説明

ダイシングテープ及び半導体ウェーハの加工方法

【課題】ダイシング処理時に半導体ウェーハを適切に固定することができ、しかも、エキスパンド処理の際に複数の半導体チップの間隔を十分に広げることのできるダイシングテープ及び半導体ウェーハの加工方法を提供する。
【解決手段】フレーム1に粘着されてダイシングされる半導体ウェーハ10を保持するテープで、フレーム1の裏面に粘着されてその中空2を被覆し、フレーム1の中空2内に位置する半導体ウェーハ10を着脱自在に粘着する低張力層21と、この低張力層21の裏面に着脱自在に粘着される高張力層24とを二層構造に備え、低張力層21の粘着力を高張力層24の粘着力よりも大きくする。エキスパンド処理を施す場合、高張力層24を剥離してダイシングテープ20を低張力層21のみとするので、複数の半導体チップの間隔を十分に広げることができ、後の作業に支障を来たすことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハのダイシング工程、エキスパンド工程、あるいはダイボンディング工程等で使用されるダイシングテープ及び半導体ウェーハの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェーハを加工する場合には、図示しない中空のフレームに、半導体ウェーハを保持したダイシングテープを粘着し、半導体ウェーハにダイシング処理を施して複数の半導体チップ(ダイ)を分割形成し、ダイシングテープにエキスパンド処理を施して引き伸ばすことにより、複数の半導体チップの間隔を広げた後、ダイシングテープから各半導体チップをピックアップするようにしている(特許文献1、2参照)。ダイシングテープは、単一の基材に粘着剤が積層されることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000‐124169号公報
【特許文献2】特開2009‐94126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、半導体ウェーハは、チップサイズの大型化や生産性の向上等の観点から、φ200mmからφ300、450mmと大口径化され、ダイシング処理時の確実な固定が求められて来ている。
係る要望を実現するには、ダイシングテープの基材を高張力タイプに変更すれば良いが、そうすると、ダイシングテープにエキスパンド処理を施す際、複数の半導体チップの間隔を十分に広げることができず、後の作業に支障を来たすという問題がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、ダイシング処理時に半導体ウェーハを適切に固定することができ、しかも、エキスパンド処理の際に複数の半導体チップの間隔を十分に広げることのできるダイシングテープ及び半導体ウェーハの加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、中空のフレームに貼り付けられてダイシングされる半導体ウェーハを保持するものであって、
フレームに貼り付けられてその中空を被覆し、フレームの中空内に位置する半導体ウェーハを粘着する低張力層と、この低張力層に着脱自在に粘着される高張力層とを含み、低張力層の粘着力を高張力層の粘着力よりも大きくしたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明においては上記課題を解決するため、中空のフレームに、半導体ウェーハを保持する請求項1記載のダイシングテープを貼り付け、半導体ウェーハにダイシング処理を施して複数の半導体チップを形成し、ダイシングテープの低張力層から高張力層を剥離した後、ダイシングテープの低張力層にエキスパンド処理を施して複数の半導体チップの間隔を広げることを特徴としている。
【0008】
ここで、特許請求の範囲におけるフレームは、金属製や樹脂製を特に問うものではない。また、半導体ウェーハには、少なくともφ300、450、600mmの大口径の半導体ウェーハが含まれる。
【0009】
本発明によれば、フレームに保持された半導体ウェーハをダイシング処理する場合には、ダイシングテープが低張力層と高張力タイプの高張力層とから形成されているので、半導体ウェーハを適切に固定することができる。
これに対し、ダイシングテープにエキスパンド処理を施す場合には、高張力層を剥がしてダイシングテープを低張力層のみとするので、低張力層を引き伸ばして複数の半導体チップの間隔を十分に広げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイシングテープを低張力層と高張力層とから形成し、低張力層から高張力層を必要に応じて剥がすので、ダイシング処理時に半導体ウェーハを適切に固定することができ、エキスパンド処理の際に複数の半導体チップの間隔を十分に広げることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハの加工方法の実施形態におけるフレームを模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハの加工方法の実施形態におけるフレームを模式的に示す断面説明図である。
【図3】図2のダイシングテープの一部を模式的に示す部分断面説明図である。
【図4】本発明に係る半導体ウェーハの加工方法の実施形態におけるダイシングテープの高張力層を剥離する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図5】本発明に係る半導体ウェーハの加工方法の実施形態におけるダイシングテープの低張力層にエキスパンド処理を施す直前の状態を模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係る半導体ウェーハの加工方法の実施形態におけるダイシングテープの低張力層にエキスパンド処理を施した状態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態におけるダイシングテープは、図1ないし図6に示すように、フレーム1に粘着されてダイシング工程でダイシングされる半導体ウェーハ10を保持するテープで、フレーム1に粘着されて半導体ウェーハ10を粘着する低張力層21と、この低張力層21に粘着される高張力層24とを備え、低張力層21と高張力層24との粘着力を異ならせるようにしている。
【0013】
フレーム1は、図1や図2に示すように、所定の材料を使用して平面略リング形の平板に形成され、丸い中空2内に半導体ウェーハ10を隙間を介して収容するよう機能する。このフレーム1の所定の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばフレーム1が金属材料で形成される場合には、ステンレスや表面にメッキが施されて錆の発生を防止可能な材料で形成されることが好ましい。これに対し、フレーム1が樹脂を含む成形材料で成形される場合には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート等を含有する成形材料で成形されると良い。
【0014】
フレーム1の内周面は傾斜したガイド面3にテーパ形成され、このガイド面3がダイシング工程で使用される洗浄水を外部に適切に排水するよう機能する。また、フレーム1の外周面は、前後左右がそれぞれ直線的に形成され、前部両側に位置決め用の切り欠き4がそれぞれ平面略三角形に形成される。
【0015】
半導体ウェーハ10は、例えばφ300、450mmの大口径のシリコンウェーハからなり、用途に応じてバックグラインド工程のバックグラインドにより厚さ250μm以下、具体的には25〜100μm程度に薄化された後、ダイシング工程に供される。
【0016】
ダイシングテープ20は、図2や図3に示すように、フレーム1の下面である裏面に着脱自在に粘着されてその中空2を被覆し、フレーム1の中空2内に位置する半導体ウェーハ10を着脱自在に粘着保持する伸縮性の低張力層21と、この低張力層21の裏面に着脱自在に粘着される高張力層24とを上下二層構造に備え、低張力層21の粘着力が高張力層24の粘着力よりも大きく設定される。
【0017】
低張力層21は、低張力の基材22の表面に粘着剤23が3〜100μm、好ましくは10〜50μmの厚さで薄く積層されることにより形成され、この粘着剤23がフレーム1の平坦な裏面と半導体ウェーハ10とにそれぞれ粘着する。
【0018】
低張力の基材22としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン‐プロピレン共重合体、ポリプロピレン(無延伸)、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン‐(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン‐(メタ)アクリル酸エチル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリアミド、アイオノマー、あるいはスチレン‐ブタジエンゴム、及びその水添加物、又は変性物等からなる可撓性のフィルムがあげられる。
【0019】
粘着剤23としては、特に限定されるものではなく、各種の粘着剤が使用される。例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系の感圧性粘着剤を使用することができる。また、紫外線に代表されるエネルギー線硬化型や加熱発泡型の粘着剤を用いることもできる。さらに、ダイシングやダイボンディング兼用可能な粘着剤でも良い。この粘着剤23の粘着力は、各種のフィラーや異材質の添加により調整される。
【0020】
高張力層24は、高張力の基材25の表面に粘着剤26が3〜100μm、好ましくは10〜50μmの厚さに薄く積層されることで形成され、この粘着剤26が低張力層21の裏面、すなわち基材22に着脱自在に粘着する。高張力の基材25は、特に限定されるものではないが、例えば二軸延伸ポリエステル、二軸延伸ポリプロピレン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等からなる可撓性のフィルムが使用される。また、粘着剤26としては、低張力層21の粘着剤23と同様の粘着剤が用いられ、粘着力が各種のフィラーや異材質の添加により調整される。
【0021】
上記構成において、薄化された大口径の半導体ウェーハ10を加工する場合には、先ず、フレーム1の裏面に、半導体ウェーハ10を保持したダイシングテープ20、具体的には低張力層21の粘着剤23を粘着してフレーム1の中空2内に半導体ウェーハ10を位置させ(図1、図2参照)、フレーム1の周囲から食み出たダイシングテープ20の余剰部をカットし、ダイシング工程で半導体ウェーハ10にダイシング処理を施して複数の半導体チップ(ダイ)11を分割形成する。
【0022】
この際、フレーム1の裏面に多層構造のダイシングテープ20を粘着しても良いが、半導体ウェーハ10を保持した低張力層21を粘着し、その後、この低張力層21の基材22に高張力層24を粘着しても良い。半導体ウェーハ10のダイシング処理は、チャックテーブル上にフレーム1を位置決め固定し、半導体ウェーハ10に洗浄水を側方から噴射供給しつつ、半導体ウェーハ10に細い複数の溝を高速回転するブレードによりXY方向に形成し、個々の半導体チップ11に分離することで行われる。
【0023】
複数の半導体チップ11を形成したら、ダイシングテープ20の低張力層21の基材22から粘着状態の高張力層24を剥離(図4参照)するが、高張力層24の粘着剤26の粘着力が低張力層21の粘着力よりも低く小さいので、低張力層21から高張力層24を容易に引き剥がすことができる。こうして高張力層24を剥離したら、ダイシングテープ20の低張力層21をエキスパンド装置の昇降可能なエキスパンドステージ30に上方からセットしてエキスパンド処理を施す(図5、6参照)。
【0024】
具体的には、上昇するエキスパンドステージ30の圧接により、ダイシングテープ20の低張力層21を外周から引き伸ばすことにより、分割形成された複数の半導体チップ11の狭い間隔を拡張する。複数の半導体チップ11の間隔を拡張したら、ダイシングテープ20から各半導体チップ11をピックアップすれば良い。
【0025】
上記構成によれば、半導体ウェーハ10をダイシング処理する場合には、ダイシングテープ20が低張力層21と高張力タイプの高張力層24との多層構造なので、ダイシング処理時に大口径の半導体ウェーハ10を確実に固定することができる。また、ダイシングテープ20にエキスパンド処理を施す場合には、高張力層24を剥離してダイシングテープ20を低張力層21のみとするので、複数の半導体チップ11の間隔を十分に広げることができ、後の作業に支障を来たすことがない。
【0026】
なお、上記実施形態ではダイシングテープ20の低張力層21から高張力層24を単に剥離したが、剥離した高張力層24をそのまま廃棄しても良いし、繰り返し使用しても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 フレーム
2 中空
10 半導体ウェーハ
11 半導体チップ
20 ダイシングテープ
21 低張力層
22 基材
23 粘着剤
24 高張力層
25 基材
26 粘着剤
30 エキスパンドステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のフレームに貼り付けられてダイシングされる半導体ウェーハを保持するダイシングテープであって、
フレームに貼り付けられてその中空を被覆し、フレームの中空内に位置する半導体ウェーハを粘着する低張力層と、この低張力層に着脱自在に粘着される高張力層とを含み、低張力層の粘着力を高張力層の粘着力よりも大きくしたことを特徴とするダイシングテープ。
【請求項2】
中空のフレームに、半導体ウェーハを保持する請求項1記載のダイシングテープを貼り付け、半導体ウェーハにダイシング処理を施して複数の半導体チップを形成し、ダイシングテープの低張力層から高張力層を剥離した後、ダイシングテープの低張力層にエキスパンド処理を施して複数の半導体チップの間隔を広げることを特徴とする半導体ウェーハの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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