説明

ダブルステッチ用ミシン

【課題】上糸がミシン針に左右対称に通され、同一方向に回転する二つの釜の剣先で糸ループを捕捉して縫い目を形成するダブルステッチ用ミシンであって、左右の縫い目の見栄えが均等なダブルステッチを作成できるダブルステッチ用ミシンを提供する。
【解決手段】ダブルステッチ用ミシンにおいて、左右のミシン針の取り付け高さを異ならせることにより、左右の針穴の高さ位置を互いに異ならせる。これにより、被縫製物及び針の進行方向と釜の回転方向との相対関係が左右で異なることによって生じる左右の上糸の繰り出し量の差を補うことで、左右の縫い目を形成する上糸の長さを均等にすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルステッチ用ミシンに関し、さらに詳しくは、二枚の布地の縫い合わせ部分の一方の布地の折り返し部分と他方の布地の折り返し部分とをそれぞれ同時にそれらの布地に縫い付けるダブルステッチ用ミシンにおける二本のミシン針の取り付け部分の取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般に使用されるダブルステッチ用ミシンは、例えば特許文献1に示される。図5(b)に示すように、二本のミシン針91a、91bが左右に平行に並び、同じ高さに取り付けられる。二本のミシン針91a、91bの針穴91a’、91b’に上糸92a、92bが左右対称な方向に通される。上糸92a、92bが針穴91a’、91b’に内側から外側に向かって通されている場合、縫製時には糸ループが二本のミシン針91a、91bのそれぞれ外側に形成される。また、図5(a)に示すように、2つの釜93a、93bがモーター等によって共に右回りに回転され、二つの釜93a、93bの釜剣先93a’、93b’がミシン針91a、91bに形成された糸ループを捕捉した後、上糸92a、92bを釜93a、93bに巻き込んで下糸と絡ませることにより縫い目が形成される。
【0003】
このように、左右のミシン針に上糸が左右対称な方向に通され、釜の回転方向が左右で同じであると、被縫製物の進行方向、釜の回転方向、釜剣先による上糸の引張り方向、及び上糸の撚り方向の間の相対関係が左右で異なってしまう。この結果、ダブルステッチを構成する左右の縫い目が不均一となる。すると、縫い目の強度や見栄えが左右で異なってしまうことになり、好ましくない。ダブルステッチは、縫い代を固定する役割のみならず、装飾的役割も担うことも多いため、見栄えを左右均等とすることは重要である。
【0004】
この問題を解決するために、釜の回転方向及びミシン針に糸を通す方向が従来一般に用いられる形態から変更された二本針ミシンが提案されている。特許文献2に示される実施例の概略図を図5(c)及び(d)に示す。二本のミシン針91a、91bの針穴91a’、91b’に上糸92a、92bを通す方向が左右対称ではなく、左のミシン針91aの針穴91a’には外側から内側に上糸92aが通され、右のミシン針91bの針穴91b’には内側から外側に上糸92bが通される。釜93a、93bの回転方向は従来どおり両方とも右回りであり、左の釜93aの釜剣先93a’は左のミシン針91aの内側に形成された糸ループを捕捉し、右の釜93bの釜剣先93b’は右のミシン針91bの外側に形成された糸ループを捕捉する。
【0005】
次に、特許文献3に示される実施例を図5(e)及び(f)に示す。二本のミシン針91a、91bの針穴91a’、91b’に上糸92a、92bを通す方向は、従来通り左右対称であり、左右両方とも外側から内側である。左右の釜93a、93bの回転方向は相互に異なり、左の釜93aは左回り、右の釜93bは右回りである。それぞれの釜の釜剣先93a’、93b’は、二本のミシン針91a、91bの外側に形成された糸ループを捕捉する。
【0006】
最後に、特許文献4に示される実施例を図5(g)及び(h)に示す。二本のミシン針91a、91bの針穴91a’、91b’に上糸92a、92bを通す方向が左右対称ではなく、左のミシン針91aの針穴91a’には外側から内側に上糸92aが通され、右のミシン針91bの針穴91b’には内側から外側に上糸92bが通される。左右の釜93a、93bの回転方向は相互に異なり、左の釜93aは左回り、右の釜93bは右回りである。左の釜93aの釜剣先93a’は左のミシン針91aの内側に形成された糸ループを捕捉し、右の釜93bの釜剣先93b’は右のミシン針91bの外側に形成された糸ループを捕捉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−99584号公報
【特許文献2】特公平2−15240号公報
【特許文献3】特開平8−332292号公開公報
【特許文献4】特開2003−111991号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献2〜4に示された二本針ミシンのいずれかを使用すれば、左右の上糸の繰り出しの程度及び/または引っ張りの程度を均等にすることができるので、左右の縫い目の見栄えが均等なダブルステッチを形成することが可能ではあるが、上糸をミシン針に通す方向及び/または釜の回転方向が既存の一般に用いられるダブルステッチ用ミシンと異なっているため、既存のダブルステッチ用ミシンをそのまま使用することはできず、新たに製作したミシンを使用するか、既存のミシンに大幅な改造を加えることが必要となる。また、釜等の部品も既存のものから交換することが必要となる場合がある。その結果、大きなコストを要することになる。
【0009】
本発明の課題は、従来一般に用いられるダブルステッチ用ミシンと同様に、上糸が二本のミシン針の針穴に左右対称に通され、左右の釜が同じ方向に回転する構造を有するダブルステッチ用ミシンであって、左右の縫い目の見栄えが均等なダブルステッチを形成することができるダブルステッチ用ミシン、特にダブルステッチ用二本針総合送りミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、左右に平行に配置された二本の針と、各針に対応して配置された釜剣先を有する二つの釜とを備え、二本の針の針穴に上糸が左右対称に通され、各針に左右対称に形成された糸ループを同一方向に回転する各釜の釜剣先に捕捉させることによって二つの釜に上糸を巻き込んで縫い目を形成するダブルステッチ用ミシンであって、上糸の繰り出し量が左右で同一になるように、上糸が通される二本のミシン針の針穴の高さ位置が互いに異なるように構成したことを要旨とする。
【0011】
この場合に、同一形状の二本のミシン針を互いに異なる高さ位置に取り付けることにより、二本のミシン針の針穴の高さ位置を互いに異ならせることができる。
【0012】
特に二本針総合送りミシンにおいては、釜剣先が上糸を捕捉した直後の釜の回転方向が被縫製物の進行方向と逆向きである側のミシン針の針穴が、剣先が上糸を捕捉した直後の釜の回転方向が被縫製物の進行方向と同じ向きである側のミシン針の針穴よりも高い位置にあり、二つの針穴の高さ位置の差が、一ピッチの縫い目が形成される間に上糸供給源から繰り出される左右の上糸の長さの差の半分に等しくなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダブルステッチ用ミシンによれば、二本のミシン針の針穴にそれぞれ上糸が左右対称に通され、同じ方向に回転する二つの釜の釜剣先が糸ループを捕捉して縫い目を形成する時に、一方の釜の釜剣先に捕捉された方の上糸と他方の釜の釜剣先に捕捉された方の上糸とで繰り出される量が異なるのを、穴の高さ位置を相互に異ならせることにより補うことで、左右均等な見栄えのダブルステッチが形されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいて、ミシン針の針穴の高さ位置を左右で同一とした場合に縫い目が形成される過程を時系列順に示す平面図である。
【図2】本実施形態に係るダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいて、ミシン針の針穴の高さ位置を左右で同一とした場合の側面図である。点線は図1(a)の状態に対応し、実線は図1(b)の状態に対応する。
【図3】本実施形態に係るダブルステッチ用ミシンの概略図であり、(a)は針及び釜近傍の斜視図、(b)は針取り付け部分の側面図である。
【図4】本実施形態に係るダブルステッチ用ミシンを用いてダブルステッチを施した被縫製物の模式図である。(a)は二本のミシン針の針穴の高さ位置を同一とした場合、(b)は二本のミシン針の針穴の高さ位置を互いに異ならせた場合を示す。
【図5】従来例による二本針ミシンのミシン針及び釜の概略図である。(a)及び(b)は従来一般の二本針ミシンの実施例、(c)及び(d)は改良された実施例、(e)及び(f)は別の改良された実施例、(g)及び(h)は更に別の改良された実施例に係るものである。(a)、(c)、(e)、(g)は平面図であり、(b)、(d)、(f)、(h)はミシン針の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るダブルステッチ用ミシンについて、図面とともに詳細を説明する。この実施形態においては、ダブルステッチ用二本針総合送りミシンの例を示している。
【0016】
まず初めに、二本針総合送りミシンは、被縫製物の送りに同調させて、ミシン針を上下方向の往復運動と同時に被縫製物の送り方向と平行な方向にも往復運動させて縫製を行う。
【0017】
本実施形態に係るダブルステッチ用二本針総合送りミシンのミシン針及び釜の近傍の概略を図1〜3に示す。二本のミシン針1a及び1bが平行に配置される。各ミシン針は先端近傍に針穴1a’、1b’を有する。上糸2a及び2bが二本のミシン針1a、1bの針穴1a’、1b’に内側から外側に向かって通される。二本のミシン針1a、1bは同一の形状を有する。下糸を巻いたボビンが収納される釜3a、3bがそれぞれミシン針1a、1bの下方左側及び右側に配置される。釜3a、3bはそれぞれ釜剣先3a’、3b’を有する。ミシン針1a、1bは往復上下運動しながら、被縫製物の送りと同調して被縫製物進行方向Tに平行な往復運動(以下「前後運動」と称することがある)をする。二つの釜3a及び3bは、同じ方向Rに回転する。通常、図1〜3に示した通り、二つの釜3a及び3bはともに右回りに回転する。
【0018】
次に、このダブルステッチ用二本針総合送りミシンによって一ピッチの縫い目が形成される過程を説明する。図1及び図2は、本実施例に係るミシンについて、二本のミシン針の針穴の高さ位置を同一にした場合を示す。図1(a)に実線で示し、図2に点線で示す一ピッチの縫い目の形成が開始される時点においては、ミシン針1a及び1bが被縫製物を貫通し、上下方向の移動範囲の下端位置にある。前後運動に関しては、可動範囲の中央にある。左右の釜3a及び3bの剣先3a’、3b’は、ミシン針1a、1bに最も接近した状態にある。
【0019】
ミシン針1a、1bが上昇を始める時、ミシン針1a、1bの外側に糸ループが形成される。ミシン針1a、1bの上昇が始まると同時に、釜剣先3a’、3b’がこの糸ループを捕捉する。糸ループは釜3a、3bの回転に伴って釜内部に巻き込まれ、巻き込まれた量に対応する量の上糸2a、2bが表示しない上糸供給源から繰り出される。この糸ループが釜3a、3bの内部に設置されたボビンから供給される下糸と絡むことで縫い目が形成される。このように上糸2a、2bが釜3a、3bの内部に巻き込まれる間も、針1a、1bは被縫製物と同調して被縫製物進行方向Tに移動し続ける。
【0020】
図1(b)及び図2中の実線は、釜3a、3bが図1(a)の状態から180°回転した状態を示す。ミシン針1a、1bは、図1(a)の状態から被縫製物進行方向Tに縫い目ピッチPの1/2の距離だけ移動している。つまり前後方向の移動範囲の中で縫製物進行方向側の端に位置する。この状態に至るまで、上糸2a、2bは釜3a、3b内部に巻き込まれ続け、上糸供給源から繰り出され続ける。
【0021】
さらに釜3a、3bが180°回転した状態が図1(c)である。ミシン針1a、1bは被縫製物から抜け、上下方向の移動範囲の上端にある。図1(b)から図1(c)までの間は、上糸2a、2bは釜3a、3bの内部に残っているものの、図1(b)の状態で繰り出されている長さLa及びLb以上に繰り出されることはない。図1(c)の状態に至ると、釜3a、3bに巻き込まれていた上糸2a、2bが釜3a、3bを脱出し、釜3a、3b内部に上糸2a、2bが残らない状態となる。この時点で一ピッチの縫い目が完成される。
【0022】
二本針総合送りミシンにおいては、左右のミシン針1a、1bの前後及び上下方向の運動と左右の釜3a、3bの回転運動とが同期しているため、左右のステッチのピッチは一致する。しかし、ミシン針1a、1b及び被縫製物の進行方向Tに対する釜の相対的な回転方向は、左の釜3aと右の釜3bとで反対になるため、一ピッチあたりの縫い目に使用される上糸の量が左右で異なってしまう。図1のように、ミシン針1a、1bと被縫製物が図中の下から上に進行し、左右の釜3a、3bが右回りに回転する場合に、図1(a)に示す状態で、釜剣先3a’、3b’がミシン針1a、1bの先端に形成された糸ループを捕捉した直後の釜3a、3bの回転方向に注目すると、左の釜3aの回転運動については、縫製物進行方向Tに平行な方向のベクトル成分は(−T)方向を向いている。つまり釜3aの回転方向は被縫製物及びミシン針の進行方向と反対の方向となる。一方、右の釜3bの回転運動については、被縫製物進行方向Tに平行な方向のベクトル成分はT方向を向いている。つまり釜3bの回転方向は被縫製物及びミシン針の進行方向と同じ方向となる。
【0023】
左側の縫い目の形成過程では、図1(a)で釜剣先3a’が糸ループを捕捉した後、釜3aが回転して上糸2aを繰り出す過程において、上糸2aが針穴1a’に通されたミシン針1aが、釜3aの回転運動と逆の方向に移動し、釜剣先3a’が糸ループを捕捉している位置が相対的に針穴1a’の位置から遠くなるので、図1(b)において針穴1a’を通って繰り出される上糸の長さLaは、ミシン針1aが被縫製物進行方向に移動しない場合の上糸の長さL0に比べて長くなる。
【0024】
一方、右側の縫い目の形成過程では、釜剣先3b’が糸ループを捕捉した後、釜3bが回転して上糸2bを繰り出す過程において、上糸2bが針穴1b’に通されたミシン針1bが、釜3bの回転運動と同じ方向に移動し、釜剣先3b’が糸ループを捕捉している位置が相対的に針穴1b’の位置から近くなるので、図1(b)において針穴1b’を通って繰り出される上糸の長さLbは、ミシン針1bが被縫製物進行方向に移動しない場合の上糸の長さL0に比べて短くなる。長さLaとLbとの差La−Lbが、左右の釜により上糸供給源から繰り出される上糸の長さの差となる。この上糸の長さの差は、縫い目ピッチPの1/2の長さに近似される。
【0025】
このように、本実施形態に係るダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいて二本のミシン針の針穴の高さ位置を同一にした状態でダブルステッチを形成すると、釜の回転方向と被縫製物及びミシン針の進行方向の相対関係が左右で異なることに起因し、縫い目に使用される上糸の量が左右で異なるため、作成された縫い目の見栄えが図4(a)のように左右で異なることになる。一ピッチの縫い目に使用される上糸の量が少ない右側のステッチにおいては、被縫製物進行方向に対して一つ一つの縫い目が角度を持って連なる状態となる傾向がある(以下、この状態について、その形状から、「ミの字」と称することがある)。
【0026】
一方、一ピッチの縫い目に使用される上糸の量が多い左側のステッチにおいては、縫い目が直線的に連なった状態となる傾向がある(この状態を以下「ストレート」と称することがある)。従来一般に用いられる二本針総合送りミシンを使用してダブルステッチを形成した場合も、ダブルステッチの見栄えは同様になる。これは、ミシン針が縫製物の送りに同調して縫製物進行方向に移動する二本針総合送りミシン特有の問題である。針が上下方向にしか運動しない二本針本縫いミシンではこの問題は生じない。
【0027】
ダブルステッチの装飾的用途からすると、左右のステッチの見栄えが均等であることが要請される。さらには、図4(b)のように左右両側のステッチが「ミの字」形になっていることが望ましい。左右の縫い目の見栄えを揃えるためには、一ピッチの縫い目が形成される間に繰り出される上糸の量が左右で同じになるようにすることが必要である。
【0028】
前記のように、釜3a、3bが同一方向に回転しミシン針1a、1bの針穴1a’、1b’に左右対称に上糸が通されるダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいて、針穴1a’及び1b’の高さ位置を同じにすると、必然的に一ピッチの縫い目が形成される間に繰り出される上糸の長さに左右で差が生じてしまう。そこで、本実施形態に係るダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいては、ミシン針1a、1bの針穴1a’、1b’の位置を異ならせることによって、この上糸の繰り出し長さの左右差を埋め合わせる。
【0029】
一般に、上糸が通されたミシン針の針穴が上にあるほど、上糸が釜剣先で捕捉されるタイミングが遅くなり、釜に巻き込まれた上糸が釜から脱出するタイミングが早くなる。従って、一ピッチの縫い目が完成するまでの間に釜に巻き込まれる上糸の量が少なくなる。そこで、図4(b)のように両方のステッチを「ミの字」に統一するためには、ステッチがストレート形になる方の針穴1a’の位置を、ステッチが「ミの字」になる方の針穴1b’の位置に比べて高くすればよい。ミシン針は一ピッチの縫い目を形成する間に上下に一往復するので、針穴の高さを変えた時の一ピッチあたりに繰り出される上糸の長さの変化量は、針穴の高さ位置の変化量の2倍となる。従って、ダブルステッチ用二本針総合送りミシンにおいて、左右のステッチの見栄えを均等にするためには、左右の針の針穴の高さ位置が同一である場合に一ピッチあたりの上糸の繰り出し量に生じる差の半分の長さだけ、左の針穴1a’の高さ位置を右の針穴1b’の高さ位置よりも高くすればよい。
【0030】
つまり、左右の針穴の高さ位置の差をGとすると、G=(La−Lb)/2と表される。La−Lbが縫い目ピッチPの1/2に等しい場合には、左の針穴1a’の高さ位置を右の針穴1b’の高さ位置よりもP/4だけ高くすればよい。針穴の高さ位置をこのように左右で異ならせた本実施形態に係るダブルステッチ用ミシンを図3に示す。
【0031】
市販されているミシン針の全体の長さ及び針先を基準とした針穴の高さは、ある程度限定されており、左右のステッチの見栄えが均等なダブルステッチを形成するのに最適な位置の針穴を有するミシン針を入手することは一般に困難である。しかし、ミシン針の取り付け高さを左右で異ならせることで、同一形状を有する二本のミシン針を使用しても、その針穴の高さ位置を必要なだけ左右で異ならせることが可能となる。ミシン針の取り付け高さを左右で異ならせるためには、図3(b)に示すように、ミシン主軸に連動して上下運動及び前後運動する針棒4にミシン針を挿入して固定するための溝5a、5bの深さを、長さGだけ左右で異ならせる形態が例示できる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、左右の針の取り付け高さ位置を変化させることにより穴の高さ位置に所定の差Gを生じさせることができれば、その取り付け方法は図3(b)に示したものに限定されない。
【0033】
また、使用する糸の種類などによっては、左右の釜の回転方向と被縫製物の進行方向の相対関係の違い以外の要因によっても、一ピッチの縫い目が形成される間に繰り出される左右の上糸の量に差が生じる場合が想定しうる。このような別の要因による上糸の繰り出し量の差まで考慮して左右の針の取り付け位置の差を決定することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1a/1b 左/右ミシン針
1a’/1b’ 左/右ミシン針の針穴
2a/2b 左/右の上糸
3a/3b 左/右の釜
3a’/3b’ 左/右の釜剣先
4 針棒
5a/5b 左/右のミシン針取り付け溝
10a/10b 左/右側布地
G 針穴の高さ位置の左右差
R 釜の回転方向
T 被縫製物進行方向
P 縫い目ピッチ
La/Lb 左/右の釜によって繰り出される上糸の長さ
L0 針が被縫製物進行方向に移動しない場合に繰り出される上糸の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に平行に配置された二本の針と、各針に対応して配置された釜剣先を有する二つの釜とを備え、二本の針の針穴に上糸が左右対称に通され、各針に左右対称に形成された糸ループを同一方向に回転する各釜の釜剣先に捕捉させることによって二つの釜に上糸を巻き込んで縫い目を形成するダブルステッチ用ミシンであって、上記上糸の繰り出し量が左右で同一になるように、上糸が通される二本のミシン針の針穴の高さ位置が互いに異なることを特徴とするダブルステッチ用ミシン。
【請求項2】
同一形状の二本のミシン針を互いに異なる高さ位置に取り付けることにより、二本のミシン針の針穴の高さ位置を互いに異ならせることを特徴とする請求項1に記載のダブルステッチ用ミシン。
【請求項3】
二本針総合送りミシンであって、
釜剣先が上糸を捕捉した直後の釜の回転方向が被縫製物の進行方向と逆向きである側のミシン針の針穴が、剣先が上糸を捕捉した直後の釜の回転方向が被縫製物の進行方向と同じ向きである側のミシン針の針穴よりも高い位置にあり、二つの針穴の高さ位置の差が、一ピッチの縫い目が形成される間に上糸供給源から繰り出される左右の上糸の長さの差の半分に等しくなるようにした請求項1または2に記載のダブルステッチ用ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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