説明

チェーンガイドおよびチェーン伝動装置

【課題】タイミングチェーンの移動をローラによって案内するチェーンガイドの耐久性の向上を図ることである。
【解決手段】タイミングチェーン5の移動方向に沿って設けられるガイドベース11のチェーンガイド面13に、ガイドベース11の両側方向に延びる多数のローラ収容溝14をガイドベース11の長さ方向に間隔をおいて形成し、そのローラ収容溝14内にタイミングチェーン5を案内するローラ15を組込む。そのローラ15をローラ収容溝14の円筒状内面14aで回転自在に支持して、耐久性の向上を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力調整用として、あるいは、チェーンの移動案内用として使用されるチェーンガイドおよびそのチェーンガイドを用いたチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク軸に取付けた駆動スプロケットとカム軸に取付けた従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡したカム軸駆動用のチェーン伝動装置においては、タイミングチェーンの弛み側チェーンの一側方に揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷してタイミングチェーンを緊張させ、チェーンの緩みやバタツキを防ぐようにしている。
【0003】
また、タイミングチェーンの張り側チェーンにチェーンガイドを固定し、その固定のチェーンガイドによってタイミングチェーンの移動を案内してバタつきを抑制するようにしている。
【0004】
ここで、タイミングチェーンの張力調整用や移動案内用のチェーンガイドとして、タイミングチェーンを滑り接触によって面案内する形式のものが知られているが、タイミングチェーンの移動抵抗が大きく、伝達トルクロスが多いという問題がある。
【0005】
そのような問題点を解決するため、特許文献1に記載されたチェーンテンショナ装置においては、タイミングチェーンの移動方向に長く延びるチェーンテンショナの上記タイミングチェーンと対向する面部に溝部を形成し、その溝部内において回転可能なローラによりタイミングチェーンを移動自在に案内している。
【0006】
上記のチェーンテンショナ装置においては、タイミングチェーンの案内が複数のローラの転がりによる案内であるため、タイミングチェーンの移動抵抗が小さく、伝達トルクロスが少ないという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−236157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に記載されたチェーンテンショナ装置においては、ローラに挿通されたビスによってローラを回転自在に支持し、あるいは、チェーンガイド部の端縁に形成された半割の凹部と押え部材に形成された半割の凹部とでローラの両端部に形成された軸部を回転自在に支持するようにしているため、タイミングチェーンからローラに負荷されるラジアル荷重や衝撃力は外径寸法の小さな機械的強度の弱いビスや軸部で支持されることになり、そのビスや軸部が損傷し易く、耐久性を向上させる上において改善すべき点が残されている。
【0009】
この発明の課題は、タイミングチェーンの移動をローラによって案内するチェーンガイドの耐久性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明に係るチェーンガイドにおいては、タイミングチェーンの移動方向に沿って設けられるガイドベースの前記タイミングチェーンと対向するチェーンガイド面に、タイミングチェーンの走行方向に対して交差する方向に延びる断面円弧状の多数のローラ収容溝をガイドベースの長さ方向に間隔をおいて設け、そのローラ収容溝のそれぞれは両端が閉塞され、そのローラ収容溝のそれぞれ内部に、ローラ収容溝の円筒状内面により回転自在に支持されて外周の一部がローラ収容溝の開口から前記チェーンガイド面上に突出し、その突出部で前記タイミングチェーンを案内する円筒状のローラを組み込んで抜止めした構成を採用したのである。
【0011】
また、この発明に係るチェーン伝動装置においては、駆動スプロケットと従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡し、そのタイミングチェーンの弛み側チェーンの一側部に、タイミングチェーンの移動を案内する揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷して、その揺動側端部をタイミングチェーンに押し付けるようにしたチェーン伝動装置において、前記チェーンガイドとして、この発明に係る上記のチェーンガイドを採用したのである。
【0012】
上記の構成からなるチェーン伝動装置において、タイミングチェーンの張り側チェーンの一側方に、タイミングチェーンの移動を案内する固定のチェーンガイドを設け、その固定チェーンガイドとして、この発明に係る上記のチェーンガイドを採用することによってタイミングチェーンのバタつきを効果的に抑制することができる。
【0013】
この発明に係るチェーンガイドのように、タイミングチェーンの移動を案内するローラをガイドベースに形成されたローラ収容溝の円筒状内面によって回転自在に支持することにより、タイミングチェーンからローラに負荷されるラジアル荷重や衝撃力はローラ収容溝の円筒状内面とローラの接触部で支持されることになり、その接触部での面積はビスやローラ軸によってローラを回転自在に支持する場合に比較して広いため、面圧は逆に小さくなって、接触部で損傷することは殆どなく、耐久性を大幅に向上させることができる。
【0014】
この発明に係るチェーンガイドにおいて、ローラの抜止めには、ローラ収容溝の断面形状を1/2円を超える大きさの円弧状として、チェーンガイド面上の開口幅を前記ローラの外径より小さくした構成のものを採用することができる。
【0015】
ローラの抜止めとして、ローラ収容溝の断面形状を1/2円未満となる大きさとし、そのローラ収容溝の開口部における両端部のそれぞれに、先端の対向間隔がローラの外径より小さくされた対向一対の抜止め爪を設けた構成のものを採用することにより、対向一対の抜止め爪を容易に弾性変形させることができるため、対向一対の抜止め爪間からローラ収容溝内にローラを押し込むことによってローラの組込みとすることができ、ローラの組込みの容易化を図ることができる。
【0016】
ここで、ガイドベースにおけるチェーンガイド面の両側にタイミングチェーンの両側の移動を案内するサイドフランジを設けておくと、タイミングチェーンの左右方向の振れを抑制し、チェーンガイドからタイミングチェーンが外れるのを防止することができる。
【0017】
この場合、サイドフランジは、ガイドベースと一体的に設けてもよく、あるいは、ガイドベースと別体として、そのガイドベースの側面にねじ止め等で固定してもよい。サイドフランジをガイドベースに固定する場合において、そのサイドフランジでローラ収容溝の両端開口を閉塞することにより、一対のサイドフランジの一方を取り外すことによって、ローラ収容溝の一端が開口し、その開口から内部にローラを無理なく簡単に挿入することができるため、ローラの組込みの容易化を図ることができる。
【0018】
また、ガイドベースを合成樹脂の成形品とすることにより、チェーンガイドの軽量化を図ることができる。また、タイミングチェーンとの接触によって回転するローラを円滑に回転させることができる。この場合、ローラ収容溝の内径面はローラとの接触により発熱するため、耐熱性に優れた樹脂を採用するのがよい。そのような樹脂として、ポリエーテルエーテルケトンやポリアミドを挙げることができる。また、樹脂として、含油樹脂を採用することによって、ローラの回転のより円滑化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明においては、上記のように、タイミングチェーンの移動を案内するローラをガイドベースに形成されたローラ収容溝の円筒状内面によって回転自在に支持したことにより、タイミングチェーンからローラに負荷されるラジアル荷重や衝撃力をローラ収容溝の円筒状内面とローラの接触部で支持することができるため、ビスやローラの両端部に設けられた軸部によってローラを回転自在に支持する場合に比較して、耐久性に優れたチェーンガイドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係るチェーン伝動装置の実施の形態を示す概略図
【図2】この発明に係るチェーンガイドの斜視図
【図3】図2の一部分の拡大図
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図
【図5】ローラの抜止めの他の例を示す断面図
【図6】図5の右側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、カム軸駆動用のチェーン伝動装置を示し、クランク軸1の軸端部に取付けられた駆動スプロケット2と2本のカム軸3のそれぞれ軸端部に取付けられた従動スプロケット4間にはタイミングチェーン5が掛け渡されている。
【0022】
タイミングチェーン5はローラチェーンであっても、サイレントチェーンであってもよい。
【0023】
クランク軸1は、図1の矢印で示す方向に回転する。そのクランク軸1の回転により、タイミングチェーン5が同図の矢印で示す方向に移動し、駆動スプロケット2から同図の左側に位置する一方の従動スプロケット4に至る部分が弛み側とされ、他方の従動スプロケット4から駆動スプロケット2に至る部分が張り側とされ、上記弛み側チェーン5aの一側部にチェーンガイドAが設けられている。
【0024】
チェーンガイドAは、タイミングチェーン5の移動方向に長く延び、その上端部がエンジンブロックから突設する支点軸6により支持されて、その支点軸6を中心に揺動可能とされ、下側の揺動側端部には、チェーンテンショナ10の調整力が負荷されて弛み側チェーン5aに向けて押圧されている。
【0025】
タイミングチェーン5における張り側チェーン5bの他側部にはチェーンガイドAが設けられている。このチェーンガイドAは、揺動可能なチェーンガイドAと同様に、タイミングチェーン5の移動方向に長く延び、その両端部がエンジンブロックにねじ込まれるボルト7の締め付けにより固定されて、タイミングチェーン5の移動を案内するようになっている。
【0026】
ここで、揺動可能なチェーンガイドAと固定のチェーンガイドAとは、同一の構成とされ、揺動可能なチェーンガイドAが一端部に軸挿入用の挿入孔が形成されているのに対し、固定のチェーンガイドAが両端部にボルト挿入用の挿入孔が形成されている点でのみ相違している。
【0027】
そのため、ここでは、揺動可能なチェーンガイドAの構成について以下に説明し、固定配置のチェーンガイドAについては同一の部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0028】
図2乃至図4に示すように、チェーンガイドAは、タイミングチェーン5の移動方向に長く延びるガイドベース11を有し、そのガイドベース11の上端部に両側面に貫通する挿入孔12が形成され、その挿入孔12に支点軸6が挿入されて揺動自在に支持され、下端部はチェーンテンショナ10によりタイミングチェーン5に向けて付勢されている。
【0029】
ガイドベース11のタイミングチェーン5と対向するチェーンガイド面13は円弧状面とされ、そのチェーンガイド面13にガイドベース11の幅方向に延びる多数のローラ収容溝14がガイドベース11の長さ方向に間隔をおいて形成されている。
【0030】
ローラ収容溝14のそれぞれ内部には円筒状のローラ15が組み込まれている。ローラ15として、ここでは、縦横比が大きく細長いローラを採用しているが、さらに縦横比が大きくより細長いものであってもよく、縦横比が小さいローラであってもよい。このローラ15はローラ収容溝14の開口からチェーンガイド面13上に外周の一部が突出してタイミングチェーン5と接触している。
【0031】
ここで、ローラ収容溝14は、断面円弧状とされ、その円筒状内面14aによってローラ15が回転自在に支持されている。また、ローラ収容溝14は、1/2円を超える大きさの円弧状とされてチェーンガイド面13での開口幅Wがローラ15の外径Dより小さくされており、ローラ15はチェーンガイド面13の開口から抜け出るのが防止されている。
【0032】
また、ローラ収容溝14は、隣接するローラ収容溝14間にローラ15の外径以下の間隔が形成されるようにして多数形成されている。
【0033】
ガイドベース11におけるチェーンガイド面13の両側には、タイミングチェーン5の移動を案内するサイドフランジ17が設けられている。
【0034】
ガイドベース11は、合成樹脂の成形品とされ、その成形時、サイドフランジ17が同時に成形されて、ガイドベース11に一体化されている。合成樹脂として、耐熱性に優れた樹脂を採用するのが好ましい。そのような樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリアミド(PA)を挙げることができる。そのPEEKやPAに代えて含油樹脂を採用するようにしてもよい。
【0035】
なお、ガイドベース11は、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属を用いて鋳造し、あるいは、ダイカスト成形してもよい。
【0036】
また、サイドフランジ17は、ガイドベース11と別体として、そのガイドベース11の側面にねじ止めやスナップフィット等の手段により着脱自在に取付けるようにしてもよい。
【0037】
実施の形態で示すチェーン伝動装置は上記の構造からなり、駆動スプロケット2と従動スプロケット4間に掛け渡されたタイミングチェーン5の移動によってクランク軸1の回転をカム軸3に伝達するトルク伝達状態において、負荷の変動によりタイミングチェーン5の張力が変化すると、チェーンテンショナ10により、チェーンの緩みやバタツキが防止される。
【0038】
クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するトルク伝達時、揺動可能なチェーンガイドAおよび固定のチェーンガイドAのそれぞれの多数のローラ15はタイミングチェーン5との接触により回転し、その多数のローラ15によってタイミングチェーン5は案内される。
【0039】
このため、タイミングチェーン5の移動抵抗は小さく、タイミングチェーン5はスムーズに移動し、ロスなくトルク伝達されることになる。
【0040】
また、チェーンガイドAおよび固定のチェーンガイドAの多数のローラ15のそれぞれは、上記のように、タイミングチェーン5との接触により回転するため、多数のローラ15のそれぞれにラジアル荷重が負荷される。
【0041】
このとき、ローラ15はローラ収容溝14の円筒状内面14aにより支持されているため、上記ラジアル荷重は円筒状内面14aとローラ15の接触部で支持されることになる。この接触部の面積は、特許文献1に記載のビスやローラの両端の軸部によってローラを回転自在に支持する場合に比較して広く、面圧は逆に小さくなるため、接触部で損傷することはなく、耐久性に優れ、長期の使用に耐えることができる。
【0042】
図3では、ローラ収容溝14の断面形状を1/2円を超える大きさの円弧状として、ローラ15がチェーンガイド面13上の開口から抜け出るのを防止するようにしたが、ローラ15の抜止めはこれに限定されるものではない。
【0043】
図5および図6は、ローラ15の抜止めの他の例を示している。この例においては、ローラ収容溝14の断面形状を1/2円未満となる大きさとし、そのローラ収容溝14の開口部における両端部のそれぞれに、先端の対向間隔がローラ15の外径より小さくされた対向一対の抜止め爪20を設け、その抜止め爪20によってローラ15を抜止めしている。
【0044】
上記のような抜止め手段の採用においては、対向一対の抜止め爪20を容易に弾性変形させることができるため、対向一対の抜止め爪20間からローラ収容溝14内にローラ15を押し込むことによってローラ15の組込みとすることができ、ローラ15の組込みの容易化を図ることができる。
【符号の説明】
【0045】
チェーンガイド
チェーンガイド
2 駆動スプロケット
4 従動スプロケット
5 タイミングチェーン
10 チェーンテンショナ
11 ガイドベース
13 チェーンガイド面
14 ローラ収容溝
14a 円筒状内面
15 ローラ
17 サイドフランジ
20 抜止め爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイミングチェーンの移動方向に沿って設けられるガイドベースの前記タイミングチェーンと対向するチェーンガイド面に、タイミングチェーンの走行方向に対して交差する方向に延びる断面円弧状の多数のローラ収容溝をガイドベースの長さ方向に間隔をおいて設け、そのローラ収容溝のそれぞれは両端が閉塞され、そのローラ収容溝のそれぞれ内部に、ローラ収容溝の円筒状内面により回転自在に支持されて外周の一部がローラ収容溝の開口から前記チェーンガイド面上に突出し、その突出部で前記タイミングチェーンを案内する円筒状のローラを組み込んで抜止めしたチェーンガイド。
【請求項2】
前記ローラの抜止めが、前記ローラ収容溝の断面形状を1/2円を超える大きさの円弧状として、チェーンガイド面上の開口幅を前記ローラの外径より小さくした構成からなる請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記ローラの抜止めが、前記ローラ収容溝の断面形状を1/2円未満となる大きさとし、そのローラ収容溝の開口部における両端部のそれぞれに、先端の対向間隔がローラの外径より小さくされた対向一対の抜止め爪を設けた構成からなる請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記ガイドベースにおけるチェーンガイド面の両側に前記タイミングチェーンの両側の移動を案内するサイドフランジを設けた請求項1乃至3のいずれかの項に記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記ガイドベースが、合成樹脂の成形品からなる請求項1乃至4のいずれかの項に記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記合成樹脂が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、含油樹脂の一種からなる請求項5に記載のチェーンガイド。
【請求項7】
駆動スプロケットと従動スプロケット間にタイミングチェーンを掛け渡し、そのタイミングチェーンの弛み側チェーンの一側部に、タイミングチェーンの移動を案内する揺動可能なチェーンガイドを設け、そのチェーンガイドの揺動側端部にチェーンテンショナの調整力を負荷して、その揺動側端部をタイミングチェーンに押し付けるようにしたチェーン伝動装置において、
前記チェーンガイドが、請求項1乃至6のいずれかの項に記載のチェーンガイドからなることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項8】
前記タイミングチェーンの張り側チェーンの一側方に、タイミングチェーンの移動を案内する固定のチェーンガイドを設け、その固定チェーンガイドが請求項1乃至6のいずれかの項に記載のチェーンガイドからなることを特徴とする請求項7に記載のチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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