説明

ダイプレクサならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器

【課題】 広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きい2つの通過帯域を備えるダイプレクサならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供する。
【解決手段】第1〜3の共振器となる第1〜3の共振電極30a,30b,30cと、第4,5の共振器となる第4,5の共振電極31a,31bと、第1,4の共振電極30a,31aと電磁界結合する第1の入出力結合電極40aと、第2の共振電極30bと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bと、第5の共振電極31bと電磁界結合する第3の入出力結合電極40cと、第1,3の共振電極30a,30cを電磁界結合する共振器結合電極43とを備え、第1,2の共振器の共振周波数は等しく第3の共振器と異なり、第4,5の共振器の共振周波数は等しく第1〜3の共振器と異なり、第1〜3の共振器により第1の通過帯域を形成し、第4,5の共振器により第2の通過帯域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイプレクサならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものであり、特に、広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいダイプレクサならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
UWB等の通信システムにおいて用いられる無線通信機器等においては、特定の周波数の電気信号のみを通過させるバンドパスフィルタが用いられており、特に、同一の共振周波数を有する2つの共振器が電磁気的に結合された共振系における偶モード共振および奇モード共振を利用して、偶モード共振周波数および奇モード共振周波数を含む通過帯域を形成したバンドパスフィルタが広く用いられている。このようなバンドパスフィルタにおいては、2つの共振器間の電磁気的な結合の強さに応じて偶モード共振周波数と奇モード共振周波数との差が変化し、これによって通過帯域の幅が決定される(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−30303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来のバンドパスフィルタは、偶モード共振および奇モード共振の2つの共振ピークを利用して通過帯域を形成するため広帯域化には限界があった。また、同一の共振周波数を有する3つの共振器が電磁気的に結合された共振系における3つの共振モードによる3つの共振ピークを利用して通過帯域を形成したバンドパスフィルタも知られており、このようなバンドパスフィルタは更なる広帯域化が可能であるが、3つの共振ピークの周波数をそれぞれ任意に設定することは困難であり、通過帯域の設計の自由度が小さいものであった。
【0005】
また、例えばUWBでLow BandおよびHigh Bandの両方を用いる場合等においては、高周波信号を処理するRF ICにおいてLow Bandの信号を処理する回路とHigh Bandの信号を処理する回路とが異なるためにアンテナ側が2端子になる場合があり、Low Band側の端子およびHigh Band側の端子とアンテナとを接続するダイプレクサの必要性が高まっていた。
【0006】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、広帯域化が可能で通過帯域の設計の自由度が大きいダイプレクサならびにそれを用いた無線通信モジュールおよび無線通信機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のダイプレクサは、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、前記積層体の第1の層間に相互に電磁界結合するように横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて第1乃至第3の共振器を構成する帯状の第1乃至第3の共振電極と、前記積層体の第2の層間に相互に電磁界結合するように横並びに配置された、それぞれ一方端が接地されて第4および第5の共振器を構成する帯状の第4および第5の共振電極と、前記積層体の前記第1および第2の層間の間に位置する層間に配置された、前記第1および第4の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第1の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間と異なる層間に配置された、前記第2の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第2の入出力結合電極と、前記積層体の前記第2の層間と異なる層間に配置された、前記第5の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第3の入出力結合電極と、前記積層体の前記第1の層間を間に挟んで前記第2の層間と反対側に位置する層間に配置された、自身を介して前記第1および第3の共振電極を電磁界結合させる共振器結合電極とを備え、前記第1および第2の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ前記第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、前記第4および第5の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ前記第1乃至第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、前記第1乃至第3の共振器を用いて第1の通過帯域を形成する第1のバンドパスフィルタと、前記第4および第5の共振器を用いて第2の通過帯域を形成する第2のバンドパスフィルタとが構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のダイプレクサは、上記構成において、前記第1乃至第3の共振電極は、それぞれの接地される側が互い違いになるように配置されており、前記共振器結合電極を介した前記第1および第3の共振電極の電磁界結合は主に容量性の結合とされており、前記第1および第2の共振器の共振周波数は前記第3の共振器の共振周波数よりも高く設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の無線通信モジュールは、上記各構成のいずれかの本発明のダイプレクサを備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の無線通信機器は、上記各構成のいずれかの本発明のダイプレクサを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダイプレクサによれば、相互に電磁界結合するように横並びに順次配置されて第1乃至第3の共振器を構成する第1乃至第3の共振電極と、第1および第3の共振電極を電磁界結合させる共振器結合電極とを備え、第1および第2の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、第1乃至第3の共振器を用いて第1の通過帯域を形成する。
【0012】
このような構成を備える本発明のダイプレクサによれば、隣り合う互いに共振周波数が等しい第1および第2の共振器が電磁界結合することにより、偶モードおよび奇モードの2つの共振ピークが生じる。また、第1および第2の共振器と異なる共振周波数に設定された第3の共振器が第2の共振器と直接電磁界結合するとともに共振器結合電極を介して第1の共振器と電磁界結合することにより3つ目の共振ピークが生じる。この3つの共振ピークを用いて第1の通過帯域を形成することができるので、第1の通過帯域が広いダイプレクサを得ることができる。また、3つの共振ピークの周波数を任意に設定することができるので、第1の通過帯域の設計の自由度が大きいダイプレクサを得ることができる。
【0013】
また、本発明のダイプレクサによれば、第4および第5の共振器を構成する第4および第5の共振電極と、第1および第4の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第1の入出力結合電極と、第2の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第2の入出力結合電極と、第5の共振電極と対向して電磁界結合する第3の入出力結合電極とを備え、第4および第5の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ第1乃至第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、第4および第5の共振器を用いて第2の通過帯域を形成する。
【0014】
このような構成を備える本発明のダイプレクサによれば、第1の入出力結合電極と第2の入出力結合電極との間に、第1乃至第3の共振器を用いて形成される第1の通過帯域を有する第1のバンドパスフィルタが形成され、第1の入出力結合電極と第3の入出力結合電極との間に、第4および第5の共振器を用いて形成される第2の通過帯域を備える第2のバンドパスフィルタが形成されるため、ダイプレクサとして機能させることができる。また、第1の入出力結合電極は第1および第4の共振電極と対向して電磁界結合し、第2の入出力結合電極は第2の共振電極と対向して電磁界結合し、第3の入出力結合電極は第5の共振電極と対向して電磁界結合することから、2つの通過帯域を形成する2つの共振系と入出力とのインピーダンス整合を広い周波数帯域に渡って良好に保つことができるので、2つの広い通過帯域を備えるダイプレクサを得ることが可能となる。
【0015】
さらに、本発明のダイプレクサによれば、第1乃至第3の共振電極は、それぞれの接地される側が互い違いになるように配置されており、共振器結合電極を介した第1および第3の共振電極の電磁界結合は主に容量性の結合とされており、第1および第2の共振器の共振周波数が第3の共振器の共振周波数よりも高く設定されているときには、第1乃至第3の共振器同士の電磁界結合が全て主に容量性の結合となり、第1の共振器から直接第2の共振器へ伝達される電気信号と第1の共振器から第3の共振器を介して第2の共振器へ伝達される信号との間において、3つの共振ピークの間の周波数では位相反転が生じず、3つの共振ピークの外側の周波数で位相反転が生じるので、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域内には減衰極がなく、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域よりも低周波側に減衰極を有する優れた通過特性を有するダイプレクサを得ることができる。
【0016】
本発明の無線通信モジュールおよび本発明の無線通信機器によれば、広帯域な第1の通過帯域および第2の通過帯域を有する本発明のダイプレクサを通信信号の濾波に用いることにより、ダイプレクサを通過する通信信号の減衰を小さくすることができるとともに、1つのダイプレクサで2つの通信帯域の信号を濾波することができる。よって、小型で高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1の例のダイプレクサを模式的に示す外観斜視図である。
【図2】図1に示すダイプレクサの模式的な分解斜視図である。
【図3】図1に示すダイプレクサの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図4】図1のP−P’線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の第2の例のダイプレクサを模式的に示す分解斜視図である。
【図6】図5に示すダイプレクサの上下面および層間を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の実施の形態の第3の例の無線通信モジュールおよび無線通信機器を模式的に示すブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態の第2の例のダイプレクサの電気特性のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のダイプレクサを添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態の第1の例)
図1は、本発明の実施の形態の第1の例のダイプレクサを模式的に示す外観斜視図である。図2は、図1に示すダイプレクサの模式的な分解斜視図である。図3は、図1に示すダイプレクサの上下面および層間を模式的に示す平面図である。図4は、図1のP−P’線断面図である。
【0019】
本例のダイプレクサは、図1〜図4に示すように、積層体10と、第1の接地電極21と、第2の接地電極22と、第3の接地電極23と、第4の接地電極24と、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cと、第4および第5の共振電極31a,31bと、第1の入出力結合電極40aと、第2の入出力結合電極40bと、第3の入出力結合電極40cと、共振器結合電極43と、第1の入出力端子電極60aと、第2の入出力端子電極60bと、第3の入出力端子電極60cとを備えている。
【0020】
積層体10は、複数の誘電体層11が積層されてなる。第1の接地電極21は、積層体10の下面に配置されている。第2の接地電極22は、積層体10の上面に配置されている。第3の接地電極23は、積層体10の第1の層間に、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの長さ方向の両側に位置するように配置されている。第4の接地電極24は、積層体10の第2の層間に、第4および第5の共振電極31a,31bの長さ方向の両側に位置するように配置されている。第1乃至第4の接地電極21〜24は全てアース電位に接続される。
【0021】
第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは、積層体10の第1の層間に相互に電磁界結合するように横並びに順次配置されている。第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの一方端は、それぞれ第3の接地電極23に接続されており、第3の接地電極23を介して接地される。それにより、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは、それぞれ1/4波長共振器である第1乃至第3の共振器として機能する。第4および第5の共振電極31a,31bは、積層体10の第2の層間に、各々の一方端が逆側に位置して相互に電磁界結合するように横並びに配置されている。第4および第5の共振電極31a,31bの一方端は、それぞれ第4の接地電極24に接続されており、第4の接地電極24を介して接地される。それにより、第4および第5の共振電極31a,31bは、それぞれ1/4波長共振器である第4および第5の共振器として機能する。
【0022】
第1の入出力結合電極40aは、帯状であり、積層体10の第1および第2の層間の間に位置する層間Aに配置されている。また、第1の入出力結合電極40aは、第1および第4の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域と対向するように配置されており、第1および第4の共振電極30a,31aと電磁界結合する。そして、第1の入出力結合電極40aは、積層体10の上面に配置された第1の入出力端子電極60aに貫通導体50を介して接続されている。この第1の入出力結合電極40aと貫通導体50との接続点は、第1の入出力結合電極40aにおいて電気信号が入力または出力される点である、第1の入出力点45aとなっている。
【0023】
第2の入出力結合電極40bは、帯状であり、積層体10の第1の層間を間に挟んで層間Aと反対側に位置する層間Bに配置されている。また、第2の入出力結合電極40bは、第2の共振電極30bの長さ方向の半分以上にわたる領域と対向するように配置されており、第2の共振電極30bと電磁界結合する。そして、第2の入出力結合電極40bは、積層体10の上面に配置された第2の入出力端子電極60bに貫通導体50を介して接続されている。この第2の入出力結合電極40bと貫通導体50との接続点は、第2の入出力結合電極40bにおいて電気信号が入力または出力される点である、第2の入出力点45bとなっている。
【0024】
第3の入出力結合電極40cは、帯状であり、積層体10の第2の層間を間に挟んで層間Aと反対側に位置する層間Cに配置されている。また、第3の入出力結合電極40cは、第5の共振電極31bの長さ方向の半分以上にわたる領域と対向しており、第5の共振電極31bと電磁界結合する。そして、第3の入出力結合電極40cは、積層体10の上面に配置された第3の入出力端子電極60cに貫通導体50を介して接続されている。この第3の入出力結合電極40cと貫通導体50との接続点は、第3の入出力結合電極40cにおいて電気信号が入力または出力される点である、第3の入出力点45bとなっている。
【0025】
共振器結合電極43は、積層体10の第1の層間を間に挟んで層間Aと反対側に位置する層間に配置されている。また、共振器結合電極43の一方端部は、貫通導体50を介して第3の共振電極30cの他方端部に接続されており、第3の共振電極30cと共に第3の共振器を構成している。そして、共振器結合電極43の他方端部は、第1の共振電極30aの他方端部と対向して主に容量性の電磁界結合をする。よって、第1および第3の共振電極30a,30cは、共振器結合電極43を介して電磁界結合する。
【0026】
また、第1および第2の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ第3の共振器の共振周波数より高い周波数に設定されており、第4および第5の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ第1乃至第3の共振器の共振周波数より高い周波数に設定されている。このようにして、第1の入出力端子電極60aと第2の入出力端子電極60bとの間に、第1乃至第3の共振器を用いて第1の通過帯域を形成する第1のバンドパスフィルタが構成されており、第1の入出力端子電極60aと第3の入出力端子電極60cとの間に、第4および第5の共振器を用いて第2の通過帯域を形成する第2のバンドパスフィルタが構成されている。
【0027】
このような構成を備える本例のバンドパスフィルタによれば、例えば、第1の入出力端子電極60aおよび貫通導体50を介して第1の入出力結合電極40aに外部回路からの電気信号が入力されると、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第1の共振電極31aが励振されるとともに、これと電磁界結合する第2の共振電極31bが共振する。また、第1の共振電極31aが共振すると、共振器結合電極43を介して第1の共振電極31aと電磁界結合する第3の共振電極31cも共振し、そのエネルギーは第3の共振電極31cと電磁界結合する第2の共振電極31bに伝えられる。この2つのルートで第2の共振電極31bに電気信号が伝達され、第2の共振電極31bと電磁界結合する第2の入出力結合電極40bから貫通導体50および第2の入出力端子電極60bを介して外部回路に電気信号が出力される。このようにして、第1および第2の共振器の共振周波数ならびに第3の共振器の共振周波数を含む第1の周波数帯域の信号が第2の入出力端子電極60bから選択的に出力される。
【0028】
また、第1の入出力結合電極40aと電磁界結合する第4の共振電極31aが励振されるとともに、これと電磁界結合する第5の共振電極31bが共振し、第5の共振電極31bと電磁界結合する第3の入出力結合電極40cから貫通導体50および第3の入出力端子電極60cを介して外部回路に電気信号が出力される。このようにして、第4および第5の共振器の共振周波数を含む第2の周波数帯域の信号が第3の入出力端子電極60cから選択的に出力される。こうして、本例のダイプレクサは、第1の入出力端子電極60aから入力された信号を周波数に応じて分波して第2の入出力端子電極60bおよび第3の入出力端子電極60cから出力するダイプレクサとして機能する。
【0029】
また、本例のダイプレクサによれば、隣り合う互いに共振周波数が等しい第1および第2の共振器が電磁界結合することにより、偶モードおよび奇モードの2つの共振ピークが生じる。また、第1および第2の共振器よりも共振周波数が低く設定された第3の共振器が第2の共振器と直接電磁界結合するとともに共振器結合電極43を介して第1の共振器と電磁界結合することにより3つ目の共振ピークが生じる。この3つの共振ピークを用いて第1の通過帯域を形成することができるので、広帯域な第1の通過帯域を有するダイプレクサを得ることができる。また、3つの共振ピークの周波数を任意に設定することができるので、第1の通過帯域の設計の自由度が大きいダイプレクサを得ることができる。
【0030】
さらに、本例のダイプレクサによれば、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの接地される側が互い違いになるように配置されてインターデジタル型に電磁界結合しているので、第1の共振電極30aと第2の共振電極30bとの電磁界結合および第2の共振電極30bと第3の共振電極30cとの電磁界結合はどちらも主に容量性の結合になる。そして、第1の共振電極30aと第3の共振電極30cとは共振器結合電極43を介して主に容量性の電磁界結合をしているので、第1乃至第3の共振器の電磁界結合は全て主に容量性の結合となる。その上で、第1および第2の共振器の共振周波数が第3の共振器の共振周波数よりも高く設定されていることから、第1の共振器から直接第2の共振器へ伝達される電気信号と第1の共振器から第3の共振器を介して第2の共振器へ伝達される信号とにおいて、3つの共振ピークの間の周波数では位相反転が生じず、3つの共振ピークよりも低い周波数で位相反転が生じて互いに打ち消し合うので、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域内には減衰極がなく、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域よりも低周波側に減衰極を有する優れた通過特性を有するダイプレクサを得ることができる。
【0031】
またさらに、本例のダイプレクサによれば、第1の入出力結合電極40aは、第1および第4の共振電極30a,31aの長さ方向の半分以上に渡る領域とそれぞれインターデジタル型に対向するように配置されており、第2の入出力結合電極40bは、第2の共振電極30bの長さ方向の半分以上にわたる領域とインターデジタル型に対向するように配置されており、第3の入出力結合電極40cは、第5の共振電極31bの長さ方向の半分以上にわたる領域とインターデジタル型に対向するように配置されている。これにより、第1乃至第3の入出力結合電極40a〜40cは、第1および第3の共振電極30a,30cならびに第4および第5の共振電極31a,31bからなる2つの共振系と強く電磁界結合するので、第1の通過帯域および第2の通過帯域のそれぞれにおいて、通過帯域の全体に渡って平坦で低損失な通過特性を得ることができる。
【0032】
さらにまた、本例のダイプレクサによれば、俯瞰したときに、第1の入出力結合電極40aを間に挟んで第2の入出力結合電極40bと第3の入出力結合電極40cとが反対側に位置するように配置されている。これにより、第2の入出力結合電極40bと第3の入出力結合電極40cとの電磁気的な結合を小さくすることができるので、第2の入出力端子電極60bと第3の入出力端子電極60cとの間のアイソレーションが優れたダイプレクサを得ることができる。
【0033】
本例のダイプレクサにおいて、誘電体層11の材質としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂や例えば誘電体セラミックス等のセラミックスを用いることができる。例えば、BaTiO,PbFeNb12,TiO等の誘電体セラミック材料と、B,SiO,Al,ZnO等のガラス材料とからなり、800〜1200℃程度の比較的低い温度で焼成が可能なガラス−セラミック材料が好適に用いられる。また、誘電体層11の厚みとしては、例えば0.01〜0.1mm程度に設定される。
【0034】
前述した各種の電極および貫通導体の材質としては、例えば、Ag,Ag−Pd,Ag−Pt等のAg合金を主成分とする導電材料やCu系,W系,Mo系,Pd系導電材料等が好適に用いられる。各種の電極の厚みは、例えば0.001〜0.2mmに設定される。
【0035】
本例のダイプレクサは、例えば次のようにして作製することができる。まず、セラミック原料粉末に適当な有機溶剤等を添加・混合して泥漿を作製するとともに、ドクターブレード法によってセラミックグリーンシートを形成する。次に、得られたセラミックグリーンシートにパンチングマシーン等を用いて貫通導体を形成するための貫通孔を形成し、Ag,Ag−Pd,Au,Cu等の導体を含む導体ペーストを充填するとともにセラミックグリーンシートの表面に印刷法を用いて前述したのと同様の導体ペーストを塗布して導体ペースト付きセラミックグリーンシートを作製する。次に、これらの導体ペースト付きセラミックグリーンシートを積層し、ホットプレス装置を用いて圧着し、800℃〜1050℃程度のピーク温度で焼成することにより作製される。
(実施の形態の第2の例)
図5は、本発明の実施の形態の第2の例のダイプレクサを模式的に示す分解斜視図である。図6は、図5に示すダイプレクサの上下面および層間を模式的に示す平面図である。なお、本例においては前述した第1の例と異なる点のみについて説明し、同様の構成要素については同一の参照符号を用いて重複する説明を省略する。
【0036】
図5,図6に示すように、本例のダイプレクサにおいては、共振器結合電極43は、積層体10の層間Bを間に挟んで第1の層間と反対側に位置する層間Dに配置されている。そして、本例のダイプレクサは、第1の容量電極35aおよび第2の容量電極35bを備えている。
【0037】
第1の容量電極35aは、積層体10の下面と層間Dとの間に位置する層間Eに、共振器結合電極43の他方端部および第1の接地電極21と対向するように配置されている。また、第1の容量電極35aは、貫通導体50を介して第1の共振電極30aの他方端部に接続されており、第1の共振電極30aおよび貫通導体50と共に第1の共振器を構成する。
【0038】
第2の容量電極35bは、積層体10の上面と層間Cとの間に位置する層間Fに、第2の接地電極22と対向するように配置されている。また、第2の容量電極35bは、貫通導体50を介して第2の共振電極30bの他方端部に接続されており、第2の共振電極30bおよび貫通導体50と共に第2の共振器を構成する。
【0039】
このような構成を備える本例のダイプレクサによれば、第1の容量電極35aと第1の接地電極21との間に生じる静電容量および貫通導体50が有するインダクタンスによって第1の共振電極30aの長さを短縮することができる。また、第2の容量電極35bと第2の接地電極22との間に生じる静電容量および貫通導体50が有するインダクタンスによって第2の共振電極30bの長さを短縮することができる。よって、さらに小型のダイプレクサを得ることができる。
【0040】
また、本例のダイプレクサによれば、共振器結合電極43の他方端部と第1の容量電極35aとの対向部において、第1の共振器と第3の共振器とが主に容量性の電磁界結合をしている。これにより、共振器結合電極43と第3の共振電極30cとの対向部で電磁界結合する場合と比較して、第2の入出力結合電極40bおよび第3の共振電極30cの電磁界結合と、第1の共振器および第3の共振器の電磁界結合との両方を強くすることができる。
【0041】
(実施の形態の第3の例)
図7は本発明の実施の形態の第3の例の無線通信モジュール80および無線通信機器85を模式的に示すブロック図である。
【0042】
本例の無線通信モジュール80は、ベースバンド信号が処理されるベースバンド部81と、ベースバンド部81に接続されベースバンド信号の変調後および復調前のRF信号が処理されるRF部82とを備えている。RF部82には前述した本発明のダイプレクサ821が含まれており、ベースバンド信号が変調されてなるRF信号または受信したRF信号における通信帯域以外の信号をダイプレクサ821によって減衰させている。
【0043】
具体的な構成としては、ベースバンド部81にはベースバンドIC 811が配置され、RF部82にはダイプレクサ821とベースバンド部81との間にRF IC 822が配置されている。なお、これらの回路間には別の回路が介在していてもよい。そして、無線通信モジュール80のダイプレクサ821にアンテナ84を接続することによってRF信号の送受信がなされる本例の無線通信機器85が構成される。
【0044】
このような構成を有する本例の無線通信モジュール80および無線通信機器85によれば、広帯域で低損失な第1の通過帯域および第2の通過帯域を有するダイプレクサ821を通信信号の濾波に用いることにより、ダイプレクサ821を通過する通信信号の減衰を小さくすることができる。また、2つの通信帯域の信号をそれぞれ通過させる2つのバンドパスフィルタが1つのダイプレクサ821にまとめられており、RF IC822の2つの端子とアンテナ84とをダイプレクサ821を介して直接接続することができる。よって、小型で高性能な無線通信モジュールおよび無線通信機器を得ることができる。
【0045】
(変形例)
本発明は前述した実施の形態の第1〜第3の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0046】
例えば、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、共振器結合電極43の一方端部が第3の共振電極30cの他方端部に接続されて、共振器結合電極43の他方端部が第1の共振電極30aの他方端部と対向する場合を示したが、これに限るものではない。例えば、共振器結合電極43の一方端部が第1の共振電極30aの他方端部に接続されるとともに、共振器結合電極43の他方端部が第3の共振電極30cの他方端部と対向するようにしても構わない。また、共振器結合電極43の両端部が第1および第3の共振電極30a,30cの他方端部とそれぞれ対向するようにしても構わない。このような構成においても、共振器結合電極43を介して第1の共振電極30aと第3の共振電極30cとが主に容量性の電磁界結合をするようにできる。
【0047】
また、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの接地される側が互い違いになるように配置されて第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの隣り合う電極同士が主に容量性の電磁界結合をし、第1の共振電極30aと第3の共振電極30cとが共振器結合電極43を介して主に容量性の電磁界結合をするとともに、第1および第2の共振器の共振周波数が第3の共振器の共振周波数よりも高く設定された場合を示したが、これに限るものではない。例えば、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの接地される側が互い違いになるように配置されて第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cの隣り合う電極同士が主に容量性の電磁界結合をし、第1の共振電極30aと第3の共振電極30cとが共振器結合電極43を介して主に誘導性の電磁界結合をするとともに、第1および第2の共振器の共振周波数が第3の共振器の共振周波数よりも低く設定するようにしてもよい。この場合には、第1の共振器から直接第2の共振器へ伝達される電気信号と第1の共振器から第3の共振器を介して第2の共振器へ伝達される信号とにおいて、3つの共振ピークの間の周波数では位相反転が生じず、3つの共振ピークよりも高い周波数で位相反転が生じて互いに打ち消し合うので、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域内には減衰極がなく、3つの共振ピークを含む第1の通過帯域よりも高周波側に減衰極を有する優れた通過特性を有するダイプレクサを得ることができる。なお、共振器結合電極43を介して第1の共振電極30aと第3の共振電極30cとが主に誘導性の電磁界結合をするようにする場合には、例えば、共振器結合電極43の両端部を接地するとともに、共振器結合電極43の一方端部が第1の共振電極30aの接地される一方端部と対向して電磁界結合し、共振器結合電極43の他方端部が第3の共振電極30cの接地される一方端部と対向して電磁界結合するようにすればよい。
【0048】
さらに、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、第1乃至第3の入出力端子電極60a〜60cを備えた例を示した。しかしながら、モジュール基板の中の一領域にダイプレクサが形成される場合等では、第1乃至第3の入出力端子電極60a〜60cは必ずしも必要ではなく、例えば、モジュール基板内の外部回路からの配線導体が、第1乃至第3の入出力結合電極40a〜40cに直接接続するようにしても構わない。この場合には、第1乃至第3の入出力結合電極40a〜40cと配線導体との接続点が、それぞれ第1乃至第3の入出力点45a〜45cとなる。
【0049】
またさらに、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、積層体10の下面に第1の接地電極21を配置し、積層体10の上面に第2の接地電極22を配置した例を示したが、例えば、第1の接地電極21の下にさらに誘電体層を配置しても構わないし、第2の接地電極22の上にさらに誘電体層を配置しても構わない。また、第1の接地電極21および第2の接地電極22の一方のみを備えるようにしても構わない。
【0050】
さらにまた、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、ダイプレクサが1つの積層体10の中に構成された例を示したが、厚み方向に積層された複数の積層体にまたがってダイプレクサが構成されるようにしてもかまわない。
【0051】
またさらに、前述した実施の形態の第1,第2の例においては、第4および第5の共振電極31a,31bからなる第4および第5の共振器を用いて第2の通過帯域を形成する第2のバンドパスフィルタを構成した例を示したが、これに限ることはない。例えば、第1のバンドパスフィルタと全く同様に、第4および第5の共振器と周波数が異なる第6の共振器を加えて第4乃至第6の共振器で第2の通過帯域を形成するようにしても構わない。また、一般的なバンドパスフィルタのように、第4および第5の共振電極31a,31bの間に1つ以上の共振電極を配置して、第4および第5の共振電極31a,31bならびにその間に配置された他の共振電極を用いて第2の通過帯域を形成するようにしても構わない。
【0052】
さらにまた、UWBに用いられるダイプレクサを例示して説明したが、他の用途においても本発明のダイプレクサが有効であることは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
次に、本発明のダイプレクサの具体例について説明する。
【0054】
図5,図6に示した本発明の実施の形態の第2の例のダイプレクサの電気特性を、有限要素法を用いたシミュレーションによって算出した。そのシミュレーション結果を図8に示す。グラフの横軸は周波数で縦軸は減衰量であり、第1の入出力端子電極60aをポート1,第2の入出力端子電極60bをポート2,第3の入出力端子電極60cをポート3としたときの、ダイプレクサの通過特性(S21,S31)および反射特性(S11)を示している。
【0055】
図8に示すグラフによれば、ダイプレクサの2つの通過特性において、それぞれ広くて平坦な通過帯域が形成されていることがわかる。また、第1の通過帯域の低周波側近傍に減衰極が形成されており、第1の通過帯域の低周波側において、通過域から減衰域にかけて急激に減衰量が増加する優れた通過特性が得られていることがわかる。これにより、本発明の有効性が確認できた。
【0056】
なお、このシミュレーションにおいて、第1乃至第3の共振電極30a,30b,30cは幅が0.25mmで長さが1.5mmの矩形状とし、隣接する電極同士の間隔は0.45mmとした。第4の共振電極31aは、幅が0.2mmで長さが1.5mmの矩形状とした。第5の共振電極31bは幅が0.2mmで長さが1.45mmの矩形状とした。第4の共振電極31aと第5の共振電極31bとの間隔は0.5mmとした。第1の容量電極35aは幅が0.36mmで長さが0.3mmの矩形状とした。第2の容量電極35bは幅が0.4mmで長さが0.3mmの矩形状とした。共振器結合電極43は、幅が0.25mmで長さ0.5mmの矩形と、幅が0.1mmで長さ0.9mmの矩形と、幅が0.25mmで長さ0.38mmの矩形とが接続されたコの字型とした。第1の入出力結合電極40aは幅が0.15mmで長さが1.8mmの矩形状とし、第2の入出力結合電極40bは幅が0.15mmで長さが1.75mmの矩形状とし、第3の入出力結合電極40cは幅が0.15mmで長さが0.90mmの矩形状とした。積層体10は幅が3.0mmで長さが3.0mmで高さが1.0mmの直方体状とし、誘電体層11の比誘電率は18.7とした。
【符号の説明】
【0057】
10:積層体
11:誘電体層
30a:第1の共振電極
30b:第2の共振電極
30c:第3の共振電極
31a:第4の共振電極
31b:第5の共振電極
40a:第1の入出力結合電極
40b:第2の入出力結合電極
40c:第3の入出力結合電極
43:共振器結合電極
80:無線通信モジュール
81:ベースバンド部
82:RF部
821:ダイプレクサ
84:アンテナ
85:無線通信機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体の上面および下面の少なくとも一方に配置された接地電極と、
前記積層体の第1の層間に相互に電磁界結合するように横並びに順次配置された、それぞれ一方端が接地されて第1乃至第3の共振器を構成する帯状の第1乃至第3の共振電極と、
前記積層体の第2の層間に相互に電磁界結合するように横並びに配置された、それぞれ一方端が接地されて第4および第5の共振器を構成する帯状の第4および第5の共振電極と、
前記積層体の前記第1および第2の層間の間に位置する層間に配置された、前記第1および第4の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第1の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間と異なる層間に配置された、前記第2の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第2の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第2の層間と異なる層間に配置された、前記第5の共振電極と対向して電磁界結合する帯状の第3の入出力結合電極と、
前記積層体の前記第1の層間を間に挟んで前記第2の層間と反対側に位置する層間に配置された、自身を介して前記第1および第3の共振電極を電磁界結合させる共振器結合電極とを備え、
前記第1および第2の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ前記第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、
前記第4および第5の共振器の共振周波数は互いに等しく且つ前記第1乃至第3の共振器の共振周波数と異なる周波数に設定されており、
前記第1乃至第3の共振器を用いて第1の通過帯域を形成する第1のバンドパスフィルタと、前記第4および第5の共振器を用いて第2の通過帯域を形成する第2のバンドパスフィルタとが構成されていることを特徴とするダイプレクサ。
【請求項2】
前記第1乃至第3の共振電極は、それぞれの接地される側が互い違いになるように配置されており、前記共振器結合電極を介した前記第1および第3の共振電極の電磁界結合は主に容量性の結合とされており、前記第1および第2の共振器の共振周波数は前記第3の共振器の共振周波数よりも高く設定されていることを特徴とする請求項1に記載のダイプレクサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のダイプレクサを備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のダイプレクサを含むRF部と、該RF部に接続されたベースバンド部と、前記RF部に接続されたアンテナとを備えることを特徴とする無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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