説明

ダイナミックレンジ圧縮装置およびプログラム

【課題】 少ない演算量で、入力画像の元の内容を損なうことなくダイナミックレンジ圧縮を行うことを可能にする。
【解決手段】 平均化処理部101は、入力画像を構成する各画素を各々注目画素とし、注目画素毎に、それを中心とした所定範囲内の画素の平均輝度を算出する。ベース関数値算出部102は、ベース関数に対し、平均化処理部101が各注目画素について算出した各平均輝度を入力輝度として各々与え、ベース関数値を算出する。画素値算出部103は、注目画素毎に、入力画像における当該注目画素の画素値と、平均化処理部が当該注目画素について算出した平均輝度と、ベース関数値算出部が当該注目画素について算出したベース関数値とに基づいて、出力画像における当該注目画素の画素値を算出する。その際に入力輝度の変化に対する出力輝度の変化の勾配を当該注目画素の輝度に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動画像等のダイナミックレンジ圧縮に好適なダイナミックレンジ圧縮装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の撮像素子技術の進歩により、広いダイナミックレンジを持った画像の得られる撮像素子が提供されるようになった。この撮像素子から得られる画像のダイナミックレンジに比べると、一般に表示装置が出力可能な画像のダイナミックレンジは狭い。このため、撮像素子から得られる画像をディスプレイに表示させるに当たっては、画像のダイナミックレンジ圧縮を行うことが必要になる。よく知られているダイナミックレンジ圧縮のための方法として、リニア変換と対数変換がある。ここで、リニア変換は、ダイナミックレンジ圧縮の対象である入力画像の各画素値に対し、1より小さなゲインを乗算することにより、ダイナミックレンジ圧縮後の出力画像の各画素値を算出する方法である。また、対数変換は、次式に従い、入力画像の画素値xを、出力画像の画素値yに変換する方法である。
【数1】

【0003】
ここで、deltaは、対数曲線yの全体としての傾きを決定するパラメータであり、deltaが小さくなる程、対数曲線yは、より凸な曲線となる。また、“*”は乗算を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−229275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7は、リニア変換および対数変換における変換前の入力画像の各画素の輝度である入力輝度と変換後の出力画像の各画素の輝度である出力輝度との関係を示すものである。図7において、横軸は入力輝度の対数値、縦軸は出力輝度の対数値である。
【0006】
図7に示すように、リニア変換における入力輝度と出力輝度の関係は、勾配が1の直線によって表される。そして、この直線の横軸方向の位置は、入力輝度に乗じられるゲインにより定まる。図7では、リニア変換の例としてリニア変換1および2が示されているが、左側に示されているリニア変換1は、右側に示されているリニア変換2よりも高いゲインを用いて、入力輝度から出力輝度への変換を行っている。
【0007】
図7に示すように、ゲインの高いリニア変換1では、入力輝度が高い領域(図7ではA部)では、出力輝度が表示装置によって定まる最大値に対してオーバーフローする。このため、出力輝度がオーバーフローしている領域が真っ白になる、いわゆる白飛びが出力画像に表れる。
【0008】
一方、ゲインの低いリニア変換2では、白飛びを防止することはできるが、入力輝度が低い領域(図7ではB部)では、出力輝度が表示装置の表現可能な輝度の下限値を下回る。このため、出力輝度が下限値を下回っている領域が真っ黒になる、いわゆる黒潰れが出力画像に現れる。
【0009】
対数変換では、リニア変換において発生する白飛びや黒潰れの問題は発生しない。しかし、対数変換では、入力輝度の高い領域(図7ではC部)において、入力輝度が変化しているのに出力輝度が殆ど変化しなくなるコントラストの低下が起こる。
【0010】
このようにリニア変換や対数変換では、入力画像が広いダイナミックレンジを持っている場合に、変換後の出力画像において入力画像の元の内容が損なわれる場合がある(A部、B部、C部参照)。
【0011】
このような不都合が発生する広いダイナミックレンジを持った入力画像の例として、1つの撮像素子により室内と室内の窓越しに見える外の風景を同時に撮像した場合に得られる画像が挙げられる。この場合、室内は輝度が低いのに対し、窓越しに見える外の風景は輝度が高い。このため、撮像素子から得られた画像に対し、例えば対数変換によるダイナミックレンジ圧縮を行うと、出力画像において、輝度の低い室内の画像は見ることができるが、窓越しに見えるはずの外の風景は、白飛びこそ生じないものの、コントラストが低下し、はっきり見えない風景となる。さらに、出力画像において、窓越しに見える外の風景は全体的に白っぽくなり、色の再現性が低下する、という問題が発生する。
【0012】
以上のように、従来のリニア変換や対数変換では、広いダイナミックレンジを持った入力画像を元の内容を損なうことなく狭いダイナミックレンジの出力画像に変換することは困難であった。また、リニア変換や対数変換以外にもダイナミックレンジ圧縮の方法はあるが、動画処理に耐えうるような少ない演算量で、入力画像の元の内容を損なうことなくダイナミックレンジ圧縮を行うことができる技術は従来提供されていなかった。
【0013】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、少ない演算量で、入力画像の元の内容を損なうことなくダイナミックレンジ圧縮を行うことを可能にする技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、入力画像を構成する各画素を各々注目画素とし、注目画素毎に、前記入力画像において当該注目画素を含む所定範囲内の画素の画素値から平均輝度を算出する平均化処理部と、入力輝度を出力輝度に対応付けるベース関数に対し、前記平均化処理部が各注目画素について算出した各平均輝度を入力輝度として各々与え、出力輝度であるベース関数値を注目画素毎に算出するベース関数値算出部と、前記注目画素毎に、前記入力画像における当該注目画素の画素値と、前記平均化処理部が当該注目画素について算出した平均輝度と、前記ベース関数値算出部が当該注目画素について算出したベース関数値とに基づいて、出力画像における当該注目画素の画素値を算出する手段であって、前記入力画像における当該注目画素の画素値が示す輝度の当該平均輝度からの変化に応じて、前記出力画像における当該画素の画素値が示す輝度を当該ベース関数値から変化させ、かつ、その際に前者の変化に対する後者の変化の勾配を当該注目画素の輝度に応じて制御する画素値算出部とを具備することを特徴とするダイナミックレンジ圧縮装置を提供する。
【0015】
かかる発明によれば、入力画像を構成する各画素が注目画素とされ、注目画素を含む所定範囲内の画素の平均輝度が入力輝度としてベース関数に与えられる。そして、注目画素毎に、入力画像における当該注目画素の画素値と、平均化処理部が当該注目画素について算出した平均輝度と、ベース関数値算出部が当該注目画素について算出したベース関数値とに基づいて、出力画像における当該注目画素の画素値が算出される。その際、画素値算出部は、入力画像における当該注目画素の画素値が示す輝度の当該平均輝度からの変化に応じて、出力画像における当該画素の画素値が示す輝度を当該ベース関数値から変化させ、かつ、その際に前者の変化に対する後者の変化の勾配を当該注目画素の輝度に応じて制御する。従って、入力画像がダイナミックレンジの広い画像であり、輝度が大きく異なる複数の領域に分かれている場合に、ダイナミックレンジ圧縮後の各領域の出力輝度はベース関数に従ったものとなる。また、各領域に着目すると、領域内の各画素を注目画素としたときの各平均輝度はほぼ同じ値になるので、領域内の各画素にはほぼ同じゲインが適用され、リニア変換に近い変換が行われる。従って、各領域内のコントラストが良好な出力画像が得られる。また、入力輝度に対する出力輝度の変化の勾配を入力輝度に応じて制御することが可能なので、高輝度領域においてコントラストが必要以上に大きくなるのを防止することができる。
【0016】
なお、ダイナミックレンジ圧縮時のコントラスト改善に関する技術として特許文献1に開示のものがある。この特許文献1に開示の技術では、入力画像の各画素値に対し、2次元LPF(ローパスフィルタ)処理を施すことにより、高周波成分を除いて、画面のポイント毎の特徴信号を取得し、この特徴信号により白バランス出力信号の入出力特性を変化させて、画面の特徴に最適な入出力特性を得るものである。しかし、この特許文献1に開示の技術は、入力画像を構成する各画素を注目画素とし、注目画素を含む所定範囲内の画素の平均輝度を入力輝度としてベース関数に与え、その際に得られるベース関数値を用いて出力画像の画素値を得るものではなく、本発明とは全く異なる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態によるダイナミックレンジ圧縮装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態における平均化処理部101が使用するフィルタ係数を例示する図である。
【図3】同平均化処理部101が使用する重み関数を例示する図である。
【図4】同実施形態におけるベース関数の例を示す図である。
【図5】同実施形態の第1のモードにおけるダイナミックレンジ圧縮特性を例示する図である。
【図6】同実施形態の第2のモードにおけるダイナミックレンジ圧縮特性を例示する図である。
【図7】従来のダイナミックレンジ圧縮の例であるリニア変換と対数変換のダイナミックレンジ圧縮特性を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、この発明の一実施形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態によるダイナミックレンジ圧縮装置100の構成を示すブロック図である。このダイナミックレンジ圧縮装置100は、例えば表示装置を備えたパーソナルコンピュータ等の機器や表示装置自体に実装される装置であり、入力画像の各画素値を例えばカメラ110から受け取りつつ、各画素値のダイナミックレンジ圧縮を行い、ダイナミックレンジ圧縮後の出力画像の各画素値を表示装置120に供給する装置である。
【0019】
図1に示すように、ダイナミックレンジ圧縮装置100は、平均化処理部101と、ベース関数値算出部102と、画素値算出部103とを有する。平均化処理部101は、カメラ110から入力画像を構成する各画素の画素値をラスタスキャン順に順次受け取りつつ、過去受け取った2k+1個(kは整数)の画素値を用いた平均化処理を実行する装置である。より具体的には、平均化処理部101は、入力画像における第iカラム、第jラインの画素P(i,j)を注目画素とした場合、まず、この注目画素P(i、j)を中心とした水平方向の同一ライン上の2k+1個の画素P(i+m、j)(m=−k〜k)の輝度Yin(i+m、j)(m=−k〜k)を算出する。ここで、入力画像がモノクロ画像である場合は、各画素値をそのまま輝度Yin(i+m、j)(m=−k〜k)とする。また、入力画像がカラー画像であり、各画素の画素値がR、G、Bの成分を持つ場合には、R、G、Bの成分に所定の重み係数を乗算して加算することにより輝度Yin(i+m、j)(m=−k〜k)を算出する。そして、次式に従い、注目画素P(i,j)を中心とした同一ライン上の2k+1個の画素P(i+m、j)(m=−k〜k)の平均輝度Yav(i、j)を算出する。
【数2】

【0020】
上記式(2)において、C(m)(m=−k〜k)は空間フィルタ係数であり、図2に例示するようにm=0となる中心において極大となり、中心から正方向および負方向に離れるに従って小さくなる係数である。また、weight(Yin(i+m,j)/Yin(i,j))(m=−k〜k)は重み関数の関数値であり、m=0となる中心において極大となり、中心から正方向および負方向に離れるに従って小さくなる。図3はこの重み関数を例示するものである。この図3において、横軸は重み関数の独立変数Yin(i+m,j)/Yin(i,j)の対数log(Yin(i+m,j)/Yin(i,j))=log(Yin/Yref)であり、縦軸は関数値weight(Yin/Yref)である。
【0021】
ベース関数値算出部102は、入力輝度xを出力輝度yに対応付けるベース関数base(x)に対し、平均化処理部101が各注目画素P(i,j)について算出した各平均輝度Yav(i,j)を入力輝度xとして各々与え、出力輝度yであるベース関数値base(x)=base(Yav(i,j))を注目画素P(i,j)毎に算出する手段である。
【0022】
ここで、ベース関数y=base(x)は、独立変数xの対数値に対する従属変数yの対数値の勾配が1より小さい関数である。このベース関数y=base(x)として好適な例を示すと次の通りである。
【数3】

【数4】

図4は、上記式(3)および(4)のベース関数を両対数座標上に示したものである。
【0023】
画素値算出部103は、注目画素P(i,j)毎に、入力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値と、平均化処理部101が当該注目画素注目画素P(i,j)について算出した平均輝度Yav(i,j)と、ベース関数値算出部102が当該注目画素P(i,j)について算出したベース関数値base(Yav(i,j))とに基づいて、出力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値を算出する手段である。
【0024】
この画素値算出部103は、動作モードとして、第1のモードと第2のモードを有している。これらのうちいずれのモードで画素値算出部103を動作させるかは、例えば図示しない操作部の操作等によりダイナミックレンジ圧縮装置100に与えられる制御情報により決定される。
【0025】
第1のモードにおいて、画素値算出部103は、下記式(5)に従って、当該注目画素P(i,j)に適用するゲインgain(i,j)を算出し、このゲインgain(i,j)を入力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値に乗算することにより、ダイナミックレンジ圧縮後の画素値、すなわち、出力画像における当該注目画素の画素値を算出し、表示装置120に供給する。
【数5】

第1のモードにおいて、出力画像における注目画素P(i,j)の輝度Yout(i,j)は下記式(6)に示すものとなる。
【数6】

【0026】
図5は、ベース関数base(x)として前掲式(3)を採用した場合を例に、第1のモードにおけるダイナミックレンジ圧縮装置100のダイナミックレンジ圧縮特性を示す図である。図5において、横軸は入力画像の各画素の輝度Yin(i、j)の対数値、縦軸はダイナミックレンジ圧縮後の出力画像の各画素の輝度Yout(i、j)の対数値である。
【0027】
第2のモードにおいて、画素値算出部103は、注目画素P(i,j)毎に、入力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値と、平均化処理部101が当該注目画素P(i,j)について算出した平均輝度Yav(i,j)と、ベース関数値算出部102が当該注目画素P(i,j)について算出したベース関数値base(Yav(i,j))とに基づいて、出力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値を算出する。その際に、画素値算出部103は、入力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値が示す輝度Yin(i,j)の当該平均輝度Yav(i,j)からの変化に応じて、出力画像における当該画素P(i,j)の画素値が示す輝度Yout(i,j)が当該ベース関数値base(Yav(i,j))から変化するときの勾配を入力輝度Yin(i,j)に応じて変化させる。
【0028】
具体的には、第2のモードにおいて画素値算出部103は、下記式(6)に従って、出力画像における当該画素P(i,j)の輝度Yout(i,j)を算出し、この輝度Yout(i,j)が得られるゲインgain(i,j)=Yout(i,j)/Yin(i,j)を入力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値に乗算することにより、ダイナミックレンジ圧縮後の画素値、すなわち、出力画像における当該注目画素P(i,j)の画素値を算出し、表示装置120に供給する。
【数7】

【0029】
図6はベース関数base(x)として前掲式(3)を採用した場合を例に、第2のモードにおけるダイナミックレンジ圧縮装置100のダイナミックレンジ圧縮特性を示す図である。図6において、横軸は入力画像の各画素の輝度Yin(i、j)の対数値、縦軸はダイナミックレンジ圧縮後の出力画像の各画素の輝度Yout(i、j)の対数値である。
【0030】
上記式(7)において、gmは、入力画像における注目画素P(i,j)の画素値が示す輝度Yin(i,j))の平均輝度Yav(i,j)からの変化に応じて、出力画像における画素P(i,j)の画素値が示す輝度Yout(i,j)がベース関数値base(Yav(i,j))から変化する際の勾配を調整するための係数である。
【0031】
上記式(7)の両辺の対数をとると、下記式(8)が得られる
【数8】

この式(8)に示すように、注目画素P(i,j)の出力輝度の対数logYout(i,j)は、平均輝度に対応したベース関数値の対数logbase(Yav(i,j))を中心として、注目画素P(i,j)の入力輝度Yin(i,j)と平均輝度Yav(i,j)との差分の対数に比例した値だけ増減し、その増減の勾配は1/gmとなる。
【0032】
本実施形態では、この係数gmが入力輝度Yin(i,j)に応じて制御される。この係数gmの制御の態様には例えば次の各態様がある。
<態様a>
入力輝度Yin(i,j)が所定の閾値未満である低輝度領域では、係数gmを所定値gm0とし、入力輝度Yin(i,j)が上記閾値以上である高輝度領域では、係数gmをgm0より大きな所定値gm1とする。
<態様b>
入力輝度Yin(i,j)の全範囲を3つ以上の領域に区分し、高輝度の領域になるに従って係数gmの値が大きくなるように、各領域に異なる係数gmを割り当てる。そして、入力輝度Yin(i,j)が属する輝度領域に応じて、係数gmの値を段階的に切り換える。
図6に示す例では、この態様により係数gmの制御が行われている。図示のように、この例では、入力輝度Yin(i,j)が大きくなる程(すなわち、高輝度領域になる程)、係数gmが大きくなり、入力輝度Yin(i,j)の変化に対する出力輝度Yout(i,j)の変化の勾配が小さくなる。
<態様c>
係数gmを入力輝度Yin(i,j)の関数として定義し、入力輝度Yin(i,j)が高くなるのに応じて係数gmが大きくなるようにする。
<態様d>
入力輝度Yin(i,j)が所定の閾値未満である低輝度領域では、係数gmを所定値gm0とする。入力輝度Yin(i,j)が上記閾値以上である高輝度領域では、係数gmを入力輝度Yin(i,j)の関数として定義し、入力輝度Yin(i,j)の閾値からの増加分に応じて係数gmがgm0から増加するようにする。
【0033】
これらのいずれの態様を採用するかは、ダイナミックレンジ圧縮装置100の用途に応じて選択すればよい。あるいは、全ての態様での係数gmの制御機能をダイナミックレンジ圧縮装置100に設けておき、ダイナミックレンジ圧縮装置100が、図示しない操作部の操作に応じて、いずれか1つの態様を選択するようにしてもよい。
【0034】
以上説明した本実施形態によれば、入力画像のダイナミックレンジが広く、入力画像が輝度の大きく異なる複数の領域に分かれている場合の各領域に着目すると、ダイナミックレンジ圧縮特性(図5、図6参照)において、1つの領域内の各画素の入力輝度と出力輝度の組は、その領域内の各画素の平均輝度とこの平均輝度をベース関数に入力輝度として与えることにより得られる出力輝度の組を中心に分布する。従って、ダイナミックレンジ圧縮における入力輝度と出力輝度の組は、大局的に見ると、ベース関数曲線に沿ったものとなり、ダイナミックレンジ圧縮において白飛びや黒潰れが発生しない。
【0035】
また、入力画像のダイナミックレンジが広く、入力画像が輝度の大きく異なる複数の領域に分かれている場合であっても、各領域に着目すると、1つの領域内の各画素の入力輝度は変化が少なく、いずれの画素についてもほぼ同じ平均輝度Yav(i,j)が算出される。従って、1つの領域内の各画素間の入力輝度に変化がある場合に、第1のモードでは、その変化が両対数グラフ上において傾きが1の直線に沿った出力輝度の変化となって現れ(図5参照)、第2のモードでは傾きが1/gmの直線に沿った出力輝度の変化となって現れる。すなわち、領域内の各画素に対応した平均輝度が同じまたは近似しているような領域では、領域内の各画素についてのダイナミックレンジ圧縮として、リニア変換に近い変換が行われる。従って、入力画像が輝度の大きく異なる複数の領域に分かれている場合に、出力画像では領域毎に高いコントラストを得ることができる。この場合において、例えば入力画像において輝度の高い領域内の一部の画素のダイナミックレンジ圧縮後の出力輝度が、入力画像において輝度の低い領域内の一部の画素のダイナミックレンジ圧縮後の出力輝度よりも低くなる逆転現象が生じることがある。しかし、人間の視覚は、ある程度離れた2点の輝度差を正確に認知することが困難である。従って、このような逆転現象が生じたとしても、ダイナミックレンジ圧縮後の出力画像を視認する者に大きな違和感を与えることはない。
【0036】
また、第2のモードでのダイナミックレンジ圧縮特性では、両対数グラフ上において、高輝度領域になる程、入力輝度Yin(i,j)の変化に対する出力輝度Yout(i,j)の変化の勾配が小さくなる(図6参照)。従って、高輝度領域において、必要以上にコントラストが大きくなるのを防止し、自然な出力画像を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、平均化処理部101は、注目画素P(i,j)を中心とした同一ライン上の2k+1個の画素の画素値を記憶すればよく、回路規模が小さくて済む。従って、ダイナミックレンジ圧縮装置100を小規模かつ安価な構成にすることができる。
【0038】
<他の実施形態>
以上、この発明の一実施形態を説明したが、この発明には、他にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0039】
(1)上記実施形態では、この発明をダイナミックレンジ圧縮装置100として具現する例を示したが、この発明は、コンピュータを上記実施形態における平均化処理部101、ベース関数値102および画素値算出部103として機能させるためのプログラムとして具現することも可能である。
【0040】
(2)上記実施形態では、注目画素P(i,j)を中心として同一ライン上の所定個数の画素を平均化処理の対象としたが、装置規模に関する制約が緩い場合には、注目画素P(i,j)を中心とした2次元的範囲(例えば矩形範囲)内の画素を平均化処理の対象としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
101……平均化処理部、102……ベース関数値算出部、103……画素値算出部、100……ダイナミックレンジ圧縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像を構成する各画素を各々注目画素とし、注目画素毎に、前記入力画像において当該注目画素を含む所定範囲内の画素の画素値から平均輝度を算出する平均化処理部と、
入力輝度を出力輝度に対応付けるベース関数に対し、前記平均化処理部が各注目画素について算出した各平均輝度を入力輝度として各々与え、出力輝度であるベース関数値を注目画素毎に算出するベース関数値算出部と、
前記注目画素毎に、前記入力画像における当該注目画素の画素値と、前記平均化処理部が当該注目画素について算出した平均輝度と、前記ベース関数値算出部が当該注目画素について算出したベース関数値とに基づいて、出力画像における当該注目画素の画素値を算出する手段であって、前記入力画像における当該注目画素の画素値が示す輝度の当該平均輝度からの変化に応じて、前記出力画像における当該画素の画素値が示す輝度を当該ベース関数値から変化させ、かつ、その際に前者の変化に対する後者の変化の勾配を当該注目画素の輝度に応じて制御する画素値算出部と
を具備することを特徴とするダイナミックレンジ圧縮装置。
【請求項2】
前記平均輝度算出手段は、前記注目画素を含む同一ライン上の所定範囲内の各画素の輝度に基づいて平均輝度を算出することを特徴とする請求項1に記載のダイナミックレンジ圧縮装置。
【請求項3】
コンピュータを、
入力画像を構成する各画素を各々注目画素とし、注目画素毎に、前記入力画像において当該注目画素を含む所定範囲内の画素の画素値から平均輝度を算出する平均化処理部と、
入力輝度を出力輝度に対応付けるベース関数に対し、前記平均化処理部が各注目画素について算出した各平均輝度を入力輝度として各々与え、出力輝度であるベース関数値を注目画素毎に算出するベース関数値算出部と、
前記注目画素毎に、前記入力画像における当該注目画素の画素値と、前記平均化処理部が当該注目画素について算出した平均輝度と、前記ベース関数値算出部が当該注目画素について算出したベース関数値とに基づいて、出力画像における当該注目画素の画素値を算出する手段であって、前記入力画像における当該注目画素の画素値が示す輝度の当該平均輝度からの変化に応じて、前記出力画像における当該画素の画素値が示す輝度を当該ベース関数値から変化させ、かつ、その際に前者の変化に対する後者の変化の勾配を当該注目画素の輝度に応じて制御する画素値算出部と
して機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−150401(P2011−150401A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9045(P2010−9045)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】