ダブルクラッド光ファイバのリコート方法
【課題】空隙部の混在を抑制しながらリコート層を形成することで、損失光量を低減するようにダブルクラッド光ファイバをリコートする方法の提供。
【解決手段】コア11と、コア11を囲む第一クラッド層12と、第一クラッド層12を囲む第二クラッド層13と、第二クラッド層13を被覆する保護被覆層14とを備えるダブルクラッド光ファイバ1において、第二クラッド層13及び保護被覆層14を除去して、第一クラッド層12を露出させ、減圧下で、露出させた第一クラッド層12上に硬化性樹脂15’を積層させ、次いで、常圧下で硬化性樹脂15’を硬化させて、リコート層15を形成する。
【解決手段】コア11と、コア11を囲む第一クラッド層12と、第一クラッド層12を囲む第二クラッド層13と、第二クラッド層13を被覆する保護被覆層14とを備えるダブルクラッド光ファイバ1において、第二クラッド層13及び保護被覆層14を除去して、第一クラッド層12を露出させ、減圧下で、露出させた第一クラッド層12上に硬化性樹脂15’を積層させ、次いで、常圧下で硬化性樹脂15’を硬化させて、リコート層15を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損失光量が低減されたダブルクラッド光ファイバが得られるように、第二クラッド層及び保護被覆層が除去された部位をリコートするダブルクラッド光ファイバのリコート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シングルクラッド光ファイバは、コアを囲むクラッド層を有し、典型的なものとして、図12に例示するものが挙げられる。図12は、シングルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。ここに示すシングルクラッド光ファイバ9は、コア91と、コア91を囲むクラッド層92と、クラッド層92を囲む第一保護被覆層93と、第一保護被覆層93を囲む第二保護被覆層94とから概略構成されている。このようなシングルクラッド光ファイバでは、通常、石英ガラスからなるクラッド層の表面付近では、伝搬光の強度が極めて小さい。したがって、クラッド層92と第一保護被覆層93との界面やその近傍に異物があっても、散乱による伝搬光の大きな損失は生じない。そこで、被覆(第一保護被覆層93及び第二保護被覆層94)が除去されたシングルクラッド光ファイバ9において、露出されたクラッド層92を樹脂でコーティングし、再被覆するリコート時には、クラッド層92の表面やその近傍に異物があっても、良好な光特性を有する光ファイバが得られる。シングルクラッド光ファイバのリコート方法としては、モールド法(特許文献1参照)、ダイス法(特許文献2参照)又はキャスティング法(特許文献3参照)が例示できる。
【0003】
一方、図1は、ダブルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。ここに示すダブルクラッド光ファイバ1は、コア11と、コア11を囲む第一クラッド層12と、第一クラッド層12を囲む第二クラッド層13と、第二クラッド層13を囲む保護被覆層14とから概略構成されている。そして通常は、コア11及び第一クラッド層12は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層13及び保護被覆層14は硬化性樹脂の硬化物を主成分とする。ダブルクラッド光ファイバ1では、コア11中を第一伝搬光が、第一クラッド層12中を第二伝搬光がそれぞれ伝搬するが、第一クラッド層12の表面12a付近では、伝搬光の強度が大きい。したがって、第一クラッド層12と第二クラッド層13との界面やその近傍に異物があると、第二伝搬光が散乱されて、その結果、大きな光損失が生じ易い。
【0004】
図2は、ダブルクラッド光ファイバ1の中心軸を通る平面による長手方向の断面図である。
ここで、ダブルクラッド光ファイバ1は、第二クラッド層13と保護被覆層14の一部がそれぞれ除去され、該除去部位において第一クラッド層12が露出されており、被覆除去部10が形成されている。被覆除去部10において、符号13aは第二クラッド層13の露出端部を、符号14aは保護被覆層14の露出端部をそれぞれ示す。
通常、被覆除去部10においては、第一クラッド層の表面12aに異物8があることが多い。第二クラッド層13と保護被覆層14が除去される時には、これらのいずれか一方又は両方に由来する樹脂くずが除去されずに残存し易いからである。また、第二クラッド層の露出端部13aは変質し易く、その表面が荒れ易い。
【0005】
ここで、被覆除去部10における第二伝搬光の損失について説明する。
図13は、従来法で樹脂がリコートされた図2の被覆除去部10を拡大して例示する断面図であり、(a)は第一クラッド層の表面12aとその近傍を、(b)は第二クラッド層の露出端部13aとその近傍を、それぞれ例示する断面図である。
【0006】
まず、図13(a)に示すように、第一クラッド層の表面12aに異物8がある場合について説明する。異物8の表面には、通常複雑な凹凸があり、被覆除去部10で硬化性樹脂を積層させた際に、凹部80には硬化性樹脂が流入し難く、空気などの気体が残存し易い。この状態で硬化性樹脂を硬化させると、凹部80に気体が閉じ込められたままリコートが終了し、リコート層15のうち第一クラッド層の表面12aには、空隙部7が混在することになる。そして、空隙部7により第二伝搬光が散乱されて、大きな光損失が生じてしまう。
次に、図13(b)に示すように、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れている場合について説明する。前記露出端部13aには複雑な凹凸があり、被覆除去部10で硬化性樹脂を積層させた際に、凹部130には硬化性樹脂が流入し難く、気体が残存し易い。この状態で硬化性樹脂を硬化させると、上記と同様に、凹部130に気体が閉じ込められたままリコートが終了し、第二クラッド層13には、空隙部7が混在することになる。そして空隙部7が、第一クラッド層の表面12aの近傍にある場合には、空隙部7により第二伝搬光が散乱されて、大きな光損失が生じてしまう。なお、保護被覆層の露出端部14aは、第一クラッド層の表面12aからは遠い位置にあるので、通常はその表面が荒れていても問題にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−128440号公報
【特許文献2】特開平09−043446号公報
【特許文献3】特開昭60−103053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ダブルクラッド光ファイバでは、第一クラッド層の表面やその近傍に空隙部が混在することで、大きな光損失が生じてしまうが、これはシングルクラッド光ファイバでは見られない、ダブルクラッド光ファイバに特有の問題点である。そして従来、ダブルクラッド光ファイバには、シングルクラッド光ファイバと同様のリコート方法が適用されており、上記問題点の解決に有効なリコート方法がないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、空隙部の混在を抑制しながらリコート層を形成することで、損失光量を低減するようにダブルクラッド光ファイバをリコートする方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
本発明は、コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程と、減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程と、を有することを特徴とするダブルクラッド光ファイバのリコート方法を提供する。
本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記硬化性樹脂を、該硬化性樹脂が分解及び変性しない温度で保温しながら、前記第一クラッド層上に積層させることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定しながら、前記硬化性樹脂を硬化させることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記被覆層をレーザ照射により除去することが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記被覆層を、前記第二クラッド層が変性しない温度に冷却しながら除去することが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂であり、前記第二クラッド層が紫外線硬化性樹脂を硬化してなるものであることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、モールド法、ダイス法又はキャスティング法で前記リコート層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、損失光量を低減するように、ダブルクラッド光ファイバをリコートできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ダブルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。
【図2】ダブルクラッド光ファイバの中心軸を通る平面による長手方向の断面図である。
【図3】レーザ照射によりダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
【図4】熱風の吹きつけによりダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
【図5】ダブルクラッド光ファイバを冷却するために、熱伝導体を介して該光ファイバを冷却手段に設置した状態を例示する概略図である。
【図6】リコート工程を説明するための、ダブルクラッド光ファイバの中心軸を通る平面による被覆除去部の拡大断面図であり、(a)は硬化性樹脂積層時の減圧下での拡大断面図、(b)は硬化性樹脂硬化前の常圧下での拡大断面図、(c)は硬化性樹脂硬化後の拡大断面図である。
【図7】ダブルクラッド光ファイバの損失光量を測定するための測定系を例示する概略構成図である。
【図8】ダイス法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
【図9】モールド法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
【図10】本発明のリコート方法を適用して作製したクラッドポンプ方式ファイバレーザを例示する概略構成図である。
【図11】実施例19のリコート工程における、紫外線硬化性樹脂に対するUV光照射時間と、第一クラッド層の伝搬光の損失光量との関係を示すグラフである。
【図12】シングルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。
【図13】従来法で樹脂がリコートされた図2の被覆除去部を拡大して例示する断面図であり、(a)は第一クラッド層の表面とその近傍を、(b)は第二クラッド層の露出端部とその近傍を、それぞれ例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程(以下、除去工程と略記する)と、減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程(以下、リコート工程と略記する)と、を有することを特徴とする。
本発明において、「リコート」とは、被覆層が除去され、露出された第一クラッド層に樹脂を積層させ(コーティングし)、前記樹脂を硬化させて、再被覆することを指す。また、「被覆層」とは、特に断りがない限り、保護被覆層だけでなく、第二クラッド層も含めて、第一クラッド層を被覆している層全体を指すものとする。また、「変性」とは、「本来有する性質を失う」ことを指すものとする。
【0014】
光ファイバを硬化性樹脂で被覆する方法としては、例えば、減圧下で硬化性樹脂を光ファイバに塗布し、硬化させる方法が知られている。この方法は、硬化前の樹脂中にまき込まれていたり、溶解したりしている気体を除去することで、硬化された樹脂中への気泡の残存を抑制することを目的としている。そして、光ファイバ製造時における紡糸直後の光ファイバの被覆に適用される方法であり、特に樹脂のリコートを考慮したものではなく、ダブルクラッド光ファイバのリコートにそのまま適用しても、必ずしも伝搬光の損失を低減できない。
これに対し本発明は、硬化前の樹脂中にまき込まれていたり、溶解したりしている気体を除去するだけでなく、たとえ第一クラッド層の表面やその近傍に異物があったり、第二クラッド層の露出端部の表面が荒れていたりしても、当該部位の空隙部を消失させることで、伝搬光の損失が低減されたダブルクラッド光ファイバが得られるものである。
【0015】
リコートに供するダブルクラッド光ファイバは、公知のもので良い。すなわち、コア、第一クラッド層、第二クラッド層及び保護被覆層を有するものであり、例えば、図1に示すものが挙げられ、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、被覆層は硬化性樹脂の硬化物を主成分とするものが挙げられる。被覆層を形成する硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等が例示でき、後述するリコート層を形成するための硬化性樹脂と同様のものが挙げられる。被覆層の中でも第二クラッド層は、短時間での硬化が可能で光特性も良好であることから、光硬化性樹脂が好ましく、紫外線硬化性樹脂がより好ましい。ただし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低くなるようにする。
【0016】
(除去工程)
除去工程では、ダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去して、第一クラッド層を露出させる。
被覆層は、少なくとも、ダブルクラッド光ファイバの中心軸方向の一部で除去すれば良い。そして、ダブルクラッド光ファイバの外周方向に一部を除去しても良いし、外周方向に全てを除去しても良い。
以下、図1に示すダブルクラッド光ファイバを使用して、被覆層を外周方向に全て除去し、図2に示すように第一クラッド層を露出させる場合について説明するが、その他の場合についても、同様に被覆層を除去できる。
【0017】
被覆層である第二クラッド層13及び保護被覆層14は、公知の方法で除去すれば良い。なかでも好ましい方法としては、(a)レーザ照射による除去、(b)熱風の吹きつけによる除去、(c)ナイフや剃刀等の切削器具を使用する切削除去(以下、「切削器具による除去」と略記する)等が例示できる。より詳細には、以下の通りである。
【0018】
(a)レーザ照射による除去
図3は、レーザ照射により被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
ここに例示するレーザ照射装置2は、レーザ発振器21、スリット22、ミラー23、レンズ24及びステージ25を備える。そして、ステージ25は、固定されたダブルクラッド光ファイバ1の長手方向(矢印Aの方向)に沿って移動可能とされている。
レーザ発振器21から発振されたレーザ20は、スリット22を通過してミラー23に到達し、反射されて向きを変えられ、レンズ24で集光された後、ダブルクラッド光ファイバ1の所定箇所に所定時間照射されるようになっている。ミラー23及びレンズ24は、ステージ25上に設置されており、ステージ25の移動に伴い、移動するようになっている。これにより、レーザ20の照射箇所を、固定されているダブルクラッド光ファイバ1の長手方向に沿って移動させて、被覆除去部10の長さを簡便に調節できるようになっている。ステージ25の移動距離が、被覆除去部10の長さとほぼ同じとなる。また、ダブルクラッド光ファイバ1は、その外周方向に回転させ、向きを変えて固定することで、さらにレーザ20の照射箇所を変えることが可能となっている。
なお、ここに示したレーザ照射装置は一例であり、被覆層の除去が可能であれば、如何なる構成でも良い。
【0019】
レーザの種類や照射条件は、除去対象の被覆層の種類に応じて適宜調節すれば良い。例えば、赤外線レーザ、可視光線レーザ、紫外線レーザ、X線レーザ等が例示でき、媒体も特に限定されず、ルビーレーザ、YAGレーザ等の固体レーザ;液体レーザ;炭酸ガスレーザ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンガスレーザ、エキシマレーザ等のガスレーザ;半導体レーザ、自由電子レーザのいずれでも良く、これらを被覆層の除去に適した条件で照射すれば良い。なかでも、KrF、ArF等のエキシマレーザや、アルゴンガスレーザが好ましい。
【0020】
(b)熱風の吹きつけによる除去
図4は、熱風の吹きつけにより被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
ここに例示する熱風吹きつけ装置3は、ノズル32と、コンプレッサー(図示略)から送出された圧縮空気30’をノズル32に送る配管31と、ノズル32に設けられ、ノズル32から吹きつける圧縮ガスを加熱して熱風30とするためのヒータ33と、を備える。そして、ノズル32は、固定されたダブルクラッド光ファイバ1の長手方向(矢印Bの方向)に沿って移動可能とされている。
ノズル32から送出された熱風30は、ノズル32の方向を適切に設定することで、ダブルクラッド光ファイバ1の所定箇所に所定時間吹きつけられるようになっている。そして、ノズル32を移動させることで、熱風30の吹きつけ箇所を、固定されているダブルクラッド光ファイバ1の長手方向に沿って移動させて、被覆除去部10の長さを簡便に調節できるようになっている。ノズル32の移動距離が、被覆除去部10の長さとほぼ同じとなる。そして、上記のレーザ照射の場合と同様に、ダブルクラッド光ファイバ1は、その外周方向に回転させ、向きを変えて固定することで、さらに熱風30の吹きつけ箇所を変えることが可能となっている。
なお、ここに示した熱風吹きつけ装置は一例であり、被覆層の除去が可能であれば、如何なる構成でも良い。
【0021】
熱風のガスの種類は、被覆層の変性を抑制するために、不活性ガスが好ましく、窒素ガスが特に好ましい。
熱風の風量は、被覆層を除去できる限り特に限定されないが、ノズル32の内径に応じて調整することが好ましい。例えば、ノズル32の内径が1〜7mmである場合には、100〜400L/分であることが好ましい。
【0022】
上記の中でも、操作が簡便であり、除去効果が高く、しかも樹脂くず等の発生を抑制する高い効果が得られることから、(a)レーザ照射による除去が好ましい。レーザ照射では、アブレーション効果により、第二クラッド層13及び保護被覆層14を除去できる。
【0023】
除去工程では、第二クラッド層が変性しない温度に、被覆層を冷却して除去することが好ましい。これにより、第二クラッド層13、特に第二クラッド層の露出端部13aの変性が抑制され、被覆層の屈折率の変動が抑制される。また仮に、第二クラッド層由来の異物8が発生し、第一クラッド層の表面12aやその近傍に残存したとしても、この異物8は変性していないので、屈折率等が本来の第二クラッド層13と同等である。したがって、第二クラッド層13や保護被覆層14の形成に使用したものと同じ硬化性樹脂を使用してリコート層を形成した場合に、該リコート層は、第二クラッド層13や保護被覆層14と同様の光学特性を有するものとなる。したがって、伝搬光を効果的に閉じ込めることができ、伝搬光の損失を抑制する一層高い効果が得られる。
【0024】
第二クラッド層の変性を抑制するためには、変性する温度よりも低い温度に第二クラッド層の温度を調節すれば良く、冷却することが好ましい。この時の調節すべき温度は、第二クラッド層の種類によって異なり、一概には言えないが、例えば、フッ素化アクリレート樹脂を使用して形成されている第二クラッド層の場合には、200℃以下であることが好ましい。さらに、第二クラッド層を形成する樹脂のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却することにより、第二クラッド層の変形を抑制する高い効果が得られる。
【0025】
被覆層を冷却する方法としては、ダブルクラッド光ファイバの対象部位を冷媒中に浸漬させる方法、該対象部位を冷却手段上に設置する方法、該対象部位に冷風を吹きつける方法が例示でき、被覆層を除去する方法に応じて、選択すれば良い。
【0026】
前記対象部位を冷媒中に浸漬させる場合には、例えば、光ファイバを、これを固定している固定手段ごと冷媒中に浸漬させても良い。
レーザ照射で被覆層を除去する場合には、レーザを冷媒中の光ファイバの対象部位に直接照射すれば良い。そして、エキシマレーザを照射する場合には、冷媒の液面に対して略垂直な方向から照射すると、安定して被覆層を除去できる。さらに、光ファイバの対象部位は、被覆層表面の液面からの深さが5mm程度かそれ以下となるように浸漬させると、安定して被覆層を除去できる。
前記冷媒としては、好ましいものとして液体窒素等が例示できる。
【0027】
前記対象部位を冷却手段上に設置する場合には、冷却手段に直接接触させて設置しても良いし、金属や合金等の熱伝導体を介して設置しても良い。
図5は、ダブルクラッド光ファイバ1を、プレート状の熱伝導体29を介して冷却手段28に設置した状態を例示する概略図である。熱伝導体を介在させる場合には、ここに示すように、プレート状のものを使用することで、ダブルクラッド光ファイバ1を効率良く冷却できる。
前記冷却手段としては、好ましいものとしてペルチェ素子等が例示できる。
【0028】
前記対象部位に冷風を吹きつける場合には、ファンやノズルを使用して吹きつけ部位を安定させることが好ましい。また、ダブルクラッド光ファイバは固定することが必要であり、例えば、40〜200gf程度、好ましくは150gf程度の張力を印加することが好ましい。このようにすることで、光ファイバの揺れを防止でき、安定して被覆層を除去できる。
冷風のガスの種類は特に限定されず、空気、窒素等、入手可能なものから適宜選択すれば良い。なかでも不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウム等が特に好ましい。不活性ガスを使用することで、被覆層の成分と冷風のガスとの化学反応が抑制されるので、反応生成物が第一クラッド層の表面やその近傍に付着することがない。
冷風の風量は、冷却効果を有する限り特に限定されない。
【0029】
このように被覆層(第二クラッド層13及び保護被覆層14)を除去することで、図2に示すように、第一クラッド層の表面12aの一部が露出される。
なお、図2では、被覆層が除去されたダブルクラッド光ファイバとして、第一クラッド層の表面12aに異物8があり、かつ第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れているものを示しているが、これら条件のいずれか一方だけが満たされる場合もあるし、第二クラッド層の露出端部13aの表面に、異物8がある場合もある。
【0030】
(リコート工程)
除去工程後は、次いで、リコート工程を行う。図6は、リコート工程を説明するための、ダブルクラッド光ファイバ1の中心軸を通る平面による被覆除去部の拡大断面図であり、(a)は硬化性樹脂積層時の減圧下での拡大断面図、(b)は硬化性樹脂硬化前の常圧下での拡大断面図、(c)は硬化性樹脂硬化後の拡大断面図である。
リコート工程では、まず、減圧下で、露出させた第一クラッド層12上に硬化性樹脂15’を積層させる。この段階では、図6(a)に示すように、異物8の表面の凹部80、第二クラッド層の露出端部13aの凹部130には、硬化性樹脂15’が流入し難く、空隙部7’が形成されることがある。すなわち、減圧下で硬化性樹脂15’を積層させるだけでは、空隙部7’の発生は完全には抑制できない。
【0031】
硬化性樹脂15’は、リコート層を形成するためのものであり、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等、公知のものから目的に応じて任意に選択できる。通常は、第二クラッド層13と同様の屈折率を有する層を形成できる樹脂を使用することが好ましく、第二クラッド層13と同じ層を形成できる樹脂を使用することがより好ましい。このようにすることで、伝搬光の散乱を抑制して、損失光量を低減する一層高い効果が得られる。硬化性樹脂15’としては、短時間での硬化が可能で光特性も良好であることから、光硬化性樹脂が好ましく、紫外線硬化性樹脂がより好ましい。
【0032】
硬化性樹脂15’を積層させる方法は、減圧下で行えるものであれば特に限定されず、公知の方法から目的に応じて選択できる。具体的には、ディップ法、刷毛を使用して塗布する方法などでも良いが、好ましい方法としては、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法が例示できる。
【0033】
硬化性樹脂15’積層時の減圧下での圧力は、小さいほど好ましいが、100Pa以下であることが好ましく、50Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。圧力の下限は特に限定されず、真空でも良く、実現可能な圧力で良い。このような圧力とすることで、後述するように、硬化された樹脂中における空隙部の混在を抑制する一層高い効果が得られる。
【0034】
積層時の硬化性樹脂15’の粘度は、積層を妨げない範囲で低い方が好ましく、20〜3000mPa・sであることが好ましく、1500〜2500mPa・sであることがより好ましい。このような粘度とすることで、被覆除去部10に異物8があったり、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れていたりしても、これらの凹部80や凹部130には、硬化性樹脂15’が流入し易く、硬化性樹脂15’の積層段階で、空隙部7’の発生を抑制する高い効果が得られる。さらに、凹部80や凹部130に硬化性樹脂15’が流入し易いので、後述する、常圧に戻してから硬化を行うまでの時間も短縮できる。
【0035】
硬化性樹脂15’の粘度は、樹脂の種類を適宜選択することで調整できる。さらに、積層時に硬化性樹脂15’を加温することで、粘度を調整しても良い。加温による粘度調整は、使用できる硬化性樹脂15’の選択肢が広がる点で、特に好適である。
硬化性樹脂15’を加温する場合には、硬化性樹脂15’が分解及び変性しない温度とすることが好ましい。また、硬化性樹脂15’が熱硬化性樹脂である場合には、さらに、硬化する温度よりも低い温度とすることが好ましい。そして、硬化性樹脂15’を、上記のような温度で保温しながら積層させることが好ましい。硬化性樹脂15’が分解及び変性しない温度、硬化する温度は、樹脂の種類ごとに異なる。
【0036】
硬化性樹脂15’を保温しながら積層させる場合には、積層装置のうち、積層までに硬化性樹脂15’を保持する部位及び/又は運搬する経路を保温したり、積層前に硬化性樹脂15’に温風を吹きつけたりすれば良い。
【0037】
リコート工程では、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂15’を硬化させて、リコート層を形成する。本発明ではこのように、硬化性樹脂15’の硬化前に、減圧を解除して圧力を常圧に戻すことで、図6(b)に示すように、空隙部7’が硬化性樹脂15’で充填され、消失する。これは、空隙部7’内が減圧されているのに対し、硬化性樹脂15’が常圧下に置かれ、圧力差が生じることによる。そして、硬化性樹脂15’の積層時の圧力や粘度を上記のように設定することで、空隙部7’を一層容易に消失させることができる。
【0038】
リコート層は、硬化性樹脂15’を、その種類に応じて適した方法で硬化させることで形成できる。その結果、図6(c)に示すように、硬化性樹脂15’がリコート層15となった光ファイバ1が得られる。このように、本発明によれば、たとえ被覆除去部10に異物8があったり、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れていたりしても、リコート層15は空隙部の混在が抑制されるので、損失光量を低減できる。
【0039】
常圧に戻してから硬化を行うまでの時間は、空隙部7’の消失、すなわち、硬化性樹脂15’の空隙部7’への充填に必要な時間よりも長ければ特に限定されない。ただし、硬化性樹脂15’の粘度、減圧時の圧力、前記凹部80及び凹部130の形状等を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、硬化性樹脂15’の粘度が低い場合、減圧時の圧力が高めの場合、前記凹部80及び凹部130が複雑な形状である場合(例えば、凹部表面にさらに凹凸がある場合)には、硬化までの時間は長めにすれば良いし、反対に硬化性樹脂15’の粘度が高い場合、減圧時の圧力が低めの場合、前記凹部80及び凹部130が単純な形状である場合(例えば、凹部表面が滑らかである場合)には、短めにしても良い。通常は、粘度が25℃において、1500〜2300mPa・s、減圧時の圧力が50Pa以下程度である場合には、常圧に戻してから硬化を行うまでの時間は、2〜30分であることが好ましい。
【0040】
リコート層は、硬化性樹脂15’の硬化度によって屈折率が変化する。そこで、所望の屈折率となるように硬化度を調整することが好ましく、そのためには、第一クラッド層12の伝搬光の損失光量を測定しながら、硬化性樹脂15’を硬化させることが好ましい。そして、通常は、第一クラッド層12の伝搬光の損失光量がゼロ、又は最小となるまで硬化させることが好ましい。
第一クラッド層12の伝搬光の損失光量は、ダブルクラッド光ファイバの損失光量を測定するための測定系で測定できる。図7は、このような測定系を例示する概略構成図である。
【0041】
ここに例示する測定系6は、光源61、ダブルクラッド光ファイバ1、光検出器63及び光ファイバ62で概略構成されている。
そして、光源61は、レーザダイオードコントローラ61aとレーザダイオードマウント61bとが光ファイバ61cを介して光学的に接続されたものである。また、光検出器63としては、パワーメータ等が例示できる。ただし、光源、光検出器はこれに限定されず、適宜必要に応じて選択できる。そして、これらのうち、レーザダイオードマウント61bには、さらに光ファイバ62の一端が光学的に接続され、該光ファイバ62の他端は、ダブルクラッド光ファイバ1の一端と融着されて光学的に接続されている。符号16は、光ファイバ62とダブルクラッド光ファイバ1との融着部である。そして、該光ファイバ1の他端は、光検出器63の測光部(図示略)に対向して配置されている。光源61及びダブルクラッド光ファイバ1としては、該光ファイバ1の第一クラッド層を光が伝搬するように、光ファイバの開口数(以下、NAと略記する)を考慮した組み合わせとする。また、前記光ファイバ1及び光検出器63としては、該光ファイバ1の他端から出射された光が、すべて光検出器63で受光されるように、NAを考慮した組み合わせとする。
このように測定系6においては、光源61から照射された光が、光ファイバ1のリコート部17を透過して、光検出器63で受光され、その受光量を測定することで、前記光ファイバ1の損失光量を確認できるようになっている。
【0042】
リコート層を形成したダブルクラッド光ファイバ1は、さらに、リコート層を保護被覆層で被覆するなどして、所望の構成のものとすることができる。
【0043】
以下、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法を適用した場合のリコート工程について、より具体的に説明する。
【0044】
(i)ダイス法
図8は、ダイス法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
ここに例示するリコート装置4は、真空チャンバー44の内部にダイス41及び硬化手段42を備える。ダイス41は、光ファイバが容易に設置できるように半割れ型でも良いし、一体型でも良い。また、貯留部41aの樹脂送出口の内径D41は、設置する光ファイバの外径に応じて、それよりも僅かに大きい値とすれば良い。硬化手段42は、硬化性樹脂15’の種類に応じて選択すれば良く、光源又は熱源等が例示できる。そして、真空チャンバー44には、真空ポンプ47が接続されると共に、リークバルブ441が設けられ、さらに外部から内部へ配管45が連通されており、内部において、配管45の先端部がダイスの貯留部41a上に配置されている。また、配管45には、真空チャンバー44の外部に位置するように、バルブ46が間挿されている。
【0045】
ダイス41には、被覆が除去されたダブルクラッド光ファイバ1を設置する。そして、リークバルブ441閉塞時に、真空ポンプ47を作動させて、真空チャンバー44の内部を減圧する。この状態でバルブ46を開放し、配管45を介してダイスの貯留部41aに硬化性樹脂15’を注入する。硬化性樹脂15’を注入後は、バルブ46を閉塞し、ダブルクラッド光ファイバ1を駆動手段(図示略)により一定の速度で引き下げる(矢印Cの方向)ことで、被覆除去部10において、第一クラッド層の表面12aに硬化性樹脂15’を積層させる。
次いで、ダブルクラッド光ファイバ1を停止させ、リークバルブ441を開放して減圧を解除し、真空チャンバー44の内部を常圧に戻す。そして、所定時間経過後、硬化手段42を作動させ、積層された硬化性樹脂15’を硬化させることで、リコート層を形成する。
【0046】
(ii)モールド法
図9は、モールド法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
図9に例示するモールド51は、図8におけるリコート装置4の、真空チャンバー44の内部に、ダイス41に代わり配置されるものである。モールド51は通常使用されるもので良く、上型51a及び下型51bからなり、上型51aの接合面(割り面)には、割り溝510aが形成され、下型51bの接合面にも同様に、割り溝510bが形成されており、これら割り溝510a及び510bは、上型51a及び下型51b接合時に、一つの貫通孔510を形成するように、位置合わせされている。貫通孔510は、光ファイバを挿通し、硬化性樹脂を注入するためのものであり、その中心軸方向の長さは、ダブルクラッド光ファイバ1の被覆除去部10の長さに応じて、これよりもやや長くなるようにすれば良い。また、貫通孔510の内径D510は、上記内径D41と同様で良い。上型51a及び下型51bは、硬化性樹脂として光硬化性樹脂を使用する場合には、石英ガラス等の光透過性を有する材質で構成し、硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合には、金属や合金等の高熱伝導性を有する材質で構成することが好ましい。硬化手段42は、リコート装置4の場合と同様に配置しても良いし、モールド51の形態にあわせて、硬化が容易となるように調整して配置しても良く、モールド51を挟み込むように対向配置する例が挙げられる。
【0047】
モールド法では、上記ダイス法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を減圧し、図9(a)に示すように、割り溝510a及び510bに被覆除去部10を位置合わせして、ダブルクラッド光ファイバ1を設置する。そして、図9(b)に示すように、上型51a及び下型51bを接合させ、光ファイバ1が挿通されている貫通孔510の内部に、硬化性樹脂15’を注入し、被覆除去部10において、第一クラッド層の表面12aに硬化性樹脂15’を積層させる。
次いで、真空チャンバー44の内部を常圧に戻し、所定時間経過後、硬化手段42を作動させて、図9(c)に示すように、積層された硬化性樹脂15’を硬化させることで、リコート層を形成する。リコート層形成後は、図9(d)に示すように、上型51a及び下型51bを分割して、ダブルクラッド光ファイバ1を取り出せば良い。
【0048】
(iii)キャスティング法
キャスティング法では、通常の型(図示略)を使用してリコート層を形成すれば良い。型は、ダブルクラッド光ファイバの外径よりも内径が大きく、且つダブルクラッド光ファイバの被覆除去部の長さよりも中心軸方向の長さがやや長い溝を有するものが好ましい。型の材質は、前記モールドと同様で良い。
そして、図8におけるリコート装置4の、真空チャンバー44の内部に、ダイス41に代わりこのような型を配置したリコート装置を使用し、前記溝に被覆除去部10を位置合わせして、型の内部にダブルクラッド光ファイバ1を設置する。次いで、前記モールド法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を減圧し、光ファイバが設置されている溝に硬化性樹脂を注入し、被覆除去部において、第一クラッド層の表面に硬化性樹脂を積層させる。次いで、前記モールド法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を常圧に戻し、所定時間経過後、積層された硬化性樹脂を硬化させることで、リコート層を形成する。
【0049】
リコートされたダブルクラッド光ファイバの損失光量は、例えば、前記測定系6を使用して測定できる。
【0050】
本発明のリコート方法は、例えば、ファイバレーザの共振器を構成するためのファイバブラッググレーティング(以下、FBGと略記する)のリコートに適用できる。FBGは、例えば、ダブルクラッド光ファイバの被覆を除去した後、該被覆除去部に紫外光を照射することで作製できるが、強度や光学特性を維持するために、被覆除去部のリコートが必要であり、本発明のリコート方法の適用対象として好適である。
また、ダブルクラッド光ファイバ同士、又はダブルクラッド光ファイバとその他の光ファイバとの接続にも本発明のリコート方法を適用できる。このような光ファイバの接続は、通常、光ファイバの端部同士を融着させることで行うが、融着時には、被覆層の除去が必要であり、融着部には被覆層がない。したがって、融着部の強度や光学特性を維持するためにリコートが必要であり、本発明のリコート方法の適用対象として好適である。
本発明の方法でリコートしたFBGや融着部は、リコート部での損失光量が低減され、第一クラッド層を伝搬するファイバレーザの励起光を効率良く利用できる。
【0051】
図10は、上記のようなFBG及び接続部のリコートに本発明のリコート方法を適用して作製したクラッドポンプ方式ファイバレーザを例示する概略構成図である。
ここに示すファイバレーザ60は、FBG18を備える光ファイバ1、励起レーザダイオード601及び増幅用光ファイバ602で概略構成されている。そして、増幅用光ファイバ602の両端は、いずれも光ファイバ1の一端と融着されて光学的に接続され、さらに一方の光ファイバ1のうち、増幅用光ファイバ602と融着されていない他端が、励起レーザダイオード601と融着されて光学的に接続されている。また、他方の光ファイバ1のうち、増幅用光ファイバ602と融着されていない他端が、レーザ出射光1aとなっている。符号603は、光ファイバ1と増幅用光ファイバ602、又は光ファイバ1と励起レーザダイオード601との融着部である。そして、融着部603及びFBG18は、本発明の方法でリコートされている。
【実施例】
【0052】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
[実施例1〜9]
図1に示す断面を有し、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低いフッ素化アクリレート樹脂からなり、保護被覆層はウレタンアクリレート樹脂からなるダブルクラッド光ファイバを使用して、下記手順でリコートを行った。なお、光ファイバの第一クラッド層の外径は125μm、保護被覆層の外径は250μmである。
上記ダブルクラッド光ファイバを、長手方向の長さが5mとなるように切断したものを九つ用意した。
次いで、(a)レーザ照射による除去、(b)熱風の吹きつけによる除去、(c)切削器具による切削除去、により、第二クラッド層及び保護被覆層を除去した(除去工程)ものを、それぞれ三つずつ作製した。具体的には、以下の通りである。
【0053】
<ダブルクラッド光ファイバのリコート>
(除去工程)
(a)レーザ照射による除去
図3に示すレーザ照射装置を使用して、波長が248nmであるKrFエキシマレーザをダブルクラッド光ファイバに照射した。照射するレーザ光の強度は、0.78mJ/cm2とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ステージを0.05mm/秒の速度で600秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、レーザを照射した。さらに、ファイバをその外周方向に90°回転させ、同様にレーザを照射し、同様の操作をさらに二回繰り返して、90°ごとに合計四方向からレーザを照射して、照射区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、被覆除去部のうち、第一クラッド層の表面、及び第二クラッド層の露出端部の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0054】
(b)熱風の吹きつけによる除去
図4に示す熱風吹きつけ装置を使用して、850℃の熱風をダブルクラッド光ファイバに吹きつけて、被覆層を除去した。吹きつける熱風の風量は、250L/分とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ノズルを10mm/秒の速度で3秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、熱風を吹きつけた。吹きつけ方向は一方向のみとし、吹きつけ区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、被覆除去部のうち、第一クラッド層の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0055】
(c)切削器具による切削除去
片刃剃刀を使用して手作業により、ダブルクラッド光ファイバの長手方向の所定区間において、第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、上記(a)の場合と同様に、第一クラッド層の表面、及び第二クラッド層の露出端部の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0056】
上記(a)〜(c)の方法で処理されたダブルクラッド光ファイバの被覆除去部に、それぞれ、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法、を適用して、リコート層を形成した(リコート工程)。具体的には、以下の通りである。
【0057】
(リコート工程)
(i)ダイス法
図8に示すリコート装置を使用して、リコート層を形成した。ダイスはステンレス製であり、D41が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は150秒であった。
【0058】
(ii)モールド法
図9に示すリコート装置を使用して、リコート層を形成した。モールドは石英ガラス製であり、D510が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は160秒であった。
【0059】
(iii)キャスティング法
内径が1mmで石英ガラス製である円筒状の型を使用して、リコート層を形成した。硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は600秒であった。
【0060】
<リコートされたダブルクラッド光ファイバでの透過光パワーの測定>
図7に示す測定系を使用して、リコートされたダブルクラッド光ファイバでの損失光量を確認した。光源としては、波長980nmのレーザダイオードを含むものを使用し、光検出器としては、パワーメータを使用した。
まず、前記九種類のリコートされたダブルクラッド光ファイバの透過光パワーを測定し、測定値をP0とした。次いで、融着部16とリコート部17との間の中間点付近でダブルクラッド光ファイバを切断し、透過光パワーを測定して、測定値をP1とした。そして、式「PLOSS=P0−P1」で算出される、前記切断部での損失光量を、前記九種類の光ファイバについてそれぞれ求めた。「PLOSS」は、被覆除去部及びリコート部での損失光量以外に、ダブルクラッド光ファイバ自体の伝送損失による損失光量も含むことになるが、測定に供したダブルクラッド光ファイバは長さが5mであり、このような短い長さでは、前記伝送損失による損失光量は、被覆除去部及びリコート部での損失光量に比べて十分小さく、無視できる。したがって、「PLOSS」は「被覆除去部及びリコート部での損失光量」に等しいとみなすことができる。
この方法によるPLOSSの算出結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1〜9]
リコート工程において、硬化性樹脂を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させ、積層後直ちに硬化を開始したこと以外は、実施例1〜9と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。算出結果を表1に示す。
【0062】
表1の結果から明らかなように、被覆層の除去方法及びリコート層の形成方法によらず、減圧下で硬化性樹脂を積層させた実施例1〜9では、損失光量を0.08dB以下に低減できたのに対し、減圧せずに常圧下で硬化性樹脂を積層させた比較例1〜9では、損失光量が0.52dB以上となり、損失光量を低減できなかった。
【0063】
[実施例10〜18]
ダイス、モールド又は型に電熱線ヒータを設け、これらを該ヒータで加熱することにより、硬化性樹脂を60℃に保温しながら第一クラッド層の表面に積層させたこと以外は、実施例1〜9と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。算出結果を表1に示す。なお、硬化性樹脂として使用したフッ素化アクリレート樹脂は、60℃で硬化等の変性や分解が生じないことを予め確認しておいた。
【0064】
表1の結果から明らかなように、硬化性樹脂を60℃に保温しながら積層させた実施例10〜18では、室温で積層させた実施例1〜9よりも、さらに損失光量を低減できた。被覆除去部に異物があったり、第二クラッド層の露出端部の表面が荒れていたりして、これらに凹部があっても、保温された硬化性樹脂が凹部へ流入し易く、空隙部の発生を抑制できたと考えられる。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例19]
図1に示す断面を有し、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低いフッ素化アクリレート樹脂からなり、保護被覆層はウレタンアクリレート樹脂からなるダブルクラッド光ファイバを使用して、下記手順でリコートを行った。なお、光ファイバの第一クラッド層の外径は125μm、保護被覆層の外径は250μmである。
上記ダブルクラッド光ファイバを、図5に示すように、熱伝導体である金属プレートを介して、冷却手段であるペルチェ素子に設置した。そして、ペルチェ素子により、金属プレートの温度を10℃に維持してダブルクラッド光ファイバを冷却すると共に、図3に示すレーザ照射装置を使用して、波長が248nmであるKrFエキシマレーザをダブルクラッド光ファイバに照射した。照射するレーザ光の強度は、0.78mJ/cm2とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ステージを0.05mm/秒の速度で600秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、レーザを照射した。さらに、ファイバをその外周方向に90°回転させ、同様にレーザを照射し、同様の操作をさらに二回繰り返して、90°ごとに合計四方向からレーザを照射して、照射区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した(除去工程)。
次いで、図8に示すリコート装置を使用して、実施例1の場合と同様に、ダブルクラッド光ファイバの被覆除去部に(i)ダイス法でリコート層を形成した(リコート工程)。すなわち、ダイスはステンレス製であり、D41が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。また、樹脂の硬化に際しては、図7に示すような測定系を使用して、第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定できるようにした。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始し、損失光量を測定しながら硬化させた。事前に同様の光ファイバを使用して、UV光照射時間と、第一クラッド層の伝搬光の損失光量との関係を調査しておいたので、その結果を図11に示す。図11から明らかなように、UV光照射時間が長くなるに従って損失光量が減少して行き、その後、損失光量が増加に転じることが確認できた。そこで、本実施例では、損失光量を測定しながら硬化させ、損失光量が増加に転じた段階で速やかに水銀ランプを消灯し、硬化を停止させて、損失光量が最小となるようにした。
次いで、PLOSSを算出した結果、0.03dBであり、損失光量を極めて小さい値に低減できた。
【0067】
[参考例1]
除去工程において、ダブルクラッド光ファイバを冷却せず、リコート工程において、紫外線硬化性樹脂(フッ素化アクリレート樹脂)を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させたこと以外は、実施例19と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。その結果、PLOSSは0.45dBであった。
【0068】
[比較例10]
除去工程において、ダブルクラッド光ファイバを冷却せず、リコート工程において、紫外線硬化性樹脂(フッ素化アクリレート樹脂)を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させ、樹脂の硬化終了を目視で判断したこと以外は、実施例19と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。これを10回繰り返した結果、PLOSSの平均値は0.60dBであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、リコートを必要とするダブルクラッド光ファイバを使用した各種光部品に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・ダブルクラッド光ファイバ、11・・・コア、12・・・第一クラッド層、13・・・第二クラッド層、14・・・保護被覆層、15・・・リコート層、15’・・・硬化性樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、損失光量が低減されたダブルクラッド光ファイバが得られるように、第二クラッド層及び保護被覆層が除去された部位をリコートするダブルクラッド光ファイバのリコート方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シングルクラッド光ファイバは、コアを囲むクラッド層を有し、典型的なものとして、図12に例示するものが挙げられる。図12は、シングルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。ここに示すシングルクラッド光ファイバ9は、コア91と、コア91を囲むクラッド層92と、クラッド層92を囲む第一保護被覆層93と、第一保護被覆層93を囲む第二保護被覆層94とから概略構成されている。このようなシングルクラッド光ファイバでは、通常、石英ガラスからなるクラッド層の表面付近では、伝搬光の強度が極めて小さい。したがって、クラッド層92と第一保護被覆層93との界面やその近傍に異物があっても、散乱による伝搬光の大きな損失は生じない。そこで、被覆(第一保護被覆層93及び第二保護被覆層94)が除去されたシングルクラッド光ファイバ9において、露出されたクラッド層92を樹脂でコーティングし、再被覆するリコート時には、クラッド層92の表面やその近傍に異物があっても、良好な光特性を有する光ファイバが得られる。シングルクラッド光ファイバのリコート方法としては、モールド法(特許文献1参照)、ダイス法(特許文献2参照)又はキャスティング法(特許文献3参照)が例示できる。
【0003】
一方、図1は、ダブルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。ここに示すダブルクラッド光ファイバ1は、コア11と、コア11を囲む第一クラッド層12と、第一クラッド層12を囲む第二クラッド層13と、第二クラッド層13を囲む保護被覆層14とから概略構成されている。そして通常は、コア11及び第一クラッド層12は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層13及び保護被覆層14は硬化性樹脂の硬化物を主成分とする。ダブルクラッド光ファイバ1では、コア11中を第一伝搬光が、第一クラッド層12中を第二伝搬光がそれぞれ伝搬するが、第一クラッド層12の表面12a付近では、伝搬光の強度が大きい。したがって、第一クラッド層12と第二クラッド層13との界面やその近傍に異物があると、第二伝搬光が散乱されて、その結果、大きな光損失が生じ易い。
【0004】
図2は、ダブルクラッド光ファイバ1の中心軸を通る平面による長手方向の断面図である。
ここで、ダブルクラッド光ファイバ1は、第二クラッド層13と保護被覆層14の一部がそれぞれ除去され、該除去部位において第一クラッド層12が露出されており、被覆除去部10が形成されている。被覆除去部10において、符号13aは第二クラッド層13の露出端部を、符号14aは保護被覆層14の露出端部をそれぞれ示す。
通常、被覆除去部10においては、第一クラッド層の表面12aに異物8があることが多い。第二クラッド層13と保護被覆層14が除去される時には、これらのいずれか一方又は両方に由来する樹脂くずが除去されずに残存し易いからである。また、第二クラッド層の露出端部13aは変質し易く、その表面が荒れ易い。
【0005】
ここで、被覆除去部10における第二伝搬光の損失について説明する。
図13は、従来法で樹脂がリコートされた図2の被覆除去部10を拡大して例示する断面図であり、(a)は第一クラッド層の表面12aとその近傍を、(b)は第二クラッド層の露出端部13aとその近傍を、それぞれ例示する断面図である。
【0006】
まず、図13(a)に示すように、第一クラッド層の表面12aに異物8がある場合について説明する。異物8の表面には、通常複雑な凹凸があり、被覆除去部10で硬化性樹脂を積層させた際に、凹部80には硬化性樹脂が流入し難く、空気などの気体が残存し易い。この状態で硬化性樹脂を硬化させると、凹部80に気体が閉じ込められたままリコートが終了し、リコート層15のうち第一クラッド層の表面12aには、空隙部7が混在することになる。そして、空隙部7により第二伝搬光が散乱されて、大きな光損失が生じてしまう。
次に、図13(b)に示すように、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れている場合について説明する。前記露出端部13aには複雑な凹凸があり、被覆除去部10で硬化性樹脂を積層させた際に、凹部130には硬化性樹脂が流入し難く、気体が残存し易い。この状態で硬化性樹脂を硬化させると、上記と同様に、凹部130に気体が閉じ込められたままリコートが終了し、第二クラッド層13には、空隙部7が混在することになる。そして空隙部7が、第一クラッド層の表面12aの近傍にある場合には、空隙部7により第二伝搬光が散乱されて、大きな光損失が生じてしまう。なお、保護被覆層の露出端部14aは、第一クラッド層の表面12aからは遠い位置にあるので、通常はその表面が荒れていても問題にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−128440号公報
【特許文献2】特開平09−043446号公報
【特許文献3】特開昭60−103053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ダブルクラッド光ファイバでは、第一クラッド層の表面やその近傍に空隙部が混在することで、大きな光損失が生じてしまうが、これはシングルクラッド光ファイバでは見られない、ダブルクラッド光ファイバに特有の問題点である。そして従来、ダブルクラッド光ファイバには、シングルクラッド光ファイバと同様のリコート方法が適用されており、上記問題点の解決に有効なリコート方法がないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、空隙部の混在を抑制しながらリコート層を形成することで、損失光量を低減するようにダブルクラッド光ファイバをリコートする方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
本発明は、コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程と、減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程と、を有することを特徴とするダブルクラッド光ファイバのリコート方法を提供する。
本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記硬化性樹脂を、該硬化性樹脂が分解及び変性しない温度で保温しながら、前記第一クラッド層上に積層させることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定しながら、前記硬化性樹脂を硬化させることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記被覆層をレーザ照射により除去することが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記被覆層を、前記第二クラッド層が変性しない温度に冷却しながら除去することが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、前記硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂であり、前記第二クラッド層が紫外線硬化性樹脂を硬化してなるものであることが好ましい。
また、本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、モールド法、ダイス法又はキャスティング法で前記リコート層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、損失光量を低減するように、ダブルクラッド光ファイバをリコートできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ダブルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。
【図2】ダブルクラッド光ファイバの中心軸を通る平面による長手方向の断面図である。
【図3】レーザ照射によりダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
【図4】熱風の吹きつけによりダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
【図5】ダブルクラッド光ファイバを冷却するために、熱伝導体を介して該光ファイバを冷却手段に設置した状態を例示する概略図である。
【図6】リコート工程を説明するための、ダブルクラッド光ファイバの中心軸を通る平面による被覆除去部の拡大断面図であり、(a)は硬化性樹脂積層時の減圧下での拡大断面図、(b)は硬化性樹脂硬化前の常圧下での拡大断面図、(c)は硬化性樹脂硬化後の拡大断面図である。
【図7】ダブルクラッド光ファイバの損失光量を測定するための測定系を例示する概略構成図である。
【図8】ダイス法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
【図9】モールド法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
【図10】本発明のリコート方法を適用して作製したクラッドポンプ方式ファイバレーザを例示する概略構成図である。
【図11】実施例19のリコート工程における、紫外線硬化性樹脂に対するUV光照射時間と、第一クラッド層の伝搬光の損失光量との関係を示すグラフである。
【図12】シングルクラッド光ファイバを例示する径方向の断面図である。
【図13】従来法で樹脂がリコートされた図2の被覆除去部を拡大して例示する断面図であり、(a)は第一クラッド層の表面とその近傍を、(b)は第二クラッド層の露出端部とその近傍を、それぞれ例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のダブルクラッド光ファイバのリコート方法は、コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程(以下、除去工程と略記する)と、減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程(以下、リコート工程と略記する)と、を有することを特徴とする。
本発明において、「リコート」とは、被覆層が除去され、露出された第一クラッド層に樹脂を積層させ(コーティングし)、前記樹脂を硬化させて、再被覆することを指す。また、「被覆層」とは、特に断りがない限り、保護被覆層だけでなく、第二クラッド層も含めて、第一クラッド層を被覆している層全体を指すものとする。また、「変性」とは、「本来有する性質を失う」ことを指すものとする。
【0014】
光ファイバを硬化性樹脂で被覆する方法としては、例えば、減圧下で硬化性樹脂を光ファイバに塗布し、硬化させる方法が知られている。この方法は、硬化前の樹脂中にまき込まれていたり、溶解したりしている気体を除去することで、硬化された樹脂中への気泡の残存を抑制することを目的としている。そして、光ファイバ製造時における紡糸直後の光ファイバの被覆に適用される方法であり、特に樹脂のリコートを考慮したものではなく、ダブルクラッド光ファイバのリコートにそのまま適用しても、必ずしも伝搬光の損失を低減できない。
これに対し本発明は、硬化前の樹脂中にまき込まれていたり、溶解したりしている気体を除去するだけでなく、たとえ第一クラッド層の表面やその近傍に異物があったり、第二クラッド層の露出端部の表面が荒れていたりしても、当該部位の空隙部を消失させることで、伝搬光の損失が低減されたダブルクラッド光ファイバが得られるものである。
【0015】
リコートに供するダブルクラッド光ファイバは、公知のもので良い。すなわち、コア、第一クラッド層、第二クラッド層及び保護被覆層を有するものであり、例えば、図1に示すものが挙げられ、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、被覆層は硬化性樹脂の硬化物を主成分とするものが挙げられる。被覆層を形成する硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等が例示でき、後述するリコート層を形成するための硬化性樹脂と同様のものが挙げられる。被覆層の中でも第二クラッド層は、短時間での硬化が可能で光特性も良好であることから、光硬化性樹脂が好ましく、紫外線硬化性樹脂がより好ましい。ただし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低くなるようにする。
【0016】
(除去工程)
除去工程では、ダブルクラッド光ファイバの被覆層を除去して、第一クラッド層を露出させる。
被覆層は、少なくとも、ダブルクラッド光ファイバの中心軸方向の一部で除去すれば良い。そして、ダブルクラッド光ファイバの外周方向に一部を除去しても良いし、外周方向に全てを除去しても良い。
以下、図1に示すダブルクラッド光ファイバを使用して、被覆層を外周方向に全て除去し、図2に示すように第一クラッド層を露出させる場合について説明するが、その他の場合についても、同様に被覆層を除去できる。
【0017】
被覆層である第二クラッド層13及び保護被覆層14は、公知の方法で除去すれば良い。なかでも好ましい方法としては、(a)レーザ照射による除去、(b)熱風の吹きつけによる除去、(c)ナイフや剃刀等の切削器具を使用する切削除去(以下、「切削器具による除去」と略記する)等が例示できる。より詳細には、以下の通りである。
【0018】
(a)レーザ照射による除去
図3は、レーザ照射により被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
ここに例示するレーザ照射装置2は、レーザ発振器21、スリット22、ミラー23、レンズ24及びステージ25を備える。そして、ステージ25は、固定されたダブルクラッド光ファイバ1の長手方向(矢印Aの方向)に沿って移動可能とされている。
レーザ発振器21から発振されたレーザ20は、スリット22を通過してミラー23に到達し、反射されて向きを変えられ、レンズ24で集光された後、ダブルクラッド光ファイバ1の所定箇所に所定時間照射されるようになっている。ミラー23及びレンズ24は、ステージ25上に設置されており、ステージ25の移動に伴い、移動するようになっている。これにより、レーザ20の照射箇所を、固定されているダブルクラッド光ファイバ1の長手方向に沿って移動させて、被覆除去部10の長さを簡便に調節できるようになっている。ステージ25の移動距離が、被覆除去部10の長さとほぼ同じとなる。また、ダブルクラッド光ファイバ1は、その外周方向に回転させ、向きを変えて固定することで、さらにレーザ20の照射箇所を変えることが可能となっている。
なお、ここに示したレーザ照射装置は一例であり、被覆層の除去が可能であれば、如何なる構成でも良い。
【0019】
レーザの種類や照射条件は、除去対象の被覆層の種類に応じて適宜調節すれば良い。例えば、赤外線レーザ、可視光線レーザ、紫外線レーザ、X線レーザ等が例示でき、媒体も特に限定されず、ルビーレーザ、YAGレーザ等の固体レーザ;液体レーザ;炭酸ガスレーザ、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンガスレーザ、エキシマレーザ等のガスレーザ;半導体レーザ、自由電子レーザのいずれでも良く、これらを被覆層の除去に適した条件で照射すれば良い。なかでも、KrF、ArF等のエキシマレーザや、アルゴンガスレーザが好ましい。
【0020】
(b)熱風の吹きつけによる除去
図4は、熱風の吹きつけにより被覆層を除去する工程を説明するための概略図である。
ここに例示する熱風吹きつけ装置3は、ノズル32と、コンプレッサー(図示略)から送出された圧縮空気30’をノズル32に送る配管31と、ノズル32に設けられ、ノズル32から吹きつける圧縮ガスを加熱して熱風30とするためのヒータ33と、を備える。そして、ノズル32は、固定されたダブルクラッド光ファイバ1の長手方向(矢印Bの方向)に沿って移動可能とされている。
ノズル32から送出された熱風30は、ノズル32の方向を適切に設定することで、ダブルクラッド光ファイバ1の所定箇所に所定時間吹きつけられるようになっている。そして、ノズル32を移動させることで、熱風30の吹きつけ箇所を、固定されているダブルクラッド光ファイバ1の長手方向に沿って移動させて、被覆除去部10の長さを簡便に調節できるようになっている。ノズル32の移動距離が、被覆除去部10の長さとほぼ同じとなる。そして、上記のレーザ照射の場合と同様に、ダブルクラッド光ファイバ1は、その外周方向に回転させ、向きを変えて固定することで、さらに熱風30の吹きつけ箇所を変えることが可能となっている。
なお、ここに示した熱風吹きつけ装置は一例であり、被覆層の除去が可能であれば、如何なる構成でも良い。
【0021】
熱風のガスの種類は、被覆層の変性を抑制するために、不活性ガスが好ましく、窒素ガスが特に好ましい。
熱風の風量は、被覆層を除去できる限り特に限定されないが、ノズル32の内径に応じて調整することが好ましい。例えば、ノズル32の内径が1〜7mmである場合には、100〜400L/分であることが好ましい。
【0022】
上記の中でも、操作が簡便であり、除去効果が高く、しかも樹脂くず等の発生を抑制する高い効果が得られることから、(a)レーザ照射による除去が好ましい。レーザ照射では、アブレーション効果により、第二クラッド層13及び保護被覆層14を除去できる。
【0023】
除去工程では、第二クラッド層が変性しない温度に、被覆層を冷却して除去することが好ましい。これにより、第二クラッド層13、特に第二クラッド層の露出端部13aの変性が抑制され、被覆層の屈折率の変動が抑制される。また仮に、第二クラッド層由来の異物8が発生し、第一クラッド層の表面12aやその近傍に残存したとしても、この異物8は変性していないので、屈折率等が本来の第二クラッド層13と同等である。したがって、第二クラッド層13や保護被覆層14の形成に使用したものと同じ硬化性樹脂を使用してリコート層を形成した場合に、該リコート層は、第二クラッド層13や保護被覆層14と同様の光学特性を有するものとなる。したがって、伝搬光を効果的に閉じ込めることができ、伝搬光の損失を抑制する一層高い効果が得られる。
【0024】
第二クラッド層の変性を抑制するためには、変性する温度よりも低い温度に第二クラッド層の温度を調節すれば良く、冷却することが好ましい。この時の調節すべき温度は、第二クラッド層の種類によって異なり、一概には言えないが、例えば、フッ素化アクリレート樹脂を使用して形成されている第二クラッド層の場合には、200℃以下であることが好ましい。さらに、第二クラッド層を形成する樹脂のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却することにより、第二クラッド層の変形を抑制する高い効果が得られる。
【0025】
被覆層を冷却する方法としては、ダブルクラッド光ファイバの対象部位を冷媒中に浸漬させる方法、該対象部位を冷却手段上に設置する方法、該対象部位に冷風を吹きつける方法が例示でき、被覆層を除去する方法に応じて、選択すれば良い。
【0026】
前記対象部位を冷媒中に浸漬させる場合には、例えば、光ファイバを、これを固定している固定手段ごと冷媒中に浸漬させても良い。
レーザ照射で被覆層を除去する場合には、レーザを冷媒中の光ファイバの対象部位に直接照射すれば良い。そして、エキシマレーザを照射する場合には、冷媒の液面に対して略垂直な方向から照射すると、安定して被覆層を除去できる。さらに、光ファイバの対象部位は、被覆層表面の液面からの深さが5mm程度かそれ以下となるように浸漬させると、安定して被覆層を除去できる。
前記冷媒としては、好ましいものとして液体窒素等が例示できる。
【0027】
前記対象部位を冷却手段上に設置する場合には、冷却手段に直接接触させて設置しても良いし、金属や合金等の熱伝導体を介して設置しても良い。
図5は、ダブルクラッド光ファイバ1を、プレート状の熱伝導体29を介して冷却手段28に設置した状態を例示する概略図である。熱伝導体を介在させる場合には、ここに示すように、プレート状のものを使用することで、ダブルクラッド光ファイバ1を効率良く冷却できる。
前記冷却手段としては、好ましいものとしてペルチェ素子等が例示できる。
【0028】
前記対象部位に冷風を吹きつける場合には、ファンやノズルを使用して吹きつけ部位を安定させることが好ましい。また、ダブルクラッド光ファイバは固定することが必要であり、例えば、40〜200gf程度、好ましくは150gf程度の張力を印加することが好ましい。このようにすることで、光ファイバの揺れを防止でき、安定して被覆層を除去できる。
冷風のガスの種類は特に限定されず、空気、窒素等、入手可能なものから適宜選択すれば良い。なかでも不活性ガスが好ましく、窒素、アルゴン、ヘリウム等が特に好ましい。不活性ガスを使用することで、被覆層の成分と冷風のガスとの化学反応が抑制されるので、反応生成物が第一クラッド層の表面やその近傍に付着することがない。
冷風の風量は、冷却効果を有する限り特に限定されない。
【0029】
このように被覆層(第二クラッド層13及び保護被覆層14)を除去することで、図2に示すように、第一クラッド層の表面12aの一部が露出される。
なお、図2では、被覆層が除去されたダブルクラッド光ファイバとして、第一クラッド層の表面12aに異物8があり、かつ第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れているものを示しているが、これら条件のいずれか一方だけが満たされる場合もあるし、第二クラッド層の露出端部13aの表面に、異物8がある場合もある。
【0030】
(リコート工程)
除去工程後は、次いで、リコート工程を行う。図6は、リコート工程を説明するための、ダブルクラッド光ファイバ1の中心軸を通る平面による被覆除去部の拡大断面図であり、(a)は硬化性樹脂積層時の減圧下での拡大断面図、(b)は硬化性樹脂硬化前の常圧下での拡大断面図、(c)は硬化性樹脂硬化後の拡大断面図である。
リコート工程では、まず、減圧下で、露出させた第一クラッド層12上に硬化性樹脂15’を積層させる。この段階では、図6(a)に示すように、異物8の表面の凹部80、第二クラッド層の露出端部13aの凹部130には、硬化性樹脂15’が流入し難く、空隙部7’が形成されることがある。すなわち、減圧下で硬化性樹脂15’を積層させるだけでは、空隙部7’の発生は完全には抑制できない。
【0031】
硬化性樹脂15’は、リコート層を形成するためのものであり、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等、公知のものから目的に応じて任意に選択できる。通常は、第二クラッド層13と同様の屈折率を有する層を形成できる樹脂を使用することが好ましく、第二クラッド層13と同じ層を形成できる樹脂を使用することがより好ましい。このようにすることで、伝搬光の散乱を抑制して、損失光量を低減する一層高い効果が得られる。硬化性樹脂15’としては、短時間での硬化が可能で光特性も良好であることから、光硬化性樹脂が好ましく、紫外線硬化性樹脂がより好ましい。
【0032】
硬化性樹脂15’を積層させる方法は、減圧下で行えるものであれば特に限定されず、公知の方法から目的に応じて選択できる。具体的には、ディップ法、刷毛を使用して塗布する方法などでも良いが、好ましい方法としては、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法が例示できる。
【0033】
硬化性樹脂15’積層時の減圧下での圧力は、小さいほど好ましいが、100Pa以下であることが好ましく、50Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることが特に好ましい。圧力の下限は特に限定されず、真空でも良く、実現可能な圧力で良い。このような圧力とすることで、後述するように、硬化された樹脂中における空隙部の混在を抑制する一層高い効果が得られる。
【0034】
積層時の硬化性樹脂15’の粘度は、積層を妨げない範囲で低い方が好ましく、20〜3000mPa・sであることが好ましく、1500〜2500mPa・sであることがより好ましい。このような粘度とすることで、被覆除去部10に異物8があったり、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れていたりしても、これらの凹部80や凹部130には、硬化性樹脂15’が流入し易く、硬化性樹脂15’の積層段階で、空隙部7’の発生を抑制する高い効果が得られる。さらに、凹部80や凹部130に硬化性樹脂15’が流入し易いので、後述する、常圧に戻してから硬化を行うまでの時間も短縮できる。
【0035】
硬化性樹脂15’の粘度は、樹脂の種類を適宜選択することで調整できる。さらに、積層時に硬化性樹脂15’を加温することで、粘度を調整しても良い。加温による粘度調整は、使用できる硬化性樹脂15’の選択肢が広がる点で、特に好適である。
硬化性樹脂15’を加温する場合には、硬化性樹脂15’が分解及び変性しない温度とすることが好ましい。また、硬化性樹脂15’が熱硬化性樹脂である場合には、さらに、硬化する温度よりも低い温度とすることが好ましい。そして、硬化性樹脂15’を、上記のような温度で保温しながら積層させることが好ましい。硬化性樹脂15’が分解及び変性しない温度、硬化する温度は、樹脂の種類ごとに異なる。
【0036】
硬化性樹脂15’を保温しながら積層させる場合には、積層装置のうち、積層までに硬化性樹脂15’を保持する部位及び/又は運搬する経路を保温したり、積層前に硬化性樹脂15’に温風を吹きつけたりすれば良い。
【0037】
リコート工程では、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂15’を硬化させて、リコート層を形成する。本発明ではこのように、硬化性樹脂15’の硬化前に、減圧を解除して圧力を常圧に戻すことで、図6(b)に示すように、空隙部7’が硬化性樹脂15’で充填され、消失する。これは、空隙部7’内が減圧されているのに対し、硬化性樹脂15’が常圧下に置かれ、圧力差が生じることによる。そして、硬化性樹脂15’の積層時の圧力や粘度を上記のように設定することで、空隙部7’を一層容易に消失させることができる。
【0038】
リコート層は、硬化性樹脂15’を、その種類に応じて適した方法で硬化させることで形成できる。その結果、図6(c)に示すように、硬化性樹脂15’がリコート層15となった光ファイバ1が得られる。このように、本発明によれば、たとえ被覆除去部10に異物8があったり、第二クラッド層の露出端部13aの表面が荒れていたりしても、リコート層15は空隙部の混在が抑制されるので、損失光量を低減できる。
【0039】
常圧に戻してから硬化を行うまでの時間は、空隙部7’の消失、すなわち、硬化性樹脂15’の空隙部7’への充填に必要な時間よりも長ければ特に限定されない。ただし、硬化性樹脂15’の粘度、減圧時の圧力、前記凹部80及び凹部130の形状等を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、硬化性樹脂15’の粘度が低い場合、減圧時の圧力が高めの場合、前記凹部80及び凹部130が複雑な形状である場合(例えば、凹部表面にさらに凹凸がある場合)には、硬化までの時間は長めにすれば良いし、反対に硬化性樹脂15’の粘度が高い場合、減圧時の圧力が低めの場合、前記凹部80及び凹部130が単純な形状である場合(例えば、凹部表面が滑らかである場合)には、短めにしても良い。通常は、粘度が25℃において、1500〜2300mPa・s、減圧時の圧力が50Pa以下程度である場合には、常圧に戻してから硬化を行うまでの時間は、2〜30分であることが好ましい。
【0040】
リコート層は、硬化性樹脂15’の硬化度によって屈折率が変化する。そこで、所望の屈折率となるように硬化度を調整することが好ましく、そのためには、第一クラッド層12の伝搬光の損失光量を測定しながら、硬化性樹脂15’を硬化させることが好ましい。そして、通常は、第一クラッド層12の伝搬光の損失光量がゼロ、又は最小となるまで硬化させることが好ましい。
第一クラッド層12の伝搬光の損失光量は、ダブルクラッド光ファイバの損失光量を測定するための測定系で測定できる。図7は、このような測定系を例示する概略構成図である。
【0041】
ここに例示する測定系6は、光源61、ダブルクラッド光ファイバ1、光検出器63及び光ファイバ62で概略構成されている。
そして、光源61は、レーザダイオードコントローラ61aとレーザダイオードマウント61bとが光ファイバ61cを介して光学的に接続されたものである。また、光検出器63としては、パワーメータ等が例示できる。ただし、光源、光検出器はこれに限定されず、適宜必要に応じて選択できる。そして、これらのうち、レーザダイオードマウント61bには、さらに光ファイバ62の一端が光学的に接続され、該光ファイバ62の他端は、ダブルクラッド光ファイバ1の一端と融着されて光学的に接続されている。符号16は、光ファイバ62とダブルクラッド光ファイバ1との融着部である。そして、該光ファイバ1の他端は、光検出器63の測光部(図示略)に対向して配置されている。光源61及びダブルクラッド光ファイバ1としては、該光ファイバ1の第一クラッド層を光が伝搬するように、光ファイバの開口数(以下、NAと略記する)を考慮した組み合わせとする。また、前記光ファイバ1及び光検出器63としては、該光ファイバ1の他端から出射された光が、すべて光検出器63で受光されるように、NAを考慮した組み合わせとする。
このように測定系6においては、光源61から照射された光が、光ファイバ1のリコート部17を透過して、光検出器63で受光され、その受光量を測定することで、前記光ファイバ1の損失光量を確認できるようになっている。
【0042】
リコート層を形成したダブルクラッド光ファイバ1は、さらに、リコート層を保護被覆層で被覆するなどして、所望の構成のものとすることができる。
【0043】
以下、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法を適用した場合のリコート工程について、より具体的に説明する。
【0044】
(i)ダイス法
図8は、ダイス法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
ここに例示するリコート装置4は、真空チャンバー44の内部にダイス41及び硬化手段42を備える。ダイス41は、光ファイバが容易に設置できるように半割れ型でも良いし、一体型でも良い。また、貯留部41aの樹脂送出口の内径D41は、設置する光ファイバの外径に応じて、それよりも僅かに大きい値とすれば良い。硬化手段42は、硬化性樹脂15’の種類に応じて選択すれば良く、光源又は熱源等が例示できる。そして、真空チャンバー44には、真空ポンプ47が接続されると共に、リークバルブ441が設けられ、さらに外部から内部へ配管45が連通されており、内部において、配管45の先端部がダイスの貯留部41a上に配置されている。また、配管45には、真空チャンバー44の外部に位置するように、バルブ46が間挿されている。
【0045】
ダイス41には、被覆が除去されたダブルクラッド光ファイバ1を設置する。そして、リークバルブ441閉塞時に、真空ポンプ47を作動させて、真空チャンバー44の内部を減圧する。この状態でバルブ46を開放し、配管45を介してダイスの貯留部41aに硬化性樹脂15’を注入する。硬化性樹脂15’を注入後は、バルブ46を閉塞し、ダブルクラッド光ファイバ1を駆動手段(図示略)により一定の速度で引き下げる(矢印Cの方向)ことで、被覆除去部10において、第一クラッド層の表面12aに硬化性樹脂15’を積層させる。
次いで、ダブルクラッド光ファイバ1を停止させ、リークバルブ441を開放して減圧を解除し、真空チャンバー44の内部を常圧に戻す。そして、所定時間経過後、硬化手段42を作動させ、積層された硬化性樹脂15’を硬化させることで、リコート層を形成する。
【0046】
(ii)モールド法
図9は、モールド法を適用してリコート層を形成する工程を説明するための概略図である。
図9に例示するモールド51は、図8におけるリコート装置4の、真空チャンバー44の内部に、ダイス41に代わり配置されるものである。モールド51は通常使用されるもので良く、上型51a及び下型51bからなり、上型51aの接合面(割り面)には、割り溝510aが形成され、下型51bの接合面にも同様に、割り溝510bが形成されており、これら割り溝510a及び510bは、上型51a及び下型51b接合時に、一つの貫通孔510を形成するように、位置合わせされている。貫通孔510は、光ファイバを挿通し、硬化性樹脂を注入するためのものであり、その中心軸方向の長さは、ダブルクラッド光ファイバ1の被覆除去部10の長さに応じて、これよりもやや長くなるようにすれば良い。また、貫通孔510の内径D510は、上記内径D41と同様で良い。上型51a及び下型51bは、硬化性樹脂として光硬化性樹脂を使用する場合には、石英ガラス等の光透過性を有する材質で構成し、硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合には、金属や合金等の高熱伝導性を有する材質で構成することが好ましい。硬化手段42は、リコート装置4の場合と同様に配置しても良いし、モールド51の形態にあわせて、硬化が容易となるように調整して配置しても良く、モールド51を挟み込むように対向配置する例が挙げられる。
【0047】
モールド法では、上記ダイス法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を減圧し、図9(a)に示すように、割り溝510a及び510bに被覆除去部10を位置合わせして、ダブルクラッド光ファイバ1を設置する。そして、図9(b)に示すように、上型51a及び下型51bを接合させ、光ファイバ1が挿通されている貫通孔510の内部に、硬化性樹脂15’を注入し、被覆除去部10において、第一クラッド層の表面12aに硬化性樹脂15’を積層させる。
次いで、真空チャンバー44の内部を常圧に戻し、所定時間経過後、硬化手段42を作動させて、図9(c)に示すように、積層された硬化性樹脂15’を硬化させることで、リコート層を形成する。リコート層形成後は、図9(d)に示すように、上型51a及び下型51bを分割して、ダブルクラッド光ファイバ1を取り出せば良い。
【0048】
(iii)キャスティング法
キャスティング法では、通常の型(図示略)を使用してリコート層を形成すれば良い。型は、ダブルクラッド光ファイバの外径よりも内径が大きく、且つダブルクラッド光ファイバの被覆除去部の長さよりも中心軸方向の長さがやや長い溝を有するものが好ましい。型の材質は、前記モールドと同様で良い。
そして、図8におけるリコート装置4の、真空チャンバー44の内部に、ダイス41に代わりこのような型を配置したリコート装置を使用し、前記溝に被覆除去部10を位置合わせして、型の内部にダブルクラッド光ファイバ1を設置する。次いで、前記モールド法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を減圧し、光ファイバが設置されている溝に硬化性樹脂を注入し、被覆除去部において、第一クラッド層の表面に硬化性樹脂を積層させる。次いで、前記モールド法の場合と同様に、真空チャンバーの内部を常圧に戻し、所定時間経過後、積層された硬化性樹脂を硬化させることで、リコート層を形成する。
【0049】
リコートされたダブルクラッド光ファイバの損失光量は、例えば、前記測定系6を使用して測定できる。
【0050】
本発明のリコート方法は、例えば、ファイバレーザの共振器を構成するためのファイバブラッググレーティング(以下、FBGと略記する)のリコートに適用できる。FBGは、例えば、ダブルクラッド光ファイバの被覆を除去した後、該被覆除去部に紫外光を照射することで作製できるが、強度や光学特性を維持するために、被覆除去部のリコートが必要であり、本発明のリコート方法の適用対象として好適である。
また、ダブルクラッド光ファイバ同士、又はダブルクラッド光ファイバとその他の光ファイバとの接続にも本発明のリコート方法を適用できる。このような光ファイバの接続は、通常、光ファイバの端部同士を融着させることで行うが、融着時には、被覆層の除去が必要であり、融着部には被覆層がない。したがって、融着部の強度や光学特性を維持するためにリコートが必要であり、本発明のリコート方法の適用対象として好適である。
本発明の方法でリコートしたFBGや融着部は、リコート部での損失光量が低減され、第一クラッド層を伝搬するファイバレーザの励起光を効率良く利用できる。
【0051】
図10は、上記のようなFBG及び接続部のリコートに本発明のリコート方法を適用して作製したクラッドポンプ方式ファイバレーザを例示する概略構成図である。
ここに示すファイバレーザ60は、FBG18を備える光ファイバ1、励起レーザダイオード601及び増幅用光ファイバ602で概略構成されている。そして、増幅用光ファイバ602の両端は、いずれも光ファイバ1の一端と融着されて光学的に接続され、さらに一方の光ファイバ1のうち、増幅用光ファイバ602と融着されていない他端が、励起レーザダイオード601と融着されて光学的に接続されている。また、他方の光ファイバ1のうち、増幅用光ファイバ602と融着されていない他端が、レーザ出射光1aとなっている。符号603は、光ファイバ1と増幅用光ファイバ602、又は光ファイバ1と励起レーザダイオード601との融着部である。そして、融着部603及びFBG18は、本発明の方法でリコートされている。
【実施例】
【0052】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
[実施例1〜9]
図1に示す断面を有し、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低いフッ素化アクリレート樹脂からなり、保護被覆層はウレタンアクリレート樹脂からなるダブルクラッド光ファイバを使用して、下記手順でリコートを行った。なお、光ファイバの第一クラッド層の外径は125μm、保護被覆層の外径は250μmである。
上記ダブルクラッド光ファイバを、長手方向の長さが5mとなるように切断したものを九つ用意した。
次いで、(a)レーザ照射による除去、(b)熱風の吹きつけによる除去、(c)切削器具による切削除去、により、第二クラッド層及び保護被覆層を除去した(除去工程)ものを、それぞれ三つずつ作製した。具体的には、以下の通りである。
【0053】
<ダブルクラッド光ファイバのリコート>
(除去工程)
(a)レーザ照射による除去
図3に示すレーザ照射装置を使用して、波長が248nmであるKrFエキシマレーザをダブルクラッド光ファイバに照射した。照射するレーザ光の強度は、0.78mJ/cm2とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ステージを0.05mm/秒の速度で600秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、レーザを照射した。さらに、ファイバをその外周方向に90°回転させ、同様にレーザを照射し、同様の操作をさらに二回繰り返して、90°ごとに合計四方向からレーザを照射して、照射区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、被覆除去部のうち、第一クラッド層の表面、及び第二クラッド層の露出端部の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0054】
(b)熱風の吹きつけによる除去
図4に示す熱風吹きつけ装置を使用して、850℃の熱風をダブルクラッド光ファイバに吹きつけて、被覆層を除去した。吹きつける熱風の風量は、250L/分とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ノズルを10mm/秒の速度で3秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、熱風を吹きつけた。吹きつけ方向は一方向のみとし、吹きつけ区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、被覆除去部のうち、第一クラッド層の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0055】
(c)切削器具による切削除去
片刃剃刀を使用して手作業により、ダブルクラッド光ファイバの長手方向の所定区間において、第二クラッド層及び被覆層を全て除去した。その結果、上記(a)の場合と同様に、第一クラッド層の表面、及び第二クラッド層の露出端部の表面には、微小な凹凸を有する樹脂くずがあり、さらに第二クラッド層の露出端部の表面も荒れていた。
【0056】
上記(a)〜(c)の方法で処理されたダブルクラッド光ファイバの被覆除去部に、それぞれ、(i)ダイス法、(ii)モールド法、(iii)キャスティング法、を適用して、リコート層を形成した(リコート工程)。具体的には、以下の通りである。
【0057】
(リコート工程)
(i)ダイス法
図8に示すリコート装置を使用して、リコート層を形成した。ダイスはステンレス製であり、D41が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は150秒であった。
【0058】
(ii)モールド法
図9に示すリコート装置を使用して、リコート層を形成した。モールドは石英ガラス製であり、D510が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は160秒であった。
【0059】
(iii)キャスティング法
内径が1mmで石英ガラス製である円筒状の型を使用して、リコート層を形成した。硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始した。樹脂の硬化終了は目視で判断し、その結果、UV光照射時間は600秒であった。
【0060】
<リコートされたダブルクラッド光ファイバでの透過光パワーの測定>
図7に示す測定系を使用して、リコートされたダブルクラッド光ファイバでの損失光量を確認した。光源としては、波長980nmのレーザダイオードを含むものを使用し、光検出器としては、パワーメータを使用した。
まず、前記九種類のリコートされたダブルクラッド光ファイバの透過光パワーを測定し、測定値をP0とした。次いで、融着部16とリコート部17との間の中間点付近でダブルクラッド光ファイバを切断し、透過光パワーを測定して、測定値をP1とした。そして、式「PLOSS=P0−P1」で算出される、前記切断部での損失光量を、前記九種類の光ファイバについてそれぞれ求めた。「PLOSS」は、被覆除去部及びリコート部での損失光量以外に、ダブルクラッド光ファイバ自体の伝送損失による損失光量も含むことになるが、測定に供したダブルクラッド光ファイバは長さが5mであり、このような短い長さでは、前記伝送損失による損失光量は、被覆除去部及びリコート部での損失光量に比べて十分小さく、無視できる。したがって、「PLOSS」は「被覆除去部及びリコート部での損失光量」に等しいとみなすことができる。
この方法によるPLOSSの算出結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1〜9]
リコート工程において、硬化性樹脂を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させ、積層後直ちに硬化を開始したこと以外は、実施例1〜9と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。算出結果を表1に示す。
【0062】
表1の結果から明らかなように、被覆層の除去方法及びリコート層の形成方法によらず、減圧下で硬化性樹脂を積層させた実施例1〜9では、損失光量を0.08dB以下に低減できたのに対し、減圧せずに常圧下で硬化性樹脂を積層させた比較例1〜9では、損失光量が0.52dB以上となり、損失光量を低減できなかった。
【0063】
[実施例10〜18]
ダイス、モールド又は型に電熱線ヒータを設け、これらを該ヒータで加熱することにより、硬化性樹脂を60℃に保温しながら第一クラッド層の表面に積層させたこと以外は、実施例1〜9と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。算出結果を表1に示す。なお、硬化性樹脂として使用したフッ素化アクリレート樹脂は、60℃で硬化等の変性や分解が生じないことを予め確認しておいた。
【0064】
表1の結果から明らかなように、硬化性樹脂を60℃に保温しながら積層させた実施例10〜18では、室温で積層させた実施例1〜9よりも、さらに損失光量を低減できた。被覆除去部に異物があったり、第二クラッド層の露出端部の表面が荒れていたりして、これらに凹部があっても、保温された硬化性樹脂が凹部へ流入し易く、空隙部の発生を抑制できたと考えられる。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例19]
図1に示す断面を有し、コア及び第一クラッド層は石英ガラスを主成分とし、第二クラッド層は、第一クラッド層よりも屈折率が低いフッ素化アクリレート樹脂からなり、保護被覆層はウレタンアクリレート樹脂からなるダブルクラッド光ファイバを使用して、下記手順でリコートを行った。なお、光ファイバの第一クラッド層の外径は125μm、保護被覆層の外径は250μmである。
上記ダブルクラッド光ファイバを、図5に示すように、熱伝導体である金属プレートを介して、冷却手段であるペルチェ素子に設置した。そして、ペルチェ素子により、金属プレートの温度を10℃に維持してダブルクラッド光ファイバを冷却すると共に、図3に示すレーザ照射装置を使用して、波長が248nmであるKrFエキシマレーザをダブルクラッド光ファイバに照射した。照射するレーザ光の強度は、0.78mJ/cm2とした。ダブルクラッド光ファイバは固定して、ステージを0.05mm/秒の速度で600秒間、ファイバの長手方向に沿って移動させながら、レーザを照射した。さらに、ファイバをその外周方向に90°回転させ、同様にレーザを照射し、同様の操作をさらに二回繰り返して、90°ごとに合計四方向からレーザを照射して、照射区間の第二クラッド層及び被覆層を全て除去した(除去工程)。
次いで、図8に示すリコート装置を使用して、実施例1の場合と同様に、ダブルクラッド光ファイバの被覆除去部に(i)ダイス法でリコート層を形成した(リコート工程)。すなわち、ダイスはステンレス製であり、D41が260μmであるものを使用した。また、硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂であるフッ素化アクリレート樹脂を使用し、これを室温(24℃)で積層させ、硬化手段としてはUV光源である水銀ランプを使用した。真空チャンバーの内部は、ロータリーポンプにより、10Paまで減圧した。また、樹脂の硬化に際しては、図7に示すような測定系を使用して、第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定できるようにした。そして、減圧を解除して常圧に戻してから、5分後に水銀ランプを点灯させ、樹脂の硬化を開始し、損失光量を測定しながら硬化させた。事前に同様の光ファイバを使用して、UV光照射時間と、第一クラッド層の伝搬光の損失光量との関係を調査しておいたので、その結果を図11に示す。図11から明らかなように、UV光照射時間が長くなるに従って損失光量が減少して行き、その後、損失光量が増加に転じることが確認できた。そこで、本実施例では、損失光量を測定しながら硬化させ、損失光量が増加に転じた段階で速やかに水銀ランプを消灯し、硬化を停止させて、損失光量が最小となるようにした。
次いで、PLOSSを算出した結果、0.03dBであり、損失光量を極めて小さい値に低減できた。
【0067】
[参考例1]
除去工程において、ダブルクラッド光ファイバを冷却せず、リコート工程において、紫外線硬化性樹脂(フッ素化アクリレート樹脂)を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させたこと以外は、実施例19と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。その結果、PLOSSは0.45dBであった。
【0068】
[比較例10]
除去工程において、ダブルクラッド光ファイバを冷却せず、リコート工程において、紫外線硬化性樹脂(フッ素化アクリレート樹脂)を減圧せずに常圧下で、第一クラッド層の表面へ積層させ、樹脂の硬化終了を目視で判断したこと以外は、実施例19と同様にリコートを行い、PLOSSを算出した。これを10回繰り返した結果、PLOSSの平均値は0.60dBであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、リコートを必要とするダブルクラッド光ファイバを使用した各種光部品に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・ダブルクラッド光ファイバ、11・・・コア、12・・・第一クラッド層、13・・・第二クラッド層、14・・・保護被覆層、15・・・リコート層、15’・・・硬化性樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、
前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程と、
減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程と、
を有することを特徴とするダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂を、該硬化性樹脂が分解及び変性しない温度で保温しながら、前記第一クラッド層上に積層させることを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項3】
前記第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定しながら、前記硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項4】
前記被覆層をレーザ照射により除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項5】
前記被覆層を、前記第二クラッド層が変性しない温度に冷却しながら除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂であり、前記第二クラッド層が紫外線硬化性樹脂を硬化してなるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項7】
モールド法、ダイス法又はキャスティング法で前記リコート層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項1】
コアと、該コアを囲む第一クラッド層と、該第一クラッド層を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層が、前記第一クラッド層を囲む第二クラッド層を有するダブルクラッド光ファイバをリコートする方法であって、
前記被覆層を除去して、前記第一クラッド層を露出させる工程と、
減圧下で、露出させた第一クラッド層上に硬化性樹脂を積層させ、次いで、常圧下で前記硬化性樹脂を硬化させて、リコート層を形成する工程と、
を有することを特徴とするダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂を、該硬化性樹脂が分解及び変性しない温度で保温しながら、前記第一クラッド層上に積層させることを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項3】
前記第一クラッド層の伝搬光の損失光量を測定しながら、前記硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項4】
前記被覆層をレーザ照射により除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項5】
前記被覆層を、前記第二クラッド層が変性しない温度に冷却しながら除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂であり、前記第二クラッド層が紫外線硬化性樹脂を硬化してなるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【請求項7】
モールド法、ダイス法又はキャスティング法で前記リコート層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のダブルクラッド光ファイバのリコート方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−250167(P2010−250167A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100942(P2009−100942)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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