ダイヤモンド切削部材およびその製造方法
【課題】人工ダイヤモンドを用いたダイヤモンドバイトにおいて、{110}面をすくい面とする場合に比較して構成刃先の発生が抑制され、優れた工具寿命が得られるようにする一方、そのようなダイヤモンドバイトを簡単且つ安価に製造できるようにする。
【解決手段】シャンク54に設けられたV字溝62に四角柱形状のダイヤモンド素材の第1稜線13aを嵌め入れ、一対の側面がV字溝62にそれぞれ密着するように位置決めして活性金属ロウにより一体的に接着し、第2稜線13b部分を研磨除去することにより、{110}面から{111}面側へ所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面70を形成する。シャンク54に対してダイヤモンド素材が高い精度で一定の姿勢に安定して保持されるため、すくい面70等を高い精度で研磨加工することができるとともに、第1稜線13a部分を研磨除去する必要がないため、製造時間や製造コストが節減される。
【解決手段】シャンク54に設けられたV字溝62に四角柱形状のダイヤモンド素材の第1稜線13aを嵌め入れ、一対の側面がV字溝62にそれぞれ密着するように位置決めして活性金属ロウにより一体的に接着し、第2稜線13b部分を研磨除去することにより、{110}面から{111}面側へ所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面70を形成する。シャンク54に対してダイヤモンド素材が高い精度で一定の姿勢に安定して保持されるため、すくい面70等を高い精度で研磨加工することができるとともに、第1稜線13a部分を研磨除去する必要がないため、製造時間や製造コストが節減される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド切削部材に係り、特に、人工ダイヤモンドを利用したダイヤモンド切削部材の構成刃先による寿命低下を抑制するとともに、そのようなダイヤモンド切削部材を簡単且つ安価に製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶のダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、台金やシャンク等の所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材が提案されている。特許文献1、2に記載のダイヤモンドバイトやダイヤモンドチップはその一例で、アルミニウムや銅合金等の軟質の非鉄金属材料の鏡面切削加工などに好適に用いられる。そして、このようなダイヤモンドとして、人工ダイヤモンドを使用することが提案されている(特許文献3、4参照)。人工ダイヤモンドの場合、一般に天然ダイヤモンドに比べて耐摩耗性は劣るものの、個々のばらつきが小さく、安定した品質(耐摩耗性能)が得られる。
【0003】
人工ダイヤモンドは、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状、すなわち隣接する面が互いに直角な立方体や直方体である。図9の(a) 、(b) はその一例で、(a) の人工ダイヤモンド10は単純な直方体形状を成しており、{100}で表される6つの平面12を備えている一方、(b) の人工ダイヤモンド14は、(a) の人工ダイヤモンド10の角部に面取り状平面16を有する形状を成している。この面取り状平面16は、人工ダイヤモンド14の製造条件等によって生じるものであるが、本明細書では、このような面取り状平面16を有する人工ダイヤモンド14を含めて人工ダイヤモンド10と称して説明する。なお、上記『{・・・}』はミラー指数で、原子が一定の配列で配置されている結晶面を表しており、ダイヤモンドの場合、図12に示すように上記{100}面の他に{111}面、{110}面が一般に知られている。天然ダイヤモンドは、基本形状が八面体或いは十二面体形状を成している場合が多く、八面体の場合は総ての面が{111}面にて構成されており、十二面体の場合は総ての面が{110}面にて構成されている。図12の(a) 〜(c) において、左側の図は何れも結晶面を説明する立体模型で、右側の図は各結晶面における原子の配列を示す図である。
【0004】
そして、上記人工ダイヤモンド10を切削部材として用いる場合、加工が困難なことから、例えば図10の(a) に示すように{100}面の一つをそのまますくい面20として使用し、先端面を前逃げ面22、その前逃げ面22とすくい面20とが交差する稜線を切れ刃24として、例えば図10の(b) に示すように円柱形状の被削材30を軸心まわりに回転させながら切れ刃24を外周面に押し当てるとともに、両者を被削材30の軸方向へ相対移動させて外周面に切削加工を行う旋削加工等に使用される。このような人工ダイヤモンド10は、図示しないシャンクの先端に取り付けられてバイトとして使用され、図10の(b) では、そのバイトが白抜き矢印で示すように被削材30に対して軸方向へ送り移動させられる。なお、前逃げ面22の両側には、必要に応じて横逃げ面26が設けられる。また、前逃げ面22は、所定の逃げ角を有するように斜めに研磨除去することが望ましい。
【特許文献1】特開平2−145201号公報
【特許文献2】特開2000−107912号公報
【特許文献3】特開昭60−16306号公報
【特許文献4】特開2002−254212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記{100}面は原子が比較的密であるため、すくい面20および前逃げ面22については優れた耐摩耗性が得られる。切れ刃24は、単結晶の人工ダイヤモンド10の稜線にて構成されており、その稜線は図9の(a) に斜線で示す面、すなわち{110}面を究極的に小さくしたもので、実質的に{110}面と同様の耐摩耗性能を有し、その稜線すなわち切れ刃24を{110}面と見做すことができる。したがって、切れ刃24に対して直角方向の背分力や主分力(図10の(b) 参照)に対しては優れた耐摩耗性が得られるが、切れ刃24と平行な方向、すなわち送り分力の方向の荷重に対しては弱く、図10の(b) に示すように被削材30の軸方向へ送り移動して旋削加工を行う場合には、十分な耐摩耗性が得られない。
【0006】
一方、上記のように人工ダイヤモンド10の稜線部分は研磨除去することが比較的容易であることから、図11に示すように、人工ダイヤモンド10の対角位置の一対の稜線部分32、34をスカイフ(skive)盤等のダイヤモンド研磨盤により研磨除去することにより、一方をすくい面36とし、他方を接着面38としてシャンク等の保持具40に一体的に接着し、すくい面36の先端を切れ刃42として前記図10の(b) に示す旋削加工に使用することが考えられる。この場合には、最も耐摩耗性能が低い{110}面がすくい面36となり、切れ刃42が{110}面から所定角度傾斜した面となるため、図10のようにすくい面20が{100}面で切れ刃24が{110}面の場合に比較して耐久性が向上する。
【0007】
しかしながら、すくい面36を構成している{110}面は、図12から明らかなように比較的大きな穴ぼこを有する蜂の巣構造を成しているため、アルミニウム等の被削材30の切り屑がその穴ぼこ内に侵入し、その切り屑に起因して構成刃先が生じ易くなり、工具寿命が損なわれる。切り屑は、人工ダイヤモンド10の内部まで侵入するため、再研磨後も早期に構成刃先が発生して十分な工具寿命が得られない。
【0008】
一方、人工ダイヤモンド10を保持具40に直接接着する方法として、活性金属ロウによる接着技術が知られているが、活性金属ロウにより十分な接着強度を得るためには十分な接着面積が必要で、前記接着面38を十分に大きくしなければならないため、その接着面38の研磨加工が面倒で時間が掛かり、製造コストが高くなるという別の問題もある。また、接着面38が平坦面であるため、保持具40に対する位置決めが困難で十分な位置精度を確保することが難しく、結果として保持具40に対する切れ刃42やすくい面36の位置精度が損なわれる可能性があり、位置決め用の段差等を設ける必要がある。なお、上記活性金属ロウによる接着は、脱酸素雰囲気中で人工ダイヤモンド10を加熱することによりチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属の膜を表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウでその人工ダイヤモンド10を超硬合金等の保持具40に対して直接接着するものである。
【0009】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、安定した品質が得られる人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面を形成したダイヤモンド切削部材において、{110}面をすくい面とする場合に比較して構成刃先の発生が抑制され、耐摩耗性と合わせて優れた工具寿命が得られるようにする一方、そのようなダイヤモンド切削部材を簡単且つ安価に製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明は、第6発明〜第9発明のダイヤモンド切削部材を好適に製造できる製造方法に関するもので、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材の製造方法であって、(a) 直角断面のV字溝が設けられた保持具を用意する保持具製作工程と、(b) 前記V字溝に前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設する固設工程と、(c) 前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成する研磨工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
第2発明は、第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、前記固設工程では、活性金属ロウにより前記人工ダイヤモンドを前記保持具のV字溝に対して一体的に接着することを特徴とする。
【0012】
第3発明は、第1発明または第2発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、前記すくい面は、前記第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられていることを特徴とする。
【0013】
第4発明は、第3発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、(a) 前記V字溝は、一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成すように前記保持具の平坦な取付面に設けられているとともに、長手方向においてその取付面に対して前記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられており、(b) 前記研磨工程では、前記保持具の取付面と平行に前記第2稜線部分を研磨除去することにより前記すくい面を形成することを特徴とする。
【0014】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかのダイヤモンド切削部材の製造方法において、(a) 前記保持具はシャンクで、(b) 前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトであることを特徴とする。
【0015】
第6発明は、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、(a) 前記保持具には直角断面のV字溝が設けられており、(b) そのV字溝には、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着する状態で一体的に固設されており、(c) 前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分には、その第2稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面が設けられており、(d) そのすくい面の傾斜方向の先端に切れ刃が設けられていることを特徴とする。
【0016】
第7発明は、第6発明のダイヤモンド切削部材において、前記人工ダイヤモンドは活性金属ロウにより前記保持具のV字溝に一体的に接着されていることを特徴とする。
【0017】
第8発明は、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、(a) 前記六面体形状の人工ダイヤモンドは、その1箇所の稜線部分が除去されることにより、その稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面が設けられており、(b) その人工ダイヤモンドは、前記傾斜面がすくい面として機能し、その傾斜面の傾斜方向の先端が切れ刃として機能するように前記保持具に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0018】
第9発明は、第6発明〜第8発明の何れかのダイヤモンド切削部材において、(a) 前記保持具はシャンクで、(b) 前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法においては、保持具に設けられた直角断面のV字溝に六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設し、第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成するため、保持具に対して人工ダイヤモンドが高い精度で一定の姿勢に安定して保持され、すくい面を高い精度で研磨加工することができるとともに、第1稜線部分を研磨除去する必要がないため製造時間や製造コストが節減される。したがって、このような製造方法によれば、第6発明〜第9発明のように稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面がすくい面として設けられるダイヤモンド切削部材を、簡単且つ安価に高い精度で製造できるようになる。
【0020】
また、このようにして製造されるダイヤモンド切削部材は、六面体形状の人工ダイヤモンドの対角線方向にすくい面が設けられるため、すくい面等を再研磨して継続使用できる回数が多くなり、人工ダイヤモンドを有効的に利用できるとともに工具寿命が一層向上する。
【0021】
第2発明〜第5発明は第1発明に従属しているため、第1発明と同様の作用効果が得られる。加えて、第2発明では、活性金属ロウにより人工ダイヤモンドが保持具のV字溝に一体的に接着されるが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られるため、優れた接着強度で接着できるとともに、比較的小さな取付部に対しても人工ダイヤモンドを十分な接着強度で取り付けることが可能で、取付部を十分に確保できない小さなダイヤモンド切削部材であっても好適に製造できる。ダイヤモンド切削部材に関する第7発明においても、同様な作用効果が得られる。
【0022】
第3発明では、すくい面が第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているため、{110}面に対して垂直な穴ぼこが傾斜角度θに応じて切れ刃と反対方向へ傾斜させられ、切れ刃によって形成された切り屑が穴ぼこに侵入し難くなる。特に、傾斜角度θは5°以上であるため、穴ぼこへの切り屑の侵入が効果的に抑制され、構成刃先の発生による工具寿命の低下が良好に防止されるとともに、優れた耐摩耗性と相まって工具寿命が格段に向上する。また、傾斜角度θが30°以下であるため、{111}面に達する前であり、すくい面の研磨加工が可能であるとともに、スクラッチ状の疵が発生するなどして切れ刃の形状精度が損なわれることが抑制される。すなわち、{111}面の近傍では機械的研磨が殆ど不可能になるため、シャープな切れ刃を形成したり円弧等の所定形状の切れ刃を形成したりすることは難しいのである。因みに、傾斜角度θ≒35°36′の場合に{111}面となる。ダイヤモンド切削部材に関する第6発明〜第9発明においても、同様の作用効果が得られる。
【0023】
第4発明では、V字溝の一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成しているとともに、長手方向において取付面に対して上記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられているため、研磨工程では保持具の取付面と平行に第2稜線部分を研磨除去すれば良く、すくい面を一層高い精度で簡単に研磨することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法は、第6発明〜第9発明のダイヤモンド切削部材を製造する際に好適に適用されるが、{110}面或いはその近傍(傾斜角度θ<5°)の面をそのまますくい面として用いるものや、すくい面の傾斜角度θが30°を超えているものなど、人工ダイヤモンドの稜線部分を研磨除去してすくい面とする種々のダイヤモンド切削部材の製造に同様に適用され得る。
【0025】
ダイヤモンド切削部材は、人工ダイヤモンドをシャンクに直接接着したダイヤモンドバイトや、所定の台金に接着されてバイトやその他の切削工具に取り付けて使用されるダイヤモンドチップなどである。人工ダイヤモンドは、前記図9の(a) に示すように立方体或いは直方体のものだけでなく、図9の(b) に示すようにそれ等の立方体や直方体の角部に面取り状の平面を有するものでも良い。
【0026】
第6発明のダイヤモンド切削部材は、保持具にV字溝が設けられ、そのV字溝に人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられた状態で固設されているが、第8発明の実施に際しては、必ずしも保持具にV字溝を設ける必要はなく、例えば前記図11に示すようにすくい面と反対側の稜線部分も研磨除去して平坦な接着面を形成し、その接着面を保持具の平坦な取付面に接着する場合でも良いなど、種々の態様が可能である。
【0027】
人工ダイヤモンドの稜線部分を研磨除去することによって設けられるすくい面は、その稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているが、鏡面加工等の優れた加工精度が得られるようにする上では、傾斜角度θを5°〜20°の範囲内とすることが望ましい。また、加工精度よりも耐摩耗性を重視する場合には、より{111}面に近くなるように傾斜角度θを15°〜30°の範囲内とすることが望ましい。すくい面の研磨には、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨技術が好適に用いられる。本明細書では、{110}面から{111}面側へ傾斜角度θで傾斜させられている面を、『{110}+θ』と表現する。
【0028】
上記傾斜角度θは、人工ダイヤモンドの稜線とすくい面との間の角度で、具体的には稜線の両側の面からそれぞれ45°の方向、すなわち両側の面によって形成される角の二等分線の方向へすくい面まで下ろした角度であり、すくい面が稜線に対して対称的に稜線の両側へ広がるように設けられた場合には、そのすくい面の中心線と稜線との間の角度である。したがって、その場合には元の稜線とすくい面の中心線とを結ぶ中心面に対して垂直にすくい面が形成されるが、中心面に対して垂直な方向から多少傾斜(例えば±5°程度以下)するように、言い換えれば稜線に対してやや非対称にすくい面が設けられても良い。第4発明のV字溝も、必ずしも厳密に断面が対称形状である必要はなく、±5°程度の範囲内で断面形状が傾斜していても差し支えない。
【0029】
保持具の材質としては超硬合金が好適に用いられるが、モリブデン等の他の金属材料を採用することもできる。活性金属ロウで接着する場合、接着後の温度変化で剥離することが無いように、熱膨張係数が人工ダイヤモンドと略同じか小さいものを採用する必要がある。超硬合金製の保持具の場合、V字溝を有する状態で成形、焼結することもできるが、研削加工等により後からV字溝を設けることも可能である。V字溝の底と人工ダイヤモンドの稜線との干渉を回避するために、V字溝の底に矩形断面或いは円弧断面等の逃げ溝を設けたり、人工ダイヤモンドの稜線部分を砥石等により研磨除去することが望ましい。この場合の研磨は、稜線部分を除去するだけで良く、精度は要求されないため、ダイヤモンド砥石等によって簡単に除去できる。
【0030】
保持具に人工ダイヤモンドを固設する手段としては、活性金属ロウを用いて人工ダイヤモンドを保持具に対して直接接着することが望ましいが、第1発明や第6発明、第8発明の実施に際しては、他の接着技術や機械的な固設手段を採用することも可能である。
【0031】
第4発明では、V字溝の一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状とされているが、保持具の取付面が傾斜している場合など、取付面に対して非対称の直角断面のV字溝を設けて人工ダイヤモンドを傾けた姿勢で保持具に固設することもできる。その場合は、必要に応じて人工ダイヤモンドの第2稜線が研磨面に応じて定められる所定方向(真上など)となるように保持具を傾けた状態ですくい面の研磨加工等を行えば良い。
【0032】
第4発明ではまた、すくい面の傾斜角度θと同じ角度でV字溝が溝深さ方向に傾斜させられており、保持具の取付面と平行に研磨加工を行うことによってすくい面を形成することができるが、保持具の取付面が長手方向において傾斜している場合など、取付面と平行すなわち溝深さが一定のV字溝を設けて人工ダイヤモンドを取付面と平行に固設することもできる。その場合は、必要に応じて人工ダイヤモンドの第2稜線が水平面等の研磨面から傾斜角度θで傾斜するように保持具を傾けた状態ですくい面の研磨加工等を行えば良い。保持具の取付面に対して傾斜角度θ以外の所定の角度で傾斜するV字溝を設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるダイヤモンドバイト50を示す3面図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図すなわちダイヤモンドバイト50を先端側から見た図である。このダイヤモンドバイト50は、前記直方体形状の人工ダイヤモンド10を素材として所定形状に研磨した人工ダイヤモンド(研磨品)52が、超硬合金製のシャンク54の先端部に一体的に固設されたものである。シャンク54は、図2に単独で示すように、直方体形状の本体部56と、その本体部56の先端側に一体に設けられているとともに(b) の平面視において略三角形状を成している取付部58とを備えており、本体部56には旋盤等の刃物台にボルトを用いて固定するための2個のボルト穴60が設けられている。また、取付部58の平坦な上面(取付面)の中央には、シャンク54の前後方向(図2(a) 、(b) の左右方向)と平行にV字溝62が設けられ、図3に示すように研磨加工が施される前の人工ダイヤモンド10(以下、ダイヤモンド素材10という)が固設されるようになっている。本実施例では、断面が正方形の正四角柱形状(立方体でも可)のダイヤモンド素材10が用いられており、そのダイヤモンド素材10がシャンク54に一体的に固設された状態で研磨加工が施されることにより、すくい面70等を有する人工ダイヤモンド52とされる。図2および図3の(a) 〜(c) は、それぞれ図1の(a) 〜(c) に対応する図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。なお、ダイヤモンドバイト50はダイヤモンド切削部材で、シャンク54は保持具に相当する。
【0034】
上記V字溝62は、一対の壁面64、66がシャンク54の上面に対してそれぞれ約45°で傾斜する対称直角断面形状を成すように設けられているとともに、そのV字溝62の長手方向すなわちシャンク54の前後方向において、後部側(図2(a) 、(b) における右方向)へ向かうに従って溝深さが深くなるように、シャンク54の上面に対して所定の傾斜角度θで傾斜させられている。そして、ダイヤモンド素材10は、図3に示すように正四角柱形状の長手方向の第1稜線13a部分がV字溝62内に嵌め入れられ、その第1稜線13aに隣接する一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66にそれぞれ密着させられるとともに、後端面12cがV字溝62の背面68に当接するように位置決めされた状態で、シャンク54の取付部58に一体的に固設されている。V字溝62は、超硬合金製のシャンク54を成形する段階で設けることもできるが、焼結後に研削加工等により形成することも可能である。一対の壁面64、66が所定の面精度を有するように仕上げ研削等を行うようにしても良い。このようなV字溝62を有するシャンク54を用意する工程が保持具製作工程である。
【0035】
ここで、上記V字溝62の底とダイヤモンド素材10の第1稜線13aとの干渉を避けるため、図3の(d-1) に示すようにその稜線13a部分を砥石等により研磨除去するか、(d-2) のようにV字溝62の底に矩形断面等の逃げ溝62sが設けられる。この場合の第1稜線13aの研磨は、稜線部分を除去するだけで良く、精度は要求されないため、ダイヤモンド砥石等によって簡単に除去できる。逃げ溝62sについても、荒加工等によって形成すれば良い。これにより、ダイヤモンド素材10の一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66に対してそれぞれ確実に密着させられるようになり、シャンク54に対してダイヤモンド素材10が高い精度で一定の姿勢に位置決めされる。
【0036】
ダイヤモンド素材10は、活性金属ロウにより一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66に一体的に接着されることにより、シャンク54の取付部58に対して一体的に固設される。活性金属ロウは、例えばチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属を2〜4%程度の割合で含んでいる銀ロウで、脱酸素雰囲気中でダイヤモンド素材10を800℃〜1000℃程度まで加熱することにより、チタン或いはクロム等の活性金属の膜を側面12a、12bの表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウによりその側面12a、12bをV字溝62の壁面64、66に直接接着する。その場合に、前記図3の(d-1) のように第1稜線13aが砥石等により研磨除去されるか、図3の(d-2) のようにV字溝62の底に逃げ溝62sが設けられることにより、側面12a、12bと壁面64、66とがそれぞれ確実に密着させられるようになっているため、接着面積が十分に確保されて高い接着強度が得られる。このように活性金属ロウによりダイヤモンド素材10をV字溝62に一体的に接着する工程が固設工程である。
【0037】
そして、このようにダイヤモンド素材10が所定の姿勢でシャンク54に一体的に固設された状態で、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨技術によりそのダイヤモンド素材10に対して研磨処理が行われることにより、すくい面70等を有する人工ダイヤモンド52とされる。すなわち、例えば図4に示すように中心線Oまわりに回転駆動されるダイヤモンド研磨盤80の略水平な研磨面82と平行であって上下反対向きにシャンク54を保持し、ダイヤモンド素材10の前記第1稜線13aに対して対角位置の第2稜線13bをその研磨面82に押し当てることにより、その第2稜線13bがシャンク54の上面と平行に研磨除去され、元の第2稜線13bに対して前記傾斜角度θで傾斜するすくい面70が形成される。本実施例では第2稜線13bの一部が残っているが、ダイヤモンド素材10の長さ寸法や太さによっては、第2稜線13bが完全に無くなるまで研磨してすくい面70を設けるようにしても良い。ダイヤモンド素材10は、第2稜線13bを効率的に研磨除去できるように、図4の(a) における上方から見た平面視において、研磨面82の回転方向(接線方向)と第2稜線13bとが略平行となり、且つその先端側から研磨される姿勢で研磨面80に押圧される。本実施例のダイヤモンド素材10は断面が正方形の四角柱であるため、第2稜線13bは第1稜線13aの真上(図4(a) の研磨状態では真下)に位置しており、その第2稜線13bを研磨面82に押し付けて研磨する際の姿勢が安定する。図4の(a) は、シャンク54を上下反対向きに保持して研磨加工を行っている状態を示す図で、(b) および(c) は、その研磨加工によってすくい面70が形成された状態の平面図および左側面図である。
【0038】
図5は、ダイヤモンド素材10を単独で示す図で、(a) は研磨加工が行われる前の状態であり、その第2稜線13bが(b) に示すように傾斜角度θで斜めに研磨除去されることにより、(c) に示すすくい面70が形成される。その場合に、ダイヤモンド素材10の総ての稜線は{110}面で表されることから、すくい面70は、その{110}面から{111}面方向へ傾斜角度θと同じ角度だけ傾斜させられた面、すなわち{110}+θで表され、本実施例では傾斜角度θ=5°〜30°の範囲内の所定値に設定されている。言い換えれば、このすくい面70の{110}面からの傾斜角度θに合わせて前記V字溝62の傾斜角度θが定められているのである。
【0039】
ダイヤモンド素材10にはまた、図1に示されるように、その前端面12d(図3参照)に対して所定の傾斜角度φで傾斜する前逃げ面72が設けられるとともに、その前逃げ面72の両側に一対の横逃げ面74、76が設けられ、すくい面70の傾斜方向の先端であって前逃げ面72と交差する部分に切れ刃78が設けられている。前逃げ面72の傾斜角度φは、逃げ角が大きくなる方向がマイナス(−)で、すくい面70のすくい角をa°、前逃げ面72の逃げ角をb°とした場合、前記傾斜角度θにそのすくい角a°と逃げ角b°とを加算したマイナスの角度に設定され、例えば−(θ+5°〜10°)程度に定められる。この前逃げ面72は、前端面12dが{100}面であることから、{100}−φで表される。一対の横逃げ面74、76は先端側において略交差させられており、その稜線によって前逃げ面72が構成されているとともに、切れ刃78はすくい面70と一対の横逃げ面74、76とが交差する頂点によって構成されている。このように、すくい面70や前逃げ面72、横逃げ面74、76を研磨加工する工程が研磨工程であり、これにより図1に示すように所定形状の人工ダイヤモンド52を備えたダイヤモンドバイト50が得られる。
【0040】
このように、本実施例ではシャンク54に設けられた直角断面のV字溝62に四角柱形状のダイヤモンド素材10の第1稜線13a部分を嵌め入れ、その第1稜線13aに隣接する一対の側面12a、12bがそのV字溝62の一対の壁面64、66にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設し、第1稜線13aに対して対角位置の第2稜線13b部分を研磨除去してすくい面70を形成するため、シャンク54に対してダイヤモンド素材10が高い精度で一定の姿勢に安定して保持され、すくい面70を高い精度で研磨加工することができる。また、第1稜線13a部分を研磨除去する必要がないため、製造時間や製造コストが節減される。これにより、第2稜線13aの長手方向において{110}面から{111}面側へ所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面がすくい面70として設けられるダイヤモンドバイト50を、簡単且つ安価に高い精度で製造することができる。
【0041】
また、このようにして製造されるダイヤモンドバイト50は、正四角柱形状のダイヤモンド素材10の対角線方向にすくい面70が設けられるため、すくい面70等を再研磨して継続使用できる回数が多くなり、人工ダイヤモンド52を有効的に活用できるとともに工具寿命が一層向上する。
【0042】
また、本実施例では、活性金属ロウによりダイヤモンド素材10がシャンク54のV字溝62に一体的に接着されるが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られるため、優れた接着強度で接着できるとともに、比較的小さな取付部58に対してもダイヤモンド素材10を十分な接着強度で取り付けることが可能で、取付部58を十分に確保できない場合にも好適に適用される。
【0043】
また、本実施例では、すくい面70が第2稜線13bの長手方向の一端に設けられる切れ刃78側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているため、{110}面に対して垂直な穴ぼこが傾斜角度θに応じて切れ刃78と反対方向へ傾斜させられ、切れ刃78によって形成された切り屑が穴ぼこに侵入し難くなる。特に、傾斜角度θは5°以上であるため、穴ぼこへの切り屑の侵入が効果的に抑制され、構成刃先の発生による工具寿命の低下が良好に防止されるとともに、優れた耐摩耗性と相まって工具寿命が格段に向上する。また、傾斜角度θが30°以下であるため、{111}面よりも5°以上手前であり、すくい面70の研磨加工が可能であるとともに、スクラッチ状の疵が発生するなどして切れ刃78の形状精度が損なわれることが抑制される。
【0044】
ここで、本実施例では傾斜角度θが5°〜30°の範囲内の所定値に設定されるが、鏡面加工等の優れた加工精度が要求される場合には、シャープで高精度の切れ刃形状を得るために傾斜角度θを5°〜20°の範囲内、更には5°〜15°の範囲で設定することが望ましい。また、加工精度よりも耐摩耗性が要求される場合には、より{111}面に近くなって硬度が高くなるように傾斜角度θを15°〜30°の範囲内、更には20°〜30°の範囲内で設定することが望ましい。
【0045】
また、本実施例では、V字溝62の一対の壁面64、66がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成しているとともに、長手方向において傾斜角度θで溝深さが変化するように傾斜させられているため、研磨工程では図4の(a) に示すようにシャンク54を研磨面82と平行に保持して第2稜線13b部分を研磨除去すれば良く、すくい面70を一層高い精度で簡単に研磨することができる。
【0046】
一方、前記傾斜角度θ=20°、傾斜角度φ=−25°ですくい面70を{110}+20°、前逃げ面72を{100}−25°とした本実施例のダイヤモンドバイト50と、前記図10のようにダイヤモンド素材10の{100}面をそのまますくい面20とし、前逃げ面22を{100}−5°とした従来のダイヤモンドバイトとを用意し、以下の加工条件で図6に示すように軸心まわりに回転駆動されるアルミニウム合金の端面に切削加工を行い、初期摩耗までの切削距離を調べたところ、図7に示す結果が得られた。
《加工条件》
被削材:アルミニウム合金(JIS−A5056)
切削形態:端面切削
切削速度:300m/min
フィード(径方向の送り):0.01mm/rev
【0047】
図7に示す結果から明らかなように、本発明品によれば25km以上の切削加工が必要で、従来品に比べて工具寿命が格段に向上する。すなわち、初期摩耗は、切れ刃78に所定の微小摩耗が発生し、鏡面加工が可能となる状態で、再研磨が必要となる再研磨寿命とは異なるものであるが、初期摩耗までの切削距離は再研磨寿命に達するまでの切削距離に略比例するため、初期摩耗までの切削距離により再研磨寿命、更には再研磨による継続使用を含めた工具寿命を比較、判断することができるのであり、従来品に比べて2.5倍以上の工具寿命が得られるものと考えられる。
【0048】
また、図8は、前記傾斜角度θ=3°、すなわちすくい面70を{110}+3°としたダイヤモンドバイト50を用いて、アルミニウム合金および超硬合金に対して切削加工を行った場合に、構成刃先により再研磨寿命に達してすくい面70等を再研磨した後、電子顕微鏡により人工ダイヤモンド50の成分分析を行った結果を示す図で、本来のダイヤモンドバイト50には存在しないはずのアルミニウム(Al)やタングステン(W)が再研磨に拘らず多量に残留していることが認められる。したがって、再研磨後においても、これ等のアルミニウムやタングステンに起因して構成刃先が早期に発生し、工具寿命が著しく阻害されるものと考えられる。なお、傾斜角度θ=5°の場合には、このようなアルミニウムやタングステン等の切り屑の侵入は殆ど認められず、構成刃先も殆ど発生しない。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例であるダイヤモンドバイトを示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図2】図1のダイヤモンドバイトのシャンクを単独で示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図3】図2のシャンクに人工ダイヤモンドの素材が一体的に固設された状態を示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図、(d-1) 、(d-2) はダイヤモンド素材がV字溝に嵌め入れられた部分の断面図である。
【図4】図3のダイヤモンド素材に研磨加工を施してすくい面を形成する研磨工程を説明する図で、(a) は研磨加工時の正面図、(b) はすくい面が設けられた状態の平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図5】図4の研磨加工でダイヤモンド素材にすくい面が形成される過程を単独で示す斜視図である。
【図6】本発明品および従来品を用いて工具寿命を調べる際の端面切削加工を説明する概略斜視図である。
【図7】図6の試験結果を、本発明品と従来品とを比較して示す図である。
【図8】すくい面を{110}+3°としたダイヤモンドバイトで所定の切削加工を行うとともに再研磨した後、電子顕微鏡により人工ダイヤモンドの成分分析を行った結果を示す図である。
【図9】人工ダイヤモンドの基本形状を説明する図で、(a) は直方体形状の場合の斜視図、(b) は(a) の直方体の角部に面取り状の平面を有する場合の斜視図である。
【図10】図9の人工ダイヤモンドの{100}面の一つをそのまますくい面として用いて切削加工を行う場合の使用態様を説明する図で、(a) は所定の研磨加工が施された人工ダイヤモンドの斜視図、(b) は旋削加工に用いられた場合の一例を示す斜視図である。
【図11】図9の人工ダイヤモンドの一つの稜線を研磨加工し、その研磨加工で得られた{110}面をすくい面として用いて切削加工を行う場合の使用態様を説明する図で、(a) はすくい面を加工する前の人工ダイヤモンドの斜視図、(b) はすくい面および接着面を形成するために研磨除去される部分を点線で示す斜視図、(c) は(b) の点線部分が除去された状態の人工ダイヤモンドの斜視図、(d) は(c) の人工ダイヤモンドが接着面を介してシャンク等の保持具に取り付けられた状態の斜視図である。
【図12】ダイヤモンドの3つの結晶面{111}、{110}、{100}を説明する図で、左側の図は結晶面の位置を示す立体模型、右側の図は各結晶面における原子の配列を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10:人工ダイヤモンド(素材) 12a、12b:側面 13a:第1稜線 13b:第2稜線 50:ダイヤモンドバイト(ダイヤモンド切削部材) 52:人工ダイヤモンド(研磨加工後) 54:シャンク(保持具) 62:V字溝 64、66:壁面 70:すくい面 78:切れ刃 θ:傾斜角度
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド切削部材に係り、特に、人工ダイヤモンドを利用したダイヤモンド切削部材の構成刃先による寿命低下を抑制するとともに、そのようなダイヤモンド切削部材を簡単且つ安価に製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単結晶のダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、台金やシャンク等の所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材が提案されている。特許文献1、2に記載のダイヤモンドバイトやダイヤモンドチップはその一例で、アルミニウムや銅合金等の軟質の非鉄金属材料の鏡面切削加工などに好適に用いられる。そして、このようなダイヤモンドとして、人工ダイヤモンドを使用することが提案されている(特許文献3、4参照)。人工ダイヤモンドの場合、一般に天然ダイヤモンドに比べて耐摩耗性は劣るものの、個々のばらつきが小さく、安定した品質(耐摩耗性能)が得られる。
【0003】
人工ダイヤモンドは、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状、すなわち隣接する面が互いに直角な立方体や直方体である。図9の(a) 、(b) はその一例で、(a) の人工ダイヤモンド10は単純な直方体形状を成しており、{100}で表される6つの平面12を備えている一方、(b) の人工ダイヤモンド14は、(a) の人工ダイヤモンド10の角部に面取り状平面16を有する形状を成している。この面取り状平面16は、人工ダイヤモンド14の製造条件等によって生じるものであるが、本明細書では、このような面取り状平面16を有する人工ダイヤモンド14を含めて人工ダイヤモンド10と称して説明する。なお、上記『{・・・}』はミラー指数で、原子が一定の配列で配置されている結晶面を表しており、ダイヤモンドの場合、図12に示すように上記{100}面の他に{111}面、{110}面が一般に知られている。天然ダイヤモンドは、基本形状が八面体或いは十二面体形状を成している場合が多く、八面体の場合は総ての面が{111}面にて構成されており、十二面体の場合は総ての面が{110}面にて構成されている。図12の(a) 〜(c) において、左側の図は何れも結晶面を説明する立体模型で、右側の図は各結晶面における原子の配列を示す図である。
【0004】
そして、上記人工ダイヤモンド10を切削部材として用いる場合、加工が困難なことから、例えば図10の(a) に示すように{100}面の一つをそのまますくい面20として使用し、先端面を前逃げ面22、その前逃げ面22とすくい面20とが交差する稜線を切れ刃24として、例えば図10の(b) に示すように円柱形状の被削材30を軸心まわりに回転させながら切れ刃24を外周面に押し当てるとともに、両者を被削材30の軸方向へ相対移動させて外周面に切削加工を行う旋削加工等に使用される。このような人工ダイヤモンド10は、図示しないシャンクの先端に取り付けられてバイトとして使用され、図10の(b) では、そのバイトが白抜き矢印で示すように被削材30に対して軸方向へ送り移動させられる。なお、前逃げ面22の両側には、必要に応じて横逃げ面26が設けられる。また、前逃げ面22は、所定の逃げ角を有するように斜めに研磨除去することが望ましい。
【特許文献1】特開平2−145201号公報
【特許文献2】特開2000−107912号公報
【特許文献3】特開昭60−16306号公報
【特許文献4】特開2002−254212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記{100}面は原子が比較的密であるため、すくい面20および前逃げ面22については優れた耐摩耗性が得られる。切れ刃24は、単結晶の人工ダイヤモンド10の稜線にて構成されており、その稜線は図9の(a) に斜線で示す面、すなわち{110}面を究極的に小さくしたもので、実質的に{110}面と同様の耐摩耗性能を有し、その稜線すなわち切れ刃24を{110}面と見做すことができる。したがって、切れ刃24に対して直角方向の背分力や主分力(図10の(b) 参照)に対しては優れた耐摩耗性が得られるが、切れ刃24と平行な方向、すなわち送り分力の方向の荷重に対しては弱く、図10の(b) に示すように被削材30の軸方向へ送り移動して旋削加工を行う場合には、十分な耐摩耗性が得られない。
【0006】
一方、上記のように人工ダイヤモンド10の稜線部分は研磨除去することが比較的容易であることから、図11に示すように、人工ダイヤモンド10の対角位置の一対の稜線部分32、34をスカイフ(skive)盤等のダイヤモンド研磨盤により研磨除去することにより、一方をすくい面36とし、他方を接着面38としてシャンク等の保持具40に一体的に接着し、すくい面36の先端を切れ刃42として前記図10の(b) に示す旋削加工に使用することが考えられる。この場合には、最も耐摩耗性能が低い{110}面がすくい面36となり、切れ刃42が{110}面から所定角度傾斜した面となるため、図10のようにすくい面20が{100}面で切れ刃24が{110}面の場合に比較して耐久性が向上する。
【0007】
しかしながら、すくい面36を構成している{110}面は、図12から明らかなように比較的大きな穴ぼこを有する蜂の巣構造を成しているため、アルミニウム等の被削材30の切り屑がその穴ぼこ内に侵入し、その切り屑に起因して構成刃先が生じ易くなり、工具寿命が損なわれる。切り屑は、人工ダイヤモンド10の内部まで侵入するため、再研磨後も早期に構成刃先が発生して十分な工具寿命が得られない。
【0008】
一方、人工ダイヤモンド10を保持具40に直接接着する方法として、活性金属ロウによる接着技術が知られているが、活性金属ロウにより十分な接着強度を得るためには十分な接着面積が必要で、前記接着面38を十分に大きくしなければならないため、その接着面38の研磨加工が面倒で時間が掛かり、製造コストが高くなるという別の問題もある。また、接着面38が平坦面であるため、保持具40に対する位置決めが困難で十分な位置精度を確保することが難しく、結果として保持具40に対する切れ刃42やすくい面36の位置精度が損なわれる可能性があり、位置決め用の段差等を設ける必要がある。なお、上記活性金属ロウによる接着は、脱酸素雰囲気中で人工ダイヤモンド10を加熱することによりチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属の膜を表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウでその人工ダイヤモンド10を超硬合金等の保持具40に対して直接接着するものである。
【0009】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、安定した品質が得られる人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面を形成したダイヤモンド切削部材において、{110}面をすくい面とする場合に比較して構成刃先の発生が抑制され、耐摩耗性と合わせて優れた工具寿命が得られるようにする一方、そのようなダイヤモンド切削部材を簡単且つ安価に製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明は、第6発明〜第9発明のダイヤモンド切削部材を好適に製造できる製造方法に関するもので、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材の製造方法であって、(a) 直角断面のV字溝が設けられた保持具を用意する保持具製作工程と、(b) 前記V字溝に前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設する固設工程と、(c) 前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成する研磨工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
第2発明は、第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、前記固設工程では、活性金属ロウにより前記人工ダイヤモンドを前記保持具のV字溝に対して一体的に接着することを特徴とする。
【0012】
第3発明は、第1発明または第2発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、前記すくい面は、前記第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられていることを特徴とする。
【0013】
第4発明は、第3発明のダイヤモンド切削部材の製造方法において、(a) 前記V字溝は、一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成すように前記保持具の平坦な取付面に設けられているとともに、長手方向においてその取付面に対して前記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられており、(b) 前記研磨工程では、前記保持具の取付面と平行に前記第2稜線部分を研磨除去することにより前記すくい面を形成することを特徴とする。
【0014】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかのダイヤモンド切削部材の製造方法において、(a) 前記保持具はシャンクで、(b) 前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトであることを特徴とする。
【0015】
第6発明は、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、(a) 前記保持具には直角断面のV字溝が設けられており、(b) そのV字溝には、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着する状態で一体的に固設されており、(c) 前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分には、その第2稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面が設けられており、(d) そのすくい面の傾斜方向の先端に切れ刃が設けられていることを特徴とする。
【0016】
第7発明は、第6発明のダイヤモンド切削部材において、前記人工ダイヤモンドは活性金属ロウにより前記保持具のV字溝に一体的に接着されていることを特徴とする。
【0017】
第8発明は、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、(a) 前記六面体形状の人工ダイヤモンドは、その1箇所の稜線部分が除去されることにより、その稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面が設けられており、(b) その人工ダイヤモンドは、前記傾斜面がすくい面として機能し、その傾斜面の傾斜方向の先端が切れ刃として機能するように前記保持具に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0018】
第9発明は、第6発明〜第8発明の何れかのダイヤモンド切削部材において、(a) 前記保持具はシャンクで、(b) 前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法においては、保持具に設けられた直角断面のV字溝に六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、その第1稜線に隣接する一対の側面がそのV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設し、第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成するため、保持具に対して人工ダイヤモンドが高い精度で一定の姿勢に安定して保持され、すくい面を高い精度で研磨加工することができるとともに、第1稜線部分を研磨除去する必要がないため製造時間や製造コストが節減される。したがって、このような製造方法によれば、第6発明〜第9発明のように稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面がすくい面として設けられるダイヤモンド切削部材を、簡単且つ安価に高い精度で製造できるようになる。
【0020】
また、このようにして製造されるダイヤモンド切削部材は、六面体形状の人工ダイヤモンドの対角線方向にすくい面が設けられるため、すくい面等を再研磨して継続使用できる回数が多くなり、人工ダイヤモンドを有効的に利用できるとともに工具寿命が一層向上する。
【0021】
第2発明〜第5発明は第1発明に従属しているため、第1発明と同様の作用効果が得られる。加えて、第2発明では、活性金属ロウにより人工ダイヤモンドが保持具のV字溝に一体的に接着されるが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られるため、優れた接着強度で接着できるとともに、比較的小さな取付部に対しても人工ダイヤモンドを十分な接着強度で取り付けることが可能で、取付部を十分に確保できない小さなダイヤモンド切削部材であっても好適に製造できる。ダイヤモンド切削部材に関する第7発明においても、同様な作用効果が得られる。
【0022】
第3発明では、すくい面が第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているため、{110}面に対して垂直な穴ぼこが傾斜角度θに応じて切れ刃と反対方向へ傾斜させられ、切れ刃によって形成された切り屑が穴ぼこに侵入し難くなる。特に、傾斜角度θは5°以上であるため、穴ぼこへの切り屑の侵入が効果的に抑制され、構成刃先の発生による工具寿命の低下が良好に防止されるとともに、優れた耐摩耗性と相まって工具寿命が格段に向上する。また、傾斜角度θが30°以下であるため、{111}面に達する前であり、すくい面の研磨加工が可能であるとともに、スクラッチ状の疵が発生するなどして切れ刃の形状精度が損なわれることが抑制される。すなわち、{111}面の近傍では機械的研磨が殆ど不可能になるため、シャープな切れ刃を形成したり円弧等の所定形状の切れ刃を形成したりすることは難しいのである。因みに、傾斜角度θ≒35°36′の場合に{111}面となる。ダイヤモンド切削部材に関する第6発明〜第9発明においても、同様の作用効果が得られる。
【0023】
第4発明では、V字溝の一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成しているとともに、長手方向において取付面に対して上記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられているため、研磨工程では保持具の取付面と平行に第2稜線部分を研磨除去すれば良く、すくい面を一層高い精度で簡単に研磨することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1発明のダイヤモンド切削部材の製造方法は、第6発明〜第9発明のダイヤモンド切削部材を製造する際に好適に適用されるが、{110}面或いはその近傍(傾斜角度θ<5°)の面をそのまますくい面として用いるものや、すくい面の傾斜角度θが30°を超えているものなど、人工ダイヤモンドの稜線部分を研磨除去してすくい面とする種々のダイヤモンド切削部材の製造に同様に適用され得る。
【0025】
ダイヤモンド切削部材は、人工ダイヤモンドをシャンクに直接接着したダイヤモンドバイトや、所定の台金に接着されてバイトやその他の切削工具に取り付けて使用されるダイヤモンドチップなどである。人工ダイヤモンドは、前記図9の(a) に示すように立方体或いは直方体のものだけでなく、図9の(b) に示すようにそれ等の立方体や直方体の角部に面取り状の平面を有するものでも良い。
【0026】
第6発明のダイヤモンド切削部材は、保持具にV字溝が設けられ、そのV字溝に人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられた状態で固設されているが、第8発明の実施に際しては、必ずしも保持具にV字溝を設ける必要はなく、例えば前記図11に示すようにすくい面と反対側の稜線部分も研磨除去して平坦な接着面を形成し、その接着面を保持具の平坦な取付面に接着する場合でも良いなど、種々の態様が可能である。
【0027】
人工ダイヤモンドの稜線部分を研磨除去することによって設けられるすくい面は、その稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているが、鏡面加工等の優れた加工精度が得られるようにする上では、傾斜角度θを5°〜20°の範囲内とすることが望ましい。また、加工精度よりも耐摩耗性を重視する場合には、より{111}面に近くなるように傾斜角度θを15°〜30°の範囲内とすることが望ましい。すくい面の研磨には、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨技術が好適に用いられる。本明細書では、{110}面から{111}面側へ傾斜角度θで傾斜させられている面を、『{110}+θ』と表現する。
【0028】
上記傾斜角度θは、人工ダイヤモンドの稜線とすくい面との間の角度で、具体的には稜線の両側の面からそれぞれ45°の方向、すなわち両側の面によって形成される角の二等分線の方向へすくい面まで下ろした角度であり、すくい面が稜線に対して対称的に稜線の両側へ広がるように設けられた場合には、そのすくい面の中心線と稜線との間の角度である。したがって、その場合には元の稜線とすくい面の中心線とを結ぶ中心面に対して垂直にすくい面が形成されるが、中心面に対して垂直な方向から多少傾斜(例えば±5°程度以下)するように、言い換えれば稜線に対してやや非対称にすくい面が設けられても良い。第4発明のV字溝も、必ずしも厳密に断面が対称形状である必要はなく、±5°程度の範囲内で断面形状が傾斜していても差し支えない。
【0029】
保持具の材質としては超硬合金が好適に用いられるが、モリブデン等の他の金属材料を採用することもできる。活性金属ロウで接着する場合、接着後の温度変化で剥離することが無いように、熱膨張係数が人工ダイヤモンドと略同じか小さいものを採用する必要がある。超硬合金製の保持具の場合、V字溝を有する状態で成形、焼結することもできるが、研削加工等により後からV字溝を設けることも可能である。V字溝の底と人工ダイヤモンドの稜線との干渉を回避するために、V字溝の底に矩形断面或いは円弧断面等の逃げ溝を設けたり、人工ダイヤモンドの稜線部分を砥石等により研磨除去することが望ましい。この場合の研磨は、稜線部分を除去するだけで良く、精度は要求されないため、ダイヤモンド砥石等によって簡単に除去できる。
【0030】
保持具に人工ダイヤモンドを固設する手段としては、活性金属ロウを用いて人工ダイヤモンドを保持具に対して直接接着することが望ましいが、第1発明や第6発明、第8発明の実施に際しては、他の接着技術や機械的な固設手段を採用することも可能である。
【0031】
第4発明では、V字溝の一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状とされているが、保持具の取付面が傾斜している場合など、取付面に対して非対称の直角断面のV字溝を設けて人工ダイヤモンドを傾けた姿勢で保持具に固設することもできる。その場合は、必要に応じて人工ダイヤモンドの第2稜線が研磨面に応じて定められる所定方向(真上など)となるように保持具を傾けた状態ですくい面の研磨加工等を行えば良い。
【0032】
第4発明ではまた、すくい面の傾斜角度θと同じ角度でV字溝が溝深さ方向に傾斜させられており、保持具の取付面と平行に研磨加工を行うことによってすくい面を形成することができるが、保持具の取付面が長手方向において傾斜している場合など、取付面と平行すなわち溝深さが一定のV字溝を設けて人工ダイヤモンドを取付面と平行に固設することもできる。その場合は、必要に応じて人工ダイヤモンドの第2稜線が水平面等の研磨面から傾斜角度θで傾斜するように保持具を傾けた状態ですくい面の研磨加工等を行えば良い。保持具の取付面に対して傾斜角度θ以外の所定の角度で傾斜するV字溝を設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるダイヤモンドバイト50を示す3面図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図すなわちダイヤモンドバイト50を先端側から見た図である。このダイヤモンドバイト50は、前記直方体形状の人工ダイヤモンド10を素材として所定形状に研磨した人工ダイヤモンド(研磨品)52が、超硬合金製のシャンク54の先端部に一体的に固設されたものである。シャンク54は、図2に単独で示すように、直方体形状の本体部56と、その本体部56の先端側に一体に設けられているとともに(b) の平面視において略三角形状を成している取付部58とを備えており、本体部56には旋盤等の刃物台にボルトを用いて固定するための2個のボルト穴60が設けられている。また、取付部58の平坦な上面(取付面)の中央には、シャンク54の前後方向(図2(a) 、(b) の左右方向)と平行にV字溝62が設けられ、図3に示すように研磨加工が施される前の人工ダイヤモンド10(以下、ダイヤモンド素材10という)が固設されるようになっている。本実施例では、断面が正方形の正四角柱形状(立方体でも可)のダイヤモンド素材10が用いられており、そのダイヤモンド素材10がシャンク54に一体的に固設された状態で研磨加工が施されることにより、すくい面70等を有する人工ダイヤモンド52とされる。図2および図3の(a) 〜(c) は、それぞれ図1の(a) 〜(c) に対応する図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。なお、ダイヤモンドバイト50はダイヤモンド切削部材で、シャンク54は保持具に相当する。
【0034】
上記V字溝62は、一対の壁面64、66がシャンク54の上面に対してそれぞれ約45°で傾斜する対称直角断面形状を成すように設けられているとともに、そのV字溝62の長手方向すなわちシャンク54の前後方向において、後部側(図2(a) 、(b) における右方向)へ向かうに従って溝深さが深くなるように、シャンク54の上面に対して所定の傾斜角度θで傾斜させられている。そして、ダイヤモンド素材10は、図3に示すように正四角柱形状の長手方向の第1稜線13a部分がV字溝62内に嵌め入れられ、その第1稜線13aに隣接する一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66にそれぞれ密着させられるとともに、後端面12cがV字溝62の背面68に当接するように位置決めされた状態で、シャンク54の取付部58に一体的に固設されている。V字溝62は、超硬合金製のシャンク54を成形する段階で設けることもできるが、焼結後に研削加工等により形成することも可能である。一対の壁面64、66が所定の面精度を有するように仕上げ研削等を行うようにしても良い。このようなV字溝62を有するシャンク54を用意する工程が保持具製作工程である。
【0035】
ここで、上記V字溝62の底とダイヤモンド素材10の第1稜線13aとの干渉を避けるため、図3の(d-1) に示すようにその稜線13a部分を砥石等により研磨除去するか、(d-2) のようにV字溝62の底に矩形断面等の逃げ溝62sが設けられる。この場合の第1稜線13aの研磨は、稜線部分を除去するだけで良く、精度は要求されないため、ダイヤモンド砥石等によって簡単に除去できる。逃げ溝62sについても、荒加工等によって形成すれば良い。これにより、ダイヤモンド素材10の一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66に対してそれぞれ確実に密着させられるようになり、シャンク54に対してダイヤモンド素材10が高い精度で一定の姿勢に位置決めされる。
【0036】
ダイヤモンド素材10は、活性金属ロウにより一対の側面12a、12bがV字溝62の一対の壁面64、66に一体的に接着されることにより、シャンク54の取付部58に対して一体的に固設される。活性金属ロウは、例えばチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属を2〜4%程度の割合で含んでいる銀ロウで、脱酸素雰囲気中でダイヤモンド素材10を800℃〜1000℃程度まで加熱することにより、チタン或いはクロム等の活性金属の膜を側面12a、12bの表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウによりその側面12a、12bをV字溝62の壁面64、66に直接接着する。その場合に、前記図3の(d-1) のように第1稜線13aが砥石等により研磨除去されるか、図3の(d-2) のようにV字溝62の底に逃げ溝62sが設けられることにより、側面12a、12bと壁面64、66とがそれぞれ確実に密着させられるようになっているため、接着面積が十分に確保されて高い接着強度が得られる。このように活性金属ロウによりダイヤモンド素材10をV字溝62に一体的に接着する工程が固設工程である。
【0037】
そして、このようにダイヤモンド素材10が所定の姿勢でシャンク54に一体的に固設された状態で、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨技術によりそのダイヤモンド素材10に対して研磨処理が行われることにより、すくい面70等を有する人工ダイヤモンド52とされる。すなわち、例えば図4に示すように中心線Oまわりに回転駆動されるダイヤモンド研磨盤80の略水平な研磨面82と平行であって上下反対向きにシャンク54を保持し、ダイヤモンド素材10の前記第1稜線13aに対して対角位置の第2稜線13bをその研磨面82に押し当てることにより、その第2稜線13bがシャンク54の上面と平行に研磨除去され、元の第2稜線13bに対して前記傾斜角度θで傾斜するすくい面70が形成される。本実施例では第2稜線13bの一部が残っているが、ダイヤモンド素材10の長さ寸法や太さによっては、第2稜線13bが完全に無くなるまで研磨してすくい面70を設けるようにしても良い。ダイヤモンド素材10は、第2稜線13bを効率的に研磨除去できるように、図4の(a) における上方から見た平面視において、研磨面82の回転方向(接線方向)と第2稜線13bとが略平行となり、且つその先端側から研磨される姿勢で研磨面80に押圧される。本実施例のダイヤモンド素材10は断面が正方形の四角柱であるため、第2稜線13bは第1稜線13aの真上(図4(a) の研磨状態では真下)に位置しており、その第2稜線13bを研磨面82に押し付けて研磨する際の姿勢が安定する。図4の(a) は、シャンク54を上下反対向きに保持して研磨加工を行っている状態を示す図で、(b) および(c) は、その研磨加工によってすくい面70が形成された状態の平面図および左側面図である。
【0038】
図5は、ダイヤモンド素材10を単独で示す図で、(a) は研磨加工が行われる前の状態であり、その第2稜線13bが(b) に示すように傾斜角度θで斜めに研磨除去されることにより、(c) に示すすくい面70が形成される。その場合に、ダイヤモンド素材10の総ての稜線は{110}面で表されることから、すくい面70は、その{110}面から{111}面方向へ傾斜角度θと同じ角度だけ傾斜させられた面、すなわち{110}+θで表され、本実施例では傾斜角度θ=5°〜30°の範囲内の所定値に設定されている。言い換えれば、このすくい面70の{110}面からの傾斜角度θに合わせて前記V字溝62の傾斜角度θが定められているのである。
【0039】
ダイヤモンド素材10にはまた、図1に示されるように、その前端面12d(図3参照)に対して所定の傾斜角度φで傾斜する前逃げ面72が設けられるとともに、その前逃げ面72の両側に一対の横逃げ面74、76が設けられ、すくい面70の傾斜方向の先端であって前逃げ面72と交差する部分に切れ刃78が設けられている。前逃げ面72の傾斜角度φは、逃げ角が大きくなる方向がマイナス(−)で、すくい面70のすくい角をa°、前逃げ面72の逃げ角をb°とした場合、前記傾斜角度θにそのすくい角a°と逃げ角b°とを加算したマイナスの角度に設定され、例えば−(θ+5°〜10°)程度に定められる。この前逃げ面72は、前端面12dが{100}面であることから、{100}−φで表される。一対の横逃げ面74、76は先端側において略交差させられており、その稜線によって前逃げ面72が構成されているとともに、切れ刃78はすくい面70と一対の横逃げ面74、76とが交差する頂点によって構成されている。このように、すくい面70や前逃げ面72、横逃げ面74、76を研磨加工する工程が研磨工程であり、これにより図1に示すように所定形状の人工ダイヤモンド52を備えたダイヤモンドバイト50が得られる。
【0040】
このように、本実施例ではシャンク54に設けられた直角断面のV字溝62に四角柱形状のダイヤモンド素材10の第1稜線13a部分を嵌め入れ、その第1稜線13aに隣接する一対の側面12a、12bがそのV字溝62の一対の壁面64、66にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設し、第1稜線13aに対して対角位置の第2稜線13b部分を研磨除去してすくい面70を形成するため、シャンク54に対してダイヤモンド素材10が高い精度で一定の姿勢に安定して保持され、すくい面70を高い精度で研磨加工することができる。また、第1稜線13a部分を研磨除去する必要がないため、製造時間や製造コストが節減される。これにより、第2稜線13aの長手方向において{110}面から{111}面側へ所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面がすくい面70として設けられるダイヤモンドバイト50を、簡単且つ安価に高い精度で製造することができる。
【0041】
また、このようにして製造されるダイヤモンドバイト50は、正四角柱形状のダイヤモンド素材10の対角線方向にすくい面70が設けられるため、すくい面70等を再研磨して継続使用できる回数が多くなり、人工ダイヤモンド52を有効的に活用できるとともに工具寿命が一層向上する。
【0042】
また、本実施例では、活性金属ロウによりダイヤモンド素材10がシャンク54のV字溝62に一体的に接着されるが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られるため、優れた接着強度で接着できるとともに、比較的小さな取付部58に対してもダイヤモンド素材10を十分な接着強度で取り付けることが可能で、取付部58を十分に確保できない場合にも好適に適用される。
【0043】
また、本実施例では、すくい面70が第2稜線13bの長手方向の一端に設けられる切れ刃78側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられているため、{110}面に対して垂直な穴ぼこが傾斜角度θに応じて切れ刃78と反対方向へ傾斜させられ、切れ刃78によって形成された切り屑が穴ぼこに侵入し難くなる。特に、傾斜角度θは5°以上であるため、穴ぼこへの切り屑の侵入が効果的に抑制され、構成刃先の発生による工具寿命の低下が良好に防止されるとともに、優れた耐摩耗性と相まって工具寿命が格段に向上する。また、傾斜角度θが30°以下であるため、{111}面よりも5°以上手前であり、すくい面70の研磨加工が可能であるとともに、スクラッチ状の疵が発生するなどして切れ刃78の形状精度が損なわれることが抑制される。
【0044】
ここで、本実施例では傾斜角度θが5°〜30°の範囲内の所定値に設定されるが、鏡面加工等の優れた加工精度が要求される場合には、シャープで高精度の切れ刃形状を得るために傾斜角度θを5°〜20°の範囲内、更には5°〜15°の範囲で設定することが望ましい。また、加工精度よりも耐摩耗性が要求される場合には、より{111}面に近くなって硬度が高くなるように傾斜角度θを15°〜30°の範囲内、更には20°〜30°の範囲内で設定することが望ましい。
【0045】
また、本実施例では、V字溝62の一対の壁面64、66がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成しているとともに、長手方向において傾斜角度θで溝深さが変化するように傾斜させられているため、研磨工程では図4の(a) に示すようにシャンク54を研磨面82と平行に保持して第2稜線13b部分を研磨除去すれば良く、すくい面70を一層高い精度で簡単に研磨することができる。
【0046】
一方、前記傾斜角度θ=20°、傾斜角度φ=−25°ですくい面70を{110}+20°、前逃げ面72を{100}−25°とした本実施例のダイヤモンドバイト50と、前記図10のようにダイヤモンド素材10の{100}面をそのまますくい面20とし、前逃げ面22を{100}−5°とした従来のダイヤモンドバイトとを用意し、以下の加工条件で図6に示すように軸心まわりに回転駆動されるアルミニウム合金の端面に切削加工を行い、初期摩耗までの切削距離を調べたところ、図7に示す結果が得られた。
《加工条件》
被削材:アルミニウム合金(JIS−A5056)
切削形態:端面切削
切削速度:300m/min
フィード(径方向の送り):0.01mm/rev
【0047】
図7に示す結果から明らかなように、本発明品によれば25km以上の切削加工が必要で、従来品に比べて工具寿命が格段に向上する。すなわち、初期摩耗は、切れ刃78に所定の微小摩耗が発生し、鏡面加工が可能となる状態で、再研磨が必要となる再研磨寿命とは異なるものであるが、初期摩耗までの切削距離は再研磨寿命に達するまでの切削距離に略比例するため、初期摩耗までの切削距離により再研磨寿命、更には再研磨による継続使用を含めた工具寿命を比較、判断することができるのであり、従来品に比べて2.5倍以上の工具寿命が得られるものと考えられる。
【0048】
また、図8は、前記傾斜角度θ=3°、すなわちすくい面70を{110}+3°としたダイヤモンドバイト50を用いて、アルミニウム合金および超硬合金に対して切削加工を行った場合に、構成刃先により再研磨寿命に達してすくい面70等を再研磨した後、電子顕微鏡により人工ダイヤモンド50の成分分析を行った結果を示す図で、本来のダイヤモンドバイト50には存在しないはずのアルミニウム(Al)やタングステン(W)が再研磨に拘らず多量に残留していることが認められる。したがって、再研磨後においても、これ等のアルミニウムやタングステンに起因して構成刃先が早期に発生し、工具寿命が著しく阻害されるものと考えられる。なお、傾斜角度θ=5°の場合には、このようなアルミニウムやタングステン等の切り屑の侵入は殆ど認められず、構成刃先も殆ど発生しない。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例であるダイヤモンドバイトを示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図2】図1のダイヤモンドバイトのシャンクを単独で示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図3】図2のシャンクに人工ダイヤモンドの素材が一体的に固設された状態を示す図で、(a) は正面図、(b) は平面図、(c) は(b) の左側面図、(d-1) 、(d-2) はダイヤモンド素材がV字溝に嵌め入れられた部分の断面図である。
【図4】図3のダイヤモンド素材に研磨加工を施してすくい面を形成する研磨工程を説明する図で、(a) は研磨加工時の正面図、(b) はすくい面が設けられた状態の平面図、(c) は(b) の左側面図である。
【図5】図4の研磨加工でダイヤモンド素材にすくい面が形成される過程を単独で示す斜視図である。
【図6】本発明品および従来品を用いて工具寿命を調べる際の端面切削加工を説明する概略斜視図である。
【図7】図6の試験結果を、本発明品と従来品とを比較して示す図である。
【図8】すくい面を{110}+3°としたダイヤモンドバイトで所定の切削加工を行うとともに再研磨した後、電子顕微鏡により人工ダイヤモンドの成分分析を行った結果を示す図である。
【図9】人工ダイヤモンドの基本形状を説明する図で、(a) は直方体形状の場合の斜視図、(b) は(a) の直方体の角部に面取り状の平面を有する場合の斜視図である。
【図10】図9の人工ダイヤモンドの{100}面の一つをそのまますくい面として用いて切削加工を行う場合の使用態様を説明する図で、(a) は所定の研磨加工が施された人工ダイヤモンドの斜視図、(b) は旋削加工に用いられた場合の一例を示す斜視図である。
【図11】図9の人工ダイヤモンドの一つの稜線を研磨加工し、その研磨加工で得られた{110}面をすくい面として用いて切削加工を行う場合の使用態様を説明する図で、(a) はすくい面を加工する前の人工ダイヤモンドの斜視図、(b) はすくい面および接着面を形成するために研磨除去される部分を点線で示す斜視図、(c) は(b) の点線部分が除去された状態の人工ダイヤモンドの斜視図、(d) は(c) の人工ダイヤモンドが接着面を介してシャンク等の保持具に取り付けられた状態の斜視図である。
【図12】ダイヤモンドの3つの結晶面{111}、{110}、{100}を説明する図で、左側の図は結晶面の位置を示す立体模型、右側の図は各結晶面における原子の配列を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10:人工ダイヤモンド(素材) 12a、12b:側面 13a:第1稜線 13b:第2稜線 50:ダイヤモンドバイト(ダイヤモンド切削部材) 52:人工ダイヤモンド(研磨加工後) 54:シャンク(保持具) 62:V字溝 64、66:壁面 70:すくい面 78:切れ刃 θ:傾斜角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材の製造方法であって、
直角断面のV字溝が設けられた保持具を用意する保持具製作工程と、
前記V字溝に前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、該第1稜線に隣接する一対の側面が該V字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設する固設工程と、
前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成する研磨工程と、
を有することを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記固設工程では、活性金属ロウにより前記人工ダイヤモンドを前記保持具のV字溝に対して一体的に接着する
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記すくい面は、前記第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記V字溝は、一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成すように前記保持具の平坦な取付面に設けられているとともに、長手方向において該取付面に対して前記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられており、
前記研磨工程では、前記保持具の取付面と平行に前記第2稜線部分を研磨除去することにより前記すくい面を形成する
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、
前記保持具はシャンクで、
前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトである
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項6】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、
前記保持具には直角断面のV字溝が設けられており、
該V字溝には、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられ、該第1稜線に隣接する一対の側面が該V字溝の一対の壁面にそれぞれ密着する状態で一体的に固設されており、
前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分には、該第2稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面が設けられており、
該すくい面の傾斜方向の先端に切れ刃が設けられている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項7】
請求項6において、
前記人工ダイヤモンドは活性金属ロウにより前記保持具のV字溝に一体的に接着されている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項8】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、
前記六面体形状の人工ダイヤモンドは、その1箇所の稜線部分が除去されることにより、該稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面が設けられており、
該人工ダイヤモンドは、前記傾斜面がすくい面として機能し、該傾斜面の傾斜方向の先端が切れ刃として機能するように前記保持具に一体的に固設されている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか1項において、
前記保持具はシャンクで、
前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトである
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項1】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材の製造方法であって、
直角断面のV字溝が設けられた保持具を用意する保持具製作工程と、
前記V字溝に前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分を嵌め入れ、該第1稜線に隣接する一対の側面が該V字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めして一体的に固設する固設工程と、
前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分を研磨除去してすくい面を形成する研磨工程と、
を有することを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記固設工程では、活性金属ロウにより前記人工ダイヤモンドを前記保持具のV字溝に対して一体的に接着する
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記すくい面は、前記第2稜線の長手方向の一端に設けられる切れ刃側へ向かうに従って{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜させられている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記V字溝は、一対の壁面がそれぞれ45°で傾斜する対称断面形状を成すように前記保持具の平坦な取付面に設けられているとともに、長手方向において該取付面に対して前記傾斜角度θと同じ角度で溝深さが変化するように傾斜させられており、
前記研磨工程では、前記保持具の取付面と平行に前記第2稜線部分を研磨除去することにより前記すくい面を形成する
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、
前記保持具はシャンクで、
前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトである
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材の製造方法。
【請求項6】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、
前記保持具には直角断面のV字溝が設けられており、
該V字溝には、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられ、該第1稜線に隣接する一対の側面が該V字溝の一対の壁面にそれぞれ密着する状態で一体的に固設されており、
前記V字溝に嵌め入れられた前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分には、該第2稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜するすくい面が設けられており、
該すくい面の傾斜方向の先端に切れ刃が設けられている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項7】
請求項6において、
前記人工ダイヤモンドは活性金属ロウにより前記保持具のV字溝に一体的に接着されている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項8】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられ、所定の保持具に一体的に固設されて切削加工に用いられるダイヤモンド切削部材において、
前記六面体形状の人工ダイヤモンドは、その1箇所の稜線部分が除去されることにより、該稜線の長手方向において{110}面から{111}面側へ5°〜30°の範囲内の所定の傾斜角度θで傾斜する傾斜面が設けられており、
該人工ダイヤモンドは、前記傾斜面がすくい面として機能し、該傾斜面の傾斜方向の先端が切れ刃として機能するように前記保持具に一体的に固設されている
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか1項において、
前記保持具はシャンクで、
前記ダイヤモンド切削部材は、前記シャンクの先端部に前記人工ダイヤモンドが一体的に固設されたダイヤモンドバイトである
ことを特徴とするダイヤモンド切削部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−72834(P2009−72834A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241634(P2007−241634)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【出願人】(507312404)株式会社日新ダイヤモンド製作所 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【出願人】(507312404)株式会社日新ダイヤモンド製作所 (1)
【Fターム(参考)】
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