73はペリクル膜接着剤層、74はマスク粘着剤層である。
以上、具体的な製品例としてペリクルに関して説明したが、液晶パネルやPDPのカラーディスプレイや固体撮像素子などに用いられるカラーフィルタ等、均一で幅広く、異物混入のない塗膜・薄膜を必要とする広範な技術分野に応用できるものである。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例で使用したダイコータは、図6に示すものに、図3に示す塗工配管を併置し、さらに、図4(a)に示した超音波振動板を配置したものを用いた。ダイ61はSUS304製で、塗工幅796mm、スリット隙間0.3mmとし、塗工液は、フッ素系ポリマー:サイトップ(旭硝子(株)製、商品名)をフッ素系溶媒:CT−Solv(旭硝子(株)製、商品名)で9%に希釈したものを用い、成膜基板には両面を平滑に研磨した800×920×8(t)mmの合成石英を用いた。なお、全ての装置はクラス10のクリーンルーム内に設置した。
【0030】
以上のような構成において、塗工開始直前にダイ乾燥防止パン65に浸漬したダイ61に5min間、40kHzの超音波照射を行い、その後、同じく5min間、塗工液を吐出しながら静置させた。このとき、吐出する塗工液の流量は50cc/minとした。
その後、ダイ乾燥防止パンへの塗工液の吐出を停止し、図2(a)〜(c)に示すように、0.1mm/sの速度でダイ61をゆっくりと上方に引き上げた。
そして、ダイ61先端より完全に液滴が切れたのを確認すると、直ちに基板66上の塗工位置へダイ61を移動させ、塗工速度10mm/sで塗工を行った。
【0031】
塗工完了後、膜材料の溶媒を180℃×5minの加熱乾燥にて除去し、乾燥厚さ4.0μmの塗工膜を得た。そして、この乾燥塗工膜付き基板を暗室内に持ち込み、斜め横から慎重に光量40万ルクスの集光ランプを当て、目視検査した。その結果、目視では異物は全く確認できなかった。
そこでさらに、この、基板上に製膜した乾燥塗工膜に同形状の外形を持つアルミニウム合金製の接着枠(図示しない)を接着し、塗工膜を基板から引き剥がしてペリクル膜体を得た。
【0032】
そして、外寸750×904.5×6.5(t)mm;内寸734×890.5mmに機械加工し、黒色アルマイト処理を施したアルミニウム合金製フレームの一端に、ペリクル膜接着剤としてシリコーン粘着剤(商品名KR120、信越化学工業(株)製)を塗布し、得られた上記ペリクル膜を張設した。その後、フレーム周囲の不要膜をカッターにて切断除去し、ペリクルを完成させた。
この完成したペリクルについて、クリーンルームの暗室内にて40万ルクスのハロゲンランプにて目視検査した。その結果、確認できた異物は、ペリクル内寸734×890.5mmの範囲において直径1μm以下で8個しかなく、極めて清浄なペリクルが得られた。また、スジや色むら等の外観上の欠陥も全く見受けられなかった。
【0033】
[比較例1]
上記実施例と同型式のダイコータにおいて、ダイを浸漬するダイ乾燥防止パンに代え、図8に示すような形式のダイ先端初期化機構を塗工前に適用した。この清掃部材83の材質は、ポリエチレン(PE)とし、厚さは500μm、先端は15°に斜め加工したものである。
初めに、ダイ81先端の洗浄を目的として、50cc程度の塗工液を吐出した後、このダイ先端初期化機構で塗工液82を掻き取り除去した。
そして、直ちに基板66上にダイ61を移動させて塗工を行った。
なお、この時使用した基板、塗工液、塗工条件等は全て上記実施例と同じである。
【0034】
この基板上より膜材料の溶媒を180℃×5minの加熱乾燥にて除去し、乾燥厚さ4.0μmの塗工膜を得た。
そして、この乾燥塗工膜付き基板を暗室内に持ち込み、斜め横から慎重に光量40万ルクスの集光ランプを当て、目視検査した。その結果、基板上全面にわたって、無数の異物が観察された。その粒径は最大のもので200μm程度と見受けられ、また個数は100×100mmあたりでおよそ30〜50個であった。
これは、ペリクル膜としての用途に全く使用できないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の塗工方法によれば、ダイコータによって、簡便にダイの清掃(初期化)が行えるので、異物もきわめて少なく、ムラ・スジ等の無い均一な、かつ幅広い塗膜・薄膜が形成されるので、塗膜・薄膜の形成が必要な技術分野において、裨益するところがきわめて大きい。特に、近時大型化してきているペリクルの製造にきわめて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ダイコータによる塗工方法を示す概略説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示す概略説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す概略説明図(配管構成図)である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態を示す概略説明図(ダイ先端の洗浄)である。
【図5】本発明のさらに別の実施の形態を示す概略説明図である。
【図6】本発明によるダイコータの基本的な構成を示す概略説明図である。
【図7】フォトリソグラフィー用ペリクルの構成を示す概略説明図である。
【図8】従来のダイ先端初期化方法の例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0037】
11:ダイ
12:基板
13:液供給ライン
14:塗膜
21:ダイ
22:ダイ乾燥防止パン
23:塗工液
31:ダイ
32:ダイ乾燥防止パン
33:塗工液
34:シリンダポンプ
35:フィルタ
36:塗工液タンク
37:三方弁
41:ダイ
42:ダイ乾燥防止パン
43:塗工液
44:超音波振動板
45:弾性体
51:ダイ
52:ダイ乾燥防止パン
53:塗工液
54:ローラー
55:基板
61:ダイ
62:ダイ上下駆動機構
63:直動ステージ機構
64:定盤
65:ダイ乾燥防止パン
66:基板
71:ペリクルフレーム
72:ペリクル膜
73:ペリクル膜接着剤層
74:マスク粘着剤層
81:ダイ
82:ダイ先端に付着した塗工液
83:清掃部材
84:清掃部材駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイ先端を容器等に溜められた塗工液に浸漬または接触させておき、使用に際して上方へゆっくり引き上げることで塗工液の表面張力によりダイ先端に液滴の無い状態を形成し、その後、基板上に液を吐出して塗工を行うことを特徴とするダイコータの塗工方法。
【請求項2】
ダイの上方への引き上げ動作において、ダイ先端から液滴が除去される際の引き上げ速度が2mm/s以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイコータの塗工方法。
【請求項3】
塗工時を除いて、ダイを常に塗工液中に浸漬または接触させておき、併せてダイ先端よりフィルタを通過させた塗工液を連続または間欠的に吐出しておく請求項1または請求項2に記載のダイコータの塗工方法。
【請求項4】
塗工液への浸漬中、液中のダイに対して超音波洗浄を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のダイコータの塗工方法。
【請求項5】
塗工液へのダイの浸漬中に、液中のダイに対して弾性体によるスクラブ洗浄を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のダイコータの塗工方法。
【請求項6】
ダイ先端の液切りを行った後、平板状もしくは回転するロール状の物体上に予備吐出を行い、その後、基板上への塗工を行うことを特徴とする上記請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のダイコータの塗工方法。
【請求項7】
塗工材料としてセルロース誘導体またはフッ素系ポリマーを用いて、上記請求項1ないし6のいずれかに記載のダイコータの塗工方法により基板上に成膜し、これを剥離して得たペリクル膜を用いて作製されてなることを特徴とするフォトリソグラフィー用ペリクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−55775(P2006−55775A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241448(P2004−241448)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】