説明

ダブルスキンカーテンウォールの構築方法

【課題】建物外周位置で行われる各種現場作業の安全性を向上させるダブルスキンカーテンウォールの構築方法を提供する。
【解決手段】上下方向の壁部と、同壁部の内側面の略中央位置から建物内方のスラブ方向に伸びる床部とをT字状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体と、前記壁部の外面から建物の外方へ突出して設けた片持ち支持部とで構成されたPC先端小梁を、外周柱から突き出された跳出し梁間へ架設し、PC先端小梁の床部の内側に建物のスラブコンクリートを打設して、同PC先端小梁とスラブとを一体的に接合し、PC先端小梁から外向きに設けられた片持ち支持部の先端にアウタースキンを取り付け、PC先端小梁の壁部の上下にインナースキンを取り付ける 。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の外周位置に配置されるダブルスキンカーテンウォールを構築する方法の技術分野に属し、更に云えば、建物外周位置で行われる各種現場作業の安全性を向上させるダブルスキンカーテンウォールの構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の外装を構成するカーテンウォールとして、ダブルスキンカーテンウォールがあり、例えば下記の特許文献1に記載されて公知である。このダブルスキンカーテンウォールとは、室内側のパネル板であるインナースキンと、室外側のパネル板であるアウタースキンとを有し、このインナースキンとアウタースキンとの間に所定の空間を設けたものであり、前記両パネル板は、通常ガラスが用いられている。こうしたダブルスキンカーテンウォールを建物の外周位置に配置することで、建物の優れた美観が得られること、太陽光を大きく取り入れて明るい室内空間を提供できること、また、両パネル板の空間を用いて空気の喚起を行い、室内の空調設備を簡素化し環境負荷を低減できるなどの利点がある。
【0003】
上記ダブルスキンカーテンウォールを建物の外装として取り付ける構築方法としては、建物外周位置での各種現場作業を安全に作業できること、耐火被覆等の防火処理作業を省略することなどが求められるが、未だ有効な構築方法は開示されていないのが現状である。
【0004】
ところで、上記建物外周位置での作業の簡略化、耐火被覆作業の省略を鑑みたシングルスキンカーテンウォールの構築方法が、下記の特許文献2に記載されている。
図4に示すように、梁部61及び梁部上の床部62(スラブ)とを略L字形状に一体化したプレキャスト製コンクリートで成るPC先端小梁60を支持大梁63に接合して配置し、PC先端小梁60をスラブと一体化した後、同PC先端小梁60の外側端部に設けられた金具64によりカーテンウォールを取り付ける方法とされている。
したがって、上記PC先端小梁60は、プレキャストであるため耐火被覆作業を省略できるし、床部を一体化しているためスラブの打設作業等を建物内方側で作業でき建物外周位置での作業を安全に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−253794号公報
【特許文献2】特開2002−227334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2の発明は、PC先端小梁60をプレキャスト製として耐火被覆作業を省略する点は認められる。しかし、やはりシングルスキンカーテンウォールの構築方法であり、ダブルスキンカーテンウォールを構築する方法に適用できない。特に建物外周位置で重量のある2枚ものパネル板を安全に支持できる方法ではないし、スラブ打設後の外周位置での作業はカーテンウォールが支持されていないため落下等の危険が依然として残る。したがって、特許文献1及び2の発明を総合しても、作業の安全性の向上と、耐火被覆などの防火処理作業の省略化の両方の効果を発揮させることはできなかった。
【0007】
ところで、2000年施行の建築基準法の改正で、非耐力壁においても火災時のフラッシュオーバーを防止するため90cm以上の部分を耐火構造材で区画することが決められた。しかし、特許文献2のPC先端小梁60の梁部61の高さは、大梁63より低いことから90cmを満たしていないと推測される。したがって、建築基準法の改正に合致した防火区画を確保するには、図示では省略されているが危険な建物外周位置において、高さ90cm以上の鉄板をカーテンウォール64の内側に配置しかつ、PC先端小梁60へ堅固に緊結する作業が余計に必要となり、建物外周位置での危険な作業が増え、且つ作業効率が悪くなるという問題がある。
【0008】
また、せいの低いPC先端小梁60は、重量のあるカーテンウォールを構築すると、鉛直変形により撓みが生じ施工精度が著しく悪くなるという問題点がある。特に上記2枚のパネル板で成るダブルスキンカーテンウォールは重量が大きいため、特許文献2のPC先端小梁60を適用することは難しい。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解決することであり、ダブルスキンカーテンウォールにおいて、建物外周位置で行う各種現場作業の安全性を向上させること、及び耐火被覆作業などの防火処理作業を省略化するという二つの効果を発揮できる構築方法を提供することであり、更に、作業効率と施工精度を飛躍的に向上できるダブルスキンカーテンウォールの構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るダブルスキンカーテンウォールの構築方法は、
建物の外周位置に配置されるダブルスキンカーテンウォールを構築する方法において、
上下方向の壁部と、同壁部の内側面の略中央位置から建物内方のスラブ方向に伸びる床部とをT字状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体と、前記壁部の外面から建物の外方へ突出して設けた片持ち支持部とで構成されたPC先端小梁を、外周柱から突き出された跳出し梁間へ架設し、
前記PC先端小梁の床部の内側に建物のスラブコンクリートを打設して、同PC先端小梁とスラブとを一体的に接合し、
しかる後に、PC先端小梁から外向きに設けられた片持ち支持部の先端にアウタースキンを取り付け、次いで、前記PC先端小梁の壁部の上下にインナースキンを取り付けることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載したダブルスキンカーテンウォールの支持構造において、
PC先端小梁の壁部は、その高さを防火区画を形成可能な高さ以上としていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜3に記載した発明に係るダブルスキンカーテンウォールの支持構造は、壁部5と床部6とをT字形状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体7と、同壁部5の外面から建物の外方へ突出して設けられた片持ち支持部8、8’とで構成したPC先端小梁4を、外周柱2から突き出された跳出し梁2a、2a間へ架設する。PC先端小梁4をスラブ11と一体化した後に、先ず前記PC先端小梁4に設けられた片持ち支持部8、8’にアウタースキン13を取り付ける。次いで、PC先端小梁4の壁部5の上下面にインナースキ12ンを取り付ける方法とした。つまり、2枚のパネル材のうち建物の最外周に位置するアウタースキン13を最初に取り付けることで、PC先端小梁4の壁部6の上下面へインナースキン12を取り付ける作業や、その他の建物外周位置での各種作業を安全な作業領域で行うことができる。
【0013】
また、PC先端小梁4は耐火被覆の必要がないプレキャストコンクリート製であり、その壁部の高さを防火区画を形成可能な高さ以上として、2000年の建築基準法に合致した防火区画をPC先端小梁4の壁部5のみで構成できるようにしたので、ダブルスキンカーテンウォールの支持に係る耐火被覆を含む防火処理作業を大幅に省略して作業効率が飛躍的に向上できる。
また、せいの高い壁部5がダブルスキンカーテンウォールの重量に十分耐え得る剛性を発揮することで、PC先端小梁4の鉛直変形を確実に防止して、施工精度を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るダブルスキンカーテンウォールの構築方法を実施した一実施例を示す側断面図であり、図2のI−I線矢視断面図である。
【図2】図1のダブルスキンカーテンウォールを構築した状態を示す平面図である。
【図3】図2のII−II線矢視断面図である。
【図4】従来例を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、建物1の外周位置に配置されるダブルスキンカーテンウォール12、13を構築する構築方法である。
高さが防火区画を形成可能な高さ(90cm)以上を有する壁部5と、同壁部5の内側面の略中央部から建物1内方のスラブに伸びる床部6とをT字状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体7と、壁部6の外面から建物1の外方へ突出して設けた片持ち支持部8、8’とで構成されたPC先端小梁4を、外周柱2から突き出された跳出し梁2a、2a間へ架設して建物外周位置へ配置される。
前記PC先端小梁4の床部6の内側に建物のスラブコンクリートを打設して、同PC先端小梁4とスラブ11とを一体的に接合する。
しかる後に、前記PC先端小梁4から外向きに設けられた片持ち支持部8、8’の先端にアウタースキン13を取り付け、次いで、前記PC先端小梁4の壁部5の上下にインナースキン12を取り付ける。
【実施例1】
【0016】
以下に、本発明を図1〜3に示した実施例に基づいて説明する。
【0017】
図示した建物1の架構は、多数の柱2と、同柱2の相互を高さ方向に多段に且つ水平面内で縦横に連結する多数のH型鋼で成る大梁3とを互いに結合して構成されている。柱2には、建物1の外方へ突き出た跳出し梁2aが設けられており、この跳出し梁2aは建物の最外周縁位置に配置され、建物1の高さ方向に沿って間隔を隔てて、かつ建物1の外周方向に沿って互いに間隔を隔てて、碁盤の目状に配列されている。
上記のように配列された跳出し梁2a間には、図2の平面図に示すように、建物1の外周方向に沿って水平に掛け渡される、ダブルスキンカーテンウォールを取り付けるためのPC先端小梁4が取り付けられる。
【0018】
次に、PC先端小梁4の具体的構成について説明する。このPC先端小梁4は、上下方向の壁部5と、同梁部5の内側面の略中央位置から建物内方スラブに伸びる床部6とをT字状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体7(以下、単に梁主体7と云う。)と、 同梁主体7の壁部5の外面から建物1の外方へ突出して設けられた片持ち支持部8(8’)とで構成されている。
【0019】
前記プレキャストコンクリート製で成る梁主体7は、図示することは省略するが、予め工場等で内部に壁部5から床部6にわたって、梁主筋やスターラップ鉄筋などの各種鉄筋を組んで埋設されて、鉄筋コンクリート製に製造されるため、それぞれの部材の取付位置精度を高く確保できる。
【0020】
前記壁部5は、防火区画を構築可能な90cm以上の高さを有している。これは、上述した建築基準法の改正で、非耐力壁においても火災時のフラッシュオーバーを防止するため90cm以上の部分を耐火構造材で区画するという基準に適合するものである。したがって、建築基準法に合致した防火区画をPC先端小梁4の壁部5のみで構成できる。これは、ダブルスキンカーテンウォールの支持構造を容易化して作業効率を向上するだけでなく、特に建物の外装材としてガラスを用いる場合、外装パネルの内面側に耐火材を取り付ける必要がないので建物1の美観を損うことがない。また、高さが十分にあるので、重量の重いガラスで成るダブルスキンカーテンウォールを支持しても剛性を発揮してPC先端小梁4が鉛直変形することを防止できる。
【0021】
前記壁部5とT字形状に一体化された床部6は、跳出し梁2a間に架け渡されるべく建物1の外周方向に沿って長く、建物1の内外方向には幅狭に形成されており、特に柱2の周辺部は同柱2をよけるように切り欠かれて幅狭とされ、柱2、2間においては大梁3の上面端部に載置される程度の幅に形成されている。更に、床部6の跳出し梁2aのフランジの上面へ載置される箇所には、雌ねじ部9が設けられて(図1参照)同フランジ上面とボルト接合する構成とされている。また、柱2、2間においては床部6の端部から接合鉄筋10が突き出ており(図3参照)、スラブと一体化される構成とされている。
前記床部6と跳出し梁2aとの接合は上記の限りではなく、アンカーボルトによる接合としても良い。
【0022】
上記構成の壁部6の外側面に取り付けられた片持ち支持部8は、所謂コッターであり、建物1の外周方向に沿って1.8m毎に取り付けられている。因みに、PC先端小梁4の両端部に設けられる片持ち支持部8’は、隣り合うPC先端小梁4との関係上約半分の幅に形成されているが、この限りではない。
【0023】
上記の構成のPC先端小梁4を柱2の跳出し梁2a、3a間に載せ架けて建物1の最外周縁に取り付けられると、その床部6が打設されるスラブコンクリートを堰き留める機能を発揮すると共に、前記接合鉄筋10がスラブコンクリート中へ埋設され、これによりスラブ10とPC先端小梁4とが一体化される。なお、スラブ11及びPC先端小梁4の床部6の上にはさらに床仕上げモルタルが施工される。
【0024】
次に、PC先端小梁4のダブルスキンカーテンウォールを接合する構造について説明する。
先ず、壁部5において、その上下面にL字状の接合金物50、50が取り付けられている。この接合金物50は、L字状の底面部50aと壁部5とがボルト接合により取り付けられ、起立部50bとインナースキン12の上下辺とがボルト接合される構成とされている。
PC先端小梁4の片持ち支持部8及び8’は、その上面にやはりL字状の接合金物80が取り付けられている。この接合金物80は、その底面部80aと片持ち支持部8、8’とがボルト接合され、起立部80bとアウタースキン13とがボルト接合される構成とされている。
【0025】
上記のようなプレキャスト製コンクリートを主体とするPC先端小梁4は、以下の手順に従って建物1の外周位置に取り付けられる。
まず、工場等において製作された上記PC先端小梁4は、現場において施工箇所となる跳出し梁2a、3a間に揚重される。PC先端小梁4は、その壁部5を垂直に立て床部6を水平に寝かせた状態で揚重され、同床部6を跳出し梁2aのフランジ上面に載置することで、建物1の外周方向に互いに隣接する一対の跳出し梁2a間に架け渡され、雌ねじ部9により同跳出し梁2aとボルト接合される。上記作業を建物1の周りに実施することにより、PC先端小梁4…を建物1の外周に配置する。
【0026】
上記のようにPC先端小梁4を跳出し梁2aに取り付けると、同床部6によって建物1の内方側に区画された凹部(11)へデッキプレートを敷き込み、スラブ配筋を施工し、その後、凹部(11)へスラブコンクリート打設する。このようにスラブコンクリートを凹部(11)へ打設することにより、PC先端小梁4はスラブ11に対して一体的に接合される。つまり、PC先端小梁4にはスラブを兼ねる床部6を有するので、上記スラブ構築作業の全てを建物1の内方側で行うことでき作業の安全性を向上することができる。また、PC先端小梁4の床部6はプレキャストコンクリート製であるので、その上を安全な作業通路として利用することもできる。
【0027】
上記のようにPC先端小梁4がスラブ11へ接合されると、ダブルスキンカーテンウォールが取り付けられる。取付手順として、先ずPC先端小梁4の片持ち支持材8、8’の接合金物80、80の起立部80bにアウタースキン13をボルト接合して取り付ける。上記アウタースキン13を最初に取り付けることで、建物1の最外周位置での危険な作業をこの段階で終了することができる。
【0028】
上記のように安全な作業領域を確保した上で、PC先端小梁4の壁部6の上下面に取り付けられた上下面の接合金物50、50のうち図示例では下面の接合金物50の起立部50bに、インナースキン12の上辺部をボルト接合して取り付ける。勿論、インナースキン12の下辺部は、図示することを省略したが、下層階に既に取付られているPC先端小梁4の壁部6の上面に取り付けられた接合金物50の起立部50bと接合されている。この作業を建物1の各階層毎に行う。
上記の一連の作業によって建物1の外装を成すダブルスキンカーテンウォールの取付が完成する。
【0029】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のため付言する。
【符号の説明】
【0030】
1 建物
2 柱
3 大梁
4 PC先端小梁
5 壁部
6 床部
7 プレキャスト製梁主体
8、8’片持ち支持部
12 インナースキン
13 アウタースキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外周位置に配置されるダブルスキンカーテンウォールを構築する方法において、
上下方向の壁部と、同壁部の内側面の略中央位置から建物内方のスラブ方向に伸びる床部とをT字状に形成したプレキャストコンクリート製梁主体と、前記壁部の外面から建物の外方へ突出して設けた片持ち支持部とで構成されたPC先端小梁を、外周柱から突き出された跳出し梁間へ架設し、
前記PC先端小梁の床部の内側に建物のスラブコンクリートを打設して、同PC先端小梁とスラブとを一体的に接合し、
しかる後に、PC先端小梁から外向きに設けられた片持ち支持部の先端にアウタースキンを取り付け、次いで、前記PC先端小梁の壁部の上下にインナースキンを取り付けることを特徴とする、ダブルスキンカーテンウォールの構築方法。
【請求項2】
PC先端小梁の壁部は、その高さを防火区画を形成可能な高さ以上としていることを特徴とする、請求項1に記載したダブルスキンカーテンウォールの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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